説明

車両用開閉体の駆動装置

【課題】雨が降っている場合や急いでいる場合などに少しでも早く勢いよく開閉体を閉めたいという操作者の意思に対応できる車両用開閉体の駆動装置を得ること。
【解決手段】車両ボディの開口部を開閉する開閉体;前記開閉体をモータの回転駆動力により動作させるモータ電動駆動機構;前記モータ電動駆動機構の非作動状態における前記開閉体の速度を検出する速度検出手段;及び前記速度検出手段が検出した前記開閉体の速度が所定の上限速度を上回ったか否かを判定し、前記上限速度を上回らないときは前記モータ電動駆動機構を作動状態に切り替え、前記上限速度を上回ったときは前記モータ電動駆動機構の非作動状態を維持する制御手段;を有することを特徴とする車両用開閉体の駆動装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワートランクリッド、パワーバックドア、パワースライドドア等の車両用開閉体の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用開閉体の駆動装置は、車両ボディの開口部を閉じる開閉体と、この開閉体をモータの回転駆動力により閉動作させるモータ電動駆動機構とを有しており、モータ電動駆動機構の非作動状態(手動作動状態)において開閉体を手動で閉めていくと、モータ電動駆動機構が非作動状態から作動状態(電動作動状態)に切り替わる(アシストオート閉作動)。
【0003】
モータ電動駆動機構を非作動状態から作動状態に切り替えるための制御装置として、例えば特許文献1記載のものが知られている。この特許文献1では、モータ電動駆動機構の非作動状態においてスライドドアを手動で閉めるときのスライドドアの閉速度を計測し、計測した閉速度が所定速度に達した時点でモータ電動駆動機構を非作動状態から作動状態に切り替えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3421201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の技術にあっては、スライドドアの閉速度が所定速度に達した時点でモータ電動駆動機構を非作動状態から作動状態に一律かつ自動的に切り替えるので、例えば雨が降っている場合や急いでいる場合などに少しでも早く勢いよくスライドドアを閉めたいという操作者の意思に対応できないという問題がある。モータ電動駆動機構の非作動状態においては操作者が手動でスライドドアを強く押すことで早く勢いよく閉めることができるが、モータ電動駆動機構が非作動状態から作動状態に切り替わると、挟み込みを防止する必要性からスライドドアがモータによって十分に遅い速度で閉じられるからである。
【0006】
本発明は、以上の問題意識に基づいてなされたものであり、雨が降っている場合や急いでいる場合などに少しでも早く勢いよく開閉体を閉めたいという操作者の意思に対応できる車両用開閉体の駆動装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、モータ電動駆動機構の非作動状態における開閉体の閉速度が所定の上限速度を上回ったときには、少しでも早く勢いよく開閉体を閉めたいという操作者の意思が存在するものと捉えて、モータ電動駆動機構の非作動状態を維持する(作動状態に切り替えない)という着眼に基づいてなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明の車両用開閉体の駆動装置は、車両ボディの開口部を開閉する開閉体;前記開閉体をモータの回転駆動力により動作させるモータ電動駆動機構;前記モータ電動駆動機構の非作動状態における前記開閉体の速度を検出する速度検出手段;及び前記速度検出手段が検出した前記開閉体の速度が所定の上限速度を上回ったか否かを判定し、前記上限速度を上回らないときは前記モータ電動駆動機構を作動状態に切り替え、前記上限速度を上回ったときは前記モータ電動駆動機構の非作動状態を維持する制御手段;を有することを特徴としている(請求項1)。
「所定の上限速度」は、例えば、モータ電動駆動機構の非作動状態において、平均的な腕力を持つ成人男女が少しでも早く勢いよく閉めたいという意思を持って開閉体を強く押したときに開閉体が閉まる速度を基準として設定される。
【0009】
前記制御手段は、前記速度検出手段が検出した前記開閉体の速度が所定の下限速度を下回ったか否かを判定し、前記下限速度を下回らないときは前記モータ電動駆動機構を作動状態に切り替え、前記下限速度を下回ったときは前記モータ電動駆動機構の非作動状態を維持することが好ましい(請求項2)。
ここで「所定の下限速度」は、例えば、モータ電動駆動機構の非作動状態において、車両の傾斜や開閉体への積雪によって開閉体が若干量だけ動いたとき(振動したとき)の速度(ノイズ速度)を基準として設定される。
【0010】
前記速度検出手段は、前記モータ電動駆動機構の非作動状態における前記開閉体の速度を連続して検出し、前記制御手段は、前記速度検出手段が検出した前記開閉体の速度が複数回または一定時間連続して前記上限速度と前記下限速度の範囲内であるときに、前記モータ電動駆動機構を作動状態に切り替えることが好ましい(請求項3)。
【0011】
前記速度検出手段は、前記モータの回転数に対応したパルス幅を有するパルス信号を連続して検出するパルス信号検出手段であり、前記制御手段は、前記パルス信号検出手段が検出したパルス信号のパルス幅が複数回または一定時間連続して前記上限速度または前記下限速度に対応するパルス幅の範囲内であるときに、前記モータ電動駆動機構を作動状態に切り替えることが好ましい(請求項4)。
【0012】
前記速度検出手段は、前記開閉体の全開位置または全閉位置から中間開度位置に至るまでの前記開閉体の速度を検出することができる(請求項5)。
【0013】
前記開閉体は、該開閉体の開閉に伴って伸縮するダンパステーに支持された回転駆動体であり、前記速度検出手段は、前記開閉体の全開位置から中間開度位置に至るまでの前記開閉体の閉速度を検出することができる(請求項6)。
【0014】
本発明の車両用開閉体の駆動装置は、前記開閉体に異物が接触したことを検出する異物検出手段をさらに有し、前記制御手段は、前記異物検出手段が前記開閉体に異物が接触したことを検出したとき、前記速度検出手段が検出した前記開閉体の速度にかかわらず、前記開閉体の動作にブレーキを掛けることが好ましい(請求項7)。
【0015】
前記制御手段は、前記異物検出手段が前記開閉体に異物が接触したことを検出したとき、前記速度検出手段が検出した前記開閉体の速度にかかわらず、モータ電動駆動機構の前記モータに回生ブレーキを掛けることが好ましい(請求項8)。
【0016】
前記制御手段は、前記モータ電動駆動機構の回生ブレーキ回路の閉回路と開回路を切り替えることにより、前記モータ電動駆動機構の作動状態と非作動状態を切り替えることができる(請求項9)。
【発明の効果】
【0017】
本願請求項1に係る発明によれば、雨が降っている場合や急いでいる場合などに少しでも早く勢いよくスライドドアを閉めたいという操作者の意思に対応できる車両用開閉体の駆動装置が得られる。
本願請求項2に係る発明によれば、車両の傾斜や開閉体への積雪によって開閉体が若干量だけ動いたときの速度(ノイズ速度)が発生したことを以って、不用意にモータ電動駆動機構が非作動状態から作動状態に切り替わるのを防止することができる。
本願請求項3、4に係る発明によれば、速度検出手段(パルス信号検出手段)による開閉体の閉速度の検出の精度及び信頼性を高めることができる。
本願請求項5に係る発明によれば、開閉体を全開位置から手動で閉じ始める場合に加えて、同開閉体を全閉位置から手動で開き始める場合にも本発明を適用することができる。また、開閉体を全開位置から閉じ始めるまたは同開閉体を全閉位置から開き始めることにより、開閉体の初期位置が中間開度位置である場合に比して、開閉体の速度を高精度かつ簡易に検出することができる。
本願請求項6に係る発明によれば、ダンパステーによって回転駆動体である開閉体の全開位置を一律に規定できるので、開閉体の速度をより高精度かつ簡易に検出することができる。
本願請求項7、8に係る発明によれば、開閉体に異物が接触したこと(例えば挟み込みや押さえ込み)が検出されると直ちに開閉体にブレーキを掛けるか、あるいはモータ電動駆動機構を非作動状態から作動状態に切り替えてモータ電動駆動機構のモータに回生ブレーキを掛けるので、異物接触(例えば挟み込みや押さえ込み)による危険回避を最優先とすることができる。
本願請求項9に係る発明によれば、モータの回転駆動力を開閉体に断続自在に伝達するクラッチ手段を省略することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のパワートランクリッドの全開位置における構成を示す斜視図である。
【図2】図1のパワートランクリッドの開閉動作を示す断面図である。
【図3】伸縮駆動ユニット(モータ電動駆動機構)の単体構造を示す概念図である。
【図4】本発明のパワートランクリッドをその制御ユニット(制御手段)を中心に示した機能ブロック図である。
【図5】制御ユニットによる伸縮駆動ユニットの動作モードの指示制御を示す第1のフローチャートである。
【図6】制御ユニットによる伸縮駆動ユニットの動作モードの指示制御を示す第2のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1−6を用いて、本発明の車両用開閉体の駆動装置をパワートランクリッド1に適用した実施形態を説明する。パワートランクリッド1は、車両ボディ2の開口部3をトランクリッド(開閉体、回転駆動体)4により開閉可能に構成されている。トランクリッド4は、車両左右方向に設けた対をなすヒンジ部材5によって車両ボディ2に枢着されており、ヒンジ部材5の枢軸5aを中心に開閉自在になっている。トランクリッド4の内部にはクローザモータMが取付けられており、このクローザモータMは、トランクリッド4に設けられたロック6と車両ボディ2の開口部3の壁面に設けられたストライカ7が係合した状態で、トランクリッド4をハーフラッチ位置と全閉位置の間で駆動させる。開口部3の縁部全周には、トランクリッド4の全閉位置で車両ボディ2とトランクリッド4の間で弾性変形して開口部3への水の浸入を防止するウェザーストリップ8が設けられている(図1)。車両ボディ2の開口部3の車両左右方向には、トランクリッド4のヒンジ部材5に対応させて、対をなすストッパ部材9が設けられている。トランクリッド4が全開位置にあるときは、ヒンジ部材5がストッパ部材9に当接する(図1、2)。トランクリッド4は、車両ボディ2とトランクリッド4に枢着された図示しないダンパステーに支持されており、このダンパステーがトランクリッド4の開閉に伴って伸縮するようになっている(ダンパステーの伸縮状態によってトランクリッド4の開度位置が規定される)。
【0020】
車両ボディ2の開口部3の壁面とトランクリッド4のヒンジ部材5には、伸縮駆動ユニット(モータ電動駆動機構)10の一端と他端がそれぞれ枢着されている。図3にその単体構造の概念図を示すように、伸縮駆動ユニット10は、有底ハウジング11と、この有底ハウジング11の内円筒面11aでストッパ11bに螺合している回転ナット12と、この回転ナット12に螺合されたロッド部材13とを有している。有底ハウジング11の内部には、駆動モータ(PTLモータ)14を有する回生ブレーキ回路14a、減速機構G及びピニオンギヤPが設けられており、ピニオンギヤPが回転ナット12の外周ギヤ12aに噛み合っている。これにより、回生ブレーキ回路14aの駆動モータ14が正逆に回転すると、駆動モータ14の駆動力が減速機構G及びピニオンギヤPを介して回転ナット12に伝わり、回転ナット12は有底ハウジング11内の定位置で正逆に回転する。回転ナット12の回転に従い、ロッド部材13が有底ハウジング11(回転ナット12)に収納され、又は有底ハウジング11(回転ナット12)から突出する。有底ハウジング11には、ボール収容部15aを有するジョイント部15が結合されており、このボール収容部15aに、車両ボディ2の開口部3の壁面に設けたボールスタッド(図示せず)が嵌められる。ロッド部材13の先端部13aには、ボール収容部16aを有するジョイント部16が結合されており、このボール収容部16aに、トランクリッド4のヒンジ部材5に設けたボールスタッド(図示せず)が嵌められる。以上の構成により、伸縮駆動ユニット10は、回生ブレーキ回路14aの駆動モータ14の正逆回転に従い伸縮して、トランクリッド4が開閉動作される(図2)。伸縮駆動ユニット10は、車両ボディ2の開口部3の壁面に設けたベースプレート(図示せず)に取付けられている。伸縮駆動ユニット10にはクラッチは設けられていない。
【0021】
伸縮駆動ユニット10は、トランクリッド4を閉めるときの動作モードとして、非作動状態(手動作動状態)と作動状態(電動作動状態)のいずれかを採る。伸縮駆動ユニット10の非作動状態では、駆動モータ14を有する回生ブレーキ回路14aが開回路となっていて駆動モータ14が回転駆動しておらず、操作者がトランクリッド4を押さない限りトランクリッド4が閉まることはない。伸縮駆動ユニット10の作動状態では、駆動モータ14を有する回生ブレーキ回路14aが閉回路となっていて駆動モータ14がトランクリッド4を閉める方向に回転駆動しており、操作者がトランクリッド4を押さなくてもトランクリッド4が自動的に閉められる。
【0022】
伸縮駆動ユニット10の動作モードは、車両ボディ2の開口部3に設けられた制御ユニット(制御手段)20によって制御される。図4は、制御ユニット20を中心にパワートランクリッド1を示した機能ブロック図である。図4において、閉速度検出手段(速度検出手段)30は、例えば、駆動モータ14の近傍に設けたマグネットとホールIC(図示せず)からなり、このマグネットの発生磁場をホールICで電気信号に変換して駆動モータ14の回転数に対応したパルス幅を有するパルス信号を複数回連続して(一定時間連続して)検出することにより、伸縮駆動ユニット10の非作動状態におけるトランクリッド4の閉速度Vを検出する。閉速度検出手段30は、検出したトランクリッド4の閉速度Vをパルス信号として制御ユニット20に出力する。挟み込み検出手段(異物検出手段)40は、トランクリッド4と車両ボディ2に挟み込みが発生すると、挟み込み検出信号を制御ユニット20に出力する。挟み込み検出手段40の具体的態様は問わないが、例えば、人又は物が接触してセンサが押し潰されることで通電する感圧タッチセンサを用いることができる。
【0023】
制御ユニット20は、動作モード指示部21と、上下限速度記憶部22と、タイマ部23とを有する。動作モード指示部21は、閉速度検出手段30から入力したトランクリッド4の閉速度Vに基づいて、伸縮駆動ユニット10の動作モードを制御する。
【0024】
より具体的に動作モード指示部21は、閉速度検出手段30から入力したトランクリッド4の閉速度Vが所定の上限速度VULを上回ったか否かを判定し、トランクリッド4の閉速度Vが上限速度VULを上回らないときは、伸縮駆動ユニット10に対して動作モードを非作動状態から作動状態に切り替える旨の指示信号を送り、閉速度Vが上限速度VULを上回ったときは、伸縮駆動ユニット10に対して動作モードを非作動状態で維持する(作動状態に切り替えない)旨の指示信号を送る。
【0025】
所定の上限速度VULは上下限速度記憶部22に記憶されていて、動作モード指示部21がこれを参照できるようになっている。ここで「所定の上限速度VUL」は、例えば、伸縮駆動ユニット10の非作動状態において、平均的な腕力を持つ成人男女が少しでも早く勢いよく閉めたいという意思を持ってトランクリッド4を強く押したときにトランクリッド4が閉まる速度を基準として設定される。
【0026】
動作モード指示部21は、閉速度検出手段30から入力したトランクリッド4の閉速度Vが所定の下限速度VLLを下回ったか否かを判定し、トランクリッド4の閉速度Vが下限速度VLLを下回らないときは、伸縮駆動ユニット10に対して動作モードを非作動状態から作動状態に切り替える旨の指示信号を送り、閉速度Vが下限速度VLLを下回ったときは、伸縮駆動ユニット10に対して動作モードを非作動状態で維持する(作動状態に切り替えない)旨の指示信号を送る。
【0027】
所定の下限速度VLLは上下限速度記憶部22に記憶されていて、動作モード指示部21がこれを参照できるようになっている。ここで「所定の下限速度VLL」は、例えば、伸縮駆動ユニット10の非作動状態において、車両の傾斜やトランクリッド4への積雪によってトランクリッド4が若干量だけ動いたとき(振動したとき)の速度(ノイズ速度)を基準として設定される。
【0028】
要するに動作モード指示部21は、閉速度検出手段30から入力したトランクリッド4の閉速度VがVLL≦V≦VULの関係を満足するときは、伸縮駆動ユニット10に対して動作モードを非作動状態から作動状態に切り替える旨の指示信号を送り、VLL≦V≦VULの関係を満足しないとき、つまりV>VUL又はV<VLLであるときは、伸縮駆動ユニット10に対して動作モードを非作動状態で維持する旨の指示信号を送る。VLL≦V≦VULの関係を満足するときは、操作者がトランクリッド4を一定速度で閉めようとしていると考えられるから、伸縮駆動ユニット10の動作モードを非作動状態から作動状態に切り替える。一方、V>VULであるときは、少しでも早く勢いよくトランクリッド4を閉めたいという操作者の意思が存在すると考えられ、V<VLLであるときは、単に車両の傾斜やトランクリッド4への積雪によってトランクリッド4が若干量だけ動いた(振動した)だけと考えられるから、伸縮駆動ユニット10の動作モードを非作動状態で維持する。
【0029】
動作モード指示部21は、閉速度検出手段30から入力したトランクリッド4の閉速度Vを示すパルス信号のパルス幅が、複数回連続して上限速度VULに対応するパルス幅より小さいとき又は下限速度VLLに対応するパルス幅より大きいときにだけ、V>VUL又はV<VLLであると判定して、伸縮駆動ユニット10に対して動作モードを非作動状態で維持する旨の指示信号を送る。これにより、閉速度検出手段30によるトランクリッド4の閉速度の検出の精度及び信頼性を高めることができる。
【0030】
動作モード指示部21は、挟み込み検出手段40から挟み込み検出信号が入力したときは、閉速度検出手段30から入力したトランクリッド4の閉速度Vにかかわらず、伸縮駆動ユニット10に対して、動作モードを作動状態に切り替えて駆動モータ14に回生ブレーキを掛けさせる(つまりトランクリッド4の閉動作にブレーキを掛けさせる)旨の指示信号を送る。
【0031】
図5のフローチャートを用いて、制御ユニット20による伸縮駆動ユニット10の動作モードの指示制御(アシストオート閉作動制御)を説明する。
【0032】
図5において、トランクリッド4が全開位置で伸縮駆動ユニット10が非作動状態であるときに(ステップS1:YES)、操作者が手動でトランクリッド4を閉め始めると、閉速度検出手段30がトランクリッド4の閉方向への移動を検知する(ステップS2:YES)。閉速度検出手段30は、トランクリッド4が全開位置から中間開度位置に至るまでのトランクリッド4の閉速度Vをパルス信号として検出して制御ユニット20の動作モード指示部21に出力する(ステップS3)。
【0033】
動作モード指示部21は、上下限速度記憶部22を参照して、閉速度検出手段30から入力したトランクリッド4の閉速度VがVLL≦V≦VULの関係を満たすか否かを判定する(ステップS4)。つまり動作モード指示部21は、閉速度検出手段30から入力したトランクリッド4の閉速度Vを示すパルス信号のパルス幅が、上限速度VULに対応するパルス幅と下限速度VLLに対応するパルス幅との範囲内であるか否かを判定する。
【0034】
動作モード指示部21は、トランクリッド4の閉速度VがVLL≦V≦VULの関係を満足するときは(ステップS4:YES)、アシスト開始カウントが所定値Cに到達するまでアシスト開始カウントを1ずつインクリメントして(ステップS5:NO、ステップS6)、ステップS2からステップS6のループ処理を繰り返す。
【0035】
動作モード指示部21は、アシスト開始カウントが所定値Cに到達すると(ステップS5:YES)、伸縮駆動ユニット10のパワー作動開始条件(例えば車両が走行中ではない、回生ブレーキ回路14aの電圧が所定値以上である)を満たしているか否かを判定し(ステップS7)、満たしていれば(ステップS7:YES)、伸縮駆動ユニット10に対して動作モードを非作動状態から作動状態に切り替える旨の指示信号を送る。動作モード指示部21からの指示信号を受けた伸縮駆動ユニット10は、駆動モータ14を有する回生ブレーキ回路14aを閉回路とすることにより作動状態に切り替わり、駆動モータ14をトランクリッド4が閉まる方向に回転駆動してトランクリッド4を電動で閉め始める(ステップS8)。やがてトランクリッド4が全閉位置に到達すると、動作モード指示部21はアシスト開始カウントを0にリセットして処理を終了する(ステップS9)。
【0036】
一方、動作モード指示部21は、ステップS4において、閉速度検出手段30から入力したトランクリッド4の閉速度VがVLL≦V≦VULの関係を満足しないとき、すなわちトランクリッド4の閉速度Vを示すパルス信号のパルス幅が複数回連続して上限速度VULに対応するパルス幅より小さいとき又は下限速度VLLに対応するパルス幅より大きいときは(ステップS4:NO)、伸縮駆動ユニット10に対して動作モードを非作動状態で維持する旨の指示信号を送る。動作モード指示部21からの指示信号を受けた伸縮駆動ユニット10は、駆動モータ14を有する回生ブレーキ回路14aを開回路として駆動モータ14が回転駆動していない非作動状態を維持して処理を終了する(ステップS10)。
【0037】
図6のフローチャートを用いて、伸縮駆動ユニット10の非作動状態でトランクリッド4に挟み込み(異物検出)が発生したときの制御ユニット20による伸縮駆動ユニット10の動作モードの指示制御(アシストオート閉作動制御)を説明する。
【0038】
図6において、伸縮駆動ユニット10の非作動状態で操作者が手動でトランクリッド4を閉めているときにトランクリッド4の挟み込みが検出されると、挟み込み検出手段40は動作モード指示部21に対して挟み込み検出信号を送る(ステップS1:YES)。この挟み込み検出信号を受けた動作モード指示部21は、閉速度検出手段30から入力したトランクリッド4の閉速度Vにかかわらず、伸縮駆動ユニット10に対して、動作モードを作動状態に切り替えて駆動モータ14に回生ブレーキを掛けさせる(つまりトランクリッド4の閉動作にブレーキを掛けさせる)旨の指示信号を送る。動作モード指示部21からの指示信号を受けた伸縮駆動ユニット10は、駆動モータ14を有する回生ブレーキ回路14aを閉回路とすることにより作動状態に切り替わって駆動モータ14に回生ブレーキを掛け始め(ステップS2)、タイマ部23を参照して、一定時間が経過するまで回生ブレーキ開始カウントを1ずつインクリメントしながら駆動モータ14に回生ブレーキを掛け続ける(ステップS3、ステップS5:NO)。
【0039】
そして動作モード指示部21は、タイマ部23を参照して、回生ブレーキを掛け始めてから一定時間が経過したら(ステップS5:YES)、伸縮駆動ユニット10に対して、動作モードを非作動状態に切り替えて駆動モータ14の回生ブレーキを解除させる旨の指示信号を送り、回生ブレーキ開始カウントを0にリセットして処理を終了する(ステップS6)。
【0040】
また動作モード指示部21は、回生ブレーキを掛け始めてから一定時間が経過していなくても(ステップS5:NO)、閉速度検出手段30から入力したトランクリッド4の閉速度Vが安全性の確保に必要な所定の下限速度VSを下回ったときは(ステップS4:YES)、伸縮駆動ユニット10に対して、動作モードを非作動状態に切り替えて駆動モータ14の回生ブレーキを解除させる旨の指示信号を送り、回生ブレーキ開始カウントを0にリセットして処理を終了する(ステップS6)。ここで「安全性の確保に必要な所定の下限速度VS」は、トランクリッド4は実質的に停止しているが、トランクリッド4が挟み込んだ人又は物と接触して僅かに動いたとき(振動したとき)の速度を基準として設定される。
【0041】
このように本実施形態の車両用開閉体の駆動装置によれば、車両ボディ2の開口部3を閉じるトランクリッド(開閉体)4と、トランクリッド4を駆動モータ(モータ)14の回転駆動力により閉動作させる伸縮駆動ユニット(モータ電動駆動機構)10と、伸縮駆動ユニット10の非作動状態におけるトランクリッド4の閉速度Vを検出する閉速度検出手段30と、閉速度検出手段30が検出したトランクリッド4の閉速度Vが所定の上限速度VULを上回ったか否かを判定し、上限速度VULを上回らないときは伸縮駆動ユニット10を作動状態に切り替え、上限速度VULを上回ったときは伸縮駆動ユニット10の非作動状態を維持する制御手段20と、を有している。
【0042】
この構成によれば、伸縮駆動ユニット10の非作動状態におけるトランクリッド4の閉速度Vが所定の上限速度VULを上回ったときには、少しでも早く勢いよくトランクリッド4を閉めたいという操作者の意思が存在するものと捉えて、伸縮駆動ユニット10の非作動状態を維持する(作動状態に切り替えない)ので、雨が降っている場合や急いでいる場合などに少しでも早く勢いよくトランクリッド4を閉めたいという操作者の意思に対応することができる。
【0043】
以上の実施形態では、開閉体を閉動作する場合の制御について説明したが、本発明は、例えばパワースライドドアにおいてスライドドアを開動作する場合にも同様に適用できる。すなわち、スライドドアの開速度が所定速度に達した時点でモータ電動駆動機構を非作動状態から作動状態に一律かつ自動的に切り替える制御を行うと、例えば車内の荷物を急いで積み下ろししたい場合などに少しでも早く勢いよくスライドドアを開けたいという操作者の意思に対応することができず不便である。
【0044】
そこで、本発明の車両用開閉体の駆動装置は、車両ボディの開口部を開く開閉体;前記開閉体をモータの回転駆動力により開動作させるモータ電動駆動機構;前記モータ電動駆動機構の非作動状態における前記開閉体の開速度を検出する開速度検出手段;及び前記開速度検出手段が検出した前記開閉体の開速度が所定の上限速度を上回ったか否かを判定し、前記上限速度を上回らないときは前記モータ電動駆動機構を作動状態に切り替え、前記上限速度を上回ったときは前記モータ電動駆動機構の非作動状態を維持する制御手段;を有する態様を採ることもできる。
【0045】
この場合、開速度検出手段は、例えば、開閉体の全閉位置から中間開度位置に至るまでの開閉体の開速度を測定することができる。また、異物検出手段は、開閉体に押さえ込みが発生して異物が接触したことを検出することができる。
【0046】
以上の実施形態では、モータ電動駆動機構にクラッチを設けない場合を例示して説明したが、モータ電動駆動機構にクラッチを設けた場合にも本発明は適用可能である。すなわち、モータ電動駆動機構に、モータの回転駆動力を開閉体に断続自在に伝達するクラッチ手段を設けて、制御手段が、このクラッチ手段のクラッチ状態と非クラッチ状態を切り替えることにより、モータ電動駆動機構の作動状態と非作動状態を切り替えることもできる。
【0047】
以上の実施の形態では、本発明の車両用開閉体の駆動装置をパワートランクリッドに適用した場合を例示して説明したが、本発明の車両用開閉体の駆動装置は、パワーバックドア、パワースライドドア等の他の開閉体にも適用可能である。
【0048】
以上の実施形態では、閉速度検出手段をホールICとマグネットからなるパルス信号検出手段によって構成した場合を例示して説明したが、閉速度検出手段は、モータ電動駆動機構の非作動状態における開閉体の閉速度を検出できればその態様は問わない。
【0049】
以上の実施形態では、閉速度検出手段が開閉体の全開位置から中間開度位置に至るまでの開閉体の閉速度を検出する場合を例示して説明したが、閉速度の検出を開始する開閉体の開度位置は必ずしも全開位置とする必要はない。
【符号の説明】
【0050】
1 パワートランクリッド
2 車両ボディ
3 開口部
4 トランクリッド(開閉体、回転駆動体)
5 ヒンジ部材
5a 枢軸
6 ロック
7 ストライカ
8 ウェザーストリップ
9 ストッパ部材
10 伸縮駆動ユニット(モータ電動駆動機構)
11 有底ハウジング
11a 内円筒面
11b ストッパ
12 回転ナット
13 ロッド部材
13a 先端部
14 駆動モータ(PTLモータ)
14a 回生ブレーキ回路
15 ジョイント部
15a ボール収容部
16 ジョイント部
16a ボール収容部
20 制御ユニット(制御部)
21 動作モード指示部
22 上下限速度記憶部
23 タイマ部
30 閉速度検出手段(速度検出手段)
40 挟み込み検出手段(異物検出手段)
M クローザモータ
G 減速機構
P ピニオンギヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両ボディの開口部を開閉する開閉体;
前記開閉体をモータの回転駆動力により動作させるモータ電動駆動機構;
前記モータ電動駆動機構の非作動状態における前記開閉体の速度を検出する速度検出手段;及び
前記速度検出手段が検出した前記開閉体の速度が所定の上限速度を上回ったか否かを判定し、前記上限速度を上回らないときは前記モータ電動駆動機構を作動状態に切り替え、前記上限速度を上回ったときは前記モータ電動駆動機構の非作動状態を維持する制御手段;
を有することを特徴とする車両用開閉体の駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用開閉体の駆動装置において、
前記制御手段は、前記速度検出手段が検出した前記開閉体の速度が所定の下限速度を下回ったか否かを判定し、前記下限速度を下回らないときは前記モータ電動駆動機構を作動状態に切り替え、前記下限速度を下回ったときは前記モータ電動駆動機構の非作動状態を維持する車両用開閉体の駆動装置。
【請求項3】
請求項2記載の車両用開閉体の駆動装置において、
前記速度検出手段は、前記モータ電動駆動機構の非作動状態における前記開閉体の速度を連続して検出し、
前記制御手段は、前記速度検出手段が検出した前記開閉体の速度が複数回または一定時間連続して前記上限速度と前記下限速度の範囲内であるときに、前記モータ電動駆動機構を作動状態に切り替える車両用開閉体の駆動装置。
【請求項4】
請求項3記載の車両用開閉体の駆動装置において、
前記速度検出手段は、前記モータの回転数に対応したパルス幅を有するパルス信号を連続して検出するパルス信号検出手段であり、
前記制御手段は、前記パルス信号検出手段が検出したパルス信号のパルス幅が複数回または一定時間連続して前記上限速度または前記下限速度に対応するパルス幅の範囲内であるときに、前記モータ電動駆動機構を作動状態に切り替える車両用開閉体の駆動装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載の車両用開閉体の駆動装置において、
前記速度検出手段は、前記開閉体の全開位置または全閉位置から中間開度位置に至るまでの前記開閉体の速度を検出する車両用開閉体の駆動装置。
【請求項6】
請求項5記載の車両用開閉体の駆動装置において、
前記開閉体は、該開閉体の開閉に伴って伸縮するダンパステーに支持された回転駆動体であり、
前記速度検出手段は、前記開閉体の全開位置から中間開度位置に至るまでの前記開閉体の閉速度を検出する車両用開閉体の駆動装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項記載の車両用開閉体の駆動装置において、
前記開閉体に異物が接触したことを検出する異物検出手段をさらに有し、
前記制御手段は、前記異物検出手段が前記開閉体に異物が接触したことを検出したとき、前記速度検出手段が検出した前記開閉体の速度にかかわらず、前記開閉体の動作にブレーキを掛ける車両用開閉体の駆動装置。
【請求項8】
請求項7記載の車両用開閉体の駆動装置において、
前記制御手段は、前記異物検出手段が前記開閉体に異物が接触したことを検出したとき、前記速度検出手段が検出した前記開閉体の速度にかかわらず、モータ電動駆動機構の前記モータに回生ブレーキを掛ける車両用開閉体の駆動装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項記載の車両用開閉体の駆動装置において、
前記制御手段は、前記モータ電動駆動機構の回生ブレーキ回路の閉回路と開回路を切り替えることにより、前記モータ電動駆動機構の作動状態と非作動状態を切り替える車両用開閉体の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−102516(P2012−102516A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251398(P2010−251398)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(590001164)シロキ工業株式会社 (610)
【Fターム(参考)】