説明

薄膜コンデンサ

【課題】内部でのクラックや剥離の発生が抑制された薄膜コンデンサを提供する。
【解決手段】本実施形態に係る薄膜コンデンサ100では、Niを主成分とする内部電極3,5,7,9が積層方向に貫通する貫通孔Hを有すると共に、この貫通孔Hの少なくとも一部の面積が0.19〜7.0μmであって、且つ主面に対する貫通孔Hの面積の割合が0.05〜5%の範囲である内部電極3,5,7,9の主面全体の面積に対する貫通孔Hの面積が上記の範囲であることによって、内部電極3,5,7,9と誘電体層2,4,6,8,10との界面での剥離やクラックの発生が抑制され、この結果、歩留まりが向上される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化に伴い、電子機器内に用いられる電子部品に対しても小型化及び高機能化への要求が強くなっている。これに伴い、薄膜技術により下地基板の上部に積層する誘電体層や内部電極層を1層あたり数百nm以下まで薄層化した薄膜積層コンデンサが用いられるようになり、その構成や製造方法が種々検討されている(例えば、特許文献1,2参照)。そして、近年では、特許文献3のように、静電容量と耐圧を維持しながら体積が大幅に縮小された多層薄膜キャパシタが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭56−144523号公報
【特許文献2】特開平11−26290号公報
【特許文献3】特表2009−512177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、多層の薄膜コンデンサは内部の誘電体層や内部電極層においてクラックや剥離が発生しやすいため、十分な歩留まりを得ることが困難である。
【0005】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、内部でのクラックや剥離の発生が抑制された薄膜コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者が鋭意研究を重ねた結果、多層の薄膜コンデンサの内部でのクラック発生には、内部電極層の表面の形状が大きく影響していることが見出された。
【0007】
すなわち、本発明に係る薄膜コンデンサは、下地電極と、下地電極上に積層された二つ以上の誘電体層と、誘電体層の間に積層されNiを主成分とする電極と、を備える薄膜コンデンサであって、電極は積層方向に貫通する貫通孔を有し、少なくとも一部の貫通孔の面積は、0.19〜7.0μmであり、貫通孔を含む電極の主面全体の面積に対する貫通孔の面積の割合は0.05〜5%であることを特徴とする。
【0008】
上記の薄膜コンデンサのように、誘電体層の間に積層されたNiを主成分とする電極が積層方向に貫通する貫通孔を有すると共に、この貫通孔の少なくとも一部の面積が上記の範囲であり、且つ、電極の主面全体の面積に対する貫通孔の面積が上記の範囲であることによって、電極と誘電体層との界面での剥離やクラックの発生が抑制され、この結果、歩留まりが向上される。
【0009】
ここで、全ての貫通孔の面積は0.19〜7.0μmである態様が好ましい。このように、全ての貫通孔の面積が上記の範囲とされることで、薄膜コンデンサ内部での剥離やクラックの発生がさらに抑制される。
【0010】
また、貫通孔は中空である態様が好ましい。貫通孔を中空とすることで、剥離やクラックの発生がさらに抑制され、歩留まりのさらなる向上を達成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、内部でのクラックや剥離の発生が抑制された薄膜コンデンサが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る薄膜コンデンサの概略断面図である。
【図2】薄膜コンデンサの内部電極を説明する斜視図である。
【図3】図1に示す薄膜コンデンサの製造方法を示す概略断面図である。
【図4】図1に示す薄膜コンデンサの製造方法を示す概略断面図である。
【図5】光学顕微鏡による誘電体層の上面からの画像である。
【図6】SEMによる誘電体層の断面の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
まず、本実施形態に係る薄膜コンデンサ100について説明する。本実施形態に係る薄膜コンデンサ100は、図1に示すように、薄膜コンデンサ100は、下地電極1と、下地電極1上に積層された五層の誘電体層2,4,6,8,10と、誘電体層2と誘電体層4との間に積層された内部電極3と、誘電体層4と誘電体層6との間に積層された内部電極5と、誘電体層6と誘電体層8との間に積層された内部電極7と、誘電体層8と誘電体層10との間に積層された内部電極9と、誘電体層2,4,6,8,10及び内部電極3,5,7,9を挟んで下地電極1の反対側に積層された上部電極11と、を備える。なお、以下では、下地電極1、誘電体層2、内部電極3、誘電体層4、というように下地電極から上部電極11に向けて誘電体層と内部電極とが順次重なる方向を「積層方向」と記す。
【0015】
薄膜コンデンサ100は、誘電体層2,4,6,8,10、内部電極3,5,7,9、及び上部電極11を挟んで下地電極1の反対側に、一対の端子電極14,15を備える。一対の端子電極14,15のうち一方の端子電極14は、下地電極1及び内部電極5,9と電気的に接続されている。また、他方の端子電極15は、内部電極2,6,10と電気的に接続されている。また、一対の端子電極14、15は互いに電気的に絶縁されている。また、薄膜コンデンサ100は、下地電極1、誘電体層2,4,6,8,10、内部電極3,5,7,9及び上部電極11から構成される積層体と、一対の端子電極14,15との間を満たす絶縁性のカバー層12を備える。さらに、薄膜コンデンサ100は、端子電極14,15とカバー層12との間を覆う絶縁性保護層13を備える。以下、薄膜コンデンサ100を構成する各部について説明する。
【0016】
下地電極1は導電性材料から形成される。具体的には、下地電極1を形成する導電性材料としては、主成分としてニッケル(Ni)や白金(Pt)を含有する合金が好ましく、特に、主成分としてNiを含有する合金が好適に用いられる。下地電極1を構成するNiの純度は高いほど好ましく、99.99重量%以上であることが好ましい。なお、下地電極1に微量の不純物が含まれていても良い。主成分としてNiを含有する合金からなる下地電極1に含まれ得る不純物としては、例えば、鉄(Fe)、チタン(Ti)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)又はクロム(Cr)、バナジウム(V)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セシウム(Ce)等の遷移金属元素あるいは希土類元素等、塩素(Cl)、硫黄(S)、リン(P)等が挙げられる。これらの不純物が、後述する薄膜コンデンサの製造方法における焼成工程において、下地電極1から誘電体膜へ拡散すると、下地電極の上に形成される誘電体層の組成にずれを生じさせたり、誘電体膜の結晶化及び結晶粒成長を阻害して微細構造を変化させたりして、得られる誘電体層の絶縁抵抗を低下させる傾向がある。なお、誘電体層の組成のずれ又は微細構造の変化は、薄膜コンデンサ100の静電容量の大容量化を阻害する可能性がある。
【0017】
下地電極1の厚さは、5〜100μmであることが好ましく、20〜70μmであることがより好ましく、30μm程度であることがさらに好ましい。下地電極1の厚さが薄過ぎる場合、薄膜コンデンサ100の製造時に下地電極1をハンドリンクし難くなる傾向があり、下地電極1の厚さが厚過ぎる場合、リーク電流を抑制する効果が小さくなる傾向がある。なお、下地電極1の面積は、例えば、1×0.5mm程度である。また、上述の下地電極1は金属箔からなることが好ましく、基板と電極とを兼用している。このように、本実施形態に係る下地電極1は基板としても兼用する構成であることが最も好ましいが、Siやアルミナなどからなる基板と、金属膜からなる電極とからなる基板/電極膜構造を下地電極1として用いても良い。
【0018】
誘電体層2,4,6,8,10は、BaTiO(チタン酸バリウム)、(Ba1−XSr)TiO(チタン酸バリウムストロンチウム)、(Ba1−XCa)TiO、PbTiO、Pb(ZrTi1−X)O等のペロブスカイト構造を持った(強)誘電体材料や、Pb(Mg1/3Nb2/3)O等に代表される複合ペロブスカイトリラクサー型強誘電体材料や、BiTi12、SrBiTa等に代表されるビスマス層状化合物、(Sr1−XBa)Nb、PbNb2O6等に代表されるタングステンブロンズ型強誘電体材料等から構成される。ここで、ペロブスカイト構造、ペロブスカイトリラクサー型強誘電体材料、ビスマス層状化合物、タングステンブロンズ型強誘電体材料において、AサイトとBサイトの比は、通常整数比であるが、特性向上のため、意図的に整数比からずらしても良い。なお、誘電体層2,4,6,8,10の特性制御のため、誘電体層2,4,6,8,10に適宜、副成分として添加物質が含有されていてもよい。
【0019】
誘電体層2,4,6,8,10の各厚さは、例えば、10〜1000nmである。また、誘電体層2,4,6,8,10の各面積は、例えば、0.9×0.5mm程度である。
【0020】
上述の誘電体層2,4,6,8,10に挟まれて設けられる内部電極3,5,7,9は主成分としてニッケル(Ni)を含有する導電性材料により形成される。この内部電極3,5,7,9には、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、レニウム(Re)、タングステン(W)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)及び銀(Ag)からなる群より選ばれる少なくとも一種(以下、「添加元素」と記す。)が含有されていてもよい。内部電極3,5,7,9が添加元素を含有することによって内部電極3,5,7,9の貫通孔の大きさや数を調整することができる。なお、内部電極3,5,7,9は複数種の添加元素を含有してもよい。
【0021】
上部電極11はNiを主成分として含有する合金からなることが好ましい。なお、上部電極11には微量の不純物が含まれていても良い。上部電極11に含まれ得る不純物としては、例えば、鉄(Fe)、チタン(Ti)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)又はクロム(Cr)、バナジウム(V)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セシウム(Ce)等の遷移金属元素あるいは希土類元素等、塩素(Cl)、硫黄(S)、リン(P)等が挙げられる。なお、上部電極11として、Niを主成分として含有する合金のほかに、Si半導体やディスプレイパネル等の配線で用いられるAl、Cu、W、Cr、Ta、Nb等のほか、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Os、Re、Ti、Mn及びAg等も用いることもできる。
【0022】
内部電極3,5,7,9及び上部電極11の厚さは、例えば、10〜3000nm程度である。また、内部電極3,5,7,9及び上部電極11の面積は、例えば、0.9×0.4mm程度である。
【0023】
なお、誘電体層2は、図1に示す薄膜コンデンサ100の断面において途切れているが、積層方向に垂直な面内において連続している。同様に、誘電体層4,6,8,10、内部電極3,5,7,9及び上部電極11も、それぞれ積層方向に垂直な面内において連続している。
【0024】
端子電極14,15は、例えばCu等の導電性材料から構成される。
【0025】
また、カバー層12は、誘電体層2,4,6,8,10と同じ材料からなることが好ましい。すなわち、BaTiO(チタン酸バリウム)、(Ba1−XSr)TiO(チタン酸バリウムストロンチウム)、(Ba1−XCa)TiO、PbTiO、Pb(ZrTi1−X)O等のペロブスカイト構造を持った(強)誘電体材料や、Pb(Mg1/3Nb2/3)O等に代表される複合ペロブスカイトリラクサー型強誘電体材料や、BiTi12、SrBiTa等に代表されるビスマス層状化合物、(Sr1−XBa)Nb、PbNbO6等に代表されるタングステンブロンズ型強誘電体材料等が好適に用いられる。誘電体層2,4,6,8,10と同じ材料によりカバー層12を形成することにより、カバー層12に接する他の層(特に誘電体層10等)との間で応力が発生することを抑制することができることから、静電容量の増加やリーク電流の抑制という効果が奏される。なお、カバー層12の材料は上記に限定されず、例えば、SiO、アルミナ、SiN(シリコンナイトライド)等の絶縁材料を用いることもできる。なお、本実施形態の薄膜コンデンサ100では、誘電体層2,4,6,8,10と同じ材料からなるカバー層が上部電極11の上側を覆うように設けられている。したがって、上部電極11も内部電極3,5,7,9と同様に2層の誘電体層によって挟まれた構造とされている。
【0026】
ここで、上部電極11が主成分としてニッケル(Ni)を含有する導電性材料により形成されている場合、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、レニウム(Re)、タングステン(W)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)及び銀(Ag)からなる群より選ばれる少なくとも一種の添加元素が含有されていてもよい。上部電極11が添加元素を含有することによって上部電極11の貫通孔の大きさと数を調整することができる。なお、上部電極11は複数種の添加元素を含有してもよい。このように、本実施形態では、カバー層12が誘電体層2,4,6,8,10と同じ材料からなることから、カバー層12は、誘電体として、容量に寄与しないが、構造的には誘電体層と同様であり、カバー層12は、誘電体層として見なすこととする。すなわち、本実施形態の薄膜コンデンサ100における上部電極11は、誘電体層の間に積層され、Niを主成分とする電極となる。
【0027】
また、端子電極14,15とカバー層12との間に設けられる絶縁性保護層13は、例えばポリイミド等により構成される。絶縁性保護層13でカバー層を覆うことにより、カバー層と端子電極14,15との間のリーク電流が抑制される。なお、リーク電流の点から端子電極14,15とカバー層12との間に絶縁性保護層13を設けることが好ましいが、絶縁性保護層13を設けなくてもよい。
【0028】
ここで、本実施形態に係る薄膜コンデンサ100の内部電極3,5,7,9及び上部電極11には、それぞれ図2に示すように積層方向に貫通する貫通孔Hを複数有する。なお、図2は、内部電極3,5,7,9及び上部電極11のうち、内部電極9を示したものであり、その一部を模式的に示したものである。この貫通孔Hのうち、少なくとも一部の面積は、0.19〜7.0μmであるが、複数の貫通孔Hの全てが上記の範囲であることが好ましい。また、内部電極3,5,7,9及び上部電極11それぞれの主面全体の面積に対する貫通孔Hの面積の割合は0.05〜5%である。なお、貫通孔Hが円形であるとすると、孔径が0.5〜3.0μmの場合にその面積が0.19〜7.0μmとなる。
【0029】
このように、内部電極3,5,7,9及び上部電極11に貫通孔Hが設けられていることで、電極の上下を挟む誘電体層(本実施形態の薄膜コンデンサ100ではカバー層も含まれる)と電極との間の応力が貫通孔Hにより緩和され、この界面での剥離やクラックが抑制されることから、製造時の歩留まりが向上する。また、この貫通孔Hは内部が中空とされている、すなわち、上下を挟む誘電体層によってこの貫通孔Hが塞がれていないことが好ましい。このように貫通孔Hが中空であることで、上記の剥離やクラックの抑制効果が向上し、歩留まりがさらに向上する。なお、電極は複数層ある内部電極の全てが貫通孔Hを有さなくても上記の効果は達成されるが、内部電極の全てが貫通孔Hを有する場合のほうが、剥離やクラックの抑制の効果が高められる。
【0030】
次に、本実施形態の薄膜コンデンサ100の製造方法について、図3,4を参照しながら説明する。図3は及び図4は、図1に示す薄膜コンデンサ100に係る製造方法を示す概略断面図である。本実施形態の薄膜コンデンサ100は、下地電極上に誘電体膜と内部電極層とが交互に積層され、最上位にカバー層が積層された積層体を形成する工程と、焼成工程と、端子電極の形成・接続工程と、を含んで構成される。
【0031】
最初に、積層体を形成する工程について説明する。まず、金属箔からなる下地電極1を準備する。この金属箔は必要に応じてその表面が研磨される。この研磨はCMP(Chemical Mechanical Polishing)、電解研磨、バフ研磨等の方法により行うことができる。次に、この下地電極1の上に誘電体膜2aを形成する。この誘電体膜2aの組成は、完成後の薄膜コンデンサ100が備える誘電体層2と同様とすればよい。また、誘電体膜2aの形成方法としては、スパッタリング法、蒸着法等に代表されるPVD(Physical Vapor Deposition)法のほか、CVD(Chemical Vapor Deposition)法やCSD(Chemical Solution Deposition)法等の成膜技術を用いることができるが、スパッタリング法がより好ましい方法である。
【0032】
次に、誘電体膜2aの表面にNiを主成分として含有する内部電極層3aを形成する。内部電極層3aの組成は、完成後の薄膜コンデンサ100が備える内部電極3と同様とすればよい。ここで、マスクを用いながらパターン形成をすることにより、図3に示すパターンの内部電極層3aが形成される。また、内部電極層3aの形成方法としては、スパッタリングが好ましく、ガス圧0.8Pa以下の条件下でのスパッタリングが特に好ましい。
【0033】
次に、内部電極層3aの表面に誘電体膜4aを形成する。この上に、さらに、内部電極層5a、誘電体膜6a、内部電極層7a、誘電体膜8a、内部電極層9a、誘電体膜10aを形成する。誘電体膜及び内部電極層の組成及び形成方法は、上記の誘電体膜2a及び内部電極層3aと同様とされる。
【0034】
次に、誘電体膜10aの表面に、Niからなる上部電極層11aを形成する。ここでもマスクを用いながらパターン形成をすることにより、図3に示すパターンの上部電極層11aが形成される。なお、上部電極層11aの形成方法としては、DCスパッタリング等が挙げられる。さらに、この誘電体膜10a及び上部電極層11aの表面を覆うようにカバー膜12aを形成する。これにより、下地電極1の上に、誘電体膜2a、内部電極層3a、誘電体膜4a、内部電極層5a、誘電体膜6a、内部電極層7a、誘電体膜8a、内部電極層9a、誘電体膜10a、上部電極層11a及びカバー膜12aを順次積層してなる積層体100Aが得られる。ここで形成されるカバー膜12aは、誘電体膜2a,4a,6a,8a,10aと同じ組成を有する材料であることが好まく、カバー膜12aの形成方法は誘電体膜の形成方法と同様とされる。
【0035】
その後、この積層体100Aを焼成する。焼成時の温度は700〜900℃とされる。この温度範囲で焼成することで、誘電体膜2a,4a,6a,8a,10aが焼結(結晶化)し、且つ、内部電極層3a,5a,7a,9a及び上部電極層11aにおいて、少なくとも一部の面積が0.19〜7.0μmであって主面に対する面積の割合は0.05〜5%の範囲の貫通孔が形成される。なお、焼成時の温度を700℃以下にすると、上記の範囲よりも小さい面積を有する貫通孔のみ形成され、900℃以上にすると、上記の範囲よりも大きい面積を有する貫通孔のみ形成される。また、焼成時間は5分〜2時間程度とすればよい。また、焼成時の雰囲気は、特に限定されず、酸化性雰囲気、還元性雰囲気、中性雰囲気の何れでも良いが、酸素分圧を1.0×10−17〜1.0×10−14atmの範囲とする。酸素分圧が1.0×10−14atmより大きい場合、内部電極の主面に対する貫通孔Hの割合が0.05%より小さくなり、1.0×10−17atmより小さい場合、貫通孔Hの割合が5%より大きくなる。上記の条件で焼成を行うことにより、誘電体層2,4,6,8,10及び内部電極3,5,7,9、上部電極11及びカバー層12が形成される。
【0036】
次に、焼成後の積層体に対して、端子電極の形成・接続を行う。具体的には、図4の積層体100Bに示すように、カバー層12及びその下部の誘電体層2,4,6,8,10の一部を除去する。このカバー層12及び誘電体層2,4,6,8,10の除去はウェットエッチング又はドライエッチング等によって行われる。そして、この積層体100Bの誘電体層2,4,6,8,10及びカバー層12のうち外部に露出する領域を覆うようにポリイミド等の絶縁性保護層13を設けた後、一対の端子電極14,15を形成する。一方の端子電極14は、下地電極1及び内部電極5,9とビアを介して電気的に接続させ、他方の端子電極15は、内部電極3,7及び上部電極11とビアを介して電気的に接続させる。さらに、端子電極14,15が取り付けられた積層体に対してアニール処理を施す。アニール処理は、減圧雰囲気下であり、且つ温度が200〜400℃である雰囲気下で行えばよい。ここで、減圧雰囲気とは、1気圧(=101325Pa)より低い圧力を有する雰囲気を意味する。アニール処理を行うことにより、電気特性を安定化することができる。これにより、図1に示す本実施形態に係る薄膜コンデンサ100が得られる。
【0037】
以上のように、本実施形態に係る薄膜コンデンサ100では、Niを主成分とする内部電極3,5,7,9が積層方向に貫通する貫通孔Hを有すると共に、この貫通孔Hの少なくとも一部の面積が0.19〜7.0μmであって、且つ主面に対する貫通孔Hの面積の割合が0.05〜5%の範囲である内部電極3,5,7,9の主面全体の面積に対する貫通孔Hの面積が上記の範囲であることによって、内部電極3,5,7,9と誘電体層2,4,6,8,10との界面での剥離やクラックの発生が抑制され、この結果、歩留まりが向上される。また、上記の薄膜コンデンサ100では、上部電極11もNiからなり、且つ、その上部が誘電体層と同様の材料からなるカバー層によって覆われ、さらにこの上部電極11も貫通孔Hを備えるため、内部電極3,5,7,9と同様に、誘電体層10及びカバー層12との界面での剥離やクラックの発生が抑制されるという効果を奏する。
【0038】
また、全ての貫通孔Hの面積が0.19〜7.0μmとされた場合には、薄膜コンデンサ100の内部での剥離やクラックの発生がさらに抑制される。
【0039】
さらに、薄膜コンデンサ100の内部電極3,5,7,9に設けられた貫通孔Hは中空であることで、剥離やクラックの発生がさらに抑制され、歩留まりのさらなる向上を達成することができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されず、種々の変更を行うことができる。
【0041】
例えば、上記実施形態では、下地電極1の上部に積層された複数の誘電体層2,4,6,8,10及びカバー層12は一度にまとめて焼成される態様について説明しているが、焼成を何度も行う(各誘電体層毎に行う)態様であってもよい。この場合、内部電極3,5,7,9及び上部電極11は、それぞれその上下が誘電体層に挟まれた状態で焼成条件を調整することで、内部に貫通孔Hが設けられる。
【0042】
また、上記実施形態では、誘電体膜2a,4a,6a,8a,10aを形成し、焼成した後に、ウェットエッチング等によってパターニング形成をする方法について説明したが、パターニングと誘電体膜の形成とを同時に行う方法を用いてもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、下地電極1の上部に内部電極3,5,7,9が4層設けられた構成について説明しているが、内部電極の数は特に限定されない。内部電極の数が変更された場合、端子電極14,15と電極との電気的な接続は適宜変更される。
【0044】
また、上記実施形態の薄膜コンデンサ100に設けられたカバー層12及び絶縁性保護層13は必須ではない。
【0045】
また、本実施形態のように上部電極の上面が誘電体材料からなるカバー層に覆われている場合に限って、本発明は下地電極と上部電極とのみからなる1層の薄膜コンデンサにも適用できる。カバー層に覆われた上部電極は積層方向に積層された2層の誘電体層によって挟まれている。したがって、上記実施形態で示した焼成条件で焼成した場合には、この上部電極に貫通孔が形成されるため、剥離やクラックを抑制するという本発明の効果が奏される。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
実施例1として、図1に示す薄膜コンデンサ100を以下の方法により作製した。まず、図3に示すように、50μm厚のNi箔の表面を鏡面状に研磨して下地電極1とした。次に、BaTiOをターゲットとしたスパッタリングによって、研磨されたNi箔の表面に誘電体膜2aとなるBaTiO膜を成膜した。なお、誘電体膜2aの形成時のスパッタリングでは、Ni箔の温度を250℃に保持した。BaTiO膜の厚さは300nmとした。
【0048】
次に、主成分としてNiをターゲットとしたスパッタリングによって、BaTiO膜の表面に内部電極層3aとしてNi層をパターン形成した。この内部電極層3aの厚さは200nmとした。さらに、上記の誘電体膜2aの形成と内部電極層3aの形成と同様の作業を繰り返し、下地電極1、誘電体膜2a、内部電極層3a、誘電体膜4a、内部電極層5a、誘電体膜6a、内部電極層7a、誘電体膜8a、内部電極層9a、誘電体膜10a、上部電極層11a、からなる積層体を形成した。次に、BaTiOをターゲットとしたスパッタリングによって、さらにカバー層12としてBaTiO膜を成膜した。これにより図3に示す積層体100Aを得た。
【0049】
次に、酸素分圧を5.8×10−15atmに調整した雰囲気中で積層体100Aを800℃で1時間焼成し、BaTiO膜からなる誘電体膜2a、4a、6a、8a、10a、及びカバー膜12aを結晶化させた。
【0050】
ここで、焼成後の電極の状況を確認する目的から、この焼成後の積層体を上面(焼成後のカバー層12側)から光学顕微鏡で観察した。カバー層12は透明であるから、光学顕微鏡により、最上層の上部電極11の内部の穴を観察することができる。この結果、図5に示すような画像が得られ、観察の結果、面積が0.785μm(真円に換算して孔径が1μm)の貫通孔Hが見られた。また、貫通孔Hの個数は、上部電極11の主面0.01mmあたり100個であり、主面において貫通孔Hが設けられていない領域の割合(被覆率)は99.2%であった。すなわち、主面の面積に対する貫通孔Hの面積の割合は、0.8%であった。また、この貫通孔Hの部分を断面SEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)により観察した。この結果を図6に示す(なお、図6の画像は、本発明に係る薄膜コンデンサのうち積層最小構造での構成、すなわち、2層の誘電体層の間に挟まれたNi電極である)。図6に示すように、貫通孔Hは膜厚200nmの上部電極11を貫通していて、この貫通孔Hの中には誘電体材料が無く、中空であることが確認された。この中空構造は、積層数が増加した多層構造の薄膜コンデンサでも図6と同様に観察された。
【0051】
次に、焼成後の積層体のBaTiOからなるカバー層12及び複数の誘電体層2,4,6,8,10をウェットエッチングすることによって、カバー層12の上面に、内部電極5、9及び下地電極1を接続するための開口と、内部電極3,7及び上部電極11に通じる開口と、をそれぞれ形成し、図4に示す積層体100Bを作製した。カバー層12と複数の誘電体層2,4,6,8,10のウェットエッチングでは、フォトレジストとして東京応化社製OFPR−800を用い、エッチング液として塩酸+フッ化アンモニウム水溶液を用いた。その後、下地電極1、誘電体層2、内部電極3、誘電体層4、内部電極5、誘電体層6、内部電極7、誘電体層8、内部電極9、誘電体層10、上部電極11、及びカバー層12の表面を覆うようにポリイミドからなる絶縁性保護層13を設けた後、スパッタリングによって、Cuからなる一対の端子電極14,15を形成して、1005サイズの薄膜コンデンサを得た。なお、一方の端子電極14は、カバー層12に形成された開口を通じて、内部電極5、9及び下地電極1と電気的に接続させ、他方の端子電極15は、カバー層12に形成された穴を通じて、内部電極3、7及び上部電極11を電気的に接続させた。さらに、安定化するため、真空雰囲気中でこの薄膜コンデンサを310℃でアニール処理し、実施例1に係る薄膜コンデンサ100を得た。
【0052】
(実施例2〜11)
積層体100Aの焼成時の条件(焼成温度、酸素分圧)、内部電極3,5,7,9及び上部電極11の組成、内部電極3,5,7,9及び上部電極11形成時のガス圧、内部電極3,5,7,9及び上部電極11の膜厚、の少なくとも一つを変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例2〜11に係る薄膜コンデンサ100を作製した。
【0053】
なお、実施例1と同様に、焼成後の積層体(図3の積層体100Aを焼成したもの)を上部から光学顕微鏡で観察し、貫通孔の面積、真円に換算した場合の貫通孔の孔径、主面0.01mmあたりの貫通孔の個数、及び主面における貫通孔の面積の割合を測定した。
【0054】
(比較例1〜9)
積層体100Aの焼成時の条件(焼成温度、酸素分圧)、内部電極3,5,7,9及び上部電極11の組成、内部電極3,5,7,9及び上部電極11形成時のガス圧、内部電極3,5,7,9及び上部電極11の膜厚、の少なくとも一つを変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例1〜9に係る薄膜コンデンサ100を作製した。なお、比較例5では、内部電極3,5,7,9及び上部電極11をスパッタリングではなく蒸着法を用いて形成した。
【0055】
そして、実施例1と同様に、焼成後の積層体(図3の積層体100Aを焼成したもの)を上部から光学顕微鏡で観察し、貫通孔の面積、真円に換算した場合の貫通孔の孔径、主面0.01mmあたりの貫通孔の個数、及び主面における貫通孔の面積の割合を測定した。
【0056】
ただし、比較例1,3,4では、焼成後の積層体にクラックが多数発生したため、薄膜コンデンサ100の作製に係る工程(開口の形成、端子電極の接続及びアニール処理)を進めることができなかった。また、比較例2,5では、焼成後の積層体に剥離が多数発生したため、薄膜コンデンサ100の作製に係る工程(開口の形成、端子電極の接続及びアニール処理)を進めることができなかった。
【0057】
上記の実施例1〜11及び比較例1〜9の製造条件を、表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
(評価)
上記の実施例1〜11及び比較例1〜9に係る薄膜コンデンサの歩留まりと、焼成後の積層体における貫通孔の面積、真円に換算した場合の貫通孔の孔径、主面0.01mmあたりの貫通孔の個数、及び最上位の電極である上部電極の主面における貫通孔の面積の割合を表2に示す。なお、実施例10では、貫通孔が中空ではなく、上下の誘電体層が貫通孔の内部に入り込んでいることが確認された。また、実施例11では、上部電極において、面積が大きな貫通孔と面積が小さな貫通孔とが混在していたため、面積が大きなものと面積が小さなものとを区別して示し、主面の面積に対する貫通孔の面積割合については、その合計を併せて示した。また、上述のように、比較例1〜5は、焼成後の積層体から薄膜コンデンサを作製することが困難であったため、不良率を0%としている。また、比較例1,4では、焼成後の積層体に貫通孔が全く形成されていなかったため、貫通孔に係る全ての結果を0としている。また、比較例1〜9に係る薄膜コンデンサでは、剥離又はクラックのいずれかが発生したため、その結果についても併せて表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
以上の結果から、貫通孔の少なくとも一部の面積が0.19〜7.0μmであって、且つ主面に対する貫通孔の面積の割合が0.05〜5%の範囲である場合には、クラックや剥離の発生が抑制され、高い歩留まりが得られることが確認された。
【符号の説明】
【0062】
1…下地電極、2,4,6,8,10…誘電体層、3,5,7,9…内部電極、11…上部電極、12…カバー層、13…絶縁性保護層、14,15…端子電極、100…薄膜コンデンサ、H…貫通孔。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地電極と、
前記下地電極上に積層された二つ以上の誘電体層と、
前記誘電体層の間に積層されNiを主成分とする電極と、
を備える薄膜コンデンサであって、
前記電極は積層方向に貫通する貫通孔を有し、
少なくとも一部の前記貫通孔の面積は、0.19〜7.0μmであり、
前記貫通孔を含む前記内部電極の主面全体の面積に対する前記貫通孔の面積の割合は0.05〜5%である
ことを特徴とする薄膜コンデンサ。
【請求項2】
全ての前記貫通孔の面積は0.19〜7.0μmである請求項1記載の薄膜コンデンサ。
【請求項3】
前記貫通孔は中空である請求項1又は2記載の薄膜コンデンサ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−114312(P2011−114312A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271987(P2009−271987)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】