説明

船舶の入出港離着桟支援方法およびシステム

【課題】 入出港離着桟時における船舶と岸壁との位置関係、船舶の速度や方位などを容易、正確に把握できるようにする。
【解決手段】 演算制御部38の船舶位置演算部46は、現在位置演算部56がGPS衛星、静止衛星からの情報に基づいて船舶の位置を求め、距離演算部48と表示制御部50とに出力する。距離演算部48は、現在位置演算部56の求めた船舶の位置と、情報記憶部52の港湾情報記憶部60が記憶している情報とに基づいて、桟橋などと船舶との距離を求めて表示制御部50に送出する。表示制御部50は、港湾情報記憶部60、船舶情報記憶部62が記憶している情報を読み出し、表示部42に港湾施設の鳥瞰図に船舶の鳥瞰図を重ねて表示するとともに、船速検出部14の検出した船速、方位検出部16の検出した船首の方位、距離演算部48の求めた船舶と桟橋との距離などを表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶が岸壁や桟橋に離着桟するのを支援する方法に係り、特に大型タンカーや大型LNG船の離着桟を支援するのに好適な船舶の入出港離着桟支援方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、船舶が海洋を航行する場合、全地球測位システム(Global Positioning System)を利用した操船支援システムが広く用いられている。この操船支援システムは、GPS衛星が送信する位置情報と時刻情報とから船舶(自船)の位置を常時検出し、船舶が海図上におけるどの位置を航行しているかを容易に知ることができるようになっている。そして、特許文献1には、GPS受信装置によって船舶の位置を検出し、予め記憶している海底データ等の鳥瞰図に船舶の鳥瞰図を重畳して表示する操船支援システムが開示されている。これによって、海底地形と船舶との関係を容易に把握でき、座礁などの危険を回避することができる。
【0003】
しかし、GPSによる位置検出は、一般に10m程度の誤差を生ずることが知られている。このため、GPSによる位置検出を着桟に利用しようとすると、船舶が岸壁または桟橋(以下、両者を総称して単に岸壁ということがある)に衝突するおそれがある。特に、原油などを輸送する大型タンカーやLNG(液化天然ガス)を輸送する大型LNG船などの場合、岸壁に衝突して損傷すると、原油やLNGが漏れ出す危険性がある。このため、船舶が接岸する場合、船舶の大きさに応じた限界接岸速度が決められており、船舶が大型になればなるほどゆっくりした速度で接岸するようになっている。
【0004】
しかも、船舶の接岸速度は、各基地によって規定されているが、おおむね岸壁からの距離によって異なっており、岸壁に接近するほど接岸速度を小さくしなければならない。例えば、50万トン級のタンカーが接岸する場合、岸壁から50m離れているときは、接岸速度が7cm/s以下、岸壁から20m離れているときは、接岸速度が6cm以下、岸壁からの距離が10m以下のときは、接岸速度が3cm/s以下である。このため、特許文献1に記載の操船支援システムは、船舶の検出位置の誤差が10mもあるため、離着桟時の操船に適用することができない。
【0005】
そこで、従来は、例えば日本の港において離着桟する場合、GPSによる位置検出を行なうとともに、海上保安庁(基地局)が送信する補正信号を受信し、GPSによって検出した船舶の位置を修正して離着桟するようにしている。しかし、この方法は、各国ごとに補正信号の周波数が異なることと、補正後の測位精度が2mないし5m程度のため、岸壁への接岸時には使用しにくく、かつ1つの受信装置で全世界の港における離着桟に利用することができない。そこで、船舶に複数のカメラを船長方向の異なる位置に設置し、これらのカメラによって岸壁のビットなどの目標物を撮影し、船舶と目標物との位置関係を演算により求めて画面上に表示する離接岸用操船支援装置が提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2004−212192号公報
【特許文献2】特開2004−175187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2に記載の離接岸用操船支援装置は、カメラによって岸壁に設置された目標物を撮影して目標物と船舶との相対位置関係を求めるようにしているため、夜間や雨天、霧の発生などの場合に利用することができない。また、特許文献2に記載の操船支援装置は、ビットなどの目標物と船舶との相対位置関係を求めるようになっており、岸壁と船舶との位置関係でないため、岸壁に対する船舶の位置を正確に求めることができず、最終的に人が岸壁との距離を直接視認しなければならない。
【0007】
本発明は、前記従来技術の欠点を解消するためになされたもので、入出港、離着桟時における船舶と岸壁(または桟橋)との距離を人が直接視認する必要がなく、船舶と岸壁(または桟橋)との位置関係、船舶の速度や方位などを容易、正確に把握できるようにするようにすることを目的としている。
【0008】
また、本発明は、GPS衛星が送信する情報と静止衛星が送信する補正情報とを受信できる全海域でメートル以下の精度をもって測位でき、世界中の港における入出港、離着桟の操船を支援できるようにすることを目的としている。
そして、本発明は、世界中の港において安全に入出港、離着桟できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明に係る船舶の入出港離着桟支援方法は、複数のGPS衛星の送信する位置情報および時間情報と静止衛星が送信する補正情報とに基づいて求めた船舶の位置を、予め求めてある離着桟する港湾の画像に重ねて表示するとともに、前記船舶が離着桟する岸壁または桟橋と前記船舶との距離、および検出した前記船舶の対地速度、船首方位を表示することを特徴としている。
【0010】
船舶の対地速度は、船舶の任意の位置についての対地速度であることが望ましく、岸壁または桟橋と船舶との距離は、目標離着桟位置と船舶との距離、船舶の任意の位置と岸壁または桟橋との距離を含むようにするのがよい。
【0011】
また、港湾の画像は、避険線情報および標準航路情報を含めることができる。そして、港湾の画像に重ねて表示される船舶の位置は、現在位置と所定時間後の予測位置とであってよい。すなわち、船舶の現状からn秒先を予測して表示する。さらに、港湾の画像に重ねて表示される船舶の位置は、過去の予め定めた時間内における複数の位置を含めることが望ましい。また、船舶の位置と港湾の画像とを重ねて表示した画面に、基地局から取得した離着桟する港湾の風に関する情報、海象に関する情報を表示するとよい。
【0012】
そして、上記の船舶の入出港離着桟支援方法を実施する入出港離着桟支援システムは、船舶に搭載されてGPS衛星の送信する位置情報および時間情報と静止衛星の送信する補正情報とを受信する受信部と、前記受信部が受信した前記各衛星からの情報に基づいて、前記船舶の現在位置を求める船舶位置演算部と、前記船舶が離着桟する港湾の情報を記憶している港湾情報記憶部と、前記船舶位置演算部が求めた船舶位置と前記港湾情報記憶部が記憶している港湾情報とに基づいて、前記船舶が離着桟する岸壁または桟橋と前記船舶との距離を求める距離演算部と、前記船舶の対地速度を求める船速検出部と、前記船舶の船首方位を求める方位検出部と、前記港湾情報記憶部に記憶されている港湾情報に基づいた港湾画像に前記船舶位置演算部の求めた船舶位置を重ねた画像と、前記距離演算部が求めた距離、前記船速検出部が求めた対地速度、前記方位検出部が求めた船首方位とを操船支援情報として表示部に表示する表示制御部と、を有することを特徴としている。
【0013】
港湾情報は、港湾における避険線情報と前記船舶の標準航路情報とを含めることができる。また、距離演算部は、船舶の目標離着桟位置と船舶との距離を求める離着桟距離演算部を有するように構成するとよい。さらに、表示制御部は、送信部に接続され、表示部に表示した操船支援情報を、送信部を介して表示パネルを備えた携帯端末に転送するように構成することが望ましい。そして、表示制御部は、通信部に接続され、通信部を介して受信した基地局からの風に関する情報と海象情報とを表示部に操船支援情報の一部として表示するとともに、表示部に表示した操船支援情報を基地局に送信するように構成できる。なお、入出港、離着桟の操船状況を録画・再生部を設けて録画、再生可能にすることにより、船会社などにおいて操船情報のデータベースを構築することができ、船舶の運行管理に供することができる。
【発明の効果】
【0014】
上記のようになっている本発明は、GPS衛星からの情報ばかりでなく、静止衛星から補正情報を得て船舶の位置を求めるようにしているため、船舶の位置を10cm程度の計測誤差で高精度に求めることができる。したがって、予め求めてある港湾の画像に重ねて表示部に表示することにより、人が直接視認することなく、船舶と岸壁との距離などの位置関係を容易、正確に把握することができる。しかも、同時に船舶の対地速度や船首方向を表示することにより、船舶の操船状態が視覚的に確認することができ、船舶の入出港、離着桟を安全、確実に行なうことができる。そして、GPSによって求めた船舶位置の補正情報を静止衛星から得るようにしているため、GPS衛星、静止衛星からの情報を受信可能な海域を安全に航行できるばかりでなく、船舶が入出港する世界各地の港湾情報を予め求めておくことにより、世界中の港における入出港時、離着桟時の操船を容易、安全に行なうことができる。
【0015】
さらに、船舶の任意の位置の対地速度、目標離着桟位置と船舶との距離、船舶の任意の位置と岸壁などとの距離を表示することにより、船舶をどのように操船すればよいかを容易に知ることができ、より安全な操船をすることができる。また、避険線情報や標準航路情報を表示することにより、操船が容易となるとともに、座礁などの危険を避けることができる。さらに、所定時間後の船舶の予測位置を表示することにより、岸壁(または桟橋)との衝突の危険や、他船との関係などを事前に把握することが可能で、操船の安全性を向上することができる。また、過去の複数の船舶位置を表示することにより、操船状態を的確に把握することができ、過去の操船結果に基づいたエンジン出力、操舵の修正などを容易、適切に行なえ、タグボート使用時のタグボート操船者に対して適切な操船指令を行なうことができる。そして、風や海象の情報を表示することにより、これらが船舶に与える影響を勘案した操船を行なうことができ、より安全な操船が可能となる。
【0016】
なお、表示部に表示した操船支援情報を携帯端末に転送することにより、船舶の船首や船尾に配置した操船補助者やタグボートの操船者などに操船状態を知らせることができ、より安全、適切な入出港、離着桟を行なうことができる。また、操船支援情報を地上の基地局に送信することにより、基地局において船舶の入出港、離着桟の状態を正確に把握することが可能で、万一、事故が生じたときなどに迅速な対応をとることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る船舶の入出港離着桟支援方法およびシステムの好ましい実施の形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。
図2は、本発明の実施の形態に係る船舶の入出港離着桟支援システムの概略ブロック図である。図2において、入出港離着桟支援システム(以下、単に支援システムという)10は、船舶に搭載した支援装置部12、船速検出部14、方位検出部16、港の地上に設けた基地局18などから構成してある。支援装置部12は、GPS衛星20、静止衛星(実施形態の場合、インマルサット)22の送信信号を受ける受信アンテナ24と、受信アンテナ24に接続した受信ユニット26、受信ユニット26が受信した信号を受ける本体部28と、1つ以上の携帯端末30とを有している。
【0018】
受信ユニット26は、実施形態の場合、受信アンテナ24とともに船外に設置されており、受信アンテナ24に接続した受信部である衛星信号受信部32と、衛星信号受信部32の出力側に設けた特定小電力無線機34とから構成してある。一方、本体部28は、実施形態の場合、船内に設置してあり、特定小電力無線機34が出力する送信信号を受信する特定小電力無線機36を備えている。また、本体部28は、特定小電力無線機36の出力側に設けた詳細を後述する演算制御部38、演算制御部38に接続した通信部40、表示部42、表示選択部43を有している。表示部42は、演算制御部38によって表示制御され、船舶と岸壁(または桟橋)との位置関係、船速、船舶の方位(船首の方向)などを表示できるようになっている。表示選択部43は、表示部42に表示させたい内容(操船支援情報)を選択する信号、表示部42に表示した内容を携帯端末30に転送する指令などを演算制御部38に入力できるようになっている。
【0019】
通信部40は、実施形態の場合、携帯電話と同様の送受信機能を有しており、図示しない送受信アンテナに接続してあって、このアンテナと無線基地局44とを介して港湾施設(図示せず)などに設けた基地局18とデータの授受ができるようになっている。なお、通信部40に特定小電力無線機を装備し、特定小電力無線機によって情報の授受をできるようにしてもよい。そして、演算制御部38は、基地局18からの要求に基づいて、または図示しない操作部からの送信命令により、表示部42に表示された操船支援情報を基地局18に送信できるようにしてある。また、通信部40は、無線LAN機能を備えていて、演算制御部38が表示部42に表示した画像のデータ(操船支援情報)を携帯端末30に転送し、携帯端末30の図示しない表示パネルにその画像を表示する。
【0020】
なお、実施形態の場合、受信ユニット26を船外に設置し、本体部28を船内に設置する場合について説明したが、受信ユニット26を本体部28とともに船内に設置してもよい。この場合、特定小電力無線機34、36を省略して受信ユニットと本体部を一体化し、衛星信号受信部32の出力を直接演算制御部38に入力してよい。また、本体部28または支援装置部12は、船舶に固定した据置き型でもよく、任意の船舶に搬入できる可搬型にしてもよい。
【0021】
船速検出部14は、実施形態の場合、ドップラーソナーから構成してあって、検出した船舶の対地速度を本体部28の演算制御部38に入力する。また、方位検出部16は、ジャイロスコープから形成してあって、船舶の船首の方向を検出して演算制御部38に入力する。なお、船速検出部14は、ジャイロスコープを用いた慣性航法装置や、GPS衛星を利用したものなどであってもよい。また、方位検出部16を構成するジャイロは、圧電振動子を用いた振動ジャイロ、高速回転するコマを用いた機械式ジャイロ、光ファイバなどを用いた光学式ジャイロなどを用いることができる。
【0022】
演算制御部38は、図1に示したように、船舶位置演算部46、距離演算部48、表示制御部50、情報記憶部52、船舶位置記憶部54を有している。なお、図1においては、図2に示した特定小電力無線機34、36が省略してある。
【0023】
船舶位置演算部46は、衛星信号受信部32が受信したGPS衛星20からの時刻情報と位置情報、静止衛星22からの時刻と位置との補正情報が入力するようになっており、現在位置演算部56と予測位置演算部58とから構成してある。現在位置演算部56は、各衛星20、22の送信信号に基づいて、船舶の現在位置(中心位置)を10cm程度の誤差で時々刻々求め、求めた船舶位置を距離演算部48と表示制御部50とに出力するとともに、船舶位置記憶部54に書き込む。予測位置演算部58は、現在位置演算部56が求めた船舶の現在位置が入力するとともに、船速検出部14と方位検出部16との検出信号が入力するようになっていて、これらに基づいて所定時間後の船舶の予測位置を演算する。
【0024】
情報記憶部52は、データベースを構成していて、船舶が入港する世界の港湾に関する情報を記憶している港湾情報記憶部60と、船舶に関する情報を記憶している船舶情報記憶部62とを備えている。港湾情報記憶部60には、予め測量などによって求めた、船舶が入港して離着桟する岸壁などの地球上における位置が港湾情報として記憶させてある。この港湾情報には、目標離着桟位置の情報、ブイの位置情報、避険線情報、標準航路情報、水深、等深線などを含んでいる。また、船舶情報記憶部62には、船舶の外径寸法や中心位置、形状などが記憶させてある。なお、船舶情報記憶部62には、支援装置部12を搭載した船舶を所有する船会社などに所属するすべての船舶の情報を記憶させ、支援装置部12を搭載した船舶の情報を選択して設定することができるようになっている。
【0025】
距離演算部48は、船舶位置演算部46が求めた船舶の現在位置または予測位置が入力するようになっており、情報記憶部52の港湾情報記憶部60、船舶情報記憶部62に記憶されている港湾情報と船舶情報とを読み出し、選択された船舶の任意の位置(個所)と離着桟する岸壁(または桟橋)との距離を求めて表示制御部50に送出する。また、距離演算部48は、図示しない離着桟距離演算部を有していて、船舶の目標離着桟位置との距離を求めることができるようになっている。
【0026】
表示制御部50は、船速検出部14、方位検出部16の検出信号が入力するとともに、船舶位置演算部46が求めた船舶位置、距離演算部48が求めた船舶と岸壁との距離などが入力するようになっている。また、表示制御部50は、情報記憶部52と船舶位置記憶部54との記憶内容を読み出すことができるようになっている。そして、表示制御部50は、表示選択部43からの選択信号に基づいて、種々の操船支援情報、例えば港湾施設の鳥瞰図に船舶の鳥瞰図を重ねた画像、船速、方船舶の方位、船舶と岸壁の距離などを表示部42に表示する。また、表示制御部50は、表示部42に表示した内容を通信部40に送出する。通信部40は、基地局18との間で携帯電話と同様に情報の授受を行なう送受信部64と、操船支援情報を携帯端末30に転送するための無線LAN部66とを備えている。
【0027】
上記のごとくなっている実施形態の作用を、船舶の入港、着桟時を例にして説明する。
演算制御部38を構成している情報記憶部52には、船舶が入出港する港湾の情報と、支援システム10の支援装置部12を搭載した船舶の情報とが記憶させてある。すなわち、情報記憶部52の港湾情報記憶部60には、世界各地の港湾の情報、例えば岸壁や桟橋の寸法、形状、離着桟する位置、ブイの位置などが予め測量して求めてあり、これらの地球上における位置が避険線情報、標準航路情報などとともに記憶させてある。また、情報記憶部52の船舶情報記憶部62には、船舶の全長、幅、形状、中心位置、受信アンテナの設置位置などが予め記憶させてある。これらの港湾情報、船舶情報は、各港湾または各海域ごと、船舶ごとに、CD−ROMなどの交換可能な記録媒体に記録しておいてもよい。また、船舶ごとに港湾情報などを組み合わせて交換可能な記録媒体に記録することもできる。
【0028】
船舶が入港時に、表示選択部43を用いて入港しようとする港を選択し、入出港支援モードを選択して表示制御部50に与えると、表示制御部50が該当する港湾施設の情報が表示部42に表示される。すなわち、本体部28の演算制御部38は、情報記憶部52の港湾情報記憶部52から選択された港に関する情報を読み出し、図3に示したように、港湾施設の鳥瞰図を表示部42の「MAP」欄に表示する。この鳥瞰図として表示された港湾情報には、防波堤70、桟橋72、港湾内のブイ74、避険線76、標準航路78などが含まれている。このため、操船者は、船舶が標準航路78上を進むように操船すればよいため、操船が容易であるとともに、安全な操船を行なうことができる。
【0029】
一方、船舶の外に設置した受信ユニット26は、衛星信号受信部32が受信アンテナ24の受けた複数のGPS衛星20からの位置情報と時刻情報、静止衛星22からの補正情報を受信する。また、受信ユニット26は、特定小電力無線機34が衛星信号受信部32の受信した情報を船内に設置した本体部28に送信する。本体部28の特定小電力無線機36は、受信ユニット26の特定小電力無線機34の送信した情報を受信する。特定小電力無線機36の受信した各衛星20、22からの情報は、演算制御部38を構成している船舶位置演算部46に入力される。
【0030】
船舶位置演算部46は、通常、現在位置演算部56が船舶の現在位置(中心位置)を時々刻々求め、求めた船舶の現在位置を表示制御部50、距離演算部48に送出するとともに、船舶位置記憶部54に求めた船舶位置を時刻に対応させて書き込む。表示制御部50は、現在位置演算部56が求めた船舶の現在位置と、情報記憶部52の船舶情報記憶部62に記憶されている船舶情報とに基づいて、図3に示したように船舶80の現在位置の鳥瞰図を作成し、港湾情報の画像に重ねて表示する。また、表示制御部50は、船舶位置記憶部54に記憶されている過去の所定時間内における船舶の位置を読み出し、その過去の船舶の複数位置を航跡80aとして同時に表示する。これにより、操船者は、操船状態を把握することができ、エンジン出力の調整や操舵の修正を適切に行なうことが可能で、安全、正確に入港、着桟をすることができる。また、現在位置演算部56が求めた船舶80の緯度、経度の値は、表示部42下部の位置表示部82に表示される。
【0031】
なお、船舶位置演算部46は、図示しない操作部から予測位置演算命令を受けると、予測位置演算部58が現在位置演算部56の出力する船舶の現在位置を読み込むとともに、船速検出部14が検出した船速、方位検出部16の求めた船首の向き、船舶の移動方向(進行方向)を読み込み、例えば現在から1秒後、5秒後、10秒後などの船舶の予測位置を算出するようになっている。この船舶の予測位置も同時に表示することができ、船舶の減速状態などを視覚的に確認することができる。予測位置演算部58が求めた予測位置は、現在位置とともに「MAP」欄に表示される。
【0032】
距離演算部48の図示しない離着桟距離演算部は、現在位置演算部56が求めた船舶現在位置と、情報記憶部52の港湾情報記憶部60に記憶されている港湾情報とから、船舶80の目標着桟位置までの距離を求め、表示制御部50に出力する。この距離演算部48が求めた目標着桟位置までの距離は、残距離として表示部42に前記の鳥瞰図とともに表示される。図3に示された残距離2.6Lは、目標着桟位置までの距離が船舶80の全長の何倍であるかを示しており、実際の距離がメートル(m)で表示される。また、距離演算部48は、船舶80の中心Cが標準航路78とどれだけずれているかを演算し、表示制御部50に出力する。船舶80と標準航路78とのずれ量は、航路変位として表示される。したがって、操船者は、船舶80が標準航路78上を進んでいるか否かを容易に把握することができ、操船が容易となる。
【0033】
さらに、表示制御部50は、船速検出部14の検出した船速(船舶80の対地速度)と、方位検出部16の検出した船首の方位とを表示部42に表示する。そして、図示しない着桟時間演算部は、現在の船速と目標着桟位置までの距離とから、着桟に要する時間(推定残時間)を演算し、表示制御部50を介して表示部42に表示する。また、表示部42には、方位検出部16などによって求めた船舶80の進行方向(進路方向)84と、エンジン出力、対地速度(船速)進路方向などに基づいた演算などによって求めた船舶80に作用する外力方向が矢印によって表示される(外力方向は図示せず)。また、表示制御部50は、この港における現在の潮の状態や波の状態などの海象情報、風の状況などを表示部42に表示する。これらの海象情報、風の情報などは、通信部40の送受信部64が基地局18と通信して基地局18から得るようになっている。
【0034】
なお、表示部42に表示されている「画面」の欄は、「MAP」欄に表示する港湾の範囲を選択する欄である。すなわち、例えば、「画面1」が選択されると、「MAP」欄に港湾の一部拡大画像が表示され、「画面2」が選択されると図3の「MAP」欄のような画像が表示され、「画面3」を選択すると、より広い範囲が表示されるようになっている。また、表示部42に表示された「航跡時間」は、何秒ごとの過去の船舶位置を表示するかが選択できるようになっている。すなわち、「航跡時間1」ならば、1秒ごとの船舶位置が航跡80aとして表示され、「航跡時間10」ならば10秒ごとの船舶位置が航跡80aとして表示されるようになっている。
【0035】
船舶80が桟橋72に接近し、着桟が近くなって表示選択部43よりに離着桟支援モードの表示が選択されると、図4に示したような画像が表示される。この離着桟支援モードにおいては、表示部42の「MAP」欄に桟橋72の目標着桟位置の部分が大きく表示されるとともに、船舶80の着桟状態90、船舶80の回頭が可能な回頭円92が表示される。さらに、表示部42には、船舶80の鳥瞰図とともに船舶80の船首側、中央、船尾側の桟橋72との距離、移動速度などが船首側表示部94、中央表示部96、船尾側表示部98などに表示される。
【0036】
図4に示した例においては、次の内容を示している。船首側表示部94は、船舶80の船首側が桟橋72から139.5m離れており、毎秒22cmで白抜きにした点灯矢印100の方向に、すなわち桟橋72側に移動していることを示している。また、船尾側表示部部98は、船尾側が桟橋72から148.8m離れており、毎秒37cmで白抜きにした点灯矢印102の方向に移動していることを示している。
【0037】
一方、中央表示部96は、船舶80の中心Cが0.6ノットで移動していること、すなわち船舶80が0.6ノットの速度で前進していることを示している。また、中央表示部96には、着桟状態90と船舶80の現在位置との関係が表示される。すなわち、船舶80は、現在中心Cが着桟状態90の中心Cに対して45.1m手前(進入側)に位置していることを示している。なお、中央表示部96の白抜きの点灯矢印104は、船舶80の中心Cが着桟中心Cに対して手前にずれていることを示し、消灯矢印106は中心Cが着桟中心Cにより図の上方になると点灯し、点灯矢印104が消灯して行過ぎたことを示す。そして、船舶80の鳥瞰図には、ベクトル表示を選択することにより、船舶80の各部分の移動方向、移動速度がベクトル110によって示される。
【0038】
このように実施形態の支援システム10は、操船者が船舶80の任意の位置(個所)と桟橋72との距離および、船舶の移動方向、移動速度が表示されるため、船舶80の操船状態を画像として容易、明確に把握することができ、操船を容易、安全に行なうことができる。しかも、支援システム10は、船舶位置演算部46がGPS衛星20の情報と、静止衛星22の補正情報とに基づいて船舶80の位置を求めるようになっているため、位置の測位誤差が10cm程度と高精度な測位を行なうことができ、世界各地の港においても離着桟を安全、容易に行なうことができる。
【0039】
なお、表示制御部50は、表示部42に表示されている内容(操船支援情報)を通信部40の無線LAN部66を介して、船舶80の船首部や船尾部に配置した操船補助者やタグボートの操船者などが携帯している携帯端末30に転送し、携帯端末30の表示パネルに表示する。これにより、より一層船舶80の離着桟を安全、適正に行なうことができる。また、タグボートの操船者に適切な操船指令を行なうことができ、タグボートの操船者はその指令を確認することができる。さらに、基地局18においては、表示部42に表示された操船支援情報を受信して、基地局18に設置してある表示装置などに表示する。これにより、船舶80の入出港、離着桟の状態を監視、把握することができ、万一の事故が発生した場合の対応などを迅速にとることができる。
【0040】
前記実施形態は、本発明の一態様を示したものであって、これに限定されるものではない。例えば、前記実施形態においては、携帯端末30を備えている場合について説明したが、携帯端末30を設けなくともよい。また、前記実施形態においては、基地局18から得た風に関する情報、海象情報を表示するとともに、操船支援情報を基地局18で表示できるようにした場合について説明したが、これらの表示を行なわないようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態に係る演算制御部のブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る入出港離着桟支援システムの概略ブロック図である。
【図3】実施の形態に係る表示部に表示された入出港支援モードの一例を示す図である。
【図4】実施の形態に係る表示部に表示された離着桟支援モードの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
10………入出港離着桟支援システム、12………支援装置部、14………船速検出部、16………方位検出部、18………基地局、20………GPS衛星、22………静止衛星、26………受信ユニット、28………本体部、30………携帯端末、32………受信部(衛星信号受信部)、38………演算制御部、40………通信部、42………表示部、46………船舶位置演算部、48………距離演算部、50………表示制御部、52………情報記憶部、54………船舶位置記憶部、60………港湾情報記憶部、62………船舶情報記憶部、66………送信部(無線LAN部)、76………避険線、78………標準航路、80………船舶。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のGPS衛星の送信する位置情報および時間情報と静止衛星が送信する補正情報とに基づいて求めた船舶の位置を、予め求めてある離着桟する港湾の画像に重ねて表示するとともに、前記船舶が離着桟する岸壁または桟橋と前記船舶との距離、および検出した前記船舶の対地速度、船首方位を表示することを特徴とする船舶の入出港離着桟支援方法。
【請求項2】
請求項1に記載の船舶の入出港離着桟支援方法において、
前記船舶の対地速度は、前記船舶の任意の位置についての対地速度であり、
前記岸壁または前記桟橋と船舶との距離は、目標離着桟位置と前記船舶との距離、前記船舶の任意の位置と前記岸壁または前記桟橋との距離を含んでいる、
ことを特徴とする船舶の入出港離着桟支援方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の船舶の入出港離着桟支援方法において、
前記港湾の画像は、避険線情報および標準航路情報を含むことを特徴とする船舶の入出港離着桟支援方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1に記載の船舶の入出港離着桟支援方法において、
前記港湾の画像に重ねて表示される前記船舶の位置は、現在位置と所定時間後の予測位置とであることを特徴とする船舶の入出港離着桟支援方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1に記載の船舶の入出港離着桟支援方法において、
前記港湾の画像に重ねて表示される前記船舶の位置は、過去の予め定めた時間内における複数の位置を含むことを特徴とする船舶の入出港離着桟支援方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1に記載の船舶の入出港離着桟支援方法において、
前記船舶の位置と前記港湾の画像とを重ねて表示した画面に、基地局から取得した前記離着桟する港湾の風に関する情報、海象に関する情報を表示することを特徴とする船舶の入出港離着桟支援方法。
【請求項7】
船舶に搭載されてGPS衛星の送信する位置情報および時間情報と静止衛星の送信する補正情報とを受信する受信部と、
前記受信部が受信した前記各衛星からの情報に基づいて、前記船舶の現在位置を求める船舶位置演算部と、
前記船舶が離着桟する港湾の情報を記憶している港湾情報記憶部と、
前記船舶位置演算部が求めた船舶位置と前記港湾情報記憶部が記憶している港湾情報とに基づいて、前記船舶が離着桟する岸壁または桟橋と前記船舶との距離を求める距離演算部と、
前記船舶の対地速度を求める船速検出部と、
前記船舶の船首方位を求める方位検出部と、
前記港湾情報記憶部に記憶されている港湾情報に基づいた港湾画像に前記船舶位置演算部の求めた船舶位置を重ねた画像と、前記距離演算部が求めた距離、前記船速検出部が求めた対地速度、前記方位検出部が求めた船首方位とを操船支援情報として表示部に表示する表示制御部と、
を有することを特徴とする船舶の入出港離着桟支援システム。
【請求項8】
請求項7に記載の船舶の入出港離着桟支援システムにおいて、
前記港湾情報は、前記港湾における避険線情報と前記船舶の標準航路情報とを含んでいることを特徴とする船舶の入出港離着桟支援システム。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の船舶の入出港離着桟支援システムにおいて、
前記距離演算部は、前記船舶の目標離着桟位置と前記船舶との距離を求める離着桟距離演算部を有していることを特徴とする船舶の入出港離着桟支援システム。
【請求項10】
請求項7ないし請求項9のいずれか1に記載の船舶の入出港離着桟支援システムにおいて、
前記表示制御部は、送信部に接続され、前記表示部に表示した前記操船支援情報を、前記送信部を介して表示パネルを備えた携帯端末に転送することを特徴とする船舶の入出港離着桟支援システム。
【請求項11】
請求項7ないし請求項10のいずれか1に記載の船舶の入出港離着桟支援システムにおいて、
前記表示制御部は、通信部に接続され、前記通信部を介して受信した基地局からの風に関する情報と海象情報とを前記表示部に前記操船支援情報の一部として表示するとともに、前記表示部に表示した前記操船支援情報を前記基地局に送信することを特徴とする船舶の入出港離着桟支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−137309(P2006−137309A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−328867(P2004−328867)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000144049)株式会社三井造船昭島研究所 (27)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】