自動車の下部構造
【課題】この発明は、車体下部における空力性能の低下を抑制しつつ、搬送手段による車体搬送時に適応させることができる自動車の下部構造を提供することを目的とする。
【解決手段】タイダウン取付部12aと、車体下部に沿ってその下方に配設され、後端に、車両後方に向かって下方に傾斜する第1跳ね下げ部62a、62bを形成したアンダーカバー6a、6bと、該アンダーカバー6a、6bの後端から車両後方に間隔をおいてトレーリングリンク取付部15の下方に配設したエアガイド16とを備えた。また、車体搬送用ハンガーYとの接触を避けるための段部61を、アンダーカバー6a、6b後端にて上方に上がるように形成して備え、段部61の直前に、後方に向かって下方に傾斜する跳ね下げ部62cを形成した。
【解決手段】タイダウン取付部12aと、車体下部に沿ってその下方に配設され、後端に、車両後方に向かって下方に傾斜する第1跳ね下げ部62a、62bを形成したアンダーカバー6a、6bと、該アンダーカバー6a、6bの後端から車両後方に間隔をおいてトレーリングリンク取付部15の下方に配設したエアガイド16とを備えた。また、車体搬送用ハンガーYとの接触を避けるための段部61を、アンダーカバー6a、6b後端にて上方に上がるように形成して備え、段部61の直前に、後方に向かって下方に傾斜する跳ね下げ部62cを形成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の下部構造に関し、特に、ダッシュパネル下端から後方に延びる車体下部に沿ってその下方に配設されるアンダーカバーを備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車体の下面を流れる気流の乱れや流速の低下を抑えると空力性能が改善されることが知られている。そこで、自動車の車体下部における空気の影響を極力低減するために、整流作用を有するアンダーカバーで車体下面を覆うことが行われている。
【0003】
前記アンダーカバーは、車体下部の空力性能の改善という観点からすれば、下記特許文献1にて開示されているように、その後端がリヤホイルハウスの前端部近傍まで略水平に延びているのが好ましい。
【特許文献1】特開2003−291860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動車の生産過程においては、工場内に備えられたハンガー手段が搬送手段として用いられ、このハンガー手段の支持台上に車体を載置し、支持した状態で所定の場所へ搬送することが行われる。この時、リヤホイルハウスの直ぐ前方のサイドシル後端下部が支持台に載置され、車体後部が支持されるようになっている。
【0005】
ここで、前記特許文献1に開示されたアンダーカバーのように、その後端がリヤホイルハウスの前端部近傍まで略水平に延びていると、自動車の生産過程における車体搬送時に、アンダーカバーの一部が前記ハンガー手段の支持台に接触してしまう虞がある。
【0006】
第2に、前記生産過程を経て、船舶等の搬送手段を用いて車体を搬送する際には、先端にフックが取付けられたワイヤを用い、車体を牽引したり、搬送手段内に固定したりすることが行われる。このため、車体下部には前記フックを引っ掛けるための引掛部(タイダウン取付部)が備えられる場合がある。
【0007】
ここで、特許文献1に開示されたアンダーカバーのように、その後端がリヤホイルハウスの前端部近傍まで略水平に延びていると、タイダウン取付部にフックを引っ掛ける際、アンダーカバーが邪魔になるという問題がある。
【0008】
以上より、リヤホイルハウスの前端部近傍まで後端が延びたアンダーカバーを備える前記特許文献1に開示の構造は、車両走行時において、車体下部の空力性能を向上させることができるという効果を奏するものの、車体搬送時には適応できないという問題がある。
【0009】
この発明は、車体下部における空力性能の低下を抑制しつつ、搬送手段による車体搬送時に適応させることができる自動車の下部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の自動車の下部構造は、ダッシュパネル下端から後方且つ水平に延びる水平部と、リヤホイルハウスから車両前方に離間する部位より車両後方且つ上方に傾斜して延びる傾斜部とからなる車体下部を備え、前記リヤホイルハウス前方にて前記傾斜部に配設されたサスペンション取付部と、該サスペンション取付部前方にて前記傾斜部に配設されるタイダウン取付部と、前記車体下部に沿ってその下方に配設され、少なくとも後端が前記水平部の後端近傍まで延びるとともに、前記後端に、車両後方に向かって下方に傾斜する跳ね下げ部を形成したアンダーカバーと、該アンダーカバーの後端から車両後方に間隔をおいて前記サスペンション取付部の下方に配設したエアガイドとを備えたことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、前記跳ね下げ部により、前記アンダーカバー前方からの気流は車体下部から下方へ離間する方向に偏向させられ、前記タイダウン取付部を越えて、アンダーカバー後方のエアガイドに導かれる。これにより、タイダウン取付部の下方を開放しても気流を整流することが可能になる。
【0012】
この発明の一実施態様においては、前記エアガイドが、前記サスペンション取付部の下方を覆う下面部と、該下面部の前端から上方に延び、前記車体下部に締結される縦壁部とを備えたことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、前記縦壁部が障壁となって、前記傾斜部とエアガイドの下面部との間に侵入しようとする空気を遮断することにより、前記傾斜部と前記エアガイドとの間の気流の乱れを確実に抑制することができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、前記エアガイドの下面部の後端位置を、車両前後方向において、前記サスペンション取付部近傍に設定したことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、車体下部における空力性能の低下を抑制しつつ、サスペンション取付部により車体に取付けられるサスペンションのリンク部材の揺動角を確保することができる。
【0016】
この発明の一実施態様においては、車両前後方向において、前記エアガイドの下面部の後端と、前記リヤホイルハウスの前端との間に間隔を設けたことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、積雪した路面上を車両が走行する場合、後輪が巻き上げた雪塊を前記間隔から地面に排出できるため、前記エアガイドの下面部に雪塊が堆積することを防止できる。
【0018】
この発明の一実施態様においては、前記エアガイドの下面部を車両後方に向かって下方に傾斜させたことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、前記下面部の傾斜により、前記サスペンションのリンク部材の揺動角の最大角度をさらに大きく確保することができる。
【0020】
また、積雪した路面上を車両が走行する場合、雪塊の一部が下面部に堆積したとしても、下面部の傾斜によりこの雪塊を地面に排出することができる。
【0021】
この発明の自動車の下部構造は、ダッシュパネル下端から後方且つ水平に延びる水平部と、リヤホイルハウスから車両前方に離間する部位より車両後方且つ上方に傾斜して延びる傾斜部とからなる車体下部を備え、該車体下部に沿ってその下方に配設され、少なくとも後端が前記水平部の後端近傍まで延びるとともに、前記後端に、車両後方に向かって下方に傾斜する第1の跳ね下げ部を形成したアンダーカバーを備えるとともに、前記車体下部の側部を規定するサイドシルの後端下部に当接して車体を支持する車体搬送用ハンガーとの接触を避けるための段部を、前記アンダーカバー後端にて上方に上がるように形成して備え、前記段部の直前に、後方に向かって下方に傾斜する第2の跳ね下げ部を形成したことを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、前記第1の跳ね下げ部により、前記アンダーカバー前方からの気流は車体下部から下方へ離間する方向に偏向させられるため、前記アンダーカバーより後方の気流を整流することが可能になる。
さらに、前記段部により、前記アンダーカバーと前記車体搬送用ハンガーとの接触を回避しつつ、前記第2の跳ね下げ部により、他との段差による前記段部における気流の乱れを抑制することができる。
【0023】
この発明の一実施態様においては、前記アンダーカバーを車体に締結させるための締結孔部を、前記段部にて上方に上がるように形成したことを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、前記段部においては、前記第2の跳ね下げ部により気流の乱れが抑制されるため、前記段部に形成された締結孔部においては気流が乱れることなく安定して流れる。
従って、前記締結孔部を前記段部に設けることにより、前記アンダーカバーの締結箇所における気流の乱れを抑制することができるため、車体下部の空力性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、前記跳ね下げ部、前記エアガイドを備えることにより、タイダウン取付部の下方を開放しても、該タイダウン取付部を覆うカバー部材を特別に設けることなく気流を整流することができる。従って、この気流の整流により、車体下部における空力性能の低下を抑制することができる。
さらに、前記タイダウン取付部の下方を開放することにより、該タイダウン取付部における作業性を確保することができるため、船舶などの搬送手段を用いた車体搬送時に適応させることができる。
【0026】
また、この発明によれば、前記アンダーカバー後端にて段部を形成したことにより、前記アンダーカバーと前記車体搬送用ハンガーとの接触を避けることができるため、自動車の生産過程における車体搬送時に適応させることができる。
さらに、前記アンダーカバー後端に前記第1の跳ね下げ部を備えたことにより、前記アンダーカバーより後方の気流を整流することが可能となり、前記段部の直前に前記第2の跳ね下げ部を形成したことにより、前記段部における気流の乱れを抑制することができるため、車体下部における空力性能の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
(第1実施形態)
まず、図1〜図11に示す第1実施形態について説明する。図1はこの発明の第1実施形態に係る自動車の下部構造を示す底面図であり、図2は、図1におけるA−A線矢視断面図、図3は、図1における要部拡大図、図4は、図3におけるB−B線矢視断面図である。なお、図中において矢印(F)は車両前方、矢印(R)は車両後方を示し、矢印(IN)は車両内方、矢印(OUT)は車両外方を示し、矢印(UP)は上方、矢印(DOWN)は下方を示す。
【0028】
図1、図2に示す部材1は、エンジンルーム2と車室3とを前後に仕切るダッシュパネルであり、該ダッシュパネル1の下端からは、フロントフロアパネル4が後方に連続して略水平に延びている。さらに、フロントフロアパネル4の後方には、後方に向かって上方に傾斜するリヤフロアパネル5が設けられており、主に、このフロントフロアパネル4と、及びリヤフロアパネル5とにより車体下部が構成されている。
【0029】
ダッシュパネル1よりも後方には、前記車体下部に沿うようにその下方に、アンダーカバー6a、6bが設けられている。アンダーカバー6a、6bは、フロアトンネル7の両側にそれぞれ設けられ、それぞれの後端がフロントフロアパネル4の後端近傍まで延び、前輪W1、後輪W2との間で整流面を構成している。
【0030】
また、アンダーカバー6a、6bの後端近傍には、リヤホイルハウス8が設けられており、リヤフロアパネル5は、リヤホイルハウス8から車両前方に離間する部位より後方且つ上方に傾斜して延びている。ここで、アンダーカバー6a、6bは、形状が異なるものの、作用等は略同様であるため、以降の説明においては、車体の右側、即ち、アンダーカバー6a側のみを例に挙げて説明する。
【0031】
フロアトンネル7は、サイドシル9、9、後端にデフレクタ10、10が取付けられたサイドシルガーニッシュ11、11で両側が規定される自動車の下部において、ドライブシャフトや、途中に触媒コンバータを備えた排気管等(いずれも不図示)を収納すべく車幅方向中央付近の前後方向に延びるように設けられている。
【0032】
なお、デフレクタ10は、サイドシルガーニッシュ11から垂下した板状の部材であり、後に詳細に説明するが、リヤホイルハウス8への空気の侵入を抑制するための部材である。
【0033】
リヤホイルハウス8の前方において、リヤフロアパネル5にはリンクブラケット12が設けられており、リンクブラケット12は、アンダーカバー6aとリヤホイルハウス8との間の、下方が開放された部位に配設されている。また、リンクブラケット12には、その一部に長孔が穿設されており、後述するタイダウン取付部12aが形成されている。
【0034】
さらに、リンクブラケット12には、後端がホイルサポート13に支持された、サスペンションのリンク部材としてのトレーリングリンク14を車体に取付けるためのトレーリングリンク取付部15が配設されるとともに、アンダーカバー6aの後端から後方に間隔をおいた位置には、トレーリングリンク取付部15の下方及び前方を覆うエアガイド16が配設されている。
【0035】
タイダウン取付部12aは、トレーリングリンク取付部15、エアガイド16よりも前方に配設されており、図3中二点鎖線で示すワイヤX1先端のタイダウンフックX2を引っ掛けることができるようになっている。例えば、生産過程を経て、船舶等の搬送手段を使用して車体を搬送する際、タイダウン取付部12aにタイダウンフックX2を引っ掛けて車体を牽引したり、前記搬送手段に固定したりすることができるようになっている。
【0036】
トレーリングリンク取付部15は、ボルト17B、ナット17Nにより、トレーリングリンク14を挟んで左右2箇所でリンクブラケット12に締結されている。
【0037】
エアガイド16は、トレーリングリンク取付部15の下方、前方をそれぞれ覆う下面部16a、縦壁部16bを有し、縦壁部16bは、下面部16a前端から上方に傾斜してリンクブラケット12まで延びている。また、エアガイド16は、下面部16aより後方、縦壁部16bより前方で、それぞれボルト18B、ナット18Nによりリンクブラケット12に締結されている。また、傾斜部16bには、そのサイドシル9側に横壁部16cが形成されており、エアガイド16は、ボルト19B、ナット19Nによりサイドシル9にも締結されている。
【0038】
また、エアガイド16は、その後方側にも、下面部16a後端からリンクブラケット12に延びる縦壁部16dを有しているが、前方側とは異なり、トレーリングリンク14が延びる部分が大きく開放された形状となっている。
【0039】
ところで、リンクブラケット12は、図4に示すように、一端がリヤサイドフレーム(リヤフレーム)20を介してリヤフロアパネル5に、他端がサイドシル9を構成するサイドシルインナ9aにそれぞれ取付けられており、トレーリングリンク取付部15においては、これを構成するインナ部材15aがボルト17B、ナット17Nによりリンクブラケット12に締結され、車体側に取付けられている。
【0040】
トレーリングリンク取付部15は、インナ部材15aの他、トレーリングリンク14の前端が直接取付けられるアウタ部材15bと、支持ラバー15cとから構成され、支持ラバー15cは、インナ部材15aとアウタ部材15bとの間に充填されている。これにより、トレーリングリンク14は、車体に対して上下方向に揺動自在に支持されている。
【0041】
このように、トレーリングリンク14が支持ラバー15cを介して揺動自在に支持されているため、ホイルサポート13(図3参照)は、周知のように車体に対して車体前後方向の微小な移動が許容されるようになっている。
【0042】
次に、図3とともに、図5及び図6を参照して、アンダーカバー6について詳細に説明する。図5は、アンダーカバー6aの底面側を示す斜視図であり、図6(a)は、生産過程おいて工場内で車体を搬送するためのハンガーYを示す斜視図、図6(b)は、車体がハンガーYに載置された状態において、図3のC−C線の位置で車体、ハンガーYを切断した断面図である。
【0043】
図3において、アンダーカバー6aの後端部に形成された部位61は、図5に示すように上方に上がる形状とされ、底面視で凹形状となる段部である。また、アンダーカバー6aの後端に形成された部位62a、62b、段部61の直前に形成された部位62cは、図5に示すように下方に傾斜し、底面視で凸形状となるように形成された第1、第2跳ね下げ部である。後で詳細に説明するが、これら第1跳ね下げ部62a、62b、第2跳ね下げ部62cにより、車両前方より流れる車体下部の気流は、車体下部から離間する方向に偏向させられるようになっている。
【0044】
また、アンダーカバー6aには、段部61の他、上方に上がる形状とされ、底面視で凹形状となる複数の締結孔部63a〜63kが形成されている。アンダーカバー6aは、各締結孔部63a〜63hにおいてボルト64B、ナット64Nにより車体下部に締結されることで車体下部の所定位置に固定されている。ここで、これら締結孔部63a〜63hのうち、後端の車幅方向外側の締結孔部63aは段部61に配設されている。
【0045】
ここで、締結孔部63a〜63kが上方に上がる形状とされているのは、アンダーカバー6aの高さ位置が、車体下部側において最も高さ位置の低いものに合わせて設定されており、車体下部の各パネル部材の凹凸形状により、一部アンダーカバー6aと車体下部との間に上下方向の隙間が形成されているからである。これは、アンダーカバー6aを車体下部の凹凸形状に合わせて成形すると、空力性能の劣化した下部構造となってしまうからであり、本実施形態では、少なくとも締結孔部63a〜63kのみを車体下部のパネル部材(上方)側に配設することで、アンダーカバー6aの凹凸を削減するようにしている。
【0046】
ところで、生産過程において車体を搬送する際には、工場内に備えられた図6(a)に示すハンガーYが用いられる。車体は、硬質のラバー材からなる支持台Y1上に載置、支持され、その状態で所定の場所へ搬送されるようになっている。支持台Y1は、フレームY2から下方に延びる4本のポールY3に対応する位置に1つづつ取付けられており、車体を載置した時、車体の前後左右の各部位に当接してバランスよく支持できるようになっている。
【0047】
ここで、支持台Y1に車体を載置した時、支持台Y1は、図6(b)に示すように、サイドシル9の後端下部には直接当接するものの、アンダーカバー6aに対しては、段部61によって接触が避けられるようになっている。
【0048】
これは、アンダーカバー6aが支持台Y1に接触し、支持されることに起因して、アンダーカバー6aの、支持台Y1から離れた側が下方に撓むことを防止するためである。仮に、車体が支持台Y1に支持される時間が長時間に亘った場合、アンダーカバー6aは一般的に樹脂製とされているため、以降、アンダーカバー6aが撓んだままの形状になってしまい、空力性能の劣化した下部構造となってしまう。また、支持台Y1でアンダーカバー6aが支持されると、その側が支持台Y1から上方に押圧力を受けることで、支持台Y1から離れた側は、逆に下方への押圧力を受ける。このため、締結孔部63g〜63k(図5参照)においてボルト64B、ナット64Nの締結が外れる虞がある。
【0049】
ところで、段部61に配設された締結孔部63aは、図6(b)に示すように、サイドシルインナ9aに締結されており、サイドシルガーニッシュ11は、図6(b)及び図7(図3におけるD−D線矢視断面図)に示すように、サイドシル9を構成するサイドシルアウタ9bの側面部と、サイドシルレインフォースメント9cの下面部とに対して、それぞれファスナー21a、21bにより締結され、所定位置に固定されている。
【0050】
次に、本実施形態の自動車の下部構造における整流作用について、図8、図9を参照して説明する。図8は、車両走行時における気流の方向を模式的に示す側面図であり、図9は、車両走行時における気流の方向を模式的に示す底面図である。
【0051】
アンダーカバー6aに沿った前方からの気流は、先ず、アンダーカバー6aの段部61直前の第2跳ね下げ部62cの縦壁により、図中実線で示す矢印s1のように、車体下部から下方へ離間する方向に偏向させられ、車体下部から離間した高さ位置を流れる。これにより、図中の点(イ)において、図中二点鎖線で示す矢印s2のような、段部61への空気の侵入は確実に抑制される。
【0052】
矢印s2で示すように、段部61へ空気が侵入すると、他との段差により気流の乱れが生じ易い。しかしながら、本実施形態では、第2跳ね下げ部62cによる下方への整流により、この気流の乱れは確実に抑制され、車両走行時における空力性能の低下が抑制される。従って、アンダーカバー6aに段部61を形成して、自動車の生産過程における車体搬送時に適応させようとし場合であっても、さらに第2跳ね下げ部62cを形成することにより、車両走行時における空力性能の低下を抑制することができる。
【0053】
次に、気流がアンダーカバー6aの後端下方を通過する時、例えば、図中の点(ロ)において、タイダウン取付部12aの下方を開放すべく形成された凹部空間に気流の一部が流れ込もうとする。この凹部空間は、タイダウン取付部12aにタイダウンフックX2(図3参照)を引っ掛けられるようにするために開放された空間となっており、車両走行時においては、この凹部空間内に空気が侵入する可能性がある。ここで、仮に、図中二点鎖線で示す矢印s3のように、前記凹部空間内に空気が侵入すると、その内部で気流の乱れが発生し、空力性能に悪影響を及ぼすこととなる。
【0054】
そこで、本実施形態では、第1跳ね下げ部62a、62bをアンダーカバー6aの後端に設けることで、その縦壁によって気流を車体下部から下方へ離間する方向に偏向させることができるようにし、前記凹部区間での気流の乱れを抑制するようにしている。これにより、車体下部の下方に偏向させられた気流の殆どは、タイダウン取付部12a(前記凹部空間)を越えて、アンダーカバー6a後方のエアガイド16の下面部16aに導かれることになる。
【0055】
このように、タイダウン取付部12aの下方を開放して、船舶などの搬送手段を用いた車体搬送時に適応させようとした場合であっても、これら第1跳ね下げ部62a、62b、エアガイド16により、タイダウン取付部12aを覆うカバー部材を特別に設けなくても気流を整流することが可能になっている。つまり、第1跳ね下げ部62a、62b、エアガイド16により、タイダウン取付部12aへタイダウンフックX2を引っ掛ける際の作業性を確保しつつ、車体下部における空力性能の低下を抑制することができる。
【0056】
また、段部61の直前の第2跳ね下げ部62cにより、段部61での気流の乱れが抑制されることで、この気流の乱れに起因して第1の跳ね下げ部62a、62bによる整流作用に悪影響を及ぼすことが抑制されている。また、第1跳ね下げ部62a、62bに至る前に予備的に第2跳ね下げ部62cで気流を偏向させることができるため、前記凹部空間への空気の侵入がより確実に抑制されている。
【0057】
ここで、前記凹部空間を通過する間に、例えば、点(ハ)において、図中二点鎖線で示す矢印s4のように、一部の空気が前記凹部空間に侵入する可能性がある。しかしながら、エアガイド16の縦壁部16bが障壁となって、矢印s4で示す気流は一点鎖線で示すように、車体下部から離間する方向に偏向され、矢印s1の気流に再び合流する。このように、縦壁部16bがリンクブラケット12とエアガイド16の下面部16aとの間に侵入しようとする空気を遮断することにより、リンクブラケット12とエアガイド16との間の気流の乱れを確実に抑制することができる。
【0058】
ところで、アンダーカバー6aに沿った前方からの気流は、図9中実線で示す矢印s5、s6の気流のように、締結孔部63b〜63kの下方を通過する際、該締結孔部63b〜63kの形状により乱れが生じ易くなる。これに対し、実線で示す矢印s7の気流は、締結孔部63aの下方を通過するものの、第2跳ね下げ部62cによる気流の偏向により、乱れることなく安定して流れる。
【0059】
この締結孔部63aのように、アンダーカバー6aの締結孔部を段部61に設けることにより、アンダーカバー6aの締結箇所における気流の乱れを抑制し、車体下部の空力性能を向上させることができる。また、段部61がアンダーカバー6aの後端に位置し、これに合わせて締結孔部63aの位置がアンダーカバー6aの後端部に配設されているため、アンダーカバー6aの取付状態をより安定させることができる。
【0060】
また、エアガイド16の下面部16aは、図8に示すように、車両後方に向かって下方に傾斜した形状をなしていることにより、図9において実線で示す矢印s8、s9のように、アンダーカバー6aに沿った前方からの気流は、車幅方向の内側に偏向、収束される傾向がある。これにより、リヤホイルハウス8内への空気の侵入が抑制され、該リヤホイルハウス8内の気流の乱れを抑制することができる。
【0061】
ここで、下面部16a後端と、サイドシル9後端との間に間隔が形成されていることで、下面部16aを通過した空気の一部が車幅方向の外側に流れる可能性がある。しかしながら、このように外側に流れるようとする気流は、サイドシルガーニッシュ11後端に設けられたデフレクタ10が障壁となって、図中実線で示す矢印s10のように、リヤホイルハウス8内への侵入が阻止される。
【0062】
このように、エアガイド16の下面部16aに加えてデフレクタ10によって整流作用がなされているため、ホイルハウス8内での気流の乱れを確実に抑制することができる。
【0063】
ところで、エアガイド16の下面部16aは、その後端がより後方に位置する程整流作用は良好なものとなるが、本実施形態においては、下面部16aの後端位置を、図3、図9等に示すように、車両前後方向においてトレーリングリンク取付部15の近傍に設定している。図10は、下面部16aの長さを異ならせた場合のトレーリングリンク14の揺動角の違いを示す対比図であり、ここでは、本実施形態の下面部16aに対して長さLだけ後方に延びる下面部16a’を備えたエアガイド16’を想定し、これを図10(a)に示している。
【0064】
図10(a)に示す下面部16’においては、図10(b)に示す本実施形態の下面部16に対して、その後端が、トレーリングリンク取付部15から大きく離間しているために、トレーリングリンク14が下方へ揺動できる最大角度α(<β)が大きく制限されてしまうという問題がある。
【0065】
つまり、本実施形態のように、下面部16aの後端位置が、トレーリングリンク取付部15近傍に設定されていることで、車体下部の空力性能の低下の抑制と、トレーリングリンク14の揺動角の確保との両立が図られている。
【0066】
また、本実施形態においては、下面部16aが後方に向かって下方に傾斜しているため、上述したように、気流を車幅方向内方に収束させることができると同時に、トレーリングリンク14の揺動角の最大角度をさらに大きく確保することができる。
【0067】
また、下面部16aの長さを短く設定する効果は、積雪が多い地域での車両走行時に特有の効果を奏する。図11は、積雪した路面上を車両が走行した場合において、下面部16aの長さを異ならせた場合の雪塊の堆積のし方の違いを示す対比図である。なお、図11においては、エアガイド16の後方に後輪W2が位置するように図示しているが、エアガイド16と後輪W2との間の間隔を表現するために便宜上図示したものであって、実際には、図3、図9等で示すように、エアガイド16と後輪W2とは車幅方向で離間して配設されている。
【0068】
積雪した路面上を車両が走行する場合、後輪W2はその回転により、表面に付着した路面上の雪を前方に巻き上げる可能性がある。この場合、図3、図9等において、後輪W2の前方にはリヤホイルハウス8(実際はホイルハウスインナ)の前側壁が位置するために、前方への雪塊Zの飛散は抑制される。
【0069】
しかしながら、リヤホイルハウス8よりも車幅方向内方においては、トレーリングリンク14が車両前後方向に配設されるために、前方が開放されており、後輪W2が巻き上げた雪塊Zは車幅方向内方において前側に飛散する虞がある。これにより、雪塊Zは、図11(a)に示すように、エアガイド16下面部の上面側まで飛散し、時間経過とともにそこに堆積する可能性があり、結果として雪塊Zが後輪Wの回転を妨げる虞がある。
【0070】
そこで、本実施形態では、下面部16aの長さを短く設定し、リヤホイルハウス8の前端8aとの間に車両前後方向において間隔を設けている。これにより、図11(b)に示すように、後輪W2が巻き上げた雪塊Zが前記間隔から地面に排出されるため、下面部16a上面側に堆積することを確実に防止している。また、仮に、雪塊Zの一部が下面部16a上面側に堆積したとしても、上述した下面部16aの傾斜によりこの雪塊Zを地面に排出することができる。
【0071】
(第2実施形態)
次に、図12に示す第2実施形態について説明する。図12は、第1実施形態におけるタイダウン取付部12aを車体後部に備えていない自動車の下部構造を例に挙げ、図示したものである。なお、第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して、その説明を省略する。この場合、リンクブラケット112にタイダウン取付部が配設されていないため、アンダーカバー106aの後端を、図示のようにトレーリングリンク取付部15の下方近傍まで延ばすことができる。
【0072】
本実施形態では、第1実施形態と同様、アンダーカバー106aの後端には、下方に傾斜して底面視で凸形状となるように形成された第1跳ね下げ部162a、162bが形成されている。
【0073】
これにより、車両前方より流れる車体下部の気流を車体下部から離間する方向に偏向させることができるため、アンダーカバー106aより後方の気流を整流することが可能になり、車体下部における空力性能の低下を抑制することができる。
【0074】
さらに、本実施形態では、ハンガーY(図6参照)を用いて車体を搬送する際を考慮し、アンダーカバー106aには段部161が形成されている。この場合、第1実施形態と同様、段部161の直前には第2跳ね下げ部162cが形成されている。これにより、アンダーカバー106a前方から流れる気流が段部161において乱れることを確実に抑制し、車体下部における空力性能の低下を抑制している。
【0075】
ここで、本実施形態においても第1実施形態と同様に、アンダーカバー106a後端より車両後方にエアガイドを別途設け、トレーリングリンク取付部15の下方を覆うようにしてもよいが、上述したようにアンダーカバー106a後端をより後方へ延ばすことができるため、アンダーカバー106aによってトレーリングリンク取付部15の下方を覆うことで、トレーリングリンク取付部15近傍の気流の乱れを抑制することができる。
【0076】
また、第1跳ね下げ部162a、162bが下方に傾斜しているため、第1実施形態と同様、アンダーカバー106aに沿った前方からの気流を、車幅方向の内側に偏向、収束させることができる。従って、リヤホイルハウス8内への空気の侵入が抑制され、該リヤホイルハウス8内の気流の乱れを抑制することができる。
【0077】
また、段部161の直前の第2跳ね下げ部162cにより、段部161での気流の乱れが第1跳ね下げ部162a、162bの整流作用に悪影響を及ぼすことを抑制できる。さらに、第1跳ね下げ部162a、162bに至る前の第2跳ね下げ部162cで予備的に気流を偏向させているため、アンダーカバー106aより後方の気流の乱れをより確実に抑制できる。
【0078】
なお、段部161に、締結孔部163aが配設される構成等、その他の作用効果については、最初の実施形態と同様である。
【0079】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の水平部は、フロントフロアパネル4に対応し、
以下同様に、
傾斜部は、リヤフロアパネル5に対応し、
サスペンション取付部は、トレーリングリンク取付部15に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の第1実施形態に係る自動車の下部構造を示す底面図。
【図2】図1におけるA−A線矢視断面図。
【図3】図1における要部拡大図。
【図4】図3におけるB−B線矢視断面図。
【図5】アンダーカバーの底面側を示す斜視図。
【図6】(a)生産過程おいて工場内で車体を搬送するためのハンガーを示す斜視図、(b)車体がハンガーに載置された状態において、図3のC−C線の位置で車体、ハンガーを切断した断面図。
【図7】図3におけるD−D線矢視断面図。
【図8】車両走行時における気流の方向を模式的に示す側面図。
【図9】車両走行時における気流の方向を模式的に示す底面図。
【図10】エアガイドの下面部の長さを異ならせた場合のトレーリングリンクの揺動角の違いを示す対比図であり、(a)本実施形態の下面部に対して長さLだけ後方に延ばしたものを示す側面図。(b)本実施形態の下面部を示す側面図。
【図11】積雪した路面上を車両が走行した場合において、エアガイドの下面部の長さを異ならせた場合の雪塊の堆積のし方の違いを示す対比図であり、(a)本実施形態の下面部に対して長さLだけ後方に延ばしたものを示す側面図。(b)本実施形態の下面部を示す側面図。
【図12】本発明の第2実施形態に係る自動車の下部構造を示す底面図。
【符号の説明】
【0081】
1…ダッシュパネル
4…フロントフロアパネル
5…リヤフロアパネル
6a、6b、106a…アンダーカバー
8…リヤホイルハウス
9…サイドシル
12a…タイダウン取付部
15…トレーリングリンク取付部
16…エアガイド
16a…下面部
16b…縦壁部
61、161…段部
62a、62b、162a、162b…第1跳ね下げ部
62c、162c…第2跳ね下げ部
63a〜63k、163a…締結孔部
Y…ハンガー
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の下部構造に関し、特に、ダッシュパネル下端から後方に延びる車体下部に沿ってその下方に配設されるアンダーカバーを備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車体の下面を流れる気流の乱れや流速の低下を抑えると空力性能が改善されることが知られている。そこで、自動車の車体下部における空気の影響を極力低減するために、整流作用を有するアンダーカバーで車体下面を覆うことが行われている。
【0003】
前記アンダーカバーは、車体下部の空力性能の改善という観点からすれば、下記特許文献1にて開示されているように、その後端がリヤホイルハウスの前端部近傍まで略水平に延びているのが好ましい。
【特許文献1】特開2003−291860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動車の生産過程においては、工場内に備えられたハンガー手段が搬送手段として用いられ、このハンガー手段の支持台上に車体を載置し、支持した状態で所定の場所へ搬送することが行われる。この時、リヤホイルハウスの直ぐ前方のサイドシル後端下部が支持台に載置され、車体後部が支持されるようになっている。
【0005】
ここで、前記特許文献1に開示されたアンダーカバーのように、その後端がリヤホイルハウスの前端部近傍まで略水平に延びていると、自動車の生産過程における車体搬送時に、アンダーカバーの一部が前記ハンガー手段の支持台に接触してしまう虞がある。
【0006】
第2に、前記生産過程を経て、船舶等の搬送手段を用いて車体を搬送する際には、先端にフックが取付けられたワイヤを用い、車体を牽引したり、搬送手段内に固定したりすることが行われる。このため、車体下部には前記フックを引っ掛けるための引掛部(タイダウン取付部)が備えられる場合がある。
【0007】
ここで、特許文献1に開示されたアンダーカバーのように、その後端がリヤホイルハウスの前端部近傍まで略水平に延びていると、タイダウン取付部にフックを引っ掛ける際、アンダーカバーが邪魔になるという問題がある。
【0008】
以上より、リヤホイルハウスの前端部近傍まで後端が延びたアンダーカバーを備える前記特許文献1に開示の構造は、車両走行時において、車体下部の空力性能を向上させることができるという効果を奏するものの、車体搬送時には適応できないという問題がある。
【0009】
この発明は、車体下部における空力性能の低下を抑制しつつ、搬送手段による車体搬送時に適応させることができる自動車の下部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の自動車の下部構造は、ダッシュパネル下端から後方且つ水平に延びる水平部と、リヤホイルハウスから車両前方に離間する部位より車両後方且つ上方に傾斜して延びる傾斜部とからなる車体下部を備え、前記リヤホイルハウス前方にて前記傾斜部に配設されたサスペンション取付部と、該サスペンション取付部前方にて前記傾斜部に配設されるタイダウン取付部と、前記車体下部に沿ってその下方に配設され、少なくとも後端が前記水平部の後端近傍まで延びるとともに、前記後端に、車両後方に向かって下方に傾斜する跳ね下げ部を形成したアンダーカバーと、該アンダーカバーの後端から車両後方に間隔をおいて前記サスペンション取付部の下方に配設したエアガイドとを備えたことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、前記跳ね下げ部により、前記アンダーカバー前方からの気流は車体下部から下方へ離間する方向に偏向させられ、前記タイダウン取付部を越えて、アンダーカバー後方のエアガイドに導かれる。これにより、タイダウン取付部の下方を開放しても気流を整流することが可能になる。
【0012】
この発明の一実施態様においては、前記エアガイドが、前記サスペンション取付部の下方を覆う下面部と、該下面部の前端から上方に延び、前記車体下部に締結される縦壁部とを備えたことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、前記縦壁部が障壁となって、前記傾斜部とエアガイドの下面部との間に侵入しようとする空気を遮断することにより、前記傾斜部と前記エアガイドとの間の気流の乱れを確実に抑制することができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、前記エアガイドの下面部の後端位置を、車両前後方向において、前記サスペンション取付部近傍に設定したことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、車体下部における空力性能の低下を抑制しつつ、サスペンション取付部により車体に取付けられるサスペンションのリンク部材の揺動角を確保することができる。
【0016】
この発明の一実施態様においては、車両前後方向において、前記エアガイドの下面部の後端と、前記リヤホイルハウスの前端との間に間隔を設けたことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、積雪した路面上を車両が走行する場合、後輪が巻き上げた雪塊を前記間隔から地面に排出できるため、前記エアガイドの下面部に雪塊が堆積することを防止できる。
【0018】
この発明の一実施態様においては、前記エアガイドの下面部を車両後方に向かって下方に傾斜させたことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、前記下面部の傾斜により、前記サスペンションのリンク部材の揺動角の最大角度をさらに大きく確保することができる。
【0020】
また、積雪した路面上を車両が走行する場合、雪塊の一部が下面部に堆積したとしても、下面部の傾斜によりこの雪塊を地面に排出することができる。
【0021】
この発明の自動車の下部構造は、ダッシュパネル下端から後方且つ水平に延びる水平部と、リヤホイルハウスから車両前方に離間する部位より車両後方且つ上方に傾斜して延びる傾斜部とからなる車体下部を備え、該車体下部に沿ってその下方に配設され、少なくとも後端が前記水平部の後端近傍まで延びるとともに、前記後端に、車両後方に向かって下方に傾斜する第1の跳ね下げ部を形成したアンダーカバーを備えるとともに、前記車体下部の側部を規定するサイドシルの後端下部に当接して車体を支持する車体搬送用ハンガーとの接触を避けるための段部を、前記アンダーカバー後端にて上方に上がるように形成して備え、前記段部の直前に、後方に向かって下方に傾斜する第2の跳ね下げ部を形成したことを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、前記第1の跳ね下げ部により、前記アンダーカバー前方からの気流は車体下部から下方へ離間する方向に偏向させられるため、前記アンダーカバーより後方の気流を整流することが可能になる。
さらに、前記段部により、前記アンダーカバーと前記車体搬送用ハンガーとの接触を回避しつつ、前記第2の跳ね下げ部により、他との段差による前記段部における気流の乱れを抑制することができる。
【0023】
この発明の一実施態様においては、前記アンダーカバーを車体に締結させるための締結孔部を、前記段部にて上方に上がるように形成したことを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、前記段部においては、前記第2の跳ね下げ部により気流の乱れが抑制されるため、前記段部に形成された締結孔部においては気流が乱れることなく安定して流れる。
従って、前記締結孔部を前記段部に設けることにより、前記アンダーカバーの締結箇所における気流の乱れを抑制することができるため、車体下部の空力性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、前記跳ね下げ部、前記エアガイドを備えることにより、タイダウン取付部の下方を開放しても、該タイダウン取付部を覆うカバー部材を特別に設けることなく気流を整流することができる。従って、この気流の整流により、車体下部における空力性能の低下を抑制することができる。
さらに、前記タイダウン取付部の下方を開放することにより、該タイダウン取付部における作業性を確保することができるため、船舶などの搬送手段を用いた車体搬送時に適応させることができる。
【0026】
また、この発明によれば、前記アンダーカバー後端にて段部を形成したことにより、前記アンダーカバーと前記車体搬送用ハンガーとの接触を避けることができるため、自動車の生産過程における車体搬送時に適応させることができる。
さらに、前記アンダーカバー後端に前記第1の跳ね下げ部を備えたことにより、前記アンダーカバーより後方の気流を整流することが可能となり、前記段部の直前に前記第2の跳ね下げ部を形成したことにより、前記段部における気流の乱れを抑制することができるため、車体下部における空力性能の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
(第1実施形態)
まず、図1〜図11に示す第1実施形態について説明する。図1はこの発明の第1実施形態に係る自動車の下部構造を示す底面図であり、図2は、図1におけるA−A線矢視断面図、図3は、図1における要部拡大図、図4は、図3におけるB−B線矢視断面図である。なお、図中において矢印(F)は車両前方、矢印(R)は車両後方を示し、矢印(IN)は車両内方、矢印(OUT)は車両外方を示し、矢印(UP)は上方、矢印(DOWN)は下方を示す。
【0028】
図1、図2に示す部材1は、エンジンルーム2と車室3とを前後に仕切るダッシュパネルであり、該ダッシュパネル1の下端からは、フロントフロアパネル4が後方に連続して略水平に延びている。さらに、フロントフロアパネル4の後方には、後方に向かって上方に傾斜するリヤフロアパネル5が設けられており、主に、このフロントフロアパネル4と、及びリヤフロアパネル5とにより車体下部が構成されている。
【0029】
ダッシュパネル1よりも後方には、前記車体下部に沿うようにその下方に、アンダーカバー6a、6bが設けられている。アンダーカバー6a、6bは、フロアトンネル7の両側にそれぞれ設けられ、それぞれの後端がフロントフロアパネル4の後端近傍まで延び、前輪W1、後輪W2との間で整流面を構成している。
【0030】
また、アンダーカバー6a、6bの後端近傍には、リヤホイルハウス8が設けられており、リヤフロアパネル5は、リヤホイルハウス8から車両前方に離間する部位より後方且つ上方に傾斜して延びている。ここで、アンダーカバー6a、6bは、形状が異なるものの、作用等は略同様であるため、以降の説明においては、車体の右側、即ち、アンダーカバー6a側のみを例に挙げて説明する。
【0031】
フロアトンネル7は、サイドシル9、9、後端にデフレクタ10、10が取付けられたサイドシルガーニッシュ11、11で両側が規定される自動車の下部において、ドライブシャフトや、途中に触媒コンバータを備えた排気管等(いずれも不図示)を収納すべく車幅方向中央付近の前後方向に延びるように設けられている。
【0032】
なお、デフレクタ10は、サイドシルガーニッシュ11から垂下した板状の部材であり、後に詳細に説明するが、リヤホイルハウス8への空気の侵入を抑制するための部材である。
【0033】
リヤホイルハウス8の前方において、リヤフロアパネル5にはリンクブラケット12が設けられており、リンクブラケット12は、アンダーカバー6aとリヤホイルハウス8との間の、下方が開放された部位に配設されている。また、リンクブラケット12には、その一部に長孔が穿設されており、後述するタイダウン取付部12aが形成されている。
【0034】
さらに、リンクブラケット12には、後端がホイルサポート13に支持された、サスペンションのリンク部材としてのトレーリングリンク14を車体に取付けるためのトレーリングリンク取付部15が配設されるとともに、アンダーカバー6aの後端から後方に間隔をおいた位置には、トレーリングリンク取付部15の下方及び前方を覆うエアガイド16が配設されている。
【0035】
タイダウン取付部12aは、トレーリングリンク取付部15、エアガイド16よりも前方に配設されており、図3中二点鎖線で示すワイヤX1先端のタイダウンフックX2を引っ掛けることができるようになっている。例えば、生産過程を経て、船舶等の搬送手段を使用して車体を搬送する際、タイダウン取付部12aにタイダウンフックX2を引っ掛けて車体を牽引したり、前記搬送手段に固定したりすることができるようになっている。
【0036】
トレーリングリンク取付部15は、ボルト17B、ナット17Nにより、トレーリングリンク14を挟んで左右2箇所でリンクブラケット12に締結されている。
【0037】
エアガイド16は、トレーリングリンク取付部15の下方、前方をそれぞれ覆う下面部16a、縦壁部16bを有し、縦壁部16bは、下面部16a前端から上方に傾斜してリンクブラケット12まで延びている。また、エアガイド16は、下面部16aより後方、縦壁部16bより前方で、それぞれボルト18B、ナット18Nによりリンクブラケット12に締結されている。また、傾斜部16bには、そのサイドシル9側に横壁部16cが形成されており、エアガイド16は、ボルト19B、ナット19Nによりサイドシル9にも締結されている。
【0038】
また、エアガイド16は、その後方側にも、下面部16a後端からリンクブラケット12に延びる縦壁部16dを有しているが、前方側とは異なり、トレーリングリンク14が延びる部分が大きく開放された形状となっている。
【0039】
ところで、リンクブラケット12は、図4に示すように、一端がリヤサイドフレーム(リヤフレーム)20を介してリヤフロアパネル5に、他端がサイドシル9を構成するサイドシルインナ9aにそれぞれ取付けられており、トレーリングリンク取付部15においては、これを構成するインナ部材15aがボルト17B、ナット17Nによりリンクブラケット12に締結され、車体側に取付けられている。
【0040】
トレーリングリンク取付部15は、インナ部材15aの他、トレーリングリンク14の前端が直接取付けられるアウタ部材15bと、支持ラバー15cとから構成され、支持ラバー15cは、インナ部材15aとアウタ部材15bとの間に充填されている。これにより、トレーリングリンク14は、車体に対して上下方向に揺動自在に支持されている。
【0041】
このように、トレーリングリンク14が支持ラバー15cを介して揺動自在に支持されているため、ホイルサポート13(図3参照)は、周知のように車体に対して車体前後方向の微小な移動が許容されるようになっている。
【0042】
次に、図3とともに、図5及び図6を参照して、アンダーカバー6について詳細に説明する。図5は、アンダーカバー6aの底面側を示す斜視図であり、図6(a)は、生産過程おいて工場内で車体を搬送するためのハンガーYを示す斜視図、図6(b)は、車体がハンガーYに載置された状態において、図3のC−C線の位置で車体、ハンガーYを切断した断面図である。
【0043】
図3において、アンダーカバー6aの後端部に形成された部位61は、図5に示すように上方に上がる形状とされ、底面視で凹形状となる段部である。また、アンダーカバー6aの後端に形成された部位62a、62b、段部61の直前に形成された部位62cは、図5に示すように下方に傾斜し、底面視で凸形状となるように形成された第1、第2跳ね下げ部である。後で詳細に説明するが、これら第1跳ね下げ部62a、62b、第2跳ね下げ部62cにより、車両前方より流れる車体下部の気流は、車体下部から離間する方向に偏向させられるようになっている。
【0044】
また、アンダーカバー6aには、段部61の他、上方に上がる形状とされ、底面視で凹形状となる複数の締結孔部63a〜63kが形成されている。アンダーカバー6aは、各締結孔部63a〜63hにおいてボルト64B、ナット64Nにより車体下部に締結されることで車体下部の所定位置に固定されている。ここで、これら締結孔部63a〜63hのうち、後端の車幅方向外側の締結孔部63aは段部61に配設されている。
【0045】
ここで、締結孔部63a〜63kが上方に上がる形状とされているのは、アンダーカバー6aの高さ位置が、車体下部側において最も高さ位置の低いものに合わせて設定されており、車体下部の各パネル部材の凹凸形状により、一部アンダーカバー6aと車体下部との間に上下方向の隙間が形成されているからである。これは、アンダーカバー6aを車体下部の凹凸形状に合わせて成形すると、空力性能の劣化した下部構造となってしまうからであり、本実施形態では、少なくとも締結孔部63a〜63kのみを車体下部のパネル部材(上方)側に配設することで、アンダーカバー6aの凹凸を削減するようにしている。
【0046】
ところで、生産過程において車体を搬送する際には、工場内に備えられた図6(a)に示すハンガーYが用いられる。車体は、硬質のラバー材からなる支持台Y1上に載置、支持され、その状態で所定の場所へ搬送されるようになっている。支持台Y1は、フレームY2から下方に延びる4本のポールY3に対応する位置に1つづつ取付けられており、車体を載置した時、車体の前後左右の各部位に当接してバランスよく支持できるようになっている。
【0047】
ここで、支持台Y1に車体を載置した時、支持台Y1は、図6(b)に示すように、サイドシル9の後端下部には直接当接するものの、アンダーカバー6aに対しては、段部61によって接触が避けられるようになっている。
【0048】
これは、アンダーカバー6aが支持台Y1に接触し、支持されることに起因して、アンダーカバー6aの、支持台Y1から離れた側が下方に撓むことを防止するためである。仮に、車体が支持台Y1に支持される時間が長時間に亘った場合、アンダーカバー6aは一般的に樹脂製とされているため、以降、アンダーカバー6aが撓んだままの形状になってしまい、空力性能の劣化した下部構造となってしまう。また、支持台Y1でアンダーカバー6aが支持されると、その側が支持台Y1から上方に押圧力を受けることで、支持台Y1から離れた側は、逆に下方への押圧力を受ける。このため、締結孔部63g〜63k(図5参照)においてボルト64B、ナット64Nの締結が外れる虞がある。
【0049】
ところで、段部61に配設された締結孔部63aは、図6(b)に示すように、サイドシルインナ9aに締結されており、サイドシルガーニッシュ11は、図6(b)及び図7(図3におけるD−D線矢視断面図)に示すように、サイドシル9を構成するサイドシルアウタ9bの側面部と、サイドシルレインフォースメント9cの下面部とに対して、それぞれファスナー21a、21bにより締結され、所定位置に固定されている。
【0050】
次に、本実施形態の自動車の下部構造における整流作用について、図8、図9を参照して説明する。図8は、車両走行時における気流の方向を模式的に示す側面図であり、図9は、車両走行時における気流の方向を模式的に示す底面図である。
【0051】
アンダーカバー6aに沿った前方からの気流は、先ず、アンダーカバー6aの段部61直前の第2跳ね下げ部62cの縦壁により、図中実線で示す矢印s1のように、車体下部から下方へ離間する方向に偏向させられ、車体下部から離間した高さ位置を流れる。これにより、図中の点(イ)において、図中二点鎖線で示す矢印s2のような、段部61への空気の侵入は確実に抑制される。
【0052】
矢印s2で示すように、段部61へ空気が侵入すると、他との段差により気流の乱れが生じ易い。しかしながら、本実施形態では、第2跳ね下げ部62cによる下方への整流により、この気流の乱れは確実に抑制され、車両走行時における空力性能の低下が抑制される。従って、アンダーカバー6aに段部61を形成して、自動車の生産過程における車体搬送時に適応させようとし場合であっても、さらに第2跳ね下げ部62cを形成することにより、車両走行時における空力性能の低下を抑制することができる。
【0053】
次に、気流がアンダーカバー6aの後端下方を通過する時、例えば、図中の点(ロ)において、タイダウン取付部12aの下方を開放すべく形成された凹部空間に気流の一部が流れ込もうとする。この凹部空間は、タイダウン取付部12aにタイダウンフックX2(図3参照)を引っ掛けられるようにするために開放された空間となっており、車両走行時においては、この凹部空間内に空気が侵入する可能性がある。ここで、仮に、図中二点鎖線で示す矢印s3のように、前記凹部空間内に空気が侵入すると、その内部で気流の乱れが発生し、空力性能に悪影響を及ぼすこととなる。
【0054】
そこで、本実施形態では、第1跳ね下げ部62a、62bをアンダーカバー6aの後端に設けることで、その縦壁によって気流を車体下部から下方へ離間する方向に偏向させることができるようにし、前記凹部区間での気流の乱れを抑制するようにしている。これにより、車体下部の下方に偏向させられた気流の殆どは、タイダウン取付部12a(前記凹部空間)を越えて、アンダーカバー6a後方のエアガイド16の下面部16aに導かれることになる。
【0055】
このように、タイダウン取付部12aの下方を開放して、船舶などの搬送手段を用いた車体搬送時に適応させようとした場合であっても、これら第1跳ね下げ部62a、62b、エアガイド16により、タイダウン取付部12aを覆うカバー部材を特別に設けなくても気流を整流することが可能になっている。つまり、第1跳ね下げ部62a、62b、エアガイド16により、タイダウン取付部12aへタイダウンフックX2を引っ掛ける際の作業性を確保しつつ、車体下部における空力性能の低下を抑制することができる。
【0056】
また、段部61の直前の第2跳ね下げ部62cにより、段部61での気流の乱れが抑制されることで、この気流の乱れに起因して第1の跳ね下げ部62a、62bによる整流作用に悪影響を及ぼすことが抑制されている。また、第1跳ね下げ部62a、62bに至る前に予備的に第2跳ね下げ部62cで気流を偏向させることができるため、前記凹部空間への空気の侵入がより確実に抑制されている。
【0057】
ここで、前記凹部空間を通過する間に、例えば、点(ハ)において、図中二点鎖線で示す矢印s4のように、一部の空気が前記凹部空間に侵入する可能性がある。しかしながら、エアガイド16の縦壁部16bが障壁となって、矢印s4で示す気流は一点鎖線で示すように、車体下部から離間する方向に偏向され、矢印s1の気流に再び合流する。このように、縦壁部16bがリンクブラケット12とエアガイド16の下面部16aとの間に侵入しようとする空気を遮断することにより、リンクブラケット12とエアガイド16との間の気流の乱れを確実に抑制することができる。
【0058】
ところで、アンダーカバー6aに沿った前方からの気流は、図9中実線で示す矢印s5、s6の気流のように、締結孔部63b〜63kの下方を通過する際、該締結孔部63b〜63kの形状により乱れが生じ易くなる。これに対し、実線で示す矢印s7の気流は、締結孔部63aの下方を通過するものの、第2跳ね下げ部62cによる気流の偏向により、乱れることなく安定して流れる。
【0059】
この締結孔部63aのように、アンダーカバー6aの締結孔部を段部61に設けることにより、アンダーカバー6aの締結箇所における気流の乱れを抑制し、車体下部の空力性能を向上させることができる。また、段部61がアンダーカバー6aの後端に位置し、これに合わせて締結孔部63aの位置がアンダーカバー6aの後端部に配設されているため、アンダーカバー6aの取付状態をより安定させることができる。
【0060】
また、エアガイド16の下面部16aは、図8に示すように、車両後方に向かって下方に傾斜した形状をなしていることにより、図9において実線で示す矢印s8、s9のように、アンダーカバー6aに沿った前方からの気流は、車幅方向の内側に偏向、収束される傾向がある。これにより、リヤホイルハウス8内への空気の侵入が抑制され、該リヤホイルハウス8内の気流の乱れを抑制することができる。
【0061】
ここで、下面部16a後端と、サイドシル9後端との間に間隔が形成されていることで、下面部16aを通過した空気の一部が車幅方向の外側に流れる可能性がある。しかしながら、このように外側に流れるようとする気流は、サイドシルガーニッシュ11後端に設けられたデフレクタ10が障壁となって、図中実線で示す矢印s10のように、リヤホイルハウス8内への侵入が阻止される。
【0062】
このように、エアガイド16の下面部16aに加えてデフレクタ10によって整流作用がなされているため、ホイルハウス8内での気流の乱れを確実に抑制することができる。
【0063】
ところで、エアガイド16の下面部16aは、その後端がより後方に位置する程整流作用は良好なものとなるが、本実施形態においては、下面部16aの後端位置を、図3、図9等に示すように、車両前後方向においてトレーリングリンク取付部15の近傍に設定している。図10は、下面部16aの長さを異ならせた場合のトレーリングリンク14の揺動角の違いを示す対比図であり、ここでは、本実施形態の下面部16aに対して長さLだけ後方に延びる下面部16a’を備えたエアガイド16’を想定し、これを図10(a)に示している。
【0064】
図10(a)に示す下面部16’においては、図10(b)に示す本実施形態の下面部16に対して、その後端が、トレーリングリンク取付部15から大きく離間しているために、トレーリングリンク14が下方へ揺動できる最大角度α(<β)が大きく制限されてしまうという問題がある。
【0065】
つまり、本実施形態のように、下面部16aの後端位置が、トレーリングリンク取付部15近傍に設定されていることで、車体下部の空力性能の低下の抑制と、トレーリングリンク14の揺動角の確保との両立が図られている。
【0066】
また、本実施形態においては、下面部16aが後方に向かって下方に傾斜しているため、上述したように、気流を車幅方向内方に収束させることができると同時に、トレーリングリンク14の揺動角の最大角度をさらに大きく確保することができる。
【0067】
また、下面部16aの長さを短く設定する効果は、積雪が多い地域での車両走行時に特有の効果を奏する。図11は、積雪した路面上を車両が走行した場合において、下面部16aの長さを異ならせた場合の雪塊の堆積のし方の違いを示す対比図である。なお、図11においては、エアガイド16の後方に後輪W2が位置するように図示しているが、エアガイド16と後輪W2との間の間隔を表現するために便宜上図示したものであって、実際には、図3、図9等で示すように、エアガイド16と後輪W2とは車幅方向で離間して配設されている。
【0068】
積雪した路面上を車両が走行する場合、後輪W2はその回転により、表面に付着した路面上の雪を前方に巻き上げる可能性がある。この場合、図3、図9等において、後輪W2の前方にはリヤホイルハウス8(実際はホイルハウスインナ)の前側壁が位置するために、前方への雪塊Zの飛散は抑制される。
【0069】
しかしながら、リヤホイルハウス8よりも車幅方向内方においては、トレーリングリンク14が車両前後方向に配設されるために、前方が開放されており、後輪W2が巻き上げた雪塊Zは車幅方向内方において前側に飛散する虞がある。これにより、雪塊Zは、図11(a)に示すように、エアガイド16下面部の上面側まで飛散し、時間経過とともにそこに堆積する可能性があり、結果として雪塊Zが後輪Wの回転を妨げる虞がある。
【0070】
そこで、本実施形態では、下面部16aの長さを短く設定し、リヤホイルハウス8の前端8aとの間に車両前後方向において間隔を設けている。これにより、図11(b)に示すように、後輪W2が巻き上げた雪塊Zが前記間隔から地面に排出されるため、下面部16a上面側に堆積することを確実に防止している。また、仮に、雪塊Zの一部が下面部16a上面側に堆積したとしても、上述した下面部16aの傾斜によりこの雪塊Zを地面に排出することができる。
【0071】
(第2実施形態)
次に、図12に示す第2実施形態について説明する。図12は、第1実施形態におけるタイダウン取付部12aを車体後部に備えていない自動車の下部構造を例に挙げ、図示したものである。なお、第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して、その説明を省略する。この場合、リンクブラケット112にタイダウン取付部が配設されていないため、アンダーカバー106aの後端を、図示のようにトレーリングリンク取付部15の下方近傍まで延ばすことができる。
【0072】
本実施形態では、第1実施形態と同様、アンダーカバー106aの後端には、下方に傾斜して底面視で凸形状となるように形成された第1跳ね下げ部162a、162bが形成されている。
【0073】
これにより、車両前方より流れる車体下部の気流を車体下部から離間する方向に偏向させることができるため、アンダーカバー106aより後方の気流を整流することが可能になり、車体下部における空力性能の低下を抑制することができる。
【0074】
さらに、本実施形態では、ハンガーY(図6参照)を用いて車体を搬送する際を考慮し、アンダーカバー106aには段部161が形成されている。この場合、第1実施形態と同様、段部161の直前には第2跳ね下げ部162cが形成されている。これにより、アンダーカバー106a前方から流れる気流が段部161において乱れることを確実に抑制し、車体下部における空力性能の低下を抑制している。
【0075】
ここで、本実施形態においても第1実施形態と同様に、アンダーカバー106a後端より車両後方にエアガイドを別途設け、トレーリングリンク取付部15の下方を覆うようにしてもよいが、上述したようにアンダーカバー106a後端をより後方へ延ばすことができるため、アンダーカバー106aによってトレーリングリンク取付部15の下方を覆うことで、トレーリングリンク取付部15近傍の気流の乱れを抑制することができる。
【0076】
また、第1跳ね下げ部162a、162bが下方に傾斜しているため、第1実施形態と同様、アンダーカバー106aに沿った前方からの気流を、車幅方向の内側に偏向、収束させることができる。従って、リヤホイルハウス8内への空気の侵入が抑制され、該リヤホイルハウス8内の気流の乱れを抑制することができる。
【0077】
また、段部161の直前の第2跳ね下げ部162cにより、段部161での気流の乱れが第1跳ね下げ部162a、162bの整流作用に悪影響を及ぼすことを抑制できる。さらに、第1跳ね下げ部162a、162bに至る前の第2跳ね下げ部162cで予備的に気流を偏向させているため、アンダーカバー106aより後方の気流の乱れをより確実に抑制できる。
【0078】
なお、段部161に、締結孔部163aが配設される構成等、その他の作用効果については、最初の実施形態と同様である。
【0079】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の水平部は、フロントフロアパネル4に対応し、
以下同様に、
傾斜部は、リヤフロアパネル5に対応し、
サスペンション取付部は、トレーリングリンク取付部15に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の第1実施形態に係る自動車の下部構造を示す底面図。
【図2】図1におけるA−A線矢視断面図。
【図3】図1における要部拡大図。
【図4】図3におけるB−B線矢視断面図。
【図5】アンダーカバーの底面側を示す斜視図。
【図6】(a)生産過程おいて工場内で車体を搬送するためのハンガーを示す斜視図、(b)車体がハンガーに載置された状態において、図3のC−C線の位置で車体、ハンガーを切断した断面図。
【図7】図3におけるD−D線矢視断面図。
【図8】車両走行時における気流の方向を模式的に示す側面図。
【図9】車両走行時における気流の方向を模式的に示す底面図。
【図10】エアガイドの下面部の長さを異ならせた場合のトレーリングリンクの揺動角の違いを示す対比図であり、(a)本実施形態の下面部に対して長さLだけ後方に延ばしたものを示す側面図。(b)本実施形態の下面部を示す側面図。
【図11】積雪した路面上を車両が走行した場合において、エアガイドの下面部の長さを異ならせた場合の雪塊の堆積のし方の違いを示す対比図であり、(a)本実施形態の下面部に対して長さLだけ後方に延ばしたものを示す側面図。(b)本実施形態の下面部を示す側面図。
【図12】本発明の第2実施形態に係る自動車の下部構造を示す底面図。
【符号の説明】
【0081】
1…ダッシュパネル
4…フロントフロアパネル
5…リヤフロアパネル
6a、6b、106a…アンダーカバー
8…リヤホイルハウス
9…サイドシル
12a…タイダウン取付部
15…トレーリングリンク取付部
16…エアガイド
16a…下面部
16b…縦壁部
61、161…段部
62a、62b、162a、162b…第1跳ね下げ部
62c、162c…第2跳ね下げ部
63a〜63k、163a…締結孔部
Y…ハンガー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の下部構造において、
ダッシュパネル下端から後方且つ水平に延びる水平部と、リヤホイルハウスから車両前方に離間する部位より車両後方且つ上方に傾斜して延びる傾斜部とからなる車体下部を備え、
前記リヤホイルハウス前方にて前記傾斜部に配設されたサスペンション取付部と、
該サスペンション取付部前方にて前記傾斜部に配設されるタイダウン取付部と、
前記車体下部に沿ってその下方に配設され、少なくとも後端が前記水平部の後端近傍まで延びるとともに、前記後端に、車両後方に向かって下方に傾斜する跳ね下げ部を形成したアンダーカバーと、
該アンダーカバーの後端から車両後方に間隔をおいて前記サスペンション取付部の下方に配設したエアガイドとを備えた
自動車の下部構造。
【請求項2】
前記エアガイドは、前記サスペンション取付部の下方を覆う下面部と、
該下面部の前端から上方に延び、前記車体下部に締結される縦壁部とを備えた
請求項1記載の自動車の下部構造。
【請求項3】
前記エアガイドの下面部の後端位置を、車両前後方向において、前記サスペンション取付部近傍に設定した
請求項2記載の自動車の下部構造。
【請求項4】
車両前後方向において、前記エアガイドの下面部の後端と、前記リヤホイルハウスの前端との間に間隔を設けた
請求項2記載の自動車の下部構造。
【請求項5】
前記エアガイドの下面部を車両後方に向かって下方に傾斜させた
請求項2乃至4のうちいずれか一項記載の自動車の下部構造。
【請求項6】
自動車の下部構造において、
ダッシュパネル下端から後方且つ水平に延びる水平部と、リヤホイルハウスから車両前方に離間する部位より車両後方且つ上方に傾斜して延びる傾斜部とからなる車体下部を備え、
該車体下部に沿ってその下方に配設され、少なくとも後端が前記水平部の後端近傍まで延びるとともに、前記後端に、車両後方に向かって下方に傾斜する第1の跳ね下げ部を形成したアンダーカバーを備えるとともに、
前記車体下部の側部を規定するサイドシルの後端下部に当接して車体を支持する車体搬送用ハンガーとの接触を避けるための段部を、前記アンダーカバー後端にて上方に上がるように形成して備え、
前記段部の直前に、後方に向かって下方に傾斜する第2の跳ね下げ部を形成した
自動車の下部構造。
【請求項7】
前記アンダーカバーを車体に締結させるための締結孔部を、前記段部にて上方に上がるように形成した
請求項6記載の自動車の下部構造。
【請求項1】
自動車の下部構造において、
ダッシュパネル下端から後方且つ水平に延びる水平部と、リヤホイルハウスから車両前方に離間する部位より車両後方且つ上方に傾斜して延びる傾斜部とからなる車体下部を備え、
前記リヤホイルハウス前方にて前記傾斜部に配設されたサスペンション取付部と、
該サスペンション取付部前方にて前記傾斜部に配設されるタイダウン取付部と、
前記車体下部に沿ってその下方に配設され、少なくとも後端が前記水平部の後端近傍まで延びるとともに、前記後端に、車両後方に向かって下方に傾斜する跳ね下げ部を形成したアンダーカバーと、
該アンダーカバーの後端から車両後方に間隔をおいて前記サスペンション取付部の下方に配設したエアガイドとを備えた
自動車の下部構造。
【請求項2】
前記エアガイドは、前記サスペンション取付部の下方を覆う下面部と、
該下面部の前端から上方に延び、前記車体下部に締結される縦壁部とを備えた
請求項1記載の自動車の下部構造。
【請求項3】
前記エアガイドの下面部の後端位置を、車両前後方向において、前記サスペンション取付部近傍に設定した
請求項2記載の自動車の下部構造。
【請求項4】
車両前後方向において、前記エアガイドの下面部の後端と、前記リヤホイルハウスの前端との間に間隔を設けた
請求項2記載の自動車の下部構造。
【請求項5】
前記エアガイドの下面部を車両後方に向かって下方に傾斜させた
請求項2乃至4のうちいずれか一項記載の自動車の下部構造。
【請求項6】
自動車の下部構造において、
ダッシュパネル下端から後方且つ水平に延びる水平部と、リヤホイルハウスから車両前方に離間する部位より車両後方且つ上方に傾斜して延びる傾斜部とからなる車体下部を備え、
該車体下部に沿ってその下方に配設され、少なくとも後端が前記水平部の後端近傍まで延びるとともに、前記後端に、車両後方に向かって下方に傾斜する第1の跳ね下げ部を形成したアンダーカバーを備えるとともに、
前記車体下部の側部を規定するサイドシルの後端下部に当接して車体を支持する車体搬送用ハンガーとの接触を避けるための段部を、前記アンダーカバー後端にて上方に上がるように形成して備え、
前記段部の直前に、後方に向かって下方に傾斜する第2の跳ね下げ部を形成した
自動車の下部構造。
【請求項7】
前記アンダーカバーを車体に締結させるための締結孔部を、前記段部にて上方に上がるように形成した
請求項6記載の自動車の下部構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−320513(P2007−320513A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155636(P2006−155636)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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