説明

車両のモータ制御装置

【課題】車両に搭載された交流モータに流れる電流を検出する電流センサのゲイン誤差の影響を補正して、電流センサの出力に基づくモータ制御精度を向上させる。
【解決手段】交流モータ13の停止中に無効電流指令を行ったときのV相及びW相の電流指令値Iv ,Iw と電流センサ58,59の出力iv ,iw とに基づいて、電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を算出するが、交流モータ13のロータ回転停止位置がIv 又はIw =0となる回転位置の場合には、交流モータ13の停止中でロック機構がロック状態のときにトルク発生電流指令を行い、このトルク発生電流指令を行ったときの電流指令値Iv ,Iw と電流センサ58,59の出力iv ,iw とに基づいて、電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を算出する。このゲイン誤差の比を用いて電流センサ58,59の一方の出力を補正してゲイン誤差の不均衡を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された交流モータと、該交流モータに流れる電流を検出する電流センサとを備えた車両のモータ制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
車両の動力源として交流モータを搭載した電気自動車やハイブリッド車においては、交流モータの各相のうちの少なくとも1つの相に流れる電流を検出する電流センサを設け、この電流センサの出力(電流検出値)を用いて交流モータを制御するようにしたものがあるが、一般に、電流センサの個体差(製造ばらつき)や経時変化等によって電流センサの出力に誤差(ばらつき)が生じることは避けられない。例えば、電流センサのゼロ点(実電流が0のときの電流センサの出力)は、温度の影響を受け易く、温度変化によって電流センサのゼロ点がずれることがある。
【0003】
この対策として、特許文献1(特開2005−20877号公報)に記載されているように、モータが駆動されていないときに(つまりモータに流れる実電流が0のときに)、電流センサの出力値と温度センサの検出温度との関係に基づいて電流センサのゼロ点の温度特性を学習し、モータの駆動時に、その学習結果を用いて電流センサの出力を補正するようにしたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−20877号公報(第2頁等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電流センサの出力は、ゼロ点のずれ(オフセット誤差)以外に、実電流の大きさに応じて変化するゲイン誤差の影響を受けることがある。しかし、上記特許文献1の技術は、電流センサのゼロ点のずれ(オフセット誤差)による電流検出値(電流センサの出力)のずれを補正する技術であり、電流センサのゲイン誤差による電流検出値(電流センサの出力)のずれを補正する技術ではないため、電流センサの個体差や経時変化等によって変化するゲイン誤差の影響を受けて、電流センサの出力に基づく電流検出精度やモータ制御精度が低下してしまう可能性がある。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、交流モータに流れる電流を検出する電流センサのゲイン誤差の影響を補正することができ、電流センサの出力に基づく電流検出精度又はモータ制御精度を向上させることができる車両のモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、車両に搭載された交流モータと、該交流モータに流れる電流を検出する電流センサとを備えた車両のモータ制御装置において、交流モータの動力伝達系を回転停止状態に維持するロック状態に切り換え可能なロック機構と、このロック機構がロック状態のときに交流モータにトルクを発生させる電流指令(以下「トルク発生電流指令」という)を行い、該トルク発生電流指令を行ったときの電流指令値と電流センサの出力とに基づいて該電流センサのゲイン誤差又はこれに関連性のある情報(以下これらを「ゲイン誤差情報」と総称する)を算出するゲイン誤差情報算出手段と、このゲイン誤差情報算出手段で算出したゲイン誤差情報を用いて電流センサの出力を補正するセンサ出力補正手段とを備えた構成としたものである。
【0008】
この構成では、トルク発生電流指令を行ったときの電流指令値が、交流モータに流れる実電流とほぼ等しくなると見なして、該電流指令値を実電流の代用情報として用い、該電流指令値(実電流の代用情報)と電流センサの出力(電流検出値)とからゲイン誤差情報(例えばゲイン誤差やゲイン誤差の比)を算出することで、ゲイン誤差情報を精度良く算出することができる。そして、このゲイン誤差情報を用いて電流センサの出力を補正することで、電流センサのゲイン誤差の影響を補正することができ、電流センサの出力に基づく電流検出精度やモータ制御精度を向上させることができる。
【0009】
ここで、交流モータに流れる電流を検出する電流センサのゲイン誤差情報を算出するためには、交流モータに電流を流す必要があるが、交流モータの回転中は、ロータ回転位置(磁極位置)が変化し、それに応じて各相の電流指令値が変化して電流センサの出力が変化するため、電流指令値と電流センサの出力とからゲイン誤差情報を精度良く算出できない可能性がある。
【0010】
そこで、本発明は、ロック機構がロック状態(交流モータの動力伝達系を回転停止状態に維持する状態)のときにトルク発生電流指令を行うことで、交流モータをロック機構の遊びや動力伝達系のねじれ等の分だけ回転させた状態(交流モータの回転方向でロック機構の遊びが詰まった状態)で停止させてロータ回転位置を一定位置に維持することができ、電流指令値と電流センサの出力を一定値に維持できることに着目して、ロック機構がロック状態のときにトルク発生電流指令を行い、このトルク発生電流指令を行ったときの電流指令値と電流センサの出力とに基づいて電流センサのゲイン誤差情報を算出するようにしたので、交流モータのロータ回転位置を一定位置に維持して電流指令値と電流センサの出力を一定値に維持した状態で、電流指令値と電流センサの出力から電流センサのゲイン誤差情報を精度良く算出することができる。
【0011】
ところで、ロック機構がロック状態であってもトルク発生電流指令を開始した直後は、まだ交流モータがロック機構の遊びや動力伝達系のねじれ等の分だけ回転している途中の可能性がある。
【0012】
そこで、請求項2のように、交流モータのロータ回転位置を検出するロータ回転位置センサを備えたシステムでは、トルク発生電流指令を開始した後にロータ回転位置センサの出力が一定になったときにゲイン誤差情報の算出を開始するようにすると良い。つまり、トルク発生電流指令を開始した後にロータ回転位置センサの出力が一定になったときに、交流モータがロック機構の遊びや動力伝達系のねじれ等の分だけ回転した状態で停止したと判断して、ゲイン誤差情報の算出を開始する。このようにすれば、交流モータの回転が停止する前(つまり交流モータの回転中)にゲイン誤差情報の算出を開始してしまうことを防止することができ、交流モータの回転が停止してロータ回転位置が一定位置になって、電流指令値と電流センサの出力が一定値になってからゲイン誤差情報の算出を開始することができる。
【0013】
或は、請求項3のように、トルク発生電流指令を開始した後に電流センサの出力が一定になったときにゲイン誤差情報の算出を開始するようにしても良い。つまり、トルク発生電流指令を開始した後に電流センサの出力が一定になったときに、交流モータがロック機構の遊びや動力伝達系のねじれ等の分だけ回転した状態で停止したと判断して、ゲイン誤差情報の算出を開始する。このようにしても、交流モータの回転が停止する前(つまり交流モータの回転中)にゲイン誤差情報の算出を開始してしまうことを防止することができ、交流モータの回転が停止してロータ回転位置が一定位置になって、電流指令値と電流センサの出力が一定値になってからゲイン誤差情報の算出を開始することができる。
【0014】
また、請求項4のように、交流モータの各相のうちの第1の相に流れる電流を検出する第1の電流センサ及び第2の相に流れる電流を検出する第2の電流センサとを備えている場合には、トルク発生電流指令を行ったときの第1及び第2の相の電流指令値の比(第1の相の電流指令値と第2の相の電流指令値との比)と、第1及び第2の電流センサの出力の比(第1の電流センサの出力と第2の電流センサの出力との比)とに基づいて、第1及び第2の電流センサのゲイン誤差の比(第1の電流センサのゲイン誤差と第2の電流センサのゲイン誤差との比)をゲイン誤差情報として算出し、このゲイン誤差の比を用いて第1の電流センサの出力又は第2の電流センサの出力を補正するようにしても良い。
【0015】
このようにすれば、第1及び第2の相の電流指令値(実電流の代用情報)の比と、第1及び第2の電流センサの出力(電流検出値)の比とに基づいて、第1及び第2の電流センサのゲイン誤差の比を算出することで、ゲイン誤差の比を精度良く算出することができる。そして、このゲイン誤差の比を用いて第1の電流センサの出力と第2の電流センサの出力のうちの一方を補正することで、第1の電流センサと第2の電流センサのゲイン誤差の不均衡を補正することができ、第1及び第2の電流センサの出力に基づくモータ制御精度を向上させることができる。
【0016】
尚、本発明は、ゲイン誤差情報として、第1及び第2の電流センサのゲイン誤差の比を算出する構成に限定されず、トルク発生電流指令を行ったときの電流指令値(実電流の代用情報)と電流センサの出力(電流検出値)とに基づいて電流センサのゲイン誤差を算出し、このゲイン誤差を用いて電流センサの出力を補正することで、電流センサのゲイン誤差による電流検出値のずれを補正して、電流センサの出力に基づく電流検出精度やモータ制御精度を向上させるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明の実施例1におけるハイブリッド車の駆動システム全体の概略構成図である。
【図2】図2は動力伝達系の概略構成図である。
【図3】図3はロック機構及びその周辺部の斜視図である。
【図4】図4はロック機構の遊びが詰まった状態を示す図である。
【図5】図5は交流モータの制御システムの概略構成図である。
【図6】図6はゲイン誤差比算出機能を説明するブロック図である。
【図7】図7は無効電流指令時のロータ回転停止位置と各相の電流指令値との関係を示す図である。
【図8】図8はトルク発生電流指令の実行例を説明するタイムチャートである。
【図9】図9は実施例1のゲイン誤差比算出ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図10】図10はセンサ出力補正ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図11】図11は実施例2のゲイン誤差比算出ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態をハイブリッド車に適用して具体化した幾つかの実施例を説明する。
【実施例1】
【0019】
本発明の実施例1を図1乃至図10に基づいて説明する。
まず、図1乃至図4に基づいてハイブリッド車の駆動システム全体の概略構成を説明する。
図1に示すように、内燃機関であるエンジン11と第1の交流モータ12と第2の交流モータ13が搭載され、エンジン11と第2の交流モータ13が車輪14を駆動する動力源となる。エンジン11のクランク軸15の動力は、動力分割機構16で二系統に分割される。
【0020】
図2に示すように、動力分割機構16は、サンギヤ16aとピニオンギヤ16bとリングギヤ16c等からなる遊星ギヤ機構で構成されている。ピニオンギヤ16bには、キャリアを介してエンジン11のクランク軸15が連結され、サンギヤ16aには、主に発電機として使用する第1の交流モータ12の回転軸が連結されている。リングギヤ16cの動力がペラ軸17(駆動軸)に伝達され、このペラ軸17の動力がデファレンシャルギヤ機構32や車軸33等を介して車輪14に伝達される。
【0021】
また、第2の交流モータ13の回転軸は、減速ギヤ機構18を介してペラ軸17に連結されている。減速ギヤ機構18は、サンギヤ18aとピニオンギヤ18bとリングギヤ18c等からなる遊星ギヤ機構で構成されている。サンギヤ18aには、第2の交流モータ13の回転軸が連結され、リングギヤ18cの動力がペラ軸17に伝達される。この減速ギヤ機構18のリングギヤ18cには、動力分割機構16のリングギヤ16cが連結されている。
【0022】
更に、図3に示すように、動力分割機構16のリングギヤ16c(又は減速ギヤ機構18のリングギヤ18c)の外周側には、エンジン11及び第2の交流モータ13の動力伝達系を回転停止状態に維持するためのロック機構61が設けられている。このロック機構61は、動力分割機構16のリングギヤ16c(又は減速ギヤ機構18のリングギヤ18c)と一体的に回転するロックギヤ62と、このロックギヤ62の回転を阻止するためのロックポール63とを備え、例えば、車両の停車中にシフトレバーがPレンジに切り換えられたとき(或はPボタンがオンされたとき)に、図4に示すように、ロックポール63がロックギヤ62の歯と歯の間に嵌まるロック位置に移動してロックギヤ62の回転を阻止することで、動力伝達系を回転停止状態に維持するロック状態に切り換わるようになっている。
【0023】
また、図1に示すように、第1の交流モータ12と第2の交流モータ13は、パワーコントロールユニット20を介してバッテリ21に接続されている。このパワーコントロールユニット20には、第1の交流モータ12を駆動する第1のインバータ22と、第2の交流モータ13を駆動する第2のインバータ23が設けられ、各交流モータ12,13は、それぞれインバータ22,23を介してバッテリ21と電力を授受するようになっている。エンジン11には、クランク軸15が所定クランク角回転する毎にパルス信号を出力するクランク角センサ24が取り付けられ、このクランク角センサ24の出力信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度が検出される。
【0024】
ハイブリッドECU25は、ハイブリッド車全体を総合的に制御するコンピュータであり、アクセル開度(アクセルペダルの操作量)を検出するアクセルセンサ26、シフトレバーの操作位置を検出するシフトスイッチ27、ブレーキ操作を検出するブレーキスイッチ28、車速を検出する車速センサ29等の各種のセンサやスイッチの出力信号を読み込んで車両の運転状態を検出する。このハイブリッドECU25は、エンジン11の運転を制御するエンジンECU30と、第1及び第2のインバータ22,23を制御して第1及び第2の交流モータ12,13の運転を制御するMG−ECU31との間で制御信号やデータ信号を送受信し、各ECU30,31によって車両の運転状態に応じてエンジン11と第1の交流モータ12と第2の交流モータ13の運転を制御する。
【0025】
例えば、発進時や低負荷時(エンジン11の燃費効率が悪い領域)は、エンジン11を停止状態に維持して、バッテリ21の電力で第2の交流モータ13を駆動し、この第2の交流モータ13の動力のみで車輪14を駆動して走行するモータ走行を行う。
【0026】
エンジン11を始動する場合には、バッテリ21の電力で第1の交流モータ12を駆動し、この第1の交流モータ12の動力を動力分割機構16を介してエンジン11のクランク軸15に伝達することで、クランク軸15を回転駆動してエンジン11を始動する。
【0027】
通常走行時には、エンジン11のクランク軸15の動力を動力分割機構16によって第1の交流モータ12側とペラ軸17側の二系統に分割し、その一方の系統の出力でペラ軸17を駆動して車輪14を駆動し、他方の系統の出力で第1の交流モータ12を駆動して第1の交流モータ12で発電し、その発電電力で第2の交流モータ13を駆動して第2の交流モータ13の動力でも車輪14を駆動する。更に、急加速時には、第1の交流モータ12の発電電力の他にバッテリ21の電力も第2の交流モータ13に供給して、第2の交流モータ13の駆動分を増加させる。
【0028】
減速時には、車輪14の動力で第2の交流モータ13を駆動して第2の交流モータ13を発電機として作動させることで、車両の運動エネルギを第2の交流モータ13で電力に変換してバッテリ21に回収して充電する。
【0029】
次に、図5に基づいて第2の交流モータ13の制御システムの概略構成を説明する。
二次電池等からなる直流電源であるバッテリ21には、昇圧コンバータ35が接続され、この昇圧コンバータ35は、バッテリ21の直流電圧を昇圧してシステム電源ライン36とアースライン37との間に直流のシステム電圧を発生させたり、このシステム電圧を降圧してバッテリ21に電力を戻す機能を持つ。システム電源ライン36とアースライン37との間には、システム電圧を平滑化する平滑コンデンサ38や、電圧制御型の三相のインバータ23が接続され、このインバータ23で交流モータ13が駆動される。
【0030】
交流モータ13は、三相永久磁石式同期モータで、永久磁石が内蔵されたものであり、ロータの回転位置θを検出するロータ回転位置センサ39が搭載されている。昇圧コンバータ35には、入力コンデンサ40とリアクトル41と、2つのスイッチング素子42,43が設けられ、各スイッチング素子42,43に、それぞれ還流ダイオード44,45が並列に接続されている。また、電圧制御型の三相のインバータ23には、6つのスイッチ素子46〜51(上アームの各相の3つのスイッチング素子46,48,50と下アームの各相の3つのスイッチング素子47,49,51)が設けられ、各スイッチング素子46〜51に、それぞれ還流ダイオード52〜57が並列に接続されている。
【0031】
このインバータ23は、MG−ECU31から出力される三相の6アーム電圧指令信号UU,UL,VU,VL,WU,WLに基づいて、システム電源ライン36の直流電圧(昇圧コンバータ35によって昇圧されたシステム電圧)を三相の交流電圧U,V,Wに変換して交流モータ13を駆動する。交流モータ13のV相に流れるV相電流iv がV相電流センサ58によって検出され、交流モータ13のW相に流れるW相電流iw がW相電流センサ59によって検出される。
【0032】
MG−ECU31は、システム電圧が目標電圧となるように昇圧コンバータ35を制御すると共に、交流モータ13の出力トルクが目標トルク(トルク指令値)となるようにインバータ23を制御して交流モータ13に印加する交流電圧を調整するトルク制御を実行する。このトルク制御では、ハイブリッドECU25等から出力されるトルク指令値と、交流モータ13のV相電流iv とW相電流iw (電流センサ58,59の出力信号)と、交流モータ13のロータ回転位置θ(ロータ回転位置センサ39の出力信号)とに基づいて、例えば正弦波PWM制御方式又は矩形波制御方式等で三相電圧指令信号を生成してインバータ23に出力する。
【0033】
また、MG−ECU31は、後述する図9のゲイン誤差比算出ルーチンを実行することで、交流モータ13の制御システムの起動直後のシステムチェック処理中(つまり交流モータ13の制御開始前の交流モータ13の停止中)に、交流モータ13のトルク発生に寄与しない無効電流を交流モータ13に流すように指令する無効電流指令を行い、この無効電流指令を行ったときのV相及びW相の電流指令値の比(Iv /Iw )と、V相及びW相の電流センサ58,59の出力の比(iv /iw )とに基づいて、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )をゲイン誤差情報として算出する。この場合、V相とW相が特許請求の範囲でいう第1の相と第2の相に相当し、V相の電流センサ58とW相の電流センサ59が特許請求の範囲でいう第1の電流センサと第2の電流センサに相当する。
【0034】
具体的には、図6に示すように、まず、交流モータ13のロータ回転座標として設定したd−q座標系における指令電流ベクトル(d軸指令電流Id ,q軸指令電流Iq )のd軸指令電流Id を0以外の所定値αに設定すると共に、q軸指令電流Iq を0に設定することで、d−q座標系のd軸上に電流ベクトルを制御するように設定して、交流モータ13のトルク発生に寄与しない無効電流を交流モータ13に流すように指令する無効電流指令を行う。
【0035】
この場合、指令電流ベクトル(d軸指令電流Id ,q軸指令電流Iq )を指令電圧ベクトル(d軸指令電圧Vd ,q軸指令電圧Vq )に変換し、この指令電圧ベクトル(d軸指令電圧Vd ,q軸指令電圧Vq )と、ロータ回転位置センサ39で検出した交流モータ13のロータ回転位置θ(ロータ回転停止位置)とに基づいて、三相電圧指令値Vu ,Vv ,Vw を求める。この後、三相電圧指令値Vu ,Vv ,Vw を、例えば正弦波PWM制御方式又は矩形波制御方式等で三相の6アーム電圧指令信号UU,UL,VU,VL,WU,WLに変換し、これらの三相の6アーム電圧指令信号UU,UL,VU,VL,WU,WLをインバータ23に出力する。これにより、交流モータ13のトルク発生に寄与しない無効電流を交流モータ13に流す。
【0036】
また、V相電流指令値Iv とW相電流指令値Iw は、指令電流ベクトル(d軸指令電流Id ,q軸指令電流Iq )と交流モータ13のロータ回転位置θ(ロータ回転停止位置)とを用いて下記(1),(2)式により表すことができる。
【0037】
【数1】

【0038】
無効電流指令を行う際には、トルク発生に寄与するq軸指令電流Iq を0に設定するため、上記(1),(2)式から下記(3),(4)式が得られる。
【0039】
【数2】

【0040】
更に、上記(3),(4)式から下記(5)式が得られる。
Iv /Iw =cos(θ−2/3×π)/cos(θ+2/3×π) ……(5)
上記(5)式によって、無効電流指令を行ったときのV相電流指令値Iv とW相電流指令値Iw との比(Iv /Iw )を求めることができ、その際、V相及びW相の電流指令値の比(Iv /Iw )は、機器定数(抵抗R等)の影響を受けずに交流モータ13のロータ回転位置θ(ロータ回転停止位置)のみによって決まる。
【0041】
本実施例1では、交流モータ13の停止中に無効電流指令を行ったときの三相電流指令値Iu ,Iv ,Iw が、交流モータ13の各相に流れる実電流とほぼ等しくなると見なして、V相電流指令値Iv をV相の実電流の代用情報として用いると共に、W相電流指令値Iw をW相の実電流の代用情報として用いる。
【0042】
V相及びW相の電流センサ58,59のオフセット誤差補正後であれば、V相電流検出値iv (V相電流センサ58の出力)は、V相電流センサ58のゲイン誤差kv とV相電流指令値Iv (V相の実電流の代用情報)とを用いて下記(6)式により表すことができ、W相電流検出値iw (W相電流センサ59の出力)は、W相電流センサ59のゲイン誤差kw とW相電流指令値Iw (W相の実電流の代用情報)とを用いて下記(7)式により表すことができる。
iv =kv ×Iv ……(6)
iw =kw ×Iw ……(7)
【0043】
上記(6),(7)式から下記(8)式が得られる。
kv /kw =(iv /iw )/(Iv /Iw ) ……(8)
上記(8)式によって、無効電流指令を行ったときのV相及びW相の電流指令値の比(Iv /Iw )と、V相及びW相の電流センサ58,59の出力の比(iv /iw )とを用いて、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を求めることができる。
【0044】
前述したように、V相及びW相の電流指令値の比(Iv /Iw )は、機器定数(抵抗R等)の影響を受けずに交流モータ13のロータ回転位置θ(ロータ回転停止位置)のみによって決まるため、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )は、機器定数(抵抗R等)の影響を受けずに求めることができる。
【0045】
このようにして求めたV相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )は、MG−ECU31のバックアップRAM60等の書き換え可能な不揮発性メモリ(MG−ECU31の電源オフ中でも記憶データを保持する書き換え可能なメモリ)に記憶される。
【0046】
ところで、図7に示すように、交流モータ13の停止中に無効電流指令を行う際に、交流モータ13のロータ回転停止位置(磁極位置)に応じて各相の電流指令値が変化(増減)するため、交流モータ13のロータ回転停止位置によってはV相電流指令値Iv =0となる場合や、W相電流指令値Iw =0となる場合があり、V相電流指令値Iv (V相の実電流の代用情報)やW相電流指令値Iw (W相の実電流の代用情報)が0となる場合には、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を算出することができない。
【0047】
そこで、MG−ECU31は、交流モータ13の停止中にロータ回転停止位置が算出不能位置(無効電流指令時にV相電流指令値Iv =0又はW相電流指令値Iw =0となる回転位置)の場合には、交流モータ13の停止中でロック機構61がロック状態(交流モータ13の動力伝達系を回転停止状態に維持する状態)のときに交流モータ13にトルクを発生させる電流指令(以下「トルク発生電流指令」という)を行い、このトルク発生電流指令を行ったときのV相及びW相の電流指令値の比(Iv /Iw )と、V相及びW相の電流センサ58,59の出力の比(iv /iw )とに基づいて、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を算出する。
【0048】
車両の停車中にシフトレバーがPレンジのとき(又はPボタンがオンのとき)に動力伝達系を回転停止状態に維持するロック機構61が設けられたシステムでは、車両の停車中(つまり交流モータ13の停止中)でロック機構61がロック状態のときにトルク発生電流指令を行うことで、交流モータ13をロック機構61の遊びや動力伝達系のねじれ等の分だけ回転させた状態(交流モータ13の回転方向でロック機構61の遊びが詰まった状態)で停止させることができる。その際、図4に示すように、トルク発生電流指令の開始前に、既に交流モータ13の回転方向でロック機構61の遊びが詰まった状態(ロックギヤ62の隣り合う歯と歯の間に嵌まったロックポール63が一方の歯に突き当った状態)になっていても、トルク発生電流指令を行うことで、交流モータ13を動力伝達系のねじれ等の分だけは回転させることができる。これにより、交流モータ13のロータ回転位置を算出不能位置以外の一定位置(V相電流指令値Iv とW相電流指令値Iw が両方とも0以外の値になる回転位置)に維持することができ、V相及びW相の電流指令値Iv ,Iw を一定値に維持できると共にV相及びW相の電流センサ58,59の出力iv ,iw を一定値に維持できる。
【0049】
この点に着目して、ロック機構61がロック状態のときにトルク発生電流指令を行い、このトルク発生電流指令を行ったときのV相及びW相の電流指令値の比(Iv /Iw )と、V相及びW相の電流センサ58,59の出力の比(iv /iw )とに基づいて、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を算出することで、交流モータ13のロータ回転位置を算出不能位置以外の一定位置に維持して、V相及びW相の電流指令値Iv ,Iw を一定値に維持すると共にV相及びW相の電流センサ58,59の出力iv ,iw を一定値に維持した状態で、V相及びW相の電流指令値の比(Iv /Iw )と、V相及びW相の電流センサ58,59の出力の比(iv /iw )からV相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を算出することができる。
【0050】
具体的には、図8のタイムチャートに示すように、交流モータ13の停止中でロック機構61がロック状態のときに、交流モータ13のロータ回転停止位置が算出不能位置(無効電流指令時にV相電流指令値Iv =0又はW相電流指令値Iw =0となる回転位置)であると判定された場合には、その時点t1 で、磁極ずらし要求フラグをオンにセットして、トルク発生電流指令を行う。
【0051】
このトルク発生電流指令では、交流モータ13のロータ回転停止位置(磁極位置)を変更するために、交流モータ13のトルク指令値を所定トルクT(交流モータ13のロータを回転させるのに必要なトルク)に設定し、このトルク指令値を実現するようにd軸指令電流Id を設定すると共にq軸指令電流Iq を設定して、交流モータ13にトルクを発生させる。ここで、トルク発生電流指令を開始する際には、交流モータ13のトルク指令値を0から徐々に増加させて最終的に所定トルクTに設定するようにしても良いし、或は、交流モータ13のトルク指令値を0からステップ的に変化させて所定トルクTに設定するようにしても良い。このように、ロック機構61がロック状態のときにトルク発生電流指令を行うことで、交流モータ13をロック機構61の遊びや動力伝達系のねじれ等の分だけ回転させる。
【0052】
この後、ロータ回転位置センサ39の出力が一定になったと判定された時点t2 で、交流モータ13がロック機構61の遊びや動力伝達系のねじれ等の分だけ回転した状態で停止したと判断して、トルク発生電流指令を行ったときのV相及びW相の電流指令値の比(Iv /Iw )と、V相及びW相の電流センサ58,59の出力の比(iv /iw )とに基づいて、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を算出する処理を開始する。
【0053】
この後、ゲイン誤差の比(kv /kw )の算出が終了した時点t3 で、交流モータ13のトルク指令値を0にリセットして、交流モータ13のd軸指令電流Id を0に設定すると共にq軸指令電流Iq を0に設定して、トルク発生電流指令を終了する。ここで、トルク発生電流指令を終了する際には、交流モータ13のトルク指令値を所定トルクTから徐々に減少させて最終的に0にするようにしても良いし、或は、交流モータ13のトルク指令値を所定トルクTからステップ的に変化させて0にするようにしても良い。
【0054】
このようにして求めたV相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )は、MG−ECU31のバックアップRAM60等の書き換え可能な不揮発性メモリ(MG−ECU31の電源オフ中でも記憶データを保持する書き換え可能なメモリ)に記憶される。
【0055】
また、MG−ECU31は、後述する図10のセンサ出力補正ルーチンを実行して、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を用いてW相電流センサ59の出力(W相電流検出値iw )を補正することで、V相電流センサ58とW相電流センサ59のゲイン誤差の不均衡を補正する。
【0056】
具体的には、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を用いてW相電流センサ59の出力(W相電流検出値iw )を次式により補正して最終的なW相電流検出値iw'を求め、V相電流センサ58の出力(V相電流検出値iv )をそのまま最終的なV相電流検出値iv'とする。
iv'=iv ……(9)
iw'=iw ×(kv /kw ) ……(10)
【0057】
上記(9),(10)式は、それぞれ上記(6),(7)式の関係を用いて次のように表すことができる。
iv'=iv =kv ×Iv
iw'=iw ×(kv /kw )=kw ×Iw ×(kv /kw )=kv ×Iw
【0058】
これにより、最終的なV相電流検出値iv'と最終的なW相電流検出値iw'のゲイン誤差をV相電流センサ58のゲイン誤差kv に揃えることができ、V相電流センサ58とW相電流センサ59のゲイン誤差の不均衡を補正することができる。
【0059】
或は、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を用いてV相電流センサ58の出力(V相電流検出値iv )を補正することで、V相電流センサ58とW相電流センサ59のゲイン誤差の不均衡を補正するようにしても良い。
【0060】
具体的には、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を用いてV相電流センサ58の出力(V相電流検出値iv )を次式により補正して最終的なV相電流検出値iv を求め、W相電流センサ59の出力(W相電流検出値iw )をそのまま最終的なW相電流検出値iw'とする。
iv'=iv /(kv /kw ) ……(11)
iw'=iw ……(12)
【0061】
上記(11),(12)式は、それぞれ上記(6),(7)式の関係を用いて次のように表すことができる。
iv'=iv /(kv /kw )=kv ×Iv /(kv /kw )=kw ×Iv
iw'=iw =kw ×Iw
【0062】
これにより、最終的なV相電流検出値iv'と最終的なW相電流検出値iw'のゲイン誤差をW相電流センサ59のゲイン誤差kw に揃えることができ、V相電流センサ58とW相電流センサ59のゲイン誤差の不均衡を補正することができる。
【0063】
尚、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を用いてV相電流センサ58の出力又はW相電流センサ59の出力を補正する処理は、電流センサ58,59の出力を用いて交流モータ13を制御するモータ制御ルーチン等で行うようにしても良い。
【0064】
以下、MG−ECU31が実行する図9のゲイン誤差比算出ルーチンと図10のセンサ出力補正ルーチンの処理内容を説明する。
【0065】
[ゲイン誤差比算出]
図9に示すゲイン誤差比算出ルーチンは、MG−ECU31の電源オン後に所定周期で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいうゲイン誤差情報算出手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、交流モータ13の制御システムの起動直後(MG−ECU31の電源オン直後)のシステムチェック処理中であるか否かを判定し、システムチェック処理中でなければ、ステップ102以降の処理を行うことなく、本ルーチンを終了する。
【0066】
一方、上記ステップ101で、交流モータ13の制御システムの起動直後のシステムチェック処理中であると判定されれば、交流モータ13の制御開始前における交流モータ13の停止中でロック機構61がロック状態であると判断して、ステップ102に進み、ロータ回転位置センサ39で検出した交流モータ13の現在のロータ回転位置θ(ロータ回転停止位置)を読み込む。
【0067】
この後、ステップ103に進み、交流モータ13のロータ回転位置θ(ロータ回転停止位置)が無効電流指令時にV相電流指令値Iv =0となる回転位置又は無効電流指令時にW相電流指令値Iw =0となる回転位置であるか否かを判定する。ここで、無効電流指令時にV相電流指令値Iv =0となる回転位置と無効電流指令時にW相電流指令値Iw =0となる回転位置は、予めMG−ECU31のROM(図示せず)等に記憶されている。
【0068】
このステップ103で、交流モータ13のロータ回転位置θ(ロータ回転停止位置)が無効電流指令時にV相電流指令値Iv =0となる回転位置ではなく且つ無効電流指令時にW相電流指令値Iw =0となる回転位置ではないと判定された場合(つまり交流モータ13のロータ回転停止位置が算出不能位置ではないと判定された場合)には、ステップ104に進み、無効電流指令を行う。この無効電流指令では、交流モータ13のd軸指令電流Id を0以外の所定値αに設定すると共にq軸指令電流Iq を0に設定して、交流モータ13のトルク発生に寄与しない無効電流を交流モータ13に流すように指令する。
【0069】
この後、ステップ105に進み、無効電流指令を行ったときのV相及びW相の電流指令値の比(Iv /Iw )と、V相及びW相の電流センサ58,59の出力の比(iv /iw )とに基づいて、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を次のようにして算出する。
【0070】
まず、交流モータ13のロータ回転位置θ(ロータ回転停止位置)を用いて、次式[上記(5)式]により、V相電流指令値Iv (V相の実電流の代用情報)と、W相電流指令値Iw (W相の実電流の代用情報)との比(Iv /Iw )を求める。
Iv /Iw =cos(θ−2/3×π)/cos(θ+2/3×π)
【0071】
この後、V相電流センサ58で検出したV相電流検出値iv (V相電流センサ58の出力)と、W相電流センサ59で検出したW相電流検出値iw (W相電流センサ59の出力)との比(iv /iw )を算出する。
【0072】
この後、V相及びW相の電流指令値の比(Iv /Iw )と、V相及びW相の電流検出値の比(iv /iw )とを用いて、次式[上記(8)式]により、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を求める。
kv /kw =(iv /iw )/(Iv /Iw )
【0073】
この後、ステップ106に進み、交流モータ13のd軸指令電流Id を0に設定すると共にq軸指令電流Iq を0に設定して、無効電流指令を終了した後、ステップ113に進み、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を、MG−ECU31のバックアップRAM60等の書き換え可能な不揮発性メモリに記憶して、本ルーチンを終了する。
【0074】
これに対して、上記ステップ103で、交流モータ13のロータ回転位置θ(ロータ回転停止位置)が無効電流指令時にV相電流指令値Iv =0となる回転位置又は無効電流指令時にW相電流指令値Iw =0となる回転位置であると判定された場合(つまり交流モータ13のロータ回転停止位置が算出不能位置であると判定された場合)には、このままのロータ回転停止位置では、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を算出することができないと判断して、ステップ107に進み、交流モータ13のロータ回転位置の前回値θ(i-1) を今回値θ(i) で更新した後、ステップ108に進み、トルク発生電流指令を行う。
【0075】
このトルク発生電流指令では、交流モータ13のロータ回転停止位置(磁極位置)を変更するために、交流モータ13のトルク指令値を所定トルクT(交流モータ13のロータを回転させるのに必要なトルク)に設定し、このトルク指令値を実現するようにd軸指令電流Id を設定すると共にq軸指令電流Iq を設定して、交流モータ13にトルクを発生させる。これにより、交流モータ13をロック機構61の遊びや動力伝達系のねじれ等の分だけ回転させる。
【0076】
この後、ステップ109に進み、ロータ回転位置センサ39で検出した交流モータ13の現在のロータ回転位置θを読み込んだ後、ステップ110に進み、交流モータ13のロータ回転位置の今回値θ(i) と前回値θ(i-1) が一致するか否か(ロータ回転位置センサ39の出力が一定になったか否か)を、例えば、交流モータ13のロータ回転位置の今回値θ(i) と前回値θ(i-1) との差の絶対値が所定値以下であるか否かによって判定し、このステップ110で、交流モータ13のロータ回転位置の今回値θ(i) と前回値θ(i-1) が一致しない(ロータ回転位置センサ39の出力が一定になってない)と判定された場合には、上記ステップ107に戻る。
【0077】
その後、ステップ110で、交流モータ13のロータ回転位置の今回値θ(i) と前回値θ(i-1) が一致する(ロータ回転位置センサ39の出力が一定になった)と判定されたときに、交流モータ13がロック機構61の遊びや動力伝達系のねじれ等の分だけ回転した状態で停止したと判断して、ステップ111に進み、トルク発生電流指令を行ったときのV相及びW相の電流指令値の比(Iv /Iw )と、V相及びW相の電流センサ58,59の出力の比(iv /iw )とに基づいて、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を次のようにして算出する。
【0078】
まず、交流モータ13のd軸指令電流Id とq軸指令電流Iq とロータ回転位置θ(ロータ回転停止位置)を用いて、上記(1),(2)式により、V相電流指令値Iv (V相の実電流の代用情報)とW相電流指令値Iw (W相の実電流の代用情報)を求めた後、これらのV相電流指令値Iv とW相電流指令値Iw との比(Iv /Iw )を求める。
【0079】
この後、V相電流センサ58で検出したV相電流検出値iv (V相電流センサ58の出力)と、W相電流センサ59で検出したW相電流検出値iw (W相電流センサ59の出力)との比(iv /iw )を算出する。
【0080】
この後、V相及びW相の電流指令値の比(Iv /Iw )と、V相及びW相の電流検出値の比(iv /iw )とを用いて、次式[上記(8)式]により、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を求める。
kv /kw =(iv /iw )/(Iv /Iw )
【0081】
この後、ステップ112に進み、交流モータ13のトルク指令値を0にリセットして、交流モータ13のd軸指令電流Id を0に設定すると共にq軸指令電流Iq を0に設定して、トルク発生電流指令を終了した後、ステップ113に進み、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を、MG−ECU31のバックアップRAM60等の書き換え可能な不揮発性メモリに記憶して、本ルーチンを終了する。
【0082】
[センサ出力補正]
図10に示すセンサ出力補正ルーチンは、モータ制御中に所定周期(例えば電流センサ58,59の出力のサンプリング周期)で繰り返し実行され、特許請求の範囲でいうセンサ出力補正手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ201で、MG−ECU31のバックアップRAM60等の書き換え可能な不揮発性メモリに記憶されているV相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )の記憶値を読み込んだ後、ステップ202に進み、V相電流センサ58の出力(V相電流検出値iv )とW相電流センサ59の出力(W相電流検出値iw )を読み込む。
【0083】
この後、ステップ203に進み、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を用いてW相電流センサ59の出力(W相電流検出値iw )を補正することで、V相電流センサ58とW相電流センサ59のゲイン誤差の不均衡を補正する。或は、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を用いてV相電流センサ58の出力(V相電流検出値iv )を補正することで、V相電流センサ58とW相電流センサ59のゲイン誤差の不均衡を補正するようにしても良い。
【0084】
以上説明した本実施例1では、交流モータ13の停止中に無効電流指令を行ったときのV相及びW相の電流指令値Iv ,Iw をV相及びW相の実電流の代用情報として用い、無効電流指令を行ったときのV相及びW相の電流指令値の比(Iv /Iw )と、V相及びW相の電流センサ58,59の出力の比(iv /iw )とに基づいて、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を算出するようにしたので、機器定数(抵抗R等)の影響を受けずにV相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を精度良く算出することができる。そして、このゲイン誤差の比(kv /kw )を用いてW相電流センサ59の出力又はV相電流センサ58の出力を補正するようにしたので、V相電流センサ58とW相電流センサ59のゲイン誤差の不均衡を補正することができ、V相及びW相の電流センサ58,59の出力に基づくモータ制御精度を向上させることができる。これにより、V相電流センサ58とW相電流センサ59のゲイン誤差の不均衡によるシステム内の電力の変動を抑制することができる。しかも、交流モータ13の停止中にゲイン誤差の比(kv /kw )を算出する際に、交流モータ13のトルク発生に寄与しない無効電流を交流モータ13に流すようにしたので、交流モータ13にトルクが発生することを防止して、システムに悪影響を及ぼすことを回避できる。
【0085】
また、本実施例1では、交流モータ13の停止中でロック機構61がロック状態のときにロータ回転停止位置が算出不能位置の場合には、トルク発生電流指令を行うようにしたので、交流モータ13をロック機構61の遊びや動力伝達系のねじれ等の分だけ回転させた状態で停止させて、交流モータ13のロータ回転位置を算出不能位置以外の一定位置に維持することができ、V相及びW相の電流指令値Iv ,Iw と、V相及びW相の電流センサ58,59の出力iv ,iw を一定値に維持することができる。そして、このトルク発生電流指令を行ったときのV相及びW相の電流指令値の比(Iv /Iw )と、V相及びW相の電流センサ58,59の出力の比(iv /iw )とに基づいて、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を算出するようにしたので、交流モータ13のロータ回転位置を算出不能位置以外の一定位置に維持して、V相及びW相の電流指令値Iv ,Iw を一定値に維持すると共にV相及びW相の電流センサ58,59の出力iv ,iw を一定値に維持した状態で、V相及びW相の電流指令値の比(Iv /Iw )とV相及びW相の電流センサ58,59の出力の比(iv /iw )からV相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を精度良く算出することができる。
【0086】
更に、本実施例1では、トルク発生電流指令を開始した後にロータ回転位置センサ39の出力が一定になったときに、交流モータ13がロック機構61の遊びや動力伝達系のねじれ等の分だけ回転した状態で停止したと判断して、ゲイン誤差の比(kv /kw )の算出を開始するようにしたので、交流モータ13の回転が停止する前(つまり交流モータ13の回転中)にゲイン誤差の比(kv /kw )の算出を開始してしまうことを防止することができ、交流モータ13の回転が停止してロータ回転位置が一定位置になって、V相及びW相の電流指令値Iv ,Iw とV相及びW相の電流センサ58,59の出力iv ,iw が一定値になってからゲイン誤差の比(kv /kw )の算出を開始することができる。
【0087】
また、本実施例1では、交流モータ13の制御システムの起動直後のシステムチェック処理中(つまり交流モータ13の制御開始前の交流モータ13の停止中)に無効電流指令又はトルク発生電流指令を行ってゲイン誤差の比(kv /kw )を算出するようにしたので、交流モータ13の制御開始前にゲイン誤差の比(kv /kw )を算出することができ、交流モータ13の制御開始当初から最新のゲイン誤差の比(kv /kw )を用いてW相電流センサ59の出力又はV相電流センサ58の出力を精度良く補正して、電流センサ58,59の出力に基づいたモータ制御精度を向上させることができる。
【実施例2】
【0088】
次に、図11を用いて本発明の実施例2を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分については説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0089】
前記実施例1では、交流モータ13の停止中でロック機構61がロック状態のときにロータ回転停止位置が算出不能位置の場合にトルク発生電流指令を行うようにしたが、本実施例2では、MG−ECU31により後述する図11のゲイン誤差比算出ルーチンを実行することで、交流モータ13のロータ回転停止位置が算出不能位置であるか否かに拘らず交流モータ13の停止中でロック機構61がロック状態のときにトルク発生電流指令を行い、このトルク発生電流指令を行ったときのV相及びW相の電流指令値の比(Iv /Iw )と、V相及びW相の電流センサ58,59の出力の比(iv /iw )とに基づいて、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を算出するようにしている。
【0090】
図11に示すゲイン誤差比算出ルーチンでは、ステップ301で、交流モータ13の制御システムの起動直後のシステムチェック処理中であると判定されれば、交流モータ13の制御開始前における交流モータ13の停止中でロック機構61がロック状態であると判断して、ステップ302に進み、ロータ回転位置センサ39で検出した交流モータ13の現在のロータ回転位置θ(ロータ回転停止位置)を読み込む。
【0091】
この後、ステップ303に進み、交流モータ13のロータ回転位置の前回値θ(i-1) を今回値θ(i) で更新した後、ステップ304に進み、トルク発生電流指令を行う。この後、ステップ305に進み、ロータ回転位置センサ39で検出した交流モータ13の現在のロータ回転位置θを読み込んだ後、ステップ306に進み、交流モータ13のロータ回転位置の今回値θ(i) と前回値θ(i-1) が一致するか否か(ロータ回転位置センサ39の出力が一定になったか否か)を判定する。
【0092】
その後、ステップ306で、交流モータ13のロータ回転位置の今回値θ(i) と前回値θ(i-1) が一致する(ロータ回転位置センサ39の出力が一定になった)と判定されたときに、交流モータ13がロック機構61の遊びや動力伝達系のねじれ等の分だけ回転した状態で停止したと判断して、ステップ307に進み、トルク発生電流指令を行ったときのV相及びW相の電流指令値の比(Iv /Iw )と、V相及びW相の電流センサ58,59の出力の比(iv /iw )とに基づいて、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を算出する。
【0093】
この後、ステップ308に進み、交流モータ13のd軸指令電流Id を0に設定すると共にq軸指令電流Iq を0に設定して、トルク発生電流指令を終了した後、ステップ309に進み、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を、MG−ECU31のバックアップRAM60等の書き換え可能な不揮発性メモリに記憶して、本ルーチンを終了する。
【0094】
以上説明した本実施例2では、交流モータ13の停止中でロック機構61がロック状態のときにトルク発生電流指令を行い、このトルク発生電流指令を行ったときのV相及びW相の電流指令値の比(Iv /Iw )と、V相及びW相の電流センサ58,59の出力の比(iv /iw )とに基づいて、V相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を算出するようにしたので、交流モータ13のロータ回転位置を一定位置に維持して、V相及びW相の電流指令値Iv ,Iw とV相及びW相の電流センサ58,59の出力iv ,iw を一定値に維持した状態で、V相及びW相の電流指令値の比(Iv /Iw )とV相及びW相の電流センサ58,59の出力の比(iv /iw )からV相及びW相の電流センサ58,59のゲイン誤差の比(kv /kw )を精度良く算出することができる。
【0095】
尚、上記各実施例1,2では、トルク発生電流指令を開始した後にロータ回転位置センサ39の出力が一定になったときに、ゲイン誤差の比(kv /kw )の算出を開始するようにしたが、トルク発生電流指令を開始した後にV相電流センサ58出力又はW相電流センサ59の出力が一定になったときに、ゲイン誤差の比(kv /kw )の算出を開始するようにしても良い。
【0096】
また、上記各実施例1,2では、ゲイン誤差情報として、第1及び第2の電流センサのゲイン誤差の比を算出するようにしたが、これに限定されず、例えば、無効電流指令又はトルク発生電流指令を行ったときの電流指令値(実電流の代用情報)と電流センサの出力(電流検出値)とに基づいて電流センサのゲイン誤差を算出し、このゲイン誤差を用いて電流センサの出力を補正することで、電流センサのゲイン誤差による電流検出値のずれを補正して、電流センサの出力に基づく電流検出精度やモータ制御精度を向上させるようにしても良い。
【0097】
更に、交流モータの制御開始前の交流モータの停止中に無効電流指令又はトルク発生電流指令を行ってゲイン誤差情報(例えばゲイン誤差やゲイン誤差の比)を算出する構成に限定されず、他の交流モータの停止中(例えば、交流モータの制御開始後に交流モータを停止させたときや、交流モータを停止させた状態で交流モータの制御システムを停止させるとき等)に無効電流指令又はトルク発生電流指令を行ってゲイン誤差情報を算出するようにしても良い。
【0098】
また、上記各実施例1,2では、1つの交流モータに対して2つの電流センサを備えたシステムに本発明を適用したが、これに限定されず、1つの交流モータに対して1つの電流センサを備えたシステムや、1つの交流モータに対して3つ以上の電流センサを備えたシステムに本発明を適用しても良い。
【0099】
また、上記各実施例1,2では、エンジンの動力を動力分割機構で分割するスプリットタイプのハイブリッド車に本発明を適用したが、これに限定されず、パラレルタイプやシリーズタイプ等の他の方式のハイブリッド車に本発明を適用しても良い。更に、交流モータとエンジンを動力源とするハイブリッド車に限定されず、交流モータのみを動力源とする電気自動車に本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0100】
11…エンジン(内燃機関)、12,13…交流モータ、14…車輪、16…動力分割機構、18…減速ギヤ機構、21…バッテリ、22,23…インバータ、25…ハイブリッドECU、30…エンジンECU、31…MG−ECU(ゲイン誤差情報算出手段,センサ出力補正手段)、35…昇圧コンバータ、39…ロータ回転位置センサ、58…V相電流センサ、59…W相電流センサ、60…バックアップRAM、61…ロック機構、62…ロックギヤ、63…ロックポール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された交流モータと、該交流モータに流れる電流を検出する電流センサとを備えた車両のモータ制御装置において、
前記交流モータの動力伝達系を回転停止状態に維持するロック状態に切り換え可能なロック機構と、
前記ロック機構が前記ロック状態のときに前記交流モータにトルクを発生させる電流指令(以下「トルク発生電流指令」という)を行い、該トルク発生電流指令を行ったときの電流指令値と前記電流センサの出力とに基づいて該電流センサのゲイン誤差又はこれに関連性のある情報(以下これらを「ゲイン誤差情報」と総称する)を算出するゲイン誤差情報算出手段と、
前記ゲイン誤差情報算出手段で算出したゲイン誤差情報を用いて前記電流センサの出力を補正するセンサ出力補正手段と
を備えていることを特徴とする車両のモータ制御装置。
【請求項2】
前記交流モータのロータ回転位置を検出するロータ回転位置センサを備え、
前記ゲイン誤差情報算出手段は、前記トルク発生電流指令を開始した後に前記ロータ回転位置センサの出力が一定になったときに前記ゲイン誤差情報の算出を開始する手段を有することを特徴とする請求項1に記載の車両のモータ制御装置。
【請求項3】
前記ゲイン誤差情報算出手段は、前記トルク発生電流指令を開始した後に前記電流センサの出力が一定になったときに前記ゲイン誤差情報の算出を開始する手段を有することを特徴とする請求項1に記載の車両のモータ制御装置。
【請求項4】
前記交流モータの各相のうちの第1の相に流れる電流を検出する第1の電流センサ及び第2の相に流れる電流を検出する第2の電流センサとを備え、
前記ゲイン誤差情報算出手段は、前記トルク発生電流指令を行ったときの前記第1及び第2の相の電流指令値の比と、前記第1及び第2の電流センサの出力の比とに基づいて、前記第1及び第2の電流センサのゲイン誤差の比を前記ゲイン誤差情報として算出する手段を有し、
前記センサ出力補正手段は、前記ゲイン誤差情報算出手段で算出したゲイン誤差の比を用いて前記第1の電流センサの出力又は前記第2の電流センサの出力を補正する手段を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両のモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−97782(P2011−97782A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251092(P2009−251092)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】