説明

走査型電子顕微鏡およびその画像表示方法

【課題】 手作業による不具合解析時などにおける測長検査の時間短縮を図ることが可能な走査型電子顕微鏡(SEM)およびその画像表示方法を提供する。
【解決手段】 SEM1は、SEM画像取得部11のほかに、試料105のCADデータに基づき生成され、その表面形状を表わしたCAD画像のデータを記憶するCAD画像記憶部17を備える。まず、試料105の低倍率のSEM画像またはCAD画像を表示部15に表示する。そして、その表示された画像の中で、操作情報入力部16から拡大表示を指示する領域指定情報が入力されたときには、指定された領域の拡大CAD画像を表示する。その後、その拡大CAD画像の中で、拡大SEM画像の表示を指示する領域記指定情報が入力されたときには、指定された領域に所定の電子ビームを照射し、その領域の拡大SEM画像を取得し、その拡大SEM画像を表示装置15に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に半導体集積回路が形成されたウェーハや半導体集積回路製造に使用されるフォトマスクの測長検査に好適な走査型電子顕微鏡およびその画像表示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路(以下、ICという。ICはIntegrated Circuitsの略。)の微細化と高集積化が進展するなかで、その製造工程を管理または検査するために走査型電子顕微鏡(以下、SEMという。SEMはScanning Electron Microscopeの略。)が不可欠のものになってきている。すなわち、ICの主要な製造工程では、SEMの測長機能などを利用することにより、ウェーハなどの所定の位置に設けられた所定のパターンのサイズやその複数のパターン間距離などについて測長検査が行なわれている。そして、それらの測長検査の結果に基づき、ウェーハ上に形成された回路デバイスや製造工程の品質が管理されている。
【0003】
一般に、ICは大量生産されるために、各製造工程においては生産のスループット向上が強く求められる。SEMによる測長検査についても、例外ではなく、そのため、測長検査は高度に自動化が進められつつある。そして、その自動化を進展させる1つのキー技術として、製造される半導体集積回路についての設計データ(以下、CADデータという。CADは、Computer Aided Designの略。)の活用がある。
【0004】
特許文献1には、回路などを形成したウェーハなどにおいて、あらかじめ登録された特定形状のパターン(以下、テンプレートという。)を自動的に検索し、そのサイズなどを測長したり、実デバイスとCADデータの位置の対応付けに使用したりする技術が開示されている。また、その検索により、一旦、テンプレートの位置が判明した後には、同様に製造されたウェーハについて、テンプレートの検索を省略し、測長検査のスループットを向上させる技術が開示されている。
【特許文献1】特開2002−328015号公報(段落0053、段落0071、図2〜図6、図8〜図21)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ICの製造においては、その製造工程確立の初期段階や不具合発生時には、製造歩留まりの向上を図ったり、不具合の原因調査を行なったりする必要があるために、現実に製造されたICの回路デバイスなどについて、SEMを用いてその形状を観察したり、その大きさを計測したりする測長検査を行なう必要がある。このような場合、その検査対象が何になるか分からないために、測長検査の自動化が困難であり、その検査作業はどうしても手作業にならざるを得ない。
【0006】
このような手作業による測長検査においては、検査対象に定められた回路デバイスを探す必要があるが、このときには、試料の位置をずらしたり、拡大倍率を変えたりしながら何度も試料のSEM画像を取得する必要がある。ところが、SEM画像を取得するためには、その都度、試料ステージを移動し、試料の指定された領域に電子ビームを照射する必要があるので、それ相応の時間を要することになる。従って、目的の回路デバイスを探索するのに何度もSEM画像を取得していては、手作業による測長検査の検査時間を削減することはできない。
【0007】
特許文献1では、測長検査の自動化に関する技術については、詳しく開示されているものの、手作業で測長検査を行なう場合については、そのスループットを向上させるための技術に関して、何一つ示されていない。もちろん、特許文献1に開示されている測長検査の自動化技術には、例えば、テンプレートを自動的に検索する技術や、CADデータを活用する技術など、手作業で測長検査を行なう場合にも有用な技術が多く含まれている。しかしながら、従来のSEMにおいては、それらの有用な技術を活用した手作業のための測長検査の方法などが実施されていない。そのため、現状では手作業時の測長検査は、長時間を要するものとなっており、検査作業のスループット向上は未だ図られていない。
【0008】
以上の従来技術に鑑み、本発明の目的は、手作業による不具合解析時などにおける測長検査の時間短縮を図り、そのスループット向上を図ることが可能な走査型電子顕微鏡およびその画像表示方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した従来技術の課題を解決するために、本発明の走査型電子顕微鏡(SEM)は、試料に電子ビームを照射したときにその試料表面から放出される二次電子の量に基づき、SEM画像を生成するSEM画像生成部のほかに、前記試料のCADデータに基づき生成され、その試料の表面形状を表わしたCAD画像のデータを記憶するCAD画像記憶部を備えることを特徴とする。そして、このSEMにおいては、その表示部に、まず、試料の低倍率のSEM画像またはCAD画像を表示し、その表示された画像の中で、拡大表示を指示する領域指定情報が入力されたときには、その指定された領域の拡大CAD画像を表示する。さらに、その後、その拡大CAD画像の中で、拡大SEM画像の表示を指示する領域指定情報が入力されたときには、前記試料の指定された領域に所定の電子ビームを照射することにより、その領域の拡大SEM画像を生成し、その拡大SEM画像を表示部に表示する。
【0010】
本発明のSEMにおいては、目的の回路デバイスなどを探索する場合には、その都度、拡大したSEM画像を生成せず、代わりに、拡大したCAD画像を表示する。このとき、CAD画像を表示する時間は、SEM画像を表示する時間、つまり、試料ステージを移動させ、試料の指定された領域に電子ビームを照射して、SEM画像を生成し、表示する時間よりもはるかに短い。従って、作業者が目的の回路デバイスなどを探索するために、CAD画像を何度も拡大表示したとしても、その表示時間はそれほど大きくはならない。そして、CAD画像上で目的の回路デバイスなどが見つかった場合には、さらに領域を指定して、今度は、拡大したSEM画像を生成し、そのSEM画像を表示部に表示する。
【0011】
以上のように、作業者が目的の回路デバイスなどをカットアンドトライして探索するときには、その表示をCAD画像を用いて行ない、目的の回路デバイスなど見つかった後は、実際に試料に電子ビームを照射して現実のSEM画像を生成する。その結果、実際にSEM画像を生成する回数を大きく削減することができるので、トータルの作業時間を短縮することができる。すなわち、手作業時の測長検査などのスループットを向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、手作業による不具合解析時などにおけるSEMを用いた測長検査の時間短縮を図ることができ、そのスループットを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、適宜、図1〜図9を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
<走査型電子顕微鏡のブロック構成および各ブロックの機能>
図1は、本発明の実施形態に係る走査型電子顕微鏡(SEM)のブロック構成を示した図である。図1に示すように、SEM1は、鏡体部10、SEM画像生成部11、電子ビーム制御部12、ステージ制御部13、情報処理部14、表示部15、操作情報入力部16、CAD画像記憶部17、テンプレート画像記憶部18、ネットワークインタフェース部19を含んで構成される。以下、これら各ブロックについて、その詳細な構成や機能について説明する。
【0015】
鏡体部10は、電子銃101、電子レンズ102、試料ステージ104、二次電子検出器107を含んで構成される。試料ステージ104の上には、測長検査などの対象となる試料105が載置される。ここで、試料105になり得るものとしては、ICなどを製造する途上にあるウェーハや、そのウェーハ製造に使用されるフォトマスクなどであり、本実施形態の場合、その試料105にはCADデータが存在することが必要である。
【0016】
鏡体部10においては、電子銃101は照射電子ビーム103を出射し、その照射電子ビーム103は、電子レンズ102によって偏向され、試料105の目的の位置に焦点を結ぶ。そして、試料105の照射電子ビーム103が照射された部位からは、二次電子106が放出され、二次電子検出器107はその放出された二次電子106を検出し、光電変換によって検出二次電子量に相当する値を電気信号として出力する。
【0017】
このとき、ステージ制御部13は、試料105における照射電子ビーム103の照射部位または領域を設定するために、試料ステージ104の位置を移動制御する。また、電子ビーム制御部12は、電子レンズ102などを制御することにより、その倍率や照射電子ビーム103の強さ、焦点などを設定するとともに、所定の周波数で照射電子ビーム103の走査制御を行なう。
【0018】
また、SEM画像生成部11は、二次電子検出器107の出力信号を、電子ビーム制御部12による照射電子ビーム103の走査制御に同期するようにして取り込み、照射電子ビーム103が走査(照射)された領域について、試料105の表面形状の画像(以下、SEM画像という)を生成する。すなわち、二次電子検出器107によって検出された二次電子の量に基づき、資料105の表面のSEM画像を生成する。そして、SEM画像生成部11は、生成したSEM画像を自身が有するメモリ(図示せず)または情報処理部14が有するメモリ(後記、ただし、図示せず)に記憶する。なお、一般的には、SEM画像生成部11は、試料105の表面形状をより明確にさせるために、いったん得られたSEM画像に対し、さらに、エッジ強調などの特徴化処理を施し、特徴化処理後の画像をSEM画像として前記メモリに記憶することが多い。
【0019】
情報処理部14は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、ハードディスク記憶装置など(いずれも図示せず)によって構成され、そのメモリに格納されているプログラムに従って動作する。すなわち、情報処理部14は、メモリに格納されたプログラムの指示に従い、電子ビーム制御部12およびステージ制御部13を制御することによって、試料105に照射電子ビーム103を照射し、二次電子検出器107およびSEM画像生成部11を介して試料105のSEM画像を生成し、生成したSEM画像を表示部15に表示する。
【0020】
表示部15は、LCD(Liquid Crystal Display)などによって構成され、情報処理部14が指示する情報を表示する。本実施形態では、多くの場合、表示部15に表示される情報は、SEM画像生成部11によって生成されるSEM画像、または、CAD画像記憶部17に記憶されているCAD画像である。
【0021】
操作情報入力部16は、キーボードおよびマウスを含んで構成され、適宜、座標入力装置としてタブレットやタッチパネルなどを含んでもよい。また、操作情報入力部16には、照射電子ビーム103の強さや二次電子検出器107の感度などを設定するつまみなどが含まれていてもよい。操作情報入力部16から入力される情報は、情報処理部14によって読み取られる。
【0022】
ネットワークインタフェース部19は、情報処理部14のネットワーク3に対するインタフェース回路であり、ネットワーク3で使用されるプロトコルに対する通信制御などを実行する。なお、ネットワーク3は、通常、イーサネット(登録商標)などによるLAN(Local Area Network)またはインターネットによって構成される。また、本実施形態では、ネットワーク3の他端には、試料105の設計に利用されたCADシステム2が接続される。
【0023】
CAD画像記憶部17およびテンプレート画像記憶部18は、メモリやハードディスク記憶装置などで構成される。このとき、CAD画像記憶部17およびテンプレート画像記憶部18は、情報処理部14を構成するメモリまたはハードディスク記憶装置の一部に含まれるとしてもよい。
【0024】
CAD画像記憶部17は、CADシステム2において作成され、CADシステム2からネットワーク3を介して取得された試料105についてのCADデータを記憶する。このとき、CADデータそのものをCAD画像としてもよいが、通常は、CADデータのうち試料105の表面形状に係るデータを取り出し、エッジ強調などの特徴化処理を加えたものをCAD画像としてCAD画像記憶部17に記憶する。
【0025】
また、テンプレート画像記憶部18は、作業者が試料105において検査対象の回路デバイスなどの位置を探すために、例えば、特徴のある表面形状の画像を、例えば、CAD画像の一部から切り出し記憶する。そして、本実施形態では、情報処理部14は、そのテンプレート画像をSEM画像生成部11により生成されたSEM画像またはCAD画像記憶部17に記憶されているCAD画像と比較し、SEM画像またはCAD画像のなかでそのテンプレート画像と一致または類似性の高い部分を検索し、抽出する機能を有するものとする。
【0026】
<SEM画像の拡大表示手順>
次に、作業者が本実施形態のSEMを用いて手作業でSEM画像を拡大表示する手順について、図2および図3を用い、適宜、図1を参照しながら説明する。ここで、図2は、本実施形態に係るSEMの表示部に表示された低倍率SEM画像および拡大表示された高倍率SEM画像の例を示した図である。また、図3は、本発明の実施形態に係るSEMにおいて低倍率SEM画像表示画面から高倍率SEM画像表示画面へ拡大表示するときの手順を示したフローチャートである。なお、この手順は、従来から一般的に行なわれている手順でもあるが、本実施形態でも実施され、図4以降で説明する本実施形態を特徴付けるCAD画像を用いたSEM画像の表示方法の基礎になっているので、ここであえて説明をしておく。
【0027】
手作業で測長検査などを行なう場合には、検査対象となる回路デバイスや特定形状のパターンを探す必要がある。そこで、作業者が所定の設定および操作を行なって、試料105の所定の領域に電子ビームを照射すると、情報処理部14は、SEM画像生成部11によって試料105の低倍率SEM画像201を生成し(ステップS30)、生成した低倍率SEM画像201を表示部15に表示する(ステップS31)。
【0028】
次に、作業者が、例えば、形状パターン203近傍の領域202を拡大表示するために、低倍率SEM画像201の表示画面において、カーソルなどによりその位置を指示すると、情報処理部14は、その拡大表示する領域の中心位置204を入力し(ステップS32)、さらに、同様にして、操作情報入力部16などから拡大表示画像の倍率を入力する(ステップS33)。
【0029】
次に、情報処理部14がこれら入力された中心位置204、倍率などの情報に基づき、ステージ制御部13に対し、試料ステージ104の位置設定制御を指示すると、ステージ制御部13は、指定された中心位置204が生成画像の中心になるように試料ステージ104の位置を設定する(ステップS34)。また、同様にして、電子ビーム制御部12は、電子レンズ102などを制御することにより、照射電子ビーム103の焦点(焦点位置、焦点補正を含む)、倍率(倍率電圧)などを設定し(ステップS35)、試料105の領域202に電子ビームを照射する(ステップS36)。
【0030】
一方、SEM画像生成部11は、二次電子検出器107から出力される二次電子検出信号に基づき、高倍率SEM画像205を生成し(ステップS37)、生成した高倍率SEM画像205を表示部15に表示する(ステップS38)。このとき、低倍率の形状パターン203は、図2に示すように拡大されて形状パターン203aのように表示される。また、拡大表示する領域の中心位置204も、同様に拡大されて中心位置204aのように表示される。もちろん、中心位置203および203aは、単なる目印なので、必ずしもこのように拡大表示をする必要はない。
【0031】
次に、作業者が拡大表示された高倍率SEM画像205をみて、さらに、拡大する必要があると判断した場合には(ステップS39でYes)、ステップS32〜S38の手順を繰り返し行なう。また、充分に拡大され、これ以上拡大の必要がない場合には(ステップS39でNo)、作業者は、拡大表示するこの手順を終了し、別途定められた所定の測長検査などを行なう。
【0032】
なお、以上に示した手順において、SEM画像を拡大表示する領域の指定は、領域の中心位置を指定し(ステップS32)、拡大する倍率を指定する(ステップS33)ことによって行なったが、カーソルによって拡大表示領域の2頂点の位置を選択指示する方式、または、カーソルによって拡大表示領域の1頂点の位置を選択し、対角頂点をドラッグしながら指示する方式によって指示してもよい。その場合には、2頂点の中間点が拡大表示領域の中心となり、指定された領域の大きさから倍率が計算される。
【0033】
<CAD画像を利用したSEM画像の拡大表示方法>
次に、図4および図5を参照し、測長検査などを行なうときに、CAD画像を利用して検査対象形状パターンを探索し、探索した検査対象形状パターンのSEM画像を拡大表示する手順について説明する。ここで、図4は、本発明の実施形態に係るSEMにおいて、低倍率SEM画像表示画面に基づき拡大CAD画像を表示することにより検査対象形状パターンを探索し、探索した検査対象形状パターンの高倍率SEM画像を表示する手順を示したフローチャートである。また、図5は、本発明の実施形態に係るSEMにおいて、図4の手順を実施したときの低倍率SEM画像、拡大CAD画像、高倍率SEM画像の例を示した図である。
【0034】
まず、図3で示したSEM画像の拡大表示手順と同様に、情報処理部14は、SEM画像生成部11によって試料105の低倍率SEM画像を生成する(ステップS40)。そして、図5の例に示すように、生成した低倍率SEM画像501を表示部15に表示する(ステップS41)。
【0035】
次に、情報処理部14は、操作情報入力部16でキーインまたは設定された情報を読み取ることによって、拡大表示する領域指定情報を入力する(ステップS42)。ここで、領域指定は、図3の場合と同様に低倍率SEM画像501上で、例えば、領域502の中心点を指定し、倍率を設定する方法でもよく、また、低倍率SEM画像501上で、領域502の2頂点の位置をカーソルなどで選択指示またはドラッグ指示する方法などであってもよい。
【0036】
次に、情報処理部14は、CAD画像記憶部17を参照して、前記の領域指定情報によって指定された領域502についての拡大CAD画像504を表示部15に表示する(ステップS43)。作業者は、その拡大CAD画像504を見て、その中に検査対象形状パターンがあるか否かを判定する(ステップS44)。その結果、検査対象形状パターン(例えば、形状パターン509)がなかった場合には(ステップS44でNo)、作業者は、低倍率SEM画像502上で新たな領域、例えば、領域503を指定して、情報処理部14にステップS42およびS43を再度実行させる。また、拡大CAD画像504(または505)に検査対象形状パターン509があった場合には、作業者は、そのCAD画像をさらに拡大するか否かを判断する(ステップS45)。
【0037】
作業者がステップS45の判定でCAD画像をさらに拡大する必要があると判定した場合には(ステップS45でYes)、作業者は、拡大CAD画像505上で新たな領域、例えば、検査対象形状パターン509の右先端部の領域506を指定して、情報処理部14にステップS42およびS43を再度実行させる。その結果、領域506の再拡大された拡大CAD画像507が表示される。一方、作業者がステップS45の判定で、CAD画像をさらに拡大する必要はないと判定した場合には(ステップS45でNo)、ステップS46以下を実行して、表示部15に高倍率SEM画像511を表示する。このとき、検査対象形状パターン509の右先端部の形状は、拡大CAD画像510では、長方形510であっても、例えば、それがICの製造工程などで形成される場合には、製造工程においてその角が取れて丸まって形成されるので、高倍率SEM画像511では、長方形の角が丸まった形状512のように表示される。
【0038】
ここで、ステップS46〜ステップS50の手順は、前記した図3のステップS32〜ステップS38の手順と同じであるので、ここではその説明を省略する。ただし、ステップS46は、図3では、ステップS32およびS33に相当し、ステップS47は、ステップS34およびS35に相当する。また、図3の手順では、拡大表示を指示するもとになる表示画面は、低倍率SEM画像201であるが、図4の手順では、拡大CAD画像507(504または505でもよい)である。また、図5では、拡大CAD画像507と高倍率SEM画像511とは、同じ領域を表示したものとなっているが、拡大CAD画像507のうち一部の領域を指定して、さらに高倍率にした高倍率SEM画像511であってもよい。
【0039】
なお、以上、図4に示した手順を実行するにあたっては、あらかじめCAD画像記憶部17には、試料105のCADデータまたはそのCADデータに基づき特徴化処理が施されたCAD画像のデータがすでに記憶されているものとする。また、SEM画像とCAD画像の位置の対応付けもすでに済んでいるものとする。従って、多少の誤差の存在は不可避ではあるが、CAD画像上で位置を指定することによって、SEM画像上の同じ位置を指定することができ、また、逆に、SEM画像上位置を指定することによって、CAD画像上の同じ位置を指定することができる。なお、このようなSEM画像とCAD画像の位置の対応付けは、従来からの慣用的に実施されている技術であるので、ここではその説明を省略する。
【0040】
以上、本実施形態においては、測長検査などを行なう場合、検査対象形状パターンなどを探索するに際し、高倍率SEM画像511をその都度表示することをしないで、検査対象形状パターンが探索されるまでは、高倍率SEM画像511に代えて、拡大CAD画像504,505,507を表示するようにした。通常、SEM画像を表示するには、試料ステージの位置を設定したり、試料105に電子ビームを照射したりしてSEM画像(511など)を生成する必要があるので、それ相応の時間を必要とする。一方、CAD画像504,505,507の表示には、試料ステージ104の位置の設定も電子ビームの照射も必要としない。従って、CAD画像表示は、SEM画像の表示に比べ、はるかに短時間で行なうことができる。よって、測長検査などの時間短縮、スループット向上などを図ることができる。
【0041】
<テンプレート画像を利用したSEM画像の拡大表示方法>
図4および図5を用いて説明したSEM画像の拡大表示方法において、テンプレート画像をあらかじめテンプレート画像記憶部18に記憶しておく方法もある。テンプレート画像としては、通常、測長検査パターンそのものまたは測長検査パターン近傍の特徴ある形状パターンを記憶する。図5の例の場合、例えば、形状パターン509をテンプレート画像として登録する。
【0042】
なお、一般的には、テンプレートとは、製造工程における測長や位置合わせや工程管理などのためにウェーハなどにあらかじめ埋め込まれているものをいうが、本実施形態は、手作業で不具合などを調査するのに適合させたものであるので、テンプレートの設定は、その作業時に適宜できるものとする。そこで、本実施形態では、表示部15に表示されたCAD画像から一部を切り取ることによって、テンプレート画像を定義し、テンプレート画像記憶部18に記憶することができるものとする。
【0043】
テンプレート画像と同じまたは類似性の高い画像位置を検索または探索する技術については、例えば、先に示した特許文献1などに詳しく開示されている。本実施形態では、その技術を利用するものとして、情報処理部14は、テンプレート画像記憶部18にあらかじめテンプレート画像が記憶されている場合には、拡大CAD画像を表示する(図4ステップS43)に当たっては、その拡大CAD画像の表示領域内において、テンプレート画像の探索を行ない、テンプレート画像が存在した場合には、その部分を強調して表示するようにする。ここで、強調して表示するとは、太線で表示したり、表示色を変えて表示したりすることを意味する。あるいは、テンプレート画像が表示領域の中心に位置するように拡大CAD画像を表示するようにしてもよい。
【0044】
以上のように、テンプレート画像を利用すると、テンプレート画像、つまり、測長検査パターンなどを容易に見つけることができるので、拡大CAD画像の領域を広く設定することができるようになる。そのため、テンプレート画像を利用しない場合に比べ、拡大CAD画像の表示回数を減らすことができるので、測長検査などの時間短縮、スループット向上などをさらに図ることができる。
【0045】
<表示画像の対応付け>
図6は、本実施形態に係るSEMにおいて、拡大前と拡大後の表示画像の対応付けを行なう表示方法を示した図であり、(a)は、低倍率SEM画像において拡大表示を指定した領域とその指定された領域の拡大CAD画像との対応付けの例を示した図、(b)は、低倍率SEM画像において拡大表示を指定した領域とその領域に対応する高倍率SEM画像の対応付けの例を示した図である。
【0046】
一般に、拡大された画像は、その画像がどの位置にあったものか分からなくなることが多い。そこで、本実施形態においては、図6(a)に示すように、低倍率SEM画像601において拡大表示を指示する領域602を、例えば、色aで表示し、それに対応する拡大CAD画像604を同じ色aで表示する。また、拡大表示を指示する領域603を、例えば、色bで表示し、それに対応する拡大CAD画像605を同じ色bで表示する。このように表示色で対応付けることにより、拡大されたCAD画像604,605がもとの低倍率SEM画像601でどの位置を拡大したものであるか容易に分かるようになる。
【0047】
さらに、拡大SEM画像605でさらに拡大を指示する領域606を色cで表示し、それに対応する拡大CAD画像607を同じ色cで表示するようにして、拡大CAD画像間においてもその対応付けを行なう。
【0048】
また、同様に、図6(b)に示すように、低倍率SEM画像621において拡大表示を指定した領域622を、例えば、色aで表示し、その領域において拡大表示された高倍率SEM画像625を同じ色aで表示する。また、同様に、拡大表示を指定した領域623および624をそれぞれ、例えば、色bおよび色cで表示し、その領域において拡大表示された高倍率SEM画像626および627をそれぞれ、同じ色bおよび色cで表示する。このように表示色で対応付けることにより、高倍率SEM画像625,626および627がもとの低倍率SEM画像621でどの位置を拡大したものであるか容易に分かるようになる。
【0049】
なお、これら色の表示においては、表示する部位の輪郭線などの色を変えて表示してもよく、また、表示する部位の背景の色を変えて表示してもよい。
【0050】
以上のように、表示色により低倍率SEM画像621での位置と拡大後のCAD画像またはSEM画像を対応付けることにより、複数の拡大後のCAD画像またはSEM画像を表示しても作業者がその対応関係を誤ることがなくなる。そのため、複数の拡大後のCAD画像またはSEM画像を相互に比較することが容易となり、その画像の相違などを発見しやすくなる。そして、それらの画像を比較検討することによって、試料の製造工程における不具合などの発見をより容易に行なうことができるようになる。
【0051】
<測長検査の例>
図7は、本実施形態における測長検査の例を示した図で、(a)は、SEM画像とCAD画像の重ね合わせ表示による測長検査の例、(b)は、複数のSEM画像とCAD画像の重ね合わせ表示による測長検査の例である。
【0052】
図7(a)に示すように、表示部15のSEM画像表示画面702に表示された検査対象パターンのSEM画像705と、CAD画像表示画面703に表示された検査対象パターンのCAD画像706とを、重ね合わせ表示画面704に重ね合わせて表示する。このような重ね合わせ表示を行なうことによって、試料105上に実際に形成された、例えば、配線などについて、その線幅の設計値(CAD画像による値)との差などを評価することができる。
【0053】
また、図7(b)に示すように、複数の検査対象パターンのSEM画像721および723と、それに対応するCAD画像722および724との重ね合わせ画像を比較することにより、その中心線725および726の距離Xなどについて、設計値との誤差727あるいは倍率設定の誤差などを評価することができる。さらには、2つの検査対象パターンの間で、その中心線725および726が平行にならなかった場合には、その角度誤差などに基づき、位置合わせにおける回転の誤差などを評価することができる。
【0054】
<パターン形成装置のショット領域境界線の表示>
図8は、本実施形態におけるSEMにおいて表示されるSEM画像上にパターン発生装置のショット領域境界線を重ね合わせて表示した例を示した図である。
【0055】
IC製造の露光工程においては、しばしば、ステッパなどのパターン形成装置が使用される。この場合、露光対象のウェーハは、分割して露光され、その露光される領域の単位をショット領域という。従って、ショット領域の周辺部分には、レンズの歪みなどによる誤差が生じる。一般的には、その誤差は許容範囲内に収められるが、ひとたびパターン形成装置の精度が出ないなどの不具合が生じると、その不具合の原因追求に難渋することが多い。
【0056】
そこで、本実施形態においては、表示部15に表示されるSEM画像上にそのショット領域の境界線を表示するものとした。このとき、ショット領域の情報は、CAD画像に含まれているものとし、その境界線は、SEM画像に重ね合わせる形で表示される。
【0057】
図8に示すように、低倍率SEM画像801には、縦方向のショット領域境界線802と横方向のショット領域境界線803が表示され、ショット領域804が容易に分かるように表示される。そして、ショット領域804の周辺部の高倍率SEM画像805,806においては、ある形状パターン807,808とともに、ショット領域境界線802,803が表示される。
【0058】
通常、この低倍率SEM画像801や高倍率SEM画像805,806を見ても、何も分からないが、例えば、高倍率SEM画像805,806に対応するCAD画像(この画像にもショット領域境界線が表示されているとする)と比較すれば、形状パターン807,808のショット領域境界線802,803までの距離などの差によって、ショット領域の誤差や歪みを発見できるようになる。そのため、パターン形成装置の精度が出ないなどの不具合を容易に発見できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態に係る走査型電子顕微鏡(SEM)のブロック構成を示した図である。
【図2】本発明の実施形態に係るSEMの表示部に表示された低倍率SEM画像および拡大表示された高倍率SEM画像の例を示した図である。
【図3】本発明の実施形態に係るSEMにおいて、低倍率SEM画像表示画面から高倍率SEM画像表示画面へ拡大表示するときの手順を示したフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態に係るSEMにおいて、低倍率SEM画像表示画面に基づき拡大CAD画像を表示することにより検査対象形状パターンを探索し、探索した検査対象形状パターンの高倍率SEM画像を表示する手順を示したフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態に係るSEMにおいて、図4の手順を実施したときの低倍率SEM画像、拡大CAD画像、高倍率SEM画像の例を示した図である。
【図6】本発明の実施形態に係るSEMにおいて、拡大前と拡大後の表示画像の対応付けを行なう表示方法を示した図で、(a)は、低倍率SEM画像において拡大表示を指定した領域とその指定された領域の拡大CAD画像との対応付けの例を示した図、(b)は、低倍率SEM画像において拡大表示を指定した領域とその領域に対応する高倍率SEM画像の対応付けの例を示した図である。
【図7】本発明の実施形態における測長検査の例を示した図で、(a)は、SEM画像とCAD画像の重ね合わせ表示による測長検査の例、(b)は、複数のSEM画像とCAD画像の重ね合わせ表示による測長検査の例である。
【図8】本発明の実施形態に係るSEMにおいて表示されるSEM画像上にパターン発生装置のショット領域境界線を重ね合わせて表示した例を示した図である。
【符号の説明】
【0060】
1 SEM
2 CADシステム
3 ネットワーク
10 鏡体部
11 SEM画像生成部
12 電子ビーム制御部
13 ステージ制御部
14 情報処理部
15 表示部
16 操作情報入力部
17 CAD画像記憶部
18 テンプレート画像記憶部
19 ネットワークインタフェース部
101 電子銃
102 電子レンズ
103 照射電子ビーム
104 試料ステージ
105 試料
107 二次電子検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ステージに載置された試料に電子ビームが照射されたとき、前記試料の前記電子ビームが照射された部位から放出される二次電子を検出し、前記検出した二次電子の量に基づき前記試料の表面のSEM画像を生成するSEM画像生成部と、
前記試料のCADデータに基づき生成され、前記試料の表面形状を表わしたCAD画像のデータを記憶するCAD画像記憶部と、
前記試料に係る前記SEM画像および前記CAD画像の少なくとも一方を表示する表示部と、
前記表示部に表示された前記試料に係る前記SEM画像または前記CAD画像上で拡大表示領域を指定するための領域指定情報を入力する操作情報入力部と
を含んで構成された走査型電子顕微鏡であって、
前記表示部に表示された前記SEM画像上または前記CAD画像上で、前記操作情報入力部から拡大CAD画像の表示を指示する領域指定情報が入力されたときには、前記領域指定情報で指定された領域に対応する拡大CAD画像を前記表示部に表示し、その後、
前記表示部に表示された前記試料の前記拡大CAD画像上で、前記操作情報入力部から拡大SEM画像の表示を指示する領域指定情報が入力されたときには、前記領域指定情報で指定された領域に対応する拡大SEM画像を生成し、前記生成した拡大SEM画像を前記表示部に表示すること
を特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の走査型電子顕微鏡であって、
前記CAD画像記憶部に記憶したCAD画像からその一部を切り出したテンプレート画像を記憶するテンプレート画像記憶部を、さらに、備え、
前記表示部に表示された前記SEM画像上または前記CAD画像上で、前記操作情報入力部から拡大CAD画像の表示を指示する領域指定情報が入力されたとき、前記テンプレート画像記憶部にあらかじめ登録された前記テンプレート画像が存在した場合には、前記拡大CAD画像を前記表示部に表示するとき、前記拡大CAD画像について前記テンプレート画像とマッチする画像部分を探索し、マッチした画像部分については強調して表示すること
を特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の走査型電子顕微鏡であって、
前記拡大SEM画像に対応する領域および倍率のCAD画像を、前記拡大SEM画像に重ね合わせて前記表示部に表示すること
を特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の走査型電子顕微鏡であって、
前記表示部に表示された前記SEM画像上または前記CAD画像上で、前記操作情報入力部から拡大表示のための複数箇所の領域指示情報が入力されたときには、前記SEM画像上または前記CAD画像上に前記領域指示情報が示す領域を表示するとともに、前記領域指示情報が示す領域の表示と、その領域指示情報によって表示された前記拡大SEM画像または前記拡大CAD画像との対応関係を明示して表示すること
を特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項4に記載の走査型電子顕微鏡であって、
前記領域指示情報が示す領域の表示と、その領域指示情報によって表示された前記拡大SEM画像または前記拡大CAD画像との対応関係を表示色によって示すこと
を特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の走査型電子顕微鏡であって、
前記表示部に表示された前記SEM画像および前記CAD画像の少なくとも一方には、前記試料を製造する際に使用されたパターン形成装置のショット領域の境界線を重ねて表示すること
を特徴とする走査型電子顕微鏡。
【請求項7】
試料ステージに載置された試料に電子ビームが照射されたとき、前記試料の前記電子ビームが照射された部位から放出される二次電子を検出し、前記検出した二次電子の量に基づき生成される前記試料の表面のSEM画像を生成するSEM画像生成部と、
前記試料のCADデータに基づき生成され、前記試料の表面形状を表わしたCAD画像のデータを記憶するCAD画像記憶部と、
前記試料に係る前記SEM画像および前記CAD画像の少なくとも一方を表示する表示部と、
前記表示部に表示された前記試料に係る前記SEM画像または前記CAD画像上で拡大表示領域を指定するための領域指定情報を入力する操作情報入力部と
を含んで構成された走査型電子顕微鏡における画像表示方法であって、
前記走査型電子顕微鏡は、
前記表示部に表示された前記SEM画像上または前記CAD画像上で、前記操作情報入力部から拡大CAD画像の表示を指示する領域指定情報が入力されたときには、前記領域指定情報で指定された領域に対応する拡大CAD画像を前記表示部に表示し、その後、
前記表示部に表示された前記試料の前記拡大CAD画像上で、前記操作情報入力部から拡大SEM画像の表示を指示する領域指定情報が入力されたときには、前記領域指定情報で指定された領域に対応する拡大SEM画像を生成し、前記生成した拡大SEM画像を前記表示部に表示すること
を特徴とする走査型電子顕微鏡における画像表示方法。
【請求項8】
請求項7に記載の画像表示方法であって、
前記走査型電子顕微鏡は、
前記CAD画像記憶部に記憶したCAD画像からその一部を切り出したテンプレート画像を記憶するテンプレート画像記憶部を、さらに、備え、
前記表示部に表示された前記SEM画像上または前記CAD画像上で、前記操作情報入力部から拡大CAD画像の表示を指示する領域指定情報が入力されたとき、前記テンプレート画像記憶部にあらかじめ登録された前記テンプレート画像が存在した場合には、前記拡大CAD画像を前記表示部に表示するとき、前記拡大CAD画像について前記テンプレート画像とマッチする画像部分を探索し、マッチした画像部分については強調して表示すること
を特徴とする走査型電子顕微鏡における画像表示方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−47080(P2007−47080A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−233398(P2005−233398)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】