説明

誘電体磁器組成物および電子部品

【課題】絶縁抵抗および加速寿命の向上が可能な誘電体磁器組成物、およびこの誘電体磁器組成物を誘電体層として有する電子部品を提供すること。
【解決手段】チタン酸バリウムを含む主成分と、第1副成分と、第2副成分と、第3副成分と、Mn、Cr、CoおよびFeから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む第4副成分と、第5副成分と、を有する誘電体磁器組成物であって、前記誘電体磁器組成物を構成する誘電体粒子が、主成分で実質的に構成される主成分相と、前記主成分相の周囲に、前記副成分のうち少なくとも1種が拡散した拡散相と、を有し、前記主成分相における前記第4副成分の含有割合が、前記拡散相における第4副成分の含有割合に比べ高いことを特徴とする誘電体磁器組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐還元性を有する誘電体磁器組成物、およびこの誘電体磁器組成物を誘電体層に有する電子部品に係り、さらに詳しくは、定格電圧の高い(たとえば100V以上)中高圧用途に好適に用いられる誘電体磁器組成物および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の一例である積層セラミックコンデンサは、たとえば、所定の誘電体磁器組成物からなるセラミックグリーンシートと、所定パターンの内部電極層とを交互に重ね、その後一体化して得られるグリーンチップを、同時焼成して製造される。積層セラミックコンデンサの内部電極層は、焼成によりセラミック誘電体と一体化されるために、セラミック誘電体と反応しないような材料を選択する必要があった。このため、内部電極層を構成する材料として、従来では白金やパラジウムなどの高価な貴金属を用いることを余儀なくされていた。
【0003】
しかしながら、近年ではニッケルや銅などの安価な卑金属を用いることができる誘電体磁器組成物が開発され、大幅なコストダウンが実現した。
【0004】
一方、電子回路の高密度化に伴う電子部品の小型化に対する要求は高く、積層セラミックコンデンサの小型・大容量化が急速に進んでいる。それに伴い、積層セラミックコンデンサにおける1層あたりの誘電体層の薄層化が進み、薄層化してもコンデンサとしての信頼性を維持できる誘電体磁器組成物が求められている。特に、高い定格電圧(たとえば、100V以上)で使用される中高圧用コンデンサの小型・大容量化には、誘電体層を構成する誘電体磁器組成物に対して非常に高い信頼性が要求される。
【0005】
これに対して、たとえば、特許文献1には、高周波交流用または直流中高圧用の分野に対応可能な耐還元性誘電体セラミックとして、一般式:ABO+aR+bM(Rは、La等の元素を含む化合物であり、Mは、Mn等の元素を含む化合物であり、1.000<A/B≦1.035、0.005≦a≦0.12、0.005≦b≦0.12である。)で表わされるチタン酸バリウムを主成分とする固溶体と焼結助剤とから構成される耐還元性誘電体セラミックが開示されている。この特許文献1では、高周波かつ高電圧あるいは大電流下での使用時の損失および発熱が小さく、また、交流高温負荷または直流高温負荷において、安定した絶縁抵抗を示す耐還元性誘電体セラミックを提供することを目的としている。
【0006】
しかしながら、この特許文献1では、寿命特性(絶縁抵抗の加速寿命)が未だ十分でなく、そのため、信頼性に劣るという問題があった。特に、この問題は、積層セラミックコンデンサを小型・大容量化した場合に顕著となるため、小型・大容量化を達成するためには、寿命特性の向上が望まれていた。また、この特許文献1では、広範な組成を開示しているものの、この広範な組成を構成する各成分の添加効果について全く記載されておらず、そのため、所望の特性を得るためには、いかなる組成を採用すれば良いかについて必ずしも明らかではなかった。
【0007】
一方、特許文献2では、容量温度特性を維持しながら、他の電気特性を改善するために、誘電体粒子を、強誘電体相のコアと、BaTiOにMgと希土類元素が拡散した常誘電体相のシェルとからなるコア−シェル構造を有し、シェル部分を拡散成分の異なる2つの部分で形成した誘電体磁器組成物が開示されている。この文献では、このようなコア−シェル構造を形成するために、BaTiOとMgOとを予め仮焼する方法や、BaTiOと希土類の酸化物とを予め仮焼する方法、さらには、BaTiOとMgOと希土類の酸化物とを予め仮焼する方法などが採用されている。しかしながら、この特許文献2においても、寿命特性が十分ではなく、そのため、寿命特性の改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−50536号公報
【特許文献2】特開2001−240466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、絶縁抵抗および加速寿命の向上が可能な誘電体磁器組成物、およびこの誘電体磁器組成物を誘電体層として有する電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明によれば、チタン酸バリウムを含む主成分と、
BaZrOを含む第1副成分と、
Mgの酸化物を含む第2副成分と、
Rの酸化物(ただし、Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種)を含む第3副成分と、
Mn、Cr、CoおよびFeから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む第4副成分と、
Si、Li、Al、GeおよびBから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む第5副成分と、を有する誘電体磁器組成物であって、
前記主成分100モルに対する、各副成分の酸化物または複合酸化物換算での比率が、
第1副成分:9〜13モル、
第2副成分:2.7〜5.7モル、
第3副成分:4.5〜5.5モル、
第4副成分:0.1〜0.5モル、
第5副成分:3.0〜3.9モル、
であり、
前記誘電体磁器組成物を構成する誘電体粒子が、主成分で実質的に構成される主成分相と、前記主成分相の周囲に、前記副成分のうち少なくとも1種が拡散した拡散相と、を有し、
前記誘電体粒子の粒径をDとした場合に、粒子表面からの深さが前記粒径Dの5%である深さTにおける前記第5副成分の含有割合が、Si、Li、Al、GeまたはB換算で、0.1原子%より多く、1.3原子%未満であり、
前記主成分相における前記第4副成分の含有割合が、前記拡散相における第4副成分の含有割合に比べ高いことを特徴とする誘電体磁器組成物が提供される。
ここで、「主成分で実質的に構成される主成分相」とは、主成分相には、主成分以外にも第1〜第5副成分、特に第4副成分を含んでいてもよいという意味である。
【0011】
また、本発明によれば、誘電体層と内部電極層とを有する電子部品であって、前記誘電体層が、上記誘電体磁器組成物で構成された電子部品が提供される。
本発明に係る電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【0012】
本発明の誘電体磁器組成物は、チタン酸バリウムを含む主成分に対し、上記特定の第1〜第5副成分を上記所定量含有し、かつ、誘電体磁器組成物を構成する誘電体粒子が、主成分で実質的に構成される主成分相と前記主成分相の周囲に拡散相とを有し、粒子表面からの深さが前記粒径Dの5%である深さTにおける前記第5副成分の含有割合が所定の範囲に制御され、主成分相と拡散相における第4副成分の含有割合が所定の範囲に制限されている。そのため、絶縁抵抗および加速寿命を優れたものとすることができる。
【0013】
そして、本発明の誘電体磁器組成物は上記特性を有するため、積層セラミックコンデンサなどの電子部品の誘電体層に、このような本発明の誘電体磁器組成物を適用することにより、たとえば、誘電体層を20μm程度と薄層化し、定格電圧の高い(たとえば100V以上、特に250V以上)中高圧用途に用いた場合においても、高い信頼性を実現することができる。すなわち、小型・大容量化対応で、しかも高い信頼性を有する中高圧用途の電子部品を提供することができる。
【0014】
好ましくは、前記誘電体粒子の主成分相の直径をdとし、
前記主成分相と拡散相の境界から誘電体粒子の中心に向かって前記直径dの5%である深さをtとし、
前記主成分相と拡散相の境界から誘電体粒子の中心に向かって前記直径dの20%である深さをt20とした場合に、
前記深さt20における前記第4副成分の含有割合が、前記深さtにおける第4副成分の含有割合に比べ高い。
【0015】
好ましくは、さらに、V、MoおよびWから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む第6副成分を含み、前記主成分100モルに対する、第6副成分の酸化物または複合酸化物換算での比率が0.01〜0.1モルである。
【0016】
本発明の誘電体磁器組成物を製造する方法としては、
前記主成分と、前記誘電体磁器組成物に含有されることとなる第4副成分の原料のうち少なくとも一部と、を保持温度を800〜1050℃として仮焼きする工程を有する誘電体磁器組成物の製造方法、または、
前記主成分の原料と、前記誘電体磁器組成物に含有されることとなる第4副成分の原料のうち少なくとも一部と、前記誘電体磁器組成物に含有されることとなる第6副成分の原料のうち少なくとも一部と、を保持温度を800〜1050℃として仮焼きする工程を有する誘電体磁器組成物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2は図1に示す誘電体層2の要部拡大断面図である。
【図3】図3は誘電体粒子の粒子内構造を説明するための概念図である。
【図4】図4は本発明の実施例における誘電体粒子の各元素の含有量の測定方法を説明するためのTEM写真である。
【図5】図5(A)は本発明の実施例における誘電体粒子に含まれる各元素の含有割合を示すグラフであり、図5(B)は図5(A)の一部の元素の含有割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
積層セラミックコンデンサ1
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。このコンデンサ素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0019】
内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。また、一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0020】
誘電体層2
誘電体層2は、本実施形態の誘電体磁器組成物を含有する。
本実施形態の誘電体磁器組成物は、チタン酸バリウムを含む主成分と、
BaZrOを含む第1副成分と、
Mgの酸化物を含む第2副成分と、
Rの酸化物(ただし、Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種)を含む第3副成分と、
Mn、Cr、CoおよびFeから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む第4副成分と、
Si、Li、Al、GeおよびBから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む第5副成分と、を有する。
なお、好ましくは、さらに、V、MoおよびWから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む第6副成分を有する。
【0021】
主成分として含有されるチタン酸バリウムとしては、たとえば、組成式BaTiO2+m で表され、前記組成式中のmが、0.990<m<1.010であり、BaとTiとの比が0.990<Ba/Ti<1.010であるものなどを用いることができる。
【0022】
第1副成分(BaZrO)の含有量は、主成分100モルに対して、BaZrO換算で、9〜13モルであり、好ましくは10〜13モルである。第1副成分は、主に、主成分であるチタン酸バリウムの強誘電性を抑制する効果を有する。第1副成分の含有量がこの範囲内であることにより、絶縁抵抗、加速寿命および比誘電率が向上する傾向となる。なお、第1副成分であるBaZrOは、Zrのうち一部が、Hfにより置換されたものであっても良い。Zrに対するHfの置換量の上限は、通常5%程度である。
【0023】
第2副成分(Mgの酸化物)の含有量は、主成分100モルに対して、MgO換算で、2.7〜5.7モルであり、好ましくは4〜5.7モルである。第2副成分は、主に、主成分であるチタン酸バリウムの強誘電性を抑制する効果を有する。第2副成分の含有量がこの範囲内であることにより、絶縁抵抗、加速寿命、比誘電率、DCバイアス特性および温度特性が向上する傾向となる。
【0024】
第3副成分(Rの酸化物)の含有量は、主成分100モルに対して、R換算で、4.5〜5.5モルであり、好ましくは4.75〜5.5モルである。第3副成分は、主に、主成分であるチタン酸バリウムの強誘電性を抑制する効果を有する。第3副成分の含有量がこの範囲内であることにより、絶縁抵抗、加速寿命および比誘電率が向上する傾向となる。なお、上記Rの酸化物を構成するR元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種が好ましく、Gdが特に好ましい。
【0025】
第4副成分(Mn、Cr、CoおよびFeの酸化物)の含有量は、主成分100モルに対して、MnO、Cr、CoまたはFe換算で、0.1〜0.5モルであり、好ましくは0.3〜0.45モルである。第4副成分の含有量がこの範囲内であることにより、絶縁抵抗、加速寿命、比誘電率およびDCバイアス特性が向上する傾向となる。
【0026】
第5副成分(Si、Li、Al、GeおよびBの酸化物)の含有量は、主成分100モルに対して、SiO、Li、Al、GeまたはB換算で、3.0〜3.9モルである。第5副成分の含有量がこの範囲内であることにより、絶縁抵抗、加速寿命および比誘電率が向上する傾向となる。なお、第5副成分としては、上記各酸化物のなかでも特性の改善効果が大きいという点より、Siの酸化物を用いることが好ましい。
【0027】
第6副成分(V、MoおよびWの酸化物)の含有量は、主成分100モルに対して、第6副成分の酸化物または複合酸化物換算での比率が、0.01〜0.1モルである。加速寿命は酸素欠陥を補償する元素として知られている。本実施形態では、第4副成分を主成分相に拡散することで同時に第6副成分を主成分相に効率的に拡散させることができる。このため、第6副成分の含有量がこの範囲内であることにより、絶縁抵抗および加速寿命が向上する傾向となる。
【0028】
なお、本実施形態においては、必要に応じて、上記第1〜第6副成分に加えて、その他の副成分を添加しても良い。
【0029】
誘電体層2の厚みは、特に限定されず、積層セラミックコンデンサ1の用途に応じて適宜決定すれば良い。
【0030】
誘電体層2の微細構造
図2に示すように、誘電体層2は、誘電体粒子(結晶粒)2aと、隣接する複数の誘電体粒子2a間に形成された結晶粒界(粒界相)2bとを含んで構成される。この誘電体粒子2aは、主に、主成分であるチタン酸バリウムで構成されている粒子であり、本実施形態の誘電体粒子2aは、図3に示すように、主成分であるチタン酸バリウムで実質的に構成される主成分相と、前記主成分相の周囲に、前記副成分のうち少なくとも1種が拡散した拡散相とを有する。なお、図3は、図2における誘電体粒子2aの粒子内構造を説明するための概念図である。
【0031】
拡散相は、主成分であるチタン酸バリウムに、上記した副成分のうち少なくとも1種が拡散することにより形成されていれば良いが、本実施形態では、少なくとも第3副成分および第5副成分が拡散することにより形成されていることが好ましい。拡散相は、拡散成分がほぼ均一に拡散した単一の相であっても良く、あるいは、異なる拡散成分から形成される複数の相であっても良く、さらには、拡散成分の含有割合が粒子内部に向かって除々に変化する態様であっても良い。
【0032】
本実施形態における主成分相と拡散相の境界は、たとえば図4に示すような誘電体粒子のTEM写真における粒子内部に見られる境界により判断してもよいが、図5(A)(B)に示すように、Zr元素の含有割合の変化により判断することが好ましい。すなわち、本実施形態における誘電体粒子ではZr元素は主成分相に比べ拡散相に多く含まれる傾向にあることが確認されている。このため、Zr元素の含有割合が高い部分を「拡散相」、Zr元素の含有割合が低い部分を「主成分相」、Zrの含有割合が変化する部分を「主成分相と拡散相の境界」と定義する。
【0033】
Zrの含有割合の変化を確認する方法としては特に限定されないが、たとえば、TEM(透過型電子顕微鏡)によるエネルギー分散型X線分光法などにより、誘電体粒子について所定間隔で元素の含有量を測定することにより判断する方法が挙げられる。
【0034】
また、誘電体粒子2aの粒径Dの長さを100%とした場合における、粒子表面からの拡散相の深さTは特に限定されないが、たとえば、誘電体粒子2aをその中心部分を通るように切断した場合における切断面において、主成分相と拡散相との割合が、3:7〜7:3となるようにすることが好ましい。この場合における粒子表面からの拡散相の深さTは、粒径Dの長さを100%とした場合に、好ましくは7.0〜25.0%である。
【0035】
誘電体粒子2aの粒径D、拡散相の深さTまたは後述する誘電体粒子2aの主成分相の直径dを測定する方法としては、特に限定されないが、たとえば、TEMによる線分析により測定することができる。線分析の具体的な方法としては、まず、誘電体粒子2aに対して、誘電体粒子2aの略中心を通るように粒子の端から端まで一直線になるようにTEMで線分析を行う。その後90度ずらして同一の粒子に対して、線分析を行い、これらの結果を平均することにより求めることができる。
【0036】
本実施形態においては、図3に示すように、誘電体粒子2aの拡散相中において、粒子表面からの深さが粒径Dの5%である深さTにおける第5副成分の含有割合が、所定の範囲となるように制御されている。具体的には、深さTにおける第5副成分の含有割合が、Si、Li、Al、GeまたはB元素換算で、0.1原子%より多く、1.3原子%未満であり、好ましくは0.3原子%以上、1.0原子%以下である。
【0037】
本実施形態では、誘電体粒子2aを、図3に示すように、主成分相と拡散相とを有する構成とし、さらに、粒径Dの5%である深さTにおける第5副成分の割合を上記範囲に制御することにより、電歪特性、比誘電率および容量温度特性を良好に保ちながら、DCバイアス特性(静電容量の直流電圧印加依存性)および絶縁抵抗の加速寿命の向上が可能となる。粒径Dの5%である深さTにおける第5副成分の割合が少なすぎると、上記効果が得られず、DCバイアス特性および絶縁抵抗の加速寿命に劣る結果となる。一方、深さTにおける第5副成分の割合が多すぎると、比誘電率が低下してしまう。
【0038】
また、本実施形態においては、図3に示すように、誘電体粒子2aの主成分相中における第4副成分の含有割合(CTc)は、前記拡散相における第4副成分の含有割合(CTd)に比べ高く、好ましくはCTc/CTdが1.5〜4.0、より好ましくは2.0〜3.0である。CTc/CTdをこの範囲とすることで、絶縁抵抗および加速寿命を向上させることができる。
【0039】
さらに、本実施形態においては、図3に示すように、誘電体粒子2aの主成分相の直径dの長さを100%とし、前記主成分相と拡散相の境界からの誘電体粒子の中心に向かって前記直径dの5%である深さをtとし、前記主成分相と拡散相の境界から誘電体粒子の中心に向かって前記直径dの20%である深さをt20とする。本実施形態では、前記深さt20における前記第4副成分の含有割合(Ct20)が、前記深さtにおける第4副成分の含有割合(Ct5)に比べて高く、より好ましくは、Ct20/Ct5が2.0〜4.0である。Ct20/Ct5をこの範囲とすることで加速寿命を向上させることができる。
【0040】
なお、Ct5またはCt20はCTcに含まれる概念である。すなわちCt5またはCt20がCTdより高いということは、CTcはCTdより高いということである。
【0041】
深さTにおける第5副成分の割合、深さTd、tまたはt20における第4副成分の割合を測定する方法としては、特に限定されないが、たとえば、透過型電子顕微鏡(TEM)によるエネルギー分散型X線分光法(EDX)により、測定することができる。
【0042】
誘電体粒子2aの粒径D、誘電体粒子2aの主成分相の直径dは、図2に示す断面において、コード法により算出する。
【0043】
誘電体粒子2aを、上記構成とする方法としては特に限定されないが、たとえば、後述するように、第3副成分の原料と第5副成分の原料とを予め仮焼して第1仮焼物を得て、これとは別に、主成分原料と第4副成分の原料を予め仮焼きして第2仮焼物を得て、得られた第1仮焼物と、第2仮焼物と、その他の副成分原料と、を混合し、その後焼成する方法などが挙げられる。
【0044】
内部電極層3
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層2の構成材料が耐還元性を有するため、比較的安価な卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。また、内部電極層3は、市販の電極用ペーストを使用して形成してもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0045】
外部電極4
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本発明では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0046】
積層セラミックコンデンサ1の製造方法
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0047】
まず、誘電体層用ペーストに含まれる誘電体原料(誘電体磁器組成物粉末)を準備し、
これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0048】
誘電体原料としては、上記した主成分および副成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。誘電体原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上記した誘電体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。塗料化する前の状態で、誘電体原料の粒径は、通常、平均粒径0.1〜1μm程度である。
【0049】
本実施形態においては、上記誘電体磁器組成物粉末を調製する際には、第3副成分の原料と第5副成分の原料とを予め仮焼し、第1仮焼物を得ておくことが好ましい。第3副成分は主成分に固溶し易く、一方で、第5副成分は主成分に固溶し難いという性質を有する。そのため、第3副成分の原料と第5副成分の原料とを予め仮焼しておくことにより、第5副成分を主成分に対して固溶し易くすることができる。そして、その結果として、誘電体層2を構成する誘電体粒子2aを上記した構成とすることができる。
【0050】
第3副成分の原料と第5副成分の原料とを仮焼する際における条件は、雰囲気を空気中とし、仮焼温度を好ましくは650〜1050℃、より好ましくは800〜1000℃とする。また、仮焼時間は、好ましくは1〜10時間とする。仮焼温度または仮焼時間をこの範囲にすることで、深さTにおける第5副成分の含有割合を上記した含有割合にすることができ、その結果、絶縁抵抗および加速寿命が向上する傾向となる。
【0051】
なお、第3副成分の原料と第5副成分の原料とを予め仮焼する際には、誘電体層2に添加する第3副成分、第5副成分の全量を必ずしも仮焼する必要はなく、少なくとも一部を仮焼する方法を採用しても良い。また、これらを仮焼する際には、必要に応じてその他の副成分も同時に仮焼しても良い。ただし、仮焼の効果を高めるという観点より、第3副成分の原料と第5副成分の原料とを仮焼する際には、その他の副成分については含めずに仮焼することが好ましい。
【0052】
本実施形態においては、上記誘電体磁器組成物粉末を調製する際には、主成分の原料と、第4副成分の原料のうち少なくとも一部と、を予め仮焼して第2仮焼物を得ておくことが好ましい。このようにすることで、第4副成分を主成分に固溶させることができる。また、より好ましくは、主成分の原料と、前記誘電体磁器組成物に含有されることとなる第4副成分の原料のうち少なくとも一部と、前記誘電体磁器組成物に含有されることとなる第6副成分の原料のうち少なくとも一部と、を予め仮焼して第2仮焼物を得ておく。加速寿命は酸素欠陥を補償する元素として知られている。本実施形態では、第4副成分を主成分相に拡散することで同時に第6副成分を主成分相に効率的に拡散させることができる。このため、主成分の原料と、第4副成分の原料の少なくとも一部と、第6副成分の原料の少なくとも一部と、を予め仮焼しておくことで、絶縁抵抗および加速寿命が向上する傾向となる。
【0053】
主成分の原料と第4副成分の原料の少なくとも一部、または主成分の原料と第4副成分の原料の少なくとも一部と第6副成分の原料の少なくとも一部とを仮焼して第2仮焼物を得る際の仮焼温度は好ましくは800〜1050℃、より好ましくは950〜1020℃とである。仮焼温度をこの範囲内にすることで、前記深さtにおける前記第4副成分の含有割合(Ct5)と前記拡散相における第4副成分の含有割合(CTd)が上記した比率となり、その結果、絶縁抵抗および加速寿命が向上する傾向となる。
【0054】
また、第2仮焼物を得るための仮焼時間は、好ましくは2〜10時間、より好ましくは5〜7である。仮焼時間をこの範囲内にすることで、前記深さtにおける前記第4副成分の含有割合(Ct5)と前記拡散相における第4副成分の含有割合(CTd)が上記した比率となり、その結果、絶縁抵抗および加速寿命が向上する傾向となる。
【0055】
さらに、第2仮焼物を得るための仮焼の雰囲気は空気中であることが好ましい。
【0056】
なお、主成分の原料と第4副成分の原料の少なくとも一部、または主成分の原料と第4副成分の原料の少なくとも一部と第6副成分の原料の少なくとも一部とを仮焼して第2仮焼物を得る際には、誘電体層2に添加する第4副成分または第6副成分の全量を必ずしも仮焼する必要はなく、少なくとも一部を仮焼する方法を採用しても良い。また、これらを仮焼する際には、必要に応じてその他の副成分も同時に仮焼しても良い。ただし、仮焼の効果を高めるという観点より、主成分の原料と第4副成分または第6副成分の原料とを仮焼する際には、その他の副成分については含めずに仮焼することが好ましい。
【0057】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0058】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0059】
内部電極層用ペーストは、上記した各種導電性金属や合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。
【0060】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0061】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。電極ペーストとしては、市販のものを使用しても良い。
【0062】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0063】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層してグリーンチップとする。
【0064】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5〜300℃/時間、保持温度を好ましくは180〜400℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜24時間とする。また、雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とする。
【0065】
グリーンチップ焼成時の雰囲気は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は、10−14〜10−10MPaとすることが好ましい。酸素分圧が上記範囲未満であると、内部電極層の導電材が異常焼結を起こし、途切れてしまうことがある。また、酸素分圧が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にある。
【0066】
また、焼成時の保持温度は、好ましくは1000〜1400℃、より好ましくは1100〜1360℃である。保持温度が上記範囲未満であると緻密化が不十分となり、前記範囲を超えると、内部電極層の異常焼結による電極の途切れや、内部電極層構成材料の拡散による容量温度特性の悪化、誘電体磁器組成物の還元が生じやすくなる。
【0067】
これ以外の焼成条件としては、昇温速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間、温度保持時間を好ましくは0.5〜8時間、より好ましくは1〜3時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間とする。また、焼成雰囲気は還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることができる。
【0068】
還元性雰囲気中で焼成した後、コンデンサ素子本体にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これにより寿命を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0069】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10−9〜10−5MPaとすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲未満であると誘電体層の再酸化が困難であり、前記範囲を超えると内部電極層の酸化が進行する傾向にある。
【0070】
アニールの際の保持温度は、1100℃以下、特に500〜1100℃とすることが好ましい。保持温度が上記範囲未満であると誘電体層の酸化が不十分となるので、絶縁抵抗が低く、また、高温負荷寿命が短くなりやすい。一方、保持温度が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化して容量が低下するだけでなく、内部電極層が誘電体素地と反応してしまい、容量温度特性の悪化、絶縁抵抗の低下、高温負荷寿命の低下が生じやすくなる。なお、アニールは昇温過程および降温過程だけから構成してもよい。すなわち、温度保持時間を零としてもよい。この場合、保持温度は最高温度と同義である。
【0071】
これ以外のアニール条件としては、温度保持時間を好ましくは0〜20時間、より好ましくは2〜10時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは100〜300℃/時間とする。また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、NもしくはN+HOガス等を用いることが好ましい。
【0072】
脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0073】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、例えばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼成し、外部電極4を形成する。そして、必要に応じ、外部電極4表面に、めっき等により被覆層を形成する。
このようにして製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0075】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記構成の誘電体層を有するものであれば何でも良い。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0077】
試料1〜28
まず、主成分の原料として、BaTiO粉末(主成分原料粉末)を、副成分の原料として、BaZrO(第1副成分)、MgCO(第2副成分)、Gd(第3副成分)、MnOまたはCr(第4副成分)、およびSiO(第5副成分)、V(第6副成分)を、それぞれ準備し、主成分であるBaTiO100モルに対する含有量が表1に示す量となるように秤量した。
【0078】
表1において、各副成分の比率は、複合酸化物(第1副成分)または各酸化物(第2〜第5副成分)換算の量である。本実施例では、第1副成分であるBaZrOとしては、Zrの一部がHfで置換されているもの(Zr:Hf=0.990:0.010)を用いた。また、第2副成分であるMgCOは、焼成後には、MgOとして誘電体磁器組成物中に含有されることとなる。
【0079】
次いで、試料8と9を除いて試料ごとに表1に記載した量のGdとSiOとを予め空気中において、800℃、5時間の条件で仮焼し、第1仮焼物を得た。試料8はGdとSiOとを予め空気中において700℃、3時間の条件で仮焼し、第1仮焼物を得た。試料9はGdとSiOとを予め空気中において1000℃で4時間仮焼し、第1仮焼物を得た。
【0080】
また、試料1、8、9を除いて各試料ごと表1の「主成分と仮焼した成分」の欄に示す成分と、BaTiO粉末とを、空気中において表1に示す仮焼条件(仮焼温度および仮焼時間)で仮焼きし、第2仮焼物を得た。
【0081】
その後、第1仮焼物、第2仮焼物および表1に記載のその他の副成分を、ボールミルで15時間、湿式粉砕し、乾燥して、誘電体材料を得た。
【0082】
得られた誘電体材料:100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂:10重量部と、可塑剤としてのジブチルフタレート(DOP):5重量部と、溶媒としてのアルコール:100重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0083】
また、上記とは別に、Ni粒子:44.6重量部と、テルピネオール:52重量部と、エチルセルロース:3重量部と、ベンゾトリアゾール:0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0084】
そして、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上に、乾燥後の厚みが30μmとなるようにグリーンシートを形成した。次いで、この上に内部電極層用ペーストを用いて、電極層を所定パターンで印刷した後、PETフィルムからシートを剥離し、電極層を有するグリーンシートを作製した。次いで、電極層を有するグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0085】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、積層セラミック焼成体を得た。
脱バインダ処理条件は、昇温速度:25℃/時間、保持温度:260℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
焼成条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1220〜1320℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:N+H+HO混合ガス(酸素分圧:10−12MPa)とした。
アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1050℃、温度保持時間:
2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:N+HO混合ガス(酸素分圧:10−7MPa)とした。
【0086】
得られた積層セラミック焼成体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn−Gaを塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×0.6mmであり、誘電体層の厚み20μm、内部電極層の厚み1.5μm、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は10とした。なお、本実施例では、表1または2に示すように、主成分と仮焼した成分、仮焼条件(仮焼温度および仮焼時間)、および第1〜第6副成分の含有量を変化させた複数の試料(試料1〜28)を作製した。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
得られた各コンデンサ試料について、誘電体粒子の主成分相および拡散相の有無、誘電体粒子の表面からの深さTにおけるSi(第5副成分)量、誘電体粒子の主成分相と拡散相の境界からの深さtおよびt20にけるMnまたはCr(第4副成分)量、絶縁抵抗(IR)および高温加速寿命を下記に示す方法により測定した。
【0090】
誘電体粒子の主成分相および拡散相の有無
誘電体粒子の主成分相および拡散相の有無は、まず、誘電体層2にFIB加工を施すことにより測定用サンプルを調製し、次いで、測定用サンプルを透過型電子顕微鏡(TEM)により観察することにより確認した。その結果、全ての試料において、誘電体粒子が、主成分相の周囲に拡散相が形成された構成となっていることが確認できた。
【0091】
T5の測定
誘電体層2にFIB加工を施し、測定用サンプルを調製した。次いで、測定用サンプルを用いて、TEMによるエネルギー分散型X線分光法により電子線として1nmのプローブを用いながら、誘電体粒子の表面からの深さT、すなわち、粒径Dに対して、誘電体粒子の表面から5%の深さとなる位置におけるSi元素の含有割合(CT5)を測定した。また、誘電体粒子の粒径Dは、TEMにより得られた断面写真において、コード法により算出した。結果を表3または4に示す。
【0092】
Td、Ct5、Ct20の測定
誘電体層2にFIB加工を施し、測定用サンプルを調製した。次いで、測定用サンプルを用いて、TEMによるエネルギー分散型X線分光法により電子線として1nmのプローブを用いながら、誘電体粒子の拡散相におけるMnまたはCr元素の含有割合(CTd)、誘電体粒子の主成分相と拡散相の境界から誘電体粒子の中心に向かって直径dの5%または20%の深さとなる位置におけるMnまたはCr元素の含有割合(Ct5またはCt20)をそれぞれ測定した。また、主成分相の直径dは、TEMにより得られた断面写真において、コード法により算出した。結果を表3または4に示す。
【0093】
絶縁抵抗(IR)
IR測定器にて測定電圧350Vdcを10秒間印加した後、50秒間放置したものを測定した。測定はチップ30個で行い、平均値を求めた。絶縁抵抗は2.0E+12Ω以上を良好とした。結果を表3または4に示す。
【0094】
高温加速寿命(HALT)
コンデンサ試料に対し、200℃にて、40V/μmの電界下で直流電圧の印加状態に保持し、寿命時間を測定することにより、HALTにより、高温加速寿命を評価した。本実施例においては、印加開始から絶縁抵抗が一桁落ちるまでの時間を寿命と定義した。また、この高温加速寿命は、10個のコンデンサ試料について行った。評価基準は、30時間以上を良好とした。結果を表3または4に示す。
【0095】
【表3】

【0096】
【表4】

【0097】
試料1〜7、20〜27
表1に示すように、主成分原料とMnOまたはCrとを800〜1050℃で仮焼した試料番号3〜6、22〜27においては、いずれも、誘電体粒子が、主成分相の周囲に拡散相を有する構成となっており、しかも誘電体粒子の粒径Dの5%である深さTにおけるSi(第5副成分)量が、0.1原子%より多く、1.3原子%未満であり、Ct5/Ctd>1、Ct20/Ct5>1であった。
【0098】
一方で、MnOまたはCrを仮焼しなかった場合(試料1、8、9、20)、仮焼温度が700℃だった場合(試料2、21)は、Ct5/Ctd≦1であり、試料8、9については、なおかつCt20/CTd≦1であった。また、仮焼温度が1100℃だった場合(試料7、26)は、Ct20/CTd≦1であった。
【0099】
そして、試料3〜6、22〜25は、試料1、2、8、9、20または21に比べ、絶縁抵抗および加速寿命が良好となることが確認できた。また、試料3〜6、22〜25は、試料7または26に比べ加速寿命が良好となることが確認できた。
【0100】
試料10〜19
試料10〜19より、第1副成分は9〜13mol%、第2副成分は4〜6mol%、第3副成分は4.5〜5.5mol%、第4副成分は0.1〜0.5mol%、第5副成分は2.7〜3.9mol%の範囲から外れる場合は試料番号3〜6に比べ絶縁抵抗および加速寿命に劣ることが確認できた。
【0101】
試料22〜25、27、28
試料22〜25、27、28より、第6副成分の含有量が0.01〜0.1mol%の範囲に含まれる場合は(試料22〜25)、第6副成分の含有量が当該範囲から外れる場合(試料27、28)に比べ、絶縁抵抗または平均寿命がより優れることが確認できた。
【0102】
図4は、試料4のTEM写真である。また、図5(A)は試料4のTEMによるエネルギー分散型X線分光法のBa、Ti、Mn、Zr、Gd、Mg元素の含有量の測定を、図4に示すように、誘電体粒子の表面付近について、所定間隔にて行った結果を示す測定結果である。また、図5(B)は、図5(A)からMn、Zr、Gd、Mg元素の含有量の測定結果を抜き出したものであり、Ba、Tiのデータがないことを除いて図5(A)と同一のデータである。図5(A)と図5(B)のグラフの凡例中、「C.B」は主成分相と拡散相の境界を意味し、「G.B.」は拡散相の境界、すなわち、2つの誘電体粒子の境界を意味する。
【0103】
図4に示した測定点と、図5(A)および図5(B)における測定点とは、それぞれ対応する形となっている。すなわち、図4に示すように粒子内部側の「α」とした点から「β」とした点まで等間隔に測定を行った。
【0104】
図5からも確認できるように、試料4においては、Mn元素が拡散相だけでなく、主成分相にも存在しており、Mn元素が主成分相に固溶する構成となっていることが確認できた。
【符号の説明】
【0105】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
2a… 誘電体粒子
2b… 結晶粒界
3… 内部電極層
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムを含む主成分と、
BaZrOを含む第1副成分と、
Mgの酸化物を含む第2副成分と、
Rの酸化物(ただし、Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種)を含む第3副成分と、
Mn、Cr、CoおよびFeから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む第4副成分と、
Si、Li、Al、GeおよびBから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む第5副成分と、を有する誘電体磁器組成物であって、
前記主成分100モルに対する、各副成分の酸化物または複合酸化物換算での比率が、
第1副成分:9〜13モル、
第2副成分:2.7〜5.7モル、
第3副成分:4.5〜5.5モル、
第4副成分:0.1〜0.5モル、
第5副成分:3.0〜3.9モル、
であり、
前記誘電体磁器組成物を構成する誘電体粒子が、主成分で実質的に構成される主成分相と、前記主成分相の周囲に、前記副成分のうち少なくとも1種が拡散した拡散相と、を有し、
前記誘電体粒子の粒径をDとした場合に、粒子表面からの深さが前記粒径Dの5%である深さTにおける前記第5副成分の含有割合が、Si、Li、Al、GeまたはB換算で、0.1原子%より多く、1.3原子%未満であり、
前記主成分相における前記第4副成分の含有割合が、前記拡散相における第4副成分の含有割合に比べ高いことを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記誘電体粒子の主成分相の直径をdとし、
前記主成分相と拡散相の境界から誘電体粒子の中心に向かって前記直径dの5%である深さをtとし、
前記主成分相と拡散相の境界から誘電体粒子の中心に向かって前記直径dの20%である深さをt20とした場合に、
前記深さt20における前記第4副成分の含有割合が、前記深さtにおける第4副成分の含有割合に比べ高いことを特徴とする請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
さらに、V、MoおよびWから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む第6副成分を含み、前記主成分100モルに対する、第6副成分の酸化物または複合酸化物換算での比率が、0.01〜0.1モルである請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物からなる誘電体層と、内部電極層と、を有する電子部品。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記主成分の原料と、前記誘電体磁器組成物に含有されることとなる第4副成分の原料のうち少なくとも一部と、を保持温度を800〜1050℃として仮焼きする工程を有する誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
前記主成分の原料と、前記誘電体磁器組成物に含有されることとなる第4副成分の原料のうち少なくとも一部と、前記誘電体磁器組成物に含有されることとなる第6副成分の原料のうち少なくとも一部と、を保持温度を800〜1050℃として仮焼きする工程を有する誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の誘電体磁器組成物の製造方法により得られた誘電体層と、内部電極層と、を積層する工程を有する電子部品。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−201710(P2011−201710A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68636(P2010−68636)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】