説明

芳香族ポリカーボネートフィルムの製造方法、芳香族ポリカーボネートフィルム、及び有機エレクトロルミネッセンス素子用基板

【課題】本発明の目的は高CSで安定した連続製膜が可能であり、かつ耐熱性、光学特性、平滑性、位相差特性に優れた芳香族ポリカーボネートフィルムの製造方法、芳香族ポリカーボネートフィルム、及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子用基板を提供することにある。
【解決手段】メチレンクロライド、及び炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを4〜14質量部含有する混合溶媒に、芳香族ポリカーボネートを溶解させたドープ組成物を支持体に流延し、下記式(i)で表される残留溶媒濃度が35〜55%の状態でウェブを剥離した後、残留溶媒濃度が0.5〜35%の状態でウェブを幅保持、もしくは延伸することを特徴とする芳香族ポリカーボネートフィルムの製造方法。
式(i) 残留溶媒濃度(%)=溶媒量/(溶媒量+溶質量)×100

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネートフィルムの製造方法、芳香族ポリカーボネートフィルム、及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートの溶液流延製膜法によるフィルム等の工業的製造法においては、支持体として一般的にスチールベルト等の金属基板が用いられている。この支持体上に、ポリカーボネート溶液を押出しダイより流延し、ウェブと呼ばれる膜状物を成形し、該ウェブが含有する溶媒をある程度揮発させてから支持体より剥ぎ取ることが行われている(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、このような製造方法は、溶媒を充分に揮発させる必要があったため通常の設備ではキャストスピード(以下CS)を遅くしなければならず、生産性が悪かった。また高CSを可能とするためにベルト長を長くした場合には、剥離時に強い静電気が発生し、これによりベルトが損傷したり、フィルムのズジやムラ、微小傷の発生原因となった。このため、高品質のフィルムを長期的に生産するのが非常に困難な状況であった。
【0004】
特許文献2には、剥離時の残留溶媒量を乾量基準10〜30%にして、かつ剥離部分において支持体の表面温度を20℃以下15.5℃以上に保つことを特徴とする流延製膜方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、膜状物を支持体より剥ぎ取ることによりフィルムを製造する方法において該膜状物を剥し、支持体上に次の流延が行われる間、該支持体の表面温度が15℃以下であり、かつ支持体が露出している部分が支持体の表面温度より低い露点の気体により満たされていることを特徴とする流延製膜方法が記載されている。
【0006】
特許文献4には、ポリマーの溶液を支持体上に流延し、これを乾燥させ光学用ポリマーフィルムを製造するに際し、該液膜を流延した後、−40℃〜10℃の温度で支持体上で乾燥を行うことを特徴とする光学用ポリマーフィルムの製造方法、厚み方向にのみ光学異方性のあるフィルムを製造する方法が記載されている。
【0007】
これらの技術においては、転写、剥離傷、粘着傷、スクラッチなどの表面欠点、及び透明性がある程度改善されるものの、例えば有機エレクトロルミネッセンス(有機ELともいう)用のガラス代替基板などの用途においては、充分な改善とは言いがたく、剥離時に発生する帯電によりベルトが徐々に傷んでいくため、高品質の樹脂フィルムを長期的に安定して生産することは難しかった。この問題は、製膜速度を向上させたい場合、また製膜するフィルムの厚みを厚くしたい場合等に更に顕在化している。
【0008】
また、有機EL用ガラス代替基板としてプラスチックフィルムを基板とする透明電極を用いたディスプレイが検討されている。プラスチックフィルムは熱収縮を極力下げるためにフィルムの内部歪を取り除く必要がある。更にプラスチックフィルムにはTFT素子の形成やITO電極をスパッタリングするために高耐熱性が求められている。フィルムのガラス転移温度Tgが200℃以上の樹脂を用いた溶融製膜法は着色、分解、劣化が発生し易く、安定な製造は難しいため、内部歪が少なく、表面平坦性が良好で、高透明性を有するフィルムを得るには溶液キャスト法が好ましい。
【0009】
特許文献5にはTg230℃の高耐熱ポリカーボネートの延伸方法を記載しているが、延伸前の工程で残留溶媒濃度が1.0質量%以下にする必要があり、その為延伸工程においても余熱温度、特に延伸温度は230〜235℃といった非常に高温のため乾燥負荷が非常に大きく、比較的低温で延伸できる技術が求められている。
【0010】
一方、従来の有機EL素子では、素子に入射した外部光が素子内部で反射して、外界の景色の写りこみやコントラストの低下等、表示性能に悪影響を及ぼすという問題があった。この問題に対し、特許文献6では、光射出面側に円偏光手段を設けることにより、外部からの入射光が素子内で反射した反射光が外部に出ないように遮蔽するように構成した表示素子が開示されている。具体的には、従来公知の有機EL素子等の構成のガラス基板上に直線偏光板とλ/4板とからなる円偏光板を設けている。
【0011】
しかしながら、これは直線偏光板とλ/4板を貼り付けたものであるので、素子構造が複雑であり、その為有機ELの特徴である薄型に適していない。またこの構成によるとガラス基板の表面と裏面とで二重映りが起こるという問題がある。
【0012】
そこで、上記プラスチックフィルムをガラス基板代替えとして用いることが検討されているが、前記低残留溶媒での延伸や高い温度での熱延伸ではヘイズの発生による透明性が低下することにより輝度が低下するといった問題があった。また、位相差ムラの発生により円偏光板の反射率と色味が悪くなる問題があった。
【0013】
従って、高CSで安定した連続製膜が可能であり、かつ高耐熱性、光学特性、平滑性、位相差特性に優れたポリカーボネートフィルムの出現が待たれている状況にある。
【特許文献1】特開平5−239229号公報
【特許文献2】特許第2640189号公報
【特許文献3】特開平2−111511号公報
【特許文献4】特開平7−304048号公報
【特許文献5】特開2004−58497号公報
【特許文献6】特開9−127885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記の問題を解消し、その目的は高CSで安定した連続製膜が可能であり、かつ耐熱性、光学特性、平滑性、位相差特性に優れた芳香族ポリカーボネートフィルムの製造方法、芳香族ポリカーボネートフィルム、及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子用基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の上記課題は以下の構成により達成される。
【0016】
1.メチレンクロライド、及び炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを4〜14質量部含有する混合溶媒に、芳香族ポリカーボネートを溶解させたドープ組成物を支持体に流延し、下記式(i)で表される残留溶媒濃度が35〜55%の状態でウェブを剥離した後、残留溶媒濃度が0.5〜35%の状態でウェブを幅保持、もしくは延伸することを特徴とする芳香族ポリカーボネートフィルムの製造方法。
【0017】
式(i) 残留溶媒濃度(%)=溶媒量/(溶媒量+溶質量)×100
2.前記幅保持後におけるフィルムのリターデーション値Roを30nm以下に制御すること、または延伸後におけるフィルムのリターデーション値Roを120nm以上、160nm以下に制御することを特徴とする前記1に記載の芳香族ポリカーボネートフィルムの製造方法。
【0018】
リターデーション値Ro=(nx−ny)×d
(式中、nxは光学フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率を、nyは面内で遅相軸に直交する方向の屈折率を、dは光学フィルムの厚み(nm)を表す。)
3.前記混合溶媒が、メチレンクロライド、及び炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを4〜12質量部含有することを特徴とする前記1または2に記載の芳香族ポリカーボネートフィルムの製造方法。
【0019】
4.前記ウェブを幅保持、もしくは延伸するときの残留溶媒濃度が2〜20%であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネートフィルムの製造方法。
【0020】
5.前記延伸によってフィルムの配向角を0〜55°の範囲にすることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネートフィルムの製造方法。
(ここで、配向角とはフィルムの流延方向に対しての遅相軸の角度をいう)
6.前記芳香族ポリカーボネートのガラス転移温度が200℃以上であることを特徴とする前記1〜5のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネートフィルムの製造方法。
【0021】
7.前記1〜6のいずれか1項に記載のポリカーボネートフィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とする芳香族ポリカーボネートフィルム。
【0022】
8.前記7に記載の芳香族ポリカーボネートフィルムを用いたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用基板。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば高CSで安定した連続製膜が可能であり、かつ耐熱性、光学特性、平滑性、位相差特性に優れた芳香族ポリカーボネートフィルムの製造方法、芳香族ポリカーボネートフィルム、及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子用基板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
本発明の芳香族ポリカーボネートフィルム(単にポリカーボネートフィルムという場合もある)の製造方法は、メチレンクロライド、及び炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを4〜14質量部含有する混合溶媒に、芳香族ポリカーボネートを溶解させたドープ組成物を支持体に流延し、下記式(i)で表される残留溶媒濃度が35〜55%の状態でウェブを剥離した後、残留溶媒濃度が0.5〜35%の状態でウェブを幅保持、もしくは延伸することを特徴とする製造方法である。
【0026】
式(i) 残留溶媒濃度(%)=溶媒量/(溶媒量+溶質量)×100
本願発明者らは上記課題に対し鋭意検討した結果、芳香族ポリカーボネートを特定の混合溶媒組成を用いてドープ組成物を作製し、支持体に流延後、従来よりも高い残留溶媒濃度でウェブを剥離し、更に該ウェブの残留溶媒濃度を特定の比較的高い範囲に制御しながら幅保持、もしくは延伸することで、従来の低残留溶媒濃度での延伸や高温での熱延伸と比べて、表面平滑性、透明性、位相差ムラ等の光学特性に優れる高耐熱性のプラスチックフィルムが得られることを見出し、本発明を成すに至った次第である。
【0027】
即ち、ウェブを幅保持、もしくは延伸する際の残留溶媒濃度は、0.5〜35%の範囲に制御される。好ましくは1〜25%、更に好ましくは2〜20%の範囲に制御するものである。
【0028】
残留溶媒濃度を前記比較的高い範囲に制御しながら幅保持、もしくは延伸した場合、延伸温度を低くすることも可能になるため乾燥負荷を小さくできる。更にこれら比較的高い残留溶媒濃度で幅保持、もしくは延伸することで、位相差ムラが低減できる。従って、延伸後のポリカーボネートフィルムを直線偏光板と組み合わせて円偏光板として利用した場合に、反射率の低下や色味が良くなることも見出したものである。これにより有機EL素子用基板に適したポリカーボネートフィルムを高CSで長期的に安定して製造することを可能とした。
【0029】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0030】
(芳香族ポリカ−ボネ−ト)
本発明で使用する芳香族ポリカーボネートについて特に制約はなく、所望するフィルムの諸特性が得られる芳香族ポリカーボネートであれば特に制約はない。一般に,ポリカーボネートと総称される高分子材料は,その合成手法において重縮合反応が用いられて,主鎖が炭酸結合で結ばれているものを総称するが,これらの内でも,一般に,フェノール誘導体と、ホスゲン、ジフェニルカーボネートらから重縮合で得られるものを意味する。通常、ビスフェノール−Aと呼称されている2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンをビスフェノール成分とする繰り返し単位で表される芳香族ポリカーボネートが好ましく選ばれるが,適宜各種ビスフェノール誘導体を選択することで,芳香族ポリカーボネート共重合体を構成することができる。
【0031】
かかる共重合成分としてこのビスフェノール−A以外に,ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等を挙げることができる。
【0032】
また,一部にテレフルタル酸及び/またはイソフタル酸成分を含む芳香族ポリエステルカーボネートを使用することも可能である。このような構成単位をビスフェノール−Aからなる芳香族ポリカーボネートの構成成分の一部に使用することにより芳香族ポリカーボネートの性質、例えば耐熱性、溶解性を改良することができるが,このような共重合体についても本発明は有効である。
【0033】
ここで用いられる芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量は、10000以上、200000以下であれば好適に用いられる。粘度平均分子量20000〜120000が特に好ましい。粘度平均分子量が10000より低い樹脂を使用すると得られるフィルムの機械的強度が不足する場合があり,また400000以上の高分子量になるとドープの粘度が大きくなり過ぎ取扱い上問題を生じるので好ましくない。粘度平均分子量は市販の高速液体クロマトグラフィ等で測定することができる。
【0034】
本発明に係る芳香族ポリカーボネートのガラス転移温度は200℃以上であることが高耐熱性のフィルムを得る上で好ましく、より好ましくは230℃以上である。これらは、上記共重合成分を適宜選択して得ることができる。ガラス転移温度は、DSC装置(示差走査熱量分析装置)にて測定することができ、例えばセイコー電子工業株式会社製:RDC220にて、10℃/分の昇温条件でによって求められる、ベースラインが偏奇し始める温度である。
【0035】
本発明において、上記芳香族ポリカーボネートを含むドープ組成物に用いる溶媒は、メチレンクロライド、及び炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを4〜14質量部含有する混合溶媒であることを特徴とする。
【0036】
上記炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールの混合量は、好ましくは4〜12質量部である。このような混合溶媒を用い、従来よりも高い残留溶媒濃度でウェブを剥離することにより、ウェブ剥離時の強い静電気の発生を抑制し、これによりベルトが損傷したり、フィルムのズジやムラ、微小傷の発生を防止することができる。
【0037】
加えるアルコールの種類は用いる溶媒により制限される。アルコールと該溶媒とが相溶性があることが必要条件である。これらは単独で加えても良いし、2種類以上組み合わせても問題ない。本発明におけるアルコールとしては、炭素数1〜6、好ましくは1〜4、より好ましくは2〜4の鎖状、或いは分岐した脂肪族アルコールが好ましい。具体的にはメタノール、エタノール、イソプロパノール、ターシャリ−ブタノールなどが挙げられる。これらのうちエタノール、イソプロパノール、ターシャリ−ブタノールはほぼ同等の効果が得られるが、メタノールはやや効果が低い。理由は明らかでないが溶媒の沸点、即ち乾燥時の飛び易さが関係しているものと推測している。それ以上の高級アルコールは、高沸点であるためフィルム製膜後も残留しやすくなるので好ましくない。
【0038】
アルコールの添加量は慎重に選択されなければならない。これらのアルコールは芳香族ポリカーボネートに対する溶解性には全く乏しく、完全な貧溶媒である。従ってあまり多く加えることはできず、満足すべき剥離性が得られる最少量とすべきである。前述したようにメチレンクロライドに対して4〜14質量部、好ましくは4〜12質量部である。メチレンクロライド量に対しては、添加量が4〜14質量部の範囲であると、該溶媒のポリマーに対する溶解性、ドープ安定性が向上し、剥離性改善の効果が大きくなる。
【0039】
本発明はドープ組成物中、上記メチレンクロライドと脂肪族アルコールで構成されるが、他の溶媒を使用することもできる。その他残りの溶媒としては芳香族ポリカーボネートを高濃度に溶解し、かつアルコールと相溶性があること、更に低沸点溶媒であれば特に限定はない。例えば、芳香族ポリカーボネートに対して溶解力のある溶媒として、塩化メチレン以外にクロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系溶媒、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル系の溶媒、シクロヘキサノン等のケトン系の溶媒が挙げられる。
【0040】
他の溶媒を使用する場合は特に限定はなく、効果を勘案して用いればよい。ここでいう効果とは、溶解性や安定性を犠牲にしない範囲で溶媒を混合することによる、たとえば溶液流延法により製膜したフィルムの表面性の改善(レベリング効果)、蒸発速度や系の粘度調節、結晶化抑制効果などである。これらの効果の度合により混合する溶媒の種類や添加量を決定すればよく、また混合する溶媒として1種または2種以上用いてもかまわない。
【0041】
好適に用いられる他の溶媒としてはクロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル、メトキシエチルアセテートなどのエーテル系溶媒が挙げられる。
【0042】
本発明のドープ組成物は、結果としてヘイズの低い透明な溶液が得られればいかなる方法で調製してもよい。あらかじめある溶媒に溶解させた芳香族ポリカーボネート溶液に、アルコールを所定量添加してもよいし、アルコールを含む混合溶媒に芳香族ポリカーボネートを溶解させてもよい。ただ先にも述べた様にアルコールは貧溶媒であるため、前者の後から添加する方法ではポリマーの析出によるドープ白濁の可能性があるため、後者の混合溶媒に溶解させる方法が好ましい。
【0043】
本発明における芳香族ポリカーボネートを含むドープ組成物(以下単にドープともいう)は、用いる共溶媒、芳香族ポリカーボネートの分子量にも依存するが、芳香族ポリカーボネート量15〜45質量%含有に対して、溶媒量が15〜55質量%、更に20〜50質量%の範囲で含有させることが好ましい。溶媒量がこれを越えると溶液の安定性は問題ないが、芳香族ポリカーボネートの実効濃度が低くなるためこの溶液組成物を用いて溶液流延法で製膜した場合、溶液粘度が低いために外部擾乱が起きやすく表面平滑性が得られ難く好ましくない。逆に溶媒量がこれ未満では安定なドープが得られにくい。これらの濃度は主としてドープの安定性、溶液粘度を勘案して決定される。
【0044】
ドープ組成物を支持体上に流延した後、該支持体から剥離してウェブを形成し、更に溶媒を蒸発させることによりフィルムを得る。加熱により溶媒を蒸発させることができる。工業的連続製膜工程は一般に流延工程、前乾燥工程、後乾燥工程の3工程からなる。流延工程はドープを平滑に流延する工程であり、前乾燥工程は流延したドープから大部分の溶媒を蒸発除去する工程であり、後乾燥工程は残りの溶媒を除去する工程である。
【0045】
流延工程では、ダイから押し出す方法、ドクターブレードによる方法、リバースロールコータによる方法等が用いられる。工業的には、ダイからドープをベルト状もしくはドラム状の支持体に連続的に押し出す方法が最も一般的である。用いられる支持体としてはガラス、ステンレスやフェロタイプ等の金属基板、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチック基板などがある。支持体の材質、表面状態も流延フィルムの剥離性に大きな影響を与えることは言うまでもない。例えば表面張力の極めて低いテフロン(登録商標)等でコーティングされた基板では、剥離性は良好である。しかしながら高度に表面性、光学均質性の優れたフィルムを工業的に連続製膜するには、表面を鏡面仕上げした金属基板が最も一般的に用いられており、本発明はそのような金属基板で効果が認められる。
【0046】
一般にドープから透明かつ平滑なフィルムを製膜するにあたり溶液粘度は極めて重要な因子である。溶液粘度はポリマーの濃度、分子量及び溶媒の種類に依存するが、本発明の溶液組成物の粘度は、500〜50000cps、好ましくは700〜30000cpsである。これを越えると溶液の流動性が下がるために平滑なフィルムが得られないことがあり好ましくない。また、それ未満では流動性が高すぎ、通常キャストに用いるTダイからドープが均一に吐出しにくくなったり、外部擾乱のために表面に乱れが生じ均質・平滑なフィルムが得られない。
【0047】
本発明の流延時の温度は用いる溶媒組成によるが、10〜40℃、好ましくは15〜35℃の範囲で行われる。平滑性の優れたフィルムを得るためにはダイから押し出された溶液が支持体上で流延・平滑化する必要がある。この際流延温度が高すぎると、平滑になる前に表面の乾燥・固化が起きるため好ましくない。また温度が低すぎると、流延溶液が冷却されて粘度が上昇し、平滑性が得られにくいばかりか結露するために好ましくない。
【0048】
本発明の流延時の湿度は、露点が0〜15℃に制御された雰囲気下でエンドレスベルトに流延されることが好ましい。好ましくは0〜5℃である。露点が上記範囲に制御されることにより、剥離性が良好になり、光学特性、平滑性に非常に優れたポリカーボネートフィルムが得られる。露点が15℃を越えた雰囲下で製膜した場合には、表面に結露した水滴が付着し、平面性が損なわれたり、ゴミや異物の原因となる。また、20℃を越えた雰囲気下では表面の結露部分で白化が生じ、更に25℃を越えた雰囲下では、フィルムが全面的に白化し、剥離時にフィルムがちぎれて破断する場合がある。
【0049】
露点の制御には流延工程全体を1、または複数のゾーンに分けて制御してもよい。特に剥離部周辺に乾燥風を吹き付けつけたり、剥離部周辺に囲いを設けて独立したゾーンとして露点を制御することが好ましい。
【0050】
流延工程から乾燥工程に移る前に、ある程度の時間乾燥を抑制しドープの流動性を確保することにより、フィルムの表面性を高度に平滑化(レベリング効果)することが可能である。
【0051】
前記乾燥工程においては、できるだけ短時間に支持体上に流延されたドープから溶媒を蒸発除去する必要がある。しかしながら、急激な蒸発が起こると発泡による変形を受けるために、乾燥条件は慎重に選択すべきである。本発明においては、使用する溶媒の中で最も低い沸点、好適にはその(沸点−5℃)を上限とする範囲から乾燥を開始すべきである。その後、逐次的或いは連続的に昇温して乾燥効率をあげるべきである。この工程における最終段階での温度の上限は、120℃、好ましくは100℃が採用される。この工程では、残留溶媒が本発明の場合は35〜55質量%も含まれるために、それ以上高温にすると発泡が生じるために好ましくない。また、必要に応じて風を送ってもよい。その場合、一般には風速20m/秒以下、好ましくは15m/秒以下の範囲が用いられる。それを越えると風の擾乱のために平滑面が得られないために好ましくない。風速は段階的ないしは連続的に増大させてもよいし、むしろ好ましい。初期の段階では風の擾乱を避けるために無風でもよい。
【0052】
この前乾燥工程ではフィルムは支持体上にあり、工程の最後に支持体から剥離される。その際に残留溶媒量が前記範囲を超えて多いとフィルムが柔らかいために変形が起き、また残留溶媒量が前記範囲よりも少ないと、ドープ組成物からキャストした流延フィルムは支持体との密着性が高くなり剥離性が悪くなるため応力歪、剥離筋、剥離傷が生じる。従って残留溶媒量は重要な因子であり、好適には下記式(i)で表される残留溶媒濃度が35〜55質量%の範囲が選択される。
【0053】
式(i) 残留溶媒濃度(%)=溶媒量/(溶媒量+溶質量)×100
金属基板を用いた溶液流延法では、一般に製膜開始当初は剥離性良好であるが、剥離を繰り返すうちに次第に剥離性が低下していくことが多い。この原因は定かではないが、次第に基板表面に表面張力の高い金属原子が多く露出してくる、或いは極微量のポリマーが表面に付着していき、それがいわば接着層のように働き始める、などと推定している。この対策として定期的に基板表面を洗浄する、例えば水で基板面を拭くなどすれば剥離性は回復させることができるが、工業的な連続製膜工程では極めてわずらわしい作業であり効率的ではない。本発明によれば、そのような作業をすることなく支持体からの流延フィルムの剥離性を良好に維持することができる。
【0054】
本発明の芳香族ポリカーボネートフィルムを作製するには、金属基板よりウェブを剥離した後、残留溶媒濃度が0.5〜35%の状態でウェブを幅保持、もしくは延伸することを特徴とする。幅保持はテンター方式を用いることが好ましく、延伸は、搬送方向(=長尺方向、または長手方向)に延伸する場合は縦延伸装置を用いて行うことが好ましく、幅手方向に延伸する場合は、ウェブをクリップ等で把持するテンター方式で行うことが好ましい。
【0055】
延伸操作は多段階に分割して実施してもよく、流延方向、幅手方向に二軸延伸を実施したり、後述する斜め延伸装置を用いて斜め方向に延伸することが好ましい。また、延伸を行う場合にも一度に行ってもよいし、段階的に実施してもよい。この場合、段階的とは、例えば、延伸方向の異なる延伸を順次行うことも可能であるし、同一方向の延伸を多段階に分割し、かつ異なる方向の延伸をそのいずれかの段階に加えることも可能である。
【0056】
また、本発明における「延伸方向」とは、延伸操作を行う場合の直接的に延伸応力を加える方向という意味で使用する場合が通常であるが、多段階に二軸延伸される場合に、最終的に延伸倍率の大きくなった方(即ち、通常遅相軸となる方向)の意味で使用されることもある。
【0057】
本発明では、前記幅保持後におけるフィルムのリターデーション値Roを30nm以下に制御することが好ましく、或いは延伸後におけるフィルムのリターデーション値Roを120nm以上、160nm以下に制御することが好ましい。延伸後におけるリターデーション値を上記範囲にすることにより、λ/4板を得ることができる。
【0058】
リターデーション値Ro=(nx−ny)×d
(式中、nxは光学フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率を、nyは面内で遅相軸に直交する方向の屈折率を、dは光学フィルムの厚み(nm)を表す。)
なお、上記Roは、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で波長590nmのリターデーション測定を行い、また同様にしてアッベの屈折率計で試料の平均屈折率を測定した値を上記式に入力してリターデーション値Roの値を得る。
【0059】
本発明では上記リターデーション値を得るには、フィルムを延伸操作により制御することが好ましい。フィルムの延伸倍率は、流延方向、幅手方向もしくは斜め方向に対して、1.01〜3倍で延伸することが好ましく、より好ましくは1.1〜2倍である。2軸方向に延伸する場合、高倍率で延伸する側が、1.01〜3倍であり、好ましくは1.1〜2倍であり、もう一方の方向の延伸倍率は0.8〜1.5倍、好ましくは0.9〜1.2倍に延伸することができる。
【0060】
本発明では、幅保持、もしくは延伸する際の残留溶媒濃度は0.5〜35%の範囲に調整されることが特徴であり、より好ましくは1〜25%、特に好ましくは2〜20%の範囲である。このような比較的高い残留溶媒存在下で幅保持、または延伸することで、位相差ムラが低減され、更に本発明の芳香族ポリカーボネートフィルムをλ/4板とし直線偏光板と組み合わせて円偏光板とし場合、外光反射の低下やコントラストが良くなるという利点がある。
【0061】
上記λ/4板を得るために、延伸によってフィルムの配向角を0〜55°の範囲にすることがより好ましく、この場合0°以外の方向に延伸するには、後述する斜め延伸装置を用いることが好ましい。(ここで、配向角とはフィルムの流延方向に対しての遅相軸の角度をいう)
即ち、フィルムの流延方向を0°とした時に、フィルム面内の遅相軸は0°〜55°傾いた方向にあることが好ましい。これにより、長手方向に吸収軸を有する長尺の直性偏光フィルムと、上記フィルムの長手方向を揃えてロール トゥ ロールで貼合させることで、生産性よく長尺の楕円偏光フィルムを得ることができる。上記フィルム面内の遅相軸と流延方向との傾きは、20°〜50°の範囲、更に30°〜50°の範囲であることが好ましく、特に好ましくは40°〜50°の範囲であり、最も好ましいのは実質的に45°である。実質的に45°とは45°±2°の範囲をいう。
【0062】
このような特徴の長尺フィルムを作製する方法としては、本発明のポリカーボネートフィルムのような熱可塑性樹脂フィルムを、下記斜め延伸する装置、方法によって延伸することが好ましい。但し、本発明はこれに限定されるものではない。
【0063】
〈斜め延伸装置、斜め延伸方法〉
本発明に使用される斜め延伸装置は、予熱ゾーン、加熱延伸ゾーン及び冷却ゾーンを有するものであることが好ましく、従来の熱可塑性樹脂フィルムの延伸に使用されている任意の加熱装置が使用可能である。熱可塑性樹脂フィルムは、予熱ゾーンで予熱され、加熱延伸ゾーンで延伸され、冷却ゾーンで配向固定されて延伸フィルムが得られる。
【0064】
本発明に使用される斜め延伸装置のクリップは、熱可塑性樹脂フィルムの端部を把持しうるものであれば任意のものが使用でき、例えば、従来のテンター延伸機で使用されていたものが使用可能であり、溝条又は突条が螺旋状に設けられた機械要素に駆動可能に設置されている。
【0065】
本発明で使用される機械要素は、溝条又は突条が螺旋状に設けられ、この溝条又は突条にクリップを設置し、駆動するようになされており、例えば、スクリュー、ボールねじ等が挙げられる。
【0066】
上記溝条又は突条の形状は、クリップを駆動しやすい形状が好ましく、正弦波や円弧の一部を連続した形状が好ましい。
【0067】
本発明においては、上記機械要素は加熱装置の左右に設置されるが、加熱延伸ゾーンにおいて、機械要素の少なくとも一方は螺旋ピッチが変化している。即ち、螺旋ピッチが変化することにより、クリップの進行速度が変化し、対のクリップの距離が変化し、その変化によって樹脂フィルムが延伸される。
【0068】
上記機械要素の材質は、射出成形や押出成形等で使用されているような耐熱性の優れた金属が好ましく、その表面に耐熱処理、耐磨耗処理等の表面処理が施されているのが好ましい。
【0069】
また、上記機械要素の駆動源は、クリップの移動速度を高精度に制御できるものが好ましく、例えば、サーボモータ、ステッピングモータ、インバータモータ等が挙げられる。
【0070】
本発明の延伸フィルムの製造装置を図面を参照して説明する。図1は、本発明に用いられる延伸フィルムの製造装置の一例を示す模式平面図である。
【0071】
図中1は熱可塑性樹脂フィルムであり、5は延伸フィルムである。熱可塑性樹脂フィルム1は、クリップ8、81でその両端部を把持され、矢印A方向に搬送され、予熱ゾーン2で予熱され、加熱延伸ゾーン3で延伸され、冷却ゾーン4で配向固定されて延伸フィルム5が得られる。
【0072】
加熱延伸ゾーン3の温度は、延伸する熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度と略同一であればよく、製造しようとする光学的フィルムの要求性能に応じて適宜決定すればよい。
【0073】
加熱延伸ゾーン3の加熱手段は、熱可塑性樹脂フィルムを均一に加熱することができれば特に限定されることはなく、例えば、熱風式、パネルヒーター、ハロゲンヒーターなどの加熱装置等が挙げられ、加熱延伸ゾーン3と冷却ゾーン4の境界の温度制御が精度よく行える熱風式が好ましい。
【0074】
冷却ゾーン4の温度は、延伸による熱可塑性樹脂フィルムの配向を固定できる温度であればよく、一般には延伸された熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度以下に設定される。
【0075】
上記冷却ゾーン4の冷却手段は、熱可塑性樹脂フィルムの配向方向に略平行に冷却を行うことができれば特に限定されることはなく、例えば、熱風式、パネルヒーター、ハロゲンヒーターなどの加熱装置、熱媒や冷媒を通した配管等が挙げられ、加熱延伸ゾーン3と冷却ゾーン4の境界の温度制御が精度よく行える熱風式が好ましい。
【0076】
また、加熱延伸ゾーン3と冷却ゾーン4は、実質的に熱可塑性樹脂フィルムが延伸されるゾーン及び延伸により生じた配向を冷却固定するゾーンを意味し、機械的、構造的に独立したゾーンを意味するのではなく、熱可塑性樹脂フィルムが延伸可能な温度以上となっているゾーン及び該温度以下となっているゾーンを意味する。
【0077】
6、7は加熱装置の左右に設置されたスクリューであり、スクリュー6は図2(イ)に示したように、突条のフライト61が同ピッチで設けられている。又、スクリュー7は図2(ロ)に示したように、突条のフライト71がピッチが変化するように設けられている。
【0078】
即ち、予熱ゾーン2及び冷却ゾーン4では、フライト71のピッチは狭く、スクリュー6のフライト61のピッチと同一であり、加熱延伸ゾーン3ではピッチが次第に広くなり、次いで狭くなって冷却ゾーン4のピッチと同一になっている。
【0079】
上記スクリュー6,7には複数のクリップ8・・、81・・が駆動可能に、かつ、スクリュー6,7の根元(予熱ゾーン2)側でスクリュー6に設置されたクリップ8とスクリュー7に設置されたクリップ81が対になるように設置されている。
【0080】
尚、9、91は、スクリュー6、7先端(冷却ゾーン4)側に到達したクリップ8、81をスクリュー6,7の根元(予熱ゾーン2)側まで搬送するためのベルトである。
【0081】
次に、熱可塑性樹脂フィルムを延伸する方法を説明する。
【0082】
上記延伸フィルムの製造装置においては、供給された熱可塑性樹脂フィルム1はその端部がクリップ8及び81で把持され、熱可塑性樹脂フィルム1の進行方向(図においてA方向)に搬送されるが、この際、熱可塑性樹脂フィルム1の搬送速度とクリップ81の速度を同一速度にし、熱可塑性樹脂フィルム1が進行方向に延伸されることがないようにする。
【0083】
供給された熱可塑性樹脂フィルム1はその両端部をクリップ8、81で把持され予熱ゾーン2で予熱されて、加熱延伸ゾーン3に搬送される。予熱ゾーン2では、フライト61及び71のピッチは同一であるから、クリップ8、81の移動速度は同一であり、熱可塑性樹脂フィルム1はいずれの方向にも延伸されることなく加熱延伸ゾーン3に搬送される。
【0084】
加熱延伸ゾーン3では、クリップ81の移動速度は不変であるが、クリップ8の移動速度は、フライト61のピッチが次第に広くなっているので、クリップ81の移動速度より早くなり、クリップ8とクリップ81の距離が次第に広くなり、熱可塑性樹脂フィルム1は熱可塑性樹脂フィルム1の進行方向とは異なる方向にのみ延伸される。
【0085】
次いで、延伸された熱可塑性樹脂フィルム1は冷却ゾーン4へ搬送され、配向固定される。冷却ゾーン4におけるフライト71のピッチとフライト61のピッチは同一であるから、延伸された熱可塑性樹脂フィルムはそのままの状態で配向固定される。
【0086】
延伸され、配向固定された延伸フィルム5は、冷却ゾーン4から排出され、熱可塑性樹脂フィルム1の進行方向とは異なる方向に配向している延伸フィルム5が得られる。
【0087】
即ち、図3に示したと同様に、得られた延伸フィルム5においては、配向軸(光学軸)が延伸フィルムの長手方向(流延方向)に対して斜め向きとなる。
【0088】
従って、図4に示したように、得られた延伸フィルム21(例えば、直線偏光フィルム)と縦一軸延伸して得られた延伸フィルム24をそのまま積層して、進行方向に直交方向に裁断することにより、延伸フィルム21の光学軸23と延伸フィルム24の光学軸25の方向が異なり、光学軸の異なるフィルムの積層体26(例えば、円偏光フィルム)を得ることができる。
【0089】
クリップ8,81は、冷却ゾーン4を出たところで延伸フィルムを開放し、ベルト9,91により、予熱ゾーン2の入口付近まで搬送され、次の熱可塑性樹脂フィルムを把持する準備がなされる。
【0090】
次いで、別の延伸フィルムの製造装置を用いて、斜め45°の方向に延伸する方法を説明する。
【0091】
熱可塑性樹脂フィルムを長手方向(流延方向)に対して実質的に45°の方向に斜め延伸するためには、図5で示されるテンターを用いることが好ましい。図5は、テンターによる斜め延伸を示す模式図である。図5に示すように、熱可塑性樹脂フィルム101を、一定の搬送方向103に搬送しながら、テンター102を用いて斜め(45°)延伸する。図5では、延伸方向におけるフィルムの幅変化を点線で示す。図5のある位置(104L及び104R)でチャックされたフィルムは、左側が遅い速度(106L)で近い位置(105L)へ、右側が速い速度(106R)で遠い位置(105R)へ移動することによって、斜め延伸が実施される。延伸倍率は、2〜30倍であることが好ましく、3〜10倍であることが更に好ましい。延伸する際は、熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度をTgとすると(Tg−30)〜(Tg+100)℃、より好ましくは(Tg−20)〜(Tg+80)℃の範囲内で加熱して延伸することが好ましい。特に(Tg−20)〜(Tg+20)℃の温度範囲内で延伸し次いで熱固定することが好ましい。また延伸工程の後、緩和処理を行うことも好ましい。
【0092】
斜め延伸は、数回の工程に分けて実施してもよい。特に高倍率延伸の場合は、数回の工程に分けて、均一な延伸結果を得ることが好ましい。また、幅方向の収縮を防止する目的で、斜め延伸前に、横方向または縦方向の若干の延伸処理を行ってもよい。斜め延伸は、通常のフィルム二軸延伸に採用されているテンター延伸を、上記のように左右が異なる工程で行うことにより実施できる。左右が異なる速度で延伸するため、延伸前のフィルムの厚さが左右で異なるように調整しておく。ポリビニルアルコール溶液を流延して製膜する際に、溶液の流量が左右で異なるように調節すればよい。流量の調節は、ダイにテーパーを付けるような方法で容易に実施できる。
【0093】
更に特開2004−20827号公報図2〜図7記載の斜め延伸装置等も好適に用いることができる。
【0094】
また、本発明の芳香族ポリカーボネートフィルムを製造する場合、フィルム面内の遅相軸方向の制御自由度を高める意味で、フィルムの長手方向(流延方向)に延伸してから前記長手方向に対して斜め方向に延伸するか、または、前記長手方向に対して斜め方向に延伸してから前記長手方向に延伸することが好ましい。これを実現させる具体的装置の一例としては、特開2007−30466号公報記載のフィルム伸縮装置などを用いることも好ましい。
【0095】
図6〜図9に、本発明の好ましい実施形態につい示す。
【0096】
図6及び図7に、本発明の一実施形態であるフィルム延伸装置(伸縮装置)401の平面及び断面を示す。フィルム延伸装置401は、フィルム402を供給する供給装置403と、フィルムを加熱する縦延伸炉404と、フィルム402を下流に搬送する中間搬送装置405とからなる縦延伸部(縦伸縮部)406と、フィルム402を搬送しながら搬送方向に対して傾斜し方向に延伸する斜方延伸機407と、斜方延伸機407の中央部を覆うように設けられ、フィルム402を加熱する斜方延伸炉408とからなる斜方延伸部(斜方伸縮部)409と、フィルム402を巻き取る巻取装置410とからなっている。
【0097】
供給装置403は、フィルム402を巻き付けた原反リール411が装着され、フィルム402を基準ロール412とニップロール413で挟み込んで所定の搬送速度で送り出す。縦延伸炉404は、フィルム402に上下から互い違いに熱風を吹きかける熱風ダクト(加熱手段)414を有する断熱材で構成した箱体である。中間搬送装置405は、フィルム402を比率ロール415とニップロール416で挟み込んで搬送し、搬送方向と平行なE1方向に延伸する。斜方延伸機407は、フィルム402の両側に配した延伸チェイン417でフィルム402を搬送しながら、搬送方向に対して角度αだけ傾斜したE2方向に延伸するものであるが詳細は後述する。斜方延伸炉408は、フィルム402に上下から熱風を吹きかける熱風ダクト418を有する断熱材で構成した箱体である。巻取装置410は、テンションロール419で張力を調整しながら、フィルム402を製品リール420に巻き取る。
【0098】
図8に、斜方延伸機407の構成を示す。斜方延伸機407は、平行する2本の延伸チェイン417と、延伸チェイン417にそれぞれ一定間隔で設けた多数のベース421と、それぞれのベース421に一定方向に摺動可能に取り付けたアーム422と、それぞれのアーム422の先端に設けたクリップ423とからなっている。クリップ423は、フィルム402の両側縁部を把持できるようになっており、延伸チェイン417はフィルム402の面に垂直なスプロケット424に架け渡されて周回するようになっている。
【0099】
図9は、斜方延伸機407の更に詳細な構造を示す。延伸チェイン417には1コマおきにベース421が固定されている。ベース421にはそれぞれ延伸チェイン417に対して45°(図8の角度α)傾斜した2つの摺動軸425が設けられ、それぞれの摺動軸425に沿って摺動可能にアーム422が取り付けられている。アーム422の上部には、ベアリングからなる位置決め部材426が設けられており、ガイド427で位置決め部材426を案内することでアーム422を突出及び後退させるようになっている。アーム422の先端に設けたクリップ423は、公知のフィルム把持機構であり、ガイド428で開閉(フィルム402の把持又は解放)される。
【0100】
斜方延伸機407は、延伸チェイン417のベース421からアーム422を突出させてクリップ423によりフィルム402の両側縁部を把持し、延伸チェイン417が進行することでフィルム402を搬送する。この間に、クリップ423でフィルム402を把持したままアーム422を後退させることでフィルム402をアーム422の摺動する方向(図11のE2方向)に延伸して拡幅する。拡幅の際、アーム422の摺動方向に対向するアーム422どうしの後退量は等しくなっている。フィルム402が拡幅された後、クリップ423は、フィルム402を開放する。そして、アーム422は、更に後退し、延伸チェイン417がスプロケット424に沿って折り返されるときにクリップ423がフィルム402に接触しないようにする。
【0101】
続いて、以上の構成からなるフィルム延伸装置401におけるフィルム402の延伸について説明する。
【0102】
縦延伸部406において、フィルム402は、基準ロール412で所定の速度で送り出され、比率ロール415によって基準ロール412よりも速い速度で搬送されると、縦延伸炉404内で加熱された部分が搬送方向(E1方向)に、比率ロール415の基準ロール412に対する搬送速度の比と同じ比率で延伸される。この縦方向の延伸によって、フィルム402は、分子が搬送方向に並び、縦方向の配向角が付与される。
【0103】
更に、斜方延伸部409において、フィルム402は、搬送方向に対して角度αだけ傾斜下方向にE2方向に延伸される。この傾斜方向の延伸によって、フィルム402には、E2方向の引っ張りと、フィルム402の変形に対する応力とが作用し、E2方向よりも搬送方向に対して大きな角度に分子を配列させようとする延伸力が働き、傾斜方向の配向角が付与される。
【0104】
この結果、フィルム402は、縦延伸部406において付与された配向角と、斜方延伸部409において付与された配向角とを足し合わせた方向の配向角を得、縦延伸部406及び斜方延伸部409における延伸の強さ(延伸比率)に応じて位相差値が与えられる。
【0105】
フィルム402をフィルム延伸装置401で斜方延伸して配向フィルムを製造する場合、実際にフィルム402を縦延伸部406及び斜方延伸部409で延伸し、得られたフィルム402の配向角を測定し、所望の配向角が得られるように、比率ロール415の速度を増減することで、縦延伸部406における延伸比率を調整する。また、斜方延伸部409における延伸比率を調整することで所望の位相差値を得る。ここで配向フィルムとは面内に遅相軸を有するフィルムをいい、その向きを配向角という。
【0106】
例として、ポリカーボネートフィルムを延伸して配向フィルムを製造する場合、基準ロール412と比率ロール415の速度を同じ(縦延伸部406における延伸率が0%)に設定し、斜方延伸部409においてα=45°で18%の斜方延伸をしたとき、フィルム402の配向角が搬送方向に対しておよそ60°となる条件で、斜方延伸部409の延伸条件を変えないで、縦延伸部406において約10%の延伸をする(比率ロール415の速度を基準ロール412より約10%速くする)ことで、フィルム402の配向角を45°にすることができる。
【0107】
つまり、フィルム延伸装置401では、斜方延伸機407の延伸方向E2の搬送方向に対する角度αを、経験的に所望の配向角が得られると思われるおおよその値に定め、実際にフィルム402を延伸しながら、比率ロール415の速度を調整することで、配向角を調整する。比率ロール415は、インバータや、無段変速器によって運転しながら変更可能であり、容易に所望の配向角が得られる。
【0108】
以上の実施形態は、フィルム402を傾斜方向に延伸するものであるが、斜方延伸機407を逆向きに設置して逆回転させれば。熱収縮性のフィルムの斜方延伸炉408内部でのE2方向の収縮を規制して傾斜方向に分子が配列するように熱収縮させる装置として使用することができる。
【0109】
また、本発明の場合、フィルムを傾斜方向に延伸し又は収縮を規制してから、縦方向にフィルムを延伸し又は収縮を規制してもよい。
【0110】
次いで、後乾燥工程は、基板より剥離したフィルムを更に乾燥し、残留溶媒濃度を3質量%以下、好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下にする工程である。最終的に残留溶媒が多いと経時的に変形が起こったり、その後の例えば液晶表示装置などへの加工工程で熱が加わると寸法変化、いわゆる熱収縮が起こるためである。一般に後乾燥工程は、工業的にはロール懸垂方式等でフィルムを搬送しながら乾燥する方法が採られるが、これらの方法では乾燥途中でフィルムに様々な力が加わる。従って液晶表示装置用途等、光学的に高度な均質性が求められるフィルムの製膜では乾燥温度はフィルムの変形が生じない範囲から選択しなくてはならない。一般には、用いる芳香族ポリポリカーボネートのガラス転移温度をTg(℃)とするとき、(Tg−120℃)〜Tgの範囲、好ましくは(Tg−100℃)〜(Tg−10℃)の範囲が選ばれる。それ以上ではフィルムの熱変形が起こり好ましくなく、それ以下では乾燥速度が著しく遅くなるために好ましくない。熱変形は残留溶媒が少なくなるにつれて起きにくくなる。従って、該範囲内で初期に低温で、その後段階的ないしは連続的に昇温する方法をとることが好ましい。この後乾燥工程においては前乾燥工程と同様に送風してもよい。
【0111】
本発明においては、上記芳香族ポリカーボネートフィルムを製造する際に、溶媒ガス濃度が高く、窒素ガス、炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気中で乾燥を実施してもよい。可燃性の溶媒を使用する場合は、溶媒の爆発限界を考慮した安全性の面からこの不活性ガス雰囲気中での乾燥方法が好ましい。この場合、溶媒のガス濃度は乾燥の熱エネルギー,回収効率を勘案すると3体積%以上が望ましい。また不活性ガス雰囲気中の酸素濃度は10体積%以下が望ましい。
【0112】
本発明の芳香族ポリカーボネートフィルムの厚みは、10〜300μm、好ましくは50〜200μmの範囲である。特に表示装置を構成するプラスチック基板、位相差フィルム用原反フィルムには50〜200μmの厚みが好ましく用いられる。この範囲の厚みであれば、残留溶媒を除去し易く、厚み斑の発生も抑制することができ好ましい。
【0113】
〈表示装置〉
本発明により製造された芳香族ポリカーボネートフィルムを用いることにより、種々の視認性に優れた表示装置を作製することができる。本発明の芳香族ポリカーボネートフィルムは反射型、透過型、半透過型LCD或いはTN型、STN型、OCB型、HAN型、VA型(PVA型、MVA型)、IPS型等の各種駆動方式のLCDで好ましく用いられる。また、本発明の芳香族ポリカーボネートフィルムは平面性に優れ、プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、電子ペーパー等の各種表示装置にも好ましく用いられる。
【0114】
(有機EL素子)
本発明の芳香族ポリカーボネートフィルムが特に好適に用いられる有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子について説明する。
【0115】
有機EL素子は、二枚の基板にいずれも内側に透明電極を配置し、間に例えば、(a)注入機能、(b)輸送機能、及び(c)発光機能の各機能を持つ層を積層した複合層等からなる有機EL素子層が挟まれ、周囲がシールされたものである。有機EL素子を構成する場合には、例えば、本発明の芳香族ポリカーボネートフィルムを用いた基板(パターン化透明導電層・補助電極層を含む)/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極/封止層からなる層構成を挙げることができる。該層構成は、特に限定されるものではなく、具体的には、陽極/発光層/陰極、陽極/正孔注入層/発光層/陰極、陽極/発光層/電子注入層/陰極、陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極などの多くの層構造に対応できる。この構成に限定されるものではなく、カラー化するためのカラーフィルターもしくはそのほかの複数の手段(層)を伴なうことがある。有機EL素子は基板としてガラス基板を用いることができるが、ガラス基板の外側に、本発明の芳香族ポリカーボネートフィルムを適用することができ、或いは、ガラス基板の代りに、本発明の芳香族ポリカーボネートフィルムを用いることもでき、二枚のガラス基板をいずれも本発明の芳香族ポリカーボネートフィルムに置き換えれば、全体がフレキシブルなディスプレイとすることができる。
【0116】
次に本発明の延伸された芳香族ポリカーボネートフィルムを用いて円偏光フィルムを作製する方法について述べる。
【0117】
(直線偏光フィルム)
直線偏光フィルムとしては、吸収型の直線偏光フィルムであれば特に限定されるものではなく、公知の種々の形態のものを適用可能である。一般的には、ポリビニルアルコールのような親水性高分子からなるフィルムを、ヨウ素のような二色性染料で処理して延伸したものや、ポリ塩化ビニルのようなプラスチックフィルムを処理してポリエンを配向させたもの等からなる偏光フィルムの他、当該偏光フィルムを封止フィルムでカバーして保護したもの等が用いられる。
【0118】
(円偏光フィルムの構成)
円偏光フィルムは、一例として下記の構成が挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。ここで、本発明で円偏光フィルムと呼ぶものは、直線偏光フィルムの吸収軸と、本発明の芳香族ポリカーボネートフィルムの面内の遅相軸とのなす角度が実質的に45°になるように積層されているものをいう。実質的にとは45°±2°の範囲のものをいう。また、45°±2°の範囲外でかつ0°〜90°の範囲にあるものは楕円偏光フィルムと呼ぶ。
【0119】
本発明では、香族ポリカーボネートフィルムと、直線偏光フィルムはフィルム長手を合わせてロール トゥ ロールにて貼合し円偏光フィルムとすることが好ましい。更に円偏光フィルムから或る大きさに切り出したものを円偏光板ともいう。
【0120】
下記に円偏光フィルムの例を示すが、これに限定されるものではない。
【0121】
(1)通常の偏光板(TAC(セルローストリアセテート)/偏光子/TACの構成を有する)に、本発明の芳香族ポリカーボネートフィルムを用いて形成したλ/4板の片面を、直線偏光フィルムの吸収軸と、λ/4板の面内の遅相軸とのなす角度が実質的に45°になるように粘着剤または接着剤を用いて貼り合せた円偏光フィルム。この場合、偏光板は市販の偏光板をそのまま使用することができる。
【0122】
(2)本発明の芳香族ポリカーボネートフィルムを用いて形成したλ/4板1枚と、λ/2板1枚を、通常の直線偏光子に軸角度を調整して貼合した円偏光フィルム。
【0123】
(3)本発明の芳香族ポリカーボネートフィルムを用いて形成したλ/4板を片側の偏光板保護フィルムとして、更にもう一つ別の偏光板保護フィルムとともに直線偏光子を挟む形で積層、貼合した円偏光フィルム。
【0124】
〈EL素子の実施態様〉
図10は、上記円偏光フィルムを有機EL素子に使用した場合の、好ましい実施態様の概略図である。
【0125】
図10に示すように、本実施形態に係る有機EL素子300は、吸収型直線偏光板301と、本発明の芳香族ポリカーボネートフィルムを用いて形成したλ/4板302との積層体である円偏光フィルム、から切り出した円偏光板303を具備している。
【0126】
吸収型直線偏光板301を透過した直線偏光は、λ/4板302によって円偏光に変換されることになる。
【0127】
また、有機EL素子300は、円偏光板303に対向配置された透明基板304と、透明基板304上に形成された陽極305と、陽極305に対向配置された陰極306と、陽極305及び陰極306の間に配置された発光層307とを備えている。
【0128】
このような構成を有するEL素子300において、陰極306から電子を、陽極305から正孔を注入し、両者が発光層307で再結合することにより、発光層307の発光特性に対応した可視光線の発光が生じる。発光層307で生じた光は、直接又は陰極306で反射した後、陽極305、透明基板304、本発明の円偏光板303を介して外部に取り出されることになる。
【0129】
一方、室内照明等により有機EL素子300の外部から入射した外光I1(吸収型直線偏光板301の面に垂直な方向から入射した外光)は、吸収型直線偏光板301によって半分は吸収され、残りの半分は直線偏光として透過し、λ/4板302に入射する。
【0130】
λ/4板302に入射した光は、前述のように、吸収型直線偏光板301とλ/4板302との光軸が45度又は135度で交差するように配置されているため、円偏光板303を透過することにより円偏光に変換される。
【0131】
円偏光板303を出射した円偏光は、陰極306で鏡面反射する際に、位相が180度反転し、逆廻りの円偏光として反射される。
【0132】
当該反射光R1は、再度円偏光板303に入射することにより、吸収型直線偏光板301の吸収軸(光軸に直交する軸)に平行な直線偏光に変換されるため、吸収型直線偏光板301で全て吸収され、外部に出射されないことになる。
【0133】
本発明に用いられる円偏光板は、ボトムエミッション方式だけでなく、トップエミッション方式に対しても使用することが可能である。
【実施例】
【0134】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りない限り、実施例中の「部」は「質量部」を表す。
【0135】
〈測定〉
最初に評価に係わる測定条件と、その影響する特性について説明する。
【0136】
(リターデーション値Ro)
リターデーション値Ro=(nx−ny)×d
(式中、nxは光学フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率を、nyは面内で遅相軸に直交する方向の屈折率を、dは光学フィルムの厚み(nm)を表す。)
上記Roは、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で波長590nmのリターデーション測定を行い、また同様にしてアッベの屈折率計で試料の平均屈折率を測定した値を上記式に入力してリターデーション値Roの値を得た。
【0137】
更に自動複屈折計KOBRA−21ADHを用いてフィルム面内の遅相軸の方向である配向角を求めた。
【0138】
リターデーション値、配向角はフィルムを用いて円偏光板を作製し有機EL素子に組み込んだ際の、外光反射による写り込みやコントラスト等の指標になる。
【0139】
(表面粗さ)
JIS B 0601:2001に準じて、光学干渉式表面粗さ計RST/PLUS(WYKO社製)を使用して、フィルムの各表面1.2mm×0.9mmの面積に対して、算術平均粗さ(表面粗さ)を求めた。表面粗さは表面の平滑性を表し、後述するITO(インジウム酸化錫)のスパッタリングによる製膜性において均一な膜形成が可能かどうかの指標になる。また、フィルム外観に影響する因子となる。
【0140】
(ヘイズ)
フィルム試料3枚を重ね合わせ、ASTM−D1003−52に従って、東京電色工業(株)製T−2600DAを使用して測定した。ヘイズはフィルム外観に影響する因子となる。
【0141】
実施例1
温度計、撹拌機、還流冷却器付き反応器にイオン交換水152400部、25%水酸化ナトリウム水溶液84320部を入れ、HPLC分析で純度99.8%の9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(以下“ビスクレゾールフルオレン”と略称することがある)34848部、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン9008部(以下“ビスフェノールA”と略称することがある)及びハイドロサルファイト88部を溶解した後、塩化メチレン178400部を加えた後撹拌下15〜25℃でホスゲン18248部を60分を要して吹き込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、p−tert−ブチルフェノール177.8部を塩化メチレン2640部に溶解した溶液及び25%水酸化ナトリウム水溶液10560部を加え、乳化後、トリエチルアミン32部を加えて28〜33℃で1時間撹拌して反応を終了した。反応終了後、生成物を塩化メチレンで希釈して水洗したのち塩酸酸性にして水洗し、水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになったところで、塩化メチレン相を濃縮、脱水してポリカーボネート濃度が20%の溶液を得た。この溶液から溶媒を除去して得たポリカーボネート(共重合体A)はビスクレゾールフルオレンとビスフェノールAとの構成単位の比がモル比で70:30であった(ポリマー収率97%)。また、このポリマーの極限粘度は0.674、Tgは226℃であった。
【0142】
エタノールを4質量部含む、メチレンクロライドとエタノール混合溶媒75質量部に対して、前記ポリカーボネート25質量部を25℃で攪拌しながら溶解して、透明で粘ちょうなドープを得た。このドープを乾燥空気を送風して露点を12℃以下に制御した100mステンレスベルト上に流涎し、剥離した。その時の残留溶媒濃度は35%だった。剥離性は良好であり帯電も少ないことより目視観察ではフィルム表面に剥離段や剥離筋等は見られなかった。その後、残留溶媒濃度が2%のとき、幅保持をして乾燥させた。その後、残留溶媒濃度が1%以下になるまで乾燥し芳香族ポリカーボネートフィルムを得た。Ro=28nmであり、フィルムの遅相軸は流延方向に対する角度である配向角は0°であった。表面粗さRa=0.4nm、光の散乱を示すヘイズが0.9%であった。膜厚は125μmであった。
【0143】
実施例2
実施例1で合成したポリカーボネート(共重合体A)を用いて実施例1と同様にフィルムを作製した。その後、残留溶媒濃度2%の時に左右の延伸の速度が異なる図1で示すテンターに挿入して延伸を行った。その後、残留溶媒濃度が1%以下になるまで乾燥し芳香族ポリカーボネートフィルムを得た。Ro=150nmであり、フィルムの配向角は35°であり、表面粗さRa=1.5nm、光の散乱を示すヘイズが0.8%であった。膜厚は120μmであった。
【0144】
実施例3
実施例1のビスクレゾールフルオレンの使用量を29760部、ビスフェノールAの使用量を12000部とする以外は実施例1と同様にして、ポリカーボネート(共重合体B:ビスクレゾールフルオレンとビスフェノールAとの構成単位の比がモル比で60:40であるポリマー)20%溶液を得た(ポリマー収率98%)。このポリマーの極限粘度は0.707、Tgは217℃であった。
【0145】
エタノール8質量部含む、塩化メチレンとエタノール混合溶媒75質量部に対して、上記ポリカーボネート(共重合体B)25質量部を25℃で攪拌しながら溶解して、透明で粘ちょうなドープを得た。このドープを乾燥空気を送風して露点を8℃以下に制御した100mステンレスベルト上に流涎し、残留溶媒の濃度を40%の時に剥離した。剥離性は良好であり帯電も少ないことより目視でフィルム表面に剥離段や剥離筋等は見られなかった。その後、残留溶媒濃度が10%のとき、幅保持をして乾燥させた。その後、残留溶媒濃度が1%以下になるまで乾燥し芳香族ポリカーボネートフィルムを得た。Ro=17nmであり、フィルムの配向角は0°であった。表面粗さRa=0.4nm、光の散乱を示すヘイズが0.3%であった。膜厚は125μmであった。
【0146】
実施例4
実施例3で合成したポリカーボネート(共重合体B)を用いて、同様にフィルムを作製した。その後、残留溶媒10%の時に左右の延伸の速度が異なる図5で示すテンターに挿入して延伸を行った。その後、残留溶媒濃度が1%以下になるまで乾燥し芳香族ポリカーボネートフィルムを得た。Ro=140nmであり、フィルムの配向角は45°であり、表面粗さRa=0.3nm、光の散乱を示すヘイズが0.2%であった。膜厚は125μmであった。
【0147】
実施例5
温度計、撹拌機、還流冷却器付き反応器にイオン交換水152400部、25%水酸化ナトリウム水溶液84320部を入れ、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン450部、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン250部を及びハイドロサルファイト88部を溶解した後、塩化メチレン178400部を加えた後撹拌下15〜25℃でホスゲン18248部を60分を要して吹き込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、この反応液を静置分離し、有機層に重合度が2〜5であり、分子末端にクロロホーメート基を有するオリゴマーの塩化メチレン溶液を得た。
【0148】
そして、得られた塩化メチレン溶液110ミリリットルに塩化メチレンを加えて全量を150ミリリットルとした後、これに、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン5gを2規定濃度の水酸化カリウム水溶液50ミリリットルに溶解した溶液を加え、更に分子量調節剤としてp−tert−ブチルフェノール0.2gを加えた。次いで、この混合液を激しく攪拌しながら、触媒として7%濃度のトリエチルアミン水溶液1.0ミリリットルを加え、攪拌下に、25℃で1.5時間反応させた。反応終了後、生成物を塩化メチレンで希釈して水洗したのち塩酸酸性にして水洗し、水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになったところで、塩化メチレン相を濃縮、脱水してポリカーボネート濃度が20%の溶液を得た。この溶液から溶媒を除去して得たポリカーボネート(共重合体C)はビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタンと(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンの構成単位の比がモル比で48:52であった(ポリマー収率97%)。また、このポリマーの極限粘度は0.6、Tgは238℃であった。
【0149】
エタノール12質量部含む、メチレンクロライドとエタノール混合溶媒75質量部に対して、前記ポリカーボネート(共重合体C)25質量部を25℃で攪拌しながら溶解して、透明で粘ちょうなドープを得た。このドープを乾燥空気を送風して露点を10℃以下に制御した100mステンレスベルト上に流涎し、残留溶媒を50%の時に剥離した。剥離性は良好であり帯電も少ないことより目視でフィルム表面に剥離段や剥離筋等は見られなかった。その後、残留溶媒濃度が20%のとき、幅保持をして乾燥させた。その後、残留溶媒濃度が1%以下になるまで乾燥し芳香族ポリカーボネートフィルムを得た。Ro=9nmであり、フィルムの配向角は0°であった。表面粗さRa=0.2nm、光の散乱を示すヘイズが0.2%であった。膜厚は125μmであった。
【0150】
実施例6
実施例5で合成したポリカーボネート(共重合体C)を用いて、エタノール14質量部含む、メチレンクロライドを用いて同様にフィルムを作製した。その後、残留溶媒25%の時に左右の延伸の速度が異なる図6〜9で示す斜め延伸機に挿入して延伸を行った。その後、残留溶媒濃度が1%以下になるまで乾燥し芳香族ポリカーボネートフィルムを得た。Ro=130nmであり、フィルムの配向角は55°であり、表面粗さRa=1.2nm、光の散乱を示すヘイズが1.0%であった。膜厚は125μmであった。
【0151】
実施例7
温度計、撹拌機、還流冷却器付き反応器にイオン交換水152400部、25%水酸化ナトリウム水溶液84320部を入れ、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン750部、ハイドロサルファイト88部を溶解した後、塩化メチレン178400部を加えた後撹拌下15〜25℃でホスゲン18248部を60分を要して吹き込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、この反応液を静置分離し、有機層に重合度が2〜5であり、分子末端にクロロホーメート基を有するオリゴマーの塩化メチレン溶液を得た。
【0152】
そして、得られた塩化メチレン溶液110ミリリットルに塩化メチレンを加えて全量を150ミリリットルとした後、これに、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン60部を2規定濃度の水酸化カリウム水溶液50ミリリットルに溶解した溶液を加え、更に分子量調節剤としてp−tert−ブチルフェノール0.2gを加えた。次いで、この混合液を激しく攪拌しながら、触媒として7%濃度のトリエチルアミン水溶液1.4ミリリットルを加え、攪拌下に、25℃で1.5時間反応させた。反応終了後、生成物を塩化メチレンで希釈して水洗したのち塩酸酸性にして水洗し、水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになったところで、塩化メチレン相を濃縮、脱水してポリカーボネート濃度が20%の溶液を得た。この溶液から溶媒を除去して得たポリカーボネート(共重合体D)はビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタンと9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンの構成単位の比がモル比で79:21であった(ポリマー収率95%)。また、このポリマーの極限粘度は0.5、Tgは282℃であった。
【0153】
エタノール5質量部含む、メチレンクロライドとエタノール混合溶媒70質量部に対して、上記ポリカーボネート(共重合体D)30質量部を25℃で攪拌しながら溶解して、透明で粘ちょうなドープを得た。このドープを乾燥空気を送風して露点を10℃以下に制御した100mステンレスベルト上に流涎し、残留溶媒濃度を38%の時に剥離した。剥離性は良好であり帯電も少ないことより目視でフィルム表面に剥離段や剥離筋等は見られなかった。その後、残留溶媒濃度が17%のとき、幅保持をして乾燥させた。その後、残留溶媒濃度が1%以下になるまで乾燥し芳香族ポリカーボネートフィルムを得た。Ro=12nmであり、フィルムの配向角は0°であった。表面粗さRa=0.3nm、光の散乱を示すヘイズが0.3nmであった。膜厚は125μmであった。
【0154】
実施例8
実施例7で合成したポリカーボネート(共重合体D)を用いて同様にフィルム作製した。その後、残留溶媒濃度が17%のとき、左右の延伸の速度が異なる図6〜9で示す斜め延伸機に挿入して延伸を行った。その後、残留溶媒濃度が1%以下になるまで乾燥し芳香族ポリカーボネートフィルムを得た。Ro=137nmであった。フィルムの配向角は43°であり、表面粗さRa=0.5nm、光の散乱を示すヘイズが0.3%であった。膜厚は117μmであった。
【0155】
実施例9
エタノール8質量部含む、メチレンクロライドとエタノール混合溶媒70質量部に対して実施例3で合成したポリカーボネ−ト(共重合体B)30質量部を25℃で攪拌しながら溶解して、透明で粘ちょうなドープを得た。このドープを乾燥空気を送風して露点を10℃以下に制御した100mステンレスベルト上に流涎し、残留溶媒濃度が43%の時に剥離した。剥離性は良好であり帯電も少ないことより目視でフィルム表面に剥離段や剥離筋等は見られなかった。その後、残留溶媒濃度が5%のとき、左右の延伸の速度が異なる図6〜9で示す斜め延伸機に挿入して延伸を行った。その後、残留溶媒濃度が1%以下になるまで乾燥し芳香族ポリカーボネートフィルムを得た。Ro=140nmであり、フィルムの配向角は47°であった。表面粗さRa=0.9nm、光の散乱を示すヘイズは0.7%であった。膜厚は120μmであった。
【0156】
実施例10
ブタノール12質量部含む、メチレンクロライドとブタノール混合溶媒70質量部に対して実施例5で合成したポリカーボネート(共重合体C)30質量部を25℃で攪拌しながら溶解して、透明で粘ちょうなドープを得た。このドープを乾燥空気を送風して露点を10℃以下に制御した100mステンレスベルト上に流涎し、残留溶媒濃度が50%の時に剥離した。剥離性は良好であり帯電も少ないことより目視でフィルム表面に剥離段や剥離筋等は見られなかった。その後、残留溶媒濃度が20%のとき、幅保持をして乾燥させた。最後に、残留溶媒濃度が1%以下になるまで乾燥し、芳香族ポリカーボネートフィルムを得た。Ro=9nmであり、フィルムの配向角は0°であった。表面粗さRa=0.2nm、光の散乱を示すヘイズは0.2%であった。膜厚は125μmであった。
【0157】
実施例11
実施例5で合成したポリカーボネート(共重合体C)を用いて実施例10と同様にフィルム作製した。その後、残留溶媒濃度が20%のとき、左右の延伸の速度が異なる図6〜9で示す斜め延伸機に挿入して延伸を行った。その後、残留溶媒濃度が1%以下になるまで乾燥し芳香族ポリカーボネートフィルムを得た。Ro=130nmであった。フィルムの配向角は55°であり、表面粗さRa=0.3nm、光の散乱を示すヘイズは0.2であった。膜厚は125μmであった。
【0158】
実施例12
ビスフェノールAを構成単位とするポリカーボネート樹脂(帝人化成(株)パンライトL−1225Y:Tg150℃)を用い、実施例1と同様にフィルムを作製した。エタノールを4質量部含む、メチレンクロライドとエタノール混合溶媒75質量部に対して、前記ポリカーボネート25質量部を25℃で攪拌しながら溶解して、透明で粘ちょうなドープを得た。このドープを乾燥空気を送風して露点を12℃以下に制御した100mステンレスベルト上に流涎し、剥離した。その時の残留溶媒濃度は35%だった。剥離性は良好であり帯電も少ないことより目視観察ではフィルム表面に剥離段や剥離筋等は見られなかった。その後、残留溶媒濃度が2%のとき、幅保持をして乾燥させた。その後、残留溶媒濃度が1%以下になるまで乾燥し芳香族ポリカーボネートフィルムを得た。Ro=15nmであり、フィルムの配向角は0°であった。表面粗さRa=1.1nm、光の散乱を示すヘイズが1.0%であった。膜厚は115μmであった。
【0159】
実施例13
エタノール5質量部含む、メチレンクロライドとエタノール混合溶媒70質量部に対して実施例3で合成したポリカーボネート(共重合体B)30質量部を25℃で攪拌しながら溶解して、透明で粘ちょうなドープを得た。このドープを乾燥空気を送風して露点を10℃以下に制御した100mステンレスベルト上に流涎し、残留溶媒濃度が35%の時に剥離した。剥離性は良好であり帯電も少ないことより目視でフィルム表面に剥離段や剥離筋等は見られなかった。その後、残留溶媒濃度が15%のとき、左右の延伸の速度が異なる図6〜9で示す斜め延伸機に挿入して延伸を行った。その後、残留溶媒濃度が1%以下になるまで乾燥し芳香族ポリカーボネートフィルムを得た。Ro=100nmであった。フィルムの配向角は42°であり、表面粗さRa=0.6nm、光の散乱を示すヘイズは0.4%であった。膜厚は120μmであった。
【0160】
実施例14
エタノール6質量部含む、メチレンクロライドとエタノール混合溶媒70質量部に対して実施例5で合成したポリカーボネート(共重合体C)30質量部を25℃で攪拌しながら溶解して、透明で粘ちょうなドープを得た。このドープを乾燥空気を送風して露点を10℃以下に制御した100mステンレスベルト上に流涎し、残留溶媒濃度が37%の時に剥離した。剥離性は良好であり帯電も少ないことより目視でフィルム表面に剥離段や剥離筋等は見られなかった。その後、残留溶媒濃度が17%のとき、左右の延伸の速度が異なる図6〜9で示す斜め延伸機に挿入して延伸を行った。その後、残留溶媒濃度が1%以下になるまで乾燥し芳香族ポリカーボネートフィルムを得た。Ro=170nmであった。フィルムの配向角は43°であり、表面粗さRa=0.4nm、光の散乱を示すヘイズは0.3%であった。膜厚は120μmであった。
【0161】
実施例15
エタノール7質量部含む、メチレンクロライドとエタノール混合溶媒70質量部に対して実施例7で合成したポリカーボネート(共重合体D)30質量部を25℃で攪拌しながら溶解して、透明で粘ちょうなドープを得た。このドープを乾燥空気を送風して露点を10℃以下に制御した100mステンレスベルト上に流涎し、残留溶媒濃度が38%の時に剥離した。剥離性は良好であり帯電も少ないことより目視でフィルム表面に剥離段や剥離筋等は見られなかった。その後、残留溶媒濃度が30%のとき、左右の延伸の速度が異なる図6〜9で示す斜め延伸機に挿入して延伸を行った。その後、残留溶媒濃度が1%以下になるまで乾燥し芳香族ポリカーボネートフィルムを得た。Ro=150nmであった。フィルムの配向角は60°であり、表面粗さRa=1.0nm、光の散乱を示すヘイズは0.2%であった。膜厚は120μmであった。
【0162】
比較例1
実施例1で合成したポリカーボネート(共重合体A)を、エタノール3質量部含むメチレンクロライドとエタノール混合溶媒70質量部に対して上記ポリマー30質量部を25℃で攪拌しながら溶解して、透明で粘ちょうなドープを得た。このドープを乾燥空気を送風して露点を15℃以下に制御した100mステンレスベルト上に流涎し、残留溶媒濃度が30%の時に剥離した。剥離張力が大きく剥離段や剥離筋等が目視で見られ、表面の平坦性の悪いフィルムが作製できた。その後、残留溶媒濃度が15%以下に乾燥した後、幅保持をして乾燥させた。その後、残留溶媒濃度が1%以下になるまで乾燥し芳香族ポリカーボネートフィルムを得た。Ro=25nmであり、フィルムの配向角は0°であった。表面粗さRa=40nm、光の散乱を示すヘイズが5.0%であった。膜厚は125μmであった。
【0163】
比較例2
実施例3で合成したポリカーボネート(共重合体B)を、エタノール8質量部含むメチレンクロライドとエタノール混合溶媒70質量部に対して上記ポリマー30質量部を25℃で攪拌しながら溶解して、透明で粘ちょうなドープを得た。このドープを乾燥空気を送風して露点を10℃以下に制御した100mステンレスベルト上に流涎し、残留溶媒濃度を43%の時に剥離した。その後、残留溶媒濃度を0.4%以下に乾燥した後、左右の延伸の速度が異なる図6〜9で示す斜め延伸機に挿入して延伸を行った。作製したフィルムは位相差ムラの多いフィルムが作製できた。フィルムの配向角は37°であった。表面粗さRa=100nm、光の散乱を示すヘイズは15%であった。膜厚は120μmであった。
【0164】
比較例3
エタノール15質量部含む、メチレンクロライドとエタノール混合溶媒70質量部に対して実施例5で合成したポリカーボネ−ト(共重合体C)30質量部を25℃で攪拌しながら溶解して、透明で粘ちょうなドープを得た。このドープを乾燥空気を送風して露点を10℃以下に制御した100mステンレスベルト上に流涎し、残留溶媒濃度が50%の時に剥離した。剥離性は良好であり帯電も少ないことより目視でフィルム表面に剥離段や剥離筋等は見られなかったが白化が起こり、その後、残留溶媒濃度が20%のとき、幅保持をして乾燥させた。最後に、残留溶媒濃度が1%以下になるまで乾燥し、芳香族ポリカーボネートフィルムを得た。空孔が存在しているために位相差ムラがあった。フィルムの配向角は0°であった。表面粗さRa=500nm、光の散乱を示すヘイズは85%であった。膜厚は100μmであった。
【0165】
比較例4
エタノール5質量部含む、メチレンクロライドとエタノール混合溶媒70質量部に対して実施例7で合成したポリカーボネート(共重合体D)30質量部を25℃で攪拌しながら溶解して、透明で粘ちょうなドープを得た。このドープを乾燥空気を送風して露点を10℃以下に制御した100mステンレスベルト上に流涎し、残留溶媒濃度が60%の時に剥離した。しかし、残留溶媒濃度が高すぎて剥離残りなどが現れ、剥離不良となり、フィルムを得ることができなかった。
【0166】
比較例5
エタノール8質量部含む、塩化メチレンとエタノール混合溶媒70質量部に対して実施例1で合成したポリカーボネート(共重合体A)30質量部を25℃で攪拌しながら溶解して、透明で粘ちょうなドープを得た。このドープを乾燥空気を送風して露点を10℃以下に制御した100mステンレスベルト上に流涎し、残留溶媒濃度が45%の時に剥離した。剥離性は良好であり帯電も少ないことより目視でフィルム表面に剥離段や剥離筋等は見られなかった。その後、残留溶媒濃度が40%のとき、左右の延伸の速度が異なる図6〜9で示す斜め延伸機に挿入して延伸を行った。この際に、高残留溶媒領域で延伸させたためにフィルムが発泡した。最後に、残留溶媒濃度が1%以下になるまで乾燥し、芳香族ポリカーボネートフィルムを得た。発泡していたため表面粗さは測定不可、光の散乱を示すヘイズは70%であった。膜厚は110μmであった。
【0167】
以上作製した実施例1〜15、比較例1〜5の芳香族ポリカーボネートフィルムの詳細を、下記表1に示す。
【0168】
【表1】

【0169】
次いで実施例1〜15、比較例1〜5(比較例4を除く)で作製したポリカーボネートフィルムのステンレスベルト接触面に、無機化合物層として酸化ケイ素膜をアルゴンスパッタリング法にて33nmの厚みで製膜した。
【0170】
次に、作製したポリカーボネートフィルムのステンレスベルト非接触面に、ITO(インジウム酸化錫)をスパッタリングで100nmの厚みで製膜した。
【0171】
ITO導電層100nmを付与したポリカーボネートフィルム上にCuPc(10nm)/NPD(30nm)/CBP:Ir(ppy)33質量%/Alq3(50nm)/LiF(0.5nm)/Al(120nm)の順で正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電極を真空蒸着法で製膜し、最後にN2ガス雰囲気で封止をした。
【0172】
更に、実施例2、4、6、8、9、11、13、14、15及び比較例2、5のポリカーボネートフィルムのバリア層の面に下記直線偏光板を粘着剤、または接着剤を用いて長手方向を合わせてロール トゥ ロールで貼り合わせ円偏光板とした。
【0173】
〈直線偏光板の作製〉
厚さ120μmの長尺ロールポリビニルアルコールフィルムを沃素1質量部、ホウ酸4質量部を含む水溶液100質量部に浸漬し、50℃で6倍に搬送方向に延伸して偏光子を作った。更にこの偏光子の両面にケン化処理したコニカミノルタオプト(株)製KC4UYを、完全ケン化型ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として貼合し直線偏光板を作製した。
【0174】
作製した全てのフィルムにおいて発光が観測されたが、多数の剥離筋が存在したフィルムである比較例1やITO電極の密着性が悪く、導電膜が均一に形成されなかった比較例2、3、5は発光ムラや表示欠陥や発光輝度の低下が現れた。また、導電層の抵抗が均一でなく、そこから電荷が一点に集中することよりダークスポットを形成し、寿命が短くなる問題もあった。
【0175】
次いで、実施例2、4、6、8、9、11、13、14、15及び比較例2、5で作製したポリカーボネートフィルム上に直線偏光板を貼り付けた円偏光板の発光を観察した。比較例2は位相差ムラが激しく、また比較例5は発泡が大きく外光の反射を抑えることができなかった。
【0176】
〈評価〉
(ITO製膜性)
◎:ITO電極の密着性に優れ、導電膜の均一形成にまったく問題がない
○:ITO電極の密着性が良く、導電膜が均一に形成される
△:ITO電極の密着性がやや悪く、導電膜が均一に形成されない
×:ITO電極の密着性が悪く、導電膜が均一に形成されない
(フィルム外観)
◎:表面の平滑性に優れ、ヘイズにまったく問題がない
○:表面の平滑性、ヘイズがよい
△:表面の平滑性がやや悪く、ヘイズもやや高い
×:表面が粗く、ヘイズが著しく高い
(外光反射、コントラスト)
◎:外光反射が抑制され、コントラストが高い
○:外光反射が極くわずか観察されるがコントラストが高い
△:外光反射が観察され、コントラストが低い
×:外光反射、コントラストともに著しく劣る
結果を表2に示す。
【0177】
【表2】

【0178】
上表から、実施例1〜15で作製したポリカーボネートフィルムはITOの製膜性、フィルム外観に優れることが分かる。
【0179】
また、実施例2、4、6、8、11、13、14、15で作製したポリカーボネートフィルムを用いた有機ELは、外光の反射も抑えられ、コントラストも高かった。特に、フィルムのリターデーションRoが120〜160nmの範囲であり、かつ配向角が45°±2°の範囲にある実施例4、8、9は外光の反射、コントラストが非常に優れていた。
【0180】
また、本発明の高残留溶媒濃度で幅保持、または延伸したフィルム基板は透明性が非常に高く、従来の低残留溶媒濃度や熱延伸したフィルム基板と比較して同じ駆動電圧当たりの輝度が高かった。
【0181】
本発明の製造方法で作製した高耐熱ポリカーボネートフィルムを有機EL素子用基板に用いた場合、非常に表面が平滑であり、外光反射も抑えられ、有機EL素子用基板として非常に適していることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0182】
【図1】本発明の延伸フィルムの製造装置の一例を示す模式平面図である。
【図2】本発明の延伸フィルムの製造装置の左右に設置されたスクリューの一例を示す平面図であり、(イ)は突条のフライトが同ピッチで設けられたスクリューであり、(ロ)は突条のフライトがピッチが変化するように設けられたスクリューである。
【図3】本発明の延伸フィルムの製造装置で得られる延伸フィルムの一例を示す平面図である。
【図4】本発明の延伸フィルムの製造装置で得られる延伸フィルムを積層し、裁断する方法の一例を示す平面図である。
【図5】本発明の延伸フィルムの別の製造装置の一例を示す模式平面図である。
【図6】本発明の一実施形態であるフィルム延伸装置(伸縮装置)である。
【図7】本発明の一実施形態であるフィルム延伸装置(伸縮装置)である。
【図8】斜方延伸機の構成を示す図である。
【図9】斜方延伸機の更に詳細な構造を示す図である。
【図10】本発明の有機EL素子の実施態様の概略図である。
【符号の説明】
【0183】
1 熱可塑性樹脂フィルム
2 予熱ゾーン
3 加熱延伸ゾーン
4 冷却ゾーン
5 延伸フィルム
6,7 スクリュー
61,71 フライト
8,81 クリップ
9,91 ベルト
101 熱可塑性樹脂フィルム
102 テンター
103 搬送方向
104L 左チャック位置
104R 右チャック位置
105L フィルム左移動位置
105R フィルム右移動位置
106L 左移動速度
106R 右移動速度
300 EL素子
301 吸収型直線偏光板
302 本発明の芳香族ポリカーボネートフィルムを用いて形成したλ/4板
303 本発明の円偏光板
304 透明基板
305 陽極
306 陰極
307 発光層
I1 垂直入射外光
I2 斜め入射外光
401 フィルム延伸装置
402 フィルム
403 供給装置
404 縦延伸炉
405 中間搬送装置
406 縦延伸部
407 斜方延伸機
408 斜方延伸炉
409 斜方延伸部
410 巻取装置
411 原反リール
412 基準ロール
413 ニップロール
414 熱風ダクト
415 比率ロール
416 ニップロール
417 延伸チェイン
418 熱風ダクト
419 テンションロール
420 製品リール
421 ベース
422 アーム
423 クリップ
424 スプロケット
425 摺動軸
426 位置決め部材
427 ガイド
428 ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチレンクロライド、及び炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを4〜14質量部含有する混合溶媒に、芳香族ポリカーボネートを溶解させたドープ組成物を支持体に流延し、下記式(i)で表される残留溶媒濃度が35〜55%の状態でウェブを剥離した後、残留溶媒濃度が0.5〜35%の状態でウェブを幅保持、もしくは延伸することを特徴とする芳香族ポリカーボネートフィルムの製造方法。
式(i) 残留溶媒濃度(%)=溶媒量/(溶媒量+溶質量)×100
【請求項2】
前記幅保持後におけるフィルムのリターデーション値Roを30nm以下に制御すること、または延伸後におけるフィルムのリターデーション値Roを120nm以上、160nm以下に制御することを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリカーボネートフィルムの製造方法。
リターデーション値Ro=(nx−ny)×d
(式中、nxは光学フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率を、nyは面内で遅相軸に直交する方向の屈折率を、dは光学フィルムの厚み(nm)を表す。)
【請求項3】
前記混合溶媒が、メチレンクロライド、及び炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを4〜12質量部含有することを特徴とする請求項1または2に記載の芳香族ポリカーボネートフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ウェブを幅保持、もしくは延伸するときの残留溶媒濃度が2〜20%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネートフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記延伸によってフィルムの配向角を0〜55°の範囲にすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネートフィルムの製造方法。
(ここで、配向角とはフィルムの流延方向に対しての遅相軸の角度をいう)
【請求項6】
前記芳香族ポリカーボネートのガラス転移温度が200℃以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネートフィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリカーボネートフィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とする芳香族ポリカーボネートフィルム。
【請求項8】
請求項7に記載の芳香族ポリカーボネートフィルムを用いたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−126128(P2009−126128A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305580(P2007−305580)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】