説明

車両の路外逸脱防止制御装置

【課題】ブレーキに対して過度な負荷が加わることなく、ブレーキ装置により発生する振動や騒音も抑制し、ステアリング制御とブレーキ制御とによりドライバに対して現状の走行状態を的確に伝達しつつ、適切に車両の路外逸脱を防止する。
【解決手段】白線からの逸脱量に応じ白線からの逸脱を防止する第1のブレーキ制御量ABL0を、障害物に対する逸脱量に応じ障害物に対する逸脱を防止する第2のブレーキ制御量ABS0を設定し、白線からの逸脱を防止する第1のステアリング制御量ASL0を、第1のブレーキ制御量ABL0が設定される逸脱量の領域よりも小さな逸脱量の領域で設定し、障害物に対する逸脱を防止する第2のステアリング制御量ASS0を、第2のブレーキ制御量ABS0が設定される逸脱量の領域よりも小さな逸脱量の領域で設定する。そして、これらを基に、ブレーキ制御量AB、ステアリング制御量ASを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング制御とブレーキ制御により路側障害物への逸脱防止、白線から路外への逸脱防止を図る車両の路外逸脱防止制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の路外逸脱防止を図り安全性を向上する、様々な車両の路外逸脱防止制御装置の技術が提案され実用化されている。例えば、特開2009−35214号公報(以下、特許文献1)では、走行状態に応じた目標操舵トルクに基づいて操舵トルクを制御すると共に、操舵トルクの制御によって操舵輪が転舵された結果、車両に発生する副次ヨーモーメントを推定し、走行状態に基づく目標ヨーモーメントと副次ヨーモーメントの差に基づいて、車両にヨーモーメントを発生させる制駆動力を制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−35214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1に開示される技術によれば、ステアリング制御とブレーキ制御により、現在の走行状態をドライバに認知させ、また、過不足無く車両にヨーモーメントを発生させることが可能である。しかしながら、ドライバが意図的(操舵角とその変化量が共に設定値以上のとき等)に車線中央から左右にずれた位置を保持しようとした際には、副次ヨーモーメントが0となり、目標ヨーモーメントに基づいたブレーキ制御が連続作動してしまうという問題がある。そして、ブレーキ制御が連続して作動すると、ブレーキの過熱やパッドの早期摩耗等の問題が生じる可能性があり、更に、ブレーキハイドロユニットの作動(バルブ、油圧ポンプ等の作動)のために振動や騒音が発生する虞もある。
【0005】
また、各種クルーズコントロールによる定速走行制御や追従走行制御の作動中に路外逸脱防止を目的とするブレーキ制御が作動すると、車両に不要な減速度が発生し、クルーズコントロールによる車速制御が正常に機能しなくなるという問題も発生する。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、ブレーキに対して過度な負荷が加わることなく、ブレーキ装置により発生する振動や騒音も抑制し、ステアリング制御とブレーキ制御とによりドライバに対して現状の走行状態を的確に伝達しつつ、ドライバの操作やクルーズコントロールと干渉することなく適切に車両の路外逸脱を防止することができる車両の路外逸脱防止制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも路側の障害物情報と白線情報を検出する道路情報検出手段と、上記白線情報に基づいて自車両の白線からの逸脱量を第1の逸脱量として算出する第1の逸脱量算出手段と、上記障害物情報に基づいて自車両の障害物に対する逸脱量を第2の逸脱量として算出する第2の逸脱量算出手段と、自車両の白線からの逸脱を防止するブレーキ制御量を第1のブレーキ制御量として、上記第1の逸脱量に応じて設定する第1のブレーキ制御量設定手段と、自車両の障害物に対する逸脱を防止するブレーキ制御量を第2のブレーキ制御量として、上記第2の逸脱量に応じて設定する第2のブレーキ制御量設定手段と、自車両の白線からの逸脱を防止するステアリング制御量を第1のステアリング制御量として、上記第1のブレーキ制御量が設定される逸脱量の領域よりも小さな逸脱量の領域から上記第1の逸脱量に応じて設定する第1のステアリング制御量設定手段と、自車両の障害物に対する逸脱を防止するステアリング制御量を第2のステアリング制御量として、上記第2のブレーキ制御量が設定される逸脱量の領域よりも小さな逸脱量の領域から上記第2の逸脱量に応じて設定する第2のステアリング制御量設定手段と、少なくとも上記第1のブレーキ制御量と上記第2のブレーキ制御量とクルーズコントロールの作動状態に基づいてブレーキ制御量を算出してブレーキ制御を実行するブレーキ制御手段と、少なくとも上記第1のステアリング制御量と上記第2のステアリング制御量とに基づいてステアリング制御量を算出してステアリング制御を実行するステアリング制御手段とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明による車両の路外逸脱防止制御装置によれば、ブレーキに対して過度な負荷が加わることなく、ブレーキ装置により発生する振動や騒音も抑制し、ステアリング制御とブレーキ制御とによりドライバに対して現状の走行状態を的確に伝達しつつ、ドライバの操作やクルーズコントロールと干渉することなく適切に車両の路外逸脱を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の一形態に係る車両に搭載した路外逸脱防止制御装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の一形態に係る制御ユニットの機能ブロック図である。
【図3】本発明の実施の一形態に係る路外逸脱防止制御プログラムのフローチャートである。
【図4】本発明の実施の一形態に係る白線と路側障害物に対する自車両の位置関係とそれぞれに対する逸脱量の説明図である。
【図5】本発明の実施の一形態に係るポンプリレーON後の経過時間に対するブレーキハイドロリックユニット(以下、H/Uと略称)のポンプ吐出圧の関係の一例を示す説明図である。
【図6】本発明の実施の一形態に係るブレーキ負荷に対して設定するブレーキ制御補正係数の説明図である。
【図7】本発明の実施の一形態に係る第1のブレーキ制御量と第2のブレーキ制御量の説明図である。
【図8】本発明の実施の一形態に係る第1のステアリング制御量と第2のステアリング制御量の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は自動車等の車両(自車両)で、この車両1には、路外逸脱防止制御装置2が搭載されている。この路外逸脱防止制御装置2は、ステレオカメラ3、画像認識装置4、制御ユニット5等を有して主要に構成されている。
【0011】
また、自車両1には、車速V0を検出して制御ユニット5に出力する車速センサ6、通常のブレーキ制御、アンチロックブレーキ制御、横滑り防止制御等のブレーキ制御に加えて、制御ユニット5からの制御信号(ブレーキ制御量AB)によりステアリング制御装置11と共に路外逸脱防止制御を実行するブレーキ制御手段としてのブレーキ制御装置10、通常のパワーステアリング制御等に加えて制御ユニット5からの制御信号(ステアリング制御量AS)によりブレーキ制御装置10と共に路外逸脱防止制御を実行するステアリング制御手段としてのステアリング制御装置11が設けられている。
【0012】
ステレオカメラ3は、ステレオ光学系として例えば電荷結合素子(CCD)等の固体撮像素子を用いた1組の(左右の)CCDカメラで構成される。これら左右のCCDカメラは、それぞれ車室内の天井前方に一定の間隔をもって取り付けられ、車外の対象を異なる視点からステレオ撮像し、画像データを画像認識装置4に入力する。
【0013】
画像認識装置4における、ステレオカメラ3からの画像の処理は、例えば以下のように行われる。まず、ステレオカメラ3のCCDカメラで撮像した自車両の進行方向の環境の1組のステレオ画像対に対し、対応する位置のずれ量から距離情報を求める処理を行なって、三次元の距離分布を表す距離画像を生成する。
【0014】
このデータを基に、周知のグルーピング処理や、予め記憶しておいた3次元的な道路形状データ、側壁データ、立体物データ等と比較し、白線データ、路側障害物データ(道路に沿って存在するガードレール、縁石等の側壁、電柱等の固定障害物、4輪車、2輪車、歩行者等の立体物データ)を抽出する。こうして抽出された白線データ、路側障害物データは、それぞれのデータの種類毎に異なったナンバーが割り当てられる。
【0015】
そして、画像認識装置4は、白線、及び、路側障害物について、予め定めた自車両1のカメラ位置を中心とする所定の2次元座標上に、それぞれが存在する位置をメモリし、制御ユニット5に出力する。
【0016】
また、画像認識装置4は、図4に示すように、現在の自車両1の進行方向(カメラ位置を中心とする直進方向)と白線とのなす角を交差角αとして算出し、また、現在の、自車両の中心から白線までの距離(白線への垂線方向距離)yL0、及び、現在の自車両の中心から障害物までの距離(白線への垂線方向と平行な方向での距離)ys0を算出して制御ユニット5に出力する。このように、ステレオカメラ3、画像認識装置4は、道路情報検出手段として設けられている。
【0017】
制御ユニット5は、上述の画像認識装置4から白線、及び、路側障害物の座標位置情報、交差角α、現在の自車両の中心から白線までの距離yL0、現在の自車両の中心から障害物までの距離ys0が入力される。また、車速センサ6から車速V0が入力され、ブレーキ制御装置10からは図示しないブレーキH/Uのポンプ吐出圧PBが入力されるほか、同じく図示しないクルーズコントロールユニットから、その作動状態が入力される。。
【0018】
そして、制御ユニット5は、後述の路外逸脱防止制御プログラムに従って、白線位置情報に基づいて所定時間後の自車両の白線からの逸脱量を第1の逸脱量yLとして算出し、障害物位置情報に基づいて所定時間後の自車両の障害物に対する逸脱量を第2の逸脱量ySとして算出し、自車両1の白線からの逸脱を防止するブレーキ制御量を第1のブレーキ制御量ABL0として、第1の逸脱量yLに応じて設定し、自車両1の障害物に対する逸脱を防止するブレーキ制御量を第2のブレーキ制御量ABS0として、第2の逸脱量ySに応じて設定し、自車両1の白線からの逸脱を防止するステアリング制御量を第1のステアリング制御量ASL0として、第1のブレーキ制御量ABL0が設定される逸脱量の領域よりも小さな逸脱量の領域から第1の逸脱量yLに応じて設定し、自車両1の障害物に対する逸脱を防止するステアリング制御量を第2のステアリング制御量ASS0として、第2のブレーキ制御量ABS0が設定される逸脱量の領域よりも小さな逸脱量の領域から第2の逸脱量ySに応じて設定する。而して、制御ユニット5は、クルーズコントロールが作動していない場合に、第1のブレーキ制御量ABL0と第2のブレーキ制御量ABS0とを加算した値をブレーキへの負荷が大きいほど小さくなるように補正してブレーキ制御量ABを算出し、ブレーキ制御装置10に出力して、このブレーキ制御量ABに相当するブレーキ力を逸脱する側と反対側の車輪に発生させる。また、第1のステアリング制御量ASL0と第2のステアリング制御量ASS0とを加算した値に、第1のブレーキ制御量ABL0と第2のブレーキ制御量ABS0の和に満たないブレーキ制御量の不足分を加えてステアリング制御量ASを算出し、ステアリング制御装置11に出力して、このステアリング制御量ASに相当する付加舵力、又は、舵角を発生させるようになっている。
【0019】
すなわち、制御ユニット5は、図2に示すように、予見距離算出部5a、白線からの逸脱量算出部5b、障害物に対する逸脱量算出部5c、実ブレーキ制御量算出部5d、ブレーキ負荷算出部5e、ブレーキ制御補正係数設定部5f、第1のブレーキ制御量設定部5g、第2のブレーキ制御量設定部5h、ブレーキ制御量算出部5i、第1のステアリング制御量設定部5j、第2のステアリング制御量設定部5k、ステアリング制御量算出部5lから主要に構成されている。
【0020】
予見距離算出部5aは、車速センサ6から車速V0が入力され、例えば、以下の(1)式により、予見距離Lxを算出し、白線からの逸脱量算出部5b、障害物に対する逸脱量算出部5cに出力する。
Lx=V0・t …(1)
ここで、tは、予め設定しておいた予見時間である。すなわち、予見距離とは、予見時間t後に、自車両1が存在すると推定される位置までの距離である。尚、予見距離Lxは、上述の(1)式で算出する距離に限るものではない。
【0021】
白線からの逸脱量算出部5bは、画像認識装置4から白線、及び、交差角α、現在の自車両の中心から白線までの距離yL0が入力され、予見距離算出部5aから予見距離Lxが入力される。そして、図4に示すように、以下の(2)式により、予見距離Lxにおける自車両1の白線からの逸脱量(第1の逸脱量算)yLを算出して、第1のブレーキ制御量設定部5g、第1のステアリング制御量設定部5jに出力する。
yL=Lx・sin(α)−yL0 …(2)
このように、白線からの逸脱量算出部5bは、第1の逸脱量算出手段として設けられている。
【0022】
障害物に対する逸脱量算出部5cは、画像認識装置4から路側障害物の座標位置情報、及び、交差角α、現在の自車両の中心から障害物までの距離ys0が入力され、予見距離算出部5aから予見距離Lxが入力される。そして、図4に示すように、以下の(3)式により、予見距離Lxにおける自車両1の障害物に対する逸脱量(第2の逸脱量算)ySを算出して、第2のブレーキ制御量設定部5h、第2のステアリング制御量設定部5kに出力する。
yS=Lx・sin(α)−ys0 …(3)
このように、障害物に対する逸脱量算出部5cは、第2の逸脱量算出手段として設けられている。
【0023】
実ブレーキ制御量算出部5dは、ブレーキ制御装置10からブレーキH/Uのポンプ吐出圧PBが入力される。そして、以下の(4)式により、実際の(実)ブレーキ制御量ABaを算出し、ブレーキ負荷算出部5e、ステアリング制御量算出部5lに出力する。
ABa=CB・PB …(4)
ここで、CBは、ブレーキ諸元(ホイールシリンダ径等)によって定まる定数である。尚、ブレーキH/Uのポンプ吐出圧PBは、例えば、図5の特性図に示すように、ブレーキH/UにおけるポンプのリレーON後の経過時間により、正確に求められ、ブレーキ制御装置10から入力される。
【0024】
ブレーキ負荷算出部5eは、実ブレーキ制御量算出部5dから実ブレーキ制御量ABaが入力される。そして、例えば、以下の(5)式により、ブレーキへの負荷LB(k)を算出し、ブレーキ制御補正係数設定部5fに出力する。
LB(k)=max(LB(k-1)+ABa(k)−CL,0) …(5)
ここで、添え字(k)、(k-1)はサンプリングカウンタであり、添え字(k)は、今回の値であることを示し、添え字(k-1)は、前回の値であることを示す。また、CLは、予め設定したブレーキの冷却効果である。そして、この(5)式により、ブレーキへの負荷LB(k)は、0以上の値となる。
【0025】
ブレーキ制御補正係数設定部5fは、ブレーキ負荷算出部5eからブレーキへの負荷LB(k)が入力される。そして、予め設定しておいた、図6に示すような、ブレーキ負荷LB−ブレーキ制御補正係数KBのマップを参照して、ブレーキ制御補正係数KBを設定してブレーキ制御量算出部5iに出力する。ここで、図6からも明らかなように、ブレーキ制御補正係数KBは、0〜1の値に設定され、ブレーキ負荷LBが大きくなるほど小さな値に設定される。尚、図6のマップでは、ブレーキ制御補正係数KBは、0に設定される特性とはなっていないが、0まで小さくなる特性としても良い。
【0026】
第1のブレーキ制御量設定部5gは、画像認識装置4から交差角αが入力され、白線からの逸脱量算出部5bから白線からの逸脱量yLが入力される。そして、実験・計算等に基づいて予め設定しておいた、図7(a)に示すような、白線からの逸脱量yLと交差角αと第1のブレーキ制御量ABL0のマップを参照して、第1のブレーキ制御量ABL0を設定してブレーキ制御量算出部5i、ステアリング制御量算出部5lに出力する。尚、図7(a)中の、基準位置は、予め設定した位置であり、例えば、白線から道路中央側に一定距離離れた位置、或いは、白線の内側(道路中央側)端部である。また、第1のブレーキ制御量ABL0は、図7(a)に示したマップから設定するものに限るものではなく、予め設定しておいた算出式等から算出するようにしても良い。
【0027】
第1のブレーキ制御量ABL0は、図7(a)からも解るように、交差角αが大きいほど、すなわち、白線に対して直交していき、緊急度が高いと判断される場合ほど、大きな値に設定される。また、第1のブレーキ制御量ABL0は、白線からの逸脱量yLが大きい場合ほど、大きな値に設定される。
【0028】
また、図7(a)中の破線は、交差角αが小さいときの第1のステアリング制御量ASL0(後述する)を、第1のブレーキ制御量ABL0と比較できるように参考に示したもので、第1のステアリング制御量ASL0は、白線からの逸脱量yLが第1のブレーキ制御量ABL0が設定される逸脱量の領域よりも小さい逸脱量の領域から設定される特性となっている。
【0029】
このため、第1のステアリング制御量ASL0と第1のブレーキ制御量ABL0のみに着目して、自車両1の白線からの逸脱量yLが小→大→小と変化していくと、まず、白線からの逸脱量yLが小さいときには、第1のステアリング制御量ASL0が設定されて、ステアリング制御が行われる。
【0030】
次に、白線からの逸脱量yLが大きくなると、第1のステアリング制御量ASL0と第1のブレーキ制御量ABL0が設定され、ステアリング制御とブレーキ制御が行われる。
【0031】
そして、再び、白線からの逸脱量yLが小さくなると、第1のステアリング制御量ASL0が設定されて、ステアリング制御が行われる。このように、第1のブレーキ制御量設定部5gは、第1のブレーキ制御量設定手段として設けられている。
【0032】
第2のブレーキ制御量設定部5hは、障害物に対する逸脱量算出部5cから障害物に対する逸脱量ySが入力される。そして、実験・計算等に基づいて予め設定しておいた、図7(b)に示すような、障害物に対する逸脱量ySと第2のブレーキ制御量ABS0のマップを参照して、第2のブレーキ制御量ABS0を設定してブレーキ制御量算出部5i、ステアリング制御量算出部5lに出力する。尚、図7(b)中の、基準位置は、予め設定した位置であり、例えば、障害物端部から道路中央側に一定距離離れた位置である。また、第2のブレーキ制御量ABS0は、図7(b)に示したマップから設定するものに限るものではなく、予め設定しておいた算出式等から算出するようにしても良い。
【0033】
第2のブレーキ制御量ABS0は、図7(b)からも解るように、障害物に対する逸脱量ySが大きい場合ほど、大きな値に設定される。
【0034】
また、図7(b)中の破線は、第2のステアリング制御量ASS0(後述する)を、第2のブレーキ制御量ABS0と比較できるように参考に示したもので、第2のステアリング制御量ASS0は、障害物に対する逸脱量ySが第2のブレーキ制御量ABS0が設定される逸脱量の領域よりも小さい逸脱量の領域から設定される特性となっている。
【0035】
このため、第2のステアリング制御量ASS0と第2のブレーキ制御量ABS0のみに着目して、自車両1の障害物に対する逸脱量ySが小→大→小と変化していくと、まず、障害物に対する逸脱量ySが小さいときには、第2のステアリング制御量ASS0が設定されて、ステアリング制御が行われる。
【0036】
次に、障害物に対する逸脱量ySが大きくなると、第2のステアリング制御量ASS0と第2のブレーキ制御量ABS0が設定され、ステアリング制御とブレーキ制御が行われる。
【0037】
そして、再び、障害物に対する逸脱量ySが小さくなると、第2のステアリング制御量ASS0が設定されて、ステアリング制御が行われる。このように、第2のブレーキ制御量設定部5hは、第2のブレーキ制御量設定手段として設けられている。
【0038】
ブレーキ制御量算出部5iは、ブレーキ制御補正係数設定部5fからブレーキ制御補正係数KBが入力され、第1のブレーキ制御量設定部5gから第1のブレーキ制御量ABL0が入力され、第2のブレーキ制御量設定部5hから第2のブレーキ制御量ABS0が入力される。そして、以下の(6)式により、ブレーキ制御量ABを算出し、ブレーキ制御装置10に出力して、このブレーキ制御量ABに相当するブレーキ力を逸脱する側と反対側(反対側の前後輪、若しくは、反対側の前輪か後輪のどちらか一輪)の車輪に発生させる。すなわち、ブレーキ制御量算出部5iは、ブレーキ制御装置10と共に、ブレーキ制御手段として設けられている。
AB=(ABL0+ABS0)・KB …(6)
【0039】
すなわち、ブレーキ制御量ABは、第1のブレーキ制御量ABL0と第2のブレーキ制御量ABS0とを加算した値を、ブレーキへの負荷が大きいほど小さく設定されるブレーキ制御補正係数KBで小さくなるように補正して出力するようになっている。
【0040】
第1のステアリング制御量設定部5jは、画像認識装置4から交差角αが入力され、白線からの逸脱量算出部5bから白線からの逸脱量yLが入力される。そして、実験・計算等に基づいて予め設定しておいた、図8(a)に示すような、白線からの逸脱量yLと交差角αと第1のステアリング制御量ASL0のマップを参照して、第1のステアリング制御量ASL0を設定してステアリング制御量算出部5lに出力する。尚、図8(a)中の、基準位置は、予め設定した位置であり、例えば、白線から道路中央側に一定距離離れた位置、或いは、白線の内側(道路中央側)端部である。また、第1のステアリング制御量ASL0は、図8(a)に示したマップから設定するものに限るものではなく、予め設定しておいた算出式等から算出するようにしても良い。
【0041】
第1のステアリング制御量ASL0は、図8(a)からも解るように、交差角αが大きいほど、すなわち、白線に対して直交していき、緊急度が高いと判断される場合ほど、大きな値に設定される。また、第1のステアリング制御量ASL0は、白線からの逸脱量yLが大きい場合ほど、大きな値に設定される。
【0042】
また、図8(a)中の破線は、交差角αが小さいときの第1のブレーキ制御量ABL0を、第1のステアリング制御量ASL0と比較できるように参考に示したもので、前述の如く、第1のステアリング制御量ASL0は、白線からの逸脱量yLが第1のブレーキ制御量ABL0が設定される逸脱量の領域よりも小さい逸脱量の領域から設定される特性となっている。このように、第1のステアリング制御量設定部5jは、第1のステアリング制御量設定手段として設けられている。
【0043】
第2のステアリング制御量設定部5kは、障害物に対する逸脱量算出部5cから障害物に対する逸脱量ySが入力される。そして、実験・計算等に基づいて予め設定しておいた、図8(b)に示すような、障害物に対する逸脱量ySと第2のステアリング制御量ASS0のマップを参照して、第2のステアリング制御量ASS0を設定してステアリング制御量算出部5lに出力する。尚、図8(b)中の、基準位置は、予め設定した位置であり、例えば、障害物端部から道路中央側に一定距離離れた位置である。また、第2のステアリング制御量ASS0は、図8(b)に示したマップから設定するものに限るものではなく、予め設定しておいた算出式等から算出するようにしても良い。
【0044】
第2のステアリング制御量ASS0は、図8(b)からも解るように、障害物に対する逸脱量ySが大きい場合ほど、大きな値に設定される。
【0045】
また、図8(b)中の破線は、第2のブレーキ制御量ABS0を、第2のステアリング制御量ASS0と比較できるように参考に示したもので、前述の如く、第2のステアリング制御量ASS0は、障害物に対する逸脱量ySが第2のブレーキ制御量ABS0が設定される逸脱量の領域よりも小さい逸脱量の領域から設定される特性となっている。このように、第2のステアリング制御量設定部5kは、第2のステアリング制御量設定手段として設けられている。
【0046】
ステアリング制御量算出部5lは、実ブレーキ制御量算出部5dから実ブレーキ制御量ABaが入力され、第1のブレーキ制御量設定部5gから第1のブレーキ制御量ABL0が入力され、第2のブレーキ制御量設定部5hから第2のブレーキ制御量ABS0が入力され、第1のステアリング制御量設定部5jから第1のステアリング制御量ASL0が入力され、第2のステアリング制御量設定部5kから第2のステアリング制御量ASS0が入力される。そして、以下の(7)式により、ステアリング制御量ASを算出し、ステアリング制御装置11に出力して、このステアリング制御量ASに相当する付加舵力、又は、舵角を発生させるようになっている。すなわち、ステアリング制御量算出部5lは、ステアリング制御装置11と共に、ステアリング制御手段として設けられている。
AS=(ASL0+ASS0)+(ABL0+ABS0)−ABa …(7)
【0047】
すなわち、上述の(7)式の第2項(+(ABL0+ABS0)の演算項)は、図7(a)及び図7(b)のマップから求められる、逸脱を防止するのに必要なブレーキ制御量の演算項で、第3項(−ABaの演算項)は、ブレーキH/Uの応答特性や、ブレーキへの負荷等を考慮して減少して設定される実際のブレーキ制御量であり、この第2、第3の演算項により、ブレーキ制御で不足する逸脱を防止するのに必要なブレーキ制御量が表現されている。そして、この不足分をステアリング制御で補うべく第1の演算項に加算してステアリング制御量ASが算出されるようになっている。
【0048】
次に、上述の路外逸脱防止制御装置2で実行される路外逸脱防止制御プログラムを図3のフローチャートで説明する。
まず、ステップ(以下、「S」と略称)101で、必要なパラメータ、すなわち、白線、及び、路側障害物の座標位置情報、交差角α、現在の自車両の中心から白線までの距離yL0、現在の自車両の中心から障害物までの距離ys0、車速V0、ブレーキH/Uのポンプ吐出圧PBを読み込む。
【0049】
次いで、S102に進み、予見距離算出部5aで、前述の(1)式により、予見距離Lxを算出する。
【0050】
次に、S103に進み、白線からの逸脱量算出部5bで、前述の(2)式により、白線からの逸脱量yLを算出する。
【0051】
次いで、S104に進み、障害物に対する逸脱量算出部5cで、前述の(3)式により、障害物に対する逸脱量ySを算出する。
【0052】
次に、S105に進み、実ブレーキ制御量算出部5dで、前述の(4)式により、実ブレーキ制御量ABaを算出する。
【0053】
次いで、S106に進み、ブレーキ負荷算出部5eで、前述の(5)式により、今回のブレーキへの負荷LB(k)を算出する。
【0054】
次に、S107に進み、ブレーキ制御補正係数設定部5fで、ブレーキ負荷LB−ブレーキ制御補正係数KBのマップ(図6)を参照して、ブレーキ制御補正係数KBを設定する。
【0055】
次いで、S108に進み、第1のブレーキ制御量設定部5gで、図7(a)のマップを参照して、第1のブレーキ制御量ABL0を設定し、第2のブレーキ制御量設定部5hで、図7(b)のマップを参照して、第2のブレーキ制御量ABS0を設定する。
【0056】
次に、S109に進み、ブレーキ制御量算出部5iで、前述の(6)式により、ブレーキ制御量ABを算出し、クルーズコントロールが作動していない場合に、ブレーキ制御装置10に出力して、このブレーキ制御量ABに相当するブレーキ力を逸脱する側と反対側(反対側の前後輪、若しくは、反対側の前輪か後輪のどちらか一輪)の車輪に発生させる。
【0057】
次いで、S110に進み、第1のステアリング制御量設定部5jで、図8(a)のマップを参照して、第1のステアリング制御量ASL0を設定し、第2のステアリング制御量設定部5kで、図8(b)のマップを参照して、第2のステアリング制御量ASS0を設定する。
【0058】
次に、S111に進み、ステアリング制御量算出部5lで、前述の(7)式により、ステアリング制御量ASを算出し、ステアリング制御装置11に出力して、このステアリング制御量ASに相当する付加舵力、又は、舵角を発生させる
このように、本発明の実施の形態によれば、自車両の白線からの逸脱量yL、自車両の障害物に対する逸脱量ySを算出し、白線からの逸脱を防止する第1のブレーキ制御量ABL0を、白線からの逸脱量yLに応じて設定し、障害物に対する逸脱を防止する第2のブレーキ制御量ABS0を、障害物に対する逸脱量ySに応じて設定し、白線からの逸脱を防止する第1のステアリング制御量ASL0を、第1のブレーキ制御量ABL0が設定される逸脱量の領域よりも小さな逸脱量の領域で白線からの逸脱量yLに応じて設定し、障害物に対する逸脱を防止する第2のステアリング制御量ASS0を、第2のブレーキ制御量ABS0が設定される逸脱量の領域よりも小さな逸脱量の領域で障害物に対する逸脱量ySに応じて設定する。そして、第1のブレーキ制御量ABL0と第2のブレーキ制御量ABS0とを加算した値をブレーキへの負荷が大きいほど小さくなるように補正してブレーキ制御量ABを算出し、クルーズコントロールが作動していない場合に、ブレーキ制御装置10に出力して、このブレーキ制御量ABに相当するブレーキ力を逸脱する側と反対側の車輪に発生させる。また、第1のステアリング制御量ASL0と第2のステアリング制御量ASS0とを加算した値に、第1のブレーキ制御量ABL0と第2のブレーキ制御量ABS0の和に満たないブレーキ制御量の不足分を加えてステアリング制御量ASを算出し、ステアリング制御装置11に出力して、このステアリング制御量ASに相当する付加舵力、又は、舵角を発生させる。
【0059】
このため、自車両1の白線からの逸脱量yLが小→大→小と変化していくと、まず、白線からの逸脱量yLが小さいときには、ステアリング制御が行われ、次に、白線からの逸脱量yLが大きくなると、ステアリング制御とブレーキ制御が行われ、そして、再び、白線からの逸脱量yLが小さくなると、ステアリング制御が行われる。また、ブレーキ制御により設定されるブレーキ制御量は、ブレーキに対する付加を考慮して設定されるので、ブレーキに対して過度な負荷が加わることなく、ブレーキ装置により発生する振動や騒音も抑制することができる。そして、ブレーキ制御の抑制で不足する制御量はステアリング制御で的確に補って確実に車両の路外逸脱を防止することが可能となっている。こうして、ステアリング制御とブレーキ制御とによりドライバに対して現状の走行状態を的確に伝達しつつ、ドライバの操作やクルーズコントロールと干渉することなく適切に車両の路外逸脱を防止することが可能となっている。
【0060】
尚、白線が検出されないような走行路では、ナビゲーション装置等の地図情報を基に、或いは、検出された路側障害物の位置情報を基に、仮想的な白線を設定し、該仮想的な白線を基に制御するようにしても良い。また、路側障害物が検出されない場合は、予め設定しておいた値(例えば、大きな値)を基に制御するようにしても良い。
【符号の説明】
【0061】
1 自車両
2 路外逸脱防止制御装置
3 ステレオカメラ(道路情報検出手段)
4 画像認識装置(道路情報検出手段)
5 制御ユニット
5a 予見距離算出部
5b 白線からの逸脱量算出部(第1の逸脱量算出手段)
5c 障害物に対する逸脱量算出部(第2の逸脱量算出手段)
5d 実ブレーキ制御量算出部
5e ブレーキ負荷算出部
5f ブレーキ制御補正係数設定部
5g 第1のブレーキ制御量設定部(第1のブレーキ制御量設定手段)
5h 第2のブレーキ制御量設定部(第2のブレーキ制御量設定手段)
5i ブレーキ制御量算出部(ブレーキ制御手段)
5j 第1のステアリング制御量設定部(第1のステアリング制御量設定手段)
5k 第2のステアリング制御量設定部(第2のステアリング制御量設定手段)
5l ステアリング制御量算出部(ステアリング制御手段)
6 車速センサ
10 ブレーキ制御装置(ブレーキ制御手段)
11 ステアリング制御装置(ステアリング制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも路側の障害物情報と白線情報を検出する道路情報検出手段と、
上記白線情報に基づいて自車両の白線からの逸脱量を第1の逸脱量として算出する第1の逸脱量算出手段と、
上記障害物情報に基づいて自車両の障害物に対する逸脱量を第2の逸脱量として算出する第2の逸脱量算出手段と、
自車両の白線からの逸脱を防止するブレーキ制御量を第1のブレーキ制御量として、上記第1の逸脱量に応じて設定する第1のブレーキ制御量設定手段と、
自車両の障害物に対する逸脱を防止するブレーキ制御量を第2のブレーキ制御量として、上記第2の逸脱量に応じて設定する第2のブレーキ制御量設定手段と、
自車両の白線からの逸脱を防止するステアリング制御量を第1のステアリング制御量として、上記第1のブレーキ制御量が設定される逸脱量の領域よりも小さな逸脱量の領域から上記第1の逸脱量に応じて設定する第1のステアリング制御量設定手段と、
自車両の障害物に対する逸脱を防止するステアリング制御量を第2のステアリング制御量として、上記第2のブレーキ制御量が設定される逸脱量の領域よりも小さな逸脱量の領域から上記第2の逸脱量に応じて設定する第2のステアリング制御量設定手段と、
少なくとも上記第1のブレーキ制御量と上記第2のブレーキ制御量とに基づいてブレーキ制御量を算出してブレーキ制御を実行するブレーキ制御手段と、
少なくとも上記第1のステアリング制御量と上記第2のステアリング制御量とに基づいてステアリング制御量を算出してステアリング制御を実行するステアリング制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両の路外逸脱防止制御装置。
【請求項2】
上記ブレーキ制御手段は、ブレーキ手段への負荷を算出し、ブレーキ手段への負荷が大きいほどブレーキ制御量を小さく補正してブレーキ制御を実行することを特徴とする請求項1記載の車両の路外逸脱防止制御装置。
【請求項3】
上記ステアリング制御手段は、上記第1のステアリング制御量と上記第2のステアリング制御量の和に、上記第1のブレーキ制御量と上記第2のブレーキ制御量の和に満たないブレーキ制御量の不足分を加えてステアリング制御量を算出することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両の路外逸脱防止制御装置。
【請求項4】
上記第1のブレーキ制御量設定手段は、自車両が白線と交差する交差角が大きいほど上記第1のブレーキ制御量も大きな値に設定することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の車両の路外逸脱防止制御装置。
【請求項5】
上記第1のステアリング制御量設定手段は、自車両が白線と交差する交差角が大きいほど上記第1のステアリング制御量も大きな値に設定することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載の車両の路外逸脱防止制御装置。
【請求項6】
上記ブレーキ制御量設定手段は、クルーズコントロールの作動中にはブレーキ制御を禁止することを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一つに記載の車両の路外逸脱防止制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−57038(P2011−57038A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207343(P2009−207343)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】