説明

車両のトランスミッションの切替過程中に牽引力に影響を与えるための方法及び装置

【課題】異なる車軸に作用する複数の駆動システムを備えた車両における切替の快適性を向上させる。
【解決手段】少なくとも2つの駆動車軸を有する車両のトランスミッションの切替過程中に牽引力に影響を与えるための装置及び方法に関する。第1の車軸の駆動システムが、トランスミッションの切替過程時に第2の車軸で生じる牽引力の中断を少なくとも部分的に補償するように制御され、第2の駆動車軸における有効トルクの変更が、できるだけ牽引力の下降及び上昇なしに、特にこれに伴い感じられる衝撃なしに行われることを保証するために、切替の希望に応じてクラッチの制御を遅らせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項の上位概念に記載した特徴を有する、車両のトランスミッションの切替過程中に牽引力に影響を与えるための方法若しくは装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの車両が2つの車軸を備えており、だいたいが一方の車軸しか駆動されない。この車軸は、トランスミッションとクラッチとによって多重に内燃機関に連結されている。トランスミッションはしばしば、無負荷で切り替えられなければならないという特性を有している。このために、内燃機関のクラッチを開くことにより、他のパワートレインから分離される。クラッチが開かれている間、それ以上、牽引力を伝達することはできない。従って、トランスミッションの切替過程中には牽引力の中断が生じる。牽引力は、F=m×aであるので、生じる車両加速度に関する直接的な値である。従って牽引力の急激な変化は常に、車両加速度の急激な変化となる。車力加速度の急激な低下及び上昇は車両内部の乗員には衝撃と感じられる。特許文献1により、公知のハイブリッド自動車駆動装置では、一方の駆動車軸の両輪が内燃機関によって、可変の変速比を有する変速ギアを介して駆動されていて、他方の駆動車軸の車輪は単数又は複数の電気機械によって駆動されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許発明第3542059号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、車両におけるトランスミッションの切替過程中に牽引力に影響を与えるための方法若しくは装置に関する。
【0005】
本発明の課題は、異なる車軸に作用する複数の駆動システムを備えた車両における切替の快適性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これは、切替過程中にクラッチの開放により、一方の駆動システムが一方の駆動車軸から分離されている場合に生じる牽引力の中断を少なくとも部分的に補償することにより行われる。このために、本発明による装置によって、他方の車軸における駆動システムが、牽引力の中断を少なくとも部分的に補償するように制御される。通常、作用する牽引力は、切替過程の前後で異なる高さである。高いギアへの切替の際には、高いギアにおける伝動装置の変速比が小さいので、切替過程の直前では、切替過程の直後よりも高い牽引力が作用する。相応に、低いギアへの切替の際には、切替後には切替前よりも大きな牽引力が作用する。切替前後の牽引力の各値は、以降、牽引力レベルと記載する。
【0007】
従って、本発明による装置によって、牽引力の中断が少なくとも部分的に補償されるだけではなく、切替前の牽引力レベルから、切替後の牽引力レベルへの移行も実現される。
【0008】
従属請求項に記載した手段により、独立請求項に記載した装置の有利な別の構成及び改良形が得られる。
【0009】
有利には、切替過程中の牽引力の経過を設定することができる。従って例えば、運転者の希望、例えば、アクセルペダルを介して要求される車両の加速のためのトルクを、ダイレクトに置き換えることができる。
【0010】
本発明の別の有利な構成では、制御が、車両が高加速するように行われる。これにより例えば、高速になるまでの加速期間が短縮される。
【0011】
本発明の別の有利な構成では、両牽引力レベル間の牽引力経過の上昇を低減することにより、切替過程中に、牽引力の中断により生じる車両速度の低下及びこれに続く上昇、特にこれに伴う知覚される衝撃を低減することができる。
【0012】
特に有利には、切替過程中の牽引力の経過は、車両加速度の変更のための限界値が超過されないように制御される。
【0013】
本発明の別の有利な構成では、切替過程中も牽引力の経過は、運転者の希望に応じて行われる。従って、例えば、切替過程中であっても、車両加速度は、運転者の希望に応じて調節することができる。
【0014】
切替過程前後の牽引力レベルの調節のために必要な駆動システムのトルクは、実際には、例えば駆動システムにおける無駄時間により、ある程度の時間的な遅延をもって調節される。従って本発明の別の有利な構成では、切替の希望に応じたクラッチの制御が相応に遅延されて行われ、これにより、相応のトルクの変更、又は2つの駆動車軸に作用するトルクの変化が、できるだけ車両加速度の低下及び上昇なしに、特に、これに伴う知覚される衝撃なしに行われることが保証される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】車両におけるトランスミッションの切替過程中に牽引力に影響を与えるための装置を示した図である。
【図2】車両における切替過程中に牽引力の中断を少なくとも部分的に補償するための方法を示した図である。
【図3】補償なしに行われる切替中の牽引力経過を示した図である。
【図4】補償ありで行われる切替中の牽引力経過を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に本発明の実施例を図面につき詳しく説明する。
【0017】
<発明の構成>
図1には、車両101におけるトランスミッション102の切替過程中の牽引力に影響を与えるための装置105が示されている。この車両のためには2つの駆動車軸103,104が設けられている。駆動車軸103のためには駆動システム106が設けられている。駆動システム106はこの実施例では電気機械として構成されている。駆動車軸104のためには駆動システム107が設けられている。この駆動システム107は、この実施例では、内燃機関108とトランスミッション102とから成っている。制御装置105はそれぞれ駆動システム106,107とに電気的に接続されているので、双方向のデータ及び信号伝達が可能である。
【0018】
図2には、車両における切替過程中の牽引力の中断を少なくとも部分的に補償するための方法が示されている。方法ステップ202では、切替過程が行われるかどうかがチェックされる。切替過程を行わない場合には、方法ステップ204で方法が終了される。切替過程を行う場合には、方法ステップ203へと進む。方法ステップ203では、
・実際の牽引力を検出し、
・切替過程後の牽引力を算出し、
・実際の牽引力から切替過程後の牽引力への移行のための牽引力経過を算出する。
切替過程中、別の駆動装置を起動制御して、算出された牽引力経過に基づき、切替過程によって生じる牽引力の中断を補償する。切替過程の終了後、方法ステップ204で方法を終了する。上記ステップは周期的に繰り返され、処理される。
【0019】
図3には、補償を行わない切替過程中の牽引力経過が示されている。この図では牽引力が時間に関して示されている。切替過程の開始前、牽引力は高レベルである。切替過程中、駆動システムはクラッチによって駆動車軸から分離されるので、牽引力はもはや伝達できない。切替過程終了後にクラッチは再び連結され、実際のトルク及び伝達装置の変速に応じて、牽引力が再び作用する。
【0020】
以下に符号の説明をする。
・M_prim:プライマリドライブの有効モーメント
・M_sec:セカンダリドライブの有効モーメント
・i_prim_old:切替前の実効変速比
・i_prim_new:切替後の実効変速比
・i_sec:セカンダリドライブの実効変速比
・F:生じる牽引力
牽引力は一般的に、
・F=M_prim× i_prim+M_sec× i_sec
である。切替中、連結は解除され、プライマリドライブを介して牽引力を伝えることができない。この場合、
・F=M_sec×i_sec
である。有効モーメントは運転者の希望によって規定される。最も簡単な場合、牽引力は、プライマリドライブによってのみもたらされ、セカンダリドライブは関与しない。同様に、切替時間中は、一定の運転者の希望、ひいては一定のプライマリドライブモーメントを前提としている。切替による変速比の変更は、切替前と後の牽引力の変化を引き起こす。切替前の状態は、
・F_old=M_prim×i_prim_old
である。切替後の状態は、
・F_new=M_prim×i_prim_new
である。切替中の状態は、
・F_shift=M_sec×i_sec
である。セカンダリドライブのモーメントM_secを適当に選択することにより、切替中の牽引力F_shiftに影響を与えることができる。切替中に、牽引力F_oldを完全に補償するためには、
・F_shift=F_oldであり、従って、M_sec=M_prim×i_prim_old/i_sec
である。切替にかかる時間t_shiftがわかっているならば、セカンダリドライブのモーメントM_secも、F_oldとF_newとの間のできるだけ直線的な移行が得られるように選択することができる。即ち、
・F_shift(t)=F_old+t×(F_new−F_old)/t_shift
これによりM_secも算出することができる。
・M_sec(t)=M_prim×(i_prim_old+t/t_shift×(i_prim_new−i_prim_old))/i_sec
図4には、補償を行う切替過程中の牽引力経過が示されている。この図では、牽引力が時間に関して示されている。実線では、トランスミッションが取り付けられている車軸における牽引力経過が示されている。切替過程中はこの軸に牽引力を伝えることはできない。この経過は、図3の経過と比較可能である。点線では、別の駆動システムが作用する別の車軸における牽引力経過が示されている。切替過程中、これにより牽引力は少なくとも部分的に補償される。切替過程前の高レベルの牽引力から、切替過程後の低レベルの牽引力への移行は、第2の駆動システムの起動制御により得られる。第2の駆動システムの起動制御に応じて、飛躍的な、又は直線的な、又は自由に選択可能な移行を実現できる。
【符号の説明】
【0021】
101 車両
102 トランスミッション
103 第1の車軸
104 第2の車軸
105 装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(101)のトランスミッション(102)の切替過程中に牽引力に影響を与えるための装置(105)であって、
・少なくとも2つの駆動車軸(103,104)と、
・少なくとも1つのトランスミッション(102)とを有している形式のものにおいて、
・第1の車軸(103)の駆動システム(106)が切替過程中に、トランスミッション(102)の切替過程時に第2の車軸(104)で生じる牽引力の中断を少なくとも部分的に補償するように制御され、
第2の駆動車軸における有効トルクの変更が、できるだけ牽引力の下降及び上昇なしに、特にこれに伴い感じられる衝撃なしに行われることを保証するために、切替の希望に応じてクラッチの制御を遅らせることを特徴とする、車両(101)のトランスミッション(102)の切替過程中に牽引力に影響を与えるための装置(105)。
【請求項2】
第1の車軸の駆動システムが切替過程中に、切替過程中の牽引力の経過が設定されたように行われるように制御される、請求項1記載の装置。
【請求項3】
第1の車軸の駆動システムが切替過程中に、高い牽引力が得られるように制御される、請求項1記載の装置。
【請求項4】
第1の車軸の駆動システムが切替過程中に、牽引力の低下及び上昇が僅かであるように、特に切替衝撃が僅かであるように制御される、請求項1又は2記載の装置。
【請求項5】
切替過程中の牽引力の経過が、牽引力を変更するための限界値が超過されないように行われる、請求項1又は2記載の装置。
【請求項6】
牽引力の経過が、運転者の希望に応じて行われ、特に、切替過程中の運転者の希望が検出されるようになっている、請求項1又は2記載の装置。
【請求項7】
・少なくとも2つの駆動車軸と、
・少なくとも1つのトランスミッション
とを備えた車両において切替過程中の牽引力の中断を少なくとも部分的に補償するための方法であって、
第1の車軸の駆動システムを、トランスミッションの切替過程(202)で第2の車軸に生じる牽引力の中断が、少なくとも部分的に補償される(203)ように制御し、
第2の駆動車軸における有効トルクの変更が、できるだけ牽引力の下降及び上昇なしに、特にこれに伴い感じられる衝撃なしに行われることを保証するために、切替の希望に応じてクラッチの制御を遅らせることを特徴とする、車両における切替過程中に牽引力の中断を少なくとも部分的に補償するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−158325(P2012−158325A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−46968(P2012−46968)
【出願日】平成24年3月2日(2012.3.2)
【分割の表示】特願2010−524474(P2010−524474)の分割
【原出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】