説明

自動車のドライブトレインの内燃機関を制御するための方法および制御装置

【課題】 自動車のドライブトレインの内燃機関を制御するための方法および制御装置を提供する。
【解決手段】 本発明は、自動車のドライブトレイン(10)の内燃機関(12)を制御するための方法であって、ドライブトレイン(10)が自動的にシフトできるトランスミッションを備える方法を提案する。本方法は、始動過程または停止過程の準備で、内燃機関(12)の回転速度を安定化させるために、始動過程または停止過程中に引き出すことができる予備トルクを保存するように内燃機関(12)が作動することを特徴とする。独立請求項は、本方法を実施するように設定される制御装置を目的とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のドライブトレインの内燃機関を制御するための方法であって、ドライブトレインが自動的にシフトできるトランスミッションを備える方法に関する。本発明はまた、その方法を実施するために設定される制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前記種類の方法および前記種類の制御装置は、各々の場合に、大量生産される(シリーズで生産される)自動車により公知である。
【0003】
始動または停止過程中に、自動車の速度を連続的に増加または減少させることができず、むしろ変動を受けやすいという問題がある。前記変動により、乗員の正または負の加速が引き起こされ、したがって、乗員は、始動および/または停止過程を不快と感じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−174717号公報
【特許文献2】独国特許DE10156940A1号明細書
【特許文献3】独国特許DE102005006556A1号明細書
【特許文献4】独国特許DE10218186A1号明細書
【特許文献5】独国特許DE102004007160A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これを出発点として、本発明が基礎とする目的は、特に快適な始動および/または停止過程を可能にする自動車のドライブトレインを制御するための方法および制御装置を規定することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的は、請求項1の特徴を有する方法によって、および請求項10の特徴を有する制御装置によって達成される。
【0007】
ここで、自動車の始動過程または停止過程は、予備トルク(Reservemomment)を保存する(リザーブする、取っておく、使わずに残しておく)ように内燃機関が作動することによって準備される。前記予備トルクは、内燃機関の回転速度、したがって、自動車の速度を安定化させることができるように、始動過程または停止過程中に引き出すことができる。
【0008】
始動過程または停止過程が実施される前に、内燃機関は、内燃機関の効率に関して内燃機関の最適な動作点とは異なる動作点で作動することが有利である。このような逸脱する動作点で、最大可能なトルクの一部分が、例えば、時間遅延して開始される内燃機関の点火行程によって保存される。しかし、このようにして保存される予備トルクは、始動過程または停止過程を支援するために、必要なときに迅速に解放することが可能である。このようにして、内燃機関の回転速度を安定化させることができ、この結果、前記回転速度が連続的に上昇するかまたは低下することができる。内燃機関の回転速度のこのような安定化は、車両速度の対応する安定化と関連付けられる。この結果、始動または停止過程は特に快適と認識される。
【0009】
始動過程は、特に、自動車が停止から加速される過程に関係する。前記種類の始動過程はまた、スロットルペダルの作動による支援なしに、自動車が停止から始動するいわゆる「クリープ始動過程」を含む。このようにして、特に、予備トルクを保存して引き出すことによって、車両の停止からクリープ状態への変更が可能である。
【0010】
停止過程中に、予備トルクを保存することにより、内燃機関はより低いトルクを提供することができ、この結果、トランスミッションにおける係合したクラッチ装置はより小さな負荷を受ける。自動車のブレーキ装置の負荷を相応して緩和することができる。
【0011】
さらなる利点は、従属請求項から、詳細な説明から、および添付図から理解することができる。
【0012】
上述し、さらに以下に説明する特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、それぞれ指定された組み合せにおいてのみでなく、他の組み合せにおいても、あるいは個別に利用できることが自明である。
【0013】
本発明の例示的な実施形態が図面に示され、以下の説明においてより詳細に説明される。図面では、常に概略形態で示されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】内燃機関と2つのクラッチ装置とを有する自動車のドライブトレインの例示的な実施形態を示す。
【図2】クラッチ装置の1つの負荷の経時的なプロファイル、内燃機関の回転速度プロファイル、および予備トルクなしの始動過程中の結果として生じる自動車の速度を示す。
【図3】クラッチ装置の1つの負荷の経時的なプロファイル、内燃機関の回転速度のプロファイル、および予備トルクによって支援された始動過程中の結果として生じる自動車の速度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、自動車のドライブトレイン10によって全体が示された例示的な実施形態を示している。ドライブトレイン10は、内燃機関12と、デュアルクラッチトランスミッション14の形態の自動的にシフトできるトランスミッションと、自動車の内燃機関12と駆動輪16、18との間の動力を伝達するための別のギヤおよび/またはシャフトとを有する。
【0016】
ドライブトレイン10は、デュアルクラッチトランスミッション14と差動(differential)ギヤ22との間で動力を伝達するためのシャフト20を有する。ドライブトレイン10はまた、差動ギヤ22と駆動輪16、18との間で動力を伝達するためのドライブシャフト24、26を有する。
【0017】
デュアルクラッチトランスミッション14は、第1の部分トランスミッションTG1と、第2の部分トランスミッションTG2とを有する。第1の部分トランスミッションTG1のインプットシャフト28と内燃機関12のクランクシャフト30との間のトルクの流れは、第1の制御可能なクラッチ装置K1を介して行われる。第2の部分トランスミッションTG2のインプットシャフト32と内燃機関12のクランクシャフト30との間のトルクの流れは、第2の制御可能なクラッチ装置K2を介して行われる。一実施形態において、第1の部分トランスミッションTG1は、第1のギヤ、第3のギヤ等のような奇数の変速段(ギヤ)を提供し、一方、第2の部分トランスミッションTG2は、第2のギヤ、第4のギヤ等のような偶数の変速段(ギヤ)を提供する。
【0018】
第1の部分トランスミッションTG1のメインのシャフト34および第2の部分トランスミッションTG2のメインのシャフト36の両方は、シャフト20に回転しないように結合される。したがって、シャフト34と36は、駆動輪16、18におけるスリップなしに自動車が直線走行している場合に、駆動輪16、18の回転速度に線形的に、したがって車両の走行速度vに線形的に関係する同一の回転速度で回転する。図1の概略図では、シャフト34と36のトルクが接合部38に加えられて、シャフト20で作用するトルクを形成する。
【0019】
図1の実施形態では、制御装置40は、ドライブトレイン10全体、すなわち、内燃機関12およびデュアルクラッチトランスミッション14を制御する。
【0020】
ドライブトレイン10を制御するために、制御装置40は、多数のセンサからのライブトレイン10の動作パラメータを表す信号を処理する。ここで、以下の動作パラメータ、すなわち、運転者要求変換器42の形態の運転者要求トルクを規定するための装置によって提供されかつ運転者によるトルク要求を表すスロットルペダル角度Wped、回転速度センサ43によって測定される内燃機関12のクランクシャフト30の回転速度nMot、および走行速度変換器44によって測定される走行速度vが特に重要である。一実施形態において、走行速度変換器44は、デュアルクラッチトランスミッション14の出力における回転速度、すなわちシャフト34、36または20の内の1つの回転速度を測定する回転速度センサとして実現される。代わりにまたは追加して、回転速度信号は、例えばアンチロックブレーキシステムのセンサ装置によって、車輪16、18の1つ以上で測定される。
【0021】
部分トランスミッションTG1とTG2の各々に設定された変速比を知ることにより、第1の部分トランスミッションTG1のインプットシャフト28の回転速度nK1、および第2の部分トランスミッションTG2のインプットシャフト32の回転速度nK2の各々は、走行速度vの直線的な関数として与えられる。
【0022】
ドライブトレイン10の前記動作パラメータに応じて、適切ならば別の動作パラメータに応じて、特に内燃機関12の動作パラメータに応じて、制御装置40は、作動信号S_Mot、S_K1、S_K2、S_TG1とS_TG2を生成する。ここで、作動信号S_Motは、内燃機関12のトルクを設定するために使用される。作動信号S_TG1は、第1の部分トランスミッションTG1のギヤに関与し、したがってその変速比を設定するように働く。同様に、作動信号S_TG2は、第2の部分トランスミッションTG2の変速比を設定するために使用される。第1のクラッチ装置K1を介したトルクの流れは、作動信号S_K1で制御される。同様に、第2のクラッチ装置K2を介したトルクの流れは、作動信号S_K2で制御される。
【0023】
制御装置40はまた、自動車のブレーキ装置の特にブレーキペダルの形態で形成される作動装置45と、および例えばギヤセレクタスイッチの形態のトランスミッション位置を選択するための装置46とも通信する。
【0024】
図2は、クラッチ装置K1またはK2の負荷を経時的なプロファイル47で示している。図2に示したようなプロファイル47の左側部分から進んで、クラッチ装置の負荷は、それが閉じられるときに大幅に増加する。この結果、内燃機関12の回転速度nMot(プロファイル48に基づき図2に図示)は、左側に示した比較的高いレベルから進んで、短時間で落ち、したがって再び上方に調整されなければならない。次に、このことは、プロファイル50に基づき図2に示した自動車の走行速度vが連続的に上昇せず、むしろ、図2の左側に示したような自動車の停止から進んで、回転速度nMotの増加の結果として迅速に上昇するが、次に、回転速度nMotの低下の結果としてそれほど急勾配には上昇せず、むしろ落ちる効果を有する。
【0025】
これらの問題を回避するために、始動過程または停止過程の準備で、内燃機関は、予備トルクを保存するように作動する。このような予備トルクの保存は、例えば、デュアルクラッチトランスミッション14のトランスミッション位置の変更によって初期化(initialize, initialisieren)することが可能である。デュアルクラッチトランスミッション14は、例えば、トランスミッション位置を選択するための装置46の運転者による作動によって、アイドル位置から運転位置に移動されることが可能である。特に、トランスミッション位置の変更は、デュアルクラッチトランスミッション14のアイドル位置とデュアルクラッチトランスミッション14の運転位置との間の変更に関係し得る。
【0026】
代わりにまたは追加して、予備トルクの保存の初期化は、デュアルクラッチトランスミッション14の運転位置が係合されるとき、自動車のブレーキ装置が非作動にされることで行われることが可能である。例えば、自動車が停止しているときにデュアルクラッチトランスミッション14の運転位置がすでに選択されているが、自動車の移動が、作動装置46によって作動されるブレーキ装置によって防止される場合、作動装置46を解除することによって予備トルクの保存を初期化することが可能である。
【0027】
予備トルクの保存の初期化は、図3に信号(bit)のプロファイル52に基づき概略的に示されている。プロファイル52は、制御装置40に対するデュアルクラッチトランスミッション14の上述の初期化に起因する予備トルクの要求を概略的に示している。この機能は、予備トルクを初期化するための信号(bit)がトランスミッションによって伝達されるか、例えば、ブレーキ圧等を読み取ることによって、エンジン制御ユニットそれ自体によって選択的に発生されることを保持する。予備トルクを保存することによって、図3にプロファイル54に基づき示したように、内燃機関12の回転速度nMotの安定化を達成することが可能である。利用可能な予備トルクのおかげで、回転速度nMotは、クラッチ装置K1またはK2の負荷の急激な上昇にもかかわらず(プロファイル47参照)、少なくとも実質的に一定のエンジン回転速度nMotで作動され得る。この結果、自動車の走行速度vのプロファイル56は、負の加速が過程に生じることなく、停止から進んで連続的に上昇することができる。
【0028】
予備トルクの保存を初期化するが、次に、対応する予備トルクが引き出されないことが可能である。このことは、例えば、自動車の停止期間が延びた場合に当てはまるかもしれない。最適な動作点から逸脱する動作点における、およびその後に引き出すことができる予備トルクがしたがって保存される動作点における内燃機関12の運転は、おそらくは不都合(例えば燃料消費の僅かな増加)と関連付けられる可能性があるので、予備トルクの大きさおよび/または予備トルクが保存される時間を限定することが可能である。
【0029】
特に、予備トルクの大きさおよび/または予備トルクが保存される時間をドライブトレイン10のパラメータに応じて決定することが可能である。このような決定は、例えば、内燃機関12の回転速度nMot、自動車の走行速度v、自動車のブレーキ装置の作動状態、および/または運転者要求変換器42の作動状態に基づく。
【0030】
さもなければ、制御ユニット40は、本発明による方法、またはその実施形態の1つを実施するために、設定され、特にプログラミングされる。ここで、実施するとは、ここに記載した方法の過程を制御することを意味するものと理解される。
【符号の説明】
【0031】
10:ドライブトレイン、12:内燃機関、14:デュアルクラッチトランスミッション、 40:制御装置、nMot:回転速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のドライブトレイン(10)の内燃機関(12)を制御するための方法であって、ドライブトレイン(10)が自動的にシフトできるトランスミッションを備え、始動過程または停止過程の準備で、内燃機関(12)の回転速度nMotを安定化させるために、始動過程または停止過程中に引き出すことができる予備トルクを保存するように内燃機関(12)が作動する方法。
【請求項2】
前記始動過程が前記自動車の停止から実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記予備トルクの保存が、前記トランスミッションのトランスミッション位置の変更によって初期化される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記変更がアイドル位置と走行位置との間で行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記トランスミッションが走行位置にあるとき、前記予備トルクの保存が、前記自動車のブレーキ装置の作動解除によって初期化される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記予備トルクが、時間遅延して開始される前記内燃機関(12)の点火行程によって保存される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記予備トルクの大きさおよび/または前記予備トルクが保存される時間が限定される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記予備トルクの大きさおよび/または前記予備トルクが保存される時間が、以下のパラメータ、すなわち、内燃機関(12)の回転速度nMot、自動車の走行速度v、自動車のブレーキ装置の作動状態、運転者の要求トルクを規定するための装置の作動状態の少なくとも1つに応じて決定される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
自動的にシフトできる前記トランスミッションがデュアルクラッチトランスミッション(14)である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
自動車のドライブトレイン(10)の内燃機関(12)を制御するための制御装置であって、ドライブトレイン(10)が自動的にシフトできるトランスミッションを備え、始動過程または停止過程の準備で、内燃機関(12)の回転速度nMotを安定化させるために、始動過程または停止過程中に引き出すことができる予備トルクを保存できるように内燃機関(12)を作動することができる制御装置。
【請求項11】
前記制御装置が、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法を実施するために設定される、請求項10に記載の制御装置(40)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−65697(P2010−65697A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207314(P2009−207314)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(508174975)ドクトル イング ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト (134)
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D−70435 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】