説明

衝突時衝撃軽減装置及び車両

【課題】他車両による後方からの追突時に確実に乗員の安全を確保できる衝突時衝撃軽減装置及びその衝突時衝撃軽減装置を備えた車両を提供すること。
【解決手段】本発明の衝突時衝撃軽減装置及び車両によれば、他車両進行方向取得手段により取得された進行方向と他車両速度取得手段により取得された他車両の速度とに基づいて、他車両の移動可能な範囲が推定されるので、加速手段による加速を適切なタイミングで実行することができる。よって、衝突の際に自車両が他車両から受ける衝突エネルギーを確実に軽減することができるので、乗員の安全を確実に確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動及び制動を制御する衝突時衝撃軽減装置及びその衝突時衝撃軽減装置を備えた車両に関し、特に、他車両による後方からの追突時に自車両が受ける衝撃を軽減することによって乗員の安全を確保できる衝突時衝撃軽減装置及びその衝突時衝撃軽減装置を備えた車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車には、事故時における乗員の安全を確保するべく、種々の対策がとられている。かかる乗員安全確保の対策としては、高剛性ボディや衝撃吸収構造ボディなど安全仕様のボディを採用したり、シートベルトやヘッドレストやエアバッグなどの安全装備を採用したりすることによって、事故時に他車両から受けた衝突エネルギーを緩衝して可能な限り乗員へ伝達しないように構成することが一般的である。
【0003】
一方で、特開2005−113769号公報(特許文献1)には、衝突時に後方追従車両から受ける衝撃(衝突エネルギー)を軽減する衝突衝撃軽減装置が記載されている。この特許文献1に記載さえる衝突衝撃軽減装置によれば、自車両と後方追従車両との間の距離Lf0と後方追従車両に対する自車両の相対速度ΔVr0とから得られる衝突予想時間tc(tc=Lf0/ΔVr0)が、衝突する可能性が高いと予め定められている時間tαより短い場合に、自車両を加速して後方追従車両との相対速度を小さくすることによって、衝突時に自車両が後方追従車両から受ける衝突エネルギーを軽減する。
【特許文献1】特開2005−113769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、事故時に他車両から受ける衝突エネルギーを可能な限り乗員へ伝達しないようにすることによって乗員の安全確保を行う場合、受けた衝突エネルギーの大きさによっては十分な緩衝がされず、乗員の受ける衝突エネルギーが危険なレベルに到達するケースがしばしば生じるという問題点があった。
【0005】
また、近年では、省エネルギー及び省スペースな点から小型車の需要が高まっているが、かかる小型車に対しては衝突安全性に対する要求が高く、他車両から受ける衝突エネルギーを可能な限り乗員へ伝達しない方式だけでなくさらに効果的な衝突安全性が求められている。
【0006】
一方、特許文献1に記載される衝突衝撃軽減装置は、衝突時(事故時)に自車両が後方追従車両から受ける衝突エネルギーを軽減するものであるので、上述した事故時に他車両から受ける衝突エネルギーを可能な限り乗員へ伝達しない方式に比べ、事故時における乗員安全確保に優れている。
【0007】
しかし、特許文献1において、自車両と後方追従車両とが衝突するか否かの判定に用いられる判定要素が、自車両と後方追従車両との間の距離Lf0と後方追従車両に対する自車両の相対速度ΔVr0とから得られる衝突予想時間tcのみであるため、判定精度が低く、確実な安全確保という点において不十分であるという問題点があった。
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、他車両による後方からの追突時に確実に乗員の安全を確保できる衝突時衝撃軽減装置及びその衝突時衝撃軽減装置を備えた車両を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、請求項1記載の衝突時衝撃軽減装置は、他車両の速度を取得する他車両速度取得手段と、前記他車両の進行方向を取得する他車両進行方向取得手段と、前記他車両における少なくとも1つの基準位置を設定する基準位置設定手段と、前記他車両進行方向取得手段により取得された進行方向、前記他車両速度取得手段により取得された前記他車両の速度に基づき、前記他車両における前記基準位置が移動可能な範囲を推定する他車両移動可能範囲推定手段と、その他車両移動可能範囲推定手段により推定された移動可能範囲外に自車両の少なくとも一部が位置することがある場合に、自車両と前記他車両とが衝突すると判定する衝突判定手段と、その衝突判定手段により自車両と前記他車両とが衝突すると判定された場合に、該他車両と衝突する前に自車両を該他車両から離れる方向に加速させる加速手段と、前記他車両との衝突情報を得る衝突情報取得手段と、前記加速手段による自車両の加速後に前記衝突情報取得手段により衝突情報が取得された場合に、自車両を減速させる減速手段とを備えている。
【0010】
請求項2記載の衝突時衝撃軽減装置は、請求項1記載の衝突時衝撃軽減装置において、前記他車両移動可能範囲推定手段は、少なくとも前記他車両速度取得手段により取得された前記他車両の速度に依存する該他車両の限界旋回半径で旋回する場合に描かれる前記基準位置の軌跡に基づいて移動可能範囲を推定する。
【0011】
請求項3記載の衝突時衝撃軽減装置は、請求項1又は2に記載の衝突時衝撃軽減装置において、前記基準位置設定手段は、前記基準位置を複数設定するものであり、前記他車両移動可能範囲推定手段は、前記基準位置設定手段により設定された全ての基準位置に対して、それぞれ、前記移動可能範囲を推定するものであり、前記衝突判定手段は、前記他車両移動可能範囲推定手段による推定された移動可能範囲の全てについて、移動可能範囲外に自車両の少なくとも一部が位置することがある場合にのみ、自車両と前記他車両とが衝突すると判定するものである。
【0012】
請求項4記載の衝突時衝撃軽減装置は、請求項1から3のいずれかに記載の衝突時衝撃軽減装置において、前記基準位置設定手段は、前記他車両の前方又は後方において自車両に対向している側における車幅方向の両側に各々位置する2箇所を基準位置として設定するものである。
【0013】
請求項5記載の車両は、請求項1から4のいずれかに記載の衝突時衝撃軽減装置を備えている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の衝突時衝撃軽減装置によれば、他車両の進行方向と速度とが、それぞれ、他車両進行方向取得手段と他車両速度取得手段とによって取得されると、その取得された他車両の進行方向及び速度に基づき、基準位置設定手段により設定された少なくとも1つの基準位置に対する移動可能範囲が他車両移動可能範囲推定手段によって推定される。
【0015】
このように他車両の移動可能範囲が推定されると、推定された移動可能範囲外に自車両の少なくとも一部が位置することがある場合に、衝突判定手段により、自車両と他車両とが衝突すると判定される。
【0016】
かかる衝突判定手段によって自車両と他車両とが衝突すると判定された場合には、加速手段により、他車両と衝突する前に自車両が該他車両から離れる方向に加速される。かかる加速の後、衝突情報取得手段により他車両との衝突情報が取得されると、制動手段によって自車両が制動されて停止される。
【0017】
よって、自車両と他車両とが衝突する前に、自車両は他車両から離れる方向に加速されるので、衝突時の相対速度が減じられて衝突の際に自車両が受ける衝突エネルギーを軽減することができ、乗員の安全を確実に確保できるという効果がある。
【0018】
ここで、請求項1記載の衝突時衝撃軽減装置によれば、他車両移動可能範囲推定手段により推定される移動可能範囲は、他車両進行方向取得手段により取得された他車両の進行方向と他車両速度取得手段により取得された他車両の速度とに基づいて推定される。
【0019】
上記したように、特許文献1に記載される衝突衝撃軽減装置では、自車両と他車両(後方追従車両)とが衝突するか否かの判定に用いられる判定要素が衝突予想時間tcのみであり、他車両が急旋回など制動以外の挙動をとることについては考慮されていないので、他車両が旋回挙動などの挙動を取った場合には、衝突が回避されるにもかかわらず加速してしまったり、衝突軽減のための加速を行うタイミングがずれて十分な衝撃軽減効果を得られず、乗員の安全確保という点において不十分であるという問題があった。
【0020】
これに対し、請求項1記載の衝突時衝撃軽減装置によれば、他車両の進行方向と他車両の速度とに基づいて他車両の移動可能範囲が推定される。よって、他車両の挙動がより具体的に考慮されるので、特許文献1に記載される衝突衝撃軽減装置に比べて高精度に自車両と他車両との衝突を判定することができ、その結果、誤動作がなく、加速手段による加速を適切なタイミングで実行することができるのである。よって、衝突の際に自車両が受ける衝突エネルギーを確実に軽減することができるので、乗員の安全を確実に確保できるという効果がある。
【0021】
なお、請求項1における他車両移動可能範囲推定手段によって推定される「移動可能範囲」は、他車両進行方向取得手段により取得された進行方向に走行する他車両における基準位置が移動可能な軌跡(例えば、他車両進行方向取得手段により取得された進行方向に走行する他車両における基準位置が該他車両の限界旋回半径で旋回する場合に描かれる軌跡)そのものであってもよいし、その軌跡に対して所定量のオフセットを含む領域であってもよい。
【0022】
また、請求項1における「他車両移動可能範囲取得手段により取得された移動可能範囲外に自車両の少なくとも一部が位置する」には、自車両の少なくとも一部が移動可能範囲を示す境界線を越えた外側に位置することだけでなく、他車両進行方向取得手段により取得された進行方向に走行する他車両における基準位置が該他車両の限界旋回半径で旋回する場合に描かれる軌跡や、移動可能範囲の境界線に接した場合も含まれることを意図している。
【0023】
また、請求項1における加速手段を実行する条件である「衝突判定手段により自車両と前記他車両とが衝突すると判定された場合」には、基準位置設定手段により設定された基準位置の全てに対して推定された全ての移動可能範囲外に自車両が位置することがある場合に限定することを意図するものではなく、各基準位置に対して推定された移動可能範囲のうち、少なくとも1つの移動可能範囲外に自車両の少なくとも一部が位置する場合や、所定数を超える移動可能範囲に対して該移動範囲外に自車両の少なくとも一部が位置する場合なども含むことを意図している。
【0024】
請求項2記載の衝突時衝撃軽減装置によれば、請求項1記載の衝突時衝撃軽減装置が奏する効果に加えて、次の効果を奏する。他車両移動可能範囲推定手段により推定される移動可能範囲は、少なくとも他車両速度取得手段により取得された他車両の速度に依存する該他車両の限界旋回半径で旋回する場合に描かれる基準位置の軌跡に基づいて推定される。
【0025】
よって、少なくとも他車両速度取得手段により取得された他車両の速度に依存する限界旋回半径に基づいて他車両の移動可能範囲が推定され、他車両の移動可能範囲をより高精度に推定することができるので、誤動作することなく、加速手段による加速を適切なタイミングで実行することができ、その結果として、乗員の安全を確実に確保できるという効果がある。
【0026】
請求項3記載の衝突時衝撃軽減装置によれば、請求項1又は2に記載の衝突時衝撃軽減装置が奏する効果に加えて、次の効果を奏する。基準位置設定手段により設定された複数の基準位置の全てに対して、それぞれ、車両移動可能範囲推定手段によって移動可能範囲が推定され、推定された全ての移動可能範囲について、移動可能範囲外に自車両の少なくとも一部が位置することがある場合にのみ、衝突判定手段によって自車両と他車両とが衝突すると判定される。
【0027】
よって、複数の基準位置に対して推定された移動可能範囲を考慮するので、自車両と他車両との衝突を確実に判定することができ、その結果、乗員の安全をより確実に確保できるという効果がある。
【0028】
また、推定された全ての移動可能範囲について、移動可能範囲外に自車両の少なくとも一部が位置することがある場合にのみ、自車両と他車両とが衝突すると判定されるので、移動可能範囲外に自車両の少なくとも一部が位置しない基準位置が1つでもある場合には、自車両と他車両とが衝突すると判定されない。従って、かかる場合には、加速手段による自車両の加速が実行されない。即ち、他車両が自車両との衝突を回避できる可能性が少しでもある場合には、自車両は無駄に加速されないので、加速手段によって自車両が加速される方向を無駄に危険に晒すことを防止できるという効果がある。
【0029】
請求項4記載の衝突時衝撃軽減装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載の衝突時衝突軽減装置が奏する効果に加えて、次の効果を奏する。基準位置設定手段により設定される2箇所の基準位置は、他車両における自車両に対向する側の車幅方向の両端の各々に位置する2箇所であり、他車両が右又は左方向に旋回された場合に最も早く最も自車両に近づく位置である。
【0030】
よって、これら2箇所を基準位置として、それらの移動可能範囲を各々求めることにより、他車両が右又は左方向に限界旋回半径で旋回した場合に自車両との衝突を回避できるか否かを確実に判定することができる。即ち、他車両における可能な限り極限の回避を行った場合であっても自車両と衝突するか否かを判定できるので、自車両と他車両との衝突を確実に把握することができ、その結果として、乗員の安全を確実に確保できるという効果がある。
【0031】
なお、請求項4において、「他車両の前方又は後方において自車両に対向している側における車幅方向の両側に各々位置する2箇所」とは、自車両との対向表面の車幅方向の両端又は両側近傍の2箇所(例えば、左右ヘッドライトや左右テールランプなど)や、他車両の前方又は後方であって自車両と対向する側の表面に連続する両側面上の2箇所(例えば、前方側面に配設された左右ウィンカーなど)や、他車両の前方又は後方であって自車両と対向する側の表面に連続する天面上の2箇所(例えば、ボンネット上に配設された左右サイドミラーなど)や、他車両の前方又は後方であって自車両と対向する側の表面の縁端部や角部の2箇所や、それらの縁端部や角部から所定範囲内で内側に位置する2箇所などを含むことを意図する。
【0032】
請求項5記載の車両によれば、請求項1から4のいずれかに記載の衝突時衝突軽減装置を備えているので、上記した請求項1から4のいずれかに記載の衝突時衝突軽減装置によって得られる効果と同様の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の衝突時衝撃軽減装置として機能する制御装置10が搭載された車両1を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印FWDは、車両1の前進方向を示す。また、図1では、左右の前車輪2FL、2FRに所定の舵角が付与された状態が図示されている。
【0034】
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、車体フレームBFと、その車体フレームBFに支持される複数(本実施の形態では4輪)の車輪2と、それら各車輪2をそれぞれ回転駆動する車輪駆動装置3とを主に備えている。
【0035】
次いで、各部の詳細構成について説明する。車輪2は、図1に示すように、車両1の進行方向前方側に位置する左右の前輪2FL,2FRと、進行方向後方側に位置する左右の後輪2RL,2RRとの4輪を備え、前輪2FL,2FRは、ステアリング装置(図示せず)により操舵可能に構成されている。
【0036】
車輪駆動装置3は、各車輪2を独立に回転駆動するための回転駆動装置であり、図1に示すように、4個の電動モータ(FL〜RRモータ3FL〜3RR)を各車輪2ごとに(即ち、インホイールモータとして)配設して構成されている。運転者がアクセルペダル53を操作した場合には、各車輪駆動装置3から回転駆動力が各車輪2に付与され、各車輪2がアクセルペダル53の操作量に応じた回転速度で回転される。なお、運転者がアクセルペダル53を操作した際の電動モータ(FL〜RRモータ3FL〜3RR)の回転方向は、運転者によって操作されるギアレバー(図示せず)の位置に応じて順転又は逆転される。
【0037】
制御装置10は、上述のように構成された車両1の各部を制御するための制御装置であり、例えば、アクセルペダル53又はブレーキペダル52の操作に応じた車輪駆動装置3の駆動制御を行うものである。また、制御装置10は、例えば、後述する後方車両衝突時衝撃軽減処理(図3参照)を実行し、車両1の後方から接近する他車両X(図5参照)との衝突時に車両1が受ける衝突エネルギーが軽減されるよう制御する衝突時衝撃軽減装置としても機能する。
【0038】
また、車両1の後方には後方カメラ42と後方ミリ波レーダ装置44とが設置され、車両1の前方には前方カメラ43と前方ミリ波レーダ45装置とが設置されている。これらのカメラ42,43及びミリ波レーダ装置44,45は、いずれも、制御装置10からの駆動指示に基づいて作動し、車両1の周囲の撮像や車両1付近の他車両との距離などの測定を行う。
【0039】
ここで、図2を参照して、上記した制御装置10の詳細構成について説明する。図2は、制御装置10の電気的構成を示したブロック図である。制御装置10は、図2に示すように、CPU71と、ROM72と、RAM73とを備え、これらはバスライン74を介して入出力ポート75に接続されている。また、入出力ポート75には、車輪駆動装置3等の複数の装置や、衝突センサ装置40、後方カメラ42、前方カメラ43、後方ミリ波レーダ装置44、前方ミリ波レーダ装置45、及び音声出力用のスピーカ50が接続されている。
【0040】
CPU71は、バスライン74により接続された各部を制御する演算装置である。ROM72は、CPU71により実行される制御プログラムや固定値データ等を格納した書き換え不能な不揮発性のメモリである。なお、後述する図3及び図4に示すフローチャートを実行するプログラムは、このROM72に格納されている。また、ROM72には、スピーカ50から出力される各種アナウンス(接近アナウンスや回避アナウンスなど)用の音声データが格納されている。
【0041】
RAM73は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリであり、衝突確定フラグ73aを備えている。この衝突確定フラグ73aは、自車(車両1)とその自車両に接近する他車両(例えば、車両1の後方から接近する他車両X(図5参照))との衝突が確定的か否かを示すフラグであり、この衝突確定フラグ73aがオンである場合には、車両1と他車両との衝突が確定したことを示す。この衝突確定フラグ73aは、制御装置10に電源が投入される毎にオフに初期化され、後述する衝突判定処理(図4参照)において自車(車両)と他車両とが衝突するとの確定がなされた場合にオンされる。
【0042】
なお、RAM73はまた、後方カメラ42から得た撮像画像に対する処理結果、前方カメラ43から得た撮像画像に対する処理結果、後方ミリ波レーダ装置44から得た計測結果、前方ミリ波レーダ装置45から得た計測結果を、それぞれ時系列に隣接する2点ずつ記憶することのできるメモリ領域(図示せず)も備えている。
【0043】
車輪駆動装置3は、上述したように、各車輪2(図1参照)を回転駆動するための装置であり、各車輪2に回転駆動力を付与する4個のFL〜RRモータ3FL〜3RRと、それら各モータ3FL〜3RRをCPU71からの命令に基づいて駆動制御する駆動回路(図示せず)とを備えている。
【0044】
車両速度センサ装置32は、路面に対する車両1の対地速度(絶対値及び進行方向)を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力する装置であり、前後及び左右方向加速度センサ32a,32bと、それら各加速度センサ32a,32bの検出結果を処理してCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを備えている。
【0045】
前後方向加速度センサ32aは、車両1(車体フレームBF)の前後方向(図1上下方向)の加速度を検出するセンサであり、左右方向加速度センサ32bは、車両1(車体フレームBF)の左右方向(図1左右方向)の加速度を検出するセンサである。CPU71は、車両速度センサ装置32から入力された各加速度センサ32a,32bの検出結果(加速度値)を時間積分して、2方向(前後及び左右方向)の速度をそれぞれ算出すると共に、それら2方向成分を合成することで、車両1の対地速度(絶対値及び進行方向)を得ることができる。なお、車両速度センサ装置32は、車輪2の回転速度から求める形態であってもよい。
【0046】
衝突センサ装置40は、車両1が衝突によって受けた衝撃を検出すると共に、その検出結果をCPU71に出力する装置である。この衝突センサ装置40は、車両1における所定位置(例えば、前方、後方、側方、底面中央など)に設置されている加速度センサ40aと、加速度センサ40aからの入力を前方衝突又は後方衝突によるものであるか否かを判定する衝突検知回路(図示せず)と、その衝突検知回路による処理結果をCPU71に出力する処理回路(図示せず)とを備えている。
【0047】
後方カメラ42及び前方カメラ43は、いずれも、小型CCDカメラから構成されており、車両1の後方に設置されている後方カメラ42は車両1の後方を撮像し、車両1の前方に設置されている前方カメラ43は車両1の前方を撮像することができる。これらのカメラ42,43は、所定時間毎(例えば、10ms毎)に撮像を行い、その撮像データをCPU71に出力する。CPU71は、これらのカメラ42,43から得た撮像データに基づく画像認識処理を行い、その結果をRAM73における所定のメモリ領域に記憶する。
【0048】
詳細は後述するが、本実施の形態では、これらのカメラ42,43による撮像によって得られた撮像画像を、それぞれ車両1の後方又は前方に位置する他車両(例えば、車両1の後方に位置する他車両X(図5参照))の存在や、進行方向(進行方向ベクトル)の取得や、特定位置(例えば、他車両の移動軌跡を得るための基準位置)の認識などに利用する。
【0049】
後方ミリ波レーダ装置44及び前方ミリ波レーダ装置45は、いずれも、ミリ波(30GHz〜300GHz程度の電磁波)を発信する発信部(図示せず)と、対象物から反射してきた電磁波を受信する受信部(図示せず)と、その受信部で受信した電磁波に基づいて、元信号との周波数差を計測する計測部(図示せず)とから構成される装置である。これらのミリ波レーダ装置44,45は、上記したカメラ42,43と同期して所定時間毎(例えば、10ms毎)に対象物までの距離の計測を行い、その結果をCPU71へ出力する。CPU71は、これらのミリ波レーダ装置44,45から受信した測定結果をRAM73における所定のメモリ領域に記憶する。なお、他車両Xの速度は、RAM73に記憶される時系列的に隣接する2測定点での距離の差分(距離変位)と測定間隔とから得られ、自車(車両1)と他車両Xとの相対速度は、他車両Xの速度と車両速度センサ装置32から得られる車両1の速度とから得られる。
【0050】
次に、図3を参照して、上記のように構成される本実施の形態の車両1で実行される衝突時の衝撃を軽減するための制御について説明する。図3は、車両1の制御装置10(CPU71)で実行される後方車両衝突時衝撃軽減処理を示すフローチャートである。
【0051】
この後方車両衝突時衝撃軽減処理は、車両1の後方(図1下側)から他車両X(図5参照)に追突(衝突)された場合に、その衝突時の衝撃を軽減する処理であり、制御装置10に電源が投入されると起動する処理である。
【0052】
図3に示すように、この後方車両衝突時衝撃軽減処理では、まず、衝突確定フラグ73aの初期化やCPU71に内蔵されるタイマ(図示せず)のリセットなどの初期化処理を実行する(S301)。
【0053】
初期化処理(S301)の実行後、RAM73における所定のメモリ領域に記憶されている後方カメラ42による最新の撮像画像に基づいて他車両X(図5参照)の存在が確認されるか否かを判断し(S302)、他車両Xの存在が確認された場合には(S302:Yes)、確認された他車両Xの進行方向が自車(車両1)の方向を向くか否かを判定する(S303)。
【0054】
なお、本実施の形態では、S303において、他車両Xの進行方向(進行方向ベクトル)は、後方ミリ波レーダ装置44から得られた他車両Xとの距離の変化(又は相対速度)と、後方カメラ42から得られる時系列的な撮像画像から得られた他車両Xにおける所定位置(例えば、ヘッドライドなど)の位置変化とから得る。
【0055】
また、本実施の形態では、S303において、上述のようにして得られた進行方向ベクトル上に自車(車両1)の少なくとも一部が位置する又は接している場合に、他車両Xの進行方向が自車の方向を向くと判定する。なお、本実施の形態では、他車両Xの進行方向ベクトル上に自車の少なくとも一部が位置する又は接している場合に他車両Xの進行方向が自車の方向を向くと判定するものとしているが、自車が他車両Xの進行方向ベクトル上に位置していない場合であっても、所定のオフセットの範囲内であれば他車両Xの進行方向が自車の方向を向くと判定するように構成してもよい。
【0056】
S303の処理により確認した結果、他車両Xが自車方向を向くと判定された場合には(S303:Yes)、RAM73における所定のメモリ領域に記憶されている最新の他車両Xとの距離が、数秒(例えば、約1秒程度)後に衝突する可能性がある距離である衝突危険距離未満であるかを確認する(S304)。なお、この衝突危険距離は、車両1と他車両Xとの相対速度に依存する値であり、例えば、車両1に対する他車両Xの相対速度が約4km/hである場合の衝突危険距離は約1mとされる。なお、他車両Xの進行方向に応じて衝突危険距離の補正を行うような構成であってもよい。
【0057】
S304の処理により確認した結果、自車(車両1)と他車両Xとの距離が衝突危険距離未満である場合には(S304:Yes)、後方に位置する他車両Xが衝突危険距離に接近している旨を報知する接近アナウンスをスピーカ50から出力し(S305)、後述する衝突判定処理を実行し、車両1と他車両Xとが衝突するか否かの判定を行う(S306)。
【0058】
衝突判定処理(S306)の実行後、衝突確定フラグ73aがオンであるか、即ち、衝突判定処理(S306)において車両1と他車両Xとが衝突すると判定されたかを確認する(S307)。S307の処理により確認した結果、衝突確定フラグ73aがオンであれば(S307:Yes)、ブレーキをオフして(S308)、アクセルをオンする(S309)。
【0059】
S308及びS309の処理の結果、車両1は、前方、即ち、他車両Xから離れる方向へ加速される。よって、車両1に対する他車両Xの相対速度を減じることができるので、その直後に他車両Xが車両1の後方から衝突(追突)した場合に、その衝突時において車両1が受ける衝突エネルギーを軽減することができる。
【0060】
S309の処理後、CPU71に内蔵されるタイマ(図示せず)による計時を開始し(S310)、自車(車両1)が他車両Xと衝突したか、即ち、衝突センサ装置40から衝突による入力があったかを確認する(S311)。
【0061】
S311の処理により確認した結果、衝突センサ装置40から衝突による入力があれば(S311:Yes)、アクセルをオフして(S312)、ブレーキをオンし(S313)、この後方車両衝突時衝撃軽減処理を終了する。よって、S308及びS309の処理の結果として加速された車両1は、他車両Xとの衝突後に、S312及びS313の処理の結果として制動されてやがて停止する。
【0062】
一方で、S311の処理により確認した結果、衝突センサ装置40から衝突による入力がなければ(S311:No)、S310の処理によって計時が開始されたタイマの示す値が、予め規定されているタイムアウト時間(例えば、約1.5秒程度)を超えたかを確認し(S317)、タイムアウト時間以内であれば(S317:No)、S311の処理へ移行し、引き続き、衝突センサ装置40からの入力の確認を行う。
【0063】
S317の処理により確認した結果、S310の処理によって計時が開始されたタイマの示す値がタイムアウト時間を超えている場合には(S317:Yes)、何らかの原因によって衝突するはずであった他車両Xとの衝突が回避されたものとみなし、アクセルをオフし(S318)、ブレーキをオンし(S319)、他車両Xとの衝突が回避された旨を報知する回避アナウンスをスピーカ50から出力し(S320)、タイマをリセットして(S321)、S302の処理へ移行する。
【0064】
また、S307の処理により確認した結果、衝突確定フラグ73aがオフ、即ち、車両1と他車両Xとの衝突が確定されていない場合には(S307:No)、衝突回避判定処理を行う(S314)。この衝突回避判定処理(S314)では、(1)他車両Xの回避動作(旋回や制動など)の結果として進行方向が自車(車両1)から逸れた場合、又は、(2)他車両Xの急減速又は停止によって、他車両Xと車両1との距離が衝突危険距離以上となった場合に、他車両Xとの衝突が回避されたと判定される。
【0065】
衝突回避判定処理(S314)の実行後、他車両Xとの衝突が回避されたかを確認し(S315)、回避されていなければ(S315:No)、衝突判定処理(S306)を再度実行し、車両1と他車両Xとが衝突するか否かの判定を行う。
【0066】
一方で、S315の処理により確認した結果、他車両Xとの衝突が回避された場合には(S315:Yes)、他車両Xとの衝突が回避された旨を報知する回避アナウンスをスピーカ50から出力し(S316)、S302の処理へ移行する。
【0067】
また、以下の(1)〜(3)の場合には、自車(車両1)との衝突の可能性は低いので、後方の監視を続けるために再度S302の処理を実行する:(1)S302の処理により確認した結果、後方カメラ42による撮像画像からは他車両Xの存在が確認されなかった場合(S302:No)、(2)S303の処理により確認した結果、他車両Xが自車方向を向いていないと判定された場合(S303:No)、(3)S304の処理により確認した結果、車両1と他車両Xとの距離が衝突危険距離以上である場合(S304:No)。
【0068】
即ち、自車(車両1)との衝突の可能性が低い場合には、衝突判定処理(S307)が実行されないので、他車両の移動可能範囲などの計算が無駄に行われず、制御装置10の制御負荷を抑制できると共に、車両1が誤って加速されてしまうことを確実に防止することができる。
【0069】
次に、図4を参照して、上記した衝突判定処理(S306)について説明する。図4は、図3の後方車両衝突時衝撃軽減処理の中で実行される衝突判定処理(S306)を示すフローチャートである。
【0070】
図4に示すように、この衝突判定処理(S306)では、まず、RAM73における所定のメモリ領域に記憶されている後方カメラ42による最新の撮像画像から他車両Xの左右端点の位置を基準位置として取得する(S401)。なお、本実施の形態では、後方から接近する他車両Xに対する左右端点の位置を左右ヘッドライト(図示せず)とし、撮像画像による画像認識から左右ヘッドライトの位置を取得する。
【0071】
S401の処理後、RAM73における所定のメモリ領域に記憶されている最新の他車両Xとの距離を取得する(S402)。S402の処理後、S303と同様に他車両Xの進行方向を得る(S403)と共に、RAM73に記憶される時系列的に隣接する2測定点での距離の差分(距離変位)と測定間隔とから他車両Xの速度を得る(S404)。
【0072】
S404の処理後、S403の処理によって得た他車両Xの進行方向とS404の処理によって得た他車両Xの速度とに基づいて、S401の処理により取得した右端点(本実施の形態では、右ヘッドライト)の移動可能軌跡(第1の移動可能軌跡Tr1)を推定する(S405)。次いで、S403の処理によって得た他車両Xの進行方向とS404の処理によって得た他車両Xの速度とに基づいて、S401の処理により取得した左端点(本実施の形態では、左ヘッドライト)の移動可能軌跡(第2の移動可能軌跡Tr2)を推定する(S406)。
【0073】
ここで、追突(衝突)する側の車両(本実施の形態では他車両X)の運転者が衝突による被害を低減させるために一般的に取る方法は、旋回による回避及び制動による減速である。よって、S405及びS406において移動可能軌跡Tr1,Tr2を推定するためには、まず、他車両Xの限界旋回半径rlimと車両速度vとの関係式を求める。
【0074】
具体的には、タイヤの摩擦μから耐えられる遠心力F(N)がF=μW(Wは荷重(kgf))であり、一方で、求心加速度a(m/s)=rω=v/r(ωは角速度(rad/s),vは速度(m/s),rは旋回半径(m))と運動方程式F=ma(mは質量(kg))とからμW=(mv)/rが得られ、車両1の質量mを荷重Wとみなすと、r=v/μという関係式が得られる。ここで、最も車両1(追突される側)に安全な条件であるμ=1とした場合の旋回半径rを限界旋回半径rlimとすると、限界旋回半径rlim=vとして表すことができる。
【0075】
次に、S404の処理によって得た他車両Xの速度から減速された場合における限界旋回半径rlimと時間との関係式を求める。具体的には、S404の処理によって得た他車両Xの速度をvとすると、減速度a(m/s)で減速される他車両Xのt秒後における速度vは、v=v−atで表される。ここで、減速度aをABSによる減速時の最大減速度として一般的な0.8Gとすると、v=v−0.8G*tで表される。よって、t秒後の限界旋回半径rlim(t)を、rlim(t)=v=(v−0.8G*t)で表すことができる。ただし、他車両Xは減速によってやがて停止するので、時間tには最大値(限界値)が存在する。即ち、時間tの範囲は、0≦t≦0.8G/vである。
【0076】
ここで、車両1の後方から衝突しつつある他車両Xが左旋回した場合に、他車両Xにおいて車両1に最も早く最も接近する位置、即ち、最も早く衝突する可能性のある位置は、他車両Xの前方右側端部又はその近傍である。一方で、他車両Xが右旋回した場合に、他車両Xにおいて最も早く衝突する可能性のある位置は、他車両Xの前方左側端部又はその近傍である。
【0077】
そのため、S405及びS406において推定される2つの移動可能軌跡Tr1,Tr2は、S401の処理により取得した右端点(本実施の形態では、右ヘッドライト)又はS401の処理により取得した左端点(本実施の形態では、左ヘッドライト)が、それぞれ、左旋回及び右旋回する場合に移動可能な軌跡を推定すればよい。
【0078】
よって、本実施の形態では、S403の処理によって得た進行方向で他車両Xが前進する場合に、S401の処理により取得した右端点(本実施の形態では、右ヘッドライト)が、上述のように得られるt秒後の限界旋回半径rlim(t)で左旋回する際に描く軌跡を、第1の移動可能軌跡Tr1として推定する。
【0079】
同様に、S403の処理によって得た進行方向で他車両Xが前進する場合に、S401の処理により取得した左端点(本実施の形態では、左ヘッドライト)が、上述のように得られるt秒後の限界旋回半径rlim(t)で右旋回する際に描く軌跡を、第2の移動可能軌跡Tr2として推定する。
【0080】
S406の処理後、S405の処理によって推定した第1の移動可能軌跡Tr1上に現状速度で走行する自車(車両1)が位置するかを確認する(S407)。なお、S407では、第1の移動可能軌跡Tr1に車両1が接している場合も、「第1の移動可能軌跡Tr1上に自車が位置する」に含まれる。
【0081】
S407の処理により確認した結果、第1の移動可能軌跡Tr1上に車両1が位置する場合には(S407:Yes)、S406の処理によって推定した第2の移動可能軌跡Tr2上に現状速度で走行する自車(車両1)が位置するかを確認する(S408)。なお、S408では、第2の移動可能軌跡Tr2に車両1が接している場合も、「第2の移動可能軌跡Tr2上に自車が位置する」に含まれる。
【0082】
S408の処理により確認した結果、第2の移動可能軌跡Tr2上に現状速度で走行する車両1が位置する場合には(S408:Yes)、他車両Xが限界旋回半径rlimで旋回した場合であっても現状速度で走行する車両1を回避できないと推定されるので、衝突が確定したとみなし、衝突フラグ73aをオンし(S409)、この衝突判定処理(S307)を終了し、後方車両衝突時衝撃軽減処理(図3)へ戻る。
【0083】
一方、S407の処理により確認した結果、第1の移動可能軌跡Tr1上に現状速度で走行する車両1が位置しない場合(S407:No)、又は、S408の処理により確認した結果、第2の移動可能軌跡Tr2上に車両1が位置しない場合には(S408:No)、他車両Xが現状速度で走行する車両1を回避できる可能性があるので、この段階で衝突を確定できない。よって、かかる場合には、この衝突判定処理(S307)を終了し、後方車両衝突時衝撃軽減処理(図3)へ戻る。
【0084】
次に、上述した衝突判定処理に対する理解を容易にする目的で、図5を参照しつつ説明する。図5は、車両1の後方から接近する他車両Xの左右端点がそれぞれ描く2つの移動可能軌跡Tr1,Tr2を示す模式図である。なお、図5では、最も簡単な例として、矢印FWD方向に前進する車両1の真後ろに他車両Xが位置し、他車両Xの進行方向は車両1の進行方向に一致する場合を例示している。
【0085】
図5に示すように、他車両Xが左旋回する場合には、衝突判定処理(図4参照)におけるS401の処理によって他車両Xの右端点として取得された右ヘッドライトHrが、S405の処理によって限界旋回半径rlim(t)が描く軌跡である第1の移動可能軌跡Tr1上を通過すると推定される。なお、上述のように、時間tの範囲は0≦t≦0.8G’/vであるので、移動可能軌跡Tr1は、t=0における右ヘッドライトHrの位置Tr1(0)から、tの最大値における右ヘッドライトHrの位置Tr1(e)までの制動距離の範囲内で存在する。
【0086】
よって、他車両Xが車両1を回避するべく限界の左旋回を行った場合に、最も早く車両1に衝突する可能性のある右端点(右ヘッドライトHr)は、第1の移動可能軌跡Tr1を通過すると推定することができる。
【0087】
換言すれば、現状速度で走行する車両1に対し、その車両1上を第1の移動可能軌跡Tr1が通過したり、車両1に第1の移動可能軌跡Tr1が接することがある場合には、他車両Xが限界の左旋回した場合であっても車両1に衝突又は接触すると推定することができる。図5に示す例では、第1の移動可能軌跡Tr1はP1において現状速度で走行する車両1の後方左隅部に接しているので、P1において衝突又は接触すると推定することができる。
【0088】
同様に、他車両Xが右旋回する場合には、衝突判定処理(図4参照)におけるS401の処理によって他車両Xの左端点として取得された右ヘッドライトHrが、S406の処理によって限界旋回半径rlim(t)が描く軌跡である第2の移動可能軌跡Tr2上を通過すると推定される。なお、第2の移動可能軌跡Tr2もまた、時間tの取り得る範囲によって、t=0における左ヘッドライトHlの位置Tr2(0)から、tの最大値における左ヘッドライトHlの位置Tr2(e)までの制動距離の範囲内で存在する。
【0089】
よって、他車両Xが車両1を回避するべく限界の右旋回を行った場合に、最も早く車両1に衝突する可能性のある左端点(左ヘッドライトHl)は、第2の移動可能軌跡Tr2を通過すると推定することができる。
【0090】
換言すれば、現状速度で走行する車両1に対し、その車両1上を第2の移動可能軌跡Tr2が通過したり、車両1に第2の移動可能軌跡Tr2が接することがある場合には、他車両Xが限界の右旋回した場合であっても車両1に衝突又は接触すると推定することができる。図5に示す例では、第2の移動可能軌跡Tr2はP2において現状速度で走行する車両1の後方右隅部に接しているので、P2において衝突又は接触すると推定することができる。
【0091】
従って、衝突判定処理(図4参照)におけるS407又はS408の処理により確認した結果、第1の移動可能軌跡Tr1と第2の移動可能軌跡Tr2の両方の移動可能軌跡上に、現状速度で走行する車両1が位置する場合には、他車両Xが、左右どちらの旋回によっても車両1との衝突を回避することができないと推定されるので、かかる場合には、衝突が確定したとみなしてS408の処理を実行して衝突フラグ73aがオンされる。
【0092】
一方で、第1の移動可能軌跡Tr1又は第2の移動可能軌跡Tr2の少なくとも一方の移動可能軌跡上には車両1上が位置しない場合には、他車両Xが、左又は右旋回によって車両1との衝突を回避できる可能性があると推定されるので、かかる場合には、衝突の確定は行わず、衝突判定処理(図4参照)を終了して後方車両衝突時衝撃軽減処理(図3参照)に戻り、さらに他車両Xの監視を続ける。
【0093】
このように、他車両Xが車両1を回避できる可能性があると推定される場合には、衝突の確定をしないことによって、無駄にS309及びS310の処理が実行されることがなく、車両1の前方(S309及びS310の処理の結果として加速される車両1の加速方向)を無駄に危険に晒すことを防止できるのである。
【0094】
以上説明したように、本実施の形態の制御装置10によれば、自車(車両1)と後方から接近する他車両Xとが衝突するか否かの判定は、他車両Xの左右ヘッドライトHl,Hrの位置を基準位置として取得(設定)し、その基準位置が車両1の速度に応じて描く限界旋回半径rlimの軌跡を移動可能軌跡Tr1,Tr2として推定し、その移動可能軌跡Tr1,Tr2と車両1との位置関係に応じて、他車両Xが車両1を回避できるか否かを判定するので、他車両が自車両を回避できない状況、即ち、自車両と他車両との衝突する状況を高精度で把握することができる。
【0095】
よって、車両1と他車両Xとの衝突を高精度に把握することができるので、適切なタイミングで車両1を他車両Xから離れる方向へ加速することができる。よって、車両1に対する他車両Xの相対速度を確実に減じることができるので、その直後に他車両Xが車両1の後方から衝突(追突)した場合に、その衝突時に車両1が受ける衝突エネルギーが確実に軽減され、その結果として、乗員の安全が確実を確保することができる。
【0096】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0097】
例えば、上記各実施の形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0098】
また、上記実施の形態では、車両1の後方(図1下側)から他車両X(図5参照)に追突(衝突)された場合の衝撃を軽減する処理である後方車両衝突時衝撃軽減処理のみを説明したが、車両1の前方(図1上側)から他車両に衝突された場合の衝撃を軽減することも可能である。車両1の前方に位置する他車両に対して衝突時衝撃軽減処理を行うためには、前方カメラ43と前方ミリ波レーダ装置45とを用いて上述した後方車両衝突時衝撃軽減処理(図3参照)及び衝突判定処理(図4参照)と同様の処理を実行する。なお、衝突判定処理によって衝突が確定したら、一旦減速した後に後方へ加速する。進行方向を前進からバックへ完全に切り替えることが望ましいが、車両1の減速により前方から接近する他車両との相対速度は小さくなるので、車両1が他車両から受ける衝突エネルギーを減少させることができる。
【0099】
また、上記実施の形態では、例えば、S407において、第1の移動可能軌跡Tr1上に車両1が位置するか否かを判定したが、第1の移動可能軌跡Tr1に所定量のオフセットを加えてなる領域上に位置するか否かを判定するように構成してもよい。なお、第2の移動可能軌跡Tr2についても同様である。例えば、このオフセットを、限界旋回半径の算出において生じ得る誤差に応じた量など、移動可能軌跡Tr1,Tr2に対して生じ得る誤差を考慮する量とすることによって、衝突判定の誤判定をより少なくすることができる。
【0100】
また、上記実施の形態では、第1の移動可能軌跡Tr1上に車両1が位置し、かつ、第2の移動可能軌跡Tr2上に車両1が位置する場合に、衝突確定フラグ73aをオンするように構成したが、いずれか一方の移動可能軌跡(Tr1又はTr2)上に車両1が位置するのであれば、衝突確定フラグ73aをオンにする構成としてもよい。
【0101】
また、上記実施の形態では、移動可能軌跡Tr1,Tr2を得るために用いる限界旋回半径rlimでは、車輪2と路面との摩擦係数μを1とし、車両1の質量mと荷重Wとが等しいと仮定したが、摩擦係数μや車両1の質量mに応じた限界旋回半径rlimを用いるように構成してもよい。例えば、路面の状態を検出することによってその都度摩擦係数μを求めたり、他車両Xの車種に応じた質量を記憶するテーブルを持ち、後方カメラ42から得た撮像画像の画像認識によって他車両Xの車種を識別し、車種に応じた質量を記憶するテーブルから他車両Xの質量mを取得する構成であってもよい。また、他車両Xの性能を評価(例えば、他車両Xの車種や年式に応じた評価)を考慮した限界旋回半径rlimを用いるような構成としてもよい。
【0102】
また、上記実施の形態では、移動可能軌跡を得るための基準位置として他車両Xの左右端点(左右ヘッドライト)を取得する構成としたが、これに換えた2点を取得する構成としてもよいし、これらの2点に加えた又はこれらの2点以外の複数点を取得する構成としてもよい。多数の基準位置を取ることによって、車両1と他車両Xとの衝突を確実に判定することができる。
【0103】
また、上記実施の形態では、他車両Xが左又は右旋回した場合に、他車両Xにおいて車両1に最も早く最も接近する位置の代表として、左右ヘッドライトを取得する構成としたが、左右ヘッドライトに限らず、車両1の後方に位置する他車両Xの前方(即ち、車両1と対向する側)に配置されている配置物、例えば、フロント面上に配設される左右ウィンカーや、前方側面に配設された左右ウィンカーや、ボンネット上に配設された左右サイドミラーなどであってもよい。なお、左右ヘッドライトなどの配設物ではなく、車両1との対向表面(他車両Xのフロント面)の縁端部や角部の2箇所や、それらの縁端部や角部から所定範囲内で内側に位置する2箇所を適宜位置決めするような構成であってもよい。また、他車両が車両1の前方に位置する場合も同様に扱うことができる。
【0104】
また、上記実施の形態では、車両1の前方と後方にそれぞれ1台ずつのカメラ42,43を設置するように構成したが、その数は1台に限定されず、複数台設置する構成であってもよい。
【0105】
また、上記実施の形態では、他車両との距離を、ミリ波レーダ装置44,45を用いて取得するように構成したが、ミリ波レーダ装置44,45に換えて、他のレーダ装置(レーザレーダ装置など)やセンサ装置(超音波センサや赤外線センサなど)などの対物検出装置を用いる構成であってもよい。
【0106】
また、上記実施の形態では、後方カメラ42による撮像及び後方ミリ波レーダ装置44による計測を所定時間毎に行う構成としたが、後方車両衝突時衝撃軽減処理(図3参照)の中で、必要に応じて、後方カメラ42や後方ミリ波レーダ装置44に対してCPU71から撮像又は計測の指示を出力することによって、撮像又は計測を行わせるような構成であってもよい。
【0107】
また、上記実施の形態では、衝突センサ装置40を、加速度センサ40aによる検出信号を前方衝突又は後方衝突によるものであるか否かを判定した後、その判定結果をCPU71へ出力する構成としたが、加速度センサ40aからCPU71へ検出信号を出力し、CPU71の処理によって衝突を判定する構成であってもよい。
【0108】
また、衝突センサ装置40は、加速度センサ40aを利用する構成であるが、各種レーダ装置(ミリ波レーダ装置やレーザレーダ装置など)や各種センサ装置(超音波センサや赤外線センサなど)などの対物検出装置を用い、衝突直前まで距離を測定することによって衝突センサ装置40による衝突検出に換える構成としてもよい。
【0109】
また、上記実施の形態では、ブレーキのオフ(S308)とアクセルのオン(S309)とによって車両1の加速を行う構成としたが、アクセルのオンによって十分な加速が得られるのであれば、アクセルのオンだけとしてもよい。同様に、車両1の減速を行う場合に、ブレーキのオンだけで安全かつ十分に減速できるのであれば、S312やS318の処理は行わず、ブレーキのオン(S313,S319)だけとしてもよい。
【0110】
また、上記実施の形態では、本発明の衝突時衝撃軽減装置(制御装置10)が搭載される車両1を、前輪2FL,2FRがステアリング装置(図示せず)により操舵可能である車両として構成したが、車両の種類はこれに限定されるものではない。即ち、各車輪の操舵駆動と回転駆動が、それぞれ対応するアクチュエータとモータとによって独立して行われるタイプの車両に本発明の衝突時衝撃軽減装置(制御装置10)を搭載する構成であってもよい。なお、各車輪の操舵駆動と回転駆動が、それぞれ対応するアクチュエータとモータとによって独立して行われるタイプの車両は、移動方向が車両1より広くなるため、衝突時の衝撃軽減に有効な他車両の衝突方向が車両1に比べて拡張される。
【0111】
なお、上記の実施の形態において、請求項1記載の他車両速度取得手段としては、S404の処理が該当し、請求項1記載の他車両進行方向取得手段としては、S403の処理が該当し、請求項1記載の基準位置設定手段としては、S401の処理が該当し、請求項1記載の他車両移動可能範囲推定手段としては、S405、S406の処理が該当し、請求項1記載の衝突判定手段としては、S408のYesの分岐処理が該当し、請求項1記載の加速手段としては、S308,S309の処理が該当し、請求項1記載の情報取得手段としては、S311の判定処理において「衝突センサ40からの入力」を得ることが該当し、請求項1記載の減速手段としては、S312,S313の処理が該当する。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の一実施の形態における制御装置が搭載される車両を模式的に示した模式図である。
【図2】制御装置の電気的構成を示したブロック図である。
【図3】車両の制御装置で実行される後方車両衝突時衝撃軽減処理を示すフローチャートである。
【図4】図3の後方車両衝突時衝撃軽減処理の中で実行される衝突判定処理を示すフローチャートである。
【図5】自車の後方から接近する他車両の左右端点がそれぞれ描く2つの移動可能軌跡を示す模式図である。
【符号の説明】
【0113】
1 車両(車両,自車両)
10 制御装置(衝突時衝撃軽減装置)
Hr 右ヘッドライト(基準位置)
Hl 左ヘッドライト(基準位置)
Tr1 第1の移動可能軌跡(移動可能範囲)
Tr2 第2の移動可能軌跡(移動可能範囲)
X 他車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他車両の速度を取得する他車両速度取得手段と、
前記他車両の進行方向を取得する他車両進行方向取得手段と、
前記他車両における少なくとも1つの基準位置を設定する基準位置設定手段と、
前記他車両進行方向取得手段により取得された進行方向、前記他車両速度取得手段により取得された前記他車両の速度に基づき、前記他車両における前記基準位置が移動可能な範囲を推定する他車両移動可能範囲推定手段と、
その他車両移動可能範囲推定手段により推定された移動可能範囲外に自車両の少なくとも一部が位置することがある場合に、自車両と前記他車両とが衝突すると判定する衝突判定手段と、
その衝突判定手段により自車両と前記他車両とが衝突すると判定された場合に、該他車両と衝突する前に自車両を該他車両から離れる方向に加速させる加速手段と、
前記他車両との衝突情報を得る衝突情報取得手段と、
前記加速手段による自車両の加速後に前記衝突情報取得手段により衝突情報が取得された場合に、自車両を減速させる減速手段とを備えていることを特徴とする衝突時衝撃軽減装置。
【請求項2】
前記他車両移動可能範囲推定手段は、少なくとも前記他車両速度取得手段により取得された前記他車両の速度に依存する該他車両の限界旋回半径で旋回する場合に描かれる前記基準位置の軌跡に基づいて移動可能範囲を推定することを特徴とする請求項1記載の衝突時衝撃軽減装置。
【請求項3】
前記基準位置設定手段は、前記基準位置を複数設定するものであり、
前記他車両移動可能範囲推定手段は、前記基準位置設定手段により設定された全ての基準位置に対して、それぞれ、前記移動可能範囲を推定するものであり、
前記衝突判定手段は、前記他車両移動可能範囲推定手段による推定された移動可能範囲の全てについて、移動可能範囲外に自車両の少なくとも一部が位置することがある場合にのみ、自車両と前記他車両とが衝突すると判定するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の衝突時衝撃軽減装置。
【請求項4】
前記基準位置設定手段は、前記他車両の前方又は後方において自車両に対向している側における車幅方向の両側に各々位置する2箇所を基準位置として設定するものであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の衝突時衝撃軽減装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の衝突時衝撃軽減装置を備えていることを特徴とする車両。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−56148(P2008−56148A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−236972(P2006−236972)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】