説明

超音波洗浄装置

【課題】超音波発振子から発せられる超音波を洗浄液の加振に効率よく利用しつつ、超音波発振子の作動状況と洗浄液の吐出圧力を含めて洗浄液の吐出状態を監視できる超音波洗浄装置を提供すること。
【解決手段】超音波洗浄装置は、洗浄すべき基板を搭載して回転する回転テーブルと、超音波発振子を有し超音波が印加された洗浄液を吐出して基板の洗浄処理を行う洗浄ノズルと、洗浄ノズル近傍の湿度を測定する湿度センサと、湿度センサによって測定される湿度を監視する監視部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波洗浄装置に関し、詳しくは、超音波が印加された洗浄液を基板に吐出して基板の表面に付着した微細な異物を除去する超音波洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この発明に関連する従来技術としては、洗浄液を吐出する洗浄ノズルに超音波を印加する超音波発振子と音圧センサを内蔵させ、超音波発振子から発せられた超音波を音圧センサで電気的に測定することにより、超音波発振子が正常に作動しているかどうかを監視できるように構成された超音波洗浄装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−162239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ICやLSIなどに代表される様々な半導体装置は、シリコンウエハに薄膜形成、不純物導入、フォトレジスト形成、エッチングなどの様々な工程を繰り返すことにより作製される。
半導体装置はクリーンルームと呼ばれる一定の温度と湿度に保たれた非常に清潔に保たれた空間で作製されるが、それでも各工程では何かしらの汚染が必ず導入されてしまい、微細な異物(金属や有機物)が作製途中のシリコンウエハに付着してしまう。
このため、工程と工程の間で行われる洗浄工程は、半導体装置を歩留まり(良品率)よく作製するうえで欠かせない工程となっている。
【0005】
このような洗浄工程では、前工程で得られたシリコンウエハを薬液や純水などの洗浄液で洗浄するウェット洗浄が主流となっている。
ウェット洗浄には、シリコンウエハを洗浄槽に浸漬する浸漬式と、洗浄ノズルから所定の吐出圧力と流量で洗浄液を吹き付けるスプレー式とがあるが、いずれの方式でも洗浄効果を高めるために洗浄液に超音波を印加することが行われている。
【0006】
超音波を利用するスプレー式の洗浄装置は、洗浄ノズルの内部に洗浄液に超音波を印加するための超音波発振子を内蔵している。
洗浄液に超音波が印加されると、いわゆるキャビテーション現象により、洗浄液の液体中の圧力が下がって飽和蒸気圧に達し洗浄液の一部が蒸発気化して空洞気泡の発生と破裂が繰り返され、空洞気泡が破裂するときに発生する衝撃波によってシリコンウエハの表面に付着した微細な異物が効率よく除去される。
【0007】
このため、洗浄液に超音波を印加して洗浄する方法は、異物の除去効率の観点からみて非常に優れていると言える。しかし、それは超音波の作用に依存するものであり、仮に超音波発振子が故障すれば異物の除去効率は極端に悪化することとなる。
仮に超音波発振子が故障し、オペレーターがそれに気付かないまま洗浄工程が継続されれば、洗浄が十分に行われなかったシリコンウエハが次工程に運ばれることとなり、結果として製品の歩留まりを大幅に悪化させることとなる。
つまり、現在の半導体装置の製造において、洗浄工程が確実に実施されることは製品の歩留まりを維持するうえで極めて重要であり、そのためには定期的な超音波発振子の作動確認が欠かせない。
【0008】
超音波発振子の作動確認は、洗浄工程を中断させて洗浄ノズルの直下に音圧センサを設置し、洗浄ノズルの吐出口から洗浄液を音圧センサに吐出し、音圧センサから発生する電圧値を確認することにより行われる。
超音波発振子が正常に作動していれば、洗浄液中を伝搬する超音波によって音圧センサが加圧されることにより所定の電圧値が確認され、超音波発振子が正常に作動していると判断することができる。
【0009】
しかしながら、このような超音波発振子の作動確認は、確認作業を行う度に洗浄工程を中断して洗浄ノズルの下方に音圧センサを設置する必要があり、作業性が悪いばかりでなく洗浄装置の稼働率を低下させる。
【0010】
このような問題を解決するものとして、洗浄ノズルに音圧センサを内蔵させ、超音波発振子の作動状況を常時監視できるように構成された洗浄装置も提案されている。
しかし、洗浄ノズルに音圧センサを内蔵させる手法では、超音波発振子から発せられる超音波の一部が常に音圧センサに吸収されるため、当該吸収分が損失となり、超音波発振子から発せられる超音波を洗浄液の加振に効率よく利用することができない。
また、超音波発振子の作動状況を常時監視しても、洗浄液が所定の吐出圧力で吐出されているかどうかを監視することはできない。
つまり、洗浄工程が適切に実施されるには、超音波発振子の作動状況と洗浄液の吐出圧力のいずれもが正常でなければならず、超音波発振子の作動状況を監視するだけでは十分とは言えない。
【0011】
この発明は以上のような事情を考慮してなされたものであり、超音波発振子から発せられる超音波を洗浄液の加振に効率よく利用しつつ、超音波発振子の作動状況と洗浄液の吐出圧力を含めて洗浄液の吐出状態を監視できる超音波洗浄装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、洗浄すべき基板を搭載して回転する回転テーブルと、超音波発振子を有し超音波が印加された洗浄液を吐出して基板の洗浄処理を行う洗浄ノズルと、洗浄ノズル近傍の湿度を測定する湿度センサと、湿度センサによって測定される湿度を監視する監視部とを備える超音波洗浄装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明による超音波洗浄装置によれば、洗浄ノズル近傍の湿度を湿度センサによって測定し、測定された湿度を監視部で監視するので、超音波発振子から発せられる超音波を洗浄液の加振に効率よく利用しつつ、超音波発振子の作動状況と洗浄液の吐出圧力を含めて洗浄液の吐出状態を監視できる。
【0014】
つまり、超音波発振子が正常に作動して洗浄液に超音波が印加されると、いわゆるキャビテーション現象により、洗浄液の液体中の圧力が下がって飽和蒸気圧に達し、洗浄液の一部が蒸発気化して空洞気泡の発生と破裂が繰り返され、吐出された洗浄液から水煙が立ち昇る。水煙を形成する微細な霧は粒径が非常に小さく空気中で蒸発し易いため、超音波発振子が正常に作動し、かつ、所定の吐出圧力で洗浄液が吐出されている場合には洗浄ノズル近傍の湿度が一定の高い値となる。
【0015】
よって、洗浄ノズル近傍の湿度を測定し監視することにより、超音波発振子の作動状況と洗浄液の吐出圧力を含めて洗浄液の吐出状態を監視することができ、また、超音波発振子の作動状況を監視するために、洗浄ノズルに音圧センサを内蔵させる必要もなくなるので、超音波発振子から発せられる超音波を洗浄液の加振に効率よく利用できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明による超音波洗浄装置は、洗浄すべき基板を搭載して回転する回転テーブルと、超音波発振子を有し超音波が印加された洗浄液を吐出して基板の洗浄処理を行う洗浄ノズルと、洗浄ノズル近傍の湿度を測定する湿度センサと、湿度センサによって測定される湿度を監視する監視部とを備えることを特徴とする。
【0017】
この発明による超音波洗浄装置において、回転テーブルとは、洗浄すべき基板を搭載して回転するテーブルを意味し、この目的が達成される限りにおいてその構成は特に限定されるものではない。
【0018】
また、洗浄ノズルとは、超音波発振子を備え、超音波が印加された洗浄液を基板へ向かって吐出するノズルを意味し、この目的が達成される限りにおいてその構成は特に限定されるものではない。
ここで、超音波発振子としては、例えば、電圧の印加によって歪み、超音波を発振する圧電セラミクスからなるものが好適に用いられる。
また、洗浄液としては、半導体装置製造プロセスで一般的に使用されているものを用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、純水、水酸化アンモニウム(NH4OH)・過酸化水素(H22)含有水、塩化水素(HCl)・過酸化水素含有水、硫酸(H2SO4)と過酸化水素の混合溶液、フッ化水素(HF)・過酸化水素含有水、フッ化水素含有水、フッ化水素・フッ化アンモニウム(NH4F)含有水などを挙げることができる。
【0019】
また、湿度センサとは、洗浄ノズル近傍の湿度を電気的に測定するものを意味し、この目的が達成される限りにおいてその構成は特に限定されるものではない。
湿度センサとしては、例えば、容量性又は抵抗性の電気式湿度センサが挙げられ、なかでも感湿体としての高分子膜を1対の電極で挟んだ構成を有する静電容量変化型湿度センサが、測定範囲の広さ(0〜100%RH)や応答速度の速さの観点から好適に用いられる。
【0020】
また、監視部とは、湿度センサによって電気的に測定された湿度を監視するマイクロコンピュータを意味し、この目的が達成される限りにおいてその構成は特に限定されるものではない。
監視部としては、例えば、演算処理を行うCPU、CPUの制御プログラムを格納したROM、CPUにワークエリアを提供するRAM、CPUの制御の下に各種駆動部を駆動するドライバ回路、湿度センサを含む各種センサと信号の入出力を行うI/Oポートなどで構成されたマイクロコンピュータが挙げられる。
【0021】
この発明による超音波洗浄装置において、監視部は、測定された湿度が所定の範囲に収まらないときに洗浄ノズルの吐出を中止してもよい。
上述のとおり、超音波発振子が正常に作動し、かつ、所定の吐出圧力で洗浄液が吐出されている場合には洗浄ノズル近傍の湿度が一定の高い値となる。
よって、洗浄処理中に測定された湿度が所定の範囲に収まらないときには超音波発振子の作動状況と洗浄液の吐出圧力のいずれか一方または双方に何らかの異常が生じたと判断することができ、洗浄ノズルの吐出を中止することにより不十分な洗浄処理が継続されることを防ぐことができる。
【0022】
この発明による超音波洗浄装置において、監視部は、湿度の時間的変化率を求め、前記変化率が所定の閾値を超えるときに洗浄ノズルの吐出を中止してもよい。
上述のとおり、超音波発振子の作動状況と洗浄液の吐出圧力のいずれもが正常であれば、洗浄ノズル近傍の湿度は一定の高い値のまま推移するので、湿度の時間的変化率が所定の閾値を超えるときには超音波発振子の作動状況と洗浄液の吐出圧力のいずれか一方または双方に何らかの異常が生じたと判断することができ、洗浄ノズルの吐出を中止することにより不十分な洗浄処理が継続されることを防ぐことができる。
【0023】
また、この発明による超音波洗浄装置は、基板上で洗浄ノズルを基板表面に沿って移動させるアームをさらに備え、監視部は、洗浄ノズルが回転テーブルの軸心から所定の範囲内に位置するときに測定された湿度を監視することが好ましい。
というのは、上記構成では洗浄ノズルが回転する基板の表面に沿って移動することとなるが、回転テーブルの軸心から所定の範囲を超える領域では、吐出された洗浄液が、回転によって生ずる遠心力によって基板の外側へ向かって広がるように移動し、基板の外側へ近づくにしたがって空気との接触面積が増えて蒸発し易くなり、超音波発振子の作動状況に係わらず湿度が高くなる傾向があるからである。
このため、回転テーブルの軸心から所定の範囲を超える領域で測定された湿度は、超音波発振子の作動状況との因果関係が希薄であり、超音波発振子の作動状況を含めて洗浄液の吐出状態を的確に監視するためには、洗浄ノズルが回転テーブルの軸心から所定の範囲内に位置するときに測定された湿度に基づいて監視することが好ましい。
【0024】
上記のような知見から、洗浄ノズルを移動させるアームをさらに備える上記構成において、基板が実質的に円盤状であるとき、基板はその中心が回転テーブルの軸心と一致するように回転テーブルに搭載され、アームは基板の中心と外縁との間で洗浄ノズルを往復移動させ、監視部は洗浄ノズルが基板の中心に位置するときに測定された湿度を測定してもよい。
このような構成によれば、基板の回転による遠心力の影響を受けることなく、超音波発振子の作動状況を含めて洗浄液の吐出状態を的確に監視することができる。
【0025】
この発明による超音波洗浄装置において、湿度センサは洗浄ノズルに装着されていてもよい。
【0026】
以下、図面に示す実施形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。図1は実施形態に係る超音波洗浄装置の説明図、図2は図1の要部拡大図、図3は図1に示される超音波洗浄装置の洗浄ノズルの構成を示す説明図、図4は基板の中心と湿度センサとの間の基板表面に沿った距離と湿度の変化量との関係を示すグラフ図、図5は基板の表面と湿度センサとの間の鉛直方向の距離と湿度の変化量との関係を示すグラフ図、図6は本実施形態に係る監視部の構成を示すブロック図、図7は本実施形態において監視部が行う制御フローを示すフローチャート図である。
【0027】
図1に示されるように、実施形態に係る超音波洗浄装置1は、洗浄すべき基板(円盤状のシリコンウエハ)2を搭載して回転する回転テーブル3と、超音波発振子4(図3参照)を有し超音波が印加された洗浄液5を吐出して基板2の洗浄処理を行う洗浄ノズル6と、洗浄ノズル6近傍の湿度を測定する湿度センサ7と、湿度センサ7によって測定される湿度を監視する監視部8(図6参照)とを備えている。
【0028】
以下、実施形態に係る超音波洗浄装置1の構成と作用についてより詳細に説明する。
図1に示されるように、超音波洗浄装置1は、洗浄すべき基板2を保持しつつ回転させる回転テーブル3を備えている。
回転テーブル3は基板2をチャックする機能を備え、回転駆動部9から回転シャフト10を介して駆動力が伝達される。洗浄すべき基板2は、その中心が回転テーブル3の軸心と一致するように回転テーブル3に搭載される。
回転テーブル3は、基板2をチャックした状態で500rpm以上の回転数で回転する。というのは、500rpm未満の回転数では、基板2の表面に吐出された洗浄液5を遠心力によって十分に飛ばすことが難しく、洗浄液5の振り切り不足が生じる恐れがあるからである。
【0029】
一方、図3に示されるように、洗浄ノズル6は、洗浄液5が導入される導入口6aと洗浄液5を吐出する吐出口6bがそれぞれ形成され、導入口6aから導入された洗浄液5に超音波を印加する超音波発振子4が上部に内蔵されている。
また、図1に示されるように、洗浄ノズル6は、アーム駆動モータ11によって駆動されるアーム12の先端にマウント13を介して装着され、基板2の表面に沿って円弧を描くように移動する。洗浄ノズル6とアーム12との間に介在するマウント13は、マウント昇降モータ14によって上下に昇降可能である。
洗浄ノズル6は上記のアーム12によって回転する基板2の中心と外縁との間を往復移動しながら超音波が印加された洗浄液5を所定の吐出圧力で吐出する。
【0030】
図1に示されるように、洗浄ノズル6は発振電源15と接続され、超音波発振子4(図3参照)は発振電源15の周波数に応じた超音波を発振する。
また、洗浄ノズル6はポンプ16および電磁バルブ17を介して洗浄液タンク18と接続され、洗浄液5が洗浄ノズル6の導入口6aに所定の圧力で供給される。
【0031】
洗浄ノズル6の吐出口6bは口径が2〜10mm程度であり、1〜2kg/cm2程度の吐出圧力で、流量0.1L/min以上の洗浄液5を吐出する。
上記の吐出圧力を下回る条件では洗浄効果が低減する。一方、上記の吐出圧力を上回る条件では基板2に与えるダメージが大きくなり、不良を発生させる原因となりかねない。よって、洗浄液5の吐出圧力を上記の適切な範囲内に管理することは、洗浄処理を適切に実施するうえで重要である。
本実施形態では洗浄ノズル6の吐出口6bの口径が一定であるので、洗浄液5の流量は吐出圧力に比例する。
なお、本実施形態では、洗浄液5として比抵抗値が1MΩ・cm2以上の純水が用いられる。この比抵抗値を満足しない純水の使用は、洗浄液5による基板汚染の原因となりかねないため、使用しないことが望ましい。
【0032】
洗浄ノズル6の導入口6aから導入された洗浄液5には、上部に内蔵された超音波発振子4から音圧センサによる電圧換算値で350〜450mV程度となる音圧の超音波が印加される。
洗浄液5に電圧換算値で350〜450mV程度の超音波が印加されると、いわゆるキャビテーション現象により、洗浄液5の液体中の圧力が下がって飽和蒸気圧に達し、洗浄液5の一部が蒸発気化して空洞気泡の発生と破裂が繰り返され、空洞気泡が破裂するときの衝撃波によって基板2の表面に付着した異物が効率よく除去される(剥がされる)。
【0033】
洗浄液5に印加される超音波の音圧が電圧換算値で約350mVを下回る場合、空洞気泡の発生が乏しく洗浄効果が低下する。一方、洗浄液5に印加される超音波の音圧が電圧換算値で約450mVを超えると基板2に与えるダメージが大きくなり、不良を発生させる原因となり得る。
このため、超音波発振子4から洗浄液5へ印加される超音波の強さ、すなわち音圧は、音圧センサによる電圧換算値で350〜450mVとなるように設定される。
【0034】
上述のとおり、超音波発振子4から超音波が印加され、キャビテーション現象により洗浄液5中で空洞気泡の発生と破裂が繰り返されると、吐出された洗浄液5から水煙5aが立ち昇る。水煙5aを形成する霧はその粒径が非常に小さいため蒸発し易く、洗浄ノズル6近傍の湿度は水煙5aによって一定の高い値となる。
そこで、本実施形態では洗浄ノズル6の外部に湿度センサ7を装着し、この湿度センサ7で洗浄ノズル6近傍の湿度を測定する。
超音波発振子4(図3参照)が正常に作動し、キャビテーション現象による水煙5aが洗浄液5から立ち昇っていれば、湿度センサ7によって一定の高い値が測定されるが、超音波発振子4が正常に作動しなければキャビテーション現象も起こらず、水煙5aも立ち昇らないので高い値は測定されない。
【0035】
もちろん、測定される湿度の値は、洗浄液5の吐出圧力によっても変動する。
上述のとおり、本実施形態では洗浄液5の流量は吐出圧力に比例するので、吐出圧力が低下すれば洗浄液5の流量も少なくなり、超音波発振子7が正常に作動していても空洞気泡の発生量が少なくなることから測定される湿度の値は低くなる。
一方、吐出圧力が高くなれば洗浄液5の流量も多くなり、空洞気泡の発生量が多くなることから測定される湿度の値は高くなる。
【0036】
よって、本実施形態では、湿度センサ7によって測定された湿度に基づいて超音波発振子4の作動状況と洗浄液4の吐出圧力を含む洗浄液5の吐出状態を監視することができる。
しかし、洗浄液4の吐出状態を湿度に基づいて的確に監視するには、所定の条件を満たした位置で測定された湿度に基づいて吐出状態を監視することが好ましい。
本実施形態において所定の条件を満たした位置とは、回転テーブル3の軸心、すなわち基板2の中心から半径2cm以内であって、かつ、基板2の表面から2cm以内の高さとなる位置である。
【0037】
このような条件を導き出すにあたって次のような2つの実験を行った。
1つ目の実験では、基板2を一定の回転数で回転させながら、基板2の表面と湿度センサ7との間の鉛直方向の距離H(図2参照)、すなわち基板2の表面に対する湿度センサ8の高さを2cmに保ちつつ、超音波発振子4(図3参照)を作動させずに洗浄液5を吐出し、基板2の中心から外縁まで60秒かけて洗浄ノズル5を基板2の表面に沿って移動させ湿度の変動を測定した。
【0038】
実験の結果、下の表1および図3に示されるように、基板2の中心と湿度センサ7との間の基板表面に沿った距離L(図2参照)が長くなるにしたがって初期値に対する湿度の変化量が大きくなる傾向、すなわち湿度の上昇傾向が認められた。なお、この実験で初期値とは、実験開始前に、洗浄ノズル6を基板2の中心に位置させ洗浄液5を吐出させずに測定した湿度の値のことである。
【0039】
【表1】

【0040】
これは、吐出された洗浄液5が基板2の回転による遠心力によって外周へ向かって広がるように移動し、外周へ近づくにしたがって空気との接触面積が増えて洗浄液4が蒸発し易くなるためである。
図3に示されるように、基板2の中心からの距離が3cmを超えると洗浄液5と空気との接触面積の増加による蒸発がすすみ、初期値に対する湿度の変化量が大きくなることが分かる。
よって、基板2の回転による遠心力の影響を受けることなく湿度を測定するためには、基板2の中心から半径2cm以内の範囲が好適であると言える。
【0041】
2つ目の実験では、先の実験結果に基づいて、基板2の中心と湿度センサ7との間の基板表面に沿った距離Lを遠心力の影響を受けない2cm以内に保ちつつ、超音波発振子4を作動させた状態で洗浄液5を吐出し、洗浄ノズル6を基板2の表面から鉛直上方に180秒かけて上昇させ湿度の変動を測定した。
なお、この実験でも初期値とは、実験開始前に、洗浄ノズル6を基板2の中心に位置させ洗浄液5を吐出させずに測定した値のことである。
【0042】
実験の結果、下の表2および図4に示されるように、基板2の表面と湿度センサ7との間の鉛直方向の距離(高さ)Hが高くなるにしたがって初期値に対する湿度の変化量が小さくなる傾向、すなわち湿度の低下傾向が認められた。
【0043】
【表2】

【0044】
これは、超音波が印加されキャビテーション現象により洗浄液5から立ち昇る水煙5aが基板2の表面近傍で蒸発し、基板2の表面から鉛直上方に遠ざかるにしたがって蒸発した水蒸気が空気中に分散していくためである。
図4に示されるように、基板2の表面からの高さが3cmを超えると初期値に対する湿度の変化量が小さくなることが分かる。
よって、キャビテーション現象によって発生した水煙5aに起因する湿度の上昇を測定するためには、基板2の表面から2cm以内の高さが好適であると言える。
【0045】
このように、本実施形態では、超音波発振子4の作動状況と洗浄液5の吐出圧力を含む洗浄液5の吐出状態を湿度に基づいて的確に監視するために、基板2の中心から半径2cm以内であって、かつ、基板2の表面から2cm以内の高さで測定された湿度に基づいて洗浄液5の吐出状態を監視する。
なお、洗浄液5の吐出状態の監視とは、超音波発振子4が正常に作動し、かつ、所定の吐出圧力で洗浄液5が吐出されているか否かを判断するということであり、本実施形態ではこの判断を監視部8によって行う。
【0046】
図6に示されるように、監視部8は、演算処理を行うCPU19、CPU19の制御プログラムを格納したROM20、CPU19にワークエリアを提供するRAM21、各種情報を一時的に格納する格納部22、CPU19の制御の下で各種駆動部を駆動するドライバ回路23、外部の各種センサと信号の入出力を行うI/Oポート24で構成される。
【0047】
以下、監視部8が洗浄液5の吐出状態を湿度に基づいて監視する制御フローについて、図7に示すフローチャート図に基づいて説明する。なお、以下の説明中で引用される各部材については、適宜、図1〜3を併せて参照されたい。
【0048】
図7に示されるように、洗浄処理の要求がなされると、監視部8はアーム駆動モータ11を駆動させて洗浄ノズル6を基板2の中心に位置させる。このとき、マウント昇降モータ14も併せて駆動させられ、洗浄ノズル6は基板2の表面と湿度センサ7との間の距離Hが2cmとなるように、基板2の表面に対する高さが調整される(ステップ1)。
【0049】
ステップ1で洗浄ノズル6を基板2の中心に位置させると、監視部8は回転駆動部9を駆動させて回転テーブル3を所定の回転数で回転させる(ステップ2)。
ステップ2で回転テーブル3を所定の回転数で回転させると、監視部8は洗浄ノズル6の超音波発振子4を作動させつつ洗浄液5を基板2の表面に向かって所定の吐出圧力で吐出させる(ステップ3)。
ステップ3で洗浄ノズル6から洗浄液5を吐出させると、監視部8は湿度センサ7に湿度を測定させ、測定された湿度の値を湿度情報として格納部22に格納する(ステップ4)。
【0050】
ステップ4で湿度情報を格納部22に格納すると、監視部8は格納された湿度情報の値が所定の範囲に収まっているか否かを判断する(ステップ5)。
なお、ここで所定の範囲とは、超音波発振子4が正常に作動し、かつ、所定の吐出圧力で洗浄液5が吐出される正常稼働時に測定される湿度に基づいて予め設定された許容上限値と許容下限値である。
【0051】
ステップ5で湿度情報の値が所定の範囲に収まっていると判断すると、監視部8は、超音波発振子4の作動状態と洗浄液5の吐出圧力のいずれにも異常が生じていないと判断し、基板2の中心と外縁との間で洗浄ノズル6を所定の速度で基板2の表面に沿って1往復させる(ステップ6)。
一方、湿度情報の値が閾値の範囲に収まっていないと判断すると、監視部8は、超音波発振子4の作動状況と洗浄液4の吐出圧力のいずれかまたは双方に何らかの異常が生じたと判断して洗浄処理を中止し(ステップ10)、一連のフローを終了する。
【0052】
ステップ6で洗浄ノズル6を1往復させ、洗浄ノズル6が基板2の中心に戻ってくると、監視部8は基板2の洗浄処理が完了したか否かを判断し(ステップ7)、完了していないと判断するとステップ4に戻って再び湿度センサ7に湿度を測定させる。
一方、洗浄処理が完了したと判断すると、超音波発振子4の作動を停止させると共に洗浄液5の吐出を停止させ(ステップ8)、回転テーブル3の回転を停止させ(ステップ9)、一連のフローを終了する。
【0053】
以上の制御フローでは、洗浄ノズル6を1往復させる度に基板2の中心で湿度を測定し、測定された湿度が所定の範囲に収まっているかを判断することにより、超音波発振子4の作動状況と洗浄液5の吐出圧力を含む洗浄液5の吐出状態を監視するが、同じ位置で時間間隔を空けて測定された湿度から湿度の変化率を求め、当該変化率を所定の閾値と比較することにより洗浄液4の吐出状態の監視を行ってもよい。
【0054】
また、本実施形態では洗浄液として純水を用いた例を説明したが、必ずしも純水に限定されるものではなく、水酸化アンモニウム・過酸化水素含有水、塩化水素・過酸化水素含有水、硫酸と過酸化水素の混合溶液、フッ化水素・過酸化水素含有水、フッ化水素含有水、フッ化水素・フッ化アンモニウム含有水など様々な洗浄液を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】この発明の実施形態に係る超音波洗浄装置の説明図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】この発明の実施形態に係る超音波洗浄装置の洗浄ノズルの構成を示す説明図である。
【図4】基板の中心と湿度センサとの間の基板表面に沿った距離と湿度の変化量との関係を示すグラフ図である。
【図5】基板の表面と湿度センサとの間の鉛直方向の距離と湿度の変化量との関係を示すグラフ図である。
【図6】この発明の実施形態に係る超音波洗浄装置の監視部の構成を示すブロック図である。
【図7】この発明の実施形態において監視部が行う制御フローを示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0056】
1・・・超音波洗浄装置
2・・・基板
3・・・回転テーブル
4・・・超音波発振子
5・・・洗浄液
5a・・・水煙
6・・・洗浄ノズル
6a・・・導入口
6b・・・吐出口
7・・・湿度センサ
8・・・監視部
9・・・回転駆動部
10・・・回転シャフト
11・・・アーム駆動モータ
12・・・アーム
13・・・マウント
14・・・マウント昇降モータ
15・・・発振電源
16・・・ポンプ
17・・・電磁バルブ
18・・・洗浄液タンク
19・・・CPU
20・・・ROM
21・・・RAM
22・・・格納部
23・・・ドライバ回路
24・・・I/Oポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄すべき基板を搭載して回転する回転テーブルと、超音波発振子を有し超音波が印加された洗浄液を吐出して基板の洗浄処理を行う洗浄ノズルと、洗浄ノズル近傍の湿度を測定する湿度センサと、湿度センサによって測定される湿度を監視する監視部とを備える超音波洗浄装置。
【請求項2】
監視部は、測定された湿度が所定の範囲に収まらないときに洗浄ノズルの吐出を中止する請求項1に記載の超音波洗浄装置。
【請求項3】
監視部は、湿度の時間的変化率を求め、前記変化率が所定の閾値を超えるときに洗浄ノズルの吐出を中止する請求項1に記載の超音波洗浄装置。
【請求項4】
基板上で洗浄ノズルを基板表面に沿って移動させるアームをさらに備え、監視部は、洗浄ノズルが回転テーブルの軸心から所定の範囲内に位置するときに測定された湿度を監視する請求項1〜3のいずれか1つに記載の超音波洗浄装置。
【請求項5】
基板が実質的に円盤状であるとき、基板はその中心が回転テーブルの軸心と一致するように回転テーブルに搭載され、アームは基板の中心と外縁との間で洗浄ノズルを往復移動させ、監視部は洗浄ノズルが基板の中心に位置するときに測定された湿度を監視する請求項4に記載の超音波洗浄装置。
【請求項6】
湿度センサが洗浄ノズルに装着されてなる請求項1〜5のいずれか1つに記載の超音波洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−311358(P2008−311358A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156513(P2007−156513)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】