説明

自動変速機内でのオーバーラップシフトの自然発生性を高める方法

本発明は、自動変速機内のオーバーラップシフト操作の自然発生性の増大方法に関する。エンジン点火が、シフト命令と共に、あるいはその直後に、指示される。これによって、スイッチオフされるべき回路エレメントが開放され、及び/または、回転速度グラジエント(タービンの回転速度)が増大される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許請求の範囲の請求項1の上位概念に従う、自動車の自動変速機内でのオーバーラップシフトの自然発生性を高める方法に関する。
【背景技術】
【0002】
更なる自然発生性への要求と、シフトギヤ段の常に増大する数と、高速ギヤでの走行割合を高くする自動変速機の最適燃費設計と、ならびに、自動車の制動時に停止するまでに行われるシフトダウン回数の多さとによって、自動変速機の機能性に対する更なる要求は、自動変速機のギヤをいつでも高速かつ頻繁に続けてシフトすることである。
【0003】
コンバーターを包括できて、二つのクラッチないしはシフトエレメントのオーバーラップシフトによってシフトが行われるという自動変速機の場合、シフトが要求されるとき、一つのクラッチは油圧で開放されて、もう一つのクラッチは油圧で締結されなければならない。このとき、不快に感じられる中断時間や遅延が生じる。
【0004】
さらに、エンジンブレーキ(Schubbetrieb)時にシフトダウンすると、車両の制動が生じる。それは、ギヤ比の変更の間に、エンジンおよびギヤの回転質量を高めるための運動エネルギーの追加需要によって引き起こされる。
【0005】
本件出願人によるDE19955987A1では、シフト時の自然発生性を高めるために、小さいギヤ比から大きいギヤ比に移行する際に、すなわち、エンジンブレーキ時にシフトダウンする際に、自動車のエンジンを制御して点火することが提案されている。この方法では、回転質量に対して必要な加速エネルギーは、エンジン自体によってもたらされ得る。
【発明の開示】
【0006】
それ故、本発明は、前述の技術水準を前提として、とりわけエンジンブレーキ運転時や部分負荷運転時のシフトの応答時間を大幅に短縮する、自動変速機内のオーバーラップシフトの自然発生性を高めるための方法を提供することを課題とする。
【0007】
本課題は、特許請求の範囲の請求項1の特徴部分によって解決される。その他の形態および変形は下位の請求項から明らかになる。
【0008】
本発明によれば、自動変速機内でのオーバーラップシフトの自然発生性を高めるために、シフト命令に伴い、あるいはその直後に、変速機制御によりエンジン点火をプリセットすることが提案される。それによって、開放クラッチの圧力降下は当該クラッチが開けられるまでないしは回転数グラジエントが許容されるまでには進まないものの、開放クラッチないしシフトエレメントの離反、または回転数グラジエント(タービン回転数)の上昇、あるいはこの二つの措置の組み合わせ、が達成される。
【0009】
この場合、追加のエンジン点火は、調整すべき目標回転数の基準値によっても、調整すべき目標エンジントルクの基準値によっても、変速機制御を介して行うことができる。
【0010】
本発明によれば、この方法は、それぞれ最大到達可能な全負荷曲線にまで適用可能であるものの、自由に使用できる余剰ポテンシャルの一部だけでも利用できる。その場合、それは、得るべき自然発生性の向上度に異存する。その基準値は、通信インターフェースを介してシフト経過ソフトウェアと直接に交信する、変速機制御装置の外部のソフトウェア部品によっても発せられ得る。
【0011】
本発明に従うコンセプトにより、シフト時の反応時間の改善も、シフト中の回転数グラジエントの上昇も、生じる。これは、摩擦時間の短縮につながり、それによって全体としてシフトの短縮につながる。従ってこれは、運転者にとって自らの希望に対する直接的な反応となり、短縮されたシフトと相まって全体として車両の自発的かつスポーティーな印象につながる。自然発生性の向上を達成するために、シフトエレメントの負荷が僅かに増えることは、敢えて甘受する。
【0012】
回転数を以前の同期回転数に維持するシフトエレメントの開放は、この場合、変速機制御により追加的に要求されるエンジン点火が不本意に出力へ伝達されることを防ぐために、観察される。不本意な伝達が行われる場合には、そのエンジン点火は中断される。
【0013】
そのために、当該クラッチないしシフトエレメントの開放は、追加のエンジン点火の開始後、所定の時間まで行われ、続いて、相当する回転数グラジエントが新規の同期回転数の方向に生じなければならない。これはまた、新規の同期回転数に対して常にかつ所定量減少する回転数差を観察することによっても、確定することができる。さらに本発明によれば、追加のエンジン点火は、変速機制御によって、更なるシフトが行われない場合、新しい同期回転数の到達を越えて所定時間にわたり連続的に発生しない。
【0014】
本発明に従い、シフト経過の構成要素に対するトルク信号の様々な形成を介して、追加のエンジン点火の正確な実行に応ずることができる。従って、実際に実行される追加のエンジン点火が締結するクラッチないし締結するシフトエレメントのためのトルク入力値に伝達されるとき、その締結するクラッチは、所定の理由で場合によっては実行されない追加のエンジン点火に応ずることができ、そして、同期回転数の達成を圧力上昇によって支持することができる。
【0015】
開放クラッチに対しては、本発明によれば、実際に実行される追加のエンジン点火は伝達されない、あるいは、運転者の負荷位置に相当するトルク値だけにアクセスされる。というのは、そうでないと、追加のエンジン点火によって得られるものが、開放クラッチの圧力応答(Druckreaktion)により再び減少されるからである。
【0016】
本発明に従う方法の更なる変形の枠内で、例えば追加のエンジン点火、クラッチ開放時の圧力低下、及び、クラッチ締結時の圧力上昇、のような加速の推移や快適性に対して相当する効果を伴う対策の組み合わせから、自然発生性に対する更なる向上の可能性が生じる。
【0017】
本発明に従う方法は、以下に、添付の図面に基づいて、例示的に詳述される。
【0018】
図1は、従来技術による部分負荷でのシフトダウン時の回転数および圧力の推移図である。
【0019】
図2は、本発明による部分負荷でのシフトダウン時の回転数および圧力の推移図である。
【0020】
図3は、本発明のある変形例による部分負荷でのシフトダウン時の回転数および圧力の推移図である。
【0021】
図4は、本発明の更なる変形例による部分負荷でのシフトダウン時の回転数および圧力の推移図である。
【0022】
図1で、曲線Aはシフト信号の推移に相当している。即ち、時点t−0でシフト(シフトダウン)が行われる。曲線Bは、実際のエンジントルクに相当し、曲線Cは、変速機入力回転数(タービン回転数 n_t)に相当する。さらに、曲線Dにより、自動車の縦加速度の推移が示されている。シフトダウン後、加速が高められる。開放クラッチないし開放シフトエレメントおよび締結シフトエレメントの圧力の推移が、曲線EおよびFによって再現されている。図1によれば、締結クラッチの圧力は、シフト中において、始めは高速充填(Schnellbefuellung)のために飛躍的に上昇し、続いて充填均衡圧(Fuellausgleichsdruck)への低下が続き、その後、傾斜状の圧力上昇(「締結傾斜」)が同期時点t−1を越えても続く。
【0023】
図1から、本発明に従うエンジン点火がないシフトは、時点t−1で締結クラッチのトルク引受けにより同期点に達することが分かる。本発明によれば、エンジン点火が変速機制御により予め与えられ、その結果、クラッチないしシフトエレメントの離反(Aufreissen)、または回転数グラジエントの上昇、あるいはそれら両措置の組み合わせ、が達成されることによって、シフト時間を著しく短縮することができる。
【0024】
これは図2で明らかにされる。即ち、エンジントルクは、シフト命令の直後に、規定された時間ないし回転数差の間、あるいは、新しい同期点に達する前の規定された時間の間、高められる。それは、開放シフトエレメントの素早い開放をもたらし、そしてそれによって、図2から、そして図1と図2を比較することによっても明白なように、シフト時間の改善と応答時間の短縮がもたらされる。エンジン点火は、調整するべき目標回転数の基準値を介しても行うことができる。さらに、図1および図2では、引き続いてのシフトを同期化するためのエンジントルクの減少が示されている。
【0025】
本発明に従うエンジン点火により、回転数グラジエントの上昇も達成される。これは曲線CとC’の比較から明らかになる。この場合、曲線C’は、エンジン点火を伴う回転数の推移を示している。図2から分かるように、変速機入力回転数n_tの応答は、従来技術と比較して、著しく早く起こっている。さらに、同期回転数も早く達成され、その結果、図2に記述してあるように、応答時間およびシフト時間が短縮されている。
【0026】
本発明によれば、実際に実行される追加のエンジン点火が締結クラッチのためのトルク入力値に伝達されるとき、締結クラッチは、所定の理由から場合によっては実行されない追加のエンジン点火にも応答し、同期回転数の達成は、圧力を高めることによって補助的に支持され得る。これは図2の曲線F’によって具体的に説明される。これによって調整される変速機入力回転数n_tの推移は、C”で表されている。この推移では、自然発生性の向上は、急勾配の回転数グラジエントのために達成されたシフト時間の短縮によってのみ、生じている。
【0027】
本発明によれば、エンジン点火の他に、図3の例に示すように(曲線E´)、開放シフトエレメントの圧力支持が起こり得る。この場合、圧力は開放シフトエレメントで下げられ、その結果、その開放が加速される。これは、タービン回転数C”の推移から明らかになるように、応答時間およびシフト時間の短縮にもなる。この場合、開放シフトエレメント内での追加の圧力低下がない回転数の推移がC´で表され、エンジン点火および圧力低下のないそれに相当する推移がCで表されている。
【0028】
自然発生性を高めるための本発明に従う方法のもう一つの変形例は、図4に例示的に示されているように、エンジン点火の他に、開放シフトエレメントでの圧力低下、及び、締結シフトエレメントでの圧力上昇を考慮している。この場合、締結クラッチの圧力推移は曲線F’’’で表されている。この対策により、応答時間はさらに短縮され、同期点t_1も、回転数の推移C’’’から分かるように、より早く達成される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】従来技術による部分負荷でのシフトダウン時の回転数および圧力の推移図である。
【図2】本発明による部分負荷でのシフトダウン時の回転数および圧力の推移図である。
【図3】本発明のある変形例による部分負荷でのシフトダウン時の回転数および圧力の推移図である。
【図4】本発明の更なる変形例による部分負荷でのシフトダウン時の回転数および圧力の推移図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機内でのオーバーラップシフトの自然発生性を高めるための方法であって、
シフト命令と共に、あるいはその直後に、エンジン点火がプリセット(vorgegeben)され、それによって、開放シフトエレメントの離反および/または回転数グラジエント(タービン回転数)の上昇が達成される
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
エンジン点火は、調整すべき目標回転数の基準値を介して、または、調整すべき目標エンジントルクの基準値を介して、行われる
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エンジン点火は、トランスミッション制御によってプリセットされる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
エンジン点火は、最大到達可能な全負荷曲線まで実施可能であり、その場合、調整すべき目標回転数および調整すべき目標エンジントルクが、前記所望の自然発生性の向上に応じてプリセットされる
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
回転数を以前の同期回転数に維持するシフトエレメントの開放は、追加的に要求されるエンジン点火の不本意な出力への伝達の保護(防止)のために観察され、その際、当該シフトエレメントの開放は追加のエンジン点火の開始後ある所定の時間まで行われ、次いで、相当する回転数グラジエントが新しい同期回転数の方向に生じる
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
新しい同期回転数に対して、常にかつ所定量減少する回転数差が生じるかどうか、が観察される
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
追加のエンジン点火は、更なるシフトが行われない場合、新しい同期回転数の到達を越えて所定時間以上継続しない
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
シフト経過の様々な構成要素用ないし開放シフトエレメントおよび締結シフトエレメント用のトルク信号がエンジン制御装置内あるいは変速機制御装置内で様々に形成され、それぞれ別の制御装置に伝達される
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
実際に実施される追加のエンジン点火は、開放シフトエレメントには伝達されない、あるいは、開放シフトエレメントの圧力制御の際に考慮されないままである
ことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
実際に実施される追加のエンジン点火は、締結シフトエレメントに伝達される、あるいは、締結シフトエレメントの圧力制御の際に考慮される
ことを特徴とする請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
エンジン点火に加えて、開放シフトエレメントの圧力が下げられ、その結果、当該シフトエレメントの開放が加速される
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
エンジン点火に加えて、開放シフトエレメントの圧力が、自動変速機の出力部での加速の落ち込みが低減されるように、高められる
ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
エンジン点火に加えて、締結シフトエレメントの圧力が高められる
ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−518012(P2007−518012A)
【公表日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−548143(P2006−548143)
【出願日】平成16年12月11日(2004.12.11)
【国際出願番号】PCT/EP2004/014131
【国際公開番号】WO2005/065981
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(500045121)ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト (312)
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AG
【Fターム(参考)】