説明

自転車用回生制動制御装置

【課題】ブレーキ回生を行う制御装置において、回生制動と機械制動との間で違和感を生じにくくする。
【解決手段】回生制動制御部74は、自転車に装着可能なフロントブレーキシステムとリアブレーキシステムの変位に関連してモータ60を制御する。回生制動制御部74は、右ブレーキセンサと、左ブレーキセンサと、第1制御部75と、を備えている。右ブレーキセンサは、フロントブレーキシステムの移動位置を検出する。左ブレーキセンサは、リアブレーキシステムの移動位置を検出する。第1制御部75は、フロントブレーキシステムおよびリアブレーキシステムが変位すると、右移動位置と左移動位置とにより得られた加算位置に応じた第1回生制動力を発生するようにモータ60を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動制御装置、特に、人力による駆動をモータにより補助する電動自転車に装着可能なブレーキシステムに関連して、モータを制御する自転車用回生制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人力よる駆動をモータにより補助するアシスト自転車において、蓄電池の電力の消耗を抑えるために、回生制動を行う技術が従来知られている(たとえば、特許文献1参照)。従来の回生制動制御装置では、フロントブレーキレバーおよびリアブレーキレバー(第1ブレーキシステムおよび第2ブレーキシステムの一例)にレバー操作の有無を検出するブレーキスイッチをそれぞれ配置している。従来の回生制動制御装置では、片方のブレーキスイッチがオンしたときの回生制動力を、両方のブレーキスイッチがオンしたときの回生制動力より小さくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−35376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の構成では、片方のブレーキレバーを操作したときと、両方のブレーキレバーを操作したときの強さが異なる2つの回生制動力で回生制動を行っている。このため、ブレーキレバーの操作により自転車の機械式のブレーキ装置が制動動作を開始すると、制動力が急激に上昇する。このように、ブレーキレバーの操作量に対して制動力が急激に上昇すると、回生制動と機械制動との間に違和感が生じるおそれがある。
【0005】
本発明の課題は、回生制動と機械制動との間で違和感を生じにくくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明1に係る自転車用回生制動制御装置は、自転車に装着可能な第1ブレーキシステムと第2ブレーキシステムの変位に関連してモータを制御する装置である。自転車用回生制動制御装置は、第1変位量検出部と、第2変位量検出部と、第1制御部と、を備えている。第1変位量検出部は、第1ブレーキシステムの第1変位量を検出する。第2変位量検出部は、第2ブレーキシステムの第2変位量を検出する。第1制御部は、第1ブレーキシステムおよび第2ブレーキシステムが変位すると、第1変位量と第2変位量とにより得られる制動情報に応じた第1回生制動力を発生するようにモータを制御する。
【0007】
この回生制動制御装置では、第1ブレーキシステム及び第2ブレーキシステム、すなわち機械的な二つ(例えば前後)のブレーキ機構が変位すると、第1変位量と第2変位量とにより得られる制動情報に応じた第1回生制動力を発生するようにモータを制御する。
【0008】
ここでは、第1ブレーキシステムおよび第2ブレーキシステムが変位すると、第1変位量および第2変位量により得られる制動情報に応じた第1回生制動力により回生制動がなされる。このため、二つの機械式のブレーキシステムの変位に応じて第1回生制動力を変化させることができ、回生制動と機械制動との間で違和感が生じにくくなる。
【0009】
発明2に係る自転車用回生制動制御装置は、発明1に記載の自転車用回生制動制御装置において、制動情報は、第1変位量と第2変位量とを加算して得られる。この場合には、制動情報が第1ブレーキシステムと第2ブレーキシステムの変位を加算して得られるので、回生制動と機械制動との間でさらに違和感が生じにくくなる。
【0010】
発明3に係る自転車用回生制動制御装置は、発明1又は2に記載の自転車用回生制動制御装置において、第1制御部は、第1変位量および第2変位量の増加に応じて、増加する第1回生制動力を発生するようにモータを制御する。この場合には、第1ブレーキシステムおよび第2ブレーキシステムの変位量の増加に応じて回生制動力が徐々に増加するので、第1回生制動力が機械式のブレーキ装置の制動状態に追随する。このため、回生制動と機械制動との間でさらに違和感が生じにくくなる。
【0011】
発明4に係る自転車用回生制動装置は、発明1から3のいずれかに自転車用回生制動装置において、第1ブレーキシステムおよび第2ブレーキシステムが変位していないとき、一定の第2回生制動力を発生するようにモータを制御する第2制御部をさらに備える。
【0012】
この場合には、第1ブレーキシステムおよび第2ブレーキシステムの状態、すなわち機械式のブレーキ機構による制動が行われているか否かに関わらず、第2制御部による一定の第2回生制動力を発生させた回生充電が行われる。第2回生制動力は、通常の走行に差し支えない程度の制動力に設定される。このため、第2回生制動力による回生充電より充電量が多くなる。
【0013】
発明5に係る自転車用回生制動制御装置は、発明4に記載の装置において、第2制御部による制御を行っているときに、第1ブレーキシステムおよび第2ブレーキシステムの少なくともいずれかが変位した場合、第1制御部による制御に切り換える切換制御部をさらに備える。
【0014】
この場合には、第2制御部による常時回生制御をおこなっているときでも、第1ブレーキシステムおよび第2ブレーキシステムの少なくともいずれかが変位する、すなわち、ブレーキ操作がなされると、第1制御部により第1変位量及び第2変位量により得られた制御情報に応じた回生制動がなされる。このため、常時制動を行っても、制動操作により回生制動力が増加し、回生制動と機械制動との間に違和感が生じにくくなる。
【0015】
発明6に係る自転車用回生制動制御装置は、発明5に記載の自転車用回生制動制御装置において、切換制御部により第2制御部による制御から第1制御部による制御に切り換えられた場合、第1制御部は、前記制動情報に応じて第2回生制動力以上となる第1回生制動力を発生させる。この場合には、常時回生時の第2回生制動力から違和感なく第1回生制動力を上昇させることができる。
【0016】
発明7に係る自転車用回生制動制御装置は、発明5または6に記載の自転車用回生制動制御装置において、第1制動モードと第2制動モードとに切り換えるモード切換部をさらに備えている。第1制動モードは、第1ブレーキシステムおよび第2ブレーキシステムの少なくともいずれかが変位した場合、切換制御部により第2制御部による制御から第1制御部による制御に切り換わる制動モードである。第2制動モードは、第1ブレーキシステムおよび第2ブレーキシステムの少なくともいずれかが変位すると、第1制御部による制御を行う制動モードである。
【0017】
この場合には、第1制動モードでは、第2回生制動力で常時回生制動して回生充電し、第1ブレーキシステムおよび第2ブレーキシステムの少なくともいずれかが変位した場合、切換制御部により第2制御部による制御から第1制御部による制御に切り換わり、回生充電量が多くなる。一方、第2制動モードでは、第2制御部による常時回生は行われず、第1ブレーキシステムおよび第2ブレーキシステムの少なくともいずれかが変位すると、第1回生制動力で制動して回生充電する。ここでは、ライダーの好みに合わせて充電量を調整できる。たとえば、電池残量が少ないときには、第1制動モードにして充電量を多くし、電池残量が多いときには、第2制動モードにして第1ブレーキシステムおよび第2ブレーキシステムが動作しないときにペダルを軽くこげるようにすることができる。
【0018】
発明8に係る自転車用回生制動制御装置は、発明1から7のいずれかに記載の自転車用回生制動制御装置において、第1制御部は、第1変位量および第2変位量の増加に応じて増加する出力電流に基づいて第1回生制動力を制御する。この場合には、トルクに応じて変化する電流に基づいて第1回生制動力を制御するので、自転車の速度が変化したときに、変位量に応じた回生制動力が変化してしまうことを抑制することができる。
【0019】
発明9に係る自転車用回生制動制御装置は、発明8に記載の自転車用回生制動制御装置において、第1制御部は、予め設定された最大出力電流に基づいて第1回生制動力の上限を設定する。この場合には、自転車の速度が変化しても、第1回生制動力の上限が変化してしまうことを抑制することができる。
【0020】
発明10に係る自転車用回生制動制御装置は、発明1から9のいずれかに記載の自転車用回生制動制御装置において、第1ブレーキシステムおよび第2ブレーキシステムは、ブレーキレバー、ブレーキワイヤ、キャリパーブレーキ、カンチブレーキ、油圧ブレーキ、ブレーキシュー、ブレーキパッド、ローラブレーキの少なくともいずれか1つをそれぞれ含む。この場合には、ブレーキに関連する種々の装置の変位に応じて回生制動力を変更できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、第1ブレーキシステムおよび第2ブレーキシステムが変位すると、第1変位量および第2変位量により得られる制動情報に応じた第1回生制動力により回生制動がなされる。このため、二つの機械式のブレーキシステムの変位に応じて第1回生制動力を変化させることができ、回生制動と機械制動との間で違和感が生じにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態が採用された自転車の側面図。
【図2】ブレーキレバー及び表示装置を示す平面図。
【図3】表示装置のモード画面の表示の一例を示す図。
【図4】表示装置のサイクルコンピュータ画面の一例を示す図。
【図5】本発明の第1実施形態による電装システムの構成を示すブロック図。
【図6】その接続形態を示すブロック図。
【図7】全体制御部の機能構成を示すブロック図。
【図8】回生制動制御部の制御動作を示すフローチャート。
【図9】初期位置書換部の動作を示すフローチャート。
【図10】回生制動制御動作を示すフローチャート。
【図11】ブレーキ回生及び常時回生時の回生制動力の変化を示すグラフ。
【図12】初期位置が変更された場合の図11に相当するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1実施形態>
図1において、本発明の第1実施形態を採用する自転車は人力よる駆動をモータユニット10により補助するアシスト自転車である。なお、以下の説明では、自転車の左右は、通常、自転車を後方から見たときに右にあるのを右とし、左にあるのを左と規定している。
【0024】
自転車は、フレーム体102及びフロントフォーク103を有するフレーム101と、ハンドル部104と、駆動部105と、前輪106fと、後輪106rと、フロントブレーキ装置107f及びリアブレーキ装置107rと、前照灯23と、尾灯24と、を備えている。フロントフォーク103は、フレーム体102の前部に斜めの軸回りに揺動自在に装着されている。フロントブレーキ装置107f及びリアブレーキ装置107rは、前輪106f及び後輪106rのフロントリム121f及びリアリム121rにそれぞれ接触して制動する。
【0025】
フレーム101には、サドル111やハンドル部104を含む各部が取り付けられている。駆動部105は、フレーム体102のハンガー部に回転自在に支持されたクランク軸116と、クランク軸116の両端に固定されたギアクランク118a及び左クランク(図示せず)と、ギアクランク118aに掛け渡されたチェーン119と、後輪106rのリアハブ110に装着されたギア109と、フロントディレーラ108fと、リアディレーラ108rと、を有している。
【0026】
フロントディレーラ108fは、ギアクランク118aに装着された、たとえば3枚のスプロケットのいずれかにチェーン119を架け渡すものである。リアディレーラ108rは、リアハブ110に取り付けられた、ギア109のたとえば9枚のスプロケットのいずれかにチェーン119を架け渡すものである。いずれも電動駆動されるものである。
【0027】
フレーム体102の後上部には、リアキャリア112が取り付けられている。リアキャリア112には、全体制御部12を含むリアキャリアユニット13が装着されている。リアキャリアユニット13は、後述するモータユニット10、全体制御部12及び前照灯23等の電源となる蓄電部14を着脱可能に搭載している。蓄電部14は、例えばニッケル水素電池またはリチウムイオン電池等の蓄電池を含んでいる。蓄電部14に尾灯24が一体で取り付けられている。
【0028】
前輪106fの中心には、前輪106fの駆動補助用のモータユニット10が装着されている。モータユニット10の内部には、図5に示すように、モータ60と、インバータ61と、速度センサ62とが設けられている。モータ60は、たとえば3相ブラシレスDCモータまたは交流モータである。インバータ61は、蓄電部14から直流出力された電流をモータ60のアシストモードに応じたアシスト力を発生する交流電流に変換する。また、モータ60の回生制動力を変化させる。インバータ61は、デューティ比によりモータ60の出力電流を変化させることによりアシスト力及び回生制動力を変化させる。インバータ61は、出力電流を検出する出力電流検出部61aを有している。速度センサ62は、モータ60の回転速度つまり、自転車の速度を検出する。
【0029】
また、ハンガー部122には、図5に示すように、クランク軸116に作用する踏力を検出するためのトルクセンサ17およびクランク軸116の回転角度を検出する角度センサ19を有する後述するハンガーユニット122aが設けられている。
【0030】
リアキャリアユニット13は、全体制御部12を内部に有している。全体制御部12は、マイクロコンピュータを有し、接続された電装品を制御する。全体制御部12は、アシストモードのとき、乗り手の踏力の最大でN1倍のアシスト力が発生するようにモータユニット10を制御可能である。全体制御部12は、複数の回生制動モードと複数のアシストモードとでモータ60を制御する。具体的には、全体制御部12は、アシストモードでは、踏力のN1倍のアシスト力で補助する強アシストモード、N2倍のアシスト力で補助する中アシストモード、およびN3倍のアシスト力で補助する弱アシストモードの3つのアシストモードを有している。N1、N2およびN3は、予め定める数字を表し、N1>N2>N3に選ばれる。N1は例えば2に選ばれ、N2は例えば1.5に選ばれ、N3は例えば1に選ばれる。
【0031】
また、回生制動モードは、常時回生モードと、後述する右ブレーキレバー16fおよび/または左ブレーキレバー16rのレバー部材31の移動位置に応じて制動力を変化させるブレーキ回生モードとの2つの制動モードを含んでいる。常時回生モードは、第1制動モードの一例であり、ブレーキ回生モードは、第2制動モードの一例であり、強アシストモード、中アシストモードおよび低アシストモードを含む。
【0032】
また、モータユニット10の動作モードには、アシストおよび回生制動を両方とも行わないオフモードも含まれている。常時回生モードでは、右ブレーキレバー16f及び左ブレーキレバー16rのそれぞれのレバー部材31が初期位置(リリース位置)から移動したときに所定位置に到達するまでは、一定の第2回生制動力で制動し、所定位置を超えると、レバー部材31の移動位置に応じて回生制動による制動力が第2回生制動力以上となる第1回生制動力で制動する。この所定位置は、レバー部材31のリリース位置から3度程度の揺動に相当する移動位置である。ブレーキ回生モードでは、常時回生は行わずに、右ブレーキレバー16f及び左ブレーキレバー16rのそれぞれのレバー部材31の移動位置に応じて、第1回生制動力で制御する。常時回生及びブレーキ回生モードでは、モータ60から発生する電力を蓄電部14に蓄えつつ前輪106fを制動するようにしている。
【0033】
ハンドル部104は、フロントフォーク103の上部に固定されたハンドルステム114と、ハンドルステム114に固定されたバーハンドル型のハンドルバー115とを有している。ハンドルバー115の両端には、自転車のハンドル部104を上方から見た図2に示すように、右ブレーキレバー16f及び左ブレーキレバー16rと、グリップ15と、が装着されている。ハンドルバー115の中央部には、ハンドルステム114を跨いで表示装置18が固定されている。
【0034】
表示装置18は、液晶ディスプレイ画面18aを有している。液晶ディスプレイ画面18aは、例えば、図3に示すアシストおよび回生制動モードの選択画面等を表示するアシスト画面と、図4に示す自転車の速度、フロントディレーラ108f及びリアディレーラ108rの変速位置、並びに走行距離等を表示するサイクルコンピュータ画面とに切り換え可能である。なお、いずれの画面にも蓄電部14の残量が表示される。図3に示すアシスト画面では、例えば2つの回生制動モードと、3つのアシストモードを選択できるとともに、アシストおよび回生制動を行わないオフモードも選択できる。後述する上モード選択スイッチ44cまたは下モード選択スイッチ44dを操作するとカーソルが上又は下に移動する。そして、移動先で数秒以上操作が停止するとそのモードが選択される。また、選択されたモードにカーソルが止まる。
【0035】
なお、図3に示すアシスト画面では、常時回生モードに設定されている。したがって、回生制動モードが選択された場合は、選択されているモードに対応する部分にカーソルが表示される。たとえば、アシスト回生オフが選択された場合は、アシスト回生オフにカーソルが表示される。
【0036】
また、サイクルコンピュータ画面において、変速位置のカーソルは、現在の変速位置を示している。
【0037】
<ブレーキレバーの構成>
右ブレーキレバー16fは、フロントブレーキケーブル113fによりフロントブレーキ装置107fに接続されている。左ブレーキレバー16rは、リアブレーキケーブル113rによりリアブレーキ装置107rに接続されている。右ブレーキレバー16fと、フロントブレーキ装置107fと、これらを接続するブレーキワイヤとを含んでフロントブレーキシステム117fが構成される。フロントブレーキシステム117fは、第1ブレーキシステムの一例である。また、左ブレーキレバー16rと、リアブレーキ装置107rと、これらを接続するブレーキワイヤとを含んでリアブレーキシステム117rが構成される。リアブレーキシステム117rは、第2ブレーキシステムの一例である。
【0038】
右ブレーキレバー16f及び左ブレーキレバー16rは、ハンドルバー115に着脱自在に装着される取付ブラケット30と、取付ブラケット30に揺動自在に装着されたレバー部材31と、をそれぞれ備えている。
【0039】
取付ブラケット30は、図2に示すように、ハンドルバー115に装着可能に図2下部に配置された装着部41と、装着部41に連結されたブラケット部42と、を有している。装着部41は、図示しない固定ボルトを締め付けることにより取付ブラケット30をハンドルバー115に固定できる。右ブレーキレバー16f及び左ブレーキレバー16rのブラケット部42には、リアディレーラ108r及びフロントディレーラ108fを変速操作するためのリア変速操作部43r及びフロント変速操作部43fが各別に着脱可能に取り付けられている。
【0040】
リア変速操作部43r及びフロント変速操作部43fは、例えば左右に並べて配置されたシフトアップスイッチ43aとシフトダウンスイッチ43bとを有している。シフトアップスイッチ43aは、自転車の左右方向でシフトダウンスイッチ43bの、たとえば左側に配置されている。シフトアップスイッチ43aは、高速側の変速段に変速操作するためのスイッチであり、シフトダウンスイッチ43bは、低速側の変速段に変速操作するためのスイッチである。たとえば、フロント変速操作部43fのシフトアップスイッチ43aを操作すると、ギアクランク118aにおいて、最小径のスプロケットから中間径のスプロケット、又は中間径のスプロケットから最大径のスプロケットにチェーン119が架け替えられる。また、リア変速操作部43rのシフトアップスイッチ43aが操作されると、小ギア109において、チェーン119が架けられているスプロケットより一段小さい径のスプロケットにチェーン119が架け替えられる。シフトダウンスイッチ43bが操作されると、逆の動作が行われる。
【0041】
右ブレーキレバー16fのブラケット部42には、ライトスイッチ44aと、表示切換スイッチ44bとが左右に並べて配置されている。表示切換スイッチ44bは、表示装置18の液晶ディスプレイ画面18aをアシスト画面とサイクルコンピュータ画面とに切り換えるためのスイッチである。ライトスイッチ44aは、前照灯23をオンオフするスイッチである。ライトスイッチ44aは、押圧操作する都度、前照灯23がオンまたはオフする。また、表示切換スイッチ44bは、押圧操作する都度、表示装置18の液晶ディスプレイ画面18aをアシスト画面とサイクルコンピュータ画面とに切り換える。
【0042】
左ブレーキレバー16rのブラケット部42には、上モード選択スイッチ44cと、下モード選択スイッチ44dと、電源スイッチ44eとが配置されている。上モード選択スイッチ44cは、回生制動モードおよびアシストモードを図3に示す画面上方向に順に選択するスイッチである。下モード選択スイッチ44dは、複数の回生制動モード又は複数のアシストモードを図3に示す画面下方向に順に選択するスイッチである。電源スイッチ44eは、図2において下モード選択スイッチ44dの上方に配置された円形の押しボタンスイッチであり、全体制御部12の電源をオンまたはオフするソフトウェアスイッチである。上モード選択スイッチ44cを押圧する都度、回生制動モード又はアシストモードを選択するためのカーソルが画面上方向に順に移動する。カーソルの移動が停止するとそのモードが選択される。下モード選択スイッチ44dは、同様に下方向に順にカーソルが移動する。ここでは、表示画面に表示されている各モードが上下方向に並んでいるが、各モードは左右方向に並べて表示されてもよい。電源スイッチ44eは、押圧操作の都度、全体制御部12の電源がオンまたはオフされる。
【0043】
ブラケット部42には、レバー部材31の初期位置を調整可能な調整ボルトを有する初期位置調整部50が設けられている。また、フロントブレーキシステム117fのブラケット部42の内部には、レバー部材31との距離によりレバー部材31の初期位置からの移動位置を検出するリニアホール素子を用いた右ブレーキセンサ53fが設けられている。右ブレーキセンサ53fは、レバー部材31に埋め込まれた磁石54からの距離により、レバー部材31の初期位置からの移動位置を検出するリニアホール素子55を有している。この移動位置に応じて全体制御部12は、ブレーキ回生モード及び常時回生モード時に回生制動制御を行う。また、リアブレーキシステム117rのブラケット部42の内部には、フロントブレーキシステム117fのブラケット部42と同様に、レバー部材31との距離によりレバー部材31の初期位置からの移動位置を検出するリニアホール素子を用いた左ブレーキセンサ53rが設けられている。左ブレーキセンサ53rは、レバー部材31に埋め込まれた磁石54からの距離により、レバー部材31の初期位置からの移動位置を検出するリニアホール素子55を有している。この移動位置に応じて全体制御部12は、ブレーキ回生モード及び常時回生モード時に回生制動制御を行う。右ブレーキセンサ53fは、第1変位量検出部の一例であり、左ブレーキセンサ53rは第2変位量検出部の一例である。
【0044】
レバー部材31は、初期位置(リリース位置)から最大揺動位置との間でブラケット部42に揺動自在に装着されている。初期位置は、レバー部材31が最もハンドルバー115から離れた位置である。レバー部材31は、図示しない付勢部材またはブレーキワイヤによって初期位置側に付勢されている。初期位置は、前述したように初期位置調整部50により調整可能である。レバー部材31には、フロントブレーキケーブル113f(またはリアブレーキケーブル113r)のインナーケーブルが係止されている。フロントブレーキケーブル113f(またはリアブレーキケーブル113r)のアウターケーシングは、ブラケット部42に係止されている。
【0045】
<電装システムの構成>
図5及び図6に示すように、自転車に搭載される電装システム100は、電装品としてのリアキャリアユニット13と、モータユニット10と、ハンガーユニット122aと、フロントディレーラ108f及びリアディレーラ108rと、前照灯23と、表示装置18と、右ブレーキレバー16fおよび左ブレーキレバー16rとを備えている。これらの電装品が通信可能な第1電力線70a〜70gおよび第2電力線71により接続されている。図5において第1電力線70a〜70gを実線で示し、第2電力線71は第1電力線70a〜70gを示す線よりも太い線で示す。第1電力線70a〜70g及び第2電力線71は、2本の導線を含んで構成される。2本のうちの一方はグランドラインである。
【0046】
リアキャリアユニット13は、電装システム100の電装品を制御する全体制御部12と、蓄電部14と、尾灯24と、を有している。リアキャリアユニット13はリアキャリア112に装着されている。全体制御部12は、マイクロコンピュータを有するものである。全体制御部12には、電装システム100の電源としての蓄電部14が着脱自在に装着されている。尾灯24は、蓄電部14に一体で取り付けられている。
【0047】
リアキャリアユニット13には、モータユニット10が第2電力線71を介して接続されている。第2電力線71は、たとえば24ボルトの電圧源からの電源電流を流せる電力線である。第1電力線70a〜70gは、たとえば6ボルトの電圧源からの電源電流を流せる電力線である。
【0048】
第1電力線70a〜70g及び第2電力線71には、それぞれの電装品を制御する制御信号が重畳された電源電流が流れている。
【0049】
また、リアキャリアユニット13には、ハンガーユニット122aが第1電力線70aを介して接続されている。ハンガーユニット122aは、前述したようにトルクセンサ17と、角度センサ19と、を有している。ハンガーユニット122aには、前照灯23、フロントディレーラ108f、及びリアディレーラ108rが第1電力線70b、第1電力線70g及び第2電力線70cを介して各別に接続されている。前照灯23は、例えばLED(発光素子)を用いた省電力形のものであり、フロントフォーク103の前面に装着されている。
【0050】
フロントディレーラ108f及びリアディレーラ108rは、フロント変速モータ20f、フロント段数センサ21f及びリア変速モータ20r、フロント段数センサ21f及びリア段数センサ21rを各別に有している。また、フロントディレーラ108f及びリアディレーラ108rは、フロント変速モータ20f及びリア変速モータ20rを制御する図示しないフロント制御部及びリア制御部を各別に有している。このフロント段数センサ21f及びリア段数センサ21rの出力により表示装置18にフロントディレーラ108f及びリアディレーラ108rの段数が各別に表示される。前照灯23には、表示装置18が第2電力線70dを介して接続されている。
【0051】
表示装置18には、右ブレーキレバー16fおよび左ブレーキレバー16rが第1電力線70eおよび第1電力線70fを介して各別に接続されている。
【0052】
図6に示すように、各電装品は、シリアルバス構造で接続されている。これにより、全体制御部12が搭載される電装品(例えば、リアキャリアユニット13)を除いて、いずれの電装品を接続または離脱しても、電装システム100は動作可能である。例えば、図6において、前照灯23を外しても、第1電力線70bを表示装置18に接続することにより、電装システム100は動作する。また、フロントディレーラ108f及びリアディレーラ108rが通常の変速ケーブルで動作する場合は、第1電力線70g及び第1電力線70cを外せばよい。この場合にも、電装システム100は動作する。
【0053】
<全体制御部の機能構成>
図7に示すように、全体制御部12は、ソフトウェアで実現される機能構成として、変速制御部72と、アシスト制御部73と、回生制動制御部(回生制動制御装置の一例)74と、を有している。回生制動制御部74は、第1制御部75と、第2制御部76と、切換制御部77と、モード切換部78と、位置判断部79と、初期位置書換部80と、調整位置書込部81と、を有している。また、全体制御部12には、前述した蓄電部14及びモータユニット10等の電装品に加えて記憶部90が接続されている。記憶部90は、例えば、EEPROM(electrically erasable programmable read only memory)またはフラッシュメモリ等の不揮発メモリ素子で構成されており、最大調整位置記憶部91と、初期位置記憶部92と、固定電流値記憶部93と、可変電流値記憶部94と、を有している。
【0054】
最大調整位置記憶部91には、初期位置調整部50により初期位置が最大限に調整されたときの右ブレーキレバー16fの右移動位置Mfが右最大調整位置MAfとして記憶されている。また最大調整位置記憶部91には、初期位置調整部50により初期位置が最大限に調整されたときの左ブレーキレバー16rの左移動位置Mrが左最大調整位置MArとして記憶されている。この記憶処理は、工場出荷時に行ってもよいし、販売店または乗り手が行ってもよい。
【0055】
初期位置記憶部92には、右ブレーキレバー16fの右初期位置IMfが変更された場合に、後述する回生制動モード処理により変更された右初期位置IMfが記憶される。なお、自転車を購入後の最初の右初期位置IMfは、初期位置調整部50により調整されていない位置であり、右移動位置Mfを数字で表す場合、例えば右初期位置IMfは移動位置「0」に対応する。また初期位置記憶部92には、左ブレーキレバー16rの左初期位置IMrが変更された場合に、後述する回生制動モード処理により変更された左初期位置IMrが記憶される。なお、自転車を購入後の最初の左初期位置IMrは、初期位置調整部50により調整されていない位置であり、左移動位置Mrを数字で表す場合、例えば左初期位置IMrは移動位置「0」に対応する。
【0056】
固定電流値記憶部93には、常時回生モード時に使用する第1回生制動力BF1を発生する固定目標電流値FAMが記憶されている。可変電流値記憶部94には、ブレーキ回生時の右ブレーキレバー16fおよび左ブレーキレバー16rの各レバー部材31のそれぞれの初期位置からの右移動位置Mfと左移動位置Mrとを加算した加算位置M(制動情報の一例)に応じて、徐々に大きくなる第1回生制動力BF1を発生する第1可変目標電流値CAMaが記憶されている。また、常時回生モード時にブレーキ回生モードと同様に加算位置Mに応じて徐々に大きくなる第1回生制動力BF1を発生する第2可変目標電流値CAMbが記憶されている。第1可変目標電流値CAMaおよび第2可変電流目標値CAMbは、たとえば加算位置Mの関数f(M)に基づいて加算位置M毎に算出され、その算出結果が表形式で可変電流値記憶部94に記憶されている。したがって、加算位置Mによりその位置における第1可変目標電流値CAMaおよび第2可変電流目標値CAMbを読み出すことができる。常時回生モードおよびブレーキ回生モードでは、所定のタイミングで加算位置M毎にこれらの目標電流値になるように、回生制動制御部74が、デューティ比を用いてモータ60をフィードバック制御している。
【0057】
図11に示すように、第1可変目標電流値CAMaおよび第2可変目標電流値CAMbは、所定位置PLから上限の最大出力電流Alimまで徐々に大きくなる。ここで初期位置MIから所定位置PLまでの区間Lは、右ブレーキレバー16fまたは左ブレーキレバー16rのレバー部材31の遊びを想定している。上限の最大出力電流Alimは、モータ60の最大許容出力電流値よりも低い電流値である。最大出力電流Alimを発生する上限加算位置Mlimは一定であり、たとえば、フロントブレーキ装置107fおよびリアブレーキ装置107rが制動動作を開始するより僅かに手前の位置に設定されており、言い換えればブレーキシューがリムに接触するより手前に設定されていることが好ましい。
【0058】
第1可変電流目標値CAMaは、「0」から徐々に大きくなる。第2可変電流目標値CAMbは、第2回生制動力BF2に相当する固定目標電流値FAMから徐々に大きくなる。図11に示す第1可変目標電流値CAMaおよび第2可変目標電流値CAMbの曲線は、たとえば加算位置Mの増加に応じて増加割合が小さくなる曲線である。しかし、可変目標電流値の増加の形態は、これに限定されず、加算位置Mの増加に応じて増加割合が大きくなる曲線でもよく、また増加割合が途中で増減する曲線でも良い。また、増加割合が変化しない直線でも良い。
【0059】
また、可変電流値記憶部94に記憶される第1可変目標電流値CAMaおよび第2可変目標電流値CAMbの増加する基点となる所定位置PLは、図12に示すように初期位置IMが変化するとその分シフトする。しかし、最大出力電流Alim、すなわち最大第1制動力を発生する上限加算位置Mlimは、初期位置IMが変化しても変化しない。
【0060】
したがって、初期位置MIが変化すると、第1可変目標電流値CAMaおよび第2可変目標電流値CAMaの増加割合は変化する。このため、右初期位置IMfおよび左初期位置IMrの少なくとも一方が変更される都度、可変電流値記憶部94の記憶内容は更新される。
【0061】
変速制御部72は、左右のシフトアップスイッチ43a及び左右のシフトダウンスイッチ43bの操作に応じてフロントディレーラ108f及びリアディレーラ108rの段数を制御する。アシスト制御部73は、上モード選択スイッチ44c及び下モード選択スイッチ44dで選択されたアシストモードでインバータ61を介してモータ60を制御する。回生制動制御部74は、上モード選択スイッチ44c及び下モード選択スイッチ44dで選択された回生制動モードでインバータ61を介してモータ60を制御する。
【0062】
第1制御部75は、フロントブレーキシステム117fおよびリアブレーキシステム117rが初期状態から制動状態に遷移するとき、徐々に大きくなる第1回生制動力を発生するようにモータ60を制御する。具体的には、第1制御部75は、右ブレーキレバー16fおよび左ブレーキレバー16rのレバー部材31の少なくとも一方が、それぞれの右初期位置IMfまたは左初期位置IMrから移動するとその加算位置Mに応じて徐々に大きくなる第1回生制動力BF1を発生するようにモータ60を制御する。前述したように、図11では、第2制御部76の制御によりモータ60が発生する第2回生制動力BF2は、一定であり、第1制御部75の制御によりモータ60が発生する第2回生制動力BF1は、加算位置Mのたとえば関数f(M)で表され、加算位置Mが大きくなると徐々に大きくなる。切換制御部77は、常時回生モード時において第2制御部76による制御を行っているときに、レバー部材31が初期位置IMから所定位置PLを超えて移動すると、第1制御部75による制御に切り換える。モード切換部78は、常時回生モードとブレーキ回生モードとのいずれかに回生制動モードを切り換えることができる。具体的にはモード切換部78は、上モード選択スイッチ44c及び下モード選択スイッチ44dによって選択された回生制動モードを動作させる。位置判断部79は、レバー部材31の初期位置IMからの移動位置が所定位置PLを超えたか否かを判断する。
【0063】
初期位置書換部80は、初期位置調整部50により右初期位置IMfが変更されたとき、初期位置記憶部92の記憶内容を調整後の移動位置に書き換えてもよい。この場合、初期位置書換部80は、右ブレーキレバー16fのリニアホール素子55により右最大調整位置MAfより小さい移動位置が検出されると、その移動位置を右初期位置IMfとして初期位置記憶部92に記憶し、初期位置を書き換える。また初期位置書換部80は、初期位置調整部50により左初期位置IMrが変更されたとき、初期位置記憶部92の記憶内容を調整後の移動位置に書き換えてもよい。この場合、初期位置書換部80は、左ブレーキレバー16rのリニアホール素子55により左最大調整位置MArより小さい移動位置が検出されると、その移動位置を左初期位置IMrとして初期位置記憶部92に記憶し、初期位置を書き換える。
【0064】
初期位置が変更されると、前述したように、第1可変目標電流値CAMaおよび第2可変目標電流値CAMbが更新される。調整位置書込部81は、例えば、初期位置調整部50で最大限初期位置を調整したときに、各スイッチ44a〜44eのいずれか一つの例えば2秒以上の長押し操作または2つ以上の同時操作等の操作によりその操作が行われたときの右移動位置Mfを右最大調整位置MAfとして最大調整位置記憶部91に記憶させ、前記操作が行われたときの左移動位置Mrを左最大調整位置MArとして最大調整位置記憶部91に記憶させる。
【0065】
<回生制動制御部の制御動作>
次に、回生制動制御部74の制御動作を図8、図9及び図10に示す制御フローチャートに基づいて説明する。なお、制御動作は、図8から図10に示す処理は本発明の制御動作の一例であり、本発明はこれに限定されない。図8から図10に示すフローチャートでは、右ブレーキレバー16fおよび左ブレーキレバー16rの初期位置、移動位置、最大調整位置については左右の文言を省略し、それらの符号に対して左右の別を示すrおよびfを付している。
【0066】
蓄電部14からの電力が全体制御部12に供給されると、全体制御部12が制御動作を開始する。
【0067】
図8のステップS1では、初期設定を行う。初期設定では、各種の変数やフラグがリセットされる。ステップS2では、電源スイッチ44eがオンされるのを待つ。電源スイッチ4eがオンされるとステップS3に移行する。ステップS3では、表示装置18の表示処理を行う。ここでは、表示切換スイッチ44bの操作に応じて図3に示すアシスト画面と図4に示すサイクルコンピュータ画面とのいずれかを表示する。また、各種の表示処理を行う。ステップS4では、スイッチ入力がなされたか否を判断する。ステップS5では、アシストモードを実行するか否かを判断する。ステップS6では、初期位置が変更され初期位置書込処理を行うか否かを判断する。ステップS7では、回生制動処理を行うか否かを判断し、ステップS2に移行する。
【0068】
スイッチ入力がなされたと判断すると、ステップS4からステップS8に移行する。ステップS8では、スイッチ入力処理を行い、ステップS5に移行する。スイッチ入力処理では、操作されたスイッチに応じた処理を行う。例えば、図3に示すアシスト画面では、上モード選択スイッチ44cを操作すると、画面右側に表示された3つのアシストモード及び2つの回生制動モードと、アシスト回生オフとのいずれかに表示されたカーソルが押圧操作の都度下方に一つずつ移動する。また、下モード選択スイッチ44dを操作すると、カーソルが押圧操作の都度上方に一つずつ移動する。カーソル移動後に所定時間(例えば、2秒から5秒)が経過すると、選択されたアシストモード及び回生制動モードが設定され、設定されたアシストモード及び回生制動モードにカーソルが固定される。
【0069】
アシストモードを実行すると判断すると、ステップS5からステップS9に移行する。ステップS9では、スイッチ入力処理により選択されたアシストモードでアシスト処理を行い、ステップS6に移行する。アシストモードでは、選択された「強」、「中」、「弱」のいずれかのアシストモードによるアシスト力をモータ60が発生し、乗り手の人力による駆動を補助する。
【0070】
初期位置書換処理を行うと判断すると、ステップS6からステップS10に移行する。ステップS10では、図9に示す初期位置書込処理を実行し、ステップS7に移行する。
【0071】
回生制動処理を行うと判断すると、ステップS7からステップS11に移行する。ステップS11では、図10示す回生制動モード処理に実行し、ステップS2に移行する。
【0072】
ステップS10の初期位置書込処理では、図9のステップS20で速度センサ62からの出力により自転車の速度が「0」か否かを判断する。速度が「0」ではない場合は図8に示すメインルーチンに戻る。速度が「0」の場合は、ステップS21に移行する。
【0073】
ステップS21では、初期位置調整部50により最大調整位置に右ブレーキレバー16fおよび左ブレーキレバー16rの少なくともいずれか一方のレバー部材31が調整され、その最大調整位置を書き込むための操作が行われたか否かを判断する。この判断は、例えば、ライトスイッチ44aと表示切換スイッチ44bの同時操作により判断する。この判断が「YES」の場合はステップS12に移行する。
【0074】
ステップS22では、そのときの右ブレーキレバー16fのリニアホール素子55が検出したレバー部材31の左移動位置Mfを右最大調整位置MAfとして最大調整位置記憶部91に書き込み、またそのときの左ブレーキレバー16rのリニアホール素子55が検出したレバー部材31の左移動位置Mrを左最大調整位置MArとして最大調整位置記憶部91に書き込み、ステップS23に移行する。
【0075】
ステップS23では、右ブレーキレバー16fおよび左ブレーキレバー16rの少なくともいずれか一方のレバー部材31が移動したか否かを判断する。ステップS23で移動していないと判断した場合は図8に示すメインルーチンに戻る。ステップS23で移動していると判断した場合は、ステップS24に移行する。
【0076】
ステップS24では、ステップS23で右ブレーキレバー16fのレバー部材31が移動したと判断した場合には、右ブレーキレバー16fのリニアホール素子55から右移動位置Mfを読み込み、ステップS25に移行する。またステップS24では、ステップS23で左ブレーキレバー16rのレバー部材31が移動した場合には、左ブレーキレバー16fのリニアホール素子55から左移動位置Mrを読み込み、ステップS25に移行する。またステップS24では、ステップS23で右ブレーキレバー16fおよび左ブレーキレバー16rのレバー部材31が移動したと判断した場合には、右ブレーキレバー16fおよび左ブレーキレバー16rのリニアホール素子55から右移動位置Mfおよび左移動位置Mrをそれぞれ取り込み、ステップS25に移行する。
【0077】
ステップS24では、ステップS23で右ブレーキレバー16fおよび左ブレーキレバー16rのいずれか一方のレバー部材31が移動したと判断した場合に、右ブレーキレバー16fおよび左ブレーキレバー16rのリニアホール素子55から右移動位置Mfおよび左移動位置Mrをそれぞれ取り込み、ステップS25に移行してもよい。
ステップS25では、ステップS24で右移動位置Mfを読み込んだ場合には、最大調整位置記憶部91から右最大調整位置MAfを読み込み、ステップS24で左移動位置Mrを取り込んだ場合には、最大調整位置記憶部91から左最大調整位置MArを読み込み、ステップS26に移行する。
【0078】
ステップS26では、ステップS25で右移動位置Mfを読み込んだ場合には、読み込んだ右移動位置Mfが右最大値調整位置MAfより小さいか否か、つまり、右ブレーキレバー16fの初期位置調整部50による初期位置の調整操作であるのか否かを判断する。またステップS26では、ステップS25で左移動位置Mrを読み込んだ場合には、読み込んだ左移動位置Mrが左最大調整位置MArより小さいか否か、つまり、左ブレーキレバー16rの初期位置調整部50による初期位置の調整操作であるのか否かを判断する。
【0079】
ステップS26において、右移動位置Mfが最大調整位置MAfより小さく、初期位置の調整操作であると判断した場合、または左移動位置Mrが最大調整位置MArより小さく、初期位置の調整操作であると判断した場合は、ステップS26からステップS27に移行する。
【0080】
ステップS27では、所定時間(たとえば、2秒)以上レバー部材31が停止しているか否かを判断する。これは調整途中の移動位置をキャンセルするための処理である。所定時間レバー部材31が停止していない場合は、メインルーチンに戻り、所定時間以上レバー部材31が停止していると、ステップS27からステップS28に移行する。
【0081】
ステップS28では、ステップS24で右移動位置Mfを読み込んだ場合、その右移動位置Mfを初期位置記憶部92に右初期位置IMfとして記憶する。またステップS28では、ステップS24で左移動位置Mrを読み込んだ場合、そのステップS24で読み込んだ左移動位置Mrを初期位置記憶部92に左初期位置IMrとして記憶する。これにより、ブレーキ回生モードにおいて、右ブレーキレバー16fのレバー部材31の右初期位置IMfおよび左ブレーキレバー16rのレバー部材31の左初期位置IMrの少なくともいずれか一方が変更される。ステップS28が終了すると、ステップS29に移る。
【0082】
ステップS29では、第1可変目標電流値CAMaおよび第2可変目標電流CAMbの関数f(M)を図12に示すように、初期位置だけを変更し、上限加算位置Mlimは変更しないように更新する。図12では、第1可変目標電流値CAMaおよび第2可変目標電流CAMbの関数f(M)が、横軸方向だけを圧縮したような関数に更新されている。
【0083】
前述したステップS26において、右移動位置Mfが右最大調整位置MAよりも大きく、または左移動位置Mrが左最大調整位置MArよりも大きいと判断した場合は、図8に示すメインルーチンに戻る。右移動位置Mfが右最大調整位置MAよりも大きい場合、または左移動位置Mrが左最大調整位置MArよりも大きいと判断した場合は、通常の制動操作であると判断できる。
【0084】
ステップS11の回生制動モード処理では、図10のステップS31で出力電流検出部61aからのモータ60の出力電流Aを取り込み、ステップS31からステップS32に移行する。ステップS32では、制動モードが常時回生モードか、否かを判断する。常時回生モードの場合はステップS32からステップS33に移行する。
【0085】
ステップS33では、右ブレーキセンサ53fおよび左ブレーキセンサ53rのリニアホール素子55から右移動位置Mfおよび左移動位置Mrをそれぞれ取り込む。ステップS34では、読み込んだ右移動位置Mfおよび左移動位置Mrを加算して加算位置Mを算出する。
【0086】
ステップS35では、右移動位置Mfおよび左移動位置Mrのいずれかが所定位置PLを超えたか否か、すなわち、右ブレーキレバー16fおよび左ブレーキレバー16rの少なくともいずれか一方が遊びを超えて操作されか否かを判断する。ステップS36における判断が「NO」の場合、すなわち操作されたレバー部材31の右移動位置Mfまたは左移動位置Mrのいずれかが所定位置PLを超えていないと判断すると、ステップS36に移行する。
【0087】
ステップS36では、出力電流Aが、目標固定電流値FAMとなるようにモータ60をフィードバック制御し、メインルーチンに戻る。
【0088】
ステップS35において、操作されたレバー部材31の右移動位置Mfまたは左移動位置Mrのいずれかが所定位置PLを超えたと判断すると、ステップS37に移行する。ステップS37では、加算位置Mが上限加算位置Mlim以下のときには、出力電流Aが、加算位置Mにおける第2可変目標電流値CAMbとなるようにモータ60をフィードバック制御し、また加算位置Mが上限加算位置Mlimを越えると、出力電流Aが、最大出力電流Alimとなるように、モータ60をフィードバック制御して、メインルーチンに戻る。
【0089】
なお、ステップS35では、加算位置Mが所定位置PLを超えたか否かを判断しても良く、この場合には、加算位置Mが所定位置PLを越えたと判断した場合には、ステップS36に移行し、加算位置Mが所定位置PLを越えていないと判断した場合には、ステップS37に移行する。
【0090】
制動モードが常時制動モードではなくブレーキ回生モードであると判断すると、ステップS32からステップS40に移行する。ステップS40では、ステップS33と同様に右移動位置Mfおよび左移動位置Mrを取り込み、ステップS41に移行する。ステップS41では、ステップS35と同様に、加算位置Mを算出して、ステップS42に移行する。
【0091】
ステップS42では、ステップS35と同様に、右移動位置Mfおよび左移動位置Mrのいずれかが所定位置PLを超えたか否か、すなわち、右ブレーキレバー16fおよび左ブレーキレバー16rの少なくともいずれか一方が遊びを超えて操作されか否かを判断する。ステップS42において、右移動位置Mfおよび左移動位置Mrのいずれかが所定位置PLを超えていない場合は、回生制動を行わずにメインルーチンに戻る。ステップS42において、右移動位置Mfおよび左移動位置Mrのいずれかが所定位置PLを超えた場合は、ステップS43に移行する。ステップS43では、加算位置Mが上限加算位置Mlim以下のときには、出力電流Aが加算位置Mにおける第1可変目標電流値CAMaとなるようにモータ60をフィードバック制御し、また加算位置Mが上限加算位置Mlimを越えると、出力電流Aが、最大出力電流Alimとなるように、モータ60をフィードバック制御して、メインルーチンに戻る。
【0092】
これにより、常時回生モードのときには、図11に太線で示すように、レバー部材31が初期位置IMから所定位置PLを越えて操作されるまでは、常時一定の第2回生制動力BF2で回生制動される。そして、レバー部材31が所定位置PLを超えると、加算位置Mに応じて第2回生制動力BF2から徐々に大きくなる第1回生制動力BF1で回生制動される。
【0093】
一方、ブレーキ回生モードのときは、第1回生制動力BF1は、「0」から徐々に増加する。
【0094】
ここでは、フロントブレーキシステム117fおよびリアブレーキシステム117rが変位すると、右移動位置Mfおよび左移動位置Mrにより得られる制動情報である加算位置Mに応じた第1回生制動力BF1により回生制動がなされる。このため、二つの機械式のブレーキシステムの変位に応じて第1回生制動力を変化させることができ、回生制動と機械制動との間で違和感が生じにくくなる。
【0095】
<他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0096】
(a)前記実施形態では、可変目標電流値の曲線は加算位置Mの増加に応じて増加割合が小さくなる曲線である。しかし、可変目標電流値の増加の形態は、前記実施形態に限定されず、加算位置Mの増加に応じて増加割合が大きくなる曲線でもよく、また増加割合が途中で増減する曲線でも良い。また、増加割合が変化しない直線でもよい。可変目標電流値は、加算位置Mの増加に応じて階段状に増加するように設定されてもよい。
【0097】
(b)前記実施形態では、ブレーキレバーとブレーキケーブルにより連結されたブレーキ装置を有するブレーキ機構を開示したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、ブレーキレバーと油圧配管により連結されたブレーキ装置を有するブレーキ機構にも本発明を適用できる。油圧配管を用いる場合、油の圧力を検出して、この圧力に応じて回生制御を行ってもよい。また前記実施形態では、ブレーキレバーのレバー部の移動位置に応じて回生制御を行っているが、ブレーキ装置のブレーキシューの移動位置に応じて回生制御を行ってもよく、ブレーキケーブルの一部分の移動位置に応じて回生制御を行ってもよい。
【0098】
(c)前記実施形態では、フロントブレーキシステム117fおよびリアブレーキシステム117rのレバー部材31の右移動位置Mfおよび左移動位置Mrの加算位置Mを制動情報とし、加算位置Mにより、第1回生制動力を設定したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、右移動位置Mfと左移動位置Mrとに異なる重み付けを行い、重み付けを考慮した制動情報で第1回生制動力を設定しても良い。たとえば、右移動位置Mfと左移動位置Mrとに重み付けを行って、加算したものを制動情報とする。この右移動位置Mfと左移動位置Mrとの重み付けは、たとえばスイッチ44a〜44eを用いて、変更可能な構成としてもよい。
【0099】
(d)前記実施形態では、前輪106fにモータユニット10を設けたアシスト自転車を例に本発明を説明したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、後輪106r又はハンガー部122にモータユニットを設けたアシスト自転車にも本発明を適用できる。
【0100】
(e)前記実施形態では、レバー部材の移動位置を検出しているが、本発明はこれに限定されない。たとえば、リムブレーキシステムのブレーキシューの移動位置、ハブブレーキシステムのブレーキパッドやブレーキシューの移動位置等に応じて第1回生制動力を変化させても良い。
【0101】
(f)前記実施形態では、アシスト自転車は外装変速機を有する構成であるが、内装変速機を有する構成であってもよく、変速機を備えない構成であってもよく、本システムはあらゆるアシスト自転車に適用することができる。
【0102】
(g)前記実施形態では、右初期位置IMfおよび左初期位置IMrの書換をキー入力操作により行っているが、本発明はこれに限定されない。初期位置書換部80は、電源が投入されたとき、初期位置記憶部92の記憶内容を現在の位置に書き換えてもよい。具体的には、初期位置書換部80は、電源が投入されたとき、右ブレーキレバー16fのリニアホール素子55によって検出される位置が右最大調整位置MAfよりも小さい場合、その位置を右初期位置IMfとして初期位置記憶部92に記憶し、初期位置を書き換える。また初期位置書換部80は、電源が投入されたとき、左ブレーキレバー16rのリニアホール素子55によって検出される位置が左最大調整位置MArよりも小さい場合、その位置を左初期位置IMrとして初期位置記憶部92に記憶し、初期位置を書き換える。これにより、初期位置の書換を自動的に行える。
【0103】
(h)前記実施形態では、全体制御部12が回生制動制御部74として機能しているが、モータユニットにモータを制御するモータ制御部を設けて、このモータ制御部と、全体制御部12とが共同して、回生制動制御部74の機能を実現する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0104】
12 全体制御部
16f 右ブレーキレバー
16r 左ブレーキレバー
31 レバー部材
50 初期位置調整部
53f 右ブレーキセンサ(第1変位量検出部の一例)
53r 左ブレーキセンサ(第2変位量検出部の一例)
60 モータ
74 回生制動制御部(回生制動制御装置の一例)
75 第1制御部
76 第2制御部
77 切換制御部
78 モード切換部
79 位置判断部
80 初期位置書換部
81 調整位置書込部
93 固定電流値記憶部
94 可変電流値記憶部
117f フロントブレーキシステム
117r リアブレーキシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車に装着可能な第1ブレーキシステムと第2ブレーキシステムの変位に関連してモータを制御する自転車用回生制動制御装置であって、
前記第1ブレーキシステムの第1変位量を検出する第1変位量検出部と、
前記第2ブレーキシステムの第2変位量を検出する第2変位量検出部と、
前記第1ブレーキシステムおよび前記第2ブレーキシステムが変位すると、前記第1変位量と前記第2変位量とにより得られた制動情報に応じた第1回生制動力を発生するように前記モータ制御する第1制御部と、
を備えた自転車用回生制動制御装置。
【請求項2】
前記制動情報は、前記第1変位量と前記第2変位量とを加算して得られる、請求項1に記載の自転車用回転制動制御装置。
【請求項3】
前記第1制御部は、前記第1変位量および第2変位量の増加に応じて、徐々に増加する前記第1回生制動力を発生するように前記モータを制御する、請求項1または2に記載の自転車用回生制動制御装置。
【請求項4】
前記第1ブレーキシステムおよび前記第2ブレーキシステムが変位していないとき、一定の第2回生制動力を発生するように前記モータを制御する第2制御部をさらに備える、請求項1から3のいずれか1項に記載の自転車用回生制動制御装置。
【請求項5】
前記第2制御部による制御を行っているときに、前記第1ブレーキシステムおよび前記第2ブレーキシステムの少なくともいずれかが変位した場合、前記第1制御部による制御に切り換える切換制御部をさらに備える、請求項4に記載の自転車用回生制動制御装置。
【請求項6】
前記切換制御部により前記第2制御部による制御から前記第1制御部による制御に切り換えられた場合、前記第1制御部は、前記制動情報に応じて前記第2回生制動力以上となる前記第1回生制動力を発生させる、請求項5に記載の自転車用回生制動制御装置。
【請求項7】
前記第1ブレーキシステムおよび前記第2ブレーキシステムの少なくともいずれかが変位した場合、前記切換制御部により前記第2制御部による制御から前記第1制御部による制御に切り換わる第1制動モードと、前記第1ブレーキシステムおよび前記第2ブレーキシステムの少なくともいずれかが変位すると、前記第1制御部による制御を行う第2制動モードとに切り換えるモード切換部をさらに備える、請求項5または6に記載の自転車用回生制動制御装置。
【請求項8】
前記第1制御部は、前記第1変位量および前記第2変位量の増加に応じて増加する前記モータの出力電流に基づいて前記第1回生制動力を制御する、請求項1から7のいずれか1項に記載の自転車用回生制動制御装置。
【請求項9】
前記第1制御部は、予め設定された最大出力電流に基づいて前記第1回生制動力の上限を設定する、請求項8に記載の自転車用回生制動制御装置。
【請求項10】
第1ブレーキシステムおよび第2ブレーキシステムは、ブレーキレバー、ブレーキワイヤ、キャリパーブレーキ、カンチブレーキ、油圧ブレーキ、ブレーキシュー、ブレーキパッド、ローラブレーキの少なくともいずれか1つをそれぞれ含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の自転車用回生制動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−50304(P2012−50304A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192663(P2010−192663)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】