説明

車両用流体供給装置

【課題】ポンプ室の形状を変化させることなく、ポンプ駆動に要する出力損失を減らすことができる車両用流体供給装置の提供。
【解決手段】クランクシャフト6の回転を減速した状態で伝達させることにより流体を圧送する車両用流体供給装置において、クランクシャフト6に連係されたポンプシャフト26を有するオイルポンプPと、ポンプシャフト26とクランクシャフト6との間に設けられポンプシャフト26への動力の伝達を接続・遮断するワンウェイクラッチ70とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用流体供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンの潤滑のために用いられるオイルポンプとして、トロコイドポンプなどの容積型のポンプが知られている。このオイルポンプはエンジンの出力軸に連係されたポンプ軸を備え、エンジン回転数の上昇に応じてオイルの吐出量が増加するものである。これに対して、特許文献1に開示されているような可変容量ポンプを用いて吐出量を変化させることも検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−201976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、可変容量型ポンプは、ポンプ室の容積を変化させる構造であるため、そのオイルポンプにとって最適なポンプ室の形状となる容積の場合には問題はないが、ポンプ室が最適な形状を取れないような容積となる場合には、キャビテーションなどの課題が生じてしまう。
【0005】
そこで、この発明は、ポンプ室の形状を変化させることなく、ポンプ駆動に要する出力損失を減らすことができる車両用流体供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載した発明は、エンジン(例えば、実施形態におけるエンジン1)の駆動軸(例えば、実施形態におけるクランクシャフト6)の回転を伝達させることにより流体を圧送する車両用流体供給装置において、前記エンジンの駆動軸に連係されたポンプ軸(例えば、実施形態におけるポンプシャフト26)を有するポンプ(例えば、実施形態におけるオイルポンプP)と、前記ポンプ軸と前記エンジンとの間に設けられ前記ポンプ軸への動力の伝達を接続・遮断するクラッチ(例えば、実施形態におけるワンウェイクラッチ70)とを備えたことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載した発明は、前記クラッチは前記ポンプの前記ポンプ軸に配置されていることを特徴とする。
請求項3に記載した発明は、前記クラッチは前記ポンプから吐出される流体の圧力によって遮断されることを特徴とする。
請求項4に記載した発明は、前記ポンプから吐出する流体は、前記ポンプの吐出側に設けた液圧弁(例えば、実施形態における油圧弁50)から排出される流体であることを特徴とする。
【0008】
請求項5に記載した発明は、前記クラッチは前記ポンプ軸とアウタ部材(例えば、実施形態におけるクラッチアウタ72)との間に設けたカム部材室(例えば、実施形態におけるカム部材収納部83)内にカム部材(例えば、実施形態におけるカム部材84)を備え、このカム部材の前記ポンプ軸とのつれ回りによる楔効果により前記ポンプ軸と前記アウタ部材とを接続・遮断するものであり、前記ポンプ軸と前記アウタ部材との間に、前記カム部材のガタツキを防止するバネ(例えば、実施形態におけるコイルスプリング82)を備えたバネ室(例えば、実施形態におけるスプリング室78)と前記カム部材による楔作用を解除するための油圧室(例えば、実施形態における油圧室77)を備えていることを特徴とする。
【0009】
請求項6に記載した発明は、前記カム部材室内における前記カム部材を挟んだ前記バネの反対側に、前記カム部材の楔作用を解除させる規制部材(例えば、実施形態における規制部材86)を設け、この規制部材を前記アウタ部材に一体に設けたことを特徴とする。
【0010】
請求項7に記載した発明は、前記ポンプには液圧弁が設けられ、該液圧弁からの排出流体の圧力を前記クラッチに導き前記クラッチを前記ポンプ吐出側圧力が一定値を超えたときに遮断することを特徴とする。
請求項8に記載した発明は、前記液圧弁からの排出流体を前記ポンプに供給するための通路(例えば、実施形態における連通路80)が前記ポンプ軸内に形成されていることを特徴とする。
請求項9に記載した発明は、前記クラッチ(例えば、実施形態におけるマグネットカップリング70’)が伝達トルク容量を可変とするカップリングとして作用し前記エンジンからの回転駆動力が伝達される磁性部材からなるポンプ駆動部材(例えば、実施形態におけるオイルポンプドリブンスプロケット27’)と、このポンプ駆動部材の軸方向に移動可能であって永久磁石(例えば、実施形態における永久磁石M)を保持する可動部材(例えば、実施形態におけるカップリングロータ100)とを有し、前記可動部材の軸方向への移動を行うピストン(例えば、実施形態におけるレリーズピストン116)と液圧分配室(例えば、実施形態における液圧分配室97)を備えていることを特徴とする。
請求項10に記載した発明は、前記カップリングをスリップさせる前記液圧分配室への流体の供給を、前記ポンプ吐出側の流体の圧力により行うことを特徴とする。
請求項11に記載した発明は、前記ポンプから吐出する流体は、前記ポンプの吐出側に設けた液圧弁(例えば、実施形態における油圧弁50)から排出される流体であることを特徴とする。
請求項12に記載した発明は、前記液圧分配室は前記ポンプのポンプ軸(例えば、実施形態におけるポンプシャフト26’)と同軸に配置され、前記ポンプ室と前記ポンプ駆動部材との間に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載した発明によれば、エンジン回転数の増大に伴い増加する流体吐出量(ポンプ回転数)を一定以下に保つことができ、ポンプ駆動に要する出力損失を減らすことができる。
請求項2に記載した発明によれば、クラッチの軸とポンプ軸を共用することにより、構造の簡素化を図ることができる。
請求項3に記載した発明によれば、ポンプの吐出圧によってクラッチの接続・遮断する構造のため、モータ等の他の駆動力も必要とせず低コストで済み、制御が複雑とならず、信頼性を維持できる。
請求項4に記載した発明によれば、液圧弁の設定のみによりポンプの作動を容易に制御できる。
請求項5に記載した発明によれば、楔式のワンウェイクラッチを摺動と油圧とで接続・遮断できるため、構造が複雑とならずに信頼性を維持できる。
請求項6に記載した発明によれば、規制部材によりカム部材の楔作用を解除して吐出量を一定値以下に制限できる。
請求項7に記載した発明によれば、圧力制御弁からの液圧をクラッチの遮断に使用する構造のため、制御が複雑とならず、信頼性を維持できる。
請求項8に記載した発明によれば、ポンプから液圧弁への通路の配置スペースを削減でき、通路の簡素化及び装置の小型化を図ることができる。
請求項9に記載した発明は、カップリングの構造が簡素化すると共にカップリングの小型化を図ることができる。また、永久磁石を非接触式とすることでポンプ駆動部材の摩耗を無くし、耐久性を高められる。
請求項10に記載した発明によれば、ポンプの吐出圧力をそのままカップリングの伝達トルク変化に用いるため、制御が簡単で信頼性が向上する。
請求項11に記載した発明によれば、液圧弁の設定のみによりポンプの作動を容易に制御できる。
請求項12に記載した発明によれば、液圧分配室とポンプ軸とを共用することが可能となるため、構造を簡素化、一体化でき液圧分配室への供給油路を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の第1、2実施形態の要部後面図である。
【図2】この発明の第1、2実施形態のエンジンの右側の断面図である。
【図3】この発明の第1、2実施形態のエンジンの左側の断面図である。
【図4】第1実施形態の図1の要部拡大断面図である。
【図5】第1実施形態のクラッチが接続状態にある場合の断面図である。
【図6】第1実施形態のクラッチが遮断状態にある場合の断面図である。
【図7】この発明の第2実施形態の図4に相当する断面図である。
【図8】図7の部分拡大図である。
【図9】この発明の第2実施形態のカップリングロータの平面図である。
【図10】この発明の第2実施形態のオイルポンプドリブンスプロケットの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、この発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
図1はクランクシャフト及びオイルポンプの接続状況を示し、図2、図3は自動二輪車のエンジンを示し、このエンジンに車両用流体供給装置が設けられている。エンジン1は四気筒四サイクルエンジンであり、クランクケース2の上部にシリンダブロック3が取り付けられ、シリンダブロック3の上部にはシリンダヘッド4、シリンダヘッドカバー5が取り付けられている。
クランクケース2にはエンジン1の回転駆動力を発生するクランクシャフト6が車幅方向に回転可能に支持され、クランクシャフト6のクランクピン7には四本のコンロッド8を介してピストン9が上下動可能に支持されている。
【0014】
クランクシャフト6の中央のクランクジャーナル10にはカムチェーンドライブスプロケット11が設けられ、このカムチェーンドライブスプロケット11の右側にはオイルポンプドライブスプロケット12が取り付けられている。
吸気弁14と排気弁15を開閉作動させるカム16,17は各々カムシャフト18に取り付けられ、カムシャフト18にはカムチェーンドリブンスプロケット19が取り付けられている(図3参照)。これら二つのカムチェーンドリブンスプロケット19とクランクシャフト6のカムチェーンドライブスプロケット11にカムチェーン13が巻回されている。尚、カムチェーン13には、一対のチェーンガイド20が当接されて張力が付与されている。
【0015】
クランクシャフト6にはプライマリドライブギヤ21が設けられ、このプライマリドライブギヤ21はメインシャフト22の図示しないクラッチアウタに接続されたプライマリドリブンブギヤ23(図2参照)に噛合している。
メインシャフト22には図示しないギヤ群を介してカウンタシャフト24が連係され、これらギヤ群とメインシャフト22とカウンタシャフト24とによりトランスミッション25が構成されている。
【0016】
そして、クランクシャフト6のオイルポンプドライブスプロケット12には、オイルポンプPのポンプシャフト26に設けたオイルポンプドリブンスプロケット27に渡ってクランクシャフト6の回転を減速した状態で伝達させるオイルポンプドライブチェーン28が巻回されている。クランクシャフト6によってオイルポンプPが駆動することにより、オイルフィルタ29により濾過された潤滑油としてのオイルが図示しないメインギャラリからメインシャフト22、カウンタシャフト24を経てトランスミッション25を構成するギヤ群に供給される共にクランクシャフト6に形成されたオイル通路30及びカムシャフト18に供給されエンジン1を潤滑している。
【0017】
図4は車両用流体供給装置を示している。図4に示すように、車両用流体供給装置はオイルポンプPとワンウェイクラッチ70とを備えている。オイルポンプPはトロコイドポンプであって、例えば、五個の凹部を有するアウタロータ35をケーシング36内に回転可能に設け、このアウタロータ35内に凹部に対応して4個の凸部を有するインナロータ37が偏心回転可能に配置された周知構造の容積ポンプである。
【0018】
インナロータ37はポンプシャフト26の周面の対向する部分を平坦に形成した回り止め部38に回転不能に装着されている。アウタロータ35とインナロータ37との間にはポンプ室39が形成され、ケーシング36にはポンプ室39の容積が最小から最大に変化してゆく側に吸入ポート40が接続され、ポンプ室39の容積が最大から最小に変化してゆく側に吐出ポート41が設けられている。吸入ポート40にはオイルパン33(図2参照)に浸漬されたサクションフィルタ34が取り付けられている。
【0019】
オイルポンプPには、オイルポンプPと同様にポンプシャフト26に貫通されるバルブブロック42がボルト43によって後述する案内通路ブロック44と共に固定されている。バルブブロック42はオイルポンプPの吐出ポート41に接続される吐出通路45を形成している。吐出通路45にはオイルフィルタ29のイン側46(図3参照)に接続される吐出配管47がOリング48を介して接続されている。
【0020】
吐出通路45には設定圧でオイルをワンウェイクラッチ70に導く油圧弁50が取り付けられている。油圧弁50はOリング51によってシールされた筒状のケース53を備え、このケース53内に有底円筒形状の弁本体54がスプリング55によって付勢されている。ケース53には四ヶ所に孔56が形成され、この孔56はバルブブロック42に形成された油圧経路57に整合している。尚、この油圧弁50は図2に示すように斜めに取り付けられているが、図4においては図示都合上真っ直ぐ上側に取り付けられている状態で示している。
【0021】
したがって、弁本体54が吐出通路45のオイルから所定の圧力を受け、スプリング55の付勢力に抗して後退し、弁本体54の底部58がケース53の孔56の位置に至ると、吐出通路45のオイルがケース53の孔56から油圧経路57に流れる。
ここで、油圧弁50はキャップ59によりバルブブロック42に固定されており、キャップ59にはエア抜き用の孔60が設けられている。
【0022】
バルブブロック42には、案内通路ブロック44が前述したボルト43により固定されている。この案内通路ブロック44もポンプシャフト26に貫通されるのもである。したがって、ポンプシャフト26はオイルポンプP、バルブブロック42及び案内通路ブロック44を貫通して、これらオイルポンプP、バルブブロック42及び案内通路ブロック44に対して回転自在に支持される。
案内通路ブロック44は、バルブブロック42の油圧経路57に連通する案内通路62を有していてこの案内通路62はポンプシャフト26の外周面に形成された溝部63に至っている。尚、64は案内通路62の加工用孔65を閉塞する栓を示す。
【0023】
ポンプシャフト26の案内通路ブロック44側の端部は、案内通路ブロック44から突出すると共に円錐形状に拡径して、この拡径部67がワンウェイクラッチ70の一部であるクラッチインナ71を構成している。
拡径部67の中央部にはボス部68が突出形成され、このボス部68にオイルポンプドリブンスプロケット27の筒状部27aが外側からベアリング69を介してストッパリング61により抜け止めされた状態で回転可能に固定されている。オイルポンプドリブンスプロケット27と拡径部67との間にクラッチアウタ72が設けられている。
【0024】
図5、図6に示すように、クラッチアウタ72とクラッチインナ71とで構成されるワンウェイクラッチ70は、ポンプシャフト26とクランクシャフト6との間に設けられ、オイルポンプドリブンスプロケット27からポンプシャフト26への動力の伝達を接続・遮断するものである。この実施形態ではポンプシャフト26とクラッチインナ71とを一体化している。
【0025】
クラッチアウタ72の外周にはクラッチインナ71を内側に囲い込むような外周壁73が形成されている。外周壁73から中心部に向かい隔壁74が三ヶ所設けられている。クラッチインナ71は、クラッチアウタ72の外周壁73の内周面に摺接する三ヶ所の凸部75を備え、凸部75間はクラッチアウタ72の隔壁74に摺接する弧状部76により連結されている。クラッチインナ71の弧状部76の内側にオイルポンプドリブンスプロケット27の筒状部27aが配置され、オイルポンプドリブンスプロケット27の筒状部17aの内側にポンプシャフト26のボス部68が配置されている。
【0026】
クラッチアウタ72の隔壁74によってクラッチインナ71の弧状部76とクラッチアウタ72の外周壁73との間には右回り方向に順に油圧室77とスプリング室78が三組設けられている。各油圧室77には底部を構成する拡径部67の底面に溝79が形成され、この溝79がポンプシャフト26の溝部63に120°間隔で振り分けた連通路80で接続されている。
【0027】
三ヶ所の連通路80は互いに等しい圧力を各油圧室77に伝達させるためにポンプシャフト26のボス部68に設けた穿孔81に各々が連通して等圧化されている。油圧室77に油圧が作用すると隔壁74を介してクラッチアウタ72を右回り方向に回転する力が作用する(図6の状態)。
スプリング室78には、クラッチアウタ72を隔壁74を介して左回りに回動させるように付勢力を付与するコイルスプリング82が収納されている。
【0028】
クラッチインナ71の凸部75には、オイルポンプドリブンスプロケット27の筒状部27aとの間にカム部材収納部83が形成されている。カム部材収納部83には円筒状のカム部材84が収納されている。カム部材84は端面をポンプシャフト26の軸方向に向けてオイルポンプドリブンスプロケット27の筒状部27aを転がるように収納されている。カム部材収納部83には扁平な円形状のロックスプリング85が収納され、このロックスプリング85はカム部材84を左回り方向に付勢するものである。
【0029】
カム部材収納部83は内周側がオイルポンプドリブンスプロケット27の筒状部27aの外周面で構成されており、外周側は左回り方向側ほど径が小さくされた楔面88を備えている。つまり、カム部材84はポンプシャフト26の回転によってつれ回って押圧される方向へ変位すると、オイルポンプドリブンスプロケット27の筒状部27aとカム部材収納部83の楔面88とに挟まれる楔効果によってオイルポンプドリブンスプロケット27とクラッチインナ71とを一体にする。
【0030】
カム部材収納部83にはカム部材84を挟んでロックスプリング85とは反対側に規制部材86が配置されている。規制部材86はカム部材84の周面に当接する弧状面87を備えている。規制部材86の内側面と外側面は、各々オイルポンプドリブンスプロケット27の筒状部27aとカム部材収納部83の外周面との間にクリアランスが設けられている。この規制部材86はクラッチアウタ72と一体に形成されている。
【0031】
ここで、クラッチアウタ72の外周壁73には油圧室に77に隣接して段差部89が形成され、この段差部89にクラッチインナ71の凸部75が係止して、クラッチインナ71がクラッチアウタ72に対して右回りに移動するのを一定範囲に制限している。
【0032】
したがって、図5に示すように、クラッチ接続時においては、ポンプシャフト26につれ回り押圧されることで、カム部材84がオイルポンプドリブンスプロケット27の筒状部27aとカム部材収納部83の楔面88とに挟まれる楔作用を発揮し、クラッチアウタ72とクラッチインナ71とが接続され、矢印で示すように、オイルポンプドリブンスプロケット27の駆動力がポンプシャフト26に伝達される。
ここで、規制部材86はカム部材84が楔作用を発揮する位置にあってもカム部材84と接触しない位置にあるよう、コイルスプリング82によって維持される。
【0033】
また、図6に示すように、オイルポンプPの回転数が上昇すると共に吐出圧が高くなり、油圧弁50が設定圧力となって開弁し、油圧弁50が開弁した際に排出されるオイルポンプPの吐出オイルの一部が油圧経路57、案内通路62を経て三ヶ所の連通路80から油圧室77に流れると、コイルスプリング82とロックスプリング85を押し縮めるながら隔壁74が押圧されると共に規制部材86がカム部材84を楔作用が解除される方向に押圧する。これにより、クラッチアウタ72とクラッチインナ71とが遮断され、オイルポンプドリブンスプロケット27の筒状部27aはロックされなくなり、オイルポンプドリブンスプロケット27の駆動力はポンプシャフト26には伝達されない。
【0034】
また、ポンプシャフト26の回転数低下に伴い油圧弁50の吐出圧が低下し、油圧弁50が閉鎖すると隔壁74の押圧が解除されるため、コイルスプリング82の復元力によりクラッチアウタ72がクラッチインナ71に対して左側に回り、再びクラッチアウタ72とクラッチインナ71とが接続される。これによりオイルポンプドリブンスプロケット27の筒状部27aはロックされるため、オイルポンプドリブンスプロケット27の駆動力はポンプシャフト26に伝達される。
このようにして、油圧弁50により吐出配管47の吐出圧力は上昇しないため、オイルポンプPの駆動力は制限される。
【0035】
上記第1実施形態によれば、アイドリング時においても油圧系部品へのオイル供給が充分になされるようオイルポンプPの定格を大きなものに設定したとしても、エンジン回転数が高くなった場合においてはリリーフ弁がなくても吐出圧が設定以上とならないようにすることができ、油圧弁50からのオイル液圧を有効利用して、オイルポンプPの駆動を停止させるためにワンウェイクラッチ70を遮断することができる。よって、エンジン回転数の増大に伴い増加するオイルの吐出量(ポンプ回転数)を一定以下に保つことができ、ポンプ駆動に要する出力損失を減らすことができる。
【0036】
よって、油圧系の部品が増加したため、アイドリング時から必要な油圧を確保できる大型のオイルポンプPを使用したとしても、エンジン回転数が高い領域まで広いレンジでポンプ駆動力を増大させなくてもよくなる。
また、不必要な回転上昇が無くなることによるキャビテーションの発生防止やリリーフ弁を廃止することによる不必要なオイル戻しによる泡噛み込みでのキャビテーションの発生を防止できるため、キャビテーション発生防止のためのバッファープレート等の配置が必要なくなる。
【0037】
オイルポンプPのアウタロータ35とインナロータ37で形状されるポンプ室39の形状を変化させるような可変容量ポンプを用いることなく、最適な状態、つまり定格で使用した状態のままでオイルを供給できるので、キャビテーションを発生させることなく最終的にオイルポンプPからオイルフィルタ29を経てメインギャラリに供給されるオイルの吐出量を一定に維持することができる。
ワンウェイクラッチ70の軸をオイルポンプPのポンプシャフト26で共用することにより、構造の簡素化を図ることができる。
【0038】
また、オイルポンプPの吐出圧によってワンウェイクラッチ70を接続・遮断する構造のため、モータ等の他の駆動力を必要とせず制御が複雑とならず、信頼性を維持できる。ここで、オイルポンプPから吐出するオイルは、オイルポンプPの吐出側に設けた油圧弁50から排出されるリリーフオイルであるため、油圧弁50の設定のみによりオイルポンプPの作動条件を容易に変更できる。
【0039】
ワンウェイクラッチ70はポンプシャフト26とクラッチアウタ72との間に設けたカム部材収納部83にカム部材84を備え、このカム部材84の楔効果によりポンプシャフト26とクラッチアウタ72とを接続するものであり、ポンプシャフト26とクラッチアウタ72との間に、カム部材84による楔作用を発揮させるときに規制部材86の位置をカム部材84に接しない位置に維持するためのスプリング室78と、カム部材84による楔作用を解除するための油圧室77とを備えているため、楔式のワンウェイクラッチ70をコイルスプリング82とオイルとで接続・遮断でき、構造が複雑とならずに信頼性を維持できる。
【0040】
そして、カム部材収納部83に、カム部材84を楔作用を発揮させる方向に付勢するロックスプリング85を設けると共にカム部材84を挟んだロックスプリング85の反対側に、カム部材84の楔作用を解除させる方向へ移動させる規制部材86を設け、この規制部材86をクラッチアウタ72に支持したため、規制部材86によりカム部材84の楔作用を発揮させる方向への移動を制限して、油圧弁50からの圧力が低下するまでワンウェイクラッチ70を遮断することにより吐出量の均一化を図ることができる。
【0041】
油圧弁50からのリリーフオイルをワンウェイクラッチ70の接続・遮断に使用する構造のため、制御が複雑とならず、信頼性を維持できる。また、油圧弁50のリリーフオイルをオイルポンプPに供給するための連通路80がポンプシャフト26内に形成されているため、オイルポンプPから油圧弁50への通路の配置スペースを削減でき、通路の簡素化及び装置の小型化を図ることができる。
【0042】
次に、この発明の第2実施形態を図1から図3を援用し図7に基づいて説明する。
図7はこの実施形態の車両用流体供給装置を示している。
図7に示すように、車両用流体供給装置はオイルポンプPとマグネットカップリング70’とを備えている。この実施形態のオイルポンプPもトロコイドポンプであって、例えば、五個の凹部を有するアウタロータ35をケーシング36内に回転可能に設け、このアウタロータ35内に凹部に対応して4個の凸部を有するインナロータ37が偏心回転可能に配置された容積ポンプである。
【0043】
インナロータ37は筒状のポンプシャフト26’の周面の対向する部分を平坦に形成した回り止め部38に回転不能に装着されている。アウタロータ35とインナロータ37との間にはポンプ室39が形成され、ケーシング36にはポンプ室39の容積が最小から最大に変化してゆく側に吸入ポート40が接続され、ポンプ室39の容積が最大から最小に変化してゆく側に吐出ポート41が設けられている。吸入ポート40にはオイルパン33(図2参照)に浸漬されたサクションフィルタ34が取り付けられている。
【0044】
オイルポンプPには、第1実施形態と同様にポンプシャフト26’に貫通されるバルブブロック42がボルト43によって案内通路ブロック44と共に固定されている。バルブブロック42はオイルポンプPの吐出ポート41に接続される吐出通路45を形成している。吐出通路45にはオイルフィルタ29のイン側46(図3参照)に接続される吐出配管47がOリング48を介して接続されている。
【0045】
吐出通路45には設定圧でオイルをマグネットカップリング70’に導く油圧弁50が取り付けられている。油圧弁50はOリング51によってシールされた筒状のケース53を備え、このケース53内に有底円筒形状の弁本体54がスプリング55によって付勢されている。ケース53には四ヶ所に孔56が形成され、この孔56はバルブブロック42に形成された油圧経路57に整合している。尚、この油圧弁50は図2に示すように斜めに取り付けられているが、図7においては図示都合上真っ直ぐ上側に取り付けられている状態で示している。ここで、油圧弁50はキャップ59によりバルブブロック42に固定されており、キャップ59にはエア抜き用の孔60が設けられている。尚、58は弁本体54の底部を示す。
【0046】
バルブブロック42には、案内通路ブロック44が前述したボルト43により固定されている。この案内通路ブロック44もポンプシャフト26’に貫通されている。したがって、ポンプシャフト26’はオイルポンプP、バルブブロック42及び案内通路ブロック44を貫通して、これらオイルポンプP、バルブブロック42及び案内通路ブロック44に対して回転自在に支持される。
案内通路ブロック44は、バルブブロック42の油圧経路57に連通する案内通路62を有していてこの案内通路62はポンプシャフト26’の外周面に形成された溝部63’に至っている。尚、64は案内通路62の加工用孔65を閉塞する栓を示す。
【0047】
ポンプシャフト26’は、案内通路ブロック44の貫通部位に、オイルポンプP、バルブブロック42の貫通部位よりも直径が大きい大径部90を備えている。ポンプシャフト26’の内部には、オイルポンプドリブンスプロケット27(この第2実施形態では磁性部材からなる)のシャフト91が挿通され、ポンプシャフト26’の両端内周部に設けたベアリング92,92を介して、このオイルポンプドリブンスプロケット27のシャフト91が回転可能に支持されている。シャフト91はポンプシャフト26’端部から突出しストッパリング93によりポンプシャフト26’から抜け止めされている。ここで、ポンプシャフト26’のオイルポンプドリブンスプロケット27側の端部には筒状のボス部107が形成され、このボス部107の周囲に固定したストッパリング93によって後述する液圧分配室97の後壁98を抜け止め固定している。尚、122はスラストワッシャを示す。
【0048】
ポンプシャフト26’の内部には通路94がベアリング92,92の配置部位に渡って軸方向に設けられている。通路94はオイルポンプドリブンスプロケット27側が開放されているが、栓99で閉塞されている。通路94のオイルポンプP側は、ベアリング92の配置部位を跨ぐようにしてオイルポンプPのケーシング36の内壁、ポンプシャフト26’及びシャフト91を貫いて設けられた連通路95からポンプ室39に連通し、通路94のオイルポンプドリブンスプロケット27側は、ポンプシャフト26’に設けた連通路96を介してベアリング92の配置部位に至っている。
【0049】
図8〜10に示すように、ポンプシャフト26’の大径部90の外周にはカップリングロータ100がポンプシャフト26’の軸方向にストロークできるようにスプライン嵌合によって取り付けられ、ストッパリング101によりオイルポンプP側へのストロークが規制されている。尚、カップリングロータ100はスプリングSによりオイルポンプドリブンスプロケット27側に付勢されている。
カップリングロータ100はポンプシャフト26’にスプライン嵌合する嵌合部102と、この嵌合部102から立ち上がる環状の立ち上げ壁108と嵌合部102よりも径の大きな筒状の拡径部103と、この拡径部103の周囲に設けたフランジ部104を備えている。
【0050】
フランジ部104はオイルポンプドリブンスプロケット27と対向するように設けられ、フランジ部104には周方向に所定角度で振り分けた凹部105がオイルポンプドリブンスプロケット27に対向するように8箇所設けられ、この凹部105に永久磁石Mを保持している。
また、図10に示すように、カップリングロータ100の永久磁石Mに対応するように、オイルポンプドリブンスプロケット27には、永久磁石Mの配置径に沿って周方向に所定角度で振り分けた8箇所に孔106(図7,図8に示さず)が形成されている。
【0051】
カップリングロータ100はオイルポンプドリブンスプロケット27側のストロークエンドに位置している場合(カップリング伝達トルク最大状態)において、永久磁石Mを含めてオイルポンプドリブンスプロケット27に接触しないようになっている。具体的には、カップリングロータ100とオイルポンプドリブンスプロケット27との間には、カップリング伝達トルク最大状態で隙間Cができるようになっている。この隙間Cは、オイルポンプドリブンスプロケット27が回転駆動した場合に、永久磁石Mの磁力によりオイルポンプドリブンスプロケット27、正確にはオイルポンプドリブンスプロケット27の孔106が形成されていない部分に引き寄せられたカップリングロータ100がオイルポンプドリブンスプロケット27と連れ回るような吸着力を発揮できる程度の隙間Cである。
【0052】
ここで、オイルポンプドリブンスプロケット27に孔106が設けられているため、オイルポンプドリブンスプロケット27のカップリングロータ100に対する相対回転によって、永久磁石Mが孔106の部分に向かおうとすると、オイルポンプドリブンスプロケット27の孔106の形成されていない部分に永久磁石Mが引き寄せられて止まろうとするため、オイルポンプドリブンスプロケット27にカップリングロータ100が追従して回転する。つまり、隣り合う孔106の間の部分が、カップリングロータ100の永久磁石Mが配置された部分に対応して間欠的に配置されていれば、カップリングロータ100とオイルポンプドリブンスプロケット27とを接続状態とできる。
【0053】
カップリングロータ100の大径部90の立ち上げ壁108は、ポンプシャフト26’の大径部90とボス部107との境界部分に位置している。この立ち上げ壁108と大径部90の端面とボス部107とオイルポンプドリブンスプロケット27とで囲まれる部分に、カップリングロータ100をポンプシャフト26’のオイルポンプP側の軸方向へ移動させる液圧分配室97が設けられている。したがって、液圧分配室97はポンプシャフト26’と同軸に、ポンプ室39とオイルポンプドリブンスプロケット27との間に形成されている。
後壁98に対向して液圧分配室97には前壁110がポンプシャフト26’の大径部90の端面にピン111により取り付けられている。前壁110は周囲にカップリングロータ100の拡径部103の内周壁に接する筒状部112を備え、この筒状部112の内周壁に、後壁98の周縁にポンプシャフト26’の軸方向に向かって設けたフランジ113が密接してストッパ114により固定されている。
【0054】
後壁98には周方向に4箇所のピストン孔115が形成され、このピストン孔115に有底円筒形のレリーズピストン116が開口部をオイルポンプドリブンスプロケット27側に向けて収納されている。このレリーズピストン116の底壁117がカップリングロータ100の立ち上げ壁108を押圧することにより、カップリングロータ100がオイルポンプP側にストロークし、オイルポンプドリブンスプロケット27からカップリングロータ100を引き離してマグネットカップリング70’をカップリング伝達トルク最小状態とする。
【0055】
ここで、ポンプシャフト26’の大径部90には、ポンプシャフト26’の軸方向に延びオイルポンプドリブンスプロケット27側の端面で開口する連通路118が形成され、液圧分配室97内に開口する前壁110の供給孔119に連通している。
ポンプシャフト26’の大径部90の溝部63’は連通路118に接続される接続通路120を備えている。したがって、油圧弁50から排出され案内通路ブロック44の案内通路62から供給される作動油は、溝部63’、接続通路120、連通路118、供給孔119を経て、液圧分配室97内のレリーズピストン116内に供給され伝達トルク容量を減少させる。
ここで、レリーズピストン116の外周にはシールリング121が装着され、シールリング121が摺動面の作動油の漏れを抑制する。また、レリーズピストン116のオイルポンプドリブンスプロケット27側へのスラスト移動はストッパリング93により抜け止めされた後壁98により限定される。
【0056】
したがって、図7に示すように、カップリング伝達トルク最大状態においては、オイルポンプドリブンスプロケット27に対してカップリングロータ100の永久磁石Mが引き寄せられることにより、オイルポンプドリブンスプロケット27とカップリングロータ100との距離が最小となり、カップリングロータ100がスプライン嵌合しているポンプシャフト26’にオイルポンプドリブンスプロケット27の駆動力が伝達される。
ここで、カップリング伝達トルク最大状態では、永久磁石Mを含め、カップリングロータ100はオイルポンプドリブンスプロケット27に接触せず、隙間Cを有しているため、カップリングロータ100及びオイルポンプドリブンスプロケット27は摩耗しない。
【0057】
この状態で、オイルポンプPの回転数が上昇すると共に吐出圧が高くなり、油圧弁50が設定圧力となって開弁し、油圧弁50から排出されるオイルポンプPの吐出オイルの一部が油圧経路57、案内通路62を経て、溝部63’、接続通路120、連通路118、供給孔119から液圧分配室97に流れると、レリーズピストン116が前壁110のピストン孔115に押し込まれるため、立ち上げ壁108が押圧されたカップリングロータ100がオイルポンプP側に押圧される。
【0058】
これにより、オイルポンプドリブンスプロケット27とカップリングロータ100とが離れるため、永久磁石Mから作用するオイルポンプドリブンスプロケット27への磁気力が低下し、オイルポンプドリブンスプロケット27とカップリングロータ100との間に回転速度差が生ずる。よって、オイルポンプドリブンスプロケット27は回転をするが、カップリングロータ100の回転数が低下することにより、オイルポンプドリブンスプロケット27のポンプシャフト26’への伝達駆動力は低下する。このとき、オイルポンプドリブンスプロケット27のシャフト91はポンプシャフト26’内で速度差を生じながら回転する。
【0059】
ポンプシャフト26’の回転数低下に伴い油圧弁50の吐出圧が低下し、油圧弁50が閉鎖しレリーズピストン116がオイルポンプドリブンスプロケット27側に戻り、そのためカップリングロータ100の永久磁石Mの磁気力による引きずり力が増加すると、再びオイルポンプドリブンスプロケット27の回転トルクのポンプシャフト26’に対する伝達容量が増大することで、ポンプシャフト26’の回転数が増加する。
このように、油圧弁50により吐出配管47の吐出圧力は上昇しないため、オイルポンプPの駆動力は設定圧力範囲内に制限される。
【0060】
上記第2実施形態によれば、アイドリング時においても油圧系部品へのオイル供給が充分になされるようオイルポンプPの定格を大きなものに設定したとしても、エンジン回転数が高くなった場合においてはリリーフ弁がなくても吐出圧が設定以上とならないようにすることができ、油圧弁50からのオイル液圧を有効利用して、オイルポンプPの駆動による吐出圧力を制限するためにマグネットカップリング70’の容量を自動調整することができる。よって、エンジン回転数の増大に伴い増加するオイルの吐出量(ポンプ回転数)を一定以下に保つことができ、ポンプ駆動に要する出力損失を減らすことができる。
【0061】
よって、油圧系の部品が増加したため、アイドリング時から必要な油圧を確保できる大型のオイルポンプPを使用したとしても、エンジン回転数が高い領域まで広いレンジでポンプ駆動力を増大させなくてもよくなる。
また、不必要な回転上昇が無くなることによるキャビテーションの発生防止やリリーフ弁を廃止することによる不必要なオイル戻しによる泡噛み込みでのキャビテーションの発生を防止できるため、キャビテーション発生防止のためのバッファープレート等の配置が必要なくなる。
【0062】
オイルポンプPのアウタロータ35とインナロータ37で形状されるポンプ室39の形状を変化させるような可変容量ポンプを用いることなく、最適な状態、つまり定格で使用した状態のままでオイルを供給できるので、キャビテーションを発生させることなく最終的にオイルポンプPからオイルフィルタ29を経てメインギャラリに供給されるオイルの吐出量を一定に維持することができる。
マグネットカップリング70’の軸をオイルポンプPのポンプシャフト26’で共用することにより、構造の簡素化を図ることができる。
【0063】
また、オイルポンプPの吐出圧によってマグネットカップリング70’の容量を自動調整する構造のため、モータ等の他の駆動力を必要とせず制御が複雑とならず、信頼性を維持できる。ここで、オイルポンプPから吐出するオイルは、オイルポンプPの吐出側に設けた油圧弁50から排出されるオイルであるため、油圧弁50の設定のみによりオイルポンプPの作動条件を容易に変更できる。
【0064】
マグネットカップリング70’はエンジン1からの回転駆動力が伝達される磁性部材からなるオイルポンプドリブンスプロケット27と、このオイルポンプドリブンスプロケット27に対して軸方向に移動可能で永久磁石Mを保持するカップリングロータ100とを有し、カップリングロータ100のポンプシャフト26’方向への移動を行う液圧分配室97を備えているため、マグネットカップリング70’の構造が簡素化すると共にマグネットカップリング70’の小型化を図ることができる。また、永久磁石Mを非接触式とすることでオイルポンプドリブンスプロケット27の摩耗を無くし、耐久性を高められる。
【0065】
マグネットカップリング70’の伝達トルク容量を変化させる液圧分配室97への作動油の供給を、オイルポンプPの吐出側のオイルの圧力により行い、オイルポンプPの吐出圧力をそのままマグネットカップリング70’の伝達トルク容量変化に用いるため、制御が簡単で信頼性が向上する。
【0066】
オイルポンプPから吐出するオイルは、オイルポンプPの吐出側に設けた油圧弁50から排出されるオイルであることにより、油圧弁50の設定のみによりオイルポンプPの作動を容易に制御できる。
液圧分配室97はオイルポンプPのポンプシャフト26’と同軸で、ポンプ室39とオイルポンプドリブンスプロケット27との間に設けられているため、液圧分配室97とオイルポンプPのポンプシャフト26’とを共用することが可能となり、構造を簡素化、一体化でき液圧分配室97への連通路118を短縮できる。
【0067】
尚、この発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、オイルポンプに替えてウォータポンプ31或いは電動機ロータにも適用できる。また、オイルポンプPの吐出圧を低回転から高くし、かつ、高回転では流量を抑えたい場合に、アウタロータ35のサイズを大きくして、制限圧力に比較的低い回転で到達させる設定もできる。
また、ポンプ駆動部材側に永久磁石を設け稼動部材側を磁性部材に換えてエンジンからの駆動力を断接するようにしてもよい。
更に、孔106に換えて永久磁石Mに対向するオイルポンプドリブンスプロケット27の面に凹部を設けても良い。
ここで、永久磁石Mの数、対応する孔106や凹部の数、レリーズピストン116の数は第2実施形態で説明した数に限られない。
【符号の説明】
【0068】
1 エンジン
6 クランクシャフト(駆動軸)
39 ポンプ室
26、26’ ポンプシャフト(ポンプ軸)
27’オイルポンプドリブンスプロケット(ポンプ駆動部材)
50 油圧弁(液圧弁)
70 ワンウェイクラッチ
70’マグネットカップリング
72 クラッチアウタ(アウタ部材)
77 油圧室
78 スプリング室(バネ室)
80 連通路
82 コイルスプリング(バネ)
83 カム部材収納部(カム部材室)
84 カム部材
85 ロックスプリング(バネ)
86 規制部材
97 液圧分配室
100 カップリングロータ(可動部材)
M 永久磁石
P オイルポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの駆動軸の回転を伝達させることにより流体を圧送する車両用流体供給装置において、前記エンジンの駆動軸に連係されたポンプ軸を有するポンプと、前記ポンプ軸と前記エンジンとの間に設けられ前記ポンプ軸への動力の伝達を接続・遮断するクラッチとを備えたことを特徴とする車両用流体供給装置。
【請求項2】
前記クラッチは前記ポンプの前記ポンプ軸に配置されていることを特徴とする請求項1記載の車両用流体供給装置。
【請求項3】
前記クラッチは前記ポンプから吐出される流体の圧力によって遮断されることを特徴とする請求項2記載の車両用流体供給装置。
【請求項4】
前記ポンプから吐出する流体は、前記ポンプの吐出側に設けた液圧弁から排出される流体であることを特徴とする請求項3記載の車両用流体供給装置。
【請求項5】
前記クラッチは前記ポンプ軸とアウタ部材との間に設けたカム部材室内にカム部材を備え、このカム部材の前記ポンプとのつれ回りによる楔効果により前記ポンプ軸と前記アウタ部材とを接続・遮断するものであり、前記ポンプ軸と前記アウタ部材との間に、前記カム部材のガタツキを防止するバネを備えたバネ室と前記カム部材による楔作用を解除するための油圧室を備えていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の車両用流体供給装置。
【請求項6】
前記カム部材室内における前記カム部材を挟んだ前記バネの反対側に、前記カム部材の楔作用を解除させる規制部材を設け、この規制部材を前記アウタ部材に一体に設けたことを特徴とする請求項5記載の車両用流体供給装置。
【請求項7】
前記ポンプには液圧弁が設けられ、該液圧弁からの排出流体の圧力を前記クラッチに導き前記クラッチを前記ポンプ吐出側圧力が一定値を超えたときに遮断することを特徴とする請求項2記載の車両用流体供給装置。
【請求項8】
前記液圧弁からの排出流体を前記ポンプに供給するための通路が前記ポンプ軸内に形成されていることを特徴とする請求項7記載の車両用流体供給装置。
【請求項9】
前記クラッチが伝達トルク容量を可変とするカップリングとして作用し前記エンジンからの回転駆動力が伝達される磁性部材からなるポンプ駆動部材と、このポンプ駆動部材に対して軸方向に移動可能であって永久磁石を保持する可動部材とを有し、前記可動部材の軸方向への移動を行うピストンと液圧分配室を備えていることを特徴とする請求項1記載の車両用流体供給装置。
【請求項10】
前記カップリングをスリップさせる前記液圧分配室への流体の供給を、前記ポンプ吐出側の流体の圧力により行うことを特徴とする請求項9記載の車両用流体供給装置。
【請求項11】
前記ポンプから吐出する流体は、前記ポンプの吐出側に設けた液圧弁から排出される流体であることを特徴とする請求項10記載の車両用流体供給装置。
【請求項12】
前記液圧分配室は前記ポンプのポンプ軸と同軸で、前記ポンプ室と前記ポンプ駆動部材との間に設けられていることを特徴とする請求項10又請求項11に記載の車両用流体供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−255622(P2010−255622A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42486(P2010−42486)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】