説明

船外機用4サイクルエンジン

【課題】クランク室からオイルパンへの潤滑油の流入が円滑になされるようにして、クランク軸に対する潤滑油の連れ回りを防止し、もって、所望のエンジン出力が得られるようにする。
【解決手段】船外機5用の4サイクルエンジン11は、軸心19が縦方向に延びるクランク軸20を支持するクランクケース18と、このクランクケース18の下方に配置されるオイルパン48とを備える。クランク室17の内底部からオイルパン48内に潤滑油46を戻すクランク室オイル戻り通路55と、カム室38の内底部からオイルパン48に潤滑油46を戻すカム室オイル戻り通路56とが形成される。クランク室オイル戻り通路55とカム室オイル戻り通路56とは別に、クランク室17、カム室38、およびオイルパン48内を互いに連通させるガス通路59が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルパンへの各オイル戻り通路とは別に、クランク室、カム室、およびオイルパン内を互いに連通させるブローバイガス用のガス通路を形成した船外機用4サイクルエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記船外機用4サイクルエンジンには、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、上記エンジンは、クランクケースと、縦方向に延びる軸心回りに回転可能となるよう上記クランクケースに支持されるクランク軸と、上記クランクケースから突出するシリンダと、上記クランクケースの下方に配置されるオイルパンとを備えている。
【0003】
また、上記構成における各被潤滑部を潤滑油により潤滑する潤滑装置として、上記クランクケース内のクランク室の内底部から上記オイルパン内に潤滑油を戻すクランク室オイル戻り通路と、上記シリンダの突出端部内のカム室の内底部から上記オイルパンに潤滑油を戻すカム室オイル戻り通路と、上記オイルパン内と上記カム室とを互いに連通させるブローバイガス用のガス通路とが形成されている。
【0004】
上記エンジンの駆動時には、上記オイルパン内の潤滑油がオイルポンプにより各被潤滑部に供給されて、それぞれ潤滑がなされる。この潤滑後に、上記クランク室やカム室に集められて溜まろうとする潤滑油は、上記クランク室オイル戻り通路とカム室オイル戻り通路とを通って上記オイルパン内に戻され、ここから、再び上記各被潤滑部に供給される。
【0005】
一方、エンジンの駆動に伴い、燃焼室から上記クランク室に漏出したブローバイガスは、その圧力により上記クランク室オイル戻り通路を上記潤滑油と共に通ってオイルパン内に流入する。次に、このオイルパン内に流入したブローバイガスは上記ガス通路を通って上記カム室に流入し、次に、吸気系に吸入された後、燃焼させられるようになっている。
【0006】
ここで、上記したように、カム室に溜まろうとする潤滑油は、上記カム室オイル戻り通路を通ってオイルパン内に戻される。一方、このオイルパン内のブローバイガスは、上記したカム室オイル戻り通路とは別に形成された上記ガス通路を通ってカム室に流入させられる。このため、上記カム室からオイルパンに戻される潤滑油と、これとは逆に、オイルパンからカム室に向かわされるブローバイガスとが互いに干渉し合うということは防止される。よって、上記カム室の潤滑油は円滑に上記オイルパン内に戻され、このため、上記ブローバイガスによる干渉によってカム室に潤滑油が無用に多量に溜まる、ということは防止される。
【特許文献1】特開平11−301592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、エンジンの駆動状態によっては、上記クランク室のブローバイガスの圧力よりもオイルパン内のそれが高くなることが有る。この場合、このオイルパン内のブローバイガスは上記クランク室オイル戻り通路を通って上記クランク室に逆流しようとする。すると、この逆流するブローバイガスは、上記クランク室から上記したクランク室オイル戻り通路を通ってオイルパン内に流入しようとする潤滑油に干渉する。つまり、上記ブローバイガスは、上記クランク室からオイルパン内への潤滑油の流入を阻害する。
【0008】
この結果、上記クランク室に潤滑油が多量に溜まりがちとなる。そして、この場合には、上記クランク室において、クランク軸の回転に多量の潤滑油が連れ回りすることとなって、エンジン出力が無用に低下するおそれを生じる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、クランク室からオイルパンへの潤滑油の流入が円滑になされるようにして、クランク軸に対する潤滑油の連れ回りを防止し、もって、所望のエンジン出力が得られるようにすることである。
【0010】
また、本発明の他の目的は、上記した所望のエンジン出力が簡単な構成で得られるようにすることである。
【0011】
請求項1の発明は、軸心19が縦方向に延びるクランク軸20を支持するクランクケース18と、このクランクケース18の下方に配置されるオイルパン48とを備え、クランク室17の内底部から上記オイルパン48内に潤滑油46を戻すクランク室オイル戻り通路55と、カム室38の内底部から上記オイルパン48に潤滑油46を戻すカム室オイル戻り通路56とを形成した船外機用4サイクルエンジンにおいて、
上記クランク室オイル戻り通路55とカム室オイル戻り通路56とは別に、上記クランク室17、カム室38、および上記オイルパン48内を互いに連通させるガス通路59を形成したものである。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明に加えて、上記クランク室17とカム室38との各上部に上記ガス通路59の各端部を連結したものである。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1、もしくは2の発明に加えて、上記ガス通路59を、上記クランク室17とカム室38とを互いに連通させる第1ガス通路60と、上記クランク室17とカム室38とのうち、いずれか一方の室をオイルパン48内に連通させる第2ガス通路61とにより形成したものである。
【0014】
請求項4の発明は、請求項3の発明に加えて、上記第1ガス通路60の中途部を上記第2ガス通路61により上記オイルパン48内に連通させたものである。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1から4のうちいずれか1つの発明に加えて、上記エンジン11をV型エンジンとし、上記ガス通路59を上記エンジン11の各バンク21,22毎に互いに独立して設けたものである。
【0016】
請求項6の発明は、請求項3、もしくは4の発明に加えて、上記エンジン11をV型エンジンとし、上記ガス通路59の一部を、上記エンジン11の各バンク21,22のカム室38を互いに連通させる第3ガス通路76により形成したものである。
【0017】
請求項7の発明は、請求項1から6のうちいずれか1つの発明に加えて、上記ガス通路59の少なくとも一部分を、エンジン本体16の外部に設けられるパイプ材63により形成したものである。
【0018】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0019】
本発明による効果は、次の如くである。
【0020】
請求項1の発明は、軸心が縦方向に延びるクランク軸を支持するクランクケースと、このクランクケースの下方に配置されるオイルパンとを備え、クランク室の内底部から上記オイルパン内に潤滑油を戻すクランク室オイル戻り通路と、カム室の内底部から上記オイルパンに潤滑油を戻すカム室オイル戻り通路とを形成した船外機用4サイクルエンジンにおいて、
上記クランク室オイル戻り通路とカム室オイル戻り通路とは別に、上記クランク室、カム室、および上記オイルパン内を互いに連通させるガス通路を形成している。
【0021】
このため、上記クランク室やカム室に集められて溜まろうとする潤滑油は、上記クランク室オイル戻り通路とカム室オイル戻り通路とを通って上記オイルパン内に戻される。
【0022】
一方、エンジンの駆動に伴い、上記クランク室に漏出したブローバイガスは、その圧力により上記ガス通路を通って、上記カム室とオイルパン内とに流入させられ、上記カム室に流入させられたブローバイガスは、エンジンの吸気系に吸入された後、燃焼させられるなど処理される。また、上記オイルパン内に流入させられたブローバイガスは、その後、上記ガス通路を通って、上記カム室に流入させられ、上記のように処理される。また、上記エンジンの駆動状態によって、上記オイルパン内のブローバイガスが上記クランク室に向かい流動しようとするとき、上記ブローバイガスは上記ガス通路を通って流動する。
【0023】
よって、上記クランク室やカム室から上記クランク室オイル戻り通路とカム室オイル戻り通路とを通ってオイルパン内に流入する潤滑油と、上記クランク室、カム室、およびオイルパン内の間で流動するブローバイガスとが互いに干渉し合うということは、このブローバイガスが上記ガス通路を流動することにより防止され、上記クランク室やカム室の潤滑油は、上記オイルパン内に円滑に流入させられる。
【0024】
この結果、上記クランク室に潤滑油が多量に溜まるということが防止されて、クランク軸に対する潤滑油の連れ回りが防止され、もって、所望のエンジン出力が得られる。
【0025】
請求項2の発明は、上記クランク室とカム室との各上部に上記ガス通路の各端部を連結している。
【0026】
このため、上記クランク室とカム室とにおける潤滑油は、上記クランク室とカム室との各内底部に溜まりがちになる一方、上記クランク室やカム室から上記ガス通路に流入しようとするブローバイガスは、上記クランク室やカム室の上部を流動する。よって、上記潤滑油とブローバイガスとが互いに干渉することは、より確実に抑制されて、上記クランク室やカム室の潤滑油は、上記オイルパンに、より確実に円滑に流入させられる。
【0027】
請求項3の発明は、上記ガス通路を、上記クランク室とカム室とを互いに連通させる第1ガス通路と、上記クランク室とカム室とのうち、いずれか一方の室をオイルパン内に連通させる第2ガス通路とにより形成している。
【0028】
このため、上記第1ガス通路を形成することに加えて、クランク室とカム室とをオイルパン内に連通させるガス通路をそれぞれ形成することに比べて、ガス通路の全長が短くて足りる。よって、前記した所望のエンジン出力は、簡単な構成で得られる。
【0029】
請求項4の発明は、上記第1ガス通路の中途部を上記第2ガス通路により上記オイルパン内に連通させている。
【0030】
このため、上記クランク室とカム室とに対し上記第2ガス通路の端部を連結させるための連結部は設けないで足りる。よって、前記した所望のエンジン出力は、簡単な構成で得られる。
【0031】
請求項5の発明は、上記エンジンをV型エンジンとし、上記ガス通路を上記エンジンの各バンク毎に互いに独立して設けている。
【0032】
ここで、上記エンジンの駆動による船の推進時に、この船が姿勢変化したり、加速度が変化したりした場合には、上記オイルパン内の潤滑油の油面が傾いたり波打ったりして、この潤滑油により上記オイルパン内への上記ガス通路の開口が塞がれるおそれを生じる。
【0033】
しかし、上記したように、ガス通路は各バンク毎に設けられていて、上記オイルパン内へのガス通路の開口は複数形成されている。このため、これら開口が上記潤滑油により同時に塞がれるということは抑制されて、いずれかのガス通路を通してブローバイガスが流動可能とされる。よって、このブローバイガスが上記クランク室オイル戻り通路とカム室オイル戻り通路とにおける潤滑油の流動に干渉する、ということは防止される。
【0034】
請求項6の発明は、上記エンジンをV型エンジンとし、上記ガス通路の一部を、上記エンジンの各バンクのカム室を互いに連通させる第3ガス通路により形成している。
【0035】
このため、上記クランク室と各バンクのカム室とをそれぞれ第1ガス通路で連通させなくても、単一の第1ガス通路と上記第3ガス通路とにより、上記クランク室と各バンクのカム室とを互いに連通させることができる。
【0036】
ここで、上記V型エンジンにおける各バンクのカム室は、通常、互いに接近している。このため、上記した各バンクのカム室を連通させる第3ガス通路は上記第1ガス通路よりも短くて足りる。よって、上記第3ガス通路を形成してやれば、クランク室と各バンクのカム室とをそれぞれ第1ガス通路で連通させる、ということに比べて、ガス通路は短くできる。よって、前記した所望のエンジン出力は、簡単な構成で得られる。
【0037】
請求項7の発明は、上記ガス通路の少なくとも一部分を、エンジン本体の外部に設けられるパイプ材により形成している。
【0038】
ここで、上記エンジン本体には,一般に、潤滑装置の油通路や冷却水通路が複雑に形成される。このため、上記したように、ガス通路のためにパイプ材を適用すると、その分、上記ガス通路を上記エンジン本体に形成しないで足り、エンジンの構成が、より複雑になることを防止できる。よって、前記した所望のエンジン出力は、簡単な構成で得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明の船外機用4サイクルエンジンに関し、クランク室からオイルパンへの潤滑油の流入が円滑になされるようにして、クランク軸に対する潤滑油の連れ回りを防止し、もって、所望のエンジン出力が得られるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための最良の形態は、次の如くである。
【0040】
即ち、船外機用4サイクルエンジンは、軸心が縦方向に延びるクランク軸を支持するクランクケースと、このクランクケースの下方に配置されるオイルパンとを備えている。クランク室の内底部から上記オイルパン内に潤滑油を戻すクランク室オイル戻り通路と、カム室の内底部から上記オイルパンに潤滑油を戻すカム室オイル戻り通路とが形成されている。上記クランク室オイル戻り通路とカム室オイル戻り通路とは別に、上記クランク室、カム室、および上記オイルパン内を互いに連通させるガス通路が形成されている。
【実施例1】
【0041】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例1を添付の図1−4に従って説明する。
【0042】
図2において、符号1は水2の表面に浮かべられる船である。また、矢印Frは、この船1の推進方向の前方を示している。
【0043】
上記船1は、船体3と、この船体3の船尾4に支持される船外機5とを備えている。この船外機5は、上記船体3の後方に配置され、推進力を生じて上記船体3を推進可能とさせる船外機本体6と、この船外機本体6を船尾4に対し、着脱可能に支持させるブラケット7とを備えている。
【0044】
上記船外機本体6は、縦方向に延びて、その上部が上記ブラケット7により船尾4に支持され、下部が水2に没入されるケース9と、このケース9の下端部に支持されるプロペラ10と、上記ケース9の上端部に支持されるエンジン11と、上記ケース9内に収容され、上記エンジン11に上記プロペラ10を連動連結させる動力伝達機構12と、上記エンジン11をその外方から開閉可能に覆うカウリング13とを備えている。
【0045】
図1−3において、上記エンジン11は4サイクルV型多気筒内燃機関であって、上記ケース9の上面側に支持されるエンジン本体16を備えている。このエンジン本体16は、上記ケース9の上面側に支持され、内部がクランク室17とされるクランクケース18と、縦方向に延びる軸心19回りに回転可能となるよう上記クランクケース18に支持されるクランク軸20と、このクランク軸20から後方に向かって、平面視(図3)でV型に突出する左右バンク21,22とを備えている。
【0046】
上記各バンク21,22は、それぞれ上記クランクケース18から後方に突出するシリンダブロック25と、このシリンダブロック25の突出端に取り付けられるシリンダヘッド26と、このシリンダヘッド26の外面側に取り付けられるシリンダヘッドカバー27と、上記シリンダブロック25に形成された複数(4つ)のシリンダ孔28にそれぞれ軸方向摺動可能に嵌入されるピストン29と、上記クランク軸20と各ピストン29とを互いに連動連結させる連接棒30とを備えている。上記各シリンダ孔28内で、上記シリンダヘッド26と上死点近傍のピストン29とで挟まれた空間が燃焼室31とされている。
【0047】
上記シリンダヘッド26には、上記燃焼室31とシリンダヘッド26の外部とを互いに連通させる吸、排気ポート33,34が形成され、これらを開閉可能とする吸、排気弁35,36が設けられている。また、上記クランク軸20に連動して上記吸、排気弁35,36を開、閉弁動作させる動弁装置37が設けられている。上記吸気ポート33は、エンジン11の吸気系の一部を構成している。
【0048】
上記動弁装置37は、上記シリンダヘッド26とシリンダヘッドカバー27との間に形成されたカム室38に配置される吸、排気カム軸39,40を備えている。これら吸、排気カム軸39,40は、上記クランク軸20の軸心19と平行な軸心回りに回動可能となるよう上記シリンダヘッド26に支持され、上記吸、排気弁35,36にカム係合している。上記吸、排気カム軸39,40は上記クランク軸20に連動して、上記吸、排気弁35,36を適宜開、閉弁動作させる。
【0049】
上記エンジン11の各被潤滑部、例えば、上記クランク軸20、各カム軸39,40の軸受部や吸、排気弁35,36と各カム軸39,40とのカム係合部などを潤滑油46により潤滑させる潤滑装置47が設けられている。この潤滑装置47は、上記ケース9の上部の内部に収容され、上記エンジン本体16の下方に位置して上記潤滑油46を溜めるオイルパン48と、上記動力伝達機構12に連動連結されて、上記オイルパン48内の潤滑油46を吸入パイプ49を通し吸入する一方、この潤滑油46を吐出して上記各被潤滑部に供給するオイルポンプ50と、上記クランクケース18の上端部に取り付けられるオイル注入部51と、このオイル注入部51の開口を開閉可能に閉じるキャップ52とを備えている。
【0050】
上記被潤滑部の潤滑後の潤滑油46を、上記クランク室17の内底部から上記オイルパン48に戻すよう自然流入させるクランク室オイル戻り通路55が上記エンジン本体16のクランクケース18に形成されている。また、上記潤滑後の潤滑油46を、上記カム室38の内底部から上記オイルパン48に戻すよう自然流入させるカム室オイル戻り通路56が上記エンジン本体16のバンク21,22に形成されている。
【0051】
上記クランク室オイル戻り通路55とカム室オイル戻り通路56とは別に、上記クランク室17、カム室38、およびオイルパン48内を互いに連通させるブローバイガス58用のガス通路59が形成されている。具体的には、上記ガス通路59は、各端部が上記クランク室17の上部とカム室38の上部とにそれぞれ連結されてこれらクランク室17とカム室38とを互いに連通させる第1ガス通路60と、この第1ガス通路60の長手方向の中途部を上記オイルパン48内に連通させる第2ガス通路61とにより形成されている。この場合、上記第1ガス通路60におけるその端部から上記中途部に至る部分は、上記第2ガス通路61が上記クランク室17やカム室38に向かう部分を兼用している。
【0052】
上記エンジン11の吸気系である上記吸気ポート33側に上記カム室38を連通させる不図示の他のガス通路が形成されている。このカム室38内のブローバイガス58は、上記他のガス通路を通し上記吸気系に吸入された後、燃焼室31で混合気と共に燃焼処理されて、エンジン11の外部に排出される。
【0053】
上記ガス通路59は、少なくとも一部分がエンジン本体16の外部に設けられる金属製のパイプ材63により形成されている。具体的には、上記第1ガス通路60は、その全体がパイプ材63により形成されている。また、上記第2ガス通路61は、その一部分61aが上記パイプ材63により形成され、他部分61bは上記エンジン本体16のクランクケース18に形成された通路孔64により形成されている。なお、上記パイプ材63は樹脂パイプやゴムホースであってもよい。
【0054】
上記ガス通路59の第1ガス通路60と第2ガス通路61とは、上記エンジン11の各バンク21,22毎に互いに独立して設けられている。上記各ガス通路59は、エンジン11の左右各外側面がわに設けられている。これら左右ガス通路59のうち、左側のガス通路59の第1ガス通路60の前端部は、上記オイル注入部51に連結され、このオイル注入部51内を通して上記クランク室17に連通させられている。
【0055】
なお、図1中二点鎖線で示すように、第2ガス通路61により、クランク室17とカム室38内とを互いに直接連通させるようにしてもよく、これと共に、もしくは、これに代えて、上記第2ガス通路61により、カム室38とオイルパン48内とを互いに直接連通させるようにしてもよい。
【0056】
上記エンジン11の駆動により動力伝達機構12を介しプロペラ10を回転駆動させると、船1が推進させられる。上記エンジン11の駆動時には、上記オイルパン48内の潤滑油46がオイルポンプ50により各被潤滑部に供給されて、それぞれ潤滑がなされる。この潤滑後に、上記クランク室17やカム室38に集められて溜まろうとする潤滑油46は、上記クランク室オイル戻り通路55とカム室オイル戻り通路56とを通って上記オイルパン48内に戻される。
【0057】
一方、エンジン11の駆動に伴い、上記燃焼室31から上記クランク室17に漏出したブローバイガス58は、その圧力により上記ガス通路59を通って、上記カム室38とオイルパン48内とに流入させられ、上記カム室38に流入させられたブローバイガス58は、エンジン11の吸気系に吸入された後、燃焼させられるなど処理される。また、上記オイルパン48内に流入させられたブローバイガス58は、その後、上記ガス通路59を通って、上記カム室38に流入させられ、上記のように処理される。また、上記エンジン11の駆動状態によって、上記オイルパン48内のブローバイガス58が上記クランク室17に向かい流動しようとするとき、上記ブローバイガス58は上記ガス通路59を通って流動する。
【0058】
よって、上記クランク室17やカム室38から上記クランク室オイル戻り通路55とカム室オイル戻り通路56とを通ってオイルパン48内に流入する潤滑油46と、上記クランク室17、カム室38、およびオイルパン48内の間で流動するブローバイガス58とが互いに干渉し合うということは、このブローバイガス58が上記ガス通路59を流動することにより防止され、上記クランク室17やカム室38の潤滑油46は、上記オイルパン48内に円滑に流入させられる。
【0059】
この結果、上記クランク室17に潤滑油46が多量に溜まるということが防止されて、クランク軸20に対する潤滑油46の連れ回りが防止され、もって、所望のエンジン出力が得られる。
【0060】
また、前記したように、クランク室17とカム室38とに連結される上記ガス通路59の各端部を上記クランク室17とカム室38との各上部に連結している。
【0061】
このため、上記クランク室17とカム室38とにおける潤滑油46は、上記クランク室17とカム室38との各内底部に溜まりがちになる一方、上記クランク室17やカム室38から上記ガス通路59に流入しようとするブローバイガス58は、上記クランク室17やカム室38の上部を流動する。よって、上記潤滑油46とブローバイガス58とが互いに干渉することは、より確実に抑制されて、上記クランク室17やカム室38の潤滑油46は、上記オイルパン48に、より確実に円滑に流入させられる。
【0062】
また、前記したように、ガス通路59を、上記クランク室17とカム室38とを互いに連通させる第1ガス通路60と、上記クランク室17とカム室38とのうち、いずれか一方の室をオイルパン48内に連通させる第2ガス通路61とにより形成している。
【0063】
このため、上記第1ガス通路60を形成することに加えて、クランク室17とカム室38とをオイルパン48内に連通させるガス通路をそれぞれ形成することに比べて、ガス通路59の全長が短くて足りる。よって、前記した所望のエンジン出力は、簡単な構成で得られる。
【0064】
また、前記したように、第1ガス通路60の中途部を上記第2ガス通路61により上記オイルパン48内に連通させている。
【0065】
このため、上記クランク室17とカム室38とに対し上記第2ガス通路61の端部を連結させるための連結部は設けないで足りる。よって、前記した所望のエンジン出力は、簡単な構成で得られる。
【0066】
また、前記したように、エンジン11をV型エンジンとし、上記ガス通路59を上記エンジン11の各バンク21,22毎に互いに独立して設けている。
【0067】
ここで、上記エンジン11の駆動による船1の推進時に、この船1が姿勢変化したり、加速度が変化したりした場合には、上記オイルパン48内の潤滑油46の油面が傾いたり波打ったりして、この潤滑油46により上記オイルパン48内への上記ガス通路59の開口が塞がれるおそれを生じる。
【0068】
しかし、上記したように、ガス通路59は各バンク21,22毎に設けられていて、上記オイルパン48内へのガス通路59の開口は複数形成されている。このため、これら開口が上記潤滑油46により同時に塞がれるということは抑制されて、いずれかのガス通路59を通してブローバイガス58が流動可能とされる。よって、このブローバイガス58が上記クランク室オイル戻り通路55とカム室オイル戻り通路56とにおける潤滑油46の流動に干渉する、ということは防止される。
【0069】
また、前記したように、ガス通路59の少なくとも一部分を、エンジン本体16の外部に設けられるパイプ材63により形成している。
【0070】
ここで、上記エンジン本体16には,一般に、潤滑装置47の油通路や冷却水通路が複雑に形成される。このため、上記したように、ガス通路59のためにパイプ材63を適用すると、その分、上記ガス通路59を上記エンジン本体16に形成しないで足り、エンジン11の構成が、より複雑になることを防止できる。よって、前記した所望のエンジン出力は、簡単な構成で得られる。
【0071】
また、上記パイプ材63は、エンジン本体16の外側面がわに設けられているため、このエンジン本体16へのパイプ材63の連結などの配管作業が容易にできる。
【0072】
図3,4において、符号67はサーモスタットである。このサーモスタット67は、エンジン本体16に形成された冷却水通路の一部に介設されている。
【0073】
上記サーモスタット67は、上記エンジン本体16に取り付けられ、内部に冷却水通路68が形成されたハウジング69と、上記冷却水通路68を開閉可能に閉じる弁体70と、上記ハウジング69にリテーナ71により支持される一方、上記弁体70を支持し、ワックスを内有するシリンダ72とを備えている。
【0074】
上記冷却水通路68を通る冷却水73の温度が高いときには、上記ワックスが膨張して上記シリンダ72が伸長し、これに連動して上記弁体70が冷却水通路68を開けることとされている(図4中一点鎖線)。一方、上記冷却水73の温度が低くなると、上記ワックスが収縮して上記シリンダ72が収縮し、これに連動して上記弁体70が冷却水通路68を閉じることとされている(図4中実線)。
【0075】
上記ハウジング69はアルミ合金製であり、上記リテーナ71はステンレス鋼製とされていて、互いに異種金属とされている。従来では、上記ハウジング69の内面(図4中二点鎖線)とリテーナ71とは互いに極めて接近させられていた。このため、これら両者69,71間に溜まる海水により局部電池が形成され、電食が生じるおそれがあった。
【0076】
そこで、上記ハウジング69の内面とリテーナ71とを互いに大きく離間させて(図4中実線)、上記電食の発生を未然に防止している。
【0077】
なお、以上は図示の例によるが、上記ガス通路59の各端部は、上記クランク室17とカム室38との上下方向の中途部に連結してもよい。また、上記ガス通路59の全体を上記エンジン本体16の内部に形成してもよく、ガス通路59の全体をパイプ材63により形成してもよい。
【0078】
以下の図5,6は、実施例2を示している。この実施例2は、前記実施例1と構成、作用効果において多くの点で共通している。そこで、これら共通するものについては、図面に共通の符号を付してその重複した説明を省略し、異なる点につき主に説明する。また、これら実施例における各部分の構成を、本発明の目的、作用効果に照らして種々組み合せてもよい。
【実施例2】
【0079】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例2を添付の図5,6に従って説明する。
【0080】
図5,6において、上記ガス通路59の一部は、左右各バンク21,22のカム室38を互いに連通させる第3ガス通路76により形成されている。この第3ガス通路76はパイプ材63により形成され、左右バンク21,22の間に配置されている。
【0081】
上記第1ガス通路60は、上記クランクケース18の上部と上記第3ガス通路76の中途部とを互いに連通させている。なお、上記第1ガス通路60は、上記クランクケース18と、左右バンク21,22のうち、一方のバンクのカム室38のみとを互いに連通させるものであってもよい。
【0082】
上記左右バンク21,22のうち、一方のバンク21のカム室38とオイルパン48内とを連通させる第2ガス通路61は上記エンジン本体16に形成された他の通路孔78により形成されている。また、他方のバンク22のカム室38とオイルパン48内とはパイプ材63により形成された第2ガス通路61により連通させられている。
【0083】
上記構成によれば、エンジン11をV型エンジンとし、上記ガス通路59の一部を、上記エンジン11の各バンク21,22のカム室38を互いに連通させる第3ガス通路76により形成している。
【0084】
このため、上記クランク室17と各バンク21,22のカム室38とをそれぞれ第1ガス通路60で連通させなくても、単一の第1ガス通路60と上記第3ガス通路76とにより、上記クランク室17と各バンク21,22のカム室38とを互いに連通させることができる。
【0085】
ここで、上記V型エンジン11における各バンク21,22のカム室38は、通常、互いに接近している。このため、上記した各バンク21,22のカム室38を連通させる第3ガス通路76は上記第1ガス通路60よりも短くて足りる。よって、上記第3ガス通路76を形成してやれば、クランク室17と各バンク21,22のカム室38とをそれぞれ第1ガス通路60で連通させる、ということに比べて、ガス通路59は短くできる。よって、前記した所望のエンジン出力は、簡単な構成でえられる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】実施例1を示し、船外機用エンジンの側面図である。
【図2】実施例1を示し、船外機の側面図である。
【図3】実施例1を示し、船外機用エンジンの平面図である。
【図4】実施例1を示し、サーモスタットの断面図である。
【図5】実施例2を示し、図1に相当する図である。
【図6】実施例2を示し、図3に相当する図である。
【符号の説明】
【0087】
5 船外機
11 エンジン
16 エンジン本体
17 クランク室
18 クランクケース
19 軸心
20 クランク軸
21 バンク
22 バンク
31 燃焼室
37 動弁装置
38 カム室
46 潤滑油
47 潤滑装置
48 オイルパン
50 オイルポンプ
55 クランク室オイル戻り通路
56 カム室オイル戻り通路
58 ブローバイガス
59 ガス通路
60 第1ガス通路
61 第2ガス通路
61a 一部分
61b 他部分
63 パイプ材
76 第3ガス通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心が縦方向に延びるクランク軸を支持するクランクケースと、このクランクケースの下方に配置されるオイルパンとを備え、クランク室の内底部から上記オイルパン内に潤滑油を戻すクランク室オイル戻り通路と、カム室の内底部から上記オイルパンに潤滑油を戻すカム室オイル戻り通路とを形成した船外機用4サイクルエンジンにおいて、
上記クランク室オイル戻り通路とカム室オイル戻り通路とは別に、上記クランク室、カム室、および上記オイルパン内を互いに連通させるガス通路を形成したことを特徴とする船外機用4サイクルエンジン。
【請求項2】
上記クランク室とカム室との各上部に上記ガス通路の各端部を連結したことを特徴とする請求項1に記載の船外機用4サイクルエンジン。
【請求項3】
上記ガス通路を、上記クランク室とカム室とを互いに連通させる第1ガス通路と、上記クランク室とカム室とのうち、いずれか一方の室をオイルパン内に連通させる第2ガス通路とにより形成したことを特徴とする請求項1、もしくは2に記載の船外機用4サイクルエンジン。
【請求項4】
上記第1ガス通路の中途部を上記第2ガス通路により上記オイルパン内に連通させたことを特徴とする請求項3に記載の船外機用4サイクルエンジン。
【請求項5】
上記エンジンをV型エンジンとし、上記ガス通路を上記エンジンの各バンク毎に互いに独立して設けたことを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1つに記載の船外機用4サイクルエンジン。
【請求項6】
上記エンジンをV型エンジンとし、上記ガス通路の一部を、上記エンジンの各バンクのカム室を互いに連通させる第3ガス通路により形成したことを特徴とする請求項3、もしくは4に記載の船外機用4サイクルエンジン。
【請求項7】
上記ガス通路の少なくとも一部分を、エンジン本体の外部に設けられるパイプ材により形成したことを特徴とする請求項1から6のうちいずれか1つに記載の船外機用4サイクルエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−285178(P2007−285178A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−111967(P2006−111967)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)
【Fターム(参考)】