貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法及びこの方法で製造された貴金属磁気スパッタリングターゲット
【課題】製造と応用の観点から優れたスパッタリングターゲット特性を有する、多相のCo−Cr−B−Ptからなる貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法を提供する。
【解決手段】本製造方法は、Co−Cr−Bからなる急冷凝固母合金を生成し、この母合金とPt粉末をボールミルにより機械的に合金化し、HIP処理を行って機械的に合金化されたスパッタリングターゲットを緻密にすることにより、スパッタリングターゲットを製造する。母合金には、Cr,B,Ta,Nb,C,Mo,W,Zr,Zn,Cu,Hf,O,Si又はNを含むことができる。
【解決手段】本製造方法は、Co−Cr−Bからなる急冷凝固母合金を生成し、この母合金とPt粉末をボールミルにより機械的に合金化し、HIP処理を行って機械的に合金化されたスパッタリングターゲットを緻密にすることにより、スパッタリングターゲットを製造する。母合金には、Cr,B,Ta,Nb,C,Mo,W,Zr,Zn,Cu,Hf,O,Si又はNを含むことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法及びこの方法で製造された貴金属磁気スパッタリングターゲットに関し、急冷凝固法により製造された固体合金粉末とPt元素を機械的に合金化し、緻密にし、そして、スパッタリングターゲットに加工する貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法及び貴金属磁気スパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の目的は、新規なミクロ組織的デザインを可能にする革新的なプロセスを用いることにより、製造と応用の観点から優れたスパッタリングターゲット特性を達成することである。革新的なプロセスデザインは、コスト、リードタイム及び最終製品性能を十分に考慮して開発される。ミクロ組織的デザインは、製造能力の増大及び応用における製品性能の向上を意図して開発される。本発明において、ターゲットは、ガス噴霧法、粉末の混合及び粉砕、熱間静水圧圧縮成形(以下、HIPとする)、及び切削加工のような従来からの処理ステップを用いて製造される。これら処理ステップはユニークではないが、製造において他に負けないコストとリードタイムを維持すると同時に、より優れたスパッタリングターゲットを得るために戦略上使用される。本発明において説明されたプロセスを用いて生成された新規なミクロ組織は、微細な析出組織と高度な組成的均質性によって特徴付けられる。
【0003】
ガス噴霧法は、工業的応用の領域では粉末金属を生成するために広く用いられる一般的な方法である。この技術は、急冷凝固材に特有なミクロ組織を有する微細な球状粉末を生成するということが一般的に認識されている。噴霧法は、ある領域の合金粉末を作るためにスパッタリングターゲット工業において用いられるが、多相のコバルト系磁気合金における析出相サイズを減少することを意図して用いられるものではない。本発明では、ガス噴霧法は、微細なミクロ組織を持つ合金粉末を生成するために用いられ、緻密な粉末の機械加工段階で製造能力を高め、従来の鋳造処理技術と比較してミクロ組織的及び組成的均質性に優れたターゲットを得る。一般的に、多相金属材の脆さは、主にそのミクロ組織内の連続する相の脆さにより決まる。多相のミクロ組織において、所定の相の連続性の程度は、サイズと形状に関係する。例えば、高いアスペクト比を持つ粗大なミクロ組織的素性は、微細で球状の相より非常に小さい体積分率で相互に結合されるようになる。この幾何学的事実は、所定の相のパーコレーション体積分率の限界が相サイズに反比例し、アスペクト比に比例するという事情によって説明できる。
【0004】
この現象の一例は、B元素を6at%より多く含有するCoCrPtB合金に起こる。これらの材料が従来からの鋳造で製造された場合、それらは粗大で延びた脆性相を含む。そのサイズと形態のため、この相は、ミクロ組織の全体にわたって相互に結合され、従って、その材料の機械的挙動を支配し相を脆くする。一方、同じ合金が本発明により製造された場合、非常に延性のあるものになる。これは、ミクロ組織内に存在する脆性相が微細で等軸であり、従って連続的でないために起こる。
【0005】
従来のように処理された材料とガス噴霧法を用いて処理された材料の間に生じる相違は、2つのプロセスにおける凝固速度の相違によるものである。急冷凝固材は通常の鋳造材に比べて多くの微細なミクロ組織を有するようになる。本発明の目的は、コバルト系スパッタリングターゲットの製造に対してこの現象を用いることであり、優れた機械加工特性を促進することである。本発明で説明された処理ステップを用いて実現される延性の増大は、熱加工処理における高い歩留まりを導き、これは、製造コストを低減する。
【0006】
加えて、CoCrPtB合金内の脆性相の体積分率は、ボロン含有量、延性の相対的増加に強く関係する。このため、本発明により製造された材料の高い機械処理特性は、ボロン含有量の増大につれて明白になる。これは、ボロン含有量の増大要求がメディア産業においてより重要になるにつれて本発明の利益を増幅する。更に、完成されたターゲットのボロン含有量が10at%を超える場合、このレベルのボロンには従来からの鋳造技術や機械加工技術が全く効果的でなくなるため、本発明は、有効な技術になる。
【0007】
薄膜媒体の組成的均質性の要求は、ヘッド技術及びディスク記憶容量の進歩により最近の数年間で劇的に増大した。この要求は、ミクロ組織均質性の高いターゲットはスパッタで製造した膜の組成的偏りを減少するため、高いミクロ組織均質性を有する多相のスパッタリングターゲットの製造必要性を生じさせた。Harkness等の文献(J.Mater.Rse.,Vol.15,No.12,Dec 2000,p.2811)によれば、この結果は、明らかにCoCrPtTa合金の場合に証明されている。この文献において研究された合金系はボロンを含有しておらず、また、ターゲットのミクロ組織操作プロセスは、ここで述べた急冷凝固技術を含んでいないが、その一般的な結果は、ここに述べた技術を裏付けるには最も顕著なものである。
【0008】
本発明は、複雑な化学的性質を有するスパッタリングターゲットの優れた組成的均質性を得るために、2つの主な方法を用いている。第1の方法は、ターゲットを製造するために用いる基材となる母合金粉末を急冷凝固する方法である。急冷凝固は、微細な析出物を含んだ化学的に均質な微細粉末を生成する。小さい粒子と析出物が、粉末混合物内更には完成されたターゲット内の2地点間の優れた化学的均質性を促進する。第2の方法は、ボールミル或いはその他の機械的合金化技術を用いて基材粉末を機械的に合金化する方法である。機械的合金化では、化学的変化が極端に少ない合金粉末混合物が得られる。従って、化学的に均質な粉末混合物を生成するために多様な組成の粉末を混合するための最適な方法と考えられる。これらの方法の組み合わせは、従来からの鋳造技術を用いて製造したターゲットと比較した場合、より優れた化学的でミクロ組織的な均質性を有するスパッタリングターゲットの製造を可能にする。
【0009】
従来の鋳造技術を用いて製造されたスパッタリングターゲットと比較して、本発明によって製造されたスパッタリングターゲットの2地点間の均質性の高さを証明するために、2つのターゲットを比較した。ターゲット1は、本発明によって製造されたもので、ターゲット2は従来からの鋳造技術を用いて製造されたものである。8つのサンプル材は、標準の穴あけ加工によりターゲットの任意の場所から取り出した。各サンプルを、Co、Cr、Pt、B及びTaについて化学的に分析した。ターゲット1の2地点間の化学的変動性は、ターゲット2に比べて著しく少ない。各サンプルにおいて測定された組成の平均値と標準偏差を下記の表1に示す。
【0010】
【表1】
【0011】
スパッタリングターゲット工業における標準の処理パラダイム(paradigm)は、完成された生成物組成を持つ合金を溶解鋳造することである。スパッタリングターゲットに適用するために生成された白金含有合金は、標準の合金化し鋳造した物質を用いる低コストの方法で製造することができる。しかしながら、Pt含有粉末を噴霧してスパッタリングターゲットを製造する場合のコストを調べると、噴霧処理で失われる白金のコストが、低コストと思われたスパッタリングターゲット製造プロセスを費用のかかるプロセスにすることが明らかになった。本出願人は、Ptを含有する組成物を噴霧するのではなく、所望の化学組成物を得るために卑金属コバルト系母合金粉末とPt粉末を機械的に合金化することによって貴金属コバルト合金を製造する、費用のかからない方法を発見した。この方法を用いれば、全体のターゲット製造プロセス中においてPtを効果的に管理でき、製造コストを十分に低減できる。これは、本発明においてはかすかであるが重大なプロセス戦略であり、本発明をユニークにするものである。製造された生成物のコスト節約の可能性を説明するとすれば、次のように考えられる。データ記憶に用いられる代表的なCoCrPtB合金は、Pt含有量が約30wt%である。Ptを含む合金のガス噴霧処理は、標準的な貴金属材の歩留まり損失が約8%である。一方、ガス噴霧処理した卑金属コバルト系母合金粉末とPt粉末を混合する場合、標準的な貴金属の歩留まり損失は2%より少ない。最近のPtの価格は、20ドル/gmを超える(コバルトは、約0.04ドル/gm)。従って、Ptの歩留まりにおける6%の改善が与えるコスト利益が大変大きいことは明白である。例えば、Pt歩留まり損失におけるこの改善は、Ptを12at%(約30wt%)含有し、約直径7”、厚さ0.300”の円筒形状としたCoCrPtBターゲットにおいて20%〜30%の製造コスト削減となる。
【0012】
コストの最適化に加えて、プロセスサイクルタイムの最適化は、スパッタリングターゲット製造において重要な競争力のある利点を与えることができる。本発明において、重要なサイクルタイムの削減は、標準化された組成を有する一組の母合金粉末を用いることによって達成される。これら粉末は、広範囲な最終合金組成物を生成するために種々の割合で混合できる。従って、新たに要求された合金組成物毎に新しい一組の粉末を噴霧する必要性を避けることができる。標準の母合金粉末は貯蔵することが可能であり、噴霧処理のサイクルタイムをプロセスから削除することができる。このタイプの標準化材料の貯蔵方法なしに、新しい材料が要求された場合に競争力のあるサイクルタイムを持つことは非常に難しい。実際に、この標準母合金粉末の貯蔵は、最大80%もリードタイムを減少することが示されている。
【0013】
データ記憶用ターゲットのユーザが購入を決める場合の重要な品質基準は、各ロットの化学的密度である。ターゲットの製造に用いる標準的なプロセス技術は、溶融、鋳造、及び圧延の各工程からなるバッチ処理である。一般的なロットは、重さ20〜120kgのものである。化学組成が保証されるロットは、プロセスの溶融部分の製品として決定される。標準の溶融CoCrPtB合金のプロセス変更による各ロットの組成の相違は、各組成試片で一般的に0.5at%である。不純物レベルもまた各ロットで相違する。主に、媒体製造プログラム中の所定の合金の化学的変動を最小にするため、非常に大きいロットが使用され、従って、そのプログラムに必要なターゲットを製造するのに必要なロットの総数を減少する。例えば、1つの非常に大きなロットを使用した場合、ロット毎の変化は零である。しかしながら、溶融処理材の最大ロットサイズには限界がある。150kgより大きな容量を持つ溶融設備は、一般的にはスパッタリングターゲットを製造するには経済的に適さない。
【0014】
本発明のプロセスにおいて、混合プロセス部分が、化学的組成が保証されたロットを決定する。例えば、ボールミルを混合プロセス部分に用いる場合、1回の操業で多くのロットを経済的に生成することが可能である。容量が1000kgのボールミルは、競争力のある製造市場基準の割には高価ではない。本発明のプロセスは、大量の化学的に均質なロット材を経済的に生産することができる。これは、スパッタリングターゲット工業において著しい利点である。
【発明の開示】
【0015】
本発明の目的は、Co、Cr、Pt及びBからなる多成分で多相の貴金属磁気スパッタリングターゲットを提供することであるが、Co、Cr、Pt及びBに限定されるものではない。本発明による上述の目的を達成するため、本発明は、Coと、少なくとも2at%のCr,B,Ta,Nb,C,Mo,W,Zr,Zn,Cu,Hf,O,Si及びNからなるグループから選択された少なくとも1つの元素とを含む母合金及びPtを含む多相合金を含む貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法であって、Coと、少なくとも2at%のCr,B,Ta,Nb,C,Mo,W,Zr,Zn,Cu,Hf,O,Si及びNからなるグループから選択された少なくとも1つの元素とを含む急冷凝固母合金を生成する工程と、機械的に合金化されたスパッタリングターゲットを形成するためにCoを含む前記母合金とPt粉末を機械的に合金化する工程と、15000psi〜30000psiの圧力範囲及び1500°F〜1900°Fの温度範囲で、1〜6時間、前記機械的に合金化されたスパッタリングターゲットを緻密にする工程と、を含むことを特徴とする。本発明の上記目的、他の目的及び特徴は、添付図面を参照して以下に示す本発明の開示から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、スパッタリングターゲット合金の製造方法及びこの方法により製造されるスパッタリングターゲットに関する。スパッタリングターゲットは下記の特徴を有する。
ミクロ組織的特徴:急冷凝固したターゲット合金は、主にCoB,CoCrB,CoCr,CoPt,CoCrPt及びPtの多相を有する。また、同一組成の従来の鋳造析出組織に比べて主に10倍細かい高度に精製された析出組織を有する。
【0017】
ミクロ組織の相違は、図1〜4と図5、6の比較により明らかである。
図1は、噴霧されたCo−23Cr−2Ta−6B粉末のSEM画像である。この粉末は主に2つの相からなる。明るい相は、Co,Cr,及びTaを含む。析出相は、暗い相であって主にCoとBを含む。噴霧処理は従来からの鋳造技術では得られない急速凝固ミクロ組織を生成する。図2は、HIP処理したCo−21Cr−8Pt−2Ta−5B母合金のSEM画像である。この合金は、純Pt粉末と図1の粉末をボールミルし、この混合材料をHIP処理して製造された。明るい相は、主に純Ptであり、暗い相は、主に残りのコバルト系噴霧粉末である。図4は、図2と図3に示す材料の高倍率SEM画像を示し、この像は少なくとも4つの相を示す。析出相の大きさは5ミクロン未満である。図5は、同じ組成の比較例の鋳造処理合金を示し、図6は、図5に示す比較例の鋳造処理合金の高倍率像である。
【0018】
明らかに、その析出相はまたより均質に分散されている。これらミクロ組織的特徴は、従来の鋳造材料と比較した場合、優れた延性と2地点間の組成的均質性を生じる。優れた延性は、加工熱処理における歩留まりを改善し、製造コストの低減に貢献する。従来からの鋳造処理を用いて製造されたCoCrPt−8Bのターゲットの製造歩留まりは、60〜80%の範囲である。CoCrPt−8Bのターゲットに関して本発明の技術を用いた場合、90%以上の製造歩留まりが達成される。図7〜図9は、本発明の技術を用いて製造された合金の抗張力、伸び、破壊応力及び延性を示す。延性は、応力-歪み曲線の下の領域で決まり、試料の破壊に必要なエネルギに比例する。延性の改良は、本発明を使用しなければ生成できないいくつかのターゲット組成物の製造を可能にする。ターゲット内の2地点間の組成的且つミクロ組織的な均質性が優れているほど、スパッタ膜における両面及び片面ディスクの薄膜均質特性を改善する。一般に、物理蒸着処理中において、ターゲット原子の一部は、薄膜装置の方に放出せず、スパッタリング装置のシールドやチャンバー壁に蒸着する。ターゲットの化学的且つミクロ組織的均質性の制御により、ターゲットからの原子の大きな塊がスパッタリング装置のシールドやチャンバー壁の代わりに薄膜ディスク上に物理的に蒸着するのを保証する。従って、ターゲット材の最適な化学的且つミクロ組織的均質性により、薄膜特性は、ターゲットから薄膜への十分な原子の移動によって改善される。この結果は、Harkness等によるCoCrPtTa合金の研究によって裏付けられており、後述の本発明の実施例で実証されるであろう。更に、データ記憶薄膜媒体の性能について化学的性質におけるわずかな変化による具体的な影響が、Xiong等の文献(Data Storage,Vol.3,No.6,July 1996,p.47)に示されている。
【0019】
化学的特徴:ターゲット合金は、コバルトをベースとして白金を含有する。通常、主要な組成は、コバルトと白金の他に、Cr,B,Ta,Nb,C,Mo,Ti,V,W,Zr,Zn,Cu,Hf,O,Si及びNのうちの1つ或いはそれ以上の元素を含む。ターゲットがこれら元素の1つ或いはそれ以上を含む場合、その濃度は、原子種に応じて0.2〜30at%の間である。一般的に、Cr、B及びTaがターゲット組成物にしばしば存在する。酸素や窒素のような元素は、通常は、酸化ジルコニウムや窒化シリコンのようなセラミック粉末の形状で添加される。ターゲットのPt含有量は、通常0〜50at%である。ここに述べたターゲット組成例は、Co−20Cr−10Pt−2Ta−5B、Co−19Cr−11Pt−8B、Co−15Cr−11Pt−10B、及び、Co−20Cr−10Pt−6Bである。更に、性能を比較するために、従来の技術では製造できないが本発明の技術を用いて製造したその他の合金は、Co−10Cr−10Pt−20B、Co−12Cr−12Pt−18B及びCo−12Cr−8Pt−22Bである。
【0020】
巨視的な物理的特徴:ターゲット合金は、同じ化学組成の従来の鋳造合金と比較して延性が増大する。延性の増大は、従来の鋳造組織と比較して急冷凝固しHIP処理したミクロ組織における脆性相の大きさの減少による。この脆性相サイズの減少は、ミクロ組織全体にわたる連続性を維持するよう大部分の相を延性にする。マグネトロンスパッタリングにおいて、カソードに対するターゲット材透磁率(permeability)(PTF=Pass-Through-Flux)を整合することは、アトミックスパッタリングを最適化するために必要な安定した電子プラズマを発生するには重要である。所定の合金組成を達成するために母合金組成を操作することは、ターゲット材のPTF設計において著しい柔軟性を提供する。ある特定のマグネトロンカソードは、PTFが70〜90%のターゲット材に最適化されたスパッタ特性を与えるが、一方、PTFが55〜65%のターゲット材に最適化されたスパッタ特性を与えるものもある。図10は、CoCrPtB合金におけるCr含有量に対するPTF固有の依存性を示す。この特性図を用いれば、具体的に設計されたマクロ磁気特性を有するターゲット材を生成するために母合金を選択できる。本発明の特徴は、ターゲット生成物のPTFが25〜100%であることである。
【0021】
スパッタリングアプリケーションにおける性能:ターゲットは、片面ディスクや両面ディスクの磁気特性の均質性により示されるように、従来の鋳造で製造されたターゲットと比較してハードディスク媒体のスパッタリング応用において優れた性能を示す。ディスク特性の改善は、本発明により製造されたスパッタリングターゲットにおける2地点間の化学的均質性向上、析出相サイズの減少及び特別な相形状に直接依存する。磁気均質性に加えて、片面ディスク及び両面ディスクのパラメータ特性の改善もまた立証されている。発明者は、ディスクのパラメータ特性の改善は、スパッタリングターゲットの相デザインによるものと考える。本発明において、スパッタリングターゲット相は、スパッタリング中におけるターゲットから薄膜ディスクへの原子の効率的な移動を生じるよう設計されている。最適な相デザインは、実験中に突然に発見された。実施例1及び実施例2で述べた母合金と純Ptの特定の組み合わせは、スパッタリング中の原子入射角をより小さくすることを助長し、ターゲットから薄膜ディスクへの原子の移動効率を改善させると思われる。原子移動効率の改善は、同時に、従来のターゲット生産処理を用いて製造されたディスクと比較してハードディスクにおける磁気性能及びパラメータ性能を改善する。
【0022】
ターゲット合金の製造方法は、一般に次の一連のステップを含む。一組のコバルト系母合金を生成する。この母合金は、従来の噴霧技術或いは急冷凝固技術を用いて生成される。主な母合金は、コバルトと、Cr,B,Ta,Ti,Nb,W及びMoのいくつかの元素の組み合わせ、或いは、コバルトと、全ての元素の組み合わせを含んだ材料を含む。母合金は、主に、コバルトが5〜50wt%、Crが10〜50wt%、残りがタンタル、チタン、ニオブ、タングステン、モリブデン、ボロンか、或いは、これら元素をいくつか組合せたものからなる粉末である。母合金は、所望の最終ターゲット組成に対応する粉末組成を生成するために計算された特定の比率で混合される。この混合物は、主に、母合金粉末と元素粉末のいくつかの組み合わせを含む。CoCrPtB合金について、母合金の好ましい組成は、Co−(2〜10)wt%B、Co−(15〜35)wt%Cr−(2〜10)wt%B、Co−(15〜25)wt%Cr、及び、Co−(0〜40)wt%Cr−(0〜12)wt%Bである。それから、この混合物は、設計された粉末混合物とPt粉末をボールミルすることにより、Ptと機械的に合金化される。得られたターゲット合金は、圧力が15000psi〜30000psi、温度が1500°〜1900°Fで、1〜6時間、従来からのHIP処理を用いて緻密化される。従来からの単軸金型ホットプレス或いはロール圧密成形もまた緻密化に用いることができる。Crがコバルト系母合金に含有されている場合、緻密化のパラメータは、ターゲット合金に磁束を貫通操作するためにCrの相互拡散を促進するか制限するためのものである。材料が緻密化されると、ターゲットは、従来からのスパッタリングターゲット製造方法を用いて製造される。
【0023】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1]
Co−20at%Cr−10at%Pt−5at%B−2at%Taの組成の合金粉末を生成するため、Co−(25〜30)wt%Cr−(15〜20)wt%B、Co−(25〜30)wt%Cr及びCo−(10〜15)wt%Bの母合金粉末を、十分な量のPt及びTa粉末と混ぜ合わせて混合した。その粉末を、6〜10時間ボールミルした。続いて、圧力15000psi、温度1900°Fで4時間、HIP処理を行い、機械的に合金化した粉末を緻密化した。HIP処理したビレットを、最終的に6OD、厚さ0.250”のRM−Gunターゲットを形成するために機械加工した。得られたターゲット合金は、密度が9.94、PTFが70〜90%を有する。
【0024】
また、上述と同じ組成を有する合金を、従来からの鋳造プロセスを用いて同じターゲット形状に製造した。この場合、その合金を、略2900°Fで真空誘導溶融し、インゴットを形成するためモールドに鋳込んだ。続いて、そのインゴットを、1600°F〜2200°Fの温度範囲で圧延処理し、急冷凝固ターゲットと同じ密度及びPTF特性を持つRM−Gunターゲットを生成するために機械加工した。異なる処理ルートを用いて製造したターゲットのPTF値は等しく維持されて、スパッタリング後の蒸着膜特性において得られる何らかの相違に寄与するものとしてのターゲットのマクロ磁気性能を無視する。MDP−250Bスパッタ機器は、媒体製造試験に用いられる。処理されたCo―合金ターゲットの効果を調べるために、ガラス基板−NiALシード(seed)層−Cr下地層−CoCrオンセット(onset)層−Co20Cr10Pt5B2Ta磁気層−カーボン被覆層の媒体構造を用いた。両ディスクの反対面が同じ組成であるが異なったパラダイムを用いて製造されたターゲットでスパッタされるように、この母合金と従来の各磁気ターゲットをスパッタチャンバー内に近接して配置した。この実験で使用したその他の一対のターゲットの全ては、同じように製造された。この近接させた実験はスパッタの処理或いは構造に関連するなんらかの低減効果を実現するために行った。数千の薄膜ディスクを製造した後、各Co合金磁気ターゲットを置き換え、チャンバーの左/右の効果がその結果に影響しないことを保証するためにやり直した。
【0025】
図11は、この試験に関する平均的な磁気的結果を示す。明らかに、スパッタ処理した全ての表面で、構造とターゲットの化学的性質は一定である。ここに述べられた技術を用いて製造されたCo合金でスパッタされたディスク媒体面は、一貫して高い値の保磁力(Hcr)を生じた。磁気的なコアクティビティ(coactivity)は、重要な記録パラメータである。高い値の磁気的コアクティビティは、媒体のデータ記憶密度及び温度安定性を改善する。図11のデータは、基材温度範囲を超えたものであり、母合金ターゲットの使用による利点が、高い温度レジーム(regime)で促進されることを立証する。その結果は、上昇した蒸着温度が媒体のS/N比を最適化するためにしばしばスパッタ処理機器で用いられるので特に目立つ。従って、高い母材温度で高い保磁力を維持する能力は、媒体のS/N比性能を最適化するためによりプロセスの柔軟性を増進する。図12は、ID−ODのディスク保磁力均質性(略200℃の母材温度で)を比較したものである。前述したように、母合金ターゲットは、より高い保磁力を増進するだけでなく、薄膜ディスク上のID−ODの保磁力をより均質にする。Harkness等による研究論文に述べられているように、均質性と磁気性能の改善は、ターゲット材から薄膜ディスクへの効率的且つ均一的な原子の移動によるものと思われる。
【0026】
[実施例2]
実施例1と同様に、Co−19at%Cr−11at%Pt−8at%Bの組成のターゲットを、Co−(20〜25)wt%Cr−(5〜10)wt%B、Co−(20〜25)wt%Cr及びCo−(5〜10)wt%Bの母合金粉末と純Ptを混ぜ合わせて製造した。機械的な合金化とHIP処理パラメータは実施例1で述べたのと同様である。更に、同じ組成の従来の鋳造及び圧延ターゲットは、前述した実施例1と同様のプロセスを用いて製造した。母合金と従来の技術を用いてそれぞれ製造した各ターゲットの密度とPTFは、この試験の目的のために同じとした。
【0027】
構造を除いて、実施例1で述べたように同じ媒体の製造パラダイムを用いた。この試験においては、Al基板―CrMo下地層―CoCr中間層―Co19Cr11Pt8B磁気層―カーボン被覆層の構造を用いた。前述の実施例と同じように、図13は、その母合金ターゲットが、ID−OD間の均質性をわずかに改善しディスクの保磁力を顕著に改善することを示す。図14は、母合金ターゲットを用いて製造したディスク側の媒体ノイズが、従来のターゲットを用いて製造したディスクに比べて広い記録密度範囲で低いことを示す。この実施例は、Co系スパッタリングターゲットを製造するためにここで述べた技術を利用した相デザインパラダイムが薄膜媒体の磁気記録性能を同等以上にするということを立証している。この結果は、母合金のアプローチは従来の手段では製造できない次世代のCo系合金の製造を可能にするという事実を加えた場合、特に顕著である。
【0028】
尚、本発明は、上述の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の範囲内における種々の態様を含む。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】噴霧されたCo−23Cr−2Ta−6B粉末のSEM画像である。
【図2】HIP処理したCo−21Cr−8Pt−2Ta−5B母合金のSEM画像である。
【図3】図2に示す材料の多相の微細析出相を含むミクロ組織を明らかにする高倍率SEM画像を示す。
【図4】図2と図3に示す材料の高倍率SEM画像を示す。
【図5】同じ組成の比較例の鋳造処理合金を示す。
【図6】図5に示す比較例の鋳造処理合金の高倍率画像である。
【図7】本実施例母合金と比較例の鋳造処理合金における合金中のボロン含有量による抗張力の比較を示す。
【図8】本実施例母合金と比較例の鋳造処理合金における合金中のボロン含有量による伸びの比較を示す。
【図9】本実施例母合金と比較例の鋳造処理合金における合金中のボロン含有量による破壊エネルギの比較を示す。
【図10】CoCrPtB合金におけるCr含有量(at%)に対するPTFの固有の依存性を示す。
【図11】母合金ターゲットと比較例の鋳造CoCrPtB合金ターゲットを用いてそれぞれ製造した磁気媒体試料のディスク温度に対する保磁力の依存性を示す。
【図12】母合金ターゲットと比較例の鋳造CoCrPtB合金ターゲットを用いてそれぞれ製造した磁気媒体試料のID−OD間の保磁力と保磁力均一性を示す。
【図13】母合金ターゲットと比較例の鋳造CoCrPtB合金ターゲットを用いてそれぞれ製造した磁気媒体試料のID−OD間の保磁力を示す。
【図14】母合金CoCrPtBターゲットを用いて製造した場合の媒体のS/N比を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法及びこの方法で製造された貴金属磁気スパッタリングターゲットに関し、急冷凝固法により製造された固体合金粉末とPt元素を機械的に合金化し、緻密にし、そして、スパッタリングターゲットに加工する貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法及び貴金属磁気スパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の目的は、新規なミクロ組織的デザインを可能にする革新的なプロセスを用いることにより、製造と応用の観点から優れたスパッタリングターゲット特性を達成することである。革新的なプロセスデザインは、コスト、リードタイム及び最終製品性能を十分に考慮して開発される。ミクロ組織的デザインは、製造能力の増大及び応用における製品性能の向上を意図して開発される。本発明において、ターゲットは、ガス噴霧法、粉末の混合及び粉砕、熱間静水圧圧縮成形(以下、HIPとする)、及び切削加工のような従来からの処理ステップを用いて製造される。これら処理ステップはユニークではないが、製造において他に負けないコストとリードタイムを維持すると同時に、より優れたスパッタリングターゲットを得るために戦略上使用される。本発明において説明されたプロセスを用いて生成された新規なミクロ組織は、微細な析出組織と高度な組成的均質性によって特徴付けられる。
【0003】
ガス噴霧法は、工業的応用の領域では粉末金属を生成するために広く用いられる一般的な方法である。この技術は、急冷凝固材に特有なミクロ組織を有する微細な球状粉末を生成するということが一般的に認識されている。噴霧法は、ある領域の合金粉末を作るためにスパッタリングターゲット工業において用いられるが、多相のコバルト系磁気合金における析出相サイズを減少することを意図して用いられるものではない。本発明では、ガス噴霧法は、微細なミクロ組織を持つ合金粉末を生成するために用いられ、緻密な粉末の機械加工段階で製造能力を高め、従来の鋳造処理技術と比較してミクロ組織的及び組成的均質性に優れたターゲットを得る。一般的に、多相金属材の脆さは、主にそのミクロ組織内の連続する相の脆さにより決まる。多相のミクロ組織において、所定の相の連続性の程度は、サイズと形状に関係する。例えば、高いアスペクト比を持つ粗大なミクロ組織的素性は、微細で球状の相より非常に小さい体積分率で相互に結合されるようになる。この幾何学的事実は、所定の相のパーコレーション体積分率の限界が相サイズに反比例し、アスペクト比に比例するという事情によって説明できる。
【0004】
この現象の一例は、B元素を6at%より多く含有するCoCrPtB合金に起こる。これらの材料が従来からの鋳造で製造された場合、それらは粗大で延びた脆性相を含む。そのサイズと形態のため、この相は、ミクロ組織の全体にわたって相互に結合され、従って、その材料の機械的挙動を支配し相を脆くする。一方、同じ合金が本発明により製造された場合、非常に延性のあるものになる。これは、ミクロ組織内に存在する脆性相が微細で等軸であり、従って連続的でないために起こる。
【0005】
従来のように処理された材料とガス噴霧法を用いて処理された材料の間に生じる相違は、2つのプロセスにおける凝固速度の相違によるものである。急冷凝固材は通常の鋳造材に比べて多くの微細なミクロ組織を有するようになる。本発明の目的は、コバルト系スパッタリングターゲットの製造に対してこの現象を用いることであり、優れた機械加工特性を促進することである。本発明で説明された処理ステップを用いて実現される延性の増大は、熱加工処理における高い歩留まりを導き、これは、製造コストを低減する。
【0006】
加えて、CoCrPtB合金内の脆性相の体積分率は、ボロン含有量、延性の相対的増加に強く関係する。このため、本発明により製造された材料の高い機械処理特性は、ボロン含有量の増大につれて明白になる。これは、ボロン含有量の増大要求がメディア産業においてより重要になるにつれて本発明の利益を増幅する。更に、完成されたターゲットのボロン含有量が10at%を超える場合、このレベルのボロンには従来からの鋳造技術や機械加工技術が全く効果的でなくなるため、本発明は、有効な技術になる。
【0007】
薄膜媒体の組成的均質性の要求は、ヘッド技術及びディスク記憶容量の進歩により最近の数年間で劇的に増大した。この要求は、ミクロ組織均質性の高いターゲットはスパッタで製造した膜の組成的偏りを減少するため、高いミクロ組織均質性を有する多相のスパッタリングターゲットの製造必要性を生じさせた。Harkness等の文献(J.Mater.Rse.,Vol.15,No.12,Dec 2000,p.2811)によれば、この結果は、明らかにCoCrPtTa合金の場合に証明されている。この文献において研究された合金系はボロンを含有しておらず、また、ターゲットのミクロ組織操作プロセスは、ここで述べた急冷凝固技術を含んでいないが、その一般的な結果は、ここに述べた技術を裏付けるには最も顕著なものである。
【0008】
本発明は、複雑な化学的性質を有するスパッタリングターゲットの優れた組成的均質性を得るために、2つの主な方法を用いている。第1の方法は、ターゲットを製造するために用いる基材となる母合金粉末を急冷凝固する方法である。急冷凝固は、微細な析出物を含んだ化学的に均質な微細粉末を生成する。小さい粒子と析出物が、粉末混合物内更には完成されたターゲット内の2地点間の優れた化学的均質性を促進する。第2の方法は、ボールミル或いはその他の機械的合金化技術を用いて基材粉末を機械的に合金化する方法である。機械的合金化では、化学的変化が極端に少ない合金粉末混合物が得られる。従って、化学的に均質な粉末混合物を生成するために多様な組成の粉末を混合するための最適な方法と考えられる。これらの方法の組み合わせは、従来からの鋳造技術を用いて製造したターゲットと比較した場合、より優れた化学的でミクロ組織的な均質性を有するスパッタリングターゲットの製造を可能にする。
【0009】
従来の鋳造技術を用いて製造されたスパッタリングターゲットと比較して、本発明によって製造されたスパッタリングターゲットの2地点間の均質性の高さを証明するために、2つのターゲットを比較した。ターゲット1は、本発明によって製造されたもので、ターゲット2は従来からの鋳造技術を用いて製造されたものである。8つのサンプル材は、標準の穴あけ加工によりターゲットの任意の場所から取り出した。各サンプルを、Co、Cr、Pt、B及びTaについて化学的に分析した。ターゲット1の2地点間の化学的変動性は、ターゲット2に比べて著しく少ない。各サンプルにおいて測定された組成の平均値と標準偏差を下記の表1に示す。
【0010】
【表1】
【0011】
スパッタリングターゲット工業における標準の処理パラダイム(paradigm)は、完成された生成物組成を持つ合金を溶解鋳造することである。スパッタリングターゲットに適用するために生成された白金含有合金は、標準の合金化し鋳造した物質を用いる低コストの方法で製造することができる。しかしながら、Pt含有粉末を噴霧してスパッタリングターゲットを製造する場合のコストを調べると、噴霧処理で失われる白金のコストが、低コストと思われたスパッタリングターゲット製造プロセスを費用のかかるプロセスにすることが明らかになった。本出願人は、Ptを含有する組成物を噴霧するのではなく、所望の化学組成物を得るために卑金属コバルト系母合金粉末とPt粉末を機械的に合金化することによって貴金属コバルト合金を製造する、費用のかからない方法を発見した。この方法を用いれば、全体のターゲット製造プロセス中においてPtを効果的に管理でき、製造コストを十分に低減できる。これは、本発明においてはかすかであるが重大なプロセス戦略であり、本発明をユニークにするものである。製造された生成物のコスト節約の可能性を説明するとすれば、次のように考えられる。データ記憶に用いられる代表的なCoCrPtB合金は、Pt含有量が約30wt%である。Ptを含む合金のガス噴霧処理は、標準的な貴金属材の歩留まり損失が約8%である。一方、ガス噴霧処理した卑金属コバルト系母合金粉末とPt粉末を混合する場合、標準的な貴金属の歩留まり損失は2%より少ない。最近のPtの価格は、20ドル/gmを超える(コバルトは、約0.04ドル/gm)。従って、Ptの歩留まりにおける6%の改善が与えるコスト利益が大変大きいことは明白である。例えば、Pt歩留まり損失におけるこの改善は、Ptを12at%(約30wt%)含有し、約直径7”、厚さ0.300”の円筒形状としたCoCrPtBターゲットにおいて20%〜30%の製造コスト削減となる。
【0012】
コストの最適化に加えて、プロセスサイクルタイムの最適化は、スパッタリングターゲット製造において重要な競争力のある利点を与えることができる。本発明において、重要なサイクルタイムの削減は、標準化された組成を有する一組の母合金粉末を用いることによって達成される。これら粉末は、広範囲な最終合金組成物を生成するために種々の割合で混合できる。従って、新たに要求された合金組成物毎に新しい一組の粉末を噴霧する必要性を避けることができる。標準の母合金粉末は貯蔵することが可能であり、噴霧処理のサイクルタイムをプロセスから削除することができる。このタイプの標準化材料の貯蔵方法なしに、新しい材料が要求された場合に競争力のあるサイクルタイムを持つことは非常に難しい。実際に、この標準母合金粉末の貯蔵は、最大80%もリードタイムを減少することが示されている。
【0013】
データ記憶用ターゲットのユーザが購入を決める場合の重要な品質基準は、各ロットの化学的密度である。ターゲットの製造に用いる標準的なプロセス技術は、溶融、鋳造、及び圧延の各工程からなるバッチ処理である。一般的なロットは、重さ20〜120kgのものである。化学組成が保証されるロットは、プロセスの溶融部分の製品として決定される。標準の溶融CoCrPtB合金のプロセス変更による各ロットの組成の相違は、各組成試片で一般的に0.5at%である。不純物レベルもまた各ロットで相違する。主に、媒体製造プログラム中の所定の合金の化学的変動を最小にするため、非常に大きいロットが使用され、従って、そのプログラムに必要なターゲットを製造するのに必要なロットの総数を減少する。例えば、1つの非常に大きなロットを使用した場合、ロット毎の変化は零である。しかしながら、溶融処理材の最大ロットサイズには限界がある。150kgより大きな容量を持つ溶融設備は、一般的にはスパッタリングターゲットを製造するには経済的に適さない。
【0014】
本発明のプロセスにおいて、混合プロセス部分が、化学的組成が保証されたロットを決定する。例えば、ボールミルを混合プロセス部分に用いる場合、1回の操業で多くのロットを経済的に生成することが可能である。容量が1000kgのボールミルは、競争力のある製造市場基準の割には高価ではない。本発明のプロセスは、大量の化学的に均質なロット材を経済的に生産することができる。これは、スパッタリングターゲット工業において著しい利点である。
【発明の開示】
【0015】
本発明の目的は、Co、Cr、Pt及びBからなる多成分で多相の貴金属磁気スパッタリングターゲットを提供することであるが、Co、Cr、Pt及びBに限定されるものではない。本発明による上述の目的を達成するため、本発明は、Coと、少なくとも2at%のCr,B,Ta,Nb,C,Mo,W,Zr,Zn,Cu,Hf,O,Si及びNからなるグループから選択された少なくとも1つの元素とを含む母合金及びPtを含む多相合金を含む貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法であって、Coと、少なくとも2at%のCr,B,Ta,Nb,C,Mo,W,Zr,Zn,Cu,Hf,O,Si及びNからなるグループから選択された少なくとも1つの元素とを含む急冷凝固母合金を生成する工程と、機械的に合金化されたスパッタリングターゲットを形成するためにCoを含む前記母合金とPt粉末を機械的に合金化する工程と、15000psi〜30000psiの圧力範囲及び1500°F〜1900°Fの温度範囲で、1〜6時間、前記機械的に合金化されたスパッタリングターゲットを緻密にする工程と、を含むことを特徴とする。本発明の上記目的、他の目的及び特徴は、添付図面を参照して以下に示す本発明の開示から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、スパッタリングターゲット合金の製造方法及びこの方法により製造されるスパッタリングターゲットに関する。スパッタリングターゲットは下記の特徴を有する。
ミクロ組織的特徴:急冷凝固したターゲット合金は、主にCoB,CoCrB,CoCr,CoPt,CoCrPt及びPtの多相を有する。また、同一組成の従来の鋳造析出組織に比べて主に10倍細かい高度に精製された析出組織を有する。
【0017】
ミクロ組織の相違は、図1〜4と図5、6の比較により明らかである。
図1は、噴霧されたCo−23Cr−2Ta−6B粉末のSEM画像である。この粉末は主に2つの相からなる。明るい相は、Co,Cr,及びTaを含む。析出相は、暗い相であって主にCoとBを含む。噴霧処理は従来からの鋳造技術では得られない急速凝固ミクロ組織を生成する。図2は、HIP処理したCo−21Cr−8Pt−2Ta−5B母合金のSEM画像である。この合金は、純Pt粉末と図1の粉末をボールミルし、この混合材料をHIP処理して製造された。明るい相は、主に純Ptであり、暗い相は、主に残りのコバルト系噴霧粉末である。図4は、図2と図3に示す材料の高倍率SEM画像を示し、この像は少なくとも4つの相を示す。析出相の大きさは5ミクロン未満である。図5は、同じ組成の比較例の鋳造処理合金を示し、図6は、図5に示す比較例の鋳造処理合金の高倍率像である。
【0018】
明らかに、その析出相はまたより均質に分散されている。これらミクロ組織的特徴は、従来の鋳造材料と比較した場合、優れた延性と2地点間の組成的均質性を生じる。優れた延性は、加工熱処理における歩留まりを改善し、製造コストの低減に貢献する。従来からの鋳造処理を用いて製造されたCoCrPt−8Bのターゲットの製造歩留まりは、60〜80%の範囲である。CoCrPt−8Bのターゲットに関して本発明の技術を用いた場合、90%以上の製造歩留まりが達成される。図7〜図9は、本発明の技術を用いて製造された合金の抗張力、伸び、破壊応力及び延性を示す。延性は、応力-歪み曲線の下の領域で決まり、試料の破壊に必要なエネルギに比例する。延性の改良は、本発明を使用しなければ生成できないいくつかのターゲット組成物の製造を可能にする。ターゲット内の2地点間の組成的且つミクロ組織的な均質性が優れているほど、スパッタ膜における両面及び片面ディスクの薄膜均質特性を改善する。一般に、物理蒸着処理中において、ターゲット原子の一部は、薄膜装置の方に放出せず、スパッタリング装置のシールドやチャンバー壁に蒸着する。ターゲットの化学的且つミクロ組織的均質性の制御により、ターゲットからの原子の大きな塊がスパッタリング装置のシールドやチャンバー壁の代わりに薄膜ディスク上に物理的に蒸着するのを保証する。従って、ターゲット材の最適な化学的且つミクロ組織的均質性により、薄膜特性は、ターゲットから薄膜への十分な原子の移動によって改善される。この結果は、Harkness等によるCoCrPtTa合金の研究によって裏付けられており、後述の本発明の実施例で実証されるであろう。更に、データ記憶薄膜媒体の性能について化学的性質におけるわずかな変化による具体的な影響が、Xiong等の文献(Data Storage,Vol.3,No.6,July 1996,p.47)に示されている。
【0019】
化学的特徴:ターゲット合金は、コバルトをベースとして白金を含有する。通常、主要な組成は、コバルトと白金の他に、Cr,B,Ta,Nb,C,Mo,Ti,V,W,Zr,Zn,Cu,Hf,O,Si及びNのうちの1つ或いはそれ以上の元素を含む。ターゲットがこれら元素の1つ或いはそれ以上を含む場合、その濃度は、原子種に応じて0.2〜30at%の間である。一般的に、Cr、B及びTaがターゲット組成物にしばしば存在する。酸素や窒素のような元素は、通常は、酸化ジルコニウムや窒化シリコンのようなセラミック粉末の形状で添加される。ターゲットのPt含有量は、通常0〜50at%である。ここに述べたターゲット組成例は、Co−20Cr−10Pt−2Ta−5B、Co−19Cr−11Pt−8B、Co−15Cr−11Pt−10B、及び、Co−20Cr−10Pt−6Bである。更に、性能を比較するために、従来の技術では製造できないが本発明の技術を用いて製造したその他の合金は、Co−10Cr−10Pt−20B、Co−12Cr−12Pt−18B及びCo−12Cr−8Pt−22Bである。
【0020】
巨視的な物理的特徴:ターゲット合金は、同じ化学組成の従来の鋳造合金と比較して延性が増大する。延性の増大は、従来の鋳造組織と比較して急冷凝固しHIP処理したミクロ組織における脆性相の大きさの減少による。この脆性相サイズの減少は、ミクロ組織全体にわたる連続性を維持するよう大部分の相を延性にする。マグネトロンスパッタリングにおいて、カソードに対するターゲット材透磁率(permeability)(PTF=Pass-Through-Flux)を整合することは、アトミックスパッタリングを最適化するために必要な安定した電子プラズマを発生するには重要である。所定の合金組成を達成するために母合金組成を操作することは、ターゲット材のPTF設計において著しい柔軟性を提供する。ある特定のマグネトロンカソードは、PTFが70〜90%のターゲット材に最適化されたスパッタ特性を与えるが、一方、PTFが55〜65%のターゲット材に最適化されたスパッタ特性を与えるものもある。図10は、CoCrPtB合金におけるCr含有量に対するPTF固有の依存性を示す。この特性図を用いれば、具体的に設計されたマクロ磁気特性を有するターゲット材を生成するために母合金を選択できる。本発明の特徴は、ターゲット生成物のPTFが25〜100%であることである。
【0021】
スパッタリングアプリケーションにおける性能:ターゲットは、片面ディスクや両面ディスクの磁気特性の均質性により示されるように、従来の鋳造で製造されたターゲットと比較してハードディスク媒体のスパッタリング応用において優れた性能を示す。ディスク特性の改善は、本発明により製造されたスパッタリングターゲットにおける2地点間の化学的均質性向上、析出相サイズの減少及び特別な相形状に直接依存する。磁気均質性に加えて、片面ディスク及び両面ディスクのパラメータ特性の改善もまた立証されている。発明者は、ディスクのパラメータ特性の改善は、スパッタリングターゲットの相デザインによるものと考える。本発明において、スパッタリングターゲット相は、スパッタリング中におけるターゲットから薄膜ディスクへの原子の効率的な移動を生じるよう設計されている。最適な相デザインは、実験中に突然に発見された。実施例1及び実施例2で述べた母合金と純Ptの特定の組み合わせは、スパッタリング中の原子入射角をより小さくすることを助長し、ターゲットから薄膜ディスクへの原子の移動効率を改善させると思われる。原子移動効率の改善は、同時に、従来のターゲット生産処理を用いて製造されたディスクと比較してハードディスクにおける磁気性能及びパラメータ性能を改善する。
【0022】
ターゲット合金の製造方法は、一般に次の一連のステップを含む。一組のコバルト系母合金を生成する。この母合金は、従来の噴霧技術或いは急冷凝固技術を用いて生成される。主な母合金は、コバルトと、Cr,B,Ta,Ti,Nb,W及びMoのいくつかの元素の組み合わせ、或いは、コバルトと、全ての元素の組み合わせを含んだ材料を含む。母合金は、主に、コバルトが5〜50wt%、Crが10〜50wt%、残りがタンタル、チタン、ニオブ、タングステン、モリブデン、ボロンか、或いは、これら元素をいくつか組合せたものからなる粉末である。母合金は、所望の最終ターゲット組成に対応する粉末組成を生成するために計算された特定の比率で混合される。この混合物は、主に、母合金粉末と元素粉末のいくつかの組み合わせを含む。CoCrPtB合金について、母合金の好ましい組成は、Co−(2〜10)wt%B、Co−(15〜35)wt%Cr−(2〜10)wt%B、Co−(15〜25)wt%Cr、及び、Co−(0〜40)wt%Cr−(0〜12)wt%Bである。それから、この混合物は、設計された粉末混合物とPt粉末をボールミルすることにより、Ptと機械的に合金化される。得られたターゲット合金は、圧力が15000psi〜30000psi、温度が1500°〜1900°Fで、1〜6時間、従来からのHIP処理を用いて緻密化される。従来からの単軸金型ホットプレス或いはロール圧密成形もまた緻密化に用いることができる。Crがコバルト系母合金に含有されている場合、緻密化のパラメータは、ターゲット合金に磁束を貫通操作するためにCrの相互拡散を促進するか制限するためのものである。材料が緻密化されると、ターゲットは、従来からのスパッタリングターゲット製造方法を用いて製造される。
【0023】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1]
Co−20at%Cr−10at%Pt−5at%B−2at%Taの組成の合金粉末を生成するため、Co−(25〜30)wt%Cr−(15〜20)wt%B、Co−(25〜30)wt%Cr及びCo−(10〜15)wt%Bの母合金粉末を、十分な量のPt及びTa粉末と混ぜ合わせて混合した。その粉末を、6〜10時間ボールミルした。続いて、圧力15000psi、温度1900°Fで4時間、HIP処理を行い、機械的に合金化した粉末を緻密化した。HIP処理したビレットを、最終的に6OD、厚さ0.250”のRM−Gunターゲットを形成するために機械加工した。得られたターゲット合金は、密度が9.94、PTFが70〜90%を有する。
【0024】
また、上述と同じ組成を有する合金を、従来からの鋳造プロセスを用いて同じターゲット形状に製造した。この場合、その合金を、略2900°Fで真空誘導溶融し、インゴットを形成するためモールドに鋳込んだ。続いて、そのインゴットを、1600°F〜2200°Fの温度範囲で圧延処理し、急冷凝固ターゲットと同じ密度及びPTF特性を持つRM−Gunターゲットを生成するために機械加工した。異なる処理ルートを用いて製造したターゲットのPTF値は等しく維持されて、スパッタリング後の蒸着膜特性において得られる何らかの相違に寄与するものとしてのターゲットのマクロ磁気性能を無視する。MDP−250Bスパッタ機器は、媒体製造試験に用いられる。処理されたCo―合金ターゲットの効果を調べるために、ガラス基板−NiALシード(seed)層−Cr下地層−CoCrオンセット(onset)層−Co20Cr10Pt5B2Ta磁気層−カーボン被覆層の媒体構造を用いた。両ディスクの反対面が同じ組成であるが異なったパラダイムを用いて製造されたターゲットでスパッタされるように、この母合金と従来の各磁気ターゲットをスパッタチャンバー内に近接して配置した。この実験で使用したその他の一対のターゲットの全ては、同じように製造された。この近接させた実験はスパッタの処理或いは構造に関連するなんらかの低減効果を実現するために行った。数千の薄膜ディスクを製造した後、各Co合金磁気ターゲットを置き換え、チャンバーの左/右の効果がその結果に影響しないことを保証するためにやり直した。
【0025】
図11は、この試験に関する平均的な磁気的結果を示す。明らかに、スパッタ処理した全ての表面で、構造とターゲットの化学的性質は一定である。ここに述べられた技術を用いて製造されたCo合金でスパッタされたディスク媒体面は、一貫して高い値の保磁力(Hcr)を生じた。磁気的なコアクティビティ(coactivity)は、重要な記録パラメータである。高い値の磁気的コアクティビティは、媒体のデータ記憶密度及び温度安定性を改善する。図11のデータは、基材温度範囲を超えたものであり、母合金ターゲットの使用による利点が、高い温度レジーム(regime)で促進されることを立証する。その結果は、上昇した蒸着温度が媒体のS/N比を最適化するためにしばしばスパッタ処理機器で用いられるので特に目立つ。従って、高い母材温度で高い保磁力を維持する能力は、媒体のS/N比性能を最適化するためによりプロセスの柔軟性を増進する。図12は、ID−ODのディスク保磁力均質性(略200℃の母材温度で)を比較したものである。前述したように、母合金ターゲットは、より高い保磁力を増進するだけでなく、薄膜ディスク上のID−ODの保磁力をより均質にする。Harkness等による研究論文に述べられているように、均質性と磁気性能の改善は、ターゲット材から薄膜ディスクへの効率的且つ均一的な原子の移動によるものと思われる。
【0026】
[実施例2]
実施例1と同様に、Co−19at%Cr−11at%Pt−8at%Bの組成のターゲットを、Co−(20〜25)wt%Cr−(5〜10)wt%B、Co−(20〜25)wt%Cr及びCo−(5〜10)wt%Bの母合金粉末と純Ptを混ぜ合わせて製造した。機械的な合金化とHIP処理パラメータは実施例1で述べたのと同様である。更に、同じ組成の従来の鋳造及び圧延ターゲットは、前述した実施例1と同様のプロセスを用いて製造した。母合金と従来の技術を用いてそれぞれ製造した各ターゲットの密度とPTFは、この試験の目的のために同じとした。
【0027】
構造を除いて、実施例1で述べたように同じ媒体の製造パラダイムを用いた。この試験においては、Al基板―CrMo下地層―CoCr中間層―Co19Cr11Pt8B磁気層―カーボン被覆層の構造を用いた。前述の実施例と同じように、図13は、その母合金ターゲットが、ID−OD間の均質性をわずかに改善しディスクの保磁力を顕著に改善することを示す。図14は、母合金ターゲットを用いて製造したディスク側の媒体ノイズが、従来のターゲットを用いて製造したディスクに比べて広い記録密度範囲で低いことを示す。この実施例は、Co系スパッタリングターゲットを製造するためにここで述べた技術を利用した相デザインパラダイムが薄膜媒体の磁気記録性能を同等以上にするということを立証している。この結果は、母合金のアプローチは従来の手段では製造できない次世代のCo系合金の製造を可能にするという事実を加えた場合、特に顕著である。
【0028】
尚、本発明は、上述の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の範囲内における種々の態様を含む。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】噴霧されたCo−23Cr−2Ta−6B粉末のSEM画像である。
【図2】HIP処理したCo−21Cr−8Pt−2Ta−5B母合金のSEM画像である。
【図3】図2に示す材料の多相の微細析出相を含むミクロ組織を明らかにする高倍率SEM画像を示す。
【図4】図2と図3に示す材料の高倍率SEM画像を示す。
【図5】同じ組成の比較例の鋳造処理合金を示す。
【図6】図5に示す比較例の鋳造処理合金の高倍率画像である。
【図7】本実施例母合金と比較例の鋳造処理合金における合金中のボロン含有量による抗張力の比較を示す。
【図8】本実施例母合金と比較例の鋳造処理合金における合金中のボロン含有量による伸びの比較を示す。
【図9】本実施例母合金と比較例の鋳造処理合金における合金中のボロン含有量による破壊エネルギの比較を示す。
【図10】CoCrPtB合金におけるCr含有量(at%)に対するPTFの固有の依存性を示す。
【図11】母合金ターゲットと比較例の鋳造CoCrPtB合金ターゲットを用いてそれぞれ製造した磁気媒体試料のディスク温度に対する保磁力の依存性を示す。
【図12】母合金ターゲットと比較例の鋳造CoCrPtB合金ターゲットを用いてそれぞれ製造した磁気媒体試料のID−OD間の保磁力と保磁力均一性を示す。
【図13】母合金ターゲットと比較例の鋳造CoCrPtB合金ターゲットを用いてそれぞれ製造した磁気媒体試料のID−OD間の保磁力を示す。
【図14】母合金CoCrPtBターゲットを用いて製造した場合の媒体のS/N比を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Coと、少なくとも2at%のCr,B,Ta,Nb,C,Mo,W,Zr,Zn,Cu,Hf,O,Si及びNからなるグループから選択された少なくとも1つの元素とを含む母合金及びPtを含む多相合金を含む貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法であって、
Coと、少なくとも2at%のCr,B,Ta,Nb,C,Mo,W,Zr,Zn,Cu,Hf,O,Si及びNからなるグループから選択された少なくとも1つの元素とを含む急冷凝固母合金を生成する工程と、
機械的に合金化されたスパッタリングターゲットを形成するためにCoを含む前記母合金とPt粉末を機械的に合金化する工程と、
15000psi〜30000psiの圧力範囲及び1500°F〜1900°Fの温度範囲で、1〜6時間、前記機械的に合金化されたスパッタリングターゲットを緻密にする工程と、
を具備したことを特徴とする貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項2】
前記機械的合金化工程における機械的な合金化は、ボールミルによるものであることを特徴とする請求項1に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項3】
前記急冷凝固母合金生成工程における急冷凝固母合金を、2at%〜30at%のCr,B,Ta,Nb,C,Mo,W,Zr,Zn,Cu,Hf,O,Si及びNからなるグループから選択された少なくとも1つの元素とCoとを噴霧することにより生成することを特徴とする請求項1に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項4】
前記母合金が、Co、Cr及びBを含むことを特徴とする請求項3に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
前記母合金が、Co、Cr、Ta及びBを含むことを特徴とする請求項3に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項6】
前記母合金が、5〜50wt%のCo、10〜50wt%のCr、残りがTa、Ti、Nb、W、Mo、B或いはこれら元素を組み合わせたものを含むことを特徴とする請求項1に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項7】
前記母合金は、Co−(2〜10)wt%B、Co−(15〜35)wt%Cr−(2〜10)wt%B、Co−(15〜25)wt%Cr、及び、Co−(0〜40)wt%Cr−(0〜12)wt%Bからなるグループから選択されることを特徴とする請求項1に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項8】
前記母合金を、当該合金内に最大50at%までPtを与えるように十分な量のPtと機械的に合金化することを特徴とする請求項1に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項9】
Ptと機械的に合金化された前記母合金は、少なくとも2at%のBを含有することを特徴とする請求項8に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項10】
Ptと機械的に合金化された前記母合金は、少なくとも6at%のBを含有することを特徴とする請求項8に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項11】
Ptと機械的に合金化された前記母合金は、少なくとも10at%のBを含有することを特徴とする請求項8に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項12】
ステップc)で緻密化された前記スパッタリングターゲットは、25%〜100%のPTF値を有することを特徴とする請求項1に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項13】
請求項1に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項14】
請求項1に記載の製造方法により製造され、ミクロ組織的均質性を有する機械的に合金化され化学的に均質な合金組成からなり、前記合金組成が、Pt、Co、Cr及び少なくとも2at%のBを含むことを特徴とする貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項15】
前記合金が、CoB、CoCrB、CoCr、CoPt、CoCrPt及び合金内に均一に分散されたPtを含む多相を含んでいることを特徴とする請求項14に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項16】
前記合金が、更にTaを含み、当該合金がCo−20Cr−10Pt−2Ta−5Bからなることを特徴とする請求項14に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項17】
Bの含有量が、2at%〜30at%の範囲であることを特徴とする請求項14に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項18】
Bの含有量が、少なくとも6at%であることを特徴とする請求項14に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項19】
前記合金が、Co−19Cr−11Pt−8Bからなることを特徴とする請求項14に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項20】
前記合金が、Co−15Cr−11Pt−10Bからなることを特徴とする請求項14に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項21】
前記合金が、Co−20Cr−10Pt−6Bからなることを特徴とする請求項14に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項22】
前記合金が、Co−10Cr−10Pt−20Bからなることを特徴とする請求項14に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項23】
前記合金が、Co−12Cr−12Pt−18Bからなることを特徴とする請求項14に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項24】
前記合金が、Co−12Cr−8Pt−22Bからなることを特徴とする請求項14に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項1】
Coと、少なくとも2at%のCr,B,Ta,Nb,C,Mo,W,Zr,Zn,Cu,Hf,O,Si及びNからなるグループから選択された少なくとも1つの元素とを含む母合金及びPtを含む多相合金を含む貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法であって、
Coと、少なくとも2at%のCr,B,Ta,Nb,C,Mo,W,Zr,Zn,Cu,Hf,O,Si及びNからなるグループから選択された少なくとも1つの元素とを含む急冷凝固母合金を生成する工程と、
機械的に合金化されたスパッタリングターゲットを形成するためにCoを含む前記母合金とPt粉末を機械的に合金化する工程と、
15000psi〜30000psiの圧力範囲及び1500°F〜1900°Fの温度範囲で、1〜6時間、前記機械的に合金化されたスパッタリングターゲットを緻密にする工程と、
を具備したことを特徴とする貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項2】
前記機械的合金化工程における機械的な合金化は、ボールミルによるものであることを特徴とする請求項1に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項3】
前記急冷凝固母合金生成工程における急冷凝固母合金を、2at%〜30at%のCr,B,Ta,Nb,C,Mo,W,Zr,Zn,Cu,Hf,O,Si及びNからなるグループから選択された少なくとも1つの元素とCoとを噴霧することにより生成することを特徴とする請求項1に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項4】
前記母合金が、Co、Cr及びBを含むことを特徴とする請求項3に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
前記母合金が、Co、Cr、Ta及びBを含むことを特徴とする請求項3に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項6】
前記母合金が、5〜50wt%のCo、10〜50wt%のCr、残りがTa、Ti、Nb、W、Mo、B或いはこれら元素を組み合わせたものを含むことを特徴とする請求項1に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項7】
前記母合金は、Co−(2〜10)wt%B、Co−(15〜35)wt%Cr−(2〜10)wt%B、Co−(15〜25)wt%Cr、及び、Co−(0〜40)wt%Cr−(0〜12)wt%Bからなるグループから選択されることを特徴とする請求項1に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項8】
前記母合金を、当該合金内に最大50at%までPtを与えるように十分な量のPtと機械的に合金化することを特徴とする請求項1に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項9】
Ptと機械的に合金化された前記母合金は、少なくとも2at%のBを含有することを特徴とする請求項8に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項10】
Ptと機械的に合金化された前記母合金は、少なくとも6at%のBを含有することを特徴とする請求項8に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項11】
Ptと機械的に合金化された前記母合金は、少なくとも10at%のBを含有することを特徴とする請求項8に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項12】
ステップc)で緻密化された前記スパッタリングターゲットは、25%〜100%のPTF値を有することを特徴とする請求項1に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項13】
請求項1に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項14】
請求項1に記載の製造方法により製造され、ミクロ組織的均質性を有する機械的に合金化され化学的に均質な合金組成からなり、前記合金組成が、Pt、Co、Cr及び少なくとも2at%のBを含むことを特徴とする貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項15】
前記合金が、CoB、CoCrB、CoCr、CoPt、CoCrPt及び合金内に均一に分散されたPtを含む多相を含んでいることを特徴とする請求項14に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項16】
前記合金が、更にTaを含み、当該合金がCo−20Cr−10Pt−2Ta−5Bからなることを特徴とする請求項14に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項17】
Bの含有量が、2at%〜30at%の範囲であることを特徴とする請求項14に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項18】
Bの含有量が、少なくとも6at%であることを特徴とする請求項14に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項19】
前記合金が、Co−19Cr−11Pt−8Bからなることを特徴とする請求項14に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項20】
前記合金が、Co−15Cr−11Pt−10Bからなることを特徴とする請求項14に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項21】
前記合金が、Co−20Cr−10Pt−6Bからなることを特徴とする請求項14に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項22】
前記合金が、Co−10Cr−10Pt−20Bからなることを特徴とする請求項14に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項23】
前記合金が、Co−12Cr−12Pt−18Bからなることを特徴とする請求項14に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【請求項24】
前記合金が、Co−12Cr−8Pt−22Bからなることを特徴とする請求項14に記載の貴金属磁気スパッタリングターゲット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−144124(P2006−144124A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316988(P2005−316988)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【分割の表示】特願2002−581711(P2002−581711)の分割
【原出願日】平成14年4月8日(2002.4.8)
【出願人】(503375441)ヘラエウス インコーポレーテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】HERAEUS,INC.
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【分割の表示】特願2002−581711(P2002−581711)の分割
【原出願日】平成14年4月8日(2002.4.8)
【出願人】(503375441)ヘラエウス インコーポレーテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】HERAEUS,INC.
【Fターム(参考)】
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