説明

車両用ブレーキ装置

【課題】電動アクチュエータによるブレーキ液圧とは別個に摩擦制動手段に対するブレーキ液圧を増減する場合にも、摩擦制動による通常制動や回生制動を伴う回生制動時の応答性や、目標液圧と実液圧との一致性を確保する。
【解決手段】ホイールシリンダ2b・3bにブレーキ液圧を与えるモータ駆動シリンダ13のモータ角(変位)を制御する液圧増減制御回路6aと、モータ駆動シリンダの電流を制御するトルク制御回路6bと、通常はモータ角制御を選択し、VSA装置26の作動時に切り替わって電流制御を選択する切替器48とを設ける。VSA作動時に、電流(トルク)を保持する制御を行うことから、ブレーキ操作量に応じたブレーキ液量を供給する状態にすると共に、従来型の直接的に操作するマスターシリンダによりブレーキ液量を供給する制動感覚で、適切な応答性によるブレーキ制御を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ装置に関し、特に電動アクチュエータによりブレーキ力を発生させる車両用ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車では、駆動輪の駆動軸に電動モータを連結し、そのモータを制動時には発電機として使用してエネルギー回生を行うようにしているものがある。このような車両では、モータの定格やバッテリの残量等により、回生ブレーキだけで全ての制動力を実現することが困難である場合があり、自動車に用いられている公知の油圧ブレーキシステム(摩擦制動手段)を設け、電子制御により、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤで駆動される油圧ブレーキと上記回生ブレーキとの協調制御を行うようにしたものがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
なお、このようなブレーキ・バイ・ワイヤのシステムでは、例えば、運転者が操作するブレーキペダルの操作量(ペダルストローク)に基づいて目標制動力を設定し、この目標制動力を回生ブレーキと油圧ブレーキシステムとに配分して、この油圧ブレーキシステム側の制動力に対応した目標液圧に応じて電動モータ駆動型アクチュエータであるモータ駆動シリンダを用い、そのモータ駆動シリンダにより発生するブレーキ液圧によりホイールシリンダを駆動して制動するようにしたものがある。
【0004】
また、近年の自動車にはブレーキ時の車輪ロックを防ぐABS装置を設けたものがあり(例えば特許文献2参照)、上記ブレーキ・バイ・ワイヤのシステムにもABS装置を組み合わせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−143256号公報
【特許文献1】特開2007−331538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したブレーキ・バイ・ワイヤのシステムでは、上記目標液圧に応じてモータ駆動シリンダを駆動して、そのシリンダストロークに応じて発生するブレーキ液圧をホイールシリンダに供給することにより制動力を発生する。その場合のブレーキ液圧の増減制御をフィードバック制御する場合には、モータ駆動シリンダのシリンダストローク(実作動量)を制御対象とする場合や、モータ駆動シリンダのモータ電流を制御対象とする場合がある。
【0007】
シリンダストロークを制御対象とする場合には、例えば、モータ駆動シリンダからホイールシリンダに至る負荷側の損失の特性(負荷液損特性)を考慮して、目標液圧に対するモータ駆動シリンダの目標シリンダストロークを求め、シリンダストロークを電動モータの回転角度に換算し、回転角度を制御対象とする回転角度フィードバック制御を行うことにより、シリンダストロークが目標シリンダストロークになるようにモータ駆動シリンダを駆動することができる。
【0008】
また、モータ電流を制御対象とする場合には、例えば、モータ駆動シリンダ及び減速機を設けた場合にはその減速機等の諸元に基づいて、目標液圧に対するモータ駆動シリンダの目標モータトルクを算出し、モータトルクをモータ電流に換算し、モータ電流を制御対象とする電流フィードバック制御を行うことにより、モータトルクが目標モータトルクになるようにモータ駆動シリンダを駆動することができる。
【0009】
しかしながら、上記シリンダストロークを制御対象とする場合には、目標液圧を発生させるために必要な液量を直接的に目標値とする。それにより、通常制動や回生制動制御では速い応答性と高精度な目標液圧と実液圧との一致性を両立することができるが、シリンダストロークによる目標値の計算を負荷液損特性に基づいて行うため、例えばABSやVSA(ABSの他に、加速時等の車輪空転を防ぐトラクションコントロールや旋回時の横すべり抑制を可能にする制御)の作動時においては、ブレーキ液圧のオーバーシュートや目標液圧と実液圧との偏差が発生し易いという問題がある。
【0010】
また、上記モータ電流を制御対象とする場合には、目標液圧を発生させるために必要な定常モータトルク(駆動力)を目標値とする。それにより、負荷液損特性によらずに高精度な目標液圧と実液圧との一致性を得ることができるが、目標液圧を発生させるために必要な液量は考慮されていない。そのため、上記シリンダストロークを制御対象とする場合と比べて、応答性が低下し、通常制動や回生制動時に応答性が低いという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決して、電動アクチュエータによりブレーキ液圧を発生する車両用ブレーキ装置において、電動アクチュエータによるブレーキ液圧とは別個にブレーキ液圧を増減する場合にも、目標液圧と実液圧との一致性を確保することを実現するために、本発明に於いては、与えられた入力量に応じてホイールシリンダ(2b・3b)に対しブレーキ液圧を発生する電動アクチュエータ(13)と、前記電動アクチュエータの実作動量を検出する作動量検出手段(12a)と、前記入力量に対応して前記電動アクチュエータを作動させる目標作動量追従させるための作動量制御手段(35・36)と、所定の条件が成立した場合に前記作動量手段による前記目標作動量に対する前記電動アクチュエータの実作動量の追従を抑制する抑制手段(39・6b・48)とを有するものとした。
【0012】
これによれば、負荷液損特性が変動した場合に、その影響を受けて目標作動量と実作動量との偏差が生じて電動アクチュエータが大きく作動することが防止され、電動アクチュエータが過剰に制御されたり、ホイールシリンダ液圧がより一層変動することが抑制される。
【0013】
特に、前記抑制手段が、前記入力量に対応して前記電動アクチュエータを駆動する目標駆動力を設定する目標駆動力設定手段(6b)と、前記電動アクチュエータの駆動トルクを検出する実駆動力検出手段(12b)と、前記実駆動力を前記目標駆動力に追従させるための駆動力制御手段(44・45)と、所定の条件が成立した場合に前記作動量制御手段による制御から前記目標駆動力による制御に切り替える切替手段(48)とを有すると良い。これによれば、負荷液損特性が変動した場合に、その影響を受けて目標駆動力と実駆動力との偏差が生じた場合に、電動アクチュエータの制御の基準を作動量から駆動力に切り替えることから、駆動力(制動トルク)を保持する制御を行うことができ、運転者のブレーキ操作量に応じたブレーキ液量を電動アクチュエータからホイールシリンダに供給する状態にすることができ、従来型の直接的に操作するマスターシリンダによりブレーキ液量を供給するブレーキ装置に近い制動感覚で、適切な応答性によるブレーキ制御を行うことができる。
【0014】
また、前記抑制手段(6b・48)は、前記作動量検出手段による検出値が異常であると判定した場合に、前記切替手段により前記目標作動量による制御から前記目標駆動力による制御に切り替えると良い。これによれば、電動アクチュエータの実作動量がノイズやセンサ異常等により正確に検出されない場合には、駆動力制御に切り替えることにより、問題なく停止状態に至るまで電動アクチュエータによる制動を行うことができる。
【0015】
また、前記電動アクチュエータ側からの作動液を減圧弁を介して低圧リザーバ(26c)側へ排出することでホイールシリンダ圧を低下させる減圧手段(26b)を備え、前記減圧手段の作動を条件に前記抑制手段を有効とする、あるいは、前記電動アクチュエータと独立に前記ホイールシリンダを加圧する加圧手段(26d・26e)を備え、前記加圧手段の作動を条件に前記抑制手段を有効とすると良い。これによれば、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐABS、加速時等の車輪空転を防ぐTCS(トラクションコントロールシステム)に、旋回時の横すべり抑制を加え、3つの機能をトータルにコントロールする車両挙動安定化制御システムとして公知のVSA装置によるホイールシリンダの減圧制御や加圧制御が作動した場合の負荷液損特性の変動に伴って目標制御量が変動することが抑制される。
【発明の効果】
【0016】
このように本発明によれば、電動アクチュエータによりブレーキ液圧を発生すると共に電動アクチュエータとは別個に補助液圧を発生する圧力増減手段を設けたブレーキ装置において、圧力増減手段が作動した場合に電動アクチュエータの実作動量を抑制することから、制動時の応答性の悪化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明が適用された自動車のブレーキ系の要部系統図である。
【図2】本発明が適用された自動車のブレーキ装置を模式的に示す油圧回路図である。
【図3】本発明に基づく制御要領を示す要部回路ブロック図である。
【図4】本発明の制御要領を説明するための波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は本発明が適用された電気自動車またはハイブリッド自動車のブレーキ系の要部系統図である。
【0019】
図1に示される自動車は、車両1の前側に配設された左右一対の前輪2と、車両1の後側に配設された左右一対の後輪3とを有する。左右の前輪2に連結された前輪車軸4にはモータ・ジェネレータ5がトルク伝達関係で連結されている。なお、前輪車軸4に設けられる差動機構は図示省略する。
【0020】
モータ・ジェネレータ5は、車両走行用の電動機と回生用の発電機とを兼ねたものであり、二次電池であるバッテリ7を電源としてインバータ10によってバッテリ7よりの電力供給とバッテリ7に対する電力供給(充電)とを制御され、減速時には減速エネルギを電力に変換回生して回生制動力を発生する回生制動手段をなす。
【0021】
また、CPUを用いた制御回路を備えることにより車両の各種制御を行うと共に制動力配分手段としての制御ユニット(ECU)6が設けられている。制御ユニット6には、上記インバータ10が電気的に接続されている。なお、電気自動車の場合にはこの構成のまま、または後輪3を駆動するモータ・ジェネレータを設けても良いが、ハイブリッド自動車の場合には前輪車軸4には図の二点鎖線で示されるエンジン(内燃機関)Eの出力軸が連結される。図のエンジンEの場合には前輪駆動の例であるが、四輪駆動とすることもできる。
【0022】
前輪2及び後輪3の各車輪には、摩擦制動を行う摩擦制動手段として、車輪(前輪2・後輪3)と一体のディスク2a・3a及びホイールシリンダ2b・3bを備えるキャリパにより構成される公知のディスクブレーキが設けられている。ホイールシリンダ2b・3bには、公知のブレーキ配管を介してブレーキ液圧発生装置8が接続されている。ブレーキ液圧発生装置8は、後で詳述するが、各車輪別にブレーキ圧を増減させて配分可能な油圧回路で構成されている。
【0023】
また、前輪2及び後輪3の各車輪に対応して車輪速を検出する車輪速検出手段としての各車輪速センサ9が設けられており、運転者が操作するブレーキペダル11にはその踏み込み量であるブレーキ操作量を検出する変位センサ11aが設けられている。各車輪速センサ9と変位センサ11aとの各検出信号は制御ユニット6に入力する。
【0024】
制御ユニット6は、ブレーキペダル11の変位センサ11aの出力信号が0より大きい場合に制動の指令が発生したと判断し、制動時の制御を行う。本図示例では、制動を回生制動を行いかつ油圧制動も行う回生協調制御により行うことから、ブレーキ・バイ・ワイヤによるものとする。
【0025】
次に、図2を参照してブレーキ装置1について説明する。本実施形態の制動システムは、制動操作部材としてのブレーキペダル11の操作を機械的にブレーキ液圧発生シリンダに伝達してブレーキ液圧を発生させるのではなく、ブレーキペダル11の操作量(ペダル変位量)を操作量センサとしてのストロークセンサ11aにより検出し、その操作量検出値に基づいて電動サーボモータ12により駆動されるブレーキ液圧発生シリンダとしてのモータ駆動シリンダ13によりブレーキ液圧を発生させる、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤにより構成されている。
【0026】
図1に示されるように、車体に回動自在に支持されたブレーキペダル11にはその円弧運動を略直線運動に変換するロッド14の一端が連結されており、ロッド14の他端は、直列的に配設されたマスターシリンダ15の第1ピストン15aを押し込むように係合している。マスターシリンダ15には第1ピストン15aに対してロッド14とは相反する側に直列的に第2ピストン15bが配設されており、各ピストン15a・15bはそれぞれロッド14側にばね付勢されている。なお、ブレーキペダル11は、ばね付勢され、ブレーキ操作がされていない場合には図示されないストッパにより止められて図1の状態である初期位置に位置している。
【0027】
また、マスターシリンダ15には、各ピストン15a・15bの変位に応じてブレーキ液をやり取りするためのリザーバタンク16が設けられている。なお、各ピストン15a・15bには、リザーバタンク16と連通する各油路16a・16bとの間をシールするための公知構造のシール部材が各適所に設けられている。そして、マスターシリンダ15の筒内には、第1ピストン15aと第2ピストン15bとの間に第1液室17aが形成され、第2ピストン15bの第1ピストン15aとは相反する側に第2液室17bが形成されている。
【0028】
一方、上記したモータ駆動シリンダ13には、上記電動サーボモータ12と、電動サーボモータ12に連結されたギアボックス18と、ギアボックス18にボールねじ機構を介してトルク伝達されることにより軸線方向変位するねじ溝付きロッド19と、ねじ溝付きロッド19と同軸かつ互いに直列的に配設された第1ピストン21a及び第2ピストン21bとが設けられている。
【0029】
なお、第2ピストン21bには第1ピストン21a側に延出する連結部材27の一端部が固設されており、連結部材20の他端部は第1ピストン21aに対して相対的に軸線方向に所定量変位可能に支持されている。これにより、第1ピストン21aの前進(第2ピストン21b側変位)時は第2ピストン21bとは別個に変位可能であるが、第1ピストン21aの前進状態から図2の初期状態に戻る後退時には、連結部材20を介して第2ピストン21bも初期位置まで引き戻されるようになっている。なお、各ピストン21a・21bは、それぞれに対応して設けられた各戻しばね27a・27bによりロッド19側にばね付勢されている。
【0030】
また、モータ駆動シリンダ13には、上記リザーバタンク16に連通路22を介してそれぞれ連通する各油路22a・22bが設けられており、各ピストン21a・21bには、各油路22a・22bとの間をシールするための公知構造のシール部材が各適所に設けられている。モータ駆動シリンダ13の筒内には、第1ピストン21aと第2ピストン21bとの間に第1液圧発生室23aが形成され、第2ピストン21bの第1ピストン21aとは相反する側に第2液圧発生室23bが形成されている。
【0031】
そして、マスターシリンダ15の第1液室17aが、常時開型の電磁弁24aを介してモータ駆動シリンダ13の第1液圧発生室23aと連通し、第2液室17bが、常時開型の電磁弁24bを介してモータ駆動シリンダ13の第2液圧発生室23bと連通し得るようにそれぞれ配管されている。なお、第1液室17aと電磁弁24aとの間にはマスターシリンダ側のブレーキ圧センサ25aが接続され、電磁弁24bと第2液圧発生室23bとの間にはモータ駆動シリンダ側のブレーキ圧センサ25bが接続されている。
【0032】
また、第2液室17bと電磁弁24bとの間に、常時閉型の電磁弁24cを介してシリンダ型のシミュレータ28が接続されている。シミュレータ28には、そのシリンダ内を分断するピストン28aが設けられ、ピストン28aの電磁弁24b側に貯液室28bが形成され、ピストン28aの貯液室28a側とは相反する側には圧縮コイルばね28cが受容されている。両電磁弁24a・24bが閉じていると共に電磁弁24cが開いている状態で、ブレーキペダル11を踏み込んで第2液室17b内のブレーキ液が貯液室28bに入り込むことにより、圧縮コイルばね28cの付勢力がブレーキペダル11に伝達され、それにより公知のマスターシリンダとホイールシリンダとが直結されているブレーキ装置と同様の踏み込みに対する反力(ペダル踏力)が得られるようになっている。
【0033】
さらに、モータ駆動シリンダ13の第1液圧発生室23aと第2液圧発生室23bとは、それぞれVSA装置26を介して複数(図示例では4つ)の各ホイールシリンダ2b・3bに連通するように配管されている。なお、VSA装置26は、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐABS、加速時等の車輪空転を防ぐTCS(トラクションコントロールシステム)に、旋回時の横すべり抑制を加え、3つの機能をトータルにコントロールする車両挙動安定化制御システムとして公知のものであって良く、その説明を省略する。なおVSA装置26には、前輪の各ホイールシリンダ2bに対応する第1系統と、後輪の各ホイールシリンダ3bに対応する第2系統とをそれぞれ構成する各種油圧素子を用いた各ブレーキアクチュエータと、それらを制御するVSA制御ユニット26aとにより構成されている。
【0034】
このようにして構成されたブレーキ液圧発生装置8は、上記制御ユニット6により総合的に制御されるようになっている。制御ユニット6には、ストロークセンサ11aと各ブレーキ圧センサ25a・25bとの各検出信号が入力し、また車両の挙動を検出するための各種センサ(図示せず)からの検出信号も入力している。制御ユニット6では、ストロークセンサ11aからの検出信号に基づき、かつ上記各種センサからの検出信号から判断した走行状況等に応じて、モータ駆動シリンダ13により発生するブレーキ液圧を制御する。さらに、本実施形態の対象車両となるハイブリッド車(または電気自動車)の場合には、モータ・ジェネレータによる回生制御を行うようにしており、制御ユニット6では、回生制御を行う場合の回生の大きさに対するモータ駆動シリンダ13によるブレーキ液圧の大きさの配分制御も行う。
【0035】
次に、通常制動時の制御要領について説明する。図2は、運転者がブレーキペダル11を操作していない状態である。ストロークセンサ11aの検出値は初期値(=0)であり、制御ユニット6からブレーキ液圧発生信号は出力されない。この状態では、図2に示されるように、モータ駆動シリンダ13では、ねじ溝付きロッド19が最も後退した位置にあり、それに伴って各戻しばね27a・27bにより付勢されている各ピストン21a・21bも後退しており、両液圧発生室23a・23bにブレーキ液圧は発生していない。
【0036】
ブレーキペダル11が踏み込まれて、ストロークセンサ11aの検出値が0より大きくなった場合には、ブレーキ・バイ・ワイヤによる制御を行うべく、両電磁弁24a・24bを閉じて、マスターシリンダ15で発生する液圧がモータ駆動シリンダ13へ伝達されるのを遮断すると共に電磁弁24cを開いてシミュレータ28に伝達されるようにする。そして、ストロークセンサ11aで検出された操作量検出値(ブレーキ操作量)に基づいて、回生制動力を考慮した上で目標となる液圧が設定され、この目標液圧に対応して制御ユニット6からモータ駆動指令値(操作量)が電動サーボモータ12に出力され、その操作量に応じてねじ溝付きロッド19すなわち第1ピストン21aが押し出される向きに駆動されて、入力としてのブレーキペダル11の踏み込み量(ブレーキ操作量)に応じたブレーキ液圧が第1液圧発生室23aに発生する。同時に、第1液圧発生室23aの液圧により押圧されて第2ピストン21bが戻しばね27bの付勢力に抗して変位し、第2液圧発生室23bにも同じくブレーキ液圧が発生する。
【0037】
運転者がブレーキペダル11を戻す方向に変位させた場合には、ストロークセンサ11aで検出された戻し方向変位に応じて、電動サーボモータ12によりねじ溝付きロッド19すなわち第1ピストン21aを戻すことにより、ブレーキペダル11の踏み込み量に応じてブレーキ液圧を低減させることができる。また、ブレーキペダル11が図示されない戻しばねにより初期位置に戻された場合には、制御ユニット6により各電磁弁24a・24bを開く。それに伴って各ホイールシリンダ2b・3bのブレーキ液がモータ駆動シリンダ13を介してリザーバタンク16に戻ることができ、制動力は解除される。ストロークセンサ11aの検出値が初期値になることにより、第1ピストン21a及び上記したように連結部材20を介して第2ピストン21bも初期位置に戻る。
【0038】
上記モータ駆動シリンダ13で発生したブレーキ液圧は、VSA装置26を介して前後輪の各ホイールシリンダ2b・3bに供給されて、制動力が発生し、通常の制動制御が行われる。VSA装置26による各輪に対する制動力分配制御が行われる場合にはその制御に応じて各輪の制動力の調整が行われる。
【0039】
回生ブレーキの制御が行われる場合には、制御ユニット6により、モータ・ジェネレータ5を発電機として制御し、ブレーキペダル11によるブレーキ操作量に応じて回生ブレーキ量を増減する。そして、ブレーキ操作量の大きさ(運転者が要求する減速度の大きさ)に対して回生ブレーキだけでは車体減速度が不足するようになったら、上記した電動サーボモータ12によりモータ駆動シリンダ13を駆動制御して、回生ブレーキと油圧ブレーキとによる回生協調制御を行う。上述の例においては、ブレーキペダル11の踏み込み量に対応した制動力をモータ駆動シリンダ13が発生するように構成したが、この場合には公知の方法を用いてモータ駆動シリンダ13の作動量を決定するように構成することができる。例えばブレーキ操作量に対応して決定される総制動力から実際の回生制動力を減じた値に対応する制動力要求を入力として、目標液圧を設定したり、総制動力に対してある比率の制動力が発生するようにモータ駆動シリンダ13の作動量を決定すれば良い。
【0040】
なお、電磁弁24cを閉じるタイミングは、圧縮コイルばね28cによりピストン28aが図2に示される初期位置に戻ることができるまで第2液室17bの液圧が低下したタイミングとすると良く、例えば両電磁弁24a・24bを開いてから所定時間経過後とすることができる。または、モータ駆動シリンダ側ブレーキ圧センサ25bの検出値が所定値(例えば液圧が0近傍)以下になった後とすることができる。
【0041】
次に、図3を参照して制御ユニット6の液圧増減制御回路6aについて説明する。ストロークセンサ11aからの検出信号によるブレーキ操作量(変位)が制動力規範値設定回路31に入力しており、制動力規範値設定回路31では、例えばマップや関数を用いて、ブレーキペダル11のブレーキ操作量(変位)に対応して目標液圧となる規範値Boを求める。なお、ここで入力は必ずしもストロークである必要は無く、検出可能な操作量(ブレーキ圧センサ25aの液圧や踏力等)や、回生制動力に対して決定される要求制動力等を入力としても良い。
【0042】
制動力規範値設定回路31で求められた規範値Boは加算器32に入力し、加算器32の出力値が目標作動量設定手段としての目標値設定回路33に入力する。目標値設定回路33では、例えばマップや関数を用いて、規範値Boに対応して電動サーボモータ12の目標作動量としての目標値Smを求める。目標値設定回路33で求められた目標値Smはモータ角変換器34に入力し、モータ角変換器34では、目標値Smを目標モータ角θtに変換する。なお、図3の回路では、目標値Smはモータ駆動シリンダ13のストロークに対応し、目標モータ角θは電動サーボモータ12のストロークに対応した回転角度になる。
【0043】
モータ角変換器34で変換された目標モータ角θtはローパスフィルタ切替回路39を介して減算器35に入力し、減算器35の出力値がモータ角フィードバック回路36に入力する。そのモータ角フィードバック回路36の出力値からなるモータ角制御量θにより電動サーボモータ12の回転角度が制御され、それに応じてモータ駆動シリンダ13のストロークが制御され、制動力制御量Bsに対応したブレーキ液圧が発生する。
【0044】
また、上記制動力規範値設定回路31から出力される規範値Boは減算器37にも入力している。その減算器37には、モータ駆動シリンダ13により発生するブレーキ液圧を検出するブレーキ圧センサ25bからの検出信号(実液圧B)がフィードバック値として入力する。減算器37の出力値が液圧補償回路38に入力し、液圧補償回路38から出力される補償値ΔB(=Bo−B)は加算器32に入力する。加算器32では、上記したように規範値Boが入力しており、その規範値Boと補償値ΔBとを加算した結果(Bo+ΔB)を目標値設定回路33に出力する。これにより、目標値設定回路33で求められる目標値Smには実液圧Bが反映される。
【0045】
また、電動サーボモータ12のモータ角を作動量検出手段としての回転角度センサ(例えばロータリエンコーダ)12aにより検出しており、その回転角度センサ12aにより検出された実モータ角θmがフィードバック値として減算器35に入力する。したがって、モータ角フィードバック回路36には減算器35の出力値(θt−θm)が入力し、モータ角フィードバック回路36では、目標モータ角θtと実モータ角θmとの差分(θt−θm)に応じてモータ角制御量θを求める。モータ角制御量θはモータ駆動回路40に入力し、モータ駆動回路40によりモータ角制御量θに応じて電動サーボモータ12が駆動制御される。このようにして、電動サーボモータ12のモータ角フィードバック制御によりモータ駆動シリンダ13のストロークが制御される。
【0046】
図3の回路では、上記したローパスフィルタ切替回路39には、VSA装置26からのVSAが作動した場合のVSA作動信号が入力するようになっている。そして、ローパスフィルタ切替回路39では、VSA作動信号が入力した場合に所定のカットオフ周波数によりフィルタリングを行い、VSA装置26が作動していない場合にはフィルタリングを行わない。
【0047】
これにより、VSA装置26が作動した場合にモータ駆動シリンダ13の下流で、モータ駆動シリンダ13の作動によるブレーキ液圧の発生とは別個にVSA装置26による補助液圧(ブレーキ液圧)が発生する場合に、VSA装置26の作動により
、常閉型のアウトバルブ(減圧弁)26bを通して低圧リザーバ26c側へブレーキ液を排出する減圧時や、ポンプモータ26dにより加圧されたブレーキ液を常開型のインバルブ26eを通してホイールシリンダ2b(3b)を加圧する加圧時においては、ホイールシリンダ2b(3b)側のブレーキ液の移動と制御弁(レギュレータバルブ)26fの作動に伴い、ブレーキ圧センサ25bで検出される実液圧Bが変化する。すると、モータ駆動シリンダ13のストロークに対する発生液圧が変動するため、その影響を受けて、モータ角フィードバック回路36からのモータ角制御量θが変化することになる。ここでモータ駆動シリンダ13が過大にこの偏差を補償すると、VSA装置26による液圧制御の応答性が低下する虞がある。
【0048】
それに対して、VSA装置26の作動時にはローパスフィルタ切替回路39によりローパスフィルタを通すことから、入力信号(θt)に対してカットオフ周波数に応じて位相遅れした出力が減算器35に入力することになる。これによりモータ角制御が抑制されて、モータ駆動シリンダ13のピストン変位が抑制されるため、VSA装置26による液圧応答性が確保される。
【0049】
次に、図4を参照して第2の例について説明する。図4において、図3と同様の部分には同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。図4の回路は、図3で示した液圧増減制御回路6aと並列にトルク制御回路6bを設けたものである。なお、液圧増減制御回路6aでは、図3で示したローパスフィルタ切替回路39、及びローパスフィルタ切替回路39に接続されたVSA装置26が設けられていない。
【0050】
トルク制御回路6bは、制動力規範値設定回路31から出力される規範値Boが分岐して入力する加算器41と、加算器41の出力側に設けられたトルク変換器42と電流変換器43と減算器44とモータ電流フィードバック回路45とがこの順に接続されている。また、規範値Boが減算器46にも入力し、減算器46には、上記と同じくブレーキ圧センサ25bから実ブレーキ圧Bがフィードバック値として液圧補償回路47に入力する。液厚補償回路47から出力される補償値ΔB(=Bo−B)は加算器41に入力する。加算器41では、上記したように規範値Boが入力しており、その規範値Boと補償値ΔBとを加算した結果(Bo+ΔB)をトルク変換器42に出力する。これにより、トルク変換器42で求められる目標トルクTmには実液圧Bが反映される。
【0051】
トルク変換器42から出力される目標トルクTtは、電流変換器43により目標トルクTtに対応した目標電流Itに変換されて減算器44に出力される。電動サーボモータ12のモータ電流を電流センサ12bにより検出しており、その電流センサ12bにより検出された実モータ電流Imがフィードバック値として減算器44に入力する。電流フィードバック回路45には減算器44の出力値(It−Im)が入力し、電流フィードバック回路45では、目標モータ電流Itと実モータ電流Imとの差分(It−Im)に応じてモータ電流制御量Iを求める。
【0052】
そして、モータ角フィードバック回路36から出力されるモータ角制御量θと、モータ電流フィードバック回路45から出力されるモータ電流制御回路Iとが切替手段としての2位置選択スイッチからなる切替器48の2位置選択側端子にそれぞれ入力する。切替器48には、VSA装置26からのVSAが作動した場合のVSA作動信号が入力するようになっている。
【0053】
VSA装置26の作動前では図4の状態であり、モータ駆動回路40にはモータ角制御量θが入力するように選択され、上記と同様のモータ角フィードバック制御が行われる。それに対して、VSA装置26が作動した場合には、切替器48は図の二点鎖線に示されるように切り替わり、モータ駆動回路40にはモータ電流制御量Iが入力するように選択され、この場合にはモータ電流フィードバック、すなわちモータトルクフィードバック制御が行われる。
【0054】
これにより、VSA装置26の非作動時にはモータ角フィードバック制御を行って、変位(シリンダストローク)について制御することにより、VSA装置26の作動に起因した負荷液損特性の変動に伴って目標制御量が変動しないため、VSA装置26の影響を受けず、高精度な目標液圧と実液圧との一致性を得ることができ、VSA装置26の作動における高い応答性を確保し得る。
【0055】
また、回転角度センサ12aがノイズやセンサ異常等により異常な検出値となったことを検出するセンサ異常検出回路49を設け(図4の二点鎖線参照)、異常な検出値となった場合には、センサ異常検出回路49からセンサ異常検出信号を切替器48に出力し、上記と同様にモータ電流フィードバック制御が行われるように切り替えると良い。これにより、ノイズやセンサ異常等により異常な検出値となった場合でも、何等問題なく適切なブレーキ制御を行うことができる。
【0056】
なお、本発明によれば上記各図示例に限られるものではなく、例えば、VSA装置26の作動時におけるブレーキ液圧(例えばブレーキ圧センサ25bの検出値)を基準として、そのブレーキ液圧に対応する位置(その時のモータ角)に対して所定範囲内での位置変動となるよう、モータ駆動シリンダ13の作動量を基準位置近傍に保持するように構成しても良い。
【0057】
このように、本発明によるブレーキ装置によれば、マスターシリンダ15により直接的に液圧をホイールシリンダ2b・3bに供給するのではなく、ブレーキペダル11の操作量(ペダルストローク)等に応じてモータ駆動シリンダ13を駆動して液圧を発生し、その液圧により制動力を制御するものにおいて、さらにモータ駆動シリンダ13の下流(ホイールシリンダ2b・3b側)に、ブレーキペダル11の操作にかかわらず、各ホイールシリンダ2b・3bに走行状況に応じて適切な制動力を生じさせるVSA装置26に代表される圧力増減手段を設けたものに適用し得る。また、摩擦制動を行う通常制動のみならず、回生制動と摩擦制動との協調制御を行う場合にも何等問題なく適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
2 前輪(車輪)
3 後輪(車輪)
2b・3b ホイールシリンダ
6 制御ユニット(制御手段)
6a 液圧増減制御回路(圧力増減手段)
6b トルク制御回路(目標駆動力設定手段)
12a 回転角度センサ(作動量検出手段)
13 モータ駆動シリンダ(電動アクチュエータ)
26b アウトバルブ(減圧手段)
26c 低圧リザーバ
26d ポンプモータ(加圧手段)
26e インバルブ(加圧手段)
31 制動力規範値設定回路(目標作動量設定手段)
32 加算器(目標作動量設定手段)
33 目標値設定回路(目標作動量設定手段)
35 減算器(フィードバック手段)
36 モータ角フィードバック回路(フィードバック手段)
37 減算器(目標作動量設定手段)
38 液圧補償回路(目標作動量設定手段)
39 ローパスフィルタ切替回路(抑制手段)
48 切替器(切替手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
与えられた入力量に応じてホイールシリンダに対しブレーキ液圧を発生する電動アクチュエータと、
前記電動アクチュエータの実作動量を検出する作動量検出手段と、
前記入力量に対応して前記電動アクチュエータを作動させる目標作動量を設定する目標作動量設定手段と、前記実作動量を前記目標作動量に追従させるための作動量制御手段と、所定の条件が成立した場合に前記作動量制御手段による前記目標作動量に対する前記電動アクチュエータの実作動量の追従を抑制する抑制手段とを有することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記抑制手段が、前記入力量に対応して前記電動アクチュエータを駆動する目標駆動力を設定する目標駆動力設定手段と、前記電動アクチュエータの駆動トルクを検出する実駆動力検出手段と、前記実駆動力を前記目標駆動力に追従させるための駆動力制御手段と、所定の条件が成立した場合に前記作動量制御手段による制御から前記目標駆動力による制御に切り替える切替手段とを有することを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記抑制手段は、前記作動量検出手段による検出値が異常であると判定した場合に、前記切替手段により前記目標作動量による制御から前記目標駆動力による制御に切り替えることを特徴とする請求項2に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
前記電動アクチュエータ側からの作動液を減圧弁を介して低圧リザーバ側へ排出することでホイールシリンダ圧を低下させる減圧手段を備え、前記減圧手段の作動を条件に前記抑制手段を有効とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
前記電動アクチュエータと独立に前記ホイールシリンダを加圧する加圧手段を備え、前記加圧手段の作動を条件に前記抑制手段を有効とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の車両用ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−131263(P2012−131263A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283114(P2010−283114)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】