説明

車両のブレーキ制御装置

【課題】車両旋回時の車体の姿勢変化を早期に検知して姿勢変化を早期に抑制することによって車両の走行安定性を高めることができる車両のブレーキ制御装置を提供すること。
【解決手段】車輪速センサ17によって検出される各車輪5L,5R,6L,6Rの速度と操舵角センサ21によって検出された操舵角に基づいて算出される目標ヨーレートとヨーレートセンサ20によって検出される実ヨーレートとの偏差が閾値を超えるとオーバーステアと判断して旋回外側の駆動輪(前輪5L,5R))にアクティブブレーキを掛けることによって旋回時の車体の姿勢変化を抑制するスタビリティ制御を行う車両のブレーキ制御装置(ECU16)において、旋回内側の非駆動輪(後輪6L,6R)の浮き上がりが検出されると、前記スタビリティ制御を開始する目標ヨーレートと実ヨーレートとの偏差の閾値を小さい値に変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両旋回時にオーバーステアが発生すると旋回外側の駆動輪にアクティブブレーキを掛けて旋回時の車体の姿勢変化を抑制するスタビリティ制御を行う車両のブレーキ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
重心が高い車両やスタビライザを備えていない車両等は、旋回時に車体のロールが大きくなり易い。
【0003】
そこで、車輪速センサによって検出される各車輪の速度と舵角センサによって検出される操舵角に基づいて算出される目標ヨーレートとヨーレートセンサによって検出される実ヨーレートとの偏差が閾値を超えるとオーバーステアと判断して旋回外側の駆動輪にアクティブブレーキを掛けることによって旋回時の車体の姿勢変化を抑制するスタビリティ制御を行うようにしている。
【0004】
特許文献1には、車両の急旋回時の左右の駆動輪の車輪の速度変化から旋回内側の駆動輪に空転傾向が発生したことを検知し、積載重量、乗員数、車種に関わらず高い精度で車両の横転傾向を判定する提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−254992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、スタビリティ制御を行う車両であっても、急激なオーバーステア状態では、スタビリティ制御の開始が遅れたり、アクティブブレーキ力が不足し、車体の姿勢変化を効果的に抑制することができない可能性がある。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、車両旋回時の車体の姿勢変化を早期に検知して姿勢変化を早期に抑制することによって車両の走行安定性を高めることができる車両のブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、車輪速センサによって検出される各車輪の速度と操舵角センサによって検出された操舵角に基づいて算出される目標ヨーレートとヨーレートセンサによって検出される実ヨーレートとの偏差が閾値を超えるとオーバーステアと判断して旋回外側の駆動輪にアクティブブレーキを掛けることによって旋回時の車体の姿勢変化を抑制するスタビリティ制御を行う車両のブレーキ制御装置において、旋回内側の非駆動輪の浮き上がりが検出されると、前記スタビリティ制御を開始する目標ヨーレートと実ヨーレートとの偏差の閾値を小さい値に変更することを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記車輪速センサによって検出される旋回内側の非駆動輪の速度変化と他の車輪の速度変化とを比較し、両者の差が閾値以上のときに旋回内側の非駆動輪に浮き上がりが発生したものと判断することを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、後輪が非駆動輪であることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3の何れかに記載の発明において、前記スタビリティ制御を開始する目標ヨーレートと実ヨーレートとの偏差の閾値を小さい値に変更したときには、通常のスタビリティ制御におけるアクティブブレーキよりも大きなアクティブブレーキ力(制動力)を旋回外側の駆動輪に掛けることを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4の何れかに記載の発明において、前記車輪速センサの検出値によって算出される車速と横Gセンサによって検出される横G及び前記舵角センサによって検出される操舵角が各設定値を超え、且つ、アクセル開度センサによって検出されるアクセル開度が0である場合に旋回内側の非駆動輪の浮き上がりを検出すると、前記スタビリティ制御を開始する目標ヨーレートと実ヨーレートとの偏差の閾値を小さい値に変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、旋回内側の非駆動輪の浮き上がりが検出されると、スタビリティ制御を開始する目標ヨーレートと実ヨーレートとの偏差の閾値を小さい値に変更してスタビリティ制御を早期に開始するようにしたため、急激なオーバーステア状態であっても車体の姿勢変化を早期に抑制して車両の走行安定性を高めることができる。そして、このような効果はスタビリティ制御を開始する目標ヨーレートと実ヨーレートとの偏差の閾値を変更するだけで簡単に得られ、制御の変更が少なく、部品の追加も不要であるため、コストアップを招くことがない。
【0014】
請求項2記載の発明によれば、車輪速センサによって検出される旋回内側の非駆動輪の速度変化と他の車輪の速度変化とを比較することによって、旋回内側の非駆動輪の浮き上がりを容易且つ確実に検出することができる。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、駆動軸に接続されていないために旋回内側と外側とで速度差が顕著に現れる後輪の速度差によって旋回内側の後輪の浮き上がりを容易且つ確実に検出することができる。
【0016】
請求項4記載の発明によれば、スタビリティ制御を開始する目標ヨーレートと実ヨーレートとの偏差の閾値を小さい値に変更してスタビリティ制御を早期に開始したときには、通常のスタビリティ制御におけるアクティブブレーキよりも大きなアクティブブレーキ力(制動力)を旋回外側の駆動輪に掛けるようにしたため、旋回方向とは逆方向の大きな力が車体に作用して車両の挙動を戻そうとする。この結果、旋回時の車体の姿勢変化が一層確実に抑制される。
【0017】
請求項5記載の発明によれば、スタビリティ制御を開始する目標ヨーレートと実ヨーレートとの偏差の閾値を小さい値に変更してスタビリティ制御を早期に行うための条件に、車速と横G及び操舵角が各設定値を超え、且つ、アクセル開度が0である(アクセル操作をしていない)こと、つまり、車両のロールが大きくなる可能性が高い条件を加えたため、スタビリティ制御を早期に開始して車両のロールが大きくなることを確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るブレーキ制御装置を含む車両のブレーキ系の構成図である。
【図2】本発明に係るブレーキ制御装置によって制御される液圧制御ユニットの回路図である。
【図3】左旋回している車両の走行軌道を示す平面図である。
【図4】左旋回している車両の平面図である。
【図5】本発明に係るブレーキ制御装置によるスタビリティ制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は本発明に係るブレーキ制御装置を含む車両のブレーキ系の構成図であり、図示のブレーキ装置1は、上端を中心として車両前後方向に揺動するブレーキペダル2を備えており、このブレーキペダル2は、ブレーキ操作時の運転者の踏力を軽減するためのブレーキブースタ3を介してマスタシリンダ4に連結されており、マスタシリンダ4は、運転者によるブレーキペダル2の踏み込み量に応じたブレーキ液圧を発生する。
【0021】
ところで、本実施の形態に係る車両は前輪駆動車(FF車)であって、左右の前輪5L,5Rが駆動輪、左右の後輪6L,6Rが非駆動輪(従動輪)であって、各前輪5L,5Rと各後輪6L,6Rにはディスクブレーキ7がそれぞれ設けられており、各ディスクブレーキ7は、ディスクロータ7aと該ディスクロータ7aの両面を挟持可能なキャリパ7bによって構成されている。そして、それぞれのディスクブレーキ7の各キャリパ7bはブレーキ配管ライン8,9,10,11と液圧制御ユニット12及び該液圧制御ユニット12から延びるブレーキ配管13,14を介して前記マスタシリンダ4に接続されている。
【0022】
上記液圧制御ユニット12は、運転者によるブレーキペダル2の踏み込みによるブレーキ操作とは無関係にブレーキ液圧を発生させて所望のディスクブレーキ7を作動させる(アクティブブレーキ)ことができるものであって、これには後述の各種バルブv1〜v12や油圧を発生させるポンプ23,24(図2参照)が設けられており、各種バルブv1〜v12及びポンプ23,24を駆動するポンプモータ15はコントロールユニット(以下、「ECU」と称する)16によって制御される。尚、液圧制御ユニット12の構成の詳細は後述する。
【0023】
上記ECU16は、本発明に係るブレーキ制御装置を構成するものであって、このECU16には、前輪5L,5Rと後輪6L,6Rにそれぞれ設けられた車輪速センサ17、外気温を検出する外気温センサ18、車体に作用する横Gを検出する横Gセンサ19、車体のヨーレートを検出するヨーレートセンサ20、ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサ21、マスタシリンダ4の圧力を検出する圧力センサ22等が電気的に接続されている。
【0024】
次に、前記液圧制御ユニット12の構成の詳細を図2に基づいて説明する。
【0025】
図2は液圧制御ユニット12の回路図であり、図示の液圧制御ユニット12は、前記ポンプモータ15によって駆動される2つのポンプ23,24を備えており、一方のポンプ23の吸入側にはリザーバ25から延びる液圧ライン26が接続され、前記マスタシリンダ4から延びる一方のブレーキ配管13はポンプ23の吐出側に接続されている。そして、液圧ライン26にはポンプ23側への流動のみ許容するチェックバルブ27が設けられており、ブレーキ配管13には、ポンプ23側からの流動のみ許容するチェックバルブ28と第1カットバルブv1が設けられている。又、ブレーキ配管13に第1カットバルブv1をバイパスして接続されたバイパスライン29にはマスタシリンダ4側への流動のみ許容するリターンチェックバルブ30が設けられている。
【0026】
そして、ブレーキ配管13のマスタシリンダ4と第1カットバルブv1の間から分岐する液圧ライン31には前記圧力センサ22が接続されており、液圧ライン31から分岐する液圧ライン32は液圧ライン26のチェックバルブ27とリザーバ25の間に接続されており、この液圧ライン32には第1蓄圧バルブv2が設けられている。
【0027】
更に、ブレーキ配管13の第1カットバルブv1とチェックバルブ28の間から分岐して前記リザーバ25に接続された液圧ライン33にはFL保持バルブv3とFL減圧バルブv4が直列に設けられており、液圧ライン33に並列に接続された液圧ライン34にはRR保持バルブv5とRR減圧バルブv6が直列に設けられている。そして、液圧ライン33のFL保持バルブv3とFL減圧バルブv4の間からは前記ブレーキ配管8(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管8は左前輪(FL)5Lのディスクブレーキ7のキャリパ7bに接続されている(図1参照)。
これらの構成によって、ポンプ23にて発生されたブレーキ液圧を左前輪(FL)5Lのディスクブレーキ7に作用させるとともに、FL保持バルブv3とFL減圧バルブv4によって左前輪(FL)5Lに作用するブレーキ液圧を調整することができる。又、液圧ライン34のRR保持バルブv5とRR減圧バルブv6の間からは前記ブレーキ配管11(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管11は右後輪(RR)6Rのディスクブレーキ7のキャリパ7bに接続されている(図1参照)。これらの構成によって、ポンプ23にて発生されたブレーキ液圧を右後輪(RR)6Rのディスクブレーキ7に作用させるとともに、RR保持バルブv5とRR減圧バルブv6によって右後輪(RR)6Rに作用するブレーキ液圧を調整することができる。
【0028】
他方、他方のポンプ24の吸入側にはリザーバ35から延びる液圧ライン36が接続され、前記マスタシリンダ4から延びる他方のブレーキ配管14はポンプ24の吐出側に接続されている。そして、液圧ライン36にはポンプ24側への流動のみ許容するチェックバルブ37が設けられており、ブレーキ配管14には、ポンプ24側からの流動のみ許容するチェックバルブ38と第2カットバルブv7が設けられている。又、ブレーキ配管14に第2カットバルブv7をバイパスして接続されたバイパスライン39にはマスタシリンダ4側への流動のみ許容するリターンチェックバルブ40が設けられている。
【0029】
そして、ブレーキ配管14のマスタシリンダ4と第2カットバルブv7の間から分岐する液圧ライン41は前記液圧ライン36のチェックバルブ37とリザーバ35の間に接続されており、該液圧ライン41には第2蓄圧バルブv8が設けられている。
【0030】
更に、ブレーキ配管14の第2カットバルブv7とチェックバルブ38の間から分岐して前記リザーバ35に接続された液圧ライン42にはFR保持バルブv9とFR減圧バルブv10が直列に設けられており、液圧ライン42に並列に接続された液圧ライン43にはRL保持バルブv11とRL減圧バルブv12が直列に設けられている。そして、液圧ライン42のFR保持バルブv9とFR減圧バルブv10の間からは前記ブレーキ配管9(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管9は右前輪(FR)5Rのディスクブレーキ7のキャリパ7bに接続されている(図1参照)。これらの構成によって、ポンプ24にて発生されたブレーキ液圧を右前輪(FR)5Rのディスクブレーキ7に作用させるとともに、FR保持バルブv9とFR減圧バルブv10によって右前輪(FR)5Rに作用するブレーキ液圧を調整することができる。又、液圧ライン43のRL保持バルブv11とRL減圧バルブv12の間からは前記ブレーキ配管10(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管10は左後輪(RL)6Lのディスクブレーキ7のキャリパ7bに接続されている(図1参照)。これらの構成によって、ポンプ24にて発生されたブレーキ液圧を左後輪(RL)6Lのディスクブレーキ7に作用させるとともに、RL保持バルブv11とRL減圧バルブv12によって右前輪(FR)5Rに作用するブレーキ液圧を調整することができる。
【0031】
而して、以上のような回路構成を備えた液圧制御ユニット12はECU16によって制御されるが、以下、その制御の一例として車両が左旋回する場合のスタビリティ制御について図3〜図5を参照しながら以下に説明する。
【0032】
図3は左旋回している車両の走行軌道を示す平面図、図4は左旋回している車両の平面図、図5は本発明に係るブレーキ制御装置によるスタビリティ制御手順を示すフローチャートである。
【0033】
運転者が左カーブを曲がるためにステアリングハンドル50(図4参照)を左に操舵すると(図5のステップS1)、ECU16は、各車輪速センサ17によって検出される前輪5L,5Rと後輪6L,6Rの各回転速度と操舵角センサ21によって検出されるステアリングホイール50の操舵角から運転者が意図する目標ヨーレート(回転方向の加速度)を算出する。そして、ECU16は、ヨーレートセンサ20によって検出される実ヨーレート(実際の車両に発生している旋回方向への回転角の変化する速度)と目標ヨーレート(運転者の操作等から推定される運転者が要望する車両の旋回方向への回転角の変化する速度)とを比較するが、図3に破線にて示すように左カーブで車両Wの前部がカーブの内側に入り込む状態(所謂オーバーステアの状態)又は車両Wの後部が外側(右側)に流れ始めた場合には、実ヨーレート>目標ヨーレートの関係が成立する。
【0034】
そこで、ECU16は、通常のスタビリティ制御とは別に、実ヨーレートと目標ヨーレートとの偏差が所定の閾値(通常のスタビリティ制御を開始する閾値よりも小さな偏差となる閾値)を超えたか否かを判定し(ステップS2)、偏差が閾値を超えると(ステップS2での判定結果がYesであると)、車両Wの状態が左旋回オーバーステアの傾向であると判断し、次に旋回内側(左側)の非駆動輪である左後輪6Lに浮き上がりが発生したか否かを判定する(ステップS3)。ここで、旋回内側の左後輪6Lの浮き上がりの判定においては、車輪速センサ17によって検出される左後輪6Lの速度変化と右後輪6Rの速度変化とを比較し、両者の差が閾値以上のときに左後輪6Lに浮き上がりが発生したものとする。この場合、非駆動輪である後輪6L,6Rは駆動軸に接続されていないために両者の速度差が顕著に現れ、両者の速度差によって左後輪6Lの浮き上がりを容易且つ確実に検出することができる。尚、図5には、説明の便宜上「通常のスタビリティ制御」(ステップS10)を記載してあるが、「通常のスタビリティ制御」は図5で説明する本発明の制御とは別の制御にて制御作動されるものである。
【0035】
そして、左後輪6Lに浮き上がりが発生していない場合(ステップS3での判断結果がNoである場合には)、本発明のスタビリティ制御を開始する必要がないと判断して通常のスタビリティ制御のままとし(ステップS10)、通常の閾値を用いた通常のスタビリティ制御を行うべく処理が終了し、ステップS2に戻って発明の制御が繰り返される(ステップS11)。即ち、その後も左後輪6Lに浮き上がりが発生せず、通常の閾値に達した場合、ECU16は、図2に示すように第2カットバルブv7とRL保持バルブv11FRを閉じるとともに、第2蓄圧バルブv8とFR保持バルブv9を開く。するとポンプモータ15によるポンプ24の駆動によって発生した液圧は、図2に太線にて示す経路を経て右前輪5Rのディスクブレーキ7のキャリパ7bに供給されるため、この右前輪5Rにアクティブブレーキが掛かり、図4に示すように車両Wに外向きのモーメント(旋回方向と逆方向のモーメント)が発生するため、実ヨーレートが減少し、車両Wの前部がカーブの内側に入り込む状態(所謂オーバーステアの状態)又は車両Wの後部が外側に流れる軌道が修正され、図3に実線にて示すように車両Wが大きな姿勢変化を起こすことなく左カーブを安定して旋回することができる。
【0036】
他方、左後輪6Lに浮き上がりが発生していると(ステップS3での判断結果がYesであると)、車両Wの状態を確認するために次の判定処理がなされる。即ち、車速が75km/h以上であるか否か(ステップS4)、横G(車両の横方向の加速度)が0.6G以上であるか否か(ステップS5)、操舵角が90°以上であるか否か(ステップS6)及びアクセル開度が0%以上であるか否か(ステップS7)がそれぞれ判定され、それらの全てが満足されると(ステップS4〜S7の判定結果が全てYesであると)、車両Wに対してスタビリティ制御が必要となる可能性が高いと判断されて、スタビリティ制御を開始する目標ヨーレートと実ヨーレートとの偏差の閾値が通常よりも小さい値に変更され(ステップS8)、スタビリティ制御が通常よりも早く開始(早期のスタビリティ制御の実行)され(ステップS9)、処理が終了する。ここで、スタビリティ制御を開始する目標ヨーレートと実ヨーレートとの偏差の閾値を小さい値に変更してスタビリティ制御を早期に開始したときには、通常のスタビリティ制御におけるアクティブブレーキよりも大きなアクティブブレーキ力(制動力)が旋回外側の右前輪5Rに掛けられる。このため、旋回方向とは逆方向の大きな力が車体に作用して車両Wの挙動を戻そうとするモーメントが大きくなり、旋回時の車体の姿勢変化が一層確実に抑制される。
【0037】
これに対して、ステップS4〜S7の判定のうちの少なくとも1つがNoである場合には、車両Wに対してスタビリティ制御が必要となる可能性が低いものとして通常のスタビリティ制御が実施され(ステップS10)、通常の閾値を用いた通常のスタビリティ制御を行うべく処理が終了する(ステップS11)。
【0038】
以上のように、本実施の形態では、車両Wの旋回時に旋回内側の非駆動輪である左後輪6L又は右後輪6Rの浮き上がりが検出されると、スタビリティ制御を開始する目標ヨーレートと実ヨーレートとの偏差の閾値を小さい値に変更してスタビリティ制御を早期に開始するようにしたため、急激にオーバーステア状態となる場合であっても車体の姿勢変化を早期に抑制して車両Wの走行安定性を高めることができる。そして、このような効果はスタビリティ制御を開始する目標ヨーレートと実ヨーレートとの偏差の閾値を変更するだけで簡単に得られ、制御の変更が少なく、部品の追加も不要であるため、コストアップを招くことがない。
【符号の説明】
【0039】
1 ブレーキ装置
2 ブレーキペダル
3 ブレーキブースタ
4 マスタシリンダ
5L,5R 前輪(駆動輪)
6L,6R 後輪(非駆動輪)
7 ディスクブレーキ
8〜11 ブレーキ配管
12 液圧制御ユニット
13,14 ブレーキ配管
15 ポンプモータ
16 ECU(ブレーキ制御装置)
17 車輪速センサ
19 横Gセンサ
20 ヨーレートセンサ
21 操舵角センサ
23,24 ポンプ
50 ステアリングホイール
W 車両


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪速センサによって検出される各車輪の速度と操舵角センサによって検出された操舵角に基づいて算出される目標ヨーレートとヨーレートセンサによって検出される実ヨーレートとの偏差が閾値を超えるとオーバーステアと判断して旋回外側の駆動輪にアクティブブレーキを掛けることによって旋回時の車体の姿勢変化を抑制するスタビリティ制御を行う車両のブレーキ制御装置において、
旋回内側の非駆動輪の浮き上がりが検出されると、前記スタビリティ制御を開始する目標ヨーレートと実ヨーレートとの偏差の閾値を小さい値に変更することを特徴とする車両のブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記車輪速センサによって検出される旋回内側の非駆動輪の速度変化と他の車輪の速度変化とを比較し、両者の差が閾値以上のときに旋回内側の非駆動輪に浮き上がりが発生したものと判断することを特徴とする請求項1記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項3】
後輪が非駆動輪であることを特徴とする請求項1又は2記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記スタビリティ制御を開始する目標ヨーレートと実ヨーレートとの偏差の閾値を小さい値に変更したときには、通常のスタビリティ制御におけるアクティブブレーキよりも大きなアクティブブレーキを旋回外側の駆動輪に掛けることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記車輪速センサの検出値によって算出される車速と横Gセンサによって検出される横G及び前記操舵角センサによって検出される操舵角が各設定値を超え、且つ、アクセル開度センサによって検出されるアクセル開度が0である場合に旋回内側の非駆動輪の浮き上がりを検出すると、前記スタビリティ制御を開始する目標ヨーレートと実ヨーレートとの偏差の閾値を小さい値に変更することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の車両のブレーキ制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−224106(P2012−224106A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90591(P2011−90591)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】