説明

車両停止保持装置

【課題】パーキングロック機構のロック状態を解除した時に、車両の予期せぬ移動を防止する車両停止保持装置の提供。
【解決手段】車両が所定の条件を満足した時、コントローラ3は車両が停止状態にあると判断し、シフト機構13によってシャフトロック機構14を作動させ、自動変速機1のアウトプットシャフト11を機械的にロックし、車両を停止状態で保持する。シャフトロック機構14によって、車両が停止保持された状態にある場合において、運転者がアクセルペダル97を操作すると、コントローラ3はシャフトロック機構14によるアウトプットシャフト11のロックを解除するとともに、ブレーキECU5に対して加圧要求を発する。加圧要求を受けたブレーキECU5は、液圧ブレーキ装置6を作動させて、ブレーキペダルの操作に拘わらず、ブレーキ液圧をホイルシリンダに供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、停車時に車両を停止保持する車両停止保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において、所定の条件が成立した場合に、自動変速機の出力軸をロックさせて、車両を停止状態で保持する自動パーキング装置に関する従来技術があった(例えば、特許文献1参照)。
この自動パーキング装置は、自動変速機の出力軸をロックするパーキングロック機構と、パーキングロック機構を作動させる電動モータを含んだアクチュエータとを有し、上述したように車両に所定の条件が成立した場合に車両が停止したと判断し、コントローラがアクチュエータを介してパーキングロック機構を作動させる。これによって、運転者がロック操作をしなくても、自動的に車両を停止状態において保持することができる。
【0003】
この従来技術による自動パーキング装置は、ロック部材が自動変速機の出力軸に固定されたギヤと噛み合うことにより出力軸をロックするため、摩擦材によって車輪をロックするパーキングブレーキ等に比べて、車両に発生する移動荷重に対する保持力を増大させることができ、車両の駆動力等による引きずりが発生せず、車両を確実に移動不能な状態にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6―72296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した従来技術によれば、例えば、アクセルペダルを操作したことを検出して、コントローラが運転者に車両を発進させる意図があると判断すると、アクチュエータを作動させ、自動パーキング装置による出力軸のロックを解除している。
ここで、自動パーキング装置の解除時に、車両に移動荷重が発生している状態を想定した場合、出力軸のロック解除と同時に車両が突然に移動を開始することが考えられる。例えば、車両が前後方向に傾斜した道路上にある場合には、自動パーキング装置の解除とともに、車両が後方にずり下がったり、前方に飛び出たりすることがあり得る。この車両の突然の移動は、運転者の予期せぬものであり、車両の移動によって衝突等が発生するほどではなくても、少なくとも運転者に動揺を与えることになる。
【0006】
上述したような自動パーキング装置を有さない従前の車両であれば、停止状態から車両を発進させる場合、ブレーキペダルを踏み込みながら自動変速機の変速レンジをPレンジまたはNレンジからDレンジへとシフトさせるため、車両に予期せぬ移動が発生することはなく、これまで述べてきた課題は自動パーキング装置を備えた車両に特有のものであった。
【0007】
また、上述したような自動パーキング装置においては、自動変速機の出力軸をロック状態にする位置と、解除状態にする位置のうちのいずれかを選択する機構であるため、その解除時に車両が一気に移動可能な状態となり、上述した不具合現象を増長させていた。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、パーキングロック機構のロック状態を解除した時に、車両の予期せぬ移動を防止する車両停止保持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る車両停止保持装置の発明の構成は、車両の可動部材を機械的にロックして停止した状態で保持させる停止保持位置と、可動部材のロックを解除して車両を移動可能な状態にする保持解除位置との間で作動可能なパーキングロック機構と、パーキングロック機構を作動させる駆動機構と、車両が停止状態にあることを検出する停車検出手段と、停車検出手段によって、車両が停止状態にあることが検出された場合に、駆動機構を制御してパーキングロック機構を作動させ車両を停止保持させる停止保持制御手段と、車両が停止保持された状態にある場合において、運転者が車両を発進させる意図を有することを検出する発進意図検出手段と、停止保持制御手段によって作動制御され、ブレーキ操作部材の操作に拘わらず、ブレーキ液圧を車輪ブレーキに供給することにより車両を停止させる液圧ブレーキ装置と、を備え、停止保持制御手段は、発進意図検出手段が、運転者が車両を発進させる意図を有することを検出した場合に、パーキングロック機構を作動させて車両の停止保持を解除するとともに、液圧ブレーキ装置を作動させて、車輪ブレーキに液圧を供給することである。
【0009】
ここで、「運転者が車両を発進させる意図を有することが検出された場合に、車両の停止保持を解除するとともに、車輪ブレーキに液圧を供給する」というのは、必ずしも、車両の停止保持の解除と車輪ブレーキへの液圧の供給とが全く同時に行われることを意図しているわけではない。すなわち、車両の停止保持の解除と車輪ブレーキへの液圧の供給とが、全く同時に行われるものが本発明に含まれるのは当然のことながら、双方の間に多少の時間的なずれがあっても、車輪ブレーキへの液圧の供給によって、パーキングロック機構の解除時の車両の予期せぬ移動を防止することができるものであれば、本発明の範囲に含まれるものである。
【0010】
請求項2に係る発明の構成は、請求項1の車両停止保持装置において、停止保持制御手段は、運転者が車両を発進させる意図を有することが検出された場合に、液圧ブレーキ装置を作動させて、車輪ブレーキを所定時間だけ昇圧させることである。
【0011】
請求項3に係る発明の構成は、請求項1の車両停止保持装置において、車両の前後方向の傾斜角を検出する傾斜角検出手段を備え、停止保持制御手段は、運転者が車両を発進させる意図を有することが検出された場合に、傾斜角検出手段によって検出された車両の前後方向の傾斜角に基づいて、車両を停止保持させるために必要な目標ブレーキ液圧を演算し、目標ブレーキ液圧まで車輪ブレーキを昇圧させることである。
【0012】
請求項4に係る発明の構成は、請求項1の車両停止保持装置において、車両の前後方向の傾斜角を検出する傾斜角検出手段と、車両の駆動トルクを検出するトルク検出手段と、を備え、停止保持制御手段は、運転者が車両を発進させる意図を有することが検出された場合に、傾斜角検出手段によって検出された車両の前後方向の傾斜角に基づいて、車両を停止保持させるために必要な目標駆動トルクを演算するとともに、トルク検出手段によって検出された車両の実際の駆動トルクが、目標駆動トルクに対して不足しているトルク不足量を補償するような目標補償ブレーキ液圧を算出し、目標補償ブレーキ液圧まで車輪ブレーキを昇圧させることである。
【0013】
請求項5に係る発明の構成は、請求項1乃至4のうちのいずれかの車両停止保持装置において、パーキングロック機構を、自動変速機の駆動部材とともに回転するギヤ部材に対し係合する変速機ロック機構としたことである。
【0014】
請求項6に係る発明の構成は、請求項1乃至5のうちのいずれかの車両停止保持装置において、発進意図検出手段は、車両のアクセルペダルの操作量を検出する部材としたことである。
【0015】
請求項7に係る発明の構成は、請求項1乃至6のうちのいずれかの車両停止保持装置において、停止保持制御手段は、運転者が車両を発進させる意図を有することが検出された場合に、車輪ブレーキに所定のブレーキ力が発生するまで車輪ブレーキに液圧を供給した後、車輪ブレーキの液圧を漸次減少させていくことである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る車両停止保持装置によれば、発進意図検出手段が、運転者が車両を発進させる意図を有することを検出した場合に、パーキングロック機構を作動させて車両の停止保持を解除するとともに、液圧ブレーキ装置を作動させて、車輪ブレーキに液圧を供給することによって、停止保持を解除した時の車両の予期せぬ突然の移動を防止することができる。
また、パーキングロック機構は、車両の可動部材を機械的にロックして停止保持させるため、可動部材を油圧機構によりロックさせるもののように、長時間、高圧にさらされることがなく、油圧もれによる停止保持力の低下といった問題が発生しない。
【0017】
請求項2に係る車両停止保持装置によれば、運転者が車両を発進させる意図を有することが検出された場合に、液圧ブレーキ装置を作動させて、車輪ブレーキを所定時間だけ昇圧させることによって、容易に車輪ブレーキの液圧を車両の移動を防ぐ液圧まで昇圧させることができる。
【0018】
請求項3に係る車両停止保持装置によれば、車両の前後方向の傾斜角に基づいて演算された目標ブレーキ液圧まで車輪ブレーキを昇圧させることによって、停止保持を解除した時に車両が急な斜面にある場合にも、車両の後方へのずり下がり、あるいは前方への飛び出しといった予期せぬ移動を防止することができる。
また、停止保持を解除した時に車両が緩やかな斜面にある場合にも、傾斜角に応じて目標ブレーキ液圧が設定されるため、必要以上に車輪ブレーキの液圧が上昇することがなく、目標ブレーキ液圧に到達する時間も短くできるため、車両の発進がもたつくことを防止することができる。
【0019】
請求項4に係る車両停止保持装置によれば、車両の実際の駆動トルクが、車両の前後方向の傾斜角に基づいて演算された目標駆動トルクに対して不足しているトルク不足量を補償するような、目標補償ブレーキ液圧まで車輪ブレーキを昇圧させることによって、停止保持を解除した時に車両が上り斜面にあり、かつ、傾斜角に対する車両の駆動トルクが不足している場合にも、車両の進行方向後方へのずり下がりを防止することができる。
【0020】
請求項5に係る車両停止保持装置によれば、パーキングロック機構を、自動変速機の駆動部材とともに回転するギヤ部材に対し係合する変速機ロック機構としたことによって、車両に発生する移動荷重に対する保持力を増大させることができ、車両の停止保持状態において、車両のずり下がり等を防ぎ、確実に移動不能な状態にすることができる。
【0021】
請求項6に係る車両停止保持装置によれば、発進意図検出手段を、車両のアクセルペダルの操作量を検出する部材としたことによって、運転者が車両を発進させる意図を有することを確実に検出することができる。
また、アクセルペダルの操作量を検出する部材は、通常、原動機の作動制御等のために車両に備えられており、車両を発進させる意図を有することを検出するために、新たにセンサ等を設ける必要がない。
【0022】
請求項7に係る車両停止保持装置によれば、運転者が車両を発進させる意図を有することが検出された場合に、所定のブレーキ力が発生するまで車輪ブレーキに液圧を供給した後、車輪ブレーキの液圧を漸次減少させていくことによって、車両を停止保持させる液圧ブレーキ装置のブレーキ力の消滅と、車両の推進力の発生とのつながりを円滑にし、車両がスムーズに発進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態1による車両停止保持装置を使用した車両システムを簡略的に示したブロック図
【図2】図1に示した液圧ブレーキ装置を示した図
【図3】実施形態1による車両停止保持装置の制御フローチャートを示した図
【図4】斜面にある車両に働く荷重を示した簡略図
【図5】実施形態1による車両停止保持装置において、自動パーキングが解除した時にホイルシリンダに発生する液圧の時間的変化を示した図
【図6】実施形態2による車両停止保持装置の制御フローチャートを示した図
【図7】実施形態2による車両停止保持装置において、自動パーキングが解除した時にホイルシリンダに発生する液圧の時間的変化を示した図
【図8】実施形態3による車両停止保持装置の制御フローチャートを示した図
【発明を実施するための形態】
【0024】
<実施形態1>
図1乃至図5に基づき、本発明の実施形態1による自動パーキング装置(車両停止保持装置に該当する)について説明する。車両の自動変速機1は、トルクコンバータ(図示せず)を備えた通常のオートマチックトランスミッションであるが、無段変速機(CVT)を適用してもよい。自動変速機1のトルクコンバータには、エンジン2のフライホイール(図示せず)が連結されており、自動変速機1は、エンジン2の駆動力を所定の変速段によりアウトプットシャフト11(可動部材および自動変速機の駆動部材に該当する)に出力する。アウトプットシャフト11の回転は、図示しないデファレンシャルを介して車両の駆動輪RL,RR(図2示)へと伝達される。
【0025】
自動変速機1は、シフトレンジを切り換えるためのコントロールバルブ装置12を備えており、コントロールバルブ装置12は電動モータを含んだシフト機構13(駆動機構に該当する)によって作動される。コントロールバルブ装置12は、図示しないスプールバルブを有し、スプールバルブが軸方向に移動することにより、供給されているライン油圧の流れを切り換え、自動変速機1の各摩擦係合装置の係合状態を切り換える。コントロールバルブ装置12が作動されることにより、自動変速機1において所定の変速段が選択される。
【0026】
シフト機構13にはシャフトロック機構14(パーキングロック機構に該当する)が接続されており、シフト機構13はシャフトロック機構14をも作動させる。図1に示すように、シャフトロック機構14はプッシュロッド14aを有しており、シャフトロック機構14の作動によって、プッシュロッド14aが図1において軸方向右方に突出した位置と、左方に引っ込んだ位置(戻り位置、図1示)とを選択することができる。
【0027】
プッシュロッド14aは、その突出位置において、アウトプットシャフト11と一体に回転するロックギヤ15(ギヤ部材に該当する)と噛合し、アウトプットシャフト11を回転不能にする。また、プッシュロッド14aは戻り位置となることにより、ロックギヤ15との係合が解除され、アウトプットシャフト11を回転可能にする。すなわち、シャフトロック機構14は、アウトプットシャフト11を機械的にロックして、車両を停止した状態で保持する停止保持位置と、アウトプットシャフト11のロックを解除して車両を移動可能な状態にする保持解除位置との間で作動する。
自動変速機1は回転速度センサ91を備えており、アウトプットシャフト11の回転速度から車両速度を検出している。また、自動変速機1はレンジ位置センサ92を備え、コントロールバルブ装置12のスプールバルブの位置からシフトレンジの位置を検出している。
【0028】
コントローラ3(後述するブレーキECU5とともに、停止保持制御手段に該当する)は、マイクロプロセッサを主体に構成され、演算部、入出力部、記憶部、制御部を備えている。コントローラ3はシフト機構13と接続され、シフト機構13の作動を制御している。コントローラ3には、上述した回転速度センサ91およびレンジ位置センサ92からの検出信号が入力されている。
【0029】
また、コントローラ3には、シフトレバー装置93に設けられたシフトレバースイッチ94からの検出信号が入力され、運転者の操作によるシフトレバー装置93のシフト位置を検出可能に形成されている。コントローラ3は、シフトレバースイッチ94、回転速度センサ91、レンジ位置センサ92および後述するアクセルペダルセンサ98からの検出信号に基づいてシフト機構13を制御し、コントロールバルブ装置12を所定のシフトレンジの状態にする。
【0030】
コントローラ3は、通常時はシフトレバー装置93のシフト位置に応じたシフトレンジに自動変速機1を制御するが、ある条件下ではシフトレバー装置93のシフト位置に関係なくシフトレンジを設定する。
また、シフトレバースイッチ94によって、シフトレバー装置93のシフト位置がPレンジにあることが検出された場合、コントローラ3はシフト機構13を制御し、シャフトロック機構14によりアウトプットシャフト11をロックする。その後、シフトレバー装置93のシフト位置がPレンジ以外に移動したことが検出された場合、コントローラ3は、シャフトロック機構14によるアウトプットシャフト11のロックを解除する。
【0031】
また、コントローラ3は、シフトレバー装置93のシフト位置がPレンジ以外にある時に、後述するように、入力された検出信号により車両の停止状態が検出された場合、シフト機構13によってシャフトロック機構14を作動させ、アウトプットシャフト11をロックする(自動パーキングが作動した状態)。
また、コントローラ3は、自動パーキングが作動している時に、アクセルペダルセンサ98からの検出信号により運転者が車両を発進させる意図を有することが検出された場合、シフト機構13によってシャフトロック機構14を作動させ、アウトプットシャフト11のロックを解除する(自動パーキングが解除した状態)。
【0032】
また、車両には、静電容量型あるいはポテンショメータを利用した傾斜角センサ95(傾斜角検出手段に該当する)が取り付けられており、少なくとも車両の前後方向の傾斜角度を検出している。傾斜角センサ95はコントローラ3と接続され、その検出信号がコントローラ3に入力されている。
【0033】
さらに、車両には、自動パーキング解除スイッチ96が設けられ、自動パーキング解除スイッチ96はコントローラ3と接続されている。上述した特許文献1にも記載されているように、車両が牽引されているような場合には自動パーキングが作動する可能性があり、当該車両の円滑な牽引が妨げられるため、こういった場合に、運転者の意思によって自動パーキングの作動を禁止するために、自動パーキング解除スイッチ96は設けられている。運転者によって自動パーキング解除スイッチ96が操作されることにより、コントローラ3による自動パーキングの作動は実行されなくなる。
【0034】
エンジン2と接続されたエンジンECU4は、コントローラ3と同様の制御装置であり、コントローラ3と接続されている。エンジンECU4は、アクセルペダル97の操作量を検出するアクセルペダルセンサ98、上述した回転速度センサ91およびレンジ位置センサ92等からの検出信号に基づいて、エンジン2の作動を制御している。エンジンECU4は、エンジン2の回転数、アクセルペダル97の操作量および自動変速機1のシフトレンジの位置等から、常に駆動輪RL,RRの発生する駆動トルクを認識しており、トルク検出手段に該当する。尚、上述した回転速度センサ91、シフトレバースイッチ94、自動パーキング解除スイッチ96およびアクセルペダルセンサ98は停車検出手段に該当し、アクセルペダルセンサ98は発進意図検出手段にも該当する。
【0035】
ブレーキECU5はコントローラ3と同様の制御装置であり、コントローラ3および液圧ブレーキ装置6と接続されている。ブレーキECU5はコントローラ3と通信し、コントローラ3からの指示信号に基づき、液圧ブレーキ装置6の作動を制御し、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4(図2示)にブレーキ液圧を供給する。尚、後述するように、ブレーキECU5には、液圧ブレーキ装置6に設けられた液圧センサ79からの検出信号が入力されている。
【0036】
図2に示すように、液圧ブレーキ装置6は、ブレーキ液圧制御を行うための公知のものであり、常開型の電磁弁である増圧制御弁61,62,63,64および常閉型の電磁弁である減圧制御弁65,66,67,68、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4(車輪ブレーキに該当する)から排出されたブレーキ液を収容する調圧リザーバ69,71、調圧リザーバ69,71内のブレーキ液をマスタシリンダ80側に戻す還流ポンプ72,73、還流ポンプ72,73を駆動するモータ76、マスタシリンダ80と増圧制御弁61,62,63,64との間に配されたカット弁77,78および液圧センサ79から構成されている。
【0037】
液圧ブレーキ装置6は後輪駆動車両に多用される前後配管により形成されているが、これに限定されるべきものではない。
液圧ブレーキ装置6外のマスタシリンダ80には、ブレーキブースタ81およびプッシュロッド82を介してブレーキペダル83(ブレーキ操作部材に該当する)が連結されている。また、マスタシリンダ80の上方には、ブレーキ液を貯蔵したリザーバタンク84が取り付けられている。ブレーキペダル83が操作されることにより、マスタシリンダ80はプライマリ室80aおよびセカンダリ室80b内に液圧を発生させる。
【0038】
プライマリ室80aには、ブレーキ配管である主管路Lpが接続されている。また、セカンダリ室80bには、ブレーキ配管である主管路Lsが接続されている。主管路Lpには、一対の増圧管路Lp1,Lp2が接続されており、増圧管路Lp1,Lp2は、それぞれ左後輪RLのホイルシリンダWC3および右後輪RRのホイルシリンダWC4に接続されている。また、主管路Lsには、一対の増圧管路Ls1,Ls2が接続されており、増圧管路Ls1,Ls2は、それぞれ左前輪FLのホイルシリンダWC1および右前輪FRのホイルシリンダWC2に接続されている。
【0039】
図2に示したように、主管路Lpを介してプライマリ室80aに接続されたブレーキ回路と、主管路Lsを介してセカンダリ室80bに接続されたブレーキ回路は対称形であるため、以下、プライマリ室80aに接続された後輪RL、RR側のブレーキ回路のみについて説明する。
増圧管路Lp1,Lp2には、それぞれ増圧制御弁63,64が配設されるとともに、それぞれホイルシリンダWC3,WC4から主管路Lpへ向けたブレーキ液の流れを許容する逆止弁63a,64aが、増圧制御弁63,64に対し並列に配設されている。増圧制御弁63,64はブレーキECU5と接続され、ブレーキECU5によりそれぞれ開閉制御される。
【0040】
増圧管路Lp1の増圧制御弁63とホイルシリンダWC3との間の部分には、減圧管路Lp3が接続されている。減圧管路Lp3は、増圧管路Lp1と調圧リザーバ71とを接続している。減圧管路Lp3には、減圧制御弁67が配設されている。減圧制御弁67はブレーキECU5と接続され、ブレーキECU5により開閉制御される。
また、増圧管路Lp2の増圧制御弁64とホイルシリンダWC4との間の部分には、減圧管路Lp4が接続されている。減圧管路Lp4は、増圧管路Lp2と調圧リザーバ71とを接続している。減圧管路Lp4には、減圧制御弁68が配設されている。減圧制御弁68はブレーキECU5と接続され、ブレーキECU5により開閉制御される。
【0041】
調圧リザーバ71は、還流管路Lp5により主管路Lpと接続されている。また、調圧リザーバ71は、吸引管路Lp6によりプライマリ室80aと接続されている。調圧リザーバ71は、プライマリ室80aからの液圧によってピストン71aが(図2において下方に)移動してマスタシリンダ80との連通が断たれ、ブレーキペダル83の無効ストロークを低減している。
還流管路Lp5には還流ポンプ73が設けられており、還流ポンプ73と主管路Lpとの間の部分には、調圧リザーバ71から主管路Lpへ向けたブレーキ液の流れを許容する逆止弁75aが配設されている。還流ポンプ73は、ブレーキECU5により制御されて、調圧リザーバ71内のブレーキ液を主管路Lpに還流させている。
【0042】
また、主管路Lpのプライマリ室80aと増圧制御弁63,64との間には、カット弁78が設けられている。カット弁78は常開型のソレノイド制御弁であって、ブレーキECU5と接続され、ブレーキECU5によって制御される。カット弁78の設定圧は、供給電流によって可変である。
また、カット弁78には、プライマリ室80aから増圧制御弁63,64へ向けたブレーキ液の流れを許容する逆止弁78aが、カット弁78に対し並列に配設されている。
【0043】
液圧ブレーキ装置6は、ブレーキECU5によって制御され、図示しない各車輪速センサの検出値に基づき、マスタシリンダ80が発生した液圧を調圧してホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に供給し、アンチスキッド制御を実行する。
また、液圧ブレーキ装置6は、コントローラ3と通信するブレーキECU5によって制御され、コントローラ3が、シャフトロック機構14とロックギヤ15との係合を解除し、アウトプットシャフト11を回転可能にする場合、カット弁77,78を閉状態とした後、還流ポンプ72,73によって、吸引管路Lp6,Ls6および還流管路Lp5、Ls5を介してリザーバタンク84内のブレーキ液を吸引して昇圧し、ブレーキペダル83の操作がなくても、増圧制御弁61,62,63,64を介してホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に液圧を供給する。この時、増圧制御弁61,62,63,64は終始開状態が維持され、減圧制御弁65,66,67,68は終始閉状態が維持されている。
【0044】
その後、車輪FL,FR,RL,RRに所定のブレーキ力が発生すると、還流ポンプ72,73の作動を停止し、増圧制御弁61,62,63,64を開状態とし、減圧制御弁65,66,67,68を閉状態としたまま、カット弁77,78を所定の開状態にする。これによって、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4内のブレーキ液はカット弁77,78を介してマスタシリンダ80側へと戻されて、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4内の液圧が所定の勾配によって次第に低下していき、やがて、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4内の液圧は0となる。
【0045】
車輪FL,FR,RL,RRに所定のブレーキ力が発生した後、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4内の液圧を低下させる場合、還流ポンプ72,73の作動を停止させるとともに、減圧制御弁65,66,67,68を適宜開状態にすることにより、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4内の液圧を調圧リザーバ69,71に排出してもよい。
【0046】
次に、図3乃至図5に基づいて、実施形態1のコントローラ3およびブレーキECU5による自動パーキング装置の制御方法について説明する。コントローラ3は、図3に示した制御プログラムを所定のタイミングで繰り返して実行する。尚、図3に示したフローチャートの初期状態において、パーキングフラグFLPはオフされている。
最初に、自動パーキングフラグFLPがオンしているか否かを判定する(ステップS301)。自動パーキングフラグFLPがオンしておらず、現在、自動パーキングが解除した状態にあると判定された場合、以下、ステップS302、ステップS303、ステップS304、ステップS305において、自動パーキングを作動させるか否かの判定を順次行う。
【0047】
ステップS302乃至ステップS305において判定される車両の条件は、以下のものである。
(1)シフトレバー装置93のシフト位置がPレンジではないこと。
(2)自動パーキング解除スイッチ96がオフであること。
(3)アクセルペダル97が操作されていないこと。
(4)車速Vが所定値V0未満であること。
尚、上記(1)の条件を入れた理由は、運転者の操作によって、シフトレバー装置93のシフト位置がPレンジにある場合には、既に、コントローラ3がシフト機構13を制御し、シャフトロック機構14によりアウトプットシャフト11をロックしており、自動パーキングを作動させる意味合いに乏しいためである。
また、上記(2)の条件を入れた理由は、前述したとおりである。
【0048】
上述した車両条件をすべて満たしている場合、ステップS306において、停止タイマTvが所定時間T0より大きいか否かが判定される。初回は停止タイマTvは0に設定されているため、ステップS309へと進んで停止タイマTvがインクリメントされた後、シフトレバー装置93のシフト位置によってコントロールバルブ装置12が作動される(ステップS310)。
【0049】
上述した(1)乃至(4)の条件をすべて満足した状態がT0より長い時間だけ継続した場合、車両が停止状態にあると判断し、ステップS307において、コントローラ3はシフト機構13を制御してコントロールバルブ装置12を作動させ、Pレンジ位置へと切り換える。また、コントローラ3はシフト機構13を制御してシャフトロック機構14を作動させ、アウトプットシャフト11をロックし、車両を停止した状態で保持する(自動パーキング作動状態)。それとともに、自動パーキングが作動状態にあることを示すパーキングフラグFLPをオンし、加圧タイマTrおよび停止タイマTvはクリアされる。
上述した(1)乃至(4)の条件のうち少なくとも一つが満足されない場合、ステップS308において、停止タイマTvがクリアされた後、コントロールバルブ装置12が運転者の操作によるシフトレバー装置93のシフト位置に作動される(ステップS310)。
【0050】
自動パーキングが作動した後は、パーキングフラグFLPがオンしているため、ステップS301からステップS311へと進む。ステップS311において、シフトレバー装置93のシフト位置がPレンジに切り換えられたと判定されると、ステップS323へと進み、コントロールバルブ装置12をPレンジ位置に切り換え(ステップS307において既に切り換わっているため、正確にはPレンジ位置が継続される)、パーキングフラグFLP、加圧タイマTrおよび停止タイマTvをすべてクリアする。これによって、自動パーキングは解除され、後々、シャフトロック機構14のロック状態が不用意に解除されることがなくなる。
【0051】
シフトレバー装置93のシフト位置がPレンジに切り換えられることがない場合、ステップS311からステップS312へと進み、加圧タイマTrが0より大きいか否かが判定される。加圧タイマTrは、ステップS307においてクリアされているため、ステップS313へと進んで、アクセルペダルセンサ98によってアクセルペダル97の操作があったか否かが判定される。アクセルペダル97の操作がないと判定された場合、ステップS314において、加圧タイマTrが0のままとされる。
【0052】
ステップS313において、アクセルペダル97の操作があり、運転者が車両を発進させる意図を有することが検出されたと判定されると(通常、この時点においてシフトレバー装置93のシフト位置は、既にDレンジあるいはRレンジ等の走行可能なレンジ位置にある)、ステップS315において、加圧タイマTrがインクリメントされた後、加圧タイマTrが所定時間T1未満であるか否かが判定される(ステップS316)。加圧タイマTrがT1未満であると判定されると、ステップS317へと進んで、コントローラ3からブレーキECU5に対して、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4への加圧要求が発せられる。
【0053】
したがって、上述したように、加圧要求を受けたブレーキECU5は、液圧ブレーキ装置6を作動させて、カット弁77,78を閉状態とした後、ブレーキペダル83の操作の有無にかかわらず、還流ポンプ72,73によって、増圧制御弁61,62,63,64を介してホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に液圧を供給する。これによって、図5においてA1にて示したように、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4の液圧は増大していく。
一度、加圧タイマTrがインクリメントされると、加圧タイマTrは0より大きいと判定されるため、2順目からはステップS312からステップS315へと進み、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4の液圧の増大は、加圧タイマTrがT1となるまで継続される。
【0054】
ここで、図4に示すように、車両が通常走行する路面の最大傾斜角θを想定すると、車重Wを有する車両が最大傾斜角θだけ前後方向に傾いた場合に、車両が路面方向下方に受ける荷重W・sinθに抗して、車両を路面上に停止保持させることのできるホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4内の液圧Pqが算出できる。
すなわち、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4内に液圧Pqが発生している場合、車輪一輪あたりのブレーキ力Fwは、簡略的に、Fw=(d・Pq・K)/Dと表される。但し、dはホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4によるブレーキ有効半径、Dは車輪FL,FR,RL,RRの有効半径、KはホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に供給された液圧を制動力に変換する係数を表している(当該関係式については公知であって、自動車工学編集委員会編、「自動車工学」東京電機大学出版局等に記載されているため、詳細な説明は省略する)。したがって4輪車両を傾斜路面に保持するためには、4×Fw≧W・sinθを充足するような液圧Pqを求めればよいことが分かる。
所定時間T1は、液圧ブレーキ装置6によってホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4内に、液圧Pqまで昇圧させることのできる時間に設定されている。
【0055】
ステップS316において、加圧タイマTrがT1以上になったと判定されると、ステップS318へと進み、加圧タイマTrが所定時間T2未満であるか否かが判定される。加圧タイマTrがT2未満であると判定されると、ステップS319において、コントロールバルブ装置12が運転者の操作によるシフトレバー装置93のシフト位置に作動され、シャフトロック機構14とロックギヤ15との係合を解除する(自動パーキング解除状態)とともに、ステップS320において、コントローラ3からブレーキECU5に対して、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4への緩減圧要求が発せられる。
【0056】
したがって、緩減圧要求を受けたブレーキECU5は、還流ポンプ72,73の作動を停止させ、カット弁77,78を所定の開状態にし、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4内の液圧をマスタシリンダ80側へと戻していく。これにより、図5においてD1にて示したように、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4内の液圧は滑らかに低下していく。ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4の液圧の減少は、加圧タイマTrがT2となるまで継続される。
尚、本実施形態においては、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4内の液圧は所定の勾配によって低下しているが、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4内の液圧は非線形的に低下させてもよい。
【0057】
ステップS318において、加圧タイマTrがT2以上になったと判定されると、ステップS321へと進み、コントローラ3からブレーキECU5に対して、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に対する加圧終了要求が発せられる。これにより、加圧終了要求を受けたブレーキECU5は、カット弁77,78を初期状態(開状態)とする。上述した所定時間T2は、緩減圧要求によってホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4内の液圧が低下し、ちょうど0となるような時間に設定されることが望ましい。
【0058】
その後、ステップS322へと進み、パーキングフラグFLP、加圧タイマTrおよび停止タイマTvをすべてクリアする。
上述した加圧タイマTrが所定時間T1を超えてT2に至るまでの間において、車両のエンジン2からの駆動力が減少する車輪FL,FR,RL,RRのブレーキ力を上回った時に、車両が滑らかに発進を開始することができる。この時、所定時間T2を比較的短い時間に設定すれば、運転者が車両の発進に対してもたつき感を覚えることはない。
【0059】
本実施形態によれば、アクセルペダルセンサ98によって、運転者が車両を発進させる意図を有することを検出した場合に、シャフトロック機構14を作動させて車両の自動パーキングを解除するとともに、液圧ブレーキ装置6を作動させて、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に液圧を供給することによって、車両のずり下がりあるいはとび出しといった自動パーキングを解除した時の車両の予期せぬ突然の移動を防止することができる。
【0060】
また、シャフトロック機構14は、自動変速機1のアウトプットシャフト11を機械的にロックして停止保持させるため、可動部材を油圧機構によりロックさせるもののように、長時間、高圧にさらされることがなく、油圧もれによる停止保持力の低下といった問題が発生しない。
また、アクセルペダルセンサ98により、運転者が車両を発進させる意図を有することが検出された場合に、液圧ブレーキ装置6を作動させて、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4を所定時間T1だけ昇圧させることによって、容易にホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4の液圧を車両の移動を防ぐことのできる液圧まで昇圧させることができる。
【0061】
また、車両を停止保持する機構を、自動変速機1のアウトプットシャフト11とともに回転するロックギヤ15に対し係合するシャフトロック機構14としたことによって、摩擦材によって車輪をロックするパーキングブレーキ等に比べて、車両に発生する移動荷重に対する保持力を増大させることができ、車両のずり下がり等を防ぎ、確実に移動不能な状態にすることができる。
【0062】
また、発進意図検出手段を、車両のアクセルペダル97の操作量を検出するアクセルペダルセンサ98としたことにより、運転者が車両を発進させる意図を有することを確実に検出することができる。
また、アクセルペダルセンサ98は、エンジン2の作動制御等のために、通常車両に備えられており、車両を発進させる意図を有することを検出するために、新たにセンサ等を設ける必要がない。
【0063】
また、運転者が車両を発進させる意図を有することが検出された場合に、車輪FL,FR,RL,RRに所定のブレーキ力が発生するまでホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4に液圧を供給した後、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4の液圧を漸次減少させていくことによって、車両を停止保持させる液圧ブレーキ装置6のブレーキ力の消滅と、車両の推進力の発生とのつながりを円滑にし、車両がスムーズに発進することができる。
【0064】
<実施形態2>
図6および図7に基づき、本発明の実施形態2のコントローラ3およびブレーキECU5による自動パーキング装置の制御方法について説明する。コントローラ3は、図6に示した制御プログラムを所定のタイミングで繰り返して実行する。尚、図6に示したフローチャートの初期状態において、パーキングフラグFLPはオフされている。
【0065】
本実施形態において、自動パーキングの解除状態から作動状態へと移行する過程、および自動パーキングの作動状態において、運転者がシフトレバー装置93のシフト位置をPレンジに操作した時の状態については、実施形態1の場合と同様であり、本実施形態が実施形態1の場合と異なるのは、アクセルペダル97の操作により自動パーキングが解除される以降、すなわち、図6におけるステップS612以降に限られるため、以下、当該制御方法について説明する。尚、図6に示したフローチャートのステップS607およびステップS626においては、パーキングフラグFLP、加圧タイマTrおよび停止タイマTvに加えて、リセットフラグFLRもクリアされている。
ステップS612において、自動パーキングが作動している状態では、リセットフラグFLRはオフされているため、ステップS613へと進み、アクセルペダル97が操作されていない場合、自動パーキングが継続して作動する。
【0066】
アクセルペダル97が操作されるとステップS613からステップS615へと進み、目標ブレーキ液圧Prが演算される。目標ブレーキ液圧Prは、傾斜角センサ95によって検出された車両の前後方向の傾斜角度θに基づいて、車両が路面方向下方に受ける荷重(図4において示すW・sinθ)に抗して、車両を路面上に停止保持させるために必要なブレーキ液圧として実施形態1の場合と同様に算出される。また、目標ブレーキ液圧Prは、減速時に実際の車両に発生するブレーキ液圧と減速度との関係から推定してもよい。
【0067】
その後、ステップS616において、液圧センサ79によってホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4の実際のブレーキ液圧Pzを検出し、ステップS617において、実際のブレーキ液圧Pzが目標ブレーキ液圧Pr未満であるか否かが判定される。実際のブレーキ液圧Pzは、還流ポンプ72,73の作動時間から推定してもよい。
【0068】
初回は実際のブレーキ液圧Pzが0であるため、ステップS618において、リセットフラグFLRがオンされた後、ステップS619へと進み、実施形態1の場合と同様に、コントローラ3からブレーキECU5に対して、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4への加圧要求が発せられる。
一度、リセットフラグFLRがオンされると、2順目からはステップS612からステップS614へと進む。加圧要求が発せられている間は加圧タイマTrが0であるため、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4の液圧の増大は、実際のブレーキ液圧Pzが目標ブレーキ液圧Prとなるまで継続される(図7においてA2にて示す)。
【0069】
ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4のブレーキ液圧Pzが目標ブレーキ液圧Prまで上昇すると、ステップS617からステップS621へと進み、加圧タイマTrがインクリメントされる。その後、実施形態1の場合と同様に、ステップS622において、コントロールバルブ装置12が運転者の操作によるシフトレバー装置93のシフト位置に作動され、自動パーキングが解除されるとともに、ステップS623において、コントローラ3からブレーキECU5に対して、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4への緩減圧要求が発せられる。
加圧タイマTrがインクリメントされると、ステップS614からステップS620、さらにステップS621へと進むため、加圧タイマTrがT2より大きくなるまで緩減圧要求が継続される(図7においてD2にて示す)。この間に、車両のエンジン2からの駆動力が減少する車輪FL,FR,RL,RRのブレーキ力を上回った時に、車両が滑らかに発進を開始することができる。
【0070】
加圧タイマTrがT2を超えると、ステップS620からステップS624さらにステップS625へと進み、コントローラ3からブレーキECU5に対して、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4への加圧終了要求が発せられ、パーキングフラグFLP、加圧タイマTrおよび停止タイマTvをすべてクリアする。
【0071】
本実施形態によれば、車両の前後方向の傾斜角度θに基づいて演算された目標ブレーキ液圧PrまでホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4の液圧を昇圧させることによって、自動パーキングを解除した時に車両が急な斜面にある場合にも、車両の後方へのずり下がり、あるいは前方への飛び出しといった予期せぬ移動を防止することができる。
また、自動パーキングを解除した時に車両が緩やかな斜面にある場合にも、傾斜角度θに応じて目標ブレーキ液圧Prが設定されるため、必要以上にホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4の液圧Pzが上昇することがなく、目標ブレーキ液圧Prに到達する時間も短くできるため、車両の発進がもたつくことを防止することができる。
【0072】
<実施形態3>
図8に基づき、本発明の実施形態3による自動パーキング装置の制御方法について説明する。コントローラ3は、図8に示した制御プログラムを所定のタイミングで繰り返して実行する。尚、図8に示したフローチャートの初期状態において、パーキングフラグFLPはオフされている。
本実施形態において、自動パーキングの解除状態から作動状態へと移行する過程、自動パーキングの作動状態において、運転者がシフトレバー装置93のシフト位置をPレンジに操作した時の状態、自動パーキングの作動が継続される状態および自動パーキングの解除が開始された状態については、実施形態2の場合と同様であり、本実施形態が実施形態2の場合と異なるのは、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4のブレーキ液圧が目標ブレーキ液圧Prまで上昇した以降、すなわち、図8におけるステップS820以降に限られるため、以下、当該制御方法について説明する。
【0073】
ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4のブレーキ液圧が目標ブレーキ液圧Prまで上昇すると、加圧タイマTrがインクリメントされるため(ステップS822)、ステップS814からステップS820へと進み、車両の進行方向が「急な上り坂」であるか否かが判定される。
本実施形態において、「上り坂」とは、路面が車両の前方に向かって上昇勾配を有し、かつ、シフトレバー装置93のシフト位置がP、N,Rレンジ以外である場合と、路面が車両の前方に向かって下降勾配を有し、かつ、シフトレバー装置93のシフト位置がRレンジである場合のうちのいずれかをいう。そして、本実施形態において、「急な上り坂」とは、その時点におけるシフトレバー装置93のシフト位置でのクリープ力(エンジン2を作動させた状態で、アクセルペダル97を全く操作していない状態における車輪駆動力)では、車両が路面上をずり下がるような「上り坂」を意味する。
【0074】
ステップS820において、車両の進行方向が「急な上り坂」ではないと判定された場合、車両のクリープ力によって車両が路面上をずり下がることはないが、車両の突然の飛び出しを防止するため、実施形態2と同様に、ステップS821以降の処理を実行する。
ステップS820において、車両の進行方向が「急な上り坂」であると判定された場合、ステップS827へと進み、目標駆動トルクUrが演算される。目標駆動トルクUrは、傾斜角センサ95によって検出された車両の前後方向の傾斜角度θに基づいて、車両が路面方向下方に受ける荷重(図4において示すW・sinθ)に抗して、車両を路面上に停止保持させるために必要な駆動トルクとして算出される。
【0075】
その後、ステップS828において、エンジンECU4によって車両の実際の駆動トルクUzを検出し、ステップS829において、実際の駆動トルクUzが目標駆動トルクUr以上であるか否かが判定される。実際の駆動トルクUzは、アクセルペダル97の操作量および自動変速機1の変速段等とから推定してもよいし、実際に車両に取り付けたトルクセンサによって検出してもよい。
【0076】
ステップS829において、実際の駆動トルクUzが目標駆動トルクUr以下であると判定された場合、ステップS830へと進み、実際の駆動トルクUzが、目標駆動トルクUrに対して不足しているトルク不足量を双方の差から算出し、トルク不足量(Ur−Uz)を補うことのできる(トルク不足量(Ur−Uz)に応じた)目標補償ブレーキ液圧Psを演算する。その後、ステップS831において、コントローラ3からブレーキECU5に対して必要制動力確保要求が発せられ、目標補償ブレーキ液圧Psに到達するまで、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4への加圧が行われる。
【0077】
アクセルペダル97の操作が十分に行われ、実際の駆動トルクUzが目標駆動トルクUrより大きくなると、ステップS829からステップS825へと進み、実施形態2と同様に、コントローラ3からブレーキECU5に対して、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4への加圧終了要求が発せられ、パーキングフラグFLP、加圧タイマTrおよび停止タイマTvをすべてクリアする(ステップS826)。
【0078】
本実施形態によれば、車両の実際の駆動トルクUzが、車両の前後方向の傾斜角度θに基づいて演算された目標駆動トルクUrに対して不足しているトルク不足量(Ur−Uz)を補償するような目標補償ブレーキ液圧Psまで、ホイルシリンダWC1,WC2,WC3,WC4を昇圧させることによって、自動パーキングを解除した時に車両が上り斜面にあり、かつ、傾斜に対するエンジン2の駆動トルクが不足している場合にも、車両の進行方向後方へのずり下がりを防止することができる。
【0079】
<他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
車両を停止させた状態で保持するパーキングロック機構として、車輪を機械的にロックするメカニカルなパーキングブレーキ装置を用いてもよい。
また、車両のステアリングホイル等に運転者が操作可能な自動パーキングスイッチを設け、自動パーキングスイッチを操作することによって、自動パーキングを作動および解除させるようにし、発進意図検出手段として、アクセルペダル97の操作の検出に代えて、自動パーキングスイッチの操作有無の検出を行うようにしてもよい。こうすることにより、運転者の意図しない自動パーキングの作動および解除を防ぐことができる。
【0080】
また、発進意図検出手段として、エンジン2に設けられたスロットル開度センサを使用してもよい。
また、シャフトロック機構14の構造およびアウトプットシャフト11のロック方法は上述した実施形態に限られるものではなく、特開平6−72296号に記載された構造およびロック方法、あるいはそれ以外のものであってもよい。
【符号の説明】
【0081】
図面中、1は自動変速機、3はコントローラ(停止保持制御手段)、4はエンジンECU(トルク検出手段)、5はブレーキECU(停止保持制御手段)、6は液圧ブレーキ装置、11はアウトプットシャフト(可動部材、自動変速機の駆動部材)、13はシフト機構(駆動機構)、14はシャフトロック機構(パーキングロック機構、変速機ロック機構)、15はロックギヤ(ギヤ部材)、83はブレーキペダル(ブレーキ操作部材)、91は回転速度センサ(停車検出手段)、94はシフトレバースイッチ(停車検出手段)、95は傾斜角センサ(傾斜角検出手段)、96は自動パーキング解除スイッチ(停車検出手段)、97はアクセルペダル、98はアクセルペダルセンサ(停車検出手段、発進意図検出手段)、WC1,WC2,WC3,WC4はホイルシリンダ(車輪ブレーキ)を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の可動部材を機械的にロックして停止した状態で保持させる停止保持位置と、前記可動部材のロックを解除して車両を移動可能な状態にする保持解除位置との間で作動可能なパーキングロック機構と、
前記パーキングロック機構を作動させる駆動機構と、
車両が停止状態にあることを検出する停車検出手段と、
前記停車検出手段によって、車両が停止状態にあることが検出された場合に、前記駆動機構を制御して前記パーキングロック機構を作動させ車両を停止保持させる停止保持制御手段と、
車両が停止保持された状態にある場合において、運転者が車両を発進させる意図を有することを検出する発進意図検出手段と、
前記停止保持制御手段によって作動制御され、ブレーキ操作部材の操作に拘わらず、ブレーキ液圧を車輪ブレーキに供給することにより車両を停止させる液圧ブレーキ装置と、
を備え、
前記停止保持制御手段は、
前記発進意図検出手段が、運転者が車両を発進させる意図を有することを検出した場合に、前記パーキングロック機構を作動させて車両の停止保持を解除するとともに、前記液圧ブレーキ装置を作動させて、前記車輪ブレーキに液圧を供給する車両停止保持装置。
【請求項2】
前記停止保持制御手段は、
運転者が車両を発進させる意図を有することが検出された場合に、前記液圧ブレーキ装置を作動させて、前記車輪ブレーキを所定時間だけ昇圧させる請求項1記載の車両停止保持装置。
【請求項3】
車両の前後方向の傾斜角を検出する傾斜角検出手段を備え、
前記停止保持制御手段は、
運転者が車両を発進させる意図を有することが検出された場合に、前記傾斜角検出手段によって検出された車両の前後方向の傾斜角に基づいて、車両を停止保持させるために必要な目標ブレーキ液圧を演算し、前記目標ブレーキ液圧まで前記車輪ブレーキを昇圧させる請求項1記載の車両停止保持装置。
【請求項4】
車両の前後方向の傾斜角を検出する傾斜角検出手段と、
車両の駆動トルクを検出するトルク検出手段と、
を備え、
前記停止保持制御手段は、
運転者が車両を発進させる意図を有することが検出された場合に、前記傾斜角検出手段によって検出された車両の前後方向の傾斜角に基づいて、車両を停止保持させるために必要な目標駆動トルクを演算するとともに、前記トルク検出手段によって検出された車両の実際の駆動トルクが、前記目標駆動トルクに対して不足しているトルク不足量を補償するような目標補償ブレーキ液圧を算出し、前記目標補償ブレーキ液圧まで前記車輪ブレーキを昇圧させる請求項1記載の車両停止保持装置。
【請求項5】
前記パーキングロック機構は、
自動変速機の駆動部材とともに回転するギヤ部材に対し係合する変速機ロック機構である請求項1乃至4のうちのいずれか一項に記載の車両停止保持装置。
【請求項6】
前記発進意図検出手段は、
車両のアクセルペダルの操作量を検出する部材である請求項1乃至5のうちのいずれか一項に記載の車両停止保持装置。
【請求項7】
前記停止保持制御手段は、
運転者が車両を発進させる意図を有することが検出された場合に、前記車輪ブレーキに所定のブレーキ力が発生するまで前記車輪ブレーキに液圧を供給した後、前記車輪ブレーキの液圧を漸次減少させていく請求項1乃至6のうちのいずれか一項に記載の車両停止保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−106548(P2012−106548A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255573(P2010−255573)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】