説明

車両用液圧発生装置

【課題】本発明は、車体に組み付け易く、組み付け工数を低減することができる車両用液圧発生装置を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、運転者のブレーキペダルの操作に応じて液圧を発生させる液圧発生手段(マスタシリンダ34)と、前記液圧発生手段の内部に収容されて前記ブレーキペダル側に設けられる後方ピストン部材(第2ピストン40a)と、前記後方ピストン部材の前方に配置される前方ピストン部材(第1ピストン40b)と、を有する車両用液圧発生装置において、前記液圧発生手段の内部に収容されて前記ブレーキペダルのプッシュロッド42の先端に連結されるロッド連結部材43と、前記後方ピストン部材と前記ロッド連結部材との間に配置されるばね部材45と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキ装置に使用する車両用液圧発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者がブレーキペダルを踏み込んでブレーキ装置のマスタシリンダに液圧を発生させる際の、ペダル操作の段付き感を低減してペダルフィールを向上させるブレーキ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。次に参照する図5は、従来のマスタシリンダの構成説明図である。
【0003】
図5に示すように、このブレーキ装置は、コイルスプリング250a、250bと、これにより後方(図5の紙面右側)に付勢される前ピストン240b及び後ピストン240aとを内蔵するマスタシリンダ238と、後ピストン240aの後部に隙間αを空けて差し込まれるプッシュロッド242と、このプッシュロッド242にブレーキペダル212を介して荷重が入力される際に、反力を付与する反力スプリング245と、を備えている。
このブレーキ装置は、コイルスプリング250a、250bがブレーキペダル212に反力を付与する前に、反力スプリング245により反力を発生させつつプッシュロッド242を隙間αが解消されるまで前方に移動させ、その後、後ピストン240aに当接したプッシュロッド242で、前ピストン240b及び後ピストン240aを前方に移動させるようになっている。
【0004】
このブレーキ装置によれば、プッシュロッド242が後ピストン240aに当接する前に、言い換えれば、前ピストン240b及び後ピストン240aを前方に移動させる前に、このプッシュロッド242に反力スプリング245が反力を付与するので、マスタシリンダ238に液圧を発生させる際のペダル操作の段付き感を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/055842号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このブレーキ装置では、反力スプリング245の一端をマスタシリンダ238の後端で支持すると共に、その他端をブレーキペダル212側で支持する必要がある。また、マスタシリンダ238の後ピストン240aに対して所定の隙間αを維持してプッシュロッド242を組み付ける必要がある反面、このプッシュロッド242には、プッシュロッド242を後ピストン240aから引き離す方向に付勢する反力スプリング245が組み付けられる構成となる。したがって、このブレーキ装置では、マスタシリンダ238を車体(例えば、ダッシュボードロア)に組み付け難くなると共に、組み付け工数が増える問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、車体に組み付け易く、組み付け工数を低減することができる車両用液圧発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決した本発明は、運転者のブレーキペダルの操作に応じて液圧を発生させる液圧発生手段と、前記液圧発生手段の内部に収容されて前記ブレーキペダル側に設けられる後方ピストン部材と、前記後方ピストン部材の前方に配置される前方ピストン部材と、を有する車両用液圧発生装置において、前記液圧発生手段の内部に収容されて前記ブレーキペダルのプッシュロッドの先端に連結されるロッド連結部材と、前記後方ピストン部材と前記ロッド連結部材との間に配置されるばね部材と、を備えることを特徴とする。
本発明の車両用液圧発生装置は、従来のブレーキ装置(例えば、特許文献1参照)と異なって、ブレーキペダルのプッシュロッドは、後方ピストン部材(従来のブレーキ装置を構成するマスタシリンダの後ピストンに対応する)に直接組み付けられるものではなく、液圧発生手段(従来の前記マスタシリンダに対応する)内にロッド連結部材を新規に設けると共、このロッド連結部材に対してプッシュロッドが組み付けられる構成となっている。そして、ロッド連結部材と後方ピストンとの間にばね部材が設けられる構成となっている。
したがって、このような車両用液圧発生装置によれば、従来のブレーキ装置を構成するマスタシリンダ(例えば、特許文献1参照)と異なって、マスタシリンダとの間に所定の隙間αを設けることなく、車体にこれを組み付けることができるので、車体に対する組み付け容易性が一段と向上する。
また、この車両用液圧発生装置によれば、従来のブレーキ装置を構成するマスタシリンダ(例えば、特許文献1参照)と異なって、これを車体に取り付ける際に、マスタシリンダとプッシュロッドとの間に反力スプリングを設ける必要がないので、組み付け工数を低減することができる。
【0009】
この車両用液圧発生装置においては、前記液圧発生手段に常開の遮断弁を介して連通すると共に、電動アクチュエータによって作動する電気的液圧発生手段と、前記液圧発生手段に連通して前記ブレーキペダルに反力を付与するために常閉の反力許可弁を介して設けられるストロークシミュレータと、前記ブレーキペダルの操作量を検出する操作量検出手段と、を有し、前記ロッド連結部材が前記後方ピストン部材と当接するまでに、前記操作量検出手段の検出した前記ブレーキペダルの操作量に基づいて前記遮断弁を閉じると共に前記反力許可弁を開く構成とすることができる。
一般に、電動ブレーキシステムの車両用液圧発生装置は、通常時の使用においては、電気的液圧発生手段で電気的に発生させた液圧で車両の制動を行うと共に、液圧発生手段に連通するストロークシミュレータによってブレーキペダルに反力が付与される。そして、電気的液圧発生手段による液圧の発生に支障をきたしたとき等のフェールセーフ時には、液圧発生手段と電気的液圧発生手段との間に設けられた常開の遮断弁を開弁することで液圧発生手段と電気的液圧発生手段とを連通させ、液圧発生手段で発生させた液圧によって車両の制動を行う。
本発明の車両用液圧発生装置によれば、通常時の使用において、操作量検出手段でブレーキペダルの操作量を検出することにより、液圧発生手段で液圧が発生する前に、液圧発生手段と電気的液圧発生手段との連通を絶つことができる。その結果、この車両用液圧発生装置によれば、液圧発生手段から電気的液圧発生手段にブレーキ液(フルード)が流れ込むことが防止されて、電気的液圧発生手段で発生した液圧のみによって車両の制動を、より正確に行うことができる。
また、このような車両用液圧発生装置によれば、操作量検出手段により液圧発生手段で液圧が発生する前に、液圧発生手段とストロークシミュレータとを連通させることができるので、液圧発生手段で発生させた液圧に基づく反力を、運転者にタイムラグを感じさせることなく、より迅速にブレーキペダルに付与することができる。
【0010】
また、この車両用液圧発生装置においては、前記ばね部材は、前記後方ピストン部材の後部の内側に配置される構成とすることができる。
このような車両用液圧発生装置によれば、後方ピストン部材の後部の内側にばね部材が収まるので、よりコンパクト化した車両用液圧発生装置とすることができる。また、この車両用液圧発生装置においては、ばね部材と共にロッド連結部材も後方ピストン部材の後部の内側に配置することが望ましい。このような車両用液圧発生装置によれば、車両用液圧発生装置内で移動する後方ピストン部材の更にその内側にロッド部材が配置されるので、液圧発生手段におけるロッド連結部材の摺動抵抗を低下させることができる。
【0011】
また、この車両用液圧発生装置においては、前記後方ピストン部材の後端部に、前記ロッド連結部材の後端部と接する規制部材を備える構成とすることができる。
この車両用液圧発生装置では、車両用液圧発生装置内で後方ピストン部材が移動すると共に、この後方ピストン部材の後部内でロッド連結部材が相対移動する。
この際、車両用液圧発生装置に対する後方ピストン部材の変位量(特に戻り量)と、車両用液圧発生装置に対するロッド連結部材の変位量(特に戻り量)とは異なるところ、本発明は、後方ピストン部材の後端部に、ロッド連結部材の後端部と接する規制部材を備えている。そのため、この車両用液圧発生装置によれば、後方ピストン部材の後端とロッド連結部材の後端とが一致するように、初期位置の位置合わせをすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、車体に組み付け易く、組み付け工数を低減することができる車両用液圧発生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用液圧発生装置を備える車両用ブレーキシステムの車両における配置構成を示す図である。
【図2】車両用ブレーキシステムの概略構成図である。
【図3】本発明の実施形態に係る車両用液圧発生装置に適用される液圧発生手段(マスタシリンダ)の構成説明図である。
【図4】図3のIV部の部分拡大図である。
【図5】従来のマスタシリンダの構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明の車両用液圧発生装置は、新規なロッド連結部材を後方ピストン部材の後方に有する液圧発生手段(マスタシリンダ)を備えることを主な特徴点とする。また、本発明の車両用液圧発生装置は、後に詳しく説明するように、電動アクチュエータによって作動する電気的液圧発生手段と、ブレーキペダルに反力を付与するストロークシミュレータと、ブレーキペダルの操作量を検出する操作量検出手段とを更に備えて構成されている。
以下では、本実施形態に係る車両用液圧発生装置を備える車両用ブレーキシステムについて説明した後に、この車両用液圧発生装置を構成する液圧発生手段(マスタシリンダ)について更に詳しく説明する。
【0015】
<車両用ブレーキシステム>
図1は、本発明の実施形態に係る車両用液圧発生装置を備える車両用ブレーキシステムの車両における配置構成を示す図である。なお、車両Vの前後左右の方向を図1に矢印で示す。図2は、車両用ブレーキシステムの概略構成図である。なお、図2に示すマスタシリンダ及びストロークシミュレータは作図の便宜上、模式的に表している。
【0016】
本実施形態の車両用ブレーキシステム10は、通常時用として、電気信号を伝達してブレーキを作動させるバイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムと、フェールセーフ時用として、油圧を伝達してブレーキを作動させる旧来の油圧式のブレーキシステムの双方を備えて構成される。
【0017】
図1に示すように、車両用ブレーキシステム10は、操作者(運転者)のブレーキペダル12(図2参照)によるブレーキ操作が入力されるマスタシリンダ34(図2参照)を有する入力装置14と、ブレーキペダル12の操作量を検出するストロークセンサ13(図2参照)と、少なくともブレーキペダル12の前記操作量に応じた電気信号に基づいてブレーキ液圧を発生するモータシリンダ装置16と、モータシリンダ装置16で発生したブレーキ液圧に基づいて車両Vの挙動の安定化を支援する車両挙動安定化装置としてのビークルスタビリティアシスト装置18(以下、VSA装置18という、VSA;登録商標)とを備えている。
このような車両用ブレーキシステム10において、本実施形態に係る車両用液圧発生装置1は、図2に示すように、マスタシリンダ34(液圧発生手段)、ストロークセンサ13(操作量検出手段)及びモータシリンダ装置16(電気的液圧発生手段)、並びにブレーキペダル12にブレーキ反力を付与するための後記するストロークシミュレータ64を備えて構成されている。
【0018】
なお、モータシリンダ装置16は、運転者のブレーキ操作に応じた電気信号だけではなく、他の物理量に応じた電気信号に基づいてブレーキ液圧を発生するように構成されていてもよい。他の物理量に応じた電気信号とは、例えば、自動ブレーキシステムのような、運転者のブレーキ操作によらずに、ECU(Electronic Control Unit)が車両Vの周囲の状況をセンサ等で判断して、車両Vの衝突等を回避するための信号等である。
【0019】
入力装置14は、ここでは右ハンドル車に適用するものであり、ダッシュボード2の車幅方向の右側にボルト等を介して固定されている。モータシリンダ装置16は、例えば、入力装置14とは逆側の車幅方向の左側に配置され、左側のサイドフレーム等の車体に取付用ブラケット(図示せず)を介して取り付けられている。VSA装置18は、例えば、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐABS(アンチロック・ブレーキ・システム)機能、加速時等の車輪空転を防ぐTCS(トラクション・コントロール・システム)機能、旋回時の横すべりを抑制する機能等を備えて構成されており、例えば、車幅方向の右側の前端に、ブラケットを介して車体に取り付けられている。なお、VSA装置18に代えて、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐABS機能のみを有するABS装置を接続してもよい。入力装置14、モータシリンダ装置16、及びVSA装置18の内部の詳細な構成については後記する。
【0020】
これらの入力装置14、モータシリンダ装置16、及びVSA装置18は、車両Vのダッシュボード2の前方に設けられたエンジンや走行用モータ等の構造物3が搭載される構造物搭載室Rに、互いに分離して配置されると共に、これらは配管チューブ22a〜22fを介して互いに接続されている。なお、車両用ブレーキシステム10は、前輪駆動車、後輪駆動車、四輪駆動車のいずれにも適用可能である。また、バイ・ワイヤ式のブレーキシステムとして、入力装置14とモータシリンダ装置16とは、図示しないハーネスによってECU等の制御手段と電気的に接続されている。
【0021】
主に図2を参照して液圧路について説明すると、図2中の連結点A1を基準として、入力装置14の接続ポート20aと連結点A1とが第1配管チューブ22aによって接続され、また、モータシリンダ装置16の出力ポート24aと連結点A1とが第2配管チューブ22bによって接続され、さらに、VSA装置18の導入ポート26aと連結点A1とが第3配管チューブ22cによって接続されている。
【0022】
図2中の他の連結点A2を基準として、入力装置14の他の接続ポート20bと連結点A2とが第4配管チューブ22dによって接続され、また、モータシリンダ装置16の他の出力ポート24bと連結点A2とが第5配管チューブ22eによって接続され、さらに、VSA装置18の他の導入ポート26bと連結点A2とが第6配管チューブ22fによって接続されている。
【0023】
VSA装置18には、複数の導出ポート28a〜28dが設けられる。第1導出ポート28aは、第7配管チューブ22gによって右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30aのホイールシリンダ32FRと接続される。第2導出ポート28bは、第8配管チューブ22hによって左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30bのホイールシリンダ32RLと接続される。第3導出ポート28cは、第9配管チューブ22iによって右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30cのホイールシリンダ32RRと接続される。第4導出ポート28dは、第10配管チューブ22jによって左側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30dのホイールシリンダ32FLと接続される。
【0024】
この場合、各導出ポート28a〜28dに接続される配管チューブ22g〜22jによってブレーキ液(フルード)がディスクブレーキ機構30a〜30dの各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに対して供給され、各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL内の液圧が上昇することにより、各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動し、対応する車輪(右側前輪、左側後輪、右側後輪、左側前輪)に対して制動力が付与される。
【0025】
なお、車両用ブレーキシステム10は、例えば、エンジン(内燃機関)のみによって駆動される自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等を含む各種車両に対して搭載可能に設けられる。
【0026】
入力装置14は、運転者によるブレーキペダル12の操作によって、液圧を2つの出力ポート54a、54bを介して発生可能なタンデム式のマスタシリンダ34と、前記マスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36と、ストロークシミュレータ64とを有する。マスタシリンダ34は、特許請求の範囲にいう「液圧発生手段」に相当する。
マスタシリンダ34のシリンダチューブ38には、2つのサプライポート46a、46bと、2つのリリーフポート52a、52bと、が設けられる。この場合、各サプライポート46a(46b)及び各リリーフポート52a(52b)は、それぞれ合流して第1リザーバ36内の図示しないリザーバ室と連通するように設けられる。
このマスタシリンダ34の内部構成については後に詳しく説明する。
【0027】
ストロークセンサ13は、ブレーキペダル12の操作量、本実施形態では実ストローク量(原位置からの踏み込み量)[deg]を検出するように構成されている。そして、ストロークセンサ13は、操作量の検出信号を図示しないECU等の制御手段に出力するようになっている。ちなみに、この制御手段は、ブレーキペダル12の操作量の検出信号に基づいて、後記するタイミングで第1遮断弁60b(常開の遮断弁)及び第2遮断弁60a(常開の遮断弁)を閉弁すると共に、後記するタイミングで第3遮断弁62(常閉の反力許可弁)を開弁するように構成されている。
【0028】
マスタシリンダ34と接続ポート20aとの間であって、第2液圧路58aの上流側には、圧力センサPmが配設されると共に、第2液圧路58aの下流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第2遮断弁60aが設けられる。
なお、この第2遮断弁60aは、特許請求の範囲にいう「常開の遮断弁」に相当する。つまり、マスタシリンダ34(液圧発生手段)は、この第2遮断弁60a(常開の遮断弁)を介して後記するモータシリンダ装置16(電気的液圧発生装置)と連通可能となっている。
ちなみに、圧力センサPmは、第2液圧路58a上において、第2遮断弁60aよりもマスタシリンダ34側の上流の液圧を検知するものである。
【0029】
マスタシリンダ34と他の接続ポート20bとの間であって、第1液圧路58bの上流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第1遮断弁60bが設けられると共に、第1液圧路58bの下流側には、圧力センサPpが設けられる。
なお、この第1遮断弁60bは、前記した第2遮断弁60aと共に、特許請求の範囲にいう「常開の遮断弁」に相当する。つまり、マスタシリンダ34(液圧発生手段)は、このノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第2遮断弁60aを介して後記するモータシリンダ装置16(電気的液圧発生装置)と連通可能となっている。
ちなみに、圧力センサPpは、第1液圧路58b上において、第1遮断弁60bよりも下流側(本実施形態では、図2に示すように、ホイールシリンダ32FL,32RR側)の液圧を検知するものである。
【0030】
この第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bにおけるノーマルオープンとは、ノーマル位置(消磁(非通電)時の弁体の位置)が開位置の状態(常時開)となるように構成されたバルブをいう。なお、図2において、第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bは励磁時の状態を示す(後記する第3遮断弁62も同様)。
【0031】
マスタシリンダ34と第1遮断弁60bとの間の第1液圧路58bには、前記第1液圧路58bから分岐する分岐液圧路58cが設けられ、前記分岐液圧路58cには、ノーマルクローズタイプ(常閉型)のソレノイドバルブからなる第3遮断弁62と、ストロークシミュレータ64とが直列に接続される。つまり、ストロークシミュレータ64は、第3遮断弁62を介してマスタシリンダ34(液圧発生手段)と連通しており、このノーマルクローズタイプ(常閉型)の第3遮断弁62は、特許請求の範囲にいう「常閉の反力許可弁」に相当する。
第3遮断弁62におけるノーマルクローズとは、ノーマル位置(消磁(非通電)時の弁体の位置)が閉位置の状態(常時閉)となるように構成されたバルブをいう。
【0032】
図2に示すストロークシミュレータ64は、運転者のブレーキ操作に応じた反力を付与するものであり、本実施形態では、マスタシリンダ34と一体となって図1に示す入力装置14を形成している。
第1液圧路58b上であって、第1遮断弁60bよりもマスタシリンダ34側に配置されている。前記ストロークシミュレータ64には、分岐液圧路58cに連通する液圧室65が設けられ、前記液圧室65を介して、マスタシリンダ34の第1圧力室56bから導出されるブレーキ液が吸収可能に設けられる。
【0033】
また、ストロークシミュレータ64は、互いに直列に配置されたばね定数の高い第1リターンスプリング66aとばね定数の低い第2リターンスプリング66bと、前記第1及び第2リターンスプリング66a、66bによって付勢されるシミュレータピストン68とを備え、ブレーキペダル12の踏み込み前期時にペダル反力の増加勾配を低く設定し、踏み込み後期時にペダル反力を高く設定してブレーキペダル12のペダルフィーリングを既存のマスタシリンダと同等となるように設けられている。
【0034】
液圧路は、大別すると、マスタシリンダ34の第2圧力室56aと複数のホイールシリンダ32FR、32RLとを接続する第2液圧系統70aと、マスタシリンダ34の第1圧力室56bと複数のホイールシリンダ32RR、32FLとを接続する第1液圧系統70bとから構成される。
【0035】
第2液圧系統70aは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54aと接続ポート20aとを接続する第2液圧路58aと、入力装置14の接続ポート20aとモータシリンダ装置16の出力ポート24aとを接続する配管チューブ22a、22bと、モータシリンダ装置16の出力ポート24aとVSA装置18の導入ポート26aとを接続する配管チューブ22b、22cと、VSA装置18の導出ポート28a、28bと各ホイールシリンダ32FR、32RLとをそれぞれ接続する配管チューブ22g、22hとによって構成される。
【0036】
第1液圧系統70bは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54bと他の接続ポート20bとを接続する第1液圧路58bと、入力装置14の他の接続ポート20bとモータシリンダ装置16の出力ポート24bとを接続する配管チューブ22d、22eと、モータシリンダ装置16の出力ポート24bとVSA装置18の導入ポート26bとを接続する配管チューブ22e、22fと、VSA装置18の導出ポート28c、28dと各ホイールシリンダ32RR、32FLとをそれぞれ接続する配管チューブ22i、22jとを有する。
【0037】
次に、電気的液圧発生手段であるモータシリンダ装置16について説明する。
モータシリンダ装置16は、電動式のモータ72の駆動力によって、第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを軸線方向に駆動することにより、ブレーキ液圧を発生するように構成されている。なお、モータシリンダ装置16において、ブレーキ液圧を発生させる(上昇させる)ときの第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bの移動方向(図2中矢印X1方向)を「前」とし、その反対方向(図2中矢印X2方向)を「後」とする。
【0038】
モータシリンダ装置16は、軸線方向に移動可能な第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを内蔵するシリンダ部76と、第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを駆動するためのモータ72と、モータ72の駆動力を第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bに伝達するための駆動力伝達部73とを備えている。
【0039】
駆動力伝達部73は、モータ72の回転駆動力を伝達するギア機構(減速機構)78と、この回転駆動力をボールねじ軸(スクリュー)80aの軸線方向に沿った直線方向駆動力に変換するボールねじ構造体80と、を含む駆動力伝達機構74を有している。この駆動力伝達機構74は、前記モータ72と共に、特許請求の範囲にいう「電動のアクチュエータ」を構成する。
【0040】
シリンダ部76は、略円筒状のシリンダ本体82と、前記シリンダ本体82に付設された第2リザーバ84とを有する。第2リザーバ84は、入力装置14のマスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36と配管チューブ86で接続され、第1リザーバ36内に貯留されたブレーキ液が配管チューブ86を介して第2リザーバ84内に供給されるように設けられる。
【0041】
シリンダ本体82内には、前記シリンダ本体82の軸線方向に沿って所定間隔離間する第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bが摺動自在に配設される。第2スレーブピストン88aは、ボールねじ構造体80側に近接して配置され、ボールねじ軸80aの前端に当接して前記ボールねじ軸80aと一体的に矢印X1又はX2方向に変位する。また、第1スレーブピストン88bは、第2スレーブピストン88aよりもボールねじ構造体80側から離間して配置される。
【0042】
第2スレーブピストン88aの外周面と駆動力伝達機構74との間を液密にシールすると共に、第2スレーブピストン88aをその軸線方向に対して移動可能にガイドする環状のガイドピストン230が、第2スレーブピストン88aの外周面に対向するように配置されている。ガイドピストン230の内周面にはスレーブピストンパッキン90cが装着される。また、第2スレーブピストン88aの前端側の外周面には、環状段部を介してスレーブピストンパッキン90bが装着される。スレーブピストンパッキン90cとスレーブピストンパッキン90bとの間には、後記するリザーバポート92aと連通する第2背室94aが形成される。そして、第2スレーブピストン88aと第1スレーブピストン88bとの間には、第2リターンスプリング96aが配設される。
【0043】
一方、第1スレーブピストン88bの外周面には、環状段部を介して一対のスレーブピストンパッキン90a、90bがそれぞれ装着される。一対のスレーブピストンパッキン90a、90bの間には、後記するリザーバポート92bと連通する第1背室94bが形成される。そして、第1スレーブピストン88bとシリンダ本体82の前端部と間には、第1リターンスプリング96bが配設される。
【0044】
シリンダ部76のシリンダ本体82には、2つのリザーバポート92a、92bと、2つの出力ポート24a、24bとが設けられる。この場合、リザーバポート92a(92b)は、第2リザーバ84内のリザーバ室と連通するように設けられる。
【0045】
また、シリンダ本体82内には、出力ポート24aからホイールシリンダ32FR、32RL側へ出力されるブレーキ液圧を発生させる第2液圧室98aと、他の出力ポート24bからホイールシリンダ32RR、32FL側へ出力されるブレーキ液圧を発生させる第1液圧室98bとが設けられる。
【0046】
なお、第2スレーブピストン88aと第1スレーブピストン88bとの間には、第2スレーブピストン88aと第1スレーブピストン88bの最大離間距離と最小離間距離とを規制する規制手段100が設けられ、さらに、第1スレーブピストン88bには、前記第1スレーブピストン88bの摺動範囲を規制して、第2スレーブピストン88a側へのオーバーリターンを阻止するストッパピン102が設けられ、これによって、特にマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧で制動するときのバックアップ時において、一系統の失陥時に他の系統の失陥が防止される。
【0047】
VSA装置18は、周知のものからなり、右側前輪及び左側後輪のディスクブレーキ機構30a、30b(ホイールシリンダ32FR、ホイールシリンダ32RL)に接続された第2液圧系統70aを制御する第2ブレーキ系110aと、右側後輪及び左側前輪のディスクブレーキ機構30c、30d(ホイールシリンダ32RR、ホイールシリンダ32FL)に接続された第1液圧系統70bを制御する第1ブレーキ系110bとを有する。
【0048】
なお、第2ブレーキ系110a及び第1ブレーキ系110bと、各ディスクブレーキ機構30a,30b,30c,30dとの接続の組み合わせは、前記した組み合わせに限定されず、互いに独立した2系統が担保されれば、次のような組合せとすることができる。
つまり、図示はしないが、第2ブレーキ系110aは、左側前輪及び右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、左側後輪及び右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。さらに、第2ブレーキ系110aは、車体片側の右側前輪及び右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、車体片側の左側前輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。また、第2ブレーキ系110aは、右側前輪及び左側前輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、右側後輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。
【0049】
この第2ブレーキ系110a及び第1ブレーキ系110bは、それぞれ同一構造からなるため、第2ブレーキ系110aと第1ブレーキ系110bとで対応するものには同一の参照符号を付すと共に、第2ブレーキ系110aの説明を中心にして、第1ブレーキ系110bの説明を括弧書きで適宜付記する。
【0050】
第2ブレーキ系110a(第1ブレーキ系110b)は、ホイールシリンダ32FR、32RL(32RR、32FL)に対して、共通する第1共通液圧路112及び第2共通液圧路114を有する。VSA装置18は、導入ポート26aと第1共通液圧路112との間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなるレギュレータバルブ116と、前記レギュレータバルブ116と並列に配置され導入ポート26a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から導入ポート26a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第1チェックバルブ118と、第1共通液圧路112と第1導出ポート28aとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1インバルブ120と、前記第1インバルブ120と並列に配置され第1導出ポート28a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第1導出ポート28a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第2チェックバルブ122と、第1共通液圧路112と第2導出ポート28bとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第2インバルブ124と、前記第2インバルブ124と並列に配置され第2導出ポート28b側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2導出ポート28b側へのブレーキ液の流通を阻止する)第3チェックバルブ126とを備える。
【0051】
さらに、VSA装置18は、第1導出ポート28aと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第1アウトバルブ128と、第2導出ポート28bと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第2アウトバルブ130と、第2共通液圧路114に接続されたリザーバ132と、第1共通液圧路112と第2共通液圧路114との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2共通液圧路114側へのブレーキ液の流通を阻止する)第4チェックバルブ134と、前記第4チェックバルブ134と第1共通液圧路112との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へブレーキ液を供給するポンプ136と、前記ポンプ136の前後に設けられる吸入弁138及び吐出弁140と、前記ポンプ136を駆動するモータMと、第2共通液圧路114と導入ポート26aとの間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなるサクションバルブ142とを備える。
【0052】
なお、第2ブレーキ系110aにおいて、導入ポート26aに近接する液圧路上には、モータシリンダ装置16の出力ポート24aから出力され、前記モータシリンダ装置16の第2液圧室98aで発生したブレーキ液圧を検知する圧力センサPhが設けられる。各圧力センサPm、Pp、Phで検出された検出信号は、図示しない制御手段に導入される。
【0053】
<マスタシリンダ>
次に、液圧発生手段としてのマスタシリンダ34について更に詳しく説明する。参照する図3は、本発明の実施形態に係る車両用液圧発生装置に適用されるマスタシリンダの構成説明図である。図4は、図3のIV部の部分拡大図である。
【0054】
マスタシリンダ34は、前記したように、ストロークシミュレータ64と共に入力装置14を構成しており、図示しないが、一体成形された入力装置14のハウジング内にストロークシミュレータ64と並ぶように配置されている。
図3に示すように、マスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、前記シリンダチューブ38の軸線方向に沿って所定間隔で離間する第2ピストン40aと第1ピストン40bとが摺動自在に配設されている。なお、第1ピストン40bは、特許請求の範囲にいう「前方ピストン部材」に相当し、第2ピストン40aは特許請求の範囲にいう「後方ピストン部材」に相当する。
【0055】
第2ピストン40aは、シリンダチューブ38内でブレーキペダル12(図2参照)寄りに配置されている。また、第1ピストン40bは、第2ピストン40aよりもブレーキペダル12から離間して第2ピストン40aの前方に配置されている。図3中、符号47は、第1ピストン40bと第2ピストン40aとの間に配置される規制手段である。この規制手段47は、第1ピストン40bと第2ピストン40aとの間の最小離間距離を規制している。
【0056】
また、第2ピストン40aの後部は、前端に有底であると共に、後端に開く円筒部49を有している。
そして、この円筒部49内には、後記するロッド連結部材43及びばね部材45が配置されることとなる。なお、ばね部材45は、特許請求の範囲にいう「後方ピストン部材とロッド部材との間に配置されるばね部材」に相当する。
【0057】
この第2ピストン40a及び第1ピストン40bの外周面には、環状段部を介して一対のピストンパッキン44a、44bがそれぞれ装着されている。一対のピストンパッキン44a、44bの間には、図示しないサプライポート46a、46b(図2参照)と連通する背室48a、48bが形成されている。また、第2ピストン40aと第1ピストン40bとの間には、ばね部材50aが配設され、第1ピストン40bとシリンダチューブ38の前端部との間には、他のばね部材50bが配設されている。
【0058】
なお、第2ピストン40a及び第1ピストン40bの外周面にピストンパッキン44a、44bをそれぞれ設ける代わりに、シリンダチューブ38の内周面にパッキンをそれぞれ配設してもよい。
【0059】
また、マスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、運転者がブレーキペダル12(図2参照)を踏み込む踏力に対応した液圧(ブレーキ液圧)を発生させる第2圧力室56a及び第1圧力室56bが設けられる。第2圧力室56aは、第2液圧路58a(図2参照)を介して接続ポート20a(図2参照)と連通するように設けられ、第1圧力室56bは、第1液圧路58b(図2参照)を介して他の接続ポート20b(図2参照)と連通するように設けられている。
【0060】
前記したロッド連結部材43は、前部が小径円柱形状であり、後部が前部より拡径した大径円柱形状である段付き円柱部材で形成されている。
ロッド連結部材43の大径円柱形状の後部は、第2ピストン40a(後方ピストン部材)の円筒部49の内側に収まる外径を有しており、本実施形態でのロッド連結部材43は、第2ピストン40aの円筒部49内でその軸線方向に摺動可能となっている。
そして、このロッド連結部材43は、その後部に、プッシュロッド42の球状先端部を受け入れて嵌合する嵌合穴43aを有している。ちなみに、本実施形態でのプッシュロッド42の球状先端部は、嵌合穴43a内に挿入された後に、その嵌合穴43aの周囲が球状先端部側にかしめられることでロッド連結部材43の後部に支持されている。
【0061】
前記ばね部材45は、弾発部材であってコイルスプリングで形成されている。この前記ばね部材45は、第2ピストン40a(後方ピストン部材)の円筒部49の内側に配置されている。そして、ばね部材45の後部にロッド連結部材43の小径円柱形状の前部が嵌入されることで、ばね部材45の後端は、ロッド連結部材43の段付き部に支持されている。
なお、本実施形態でのマスタシリンダ34においては、ばね部材45のセット時の初期荷重が、前記した各ばね部材50a,50bのセット時の初期荷重よりも、小さくなるように設定されている。
つまり、プッシュロッド42によって、ロッド連結部材43が前方に突き動かされる際に、ばね部材45は、ばね部材50a及びばね部材50bよりも優先して縮むこととなり。復元する際には、ばね部材50a及びばね部材50bが伸張した後に伸張することで、ロッド連結部材43及びプッシュロッド42を後方に移動させることとなる。
【0062】
このようなばね部材45によって後方に向かって付勢されているロッド連結部材43は、図4に示すように、プッシュロッド42で荷重が入力されていない初期状態では、その後端部が、第2ピストン40a(後方ピストン部材)の円筒部49の後端部の近傍に位置することとなる。つまり、前記したばね部材45(図3参照)で後方に向かって付勢されるロッド連結部材43の後端は、第2ピストン40a(円筒部49)の開口寄りの内周面に設けられたOリング49aに当接している。そして、このロッド連結部材43を内側に嵌装される第2ピストン40aの円筒部49は、その後端がマスタシリンダ34の開口寄りに設けられた止め輪49bに当接することで位置決めされている。
なお、Oリング49aは、特許請求の範囲にいう「ロッド連結部材の後端部と接する規制部材」に相当するが、本発明でのこの「規制部材」としては、Oリング49aに限定されるものではなく、C型クリップ(サークリップ、止め輪)等を使用することができる。このようなC型クリップによれば、ロッド連結部材43の組み付け容易性が一段と向上する。
ちなみに、このようなマスタシリンダ34を有する入力装置14は、前記したように、ダッシュボード2(図1参照)の車幅方向の右側にボルト等を介して固定されることとなるが、この際、図3に示すマスタシリンダ34の後側のフランジ部端面がダッシュボード2(図1参照)と当接することとなる。
【0063】
本実施形態に係る車両用液圧発生装置1を備える車両用ブレーキシステム10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその動作について説明する。
【0064】
この車両用ブレーキシステム10が正常に機能する正常時においては、運転者がブレーキペダル12(図2参照)に踏力を入力すると、図3に示すプッシュロッド42は、ロッド連結部材43を前方に押圧する。
なお、本実施形態での図3に示すマスタシリンダ34においては、ロッド連結部材43は、ばね部材45の反力に抗しながら、第2ピストン40aの後部に設けられた円筒部49内で底着きするまでこの円筒部49内を前進する。この際、ばね部材45は、前記したように、ばね部材50a,50bよりも優先的に縮むこととなる。
【0065】
一方、ストロークセンサ13は、ブレーキペダル12の操作量の検出信号を図示しない制御手段に出力する。そして、制御手段は、この検出信号に基づいて、プッシュロッド42の前進後、ロッド連結部材43が円筒部49内で底着きする前に、第1遮断弁60b(常開の遮断弁)及び第2遮断弁60a(常開の遮断弁)を閉弁すると共に、第3遮断弁62(常閉の反力許可弁)を開弁するよう指令信号を出力する。この指令信号を入力した第1遮断弁60b及び第2遮断弁60aは閉弁し、この指令信号を入力した第3遮断弁62は開弁する。
【0066】
その結果、マスタシリンダ34がブレーキ操作による液圧発生前に、マスタシリンダ34とモータシリンダ装置16との連通が断たれる。したがって、入力装置14のマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧がディスクブレーキ機構30a〜30dのホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達されることはない。
【0067】
そして、マスタシリンダ34がブレーキ操作による液圧発生前に、マスタシリンダ34とストロークシミュレータ64とが連通する。この際、円筒部49内で底着きしたロッド連結部材43をプッシュロッド42が更に押圧すると、マスタシリンダ34の第1圧力室56bで発生したブレーキ液圧は、分岐液圧路58c及び弁開状態にある第3遮断弁62を経由してストロークシミュレータ64の液圧室65に伝達される。この液圧室65に供給されたブレーキ液圧によってシミュレータピストン68が第1及び第2リターンスプリング66a、66bのばね力に抗して変位することにより、ブレーキペダル12のストロークが許容されると共に、発生した擬似的なペダル反力がブレーキペダル12に付与される。この結果、運転者にとって違和感のないブレーキフィールが得られる。
【0068】
そして、本実施形態での車両用ブレーキシステム10においては、図示しない制御手段は、運転者によるブレーキペダル12の踏み込みを検出すると、モータシリンダ装置16のモータ72を駆動させ、モータ72の駆動力を、駆動力伝達機構74を介して伝達し、第2リターンスプリング96a及び第1リターンスプリング96bのばね力に抗して第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを図2中の矢印X1方向に向かって変位させる。この第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bの変位によって第2液圧室98a及び第1液圧室98b内のブレーキ液がバランスするように加圧されて所望のブレーキ液圧が発生する。
【0069】
このモータシリンダ装置16における第2液圧室98a及び第1液圧室98bのブレーキ液圧は、VSA装置18の弁開状態にある第1、第2インバルブ120、124を介してディスクブレーキ機構30a〜30dのホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達され、前記ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動することにより各車輪に所望の制動力が付与される。
【0070】
換言すると、本実施形態に係る車両用ブレーキシステム10では、電気的液圧発生手段であるモータシリンダ装置16やバイ・ワイヤ制御する図示しないECU等の制御手段が作動可能な正常時において、運転者がブレーキペダル12を踏むことでブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ34と各車輪を制動するディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)との連通を第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bで遮断した状態で、モータシリンダ装置16が発生するブレーキ液圧でディスクブレーキ機構30a〜30dを作動させるという、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ方式のブレーキシステムがアクティブになる。このため、本実施形態では、例えば、電気自動車等のように、旧来から用いられていた内燃機関による負圧が存在しない車両に好適に適用することができる。
【0071】
一方、モータシリンダ装置16等が作動不能となる異常時では、第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bをそれぞれ弁開状態とし、且つ、第3遮断弁62を弁閉状態としてマスタシリンダ34で発生するブレーキ液圧をディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)に伝達して、前記ディスクブレーキ機構30a〜30d(ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)を作動させるという、いわゆる旧来の油圧式のブレーキシステムがアクティブになる。
【0072】
以上のような車両用ブレーキシステム10を構成する車両用液圧発生装置1によれば次のような効果を奏することができる。
本実施形態に係る車両用液圧発生装置1は、前記したように、従来のブレーキ装置(例えば、特許文献1参照)と異なって、ブレーキペダル12のプッシュロッド42は、第2ピストン40aに直接組み付けられるものではなく、マスタシリンダ34内に新規に設けられたロッド連結部材43に対して、プッシュロッド42が組み付けられる構成となっている。そして、ロッド連結部材43と第2ピストン40aとの間には、ばね部材45が設けられる構成となっている。
したがって、このような車両用液圧発生装置1によれば、従来のブレーキ装置を構成するマスタシリンダ(例えば、特許文献1参照)と異なって、マスタシリンダ34とプッシュロッド42との間に所定の隙間α(図5参照)を設けることなく車体(例えば、ダッシュボード2(図1参照))にこれを組み付けることができるので、車体に対する組み付け容易性が一段と向上する。
【0073】
また、この車両用液圧発生装置1によれば、従来のブレーキ装置を構成するマスタシリンダ(例えば、特許文献1参照)と異なって、これを車体に取り付ける際に、マスタシリンダ34とプッシュロッド42との間に反力スプリング245(図5参照)を設ける必要がないので、組み付け工数を低減することができる。
【0074】
また、この車両用液圧発生装置1によれば、従来のブレーキ装置を構成するマスタシリンダ(例えば、特許文献1参照)と異なって、マスタシリンダ34とプッシュロッド42との間に反力スプリング245(図5参照)を設ける必要がないので、車両用液圧発生装置1自体をコンパクト化することができる。
【0075】
また、この車両用液圧発生装置1においては、マスタシリンダ34の第2ピストン40aとプッシュロッド42との間にロッド連結部材43が配置されると共に、第2ピストン40aとロッド連結部材43との間にばね部材45が配置されている。したがって、この車両用液圧発生装置1は、プッシュロッド42によってロッド連結部材43が押圧されて第2ピストン40aに当接する前においても、ばね部材45がプッシュロッド42に反力を付与することができる。その結果、この車両用液圧発生装置1によれば、運転者がブレーキペダル12に踏力を入力してマスタシリンダ34に液圧を発生させる際のペダル操作の段付き感を低減することができる。
【0076】
また、この車両用液圧発生装置1によれば、通常時の使用において、ストロークセンサ13(操作量検出手段)でブレーキペダル12の操作量を検出することにより、マスタシリンダ34(液圧発生手段)で液圧が発生する前に、マスタシリンダ34とモータシリンダ装置16(電気的液圧発生手段)との連通を絶つことができる。その結果、この車両用液圧発生装置1によれば、マスタシリンダ34からモータシリンダ装置16にブレーキ液(フルード)が流れ込むことが防止されて、モータシリンダ装置16で発生した液圧のみによって車両の制動を、より正確に行うことができる。
また、車両のイグニッションスイッチをオン(IG−ON)にした後であっても、マスタシリンダ34(液圧発生手段)で液圧が発生する前にあっては、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bを開状態にしておくことができるので(必ずしも閉状態(励磁状態)とする必要がないので)、車両の省エネルギ化を図ることができる。
【0077】
また、このような車両用液圧発生装置1によれば、ストロークセンサ13によりマスタシリンダ34で液圧が発生する前に、マスタシリンダ34とストロークシミュレータ64とを連通させることができるので、マスタシリンダ34で発生させた液圧に基づく反力を、運転者にタイムラグを感じさせることなく、より迅速にブレーキペダル12に付与することができる。
【0078】
また、この車両用液圧発生装置1によれば、第2ピストン40a(後方ピストン部材)の後部の円筒部49内にばね部材45が収まるので、よりコンパクト化した車両用液圧発生装置1とすることができる。
【0079】
また、この車両用液圧発生装置1によれば、マスタシリンダ34内で移動する第2ピストン40aの更に内側(円筒部49内)にロッド連結部材43が配置されるので、マスタシリンダ34におけるロッド連結部材43の摺動抵抗を低下させることができる。
【0080】
また、本実施形態では、これとは逆に、積極的に円筒部49内でのロッド連結部材43の摺動抵抗を付与することによって、従来のマスタシリンダ(例えば、特許文献1参照)で生じていたブレーキフィールの違和感を抑制することもできる。つまり、図5に示す従来のマスタシリンダでは、前ピストン240b及び後ピストン240aが後退する戻り工程において、この戻り工程の終盤で反力スプリング245の反力のみでストローク初点までブレーキペダル212を戻す区間は、この戻り工程の序盤(前ピストン240b及び後ピストン240aが初期位置に戻りきるまでの間)で生じていた前ピストン240b及び後ピストン240aの摺動抵抗が無くなるのでこの序盤と終盤の変わり目でブレーキフィールに違和感が生じる。
これに対して、本実施形態では、前記したように、積極的に円筒部49内での摺動抵抗を付与することによって、序盤と終盤の変わり目におけるブレーキフィールの違和感を抑制することができる。
【0081】
また、この車両用液圧発生装置1によれば、第2ピストン40aの後端部に、ロッド連結部材43の後端部と接する規制部材(Oリング49a等)を備えているので、マスタシリンダ34のシリンダチューブ38に対して第2ピストン40aの後端とロッド連結部材43の後端とが一致するように、初期位置の位置合わせをすることができる。
【0082】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
前記実施形態では、第2ピストン40aの後部内(円筒部49内)に、ロッド連結部材43及びばね部材45が収まる構成になっているが、本発明でのロッド連結部材43及びばね部材45は、シリンダチューブ38内であれば、第2ピストン40aの後方に配置される構成とすることができる。
【0083】
また、前記実施形態では、ばね部材45のばね定数を、ばね部材50a、50bのばね定数よりも小さくする構成を想定しているが、ばね部材50a、50bのばね定数に対して同等以上とすることもできる。
【符号の説明】
【0084】
1 車両用液圧発生装置
12 ブレーキペダル
13 ストロークセンサ(操作量検出手段)
16 モータシリンダ装置(電気的液圧発生手段)
34 マスタシリンダ(液圧発生手段)
40a 第2ピストン(後方ピストン部材)
40b 第1ピストン(前方ピストン部材)
43 ロッド連結部材
45 ばね部材
49a Oリング(規制部材)
60a 第2遮断弁(遮断弁)
60b 第1遮断弁(遮断弁)
62 第3遮断弁(反力許可弁)
64 ストロークシミュレータ
72 モータ(電動のアクチュエータ)
74 駆動力伝達機構(電動のアクチュエータ)
V 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者のブレーキペダルの操作に応じて液圧を発生させる液圧発生手段と、
前記液圧発生手段の内部に収容されて前記ブレーキペダル側に設けられる後方ピストン部材と、
前記後方ピストン部材の前方に配置される前方ピストン部材と、
を有する車両用液圧発生装置において、
前記液圧発生手段の内部に収容されて前記ブレーキペダルのプッシュロッドの先端に連結されるロッド連結部材と、
前記後方ピストン部材と前記ロッド連結部材との間に配置されるばね部材と、
を備えることを特徴とする車両用液圧発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用液圧発生装置において、
前記液圧発生手段に常開の遮断弁を介して連通されると共に、電動アクチュエータによって作動する電気的液圧発生手段と、
前記液圧発生手段に連通して前記ブレーキペダルに反力を付与するために常閉の反力許可弁を介して設けられるストロークシミュレータと、
前記ブレーキペダルの操作量を検出する操作量検出手段と、を有し、
前記ロッド連結部材が前記後方ピストン部材と当接するまでに、前記操作量検出手段の検出した前記ブレーキペダルの操作量に基づいて前記遮断弁を閉じると共に前記反力許可弁を開くことを特徴とする車両用液圧発生装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用液圧発生装置において、
前記ばね部材は、前記後方ピストン部材の後部の内側に配置されることを特徴とする車両用液圧発生装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用液圧発生装置において、
前記後方ピストン部材の後端部に、前記ロッド連結部材の後端部と接する規制部材を備えることを特徴とする車両用液圧発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−210831(P2012−210831A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76406(P2011−76406)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】