説明

視覚情報呈示装置及び視覚情報呈示方法

【課題】車両走行中の運転者の視線を安定させる。
【解決手段】道路地勢情報推定手段が、車両の直進方向Lと前方風景内における地平線Hの位置を推定し、直進方向Lと地平線Hの交点を消失点Pとして推定する。そして、視覚表示制御手段が、道路地勢情報推定手段によって推定された消失点Pの位置近傍に対応するフロントウインドガラス11上の位置において運転者に視認目標を視認させるように視覚情報表示手段を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の前方視野内に視認目標を呈示することにより運転者の視線の安定化を図る視覚情報呈示装置及び視覚情報呈示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両のフロントガラス内側表面に表示光を投影し、表示光を運転者の視線方向に向けて反射させることにより、フロントウインドウガラスの前方に表示光の虚像を視認目標として視認させる表示装置が知られている(特許文献1参照)。この表示装置では、車両が高速走行している時は視認目標が遠方にあるように運転者に視認させる等、車速に応じて視認目標の表示位置を変化させることにより、運転者の視線を安定させ、運転者が快適、且つ、安全に車両を走行可能なようにしている。
【特許文献1】特開2004−217188号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本願発明の発明者らは、精力的な研究を重ねてきた結果、視認目標によって前方風景の消失点(詳しくは後述する)が位置する水平線よりも下方に運転者の視線が誘導されると、オプティカルフローが速くなり、オプティカルフローに視線が誘引される結果、運転者の視線が不安定になることを知見した。しかしながら、従来の表示装置は、上述の通り、視認目標の表示位置を車速に応じて変化させるだけの構成となっているために、視認目標が前方風景の消失点が位置する水平線の上下方向に表示されることによって、運転者の視線が不安定になることが予想される。
【0004】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、運転者の視線を安定させることが可能な視覚情報呈示装置及び視覚情報呈示方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するために、本発明に係る視覚情報呈示装置は、車両の運転者の前方視野内に視認目標を表示する表示手段と、視認目標の表示位置を制御する制御手段とを備え、制御手段は、視認目標が前方風景の水平方向基準線上に重畳表示されるように視認目標の位置を制御する。
【0006】
また、本発明に係る視覚情報呈示方法は、運転者の前方視野内に視認目標を呈示することにより運転者の視線の安定化を図る視覚情報呈示方法であって、視認目標が前方風景の水平方向基準線上に重畳表示されるように視認目標の位置を制御するステップを有する。
【0007】
なお、本明細書中において、「水平方向基準線」とは、車両が走行している道路とその道路の遠方方向端部とその端部の上方領域の境界に対して水平方向に引いた延長線のことを意味する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る視覚情報呈示装置及び視覚情報呈示方法によれば、運転者は水平方向基準線上において視認目標を視認するようになり、運転者の視線移動量を少なくすることができるので、運転者の視線を安定させることができる。またこの結果、車両の操舵の乱れが小さくなり、車両の運転操作を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態となる視覚情報呈示装置の構成について説明する。
【0010】
〔視覚情報呈示装置の構成〕
本発明の実施形態となる視覚情報呈示装置は、図1に示すように、車両1に搭載され、車両1の走行状態を推定する自車走行状態推定手段2と、車両1周辺を走行している他車両の走行状態を推定する他車走行状態推定手段3と、車両1が走行している道路の地勢情報を推定する道路地勢情報推定手段4と、車両1の運転者の眼球位置を推定する眼球位置推定手段5と、車両1の内外環境状態を推定する車内外環境推定手段6と、運転者の前方風景に視認目標を重畳表示する視覚情報表示手段7と、前記視覚情報表示手段7により表示される視認目標の表示位置や表示形態を制御する視覚表示制御手段8とを主な構成要素として備える。
【0011】
自車走行状態推定手段2は、車両1のCAN信号(車速,アクセル開度,操舵角等を示す信号),エンジン回転数信号,ウィンカー信号,A/T信号を検出し、検出された信号から車両1の走行状態を推定すると共に、重力センサやジャイロセンサ等を用いて車両1の走行姿勢を推定する。
【0012】
他車走行状態推定手段3は、レーダや距離センサを用いて車両1の周囲を走行する他車両との間の距離を推定する。なお、他車走行状態推定手段3は、車車間通信装置を用いて他車両と通信することにより、他車両との間の距離と車両1から見た他車両の方位を検出するようにしてもよい。
【0013】
道路地勢情報推定手段4は、ナビゲーションシステムや前方撮影カメラにより構成される。道路地勢情報推定手段4は、車両1前方方向の道路の地勢情報を推定する。なお、道路地勢情報には、例えば、車両1が走行している道路の形状,起伏,高度、車両1の位置,直進方向、車両1の前方風景における地平線の高さ,車両1が走行中又は走行するカーブ路のクリッピングポイント(CP)の位置等の情報が含まれる。また、道路地勢情報推定手段4が前方撮影カメラにより構成される場合、道路地勢情報推定手段4は、前方撮影カメラによって撮像された画像を運転者の眼球位置において視認される画像に視点変換し、視点変換された画像を解析することにより道路地勢情報を推定してもよい。
【0014】
眼球位置推定手段5は、標準的な体型を有する運転者を設定し、設定された運転者の眼球の位置を任意の固定値として出力することにより、運転者の眼球位置を推定する。なお、眼球位置推定手段5は、運転者の位置と車両1のミラー角度を検出し、運転者の位置及び車両1のミラー角度と運転者の眼球位置の対応関係を示すテーブルから検出された運転者の位置と車両1のミラー角度に対応する運転者の眼球位置を検索することにより運転者の眼球位置を推定してもよい。また、眼球位置推定手段5は、車載カメラによって運転者の顔画像を撮像し、撮像画像を解析することにより運転者の眼球位置を推定してもよい。
【0015】
車内外環境推定手段6は、雨滴センサ,温度センサ,湿度センサ,光センサ等の各種センサを用いて車外の天候状況,昼間及び夜間の有視界情報,車両1内の状況を推定する。なお、車外環境推定手段6は、車載カメラによって車内外の画像を撮像し、撮像画像を解析することにより車両1の内外環境状態を推定するようにしても良い。
【0016】
視覚情報表示手段7は、ヘッドアップディスプレイ,プロジェクター,透明液晶等の公知の表示装置により構成される。ヘッドアップディスプレイの場合、表示画像はフロントウインドウガラス上に設置されたコンバイナを介して前方風景に重畳表示される。また、プロジェクターの場合、プロジェクターから出力された表示画像はフロントウインド上に配置された透過型の拡散フィルム上に投影され、前方風景に重畳表示される。
【0017】
上記のような構成を有する視覚情報呈示装置は、以下に示すように動作することにより、車両走行中における運転者の視線を安定させる。以下、図面を参照して、上記視覚情報呈示装置の動作について説明する。
【0018】
〔視覚情報呈示装置の動作〕
上記視覚情報呈示装置では、始めに、道路地勢情報推定手段4が、車両1の直進方向Lと前方風景内における地平線Hの位置を推定し、直進方向Lと地平線Hの交点を消失点Pとして推定する。そして、視覚表示制御手段8が、図2に示すように、道路地勢情報推定手段4によって推定された消失点Pの位置近傍に対応するフロントウインドガラス11上の位置において運転者に視認目標を視認させるように視覚情報表示手段7を制御する。
【0019】
一般に、視認目標が表示されていない場合、運転者は、CPや有視界範囲内にあるカーブ路の先と地平線Hとの交点近傍,道路の先前方消失点近傍,カーブ路の外側等の位置を視認しながら運転している。従って、このような視認行動の範囲内において、視線移動量が小さい前方風景の地平線H上に視認目標を表示することにより、通常の視認行動と比較して運転者の視線は安定し、またこの結果、運転操舵の乱れを小さくして車両1の運転操作を容易にすることができる(この効果を実験によって検証した結果については後述する)。また、視認目標は運転者が視認目標自体を注視し続けてしまうような表示ではないので、運転者は視認目標に対し煩わしさを感じることはない。さらに、視認目標は車両1の前方位置に表示されるので、運転者は運転操作中においても容易に視認目標に対し視線を移動することができる。
【0020】
なお、視覚表示制御手段8は、自車走行状態推定手段2によって推定された車両1の走行状態に応じて視認目標を左右方向に移動させてもよい。具体的には、自車走行状態推定手段2が車両1の操舵角に基づいて車両1の進行方向Lが直進方向Lから左方向に角度αずれていると推定した場合、視覚表示制御手段8は、図3に示すように、車両1の進行方向Lと地平線Hの交点位置近傍に対応するフロントウインドガラス11上の位置Pおいて運転者に視認目標を視認させるように地平線H上の左方向に視認目標を移動制御する。
【0021】
このような構成によれば、車両1がカーブ路を走行しているような場合であっても、消失点Pの近傍領域において運転者視認目標を視認させることが可能になる。なおこの場合、自車走行状態推定手段2は、車両1の操舵角に加えて、重力センサやジャイロセンサを用いて車両1の操舵角に対応する前輪操舵タイヤの方向に対するスリップアングルを考慮して車両1の進行方向を算出するようにしてもよい。
【0022】
また、視覚表示制御手段8は、車両1が走行するカーブ路のCP近傍と運転者の眼球位置を結ぶ直線と地平線Hの交点近傍において運転者に視認目標を視認させるようにしてもよい。具体的には、この場合、始めに、自車走行状態推定手段2が、車両1の操舵角から車両1の進行方向を推定し、道路地勢情報推定手段4が、運転者の前方風景内における地平線Hの位置,車両1がこれから走行するカーブ路のCPの位置,車両1の位置及び直進方向を推定し、眼球位置推定手段5が、運転者の眼球位置を推定する。
【0023】
そして視覚表示制御手段8は、図4に示すように、CPと運転者の眼球位置を結ぶ直線Lと地平線Hの交点の位置Pを推定し、推定された交点P近傍において運転者に視認目標を視認させるように視覚情報表示手段7を制御する。なお、視覚表示制御手段8は、車両1が走行するカーブ路の内側車線に対する接線と地平線Hの交点近傍において運転者に視認目標を視認させるようにしてもよい。そしてこのような構成によれば、先が見えないブラインドカーブ等においても、違和感を感じさせることなく運転者に視認目標を視認させることができる。
【0024】
また、視覚表示制御手段8は、車両1の現在位置からCPまでの距離Dを算出し、算出された距離Dに応じて運転者に視認目標を視認させる位置を変化させてもよい。具体的には、距離Dが100[m]以上である場合(図5に示す点P7)、換言すれば、車両1の進行方向の直線路が十分に長い場合、視覚表示制御手段8は、車両1の直進方向Lと地平線Hの交点において運転者に視認目標を視認させる(図6参照)。また、距離Dが20[m]以上100[m]未満の範囲内にある場合(図5に示す点P1,P2,P4,P6)には、視覚表示制御手段8は、CP近傍と運転者の眼球位置を結ぶ直線と地平線Hの交点近傍において運転者に視認目標を視認させる(図6参照)。
【0025】
また、距離Dが20[m]未満である場合(図5に示す点P3,P5)には、視覚表示制御手段8は、処理対象とするCPを次のカーブ路のCPに切り替えて上述と同様の処理を行う(図7参照)。このような構成によれば、Sカーブ路等の切り返しにおいて、先のカーブ路のCP方向に視認目標を表示させることができるので、違和感を感じさせることなく運転者に視認目標を視認させることができる。なお、処理対象とするCPを次のカーブ路のCPに切り替えた際、視覚表示制御手段8は、直近のCPを車両1が通過するまで視認目標の表示を停止してもよい。
【0026】
また、視覚表示制御手段8は、カーブ路の曲率等の道路地勢情報や車速に応じて角度αを設定し、車両1の直進方向Lと視認目標の表示方向のなす角度θが角度αよりも大きい場合、車両1の直進方向Lに対して角度αとなる地平線H上の位置において運転者に視認目標を視認させるようにしてもよい。例えば、車両1が図5に示す点P4に到達した際に車両1の直進方向LとCP2方向のなす角度θが角度α以上になった場合、視覚表示制御手段8は、車両1の直進方向Lに対して角度αとなる地平線H上の位置に視認目標を保持する。そして、車両1の直進方向Lと処理対象のCP方向のなす角度θが角度α以下になったタイミングにおいて、視覚表示制御手段8は、車両1の直進方向Lに対して角度θとなる地平線H上の位置において運転者に視認目標を視認させる。このような構成によれば、車両1がブラインドコーナーやカーブ路を走行している場合や操舵角が大きい場合において、視認目標の表示位置が車両1の進行方向に対して左右に大きく移動することによって旋回方向に対して乖離することを防止できる。また、車両1の速度に応じて視認目標の表示位置の左右方向の角度が変化するので、運転者が視認目標に対して違和感や煩わしさを感じることを防止できる。
【0027】
また、視覚表示制御手段8は、自車走行状態推定手段2及び道路地勢情報推定手段4の推定結果を参照して、図8に示すように車両1が走行している道路の斜度βと車両1の走行が予測される先の道路の斜度γを推定し、図9に示すように斜度の変化量及び車両1の現在位置から斜度が変化する位置までの距離に応じて視認目標の表示/非表示を切り替えてもよい。具体的には、図8,9に示す例では、視覚表示制御手段8は、車両1の現在位置から(斜度β−斜度γ)の値が所定値以上になる点までの距離を推定し、推定された距離が所定距離Da以下になった場合、換言すれば、車両1が斜度が大きく変化する点に接近したタイミングにおいて視認目標を非表示にする。このような構成によれば、車両1が走行している道路の起伏の影響によって運転者が視認目標に対して違和感や煩わしさを感じることを防止できる。
【0028】
また、視覚表示制御手段8は、自車走行状態推定手段2の推定結果を参照して、車両1のロール方向及びピッチ方向の姿勢から地上基準の水平線に対する車両1の傾きを推定し、車両1の傾きを考慮して前方風景における地平線Hの位置を推定し、推定された地平線H上に視認目標を表示してもよい。なお、視覚表示制御手段8は前方撮像カメラによって撮像された前方風景画像から地平線Hの位置を推定してもよい。このような構成によれば、車両1の姿勢が変化した際における前方風景に対する視認目標の位置ずれを小さくし、運転者に違和感を感じさせることなく視認目標を視認させることができる。
【0029】
また、視覚表示制御手段8は、車外環境によって運転者が視認目標に対して違和感や煩わしさを感じることを避けるために、車内外環境推定手段6によって推定された前方風景の状態に応じて視認目標の表示のコントラスト,色,形状,及び大きさを変化させてもよい。具体的には、視覚表示制御手段8は、車外環境の明るさに応じて、視覚目標の表示のコントラストを暗い,標準,明るいの3段階の間で変化させてもよい。また、視覚表示制御手段8は、道路地勢情報推定手段4によって推定された車両1の位置,方位,エリア,時刻等に応じて視覚表示のコントラストを変化させてもよい。また、視覚表示制御手段8は、前方撮像カメラによって撮影された前方風景の色及びコントラストを参照して前方風景に対して視認性が向上する色,コントラスト,形状,大きさに視認目標の表示形態を制御してもよい。また、視覚表示制御手段8は、車両1前方に存在する障害物と車両1間の距離が所定距離以下である場合や前方風景画像内における障害物画像の割合が所定値以上である場合において、視認目標の表示位置が障害物の位置と重ならないように距離や先行車両画像割合に応じて視認目標の表示を禁止してもよい。
【0030】
また、視覚表示制御手段8は、自車走行状態推定手段2と道路地勢情報推定手段4の推定結果を参照して、車両1の速度が所定速度以下、且つ、車両1がウィンカー信号を発している又は右左折レーンを走行しているか否かを判別することにより、車両1が右左折待ち状態にあるか否かを判別し、車両1が右左折待ち状態にある場合、視認目標の表示を禁止してもよい。また、視覚表示制御手段8は、車両1の速度が所定速度以下である場合、視認目標の表示を禁止してもよい。このような構成によれば、煩わしさや違和感を感じさせることなく運転者に視認目標を視認させることができる。
【0031】
また、視覚表示制御手段8は、眼球位置推定手段5によって推定された運転者の眼球位置から、運転者が前方から視線を外し、視認目標を視認していないと推定された場合、視認目標のコントラストを強調表示したり、視認目標の色を変更したり、視認目標を強調表示又は見やすくしたりして、運転者の視線が視認目標に容易に復帰しやすくするようにしてもよい。またこの場合、視覚表示制御手段8は、運転者が前方から視線を外している時間を算出し、算出された時間が運転操作に影響を及ぼす可能性がある所定時間以上となった場合において、視認目標を強調表示してもよい。また、視覚表示制御手段8は、運転者の顔画像を解析することにより運転者の覚醒度が低下していると判断された場合において、同様の処理を実行するようにしてもよい。また、視覚表示制御手段8は、運転者が前方から視線を外し、視認目標を視認していないと推定された場合、視認目標は不要であると判断し、視認目標の表示を禁止してもよい。
【0032】
〔実験例〕
最後に、本発明の実施形態となる視覚情報呈示装置の技術的効果を検証するために、運転走行中における運転者の視覚行動と運転操舵の安定性についての実験結果を図10(a),(b)に示す。
【0033】
図10(a)は、本発明の実施形態となる視覚情報呈示装置を用いることなく夜間走行を行った時の運転操舵の乱れを示し、縦軸及び横軸はそれぞれ操舵角と走行時間を示す。また、図10(b)は、本発明の実施形態となる視覚情報呈示装置を用いて夜間走行を行った時、すなわち前方風景の消失点P近傍に視認目標を表示した状態で夜間走行を行った時の運転操舵の乱れを示し、縦軸及び横軸はそれぞれ操舵角と走行時間を示す。
【0034】
図10(a)と図10(b)の比較から明らかなように、前方風景の消失点P近傍に視認目標を表示した場合には運転操舵の乱れが減少する。またこの時の視認行動の差異を検証した結果、前方風景の消失点P近傍に視認目標を表示するか否かに応じて、視線移動の頻度と移動量に差異が生じることが明らかになった。したがって、視線移動の頻度及び移動量と運転操舵の乱れとの間に強い相関関係があることがわかった。
【0035】
なお、上記実験例は、夜間走行時を比較したものであるが、昼間走行時についても同様の傾向が見られた。また、車速域が高速域であるか低速域であるかに係わらず、視線行動と運転操舵の乱れにおいて同様の傾向が見られ、視認目標が消失点P近傍領域に表示されると、視線移動の頻度及び移動量が減少することによって運転操舵の乱れが減少する同様の傾向が見られた。
【0036】
一方、消失点Pの近傍領域以外の領域に視認目標を表示した場合には、視認目標を表示しなかった場合と比較して運転操舵の乱れが減少する傾向は顕著に見られなかった。これは、視認目標の表示位置は消失点Pが存在する地平線Hに対する上下方向の位置が重要であり、地平線Hよりも下方に視認目標の位置があると、視認位置におけるオプティカルフローが速くなり、オプティカルフローに視線が誘引されることによって視線が不安定になるためと考えられる。
【0037】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施の形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。例えば、視覚表示制御手段8は、各種レーダ,距離センサ,前方撮像カメラ等の装置を利用して車両1の周辺を走行している他車両の走行状態を推定し、車両1の前方を走行している先行車両と車両1の車間距離が所定距離以下である場合や前方風景画像内における先行車両画像の割合が所定値以上である場合において、運転者が視認目標の表示を煩わしく感じたり、視認目標に対して違和感を感じたりすることを避けるために、視認目標の表示位置が先行車両の位置と重ならないように車間距離や先行車両画像割合に応じて視認目標の表示を禁止してもよい。また、視覚表示制御手段8は、車両1の後方から後続車が接近したり、車両1を追い越すために他車両が車両1に接近している場合において、運転者が他車両の接近を煩わしさを感じることなく容易に察知することができるように、視認目標を強調表示したり、視認目標の表示を禁止したりする等、視認目標の表示方法を変化させてもよい。また、図4,図5に示すようなカーブ路と図8に示すような起伏が同時に存在する道路を車両1が走行している場合には、カーブ路と起伏の両方を考慮して視認目標の表示位置及び表示形態を決定するようにしてもよい。このように、この実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態となる視覚情報呈示装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態となる視認目標の表示方法を説明するための模式図である。
【図3】本発明の他の実施形態となる視認目標の表示方法を説明するための模式図である。
【図4】本発明の他の実施形態となる視認目標の表示方法を説明するための模式図である。
【図5】本発明の他の実施形態となる視認目標の表示方法を説明するための模式図である。
【図6】図5に示す視認目標の表示方法を説明するための模式図である。
【図7】図5に示す視認目標の表示方法を説明するための模式図である。
【図8】本発明の他の実施形態となる視認目標の表示方法を説明するための模式図である。
【図9】図8に示す視認目標の表示方法を説明するための模式図である。
【図10】本発明の実施形態となる視覚情報呈示装置の技術的効果を説明するための実験例を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1:車両
2:自車走行状態推定手段
3:他車走行状態推定手段
4:道路地勢情報推定手段
5:眼球位置推定手段
6:車内外環境推定手段
7:視覚情報表示手段
8:視覚表示制御手段
11:フロントウインドウガラス
H:地平線
L:車両直進方向
P:消失点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転者の前方視野内に視認目標を表示する表示手段と、
前記視認目標の表示位置を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記視認目標が前方風景の水平方向基準線上に重畳表示されるように視認目標の位置を制御することを特徴とする視覚情報呈示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の視覚情報呈示装置であって、前記制御手段は、前方風景の消失点の近傍領域に視認目標を重畳表示させることを特徴とする視覚情報呈示装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の視覚情報呈示装置であって、前記車両の走行状態を推定する自車走行状態推定手段を備え、前記制御手段は、前記自車走行状態推定手段により推定された車両の走行状態に応じて前記視認目標の位置を左右方向に移動することを特徴とする視覚情報呈示装置。
【請求項4】
請求項3に記載の視覚情報呈示装置であって、前記車両が走行している道路の地勢情報を推定する道路地勢情報推定手段と、前記運転者の眼球位置を推定する眼球位置推定手段とを備え、前記制御手段は、前記自車走行状態推定手段、前記地勢情報推定手段、及び前記眼球位置推定手段によって推定された車両の走行状態、道路の地勢情報、及び運転者の眼球位置に基づいて車両が走行しているカーブ路のクリッピングポイントと運転者の眼球位置を結ぶ直線と前方風景内の水平方向基準線との交点を推定し、前記視認目標が推定された交点近傍に重畳表示されるように視認目標の位置を制御することを特徴とする視覚情報呈示装置。
【請求項5】
請求項4に記載の視覚情報呈示装置であって、前記制御手段は、前記自車走行状態推定手段と前記道路地勢情報推定手段の推定結果を参照して、車両の直進方向と視認目標の表示方向がなす角度が車両の速度又は車両が走行している道路の地勢情報に応じて設定された角度以上になると判断した場合、車両の直進方向となす角度が設定された角度になる方向の位置に視認目標を重畳表示させることを特徴とする視覚情報呈示装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の視覚情報呈示装置であって、前記制御手段は、前記自車走行状態推定手段と前記道路地勢情報推定手段の推定結果を参照して車両が走行している道路の斜度と車両の走行が予測される道路の斜度を推定し、斜度の変化量及び車両の位置から斜度が変化する位置までの距離に応じて視認目標の表示/非表示を切り替えることを特徴とする視覚情報呈示装置。
【請求項7】
請求項4乃至請求項6のうち、いずれか1項に記載の視覚情報呈示装置であって、前記制御手段は、前記眼球位置推定手段により推定された運転者の眼球位置に応じて視認目標の表示位置を制御することを特徴とする視覚情報呈示装置。
【請求項8】
請求項4乃至請求項7のうち、いずれか1項に記載の視覚情報呈示装置であって、前記制御手段は、前記自車走行状態推定手段と前記道路地勢情報推定手段の推定結果を参照して車両の走行姿勢を推定し、推定された走行姿勢に応じて視認目標の表示位置を制御することを特徴とする視覚情報呈示装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のうち、いずれか1項に記載の視覚情報呈示装置であって、前記車両の内外環境状態を推定する車内外環境推定手段を備え、前記制御手段は、車内外環境推定手段により推定された車両の内外環境状態に応じて視認目標の表示形態を変化させることを特徴とする視覚情報呈示装置。
【請求項10】
請求項4乃至請求項9のうち、いずれか1項に記載の視覚情報呈示装置であって、前記制御手段は、前記自車走行状態推定手段と前記道路地勢情報推定手段により推定された車両の走行状態に応じて視認目標の表示/非表示を切り替えることを特徴とする視覚情報呈示装置。
【請求項11】
請求項4乃至請求項10のうち、いずれか1項に記載の視覚情報呈示装置であって、前記制御手段は、前記眼球位置推定手段により推定された運転者の眼球位置から運転者の視認状態を推定し、推定された視認状態に応じて視認目標の表示形態を変化させることを特徴とする視覚情報呈示装置。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11のうち、いずれか1項に記載の視覚情報呈示装置であって、前記車両の周囲を走行する他車両の走行状態を推定する他車走行状態推定手段を備え、前記制御手段は、前記他車走行状態推定手段により推定された他車両の走行状態に応じて視認目標の表示形態を変化させることを特徴とする視覚情報呈示装置。
【請求項13】
運転者の前方視野内に視認目標を呈示することにより運転者の視線の安定化を図る視覚情報呈示方法であって、
前記視認目標が前方風景の水平方向基準線上に重畳表示されるように視認目標の位置を制御するステップを有すること
を特徴とする視覚情報呈示方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−230491(P2007−230491A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57702(P2006−57702)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】