説明

誘電体膜形成方法

【課題】ケイ素を含む誘電体膜を形成する方法を提供すること。
【解決手段】ここに記載されるのは、低いウェットエッチ耐性、6.0以下の誘電率、及び/又は高温急速熱アニールプロセス耐性、といった特性のうちの少なくとも1つを示す、酸化ケイ素、酸炭化ケイ素、炭化ケイ素及びこれらの組み合わせなどの、とは言えこれらに限定はされない、ケイ素を含む誘電体膜を形成する方法である。同様にここに開示されるのは、例えば半導体ウェーハなどの処理すべき対象物上に誘電体膜又は被覆を形成するための方法である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
高速半導体デバイスのためには、ソース・ドレイン拡張部のトランジスタ飽和電流を増大させ短チャネル効果を削減するために、超浅接合、低シート抵抗及び階段側方接合(abrupt lateral junction)が重要である。このような浅く低シート抵抗の接合の形成を助けるために、過渡的増速拡散(TED)、固溶度及びチャネリングなどの問題を解決するべく低エネルギーの注入及びシャープなスパイクアニールが使用されてきた。
【0002】
スパイクアニールは、典型的には、注入されたドーパントを有する半導体基材を急速熱処理(RTP)システムでの温度処理に付すことによって実施される。RTPを用いた典型的アニーリングプロフィールには、例えば1050℃といったターゲット温度までの上昇、(一般に「均熱時間」と呼ばれる)時間の間のターゲット温度での基材の均熱、及び例えば200℃といった基準温度への降下が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ウェーハはスパイクアニールプロセスを受けることから、アニーリングプロセスに対する材料の安定性、特により低い温度で被着された材料についての安定性は、デバイスの性能にとってきわめて重要であり得る。更に具体的には、かかる利用分野のために使用される誘電体膜は、比較的低いウェットエッチ速度(例えば希HFに曝露される場合)や、6.0以下の誘電率や、優れたウェーハ内の均一性、コンフォーマリティ又はそれらの組み合わせや、気相プロセス(例えば酸化プラズマなど)に対する耐性や、及び/又は同じ部類の類似の材料に比べ温度スパイクアニールプロセスに付された場合に特性及び膜構造の変化を比較的わずかしか乃至は全く示さない、といった特性のうちの1つ以上を示すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
ここに記載されるのは、比較的低いウェットエッチ速度(例えば希HFに曝露された場合)や、6.0以下の誘電率や、優れたウェーハ内均一性、コンフォーマリティ又はそれらの組み合わせや、気相プロセス(例えば酸化プラズマなど)に対する耐性や、及び/又は同じ部類の類似の材料に比べ温度スパイクアニールプロセスに付された場合に特性及び膜構造の変化を比較的わずかしか乃至は全く示さない、といった特性のうちの少なくとも1つを示す、ケイ素を含む誘電体膜、例えば酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸炭化ケイ素及びそれらの組み合わせなどの、ただしこれらに限定されるわけではない、誘電体膜を形成する方法である。同様にここに開示されるのは、例えば半導体ウェーハなどの処理すべき対象物上に誘電体膜又は被覆を形成するための方法である。
【0005】
一つの態様においては、基材の少なくとも1つの表面上に誘電体膜を形成するための方法であって、反応チャンバ内に基材の少なくとも1つの表面を供給することと、次の式I、すなわちR13Si−R2−SiR33という式(この式中、R2はアルキル基及びアリール基から独立して選択され、R1及びR3は各々、H、アルキル基、アリール基、アルケニル基、ハロゲン原子及びアルコキシ基から独立して選択される)、を有するケイ素含有前駆体、好ましくは、
1,3−ジシラブタン及びその誘導体、
1,4−ジシラブタン及びその誘導体、
1,4−ジシリルベンゼン及びその誘導体、
1,3−ジシリルベンゼン及びその誘導体、
1,3−ジシラシクロブタン及びその誘導体、
1,4−ジシラシクロヘキサン及びその誘導体、
及びこれらの組み合わせ、
からなる群から選択される前駆体、から選択された少なくとも1種のケイ素前駆体と、分子の量が該ケイ素前駆体に対する比で1:1よりも少ない酸素源とから、化学気相成長法及び原子層堆積法より選択された被着法によって前記少なくとも1つの表面上に誘電体膜を形成することとを含む方法が提供される。
【0006】
別の態様においては、原子層堆積法によりケイ素を含む誘電体膜を形成する方法であって、
a.ALD反応装置内に基材を供給する工程、
b.次の式I、すなわちR13Si−R2−SiR33という式(この式中、R2はアルキル基及びアリール基から独立して選択され、R1及びR3は各々、H、アルキル基、アリール基、アルケニル基、ハロゲン原子及びアルコキシ基から独立して選択される)、を有するケイ素含有前駆体から選択された少なくとも1種のケイ素前駆体であり、好ましくは、
1,3−ジシラブタン及びその誘導体、
1,4−ジシラブタン及びその誘導体、
1,4−ジシリルベンゼン及びその誘導体、
1,3−ジシリルベンゼン及びその誘導体、
1,3−ジシラシクロブタン及びその誘導体、
1,4−ジシラシクロヘキサン及びその誘導体、
及びこれらの組み合わせ、
からなる群から選択されるケイ素前駆体を、該ALD反応装置内に導入する工程、
c.該ALD反応装置をガスでパージする工程、
d.分子の量が該ケイ素前駆体に対する比で1:1よりも少ない酸素源を該ALD反応装置内に導入する工程、
e.該ALD反応装置をガスでパージする工程、及び
f.誘電体膜の所望の厚みが得られるまで工程b〜eを反復する工程、
を含む方法が提供される。
【0007】
更なる態様においては、CVD法を用いて基材の少なくとも一表面上に酸化ケイ素を含む誘電体膜を形成する方法であって、
a.反応装置内に基材を供給すること、
b.次の式I、すなわちR13Si−R2−SiR33という式(この式中、R2はアルキル基及びアリール基から独立して選択され、R1及びR3は各々、H、アルキル基、アリール基、アルケニル基、ハロゲン原子及びアルコキシ基から独立して選択される)、を有するケイ素含有前駆体から選択された少なくとも1種のケイ素前駆体であり、好ましくは、
1,3−ジシラブタン及びその誘導体、
1,4−ジシラブタン及びその誘導体、
1,4−ジシリルベンゼン及びその誘導体、
1,3−ジシリルベンゼン及びその誘導体、
1,3−ジシラシクロブタン及びその誘導体、
1,4−ジシラシクロヘキサン及びその誘導体、
及びこれらの組み合わせ、
からなる群から選択されるケイ素前駆体を、該ALD反応装置内に導入すること、及び
c.分子の量が該ケイ素前駆体に対する比で1:1よりも少ない酸素源を供給して、該少なくとも1つの表面上に誘電体膜を被着させること、
を含む方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ここに記載されている方法によって作製され、少なくとも1種のケイ素含有前駆体として1,4−ジシラブタンを用いて被着された典型的な誘電体膜のスパイクアニールプロフィールである。
【図2】少なくとも1種のケイ素含有前駆体として1,4−ジシラブタンを用いて被着された誘電体膜についてのウェットエッチ速度に対する被着温度の効果を説明する図である。
【図3】1,4−ジラブタンを用いて被着された典型的膜及びビス(tert−ブチルアミノ)シラン(BTBAS)を用いて被着された比較用膜についてのフーリエ変換分光法(FTIR)スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここに記載されるのは、比較的低いウェットエッチ速度(例えば希HFに曝露された場合)や、6.0以下の誘電率や、優れたウェーハ内均一性、コンフォーマリティ又はそれらの組み合わせや、気相プロセス(例えば酸化プラズマなど)に対する耐性や、及び/又は同じ部類の類似の材料に比べ温度スパイクアニールプロセスに付された場合に特性及び膜構造の変化を比較的わずかしか乃至は全く示さない、といった特性のうちの少なくとも1つを示す、ケイ素を含む誘電体膜と、その形成方法である。ここに記載される誘電体膜は、1つ以上の上記特性を示す一方、急速熱処理工程の前後で同じ特性を比較した場合に、20%以下又は15%以下又は10%以下又は5%以下の膜のウェットエッチ耐性、誘電性能、及び/又は膜構造を示す。
【0010】
ここに記載されるのは、最高1000℃までの高温スパイクアニール中に上述の特性のうちの少なくとも1つ(例えばウェットエッチ耐性、誘電性能、及び/又はフィルム構造)をもたらす一方でそれを維持する誘電体膜を被着させる特定のケイ素含有前駆体、例えば1,4−ジシラブタン、1,3−ジシラブタン、1,3−ジシラシクロブタン、1,4−ジシラシクロヘキサン及び2.5−ジシラヘキサンなどであるが、ただしこれらに限定されるわけではない、ケイ素含有前駆体である。これらのケイ素含有前駆体は、被着中に所望の反応性を示し、そして一部の実施形態においては、膜の被着をより良好に制御するようにすることができ、例えば制御しやすい被着速度と膜の均一性をもたらすことができる。理論に束縛されることは望まないものの、これらの特別なケイ素含有前駆体を用いて被着された膜は、ウェットエッチ速度の有意な低下の可能性をもたらす場合もある酸化ケイ素、酸炭化ケイ素又は炭化ケイ素ネットワーク中に適切なレベル及びタイプの炭素を含有し、一定の誘電率値及び過渡的な高温スパイクアニールに対する安定性をなおも維持することができると考えられる。
【0011】
誘電体膜又は被覆を形成するために用いられる方法は、被着プロセスである。ここに開示されている方法のための好適な被着プロセスの例としては、循環式CVD(CCVD)、MOCVD(有機金属CVD)、熱化学気相成長、プラズマ化学気相成長(「PECVD」)、高密度PECVD、光子支援CVD、プラズマ光子支援(「PPECVD」)、極低温化学気相成長、化学物質支援気相成長、ホットフィラメント化学気相成長、液体ポリマー前駆体のCVD、超臨界流体からの被着、及び低エネルギーCVD(LECVD)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。一部の実施形態においては、金属含有膜を、プラズマALD(PEALD)又はプラズマ循環式CVD(PECCVD)法により被着させる。ここで使用される「化学気相成長法」という用語は、基材表面上で反応及び/又は分解して所望の被着物を生成する1種以上の揮発性前駆体に対して基材を曝露する任意の方法のことをいう。ここで使用される「原子層堆積法」という用語は、組成が変化する基材上に材料のコンフォーマルな膜を被着する自己制限的な(例えば各反応サイクルにおいて被着させる膜材料の量が一定である)逐次的な表面化学反応のことをいう。ここで使用される前駆体、反応物及び供給源は、時として「ガス」であるとして記載されることがあるが、前駆体は、気化、バブリング又は昇華によって反応装置内に不活性ガスを伴って又はこれを伴わずに直接移送される液体又は固体のいずれでもあり得るということが理解される。場合によっては、気化した前駆体はプラズマ発生器を通過することができる。一つ実施形態においては、誘電体膜はALD法を用いて被着される。別の実施形態では、誘電体膜はCCVD法を用いて被着される。更なる実施形態においては、誘電体膜は熱CVD法を用いて被着される。
【0012】
一部の実施形態において、ここに開示された方法は、反応装置への導入前及び/又は導入の際に前駆体を切り離すALD又はCCVD法を使用することによって、前駆体の予備反応を回避する。これに関連して、ALD又はCCVD法などの被着技術が誘電体膜の被着に使用される。一つの実施形態においては、ALD法によって、ケイ素含有前駆体、酸素源又はその他の前駆体もしくは反応物の1種以上に対し交互に基材表面を曝露することにより膜を被着させる。膜の成長は、表面反応、各前駆体又は反応物のパルス長、及び被着温度の自己制限的制御により進行する。しかしながら、基材の表面がひとたび飽和状態になった時点で、膜成長は停止する。
【0013】
前述のとおり、ここに開示された方法は、次の式I、すなわち、
13Si−R2−SiR33 (式I)
(この式中のR2はアルキル基及びアリール基から独立して選択され、R1及びR3は各々、H、アルキル基、アリール基、アルケニル基、ハロゲン原子及びアルコキシ基から独立して選択される)を有するケイ素含有前駆体から選択される少なくとも1種のケイ素含有前駆体、好ましくは、1,3−ジシラブタン及びその誘導体、1,4−ジシラブタン及びその誘導体、1,4−ジシリルベンゼン及びその誘導体、1,3−ジシラシクロブタン及びその誘導体、1,4−ジシラシクロヘキサン及びその誘導体、からなる群から選択されるものを使用し、任意選択的に更なるケイ素含有前駆体、ケイ素前駆体のケイ素と比べて化学量論量よりも少ない酸素源又は反応物、任意選択的に還元剤、及び任意選択的に窒素源を使用して、誘電体膜を形成する。被着のための前駆体材料の選択は、結果として得られる所望の誘電体材料又は膜に依存する。例えば、前駆体材料は、その化学元素含有量、その化学元素の化学量論比、及び/又はCVD下で形成されて結果として得られる誘電体膜又は被覆に適するように選択することができる。前駆体材料はまた、費用、非毒性、取扱い性、室温で液相を維持する能力、揮発性、分子量などといったさまざまな他の特性に関して選択してもよい。
【0014】
ここに開示されている方法の1つの実施形態においては、次の式I、すなわち、
13Si−R2−SiR33 (式I)
(この式中のR2はアルキル基及びアリール基から独立して選択され、R1及びR3は各々、H、アルキル基、アリール基、アルケニル基、ハロゲン原子及びアルコキシ基から独立して選択される)を構成する少なくとも1種のケイ素含有前駆体を用いて、誘電体膜を形成する。
【0015】
式Iにおいて、また明細書の全体を通して、「アルキル」という用語は、1〜20個、又は1〜12個、又は1〜6個の炭素原子を有する直鎖、分岐又は環状官能基を意味する。典型的なアルキル基には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル、オクタデシル、イソペンチル及びtert−ペンチルが含まれるが、アルキル基はこれらに限定されるわけではない。
【0016】
式Iにおいて、また明細書の全体を通して、「アリール」という用語は、6〜12個の炭素原子を有する環状官能基を意味する。典型的なアリール基としては、フェニル、ベンジル、トリル及びo−キシリルが挙げられるが,アリール基はこれらに限定されるわけではない。式Iにおいて、また明細書の全体を通して、「アルケニル基」という用語は、1つ以上の炭素−炭素二重重結合を有し、2〜20個、又は2〜12個、又は2〜6個の炭素原子を有する基を意味する。
【0017】
式Iにおいて、また明細書の全体を通して、「アルコキシ」という用語は、酸素原子に連結されたアルキル基であって(例えばR−O)、1〜20個、又は1〜12個、又は1〜6個の炭素原子を有することができるものを意味する。典型的なアルコキシ基には、メトキシ(−OCH3)及びエトキシ基(−OCH2CH3)が含まれるが,アルコキシ基はこれらに限定されるわけではない。一部の実施形態においては、アルキル基、アリール基及び/又はアルコキシ基の1つ以上は置換されていても置換されていなくてもよく、すなわち水素原子に代って置換された1つ以上の原子又は原子群を有していてもよい。典型的な置換基としては、酸素、硫黄、ハロゲン原子(例えばF、Cl、I又はBr)、窒素、及びリンが挙げられるが、置換基はこれらに限定されるわけではない。
【0018】
一部の実施形態においては、式Iを有する少なくとも1種のケイ素含有前駆体は、アルコキシ置換基及び/又は酸素原子を含む1つ以上の置換基を有する。これらの実施形態においては、被着プロセス中の酸素源の必要性を回避することができる。その他の実施形態では、式Iを有する少なくとも1種のケイ素含有前駆体はアルコキシ置換基を有し、酸素原子を含む1つ以上の置換基は同様に酸素源を使用する。
【0019】
ここに記載された方法の別の実施形態においては、少なくとも1種のケイ素含有前駆体は1,3−ジシラシクロブタン及びその誘導体を含む。ここで使用される「その誘導体」という用語は、原化合物から誘導される化合物であって、1つ以上の水素原子、置換基、又はその両方が原化合物とは異なる基と交換され又は置換されている化合物を表している。
【0020】
ここに記載された方法の更なる一実施形態において、少なくとも1種のケイ素含有前駆体は1,4−ジシラシクロヘキサン及びその誘導体を含む。
【0021】
ここに記載された方法の更に別の実施形態において、少なくとも1種のケイ素含有前駆体は1,3−ジシラブタン及びその誘導体を含む。
【0022】
ここに記載された方法の更なる実施形態において、少なくとも1種のケイ素含有前駆体は1,4−ジシラブタン及びその誘導体を含む。
【0023】
ここに記載された方法の更に別の実施形態において、少なくとも1種のケイ素含有前駆体は1,4−ジシリルベンゼン及びその誘導体を含む。
【0024】
ここに記載された方法の更に別の実施形態において、少なくとも1種のケイ素含有前駆体は1,3−ジシリルベンゼン及びその誘導体を含む。
【0025】
一部の実施形態において、ここに記載されている方法は更に、上記の式Iを有するケイ素含有前駆体、1,3−ジシラシクロブタン及びその誘導体、1,4−ジシラシクロヘキサン及びその誘導体、1,3−ジシラブタン及びその誘導体、1,4−ジシラブタン及びその誘導体、1,3−ジシリルベンゼン及びその誘導体、1,4−ジシリルベンゼン及びその誘導体、並びにそれらの組み合わせ以外の、1種以上の更なるケイ素含有前駆体を含む。
【0026】
更なるケイ素含有前駆体の例としては、有機ケイ素化合物、例えばシロキサン(例として、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)及びジメチルシロキサン(DMSO))や、オルガノシラン(例として、メチルシラン、ジメチルシラン、ビニルトリメチルシラン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、エチルシラン、ジシリルメタン、2,4−ジシラペンタン、1,4−ジシラブタン、2,5−ジシラヘキサン、2,2−ジシリルプロパン、1,3,5−トリシラシクロヘキサン、及びこれらの化合物のフッ素化誘導体)や、フェニル含有有機ケイ素化合物(例として、ジメチルフェニルシラン及びジフェニルメチルシラン)や、酸素含有有機ケイ素化合物、例としてジメチルジメトキシシラン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラシラ−4−オキソヘプタン、2,4,6,8−テトラシラ−3,7−ジオキソノナン、2,2−ジメチル−2,4,6,8−テトラシラ−3,7−ジオキソノナン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、[1,3,5,7,9]−ペンタメチルシクロペンタシロキサン、1,3,5,7−テトラシラ−2,6−ジオキソシクロオクタン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、1,3−ジメチルジシロキサン、1,3,5,7,9−ペンタメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサメトキシジシロキサン、及びこれらの化合物のフッ素化誘導体、が挙げられるが、更なるケイ素含有前駆体はこれらに限定されるわけではない。
【0027】
被着方法に応じて、一部の実施形態においては、1種以上のケイ素含有前駆体は、所定のモル容量、すなわち約0.1〜約1000マイクロモルで、反応装置に導入することができる。この実施形態又はその他の実施形態において、ケイ素含有前駆体は、所定の時間、すなわち約0.001〜約500秒の間、反応装置に導入することができる。
【0028】
上述したとおり、ここに記載された方法を用いて被着される誘電体膜は、酸素源、酸素を含む反応物又は前駆体を用いて、酸素の存在下で形成される。酸素源は、少なくとも1種の酸素源の形で反応装置に導入されてもよく、及び/又は、被着プロセスで用いられるその他の前駆体中に付随的に存在してもよい。好適な酸素源ガスとしては、例えば水(H2O)(例として、脱イオン水、精製水、及び/又は蒸留水)、酸素(O2)、酸素プラズマ、オゾン(O3)、NO、NO2、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)及びそれらの組み合わせを挙げることができる。一部の実施形態では、酸素源は、約1〜約2000平方立方センチメートル(sccm)又は約1〜約1000sccmの範囲内の流量で反応装置に導入される酸素源ガスを含む。酸素源は、約0.1〜約100秒の範囲内の時間、導入することができる。1つの特定の実施形態においては、酸素源は、温度が10℃以上の水を含む。膜をALD又は循環式CVD法によって被着させる実施形態では、前駆体パルスは0.01秒超のパルス持続時間を有することができ、そして酸素源は0.01秒未満のパルス持続時間を有することができる一方で、水パルスの持続時間は0.01秒未満であることができる。更に別の実施形態においては、パルス間のパージ持続時間は0秒と同じくらいに短いものであることができ、あるいは中間のパージなしに連続的にパルス送りされる。酸素源又は反応物は、被着されたままの誘電体膜に少なくともいくらかの炭素が保持されるように、ケイ素前駆体に対する比が1:1未満の分子の量でもって供給される。
【0029】
ここに開示されている被着方法は、1つ以上のパージガスを必要とすることがあり得る。未消費の反応物及び/又は反応副生物を一掃するために使用されるパージガスは、前駆体と反応しない不活性ガスである。典型的な不活性ガスには、Ar、N2、He、ネオン、H2及びそれらの混合物が含まれるが、不活性ガスはこれらに限定されるわけではない。一部の実施形態においては、Arなどのパージガスを約10〜約2000sccmの範囲内の流量で約0.1〜1000秒間反応装置内に供給して、それにより反応装置内にとどまる可能性のある未反応材料及び副生物をパージする。
【0030】
ここに記載されている方法の一部の実施形態においては、反応装置又は被着チャンバの温度は、周囲温度(例えば25℃)から約700℃までの範囲内にあることができる。ALD又はCVDでの被着のための典型的な反応装置温度としては、次に挙げる終点、すなわち、25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、600、625、650、675、又は700℃、のうちのいずれか1つ以上を有する範囲が挙げられる。特定の反応装置温度範囲の例としては、25℃〜375℃、又は75℃〜700℃、又は325℃〜675℃が挙げられるが、反応装置温度範囲はこれらに限定されるわけではない。この実施形態又はその他の実施形態において、圧力は約0.1Torrから約100Torr又は約0.1Torrから約5Torrの範囲内にあることができる。1つの特定の実施形態においては、誘電体膜を、100mTorrから600mTorrの範囲内の圧力で熱CVD法を用いて被着させる。別の特定の実施形態においては、誘電体膜を、1Torr以下の温度範囲でALD法を用いて被着させる。
【0031】
ここに記載されている方法の一部の実施形態においては、反応装置又は被着チャンバ内の基材の温度は、周囲温度(例えば25℃)から約700℃までの範囲内にあることができる。ALD又はCVDでの被着のための典型的な基材温度としては、次の終点、すなわち、25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、600、625、650、675、又は700℃、のうちのいずれか1つ以上を有する範囲が挙げられる。特定の基材温度範囲の例としては、25℃〜375℃、又は75℃〜700℃、又は325℃〜675℃が挙げられるが、基材温度範囲はこれらに限定されるわけではない。一部の実施形態において、基材温度は、被着中の反応装置温度と同じであっても、又はそれと同じ温度範囲内にあってもよい。その他の実施形態においては、基材温度は被着中の反応装置温度と異なる。
【0032】
前駆体、酸素源、及び/又はその他の前駆体、供給源ガス、及び/又は反応物を供給するそれぞれの工程は、結果として得られる誘電体膜の化学量論的組成を変更するためそれらを供給する時間を変更することにより行うことができる。
【0033】
反応を誘発し基材上に誘電体膜又は被覆を形成するため、前駆体、酸素源、還元剤、その他の前駆体又はそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つにエネルギーが加えられる。かかるエネルギーは、熱、プラズマ、パルスプラズマ、ヘリコンプラズマ、高密度プラズマ、誘導結合プラズマ、X線、電子線、光子、及び遠隔プラズマ法によって(ただしこれらに限定されるわけではない)、供給することができる。一部の実施形態においては、基材表面におけるプラズマ特性を変更するために、二次的RF周波数源を使用することができる。被着にプラズマが関与する実施形態においては、そのプラズマ発生プロセスは、プラズマを反応装置内で直接発生させる直接プラズマ発生型プロセス、あるいはまた、プラズマを反応装置外で発生させて反応装置内に供給する遠隔プラズマ発生型プロセスを含むことができる。
【0034】
ケイ素含有前駆体及び/又はその他の前駆体は、さまざまな方法でCVD又はALD反応装置などの反応チャンバへ送給することができる。一つの実施形態においては、液体送給システムを利用することができる。別の実施形態においては、液体送給とフラッシュ蒸発プロセスの組み合わせユニット、例えばミネソタ州ShoreviewのMSPコーポレーション製のターボ気化器を利用して、低揮発性材料を容積式に送給できるようにし、前駆体が熱により分解することのない再現可能な移送と被着を行うようにしてもよい。液体の送給においては、ここに記載されている前駆体を原液の形で送給してもよく、あるいはまた、溶媒配合物又はそれを含む組成物でもって利用してもよい。かくして、一部の実施形態においては、前駆体配合物は、基材上に膜を形成するための所与の最終用途において望ましく且つ有利であり得るように好適な特性の溶媒成分(単数又は複数)を含むことができる。
【0035】
ここに記載された方法の一つの実施形態においては、CCVD、ALD又はPEALDなどの循環式被着プロセスを使用することができ、その場合、式Iを有するケイ素含有前駆体、1,3−ジシラシクロブタン及びその置換基、1,4−ジシラシクロヘキサン及びその置換基、並びにそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種のケイ素含有前駆体、そして任意選択的に酸素源、例えばオゾン、酸素プラズマ又は水プラズマなど、を使用する。
【0036】
前駆体キャニスタから反応チャンバに接続するガス管路は、プロセス必要条件に応じて1つ以上の温度まで加熱され、式Iを有するケイ素含有前駆体の容器は、バブリングのための1つ以上の温度に保たれるのに対して、式Iを有するケイ素含有前駆体、1,3−ジシラシクロブタン及びその置換基、1,4−ジシラシクロヘキサン及びその置換基、並びにそれらの組み合わせから選択された少なくとも1種のケイ素含有前駆体を含む溶液は、直接の液体の注入のために1つ以上の温度に保たれた蒸発装置内に注入される。
【0037】
アルゴン及び/又はその他のガスの流れを、前駆体をパルス送りする際に少なくとも1種のケイ素含有前駆体の蒸気を反応チャンバに送給するのを助けるためのキャリアガスとして使用してもよい。一部の実施形態においては、反応チャンバのプロセス圧力は約1Torrである。
【0038】
典型的なALD又はCCVD法においては、酸化ケイ素基材などの基材を最初にケイ素含有前駆体に曝露されている反応チャンバ内の加熱ステージ上で加熱して、複合体(complex)が基材の表面に化学的に吸着できるようにする。
【0039】
アルゴンなどのパージガスが、吸収されていない余剰の複合体をプロセスチャンバから一掃する。充分なパージ後に、反応チャンバ内に酸素源を導入して吸収された表面と反応させ、その後別のガスパージを行ってチャンバから反応副生物を除去してもよい。プロセスサイクルを、所望の膜厚を得るため繰り返すことができる。
【0040】
この実施形態又はその他の実施形態において、ここに記載されている方法の工程はさまざまな順序で実施してよく、逐次的に又は同時に(例えば別の工程の少なくとも一部分の間に)、及びこれらの任意の組み合わせの形で、実施してもよいということが理解される。前駆体及び酸素源ガスを供給するそれぞれの工程は、結果として得られる誘電体膜の化学量論的組成を変更するためそれらの供給時間の長さを変えることによって実施してもよい。
【0041】
ここに開示される別の実施形態において、誘電体膜は、次の工程、すなわち、
a.次の式I、すなわちR13Si−R2−SiR33という式を有するケイ素含有前駆体(この式中のR2はアルキル基及びアリール基から独立して選択され、R1及びR3は各々、H、アルキル基、アリール基、アルケニル基、ハロゲン原子及びアルコキシ基から独立して選択される)から選択され、好ましくは、
1,3−ジシラブタン及びその誘導体、
1,4−ジシラブタン及びその誘導体、
1,4−ジシリルベンゼン及びその誘導体、
1,3−ジシリルベンゼン及びその誘導体、
1,3−ジシラシクロブタン及びその誘導体、
1,4−ジシラシクロヘキサン及びその誘導体、
及びこれらの組み合わせ、
からなる群から選択される、少なくとも1種のケイ素前駆体を導入する工程、
該少なくとも1種のケイ素前駆体を基材上に化学吸着させる工程、
パージガスを用いて未反応の少なくとも1種のケイ素含有前駆体を一掃する工程、
吸着した少なくとも1種のケイ素含有前駆体と反応させるため加熱された基材上に、分子の量がケイ素前駆体に対する比で1:1よりも少ない酸素源を供給する工程、及び
任意選択的に、未反応の酸素源を全て一掃する工程、
を含むALD被着方法を用いて形成される。
【0042】
上述の工程は、ここに記載されている方法のための1つのサイクルを規定しており、このサイクルは誘電体膜の所望の厚みが得られるまで反復することができる。この実施形態又はその他の実施形態において、ここに記載されている方法の工程はさまざまな順序で実施してよく、逐次的にか又は同時に(例えば別の工程の少なくとも一部分の間に)、及びこれらの任意の組み合わせの形で、実施してもよいということが理解される。前駆体及び酸素源を供給するそれぞれの工程は、結果として得られる誘電体膜の化学量論的組成を変更するためそれらの供給時間の長さを変えることによって実施されてよいが、酸素は常に、利用可能なケイ素との関係において化学量論的量より少ない量で使用される。
【0043】
多成分誘電体膜の場合は、その他の前駆体、例えばケイ素含有前駆体、窒素含有前駆体、還元剤、又はその他の反応物を、交互に反応装置チャンバに導入することができる。ここに記載されている方法の更なる実施形態では、誘電体膜を熱CVD法を用いて被着させる。この実施形態において、該方法は、周囲温度から約700℃の範囲の温度に加熱され1Torr以下の圧力に維持された反応装置内に1つ以上の基材を入れること、次の式I、すなわち、R13Si−R2−SiR33という式を有するケイ素含有前駆体(この式中のR2はアルキル基及びアリール基から独立して選択され、R1及びR3は各々、H、アルキル基、アリール基、アルケニル基、ハロゲン原子、及びアルコキシ基から独立して選択される)から選択され、好ましくは、
1,3−ジシラブタン及びその誘導体、
1,4−ジシラブタン及びその誘導体、
1,4−ジシリルベンゼン及びその誘導体、
1,3−ジシリルベンゼン及びその誘導体、
1,3−ジシラシクロブタン及びその誘導体、
1,4−ジシラシクロヘキサン及びその誘導体、
及びこれらの組み合わせ、
からなる群から選択される、少なくとも1種のケイ素前駆体である少なくとも1種のケイ素含有前駆体を導入すること、及び、酸素源をケイ素前駆体に対する比が1:1よりも小さい分子量でもって反応装置内に供給して、1つ以上の基材上に誘電体膜を被着させることを含み、導入工程中は反応装置を100mTorrから600mTorrの範囲内の圧力に維持する。
【0044】
一部の実施形態においては、結果として得られる誘電体膜又は被覆を、プラズマ処理、化学的処理、紫外線曝露、電子ビーム曝露、及び/又は膜の1つ以上の特性に影響を及ぼすためのその他の処理などの、とは言えそれらに限定はされない、被着後処理に付すことができる。
【0045】
ここに記載されている誘電体膜は6以下の誘電率を有する。好ましくは、膜は、約5以下、又は約4以下、又は約3.5以下の誘電率を有する。
【0046】
前述のように、ここに記載されている方法を用いて、基材の少なくとも一部分に誘電体膜を被着させることができる。好適な基材の例としては、ケイ素、SiO2、Si34、OSG、FSG、炭化ケイ素、水素化した炭化ケイ素、窒化ケイ素、水素化した窒化ケイ素、炭窒化ケイ素、水素化した炭窒化ケイ素、ホウ窒化物、反射防止コーティング、フォトレジスト、有機ポリマー、多孔質有機及び無機材料、銅やアルミニウムなどの金属、そして例えばTiN、Ti(C)N、TaN、Ta(C)N、Ta、W、又はWNなどの、とは言えそれらに限定はされない、拡散バリア層が挙げられるが、基材はこれらに限定されるわけではない。膜は、例えば化学機械的平担化(CMP)や異方性エッチングプロセスなどの、さまざまな後続する加工工程との相性がよい。
【0047】
被着された誘電体膜には、コンピュータチップ、光学デバイス、磁気情報記憶装置、担持材料又は基材上の被膜、マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)、ナノエレクトロメカニカルシステム、薄膜トランジスタ(TFT)、及び液晶ディスプレイ(LCD)を含めた、とは言えこれらには限定されない、用途がある。
【0048】
以下の例は、ここに記載されている誘電体膜を作製するための方法を例示するものであって、いかなる形であれそれを限定することは意図されていない。
【実施例】
【0049】
以下の例においては、別途記載のない限り、特性は、中程度の抵抗率(8〜12Ωcm)の単結晶シリコンウェーハ基材上に被着された試料膜から得られた。
【0050】
以下の例においては、誘電体膜の厚みと光学的特性、例えば屈折率などは、Film Tek 2000SE楕円偏光測定装置で測定した。データフィッティングのためには、法線入射(入射角=0°)における分光反射データを用いる。使用された光の波長範囲は、200nm〜900ナノメートル(nm)の間である。SiO2の吸光係数(k)は光の波長が200nmと4000nmの間にある場合ゼロであり、SiO2の分散は周知であることから、データは高周波誘電率についてのみフィッティングされる。誘電体膜の厚み及び屈折率は、膜からの反射データを予め設定された物理モデル(例えばローレンツオシレータモデル)にフィッティングすることによって得ることができる。フィッティングの適合性を判定するためにRMSE(2乗平均平方根誤差)を使用し、測定結果を信頼性あるものとみなすためにはこの値が1%未満でなくてはならない。
【0051】
膜の化学組成の特徴は、多重チャンネルプレート検波器(MCD)及びAl単色X線源が備わったPhysical Electronics 5000VersaProbe XPSスペクトロメータを用いて調べられる。XPSデータは、AlkαX線励起(25mA及び15kV)を用いて収集される。低解像度探査スペクトルは、117eVのパスエネルギー、50ミリセカンドの滞留時間、1.0eV/工程で収集される。高解像度領域のスペクトルは、23.5eVのパスエネルギー、50msecの滞留時間、0.1eV/工程で収集される。解析範囲は45°の取出し角で100μmである。
【0052】
高解像度領域のスペクトルからピーク面積を測定し、透過関数補正済み原子感度係数を適用することにより、定量元素分析を判定した。データ収集にはPHI Summittソフトウェアを使用し、データ解析のためにはCasaXPSソフトウェアを使用する。エッチ速度は、203nmSiO2/Siに対して較正され、およそ120Å/分である。
【0053】
エッチ試験は1wt%のHF(脱イオン(DI)水中)溶液で実施する。典型的な誘電体膜を30秒間HF溶液中に入れ、その後DI水中で洗い流し、乾燥させてから、エッチング中の材料損失について再度測定する。比較例として、既知の一定したエッチ速度を有する2つの比較用熱処理酸化ケイ素膜、又はビス(tert−ブチルアミノ)シラン(BTBAS)及びビス(イソプロピルアミノ)ビニルメチルシラン膜を使用し、特性を調べるべき膜とともに同じカセット内に入れて同時にエッチングした。この膜を、比較用酸化ケイ素膜とともに、エッチング前後に上述の楕円偏光測定装置と方法を用いて膜表面全域にわたり異なる9箇所でそれらの厚みについて測定を行う。次に、厚みの減少分を膜がHF溶液中に浸されている時間で除したものとして、エッチ速度を計算する。
【0054】
DTGS KBR検出器及びKBrビームスプリッタを備えたThermo Nicolet Nexus 470システムを用いて、ウェーハのフーリエ赤外分光(FTIR)データを収集した。スペクトルからCO2及び水を除去するため、類似の中程度の抵抗率ウェーハでバックグラウンドスペクトルを収集した。4cm-1の解像度で32回の走査データを収集することにより、4000〜400cm-1の範囲内のデータを得た。OMNICソフトウェアパッケージを使用してデータを処理した。全ての膜のベースラインを補正し、強度を500nmの膜厚に正規化し、そしてOMNICソフトウェアを用いて関心対象のピーク面積と高さを測定した。
【0055】
各試料膜の誘電率を、ASTM標準規格D150−98に従って測定した。誘電率kは、MDC 802B−150水銀プローブを用いて測定したC−V曲線から計算される。それは、試料を保持し測定すべき膜に電気接点を形成するプローブステージ、Keithley 236ソースメータ及びC−V測定用のHP4284A LCRメータで構成される。比較的低い電気抵抗率(0.02Ω・cm未満のシート抵抗)を有するSiウェーハを用いてC−V測定用の膜を被着させる。膜に対し電気接点を形成するために前面接触モードが用いられる。2つの導電性接点を形成するために、貯蔵器から細い管を通してウェーハの表面に液体金属(水銀)を押し出す。水銀を押し出す管の直径に基づいて、接触面積を計算する。その後、誘電率を次の式から計算する。
k=(静電容量)×(接触面積)/膜厚
【0056】
単一ウェーハを精確に制御した温度で短時間加熱するために、強力可視光放射を用いるRTP−610を使用して、スパイクアニール処理を実施した。900℃より高い温度について、パイロメータにより温度を監視し制御する。この作業で使用されるスパイクアニールプロフィール、すなわち200℃/秒の速度での室温から1000℃まで上昇し、2秒間1000℃で保持し、そして室温までの自由に降温するというプロフィールを、図1に示す。アニーリングはN2雰囲気下で実施した。
【0057】
〔例1〕高温急速アニール前後の膜特性
600℃の被着温度、250mTorrの圧力、12スタンダード立方センチメートル(sccm)の1,4−ジシラブタン前駆体流量、及び10sccmの酸素O2流量という被着条件の下で、100mmの管状炉を用い、前駆体1,4−ジシラブタンを使用してシリコンウェーハ上に典型的な酸化ケイ素誘電体膜を被着させた。
【0058】
高温急速アニール前後の膜のウェットエッチ速度、誘電率及び厚みを表1及び表2に提示する。表2からわかるように、1,4−ジシラブタンを用いて作られた典型的な膜は、その優れたウェット耐性と低い誘電率を維持しながら、高温急速アニール(又はスパイクアニール)に耐えることができる。図1は、ここに記載されている方法により作製され少なくとも1種のケイ素含有前駆体として1,4−ジシラブタンを用いて被着された典型的な誘電体膜についてのスパイクアニールプロフィールを提示している。表2も、膜厚が受ける変化が急速アニール後にやはりきわめてわずかなことを示している。
【0059】
図2は、少なくとも1種のケイ素含有前駆体として1,4−ジシラブタンを用いて被着された誘電体膜についてウェットエッチ速度に対する被着温度の効果を図示している。図2から、被着温度が500℃未満に低下するにつれて、エッチ抵抗が急速に低下することがわかる。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
スパイクアニール処理を受けた典型的誘電体膜及びスパイクアニール処理を受けなかった典型的誘電体膜のX線光電子分光(XPS)スペクトルを、表3に要約して提示する。表3からわかるように、スパイクアニールの前後で炭素含有量に有意な差異はない。このことは、少なくとも1種のケイ素含有前駆体として1,4−ジシラブタンを用いて被着された典型的膜では、スパイクアニール処理に起因して、炭素の損失が非常にわずかしかないということを示唆するものであろう。
【0063】
【表3】

【0064】
〔例2〕ビス(tert−ブチルアミノ)シラン(BTBAS)及びビス(イソプロピルアミノ)ビニルメチルシランを用いて被着された比較用誘電体膜
前駆体ビス(tert−ブチルアミノ)シラン(BTBAS)及びビス(イソプロピルアミノ)ビニルメチルシランを用いて比較用酸化ケイ素誘電体膜をシリコンウェーハ上に被着させた。
【0065】
比較用誘電体膜の高温急速熱アニールの前後のウェットエッチ速度、誘電率及び厚みを、BTBAS及びビス(イソプロピルアミノ)ビニルメチルシランについてそれぞれ表4〜5及び表7〜8に提示する。BTBASを用いて被着されスパイクアニール処理を受けた及びスパイクアニール処理を受けていない比較用誘電体膜のXPSスペクトルを、要約して表6に提示する。
【0066】
【表4】

【0067】
【表5】

【0068】
【表6】

【0069】
【表7】

【0070】
【表8】

【0071】
〔例3〕1:1未満のケイ素前駆体:酸素源分子比
本発明のケイ素前駆体を、分子ベースでそのケイ素前駆体と1:1未満の比となる量の、反応において利用可能な酸素源の存在下で被着させることが極めて重要であることを実証するための実験を行なった。下記の表9では、2,5−ジシラヘキサンをいろいろな分子比の酸素と、600℃の温度及び250mTorrで反応させた。表9に見られるように、被着されたままの膜をウェットエッチ速度(WER)の評価に付した場合、酸素が1:1未満の比で存在するケイ素前駆体対酸素モル比で酸素を用いて被着したままの膜は、ウェットエッチ速度の著しい低下を示している。
【0072】
【表9】

【0073】
これらの実験を、同じ反応装置条件下で1,4−ジシラブタンを用いて反復した。下記表10に示したとおり、ケイ素前駆体との関係において1:1未満の分子比で酸素が存在する場合に同じ劇的なウェットエッチ速度低下が1,4−ジシラブタンについて示されている。
【0074】
【表10】

【0075】
表10の被着されたままの膜を、被着後急速高温熱アニール(RTA)に付した。ここでもまた、下記表11で報告されるように、ケイ素前駆体に対し1:1未満の分子比の酸素を用いて被着された膜は、ウェットエッチ速度の劇的な低下を示した。
【0076】
【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも1つの表面に誘電体膜を形成するための方法であって、
反応チャンバ内に基材の少なくとも1つの表面を供給すること、
次の式I、すなわちR13Si−R2−SiR33という式(この式中、R2はアルキル基及びアリール基から独立して選択され、R1及びR3は各々、H、アルキル基、アリール基、アルケニル基、基、ハロゲン原子及びアルコキシ基から独立して選択される)、を有するケイ素含有前駆体から選択された少なくとも1種のケイ素前駆体を供給すること、
分子の量が該ケイ素前駆体に対する比で1:1よりも少ない酸素源を供給すること、及び
化学気相成長法及び原子層堆積法から選択された被着法により前記少なくとも1つの表面上に誘電体膜を形成すること、
を含む誘電体膜形成方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種のケイ素前駆体を、
1,3−ジシラブタン及びその誘導体、
1,4−ジシラブタン及びその誘導体、
1,4−ジシリルベンゼン及びその誘導体、
1,3−ジシリルベンゼン及びその誘導体、
1,3−ジシラシクロブタン及びその誘導体、
1,4−ジシラシクロヘキサン及びその誘導体、
及びこれらの組み合わせ、
からなる群より選択する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式Iを有する前記少なくとも1種のケイ素前駆体が1,4−ジシラブタンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記酸素源が酸素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記酸素源がオゾンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記誘電体膜が、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、及び酸炭化ケイ素からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
原子層堆積(ALD)法により酸化ケイ素を含む誘電体膜を形成する方法であって、
a.ALD反応装置内に基材を供給する工程、
b.次の式I、すなわちR13Si−R2−SiR33という式(この式中、R2はアルキル基及びアリール基から独立して選択され、R1及びR3は各々、H、アルキル基、アリール基、アルケニル基、ハロゲン原子及びアルコキシ基から独立して選択される)を有するケイ素含有前駆体から選択された少なくとも1種のケイ素前駆体を、該ALD反応装置内に供給する工程、
c.該ALD反応装置を不活性ガスでパージする工程、
d.分子の量が該ケイ素前駆体に対する比で1:1よりも少ない酸素源を該ALD反応装置内に供給する工程、
e.該ALD反応装置を不活性ガスでパージする工程、及び
f.誘電体膜の所望の厚みが得られるまで工程b〜eを反復する工程、
を含む誘電体膜形成方法。
【請求項8】
前記少なくとも1種のケイ素前駆体を、
1,3−ジシラブタン及びその誘導体、
1,4−ジシラブタン及びその誘導体、
1,4−ジシリルベンゼン及びその誘導体、
1,3−ジシリルベンゼン及びその誘導体、
1,3−ジシラシクロブタン及びその誘導体
1,4−ジシラシクロヘキサン及びその誘導体、
及びこれらの組み合わせ、
からなる群より選択する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
化学気相成長(CVD)法を用いて基材の少なくとも1つの表面上に酸化ケイ素を含む誘電体膜を形成する方法であって、
a.反応装置内に基材を供給すること、
b.次の式I、すなわちR13Si−R2−SiR33という式(この式中、R2はアルキル基及びアリール基から独立して選択され、R1及びR3は各々、H、アルキル基、アリール基、アルケニル基、ハロゲン原子及びアルコキシ基から独立して選択される)、を有するケイ素含有前駆体から選択された少なくとも1種のケイ素前駆体を、該CVD反応装置内に導入すること、
c.分子の量が該ケイ素前駆体に対する比で1:1よりも少ない酸素源を該CVD反応装置内に供給すること、及び
d.該少なくとも1つの表面上に酸化ケイ素誘電体膜を形成すること、
を含む誘電体膜形成方法。
【請求項10】
前記少なくとも1種のケイ素前駆体を、
1,3−ジシラブタン及びその誘導体、
1,4−ジシラブタン及びその誘導体、
1,4−ジシリルベンゼン及びその誘導体、
1,3−ジシリルベンゼン及びその誘導体、
1,3−ジシラシクロブタン及びその誘導体、
1,4−ジシラシクロヘキサン及びその誘導体、
及びこれらの組み合わせ、
からなる群より選択する、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−219533(P2010−219533A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−56413(P2010−56413)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】