説明

車両用物体検知装置

【課題】 移動可能な物体に対する検知漏れを低減する車両用物体検知装置の提供を目的とする。
【解決手段】 車両に搭載され、車両の周囲の物体を検知する物体検知装置において、物体の位置を検出する位置検出手段と、物体が移動可能な物体か否か判定する物体判定手段と、物体判定手段において物体が移動可能な物体と判定された場合に、物体位置検出手段において検出された物体の位置を基準として、物体を取り囲む所定の領域を常時設定する領域設定手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周囲の物体を検知するため車両に搭載される物体検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両と物体との衝突を防ぐために、たとえば、特許文献1に開示されている横断物の検出装置が用いられる。
【0003】
特許文献1に記載の検出装置によれば、走行路の中心位置と物体の移動方位とに基づき、走行路中心に向かう物体を横断者として検出する。そして、横断者が走行路に達するまでの時間と、走行路を通過し終える時間と、自車両が横断者と同距離の点に達する時間とに基づいて危険判定を実施する。これにより、道路脇にある木や電柱等の固定物を危険判定の対象から除外することができる。
【特許文献1】特開平9−226490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の検出装置では、固定物ではない歩行者や車両等が停止していた場合にも、危険判定の対象から除外されてしまう。また、歩行者が走行路中心から遠ざかる方向へ移動していた場合も、危険判定の対象から除外される。従って、例えば、走行路を横断し終えた歩行者が急に引き返した場合や、立ち止まっていた歩行者が急に走行路へ飛び出した場合、移動方位が変わったことを検出した後でないと、危険判定の対象に含まれない。このように、移動可能な物体が危険判定の対象から漏れてしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、移動可能な物体に対する検知漏れを低減する車両用物体検知装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、物体の位置を検出する位置検出手段と、物体が移動可能な物体か否か判定する物体判定手段と、物体判定手段において物体が移動可能な物体と判定された場合に、物体位置検出手段において検出された物体の位置を基準として、物体を取り囲む所定の領域を常時設定する領域設定手段とを有する車両用物体検知装置を特徴とする。
【0007】
すなわち、検出した物体が移動可能な物体であるときは、あらゆる方向に動きの自由度を持たせた二次元領域を常時設定する。これにより、物体が急に進路変更した後の位置も、予めその領域内に含めておくことができる。ここで、移動可能な物体とは、木や電柱等の固定物を除く概念である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、物体の種類を識別する物体識別手段とを有し、領域設定手段は、物体識別手段において識別された物体の種類に応じて領域を設定することを特徴とする。
【0009】
物体の種類とは、例えば、自転車や車椅子、徒歩といった移動手段や、子供、老人といった年代等である。このように、物体の種類の特徴を考慮することにより、物体それぞれに適した領域を設定することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、物体の移動速度を検出する移動速度検出手段とを有し、領域設定手段は、移動速度検出手段において検出された物体の移動速度に基づいて、領域を設定することを特徴とする。また、移動速度検出手段において検出された物体の移動速度と所定時間との乗算により物体の移動距離を推定する移動距離推定手段とを有し、領域設定手段は、移動距離推定手段において推定された物体の移動距離に基づいて、領域を設定してもよい。
【0011】
このように、物体の移動速度や所定時間における移動距離を用いることにより、領域の大きさを適切に定めることができる。
【0012】
請求項5に記載の発明は、自車両の速度を検出する自車速検出手段とを有し、移動距離推定手段は、自車速検出手段において検出された自車両の速度に応じて所定時間を変更することを特徴とする。
【0013】
すなわち、自車両の速度が速くなれば停止距離も長くなるため、仮に物体が自車両の前方に位置していた場合、衝突を回避することがより困難になると考えられる。従って、自車両の速度に応じて所定時間を変更することにより、自車両の走行状態に適した領域の設定が可能となる。
【0014】
また、請求項6に記載の発明は、移動距離推定手段は、物体の移動速度が所定値以下の場合、乗算値を超える値を用いて移動距離を推定することを特徴とする。
【0015】
移動距離の推定にこのような条件を付けることにより、物体の移動速度がゼロもしくは極めて遅い場合であっても、物体の位置に対してある一定の大きさを持った領域を設定することができる。従って、例えば、路側帯に立ち止まっている歩行者に対しても、一定の領域を設定しておくことが可能となる。
【0016】
請求項7に記載の発明は、領域設定手段は、位置検出手段において検出された物体の位置を中心とし、移動距離推定手段において推定された物体の移動距離を半径とした略円形状の領域を設定することを特徴とする。
【0017】
これにより、物体が移動可能なあらゆる方向について、所定時間内の物体の移動先をすべて略円形状内に含むことができる。
【0018】
また、請求項8に記載の発明は、物体の移動方位を検出する移動方位検出手段とを有し、領域設定手段は、移動方位検出手段において検出された物体の移動方位の方向へ長く延びた略楕円形状の領域を設定することを特徴とする。
【0019】
すなわち、移動中の物体は、同じ移動方位で移動し続ける可能性が高いと考えられるため、移動方位の方向に広く領域を設けることにより、領域の設定精度を向上させることができる。また、移動方位検出手段で検出された物体の移動方位を蓄積する移動方位記憶手段とを有し、領域設定手段は、移動方位記憶手段に蓄積された過去の移動方位を加味して、略楕円形状の領域を設定してもよい。これにより、進路を変更しながら移動している物体に対しても、精度よく領域を設定することができる。
【0020】
また、請求項10に記載の発明は、物体位置検出手段において第1物体の位置と第2物体の位置とが検出された場合、領域設定手段において設定された第1物体に対する第1領域と第2物体に対する第2領域との重複を判定する重複判定手段と、重複判定手段において重複すると判定された場合、第1領域と第2領域とを含むような第3領域を設定する領域合併手段とを有することを特徴とする。
すなわち、複数の物体が近接している場合には、単数の場合よりも大きな1つの領域を設定する。これにより、複数の物体がかたまって存在していることの識別が可能となる。
【0021】
請求項11に記載の発明は、領域に基づいて物体の危険を判定する危険判定手段とを有することを特徴とする。また、自車両が走行する可能性のある道路を検出する走行路検出手段とを有し、危険判定手段は、走行路検出手段において検出された道路上に領域の少なくとも一部が含まれる場合に危険と判定してもよい。
【0022】
これにより、物体の急な進路変更等も考慮した危険判定をすることができる。また、自車両の走行に対して障害とならない物体に関する無駄な警報等の発生を防ぐことが可能となる。
【0023】
また、請求項13に記載の発明は、危険判定手段における判定結果に応じて、物体に対して危険を通知する通知手段とを有することを特徴とする。これにより、自車両の運転者だけでなく物体に対しても、危険を知らせることができる。
【0024】
また、領域に基づいて自車両の運転者に対して警報を出力する警報手段とを有してもよい。これにより、自車両の運転者に対して物体の存在を知らせることができる。さらに、領域に基づいて自車両の走行を制御する走行制御手段とを有してもよい。これにより、自車両と物体との衝突を回避すべく、走行を制御することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施形態に係る周辺監視装置を図面に基づいて説明する。なお、本発明は下記の実施例により限定されず、本発明の思想を体現するすべての態様を含む。
【0026】
[実施例1]
図1は、本実施例で用いられる歩行者用端末装置100の構成図である。この歩行者用端末装置100は、歩行者だけでなく車椅子や自転車に乗った人など広く用いられるものであり、GPS(グローバルポジショニングシステム)111、ジャイロセンサ112、速度センサ113、外部コネクタ121、情報処理装置131、メモリ132、無線装置141から構成される。
【0027】
GPS111は、図示しないGPS衛星から送信されるGPS信号を受信して測位を行う。ジャイロセンサ111は歩行者の回転変位から移動方位を検出するものであり、速度センサ113は歩行者の移動速度を検出するものである。情報処理装置131は、これらGPS111、ジャイロセンサ112、速度センサ113からの入力信号に基づき、歩行者の位置を算出し、メモリ132に格納する。
【0028】
無線装置141は、無線通信によりデータを送受信するものであり、情報処理装置131からの指示に基づき、他の無線装置に対してデータを送信する。他の無線装置から送信されたデータを無線装置141が受信した場合は、情報処理装置131が受信データの解析を行う。
【0029】
外部コネクタ121は、携帯電話やパーソナルコンピュータなど必要に応じて接続される外部機器122とのインタフェースである。
【0030】
図2は、本発明に係る車両用物体検知装置200の構成図である。車両用物体検知装置200は、GPS211、ジャイロセンサ212、車速センサ213、外部コネクタ221、情報処理装置231、メモリ232、無線装置241、ナビゲーションシステム251、表示装置261、スピーカ271から構成される。
【0031】
GPS211は、図示しないGPS衛星から送信されるGPS信号を受信して測位を行う。ジャイロセンサ212は車両の回転変位から移動方位を検出するものであり、車速センサ213は自車両の速度を検出するものである。情報処理装置231は、これらGPS211、ジャイロセンサ212、車速センサ213からの入力信号に基づき、自車両の位置を算出し、メモリ232に格納する。
【0032】
無線装置241は、無線通信によりデータを送受信するものである。情報処理装置231からの指示により、無線装置241が歩行者用端末装置100に対して位置の問い合わせデータを送信すると、歩行者用端末装置100の無線装置141がこれを受信する。そして、歩行者用端末装置100の無線装置141が、歩行者自身の位置情報を含んだデータを送信する。無線装置241がこのデータを受信し、情報処理装置231が歩行者の現在位置を算出する。
【0033】
ナビゲーションシステム251は、地図に関する情報が蓄積されたデータベース252を有している。ナビゲーションシステム251は、情報処理装置231の指示により、自車両の位置から目的地までの経路を探索、設定する。
【0034】
外部コネクタ221は、携帯電話やパーソナルコンピュータなど外部機器222とのインタフェースである。外部機器222は、データベース252から情報を取得できない場合など、必要に応じて接続されるものである。
【0035】
表示装置261およびスピーカ271は、地図の提示、目的地までの経路案内、車両や歩行者など相手位置の提示を行うものである。また、自車両の周囲に歩行者等が存在する場合、表示装置261は歩行者の位置等を表示し、スピーカ271は警告音を発する。そして、情報処理装置231が、必要に応じて車内LANで接続された車両制御装置233に信号を送る。車両制御装置233は、受信した信号に基づき、歩行者等との衝突を回避するよう車両の走行を制御する。
【0036】
図3は、歩行者用端末装置100の無線装置141が送信する応答データ300のメッセージフレームを示す。第1のビット範囲301は種別を示し、自転車、車椅子、徒歩等の移動手段、子供、老人等の年代といった識別が可能となる。第2のビット範囲302は位置情報を示し、緯度や経度等の情報が含まれる。第3のビット範囲203は位置測位時間を示し、位置情報を計測した時刻が記載される。第4のビット範囲204は移動方位を示し、歩行者の移動している方角を表す。第5のビット範囲205は移動速度を示し、歩行者の移動する速度を表す。
【0037】
無線装置141、241における通信方式は、例えば、無線LANにおけるアドホックモードである。アクセスポイントを介さない方が、位置情報の取得に対するリアルタイム性が高いからである。
【0038】
図4は、本発明に係る車両用物体検知装置200が利用される状況の一例である。自車両11および他車両12は交差点に向かって走行中であり、歩行者21ないし27は交差点付近を移動中である。自車両11は、左端31から右端32までの幅員W1を有する道路30のうち中央線33の左車線を走行している。ここで、自車両11および他車両12はそれぞれ車両用物体検知装置200を備えており、歩行者21ないし27はそれぞれ歩行者用端末装置100を有している。
【0039】
図5は、本実施例に係る物体検知処理のフローチャートである。この処理は、情報処理装置231において、イグニッションスイッチのONからOFFまで所定のタイミング毎に繰り返し行われる。
【0040】
S1001で、情報処理装置231は領域設定処理を行う。図6は、領域設定処理(S1001)のフローチャートである。
【0041】
S1101で、無線装置241は、自車両11の周囲の物体に対して位置情報の応答を求めるデータの送信を行う。例えば、無線装置241がこのデータを歩行者21に送信すると、歩行者21の無線装置141がこれを受信し、情報処理装置131がデータの解析を行う。そして、歩行者21の無線装置141が、自車両11に対して応答データ300を送信する。S1102で否定と判断された場合、すなわち無線装置241が歩行者21からの応答データ300を受信していない場合、無線装置241は応答データ300を待つ。一方、S1102で肯定と判断された場合は、S1103へ進む。
【0042】
S1103で、情報処理装置231は、応答データ300の種別301を用いて、移動可能な物体か否か判定する。例えば、種別301が歩行者や車両等を表している場合は、移動可能な物体であると判定し、応答データ300に記載された位置情報302、移動方位304、移動速度305等を基にS1104へ進む。一方、種別301が路肩端末等の固定物を表している場合は、S1105へ進む。なお、位置情報や移動方位、移動速度の検出、及び移動可能な物体か否かの判定は、図示しないカメラもしくは図示しないレーザレーダを用いて行ってもよい。
【0043】
S1104で、情報処理装置231は物体に対する領域の設定を行う。領域設定処理(S1001)は所定タイミングで繰り返されるため、移動可能な物体に対する領域の設定(S1104)は、請求項1で記載したように、常時行うこととなる。
【0044】
図7は、歩行者21に対する領域41を示す。自車両11から見て反対車線に位置する点p1は、歩行者21の位置である。矢印51は、歩行者21の移動方位、つまり自車両11から遠ざかる方向へ移動中であることを示す。
【0045】
半径r1は、歩行者21の微小時間dtにおける移動距離の推定値である。移動距離の推定値は、受信した応答データ300の移動速度305に微小時間dtを乗じた値とする。そして、情報処理装置231は、点p1を中心とした半径r1の円41を歩行者21に対する領域41として設定する。
【0046】
微小時間dtは、例えば2秒であり、歩行者21が秒速1.2[m]で移動している場合、半径r1は2.4[m]である。ここで、仮に、歩行者21が停止もしくはほとんど移動していなかったとすると、移動距離の推定値はゼロもしくは極小値となる。従って、例えば歩行者21が秒速0.5[m]以下で移動しているときでも、移動距離の推定値として1[m]を確保する。これにより、歩行者21が停止していた場合でも、一定の領域を確保することができる。また、情報処理装置231は、自車両11の速度に応じて微小時間dtを変更してもよい。速度が速くなるにつれて停止距離は長くなるため、速度が遅い場合よりも衝突を回避することが困難になると考えられる。従って、情報処理装置231は、自車両11の速度が速い場合は微小時間dtを長くして、領域を広く設けておく。
【0047】
S1105で、情報処理装置231は、周囲に存在する物体に対してS1101からS1104までの処理を終えたか否か判定する。S1105で肯定と判断された場合は、領域設定処理を終了する。一方、S1105で否定と判断された場合は、S1101へ戻る。
【0048】
そして、S1002で、情報処理装置231は、GPS211、ジャイロセンサ212、車速センサ213からの入力信号に基づき、自車両11の位置を算出する。S1003で、情報処理装置231は、ナビゲーションシステム251から地図データを取得して、自車両11が走行する道路を検出する。本実施例においては、道路30の左車線、つまり左端31と中央線33との間を走行路と定める。なお、情報処理装置231は、車線数、歩道や路肩までの距離、自車両11の速度、中央分離帯の有無等によって、走行路の設定を変更してもよい。また、情報処理装置231は、図示しないカメラで撮影した画像から白線を検出して走行路を定めてもよい。
【0049】
S1004で、情報処理装置231は、S1001において設定された領域に対して、自車両と衝突する危険性を判定する。例えば、S1003において検出された走行路内に領域の一部が含まれる場合、情報処理装置231は衝突する危険性があると判定する。S1005で否定と判断された場合、すなわち領域に対して危険判定を終えていない場合はS1004へ戻る。一方、S1005で肯定と判断された場合、すなわち全ての領域に対して危険判定を終えた場合はS1006へ進む。
【0050】
S1006で、表示装置261もしくはスピーカ271は、衝突する危険性がある旨を運転者に警報する。ディスプレイ等の表示装置261は、S1004において危険と判定された物体の位置および領域の表示を行う。物体の位置および領域は、ナビゲーションシステム251から取得した地図データの上に重ねて表示してもよい。また、スピーカ271は、警告音もしくは音声を発生する。これにより、自車両11の運転者は、物体の位置および衝突する危険性がある旨を知ることができる。そして、運転者は、減速や転舵等衝突を回避するための措置を講じることができる。
【0051】
図8は、自車両11における物体の位置および領域の表示の一例を示す。危険と判定された歩行者21、23ないし24について、領域41、46が表示される。一方、歩行者22および25ないし27と他車両12は、危険ではないと判定されたため、それぞれの位置のみが表示される。
【0052】
以上のように領域41を設定することにより、自車両11から遠ざかっている歩行者21も危険判定の対象とすることができる。従って、仮に歩行者21が自車両11の走行路に向かって急に引き返したとしても、その移動先は予め領域41として表示されていたため、運転者は早期に衝突を回避するための措置を講じることが可能となり得る。また、歩行者21が停止していた場合でも、一定の領域を危険判定の対象とすることができる。従って、停止状態からの歩行者21の急な動きに備え、予め運転者に警報しておくことが可能となる。
【0053】
なお、本実施例では警報まで行ったが、危険判定までを行うとしてもよいし、領域の設定までを行うとしてもよい。情報処理装置231が車両制御装置233へ危険判定の結果や領域の情報を通知し、車両制御装置233が減速や転舵等の制御をすることも可能である。これにより、運転者が措置を講じなかった場合でも、車両制御装置233が歩行者21との衝突を回避するよう自車両11の走行を制御することができる。
【0054】
また、本実施例では表示装置261等が運転者に対して警報したが、無線装置241が歩行者21の歩行者用端末装置100に対して警報してもよい。例えば、無線装置241は、歩行者21から見た自車両11の方位を送信データに含めて、衝突の危険性がある旨を歩行者用端末装置100に対して送信する。無線装置141がこのデータを受信することにより、歩行者21も衝突の危険性および自車両11の方向を知ることができる。これにより、歩行者21自身が移動することによっても、衝突を回避することが可能となる。
【0055】
[実施例2]
本実施例においては、前述実施例と異なる領域設定処理について説明する。前述実施例と同一構成については同一符号を付してその説明を省略する。
【0056】
図9は、歩行者21に対する領域42を示す。自車両11から見て反対車線に位置する点p1は、歩行者21の位置である。矢印51は、歩行者21の移動方位、つまり自車両11から遠ざかる方向へ移動中であることを示す。直線r1は、歩行者21の微小時間dtにおける移動距離の推定値である。
【0057】
情報処理装置231は、S1102において受信した応答データ300の第4ビット範囲304に示される移動方位を利用して領域を設定する。つまり、移動方位304の方向を長手方向とする楕円形状を定める。図9において、情報処理装置231は、点p1を中心として、移動方位51に対して長さr2を有する楕円42を、歩行者21に対する領域として設定する。長手方向の長さr2は、r1よりも大きい値、例えばr1の1.5倍とする。
【0058】
以上のように、歩行者21の移動方位51に対しては、より広い範囲を危険判定の対象とすることが可能となる。これにより、領域の設定精度を向上させることができる。なお、本実施例においては、歩行者21の移動方位51と逆方向にも長さr2を有する楕円42としたが、移動方位61に対してのみ長さr2を有する円形状としてもよい。
【0059】
[実施例3]
本実施例においては、前述実施例と異なる領域設定処理について説明する。前述実施例と同一構成については同一符号を付してその説明を省略する。
【0060】
図10は、歩行者22に対する領域45を示す。地点p2aは時刻t1における歩行者22の位置、地点p2bは時刻t2における歩行者22の位置、地点p2cは時刻t3における歩行者22の位置である。歩行者22は、地点p2bで方位52から方位53へ進路変更しており、その移動軌跡は破線61で示される。
【0061】
情報処理装置231は、メモリ232へ歩行者22の移動方位を記憶しておく。そして、情報処理装置231は、メモリ232から過去の移動方位を取得して、歩行者22に対する領域43を設定する。情報処理装置231は、現在の移動方位53に1つ前の移動方位52を加算して、方位54を定める。そして、情報処理装置231は、実施例2と同様、長手方向に方位54を有する楕円43を、歩行者22に対する領域として設定する。なお、加算は、1つ前の移動方位は1/2、2つ前の移動方位は1/4というように、時間の経過に応じて重みづけした上で行ってもよい。
【0062】
以上のように、過去の移動方位も加味して領域43を設定することにより、進路変更しながら移動する歩行者22に対する領域の設定精度を向上させることができる。
【0063】
[実施例4]
本実施例においては、種別301を利用した領域設定処理について説明する。前述実施例と同一構成については同一符号を付してその説明を省略する。
【0064】
情報処理装置231は、S1004において受信した応答データ300の第1ビット範囲301に示される種別を利用して領域を設定する。例えば、種別301が自転車を示している場合、情報処理装置231は、その移動方位304へ長く延びた領域を設定する。自転車は歩行者に比べ、瞬時に逆方向へ転換することが容易ではないからである。また、種別301が一定年齢以下の子供であることを示している場合、情報処理装置231は、微小時間dtを長くとる等により広い領域を設定する。子供である場合、飛び出し等急な動きをする可能性が高いと考えられるからである。
【0065】
このように、物体の種別301ごとの特徴を利用することによって、物体それぞれに適した領域の設定が可能となり、領域の設定精度を向上させることができる。
【0066】
[実施例5]
本実施例においては、前述実施例と異なる物体検知処理について、図11のフローチャートおよび図12を用いて説明する。前述実施例と同一構成については同一符号を付してその説明を省略する。
【0067】
S1001で、情報処理装置231は領域設定処理を行う。図12において、歩行者23に対する領域は、歩行者23の位置p3を中心とする円44である。同様に、歩行者24に対する領域は、歩行者24の位置p4を中心とする円45である。
【0068】
S1002で、情報処理装置231は、GPS211、ジャイロセンサ212、車速センサ213からの入力信号に基づき、自車両11の位置を算出する。S1003で、情報処理装置231は、ナビゲーションシステム251から地図データを取得して、自車両11が走行する道路を検出する。
【0069】
S2001で、情報処理装置231は、S1001で設定された各々の領域が重複するか否か判定する。S2001で否定と判断された場合は、S1004へ進む。S2001で肯定と判断された場合、S2002で情報処理装置231は、重複する複数の領域を含むような合併領域を1つ設定する。図12において、歩行者23、24に対する領域44、45は重複している。従って、情報処理装置231は、領域44と45とを含む楕円46を、歩行者23および24に対する合併領域として設定する。なお、合併領域46は楕円でなくてもよく、領域44と45とを含み、かつ重複した部分についてのみ領域を広げた形状であってもよい。
【0070】
S1004で、情報処理装置231は、各領域に対して、自車両と衝突する危険があるか否かの判定を行う。S1005で否定と判断された場合、すなわち領域に対して危険判定を終えていない場合はS1004へ戻る。一方、S1005で肯定と判断された場合、すなわち全ての領域に対して危険判定を終えた場合はS1006へ進む。
【0071】
S1006で、表示装置261もしくはスピーカ271は、図8で示したように衝突する危険がある旨を運転者に警報する。
【0072】
このように、近接する複数の歩行者23、24に対して1つの広い合併領域46を設定することにより、歩行者が単数の場合と区別することができる。また、この合併領域46を危険判定の対象とすることによって、単数のときより危険と判定される可能性を高くすることができる。すなわち、複数の歩行者がかたまって存在している場合には、単数のときよりも警報する度合いを高くし、運転者に対してより注意を促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】歩行者用端末装置の構成図である。
【図2】車両用物体検知装置の構成図である。
【図3】応答データのメッセージフレームを示す図である。
【図4】本発明に係る車両用物体検知装置が利用される状況を示す模式図である。
【図5】実施例1に係る物体検知処理のフローチャートを示す図である。
【図6】実施例1に係る領域設定処理のフローチャートを示す図である。
【図7】実施例1に係る物体の領域を示す図である。
【図8】領域の表示の一例を示す図である。
【図9】実施例2に係る物体の領域を示す図である。
【図10】実施例3に係る物体の領域を示す図である。
【図11】実施例5に係る物体検知処理のフローチャートを示す図である。
【図12】実施例5に係る物体の領域を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
11、12 車両
21、22、23、24、25、26、27 歩行者
30 道路
31 右端
32 左端
33 中央線
41、42、43、44、45、46 領域
51、52、53、54 移動方位
61 移動軌跡
100 歩行者用端末装置
200 車両用物体検知装置
300 応答データ
301 第1ビット範囲(種別)
302 第2ビット範囲(位置情報)
303 第3ビット範囲(位置測位時間)
304 第4ビット範囲(移動方位)
305 第5ビット範囲(移動速度)
111、211 GPS
112、211 ジャイロセンサ
113 速度センサ
213 車速センサ
121、221 外部コネクタ
122、222 外部機器
131、231 情報処理装置
132、232 メモリ
233 車両制御装置
141、241 無線装置
251 ナビゲーションシステム
252 データベース
261 表示装置
271 スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の位置を検出する位置検出手段と、
前記物体が移動可能な物体か否か判定する物体判定手段と、
前記物体判定手段において前記物体が移動可能な物体と判定された場合に、前記物体位置検出手段において検出された物体の位置を基準として、前記物体を取り囲む所定の領域を常時設定する領域設定手段とを有する車両用物体検知装置。
【請求項2】
前記物体の種類を識別する物体識別手段とを有し、
前記領域設定手段は、前記物体識別手段において識別された物体の種類に応じて前記領域を設定することを特徴とする請求項1に記載の車両用物体検知装置。
【請求項3】
前記物体の移動速度を検出する移動速度検出手段とを有し、
前記領域設定手段は、前記移動速度検出手段において検出された物体の移動速度に基づいて、前記領域を設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用物体検知装置。
【請求項4】
前記移動速度検出手段において検出された物体の移動速度と所定時間との乗算により前記物体の移動距離を推定する移動距離推定手段とを有し、
前記領域設定手段は、前記移動距離推定手段において推定された物体の移動距離に基づいて、前記領域を設定することを特徴とする請求項3に記載の車両用物体検知装置。
【請求項5】
自車両の速度を検出する自車速検出手段とを有し、
前記移動距離推定手段は、前記自車速検出手段において検出された自車両の速度に応じて前記所定時間を変更することを特徴とする請求項4に記載の車両用物体検知装置。
【請求項6】
前記移動距離推定手段は、前記物体の移動速度が所定値以下の場合、前記乗算値を超える値を用いて前記移動距離を推定することを特徴とする請求項4又は5に記載の車両用物体検知装置。
【請求項7】
前記領域設定手段は、前記位置検出手段において検出された物体の位置を中心とし、前記移動距離推定手段において推定された物体の移動距離を半径とした略円形状の領域を設定することを特徴とする請求項4乃至6いずれかに記載の車両用物体検知装置。
【請求項8】
前記物体の移動方位を検出する移動方位検出手段とを有し、
前記領域設定手段は、前記移動方位検出手段において検出された物体の移動方位の方向へ長く延びた略楕円形状の領域を設定することを特徴とする請求項7に記載の車両用物体検知装置。
【請求項9】
前記移動方位検出手段で検出された物体の移動方位を蓄積する移動方位記憶手段とを有し、
前記領域設定手段は、前記移動方位記憶手段に蓄積された過去の移動方位を加味して、前記略楕円形状の領域を設定することを特徴とする請求項8に記載の車両用物体検知装置。
【請求項10】
前記物体位置検出手段において第1物体の位置と第2物体の位置とが検出された場合、前記領域設定手段において設定された前記第1物体に対する第1領域と前記第2物体に対する第2領域との重複を判定する重複判定手段と、
前記重複判定手段において重複すると判定された場合、前記第1領域と前記第2領域とを含むような第3領域を設定する領域合併手段とを有することを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載の車両用物体検知装置。
【請求項11】
前記領域に基づいて前記物体の危険を判定する危険判定手段とを有する請求項1乃至10いずれかに記載の車両用物体検知装置。
【請求項12】
自車両が走行する可能性のある道路を検出する走行路検出手段とを有し、
前記危険判定手段は、前記走行路検出手段において検出された道路上に前記領域の少なくとも一部が含まれる場合に危険と判定することを特徴とする請求項11に記載の車両用物体検知装置。
【請求項13】
前記危険判定手段における判定結果に応じて、前記物体に対して危険を通知する通知手段とを有する請求項11又は12に記載の車両用物体検知装置。
【請求項14】
前記領域に基づいて前記自車両の運転者に対して警報を出力する警報手段とを有する請求項1乃至13いずれかに記載の車両用物体検知装置。
【請求項15】
前記領域に基づいて前記自車両の走行を制御する走行制御手段とを有する請求項1乃至14いずれかに記載の車両用物体検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−39698(P2006−39698A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−215137(P2004−215137)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】