説明

複合構造体

【課題】本発明は、部品数が少なくて済み、組み立て時間を大幅に短縮でき、かつ金属と樹脂の接合面での気密性も高い複合構造体を提供することを目的とする。
【解決手段】複合構造体10は、金属部材13と樹脂部材12とが接合されて形成され、前記金属部材13と接合している箇所に存在する第1樹脂部材12aの線膨張係数が、20℃〜150℃の範囲において、前記金属部材の線膨張係数の0.5〜1.5倍の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材と樹脂部材を組み合わせた複合構造体に関し、より詳細には例えば電子・電機部品を収納する放熱性に優れる収納ケースを構成する構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子・電気部品の収納ケースは、軽量化、経済性等の観点から、金属素材から樹脂材料への変更が進められている。しかし、樹脂材料は放熱性が悪いため、ケースをすべて樹脂で形成すると、ケース内に収納された電子・電気部品から発生する熱を外部に効率よく放散することができない。特に、自動車のエンジンルーム等の高温に曝される環境下では、ケース内部に収納された電子・電気部品からの発熱のために、ケース内部の温度はさらに高温になる。そこで、ケース内部の熱を効率よく外部に放出するために、収納ケースの一部を金属材料で構成することで放熱を図っている。
【0003】
図5は、電子・電気部品の収納ケースの1例を模式的に示した図である。収納ケース50は、例えばアルミニウム板のような放熱作用のある金属基板53と、樹脂ケース部52で構成され、その内部に、電子部品51が金属基板53に熱結合されて配置されている。樹脂ケース部52と金属基板53には、フランジ面が形成され、間に例えばシリコーン樹脂等のシーリング材(ガスケット)を介して、ボルト54で締め付けることで、収納ケース全体が密閉される。
【0004】
しかしながら、この構造では、金属基板に対して、ボルト締め付けのために雌ネジ加工または貫通孔を形成し、金属基板と樹脂ケース部の合わせ面にシリコーンシーリング剤を塗布し、金属基板と樹脂ケース部とを合わせて数カ所をボルト締めする必要があるため、組み立てに非常に手間が掛かる問題がある。また、廃棄時においても、ボルトをはずして、金属部と樹脂部を分別する必要があり、非常に手間が掛かる。また、シーリング剤は金属基盤や樹脂ケース部のどちらに残っていてもマテリアルリサイクル時に大変好ましくない。
【0005】
特許文献1には、内部に電子回路基板を収納する収容ケースとして、金属製のケース本体露出部ができるように樹脂をモールドし、ケース本体露出部と樹脂部の界面を覆うように接着剤を塗布した電子回路基板収容ケースが記載されている。この構造では、ボルトによる締め付け工程が不要になるために、組み立ての手間が省かれる。また、接着剤を使用することで、金属と樹脂の接合面の気密性を確保しようとするものであるが、金属と樹脂の界面を接着剤でシールする手間がかかり、構造によっては、シール剤の塗布が非常に難しい場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−134931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、部品数が少なくて済み、組み立て時間を大幅に短縮でき、かつ金属と樹脂の接合面での気密性も高い複合構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の事項に関する。
【0009】
1. 金属部材と樹脂部材とが接合されて形成される複合構造体であって、
前記金属部材と接合している箇所に存在する第1樹脂部材の線膨張係数が、20℃〜150℃の範囲において、前記金属部材の線膨張係数の0.5〜1.5倍の範囲であることを特徴とする複合構造体。
【0010】
2. 前記樹脂部材は、樹脂成分と無機充填材成分を含有し、前記範囲の線膨張係数を有するように前記無機充填剤成分の量が選ばれることを特徴とする上記1記載の複合構造体。
【0011】
3. 前記無機充填剤が、ガラス繊維またはカーボン繊維であることを特徴とする上記2記載の複合構造体。
【0012】
4. 前記樹脂部材を構成する樹脂成分が、ポリアミド樹脂であることを特徴とする上記2記載の複合構造体。
【0013】
5. 前記金属部材が、ダイカスト成形で加工されたアルミニウムであることを特徴とする上記1〜4のいずれか1項に記載の複合構造体。
【0014】
6. 金属部材と樹脂部材が接合部において接合された複合構造体の製造方法であって、
前記金属部材を、インサート成形用の金型に設置する工程と、
前記金型に、溶融状態の第1樹脂部材を注入し、前記金属部材と前記第1樹脂部材が接合部において接合するように第1樹脂部材を成型する工程と、
を有し、
20℃〜150℃の範囲において、前記第1樹脂部材の線膨張係数が、前記金属部材の線膨張係数の0.5〜1.5倍の範囲であること
を特徴とする複合構造体の製造方法。
【0015】
7. 前記接合部に接合して成型された第1樹脂部材と、所望の形状に予め形成された第2樹脂部材を溶着する工程とをさらに有することを特徴とする上記6記載の複合構造体の製造方法。
【0016】
8. 前記溶融状態の第1樹脂部材を注入する際に、前記金属部材を前記金型と略同一の温度に予熱しておくことを特徴とする上記6または7記載の複合構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の複合構造体は、金属部材と樹脂部材の接合にボルト締め等が不要であるため、部品の種類を減らすことが可能で、そのために組み立て時間を大幅に短縮できる。さらに、金属部材と樹脂部材の間の気密性に優れる。また、廃棄時に、金属部材と樹脂部材とを分別することが容易であるため、リサイクル性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の複合構造体の1例を示す図である。(a)断面図、(b)裏面図
【図2】複合構造体の製造工程の1例の工程図である。(a)断面図、(b)裏面図
【図3】複合構造体の製造工程の1例の工程図である。
【図4】複合構造体の製造工程の1例の完成構造を示す断面図である。
【図5】電子・電機部品の従来の収納ケースを示す断面図である。
【図6】実施例1および比較例1で使用した樹脂の線膨張係数の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に、本発明の複合構造体の1例を示す。図1(a)は、断面図であり、図1(b)は図1(a)の下から見た裏面図である。複合構造体10は、金属部材13と樹脂部材12により構成され、樹脂部材12は、第1樹脂部材12aと第2樹脂部材12bが溶着されて形成されている。複合構造体10は、例えば電子・電機部品の収納ケースであり、金属部材13に熱的に結合した電子部品11が内部に配置される。
【0020】
図に示されるように、金属部材13に対して第1樹脂部材12aが接合されている。金属部材13と第1樹脂12aが接合している箇所を、以下、接合部と言う。接合部においては、特に接着剤は使用されずに、金属部材と第1樹脂部材が密着している。
【0021】
本発明において、金属部材と第1樹脂部材の線膨張係数は、第1樹脂部材の線膨張係数が、金属部材の線膨張係数の0.5〜1.5倍の範囲にある。線膨張係数の関係が、この範囲にあることにより、例えば自動車のエンジンルームような寒暖差の大きな環境で使用されても、熱膨張・冷却収縮の影響が小さく、金属部材と第1樹脂部材との間で気密性を維持できる。また、後述するような成形時においても、寸法ずれをほとんどなくすことができるために、金属部材と第1樹脂部材との間の気密性の高い複合構造体を形成することができる。さらに好ましくは、第1樹脂部材の線膨張係数は、金属部材の線膨張係数の0.8〜1.2倍の範囲である。
【0022】
前記の線膨張係数は、20℃〜150℃の範囲において測定される値であり、通常はこの範囲の膨張係数(ΔL/L;ΔLは伸び、Lは試験サンプル長)を温度範囲で割って得られる線膨張係数が上記範囲であれば、成形の際の熱膨張・収縮の影響がほとんどない。
【0023】
金属部材および第1樹脂部材のどちらも、温度範囲により平均線膨張係数が変化することがある。例えば、アルミニウム合金2014の平均線膨張係数は次の通りである。
−196〜−60℃ :1.53×10-5(1/℃)
−60〜+20℃ :2.14×10-5(1/℃)
+20〜+100℃ :2.30×10-5(1/℃)
+100〜+200℃:2.36×10-5(1/℃)
従って、20℃〜150℃の温度範囲における平均の線膨張係数を比較したときに、金属部材と第1樹脂部材の線膨張係数が上記の関係にあることに加え、20℃〜150℃の温度範囲の各温度における線膨張係数を比較したときに、金属部材と第1樹脂部材の線膨張係数が上記の関係(0.5〜1.5倍の範囲、好ましくは0.8〜1.2倍の範囲)にあることが好ましい。
【0024】
また、複合構造体が使用される温度範囲全体にわたり、平均の線膨張係数、さらに好ましくは各温度における線膨張率について、金属部材と第1樹脂部材の線膨張係数が上記の関係にあることが好ましい。例えば自動車のエンジンルームで使用されるような用途では、−40℃〜130℃の範囲である。
【0025】
金属部材を構成する金属材料としては、例えば、一般冷延鋼、特殊冷延鋼、自動車用高張力鋼、熱延鋼、表面処理鋼、高強度鋼、特殊鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、高力アルミニウム、ジュラルミン、及び超々ジュラルミンからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。なお、高強度鋼には、Duel−Phase鋼、TRIP鋼が含まれる。特に好ましくはアルミニウムである。また、金属部材の成形方法は、特に限定されないが、種々の形状を比較的安価に形成できる方法として、ダイカスト成形、特にアルミニウムを用いたダイカスト成形が好ましい。
【0026】
第1樹脂部材は、樹脂成分(マトリックス樹脂)に加えて、線膨張係数を調節するための無機充填剤を含有することが好ましい。第1樹脂部材中の樹脂成分としては、特に制限はなく、それぞれの部材に必要とされる特性や成形に応じて任意の樹脂を用いることができる。好ましい樹脂として、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン、ABS樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合させて用いてもよい。単独で用いる場合に特に好ましい樹脂として、ポリアミド樹脂およびポリプロピレンが挙げられる。さらに、ポリアミド樹脂の具体例としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12のような脂肪族ポリアミドやポリヘキサメチレンテレフタラミド、ポリヘキサメチレンイソフタラミドのような半芳香族ポリアミド樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独あるいは2つ以上の共重合から成り立っていてもよい。ポリアミド樹脂の中で好ましいのは、ナイロン6、ナイロン66である。
【0027】
無機充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ、アルミナ、アルミノケイ酸塩、窒化ケイ素、粘土、タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。好ましくは、樹脂成分の補強材として機能する繊維状(ウィスカーを含む)のものであり、特にガラス繊維または炭素繊維が好ましく、ガラス繊維が最も好ましい。無機充填剤は、第1樹脂部材が、前述の所定の線膨張係数を有し、また好ましくは後述するようにインサート成形の際に樹脂の溶融性を阻害しないような範囲で添加される。
【0028】
ガラス繊維を使用するとき、樹脂成分100重量部に対して、好ましくは15〜45重量部、より好ましくは20〜40重量部、最も好ましくは25〜35重量部の範囲で添加される。
【0029】
また、第1樹脂部材の線膨張係数が異方性を有している場合、即ち、方向により線膨張係数が異なる場合、少なくとも1つの線膨張係数が、前述のとおりの金属部材との線膨張係数の関係を満たしていればよい。金属部材と線膨張係数の近い方向を、熱膨張・冷却収縮が問題となる方向にほぼあわせることで、ほとんどの用途において、熱膨張・冷却収縮の問題を解決できる。例えば、図1に示すように、金属部材13の周囲を第1樹脂部材12aが囲む構造の場合、第1樹脂部材12aの周囲方向の線膨張係数を金属部材の線膨張係数に近くすることが好ましい。より具体的には金属部材13が、方形である場合には、各4辺の長さ方向で、第1樹脂部材12aの線膨張係数が、本発明で規定する関係を有していることが好ましい。つまり、第1樹脂部材12aの中の各場所において、線膨張係数が金属と近い方向が、適した方向に向くように形成されることが好ましい。
【0030】
第2樹脂部材は、第1樹脂部材と同一または異なる材料で形成される。第2樹脂部材を構成する樹脂成分としては、前述の第1樹脂部材に適した樹脂が挙げられ、好ましい樹脂も同様である。第1樹脂部材と第2樹脂部材は、後述するように、好ましくは溶着によって接合されるため、少なくとも両者の樹脂成分が相溶性を有するように第1および第2樹脂成分が選ばれる。好ましくは、第1樹脂部材と第2樹脂部材の樹脂成分が同一である。ここで、樹脂同士が互いに「相溶性を有する」とは、一方の樹脂と他方の樹脂との溶解度パラメータの差が小さい、具体的には、1.4以下、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.0以下であり、両者の分子鎖が混ざり合うことが可能であることをいう。ここで溶解度パラメータ(Sp)値は、Fedorsの方法(R. F. Fedors, Poly. Eng. and Sci., 14(2), 147(1974)などの文献を参照)によりポリマーの骨格より算出される。
【0031】
また、第2樹脂部材は、金属部材と接合されていないため(図1中の金属部材13のように、樹脂との間で気密性が問題となる金属部材と接合されていないことを意味する)、その線膨張係数について、特に要求はない。従って、ガラス繊維のような無機充填剤を含有しなくてもよいが、第1樹脂部材との線膨張係数が大きく異なると、金属部材の線膨張係数と大きく異なることになるため、図1から理解されるように、温度変化に伴って樹脂部材12全体と金属部材13との熱膨張差により、金属部材と第1樹脂部材の接合部に過度の力が加わったり、樹脂部材に歪みが生じたりすることがある。従って、一般的には、第2樹脂部材も第1樹脂部材と同一か近い線膨張係数を有するように、無機充填剤を含有することが好ましい。好ましい無機充填剤および量は、前述の第1樹脂部材と同じである。好ましい形態では、第1樹脂部材と第2樹脂部材を同一材料(樹脂成分および無機充填剤の配合が同一)で構成する。具体的には、第1樹脂部材と第2樹脂部材の両方が、ガラス繊維強化ナイロン6であることが最も好ましい。
【0032】
第1樹脂部材と金属部材の形状に関しては、接合部において、第1樹脂部材と金属部材が嵌合していることが好ましい。接合部において、金属部材と第1樹脂部材の接合面に対して、略垂直方向に力が加わったときに、引き剥がしに対して抵抗できるような形状である。最も簡単な嵌合の形態は、図1(a)、(b)に示すように、第1樹脂部材が、金属部材の端部をコの字状に囲むように、金属部材の表面から裏面まで連続して形成されている形態である。
【0033】
次に、本発明の複合構造体の製造方法を、図2〜図4を参照しながら説明する。
【0034】
まず最初に、所望の形状の金属部材13を用意する。金属部材は好ましくはダイカスト成形で形成する。次に、金属部材13をインサート成形用の金型(図示せず)にセットする。金型と金属部材13とで形成されるキャビティにより、第1樹脂部材の形状が規定される。
【0035】
次に、金型と金属部材13とで形成されるキャビティに、溶融樹脂を注入し、図2に示すように、金属部材13の接合部(この例では端部)に、第1樹脂部材12aを成型する。一般に、インサート成型では、金型は適切な温度に加熱されているが、金属部材13は、通常は冷えたまま(通常は室温)の状態でセットされるため、その状態で溶融樹脂を注入すると、金属部材表面で樹脂が急冷され、収縮差の影響が出やすく、樹脂の流動性も悪くなりがちである。そこで、本発明の製造方法では、溶融樹脂を注入する前に、金属部材を金型と同程度の温度(例えば±10℃以内、好ましくは±5℃以内)まで予熱することが好ましい。
【0036】
金型および金属部材の予熱温度は、樹脂の種類にも依存するが、通常60〜120℃程度であり、好ましくは70〜100℃であり、特に好ましくは70〜90℃であり、代表的な例として80℃が挙げられる。
【0037】
所定の温度まで冷却後、金型をはずして、金属部材13と第1樹脂部材が一体となった複合構造体(中間複合構造体)を取り出す。
【0038】
その後、適宜、内部に収納される電子部品11等を実装した後、図3に示すように、別途所望の形状に形成した第2樹脂部材12bの合わせ面と、第1樹脂部材12aの合わせ面とを密着させてから溶着することで、図4に示すように、第1樹脂部材12aと第2樹脂部材12bが一体化され、金属部材13と共に複合構造体10が得られる。第1樹脂部材12aと第2樹脂部材12bの溶着は、レーザー溶着、振動溶着等の任意の溶着技術で実施できるが、経済性と簡便性から特に振動溶着が好ましい。
【0039】
また、廃棄する際には、複合構造体を破砕機等で破砕すると樹脂と金属が剥離するので、ボルトをはずす等の操作が不要であり容易に分別できる。分別した樹脂部材は、リサイクルが可能である。
【0040】
本発明の複合構造部材は、種々の形態、形状にて、種々の用途に使用可能である。特に、密閉性が必要で、熱を放出する電子・電機部品を内部に収納するケースとして好適であり、例えば電子制御基板筐体、電池筐体、電力制御筐体が挙げられ、特にエンジン制御ユニットなどの車載用途が挙げられる。その他、金属と樹脂との接合に気密性が必要とされる用途に好適であり、例えばインテークマニホールドのような吸気系部品、ラジエターポンプのような冷却系部品、燃料ポンプのような燃料系部品、ECU(Engine Computer Unit)ハウジングのような制御系部品、オイルポンプのような潤滑油部品、シリンダーヘッドカバーのようなカバー類、トランスミッション部品などの自動車部品に適用することができる。
【実施例】
【0041】
<線膨張係数測定>
測定対象の樹脂を使用して、長さ20mm、幅6mm、厚さ5mmのテストピースを作製した。テストピースをTMA装置(引張りモード、2g荷重、5℃/分)で、−150℃〜180℃の間で温度を変化させ、−40℃〜150℃の範囲で伸びを測定した。同じサンプルで2回測定して、2回目の値を採用した。また、ガラス繊維強化ナイロンについては、ガラス繊維の方向が長さ方向となるようにテストピースを作製した。
【0042】
<実施例1>
150mm×150mm×3mm(厚み)のダイカスト成型したアルミニウム板を、インサート成型用金型にセットし、金型と同じ80℃に予熱した。金型とアルミニウム板で形成されるキャビティに、ガラス繊維強化ナイロン6の溶融樹脂を注入し、図2に示すような、樹脂部材がアルミニウム板の周囲を表側から裏側まで囲む中間複合構造体を製造した。ここで、アルミニウム板の周辺で、アルミニウム板と樹脂との重なりが6mmとなるようにした。尚、ガラス繊維強化ナイロン6の注入時の流れ方向を制御し、樹脂部材中のガラス繊維の方向が、アルミニウム板の4辺において、辺とほぼ平行に向くように樹脂部材を成形した。
【0043】
一方、このように成型した樹脂と一致するフランジ面を周囲に有する蓋材(図3の第2樹脂部材12bと同様の形状を有するもの)を、ガラス繊維強化ナイロン6を用いて成型した。蓋材と中間複合構造体との面を合わせて、振動溶着装置に設置し、振幅1〜2mm、240Hzで、10秒間振動させ、合わせ面を溶着して、密閉容器状の複合構造体を形成した。
【0044】
実施例1で使用したガラス繊維強化ナイロン6樹脂は、70質量部のナイロン6に30質量部のガラス繊維を添加したものであり、線膨張係数は、2.4×10−5cm/cm/℃(20℃〜150℃の範囲:ガラス繊維方向)である。線膨張係数の測定結果を図6に示す。同じ温度範囲におけるアルミニウムの線膨張係数は、2.4×10−5cm/cm/℃である。
【0045】
蓋材に設けておいたノズル状の孔から、水密性を調べるために水圧を加えた。0.6MPa(ゲージ圧)にて容器が破壊するまで、アルミニウムと樹脂の接合部からの水の漏れは観察されなかった。
【0046】
蓋材に設けておいたノズル状の孔から、気密性を調べるために空気圧を加えた。0.4MPa(ゲージ圧)以上で容器からわずかなリークが生じるまで、アルミニウムと樹脂の接合部からの空気の漏れは観察されなかった。
【0047】
<比較例1>
実施例1において、ガラス繊維を含有しないナイロン6を使用して、実施例1と同様形状の中間複合構造体を形成した。ナイロン6を使用して、実施例1と同様形状の蓋材を成型し、中間複合構造体と面を合わせて、振動溶着により密閉容器状の複合構造体を形成した。実施例1と同様にして気密性を調べたところ、アルミニウムと樹脂の接合部から空気が漏れ、気密性が不十分であった。使用したナイロン6の線膨張係数は、8.85×10−5cm/cm/℃(20℃〜150℃の範囲)である)。線膨張係数の測定結果を図6に示す。
【0048】
<実施例2:高温耐久性試験、低温耐久性試験、ヒートサイクル試験>
実施例1と同様に、密閉容器状の複合構造体を複数個製造し、所定の環境下に所定時間、放置し、耐環境・耐久性試験を行った。試験条件は以下のとおりである。
高温試験:150℃の恒温槽に、750時間または1500時間放置
低温試験:−40℃の恒温槽に、750時間または1500時間放置
ヒートサイクル試験:150℃の条件下に2時間、−40℃の条件下に2時間を1サイクルとして、これを100サイクル繰り返した。
【0049】
評価は、耐圧試験(水密性試験)および気密性試験とし、耐圧試験(水密性試験)では、実施例1と同様に破壊するまで水圧を加え、破壊したときの圧力を記録した。結果を表1に示す。また、気密試験では、0.15MPaの空気圧をかけて、リークの有無を検査した。結果を表2に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
<比較例2:高温耐久性試験、低温耐久性試験、ヒートサイクル試験>
実施例2において、ガラス繊維を含有しないナイロン6を使用して、同様に複合構造体を製造し、同様に、耐環境・耐久性試験を行った。但し、表3、4に示すとおり、高温試験および低温試験における時間は100時間とし、ヒートサイクル試験では20サイクルとした。評価方法も実施例2と同様にして評価した。結果を表3、表4に示す。
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
以上のとおり、本発明の複合構造体は、高温試験、低温試験およびヒートサイクル試験の後でも、耐圧強度および気密性を維持しており、このような試験条件に対応する過酷な環境での使用に適合していることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、部品数が少なくて済み、組み立て時間を大幅に短縮でき、かつ金属と樹脂の接合面での気密性も高い複合構造体を提供することができる。
【符号の説明】
【0056】
10 複合構造体
11 電子部品
12 樹脂部材
12a 第1樹脂部材
12b 第2樹脂部材
13 金属部材
50 収納ケース
53 金属基板
52 樹脂ケース部
51 電子部品
54 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と樹脂部材とが接合されて形成される複合構造体であって、
前記金属部材と接合している箇所に存在する第1樹脂部材の線膨張係数が、20℃〜150℃の範囲において、前記金属部材の線膨張係数の0.5〜1.5倍の範囲であることを特徴とする複合構造体。
【請求項2】
前記樹脂部材は、樹脂成分と無機充填材成分を含有し、前記範囲の線膨張係数を有するように前記無機充填剤成分の量が選ばれることを特徴とする請求項1記載の複合構造体。
【請求項3】
前記無機充填剤が、ガラス繊維またはカーボン繊維であることを特徴とする請求項2記載の複合構造体。
【請求項4】
前記樹脂部材を構成する樹脂成分が、ポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項2記載の複合構造体。
【請求項5】
前記金属部材が、ダイカスト成形で加工されたアルミニウムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項6】
金属部材と樹脂部材が接合部において接合された複合構造体の製造方法であって、
前記金属部材を、インサート成形用の金型に設置する工程と、
前記金型に、溶融状態の第1樹脂部材を注入し、前記金属部材と前記第1樹脂部材が接合部において接合するように第1樹脂部材を成型する工程と、
を有し、
20℃〜150℃の範囲において、前記第1樹脂部材の線膨張係数が、前記金属部材の線膨張係数の0.5〜1.5倍の範囲であること
を特徴とする複合構造体の製造方法。
【請求項7】
前記接合部に接合して成型された第1樹脂部材と、所望の形状に予め形成された第2樹脂部材を溶着する工程とをさらに有することを特徴とする請求項6記載の複合構造体の製造方法。
【請求項8】
前記溶融状態の第1樹脂部材を注入する際に、前記金属部材を前記金型と略同一の温度に予熱しておくことを特徴とする請求項6または7記載の複合構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−213108(P2011−213108A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52492(P2011−52492)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】