荷電粒子線顕微方法および荷電粒子線装置
【課題】 荷電粒子線顕微装置において、任意倍率における幾何歪みを高精度に測定し、補正する。
【解決手段】 周期構造を持つ標準試料を基準にした絶対歪みとして第1の倍率における幾何歪みを測定する。幾何歪み測定済の第1の倍率と、幾何歪み未測定の第2の倍率で微細構造試料を撮影する。第1の倍率の画像を第2の倍率まで等方的に伸縮した伸縮画像を生成する。第2の倍率における幾何歪みを、伸縮画像を基準とした相対歪みとして測定する。第1の倍率における絶対歪みと第2の倍率における相対歪みから 、第2の倍率における絶対歪みを求める。以後、第2の倍率を第1の倍率に置き換えて相対歪み測定を繰り返すことにより、任意倍率における幾何歪みを測定し、補正する。
【解決手段】 周期構造を持つ標準試料を基準にした絶対歪みとして第1の倍率における幾何歪みを測定する。幾何歪み測定済の第1の倍率と、幾何歪み未測定の第2の倍率で微細構造試料を撮影する。第1の倍率の画像を第2の倍率まで等方的に伸縮した伸縮画像を生成する。第2の倍率における幾何歪みを、伸縮画像を基準とした相対歪みとして測定する。第1の倍率における絶対歪みと第2の倍率における相対歪みから 、第2の倍率における絶対歪みを求める。以後、第2の倍率を第1の倍率に置き換えて相対歪み測定を繰り返すことにより、任意倍率における幾何歪みを測定し、補正する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料の寸法を計測する荷電粒子線装置、半導体デバイスのパターン検査に用いられる検査装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
nm(nano meter)精度で試料形状を可視化する装置としてSEM(Scanning Electron Microscope) 、STEM(Scanning Transmission Electron Microscope: 走査透過電子顕微鏡)、TEM(Transmission Electron Microscope: 透過電子顕微鏡)などがある。SEM/STEMはnmオーダーまで収束した電子ビームを試料上でラスター走査し、電子線照射領域から発生する信号を検出し、ラスター走査と同期させることによって画像を形成する装置である。TEMは平行な電子線を試料に照射し、試料を透過した電子を電磁界レンズによってカメラや蛍光板に拡大投影して観察する装置である。近年、半導体デバイス構造の微細化に伴い、高分解能SEMによる数10nm幅の寸法管理、STEMによる数nm幅の寸法管理、つまり中高倍率像を用いた寸法管理や中高倍率における欠陥検査等のニーズが増加している。これらの装置で得られた画像から試料の寸法や欠陥の形状等を正確に求めるには、試料に対する画像の正確な倍率が必要である。高精度な倍率校正技術として、特許文献1に記載の技術がある。まず、周期が既知の繰り返しパターンを含む標準試料を用いて試料に対する倍率を校正する。次に微細構造を持つ試料を用い、試料に対する倍率を実測した第1の画像を記録し、試料に対する倍率が未知の第2画像を記録し、画像解析を用いて第1の画像に対する第2の画像の倍率を解析する。試料に対する第1の画像の倍率と、第1の画像に対する第二の画像の倍率から、試料に対する第2の画像の倍率を求める。以後、第2の画像を第1の画像として上記倍率解析を繰り返す事により、全倍率範囲において倍率を測定する。
【0003】
ここで、上記特許文献1では画像面内での倍率が一様であり、幾何的な歪みが無いことを仮定している。しかしながら、実際には画像を幾何的に歪ませる様々な要因が存在する。具体的には特許文献2に記載のような試料高さ変化やリターディング電界変化に起因する歪み、特許文献3に記載のような歪曲収差による歪み、特許文献4に記載のような偏向歪みなどがある。
【0004】
上述したような幾何歪みを測定する技術として、特許文献5には200 nm周期の2次元周期構造を有するマークパターンを用い、このマークパターンと角度をなすように電子線を走査して干渉縞パターンを発生させ、この干渉縞パターンから幾何的な歪みを測定し、補正する技術が記載されている。幾何的な歪みを補正する技術として特許文献3には、標準マークを用いて試料高さ変化やリターディング電界変化に起因する幾何歪みを測定し、測定された幾何歪みに基づいて補正データテーブルを作成し、該補正データテーブルに基づいて電子ビーム走査を制御することによって幾何歪みを補正する技術が記載されている。また、特許文献2には電子光学レンズの歪曲収差による歪みをライン幅5μmから0.5μm程度の直交ラインを持つ試料で測定し、補正用レンズで補正する技術が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006-058210号
【特許文献2】特開2002-181336号
【特許文献3】特開2000-040481号
【特許文献4】特開2002-251975号
【特許文献5】特開2003-022733号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術では、構造既知の標準試料の画像を撮影し、標準試料像の歪み測定することによって装置起因の幾何歪みを測定していた。測定される幾何歪みの誤差は、画像処理の解析誤差と共に既知構造の寸法誤差に依存する。ここで従来技術で用いている標準試料としては、数100nmピッチの周期構造を有する低倍率用標準試料や金単結晶(0.102nm)、マイカ単結晶(1.0nm)等の格子像を高倍率用標準試料がある。これらの寸法誤差はいずれも1%以下である。しかし中間倍率用標準試料、つまり周期構造のピッチが数10nmから数 nmで寸法誤差が1%以下の試料は現在のところ存在しておらず中倍率用標準試料の寸法誤差は5%程度である。幾何歪み測定誤差は標準試料の寸法誤差よりも小さくすることは出来ない。従って、高精度な標準試料が存在しない倍率では、幾何歪みを高精度に測定することができず、高精度な補正が行なうことが出来ない。また、試料の欠陥検査等を行なう際に、補正が十分でない画像、すなわち幾何歪みを持つ画像で差画像を計算すると、幾何歪みを欠陥と誤認識してしまうこともある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、高精度な標準試料が存在しない倍率でも幾何歪みを高精度に測定し、補正する技術を提供することである。
【0008】
本発明では、寸法既知の周期構造を持つ絶対歪み測定用標準試料と、微細構造を持つ相対歪み測定用試料を用いる。まず、周期構造を持つ絶対歪み測定用標準試料を用いて第1の倍率における絶対歪みを測定する。微細構造を持つ相対歪み測定用試料を第1の倍率と第2の倍率で撮影する。第1の倍率で撮影した画像を第2の倍率まで等法的に伸縮した伸縮画像を生成する。伸縮画像と第2の倍率で撮影された画像を用いて第2の倍率の第1の倍率に対する相対歪みを測定する。第1の倍率の絶対歪みと第2の倍率の相対歪みから第2の倍率の絶対歪みを求める。以後、第2の倍率を第1の倍率に置き換えて上記ステップを繰り返すことにより、任意倍率における絶対歪みを求めることができる。得られた測定結果をもとに、任意倍率における絶対歪みを補正する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高精度な標準試料が存在しない倍率でも幾何歪みを高精度に測定し、補正することが可能となる。そのため、任意の倍率においてばらつき無く測長精度が向上する。さらに、幾何歪みを高精度に補正できることで、試料の欠陥検査の際にも誤認を防ぐことができ、欠陥検出効率も向上する。
【実施例1】
【0010】
本実施例では幾何歪み補正技術をSTEM/SEMに適用した事例を示す。図2に、本実施例で用いるSTEM/SEMの基本構成図を示す。1次電子線31を発生する電子銃11及び1次電子線31の加速電圧や引出し電圧を制御する制御回路11‘、1次電子線31を収束する照射レンズ12及びその電流値を制御する制御回路12’、1次電子線31の拡がり角を制御する絞り13及び絞りの位置を制御する制御回路13’、試料30に対する入射角度を制御する軸ずれ補正用偏向器14及びその電流値を制御する制御回路14‘、試料30に入射する1次電子線31のビーム形状を補正するスティグメータ15及びその電流値を制御する制御回路15‘、試料30に入射する1次電子線31の照射領域を調整するイメージシフト用偏向器16及びその電流値を制御する制御回路16‘、試料30に入射する1次電子線31をラスター走査する走査用偏向器17及びその電流値を制御する制御回路17‘、1次電子線31の試料30に対する焦点位置の調整する対物レンズ18及びその電流値を制御する制御回路18‘、試料30の位置を設定する試料ステージ19及びその位置を制御する制御回路19‘、試料30から発生する電子線32を検出する電子検出器22及び検出された電子線信号とラスター走査信号からSTEM/SEM像を形成する画像形成回路22‘、制御ソフト及び画像処理ソフトを搭載した計算機29から構成される。各制御回路、画像形成回路は計算機29によってコマンド制御される。本装置には複数の電子線検出器22が搭載されており、試料30前方に出射した電子線のうち、低角散乱電子を検出する明視野検出器52及びそれを制御する制御部52’、高角散乱電子を検出する暗視野検出器53及びそれを制御する制御部53’、試料30後方に出射した反射電子または/及び2次電子を検出する検出器54及びそれを制御する制御部54’が搭載されている。試料30前方に出射した電子で形成された画像をSTEM像、試料30後方に出射した電子で形成された画像をSEM像とする。以後、簡単のためにSTEM像のみを説明する。SEM像とSTEM像は検出電子の種類が違うだけであり、画像に含まれる幾何歪みは同じである。
【0011】
まず、図2の装置を用いて光学系から電子線を試料に照射してSTEM像を得る工程を説明する。電子銃11から1次電子線31を引出し電圧V1で引出し、加速電圧V0を印加する。鏡体の光軸とほぼ平行な方向をZ方向、光軸とほぼ直交する面をXY平面とする。薄膜化した試料30を試料ステージ19に載せ、Z方向より1次電子線31を入射する。照射レンズ12を用いてnmオーダーまで収束した1次電子線31を、走査用偏向器17を用いて試料30上でラスター走査する。1次電子線31の入射によって試料30から出射する電子線32を電子線検出器22で検出する。検出された電子線信号と走査用偏向器17のラスター走査信号と同期させてSTEM像を形成する。
【0012】
図3に走査用偏向器17の制御回路17‘の例を示す。電子ビームの走査はデジタル制御されており、画素ごとにX走査用制御値とY走査用制御値が割り当てられている。つまり、X走査用制御値テーブルとY走査用制御値テーブルを持つ。波形生成部では制御値テーブルに基づいてX走査用制御信号およびY走査用制御信号を生成する。X走査用制御信号およびY走査用制御信号はデジタル-アナログ(DA)変換された後、電子ビームの走査方向を変化させる回転角度設定部をとおり、電子ビームの走査範囲を制御する倍率設定部にそれぞれ送られる。ここでは、電子回路で発生する波形歪み、偏向器のヒステリシスなどに起因して発生する幾何歪みをスキャン歪みと称する。
【0013】
また図3には、後述の幾何歪み補正で使用するイメージシフト用偏向器16の制御部16’も記載しておく。イメージシフト偏向器16は視野位置の微調整のために設けられた偏向器であり、入射電子線31の軌道に対して走査用偏向器17と同様に作用するように設計されている。具体的には、偏向器の位置と巻数を同一にする構成として、コイルの導線を2重巻きにし、一方をイメージシフト用、他方を走査信号用に用いる構成になっている。イメージシフト偏向器16には視野移動量に応じた制御値が計算機29から送られる。送られた制御値はDA変換された後、回転角度設定部で変換され、イメージシフト偏向器16に送られる。
【0014】
本実施例では、図1のようなフローに従い、絶対歪み測定と相対歪み測定という2段階の工程に分けて幾何歪みを測定する。絶対歪みとは試料に対する画像の幾何歪みであり、相対歪みとはある画像に対する別の画像の幾何歪みである。
【0015】
幾何歪みの測定に当たっては、まず周期構造を持つ標準試料を用いて第1の倍率の絶対歪みを測定する(ステップ1)。次に、微細構造を有する試料を第1の倍率と第2の倍率で撮影する(ステップ2)。そして、第1の倍率で撮影した画像を第2の倍率まで等方的に伸縮した伸縮画像を形成する(ステップ3)。次に、伸縮画像と第2の倍率で撮影された画像を用いて第2の倍率の第1の倍率に対する相対歪みを測定する(ステップ4)。そして、第1の倍率の絶対歪みと第2の倍率の相対歪みから第2の倍率の絶対歪みを求める(ステップ5)。以後、第2の倍率を第1の倍率に置き換えて上記ステップを繰り返すことにより、任意倍率における絶対歪みを求める。そして得られた測定結果をもとに、任意倍率における絶対歪みを、補正部としての役割を有する計算機により各制御部を制御することで補正する。
【0016】
相対歪み測定では共通視野をもつ画像ペアを撮影し、パターンマッチングによって幾何歪みによる視野の変形を測定する。相対歪み測定は周期構造を持つ標準試料を必要としない。汎用の光軸調整用試料で実行できる。例えば、ガラス基板にラテックス微粒子を分散させた後、金属アモルファス膜(オスミウムなど)でコーティングしたSEM用試料、網目状のCu箔にのせられたカーボン薄膜に金を微粒子状に蒸着したTEM用試料など、低倍率から高倍率まで微細構造が観察可能な試料が適している。倍率に応じて複数の試料を用いることも可能であり、低倍率用のアモルファス試料と高倍率用のアモルファス試料を用意しておいても良い。試料を切り換える際、同じ撮影条件で両方の試料を撮影しておくことにより、その倍率における幾何的な歪みの情報を引き継ぐことができるからである。
【0017】
このように、測定法を最適化することにより、相対歪みの測定誤差を1%以下にすることができる。中倍率で観察可能な数10 nm から数nmピッチの周期構造の寸法誤差は現在のところ3%程度である。
【0018】
ここで、中倍率の校正を従来技術と本発明で実施した場合の幾何歪み測定誤差の一例を図18に示す。寸法精度の低い標準試料を用いて中高倍率の幾何歪みを直接測定するより、寸法誤差1%以下の標準試料で測定した倍率を起点として相対歪み測定を繰り返す間接的な測定の方が高い測定精度が得られることがわかる。
【0019】
以下、幾何歪み測定方法の詳細を説明する。
絶対歪み測定は図16のフローに従って行なう。ここでは1次元の周期構造を持つ試料を用いる。試料の周期間隔をaとし、X方向のなす角をβとする。この試料のSTEM像を撮影し、STEM像を小領域に分割する。STEM像における周期構造の間隔cとし、X方向となす角をγとする。まず、各小領域における周期構造の間隔cと方向γをSTEM像のフーリエ変換像から求める。これを走査線の間隔に変換する。X方向の走査線の間隔bxはcx=c・cosγ[画素数]でax=a・cosβ[SI単位]を割ることによって、Y方向の走査線の間隔byはcy=c・sinγ[画素数]でay=a・sinβ[SI単位]を割ることによって計算される。幾何歪みがあるとbxおよびbyはSTEM像内で変化する。各小領域におけるbxが全て等しいとX方向の幾何歪みが、byが全て等しいとY方向の幾何歪みが補正されていると判断される。
【0020】
次に、各小領域における走査線の間隔bx、byから絶対歪み補正値テーブルを作成する。X走査用偏向器の走査線間隔テーブルは、各小領域で測定された走査線間隔bxを各小領域の中心位置にプロットして作成する(図6(a))。次に、走査線間隔bxのテーブルを電子ビームの平行移動Dxのテーブルに変換する。走査線間隔テーブルの中から基準点を選択し、基準点からの走査線の間隔bxの変化の積算値を求め、電子ビーム入射位置の平行移動量Dxを計算する。そして、電子ビームの平行移動量Dxのテーブルを偏向器制御値の補正値Ixのテーブルに変換する。偏向器制御値変化量と電子ビーム移動量の関係の関係を予め測定し、歪みによる電子ビームの平行移動量を相殺するのに必要な偏向器制御値変化量を求め、絶対歪み補正値テーブルに記録する。最後に、プロットされなかった位置の値を補完してテーブルを完成させる。例えば図6(a)の様に、STEM像の中央部付近では走査線bxの間隔が広く、周辺部では走査線bxの間隔が狭くなっていたとする。この分布から、周辺部における電子ビームの入射位置が内側にずれていると判断される。このずれを相殺するには、周辺部における電子ビーム入射位置を外側にずらす必要がある。つまり、絶対歪み補正値テーブルにおける値は図6(b)に示す分布を持つ。Y走査用偏向器の絶対歪み補正値テーブルも同様の手順で作成する。作成された絶対歪み補正値テーブルは倍率と共に計算機29のメモリに保存される。
【0021】
絶対歪み測定で用いる試料は、周期構造の間隔aの加工精度が走査線の間隔bの測定精度に直接影響するため、寸法誤差が1%以下程度であることが望ましい。絶対歪み測定では、2方向の走査線間隔bxとbyを測定するために、図5(c)の様に1次元の周期構造を持つ試料を2つ用意し、互いに直交するように配置した試料を用いるのが一般的である。また図5(a)に示す様に1次元構造を持つ試料を1つ用意し、β〜45°とすることによってbxとbyをほぼ等しい精度で測定することもできる。図5(b)に示す様に、1つの視野に2種類の周期構造を持つ試料も作成可能であるが、試料構造を複雑にすると周期構造の間隔aの加工精度が低下する可能性がある。
さらに、絶対歪み測定の標準試料に格子像を用いることもできる。格子間隔は狭いもので、金単結晶の0.102 nm、広いものではマイカ単結晶の1.0 nm等がある。画像内に複数の周期構造がある点であので、図5(b)に示す様に、周期構造の方向がX方向およびY方向と並行になるように設定すると良い。
【0022】
ここで、絶対歪み測定におけるSTEM像の視野径および小領域分割数の設定について説明する。この設定は図7のフローに従って行なう。周期間隔cはフーリエ変換像に発生するピークの間隔から求める。周期間隔cの測定精度は、ピーク間隔が広く、個々のピーク幅が狭いほど向上する。ピーク間隔が最も広くなるのはcが2画素周期の時である。実際の測定ではピーク間隔が伸縮するので、2画素よりもやや大きめに設定する。試料は寸法誤差が1%以下の標準試料、例えばμスケール(特許2544588号)と仮定し、TEM像の画素数は1024×1024と仮定すると、STEM像の視野径は(240nm/2画素)×1024画素=123μmよりも1割程度小さい、110μm程度が適当であると算出される。これはSTEMにおける最低倍率における視野径に相当する。次に、撮影した画像を小領域に分割する際の分割数を設定する。小領域に含まれる周期数nが増加するとピーク幅は狭くなり、歪み測定精度は向上する。しかし周期数nを増加させると小領域の視野径が大きくなり、歪み測定の空間分解能が劣化する。小領域のサイズは測定精度と空間分解能を考慮して設定する必要がある。小領域のサイズを変化させた時の歪み測定精度の変化を予め測定しておき、これに基づいて小領域のサイズを設定する。我々の撮影条件ではμスケール20周期における測定精度が大凡0.1%となったことから、小領域のサイズを5μm×5μmとして22×22個に分割するのが適当と判断した。これよりも高い歪み測定精度が必要な場合は小領域に含まれる周期を増やす必要がある。歪み測定精度よりも歪み分布の空間分解能が必要な場合は小領域に含まれる周期を減らす必要がある。
【0023】
また絶対歪みを測定する別の方法として、モアレ縞を利用した方法もある。モアレ縞を利用した方法の利点は、画像処理を用いずに、走査線間隔の僅かな変化を可視化できる点である。しかし、モアレ縞を利用する方法は上記フーリエ変換を用いた方法に比べて空間分解能が低くなるので、使用目的に合わせて適宜選択すればよい。
【0024】
次に、相対歪み測定について説明する。図1に示す幾何歪み測定フローのうち、ステップ2以降が相対歪み測定フローになる。なお、幾何歪み補正では基準とする第1の倍率の方を低くする、つまり広視野に設定した方が良い。第2の倍率で撮影した画像の視野の方が広いと、第2の倍率の画像の周辺部が第1の倍率では撮影されない領域で形成される。該周辺部では相対歪みが測定できない。画像の中央部における幾何歪みから周辺部の幾何歪みを補完できる場合は第1の倍率の方が第2の倍率よりも高くても良いが、周辺部の幾何歪みを直接測定する必要がある場合は第1の倍率の方を第2の倍率よりも低くする必要がある。
【0025】
以下、各ステップの詳細について図8を用いて説明する。ステップ2では相対歪み測定用試料を幾何歪み測定済の第1の倍率と、幾何歪み未測定の第2の倍率で撮影する。第1の倍率における絶対歪み補正値テーブル(Ix1,Iy1)は作成済とする。この絶対歪み補正値テーブル(Ix1,Iy1)を用いて第1の倍率を撮影しても良いし、補正値テーブルをゼロにして撮影しても良い。第2の倍率における撮影も同様である。いずれの場合においても、選択した補正値テーブルは計算機29のメモリ内に記録しておく。ここでは、第1の倍率は絶対ひずみ補正値テーブル(Ix1,Iy1)を用いて撮影し(図8(a))、第2の倍率は補正値テーブルをゼロとして撮影した(図8(c))。
【0026】
ステップ3では第1の倍率の画像(図8(a))を第2の倍率まで等方的に伸縮した伸縮画像(図8(b))を生成する。第1の倍率に対する第2の倍率の比はK. Takita, T. Aoki, Y. Sasaki, T. Higuchi and K. Kobayashi、 “High-Accuracy Subpixel Image Registration Based on Phase-Only Correlation”、IEICE Trans. Fundamentals, Vol. E86-A, No. 8, p1925-1934 (Aug. 2003)記載のような高精度な倍率測定法で求める。これまでの実験結果から、画素数400×400画素、倍率比〜1における倍率測定誤差は約0.02%、倍率比〜1.5における倍率測定誤差は約0.05%であり、他の測定法に比べて精度が高いことが示されている。
【0027】
ステップ4では、伸縮画像(図8(b))に対する第2の倍率の画像(図8(c))の相対歪みを測定する。ステップ4における相対歪み測定の手順を図17に示す。まず伸縮画像を小領域に分割し、各小領域の中心位置(x,y)を記録する。例えば図8(b)で星印が記入された小領域に着目する。第2の倍率の画像(図8(c))が実線の様に歪んでいたと仮定すると、星印の位置は図8(c)で示した位置まで平行移動する。図8(b)中の星印のある小領域を参照パターンとし、幾何歪みによる平行移動量(Dx,Dy)をパターンマッチングでもとめる。パターンマッチングのアルゴリズムとしては、位相限定相関、規格化相互相関法、最少二乗法などがある。平行移動量のテーブルは各小領域で測定された平行移動量を(Dx,Dy)は各小領域の中心にプロットして作成する(図8(c))。測定された幾何歪みを偏向器制御で補正するために、幾何歪みによる平行移動量 (Dx,Dy)を相殺するのに必要な偏向器制御値(dIx12,dIy12)を求める。視野の平行移動量と偏向器制御値変化量との関係は予め測定済とする。この関係を基に、平行移動量 のテーブルからX偏向用相対歪み補正テーブル(図8(d))およびY偏向用相対歪み補正テーブル(図8(e))を作成する。プロットされなかった位置の値を補完し、相対歪み補正値テーブルを完成させる。完成された相対歪み補正値テーブルを計算機内のメモリに記録する。なお、第1の倍率で撮影した画像ではなく、第2の倍率で撮影した画像を小領域に分割し、これを参照パターンとして幾何歪みによる平行移動量を求めることも可能である。
【0028】
電子ビーム走査がアナログ制御されている装置や、TEM(Transmission Electron Microscope:透過電子顕微鏡)の様にカメラで画像を撮影する装置では、撮影された画像を計算機内で幾何変換することによって幾何歪みを補正した画像を得ることができる。この場合、平行移動量テーブルにおいてプロットされなかった位置の値を補完し、平行移動量テーブルを完成させ、計算機内のメモリに記録する。また、平行移動量テーブルそのものではなく、画像処理による幾何歪み補正に必要なパラメータに変換した値を計算機に記録しても良い。更に、CD-SEM(Critical Dimension Scanning Electron Microscope)の様に測定対象や測定法が指定されている場合、歪み未補正画像を用いて試料形状を測長した後、測長結果を補正する。画像取り込みの度に無歪み画像を生成するよりも、測長結果を補正するフローの方が効率的である。この場合、幾何歪みよる平行移動量を測長結果の補正パラメータのテーブルに変換し、計算機内に記録する。
【0029】
ステップ5では、第2の倍率における絶対歪みを求める。今回、ステップ2において第1の倍率は絶対歪み補正値テーブル(Ix1,Iy1)を用い、第2の倍率は補正値テーブルをゼロにして撮影した。この場合、第1の倍率で撮影した画像は絶対歪みの無い画像と仮定できるので、ステップ4で測定された相対歪み補正値テーブル(dIx12,dIy12)を第2の倍率における絶対歪み補正値テーブル(Ix2,Iy2)とすることができる。別の撮影条件として、ステップ2で第1の倍率も第2の倍率も補正値テーブルをゼロとして撮影した場合、第1の倍率における絶対歪み補正値テーブル(Ix1,Iy1)を第2の倍率に合わせて伸縮した補正値テーブルにステップ4で測定された相対ひずみ補正値テーブル(dIx12,dIy12)を加算すると、第2の倍率における絶対ひずみ補正値テーブル(Ix2,Iy2)になる。また別の撮影条件として、ステップ2で第1の倍率は第1の倍率の絶対歪み補正値テーブル(Ix1,Iy1)を用い、第2の倍率は第1の倍率における絶対歪み補正値テーブルを第2の倍率に合わせて伸縮した補正値テーブルを用いた場合、伸縮した補正値テーブルにステップ4で測定された相対ひずみ補正値テーブル(dIx12,dIy12)を加算すると、第2の倍率における絶対ひずみ補正値テーブル(Ix2,Iy2)になる。第2の倍率における絶対歪み補正値テーブル(Ix2,Iy2)を第2の倍率と共に計算機29内のメモリに記録する。
【0030】
以後、第2の倍率を第1の倍率として上記の相対歪み測定を繰り返すことにより、任意の倍率における絶対歪み補正値テーブルを得ることができる。以上の手順で作成された絶対歪み補正値テーブルに基づき、走査用偏向器制御部17‘、もしくはイメージシフト用偏向器制御部16’を用いて幾何歪みを補正する。
【0031】
測定された幾何歪みは以下の方法で補正する。入射電子線のラスター走査で画像を形成する装置であり、電子ビーム走査がデジタル制御されている場合、走査用偏向器制御で歪みを補正することができる。デジタル制御では画素毎にX走査用偏向器の制御値、Y走査用偏向器の制御値が割り当てられている。これらの制御値に幾何歪みを相殺する補正値を加算することにより、幾何歪みが補正される。幾何歪み補正には、走査用偏向器制御部17‘、もしくはイメージシフト用偏向器制御部16’を用いる。図4(a)は走査用偏向器制御部17‘を用いて補正する場合の構成図である。DBC(Digital Beam Controller)に格納された制御値テーブルと共に、補正値テーブルを格納するFM(Frame Memory)を設ける。補正値テーブルの初期値はゼロとし、制御値テーブルの初期値で偏向器を制御してSTEM像を撮影する。STEM像の幾何歪みを求め、幾何歪みを相殺させる制御値を計算し、補正値テーブルとして計算機29に記録する。この補正値テーブルを計算機29から呼び出し、FMに格納する。FMに格納された補正値テーブルのDA変換値とDBCに格納された制御値テーブルのDA変換値が加算され、回転角度設定回路、倍率設定回路を通り、走査用偏向器17に送られる。なお、補正値テーブル用のFMを設けずに、制御値テーブルと補正値テーブルの加算値でDBCの制御値テーブルを更新するという構成もある。今回、FMを別途設ける構成としたのは、既存装置にオプションとして付加しやすい構成にするためにある。また、イメージシフト用偏向器制御部16’を用いて補正する構成もある。その場合の構成図を図4(b) に示す。補正値テーブルに基づいて生成された走査信号は、DA変換器、回転角度設定回路、倍率設定回路で変換された後イメージシフト偏向器16に送られる。この構成もオプションとして付加しやすい構成である。
【0032】
ここで、今回の平行移動量測定に用いた位相限定相関法について、図15を用いて説明する。位置ずれD=(Dx, Dy)のある2枚の離散画像S1(n, m)、S2(n, m)を仮定し、S1(n, m)=S2(n+Dx, m+Dy)と記述する。S1(n, m), S2(n, m)の2次元離散的フーリエ変換をS1’(k, l), S2’(k,l)とする。フーリエ変換にはF{S(n+Dx, m+Dy)}=F{S(n, m)}exp(iDx・k+iDyl)の公式があるので、S1’(k, l)=S2’(k, l)exp(iDx・k+iDy・l)と変形できる。つまりS1’(k, l)とS2’(k, l)の位置ずれは位相差exp(iDx・k+iDy・l)=P’(k, l)で表現される。P’(k, l)は周期が(Dx, Dy)の波でもあるので、位相差画像P’(k, l)を逆フーリエ変換した解析画像P(n, m)には(Dx, Dy)の位置にδ的なピークが発生する。なお振幅の情報を全て除去するのではなく、S1’(k, l)・S2’(k, l)*=|S1’||S2’| exp(iDx・k+iDy・l)の振幅成分にlogもしくは√の処理を施して振幅成分を抑制した画像を計算し、該画像に逆フーリエ変換を施しても、位置ずれベクトルの位置(Dx, Dy)にδ的なピークが発生するので、該画像で位置ずれ解析を行っても良い。位相差画像P’(k, l)をフーリエ変換しても(-Dx, -Dy)にδ的なピークが発生するので、位相差画像P’(k, l)のフーリエ変換像で位置ずれ解析を実行しても良い。
【0033】
解析画像P(n, m)にはδ的なピークのみが存在すると仮定できるので、重心位置計算や関数フィッティングによって、δ的なピークの位置を小数点以下の精度で求められる。またδ的なピーク以外は雑音と見なすことが出来るので、解析画像P(n, m)全体の強度に対するδ的なピークの強度の割合を画像間の一致度と見なすことが出来る。従来の位置ずれ解析法では位置ずれ解析結果の信頼性を評価することは困難であり、解析に必要な周波数成分が不足していたために間違った位置ずれ量を出力しても、その位置ずれ量に基づいて解析・校正フローを進めてしまう。これに対し本位置ずれ解析法では一致度が出力されるので、一致度の下限値を設定し、一致度が下限値以下であったであれば画像の取り直しなどの対策を自動的に行なう機能を設けてある。具体的には、正しく測定できなかった小領域の値を自動的に除去した後、補正値の補間をするフローを設けてある。測定不能と判断された小領域の割合が設定値以上になった場合は画像の取り直しを要求するエラーメッセージが表示される。
【0034】
また、一致度を参照することによって大凡の相対歪み量を評価することができる。伸縮画像と第2の倍率の画像の間の一致度を計算する。相対歪み量が小さいほど一致度は増加することから、一致度が一定値以上であると相対歪み量はほぼゼロであると判断される。この場合、ステップ4の相対歪み測定が省略可能となる。一致度を参照することによって相対歪みが補正されたか否かも判定できる。相対歪み補正結果に基づいて歪みを補正した補正画像と伸縮画像との間の一致度が、補正前の画像と伸縮画像との一致度に比べて増加していた場合、相対歪みが補正されたと判定される。
【0035】
第1の倍率に対する第2の倍率の相対歪み量が大きく、1回の測定で得られた結果では相対歪みを目標値以下まで補正できなかった場合には、以下の繰り返し補正を実施する。第1の倍率の画像を絶対歪み補正テーブルに基づいて撮影し、第2の倍率における画像を絶対歪み補正テーブルを用いて撮影する。ステップ3、4の手順で相対歪み補正テーブルを作成する。この相対歪み補正テーブルを第2の倍率における絶対歪み補正テーブルに加算する。これを第2の倍率における絶対歪み補正テーブルとする。上記補正を繰り返すことにより、第1の倍率に対する第2の倍率の相対歪みを目標値以下まで低減させる。
【0036】
なお、幾何歪み量が大きいことが予想される場合や、より高い解析精度が求められる場合、画像間の平行移動量だけでなく回転量と倍率も測定すると、平行移動量の測定精度が向上する。幾何歪み量が小さい場合は計算時間短縮のために平行移動量の測定のみ行なう。例えば、レシピ作成時に平行移動量、回転量、倍率を測定し、回転量および倍率がユーザーの指定した所定値以下であった場合は平行移動量のみ測定する設定にする。
【0037】
最後に、幾何歪み補正に用いる制御画面について説明する。図9に計算機29のメインウィンドウの基本構成を示す。制御ソフトの処理内容を並べたメニューバー41、処理内容をアイコン化して並べたツール-バー42、STEM像を表示するフィギャーウィンドウ43、各種パラメータの表示や設定に用いるサブウィンドウ44から構成されている。メニューバーもしくはツールバーから『パラメータ設定』、『絶対測定』、『相対測定』、『補正実行』の処理内容を選ぶことができる。『パラメータ設定』を選択すると、幾何歪み測定パラメータを設定するウィンドウが表示される(図10)。このウィンドウでは倍率ごとにボックスが表示されており、絶対測定、相対測定、未測定のいずれかを選択するようになっている。絶対測定が選択された倍率をダブルクリックすると、図11(a)に示す絶対歪み測定条件ウィンドウが表示される。表示ボックス47にはこれから絶対歪みを測定する選択倍率が表示される。入力ボックス48で標準試料における周期構造の間隔a、小領域分割数など入力する。相対測定が選択された倍率をダブルクリックすると、図11(b)に示すウィンドウが表示される。表示ボックス47には相対歪みを測定する選択倍率が表示される。入力ボックス48では相対測定の基準となる画像の倍率、小領域分割数など入力する。未測定が選択された倍率をダブルクリックすると、図11(c)に示すウィンドウが表示される。この倍率では幾何歪みの測定は実施せず、他の倍率で測定された幾何歪みに基づいて補正値テーブルを作成する。このウィンドウの入力ボックス48では補正値テーブルを参照する倍率を入力する。図11(a)から(c)の各ウィンドウには測定結果表示のプッシュボタンが設けてある。幾何歪み測定後にこのボタンをクリックすると図11(d)に示す測定結果表示ウィンドウが表示され、測定結果がSTEM像と重ねて表示される。測定結果としては、走査線の間隔(bx,by)、電子ビーム入射位置の平行移動量(Dx,Dy)、相対歪み補正値(dIx,dIy)、絶対歪み補正値(Ix,Iy)、一致度などが用意されている。どの測定結果を表示するかはプルダウンメニュー46で選択できる。図11には示していないが、図6や図8で示したような測定結果の単独表示も可能である。矢印ではなく数値表として表示することも可能である。
【0038】
幾何歪み測定パラメータの設定であるが、使用頻度の高い設定が幾つか用意されており、図10に示すプルダウンメニュー46から選択できるようになっている。例えば、各倍率における幾何歪みが全く未知の場合、全ての倍率で幾何歪みを測定する必要がある。その場合は図10(b)に示す設定を選択する。つまり、全ての倍率で幾何歪み測定を実施する。標準試料で絶対歪みを測定できる倍率は絶対歪み測定を、その他の倍率は相対歪み測定を選択する。別のケースとして、これまでの実験結果から幾何歪みがある程度予測できる場合もある。例えば、スキャン歪みは倍率設定回路切り換え時に変化し、同じ倍率設定回路を用いていれば倍率が変化してもスキャン歪みはほとんど変化しないことが示されていたとする。その場合は図10(a)に示す条件で幾何歪み補正を実施する。ここでは低倍率より第1レンジ用、第2レンジ用、第3レンジ用、第4レンジ用の4つの倍率設定回路を切り換えて使用していると仮定している。第1レンジでは歪曲収差起因の幾何歪みが顕在化しているので、最低倍率から倍率ごとに幾何歪み測定を実施し、歪み補正値テーブルを作成する。歪曲収差起因の幾何歪みが無視できる倍率になった時点で幾何歪み測定を終了する。このとき作成された絶対歪み補正値テーブルを第1レンジ用絶対歪み補正値テーブルとして残りの倍率で使用する。第2レンジ用絶対歪み補正値テーブルは、第1レンジ用絶対歪み補正値テーブルと、第1レンジの最高倍率で撮影した画像と第2レンジの最低倍率で撮影した画像から測定した相対歪み補正値テーブルから作成する。この絶対歪み補正値テーブルを第2レンジにおける他の倍率で使用する。同様の手順で第3レンジ用絶対歪み補正テーブルおよび第4レンジ用絶対歪み補正テーブルを作成し、幾何歪み補正を実施する。その他にも、ユーザーニーズに応じて幾何歪み測定条件を設定することもできる。例えば図10(c)に示す様に、高倍率で観察した格子像を用いて絶対測定を行なうこともできる。設定した条件はカスタム条件として保存することもできる。
【0039】
幾何歪み測定条件を設定した後、図12に示すフローで幾何歪み補正を実行する。周期構造試料をSTEM視野内に移動させ、図9に示すメニューから『絶対測定』を選択すると、絶対測定が設定された倍率の画像が撮影され、補正値テーブルが作成される。次に、微細構造試料をSTEM視野内に移動させ、図9に示すメニューから『相対測定』を選択すると、相対測定が設定された倍率の画像が撮影され、補正値テーブルが作成される。相対測定は、絶対測定が実施された倍率に近い倍率から順次行なう。各倍率の補正値テーブルを作成した後、『補正実行』のチェックボタンをonにすると、走査用偏向器制御部17‘、もしくはイメージシフト用偏向器制御部16’が補正値テーブルに基づいて制御され、幾何歪みが補正される。
【0040】
幾何歪み測定状況を知らせるために、図10のウィンドウにおいて幾何歪み測定中の倍率のアイコンに印を表示する機能も設けてある(図10(c))。また、幾何歪みが測定できなかった倍率のアイコンに印を表示する機能も設けてある(図10(b))。高倍率像では画像に含まれる微細構造が少なくなり、歪み解析不能となる場合がある。測定結果の詳細は図11(d)で示したウィンドウを開いて確認する。
【実施例2】
【0041】
本実施例ではTEMにおける幾何歪み補正技術を示す。図13に本実施の形態で用いるTEMの基本構成図を示す。1次電子線31を発生する電子銃11及び1次電子線31の加速電圧や引出し電圧を制御する制御回路11‘、1次電子線31の収束条件を調整する照射レンズ12及びその電流値を制御する制御回路12‘、1次電子線31の拡がり角を制御するコンデンサ絞り13及びコンデンサ絞りの位置を制御する制御する制御回路13’、試料30に入射する1次電子線31の入射角度を調整する軸ずれ補正用偏向器14及びその電流値を制御する制御回路14‘、試料30に入射する1次電子線31のビーム形状を調整するスティグメータ15及びその電流値を制御する制御回路15‘、1次電子線31の試料30に対する焦点位置を調整する対物レンズ18およびその電流値を制御する制御回路18‘、試料30の試料室内での位置を設定する試料ステージ19およびその位置を制御する制御回路19‘、試料30を通過した透過電子線32を投影する投影レンズ21及びその電流値を制御する制御回路21‘、投影された電子線32を検出する電子検出カメラ26およびそのゲインやオフセットを制御する制御回路26‘、 TEM制御ソフト、画像処理ソフトを搭載した計算機29から構成される。各制御回路は計算機29によってコマンド制御される。
【0042】
まず、図13の装置を用いてTEM像を得る工程を説明する。電子銃11から1次電子線を引出し電圧V1で引出し、加速電圧V0を印加する。鏡体の光軸とほぼ平行な方向をZ方向、光軸とほぼ直交する面をXY平面とする。薄膜化した試料30を試料ステージ19に載せ、Z方向より1次電子線31を入射する。照射レンズ12、軸ずれ補正用偏向器13、スティグメータ14を用いて1次電子線31がZ軸と平行な入射角度で試料に平行入射するように調整する。1次電子線31を薄膜化した試料30に入射すると、大部分の電子は試料30を透過する。投影レンズ21を用いて透過電子線32の像面を電子検出用カメラ26に投影し、TEM像を得る。TEM像の倍率は投影レンズ21の励磁電流によって設定する。
【0043】
投影レンズの歪曲収差などに起因して、TEM像が歪む場合がある。TEM像の幾何歪みも実施例1で記載した幾何歪み測定法で測定することができる。TEMとSTEMの違いは幾何歪み補正方法である。TEMはカメラで画像を撮影するので、STEMと同じ方法で幾何歪みを補正することはできない。TEMにおける幾何歪み補正法の1つは、幾何歪み補正用のレンズで補正する方法である。補正用レンズで補正を行なうことで実時間での補正が可能になる。さらにもう1つの補正方法として、画像処理による補正がある。電子線カメラ26で撮影した画像を、計算機29を用いて幾何変換する。画像処理による補正では、複雑な歪みでも簡便に補正できる。いずれの補正方法を選択するかは、投影レンズ21の幾何歪測定結果やオペレータの熟練度に基づいて判断した方が良い。
その他の工程は、実施例1における幾何歪み補正とほぼ同じである。
【実施例3】
【0044】
本実施例ではウェハ対応SEMにおける幾何歪み補正技術を示す。本実施例で使用するウェハ対応SEMの基本構成図を図14に示す。1次電子線31を発生する電子銃11及び一次電子線31の加速電圧や引出し電圧を制御する制御回路11‘、1次電子線31の収束条件を調整する照射レンズ12及びその電流値を制御する制御回路12‘、試料30に入射する1次電子線31の入射角度を調整する軸ずれ補正用偏向器14及びその電流値を制御する制御回路14‘、試料30に入射する1次電子線31のビーム形状を調整するスティグメータ15及びその電流値を制御する制御回路15‘、試料30に入射する1次電子線31の照射領域を調整するイメージシフト用偏向器16及びその電流値を制御する制御回路16‘、試料30に入射する1次電子線31をラスター走査する走査用偏向器17およびその電流値を制御する制御回路17‘、1次電子線31の試料30に対する焦点位置を調整する対物レンズ18およびその電流値を制御する制御回路18‘、試料30の試料室内での位置を設定する試料ステージ19およびその位置を制御する制御回路19‘、試料表面から出射する電子51を所定の方向へ偏向するE×B用偏向器27及びその電流値を制御する制御回路27‘、偏向された電子線が衝突する反射板28、反射板28から出射する電子線を検出する電子検出器20及びそのゲインやオフセットを制御する制御回路22‘、レーザー光33を用いた試料高さセンサー34及びそれを制御する制御回路34‘、SEM制御ソフトおよび画像処理ソフトを搭載した計算機29から構成される。各制御回路は計算機29によってコマンド制御される。
【0045】
まず、SEM像を得るまでの工程を説明する。電子銃11から一次電子線を引出し電圧V1で引出し、加速電圧V0を印加する。鏡体の光軸と平行な方向をZ方向、光軸と直交する面をXY平面とする。試料30を挿入し、レーザーを用いた試料高さセンサー34で試料30の高さを求め、試料ステージ19のZ位置調整または対物レンズ18の制御値調整によって対物レンズ18の焦点を試料30に合わせる。この調整は粗調整であり、画像解析可能な程度のあわせ精度で良い。また、焦点距離の測定を画像処理で実施しても良い。焦点粗調整の後、試料ステージ19のXY移動機構を用いて電子光学系調整用の視野を選択する。概電子光学系調整用視野で、軸ずれ、焦点、非点を補正する。次に試料ステージ19を用いて撮影用視野に移動し、画像が鮮明に観察できる様に対物レンズ18の焦点を微調整した後、画像の取込みを行なう。
【0046】
近年のウェハ対応SEMは空間分解能向上のために1次側の加速電圧を高くし、試料側に負の電圧を印加して試料入射電圧を減速させる減速電界方式(以下、リターディング方式)が採用されている。試料側に印加される負の電圧をリターディング電圧Vrと呼ぶ。半導体デバイスの寸法管理に用いられるCD-SEMでは、試料入射電圧がゼロに近づくようにリターディング電圧を設定している。電位コントラストから半導体デバイスの欠陥を検出する電子式ウェハ検査装置(Electron beam wafer inspection system)では、所望の電位コントラストを形成するためにリターディング電圧Vrをデバイスに合わせて調整する。このリターディング電圧Vrを変化させると試料に対するSEM像の倍率が変化する。リターディング電圧がウェハ面内で分布を持つとSEM像倍率がウェハ面内で変化する。つまり幾何歪みが発生する。この幾何歪みを実施例1で記載した方法で幾何歪みを測定し、補正する。ウェハ面内のリターディング電圧Vrの分布は試料ステージ形状に依存する。そのため、実施例3では試料ステージの位置に応じて補正値テーブルを更新する必要がある。
【0047】
また、近年のウェハ対応SEMは特定の検査、計測向けにカスタマイズされている場合が多い。DR-SEM(Defect Review Scanning Electron Microscope)は参照画像と入力画像の差画像からデバイスの不良箇所を検出する装置である。この場合、無歪み画像の生成が重要になる。歪みのある画像では画像内に位置によってパターン形状が変化するため、画像歪みによるパターン形状変化を不良と誤認識する可能性があるからである。一方、CD-SEMの様に指定された箇所の寸法を計測する装置では無歪み画像の生成は必須ではない。歪み未補正画像を用いて試料形状を測長した後、測長結果を補正する方法もあるからである。画像全体に歪み補正を実施するよりも、測長結果に補正を施す方が効率的である。無歪み画像の生成は、レシピ作成時のように画像を詳細に観察したい時のみで充分といえる。検査・計測の目的に合わせて幾何歪み補正を施す対象を設定した方が良い。
その他の工程は、実施例1における幾何歪み補正とほぼ同じである。
【実施例4】
【0048】
本発明における幾何歪み補正技術は、電子顕微鏡のみならず他の荷電粒子線装置にも適用可能である。例えば、イオンビームを細く集束して試料上をラスター走査し、試料から発生する電子線もしくは2次イオンを検出して試料構造を可視化するFocused Ion Beam (FIB)にも適用可能である。また、様々なプローブ顕微鏡、例えばScanning Tunnel Microscopy(STM)、 Atomic Force Microscopy(AFM)にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】幾何歪み測定工程を示すフローチャート。
【図2】STEM/SEMの基本構成図。
【図3】従来の走査用偏向器制御部および従来のイメージシフト用偏向器制御部の基本構成図。
【図4】(a)幾何歪み補正機能を持つ走査用偏向器制御部、および(b)幾何歪み補正機能を持つイメージシフト用偏向器制御部の基本構成図。
【図5】絶対幾何歪み補正に用いる試料の概略図であり、(a)1次元の周期構造、(b)2次元の周期構造、(c)2種類の1次元の周期構造を持つ試料を示す。
【図6】絶対幾何歪み補正の工程を示す説明図であり、(a)X方向の走査線の間隔bxの分布、(b)X走査用偏向器の補正値Ixの分布、(c)Y方向の走査線の間隔byの分布、(d)Y走査用偏向器の補正値Iyの分布の一例を示している。
【図7】絶対歪み測定条件の設定手順を示すフローチャート。
【図8】相対歪み測定の工程を示す説明図であり、(a)歪み測定済み画像、(b)伸縮画像、(c)歪み未測定の画像、(d)X走査用偏向器の補正値テーブル、(d)Y走査用偏向器の補正値テーブルの一例を示している。
【図9】メインウィンドウの基本構成図。
【図10】幾何歪み補正パラメータ設定用ウィンドウの基本構成図であり、(a)標準設定、(b)詳細設定、(c)カスタム設定の一例を示す。
【図11】(a)絶対歪み測定条件、(b)相対歪み測定条件、(c)歪み未測定条件を入力するウィンドウの基本構成図と、(d)歪み測定結果を表示するウィンドウの基本構成図。
【図12】幾何歪み補正工程を示すフローチャート。
【図13】TEMの基本構成図。
【図14】ウェハ対応SEMの基本構成図。
【図15】平行移動量測定法の説明図。
【図16】絶対歪み補正値テーブルの作成手順を示すフローチャート。
【図17】相対歪み補正値テーブルの作成手順を示すフローチャート。
【図18】従来技術と本発明との間の幾何歪み測定誤差の違いを示す説明図。
【符号の説明】
【0050】
11…電子銃、11‘…電子銃制御回路、12…照射レンズ、12‘…照射レンズ制御回路、13…コンデンサ絞り、13‘…コンデンサ絞り制御回路、14…軸ずれ補正用偏向器、14‘…軸ずれ補正用偏向器制御回路、15…スティグメータ、15‘…スティグメータ制御回路、16…イメージシフト用偏向器、16‘…イメージシフト用偏向器制御回路、17…走査用偏向器、17‘…走査用偏向器制御回路、18…対物レンズ、18‘…対物レンズ制御回路、19…試料ステージ、19‘…試料ステージ制御回路、20…投影レンズ、20‘…投影レンズ制御回路、21…軸ずれ補正用偏向器、21‘…軸ずれ補正用偏向器制御回路、22…電子検出器、22‘…電子検出器制御回路、23…散乱角度制限絞り、23‘…散乱角度制限絞り制御回路、24…対物絞り、24‘…対物絞り制御回路、25…制限視野絞り、25‘…制限視野絞り制御回路、26…電子線検出カメラ、26‘…電子線検出カメラ制御回路、27…E×B偏向器、27‘…E×B偏向器制御回路、28…反射板、29…STEM制御ソフトおよび画像処理ソフトを搭載した計算機、30…試料、31…1次電子線、32…電子線、33…レーザー光、34…レーザー光33を用いた試料高さセンサー、34’…高さセンサー制御回路、
41…メニューバー、42…ツールバー、43…フィギャアウィンドウ、44…サブウィンドウ、45…サブメニュー、46…プルダウンメニュー、47…表示ボックス、48…入力ボックス、49…プッシュボタン、50…チェックボタン、51…電子、52…明視野検出器、53…暗視野検出器、54…検出器、55…低角散乱電子、56…高角散乱電子、57…2次電子。
【技術分野】
【0001】
本発明は試料の寸法を計測する荷電粒子線装置、半導体デバイスのパターン検査に用いられる検査装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
nm(nano meter)精度で試料形状を可視化する装置としてSEM(Scanning Electron Microscope) 、STEM(Scanning Transmission Electron Microscope: 走査透過電子顕微鏡)、TEM(Transmission Electron Microscope: 透過電子顕微鏡)などがある。SEM/STEMはnmオーダーまで収束した電子ビームを試料上でラスター走査し、電子線照射領域から発生する信号を検出し、ラスター走査と同期させることによって画像を形成する装置である。TEMは平行な電子線を試料に照射し、試料を透過した電子を電磁界レンズによってカメラや蛍光板に拡大投影して観察する装置である。近年、半導体デバイス構造の微細化に伴い、高分解能SEMによる数10nm幅の寸法管理、STEMによる数nm幅の寸法管理、つまり中高倍率像を用いた寸法管理や中高倍率における欠陥検査等のニーズが増加している。これらの装置で得られた画像から試料の寸法や欠陥の形状等を正確に求めるには、試料に対する画像の正確な倍率が必要である。高精度な倍率校正技術として、特許文献1に記載の技術がある。まず、周期が既知の繰り返しパターンを含む標準試料を用いて試料に対する倍率を校正する。次に微細構造を持つ試料を用い、試料に対する倍率を実測した第1の画像を記録し、試料に対する倍率が未知の第2画像を記録し、画像解析を用いて第1の画像に対する第2の画像の倍率を解析する。試料に対する第1の画像の倍率と、第1の画像に対する第二の画像の倍率から、試料に対する第2の画像の倍率を求める。以後、第2の画像を第1の画像として上記倍率解析を繰り返す事により、全倍率範囲において倍率を測定する。
【0003】
ここで、上記特許文献1では画像面内での倍率が一様であり、幾何的な歪みが無いことを仮定している。しかしながら、実際には画像を幾何的に歪ませる様々な要因が存在する。具体的には特許文献2に記載のような試料高さ変化やリターディング電界変化に起因する歪み、特許文献3に記載のような歪曲収差による歪み、特許文献4に記載のような偏向歪みなどがある。
【0004】
上述したような幾何歪みを測定する技術として、特許文献5には200 nm周期の2次元周期構造を有するマークパターンを用い、このマークパターンと角度をなすように電子線を走査して干渉縞パターンを発生させ、この干渉縞パターンから幾何的な歪みを測定し、補正する技術が記載されている。幾何的な歪みを補正する技術として特許文献3には、標準マークを用いて試料高さ変化やリターディング電界変化に起因する幾何歪みを測定し、測定された幾何歪みに基づいて補正データテーブルを作成し、該補正データテーブルに基づいて電子ビーム走査を制御することによって幾何歪みを補正する技術が記載されている。また、特許文献2には電子光学レンズの歪曲収差による歪みをライン幅5μmから0.5μm程度の直交ラインを持つ試料で測定し、補正用レンズで補正する技術が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006-058210号
【特許文献2】特開2002-181336号
【特許文献3】特開2000-040481号
【特許文献4】特開2002-251975号
【特許文献5】特開2003-022733号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術では、構造既知の標準試料の画像を撮影し、標準試料像の歪み測定することによって装置起因の幾何歪みを測定していた。測定される幾何歪みの誤差は、画像処理の解析誤差と共に既知構造の寸法誤差に依存する。ここで従来技術で用いている標準試料としては、数100nmピッチの周期構造を有する低倍率用標準試料や金単結晶(0.102nm)、マイカ単結晶(1.0nm)等の格子像を高倍率用標準試料がある。これらの寸法誤差はいずれも1%以下である。しかし中間倍率用標準試料、つまり周期構造のピッチが数10nmから数 nmで寸法誤差が1%以下の試料は現在のところ存在しておらず中倍率用標準試料の寸法誤差は5%程度である。幾何歪み測定誤差は標準試料の寸法誤差よりも小さくすることは出来ない。従って、高精度な標準試料が存在しない倍率では、幾何歪みを高精度に測定することができず、高精度な補正が行なうことが出来ない。また、試料の欠陥検査等を行なう際に、補正が十分でない画像、すなわち幾何歪みを持つ画像で差画像を計算すると、幾何歪みを欠陥と誤認識してしまうこともある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、高精度な標準試料が存在しない倍率でも幾何歪みを高精度に測定し、補正する技術を提供することである。
【0008】
本発明では、寸法既知の周期構造を持つ絶対歪み測定用標準試料と、微細構造を持つ相対歪み測定用試料を用いる。まず、周期構造を持つ絶対歪み測定用標準試料を用いて第1の倍率における絶対歪みを測定する。微細構造を持つ相対歪み測定用試料を第1の倍率と第2の倍率で撮影する。第1の倍率で撮影した画像を第2の倍率まで等法的に伸縮した伸縮画像を生成する。伸縮画像と第2の倍率で撮影された画像を用いて第2の倍率の第1の倍率に対する相対歪みを測定する。第1の倍率の絶対歪みと第2の倍率の相対歪みから第2の倍率の絶対歪みを求める。以後、第2の倍率を第1の倍率に置き換えて上記ステップを繰り返すことにより、任意倍率における絶対歪みを求めることができる。得られた測定結果をもとに、任意倍率における絶対歪みを補正する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高精度な標準試料が存在しない倍率でも幾何歪みを高精度に測定し、補正することが可能となる。そのため、任意の倍率においてばらつき無く測長精度が向上する。さらに、幾何歪みを高精度に補正できることで、試料の欠陥検査の際にも誤認を防ぐことができ、欠陥検出効率も向上する。
【実施例1】
【0010】
本実施例では幾何歪み補正技術をSTEM/SEMに適用した事例を示す。図2に、本実施例で用いるSTEM/SEMの基本構成図を示す。1次電子線31を発生する電子銃11及び1次電子線31の加速電圧や引出し電圧を制御する制御回路11‘、1次電子線31を収束する照射レンズ12及びその電流値を制御する制御回路12’、1次電子線31の拡がり角を制御する絞り13及び絞りの位置を制御する制御回路13’、試料30に対する入射角度を制御する軸ずれ補正用偏向器14及びその電流値を制御する制御回路14‘、試料30に入射する1次電子線31のビーム形状を補正するスティグメータ15及びその電流値を制御する制御回路15‘、試料30に入射する1次電子線31の照射領域を調整するイメージシフト用偏向器16及びその電流値を制御する制御回路16‘、試料30に入射する1次電子線31をラスター走査する走査用偏向器17及びその電流値を制御する制御回路17‘、1次電子線31の試料30に対する焦点位置の調整する対物レンズ18及びその電流値を制御する制御回路18‘、試料30の位置を設定する試料ステージ19及びその位置を制御する制御回路19‘、試料30から発生する電子線32を検出する電子検出器22及び検出された電子線信号とラスター走査信号からSTEM/SEM像を形成する画像形成回路22‘、制御ソフト及び画像処理ソフトを搭載した計算機29から構成される。各制御回路、画像形成回路は計算機29によってコマンド制御される。本装置には複数の電子線検出器22が搭載されており、試料30前方に出射した電子線のうち、低角散乱電子を検出する明視野検出器52及びそれを制御する制御部52’、高角散乱電子を検出する暗視野検出器53及びそれを制御する制御部53’、試料30後方に出射した反射電子または/及び2次電子を検出する検出器54及びそれを制御する制御部54’が搭載されている。試料30前方に出射した電子で形成された画像をSTEM像、試料30後方に出射した電子で形成された画像をSEM像とする。以後、簡単のためにSTEM像のみを説明する。SEM像とSTEM像は検出電子の種類が違うだけであり、画像に含まれる幾何歪みは同じである。
【0011】
まず、図2の装置を用いて光学系から電子線を試料に照射してSTEM像を得る工程を説明する。電子銃11から1次電子線31を引出し電圧V1で引出し、加速電圧V0を印加する。鏡体の光軸とほぼ平行な方向をZ方向、光軸とほぼ直交する面をXY平面とする。薄膜化した試料30を試料ステージ19に載せ、Z方向より1次電子線31を入射する。照射レンズ12を用いてnmオーダーまで収束した1次電子線31を、走査用偏向器17を用いて試料30上でラスター走査する。1次電子線31の入射によって試料30から出射する電子線32を電子線検出器22で検出する。検出された電子線信号と走査用偏向器17のラスター走査信号と同期させてSTEM像を形成する。
【0012】
図3に走査用偏向器17の制御回路17‘の例を示す。電子ビームの走査はデジタル制御されており、画素ごとにX走査用制御値とY走査用制御値が割り当てられている。つまり、X走査用制御値テーブルとY走査用制御値テーブルを持つ。波形生成部では制御値テーブルに基づいてX走査用制御信号およびY走査用制御信号を生成する。X走査用制御信号およびY走査用制御信号はデジタル-アナログ(DA)変換された後、電子ビームの走査方向を変化させる回転角度設定部をとおり、電子ビームの走査範囲を制御する倍率設定部にそれぞれ送られる。ここでは、電子回路で発生する波形歪み、偏向器のヒステリシスなどに起因して発生する幾何歪みをスキャン歪みと称する。
【0013】
また図3には、後述の幾何歪み補正で使用するイメージシフト用偏向器16の制御部16’も記載しておく。イメージシフト偏向器16は視野位置の微調整のために設けられた偏向器であり、入射電子線31の軌道に対して走査用偏向器17と同様に作用するように設計されている。具体的には、偏向器の位置と巻数を同一にする構成として、コイルの導線を2重巻きにし、一方をイメージシフト用、他方を走査信号用に用いる構成になっている。イメージシフト偏向器16には視野移動量に応じた制御値が計算機29から送られる。送られた制御値はDA変換された後、回転角度設定部で変換され、イメージシフト偏向器16に送られる。
【0014】
本実施例では、図1のようなフローに従い、絶対歪み測定と相対歪み測定という2段階の工程に分けて幾何歪みを測定する。絶対歪みとは試料に対する画像の幾何歪みであり、相対歪みとはある画像に対する別の画像の幾何歪みである。
【0015】
幾何歪みの測定に当たっては、まず周期構造を持つ標準試料を用いて第1の倍率の絶対歪みを測定する(ステップ1)。次に、微細構造を有する試料を第1の倍率と第2の倍率で撮影する(ステップ2)。そして、第1の倍率で撮影した画像を第2の倍率まで等方的に伸縮した伸縮画像を形成する(ステップ3)。次に、伸縮画像と第2の倍率で撮影された画像を用いて第2の倍率の第1の倍率に対する相対歪みを測定する(ステップ4)。そして、第1の倍率の絶対歪みと第2の倍率の相対歪みから第2の倍率の絶対歪みを求める(ステップ5)。以後、第2の倍率を第1の倍率に置き換えて上記ステップを繰り返すことにより、任意倍率における絶対歪みを求める。そして得られた測定結果をもとに、任意倍率における絶対歪みを、補正部としての役割を有する計算機により各制御部を制御することで補正する。
【0016】
相対歪み測定では共通視野をもつ画像ペアを撮影し、パターンマッチングによって幾何歪みによる視野の変形を測定する。相対歪み測定は周期構造を持つ標準試料を必要としない。汎用の光軸調整用試料で実行できる。例えば、ガラス基板にラテックス微粒子を分散させた後、金属アモルファス膜(オスミウムなど)でコーティングしたSEM用試料、網目状のCu箔にのせられたカーボン薄膜に金を微粒子状に蒸着したTEM用試料など、低倍率から高倍率まで微細構造が観察可能な試料が適している。倍率に応じて複数の試料を用いることも可能であり、低倍率用のアモルファス試料と高倍率用のアモルファス試料を用意しておいても良い。試料を切り換える際、同じ撮影条件で両方の試料を撮影しておくことにより、その倍率における幾何的な歪みの情報を引き継ぐことができるからである。
【0017】
このように、測定法を最適化することにより、相対歪みの測定誤差を1%以下にすることができる。中倍率で観察可能な数10 nm から数nmピッチの周期構造の寸法誤差は現在のところ3%程度である。
【0018】
ここで、中倍率の校正を従来技術と本発明で実施した場合の幾何歪み測定誤差の一例を図18に示す。寸法精度の低い標準試料を用いて中高倍率の幾何歪みを直接測定するより、寸法誤差1%以下の標準試料で測定した倍率を起点として相対歪み測定を繰り返す間接的な測定の方が高い測定精度が得られることがわかる。
【0019】
以下、幾何歪み測定方法の詳細を説明する。
絶対歪み測定は図16のフローに従って行なう。ここでは1次元の周期構造を持つ試料を用いる。試料の周期間隔をaとし、X方向のなす角をβとする。この試料のSTEM像を撮影し、STEM像を小領域に分割する。STEM像における周期構造の間隔cとし、X方向となす角をγとする。まず、各小領域における周期構造の間隔cと方向γをSTEM像のフーリエ変換像から求める。これを走査線の間隔に変換する。X方向の走査線の間隔bxはcx=c・cosγ[画素数]でax=a・cosβ[SI単位]を割ることによって、Y方向の走査線の間隔byはcy=c・sinγ[画素数]でay=a・sinβ[SI単位]を割ることによって計算される。幾何歪みがあるとbxおよびbyはSTEM像内で変化する。各小領域におけるbxが全て等しいとX方向の幾何歪みが、byが全て等しいとY方向の幾何歪みが補正されていると判断される。
【0020】
次に、各小領域における走査線の間隔bx、byから絶対歪み補正値テーブルを作成する。X走査用偏向器の走査線間隔テーブルは、各小領域で測定された走査線間隔bxを各小領域の中心位置にプロットして作成する(図6(a))。次に、走査線間隔bxのテーブルを電子ビームの平行移動Dxのテーブルに変換する。走査線間隔テーブルの中から基準点を選択し、基準点からの走査線の間隔bxの変化の積算値を求め、電子ビーム入射位置の平行移動量Dxを計算する。そして、電子ビームの平行移動量Dxのテーブルを偏向器制御値の補正値Ixのテーブルに変換する。偏向器制御値変化量と電子ビーム移動量の関係の関係を予め測定し、歪みによる電子ビームの平行移動量を相殺するのに必要な偏向器制御値変化量を求め、絶対歪み補正値テーブルに記録する。最後に、プロットされなかった位置の値を補完してテーブルを完成させる。例えば図6(a)の様に、STEM像の中央部付近では走査線bxの間隔が広く、周辺部では走査線bxの間隔が狭くなっていたとする。この分布から、周辺部における電子ビームの入射位置が内側にずれていると判断される。このずれを相殺するには、周辺部における電子ビーム入射位置を外側にずらす必要がある。つまり、絶対歪み補正値テーブルにおける値は図6(b)に示す分布を持つ。Y走査用偏向器の絶対歪み補正値テーブルも同様の手順で作成する。作成された絶対歪み補正値テーブルは倍率と共に計算機29のメモリに保存される。
【0021】
絶対歪み測定で用いる試料は、周期構造の間隔aの加工精度が走査線の間隔bの測定精度に直接影響するため、寸法誤差が1%以下程度であることが望ましい。絶対歪み測定では、2方向の走査線間隔bxとbyを測定するために、図5(c)の様に1次元の周期構造を持つ試料を2つ用意し、互いに直交するように配置した試料を用いるのが一般的である。また図5(a)に示す様に1次元構造を持つ試料を1つ用意し、β〜45°とすることによってbxとbyをほぼ等しい精度で測定することもできる。図5(b)に示す様に、1つの視野に2種類の周期構造を持つ試料も作成可能であるが、試料構造を複雑にすると周期構造の間隔aの加工精度が低下する可能性がある。
さらに、絶対歪み測定の標準試料に格子像を用いることもできる。格子間隔は狭いもので、金単結晶の0.102 nm、広いものではマイカ単結晶の1.0 nm等がある。画像内に複数の周期構造がある点であので、図5(b)に示す様に、周期構造の方向がX方向およびY方向と並行になるように設定すると良い。
【0022】
ここで、絶対歪み測定におけるSTEM像の視野径および小領域分割数の設定について説明する。この設定は図7のフローに従って行なう。周期間隔cはフーリエ変換像に発生するピークの間隔から求める。周期間隔cの測定精度は、ピーク間隔が広く、個々のピーク幅が狭いほど向上する。ピーク間隔が最も広くなるのはcが2画素周期の時である。実際の測定ではピーク間隔が伸縮するので、2画素よりもやや大きめに設定する。試料は寸法誤差が1%以下の標準試料、例えばμスケール(特許2544588号)と仮定し、TEM像の画素数は1024×1024と仮定すると、STEM像の視野径は(240nm/2画素)×1024画素=123μmよりも1割程度小さい、110μm程度が適当であると算出される。これはSTEMにおける最低倍率における視野径に相当する。次に、撮影した画像を小領域に分割する際の分割数を設定する。小領域に含まれる周期数nが増加するとピーク幅は狭くなり、歪み測定精度は向上する。しかし周期数nを増加させると小領域の視野径が大きくなり、歪み測定の空間分解能が劣化する。小領域のサイズは測定精度と空間分解能を考慮して設定する必要がある。小領域のサイズを変化させた時の歪み測定精度の変化を予め測定しておき、これに基づいて小領域のサイズを設定する。我々の撮影条件ではμスケール20周期における測定精度が大凡0.1%となったことから、小領域のサイズを5μm×5μmとして22×22個に分割するのが適当と判断した。これよりも高い歪み測定精度が必要な場合は小領域に含まれる周期を増やす必要がある。歪み測定精度よりも歪み分布の空間分解能が必要な場合は小領域に含まれる周期を減らす必要がある。
【0023】
また絶対歪みを測定する別の方法として、モアレ縞を利用した方法もある。モアレ縞を利用した方法の利点は、画像処理を用いずに、走査線間隔の僅かな変化を可視化できる点である。しかし、モアレ縞を利用する方法は上記フーリエ変換を用いた方法に比べて空間分解能が低くなるので、使用目的に合わせて適宜選択すればよい。
【0024】
次に、相対歪み測定について説明する。図1に示す幾何歪み測定フローのうち、ステップ2以降が相対歪み測定フローになる。なお、幾何歪み補正では基準とする第1の倍率の方を低くする、つまり広視野に設定した方が良い。第2の倍率で撮影した画像の視野の方が広いと、第2の倍率の画像の周辺部が第1の倍率では撮影されない領域で形成される。該周辺部では相対歪みが測定できない。画像の中央部における幾何歪みから周辺部の幾何歪みを補完できる場合は第1の倍率の方が第2の倍率よりも高くても良いが、周辺部の幾何歪みを直接測定する必要がある場合は第1の倍率の方を第2の倍率よりも低くする必要がある。
【0025】
以下、各ステップの詳細について図8を用いて説明する。ステップ2では相対歪み測定用試料を幾何歪み測定済の第1の倍率と、幾何歪み未測定の第2の倍率で撮影する。第1の倍率における絶対歪み補正値テーブル(Ix1,Iy1)は作成済とする。この絶対歪み補正値テーブル(Ix1,Iy1)を用いて第1の倍率を撮影しても良いし、補正値テーブルをゼロにして撮影しても良い。第2の倍率における撮影も同様である。いずれの場合においても、選択した補正値テーブルは計算機29のメモリ内に記録しておく。ここでは、第1の倍率は絶対ひずみ補正値テーブル(Ix1,Iy1)を用いて撮影し(図8(a))、第2の倍率は補正値テーブルをゼロとして撮影した(図8(c))。
【0026】
ステップ3では第1の倍率の画像(図8(a))を第2の倍率まで等方的に伸縮した伸縮画像(図8(b))を生成する。第1の倍率に対する第2の倍率の比はK. Takita, T. Aoki, Y. Sasaki, T. Higuchi and K. Kobayashi、 “High-Accuracy Subpixel Image Registration Based on Phase-Only Correlation”、IEICE Trans. Fundamentals, Vol. E86-A, No. 8, p1925-1934 (Aug. 2003)記載のような高精度な倍率測定法で求める。これまでの実験結果から、画素数400×400画素、倍率比〜1における倍率測定誤差は約0.02%、倍率比〜1.5における倍率測定誤差は約0.05%であり、他の測定法に比べて精度が高いことが示されている。
【0027】
ステップ4では、伸縮画像(図8(b))に対する第2の倍率の画像(図8(c))の相対歪みを測定する。ステップ4における相対歪み測定の手順を図17に示す。まず伸縮画像を小領域に分割し、各小領域の中心位置(x,y)を記録する。例えば図8(b)で星印が記入された小領域に着目する。第2の倍率の画像(図8(c))が実線の様に歪んでいたと仮定すると、星印の位置は図8(c)で示した位置まで平行移動する。図8(b)中の星印のある小領域を参照パターンとし、幾何歪みによる平行移動量(Dx,Dy)をパターンマッチングでもとめる。パターンマッチングのアルゴリズムとしては、位相限定相関、規格化相互相関法、最少二乗法などがある。平行移動量のテーブルは各小領域で測定された平行移動量を(Dx,Dy)は各小領域の中心にプロットして作成する(図8(c))。測定された幾何歪みを偏向器制御で補正するために、幾何歪みによる平行移動量 (Dx,Dy)を相殺するのに必要な偏向器制御値(dIx12,dIy12)を求める。視野の平行移動量と偏向器制御値変化量との関係は予め測定済とする。この関係を基に、平行移動量 のテーブルからX偏向用相対歪み補正テーブル(図8(d))およびY偏向用相対歪み補正テーブル(図8(e))を作成する。プロットされなかった位置の値を補完し、相対歪み補正値テーブルを完成させる。完成された相対歪み補正値テーブルを計算機内のメモリに記録する。なお、第1の倍率で撮影した画像ではなく、第2の倍率で撮影した画像を小領域に分割し、これを参照パターンとして幾何歪みによる平行移動量を求めることも可能である。
【0028】
電子ビーム走査がアナログ制御されている装置や、TEM(Transmission Electron Microscope:透過電子顕微鏡)の様にカメラで画像を撮影する装置では、撮影された画像を計算機内で幾何変換することによって幾何歪みを補正した画像を得ることができる。この場合、平行移動量テーブルにおいてプロットされなかった位置の値を補完し、平行移動量テーブルを完成させ、計算機内のメモリに記録する。また、平行移動量テーブルそのものではなく、画像処理による幾何歪み補正に必要なパラメータに変換した値を計算機に記録しても良い。更に、CD-SEM(Critical Dimension Scanning Electron Microscope)の様に測定対象や測定法が指定されている場合、歪み未補正画像を用いて試料形状を測長した後、測長結果を補正する。画像取り込みの度に無歪み画像を生成するよりも、測長結果を補正するフローの方が効率的である。この場合、幾何歪みよる平行移動量を測長結果の補正パラメータのテーブルに変換し、計算機内に記録する。
【0029】
ステップ5では、第2の倍率における絶対歪みを求める。今回、ステップ2において第1の倍率は絶対歪み補正値テーブル(Ix1,Iy1)を用い、第2の倍率は補正値テーブルをゼロにして撮影した。この場合、第1の倍率で撮影した画像は絶対歪みの無い画像と仮定できるので、ステップ4で測定された相対歪み補正値テーブル(dIx12,dIy12)を第2の倍率における絶対歪み補正値テーブル(Ix2,Iy2)とすることができる。別の撮影条件として、ステップ2で第1の倍率も第2の倍率も補正値テーブルをゼロとして撮影した場合、第1の倍率における絶対歪み補正値テーブル(Ix1,Iy1)を第2の倍率に合わせて伸縮した補正値テーブルにステップ4で測定された相対ひずみ補正値テーブル(dIx12,dIy12)を加算すると、第2の倍率における絶対ひずみ補正値テーブル(Ix2,Iy2)になる。また別の撮影条件として、ステップ2で第1の倍率は第1の倍率の絶対歪み補正値テーブル(Ix1,Iy1)を用い、第2の倍率は第1の倍率における絶対歪み補正値テーブルを第2の倍率に合わせて伸縮した補正値テーブルを用いた場合、伸縮した補正値テーブルにステップ4で測定された相対ひずみ補正値テーブル(dIx12,dIy12)を加算すると、第2の倍率における絶対ひずみ補正値テーブル(Ix2,Iy2)になる。第2の倍率における絶対歪み補正値テーブル(Ix2,Iy2)を第2の倍率と共に計算機29内のメモリに記録する。
【0030】
以後、第2の倍率を第1の倍率として上記の相対歪み測定を繰り返すことにより、任意の倍率における絶対歪み補正値テーブルを得ることができる。以上の手順で作成された絶対歪み補正値テーブルに基づき、走査用偏向器制御部17‘、もしくはイメージシフト用偏向器制御部16’を用いて幾何歪みを補正する。
【0031】
測定された幾何歪みは以下の方法で補正する。入射電子線のラスター走査で画像を形成する装置であり、電子ビーム走査がデジタル制御されている場合、走査用偏向器制御で歪みを補正することができる。デジタル制御では画素毎にX走査用偏向器の制御値、Y走査用偏向器の制御値が割り当てられている。これらの制御値に幾何歪みを相殺する補正値を加算することにより、幾何歪みが補正される。幾何歪み補正には、走査用偏向器制御部17‘、もしくはイメージシフト用偏向器制御部16’を用いる。図4(a)は走査用偏向器制御部17‘を用いて補正する場合の構成図である。DBC(Digital Beam Controller)に格納された制御値テーブルと共に、補正値テーブルを格納するFM(Frame Memory)を設ける。補正値テーブルの初期値はゼロとし、制御値テーブルの初期値で偏向器を制御してSTEM像を撮影する。STEM像の幾何歪みを求め、幾何歪みを相殺させる制御値を計算し、補正値テーブルとして計算機29に記録する。この補正値テーブルを計算機29から呼び出し、FMに格納する。FMに格納された補正値テーブルのDA変換値とDBCに格納された制御値テーブルのDA変換値が加算され、回転角度設定回路、倍率設定回路を通り、走査用偏向器17に送られる。なお、補正値テーブル用のFMを設けずに、制御値テーブルと補正値テーブルの加算値でDBCの制御値テーブルを更新するという構成もある。今回、FMを別途設ける構成としたのは、既存装置にオプションとして付加しやすい構成にするためにある。また、イメージシフト用偏向器制御部16’を用いて補正する構成もある。その場合の構成図を図4(b) に示す。補正値テーブルに基づいて生成された走査信号は、DA変換器、回転角度設定回路、倍率設定回路で変換された後イメージシフト偏向器16に送られる。この構成もオプションとして付加しやすい構成である。
【0032】
ここで、今回の平行移動量測定に用いた位相限定相関法について、図15を用いて説明する。位置ずれD=(Dx, Dy)のある2枚の離散画像S1(n, m)、S2(n, m)を仮定し、S1(n, m)=S2(n+Dx, m+Dy)と記述する。S1(n, m), S2(n, m)の2次元離散的フーリエ変換をS1’(k, l), S2’(k,l)とする。フーリエ変換にはF{S(n+Dx, m+Dy)}=F{S(n, m)}exp(iDx・k+iDyl)の公式があるので、S1’(k, l)=S2’(k, l)exp(iDx・k+iDy・l)と変形できる。つまりS1’(k, l)とS2’(k, l)の位置ずれは位相差exp(iDx・k+iDy・l)=P’(k, l)で表現される。P’(k, l)は周期が(Dx, Dy)の波でもあるので、位相差画像P’(k, l)を逆フーリエ変換した解析画像P(n, m)には(Dx, Dy)の位置にδ的なピークが発生する。なお振幅の情報を全て除去するのではなく、S1’(k, l)・S2’(k, l)*=|S1’||S2’| exp(iDx・k+iDy・l)の振幅成分にlogもしくは√の処理を施して振幅成分を抑制した画像を計算し、該画像に逆フーリエ変換を施しても、位置ずれベクトルの位置(Dx, Dy)にδ的なピークが発生するので、該画像で位置ずれ解析を行っても良い。位相差画像P’(k, l)をフーリエ変換しても(-Dx, -Dy)にδ的なピークが発生するので、位相差画像P’(k, l)のフーリエ変換像で位置ずれ解析を実行しても良い。
【0033】
解析画像P(n, m)にはδ的なピークのみが存在すると仮定できるので、重心位置計算や関数フィッティングによって、δ的なピークの位置を小数点以下の精度で求められる。またδ的なピーク以外は雑音と見なすことが出来るので、解析画像P(n, m)全体の強度に対するδ的なピークの強度の割合を画像間の一致度と見なすことが出来る。従来の位置ずれ解析法では位置ずれ解析結果の信頼性を評価することは困難であり、解析に必要な周波数成分が不足していたために間違った位置ずれ量を出力しても、その位置ずれ量に基づいて解析・校正フローを進めてしまう。これに対し本位置ずれ解析法では一致度が出力されるので、一致度の下限値を設定し、一致度が下限値以下であったであれば画像の取り直しなどの対策を自動的に行なう機能を設けてある。具体的には、正しく測定できなかった小領域の値を自動的に除去した後、補正値の補間をするフローを設けてある。測定不能と判断された小領域の割合が設定値以上になった場合は画像の取り直しを要求するエラーメッセージが表示される。
【0034】
また、一致度を参照することによって大凡の相対歪み量を評価することができる。伸縮画像と第2の倍率の画像の間の一致度を計算する。相対歪み量が小さいほど一致度は増加することから、一致度が一定値以上であると相対歪み量はほぼゼロであると判断される。この場合、ステップ4の相対歪み測定が省略可能となる。一致度を参照することによって相対歪みが補正されたか否かも判定できる。相対歪み補正結果に基づいて歪みを補正した補正画像と伸縮画像との間の一致度が、補正前の画像と伸縮画像との一致度に比べて増加していた場合、相対歪みが補正されたと判定される。
【0035】
第1の倍率に対する第2の倍率の相対歪み量が大きく、1回の測定で得られた結果では相対歪みを目標値以下まで補正できなかった場合には、以下の繰り返し補正を実施する。第1の倍率の画像を絶対歪み補正テーブルに基づいて撮影し、第2の倍率における画像を絶対歪み補正テーブルを用いて撮影する。ステップ3、4の手順で相対歪み補正テーブルを作成する。この相対歪み補正テーブルを第2の倍率における絶対歪み補正テーブルに加算する。これを第2の倍率における絶対歪み補正テーブルとする。上記補正を繰り返すことにより、第1の倍率に対する第2の倍率の相対歪みを目標値以下まで低減させる。
【0036】
なお、幾何歪み量が大きいことが予想される場合や、より高い解析精度が求められる場合、画像間の平行移動量だけでなく回転量と倍率も測定すると、平行移動量の測定精度が向上する。幾何歪み量が小さい場合は計算時間短縮のために平行移動量の測定のみ行なう。例えば、レシピ作成時に平行移動量、回転量、倍率を測定し、回転量および倍率がユーザーの指定した所定値以下であった場合は平行移動量のみ測定する設定にする。
【0037】
最後に、幾何歪み補正に用いる制御画面について説明する。図9に計算機29のメインウィンドウの基本構成を示す。制御ソフトの処理内容を並べたメニューバー41、処理内容をアイコン化して並べたツール-バー42、STEM像を表示するフィギャーウィンドウ43、各種パラメータの表示や設定に用いるサブウィンドウ44から構成されている。メニューバーもしくはツールバーから『パラメータ設定』、『絶対測定』、『相対測定』、『補正実行』の処理内容を選ぶことができる。『パラメータ設定』を選択すると、幾何歪み測定パラメータを設定するウィンドウが表示される(図10)。このウィンドウでは倍率ごとにボックスが表示されており、絶対測定、相対測定、未測定のいずれかを選択するようになっている。絶対測定が選択された倍率をダブルクリックすると、図11(a)に示す絶対歪み測定条件ウィンドウが表示される。表示ボックス47にはこれから絶対歪みを測定する選択倍率が表示される。入力ボックス48で標準試料における周期構造の間隔a、小領域分割数など入力する。相対測定が選択された倍率をダブルクリックすると、図11(b)に示すウィンドウが表示される。表示ボックス47には相対歪みを測定する選択倍率が表示される。入力ボックス48では相対測定の基準となる画像の倍率、小領域分割数など入力する。未測定が選択された倍率をダブルクリックすると、図11(c)に示すウィンドウが表示される。この倍率では幾何歪みの測定は実施せず、他の倍率で測定された幾何歪みに基づいて補正値テーブルを作成する。このウィンドウの入力ボックス48では補正値テーブルを参照する倍率を入力する。図11(a)から(c)の各ウィンドウには測定結果表示のプッシュボタンが設けてある。幾何歪み測定後にこのボタンをクリックすると図11(d)に示す測定結果表示ウィンドウが表示され、測定結果がSTEM像と重ねて表示される。測定結果としては、走査線の間隔(bx,by)、電子ビーム入射位置の平行移動量(Dx,Dy)、相対歪み補正値(dIx,dIy)、絶対歪み補正値(Ix,Iy)、一致度などが用意されている。どの測定結果を表示するかはプルダウンメニュー46で選択できる。図11には示していないが、図6や図8で示したような測定結果の単独表示も可能である。矢印ではなく数値表として表示することも可能である。
【0038】
幾何歪み測定パラメータの設定であるが、使用頻度の高い設定が幾つか用意されており、図10に示すプルダウンメニュー46から選択できるようになっている。例えば、各倍率における幾何歪みが全く未知の場合、全ての倍率で幾何歪みを測定する必要がある。その場合は図10(b)に示す設定を選択する。つまり、全ての倍率で幾何歪み測定を実施する。標準試料で絶対歪みを測定できる倍率は絶対歪み測定を、その他の倍率は相対歪み測定を選択する。別のケースとして、これまでの実験結果から幾何歪みがある程度予測できる場合もある。例えば、スキャン歪みは倍率設定回路切り換え時に変化し、同じ倍率設定回路を用いていれば倍率が変化してもスキャン歪みはほとんど変化しないことが示されていたとする。その場合は図10(a)に示す条件で幾何歪み補正を実施する。ここでは低倍率より第1レンジ用、第2レンジ用、第3レンジ用、第4レンジ用の4つの倍率設定回路を切り換えて使用していると仮定している。第1レンジでは歪曲収差起因の幾何歪みが顕在化しているので、最低倍率から倍率ごとに幾何歪み測定を実施し、歪み補正値テーブルを作成する。歪曲収差起因の幾何歪みが無視できる倍率になった時点で幾何歪み測定を終了する。このとき作成された絶対歪み補正値テーブルを第1レンジ用絶対歪み補正値テーブルとして残りの倍率で使用する。第2レンジ用絶対歪み補正値テーブルは、第1レンジ用絶対歪み補正値テーブルと、第1レンジの最高倍率で撮影した画像と第2レンジの最低倍率で撮影した画像から測定した相対歪み補正値テーブルから作成する。この絶対歪み補正値テーブルを第2レンジにおける他の倍率で使用する。同様の手順で第3レンジ用絶対歪み補正テーブルおよび第4レンジ用絶対歪み補正テーブルを作成し、幾何歪み補正を実施する。その他にも、ユーザーニーズに応じて幾何歪み測定条件を設定することもできる。例えば図10(c)に示す様に、高倍率で観察した格子像を用いて絶対測定を行なうこともできる。設定した条件はカスタム条件として保存することもできる。
【0039】
幾何歪み測定条件を設定した後、図12に示すフローで幾何歪み補正を実行する。周期構造試料をSTEM視野内に移動させ、図9に示すメニューから『絶対測定』を選択すると、絶対測定が設定された倍率の画像が撮影され、補正値テーブルが作成される。次に、微細構造試料をSTEM視野内に移動させ、図9に示すメニューから『相対測定』を選択すると、相対測定が設定された倍率の画像が撮影され、補正値テーブルが作成される。相対測定は、絶対測定が実施された倍率に近い倍率から順次行なう。各倍率の補正値テーブルを作成した後、『補正実行』のチェックボタンをonにすると、走査用偏向器制御部17‘、もしくはイメージシフト用偏向器制御部16’が補正値テーブルに基づいて制御され、幾何歪みが補正される。
【0040】
幾何歪み測定状況を知らせるために、図10のウィンドウにおいて幾何歪み測定中の倍率のアイコンに印を表示する機能も設けてある(図10(c))。また、幾何歪みが測定できなかった倍率のアイコンに印を表示する機能も設けてある(図10(b))。高倍率像では画像に含まれる微細構造が少なくなり、歪み解析不能となる場合がある。測定結果の詳細は図11(d)で示したウィンドウを開いて確認する。
【実施例2】
【0041】
本実施例ではTEMにおける幾何歪み補正技術を示す。図13に本実施の形態で用いるTEMの基本構成図を示す。1次電子線31を発生する電子銃11及び1次電子線31の加速電圧や引出し電圧を制御する制御回路11‘、1次電子線31の収束条件を調整する照射レンズ12及びその電流値を制御する制御回路12‘、1次電子線31の拡がり角を制御するコンデンサ絞り13及びコンデンサ絞りの位置を制御する制御する制御回路13’、試料30に入射する1次電子線31の入射角度を調整する軸ずれ補正用偏向器14及びその電流値を制御する制御回路14‘、試料30に入射する1次電子線31のビーム形状を調整するスティグメータ15及びその電流値を制御する制御回路15‘、1次電子線31の試料30に対する焦点位置を調整する対物レンズ18およびその電流値を制御する制御回路18‘、試料30の試料室内での位置を設定する試料ステージ19およびその位置を制御する制御回路19‘、試料30を通過した透過電子線32を投影する投影レンズ21及びその電流値を制御する制御回路21‘、投影された電子線32を検出する電子検出カメラ26およびそのゲインやオフセットを制御する制御回路26‘、 TEM制御ソフト、画像処理ソフトを搭載した計算機29から構成される。各制御回路は計算機29によってコマンド制御される。
【0042】
まず、図13の装置を用いてTEM像を得る工程を説明する。電子銃11から1次電子線を引出し電圧V1で引出し、加速電圧V0を印加する。鏡体の光軸とほぼ平行な方向をZ方向、光軸とほぼ直交する面をXY平面とする。薄膜化した試料30を試料ステージ19に載せ、Z方向より1次電子線31を入射する。照射レンズ12、軸ずれ補正用偏向器13、スティグメータ14を用いて1次電子線31がZ軸と平行な入射角度で試料に平行入射するように調整する。1次電子線31を薄膜化した試料30に入射すると、大部分の電子は試料30を透過する。投影レンズ21を用いて透過電子線32の像面を電子検出用カメラ26に投影し、TEM像を得る。TEM像の倍率は投影レンズ21の励磁電流によって設定する。
【0043】
投影レンズの歪曲収差などに起因して、TEM像が歪む場合がある。TEM像の幾何歪みも実施例1で記載した幾何歪み測定法で測定することができる。TEMとSTEMの違いは幾何歪み補正方法である。TEMはカメラで画像を撮影するので、STEMと同じ方法で幾何歪みを補正することはできない。TEMにおける幾何歪み補正法の1つは、幾何歪み補正用のレンズで補正する方法である。補正用レンズで補正を行なうことで実時間での補正が可能になる。さらにもう1つの補正方法として、画像処理による補正がある。電子線カメラ26で撮影した画像を、計算機29を用いて幾何変換する。画像処理による補正では、複雑な歪みでも簡便に補正できる。いずれの補正方法を選択するかは、投影レンズ21の幾何歪測定結果やオペレータの熟練度に基づいて判断した方が良い。
その他の工程は、実施例1における幾何歪み補正とほぼ同じである。
【実施例3】
【0044】
本実施例ではウェハ対応SEMにおける幾何歪み補正技術を示す。本実施例で使用するウェハ対応SEMの基本構成図を図14に示す。1次電子線31を発生する電子銃11及び一次電子線31の加速電圧や引出し電圧を制御する制御回路11‘、1次電子線31の収束条件を調整する照射レンズ12及びその電流値を制御する制御回路12‘、試料30に入射する1次電子線31の入射角度を調整する軸ずれ補正用偏向器14及びその電流値を制御する制御回路14‘、試料30に入射する1次電子線31のビーム形状を調整するスティグメータ15及びその電流値を制御する制御回路15‘、試料30に入射する1次電子線31の照射領域を調整するイメージシフト用偏向器16及びその電流値を制御する制御回路16‘、試料30に入射する1次電子線31をラスター走査する走査用偏向器17およびその電流値を制御する制御回路17‘、1次電子線31の試料30に対する焦点位置を調整する対物レンズ18およびその電流値を制御する制御回路18‘、試料30の試料室内での位置を設定する試料ステージ19およびその位置を制御する制御回路19‘、試料表面から出射する電子51を所定の方向へ偏向するE×B用偏向器27及びその電流値を制御する制御回路27‘、偏向された電子線が衝突する反射板28、反射板28から出射する電子線を検出する電子検出器20及びそのゲインやオフセットを制御する制御回路22‘、レーザー光33を用いた試料高さセンサー34及びそれを制御する制御回路34‘、SEM制御ソフトおよび画像処理ソフトを搭載した計算機29から構成される。各制御回路は計算機29によってコマンド制御される。
【0045】
まず、SEM像を得るまでの工程を説明する。電子銃11から一次電子線を引出し電圧V1で引出し、加速電圧V0を印加する。鏡体の光軸と平行な方向をZ方向、光軸と直交する面をXY平面とする。試料30を挿入し、レーザーを用いた試料高さセンサー34で試料30の高さを求め、試料ステージ19のZ位置調整または対物レンズ18の制御値調整によって対物レンズ18の焦点を試料30に合わせる。この調整は粗調整であり、画像解析可能な程度のあわせ精度で良い。また、焦点距離の測定を画像処理で実施しても良い。焦点粗調整の後、試料ステージ19のXY移動機構を用いて電子光学系調整用の視野を選択する。概電子光学系調整用視野で、軸ずれ、焦点、非点を補正する。次に試料ステージ19を用いて撮影用視野に移動し、画像が鮮明に観察できる様に対物レンズ18の焦点を微調整した後、画像の取込みを行なう。
【0046】
近年のウェハ対応SEMは空間分解能向上のために1次側の加速電圧を高くし、試料側に負の電圧を印加して試料入射電圧を減速させる減速電界方式(以下、リターディング方式)が採用されている。試料側に印加される負の電圧をリターディング電圧Vrと呼ぶ。半導体デバイスの寸法管理に用いられるCD-SEMでは、試料入射電圧がゼロに近づくようにリターディング電圧を設定している。電位コントラストから半導体デバイスの欠陥を検出する電子式ウェハ検査装置(Electron beam wafer inspection system)では、所望の電位コントラストを形成するためにリターディング電圧Vrをデバイスに合わせて調整する。このリターディング電圧Vrを変化させると試料に対するSEM像の倍率が変化する。リターディング電圧がウェハ面内で分布を持つとSEM像倍率がウェハ面内で変化する。つまり幾何歪みが発生する。この幾何歪みを実施例1で記載した方法で幾何歪みを測定し、補正する。ウェハ面内のリターディング電圧Vrの分布は試料ステージ形状に依存する。そのため、実施例3では試料ステージの位置に応じて補正値テーブルを更新する必要がある。
【0047】
また、近年のウェハ対応SEMは特定の検査、計測向けにカスタマイズされている場合が多い。DR-SEM(Defect Review Scanning Electron Microscope)は参照画像と入力画像の差画像からデバイスの不良箇所を検出する装置である。この場合、無歪み画像の生成が重要になる。歪みのある画像では画像内に位置によってパターン形状が変化するため、画像歪みによるパターン形状変化を不良と誤認識する可能性があるからである。一方、CD-SEMの様に指定された箇所の寸法を計測する装置では無歪み画像の生成は必須ではない。歪み未補正画像を用いて試料形状を測長した後、測長結果を補正する方法もあるからである。画像全体に歪み補正を実施するよりも、測長結果に補正を施す方が効率的である。無歪み画像の生成は、レシピ作成時のように画像を詳細に観察したい時のみで充分といえる。検査・計測の目的に合わせて幾何歪み補正を施す対象を設定した方が良い。
その他の工程は、実施例1における幾何歪み補正とほぼ同じである。
【実施例4】
【0048】
本発明における幾何歪み補正技術は、電子顕微鏡のみならず他の荷電粒子線装置にも適用可能である。例えば、イオンビームを細く集束して試料上をラスター走査し、試料から発生する電子線もしくは2次イオンを検出して試料構造を可視化するFocused Ion Beam (FIB)にも適用可能である。また、様々なプローブ顕微鏡、例えばScanning Tunnel Microscopy(STM)、 Atomic Force Microscopy(AFM)にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】幾何歪み測定工程を示すフローチャート。
【図2】STEM/SEMの基本構成図。
【図3】従来の走査用偏向器制御部および従来のイメージシフト用偏向器制御部の基本構成図。
【図4】(a)幾何歪み補正機能を持つ走査用偏向器制御部、および(b)幾何歪み補正機能を持つイメージシフト用偏向器制御部の基本構成図。
【図5】絶対幾何歪み補正に用いる試料の概略図であり、(a)1次元の周期構造、(b)2次元の周期構造、(c)2種類の1次元の周期構造を持つ試料を示す。
【図6】絶対幾何歪み補正の工程を示す説明図であり、(a)X方向の走査線の間隔bxの分布、(b)X走査用偏向器の補正値Ixの分布、(c)Y方向の走査線の間隔byの分布、(d)Y走査用偏向器の補正値Iyの分布の一例を示している。
【図7】絶対歪み測定条件の設定手順を示すフローチャート。
【図8】相対歪み測定の工程を示す説明図であり、(a)歪み測定済み画像、(b)伸縮画像、(c)歪み未測定の画像、(d)X走査用偏向器の補正値テーブル、(d)Y走査用偏向器の補正値テーブルの一例を示している。
【図9】メインウィンドウの基本構成図。
【図10】幾何歪み補正パラメータ設定用ウィンドウの基本構成図であり、(a)標準設定、(b)詳細設定、(c)カスタム設定の一例を示す。
【図11】(a)絶対歪み測定条件、(b)相対歪み測定条件、(c)歪み未測定条件を入力するウィンドウの基本構成図と、(d)歪み測定結果を表示するウィンドウの基本構成図。
【図12】幾何歪み補正工程を示すフローチャート。
【図13】TEMの基本構成図。
【図14】ウェハ対応SEMの基本構成図。
【図15】平行移動量測定法の説明図。
【図16】絶対歪み補正値テーブルの作成手順を示すフローチャート。
【図17】相対歪み補正値テーブルの作成手順を示すフローチャート。
【図18】従来技術と本発明との間の幾何歪み測定誤差の違いを示す説明図。
【符号の説明】
【0050】
11…電子銃、11‘…電子銃制御回路、12…照射レンズ、12‘…照射レンズ制御回路、13…コンデンサ絞り、13‘…コンデンサ絞り制御回路、14…軸ずれ補正用偏向器、14‘…軸ずれ補正用偏向器制御回路、15…スティグメータ、15‘…スティグメータ制御回路、16…イメージシフト用偏向器、16‘…イメージシフト用偏向器制御回路、17…走査用偏向器、17‘…走査用偏向器制御回路、18…対物レンズ、18‘…対物レンズ制御回路、19…試料ステージ、19‘…試料ステージ制御回路、20…投影レンズ、20‘…投影レンズ制御回路、21…軸ずれ補正用偏向器、21‘…軸ずれ補正用偏向器制御回路、22…電子検出器、22‘…電子検出器制御回路、23…散乱角度制限絞り、23‘…散乱角度制限絞り制御回路、24…対物絞り、24‘…対物絞り制御回路、25…制限視野絞り、25‘…制限視野絞り制御回路、26…電子線検出カメラ、26‘…電子線検出カメラ制御回路、27…E×B偏向器、27‘…E×B偏向器制御回路、28…反射板、29…STEM制御ソフトおよび画像処理ソフトを搭載した計算機、30…試料、31…1次電子線、32…電子線、33…レーザー光、34…レーザー光33を用いた試料高さセンサー、34’…高さセンサー制御回路、
41…メニューバー、42…ツールバー、43…フィギャアウィンドウ、44…サブウィンドウ、45…サブメニュー、46…プルダウンメニュー、47…表示ボックス、48…入力ボックス、49…プッシュボタン、50…チェックボタン、51…電子、52…明視野検出器、53…暗視野検出器、54…検出器、55…低角散乱電子、56…高角散乱電子、57…2次電子。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を試料に照射し、該試料から二次的に発生する荷電粒子線を検出して試料の画像を取得する荷電粒子線顕微方法であって、
(a)構造既知の第1の試料を第1の倍率で撮影し、得られた画像から当該第1の倍率における絶対歪みを測定する工程と、
(b)第2の試料を前記第1の倍率と第2の倍率で撮影する工程と、
(c)当該伸縮画像と前記前記第2の試料を前記第2の倍率で撮影した画像を用いて前記第2の倍率の前記第1の倍率に対する相対歪みを測定する工程と、
(d)前記第1の倍率の絶対歪みと前記第2の倍率の相対歪みから前記第2の倍率の絶対歪みを求める工程と
(e)当該求められた前記第2の倍率の絶対歪みを補正する工程とを有することを特徴とする荷電粒子線顕微方法。
【請求項2】
請求項1記載の荷電粒子線顕微方法において、
前記第1の試料は、格子面間隔が既知な格子像であることを特徴とする荷電粒子線顕微方法。
【請求項3】
請求項1記載の荷電粒子線顕微方法において、
前記相対歪み測定では、前記第1の倍率で撮影した画像と共通領域を含む視野を前記第2の倍率で撮影する工程と、前記第1の倍率の画像を前記第2の倍率まで等方的に伸縮した伸縮画像を生成する工程と、当該伸縮画像と前記第2の倍率で撮影した画像との間でのパターンマッチング結果に基づいて画像間の相対歪みを求める工程と、を含むことを特徴とする荷電粒子線顕微方法。
【請求項4】
請求項1に記載の荷電粒子線顕微方法において、
前記第2の倍率を前記絶対歪み測定済の第1の倍率として上記(b)から(d)工程を繰り返すことによって任意倍率における絶対歪みを求める工程と、
各倍率における絶対歪みを補正する工程とを有することを特徴とする荷電粒子線顕微方法。
【請求項5】
第1の荷電粒子線を発生する荷電粒子源と、
第1の荷電粒子線を試料へ導く第1の電磁界発生部と、
第1の荷電粒子線に対する試料の位置を設定する試料ステージと、
試料から出射する第2の荷電粒子線を検出器に導く第2の電磁界発生部と、
第2の荷電粒子線を検出する検出器と、
検出器出力に基づいて試料構造の画像を形成する画像形成部と、
構造既知の第1の試料に前記第1の荷電粒子線を照射して第1の倍率で撮影した画像を記録して第1の倍率における前記第1の試料に対する絶対歪みを測定し、
第2の試料に前記第1の荷電粒子線を照射して前記第1の倍率で撮影した画像と第2の倍率で撮影した画像を記録し、
前記第2の試料の前記第1の倍率で撮影した画像と第2の倍率で撮影した画像との間のパターンマッチングから前記第2の倍率の画像における前記第1の倍率の画像に対する相対歪みを測定し、
前記第1の試料の第1の倍率における絶対歪みと、前記第2の試料の前記第2の倍率における第1の倍率に対する相対歪みから前記第2の倍率における絶対歪みを求める幾何歪み測定部と、
測定された絶対歪みを補正する補正部とを有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項5に記載の荷電粒子装置において、
前記補正部を内部に有する計算機を備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項6に記載の荷電粒子線装置において、
前記計算機は前記幾何歪み測定部を内部に有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項5に記載の荷電粒子線装置において、
前記第1の電磁界発生部は偏向器を備え、
前記補正部は前記測定された絶対歪みを基に前記偏向器を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項5に記載の荷電粒子線装置において、
前記第2の電磁界発生部は電磁界レンズを備え、
前記補正部は前記測定された絶対歪みを基に当該電磁界レンズを制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項5記載の荷電粒子線装置において、
前記補正部は前記画像形成部で形成された画像から得られた測長結果を補正することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項11】
荷電粒子線を試料に照射する光学系と、
前記試料に前記荷電粒子線を照射して生じる二次的な荷電粒子線を検出する検出器と、
当該検出器の出力に基づいて画像を形成する画像形成部とを有する荷電粒子線装置において、
構造既知の第1の試料に前記荷電粒子線を照射して第1の倍率で撮影した画像を記録するメモリと、前記第1の倍率における前記第1の試料に対する絶対歪みを測定する計算部とを有し、
前記メモリは、第2の試料に前記荷電粒子線を照射して第1の倍率で撮影した画像と第2の倍率で撮影した画像を記録し、
前記計算部は、前記第2の試料の前記第1の倍率で撮影した画像と第2の倍率で撮影した画像をもとに前記第2の倍率の画像における前記第1の倍率の画像に対する相対歪みを測定し、
前記第1の試料の第1の倍率における絶対歪みと、前記第2の試料の前記第2の倍率における第1の倍率に対する相対歪みから前記第2の倍率における絶対歪みを求め、測定された絶対歪みを補正することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項11に記載の荷電粒子線装置において、
前記光学系は前記荷電粒子線を偏向する偏向器を有し、
前記計算部は前記測定された絶対歪みを補正するように前記偏向器を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項13】
請求項11に記載の荷電粒子線装置において、
前記検出器と前記試料との間に電磁界レンズを有し、
前記計算部は前記測定された絶対歪みを補正するように前記電磁界レンズを制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項1】
荷電粒子線を試料に照射し、該試料から二次的に発生する荷電粒子線を検出して試料の画像を取得する荷電粒子線顕微方法であって、
(a)構造既知の第1の試料を第1の倍率で撮影し、得られた画像から当該第1の倍率における絶対歪みを測定する工程と、
(b)第2の試料を前記第1の倍率と第2の倍率で撮影する工程と、
(c)当該伸縮画像と前記前記第2の試料を前記第2の倍率で撮影した画像を用いて前記第2の倍率の前記第1の倍率に対する相対歪みを測定する工程と、
(d)前記第1の倍率の絶対歪みと前記第2の倍率の相対歪みから前記第2の倍率の絶対歪みを求める工程と
(e)当該求められた前記第2の倍率の絶対歪みを補正する工程とを有することを特徴とする荷電粒子線顕微方法。
【請求項2】
請求項1記載の荷電粒子線顕微方法において、
前記第1の試料は、格子面間隔が既知な格子像であることを特徴とする荷電粒子線顕微方法。
【請求項3】
請求項1記載の荷電粒子線顕微方法において、
前記相対歪み測定では、前記第1の倍率で撮影した画像と共通領域を含む視野を前記第2の倍率で撮影する工程と、前記第1の倍率の画像を前記第2の倍率まで等方的に伸縮した伸縮画像を生成する工程と、当該伸縮画像と前記第2の倍率で撮影した画像との間でのパターンマッチング結果に基づいて画像間の相対歪みを求める工程と、を含むことを特徴とする荷電粒子線顕微方法。
【請求項4】
請求項1に記載の荷電粒子線顕微方法において、
前記第2の倍率を前記絶対歪み測定済の第1の倍率として上記(b)から(d)工程を繰り返すことによって任意倍率における絶対歪みを求める工程と、
各倍率における絶対歪みを補正する工程とを有することを特徴とする荷電粒子線顕微方法。
【請求項5】
第1の荷電粒子線を発生する荷電粒子源と、
第1の荷電粒子線を試料へ導く第1の電磁界発生部と、
第1の荷電粒子線に対する試料の位置を設定する試料ステージと、
試料から出射する第2の荷電粒子線を検出器に導く第2の電磁界発生部と、
第2の荷電粒子線を検出する検出器と、
検出器出力に基づいて試料構造の画像を形成する画像形成部と、
構造既知の第1の試料に前記第1の荷電粒子線を照射して第1の倍率で撮影した画像を記録して第1の倍率における前記第1の試料に対する絶対歪みを測定し、
第2の試料に前記第1の荷電粒子線を照射して前記第1の倍率で撮影した画像と第2の倍率で撮影した画像を記録し、
前記第2の試料の前記第1の倍率で撮影した画像と第2の倍率で撮影した画像との間のパターンマッチングから前記第2の倍率の画像における前記第1の倍率の画像に対する相対歪みを測定し、
前記第1の試料の第1の倍率における絶対歪みと、前記第2の試料の前記第2の倍率における第1の倍率に対する相対歪みから前記第2の倍率における絶対歪みを求める幾何歪み測定部と、
測定された絶対歪みを補正する補正部とを有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項5に記載の荷電粒子装置において、
前記補正部を内部に有する計算機を備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項6に記載の荷電粒子線装置において、
前記計算機は前記幾何歪み測定部を内部に有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項5に記載の荷電粒子線装置において、
前記第1の電磁界発生部は偏向器を備え、
前記補正部は前記測定された絶対歪みを基に前記偏向器を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項5に記載の荷電粒子線装置において、
前記第2の電磁界発生部は電磁界レンズを備え、
前記補正部は前記測定された絶対歪みを基に当該電磁界レンズを制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項5記載の荷電粒子線装置において、
前記補正部は前記画像形成部で形成された画像から得られた測長結果を補正することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項11】
荷電粒子線を試料に照射する光学系と、
前記試料に前記荷電粒子線を照射して生じる二次的な荷電粒子線を検出する検出器と、
当該検出器の出力に基づいて画像を形成する画像形成部とを有する荷電粒子線装置において、
構造既知の第1の試料に前記荷電粒子線を照射して第1の倍率で撮影した画像を記録するメモリと、前記第1の倍率における前記第1の試料に対する絶対歪みを測定する計算部とを有し、
前記メモリは、第2の試料に前記荷電粒子線を照射して第1の倍率で撮影した画像と第2の倍率で撮影した画像を記録し、
前記計算部は、前記第2の試料の前記第1の倍率で撮影した画像と第2の倍率で撮影した画像をもとに前記第2の倍率の画像における前記第1の倍率の画像に対する相対歪みを測定し、
前記第1の試料の第1の倍率における絶対歪みと、前記第2の試料の前記第2の倍率における第1の倍率に対する相対歪みから前記第2の倍率における絶対歪みを求め、測定された絶対歪みを補正することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項11に記載の荷電粒子線装置において、
前記光学系は前記荷電粒子線を偏向する偏向器を有し、
前記計算部は前記測定された絶対歪みを補正するように前記偏向器を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項13】
請求項11に記載の荷電粒子線装置において、
前記検出器と前記試料との間に電磁界レンズを有し、
前記計算部は前記測定された絶対歪みを補正するように前記電磁界レンズを制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【図1】
【図2】
【図5】
【図7】
【図8】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図3】
【図4】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図5】
【図7】
【図8】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図3】
【図4】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−14850(P2008−14850A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−187385(P2006−187385)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]