説明

車両用駆動システム

【課題】エコラン走行中のエンジン再始動時にてクラッチを開放状態から係合状態に切り替えるときに発生する振動を抑制できる車両用駆動システムを提供すること。
【解決手段】この車両用駆動システム1は、車両走行中にて、所定のエンジン停止条件の成立によりエンジン2を停止させると共に、所定のエンジン再始動条件の成立によりエンジン2を再始動させるエコラン制御を行う。また、車両用駆動システム1は、エンジン2からの駆動力を変速して出力する変速機5と、エンジン2から変速機5への駆動力の伝達を係合状態にて許容すると共に開放状態にて遮断するクラッチ4と、変速機5およびクラッチ4を制御する制御装置7とを備える。そして、制御装置7は、車両走行中であってエンジン停止条件が成立してクラッチ4を係合状態から開放状態に切り替えるときに、変速機5の変速比γを増加させる変速比増加制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用駆動システムに関し、さらに詳しくは、エコラン走行中のエンジン再始動時にてクラッチを開放状態から係合状態に切り替えるときに発生する振動を抑制できる車両用駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な車両用駆動システムでは、車両走行中(例えば、車両の減速走行時やフリーラン走行時など)にエンジンを一時的に停止させて再始動させるエコラン制御(エコノミーランニング制御)が行われる場合がある。このエコラン制御では、エンジンを再始動させるときに、クラッチが開放状態から係合状態に切り替えられて、エンジンから車軸への動力伝達が再開される。このとき、エンジン回転数と変速機の入力側回転数との差が大きいと、クラッチ係合時にて振動が発生するおそれがあり、また、クラッチ係合時の発熱によりクラッチの耐久性が悪化するおそれもある。
【0003】
このような課題に関する従来の車両用駆動システムとして、特許文献1に記載される技術が知られている。従来の車両用駆動システムでは、エコラン制御にてエンジンを再始動させるときに、エンジン始動手段によってエンジンが再始動されるまでの間に、必要なトルクをモータに出力させて、クラッチ係合時の振動を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−121203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の車両用駆動システムでは、モータ、モータと駆動系とを連結するクラッチ、これらのモータやクラッチの駆動制御系などを追設する必要があるため、好ましくない。
【0006】
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、エコラン走行中のエンジン再始動時にてクラッチを開放状態から係合状態に切り替えるときに発生する振動を抑制できる車両用駆動システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、この発明にかかる車両用駆動システムは、車両走行中にて、所定のエンジン停止条件の成立によりエンジンを停止させると共に、所定のエンジン再始動条件の成立によりエンジンを再始動させるエコラン制御を行う車両用駆動システムであって、エンジンからの駆動力を変速して出力する変速機と、前記エンジンから前記変速機への駆動力の伝達を係合状態にて許容すると共に開放状態にて遮断するクラッチと、前記変速機および前記クラッチを制御する制御装置とを備え、且つ、前記制御装置は、車両走行中であって前記エンジン停止条件が成立して前記クラッチを係合状態から開放状態に切り替えるときに、前記変速機の変速比を増加させる変速比増加制御を行うことを特徴とする。
【0008】
この車両用駆動システムは、エコラン制御時にてクラッチを開放状態とするときに、変速機の変速比を増加(変速段をロー側に移行)させる制御が行われる。すると、変速機のインプット回転数がエンジン回転数に近づくので、エンジンを再始動してクラッチを係合状態とするときに、インプット回転数とエンジン回転数との差によって発生する振動が緩和される。これにより、車両のドライバビリティが向上する利点がある。
【0009】
また、この発明にかかる車両用駆動システムは、前記エンジン側にある前記変速機の回転部の回転数をインプット回転数と呼ぶときに、前記制御装置は、前記変速比増加制御にて、前記エンジンの再始動後に前記クラッチを係合状態とするときのエンジン回転数を目標値として、前記変速機のインプット回転数を制御する。
【0010】
この車両用駆動システムでは、インプット回転数とエンジン回転数とが同期するので、インプット回転数とエンジン回転数との差によって発生する振動が効果的に緩和される利点がある。
【0011】
また、この発明にかかる車両用駆動システムは、前記制御装置は、前記エンジン再始動条件が成立したときに、前記クラッチを開放状態から係合状態に切り替えると共に前記変速機の変速比を減少させる変速比減少制御を行う。
【0012】
この車両用駆動システムでは、クラッチを再び係合状態とするときに、上記の変速比増加制御により増加した変速比が戻される(ロー側に移行した変速段がハイ側に戻される)。これにより、変速機の変速比が適正化されて、ドライバビリティが向上する利点がある。
【発明の効果】
【0013】
この発明にかかる車両運動制御システムによれば、エコラン走行中のエンジン再始動時にてクラッチを開放状態から係合状態に切り替えるときに発生する振動を抑制できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、この発明の実施の形態にかかる車両用駆動システムを示す機能ブロック図である。
【図2】図2は、図1に記載した車両用駆動システムの作用を示すフローチャートである。
【図3】図3は、図1に記載した車両用駆動システムの作用を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0016】
[車両用駆動システム]
図1は、この発明の実施の形態にかかる車両用駆動システムを示す機能ブロック図である。
【0017】
この車両用駆動システム1は、車両を駆動するシステムであり、特に、車両走行中にて、所定のエンジン停止条件の成立によりエンジンを停止させると共に、所定のエンジン再始動条件の成立によりエンジンを再始動させるエコラン制御(エコノミーランニング制御)を行うシステムに適用される。この車両用駆動システム1は、エンジン2と、トルクコンバータ3と、クラッチ(動力伝達クラッチ)4と、変速機5と、減速差動装置6と、制御装置7とを備える(図1参照)。
【0018】
エンジン2は、動力源であり、特に、内燃機関あるいは外燃機関である。
【0019】
トルクコンバータ3は、駆動トルクを増幅して伝達する機械要素である。このトルクコンバータ3は、インペラ31およびタービン32を備えた流体式トルクコンバータであり、インペラ31側にてエンジン2のクランクシャフトに連結されて、エンジン2の後段に配置される。また、トルクコンバータ3は、インペラ31およびタービン32が作動流体を介して相対回転することにより、駆動トルクを増幅して伝達する。
【0020】
クラッチ4は、駆動トルクを伝達する機械要素である。このクラッチ4は、入力側回転部41および出力側回転部42を有し、入力側回転部41側にてトルクコンバータ3のタービン32に連結されて、トルクコンバータ3の後段に配置される。また、クラッチ4は、入力側回転部41および出力側回転部42の係合状態にてトルク伝達を許容し、これらの開放状態にてトルク伝達を遮断する。なお、かかるクラッチ4として、例えば、摩擦式クラッチが採用され得る。
【0021】
変速機5は、変速比を自動的に変更できる装置(自動変速機)である。また、変速機5は、入力側回転部51および出力側回転部52を有し、入力側回転部51にてクラッチ4の出力側回転部42に連結されて、クラッチ4の後段に配置される。また、変速機5は、その変速比γ(=(出力側回転部52の回転数)/(入力側回転部51の回転数))を変更できる。ここでは、エンジン2(クラッチ4)側にある入力側回転部51の回転数Ninを、インプット回転数と呼ぶ。なお、かかる変速機5として、例えば、ベルト式あるいはトロイダル式の無段変速機、有段の変速機などが採用され得る。
【0022】
減速差動装置6は、減速機構および差動機構を有する装置である。この減速差動装置6は、入力軸61にて変速機5の出力側回転部52に連結され、出力軸62にて車輪11R、11Lの車軸に連結される。また、減速差動装置6は、入力軸61の回転数を減速して出力軸62に出力し、また、車両の左右輪11R、11Lの動力差を調整する。
【0023】
制御装置7は、車両用駆動システム1の動作を制御する装置であり、ECU(Electrical Control Unit)71と、センサユニット72とを有する。ECU71は、取得した入力信号に基づいて所定の出力信号を出力する。このECU71は、後述するエコラン制御を行うエコラン制御部711と、エンジン2を駆動制御するエンジン制御部712と、クラッチ4を駆動制御するクラッチ制御部713と、変速機5を駆動制御する変速機制御部714と、所定の情報を記憶する記憶部715とを有する。センサユニット72は、例えば、車両のアクセル開度を計測するアクセル開度センサ721と、車両の車速を計測する車速センサ722と、走行路の勾配を計測する勾配センサ723と、ブレーキペダルの踏み込みONを検出するブレーキセンサ724と、エンジン回転数Neを計測するエンジン回転数センサ725と、タービン回転数Ntを計測するタービン回転数センサ726と、インプット回転数Ninを計測するインプット回転数センサ727とを有する。この制御装置7では、ECU71が、センサユニット72からの入力信号に基づき所定の出力信号を出力して、エンジン2、トルクコンバータ3、クラッチ4および変速機5を駆動制御する。
【0024】
この車両用駆動システム1では、エンジン2が駆動トルクを発生すると、この駆動トルクがトルクコンバータ3にて増幅され、クラッチ4を介して変速機5に伝達される。そして、この駆動トルクが変速機5にて変速され、減速差動装置6にて減速されて車両の左右輪11R、11Lに配分される。これにより、車両が走行する。また、制御装置7がエンジン2、トルクコンバータ3、クラッチ4および変速機5を駆動制御することにより、各種の制御が実現される。
【0025】
例えば、この車両用駆動システム1は、車両走行中にて、エンジン2が駆動不要な状態にあるときに、エンジン2を一時的に停止させるエコラン制御を実現できる。このエコラン制御は、例えば、車両の減速走行時やフリーラン走行時などに行われる。エコラン制御では、制御装置7が、所定のエンジン停止条件の成立によりエンジン2を停止させ、また、所定のエンジン再始動条件の成立によりエンジン2を再始動させる。これにより、車両の燃費が向上する。
【0026】
なお、この実施の形態では、クラッチ4がトルクコンバータ3と変速機5との間に配置されている(図1参照)。しかし、これに限らず、クラッチ4は、エンジン2と変速機5との間に配置されて、エンジン2から変速機5への駆動力の伝達を許容および遮断できれば良い。例えば、クラッチ4は、エンジン2の出力軸とトルクコンバータ3のインペラ31との間に配置されても良い(図示省略)。
【0027】
[エコラン走行中におけるエンジン再始動時の振動抑制制御]
図2は、図1に記載した車両用駆動システムの作用を示すフローチャートである。同図は、エコラン走行中におけるエンジン再始動時の振動抑制制御のフローを示している。
【0028】
ここで、エコラン制御では、エンジンを再始動させるときに、クラッチが開放状態から係合状態に切り替えられて、エンジンから車軸への動力伝達が再開される。このとき、エンジン回転数と変速機の入力側回転数との差が大きいと、クラッチ係合時にて振動が発生するおそれがあり、また、クラッチ係合時の発熱によりクラッチの耐久性が悪化するおそれもある。
【0029】
そこで、この車両用駆動システム1では、エコラン走行中のエンジン再始動時にてクラッチを開放状態から係合状態に切り替えるときに発生する振動を抑制するために、以下の制御が行われる(図2参照)。なお、この実施の形態では、エコラン制御におけるエンジン停止条件がステップST01〜ST03に対応し、エンジン再始動条件がステップST07に対応している。
【0030】
ステップST01では、アクセルがOFF状態にあるか否かが判定される。例えば、この実施の形態では、車両走行時にて、制御装置7のアクセル開度センサ721が車両のアクセル開度(アクセル操作量)を計測してECU71に出力している。そして、ECU71のエコラン制御部711が、アクセル開度センサ721の出力信号と所定の閾値とを比較し、アクセル開度が所定の閾値以下である状態が所定時間継続したときに、肯定判定を行っている。このステップST01にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST02に進み、否定判定が行われた場合には、ステップST10に進む。
【0031】
ステップST02では、車両の車速VがV≧V1であり、且つ、走行路の勾配Gが|G|≦G1であるか否かが判定される。例えば、この実施の形態では、車両走行時にて、制御装置7の車速センサ722が車両の車速Vを計測してECU71に出力し、また、勾配センサ723が走行路の勾配Gを計測してECU71に出力している。そして、ECU71のエコラン制御部711が、車速Vと所定の閾値V1とを比較し、また、勾配Gと所定の閾値G1とを比較して、V≧V1かつ|G|≦G1であるときに、肯定判定を行っている。このステップST02にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST03に進み、否定判定が行われた場合には、ステップST10に進む。
【0032】
ステップST03では、ブレーキがON状態にあるか否かが判定される。例えば、この実施の形態では、制御装置7のブレーキセンサ724がブレーキスイッチセンサであり、車両走行時にて、ブレーキセンサ724がブレーキペダルの踏み込みONを検出してECU71に出力している。そして、ECU71のエコラン制御部711が、この出力信号をブレーキセンサ724から取得したときに、肯定判定を行っている。このステップST03にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST04に進み、否定判定が行われた場合には、ステップST10に進む。
【0033】
ステップST04では、クラッチ4を開放状態とする制御が行われる(クラッチ開放制御ステップ)。例えば、この実施の形態では、所定のエンジン停止条件が成立すると(ステップST01〜ステップST03の肯定判定)、ECU71のクラッチ制御部713がクラッチ油圧(クラッチ4の締結油圧)の目標値を算出し、この目標値によりクラッチ4を駆動制御して開放状態としている。このステップST04の後に、ステップST05に進む。
【0034】
ステップST05では、変速比γを増加(変速段をロー側に移行)させる制御が行われる(変速比増加制御)。例えば、この実施の形態では、クラッチ開放制御(ステップST04)の開始をトリガーとして、ECU71の変速機制御部714が変速比増加制御(ステップST05)を開始している。このとき、変速機制御部714は、後述するエンジン2の再始動後であってクラッチ4を係合させるとき(ステップST08およびステップST09)のエンジン回転数Neを目標値として、変速機5のインプット回転数Ninを制御している。なお、インプット回転数Ninとは、エンジン2側にある変速機5の入力側回転部51の回転数をいう。このステップST05の後に、ステップST06に進む。
【0035】
ステップST06では、エンジン2の停止制御が行われる。例えば、実施の形態では、クラッチ開放制御(ステップST04)および変速比増加制御(ステップST05)の完了後に、ECU71のエンジン制御部712がエンジン2への燃料供給を遮断してエンジン2を停止させている。これにより、エンジン2が駆動不要な状態にあるときの燃料消費量が低減されて、車両の燃費が向上する。このステップST06の後に、ステップST07に進む。
【0036】
ステップST07では、ブレーキがOFF状態にあるか否かが判定される。すなわち、エンジン2を停止(ステップST06)してエコラン走行している状態では、ドライバーがブレーキペダルを踏み込んだ状態(ステップST03の肯定判定)にある。そして、ブレーキペダルの踏み込みが解除されることにより、エンジン2の再始動条件が成立する。このステップST07にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST08に進み、否定判定が行われた場合には、ステップST07が繰り返される。
【0037】
ステップST08では、エンジン2が再始動される。このとき、エンジン回転数Neが所定の回転数に設定される。例えば、この実施の形態では、エンジン2の再始動条件の成立(ステップST07の肯定判定)後に、ECU71のエンジン制御部712がエンジン2への燃料供給を再開してエンジン2を再始動させている。また、エンジン制御部712が、アイドリング時における所定のエンジン回転数を目標値としてエンジン回転数Neを制御している。このステップST08の後に、ステップST09に進む。
【0038】
ステップST09では、クラッチ4を係合状態とする制御が行われる。このとき、変速比増加制御(ステップST05)により、変速機5のインプット回転数Ninがエンジン回転数Neに同期しているので、クラッチ4の係合時における振動の発生が緩和される。なお、この実施の形態では、ECU71のクラッチ制御部713がクラッチ油圧の目標値を算出し、この目標値によりクラッチ4を駆動制御して係合状態としている。このステップST09の後に、ステップST10に進む。
【0039】
ステップST10では、変速比γを減少させる制御が行われる(変速比減少制御)。このとき、変速機5のインプット回転数Ninが、現在のシフト装置のシフトポジションあるいは車両の走行状態(例えば、車速Vなど)に応じた適正な回転数を目標値として制御される。これにより、変速機5の変速比が適正化されて、ドライバビリティが向上する。なお、この変速比減少制御として、公知の変速比制御が採用され得る。
【0040】
[振動抑制制御の具体例]
図3は、図1に記載した車両用駆動システムの作用を示すタイムチャートである。同図は、図2に記載したエコラン走行中におけるエンジン再始動時の振動抑制制御の実施例を示している。以下、この実施例について、図1〜図3を参照しつつ説明する。
【0041】
t=0では、車両走行中にて、エンジン停止条件(ステップST01〜ステップST03の肯定判定)が成立する状態にある。具体的には、アクセルペダルがOFF状態にあり(ステップST01の肯定判定)、また、ブレーキペダルが踏み込まれた状態にある(ステップST03の肯定判定)(図3(f)参照)。また、車速Vが所定の閾値V1に対してV≧V1の関係にあり、また、走行路の勾配Gが所定の閾値G1に対して|G|≦G1の関係にある(ステップST02の肯定判定)。
【0042】
また、クラッチ油圧がON状態にあり、クラッチ4が係合状態にある(図3(b)参照)。また、シフトポジションが車両の走行状態(例えば、車速V)に応じた成り行き位置にあり、また、変速比γがこのシフトポジションに応じた変速段にある(図3(c)参照)。このため、エンジンブレーキにより車両が減速状態にあり(図3(d)参照)、エンジン回転数Neがアイドリング時の回転数にある(図3(a)参照)。また、トルクコンバータ3のタービン回転数Ntおよび変速機5のインプット回転数Ninが車両走行状態に応じた成り行き回転数にある。
【0043】
t=t1では、制御装置7のECU71(エコラン制御部711)は、センサユニット72の出力値に基づいて所定のエンジン停止条件が成立したことを判定すると(ステップST01〜ステップST03の肯定判定)、クラッチ油圧をOFFにしてクラッチ4を開放状態とする(ステップST04)(図3(b)参照)。すると、トルクコンバータ3のタービン32がインペラ31と連れ回ることにより、タービン回転数Ntが上昇してエンジン回転数Neに近づいていく。
【0044】
また、ECU71は、このクラッチ4の開放開始をトリガーとして、変速比γを増加させる制御を行う(ステップST05)(図3(c)参照)。このとき、ECU71は、アイドリング時のエンジン回転数Neを目標値として設定して、変速機5のインプット回転数Ninを制御する。これにより、インプット回転数Ninがアイドリング時のエンジン回転数Neに同期する(図3(a)参照)。なお、この実施例では、変速機5が無段変速機であるため、変速比γの変更(ステップST05)が連続的かつ滑らかに行われている。これにより、ドライバーに与える違和感が低減されている。
【0045】
t=t2〜t3では、エコラン走行が行われる。具体的には、ECU71が、エンジン2への燃料供給を遮断してエンジン2を停止させる(ステップST06)。また、ECU71は、ブレーキペダルが踏み込まれた状態にあること(ステップST07の否定判定)を条件として、この制御を継続する。これにより、エンジン2が駆動不要な状態にあるときの燃料消費量が低減されて、車両の燃費が向上する。そして、ECU71は、ブレーキペダルの踏み込み解除(ステップST07の肯定判定)を条件として、エンジン2への燃料供給を再開してエンジン2を再始動させる(ステップST08)。その後、t=t3では、エンジン回転数Neがアイドリング時の回転数に安定する(図3(a)参照)。
【0046】
t=t4では、ECU71は、クラッチ油圧をONにしてクラッチ4を係合状態とする(ステップST09)(図3(b)参照)。このとき、インプット回転数Ninがエンジン回転数Neに同期しているので(図3(a)参照)、クラッチ係合時における振動の発生が抑制され(図3(d)参照)、また、クラッチの発熱が低減される(図3(e)参照)。なお、インプット回転数Ninがエンジン回転数Neに同期していない場合には、タービン回転数Ntとインプット回転数Ninとの不整合により振動が発生して、好ましくない(図3(a)の従来例参照)。
【0047】
また、ECU71は、このクラッチ4の係合開始をトリガーとして、変速比γを減少させる制御を行う(ステップST10)(図3(c)参照)。このとき、ECU71は、現在のシフト装置のシフトポジションあるいは車両の走行状態に応じた適正な回転数Nin_tを目標値として設定して、変速機5のインプット回転数Ninを制御する(図3(a)参照)。これにより、変速機5の変速比が適正化されて、ドライバビリティが向上する。また、この実施例では、変速機5が無段変速機であるため、変速比γの変更(ステップST10)が連続的かつ滑らかに行われている。これにより、ドライバーに与える違和感が低減されている。なお、クラッチの係合後にも、変速比γが増加したままの状態(図3(c)の比較例参照)では、インプット回転数Ninがエンジン回転数Neに同期しているため、車両の加速度が不足する(あるいは減速度が過大となる)おそれがある(図3(d)の比較例参照)。すると、ドライバーに違和感を与えるおそれがあり、好ましくない。
【0048】
なお、この実施例では、変速機5としてベルト式の無段変速機が採用されている(図1参照)。しかし、これに限らず、変速機5としてトロイダル式の無段変速機が採用されても良いし、有段の変速機が採用されても良い(図示省略)。また、有段の変速機が採用される場合には、変速比γを増加させる制御(ステップST05)にて、インプット回転数Ninがアイドリング時のエンジン回転数Neに最も近くなるように変速段が選択されて、変速比制御が行われる。
【0049】
[効果]
以上説明したように、この車両用駆動システム1は、車両走行中にて、所定のエンジン停止条件の成立によりエンジン2を停止させる(ステップST01〜ステップST03の肯定判定およびステップST06)と共に、所定のエンジン再始動条件の成立によりエンジン2を再始動させる(ステップST07の肯定判定およびステップST08)エコラン制御を行う(図2参照)。また、エンジン2からの駆動力を変速して出力する変速機5と、エンジン2から変速機5への駆動力の伝達を係合状態にて許容すると共に開放状態にて遮断するクラッチ4と、変速機5およびクラッチ4を制御する制御装置7とを備える(図1参照)。そして、制御装置7は、車両走行中であってエンジン停止条件が成立してクラッチ4を係合状態から開放状態に切り替えるときに(ステップST01〜ステップST03の肯定判定およびステップST04)、変速機5の変速比γを増加させる変速比増加制御を行う(ステップST05)(図3(c)参照)。
【0050】
かかる構成では、エコラン制御時にてクラッチ4を開放状態とするときに(ステップST04)、変速機5の変速比γを増加(変速段をロー側に移行)させる制御が行われる(ステップST05)(図2および図3(c)参照)。すると、変速機5のインプット回転数Ninがエンジン回転数Neに近づくので(図3(a)参照)、エンジン2を再始動してクラッチ4を係合状態とするときに(ステップST08およびステップST09)、インプット回転数Ninとエンジン回転数Neとの差によって発生する振動が緩和され、また、クラッチ係合時の発熱が抑制される(図3(a)および(e)参照)。これにより、車両のドライバビリティが向上し、また、クラッチ4の耐久性が向上する利点がある。
【0051】
また、この車両用駆動システム1では、制御装置7は、変速比増加制御(ステップST05)にて、エンジン2の再始動後にクラッチ4を係合状態とするとき(ステップST08およびステップST09)のエンジン回転数Neを目標値として、変速機5のインプット回転数Ninを制御する(図3(a)および(c)参照)。かかる構成では、インプット回転数Ninとエンジン回転数Neとが同期するので、インプット回転数Ninとエンジン回転数Neとの差によって発生する振動が効果的に緩和される利点がある(図3(a)参照)。
【0052】
また、この車両用駆動システム1では、制御装置7は、エンジン再始動条件が成立してクラッチ4を開放状態から係合状態に切り替えるときに(ステップST07の肯定判定およびステップST09)、変速機5の変速比γを減少させる変速比減少制御を行う(ステップST10)(図2および図3(c)参照)。かかる構成では、クラッチ4を再び係合状態とするときに、上記の変速比増加制御(ステップST05)により増加した変速比γが戻される(ロー側に移行した変速段がハイ側に戻される)。これにより、変速機5の変速比γが適正化されて、ドライバビリティが向上する利点がある(図3(d)参照)。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上のように、この発明にかかる車両用駆動システムは、エコラン走行中のエンジン再始動時にてクラッチを開放状態から係合状態に切り替えるときに発生する振動を抑制できる点で有用である。
【符号の説明】
【0054】
1 車両用駆動システム、2 エンジン、3 トルクコンバータ、31 インペラ、32 タービン、4 クラッチ、41 入力側回転部、42 出力側回転部、5 変速機、51 入力側回転部、52 出力側回転部、6 減速差動装置、61 入力軸、62 出力軸、7 制御装置、71 ECU、711 エコラン制御部、712 エンジン制御部、713 クラッチ制御部、714 変速機制御部、715 記憶部、72 センサユニット、721 アクセル開度センサ、722 車速センサ、723 勾配センサ、724 ブレーキセンサ、11R、11L 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両走行中にて、所定のエンジン停止条件の成立によりエンジンを停止させると共に、所定のエンジン再始動条件の成立によりエンジンを再始動させるエコラン制御を行う車両用駆動システムであって、
エンジンからの駆動力を変速して出力する変速機と、前記エンジンから前記変速機への駆動力の伝達を係合状態にて許容すると共に開放状態にて遮断するクラッチと、前記変速機および前記クラッチを制御する制御装置とを備え、且つ、
前記制御装置は、車両走行中であって前記エンジン停止条件が成立して前記クラッチを係合状態から開放状態に切り替えるときに、前記変速機の変速比を増加させる変速比増加制御を行うことを特徴とする車両用駆動システム。
【請求項2】
前記エンジン側にある前記変速機の回転部の回転数をインプット回転数と呼ぶときに、 前記制御装置は、前記変速比増加制御にて、前記エンジンの再始動後に前記クラッチを係合状態とするときのエンジン回転数を目標値として、前記変速機のインプット回転数を制御する請求項1に記載の車両用駆動システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記エンジン再始動条件が成立したときに、前記クラッチを開放状態から係合状態に切り替えると共に前記変速機の変速比を減少させる変速比減少制御を行う請求項1または2に記載の車両用駆動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−91592(P2012−91592A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238934(P2010−238934)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】