説明

調整弁装置

【課題】弁体の構造や形状を適正化し、弁体の開閉精度を向上させた調整弁装置を提供する。
【解決手段】弁体310は、弁体頭部310aと弁体身部310bとが弁軸310cにより連結された構造を有する。弁箱305は、弁体310と動力伝達部材320aとを摺動可能に内蔵する。第1のベローズ320bは、動力伝達部材320a及び弁箱305に固着されることにより、動力伝達部材320aに対して弁体と反対側の位置に第1の空間Usを形成する。第2のベローズ320cは、動力伝達部材320a及び弁箱305に固着されることにより、動力伝達部材320aに対して弁体側の位置に第2の空間Lsを形成する。第1の配管320dから第1の空間Usに供給されたエアーと第2の配管320eから第2の空間Lsに供給されたエアーとの比率に応じて動力伝達部材320aから弁体頭部310aに動力を伝達し、搬送路200aを開閉する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアーにより弁体を開閉する調整弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体製造装置、有機EL(Electro Luminescence)装置、FPD(FLat Panel Display)装置等の製造装置において、成膜等の製造に使用される流体の搬送路の開閉や流量調整のために搬送路に調整弁装置を設けることが提案されている(特許文献1,2を参照)。たとえば、特許文献1、2に記載された調整弁装置では、ベローズの一端を弁体に溶接し、他端をベローズホルダに溶接し、これにより、弁体を収納した弁箱内の搬送路と弁軸の周囲の空間とをベローズにより区画する。この状態にて弁体を摺動させて、弁体を搬送路の弁座面に当接又は弁座面から隔離することにより、搬送路の開閉や流量調整を行う。弁体及び弁座面は、たとえば、SUS等のステンレスやアルミニウムにより形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06−074363号公報
【特許文献2】特開平11−153235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、弁体の開閉動作時、弁体と弁座面との間の機械的な干渉や、組み立て時に発生する弁体と弁座面との僅かな偏りにより弁体の開閉部分にてリークが発生する場合がある。特に、調整弁装置の内部が300℃以上に達するプロセス条件において弁体の開閉動作が行われる場合、リークの発生頻度が高くなったり、リーク量が多くなったりする。たとえば、有機EL装置の搬送路に調整弁装置を取り付けて、調整弁装置により搬送路の開閉を行う場合について考える。蒸着源にて蒸発した成膜材料(有機分子)は、キャリアガスとともに搬送路を通過して基板まで搬送される。搬送中、付着係数を考慮して成膜材料が搬送路の内壁に付着することを回避するために、搬送路を300℃以上の高温状態にする必要がある。これにより、弁体の近傍が300℃以上の高温状態になる。このような状態で弁体の開閉動作を繰り返すと、機械的な干渉だけでなく熱の影響を受けて弁体と弁座面との間に摩擦や溶解が生じ、カジリや焼き付きが引き起こされる。この結果、弁体の開閉部分にてリークが頻出しかつリーク量も増加する。Ni−Co等の樹脂が弁体にコーティングされている場合には、樹脂は耐熱温度が低いため、高温にさらされると変形及び溶解して、カジリや焼き付きが発生する可能性が高くなる。この結果、リークの発生頻度は更に高くなり、弁体の開閉精度が低下する。
【0005】
そこで、上記課題を解決するために、本発明は、弁体の構造や形状を適正化し、弁体の開閉精度を向上させた調整弁装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、上記課題を解決するために、弁体頭部と弁体身部とが弁軸により連結された弁体と、前記弁軸を介して前記弁体に連結され、前記弁体に動力を伝達する動力伝達部材と、前記弁体と前記動力伝達部材とを摺動可能に内蔵する弁箱と、一端を前記動力伝達部材に固着し、他端を前記弁箱に固着することにより、前記動力伝達部材に対して前記弁体と反対側の位置に第1の空間を形成する第1のベローズと、一端を前記動力伝達部材に固着し、他端を前記弁箱に固着することにより、前記動力伝達部材に対して前記弁体側の位置に第2の空間を形成する第2のベローズと、前記第1の空間と連通する第1の配管と、前記第2の空間と連通する第2の配管と、を備え、前記第1の配管から前記第1の空間に供給されたエアーと前記第2の配管から前記第2の空間に供給されたエアーとの比率に応じて前記動力伝達部材から前記弁軸を介して前記弁体に動力を伝達することにより、前記弁体頭部によって前記弁箱に形成された搬送路を開閉する調整弁装置が提供される。
【0007】
これによれば、図5に示したように第1のベローズ320bを用いて動力伝達部材320aに対して弁体310と反対側の位置に第1の空間Usが形成され、第1のベローズ320b及び第2のベローズ320cを用いて動力伝達部材320aに対して弁体側の位置に第2の空間Lsが形成される。この第1の空間Usに供給されるエアーと第2の空間Lsに供給されるエアーとの比率により、第1及び第2の空間に挟まれた動力伝達部材320aを弁体の閉方向又は開方向に摺動させることができる。この動力は、弁軸310cを介して弁体頭部310aに伝えられる。この結果、弁体頭部310aにより搬送路(往路200a1及び復路200a2)を開閉することができる。
【0008】
弁体は、弁体頭部と弁体身部とが弁軸により連結された構造を有していてもよいし、弁体頭部と弁体身部とが一体構造になっていても良い。
【0009】
また、前記弁軸は、前記弁体身部の長手方向の中央を貫通し、前記弁体頭部の中央に設けられた凹部に挿入されていてもよい。
【0010】
さらに、前記弁体頭部の中央に設けられた凹部と前記弁軸との間には、遊びが設けられていてもよい。
【0011】
このような構造により、図5の弁体身部310bと弁軸310cとのクリアランスを制御して弁軸310cのぶれを補正するとともに弁体頭部310aの凹部310a1に遊び310a2を設けたことにより、弁体頭部310aの軸の微少なずれを調整することができる。これにより、弁体頭部310aを弁座面200a3に偏りなく当接することにより、弁体頭部310aと弁座面200a3との密着性を高くして、リークを防ぐことができる。
【0012】
一端を前記弁体頭部に固着し、他端を前記弁体身部に固着することにより、前記弁軸側の空間と前記搬送路側の空間とを遮断してもよい。
【0013】
前記弁体頭部の前記搬送路に当接する部分はテーパ形状であり、前記弁体頭部の先端面に垂直な線分に対するテーパ開度θは、40°〜80°であってもよい。
【0014】
前記弁体頭部の前記搬送路に当接する部分は円弧状であり、所望の曲率半径を有する構造であってもよい。
【0015】
前記弁体頭部は、ビッカース硬さが500HV以上になるようにステライト盛りされた金属であってもよい。
【0016】
前記弁体頭部には、コバルト合金系の溶接盛りが施されていてもよい。
【0017】
前記弁体頭部に当接する前記搬送路の弁座面は、シートバニシング加工によりビッカース硬さが概ね200以上400HV以下になるように表面加工された金属であってもよい。
【0018】
前記調整弁装置は、被処理体を成膜する有機分子を被処理体近傍まで搬送する搬送路の開閉に用いられてもよい。
【0019】
前記調整弁装置は、内部が300℃以上になる環境下において使用されてもよい。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、弁体の構造や形状を適正化し、弁体の開閉精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る6層連続成膜装置の概略斜視図である。
【図2】同実施形態に係る成膜ユニットの断面図である。
【図3】同実施形態に係る6層連続成膜装置により形成された有機EL素子の模式図である。
【図4】同実施形態に係る蒸着源及び搬送路の断面図である。
【図5】同実施形態に係る調整弁装置の断面図である。
【図6】同実施形態に係る調整弁装置を用いてリーク量を検出した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態にかかる調整弁装置について詳細に説明する。なお、以下の説明及び添付図面において、同一の構成及び機能を有する構成要素については、同一符号を付することにより、重複説明を省略する。
【0023】
なお、説明は以下の順序で行う。
1.調整弁装置を利用する6層連続成膜装置の全体構成
2.6層連続成膜装置に係る成膜ユニットの内部構成
3.成膜ユニットに係る調整弁装置の内部構成
4.弁体及び弁座面の構造、形状、表面処理
5.リーク状態の検証
【0024】
[6層連続成膜装置]
まず、本発明の一実施形態に係る調整弁装置が用いられる6層連続成膜装置について、その概略構成を示した図1を参照しながら説明する。
【0025】
6層連続成膜装置10は、矩形状の真空容器Chを有している。真空容器Chの内部は、図示しない排気装置により排気され、所望の真空状態に維持されている。真空容器Chの内部には、成膜ユニット20が6つ並んで配置されている。隣接する成膜ユニット20の間には、隔壁板500がそれぞれ設けられている。成膜ユニット20は、矩形状の3個の蒸着源ユニット100、連結管200及び蒸着源ユニット100と対になって配置される3つの調整弁装置300及び吹き出し機構400を有している。
【0026】
蒸着源ユニット100は、SUS等の金属から形成されている。石英等は有機材料と反応しにくいため、蒸着源ユニット100は、石英等でコーティングされた金属から形成されていてもよい。なお、蒸着源ユニット100は、材料を気化する蒸着源の一例であり、ユニット型の蒸着源である必要はなく、一般的なるつぼであってもよい。
【0027】
蒸着源ユニット100の内部には、異なる種類の有機材料が納められている。蒸着源ユニット100の壁面には、図示しないヒーターが埋設されている。ヒーターは、蒸着源ユニット100を所望の温度に温め、有機材料を気化させる。なお、気化とは、液体が気体に変わる現象だけでなく、固体が液体の状態を経ずに直接気体に変わる現象(すなわち、昇華)も含んでいる。
【0028】
気化された有機分子は、連結管200を通って、吹き出し機構400まで運ばれ、吹き出し機構400の上部に設けられたスリット状の開口Opから吹き出される。吹き出された有機分子は、基板Gに付着され、これにより基板Gが成膜される。隔壁板500は、隣接する開口Opから吹き出された有機分子同士が混在しながら成膜されることを防止する。なお、本実施形態では、図1に示したように、真空容器Chの天井位置にてスライド移動するフェースダウンの基板Gを成膜したが、基板Gはフェースアップに配置されていてもよい。
【0029】
[成膜ユニット]
つぎに、図1の1−1断面を示した図2を参照しながら、成膜ユニット20の内部構造について説明する。なお、図1に示した他の5つの成膜ユニット20は、図1の1−1断面の成膜ユニット20と同一構造であるためその説明を省略する。
【0030】
蒸着源ユニット100は、材料投入器110と外部ケース120とを有している。材料投入器110は、有機成膜材料を収納する材料容器110aとキャリアガスの導入流路110bとを有する。外部ケース120は、ボトル状に形成され、中空の内部に材料投入器110が着脱可能に装着されるようになっている。材料投入器110が外部ケース120に装着されると、蒸着源ユニット100の内部空間が画定される。蒸着源ユニット100の内部空間は、連結管200の内部に形成された搬送路200aと連通する。搬送路200aは、調整弁装置300の開閉機構により開閉される。調整弁装置300は、真空容器Chの外部に設けられたエアー供給源600から供給される加圧エアーにより搬送路200aを開閉する。調整弁装置300の内部構造については後述する。
【0031】
材料投入器110の端部は、図示しないガス供給源に接続され、ガス供給源から供給されるアルゴンガスを流路110bに導入する。アルゴンガスは、材料容器110aに収納された成膜材料の有機分子を搬送するキャリアガスとして機能する。なお、キャリアガスは、アルゴンガスに限られず、ヘリウムガスやクリプトンガスなどの不活性ガスであればよい。
【0032】
成膜材料の有機分子は、蒸着源ユニット100から連結管200の搬送路200aを通って吹き出し機構400に搬送され、バッファ空間Sに一時滞留した後、スリット状の開口Opを通って基板G上に付着する。
【0033】
[有機膜構造]
本実施形態にかかる6層連続成膜装置10では、図1に示したように、基板Gは1〜6番目の吹き出し機構400の上方をある速度で進行する。進行中、図3に示したように、基板GのITO上に順に、第1層のホール注入層、第2層のホール輸送層、第3層の青発光層、第4層の緑発光層、第5層の赤発光層、第6層の電子輸送層が成膜される。このようにして、本実施形態にかかる6層連続成膜装置10では、第1層〜第6層の有機層が連続成膜される。このうち、第3層〜第5層の青発光層、緑発光層、赤発光層は、ホールと電子の再結合により発光する発光層である。また、有機層上のメタル層(電子注入層及び陰極)は、スパッタリングにより成膜される。
【0034】
これにより、有機層を陽極(アノード)および陰極(カソード)にてサンドイッチした構造の有機EL素子がガラス基板上に形成される。有機EL素子の陽極および陰極に電圧を印加すると、陽極からはホール(正孔)が有機層に注入され、陰極からは電子が有機層に注入される。注入されたホールおよび電子は有機層にて再結合し、このとき発光が生じる。
【0035】
[搬送路の経路]
つぎに、図2の2−2断面を示した図4を参照しながら、搬送路200aの経路について簡単に説明する。前述したように、連結管200は、調整弁装置300を経由して気化有機分子を吹き出し機構400側へ搬送する。具体的には、調整弁装置300の弁体は成膜中には開くため、各蒸着源ユニット100にて気化された有機分子は、キャリアガスにより搬送されながら、搬送路の往路200a1から復路200a2に通され、吹き出し機構400まで搬送される。一方、調整弁装置300の弁体は成膜しないときには閉じるため、搬送路の往路200a1と復路200a2とは閉塞され、有機分子の搬送は停止させる。
【0036】
[調整弁装置]
次に、調整弁装置300の断面を示した図5を参照しながら、調整弁装置300の内部構成及び動作について詳述する。調整弁装置300は、円筒状の弁箱305を有している。弁箱305は、前方部材305a、中央のボンネット305b、後方部材305cの3つに分かれている。弁箱305は中空になっていて、その略中央に弁体310が内蔵されている。
【0037】
弁体310は、弁体頭部310aと弁体身部310bとに分離されている。弁体頭部310aと弁体身部310bとは、弁軸310cにより連結されている。具体的には、弁軸310cは棒状部材であって、弁体身部310bの長手方向の中央を貫通し、弁体頭部310aの中央に設けられた凹部310a1に嵌入されている。弁体身部310bの突出部310b1は、弁箱305のボンネット305bに設けられた環状の凹部305a1に挿入されている。弁箱305の前方部材305aには、搬送路200aの往路200a1及び復路200a2が形成されている。
【0038】
凹部305a1には、突出部310b1が挿入された状態にて、弁体身部310bがその長手方向に摺動可能な空間が設けられていて、その空間には耐熱性の緩衝部材315が介在している。緩衝部材315の一例としては、金属製ガスケットが挙げられる。緩衝部材315は、搬送路側の真空と弁軸310c側の大気を遮断するとともに弁体身部310bの摺動による突出部310b1とボンネット305bとの機械的干渉を緩和するようになっている。
【0039】
(弁体身部及び弁体頭部の分離構造)
弁体頭部310aの凹部310a1にも、弁軸310cが挿入された状態で遊び310a2が設けられている。本実施形態に係る弁体310では、弁体身部310bと弁体頭部310aとが分離されているので、弁体身部310bと弁軸310cとのクリアランス(隙間)を制御することにより、開閉動作時の弁体310の中心位置のずれを補正する。これに加えて、弁体頭部310aの凹部310a1に遊び310a2を設けたことにより、弁体頭部310aの軸の微少なずれを調整することができる。これにより、弁体頭部310aを弁座面200a3に偏りなく当接することにより、弁体頭部310aと弁座面200a3との密着性を高くして、リークを防ぐことができる。この結果、本実施形態に係る分離型の弁体310によれば、調整弁装置300が高温状態にて使用されたり、低温状態にて使用されたりして金属が熱膨張することによる影響が生じたとしても、弁体310の分離構造により上述したようにその影響を吸収できるため、一体型の弁体に比べて開閉時の弁体部分のリークを効果的に防ぐことができる。
【0040】
弁箱305の後方部材305cには、弁体駆動部320が設けられている。弁体駆動部320は、弁箱305に内蔵された動力伝達部材320a、第1のベローズ320b及び第2のベローズ320cを有している。動力伝達部材320aは、略T字状であって、弁軸310cの端部にねじ止めされている。
【0041】
第1のベローズ320bは、一端が動力伝達部材320aに溶接され、他端が後方部材305cに溶接されている。これにより、弁箱305の後部側(動力伝達部材320aに対して弁体310と反対側の位置)に、動力伝達部材320aと第1のベローズ320bと後方部材305cとにより隔絶された第1の空間Usが形成される。
【0042】
第2のベローズ320cは、一端が動力伝達部材320aに溶接され、他端が後方部材305cに溶接されている。これにより、弁箱305の前部側(動力伝達部材320aに対して弁体側の位置)に、動力伝達部材320aと第1のベローズ320bと第2のベローズ320cと後方部材305cとにより隔絶された第2の空間Lsが形成される。
【0043】
第1の配管320dは、第1のベローズ320bにより隔離された第1の空間Usと連通する。第1の配管320dは、エアー供給源600の供給管Ar1に連結されている。第1の配管320dは、エアー供給源600から出力された加圧エアーを第1の空間Usに供給する。
【0044】
第2の配管320eは、第1のベローズ320bと第2のベローズ320cとにより隔絶された第2の空間Lsと連通する。第2の配管320eは、エアー供給源600の供給管Ar2に連結されている。第2の配管320eは、エアー供給源600から出力された加圧エアーを第2の空間Lsに供給する。
【0045】
かかる構成によれば、第1の配管320dから第1の空間Usに供給された加圧エアーと第2の配管320eから第2の空間Lsに供給された加圧エアーとの比率に応じて、動力伝達部材320aから弁軸310cを介して弁体頭部310aに動力が伝達される。これにより、弁体頭部310aがその長手方向に進行又は後退することによって弁箱305に形成された搬送路の往路200a1及び復路200a2を開閉する。開閉方向は、第1の空間Usに供給された加圧エアーと第2の空間Lsに供給された加圧エアーとの比率により定まる。
【0046】
たとえば、第2の空間Lsに供給された加圧エアーに対する第1の空間Usに供給された加圧エアーの比率が高くなった場合、動力伝達部材320aは、弁体310を押圧する方向にスライドし、弁体頭部310aが弁軸310cを介して前方方向に押され、これにより、弁体頭部310aが搬送路の往路200a1を閉塞し、弁体310が閉まる。
【0047】
一方、第2の空間Lsに供給された加圧エアーに対する第1の空間Usに供給された加圧エアーの比率が低くなった場合、動力伝達部材320aは、弁体310を引っ張る方向にスライドし、弁軸310cを介して弁体頭部310aが後方方向に引っ張られ、これにより、弁体頭部310aが搬送路の往路200a1から離隔し、弁体310が開く。
【0048】
第3のベローズ325は、一端が弁体頭部310aに溶接され、他端が弁体身部310bに溶接されている。これにより、弁軸側の大気空間と搬送路側の真空空間とが遮断される。また、弁体身部310bと弁体頭部310aとの間を第3のベローズ325により支えることによって、弁体身部310bと弁軸310cとの間のクリアランスを管理することができる。これにより、弁体開閉動作時に弁体身部310bと弁軸310cとが接触して摩擦が生じないように制御されている。なお、ボンネット305bには、ボンネット305bと弁体駆動部320との間の密閉空間内をパージするパージポート330が設けられている。
【0049】
弁箱305の前方部材305aとボンネット305bとの接面、及びボンネット305bと後方部材305cとの接面には密閉性を確保するためにシール用の金属製ガスケット335が介設されている。これにより、調整弁装置300を真空環境下での使用に適した構造とすることができる。
【0050】
[弁体及び弁座面の表面処理]
本実施形態にかかる調整弁装置300では、上述したように弁体310を分離構造にしたことに加えて、500℃程度の高温環境においても操作性及びシール性を安定して維持できるように、弁体及び弁座の材質、形状及び表面加工の最適化を図っている。
【0051】
(弁体及び弁座の材質及び表面処理)
具体的には、発明者らは、弁座面200a3及び弁体310の材質として、耐熱性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼を採用した。加えて、発明者らは、弁体310の表面を、ビッカース硬さが500HV以上になるように、ステライト(登録商標)仕上げ又はF2コート(登録商標)により加工した。ステライトは、ステンレス鋼にコバルト合金系の溶接盛りを施したものであり、F2コートは、ニッケルにリンを混入させた材料にてステンレス鋼をコーティングする処理である。たとえば、ステンレス鋼をステライト盛りすると、弁体頭部310aのビッカース硬さは500HV以上になり、F2コートすると、弁体頭部310aのビッカース硬さは700HV程度になる。よって、硬度の高さからステライト盛りよりF2コートの方が好ましい。
【0052】
弁座側(弁座面200a3)は、たとえば、ステンレス鋼をバニシング加工する。バニシング加工では、金属表面をローラで押しつぶし塑性変形させることにより、表層を硬化させるとともに表面が鏡面に仕上げられる。本実施形態では、発明者らは、弁座面200a3のビッカース硬さを概ね200以上400HV以下になるように表面加工する。
【0053】
以上のように、発明者らは、弁体頭部310aのF2コート、ビッカース硬さを500HV以上とし、弁座面200a3のビッカース硬さをシートバニシング加工により概ね200以上400HV以下とすることにより、弁体頭部310aと弁座面200a3との間に硬度差を設け、かつ弁体頭部310a及び弁座面200a3に異なる表面硬化処理を施した。これにより、弁体310のスムーズな開閉動作を実現し、カジリや焼き付きを防止した。
【0054】
一方、弁座面200a3が硬すぎると弁座面200a3を形成する材質の結晶構造が崩れて、耐食性が落ち、弁座を構成する材質が剥離して搬送路中に飛来し、搬送路中の成膜材料に混入してコンタミネーションの原因になるため、弁座面200a3のビッカース硬さは、400HV以下(好ましくは、概ね200以上400HV以下)とした。
【0055】
(弁体及び弁座の形状)
弁体頭部310aの弁座面200a3と当接する部分はテーパ形状であり、弁体頭部310aの先端面に垂直な線分に対するテーパ開度θは40°〜80°である。テーパ開度θを40°〜80°に限定したのは、シート性向上のためである。これにより、弁体310をさらにスムーズに開閉し、カジリや焼き付きを防止する。
【0056】
なお、弁体頭部310aの弁座面200a3との当接部分は円弧状であってもよい。その場合、所望の曲率半径をもたせることが好ましい。これにより、弁体310をさらにスムーズに開閉し、カジリや焼き付きを防止する。
【0057】
さらに、弁体310の組み立て仕上げ時には、弁座と弁体との同軸度、調芯(摺り合わせ)を行うことにより、弁体310と弁座面200a3との中心軸のずれをなくして最適な仕上げ状態にする。このようにして、特殊な表面硬化処理を行い、カジリ、焼き付きを防止したことにより、金属同士の弁体及び弁座を用いて、操作性、シール性及び耐熱性を安定して維持できる調整弁装置300を構築することができた。
【0058】
[リーク状態の検証]
発明者は、上記構成の調整弁装置300を用いて弁体310のリーク状態について検証した。実験は、弁箱305を500℃の高温にした状態と、弁箱305を室温にした状態との両方について行われた。弁体頭部310aの当接部分のテーパ開度θは60℃とした。弁体頭部310aは、SUS316のステンレス鋼にF2コートの表面処理が施され、弁座面200a3は、SUS316のステンレス鋼にバニシング加工が施されている。弁体頭部310aのビッカース硬さは700HV、弁座(弁座面200a3)のシートバニシング加工によりビッカース硬さは400HVであった。
【0059】
弁箱305内(ボディ)の温度が500℃の場合、図6に示したように、操作圧力(MPa)、すなわち、第1の配管320dから供給された加圧エアーが動力伝達部材320aを押圧する際の圧力を可変させたとき、検査したすべての操作圧力(0.20〜0.60:MPs)においてリーク量は10−11(Pa×m/sec)以下のオーダーであった。特に、操作圧力が0.25〜0.55(MPa)の場合、リーク量の検出結果は、最小検出感度以下であった。これは、ほとんどリークが生じていないのでリーク量を検出不可能であったことを示している。
【0060】
一方、弁箱内の温度が室温の場合、操作圧力(0.50〜0.60:MPs)においてリーク量は、10−9(Pa×m/sec)以下のオーダーであった。以上から、弁箱内の温度が室温の場合であっても操作圧力が0.50〜0.60(MPa)の場合、リーク量は、10−9(Pa×m/sec)以下のオーダーを達成することができ、500℃程度の高温状態では、更にリーク量を減少させることができることがわかった。従来の調整弁装置では、リーク量が10−3〜10−4(Pa×m/sec)程度であったことと比較すると、本実施形態にかかる調整弁装置300では、弁体310及び弁座の材質、形状及び表面加工の最適化を図ったことにより、ほとんどリークが生じていない状態で弁体310の開閉動作を繰り返すことができることが立証された。
【0061】
特に、有機成膜の場合、搬送路200aを通過する有機蒸着材料は、高温、減圧の環境下で使用される。有機蒸着材料が高温下で使用される理由について説明する。図2に示したように蒸着源ユニット100にて蒸発した成膜材料(有機分子)は、キャリアガスArにより搬送路200aを通過して基板Gまで搬送される。搬送中、付着係数を考慮して、成膜材料が搬送路200aの内壁に付着することを回避するために、搬送路200aを300℃以上の高温状態にする必要がある。また、有機蒸着材料が減圧下で使用される理由は、搬送路200aの内部を減圧状態にすることにより、コンタミネーションがほとんど存在しない状態で有機分子を基板Gまで搬送したいからである。
【0062】
以上から、本実施形態にかかる調整弁装置300が、有機膜の6層連続成膜装置10に使用される場合、弁体310の近傍は、高温、減圧状態にある。しかしながら、上述したように、以上に説明した弁体310の開閉機構では、リークがほとんど生じないため、搬送路側が真空環境下にあっても、弁軸側の大気が搬送路側に流入しない。この結果、搬送路200aを通過する有機材料の劣化を防ぎ、良好な有機成膜を実現することができる。
【0063】
特に、本実施形態にかかる調整弁装置300は、500℃程度の高温状態でも非常に高い密閉性を保つことができる。また、弁体側及び弁座側をともに金属により形成し、かつ弁体の分離構造を採用したことにより、高い精度でリークを防止できる弁機構を実現することができる。
【0064】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0065】
たとえば、本発明に係る調整弁装置は、有機EL装置に設けられた搬送路の開閉に使用されるだけでなく、半導体製造装置やFPD装置等の弁の開閉機構が必要な製造装置に使用することができる。特に、本発明にかかる調整弁装置は、500℃程度の高温状態でも使用することができ、10−1〜10Pa程度の真空状態でも使用することができる。
【0066】
なお、本発明に係る有機EL装置の成膜材料には、パウダー状(固体)の有機材料を用いることができる。成膜材料に主に液体の有機金属を用い、気化させた成膜材料を加熱された被処理体上で分解させることにより、被処理体上に薄膜を成長させるMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長法)に用いることもできる。
【符号の説明】
【0067】
10 6層連続成膜装置
20 成膜ユニット
100 蒸着源ユニット
200 連結管
200a 搬送路
200a1 往路
200a2 復路
300 調整弁装置
305 弁箱
305a 前方部材
305b ボンネット
305c 後方部材
310 弁体
310a 弁体頭部
310b 弁体身部
310c 弁軸
315 シール部材
320 弁体駆動部
320a 動力伝達部材
320b 第1のベローズ
320c 第2のベローズ
320d 第1の配管
320e 第2の配管
330 パージポート
335 金属製ガスケット
400 吹き出し機構
500 隔壁板
600 エアー供給源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁体頭部と弁体身部とが弁軸により連結された弁体と、
前記弁軸を介して前記弁体に連結され、前記弁体に動力を伝達する動力伝達部材と、
前記弁体と前記動力伝達部材とを摺動可能に内蔵する弁箱と、
一端を前記動力伝達部材に固着し、他端を前記弁箱に固着することにより、前記動力伝達部材に対して前記弁体と反対側の位置に第1の空間を形成する第1のベローズと、
一端を前記動力伝達部材に固着し、他端を前記弁箱に固着することにより、前記動力伝達部材に対して前記弁体側の位置に第2の空間を形成する第2のベローズと、
前記第1の空間と連通する第1の配管と、
前記第2の空間と連通する第2の配管と、を備え、
前記第1の配管から前記第1の空間に供給されたエアーと前記第2の配管から前記第2の空間に供給されたエアーとの比率に応じて前記動力伝達部材から前記弁軸を介して前記弁体に動力を伝達することにより、前記弁体頭部によって前記弁箱に形成された搬送路を開閉する調整弁装置。
【請求項2】
前記弁軸は、前記弁体身部の長手方向の中央を貫通し、前記弁体頭部の中央に設けられた凹部に挿入される請求項1に記載された調整弁装置。
【請求項3】
前記弁体頭部の中央に設けられた凹部と前記弁軸との間には、遊びが設けられている請求項2に記載された調整弁装置。
【請求項4】
一端を前記弁体頭部に固着し、他端を前記弁体身部に固着することにより、前記弁軸側の空間と前記搬送路側の空間とを遮断する第3のベローズを備える請求項1〜3のいずれかに記載された調整弁装置。
【請求項5】
前記弁体頭部の前記搬送路に当接する部分はテーパ形状であり、前記弁体頭部の先端面に垂直な線分に対するテーパ開度θは40°〜80°である請求項1〜4のいずれかに記載された調整弁装置。
【請求項6】
前記弁体頭部の前記搬送路に当接する部分は円弧状であり、所望の曲率半径を有する構造である請求項1〜4のいずれかに記載された調整弁装置。
【請求項7】
前記弁体頭部は、ビッカース硬さが500HV以上になるようにステライト盛りされた金属である請求項1〜6のいずれかに記載された調整弁装置。
【請求項8】
前記弁体頭部には、コバルト合金系の溶接盛りが施されている請求項7に記載された調整弁装置。
【請求項9】
前記弁体頭部に当接する前記搬送路の弁座面は、シートバニシング加工によりビッカース硬さが概ね200以上400HV以下になるように表面加工された金属である請求項1〜8のいずれかに記載された調整弁装置。
【請求項10】
前記調整弁装置は、被処理体を成膜する有機分子を被処理体近傍まで搬送する搬送路の開閉に用いられる請求項1〜9のいずれかに記載された調整弁装置。
【請求項11】
前記調整弁装置は、内部が300℃以上になる環境下において使用される請求項10に記載された調整弁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−216577(P2010−216577A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64546(P2009−64546)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(390033857)株式会社フジキン (148)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】