説明

複合型有機発光トランジスタ素子およびその製造方法

【課題】画素サイズが低減され、開口率が向上した複合型有機発光トランジスタおよび当該複合型有機発光トランジスタを容易に作製することができる製造方法を提供する。
【解決手段】同一基板上に配置される、少なくとも1つの有機発光ダイオード素子と少なくとも1つの有機薄膜トランジスタ素子とを備える複合型有機発光トランジスタ素子であって、該有機発光ダイオード素子は、陽極と陰極との間に配置される第1の有機物層を有し、かつ、該有機薄膜トランジスタ素子は、ソース電極およびドレイン電極上に配置される第2の有機物層を有し、上記第1の有機物層と上記第2の有機物層とは、空間的に分離しており、上記第2の有機物層を構成する有機材料は、上記第1の有機物層を構成する有機材料と同一である複合型有機発光トランジスタ素子およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの有機発光ダイオード(OLED)素子と少なくとも1つの有機薄膜トランジスタ(有機TFT)素子とを備える複合型有機発光トランジスタ素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELという)ディスプレイは自発光型のディスプレイであり、薄型軽量、低消費電力である等のメリットを有していることから、FPD(フラットパネルディスプレイ)等の表示装置として近年活発に研究開発が行なわれている。
【0003】
有機ELディスプレイの駆動方式としては、互いに直交したストライプ状の走査電極とデータ電極とにより、ラインごとに有機EL素子(OLED素子)を駆動させるパッシブマトリクス方式と、画素ごとにスイッチングトランジスタ(選択トランジスタ)およびドライビングトランジスタ(駆動トランジスタ)を有し、これにより有機EL素子(OLED素子)を駆動させるアクティブマトリクス方式がある。アクティブマトリクス方式は、画素ごとに電流を制御できるため、有機ELディスプレイの低消費電力化や有機EL素子の長寿命化に有利である。
【0004】
従来、このようなアクティブマトリクス駆動の有機ELディスプレイにおいて用いられるスイッチングトランジスタやドライビングトランジスタは、その活性層にアモルファスシリコン(a−Si)やポリシリコン(poly−Si)等のシリコン系半導体材料を用いたものが主流であったが、最近では、シリコン系のTFTに代わり、有機半導体材料を用いた有機TFTやZnOなどの透明半導体などを用いたTFTが提案されている。たとえば、特許文献1および非特許文献1には、同一基板上に配された有機EL素子と有機TFT素子とを備えた複合型有機発光トランジスタであって、有機TFTの活性層にナフタレンやペンタセン等の有機半導体材料を用いたものが開示されている。有機TFTを用いたアクティブマトリクス駆動の有機ELディスプレイでは、有機TFTおよび有機EL素子を、たとえばプラスチック基板上に形成することができるため、これを用いたフレキシブルで軽量な有機ELディスプレイの実現が期待されている。
【0005】
しかし、上記引用文献に記載されるような、同一基板上に有機EL素子と有機TFT素子とを並列に配置した構造を有する複合型有機発光トランジスタは、たとえば次のような問題を有している。まず、上記従来の複合型有機発光トランジスタは、有機TFT素子の活性層と有機EL素子の活性層に異なる有機材料を用いているため、各素子を形成する際には、SUS製等のシャドーマスクを用いるが、マスク合わせの精度の問題から、合わせマージンを大きくとる必要があった。特に、ディスプレイの大画面化に伴い、基板が大型化しているが、基板が大きいほど、基板材料として一般に用いられているガラスとシャドーマスク材料であるSUSとの間の熱膨張率の差異に起因する、とりわけ基板端面近傍でのシャドーマスクの位置ずれが顕著となることから、マージンを十分大きくとる必要があった。これにより、画素を小さくすることが困難であり、ディスプレイの高精細化や大画面化が困難であった。また、シャドーマスクのアライアントずれを考慮して、合わせマージンを大きくとる必要性から、素子分離幅(有機EL素子と有機TFT素子との距離)を大きくする必要があり、画素面積に占める発光部(有機EL素子)の面積の割合(開口率)を大きくすることができないという問題を有していた。さらに、シャドーマスクが素子形成面に接触するため、接触によるゴミ等が発生しやすく歩留まりが低下するという問題もあった。
【0006】
また、有機EL素子と有機TFT素子とを別々のプロセスで作製しなければならず、製造工程が煩雑であるという問題も有していた。
【特許文献1】特開2003−255857号公報
【非特許文献1】中馬 隆他著,「PIONEER R&D」,Vol.15 No.2,2005年8月31日,p.62−69
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、画素サイズが低減され、開口率が向上した複合型有機発光トランジスタを提供することである。また、本発明の別の目的は、当該複合型有機発光トランジスタを容易に作製することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、同一基板上に配置される、少なくとも1つの有機発光ダイオード素子と少なくとも1つの有機薄膜トランジスタ素子とを備える複合型有機発光トランジスタ素子であって、該有機発光ダイオード素子は、陽極と陰極との間に配置される第1の有機物層を有し、かつ、該有機薄膜トランジスタ素子は、ソース電極およびドレイン電極上に配置される第2の有機物層を有し、上記第1の有機物層と上記第2の有機物層とは、空間的に分離しており、上記第2の有機物層を構成する有機材料は、上記第1の有機物層を構成する有機材料と同一である複合型有機発光トランジスタ素子である。
【0009】
ここで、上記第1の有機物層および上記第2の有機物層は、同じ数の2以上の層からなっていてもよく、この際、該第2の有機物層を構成する各層の有機材料は、該第1の有機物層を構成する各層の有機材料とそれぞれ同一である。
【0010】
また、上記第2の有機物層は、ソース電極およびドレイン電極に接して形成された、有機半導体材料からなる活性層を含み、好ましくは、上記第1の有機物層は、該活性層を構成する有機半導体材料と同一の材料からなる正孔注入層を含む。
【0011】
また、上記有機薄膜トランジスタ素子は、上記第2の有機物層上に形成され、上記有機発光ダイオード素子が有する陰極と同一の材料からなる層をさらに備えていてもよい。
【0012】
本発明の複合型有機発光トランジスタ素子は、上記有機発光ダイオード素子を駆動する有機薄膜トランジスタ素子と、発光画素を選択する有機薄膜トランジスタ素子の少なくとも2つの有機薄膜トランジスタ素子を備えていることが好ましい。
【0013】
また、本発明の複合型有機発光トランジスタ素子は、有機発光ダイオード素子が発する光の波長を変換するカラーフィルタをさらに備えていてもよい。
【0014】
さらに本発明は、陽極と陰極との間に配置される第1の有機物層を有する少なくとも1つの有機発光ダイオード素子と、ソース電極およびドレイン電極上に配置される第2の有機物層を有する少なくとも1つの有機薄膜トランジスタ素子とが同一基板上に形成されてなる複合型有機発光トランジスタ素子の製造方法であって、基板上に上記有機薄膜トランジスタ素子のゲート電極を形成する工程(A)と、該ゲート電極上の少なくとも一部にゲート絶縁膜を形成する工程(B)と、該ゲート絶縁膜上に、上記有機薄膜トランジスタ素子のソース電極およびドレイン電極、ならびに上記有機発光ダイオード素子の陽極を形成する工程(C)と、所定の領域にレジストからなるリブを形成する工程(D)と、該リブにより形成された凹部に、同じ有機材料を用いて、上記第1の有機物層および上記第2の有機物層を形成する工程(E)と、上記第1の有機物層上に上記有機発光ダイオード素子の陰極を形成する工程(F)と、を含む複合型有機発光トランジスタ素子の製造方法を提供する。
【0015】
ここで、上記工程(E)において、上記第1の有機物層および上記第2の有機物層は、複数の層を積層させることにより形成されてもよく、この場合、上記第1の有機物層および上記第2の有機物層の最下層は、有機半導体材料からなる層とすることが好ましい。
【0016】
また、上記工程(F)において、上記第1の有機物層上に上記有機発光ダイオード素子の陰極が形成されるとともに、該陰極と同一の材料からなる層が上記第2の有機物層上に形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の複合型有機発光トランジスタ素子においては、有機発光ダイオード素子の有機物層と有機薄膜トランジスタ素子の有機物層に同じ有機材料を用いているため、これら有機物層を形成する際、シャドーマスクを用いる必要がない。したがって、本発明によれば、従来有していたマスクに起因する問題が解消され、画素サイズがより小さく、さらには、開口率が向上された複合型有機発光トランジスタ素子を提供することができる。このことは、有機ELディスプレイの高精細化および大画面化を可能とする。
【0018】
さらに、本発明の複合型有機発光トランジスタ素子の製造方法によれば、シャドーマスクを用いることなく、有機発光ダイオード素子の有機物層と有機薄膜トランジスタ素子の有機物層を同時に形成することが可能であり、製造工程の大幅な簡略化を図ることができる。また、マスクの接触により発生したゴミ等による歩留まりの低下が改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<複合型有機発光トランジスタ素子>
(第1の実施形態)
以下、実施の形態を示して本発明を詳細に説明する。図1は、本発明の複合型有機発光トランジスタ素子の好ましい一実施形態を示す概略断面図である。図1に示される複合型有機発光トランジスタ素子は、基板101上に並列に配置された有機発光ダイオード素子(以下、OLED素子とも称する)102と有機薄膜トランジスタ素子(以下、有機TFT素子とも称する)103とを備える。OLED素子102は、陽極104と、陰極105と、陽極104と陰極105との間に配置される第1の有機物層106とから構成される。第1の有機物層106は、有機半導体層107、正孔輸送層108および電子輸送層109よりなる。本実施形態において、電子輸送層109は、それ自体発光層でもある。有機半導体層107は、正孔注入層として機能するものである。また、OLED素子102の下部であって、基板101を介した反対側には、OLED素子102が発する光の波長を変換するカラーフィルタ119が配置されている。基板101およびカラーフィルタ119上には平坦化膜130(保護膜)が形成されている。
【0020】
一方、有機TFT素子103は、基板101上に形成されたゲート電極110と、ゲート電極110上のゲート絶縁膜111と、ゲート絶縁膜111上に形成されたソース電極112およびドレイン電極113と、ソース電極112およびドレイン電極113の上に形成された第2の有機物層114と、第2の有機物層114上に積層された第1の保護層115とから構成される。第2の有機物層114は、第2の保護層116、第3の保護層117および、ソース電極112とドレイン電極113との間およびそれらの上に接して形成され、有機半導体材料からなる活性層118よりなる。第1の有機物層106と第2の有機物層114とは、空間的に分離している。
【0021】
ここで、本実施形態の複合型有機発光トランジスタ素子の特徴の一つは、OLED素子102が有する第1の有機物層106と、有機TFT素子103が有する第2の有機物層114とが、構造上同一の構成を有する点にある。すなわち、ソース電極112とドレイン電極113との間およびそれらの上に接して形成された活性層118と有機半導体層107、第3の保護層117と正孔輸送層108、第2の保護層116と電子輸送層109は、それぞれ同一の有機材料からなり、しかも各層の積層順序も同じである。このような構成によれば、シャドーマスクを用いることなく、第1の有機物層106および第2の有機物層114を形成でき、これにより、OLED素子102と有機TFT素子103との距離(素子分離幅)を小さくすることができる。このことは、画素サイズをより小さくでき、また、画素面積に占める発光部(有機TFT素子)の面積の割合(開口率)を大きくできることを意味し、有機ELディスプレイとしたときの単位面積あたりの明るさを大きくすることが可能となる。
【0022】
また、有機TFT素子103は、OLED素子102の陰極105と同一の材料からなり、第2の有機物層114上に形成された第1の保護層115を有する。第1および第2の有機物層と同様に、陰極105と第1の保護層115とは空間的に分離している。このような構成によれば、OLED素子102の第1の有機物層106上にのみ選択的に陰極105を形成する場合と比較して、簡便に陰極105を形成できるとともに、有機TFT素子に保護層を形成することができるため有利である。すなわち、第1の有機物層106上にのみ選択的に陰極105を形成しようとすると、シャドーマスクを用いる必要があるが、有機TFT素子103が第1の保護層115を有する構成とすれば、シャドーマスクを用いることなく、一度に陰極105および第1の保護層115を形成できる。第1の保護層115、第2の保護層116および第3の保護層117は、有機TFT表面を保護する機能を有する。
【0023】
なお、本実施形態において、有機TFT素子103のドレイン電極113とOLED素子102の陽極104には同一の材料が用いられている。これにより、ドレイン電極113と陽極104とを一体として同時に形成できるため、製造プロセス上有利である。
【0024】
次に、各層に用いる材料について説明する。まず、有機TFT素子103の活性層118は、有機半導体材料からなり、当該有機半導体材料としては、従来公知の有機トランジスタ材料を用いることができる。そのようなものとしては、たとえばテトラセン、ペンタセン、アントラセン等のアセン系材料;銅フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン等のフタロシアニン系材料;チオフェンオリゴマー、フェニレンオリゴマー等のオリゴマー系材料などを挙げることができる。なかでも、活性層118の材料と同一材料にてOLED素子102の有機半導体層107が形成されることを考慮すれば、OLED素子102において正孔注入層として機能し得る材料であることが好ましい。より好ましくは、有機トランジスタ材料としてキャリヤ移動度μがより大きいものである。
【0025】
また、有機TFT素子103の活性層118およびOLED素子102の有機半導体層107には、下記式(1)〜(7)のような有機半導体材料を好適に用いることができる。
【0026】
【化1】

【0027】
上記式(1)〜(7)の化合物名はそれぞれ以下のとおりである。
(1)1,6−ビス(2−(4−メチルフェニル)ビニル)ピレン
(2)1,6−ビス(2−(4−ブチルフェニル)ビニル)ピレン
(3)4,4’−ビス(2−(4−オクチルフェニル)ビニル)ビフェニル
(4)4,4’−ビス(2−(4−オクチルフェニル)ビニル)p−ターフェニル
(5)1,6−ビス(2−(4−ヘキシルフェニル)ビニル)ビフェニル
(6)1,4−ビス(2−(4−(4−ブチルフェニル)フェニル)ビニル)ベンゼン
(7)4,4’−ビス(2−(5−オクチルチオフェン−2−イル)ビニル)ビフェニル
上記式(1)〜(7)の有機半導体材料は、0.1〜1.0cm2/Vs程度の高いキャリヤ移動度μを有し、しかも可視領域においてほぼ透明であるため好ましく用いられる。
【0028】
正孔輸送層108および第3の保護層117には、従来知られている正孔輸送層材料を適宜選択して用いることができる。正孔輸送層材料としては、たとえばα−NPD、TPD、銅フタロシアニン、m−MTDATA等を挙げることができる。なかでも、α−NPD等は、ガラス転移温度が高く、キャリヤ移動度が高いため好ましい。また、電子輸送層109および第2の保護層116には、従来知られている電子輸送性発光材料を適宜選択して用いることができる。このような電子輸送性発光材料としては、たとえば8−ヒドロキシキノリンアルミニウム錯体(Alq3)、バソクプロイン(Bathocuproine,BCP)、オキサジアゾール誘導体(たとえば、t−ブチル−PBDなど)、トリアゾール誘導体、シロール誘導体などを挙げることができる。なかでも、Alq3等は、発光性を有し、ルブレン等のドーパントを導入することにより高効率で発光するため好ましい。
【0029】
有機TFT103のソース電極112、ドレイン電極113およびOLED素子102の陽極104には、インジウム−スズ酸化物(ITO)、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)、PEDOT/PSS等の透明電極を用いることができる。なお、本実施形態では、有機TFT103のソース電極112、ドレイン電極113およびOLED素子102の陽極104は同一材料からなるが、これに限定されるものではなく、他の実施形態においては、有機TFT103のソース電極112およびドレイン電極113と、OLED素子102の陽極104とが異なる材料から形成されてもよい。その場合、ソース電極112およびドレイン電極113には、金、白金、クロム、タングステン、ニッケル、銅、アルミニウム、銀、マグネシウムもしくはこれらの合金、または積層膜などを用いることができる。
【0030】
OLED素子102の陰極105および第1の保護層115には、従来公知の陰極材料を用いることができ、たとえばアルミニウム、銀、マグネシウム等を挙げることができる。陰極105は、たとえばフッ化リチウム(LiF)等の陰極バッファ層などを含んでいてもよい。
【0031】
ゲート電極110には、たとえば、Al、タンタル(Ta)、金(Au)、Ti、Cr、またはそれを含む合金等を使用することができる。また、ゲート絶縁膜111としては、二酸化シリコン(SiO2)、窒化シリコン(Si34)、5酸化タンタル(Ta25)、アルミナ、Hf酸化物、PZT等を用いることができる。
【0032】
基板101には、透明基板が用いられ、たとえばガラス基板の他、ポリエステル、ポリイミド等のプラスチック基板、Si、GaAs、GaN、ステンレス基板等を用いることができる。また、カラーフィルタ119の材質は、所望する光の波長に応じて適宜選択される。
【0033】
(第2の実施形態)
図2(a)は、本発明の複合型有機発光トランジスタ素子の別の好ましい一実施形態を示す概略断面図である。図2(a)に示される本実施形態の複合型有機発光トランジスタ素子は、有機発光ダイオード素子(OLED素子)202を駆動する第1の有機薄膜トランジスタ素子(有機TFT素子)203および発光画素を選択する第2の有機薄膜トランジスタ素子(有機TFT素子)220の2つの有機TFT素子を有していること以外は、上記第1の実施形態と同様の構成である。第2の有機TFT220は、第1の有機TFT203と同じ構成を有している。すなわち、第2の有機TFT素子220の活性層224と活性層218と有機半導体層207、第2の有機TFT素子220の第3の保護層223と第3の保護層217と正孔輸送層208、第2の有機TFT素子220の第2の保護層222と第2の保護層216と電子輸送層209は、第2の有機TFT素子220の第1の保護層221と第1の保護層215と陰極205は、それぞれ同一の有機材料からなり、しかも各層の積層順序も同じである。このような構成によっても上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。本実施形態の複合型有機発光トランジスタ素子を用いてアクティブマトリクス回路を形成し、開口率が高く、したがって単位面積あたりの明るさが従来と比較して大きい有機ELディスプレイを得ることができる。また、上記図2(a)の例では、有機TFT素子およびOLED素子形成面とは反対側の基板面にカラーフィルタおよび平坦化膜(保護膜)が形成されているが、これに限られるものではなく、図2(b)に示されるように、平坦化膜の上に有機TFT素子およびOLED素子を形成するようにしてもよい。この点は、上記第1の実施形態についても同様である。
【0034】
(変形例)
上記した実施の形態は、たとえば以下のような変形が可能である。まず、図1を参照して、第1の有機物層106は、有機EL素子が一般に有し得る構造に変形されてもよい。すなわち、適切な位置に発光層、電子注入層、正孔ブロック層などの他の有機層が設けられてもよい。この場合、第1の有機物層106の変形と同じ変形が有機TFT素子103の第2の有機物層114について行なわれる。ただし、上記第1および第2の実施形態と同様に、有機半導体材料からなる活性層118は、ソース電極112およびドレイン電極113に接して設けられ、かつ同じ有機半導体材料からなる有機半導体層107が第1の有機物層106の最下層として設けられることが望ましい。
【0035】
また、OLED素子102の有機半導体層107は、必ずしも正孔注入層として機能する必要はなく、有機半導体材料によっては、たとえば正孔輸送層として機能する場合もあり得る。また、上述のように、ソース電極112およびドレイン電極113と、OLED素子102の陽極104とは異なる材料で形成してもよい。
【0036】
<複合型有機発光トランジスタ素子の製造方法>
次に、本発明の複合型有機発光トランジスタ素子の製造方法について説明する。当該製造方法は、上記した本発明の複合型有機発光トランジスタ素子を製造するための方法として好適に用いられる。本発明の製造方法は、陽極と陰極との間に配置される第1の有機物層を有する少なくとも1つの有機発光ダイオード素子と、ソース電極およびドレイン電極上に配置される第2の有機物層を有する少なくとも1つの有機薄膜トランジスタ素子とが同一基板上に形成されてなる複合型有機発光トランジスタ素子の製造方法であって、次の工程(A)〜(G)を含む。
(A)基板上に上記有機薄膜トランジスタ素子のゲート電極を形成する工程、
(B)該ゲート電極上の少なくとも一部にゲート絶縁膜を形成する工程、
(C)該ゲート絶縁膜上に、上記有機薄膜トランジスタ素子のソース電極およびドレイン電極、ならびに上記有機発光ダイオード素子の陽極を形成する工程、
(D)所定の領域にレジストからなるリブを形成する工程、
(E)該リブにより形成された凹部に、同じ有機材料を用いて、上記第1の有機物層および上記第2の有機物層を形成する工程、および
(F)上記第1の有機物層上に上記有機発光ダイオード素子の陰極を形成する工程。以下、図3を参照しながら、各工程について詳細に説明する。図3は、本発明の複合型有機発光トランジスタ素子の製造方法の好ましい一例を示す概略工程図であり、同一基板上に2つの有機薄膜トランジスタ素子と1つの有機発光ダイオード素子とを備える複合型有機発光トランジスタ素子の製造方法を示すものである。
【0037】
まず、基板301上に2つのゲート電極302、303を形成する(工程(A)、図3(a))。これらのゲート電極は、たとえばゲート電極材料をスパッタ等により基板301上に成膜した後、電極形成部分にレジストパターンを形成し(リソグラフィ法)、エッチング溶液でウェットエッチングを行なうことにより形成することができる。次に、ゲート電極302、303上に、ゲート絶縁膜304、305を形成する(工程(B)、図3(b))。形成方法としては、たとえばプラズマCVD法等の気相成長法などを用いて成膜した後、リソグラフィ法によりレジストパターンを形成し、エッチングを行なう方法を挙げることができる。
【0038】
ついで、ゲート絶縁膜304、305上に、有機薄膜トランジスタ素子(有機TFT素子)のソース電極306、307およびドレイン電極308、309、ならびに上記有機発光ダイオード素子(OLED素子)の陽極310を形成する(工程(C)、図3(c))。これらの電極は、電極材料をスパッタ等によりゲート絶縁膜304、305上に成膜した後、電極形成部分にレジストパターンを形成し(リソグラフィ法)、エッチング溶液でウェットエッチングを行なうことにより形成することができる。陽極310とドレイン電極309とは異なる材料で構成してもよいが、製造工程の簡略化の観点からは、同一材料を用いて、これら電極を一体として形成することが好ましい。
【0039】
続く工程において、所定の領域にレジストからなるリブ300を形成する(工程(D)、図3(d))。このようなリブ300は、レジストを塗布法により成膜した後、リソグラフィ法によりレジストパターンを形成することにより構築できる。ここで、「所定の領域」とは、次工程においてゲート、ドレイン電極および陽極上に、第1の有機物層および第2の有機物層を設けない領域を意味するものであり、言い換えれば、当該リブは、複合型有機発光トランジスタ素子内の各素子(有機TFT素子、OLED素子)が分離された状態で形成できるようにするためのものである。したがって、形成するリブの幅を適宜調整することにより、有機TFT素子とOLED素子との間、および/または2つの有機TFT素子の間の距離(素子分離幅)を自在に設定することができる。これにより、画素サイズの低減および開口率の向上が達成される。なお、素子間を完全に電気的に分離するためにはリブ端において有機物層が完全に切断分離されている必要があることから、各リブ300は、逆テーパ形状とすることが好ましい。
【0040】
次に、上記リブ300により形成された凹部に、同じ有機材料を用いて、第1の有機物層311および第2の有機物層312、313を形成する(工程(E)、図3(e))。
具体的には、第1の有機物層311および第2の有機物層312、313を構成する各構成層を真空蒸着法等により順に積層させるが、この際、各構成層の有機材料および各構成層の積層順序を同じとする。これにより、第1の有機物層311および第2の有機物層312、313を一体的に、同時に形成することができる。
【0041】
より具体的には、第1の有機物層311および第2の有機物層312、313を構成する最下層として、たとえば上記したような半導体材料からなる層を真空蒸着法により成膜する。該層は、有機TFT素子における活性層であり、OLED素子における正孔注入層となり得るものである。なお、当該半導体材料からなる層の成膜を行なう前に、表面をヘキサメチルジシラザン(HMDS)、オクタデシルトリクロロシラン(OTS)、β−フェネチルトリクロロシラン(β−Phe)等を用いて、疎水化処理を行なってもよい。
【0042】
ついでこの上に、OLED素子において通常用いられる層、たとえば正孔輸送層、発光層、電子輸送層として機能する有機層などを真空蒸着法により積層する。ここで、これらの層は、有機TFT素子においては保護層として機能し得る。このように、本発明の方法によれば、有機TFT素子とOLED素子とを同一プロセスにおいて同時に形成できるため、大幅な工程の簡略化を図ることができる。また、第1の有機物層および第2の有機物層を形成する際にマスクを用いることを要しないため、素子分離幅を大きくせざるを得ないという従来の問題点が解消されている。さらには、マスクの接触によるゴミ等に起因する歩留まりの低下が改善される。
【0043】
次に、上記第1の有機物層311上にOLED素子の陰極314を真空蒸着法等により形成する(工程(F)、図3(f))。この際、好ましい実施形態においては、当該陰極314の形成と同時に、第2の有機物層312および313上に、それぞれ保護層315、316を形成する。これにより、陰極314の形成と同時に有機TFT素子の保護層を形成することができ、また、陰極314の形成においてマスクを用いることを要しないため、上記と同様の効果を得ることができる。最後に、リブ300を除去して、OLED素子320、有機TFT素子330、340を有する複合型有機発光トランジスタ素子が完成する。
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
<実施例1>
次に示す方法により複合型有機発光トランジスタ素子を作製した。図3を参照して、まず、ガラス基板301上に、アルミニウムをスパッタにより、膜厚100nmで成膜した後、その上にレジストを塗布し、露光、現像を行ない、レジストパターンを形成した。その後、アルミニウム層をアルミエッチング溶液でウェットエッチングして、ゲート電極302、303を形成した(図3(a))。ついで、ゲート電極302、303上に、SiO2をプラズマCVD法により、膜厚250nmで成膜した後、同様にリソグラフィとウェットエッチングを行ない、ゲート絶縁膜304、305を形成した(図3(b))。
【0046】
ついで、ゲート絶縁膜304、305上に、スパッタ法によりインジウム−スズ酸化物(ITO)を膜厚100nmで成膜した後、同様にリソグラフィとウェットエッチングを行ない、有機TFT素子のソース電極306、307およびドレイン電極308、309、ならびにOLED素子の陽極310を形成した(図3(c))。続いて、リブの形成のためレジストを膜厚3μmで成膜した後、リソグラフィにより第1の有機物層および第2の有機物層形成部のレジストを除去することにより、逆テーパ形状のリブ300を形成した(図3(d))。
【0047】
次に、第1の有機物層311および第2の有機物層312、313を形成するために、まず、リブ300が形成されていない領域に、ペンタセンからなる有機半導体層を膜厚5nmで、真空蒸着法により連続して形成した。ついで、その上に、α−NPDからなる層(膜厚40nm)、Alq3からなる層(膜厚30nm)をこの順で連続して形成することにより、第1の有機物層311および第2の有機物層312、313を同時に形成した(図3(e))。有機TFT素子において、ペンタセンからなる層は活性層として機能するものであり、その上に形成された、α−NPD層およびAlq3層は保護層としての役割を果たす。また、OLED素子において、ペンタセンからなる層は正孔注入層であり、α−NPD層は正孔輸送層、Alq3層は電子輸送層兼発光層である。
【0048】
続いて、第1の有機物層311および第2の有機物層312、313上に、真空蒸着法によりアルミニウム層を膜厚100nmで蒸着して、OLED素子の陰極314および有機TFT素子の保護層315、316を同時に形成した(図3(f))。最後に、リブ300を除去し、OLED素子320、有機TFT素子330、340を有する複合型有機発光トランジスタ素子を得た。
【0049】
図4は、実施例1で得られた複合型有機発光トランジスタ素子の一部を上からみた概略図であり、OLED素子320および有機TFT素子330の領域を示した図である。図4に示されるように、本発明の複合型有機発光トランジスタ素子においては、内部に形成される各素子間の距離(素子分離幅)が非常に短いため、画素サイズを小さくすることができ、かつ開口率を大きくすることができる。図4において、その開口率は71%と算出される。
【0050】
一方、図5に示されるように、従来の複合型有機発光トランジスタ素子では、図4と同サイズの有機TFT素子およびOLED素子を画素内に形成しようとする場合、マスクのアライメントのずれを考慮して、少なくとも素子分離幅をさらに50μm長くする必要があった。これによりOLED素子520以外の領域面積が大きくなり、図5の場合、その開口率は48%である。
【0051】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の複合型有機発光トランジスタ素子の好ましい一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明の複合型有機発光トランジスタ素子の別の好ましい一実施形態を示す概略断面図である。
【図3】本発明の複合型有機発光トランジスタ素子の製造方法の好ましい一例を示す概略工程図である。
【図4】実施例1で得られた複合型有機発光トランジスタ素子を示す概略上面図である。
【図5】従来の複合型有機発光トランジスタ素子の一例を示す概略上面図である。
【符号の説明】
【0053】
101,201,301 基板、102,202,320 有機発光ダイオード素子(OLED素子)、103,203,220,330,340 有機薄膜トランジスタ素子(有機TFT素子)、104,204,310 陽極、105,205,314 陰極、106,206,311 第1の有機物層、107,207 有機半導体層、108,208 正孔輸送層、109,209 電子輸送層、110,210,228,302,303 ゲート電極、111,211,227,304,305 ゲート絶縁膜、112,212,225,306,307 ソース電極、113,213,226,308,309 ドレイン電極、114,214,312,313 第2の有機物層、115,215,221 第1の保護層、116,216,222 第2の保護層、117,217,223 第3の保護層、118,218,224 活性層、119,219 カラーフィルタ、130,230 平坦化膜、300 リブ、315,316 保護層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一基板上に配置される、少なくとも1つの有機発光ダイオード素子と少なくとも1つの有機薄膜トランジスタ素子とを備える複合型有機発光トランジスタ素子であって、
前記有機発光ダイオード素子は、陽極と陰極との間に配置される第1の有機物層を有し、かつ、前記有機薄膜トランジスタ素子は、ソース電極およびドレイン電極上に配置される第2の有機物層を有し、
前記第1の有機物層と前記第2の有機物層とは、空間的に分離しており、
前記第2の有機物層を構成する有機材料は、前記第1の有機物層を構成する有機材料と同一である、複合型有機発光トランジスタ素子。
【請求項2】
前記第1の有機物層および前記第2の有機物層は、同じ数の2以上の層からなり、
前記第2の有機物層を構成する各層の有機材料は、前記第1の有機物層を構成する各層の有機材料とそれぞれ同一である、請求項1に記載の複合型有機発光トランジスタ素子。
【請求項3】
前記第2の有機物層は、ソース電極およびドレイン電極に接して形成された、有機半導体材料からなる活性層を含み、
前記第1の有機物層は、前記活性層を構成する有機半導体材料と同一の材料からなる正孔注入層を含む、請求項2に記載の複合型有機発光トランジスタ素子。
【請求項4】
前記有機薄膜トランジスタ素子は、前記第2の有機物層上に形成され、前記有機発光ダイオード素子が有する前記陰極と同一の材料からなる層をさらに備える、請求項1〜3のいずれかに記載の複合型有機発光トランジスタ素子。
【請求項5】
前記有機発光ダイオード素子を駆動する有機薄膜トランジスタ素子と、発光画素を選択する有機薄膜トランジスタ素子とを備える、請求項1〜4のいずれかに記載の複合型有機発光トランジスタ素子。
【請求項6】
前記有機発光ダイオード素子が発する光の波長を変換するカラーフィルタをさらに備える、請求項1〜6のいずれかに記載の複合型有機発光トランジスタ素子。
【請求項7】
陽極と陰極との間に配置される第1の有機物層を有する少なくとも1つの有機発光ダイオード素子と、ソース電極およびドレイン電極上に配置される第2の有機物層を有する少なくとも1つの有機薄膜トランジスタ素子とが同一基板上に形成されてなる複合型有機発光トランジスタ素子の製造方法であって、
基板上に前記有機薄膜トランジスタ素子のゲート電極を形成する工程(A)と、
前記ゲート電極上の少なくとも一部にゲート絶縁膜を形成する工程(B)と、
前記ゲート絶縁膜上に、前記有機薄膜トランジスタ素子のソース電極およびドレイン電極、ならびに前記有機発光ダイオード素子の陽極を形成する工程(C)と、
所定の領域にレジストからなるリブを形成する工程(D)と、
前記リブにより形成された凹部に、同じ有機材料を用いて、前記第1の有機物層および前記第2の有機物層を形成する工程(E)と、
前記第1の有機物層上に前記有機発光ダイオード素子の陰極を形成する工程(F)と、
を含む、複合型有機発光トランジスタ素子の製造方法。
【請求項8】
前記工程(E)において、前記第1の有機物層および前記第2の有機物層は、複数の層を積層させることにより形成され、前記第1の有機物層および前記第2の有機物層の最下層は、有機半導体材料からなる層である、請求項7に記載の複合型有機発光トランジスタ素子の製造方法。
【請求項9】
前記工程(F)において、前記第1の有機物層上に前記有機発光ダイオード素子の陰極が形成されるとともに、該陰極と同一の材料からなる層が前記第2の有機物層上に形成される、請求項7または8に記載の複合型有機発光トランジスタ素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−251872(P2008−251872A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91899(P2007−91899)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】