説明

走行装置の制御方法

【課題】 HSTにより構成される走行装置の制御方法において、牽引力制御が働いている場合であっても、上り坂の途中で走行装置がずり落ちることがない制御方法を提供する
【解決手段】 可変容量式の流体圧ポンプと可変容量式の流体圧モータとを接続して構成されたハイドロ・スタティック・トランスミッション式の走行装置の制御方法であって、前記流体圧モータの吸収量は、所定の速度域にある場合には、必要とされる吸収量よりも少なくなるように制御し、進行方向に対して異なる方向へ移動する場合には、前記必要とされる吸収量を超えるように制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイルローダ等の建設機械に使用されるハイドロ・スタティック・トランスミッションを備えた走行装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のハイドロ・スタティック・トランスミッション(以下、HSTとする。)を備えた走行装置を、図1を参照して説明する。
同図(a)において、HST回路は、エンジン等の駆動源1により駆動される可変容量式流体圧ポンプ2と、可変容量式流体圧モータ3とを、流体の移動総量が等しくなるように閉回路を構成するように接続して構成されている。尚、タイヤ4は、変速器5を介して可変容量式の流体圧モータ3により駆動される。
前記走行装置は、アクセルペダル等の車速制御手段(図示せず。)を操作することにより制御コントローラ6を介して、車速を変更できるように構成される。
また、HST回路内において、流体圧ポンプ2と流体圧モータ3とを接続する各管路7,8の高い方の圧力は、図示されるようにチェック弁9,10を介して負荷圧力検知手段11により検知され、制御コントローラ6に送られる。また、駆動源1の回転数は回転数検知手段12により検知され、制御コントローラ6に送られる。
そして、制御コントローラ6では、駆動源1の回転数と、各管路7,8の高い方の負荷圧力とに基づき、同図(b)に示すように、負荷圧力に対して、エンジン回転数の高い場合と、低い場合とに対応するように仮想のモータ傾転量Aを決定し、更に、牽引力制限指令により、実際のモータ傾転量Bを決定し、これを電流値に変換して、流体圧モータの電流値とモータの吸収量特性に基づき制御を行う。
【0003】
上記構成の走行装置は、例えば、泥等の軟弱な路面や凍結した路面において、走行トルクが大きいと滑り易くなるため、低速域において、流体圧モータ3に必要とされる吸収量よりも低くするために、牽引力制御指令13を制御コントローラ6に送り車速を抑えるようにしている。
【0004】
しかしながら、上記牽引力制御指令13による液体圧モータ3の吸収量の制御が機能している場合には、可変容量式の流体圧モータ3の吸収量が低下するために、走行装置が登り坂で停車する際にずり落ちてしまう問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、HSTにより構成される走行装置の制御方法において、牽引力制御が働いている場合であっても、上り坂の途中で走行装置がずり落ちることがない制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者は下記の通り解決手段を見出した。
即ち、本発明の走行装置の制御方法は、請求項1に記載の通り、可変容量式の流体圧ポンプと可変容量式の流体圧モータとを接続して構成されたハイドロ・スタティック・トランスミッション式の走行装置の制御方法であって、前記流体圧モータの吸収量は、所定の速度域にある場合には、必要とされる吸収量よりも少なくなるように制御し、進行方向に対して異なる方向へ移動する場合には、前記必要とされる吸収量を超えるように制御することを特徴とする。
また、請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の走行装置の制御方法において、前記走行装置は、前後進の選択を指示するための前後進選択指示手段と、前記進行方向の速度を検知するための進行方向検知手段とを備え、前記前後進選択指示手段により指示された前進又は後進の指示に対して、前記進行方向検知手段により検知された進行方向の前進又は後進が一致しない場合を、前記進行方向に対して異なる方向へ移動する場合とすることを特徴とする。
また、請求項3に記載の制御方法は、請求項1に記載の発明において、前記所定の速度域は、時速0.5km以下とすることを特徴とする。
また、請求項4に記載の制御方法は、請求項1に記載の発明において、前記可変容量式流体圧モータを斜軸式のモータとし、前記吸収量を増加させる際に、前記斜板式モータの傾転量を最大とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、走行時には、牽引力を制限することができる走行装置において、上り坂の途中において停車してもずり落ちすることがないように走行装置を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。
図2の走行装置は、同図(a)において、HST回路は、エンジン等の駆動源1により駆動される可変容量式流体圧ポンプ2と、可変容量式流体圧モータ3とを、流体の移動総量が等しくなるように閉回路を構成するように接続して構成されている。尚、タイヤ4は、変速器5を介して可変容量式の流体圧モータ3により駆動される。
前記走行装置は、アクセルペダル等の車速制御手段(図示せず。)を操作することにより制御コントローラ6を介して、車速を変更できるように構成される。
また、走行装置の前後進の切換は、前後進選択指示手段14により行われ、これを切り換えることにより、HST回路内の流体の移動方向を切り換えて、前後進を切り換えるようにしている。前後進選択指示手段14は、前後進を選択可能なスイッチにより構成することができ、前後進選択指示手段14からの前後進選択信号は、制御コントローラ6に送られて、この制御コントローラ6により、HST回路内に設けられた切換弁(図示せず。)を切り換えて、同回路内の流体の移動方向を切り換えるようにしている。尚、本実施の形態では、前後進選択指示手段14は、前後以外に、中立時(停止時)も含むものとしている。
【0009】
上記制御コントローラ6には、以下の情報も送られる。
まず、駆動源1の回転数も、回転数検知手段12により検知され、その結果が、制御コントローラ6に送られる。
実際の進行方向を車速により検知(前方向又は後方向への速度を検知)するための車速センサ等の進行方向検知手段15が、変速器5とタイヤ4とを接続する軸に設けられており、これにより検知された進行方向検知信号が、制御コントローラ6に送られる。
HST回路内において、流体圧ポンプ2と流体圧モータ3とを接続する各管路7,8の高い方の圧力は、図示されるようにチェック弁9,10を介して負荷圧力検知手段11により検知され、制御コントローラ6に送られる。
また、走行装置は、所定の速度域、例えば、時速0.5km以下の低速域において、流体圧モータ3の吸収量を抑えるための牽引力制御指令を出すことができるようになっており、この牽引力制限指令も制御コントローラ6に送られる。尚、この牽引力制限指令は、例えば、オン−オフ選択可能なスイッチ等の牽引力制限手段により構成し、同スイッチがオンとなり、牽引力制限指令が、制御コントローラ6に入力されると、上記説明したように可変容量式流体圧モータ3の吸収量を抑える制御が行われる。即ち、同図(b)で示される点線の傾転量ではなく、一定値(実線)の傾転量の制御となる。
【0010】
制御コントローラ6では、駆動源1の回転数と、各管路7,8の高い方の負荷圧力とに基づき、同図(b)に示すように、負荷圧力に対して、エンジン回転数の高低に応じて、まず、仮想のモータ傾転量Aを決定する。そして、牽引力制限指令がある場合には、モータ傾転量Aに対して、一定の傾転量を超える場合にその値を一定値に制限して、実際のモータ傾転量B(実線)を決定する。
そして、決定されたモータ吸収量Bは、通常の場合には、電気信号に変換され、同図(a)に示される可変容量式モータ3の電磁比例弁に送られ、可変容量式モータ3の吸収量が制御され、走行装置の車速が制御される。
【0011】
本発明では、牽引力制限指令が働いている状況で、前後進選択指示手段14により指示された前進又は後進の指示に対して、進行方向検知手段15により検知された進行方向の前進又は後進が一致しないであることを制御コントローラ6で判断した場合には、牽引力制限指令により吸収量が制限された可変容量式の流体圧モータ3の吸収量(モータ傾転量B)を、同図(b)に示すように、制限された値以上(モータ傾転量C:本実施の形態の場合には一定値)とすることにより、登り坂において、走行装置がずり落ちしないようにすることができる。
【0012】
尚、傾転量Bを制限された値以上とする場合には、最大傾転量とすることが好ましい。迅速な制御ができるからである。
図3に、最大傾転量に制御する場合にフローを示す。尚、図示したものでは、牽引力制限指令が働いている状況で、前後進選択指示手段14により指示された前進又は後進の指示に対して、進行方向検知手段15により検知された進行方向の前進又は後進が一致しない場合の例として、前後進選択指示手段14の指示が中立(停止指示)の場合にも、進行方向検知手段15の前後進が一致しない場合であると判定して、最大傾転量とする制御を行っている。運転者の走行の意思が無いものと考え、ずり落ち防止を優先して判断しているからである。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明の走行装置の制御方法は、建設機械等をはじめ、HSTを備えた走行装置に関して広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)従来の走行装置の構成図,(b)同装置の制御手段の制御の説明図
【図2】(a)本発明の一実施の形態の走行装置の構成図,(b)同装置の制御手段の制御の説明図
【図3】最大傾転量に制御する場合のフロー図
【符号の説明】
【0015】
1 駆動源
2 可変容量式流体圧ポンプ
3 可変容量式流体圧モータ
4 タイヤ
5 変速器
6 制御コントローラ
7 管路
8 管路
9 チェック弁
10 チェック弁
11 負荷圧力検知手段
12 回転数検知手段
13 牽引力制御指令
14 前後進選択指示手段
15 進行方向検知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変容量式の流体圧ポンプと可変容量式の流体圧モータとを接続して構成されたハイドロ・スタティック・トランスミッション式の走行装置の制御方法であって、前記流体圧モータの吸収量は、所定の速度域にある場合には、必要とされる吸収量よりも少なくなるように制御し、進行方向に対して異なる方向へ移動する場合には、前記必要とされる吸収量を超えるように制御することを特徴とする走行装置の制御方法。
【請求項2】
前記走行装置は、前後進の選択を指示するための前後進選択指示手段と、前記進行方向の速度を検知するための進行方向検知手段とを備え、前記前後進選択指示手段により指示された前進又は後進の指示に対して、前記進行方向検知手段により検知された進行方向の前進又は後進が一致しない場合を、前記進行方向に対して異なる方向へ移動する場合とすることを特徴とする請求項1に記載の走行装置の制御方法。
【請求項3】
前記所定の速度域は、時速0.5km以下であることを特徴とする請求項1に記載の走行装置の制御方法。
【請求項4】
前記可変容量式流体圧モータを斜軸式のモータとし、前記吸収量を増加させる際に、前記斜軸式モータの傾転量を最大とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の走行装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−228867(P2009−228867A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77996(P2008−77996)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(591005693)ボッシュ・レックスロス株式会社 (27)
【Fターム(参考)】