製造装置、結晶製造方法、基板製造方法、窒化ガリウム結晶及び窒化ガリウム基板
【課題】均質で高品質な塊状のIII族窒化物結晶を安価に製造する。
【解決手段】製造装置1000は、結晶作製装置100と結晶成長装置500を備えている。結晶作製装置100は、金属Naと金属Gaとを含む混合融液に窒素ガスを供給して第1のGaN結晶を作製する。この第1のGaN結晶は、転位密度が小さく(≦105cm−2)高品質である。第1のGaN結晶は、スライス及び研磨され、GaNウエハが作製される。結晶成長装置500は、作製されたGaNウエハを基板として、HVPE法によって基板上に第2のGaN結晶を結晶成長させ、塊状のGaN結晶を製造する。
【解決手段】製造装置1000は、結晶作製装置100と結晶成長装置500を備えている。結晶作製装置100は、金属Naと金属Gaとを含む混合融液に窒素ガスを供給して第1のGaN結晶を作製する。この第1のGaN結晶は、転位密度が小さく(≦105cm−2)高品質である。第1のGaN結晶は、スライス及び研磨され、GaNウエハが作製される。結晶成長装置500は、作製されたGaNウエハを基板として、HVPE法によって基板上に第2のGaN結晶を結晶成長させ、塊状のGaN結晶を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造装置、結晶製造方法、基板製造方法、窒化ガリウム結晶及び窒化ガリウム基板に係り、更に詳しくは、III族窒化物結晶を製造する製造装置、III族窒化物結晶を製造する結晶製造方法、III族窒化物基板を製造する基板製造方法、塊状の窒化ガリウム結晶及び前記塊状の窒化ガリウム結晶から作製された窒化ガリウム基板に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、紫外、紫〜青〜緑色光源として用いられているInGaAlN(III族窒化物半導体)系デバイスは、その殆どがサファイア及びシリコンカーバイド(SiC)を基板とし、その基板上にMOCVD法(有機金属化学気相成長法)及びMBE法(分子線結晶成長法)等を用いて作製されている。
【0003】
このように、サファイア及びシリコンカーバイドを基板として用いた場合、熱膨張係数及び格子定数が基板とIII族窒化物半導体とでそれぞれ大きく異なっているため、III族窒化物半導体内に多くの結晶欠陥が含まれることとなる。この結晶欠陥は、デバイス特性を低下させ、例えば、発光デバイスにおいては、寿命が短い、動作電力が大きい、等の欠点に直接関係する。
【0004】
また、サファイア基板は、絶縁体であるため、従来の発光デバイスのように基板側から電極を取り出すことが不可能であった。これにより、III族窒化物半導体側から電極を取り出すことが必要となる。その結果、デバイスの面積が大きくなり、高コスト化を招くという不都合があった。そして、デバイスの面積が大きくなると、サファイア基板とIII族窒化物半導体という異種材料の組み合わせに伴う基板の反りという新たな問題が発生する。
【0005】
さらに、サファイア基板上に作製されたIII族窒化物半導体デバイスは、劈開によるチップ分離が困難であり、レーザダイオード(LD)において必要とされる共振器端面を得ることは、容易ではない。このため、現在は、ドライエッチング、又はサファイア基板を厚さ100μm以下まで研磨した後に劈開に近い形に分離し、共振器端面の形成を行なっている。従って、従来のLDのように、共振器端面の形成とチップ分離とを単一工程で行なうことが困難であり、工程の複雑化によるコスト高を招いていた。
【0006】
これらの問題を解決するため、サファイア基板上にIII族窒化物半導体を選択的に横方向に成長させるなどの工夫をし、結晶欠陥を低減させることが提案された。これにより、結晶欠陥を低減させることが可能となったが、サファイア基板の絶縁性及び上述した劈開の困難性に関する問題は、依然として残っている。
【0007】
こうした問題を解決するためには、基板上に結晶成長する材料と同一である窒化ガリウム(GaN)基板を用いることが最適である。
【0008】
例えば、特許文献1には、ガリウム砒素(GaAs)基板上にHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法によって窒化ガリウム結晶を結晶成長し、その結晶成長した窒化ガリウムをスライスして窒化ガリウム基板を製造する方法が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特許第3788037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示されている窒化ガリウム結晶は、転位を減少させるために、転位の合体及び曲げを利用しているため、窒化ガリウム結晶の表面平坦性が悪く、高品質(低欠陥密度)のまま均質な塊状の窒化ガリウム結晶を製造することは困難であった。
【0011】
また、このような窒化ガリウム結晶をスライス及び研磨した場合、結晶粒界及び転位の領域等で機械的損傷及びエッチングが発生し易くなり、高品質で表面平坦性が良好なウエハ(基板)を得ることは困難であった。
【0012】
本発明は、かかる事情の下になされたもので、その第1の目的は、均質で高品質な塊状のIII族窒化物結晶を安価に製造することができる製造装置及び結晶製造方法を提供することにある。
【0013】
また、本発明の第2の目的は、所望の結晶面を主面とするIII族窒化物基板を安価に製造することができる基板製造方法を提供することにある。
【0014】
また、本発明の第3の目的は、均質で高品質で安価な塊状の窒化ガリウム結晶を提供することにある。
【0015】
また、本発明の第4の目的は、所望の結晶面を主面とする高品質で安価な窒化ガリウム基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、第1の観点からすると、III族窒化物結晶を製造する製造装置であって、フラックス法によって作製された第1のIII族窒化物結晶上に、気相成長法を用いて第2のIII族窒化物結晶を結晶成長させる結晶成長装置を備える製造装置である。
【0017】
これによれば、フラックス法によって作製された第1のIII族窒化物結晶上に、結晶成長装置により、気相成長法を用いて第2のIII族窒化物結晶が結晶成長される。この場合には、第1のIII族窒化物結晶が均質で高品質であり、その第1のIII族窒化物結晶上に第2のIII族窒化物結晶が結晶成長するので、第2のIII族窒化物結晶は、均質で高品質に結晶成長することができる。従って、均質で高品質な塊状のIII族窒化物結晶を安価に製造することが可能となる。
【0018】
本発明は、第2の観点からすると、III族窒化物結晶を製造する結晶製造方法であって、フラックス法によって作製された第1のIII族窒化物結晶上に、気相成長法を用いて第2のIII族窒化物結晶を結晶成長させる工程を含む結晶製造方法である。
【0019】
これによれば、フラックス法によって作製された第1のIII族窒化物結晶上に、気相成長法を用いて第2のIII族窒化物結晶が結晶成長される。この場合には、第1のIII族窒化物結晶が均質で高品質であり、その第1のIII族窒化物結晶上に第2のIII族窒化物結晶が結晶成長するので、第2のIII族窒化物結晶は、均質で高品質に結晶成長することとができる。従って、均質で高品質な塊状のIII族窒化物結晶を安価に製造することが可能となる。
【0020】
本発明は、第3の観点からすると、III族窒化物基板を製造する基板製造方法であって、本発明の結晶製造方法によって塊状のIII族窒化物結晶を製造する工程と;前記製造する工程で製造された塊状のIII族窒化物結晶をスライスする工程と;を含む基板製造方法。
【0021】
これによれば、本発明の結晶製造方法によって製造された塊状のIII族窒化物結晶をスライスしているため、結果として、所望の結晶面を主面とするIII族窒化物基板を安価に製造することが可能となる。
【0022】
本発明は、第4の観点からすると、塊状の窒化ガリウム結晶であって、フラックス法によって作製された第1の窒化ガリウム結晶と;前記第1の窒化ガリウム結晶上に結晶成長した第2の窒化ガリウム結晶と;を有する窒化ガリウム結晶である。
【0023】
これによれば、フラックス法によって作製された均質で高品質の第1の窒化ガリウム結晶上に第2の窒化ガリウム結晶が結晶成長しているため、結果として、均質で高品質で安価な塊状の窒化ガリウム結晶を実現することが可能となる。
【0024】
本発明は、第5の観点からすると、本発明の塊状の窒化ガリウム結晶をスライスして作製された窒化ガリウム基板である。
【0025】
これによれば、本発明の塊状の窒化ガリウム結晶をスライスして作製されているため、結果として、所望の結晶面を主面とする高品質で安価な窒化ガリウム基板を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照しながら説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0027】
『製造装置』
図1には、本発明の一実施形態に係る塊状の窒化ガリウム(GaN)結晶を製造する製造装置1000の概略構成が示されている。
【0028】
この製造装置1000は、結晶作製装置100、及び結晶成長装置500を備えている。
【0029】
結晶作製装置100は、金属ナトリウム(Na)と金属ガリウム(Ga)とを含む混合融液に窒素ガスを供給してGaN結晶を作製する装置である。すなわち、結晶作製装置100は、フラックス法によってGaN結晶を作製する装置である。なお、以下では、便宜上、結晶作製装置100で作製されたGaN結晶を「第1のGaN結晶」ともいう。
【0030】
結晶成長装置500は、結晶作製装置100によって作製された第1のGaN結晶上に、気相成長法を用いてGaN結晶を結晶成長させる装置である。なお、以下では、便宜上、第1のGaN結晶上に結晶成長したGaN結晶を「第2のGaN結晶」ともいう。
【0031】
《結晶作製装置》
結晶作製装置100は、一例として図2に示されるように、坩堝10、反応容器20、ベローズ30、支持装置40、加熱装置50,60、温度センサ51,61,71,81、加熱/冷却器70,80、ガス供給管90,200、バルブ110,150、圧力調整器120、ガスボンベ130,220、排気管140、真空ポンプ160、圧力センサ170、配管180、熱電対190、流量計210、振動印加装置230、上下機構240、振動検出装置250、温度制御装置260、及びフローティングカバー300などを備えている。
【0032】
ガスボンベ130,220には、窒素ガスが充填されている。
【0033】
坩堝10は、外周が円形状のボロンナイトライド(BN)又はオーステナイト系ステンレス鋼(SUS316L)製の容器である。この坩堝10は、金属Naと金属Gaとを含む混合融液270を保持する。
【0034】
反応容器20は、坩堝10の周囲を覆う容器である。すなわち、この反応容器20内に、坩堝10が収容される。反応容器20は、本体部21、蓋部22、及び融液溜め部23を有している。本体部21、蓋部22及び融液溜め部23は、いずれもSUS316L製である。本体部21と蓋部22との間は、メタルオーリングによってシールされている。また、融液溜め部23は、本体部21の底面に設けられている。この融液溜め部23には、アルカリ金属融液280が溜められる。
【0035】
ベローズ30は、重力方向DR1において、反応容器20の蓋部22に連結されている。このベローズ30は、支持装置40を保持するとともに、反応容器20の内部と外部とを遮断する。また、ベローズ30は、支持装置40の重力方向DR1への移動に伴って重力方向DR1に伸縮する。
【0036】
加熱装置50は、反応容器20の外周面20Aを囲むように配置されている。この加熱装置50は、ヒータ及び電流源を有している。そして、加熱装置50は、温度制御装置260からの制御信号CTL1に応じて電流源によってヒータに電流を流し、反応容器20の外周面20Aから坩堝10及び反応容器20を結晶成長温度に加熱する。
【0037】
加熱装置60は、反応容器20の底面20Bに対向して配置されている。この加熱装置60は、ヒータ及び電流源を有している。そして、加熱装置60は、温度制御装置260からの制御信号CTL2に応じて電流源によってヒータに電流を流し、反応容器20の底面20Bから坩堝10及び反応容器20を結晶成長温度に加熱する。
【0038】
温度センサ51は、加熱装置50に近接して配置され、加熱装置50のヒータの温度(温度T1とする)を検出し、検出結果を温度制御装置260へ出力する。
【0039】
温度センサ61は、加熱装置60に近接して配置され、加熱装置60のヒータの温度(温度T2とする)を検出し、検出結果を温度制御装置260へ出力する。
【0040】
加熱/冷却器70は、融液溜め部23の周囲を囲むように配置されている。この加熱/冷却器70は、加熱部と冷却部を備えている。加熱部は、ヒータ及び電流源を有し、電流源によってヒータに電流を流すことによって融液溜め部23を加熱する。また、冷却部は、融液溜め部23に冷風を吹き付けることによって融液溜め部23を冷却する。ここでは、加熱/冷却器70は、温度制御装置260からの制御信号CTL3に応じて、融液溜め部23の温度を蒸発抑制温度に加熱し、又は融液溜め部23の温度を凝集温度に冷却する。ここで、蒸発抑制温度は、混合融液270から蒸発する金属Naの蒸気圧PNa−Gaがアルカリ金属融液280から蒸発する金属Naの蒸気圧PNaに略一致する温度である。また、凝集温度は、金属Na蒸気が金属融液として溜まる温度である。
【0041】
加熱/冷却器80は、ガス供給管90に設けられている融液凝集部90Aの周囲を囲むように配置されている。この加熱/冷却器80は、加熱部と冷却部を備えている。加熱部は、ヒータ及び電流源を有し、電流源によってヒータに電流を流すことによって融液凝集部90Aを加熱する。また、冷却部は、融液凝集部90Aに冷風を吹き付けることによって融液凝集部90Aを冷却する。ここでは、加熱/冷却器80は、温度制御装置260からの制御信号CTL4に応じて、融液凝集部90Aの温度を凝集温度に冷却し、又は融液凝集部90Aの温度を蒸発促進温度に加熱する。ここで、蒸発促進温度は、金属Naが気相輸送によって他の部分へ移動する温度である。
【0042】
温度センサ71は、加熱/冷却器70に近接して配置され、加熱/冷却器70の加熱部又は冷却部の温度(温度T3とする)を検出し、検出結果を温度制御装置260へ出力する。
【0043】
温度センサ81は、加熱/冷却器80に近接して配置され、加熱/冷却器80の加熱部又は冷却部の温度(温度T4とする)を検出し、検出結果を温度制御装置260へ出力する。
【0044】
ガス供給管90は、ガス供給管91,92からなり、ガスボンベ130から圧力調整器120を介して供給された窒素ガスを、アルカリ金属融液290を介して反応容器20内へ供給する。
【0045】
ガス供給管91は、融液凝集部90Aを有し、一端がベローズ30に連結され、他端がバルブ110に連結されている。
【0046】
ガス供給管92は、一端がバルブ110に連結され、他端が圧力調整器120を介してガスボンベ130に連結されている。
【0047】
バルブ110は、ガス供給管90に装着され、ガス供給管90内の窒素ガスを反応容器20内へ供給し、又は窒素ガスの反応容器20内への供給を停止する。また、バルブ110は、ガス供給管90をガス供給管91とガス供給管92とに分離し、又はガス供給管91とガス供給管92とを連結する。
【0048】
圧力調整器120は、ガスボンベ130の近傍でガス供給管90(ガス供給管92)に装着され、ガスボンベ130からの窒素ガスを所定の圧力にしてガス供給管90に供給する。
【0049】
ガスボンベ130は、ガス供給管90(ガス供給管92)に連結されている。
【0050】
排気管140は、一端がバルブ150を介して反応容器20に連結され、他端が真空ポンプ160に連結され、反応容器20内の気体を真空ポンプ160へ通過させる。
【0051】
バルブ150は、反応容器20の近傍で排気管140に装着され、反応容器20内と排気管140とを空間的に繋げ、又は反応容器20内と排気管140とを空間的に遮断する。
【0052】
真空ポンプ160は、排気管140の他端に連結され、排気管140及びバルブ150を介して反応容器20内の真空引きを行なう。
【0053】
圧力センサ170は、反応容器20に取り付けられており、反応容器20内の圧力を検出する。
【0054】
ガス供給管200は、一端が配管180に連結され、他端が流量計210を介してガスボンベ220に連結されている。このガス供給管200は、ガスボンベ220から流量計210を介して供給された窒素ガスを配管180へ供給する。
【0055】
流量計210は、ガスボンベ220の近傍でガス供給管200に装着され、温度制御装置260からの制御信号CTL5に応じて、ガスボンベ220から供給された窒素ガスの流量を調整してガス供給管200へ供給する。
【0056】
ガスボンベ220は、ガス供給管200の他端に連結されている。
【0057】
アルカリ金属融液280は、金属Na融液であり、融液溜め部23に保持される。
【0058】
アルカリ金属融液290は、金属Na融液であり、ガス供給管90の融液凝集部90Aに保持される。
【0059】
振動印加装置230は、一例として圧電素子を有し、所定の周波数を有する振動を支持装置40に印加する。
【0060】
振動検出装置250は、一例として加速度ピックアップを有し、支持装置40の振動を検出するとともに、支持装置40の振動情報が含まれる振動検出信号BDSを上下機構240へ出力する。
【0061】
一例として図3(A)及び図3(B)には、支持装置40、配管180及び熱電対190の一部が拡大して示されている。
【0062】
支持装置40は、円筒部材41を有している。該円筒部材41の一端は、反応容器20の蓋部22に設けられた開口部を介して反応容器20内の空間24内へ挿入される。そして、円筒部材41の底面41Bには、種結晶5が取り付けられている(図3(A)参照)。種結晶5を含むGaN結晶6は、円筒部材41の底面41Bに結晶成長する(図3(B)参照)。また、支持装置40は、反応容器20内に挿入された円筒部材41の一端に結晶成長したGaN結晶を支持する。
【0063】
配管180は、ガス供給管200から供給された窒素ガスを一端から支持装置40内へ放出して種結晶又はGaN結晶を冷却する。配管180は、略円形の断面形状を有し、支持装置40の円筒部材41の内部に配置されている。そして、配管180の底面180Aは、円筒部材41の底面41Bに対向するように配置されている。また、配管180の底面180Aには、複数の空孔181が形成されている。配管180内へ供給された窒素ガスは、複数の空孔181を介して円筒部材41の底面41Bに吹き付けられる。なお、円筒部材41内に放出された窒素ガスは、円筒部材41の不図示の開口部を介して結晶製造装置100外へ放出される。
【0064】
熱電対190は、一端190Aが円筒部材41の底面41Bに接するように円筒部材41の内部に配置されている。熱電対190は、種結晶又はGaN結晶の温度(温度T5とする)を検出し、その検出した温度T5を温度制御装置260へ出力する。
【0065】
従って、GaN結晶6と円筒部材41との間の熱伝導率が高くなる。その結果、熱電対190によってGaN結晶6の温度T5を検出できるとともに、配管180から円筒部材41の底面41Bに吹き付けられた窒素ガスによってGaN結晶6を容易に冷却できる。
【0066】
上下機構240は、ベローズ30の上側において支持装置40に取り付けられている。上下機構240は、振動検出装置250からの振動検出信号BDSに応じて、種結晶が空間24と混合融液270との気液界面2に接するように支持装置40を上下する。
【0067】
この上下機構240は、一例として図4に示されるように、凹凸部材241、歯車242、軸部材243、モータ244、及び制御部245などを有している。
【0068】
凹凸部材241は、略三角形状の断面形状からなり、円筒部材41の外周面41Aに固定されている。
【0069】
歯車242は、軸部材243の一端に固定され、凹凸部材241と噛み合う。
【0070】
軸部材243は、その一端が歯車242に連結され、他端がモータ244のシャフト(図示省略)に連結されている。
【0071】
モータ244は、制御部245からの制御に従って歯車242を矢印246又は247の方向へ回転させる。
【0072】
制御部245は、振動検出装置250からの振動検出信号BDSに基づいて、歯車242を矢印246又は247の方向へ回転させるようにモータ244を制御する。
【0073】
歯車242が矢印246の方向へ回転すれば、支持装置40は、重力方向DR1において上方向へ移動し、歯車242が矢印247の方向へ回転すれば、支持装置40は、重力方向DR1において下方向へ移動する。
【0074】
従って、歯車242を矢印246又は247の方向へ回転させることは、支持装置40を重力方向DR1において上下させることに相当する。凹凸部材241の重力方向DR1の長さは、支持装置40がGaN結晶6を上下させる距離に相当する長さである。
【0075】
振動検出信号BDSのタイミングチャートが、一例として図5に示されている。振動検出信号BDSは、支持装置40が混合融液270に接していないときに、信号成分SS1となり、支持装置40が混合融液270に接しているときに、信号成分SS2となり、支持装置40の一部が混合融液270に浸漬されているときに、信号成分SS3となる。
【0076】
支持装置40が混合融液270に接していないときには、支持装置40は、振動印加装置230により印加された振動によって大きく振動するので、振動検出信号BDSは、振幅が相対的に大きい信号成分SS1となる。一方、支持装置40が混合融液270に接しているときには、支持装置40は、振動印加装置230から振動が印加されても、混合融液270の粘性によって大きく振動できないので、振動検出信号BDSは、振幅が相対的に小さい信号成分SS2となる。また、支持装置40の一部(又はGaN結晶6)が混合融液270に浸漬されているときには、支持装置40(又はGaN結晶6)は、振動印加装置230から振動が印加されても、混合融液270の粘性によってさらに振動し難くなるので、振動検出信号BDSは、振幅が信号成分SS2よりも小さい信号成分SS3となる。
【0077】
図4に戻り、制御部245は、振動検出装置250から振動検出信号BDSを受けると、振動検出信号BDSの信号成分を検出する。そして、制御部245は、その検出した信号成分が信号成分SS1のときには、振動検出信号BDSの信号成分が信号成分SS2又はSS3になるまで、支持装置40を重力方向DR1に降下させるようにモータ244を制御する。
【0078】
より具体的には、制御部245は、歯車242を矢印247の方向へ回転させるようにモータ244を制御する。モータ244は、制御部245からの制御に従って歯車242を軸部材243を介して矢印247の方向へ回転させる。これによって、支持装置40は、重力方向DR1の下方向へ移動する。
【0079】
そして、制御部245は、振動検出装置250から受ける振動検出信号BDSの信号成分が信号成分SS1から信号成分SS2又はSS3へ切換わると、歯車242の回転を停止するようにモータ244を制御する。モータ244は、制御部245からの制御に従って歯車242の回転を停止させる。これによって、支持装置40は、移動を停止し、支持装置40の一端を気液界面2に保持し、又は支持装置40の一端を混合融液270中に保持する。一方、制御部245は、信号成分SS2又はSS3を含む振動検出信号BDSを振動検出装置250から受けたとき、支持装置40の移動を停止するようにモータ244を制御する。
【0080】
このように、上下機構240は、振動検出装置250が検出する振動検出信号BDSに基づいて、支持装置40の一端が混合融液270に接するように、又は支持装置40の一端が混合融液270に浸漬されるように支持装置40を重力方向DR1に移動させる。
【0081】
フローティングカバー300は、一例としてBN製であり、支持装置40の周囲において混合融液270の表面に配置されている。このフローティングカバー300は、金属Naが混合融液270から蒸発するのを抑制する。
【0082】
フローティングカバーの平面図が図6に示されている。このフローティングカバー300は、開口部301を有し、内径r、外径Rのドーナツ形状である。内径rは、支持装置40の直径にαを加えた値である。このαは、窒素ガスが混合融液270に溶け込むための隙間が支持装置40とフローティングカバー300との間に形成される値である。そして、外径Rは、坩堝10の内径に略等しい。
【0083】
支持装置40の一端は、開口部301を介して混合融液270の表面又は混合融液270中に保持される。
【0084】
温度制御装置260は、温度T1に基づいて、坩堝10及び反応容器20を結晶成長温度に加熱するための制御信号CTL1を生成し、温度T2に基づいて、坩堝10及び反応容器20を結晶成長温度に加熱するための制御信号CTL2を生成する。また、温度制御装置260は、温度T3に基づいて、融液溜め部23の温度を蒸発抑制温度Tevc又は凝集温度Tcohに制御するための制御信号CTL3を生成する。さらに、温度制御装置260は、温度T4に基づいて、融液凝集部90Aの温度を凝集温度Tcoh又は蒸発促進温度Tevに制御するための制御信号CTL4を生成する。さらに、温度制御装置260は、温度T5に基づいて、種結晶又はGaN結晶の温度T5を種結晶周辺の混合融液の温度よりも低い温度にするのに適した流量の窒素ガスを流すための制御信号CTL5を生成する。
【0085】
そして、温度制御装置260は、生成した制御信号CTL1,CTL2をそれぞれ加熱装置50,60へ出力し、制御信号CTL3,CTL4をそれぞれ加熱/冷却器70,80へ出力し、制御信号CTL5を流量計210へ出力する。
【0086】
《第1のGaN結晶の作製方法》
坩堝10、反応容器20、融液溜め部23及び融液凝集部90Aの温度のタイミングチャートが一例として図7に示されている。また、図7に示すタイミングt1,t3間における坩堝10、反応容器20、融液溜め部23及び融液凝集部90A内の状態変化を示す模式図が、一例として図8(A)及び図8(B)に示されている。さらに、図7に示すタイミングt3における坩堝10及び反応容器20内の状態を示す模式図が、一例として図9に示されている。さらに、GaN結晶6の温度と窒素ガスの流量との関係が図10に示されている。
【0087】
なお、図7おける、符号k1は坩堝10及び反応容器20の温度を示し、符号k2及びk3はGaN結晶6の温度を示し、符号k4は融液溜め部23の温度を示し、符号k5は融液凝集部90Aの温度を示す。
【0088】
加熱装置50,60は、タイミングt5までの期間において、k1に従って温度が上昇し、かつ、800℃に保持されるように坩堝10及び反応容器20を加熱する。また、加熱/冷却器70は、タイミングt5までの期間において、k4に従って温度が上昇し、かつ、蒸発抑制温度Tevcに保持されるように融液溜め部23を加熱する。さらに、加熱/冷却器80は、タイミングt5までの期間において、k5に従って温度が上昇し、かつ、凝集温度Tcohに保持されるように融液凝集部90Aを加熱する。
【0089】
加熱装置50,60が坩堝10及び反応容器20を加熱し始めたとき、坩堝10内には、金属Na7及び金属Ga8が存在し、加熱/冷却部70が融液溜め部23を加熱し始め、かつ、加熱/冷却部80が融液凝集部90Aを加熱し始めたとき、融液溜め部23には、金属Na7が存在し、融液凝集部90Aには、金属Na7は存在しない(図8(A)参照)。
【0090】
そして、坩堝10及び反応容器20の温度がタイミングt1において98℃に達すると、坩堝10中の金属Na7は溶け、約30℃で既に溶けている金属Ga8と混ざり合う。その後、GaとNaとの金属間化合物が生成され、この金属間化合物は、560℃以上の温度において坩堝10中で混合融液270となる。そして、坩堝10及び反応容器20の温度は、タイミングt3において800℃に達する。
【0091】
また、融液溜め部23の温度がタイミングt2において98℃に達すると、融液溜め部23内の金属Na7は溶け、アルカリ金属融液280が融液溜め部23に生成される。その後、融液溜め部23の温度は、タイミングt3において蒸発抑制温度Tevcに達する。さらに、融液凝集部90Aの温度は、タイミングt3において凝集温度Tcohに達する。
【0092】
そうすると、坩堝10及び反応容器20が800℃に加熱され、融液溜め部23が蒸発抑制温度Tevcに加熱される過程において、アルカリ金属融液280から蒸発する金属Naの蒸気圧PNaは、徐々に高くなり、混合融液270から蒸発する金属Naの蒸気圧PNa−Gaも徐々に高くなる。そして、混合融液270及び/又はアルカリ金属融液280から蒸発した金属Naは、坩堝10、反応容器20及び融液溜め部23の温度よりも低温である凝集温度Tcohに保持された融液凝集部90Aに凝集される。その結果、融液凝集部90Aには、アルカリ金属融液290が保持される。
【0093】
そして、タイミングt3において、混合融液270から蒸発するアルカリ金属の蒸気圧PNa−Gaは、アルカリ金属融液280から蒸発するアルカリ金属の蒸気圧PNaに略一致する(図8(B)参照)。その結果、混合融液270及びアルカリ金属融液280からの金属Naの蒸発による混合融液270中の金属Naと金属Gaとの混合比の変動が抑制される。
【0094】
このとき、融液凝集部90Aの温度が金属Naの融点以上で、かつ、Naの実質的蒸発が生じない温度であれば、ガス供給管90内においてバルブ110側への金属Naの拡散を無視でき、混合融液270中の金属Naと金属Gaとの混合比の変動を一層抑制できる。ここでいうNaの実質的蒸発が生じない温度とは、例えば、200〜300℃である。200℃におけるNaの蒸気圧は、約1.8×10−2Paであり、300℃におけるNaの蒸気圧は、約1.8Paであり、これ以上の温度であっても、多少の蒸発による拡散はあるが、混合融液270中の金属Naと金属Gaとの混合比の変動を抑制できる。従って、凝集温度Tcohは、好ましくは、200〜300℃の範囲に設定される。
【0095】
また、混合融液270の表面には、フローティングカバー300が配置されているので、坩堝10内の混合融液270からNaの蒸発が発生するタイミング以降、金属Naの混合融液270からの蒸発が抑制され、金属Naの蒸発による混合融液270中の金属Naと金属Gaとの混合比の変動をさらに抑制できる。
【0096】
空間24内には、圧力調整器120によって圧力調整された窒素ガス4がガス供給管90を介して供給されている(図9参照)。
【0097】
また、坩堝10及び反応容器20の温度が800℃に達するタイミングt3で、上下機構240は、振動検出装置250からの振動検出信号BDSに基づいて、上述した方法によって支持装置40を上下させ、支持装置40の一端を混合融液270に接触させる。
【0098】
そして、坩堝10及び反応容器20の温度が800℃程度の高温状態では、空間24内の窒素ガス4は、金属Naを媒介として混合融液270中に取り込まれる。この場合、混合融液270中の窒素濃度又はIII族窒化物の濃度は、空間24と混合融液270との気液界面2付近において最も高いため、GaN結晶6が種結晶5から結晶成長する。
【0099】
窒素ガスを配管180内へ供給しない場合、種結晶5又はGaN結晶6の温度T5は、混合融液270の温度と同じ800℃であるが、本実施形態では、種結晶5又はGaN結晶6付近の混合融液270中の窒素又はIII族窒化物の過飽和度を上げるために、配管180内へ窒素ガスを供給して種結晶5又はGaN結晶6を冷却し、種結晶5又はGaN結晶6の温度T5を混合融液270の温度よりも低くする。
【0100】
より具体的には、種結晶5又はGaN結晶6の温度T5は、タイミングt3以降、k2に従って800℃よりも低い温度Ts1に設定される。この温度Ts1は、例えば、790℃である。種結晶5又はGaN結晶6の温度T5を温度Ts1に設定する方法について説明する。
【0101】
温度制御装置260は、温度センサ51,61からそれぞれ受けた温度T1,T2が800+α℃(=坩堝10及び反応容器20を800℃に設定したときの加熱装置50,60に含まれるヒータの温度)に達すると、種結晶5又はGaN結晶6の温度T5を温度Ts1に設定する流量からなる窒素ガスを流すための制御信号CTL5を生成して流量計210へ出力する。
【0102】
流量計210は、制御信号CTL5に応じて、温度T5を温度Ts1に対応する流量の窒素ガスをガスボンベ220からガス供給管200を介して配管180内へ流す。種結晶5又はGaN結晶6の温度は、窒素ガスの流量に略比例して800℃から低下し、窒素ガスの流量が流量fr1(sccm)になると、種結晶5又はGaN結晶6の温度T5は、温度Ts1となる(図10参照)。
【0103】
従って、流量計210は、窒素ガスを流量fr1で配管180内へ流す。そして、配管180内へ供給された窒素ガスは、配管180の複数の空孔181から円筒部材41の底面41Bに吹き付けられる。
【0104】
これによって、種結晶5又はGaN結晶6は、円筒部材41の底面41Bを介して冷却され、種結晶5又はGaN結晶6の温度T5は、タイミングt4で温度Ts1に低下し、その後、タイミングt5まで温度Ts1に保持される。
【0105】
加熱装置50,60のヒータの温度T1,T2は、混合融液270の温度と所定の温度差αを有するため、温度制御装置260は、GaN結晶6の温度T5が800℃から低下し始めると、温度T1,T2が800+α℃となるように制御信号CTL1,2によって加熱装置50,60を制御する。
【0106】
なお、本実施形態では、好ましくは、種結晶5又はGaN結晶6の温度T5は、タイミングt3以降、k3に従って低下するように制御される。すなわち、種結晶5又はGaN結晶6の温度T5は、タイミングt3からタイミングt5までの間で800℃から温度Ts2(<Ts1)まで低下される。この場合、流量計210は、温度制御装置260からの制御信号CTL5に基づいて、k6に従って配管180内へ流す窒素ガスの流量を0から流量fr2(>fr1)まで増加する。窒素ガスの流量が流量fr2になると、種結晶5又はGaN結晶6の温度T5は、温度Ts1よりも低い温度Ts2(例えば、750℃)に設定される。
【0107】
このように、混合融液270の温度(=800℃)とGaN結晶6の温度T5との差を徐々に大きくすることによって、GaN結晶6付近の混合融液270中の窒素又はIII族窒化物の過飽和度が徐々に大きくなり、GaN結晶6の結晶成長を少なくとも継続できる。
【0108】
GaN結晶を成長させる場合の窒素ガス圧と混合融液温度との関係が図11に示されている。図11では、横軸は、混合融液温度であり、縦軸は、窒素ガス圧である。また、領域REG1は、GaN結晶が溶解する領域であり、領域REG2は、坩堝10の混合融液270に接する底面及び側面において多くの核が自発的に発生し、c軸(<0001>)方向に成長した柱状形状のGaN結晶が作製される領域であり、領域REG4は、領域REG2と同様に多くの核が自発的に発生し、c面が発達した板状のGaN結晶が作製される領域であり、領域REG3は、GaN結晶が種結晶から結晶成長する領域である。
【0109】
本実施形態では、領域REG2や領域REG4に含まれる温度及び圧力を用いてGaN結晶を結晶成長させ、又は領域REG3に含まれる温度及び圧力を用いて種結晶5からGaN結晶6を結晶成長させる。
【0110】
図7に戻り、GaN結晶6の結晶成長がタイミングt5で終了すると、加熱装置50,60は、坩堝10及び反応容器20の加熱を停止し、坩堝10及び反応容器20の温度は、k1に従って800℃から低下し、GaN結晶6の温度T5は、温度Ts1(又は温度Ts2)から低下する。
【0111】
一方、加熱/冷却器70は、k4に従って融液溜め部23を冷却する。融液溜め部23の温度は、タイミングt6からタイミングt7までの間、凝集温度Tcohに保持される。また、加熱/冷却器80は、k5に従って融液凝集部90Aを加熱する。融液凝集部90Aは、タイミングt6からタイミングt7までの間、蒸発促進温度Tevに保持される。ここで、蒸発促進温度Tevは、アルカリ金属融液290が気相輸送によって融液凝集部90Aから他の部分へ移動する温度である。
【0112】
タイミングt6からタイミングt7までの間、融液溜め部23の温度は、凝集温度Tcohに保持され、融液凝集部90Aの温度は、蒸発促進温度Tevに保持される。その結果、アルカリ金属融液290は、蒸発して融液溜め部23へ気相輸送される。
【0113】
そして、タイミングt7においては、融液凝集部90Aには、アルカリ金属融液290は存在しない。なお、アルカリ金属融液290が融液凝集部90Aから融液溜め部23へ気相輸送される場合、バルブ110が閉じられているため、アルカリ金属融液290から蒸発した金属Naの蒸気が圧力調整器120側へ拡散することはない。
【0114】
タイミングt7において、アルカリ金属融液290の融液凝集部90Aから融液溜め部23への気相輸送が終了すると、加熱/冷却器70は、融液溜め部23を冷却し、加熱/冷却器80は、融液凝集部90Aを冷却する。これによって、坩堝10、反応容器20、融液溜め部23及び融液凝集部90Aは、タイミングt7以降、室温へ向かって冷却される。
【0115】
《結晶成長装置》
結晶成長装置500は、図12に示されるように、反応炉501、ヒータ502、ガス導入管503,504、Ga溜部505、サセプタ507、シャフト508、ガス排出管510等を備えている。
【0116】
反応炉501は、略円筒形状である。
【0117】
ヒータ502は、円筒形状であり、反応炉501の周囲に配置されている。ヒータ502は、反応炉501を800〜1050℃に加熱する。
【0118】
ガス導入管503,504は、反応炉501の上頂部に設けられている。そして、ガス導入管503の一端は、Ga溜部505の上部に位置している。また、ガス導入管504の一端は、Ga溜部505よりも下側であり、サセプタ507よりも上側に位置している。
【0119】
ガス導入管503は、HCl+H2を反応炉501内に導入し、HCl+H2をGa溜部505に吹き付ける。
【0120】
ガス導入管504は、NH3+H2を反応炉501内に導入し、Ga溜部505よりも下側でNH3+H2を排出する。
【0121】
Ga溜部505は、反応炉501内に配置されている。Ga溜部505は、液体状のGa融液506を保持する。
【0122】
サセプタ507は、シャフト508の一端に取り付けられる。サセプタ507は、ウエハ状のGaN結晶509を保持するとともに、シャフト508の回転、昇降に応じてGaN結晶509を回転、昇降させる。
【0123】
シャフト508は、反応炉501の下頂部に回転昇降自在に取り付けられている。シャフト508は、サセプタ507を支持するとともに、サセプタ507を回転昇降させる。
【0124】
ガス排出管510は、反応炉501の下頂部に設けられている。ガス排出管510は、排ガスを反応炉501外へ排出する。
【0125】
《第2のGaN結晶の結晶成長方法》
反応炉501内がヒータ502によって800〜1050℃に加熱されると、Gaの融点は、約29.8℃であるので、Ga溜部505に保持された金属Gaは、溶けて、Ga融液506になる。そして、ガス導入管503から導入されたHCl+H2がGa融液6に吹き付けられると、塩化ガリウムGaClが生成される。
【0126】
この塩化ガリウムGaClとキャリアガスH2との混合ガスが反応炉501中の空間を下方へ運ばれる。そして、塩化ガリウムGaClとキャリアガスH2との混合ガスは、Ga溜部505よりも下側でガス導入管504から排出されたNH3+H2の混合ガスと混ざり、GaNが生成される。
【0127】
サセプタ507上に保持されたGaN結晶509は、800〜1050℃に加熱されているため、気相反応した生成物GaNがGaN結晶509上に付着し、GaN結晶509の品質と同じ品質でGaN結晶が結晶成長する。
【0128】
シャフト508は、結晶成長中、回転しながら降下するので、GaN結晶509も回転しながら降下する。その結果、GaN結晶がHVPE法によってGaN結晶509上に厚く成長しても、ガス導入管504とGaN結晶の表面との距離を一定に保持でき、品質を均一に保持した塊状のGaN結晶が製造される。
【0129】
『塊状のGaN結晶の製造』
製造装置1000を用いた塊状のGaN結晶の製造方法を説明するためのフローチャートが図13に示されている。
【0130】
最初のステップS1では、結晶作製装置100を用い、前述した如く、金属Naと金属Gaとを含む混合融液に窒素ガスを供給して第1のGaN結晶(図16(A)参照)を作製する。ここでは、c軸方向の長さがa軸方向の長さよりも長い柱状結晶が作製される。なお、結晶作製装置100でのGaN結晶の結晶成長速度(フラックス法による結晶成長速度)は、一例として1μm/hである。
【0131】
次のステップS2では、ステップS1で作製された第1のGaN結晶を、スライス(図16(B)参照)及び研磨する。
【0132】
次のステップS3では、結晶成長装置500を用い、ステップS2でスライス及び研磨作製された第1のGaN結晶上に、前述した如く、HVPE法によって第2のGaN結晶を結晶成長させ、塊状のGaN結晶を製造する(図16(C)参照)。なお、結晶成長装置500でのGaN結晶の結晶成長速度(HVPE法による結晶成長速度)は、一例として100μm/hである。
【0133】
次のステップS4では、ステップS3で製造された塊状のGaN結晶を複数のGaNウエハにスライスし、そのスライスされた複数のGaNウエハを研磨する。ここで研磨された各GaNウエハがGaN基板となる。
【0134】
このように、本実施形態では、フラックス法によって第1のGaN結晶を作製し、その第1のGaN結晶をスライス及び研磨し、そのスライス及び研磨された第1のGaN結晶上に、HVPE法によって第2のGaN結晶を結晶成長させ、塊状のGaN結晶を製造している。この場合、第1のGaN結晶は、転位密度が小さく(≦105cm−2)高品質なGaN結晶であるので、HVPE法によって第1のGaN結晶上に結晶成長した第2のGaN結晶も、転位密度が小さく(≦105cm−2)高品質なGaN結晶となる。
【0135】
従来のHVPE法のように、フラックス法で作製されたGaN結晶を基板に用いない場合には、多くの結晶欠陥が含まれており、傾角粒界が存在することで塊状の高品質なGaN結晶を製造することは困難であった。
【0136】
《ステップS1の詳細》
上記ステップS1の詳細な動作を説明するためのフローチャートが図14に示されている。
【0137】
先ず、ガス供給管90をガス供給管91とガス供給管92に分離し、Arガスが充填されたグローブボックス内へ坩堝10、反応容器20及びガス供給管91を入れる。そして、Arガス雰囲気中で金属Naを反応容器20の融液溜め部23に入れる(ステップS11)。なお、Arガスは、水分量が1ppm以下であり、かつ、酸素量が1ppm以下であるArガスである(以下、同じ)。
【0138】
その後、Arガス雰囲気中で金属Na及び金属Gaを坩堝10に入れる(ステップS12)。この場合、金属Na及び金属Gaを5:5の混合比とする。
【0139】
そして、Arガス雰囲気中でフローティングカバー300を坩堝10に入れ(ステップS13)、金属Na及び金属Gaを入れた坩堝10を反応容器20内に設置する。
【0140】
引続いて、グローブボックスから坩堝10、反応容器20及びガス供給管91を取り出し、坩堝10、反応容器20及びガス供給管91内にArガスを充填した状態で坩堝10、反応容器20及びガス供給管91を結晶作製装置100の所定位置に戻す。
【0141】
そして、ガス供給管92をバルブ110に連結し、バルブ110を閉じた状態でバルブ150を開け、真空ポンプ160によって坩堝10、反応容器20及びガス供給管91内に充填されたArガスを排気する。真空ポンプ160によって坩堝10、反応容器20及びガス供給管91内を所定の圧力(0.133Pa以下)まで真空引きした後、バルブ150を閉じ、バルブ110を開けて窒素ガスをガスボンベ130からガス供給管90を介して坩堝10及び反応容器20内へ充填する。この場合、圧力調整器120によって坩堝10及び反応容器20内の圧力が0.1MPa程度になるように坩堝10及び反応容器20内へ窒素ガスを供給する。
【0142】
そして、圧力センサ170によって検出した反応容器20内の圧力が0.1MPa程度になると、バルブ110を閉じ、バルブ150を開けて真空ポンプ160によって坩堝10、反応容器20及びガス供給管91内に充填された窒素ガスを排気する。この場合も、真空ポンプ160によって坩堝10、反応容器20及びガス供給管91内を所定の圧力(0.133Pa以下)まで真空引きする。
【0143】
そして、この坩堝10、反応容器20及びガス供給管91内の真空引きと坩堝10、反応容器20及びガス供給管91内への窒素ガスの充填とを数回繰り返し行なう。
【0144】
その後、真空ポンプ160によって坩堝10、反応容器20及びガス供給管91内を所定の圧力まで真空引きした後、バルブ150を閉じ、バルブ110を開けて圧力調整器120によって坩堝10、反応容器20及びガス供給管91内の圧力が1.01MPaになるように坩堝10、反応容器20及びガス供給管91内へ窒素ガスを充填する(ステップS14)。
【0145】
その後、加熱装置50,60によって坩堝10及び反応容器20を800℃(=結晶成長温度)に加熱し(ステップS15)、加熱/冷却器70によって、アルカリ金属融液280から蒸発する金属Naの蒸気圧PNaが混合融液270から蒸発する金属Naの蒸気圧PNa−Gaに略一致する蒸発抑制温度Tevcに、アルカリ金属融液280の温度を制御する(ステップS16)。
【0146】
また、加熱/冷却器80によって、窒素ガスを供給するガス供給管90のうち、坩堝10及び反応容器20の空間24に近い領域(=融液凝集部90A)の温度を凝集温度Tcohに制御する(ステップS17)。
【0147】
この場合、融液溜め部23に保持された金属Naは、融点が約98℃であるので、融液溜め部23が蒸発抑制温度Tevcに加熱される過程で溶融され、アルカリ金属融液280になる。そして、気液界面1が発生する(図2参照)。気液界面1は、アルカリ金属融液280と反応容器20内の空間24との界面に位置する。
【0148】
また、坩堝10及び反応容器20が800℃に加熱される過程で、坩堝10内の金属Na及び金属Gaも液体になり、金属Naと金属Gaとの混合融液270が坩堝10内に発生する。そして、フローティングカバー300は、発生した混合融液270の表面に浮かび、支持装置40との間で隙間を形成する。
【0149】
融液溜め部23の温度が蒸発抑制温度Tevcに近づき、かつ、坩堝10の温度が800℃に近づくに従って、アルカリ金属融液280から蒸発する金属Naの蒸気圧PNa及び混合融液270から蒸発する金属Naの蒸気圧PNa−Gaは、徐々に高くなり、反応容器20内の空間24に存在する金属Na蒸気が増加する。空間24に存在する金属Na蒸気の一部は、坩堝10及び反応容器20の温度よりも低温である融液凝集部90Aへ拡散し、融液凝集部90Aでアルカリ金属融液290として凝集する。そして、蒸気圧PNaが蒸気圧PNa−Gaに略一致する。
【0150】
その後、上下機構240は、上述した方法によって、種結晶を混合融液270に浸漬させる(ステップS18)。そして、坩堝10及び反応容器20の温度が800℃程度の高温状態では、空間24内の窒素ガスが金属Naを媒介として混合融液270中へ取り込まれていることから、GaN結晶6の種結晶5からの結晶成長が開始される。このときの坩堝10及び反応容器20の温度及び反応容器20内の窒素ガス圧力は、領域REG3に存在する温度及び圧力である。
【0151】
その後、所定の時間(数時間)、坩堝10及び反応容器20の温度が800℃に保持され、融液溜め部23のアルカリ金属融液280の温度が蒸発抑制温度Tevcに保持され、融液凝集部90Aの温度が凝集温度Tcohに保持される(ステップS19)。
【0152】
GaN結晶の結晶成長が開始されると、GaN結晶の温度T5が上述した方法によって混合融液270の温度(=800℃)よりも低い温度Ts1又はTs2に設定される(ステップS20)。
【0153】
GaN結晶の成長が進行すると、空間24内の窒素ガスが消費され、空間24内の窒素ガスが減少する。そうすると、空間24内の圧力P1がガス供給管90内の圧力P2よりも低くなり(P1<P2)、空間24内とガス供給管90内との間に差圧が発生し、ガス供給管91内の窒素ガスは、アルカリ金属融液290(=金属Na融液)を介して空間24内へ供給される。すなわち、窒素ガスが坩堝10及び反応容器20の空間24へ補給される(ステップS21)。このとき、アルカリ金属融液290がガス供給管91の軸方向の断面全面を塞いで存在(バルブ110側と反応容器20側を仕切るように存在)していても、アルカリ金属融液290が液体であるために、窒素ガスの差圧によってアルカリ金属融液290を押しのけるようにして、窒素ガスが反応容器20内の空間24に導入されることとなる。
【0154】
その後、GaN結晶6が混合融液270に接触するように、上述した方法によってGaN結晶6を移動させる(ステップS22)。これによって、大きなサイズを有するGaN結晶6が成長する。
【0155】
そして、所定の時間が経過すると、坩堝10及び反応容器20の温度が降温されて(ステップS23)、フラックス法による第1のGaN結晶の作製が終了し、ステップS2へ移行する。
【0156】
なお、ステップS23の後、融液溜め部23の温度は、凝集温度Tcohに保持され、融液凝集部90Aの温度は、蒸発促進温度Tevに保持される。その結果、アルカリ金属融液290は、気相輸送によって融液凝集部90Aから融液溜め部23へ移動される。そして、図14に示されるフローチャートに従って、次回のフラックス法によるGaN結晶の作製が行なわれる。
【0157】
このように、ガス供給管90内の融液凝集部90Aに溜まったアルカリ金属融液290が反応容器20内の融液溜め部23へ移動された状態で次回のフラックス法によるGaN結晶を作製するための原料の仕込みが行なわれる。
【0158】
ここでは、領域REG3に含まれる温度及び圧力を用いて第1のGaN結晶を作製する場合について説明したが、これに限らず、第1のGaN結晶は、領域REG2や領域REG4に含まれる温度及び圧力を用いて作製されても良い。。この場合、支持装置40の一端には、種結晶5が固定されず、支持装置40の一端が混合融液270の表面に接触又は混合融液270に浸漬される。そして、複数の結晶核が支持装置40の一端に形成され、その形成された複数の結晶核が幾何学的選別作用により、最終的に1つの結晶となり、GaN結晶6が結晶成長することとなる。
【0159】
また、領域REG2や領域REG4では、GaN結晶6を支持装置40の一端に結晶成長させるだけではなく、坩堝10の混合融液270に接する底面及び側面に結晶成長させることもできる。さらに、領域REG4では、大きな板状のGaN結晶6が混合融液270の表面に浮いて成長する。
【0160】
領域REG3に含まれる温度及び圧力を用いて種結晶5からGaN結晶を製造する場合、新たな結晶核が発生しないため、支持装置40の底面41Bに固定されている種結晶5からのみ、GaN結晶6が結晶成長し、それ以外の領域においてGaN結晶が結晶成長することがない。その結果、フローティングカバー300の下面及び坩堝10の内壁には、結晶核が付着せず、フローティングカバー300は、混合融液270の増減に伴って上下動が可能である。
【0161】
《ステップS3の詳細》
ステップS3の詳細な動作を説明するためのフローチャートが図15に示されている。
【0162】
前記ステップS2の後、スライス及び研磨された第1のGaN結晶がサセプタ507上に保持され(ステップS31)、金属GaがGa溜部505に入れられる。
【0163】
そして、ヒータ502は、反応炉501を800〜1050℃に加熱し(ステップS32)、原料ガス(NH3+H2,HCl+H2)が反応炉501に供給される(ステップS33)。
【0164】
そうすると、第1のGaN結晶上に第2のGaN結晶が結晶成長し(ステップS34)、塊状のGaN結晶が製造される。そして、ステップS3の工程が終了し、ステップS4の工程に進む。
【0165】
なお、第1のGaN結晶から複数のGaNウエハを作製し、その作製した複数のGaNウエハを別々の結晶成長装置500に入れて塊状のGaN結晶を製造することにより、GaN基板を量産することができる。
【0166】
また、塊状のGaN結晶をスライスするとき、第2のGaN結晶の部分のみをスライスし、第1のGaN結晶を繰り返し用いても良い。
【0167】
さらに、HVPEにより成長した第2のGaN結晶からスライス及び研磨されたGaNウエハを、更にHVPEの基板として用いても良い。すなわち、最初に転位密度が小さく傾角粒界の無いGaN結晶を基板として用いた場合には、その上に成長したGaN結晶も、また転位密度が小さく傾角粒界が無いため、第2のGaN結晶を繰り返し基板として用いても良い。
【0168】
さらに、第1のGaN結晶をスライスせずに、第1のGaN結晶上に第2のGaN結晶を結晶成長させ、塊状のGaN結晶を製造しても良い。
【0169】
この場合には、上記ステップS2の工程は省略され、上記ステップS31では、フラックス法によって作製されたGaN結晶(第1のGaN結晶)がそのままサセプタに保持され、その後の工程に進むこととなる。
【0170】
《GaN基板の製造》
1.第1のGaN結晶が領域REG3の条件で作製され、m面を主面とするGaN基板を製造する場合(第1のGaN結晶のスライス有り)について、図17(A)〜図17(E)を用いて説明する。
【0171】
(1)フラックス法で、領域REG3の温度圧力条件で、種結晶を用いてc軸に伸びた六角柱状のGaN結晶800(第1のGaN結晶)を作製する(図17(A))。
【0172】
(2)GaN結晶800をm面でスライスし、研磨してm面を主面とするGaNウエハ801を作製する(図17(B))。
【0173】
(3)GaNウエハ801のm面上に、HVPE法によってGaN結晶810(第2のGaN結晶)を結晶成長させ、塊状のGaN結晶870を製造する(図17(C))。
【0174】
(4)塊状のGaN結晶870を、m面でスライスし(図17(D))、研磨してm面を主面とするGaN基板811〜820を製造する(図17(E))。
【0175】
2.第1のGaN結晶が領域REG3の条件で作製され、a面を主面とするGaN基板を製造する場合(第1のGaN結晶のスライス有り)について、図18(A)〜図18(E)を用いて説明する。
【0176】
(1)フラックス法で、領域REG3の温度圧力条件で、種結晶を用いてc軸に伸びた六角柱状のGaN結晶800(第1のGaN結晶)を作製する(図18(A))。
【0177】
(2)GaN結晶800をa面でスライスし、研磨してa面を主面とするGaNウエハ802を作製する(図18(B))。
【0178】
(3)GaNウエハ802のa面上に、HVPE法によってGaN結晶830(第2のGaN結晶)を結晶成長させ、塊状のGaN結晶880を製造する(図18(C))。
【0179】
(4)塊状のGaN結晶880を、a面でスライスし(図18(D))、研磨してa面を主面とするGaN基板831〜840を製造する(図18(E))。
【0180】
3.第1のGaN結晶が領域REG3の条件で作製され、c面を主面とするGaN基板を製造する場合(第1のGaN結晶のスライス有り)について、図19(A)〜図19(E)を用いて説明する。
【0181】
(1)フラックス法で、領域REG3の温度圧力条件で、種結晶を用いてc軸に伸びた六角柱状のGaN結晶800(第1のGaN結晶)を作製する(図19(A))。
【0182】
(2)GaN結晶800をc面でスライスし、研磨してc面を主面とするGaNウエハ803を作製する(図19(B))。
【0183】
(3)GaNウエハ803のc面上に、HVPE法によってGaN結晶850(第2のGaN結晶)を結晶成長させ、塊状のGaN結晶890を製造する(図19(C))。
【0184】
(4)塊状のGaN結晶890を、c面でスライスし(図19(D))、研磨してc面を主面とするGaN基板851〜857を製造する(図19(E))。
【0185】
4.第1のGaN結晶が領域REG4の条件で作製され、c面を主面とするGaN基板を製造する場合(第1のGaN結晶のスライスなし)について、図20(A)〜図20(D)を用いて説明する。
【0186】
(1)フラックス法で、領域REG4の温度圧力条件で混合融液270の表面に結晶を浮かせて大きな板状のGaN結晶804(第1のGaN結晶)を作製する(図20(A))。
【0187】
(2)GaN結晶804のc面を研磨する。
【0188】
(3)GaN結晶804のc面上に、HVPE法によってGaN結晶860(第2のGaN結晶)を結晶成長させ、塊状のGaN結晶895を製造する(図20(B))。
【0189】
(4)塊状のGaN結晶895を、c面でスライスし(図20(C))、研磨してc面を主面とするGaN基板861〜867を製造する(図20(D))。
【0190】
5.第1のGaN結晶が領域REG3の条件で作製され、c面を主面とするGaN基板を製造する場合(第1のGaN結晶のスライスなし)について、図21(A)〜図21(D)を用いて説明する。
【0191】
(1)フラックス法で、領域REG3の温度圧力条件で、種結晶を用いてc軸に伸びた六角柱状のGaN結晶900(第1のGaN結晶)を作製する(図21(A))。
【0192】
(2)GaN結晶900上に、HVPE法によってGaN結晶(第2のGaN結晶)を結晶成長させ、GaN結晶900が内包された塊状のGaN結晶910を製造する(図21(B))。
【0193】
(3)塊状のGaN結晶910を、c面でスライスし(図21(C))、研磨してc面を主面とするGaN基板911〜922を製造する(図21(D))。
【0194】
6.第1のGaN結晶が領域REG3の条件で作製され、m面を主面とするGaN基板を製造する場合(第1のGaN結晶のスライスなし)について、図22(A)〜図22(D)を用いて説明する。
【0195】
(1)フラックス法で、領域REG3の温度圧力条件で、種結晶を用いてc軸に伸びた六角柱状のGaN結晶900(第1のGaN結晶)を作製する(図22(A))。
【0196】
(2)GaN結晶900上に、HVPE法によってGaN結晶を結晶成長(第2のGaN結晶)させ、GaN結晶900が内包された塊状のGaN結晶910を製造する(図22(B))。
【0197】
(3)塊状のGaN結晶910を、m面でスライスし(図22(C))、研磨してm面を主面とするGaN基板930〜933を製造する(図22(D))。
【0198】
7.第1のGaN結晶が領域REG3の条件で作製され、m面を主面とするGaN基板を製造する場合(第1のGaN結晶のスライスなし)について、図23(A)〜図23(D)を用いて説明する。
【0199】
(1)フラックス法で、領域REG3の温度圧力条件で、種結晶を用いてc軸に伸びた六角柱状のGaN結晶900(第1のGaN結晶)を作製する(図23(A))。
【0200】
(2)GaN結晶900上に、HVPE法によってGaN結晶(第2のGaN結晶)を結晶成長させ、GaN結晶900が内包された塊状のGaN結晶910を製造する(図23(B))。
【0201】
(3)塊状のGaN結晶910を、a面でスライスし(図23(C))、研磨してa面を主面とするGaN基板940〜945を製造する(図23(D))。
【0202】
8.第1のGaN結晶が領域REG4の条件で作製され、c面を主面とするGaN基板を製造する場合(第1のGaN結晶のスライスなし)について、図24(A)〜図24(D))を用いて説明する。
【0203】
(1)フラックス法で、領域REG4の温度圧力条件で、混合融液270の表面に結晶を浮かせて板状のGaN結晶901(第1のGaN結晶)を作製する(図24(A))。
【0204】
(2)GaN結晶901上に、HVPE法によってGaN結晶(第2のGaN結晶)を結晶成長させ、GaN結晶901が内包された塊状のGaN結晶950を製造する(図24(B))。
【0205】
(3)塊状のGaN結晶950を、c面でスライスし(図24(C))、研磨してc面を主面とするGaN基板951〜958を製造する(図24(D))。
【0206】
なお、第1のGaN結晶が板状のときに、該第1のGaN結晶の主面の結晶面と、塊状のGaN結晶からスライスされたGaN基板の主面の結晶面とが、互いに異なっていても良い。すなわち、所望の(任意の)結晶面を主面とするGaN基板を製造することができる。
【0207】
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係る製造装置1000では、上記塊状のGaN結晶の製造にて、本発明に係る結晶製造方法が実施されている。また、上記GaN基板の製造にて、本発明に係る基板製造方法が実施されている。
【0208】
以上説明したように、本実施形態に係る製造装置1000によると、アルカリ金属NaとIII族金属Gaとを含む混合融液に窒素ガスを供給して第1のGaN結晶を作製する結晶作製装置100と、結晶作製装置100で作製された第1のGaN結晶上に、HVPE法を用いて第2のGaN結晶を結晶成長させる結晶成長装置500とを備えている。そこで、第1のGaN結晶が均質で転位密度が小さく(≦105cm−2)高品質であり、その第1のGaN結晶上に第2のGaN結晶が結晶成長するので、第2のGaN結晶は、均質で高品質に結晶成長することができる。従って、均質で高品質な塊状のGaN結晶を安価に製造することが可能となる。そして、均質で高品質で安価な塊状のGaN結晶を実現することが可能となる。
【0209】
また、第2のGaN結晶の結晶成長速度は、第1のGaN結晶の結晶成長速度よりも速くすることができるため、均質で高品質な塊状のGaN結晶を短い時間で製造することが可能となる。
【0210】
また、GaN基板は、均質で高品質な塊状のGaN結晶をスライスして作製されているため、c面(極性面)、m面(無極性面)、a面(無極性面)、その他の非極性面等の所望の(任意の)結晶面を主面とする高品質で大面積のGaN基板を安価に製造することが可能となる。そして、所望の結晶面を主面とする高品質で安価な窒化ガリウム基板を実現することが可能となる。
【0211】
なお、上記実施形態では、フラックス法において結晶成長温度が800℃の場合について説明したが、これに限らず、フラックス法における結晶成長温度は、領域REG2,REG3に含まれる結晶成長温度であれば良い。また、窒素ガス圧力は、領域REG2,REG3に含まれる圧力であれば良い。
【0212】
また、結晶作製装置は、前記結晶作製装置100から、前記振動印加装置230、前記上下機構240及び前記振動検出装置250を削除したものであっても良い。この場合には、GaN結晶6は、上下方向へ移動されないが、坩堝10内に入れられた金属Na及び金属Gaが融けた状態で支持装置40の底面41Bが混合融液270に接触するように支持装置40がセットされる。従って、種結晶5からGaN結晶6が結晶成長する。その結果、大きいサイズのGaN結晶を作製できる。
【0213】
また、結晶作製装置は、前記結晶作製装置100から、前記配管180、前記熱電対190、前記ガス供給管200、前記流量計210及び前記ガスボンベ220を削除したものであっても良い。この場合には、GaN結晶6の温度T5は、GaN結晶の結晶成長中、混合融液270の温度よりも低温に制御されないが、GaN結晶6は、支持装置40によって混合融液270に接触されるので、GaN結晶6は、混合融液270中の金属Naと金属Gaとの混合比の変動が抑制された状態で種結晶5から成長する。その結果、大きなサイズのGaN結晶を作製できる。
【0214】
また、結晶作製装置は、前記結晶作製装置100から、前記配管180、前記熱電対190、前記ガス供給管200、前記流量計210、前記ガスボンベ220、前記振動印加装置230、前記上下機構240及び前記振動検出装置250を削除したものであっても良い。この場合には、GaN結晶6は、上下方向へ移動されず、GaN結晶6の温度T5は、混合融液270の温度よりも低い温度に制御されないが、坩堝10内に入れられた金属Na及び金属Gaが融けた状態で混合融液270に接触するようにGaN結晶6が支持装置40によって支持される。従って、GaN結晶6は、混合融液270中の金属Naと金属Gaとの混合比の変動が抑制された状態で種結晶5から成長する。その結果、大きいサイズのGaN結晶を作製できる。
【0215】
さらに、上記実施形態では、Arガス雰囲気中で金属Na及び金属Gaを坩堝10に入れ、Arガス雰囲気中で金属Naを融液溜め部23及び/又は融液凝集部90Aに入れる場合について説明したが、これに限らず、例えば、He、Ne及びKr等のArガス以外のガス又は窒素ガス雰囲気中で金属Na及び金属Gaを坩堝10に入れ、金属Naを融液溜め部23及び/又は融液凝集部90Aに入れても良い。一般的には、不活性ガス又は窒素ガス雰囲気中で金属Na及び金属Gaを坩堝10に入れ、金属Naを融液溜め部23及び/又は融液凝集部90Aに入れれば良い。そして、この場合、不活性ガス又は窒素ガスは、水分量が1ppm以下であり、かつ、酸素量が1ppm以下とする。
【0216】
さらに、上記実施形態では、金属Gaと混合される金属がNaの場合について説明したが、これに限らず、例えば、リチウム(Li)及びカリウム(K)等のアルカリ金属、又はマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)及びストロンチウム(Sr)等のアルカリ土類金属であっても良い。
【0217】
さらに、上記実施形態において、窒素ガスに代えて、アジ化ナトリウム及びアンモニア等の窒素を構成元素に含む化合物を用いても良い。
【0218】
さらに、上記実施形態では、III族金属がGaの場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、III族金属として、ボロン(B)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)等を用いても良い。
【0219】
従って、結晶作製装置は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属とIII族金属(ボロンを含む)との混合融液を用いてIII族窒化物結晶を作製するものであれば良い。
【0220】
また、上記実施形態において、HVPEのキャリアガスとして、H2以外にN2又はその混合ガスを用いても良い。また、結晶成長温度もGaN結晶が成長可能な温度であれば適応可能である。
【0221】
また、上記実施形態では、気相成長方法としてHVPEを用いる場合について説明したが、これに限らず、その他の気相成長方法も適応可能である。例えば、ガリウム水素化物(GaH)とアンモニアを原料とするGaH−VPEや、Ga2O3を炭素熱還元窒化してアンモニアと反応させGaNを結晶成長する方法や、昇華法等の気相成長法が適用できる。
【0222】
そして、製造装置1000を用いて製造されたGaN基板は、発光ダイオード、半導体レーザ、フォトダイオード及びトランジスタ等の半導体デバイスの作製に用いられる。
【0223】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0224】
以上説明したように、本発明の製造装置及び結晶製造方法によれば、均質で高品質な塊状のIII族窒化物結晶を安価に製造するのに適している。また、本発明の基板製造方法によれば、所望の結晶面を主面とするIII族窒化物基板を安価に製造するのに適している。また、本発明の窒化ガリウム結晶によれば、均質で高品質で安価な塊状の窒化ガリウム結晶を得るのに適している。また、本発明の窒化ガリウム基板によれば、所望の結晶面を主面とする高品質で安価な窒化ガリウム基板を得るのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0225】
【図1】本発明の一実施形態に係る製造装置の概略ブロック図である。
【図2】図1における結晶作製装置の構成を説明するための図である。
【図3】図3(A)及び図3(B)は、いずれも図2における支持装置、配管及び熱電対の拡大図である。
【図4】図2における上下機構を説明するための図である。
【図5】振動検出信号のタイミングチャートである。
【図6】図2におけるフローティングカバーの平面図である。
【図7】坩堝、反応容器、融液溜め部及び融液凝集部の温度のタイミングチャートである。
【図8】図8(A)及び図8(B)は、いずれも図7で示されるタイミングt1,t3間での坩堝、反応容器、融液溜め部及び融液凝集部内の状態変化を説明するための図である。
【図9】図7で示されるタイミングt3での坩堝及び反応容器内の状態を説明するための図である。
【図10】GaN結晶の温度と窒素ガスの流量との関係を説明するための図である。
【図11】GaN結晶を成長させる場合の窒素ガス圧と混合融液温度との関係を説明するための図である。
【図12】図1における結晶成長装置の構成を説明するための図である。
【図13】図1の製造装置を用いたGaN結晶の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図14】図13におけるステップS1の詳細を説明するためのフローチャートである。
【図15】図13におけるステップS3の詳細を説明するためのフローチャートである。
【図16】図16(A)〜図16(C)は、いずれも塊状のGaN結晶の製造方法を説明するための図である。
【図17】図17(A)〜図17(E)は、いずれもGaN基板の製造方法の例1を説明するための図である。
【図18】図18(A)〜図18(E)は、いずれもGaN基板の製造方法の例2を説明するための図である。
【図19】図19(A)〜図19(E)は、いずれもGaN基板の製造方法の例3を説明するための図である。
【図20】図20(A)〜図20(D)は、いずれもGaN基板の製造方法の例4を説明するための図である。
【図21】図21(A)〜図21(D)は、いずれもGaN基板の製造方法の例5を説明するための図である。
【図22】図22(A)〜図22(D)は、いずれもGaN基板の製造方法の例6を説明するための図である。
【図23】図23(A)〜図23(D)は、いずれもGaN基板の製造方法の例7を説明するための図である。
【図24】図24(A)〜図24(D)は、いずれもGaN基板の製造方法の例8を説明するための図である。
【符号の説明】
【0226】
4…窒素ガス(窒素原料ガス)、5…種結晶、6…GaN結晶(第1のIII族窒化物結晶)、100…結晶作製装置、500…結晶成長装置、1000…製造装置、270…混合融液、280,290…アルカリ金属融液、509…GaN結晶(第1のIII族窒化物結晶)、661〜667…GaNウエハ(第1のIII族窒化物結晶)、670…GaN結晶(第2のIII族窒化物結晶)、700、870、880、890、895、910、950…GaN結晶(塊状のIII族窒化物結晶)、800、900、901…第1のGaN結晶(第1のIII族窒化物結晶)、801、802、803、804…GaNウエハ(第1のIII族窒化物結晶)、810、830、850、860…第2のGaN結晶(第2のIII族窒化物結晶)、811、812、813、814、815、816、817、818、819、820、831、832、833,834,835,836,837,838,839、840、851、852、853、854、855、856、857、861、862、863、864、865、866、867、911、912、913、914、915、916、917、918、919、920、921、922、930、931、932、933、940、941、942、943、944、945、951、952、953、954、955、956、957、958…GaN基板。
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造装置、結晶製造方法、基板製造方法、窒化ガリウム結晶及び窒化ガリウム基板に係り、更に詳しくは、III族窒化物結晶を製造する製造装置、III族窒化物結晶を製造する結晶製造方法、III族窒化物基板を製造する基板製造方法、塊状の窒化ガリウム結晶及び前記塊状の窒化ガリウム結晶から作製された窒化ガリウム基板に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、紫外、紫〜青〜緑色光源として用いられているInGaAlN(III族窒化物半導体)系デバイスは、その殆どがサファイア及びシリコンカーバイド(SiC)を基板とし、その基板上にMOCVD法(有機金属化学気相成長法)及びMBE法(分子線結晶成長法)等を用いて作製されている。
【0003】
このように、サファイア及びシリコンカーバイドを基板として用いた場合、熱膨張係数及び格子定数が基板とIII族窒化物半導体とでそれぞれ大きく異なっているため、III族窒化物半導体内に多くの結晶欠陥が含まれることとなる。この結晶欠陥は、デバイス特性を低下させ、例えば、発光デバイスにおいては、寿命が短い、動作電力が大きい、等の欠点に直接関係する。
【0004】
また、サファイア基板は、絶縁体であるため、従来の発光デバイスのように基板側から電極を取り出すことが不可能であった。これにより、III族窒化物半導体側から電極を取り出すことが必要となる。その結果、デバイスの面積が大きくなり、高コスト化を招くという不都合があった。そして、デバイスの面積が大きくなると、サファイア基板とIII族窒化物半導体という異種材料の組み合わせに伴う基板の反りという新たな問題が発生する。
【0005】
さらに、サファイア基板上に作製されたIII族窒化物半導体デバイスは、劈開によるチップ分離が困難であり、レーザダイオード(LD)において必要とされる共振器端面を得ることは、容易ではない。このため、現在は、ドライエッチング、又はサファイア基板を厚さ100μm以下まで研磨した後に劈開に近い形に分離し、共振器端面の形成を行なっている。従って、従来のLDのように、共振器端面の形成とチップ分離とを単一工程で行なうことが困難であり、工程の複雑化によるコスト高を招いていた。
【0006】
これらの問題を解決するため、サファイア基板上にIII族窒化物半導体を選択的に横方向に成長させるなどの工夫をし、結晶欠陥を低減させることが提案された。これにより、結晶欠陥を低減させることが可能となったが、サファイア基板の絶縁性及び上述した劈開の困難性に関する問題は、依然として残っている。
【0007】
こうした問題を解決するためには、基板上に結晶成長する材料と同一である窒化ガリウム(GaN)基板を用いることが最適である。
【0008】
例えば、特許文献1には、ガリウム砒素(GaAs)基板上にHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法によって窒化ガリウム結晶を結晶成長し、その結晶成長した窒化ガリウムをスライスして窒化ガリウム基板を製造する方法が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特許第3788037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示されている窒化ガリウム結晶は、転位を減少させるために、転位の合体及び曲げを利用しているため、窒化ガリウム結晶の表面平坦性が悪く、高品質(低欠陥密度)のまま均質な塊状の窒化ガリウム結晶を製造することは困難であった。
【0011】
また、このような窒化ガリウム結晶をスライス及び研磨した場合、結晶粒界及び転位の領域等で機械的損傷及びエッチングが発生し易くなり、高品質で表面平坦性が良好なウエハ(基板)を得ることは困難であった。
【0012】
本発明は、かかる事情の下になされたもので、その第1の目的は、均質で高品質な塊状のIII族窒化物結晶を安価に製造することができる製造装置及び結晶製造方法を提供することにある。
【0013】
また、本発明の第2の目的は、所望の結晶面を主面とするIII族窒化物基板を安価に製造することができる基板製造方法を提供することにある。
【0014】
また、本発明の第3の目的は、均質で高品質で安価な塊状の窒化ガリウム結晶を提供することにある。
【0015】
また、本発明の第4の目的は、所望の結晶面を主面とする高品質で安価な窒化ガリウム基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、第1の観点からすると、III族窒化物結晶を製造する製造装置であって、フラックス法によって作製された第1のIII族窒化物結晶上に、気相成長法を用いて第2のIII族窒化物結晶を結晶成長させる結晶成長装置を備える製造装置である。
【0017】
これによれば、フラックス法によって作製された第1のIII族窒化物結晶上に、結晶成長装置により、気相成長法を用いて第2のIII族窒化物結晶が結晶成長される。この場合には、第1のIII族窒化物結晶が均質で高品質であり、その第1のIII族窒化物結晶上に第2のIII族窒化物結晶が結晶成長するので、第2のIII族窒化物結晶は、均質で高品質に結晶成長することができる。従って、均質で高品質な塊状のIII族窒化物結晶を安価に製造することが可能となる。
【0018】
本発明は、第2の観点からすると、III族窒化物結晶を製造する結晶製造方法であって、フラックス法によって作製された第1のIII族窒化物結晶上に、気相成長法を用いて第2のIII族窒化物結晶を結晶成長させる工程を含む結晶製造方法である。
【0019】
これによれば、フラックス法によって作製された第1のIII族窒化物結晶上に、気相成長法を用いて第2のIII族窒化物結晶が結晶成長される。この場合には、第1のIII族窒化物結晶が均質で高品質であり、その第1のIII族窒化物結晶上に第2のIII族窒化物結晶が結晶成長するので、第2のIII族窒化物結晶は、均質で高品質に結晶成長することとができる。従って、均質で高品質な塊状のIII族窒化物結晶を安価に製造することが可能となる。
【0020】
本発明は、第3の観点からすると、III族窒化物基板を製造する基板製造方法であって、本発明の結晶製造方法によって塊状のIII族窒化物結晶を製造する工程と;前記製造する工程で製造された塊状のIII族窒化物結晶をスライスする工程と;を含む基板製造方法。
【0021】
これによれば、本発明の結晶製造方法によって製造された塊状のIII族窒化物結晶をスライスしているため、結果として、所望の結晶面を主面とするIII族窒化物基板を安価に製造することが可能となる。
【0022】
本発明は、第4の観点からすると、塊状の窒化ガリウム結晶であって、フラックス法によって作製された第1の窒化ガリウム結晶と;前記第1の窒化ガリウム結晶上に結晶成長した第2の窒化ガリウム結晶と;を有する窒化ガリウム結晶である。
【0023】
これによれば、フラックス法によって作製された均質で高品質の第1の窒化ガリウム結晶上に第2の窒化ガリウム結晶が結晶成長しているため、結果として、均質で高品質で安価な塊状の窒化ガリウム結晶を実現することが可能となる。
【0024】
本発明は、第5の観点からすると、本発明の塊状の窒化ガリウム結晶をスライスして作製された窒化ガリウム基板である。
【0025】
これによれば、本発明の塊状の窒化ガリウム結晶をスライスして作製されているため、結果として、所望の結晶面を主面とする高品質で安価な窒化ガリウム基板を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照しながら説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0027】
『製造装置』
図1には、本発明の一実施形態に係る塊状の窒化ガリウム(GaN)結晶を製造する製造装置1000の概略構成が示されている。
【0028】
この製造装置1000は、結晶作製装置100、及び結晶成長装置500を備えている。
【0029】
結晶作製装置100は、金属ナトリウム(Na)と金属ガリウム(Ga)とを含む混合融液に窒素ガスを供給してGaN結晶を作製する装置である。すなわち、結晶作製装置100は、フラックス法によってGaN結晶を作製する装置である。なお、以下では、便宜上、結晶作製装置100で作製されたGaN結晶を「第1のGaN結晶」ともいう。
【0030】
結晶成長装置500は、結晶作製装置100によって作製された第1のGaN結晶上に、気相成長法を用いてGaN結晶を結晶成長させる装置である。なお、以下では、便宜上、第1のGaN結晶上に結晶成長したGaN結晶を「第2のGaN結晶」ともいう。
【0031】
《結晶作製装置》
結晶作製装置100は、一例として図2に示されるように、坩堝10、反応容器20、ベローズ30、支持装置40、加熱装置50,60、温度センサ51,61,71,81、加熱/冷却器70,80、ガス供給管90,200、バルブ110,150、圧力調整器120、ガスボンベ130,220、排気管140、真空ポンプ160、圧力センサ170、配管180、熱電対190、流量計210、振動印加装置230、上下機構240、振動検出装置250、温度制御装置260、及びフローティングカバー300などを備えている。
【0032】
ガスボンベ130,220には、窒素ガスが充填されている。
【0033】
坩堝10は、外周が円形状のボロンナイトライド(BN)又はオーステナイト系ステンレス鋼(SUS316L)製の容器である。この坩堝10は、金属Naと金属Gaとを含む混合融液270を保持する。
【0034】
反応容器20は、坩堝10の周囲を覆う容器である。すなわち、この反応容器20内に、坩堝10が収容される。反応容器20は、本体部21、蓋部22、及び融液溜め部23を有している。本体部21、蓋部22及び融液溜め部23は、いずれもSUS316L製である。本体部21と蓋部22との間は、メタルオーリングによってシールされている。また、融液溜め部23は、本体部21の底面に設けられている。この融液溜め部23には、アルカリ金属融液280が溜められる。
【0035】
ベローズ30は、重力方向DR1において、反応容器20の蓋部22に連結されている。このベローズ30は、支持装置40を保持するとともに、反応容器20の内部と外部とを遮断する。また、ベローズ30は、支持装置40の重力方向DR1への移動に伴って重力方向DR1に伸縮する。
【0036】
加熱装置50は、反応容器20の外周面20Aを囲むように配置されている。この加熱装置50は、ヒータ及び電流源を有している。そして、加熱装置50は、温度制御装置260からの制御信号CTL1に応じて電流源によってヒータに電流を流し、反応容器20の外周面20Aから坩堝10及び反応容器20を結晶成長温度に加熱する。
【0037】
加熱装置60は、反応容器20の底面20Bに対向して配置されている。この加熱装置60は、ヒータ及び電流源を有している。そして、加熱装置60は、温度制御装置260からの制御信号CTL2に応じて電流源によってヒータに電流を流し、反応容器20の底面20Bから坩堝10及び反応容器20を結晶成長温度に加熱する。
【0038】
温度センサ51は、加熱装置50に近接して配置され、加熱装置50のヒータの温度(温度T1とする)を検出し、検出結果を温度制御装置260へ出力する。
【0039】
温度センサ61は、加熱装置60に近接して配置され、加熱装置60のヒータの温度(温度T2とする)を検出し、検出結果を温度制御装置260へ出力する。
【0040】
加熱/冷却器70は、融液溜め部23の周囲を囲むように配置されている。この加熱/冷却器70は、加熱部と冷却部を備えている。加熱部は、ヒータ及び電流源を有し、電流源によってヒータに電流を流すことによって融液溜め部23を加熱する。また、冷却部は、融液溜め部23に冷風を吹き付けることによって融液溜め部23を冷却する。ここでは、加熱/冷却器70は、温度制御装置260からの制御信号CTL3に応じて、融液溜め部23の温度を蒸発抑制温度に加熱し、又は融液溜め部23の温度を凝集温度に冷却する。ここで、蒸発抑制温度は、混合融液270から蒸発する金属Naの蒸気圧PNa−Gaがアルカリ金属融液280から蒸発する金属Naの蒸気圧PNaに略一致する温度である。また、凝集温度は、金属Na蒸気が金属融液として溜まる温度である。
【0041】
加熱/冷却器80は、ガス供給管90に設けられている融液凝集部90Aの周囲を囲むように配置されている。この加熱/冷却器80は、加熱部と冷却部を備えている。加熱部は、ヒータ及び電流源を有し、電流源によってヒータに電流を流すことによって融液凝集部90Aを加熱する。また、冷却部は、融液凝集部90Aに冷風を吹き付けることによって融液凝集部90Aを冷却する。ここでは、加熱/冷却器80は、温度制御装置260からの制御信号CTL4に応じて、融液凝集部90Aの温度を凝集温度に冷却し、又は融液凝集部90Aの温度を蒸発促進温度に加熱する。ここで、蒸発促進温度は、金属Naが気相輸送によって他の部分へ移動する温度である。
【0042】
温度センサ71は、加熱/冷却器70に近接して配置され、加熱/冷却器70の加熱部又は冷却部の温度(温度T3とする)を検出し、検出結果を温度制御装置260へ出力する。
【0043】
温度センサ81は、加熱/冷却器80に近接して配置され、加熱/冷却器80の加熱部又は冷却部の温度(温度T4とする)を検出し、検出結果を温度制御装置260へ出力する。
【0044】
ガス供給管90は、ガス供給管91,92からなり、ガスボンベ130から圧力調整器120を介して供給された窒素ガスを、アルカリ金属融液290を介して反応容器20内へ供給する。
【0045】
ガス供給管91は、融液凝集部90Aを有し、一端がベローズ30に連結され、他端がバルブ110に連結されている。
【0046】
ガス供給管92は、一端がバルブ110に連結され、他端が圧力調整器120を介してガスボンベ130に連結されている。
【0047】
バルブ110は、ガス供給管90に装着され、ガス供給管90内の窒素ガスを反応容器20内へ供給し、又は窒素ガスの反応容器20内への供給を停止する。また、バルブ110は、ガス供給管90をガス供給管91とガス供給管92とに分離し、又はガス供給管91とガス供給管92とを連結する。
【0048】
圧力調整器120は、ガスボンベ130の近傍でガス供給管90(ガス供給管92)に装着され、ガスボンベ130からの窒素ガスを所定の圧力にしてガス供給管90に供給する。
【0049】
ガスボンベ130は、ガス供給管90(ガス供給管92)に連結されている。
【0050】
排気管140は、一端がバルブ150を介して反応容器20に連結され、他端が真空ポンプ160に連結され、反応容器20内の気体を真空ポンプ160へ通過させる。
【0051】
バルブ150は、反応容器20の近傍で排気管140に装着され、反応容器20内と排気管140とを空間的に繋げ、又は反応容器20内と排気管140とを空間的に遮断する。
【0052】
真空ポンプ160は、排気管140の他端に連結され、排気管140及びバルブ150を介して反応容器20内の真空引きを行なう。
【0053】
圧力センサ170は、反応容器20に取り付けられており、反応容器20内の圧力を検出する。
【0054】
ガス供給管200は、一端が配管180に連結され、他端が流量計210を介してガスボンベ220に連結されている。このガス供給管200は、ガスボンベ220から流量計210を介して供給された窒素ガスを配管180へ供給する。
【0055】
流量計210は、ガスボンベ220の近傍でガス供給管200に装着され、温度制御装置260からの制御信号CTL5に応じて、ガスボンベ220から供給された窒素ガスの流量を調整してガス供給管200へ供給する。
【0056】
ガスボンベ220は、ガス供給管200の他端に連結されている。
【0057】
アルカリ金属融液280は、金属Na融液であり、融液溜め部23に保持される。
【0058】
アルカリ金属融液290は、金属Na融液であり、ガス供給管90の融液凝集部90Aに保持される。
【0059】
振動印加装置230は、一例として圧電素子を有し、所定の周波数を有する振動を支持装置40に印加する。
【0060】
振動検出装置250は、一例として加速度ピックアップを有し、支持装置40の振動を検出するとともに、支持装置40の振動情報が含まれる振動検出信号BDSを上下機構240へ出力する。
【0061】
一例として図3(A)及び図3(B)には、支持装置40、配管180及び熱電対190の一部が拡大して示されている。
【0062】
支持装置40は、円筒部材41を有している。該円筒部材41の一端は、反応容器20の蓋部22に設けられた開口部を介して反応容器20内の空間24内へ挿入される。そして、円筒部材41の底面41Bには、種結晶5が取り付けられている(図3(A)参照)。種結晶5を含むGaN結晶6は、円筒部材41の底面41Bに結晶成長する(図3(B)参照)。また、支持装置40は、反応容器20内に挿入された円筒部材41の一端に結晶成長したGaN結晶を支持する。
【0063】
配管180は、ガス供給管200から供給された窒素ガスを一端から支持装置40内へ放出して種結晶又はGaN結晶を冷却する。配管180は、略円形の断面形状を有し、支持装置40の円筒部材41の内部に配置されている。そして、配管180の底面180Aは、円筒部材41の底面41Bに対向するように配置されている。また、配管180の底面180Aには、複数の空孔181が形成されている。配管180内へ供給された窒素ガスは、複数の空孔181を介して円筒部材41の底面41Bに吹き付けられる。なお、円筒部材41内に放出された窒素ガスは、円筒部材41の不図示の開口部を介して結晶製造装置100外へ放出される。
【0064】
熱電対190は、一端190Aが円筒部材41の底面41Bに接するように円筒部材41の内部に配置されている。熱電対190は、種結晶又はGaN結晶の温度(温度T5とする)を検出し、その検出した温度T5を温度制御装置260へ出力する。
【0065】
従って、GaN結晶6と円筒部材41との間の熱伝導率が高くなる。その結果、熱電対190によってGaN結晶6の温度T5を検出できるとともに、配管180から円筒部材41の底面41Bに吹き付けられた窒素ガスによってGaN結晶6を容易に冷却できる。
【0066】
上下機構240は、ベローズ30の上側において支持装置40に取り付けられている。上下機構240は、振動検出装置250からの振動検出信号BDSに応じて、種結晶が空間24と混合融液270との気液界面2に接するように支持装置40を上下する。
【0067】
この上下機構240は、一例として図4に示されるように、凹凸部材241、歯車242、軸部材243、モータ244、及び制御部245などを有している。
【0068】
凹凸部材241は、略三角形状の断面形状からなり、円筒部材41の外周面41Aに固定されている。
【0069】
歯車242は、軸部材243の一端に固定され、凹凸部材241と噛み合う。
【0070】
軸部材243は、その一端が歯車242に連結され、他端がモータ244のシャフト(図示省略)に連結されている。
【0071】
モータ244は、制御部245からの制御に従って歯車242を矢印246又は247の方向へ回転させる。
【0072】
制御部245は、振動検出装置250からの振動検出信号BDSに基づいて、歯車242を矢印246又は247の方向へ回転させるようにモータ244を制御する。
【0073】
歯車242が矢印246の方向へ回転すれば、支持装置40は、重力方向DR1において上方向へ移動し、歯車242が矢印247の方向へ回転すれば、支持装置40は、重力方向DR1において下方向へ移動する。
【0074】
従って、歯車242を矢印246又は247の方向へ回転させることは、支持装置40を重力方向DR1において上下させることに相当する。凹凸部材241の重力方向DR1の長さは、支持装置40がGaN結晶6を上下させる距離に相当する長さである。
【0075】
振動検出信号BDSのタイミングチャートが、一例として図5に示されている。振動検出信号BDSは、支持装置40が混合融液270に接していないときに、信号成分SS1となり、支持装置40が混合融液270に接しているときに、信号成分SS2となり、支持装置40の一部が混合融液270に浸漬されているときに、信号成分SS3となる。
【0076】
支持装置40が混合融液270に接していないときには、支持装置40は、振動印加装置230により印加された振動によって大きく振動するので、振動検出信号BDSは、振幅が相対的に大きい信号成分SS1となる。一方、支持装置40が混合融液270に接しているときには、支持装置40は、振動印加装置230から振動が印加されても、混合融液270の粘性によって大きく振動できないので、振動検出信号BDSは、振幅が相対的に小さい信号成分SS2となる。また、支持装置40の一部(又はGaN結晶6)が混合融液270に浸漬されているときには、支持装置40(又はGaN結晶6)は、振動印加装置230から振動が印加されても、混合融液270の粘性によってさらに振動し難くなるので、振動検出信号BDSは、振幅が信号成分SS2よりも小さい信号成分SS3となる。
【0077】
図4に戻り、制御部245は、振動検出装置250から振動検出信号BDSを受けると、振動検出信号BDSの信号成分を検出する。そして、制御部245は、その検出した信号成分が信号成分SS1のときには、振動検出信号BDSの信号成分が信号成分SS2又はSS3になるまで、支持装置40を重力方向DR1に降下させるようにモータ244を制御する。
【0078】
より具体的には、制御部245は、歯車242を矢印247の方向へ回転させるようにモータ244を制御する。モータ244は、制御部245からの制御に従って歯車242を軸部材243を介して矢印247の方向へ回転させる。これによって、支持装置40は、重力方向DR1の下方向へ移動する。
【0079】
そして、制御部245は、振動検出装置250から受ける振動検出信号BDSの信号成分が信号成分SS1から信号成分SS2又はSS3へ切換わると、歯車242の回転を停止するようにモータ244を制御する。モータ244は、制御部245からの制御に従って歯車242の回転を停止させる。これによって、支持装置40は、移動を停止し、支持装置40の一端を気液界面2に保持し、又は支持装置40の一端を混合融液270中に保持する。一方、制御部245は、信号成分SS2又はSS3を含む振動検出信号BDSを振動検出装置250から受けたとき、支持装置40の移動を停止するようにモータ244を制御する。
【0080】
このように、上下機構240は、振動検出装置250が検出する振動検出信号BDSに基づいて、支持装置40の一端が混合融液270に接するように、又は支持装置40の一端が混合融液270に浸漬されるように支持装置40を重力方向DR1に移動させる。
【0081】
フローティングカバー300は、一例としてBN製であり、支持装置40の周囲において混合融液270の表面に配置されている。このフローティングカバー300は、金属Naが混合融液270から蒸発するのを抑制する。
【0082】
フローティングカバーの平面図が図6に示されている。このフローティングカバー300は、開口部301を有し、内径r、外径Rのドーナツ形状である。内径rは、支持装置40の直径にαを加えた値である。このαは、窒素ガスが混合融液270に溶け込むための隙間が支持装置40とフローティングカバー300との間に形成される値である。そして、外径Rは、坩堝10の内径に略等しい。
【0083】
支持装置40の一端は、開口部301を介して混合融液270の表面又は混合融液270中に保持される。
【0084】
温度制御装置260は、温度T1に基づいて、坩堝10及び反応容器20を結晶成長温度に加熱するための制御信号CTL1を生成し、温度T2に基づいて、坩堝10及び反応容器20を結晶成長温度に加熱するための制御信号CTL2を生成する。また、温度制御装置260は、温度T3に基づいて、融液溜め部23の温度を蒸発抑制温度Tevc又は凝集温度Tcohに制御するための制御信号CTL3を生成する。さらに、温度制御装置260は、温度T4に基づいて、融液凝集部90Aの温度を凝集温度Tcoh又は蒸発促進温度Tevに制御するための制御信号CTL4を生成する。さらに、温度制御装置260は、温度T5に基づいて、種結晶又はGaN結晶の温度T5を種結晶周辺の混合融液の温度よりも低い温度にするのに適した流量の窒素ガスを流すための制御信号CTL5を生成する。
【0085】
そして、温度制御装置260は、生成した制御信号CTL1,CTL2をそれぞれ加熱装置50,60へ出力し、制御信号CTL3,CTL4をそれぞれ加熱/冷却器70,80へ出力し、制御信号CTL5を流量計210へ出力する。
【0086】
《第1のGaN結晶の作製方法》
坩堝10、反応容器20、融液溜め部23及び融液凝集部90Aの温度のタイミングチャートが一例として図7に示されている。また、図7に示すタイミングt1,t3間における坩堝10、反応容器20、融液溜め部23及び融液凝集部90A内の状態変化を示す模式図が、一例として図8(A)及び図8(B)に示されている。さらに、図7に示すタイミングt3における坩堝10及び反応容器20内の状態を示す模式図が、一例として図9に示されている。さらに、GaN結晶6の温度と窒素ガスの流量との関係が図10に示されている。
【0087】
なお、図7おける、符号k1は坩堝10及び反応容器20の温度を示し、符号k2及びk3はGaN結晶6の温度を示し、符号k4は融液溜め部23の温度を示し、符号k5は融液凝集部90Aの温度を示す。
【0088】
加熱装置50,60は、タイミングt5までの期間において、k1に従って温度が上昇し、かつ、800℃に保持されるように坩堝10及び反応容器20を加熱する。また、加熱/冷却器70は、タイミングt5までの期間において、k4に従って温度が上昇し、かつ、蒸発抑制温度Tevcに保持されるように融液溜め部23を加熱する。さらに、加熱/冷却器80は、タイミングt5までの期間において、k5に従って温度が上昇し、かつ、凝集温度Tcohに保持されるように融液凝集部90Aを加熱する。
【0089】
加熱装置50,60が坩堝10及び反応容器20を加熱し始めたとき、坩堝10内には、金属Na7及び金属Ga8が存在し、加熱/冷却部70が融液溜め部23を加熱し始め、かつ、加熱/冷却部80が融液凝集部90Aを加熱し始めたとき、融液溜め部23には、金属Na7が存在し、融液凝集部90Aには、金属Na7は存在しない(図8(A)参照)。
【0090】
そして、坩堝10及び反応容器20の温度がタイミングt1において98℃に達すると、坩堝10中の金属Na7は溶け、約30℃で既に溶けている金属Ga8と混ざり合う。その後、GaとNaとの金属間化合物が生成され、この金属間化合物は、560℃以上の温度において坩堝10中で混合融液270となる。そして、坩堝10及び反応容器20の温度は、タイミングt3において800℃に達する。
【0091】
また、融液溜め部23の温度がタイミングt2において98℃に達すると、融液溜め部23内の金属Na7は溶け、アルカリ金属融液280が融液溜め部23に生成される。その後、融液溜め部23の温度は、タイミングt3において蒸発抑制温度Tevcに達する。さらに、融液凝集部90Aの温度は、タイミングt3において凝集温度Tcohに達する。
【0092】
そうすると、坩堝10及び反応容器20が800℃に加熱され、融液溜め部23が蒸発抑制温度Tevcに加熱される過程において、アルカリ金属融液280から蒸発する金属Naの蒸気圧PNaは、徐々に高くなり、混合融液270から蒸発する金属Naの蒸気圧PNa−Gaも徐々に高くなる。そして、混合融液270及び/又はアルカリ金属融液280から蒸発した金属Naは、坩堝10、反応容器20及び融液溜め部23の温度よりも低温である凝集温度Tcohに保持された融液凝集部90Aに凝集される。その結果、融液凝集部90Aには、アルカリ金属融液290が保持される。
【0093】
そして、タイミングt3において、混合融液270から蒸発するアルカリ金属の蒸気圧PNa−Gaは、アルカリ金属融液280から蒸発するアルカリ金属の蒸気圧PNaに略一致する(図8(B)参照)。その結果、混合融液270及びアルカリ金属融液280からの金属Naの蒸発による混合融液270中の金属Naと金属Gaとの混合比の変動が抑制される。
【0094】
このとき、融液凝集部90Aの温度が金属Naの融点以上で、かつ、Naの実質的蒸発が生じない温度であれば、ガス供給管90内においてバルブ110側への金属Naの拡散を無視でき、混合融液270中の金属Naと金属Gaとの混合比の変動を一層抑制できる。ここでいうNaの実質的蒸発が生じない温度とは、例えば、200〜300℃である。200℃におけるNaの蒸気圧は、約1.8×10−2Paであり、300℃におけるNaの蒸気圧は、約1.8Paであり、これ以上の温度であっても、多少の蒸発による拡散はあるが、混合融液270中の金属Naと金属Gaとの混合比の変動を抑制できる。従って、凝集温度Tcohは、好ましくは、200〜300℃の範囲に設定される。
【0095】
また、混合融液270の表面には、フローティングカバー300が配置されているので、坩堝10内の混合融液270からNaの蒸発が発生するタイミング以降、金属Naの混合融液270からの蒸発が抑制され、金属Naの蒸発による混合融液270中の金属Naと金属Gaとの混合比の変動をさらに抑制できる。
【0096】
空間24内には、圧力調整器120によって圧力調整された窒素ガス4がガス供給管90を介して供給されている(図9参照)。
【0097】
また、坩堝10及び反応容器20の温度が800℃に達するタイミングt3で、上下機構240は、振動検出装置250からの振動検出信号BDSに基づいて、上述した方法によって支持装置40を上下させ、支持装置40の一端を混合融液270に接触させる。
【0098】
そして、坩堝10及び反応容器20の温度が800℃程度の高温状態では、空間24内の窒素ガス4は、金属Naを媒介として混合融液270中に取り込まれる。この場合、混合融液270中の窒素濃度又はIII族窒化物の濃度は、空間24と混合融液270との気液界面2付近において最も高いため、GaN結晶6が種結晶5から結晶成長する。
【0099】
窒素ガスを配管180内へ供給しない場合、種結晶5又はGaN結晶6の温度T5は、混合融液270の温度と同じ800℃であるが、本実施形態では、種結晶5又はGaN結晶6付近の混合融液270中の窒素又はIII族窒化物の過飽和度を上げるために、配管180内へ窒素ガスを供給して種結晶5又はGaN結晶6を冷却し、種結晶5又はGaN結晶6の温度T5を混合融液270の温度よりも低くする。
【0100】
より具体的には、種結晶5又はGaN結晶6の温度T5は、タイミングt3以降、k2に従って800℃よりも低い温度Ts1に設定される。この温度Ts1は、例えば、790℃である。種結晶5又はGaN結晶6の温度T5を温度Ts1に設定する方法について説明する。
【0101】
温度制御装置260は、温度センサ51,61からそれぞれ受けた温度T1,T2が800+α℃(=坩堝10及び反応容器20を800℃に設定したときの加熱装置50,60に含まれるヒータの温度)に達すると、種結晶5又はGaN結晶6の温度T5を温度Ts1に設定する流量からなる窒素ガスを流すための制御信号CTL5を生成して流量計210へ出力する。
【0102】
流量計210は、制御信号CTL5に応じて、温度T5を温度Ts1に対応する流量の窒素ガスをガスボンベ220からガス供給管200を介して配管180内へ流す。種結晶5又はGaN結晶6の温度は、窒素ガスの流量に略比例して800℃から低下し、窒素ガスの流量が流量fr1(sccm)になると、種結晶5又はGaN結晶6の温度T5は、温度Ts1となる(図10参照)。
【0103】
従って、流量計210は、窒素ガスを流量fr1で配管180内へ流す。そして、配管180内へ供給された窒素ガスは、配管180の複数の空孔181から円筒部材41の底面41Bに吹き付けられる。
【0104】
これによって、種結晶5又はGaN結晶6は、円筒部材41の底面41Bを介して冷却され、種結晶5又はGaN結晶6の温度T5は、タイミングt4で温度Ts1に低下し、その後、タイミングt5まで温度Ts1に保持される。
【0105】
加熱装置50,60のヒータの温度T1,T2は、混合融液270の温度と所定の温度差αを有するため、温度制御装置260は、GaN結晶6の温度T5が800℃から低下し始めると、温度T1,T2が800+α℃となるように制御信号CTL1,2によって加熱装置50,60を制御する。
【0106】
なお、本実施形態では、好ましくは、種結晶5又はGaN結晶6の温度T5は、タイミングt3以降、k3に従って低下するように制御される。すなわち、種結晶5又はGaN結晶6の温度T5は、タイミングt3からタイミングt5までの間で800℃から温度Ts2(<Ts1)まで低下される。この場合、流量計210は、温度制御装置260からの制御信号CTL5に基づいて、k6に従って配管180内へ流す窒素ガスの流量を0から流量fr2(>fr1)まで増加する。窒素ガスの流量が流量fr2になると、種結晶5又はGaN結晶6の温度T5は、温度Ts1よりも低い温度Ts2(例えば、750℃)に設定される。
【0107】
このように、混合融液270の温度(=800℃)とGaN結晶6の温度T5との差を徐々に大きくすることによって、GaN結晶6付近の混合融液270中の窒素又はIII族窒化物の過飽和度が徐々に大きくなり、GaN結晶6の結晶成長を少なくとも継続できる。
【0108】
GaN結晶を成長させる場合の窒素ガス圧と混合融液温度との関係が図11に示されている。図11では、横軸は、混合融液温度であり、縦軸は、窒素ガス圧である。また、領域REG1は、GaN結晶が溶解する領域であり、領域REG2は、坩堝10の混合融液270に接する底面及び側面において多くの核が自発的に発生し、c軸(<0001>)方向に成長した柱状形状のGaN結晶が作製される領域であり、領域REG4は、領域REG2と同様に多くの核が自発的に発生し、c面が発達した板状のGaN結晶が作製される領域であり、領域REG3は、GaN結晶が種結晶から結晶成長する領域である。
【0109】
本実施形態では、領域REG2や領域REG4に含まれる温度及び圧力を用いてGaN結晶を結晶成長させ、又は領域REG3に含まれる温度及び圧力を用いて種結晶5からGaN結晶6を結晶成長させる。
【0110】
図7に戻り、GaN結晶6の結晶成長がタイミングt5で終了すると、加熱装置50,60は、坩堝10及び反応容器20の加熱を停止し、坩堝10及び反応容器20の温度は、k1に従って800℃から低下し、GaN結晶6の温度T5は、温度Ts1(又は温度Ts2)から低下する。
【0111】
一方、加熱/冷却器70は、k4に従って融液溜め部23を冷却する。融液溜め部23の温度は、タイミングt6からタイミングt7までの間、凝集温度Tcohに保持される。また、加熱/冷却器80は、k5に従って融液凝集部90Aを加熱する。融液凝集部90Aは、タイミングt6からタイミングt7までの間、蒸発促進温度Tevに保持される。ここで、蒸発促進温度Tevは、アルカリ金属融液290が気相輸送によって融液凝集部90Aから他の部分へ移動する温度である。
【0112】
タイミングt6からタイミングt7までの間、融液溜め部23の温度は、凝集温度Tcohに保持され、融液凝集部90Aの温度は、蒸発促進温度Tevに保持される。その結果、アルカリ金属融液290は、蒸発して融液溜め部23へ気相輸送される。
【0113】
そして、タイミングt7においては、融液凝集部90Aには、アルカリ金属融液290は存在しない。なお、アルカリ金属融液290が融液凝集部90Aから融液溜め部23へ気相輸送される場合、バルブ110が閉じられているため、アルカリ金属融液290から蒸発した金属Naの蒸気が圧力調整器120側へ拡散することはない。
【0114】
タイミングt7において、アルカリ金属融液290の融液凝集部90Aから融液溜め部23への気相輸送が終了すると、加熱/冷却器70は、融液溜め部23を冷却し、加熱/冷却器80は、融液凝集部90Aを冷却する。これによって、坩堝10、反応容器20、融液溜め部23及び融液凝集部90Aは、タイミングt7以降、室温へ向かって冷却される。
【0115】
《結晶成長装置》
結晶成長装置500は、図12に示されるように、反応炉501、ヒータ502、ガス導入管503,504、Ga溜部505、サセプタ507、シャフト508、ガス排出管510等を備えている。
【0116】
反応炉501は、略円筒形状である。
【0117】
ヒータ502は、円筒形状であり、反応炉501の周囲に配置されている。ヒータ502は、反応炉501を800〜1050℃に加熱する。
【0118】
ガス導入管503,504は、反応炉501の上頂部に設けられている。そして、ガス導入管503の一端は、Ga溜部505の上部に位置している。また、ガス導入管504の一端は、Ga溜部505よりも下側であり、サセプタ507よりも上側に位置している。
【0119】
ガス導入管503は、HCl+H2を反応炉501内に導入し、HCl+H2をGa溜部505に吹き付ける。
【0120】
ガス導入管504は、NH3+H2を反応炉501内に導入し、Ga溜部505よりも下側でNH3+H2を排出する。
【0121】
Ga溜部505は、反応炉501内に配置されている。Ga溜部505は、液体状のGa融液506を保持する。
【0122】
サセプタ507は、シャフト508の一端に取り付けられる。サセプタ507は、ウエハ状のGaN結晶509を保持するとともに、シャフト508の回転、昇降に応じてGaN結晶509を回転、昇降させる。
【0123】
シャフト508は、反応炉501の下頂部に回転昇降自在に取り付けられている。シャフト508は、サセプタ507を支持するとともに、サセプタ507を回転昇降させる。
【0124】
ガス排出管510は、反応炉501の下頂部に設けられている。ガス排出管510は、排ガスを反応炉501外へ排出する。
【0125】
《第2のGaN結晶の結晶成長方法》
反応炉501内がヒータ502によって800〜1050℃に加熱されると、Gaの融点は、約29.8℃であるので、Ga溜部505に保持された金属Gaは、溶けて、Ga融液506になる。そして、ガス導入管503から導入されたHCl+H2がGa融液6に吹き付けられると、塩化ガリウムGaClが生成される。
【0126】
この塩化ガリウムGaClとキャリアガスH2との混合ガスが反応炉501中の空間を下方へ運ばれる。そして、塩化ガリウムGaClとキャリアガスH2との混合ガスは、Ga溜部505よりも下側でガス導入管504から排出されたNH3+H2の混合ガスと混ざり、GaNが生成される。
【0127】
サセプタ507上に保持されたGaN結晶509は、800〜1050℃に加熱されているため、気相反応した生成物GaNがGaN結晶509上に付着し、GaN結晶509の品質と同じ品質でGaN結晶が結晶成長する。
【0128】
シャフト508は、結晶成長中、回転しながら降下するので、GaN結晶509も回転しながら降下する。その結果、GaN結晶がHVPE法によってGaN結晶509上に厚く成長しても、ガス導入管504とGaN結晶の表面との距離を一定に保持でき、品質を均一に保持した塊状のGaN結晶が製造される。
【0129】
『塊状のGaN結晶の製造』
製造装置1000を用いた塊状のGaN結晶の製造方法を説明するためのフローチャートが図13に示されている。
【0130】
最初のステップS1では、結晶作製装置100を用い、前述した如く、金属Naと金属Gaとを含む混合融液に窒素ガスを供給して第1のGaN結晶(図16(A)参照)を作製する。ここでは、c軸方向の長さがa軸方向の長さよりも長い柱状結晶が作製される。なお、結晶作製装置100でのGaN結晶の結晶成長速度(フラックス法による結晶成長速度)は、一例として1μm/hである。
【0131】
次のステップS2では、ステップS1で作製された第1のGaN結晶を、スライス(図16(B)参照)及び研磨する。
【0132】
次のステップS3では、結晶成長装置500を用い、ステップS2でスライス及び研磨作製された第1のGaN結晶上に、前述した如く、HVPE法によって第2のGaN結晶を結晶成長させ、塊状のGaN結晶を製造する(図16(C)参照)。なお、結晶成長装置500でのGaN結晶の結晶成長速度(HVPE法による結晶成長速度)は、一例として100μm/hである。
【0133】
次のステップS4では、ステップS3で製造された塊状のGaN結晶を複数のGaNウエハにスライスし、そのスライスされた複数のGaNウエハを研磨する。ここで研磨された各GaNウエハがGaN基板となる。
【0134】
このように、本実施形態では、フラックス法によって第1のGaN結晶を作製し、その第1のGaN結晶をスライス及び研磨し、そのスライス及び研磨された第1のGaN結晶上に、HVPE法によって第2のGaN結晶を結晶成長させ、塊状のGaN結晶を製造している。この場合、第1のGaN結晶は、転位密度が小さく(≦105cm−2)高品質なGaN結晶であるので、HVPE法によって第1のGaN結晶上に結晶成長した第2のGaN結晶も、転位密度が小さく(≦105cm−2)高品質なGaN結晶となる。
【0135】
従来のHVPE法のように、フラックス法で作製されたGaN結晶を基板に用いない場合には、多くの結晶欠陥が含まれており、傾角粒界が存在することで塊状の高品質なGaN結晶を製造することは困難であった。
【0136】
《ステップS1の詳細》
上記ステップS1の詳細な動作を説明するためのフローチャートが図14に示されている。
【0137】
先ず、ガス供給管90をガス供給管91とガス供給管92に分離し、Arガスが充填されたグローブボックス内へ坩堝10、反応容器20及びガス供給管91を入れる。そして、Arガス雰囲気中で金属Naを反応容器20の融液溜め部23に入れる(ステップS11)。なお、Arガスは、水分量が1ppm以下であり、かつ、酸素量が1ppm以下であるArガスである(以下、同じ)。
【0138】
その後、Arガス雰囲気中で金属Na及び金属Gaを坩堝10に入れる(ステップS12)。この場合、金属Na及び金属Gaを5:5の混合比とする。
【0139】
そして、Arガス雰囲気中でフローティングカバー300を坩堝10に入れ(ステップS13)、金属Na及び金属Gaを入れた坩堝10を反応容器20内に設置する。
【0140】
引続いて、グローブボックスから坩堝10、反応容器20及びガス供給管91を取り出し、坩堝10、反応容器20及びガス供給管91内にArガスを充填した状態で坩堝10、反応容器20及びガス供給管91を結晶作製装置100の所定位置に戻す。
【0141】
そして、ガス供給管92をバルブ110に連結し、バルブ110を閉じた状態でバルブ150を開け、真空ポンプ160によって坩堝10、反応容器20及びガス供給管91内に充填されたArガスを排気する。真空ポンプ160によって坩堝10、反応容器20及びガス供給管91内を所定の圧力(0.133Pa以下)まで真空引きした後、バルブ150を閉じ、バルブ110を開けて窒素ガスをガスボンベ130からガス供給管90を介して坩堝10及び反応容器20内へ充填する。この場合、圧力調整器120によって坩堝10及び反応容器20内の圧力が0.1MPa程度になるように坩堝10及び反応容器20内へ窒素ガスを供給する。
【0142】
そして、圧力センサ170によって検出した反応容器20内の圧力が0.1MPa程度になると、バルブ110を閉じ、バルブ150を開けて真空ポンプ160によって坩堝10、反応容器20及びガス供給管91内に充填された窒素ガスを排気する。この場合も、真空ポンプ160によって坩堝10、反応容器20及びガス供給管91内を所定の圧力(0.133Pa以下)まで真空引きする。
【0143】
そして、この坩堝10、反応容器20及びガス供給管91内の真空引きと坩堝10、反応容器20及びガス供給管91内への窒素ガスの充填とを数回繰り返し行なう。
【0144】
その後、真空ポンプ160によって坩堝10、反応容器20及びガス供給管91内を所定の圧力まで真空引きした後、バルブ150を閉じ、バルブ110を開けて圧力調整器120によって坩堝10、反応容器20及びガス供給管91内の圧力が1.01MPaになるように坩堝10、反応容器20及びガス供給管91内へ窒素ガスを充填する(ステップS14)。
【0145】
その後、加熱装置50,60によって坩堝10及び反応容器20を800℃(=結晶成長温度)に加熱し(ステップS15)、加熱/冷却器70によって、アルカリ金属融液280から蒸発する金属Naの蒸気圧PNaが混合融液270から蒸発する金属Naの蒸気圧PNa−Gaに略一致する蒸発抑制温度Tevcに、アルカリ金属融液280の温度を制御する(ステップS16)。
【0146】
また、加熱/冷却器80によって、窒素ガスを供給するガス供給管90のうち、坩堝10及び反応容器20の空間24に近い領域(=融液凝集部90A)の温度を凝集温度Tcohに制御する(ステップS17)。
【0147】
この場合、融液溜め部23に保持された金属Naは、融点が約98℃であるので、融液溜め部23が蒸発抑制温度Tevcに加熱される過程で溶融され、アルカリ金属融液280になる。そして、気液界面1が発生する(図2参照)。気液界面1は、アルカリ金属融液280と反応容器20内の空間24との界面に位置する。
【0148】
また、坩堝10及び反応容器20が800℃に加熱される過程で、坩堝10内の金属Na及び金属Gaも液体になり、金属Naと金属Gaとの混合融液270が坩堝10内に発生する。そして、フローティングカバー300は、発生した混合融液270の表面に浮かび、支持装置40との間で隙間を形成する。
【0149】
融液溜め部23の温度が蒸発抑制温度Tevcに近づき、かつ、坩堝10の温度が800℃に近づくに従って、アルカリ金属融液280から蒸発する金属Naの蒸気圧PNa及び混合融液270から蒸発する金属Naの蒸気圧PNa−Gaは、徐々に高くなり、反応容器20内の空間24に存在する金属Na蒸気が増加する。空間24に存在する金属Na蒸気の一部は、坩堝10及び反応容器20の温度よりも低温である融液凝集部90Aへ拡散し、融液凝集部90Aでアルカリ金属融液290として凝集する。そして、蒸気圧PNaが蒸気圧PNa−Gaに略一致する。
【0150】
その後、上下機構240は、上述した方法によって、種結晶を混合融液270に浸漬させる(ステップS18)。そして、坩堝10及び反応容器20の温度が800℃程度の高温状態では、空間24内の窒素ガスが金属Naを媒介として混合融液270中へ取り込まれていることから、GaN結晶6の種結晶5からの結晶成長が開始される。このときの坩堝10及び反応容器20の温度及び反応容器20内の窒素ガス圧力は、領域REG3に存在する温度及び圧力である。
【0151】
その後、所定の時間(数時間)、坩堝10及び反応容器20の温度が800℃に保持され、融液溜め部23のアルカリ金属融液280の温度が蒸発抑制温度Tevcに保持され、融液凝集部90Aの温度が凝集温度Tcohに保持される(ステップS19)。
【0152】
GaN結晶の結晶成長が開始されると、GaN結晶の温度T5が上述した方法によって混合融液270の温度(=800℃)よりも低い温度Ts1又はTs2に設定される(ステップS20)。
【0153】
GaN結晶の成長が進行すると、空間24内の窒素ガスが消費され、空間24内の窒素ガスが減少する。そうすると、空間24内の圧力P1がガス供給管90内の圧力P2よりも低くなり(P1<P2)、空間24内とガス供給管90内との間に差圧が発生し、ガス供給管91内の窒素ガスは、アルカリ金属融液290(=金属Na融液)を介して空間24内へ供給される。すなわち、窒素ガスが坩堝10及び反応容器20の空間24へ補給される(ステップS21)。このとき、アルカリ金属融液290がガス供給管91の軸方向の断面全面を塞いで存在(バルブ110側と反応容器20側を仕切るように存在)していても、アルカリ金属融液290が液体であるために、窒素ガスの差圧によってアルカリ金属融液290を押しのけるようにして、窒素ガスが反応容器20内の空間24に導入されることとなる。
【0154】
その後、GaN結晶6が混合融液270に接触するように、上述した方法によってGaN結晶6を移動させる(ステップS22)。これによって、大きなサイズを有するGaN結晶6が成長する。
【0155】
そして、所定の時間が経過すると、坩堝10及び反応容器20の温度が降温されて(ステップS23)、フラックス法による第1のGaN結晶の作製が終了し、ステップS2へ移行する。
【0156】
なお、ステップS23の後、融液溜め部23の温度は、凝集温度Tcohに保持され、融液凝集部90Aの温度は、蒸発促進温度Tevに保持される。その結果、アルカリ金属融液290は、気相輸送によって融液凝集部90Aから融液溜め部23へ移動される。そして、図14に示されるフローチャートに従って、次回のフラックス法によるGaN結晶の作製が行なわれる。
【0157】
このように、ガス供給管90内の融液凝集部90Aに溜まったアルカリ金属融液290が反応容器20内の融液溜め部23へ移動された状態で次回のフラックス法によるGaN結晶を作製するための原料の仕込みが行なわれる。
【0158】
ここでは、領域REG3に含まれる温度及び圧力を用いて第1のGaN結晶を作製する場合について説明したが、これに限らず、第1のGaN結晶は、領域REG2や領域REG4に含まれる温度及び圧力を用いて作製されても良い。。この場合、支持装置40の一端には、種結晶5が固定されず、支持装置40の一端が混合融液270の表面に接触又は混合融液270に浸漬される。そして、複数の結晶核が支持装置40の一端に形成され、その形成された複数の結晶核が幾何学的選別作用により、最終的に1つの結晶となり、GaN結晶6が結晶成長することとなる。
【0159】
また、領域REG2や領域REG4では、GaN結晶6を支持装置40の一端に結晶成長させるだけではなく、坩堝10の混合融液270に接する底面及び側面に結晶成長させることもできる。さらに、領域REG4では、大きな板状のGaN結晶6が混合融液270の表面に浮いて成長する。
【0160】
領域REG3に含まれる温度及び圧力を用いて種結晶5からGaN結晶を製造する場合、新たな結晶核が発生しないため、支持装置40の底面41Bに固定されている種結晶5からのみ、GaN結晶6が結晶成長し、それ以外の領域においてGaN結晶が結晶成長することがない。その結果、フローティングカバー300の下面及び坩堝10の内壁には、結晶核が付着せず、フローティングカバー300は、混合融液270の増減に伴って上下動が可能である。
【0161】
《ステップS3の詳細》
ステップS3の詳細な動作を説明するためのフローチャートが図15に示されている。
【0162】
前記ステップS2の後、スライス及び研磨された第1のGaN結晶がサセプタ507上に保持され(ステップS31)、金属GaがGa溜部505に入れられる。
【0163】
そして、ヒータ502は、反応炉501を800〜1050℃に加熱し(ステップS32)、原料ガス(NH3+H2,HCl+H2)が反応炉501に供給される(ステップS33)。
【0164】
そうすると、第1のGaN結晶上に第2のGaN結晶が結晶成長し(ステップS34)、塊状のGaN結晶が製造される。そして、ステップS3の工程が終了し、ステップS4の工程に進む。
【0165】
なお、第1のGaN結晶から複数のGaNウエハを作製し、その作製した複数のGaNウエハを別々の結晶成長装置500に入れて塊状のGaN結晶を製造することにより、GaN基板を量産することができる。
【0166】
また、塊状のGaN結晶をスライスするとき、第2のGaN結晶の部分のみをスライスし、第1のGaN結晶を繰り返し用いても良い。
【0167】
さらに、HVPEにより成長した第2のGaN結晶からスライス及び研磨されたGaNウエハを、更にHVPEの基板として用いても良い。すなわち、最初に転位密度が小さく傾角粒界の無いGaN結晶を基板として用いた場合には、その上に成長したGaN結晶も、また転位密度が小さく傾角粒界が無いため、第2のGaN結晶を繰り返し基板として用いても良い。
【0168】
さらに、第1のGaN結晶をスライスせずに、第1のGaN結晶上に第2のGaN結晶を結晶成長させ、塊状のGaN結晶を製造しても良い。
【0169】
この場合には、上記ステップS2の工程は省略され、上記ステップS31では、フラックス法によって作製されたGaN結晶(第1のGaN結晶)がそのままサセプタに保持され、その後の工程に進むこととなる。
【0170】
《GaN基板の製造》
1.第1のGaN結晶が領域REG3の条件で作製され、m面を主面とするGaN基板を製造する場合(第1のGaN結晶のスライス有り)について、図17(A)〜図17(E)を用いて説明する。
【0171】
(1)フラックス法で、領域REG3の温度圧力条件で、種結晶を用いてc軸に伸びた六角柱状のGaN結晶800(第1のGaN結晶)を作製する(図17(A))。
【0172】
(2)GaN結晶800をm面でスライスし、研磨してm面を主面とするGaNウエハ801を作製する(図17(B))。
【0173】
(3)GaNウエハ801のm面上に、HVPE法によってGaN結晶810(第2のGaN結晶)を結晶成長させ、塊状のGaN結晶870を製造する(図17(C))。
【0174】
(4)塊状のGaN結晶870を、m面でスライスし(図17(D))、研磨してm面を主面とするGaN基板811〜820を製造する(図17(E))。
【0175】
2.第1のGaN結晶が領域REG3の条件で作製され、a面を主面とするGaN基板を製造する場合(第1のGaN結晶のスライス有り)について、図18(A)〜図18(E)を用いて説明する。
【0176】
(1)フラックス法で、領域REG3の温度圧力条件で、種結晶を用いてc軸に伸びた六角柱状のGaN結晶800(第1のGaN結晶)を作製する(図18(A))。
【0177】
(2)GaN結晶800をa面でスライスし、研磨してa面を主面とするGaNウエハ802を作製する(図18(B))。
【0178】
(3)GaNウエハ802のa面上に、HVPE法によってGaN結晶830(第2のGaN結晶)を結晶成長させ、塊状のGaN結晶880を製造する(図18(C))。
【0179】
(4)塊状のGaN結晶880を、a面でスライスし(図18(D))、研磨してa面を主面とするGaN基板831〜840を製造する(図18(E))。
【0180】
3.第1のGaN結晶が領域REG3の条件で作製され、c面を主面とするGaN基板を製造する場合(第1のGaN結晶のスライス有り)について、図19(A)〜図19(E)を用いて説明する。
【0181】
(1)フラックス法で、領域REG3の温度圧力条件で、種結晶を用いてc軸に伸びた六角柱状のGaN結晶800(第1のGaN結晶)を作製する(図19(A))。
【0182】
(2)GaN結晶800をc面でスライスし、研磨してc面を主面とするGaNウエハ803を作製する(図19(B))。
【0183】
(3)GaNウエハ803のc面上に、HVPE法によってGaN結晶850(第2のGaN結晶)を結晶成長させ、塊状のGaN結晶890を製造する(図19(C))。
【0184】
(4)塊状のGaN結晶890を、c面でスライスし(図19(D))、研磨してc面を主面とするGaN基板851〜857を製造する(図19(E))。
【0185】
4.第1のGaN結晶が領域REG4の条件で作製され、c面を主面とするGaN基板を製造する場合(第1のGaN結晶のスライスなし)について、図20(A)〜図20(D)を用いて説明する。
【0186】
(1)フラックス法で、領域REG4の温度圧力条件で混合融液270の表面に結晶を浮かせて大きな板状のGaN結晶804(第1のGaN結晶)を作製する(図20(A))。
【0187】
(2)GaN結晶804のc面を研磨する。
【0188】
(3)GaN結晶804のc面上に、HVPE法によってGaN結晶860(第2のGaN結晶)を結晶成長させ、塊状のGaN結晶895を製造する(図20(B))。
【0189】
(4)塊状のGaN結晶895を、c面でスライスし(図20(C))、研磨してc面を主面とするGaN基板861〜867を製造する(図20(D))。
【0190】
5.第1のGaN結晶が領域REG3の条件で作製され、c面を主面とするGaN基板を製造する場合(第1のGaN結晶のスライスなし)について、図21(A)〜図21(D)を用いて説明する。
【0191】
(1)フラックス法で、領域REG3の温度圧力条件で、種結晶を用いてc軸に伸びた六角柱状のGaN結晶900(第1のGaN結晶)を作製する(図21(A))。
【0192】
(2)GaN結晶900上に、HVPE法によってGaN結晶(第2のGaN結晶)を結晶成長させ、GaN結晶900が内包された塊状のGaN結晶910を製造する(図21(B))。
【0193】
(3)塊状のGaN結晶910を、c面でスライスし(図21(C))、研磨してc面を主面とするGaN基板911〜922を製造する(図21(D))。
【0194】
6.第1のGaN結晶が領域REG3の条件で作製され、m面を主面とするGaN基板を製造する場合(第1のGaN結晶のスライスなし)について、図22(A)〜図22(D)を用いて説明する。
【0195】
(1)フラックス法で、領域REG3の温度圧力条件で、種結晶を用いてc軸に伸びた六角柱状のGaN結晶900(第1のGaN結晶)を作製する(図22(A))。
【0196】
(2)GaN結晶900上に、HVPE法によってGaN結晶を結晶成長(第2のGaN結晶)させ、GaN結晶900が内包された塊状のGaN結晶910を製造する(図22(B))。
【0197】
(3)塊状のGaN結晶910を、m面でスライスし(図22(C))、研磨してm面を主面とするGaN基板930〜933を製造する(図22(D))。
【0198】
7.第1のGaN結晶が領域REG3の条件で作製され、m面を主面とするGaN基板を製造する場合(第1のGaN結晶のスライスなし)について、図23(A)〜図23(D)を用いて説明する。
【0199】
(1)フラックス法で、領域REG3の温度圧力条件で、種結晶を用いてc軸に伸びた六角柱状のGaN結晶900(第1のGaN結晶)を作製する(図23(A))。
【0200】
(2)GaN結晶900上に、HVPE法によってGaN結晶(第2のGaN結晶)を結晶成長させ、GaN結晶900が内包された塊状のGaN結晶910を製造する(図23(B))。
【0201】
(3)塊状のGaN結晶910を、a面でスライスし(図23(C))、研磨してa面を主面とするGaN基板940〜945を製造する(図23(D))。
【0202】
8.第1のGaN結晶が領域REG4の条件で作製され、c面を主面とするGaN基板を製造する場合(第1のGaN結晶のスライスなし)について、図24(A)〜図24(D))を用いて説明する。
【0203】
(1)フラックス法で、領域REG4の温度圧力条件で、混合融液270の表面に結晶を浮かせて板状のGaN結晶901(第1のGaN結晶)を作製する(図24(A))。
【0204】
(2)GaN結晶901上に、HVPE法によってGaN結晶(第2のGaN結晶)を結晶成長させ、GaN結晶901が内包された塊状のGaN結晶950を製造する(図24(B))。
【0205】
(3)塊状のGaN結晶950を、c面でスライスし(図24(C))、研磨してc面を主面とするGaN基板951〜958を製造する(図24(D))。
【0206】
なお、第1のGaN結晶が板状のときに、該第1のGaN結晶の主面の結晶面と、塊状のGaN結晶からスライスされたGaN基板の主面の結晶面とが、互いに異なっていても良い。すなわち、所望の(任意の)結晶面を主面とするGaN基板を製造することができる。
【0207】
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係る製造装置1000では、上記塊状のGaN結晶の製造にて、本発明に係る結晶製造方法が実施されている。また、上記GaN基板の製造にて、本発明に係る基板製造方法が実施されている。
【0208】
以上説明したように、本実施形態に係る製造装置1000によると、アルカリ金属NaとIII族金属Gaとを含む混合融液に窒素ガスを供給して第1のGaN結晶を作製する結晶作製装置100と、結晶作製装置100で作製された第1のGaN結晶上に、HVPE法を用いて第2のGaN結晶を結晶成長させる結晶成長装置500とを備えている。そこで、第1のGaN結晶が均質で転位密度が小さく(≦105cm−2)高品質であり、その第1のGaN結晶上に第2のGaN結晶が結晶成長するので、第2のGaN結晶は、均質で高品質に結晶成長することができる。従って、均質で高品質な塊状のGaN結晶を安価に製造することが可能となる。そして、均質で高品質で安価な塊状のGaN結晶を実現することが可能となる。
【0209】
また、第2のGaN結晶の結晶成長速度は、第1のGaN結晶の結晶成長速度よりも速くすることができるため、均質で高品質な塊状のGaN結晶を短い時間で製造することが可能となる。
【0210】
また、GaN基板は、均質で高品質な塊状のGaN結晶をスライスして作製されているため、c面(極性面)、m面(無極性面)、a面(無極性面)、その他の非極性面等の所望の(任意の)結晶面を主面とする高品質で大面積のGaN基板を安価に製造することが可能となる。そして、所望の結晶面を主面とする高品質で安価な窒化ガリウム基板を実現することが可能となる。
【0211】
なお、上記実施形態では、フラックス法において結晶成長温度が800℃の場合について説明したが、これに限らず、フラックス法における結晶成長温度は、領域REG2,REG3に含まれる結晶成長温度であれば良い。また、窒素ガス圧力は、領域REG2,REG3に含まれる圧力であれば良い。
【0212】
また、結晶作製装置は、前記結晶作製装置100から、前記振動印加装置230、前記上下機構240及び前記振動検出装置250を削除したものであっても良い。この場合には、GaN結晶6は、上下方向へ移動されないが、坩堝10内に入れられた金属Na及び金属Gaが融けた状態で支持装置40の底面41Bが混合融液270に接触するように支持装置40がセットされる。従って、種結晶5からGaN結晶6が結晶成長する。その結果、大きいサイズのGaN結晶を作製できる。
【0213】
また、結晶作製装置は、前記結晶作製装置100から、前記配管180、前記熱電対190、前記ガス供給管200、前記流量計210及び前記ガスボンベ220を削除したものであっても良い。この場合には、GaN結晶6の温度T5は、GaN結晶の結晶成長中、混合融液270の温度よりも低温に制御されないが、GaN結晶6は、支持装置40によって混合融液270に接触されるので、GaN結晶6は、混合融液270中の金属Naと金属Gaとの混合比の変動が抑制された状態で種結晶5から成長する。その結果、大きなサイズのGaN結晶を作製できる。
【0214】
また、結晶作製装置は、前記結晶作製装置100から、前記配管180、前記熱電対190、前記ガス供給管200、前記流量計210、前記ガスボンベ220、前記振動印加装置230、前記上下機構240及び前記振動検出装置250を削除したものであっても良い。この場合には、GaN結晶6は、上下方向へ移動されず、GaN結晶6の温度T5は、混合融液270の温度よりも低い温度に制御されないが、坩堝10内に入れられた金属Na及び金属Gaが融けた状態で混合融液270に接触するようにGaN結晶6が支持装置40によって支持される。従って、GaN結晶6は、混合融液270中の金属Naと金属Gaとの混合比の変動が抑制された状態で種結晶5から成長する。その結果、大きいサイズのGaN結晶を作製できる。
【0215】
さらに、上記実施形態では、Arガス雰囲気中で金属Na及び金属Gaを坩堝10に入れ、Arガス雰囲気中で金属Naを融液溜め部23及び/又は融液凝集部90Aに入れる場合について説明したが、これに限らず、例えば、He、Ne及びKr等のArガス以外のガス又は窒素ガス雰囲気中で金属Na及び金属Gaを坩堝10に入れ、金属Naを融液溜め部23及び/又は融液凝集部90Aに入れても良い。一般的には、不活性ガス又は窒素ガス雰囲気中で金属Na及び金属Gaを坩堝10に入れ、金属Naを融液溜め部23及び/又は融液凝集部90Aに入れれば良い。そして、この場合、不活性ガス又は窒素ガスは、水分量が1ppm以下であり、かつ、酸素量が1ppm以下とする。
【0216】
さらに、上記実施形態では、金属Gaと混合される金属がNaの場合について説明したが、これに限らず、例えば、リチウム(Li)及びカリウム(K)等のアルカリ金属、又はマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)及びストロンチウム(Sr)等のアルカリ土類金属であっても良い。
【0217】
さらに、上記実施形態において、窒素ガスに代えて、アジ化ナトリウム及びアンモニア等の窒素を構成元素に含む化合物を用いても良い。
【0218】
さらに、上記実施形態では、III族金属がGaの場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、III族金属として、ボロン(B)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)等を用いても良い。
【0219】
従って、結晶作製装置は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属とIII族金属(ボロンを含む)との混合融液を用いてIII族窒化物結晶を作製するものであれば良い。
【0220】
また、上記実施形態において、HVPEのキャリアガスとして、H2以外にN2又はその混合ガスを用いても良い。また、結晶成長温度もGaN結晶が成長可能な温度であれば適応可能である。
【0221】
また、上記実施形態では、気相成長方法としてHVPEを用いる場合について説明したが、これに限らず、その他の気相成長方法も適応可能である。例えば、ガリウム水素化物(GaH)とアンモニアを原料とするGaH−VPEや、Ga2O3を炭素熱還元窒化してアンモニアと反応させGaNを結晶成長する方法や、昇華法等の気相成長法が適用できる。
【0222】
そして、製造装置1000を用いて製造されたGaN基板は、発光ダイオード、半導体レーザ、フォトダイオード及びトランジスタ等の半導体デバイスの作製に用いられる。
【0223】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0224】
以上説明したように、本発明の製造装置及び結晶製造方法によれば、均質で高品質な塊状のIII族窒化物結晶を安価に製造するのに適している。また、本発明の基板製造方法によれば、所望の結晶面を主面とするIII族窒化物基板を安価に製造するのに適している。また、本発明の窒化ガリウム結晶によれば、均質で高品質で安価な塊状の窒化ガリウム結晶を得るのに適している。また、本発明の窒化ガリウム基板によれば、所望の結晶面を主面とする高品質で安価な窒化ガリウム基板を得るのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0225】
【図1】本発明の一実施形態に係る製造装置の概略ブロック図である。
【図2】図1における結晶作製装置の構成を説明するための図である。
【図3】図3(A)及び図3(B)は、いずれも図2における支持装置、配管及び熱電対の拡大図である。
【図4】図2における上下機構を説明するための図である。
【図5】振動検出信号のタイミングチャートである。
【図6】図2におけるフローティングカバーの平面図である。
【図7】坩堝、反応容器、融液溜め部及び融液凝集部の温度のタイミングチャートである。
【図8】図8(A)及び図8(B)は、いずれも図7で示されるタイミングt1,t3間での坩堝、反応容器、融液溜め部及び融液凝集部内の状態変化を説明するための図である。
【図9】図7で示されるタイミングt3での坩堝及び反応容器内の状態を説明するための図である。
【図10】GaN結晶の温度と窒素ガスの流量との関係を説明するための図である。
【図11】GaN結晶を成長させる場合の窒素ガス圧と混合融液温度との関係を説明するための図である。
【図12】図1における結晶成長装置の構成を説明するための図である。
【図13】図1の製造装置を用いたGaN結晶の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図14】図13におけるステップS1の詳細を説明するためのフローチャートである。
【図15】図13におけるステップS3の詳細を説明するためのフローチャートである。
【図16】図16(A)〜図16(C)は、いずれも塊状のGaN結晶の製造方法を説明するための図である。
【図17】図17(A)〜図17(E)は、いずれもGaN基板の製造方法の例1を説明するための図である。
【図18】図18(A)〜図18(E)は、いずれもGaN基板の製造方法の例2を説明するための図である。
【図19】図19(A)〜図19(E)は、いずれもGaN基板の製造方法の例3を説明するための図である。
【図20】図20(A)〜図20(D)は、いずれもGaN基板の製造方法の例4を説明するための図である。
【図21】図21(A)〜図21(D)は、いずれもGaN基板の製造方法の例5を説明するための図である。
【図22】図22(A)〜図22(D)は、いずれもGaN基板の製造方法の例6を説明するための図である。
【図23】図23(A)〜図23(D)は、いずれもGaN基板の製造方法の例7を説明するための図である。
【図24】図24(A)〜図24(D)は、いずれもGaN基板の製造方法の例8を説明するための図である。
【符号の説明】
【0226】
4…窒素ガス(窒素原料ガス)、5…種結晶、6…GaN結晶(第1のIII族窒化物結晶)、100…結晶作製装置、500…結晶成長装置、1000…製造装置、270…混合融液、280,290…アルカリ金属融液、509…GaN結晶(第1のIII族窒化物結晶)、661〜667…GaNウエハ(第1のIII族窒化物結晶)、670…GaN結晶(第2のIII族窒化物結晶)、700、870、880、890、895、910、950…GaN結晶(塊状のIII族窒化物結晶)、800、900、901…第1のGaN結晶(第1のIII族窒化物結晶)、801、802、803、804…GaNウエハ(第1のIII族窒化物結晶)、810、830、850、860…第2のGaN結晶(第2のIII族窒化物結晶)、811、812、813、814、815、816、817、818、819、820、831、832、833,834,835,836,837,838,839、840、851、852、853、854、855、856、857、861、862、863、864、865、866、867、911、912、913、914、915、916、917、918、919、920、921、922、930、931、932、933、940、941、942、943、944、945、951、952、953、954、955、956、957、958…GaN基板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物結晶を製造する製造装置であって、
フラックス法によって作製された第1のIII族窒化物結晶上に、気相成長法を用いて第2のIII族窒化物結晶を結晶成長させる結晶成長装置を備える製造装置。
【請求項2】
アルカリ金属とIII族金属とを含む混合融液に窒素原料ガスを供給して前記第1のIII族窒化物結晶を作製する結晶作製装置を、更に備えることを特徴とする請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
前記結晶作製装置は、第1の結晶成長速度で前記第1のIII族窒化物結晶を作製し、
前記結晶成長装置は、前記第1の結晶成長速度よりも速い第2の結晶成長速度で、前記第2のIII族窒化物結晶を結晶成長させることを特徴とする請求項2に記載の製造装置。
【請求項4】
前記結晶作製装置は、種結晶から前記第1のIII族窒化物結晶を作製することを特徴とする請求項2又は3に記載の製造装置。
【請求項5】
III族窒化物結晶を製造する結晶製造方法であって、
フラックス法によって作製された第1のIII族窒化物結晶上に、気相成長法を用いて第2のIII族窒化物結晶を結晶成長させる工程を含む結晶製造方法。
【請求項6】
前記第2のIII族窒化物結晶を結晶成長させる工程に先立って、アルカリ金属とIII族金属とを含む混合融液に窒素原料ガスを供給して前記第1のIII族窒化物結晶を作製する工程を、更に含むことを特徴とする請求項5に記載の結晶製造方法。
【請求項7】
前記第1のIII族窒化物結晶を作製する工程では、第1の結晶成長速度で前記第1のIII族窒化物結晶を製造し、
前記第2のIII族窒化物結晶を結晶成長させる工程では、前記第1の結晶成長速度よりも速い第2の結晶成長速度で、前記第2のIII族窒化物結晶を結晶成長させることを特徴とする請求項6に記載の結晶製造方法。
【請求項8】
前記第1のIII族窒化物結晶を作製する工程では、種結晶から前記第1のIII族窒化物結晶を作製することを特徴とする請求項6又は7に記載の結晶製造方法。
【請求項9】
前記第1のIII族窒化物結晶は、板状であることを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載の結晶製造方法。
【請求項10】
前記第1のIII族窒化物結晶は、主面が、m面、a面及びc面のうちのいずれかであることを特徴とする請求項9に記載の結晶製造方法。
【請求項11】
前記第2のIII族窒化物結晶を結晶成長させる工程に先立って、前記第1のIII族窒化物結晶をスライスする工程を更に含むことを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載の結晶製造方法。
【請求項12】
前記第1のIII族窒化物結晶をスライスする工程では、m面、a面及びc面のうちのいずれかが主面となるようにスライスすることを特徴とする請求項11に記載の結晶製造方法。
【請求項13】
前記第1のIII族窒化物結晶は、再使用可能であることを特徴とする請求項9〜12のいずれか一項に記載の結晶製造方法。
【請求項14】
前記第1のIII族窒化物結晶は、c軸方向の長さがa軸方向の長さよりも長い柱状結晶であることを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載の結晶製造方法。
【請求項15】
前記III族窒化物結晶は、窒化ガリウム結晶であることを特徴とする請求項5〜14のいずれか一項に記載の結晶製造方法。
【請求項16】
III族窒化物基板を製造する基板製造方法であって、
請求項5〜14のいずれか一項に記載の結晶製造方法によって塊状のIII族窒化物結晶を製造する工程と;
前記製造する工程で製造された塊状のIII族窒化物結晶をスライスする工程と;を含む基板製造方法。
【請求項17】
前記塊状のIII族窒化物結晶をスライスする工程では、m面、a面及びc面のうちのいずれかが主面となるようにスライスすることを特徴とする請求項16に記載の基板製造方法。
【請求項18】
前記III族窒化物結晶は、窒化ガリウム結晶であることを特徴とする請求項16又は17に記載の基板製造方法。
【請求項19】
塊状の窒化ガリウム結晶であって、
フラックス法によって作製された第1の窒化ガリウム結晶と;
前記第1の窒化ガリウム結晶上に結晶成長した第2の窒化ガリウム結晶と;を有する窒化ガリウム結晶。
【請求項20】
前記第1の窒化ガリウム結晶は、前記第2の窒化ガリウム結晶に内包されていることを特徴とする請求項19に記載の窒化ガリウム結晶。
【請求項21】
請求項19又は20に記載の塊状の窒化ガリウム結晶をスライスして作製された窒化ガリウム基板。
【請求項22】
主面がm面、a面及びc面のうちのいずれかであることを特徴とする請求項21に記載の窒化ガリウム基板。
【請求項1】
III族窒化物結晶を製造する製造装置であって、
フラックス法によって作製された第1のIII族窒化物結晶上に、気相成長法を用いて第2のIII族窒化物結晶を結晶成長させる結晶成長装置を備える製造装置。
【請求項2】
アルカリ金属とIII族金属とを含む混合融液に窒素原料ガスを供給して前記第1のIII族窒化物結晶を作製する結晶作製装置を、更に備えることを特徴とする請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
前記結晶作製装置は、第1の結晶成長速度で前記第1のIII族窒化物結晶を作製し、
前記結晶成長装置は、前記第1の結晶成長速度よりも速い第2の結晶成長速度で、前記第2のIII族窒化物結晶を結晶成長させることを特徴とする請求項2に記載の製造装置。
【請求項4】
前記結晶作製装置は、種結晶から前記第1のIII族窒化物結晶を作製することを特徴とする請求項2又は3に記載の製造装置。
【請求項5】
III族窒化物結晶を製造する結晶製造方法であって、
フラックス法によって作製された第1のIII族窒化物結晶上に、気相成長法を用いて第2のIII族窒化物結晶を結晶成長させる工程を含む結晶製造方法。
【請求項6】
前記第2のIII族窒化物結晶を結晶成長させる工程に先立って、アルカリ金属とIII族金属とを含む混合融液に窒素原料ガスを供給して前記第1のIII族窒化物結晶を作製する工程を、更に含むことを特徴とする請求項5に記載の結晶製造方法。
【請求項7】
前記第1のIII族窒化物結晶を作製する工程では、第1の結晶成長速度で前記第1のIII族窒化物結晶を製造し、
前記第2のIII族窒化物結晶を結晶成長させる工程では、前記第1の結晶成長速度よりも速い第2の結晶成長速度で、前記第2のIII族窒化物結晶を結晶成長させることを特徴とする請求項6に記載の結晶製造方法。
【請求項8】
前記第1のIII族窒化物結晶を作製する工程では、種結晶から前記第1のIII族窒化物結晶を作製することを特徴とする請求項6又は7に記載の結晶製造方法。
【請求項9】
前記第1のIII族窒化物結晶は、板状であることを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載の結晶製造方法。
【請求項10】
前記第1のIII族窒化物結晶は、主面が、m面、a面及びc面のうちのいずれかであることを特徴とする請求項9に記載の結晶製造方法。
【請求項11】
前記第2のIII族窒化物結晶を結晶成長させる工程に先立って、前記第1のIII族窒化物結晶をスライスする工程を更に含むことを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載の結晶製造方法。
【請求項12】
前記第1のIII族窒化物結晶をスライスする工程では、m面、a面及びc面のうちのいずれかが主面となるようにスライスすることを特徴とする請求項11に記載の結晶製造方法。
【請求項13】
前記第1のIII族窒化物結晶は、再使用可能であることを特徴とする請求項9〜12のいずれか一項に記載の結晶製造方法。
【請求項14】
前記第1のIII族窒化物結晶は、c軸方向の長さがa軸方向の長さよりも長い柱状結晶であることを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載の結晶製造方法。
【請求項15】
前記III族窒化物結晶は、窒化ガリウム結晶であることを特徴とする請求項5〜14のいずれか一項に記載の結晶製造方法。
【請求項16】
III族窒化物基板を製造する基板製造方法であって、
請求項5〜14のいずれか一項に記載の結晶製造方法によって塊状のIII族窒化物結晶を製造する工程と;
前記製造する工程で製造された塊状のIII族窒化物結晶をスライスする工程と;を含む基板製造方法。
【請求項17】
前記塊状のIII族窒化物結晶をスライスする工程では、m面、a面及びc面のうちのいずれかが主面となるようにスライスすることを特徴とする請求項16に記載の基板製造方法。
【請求項18】
前記III族窒化物結晶は、窒化ガリウム結晶であることを特徴とする請求項16又は17に記載の基板製造方法。
【請求項19】
塊状の窒化ガリウム結晶であって、
フラックス法によって作製された第1の窒化ガリウム結晶と;
前記第1の窒化ガリウム結晶上に結晶成長した第2の窒化ガリウム結晶と;を有する窒化ガリウム結晶。
【請求項20】
前記第1の窒化ガリウム結晶は、前記第2の窒化ガリウム結晶に内包されていることを特徴とする請求項19に記載の窒化ガリウム結晶。
【請求項21】
請求項19又は20に記載の塊状の窒化ガリウム結晶をスライスして作製された窒化ガリウム基板。
【請求項22】
主面がm面、a面及びc面のうちのいずれかであることを特徴とする請求項21に記載の窒化ガリウム基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
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【図19】
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【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2008−110910(P2008−110910A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198607(P2007−198607)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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