説明

車両発進補助制御システム

【課題】運転者が違和感を覚えない車速での発進と発進後の車速を時間経過と共に運転者の意図する速さへと制御すること。
【解決手段】自車のいる路面の勾配を検出又は推定し、その勾配と発進からの経過時間又は運転者のアクセル操作からの経過時間とに応じて制動力制御による停車保持状態からの発進時の目標車速を設定し、その発進時に前記目標車速となるように動力源等の駆動装置や制動装置を制御して車速制御を行うこと。その目標車速については、降坂路で停車保持状態から発進させる場合、自重による加速度を抑える速さに設定すればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両発進時の運転者の発進操作を助ける車両発進補助制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両発進時に運転者の意図せぬ車両の動きを抑えることで運転者の発進操作を助ける車両発進補助制御システムが知られている。例えば、下記の特許文献1には、路面の傾斜速度を傾斜センサで検出し、発進時にその傾斜角度に応じてブレーキ量やアクセル量を制御するゴルフカートについて記載されている。このゴルフカートにおいては、ブレーキ量を坂道の傾斜角度に応じて変化させる。そのブレーキ量は、急勾配であるほど大きな値からゆっくりと緩め、勾配が平地に近いほど小さな値から早く緩めるように制御している。また、アクセル量については、登坂路が急勾配であるほど大きくなるよう制御し、降坂路が急勾配であるほど小さくなるよう制御する。尚、下記の特許文献2には、手動変速機を搭載した車両において、所謂ブレーキホールド機能のブレーキ圧保持制御による停車保持状態から発進する際に、勾配に応じてブレーキ圧の保持状態を制御することで発進性を高める技術が開示されている。ここでは、登坂路であればブレーキ圧を徐々に低下させ、降坂路であればブレーキ圧を急速に低下させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−198139号公報
【特許文献2】特開平10−329671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の技術においては、傾斜角度の情報を頼りにブレーキ量やアクセル量を制御して車速の制御を行うので、平坦路にならなければ発進後も同様の制御が継続される。これが為、この技術においては、運転者が発進後にアクセル操作で加速要求を行った場合でも、傾斜角度に応じた車速に制御されてしまうので、運転者の加速要求に応じた車速まで上昇させることができない。従って、この技術においては、例えば同じ傾斜角度のままの路面が続いている場合に、その傾斜角度に応じた車速を上限として定速走行を続けてしまう。更に、多くの運転者は、降坂路発進の際にブレーキペダルから完全に足を離すことはせず、そろりと発進させるように、ブレーキペダルを操作して車速を低速に抑える傾向にある。何故ならば、降坂路で発進する際には、車両に作用している重力加速度によって運転者の意図する以上の発進加速となる虞があるからである。また、そのような低速発進を望む運転者であっても、発進後には、車速の上昇を望むものであり、徐々に車速を上昇させたいが為に、ブレーキペダルから完全に足を離し、アクセルペダルを踏み込み始める傾向にある。
【0005】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、運転者が違和感を覚えない範囲内の車速で車両を発進させ、発進後の車速を時間経過と共に運転者の意図する速さへと制御することが可能な車両発進補助制御システムを提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する為、本発明は、自車のいる路面の勾配を検出又は推定する勾配情報取得装置と、前記勾配と発進からの経過時間又は運転者の発進操作からの経過時間とに応じて制動力制御による停車保持状態からの発進時の目標車速を設定する目標車速設定装置と、前記発進時に前記目標車速となるように車速制御を行う車速制御装置と、を備えることを特徴としている。
【0007】
また、上記目的を達成する為、本発明は、自車のいる路面の勾配を検出又は推定する勾配情報取得装置と、前記勾配と発進からの経過時間又は運転者の発進操作からの経過時間とに応じて制動力制御による停車保持状態からの発進時の目標車速を時間毎に設定する目標車速設定装置と、前記発進時に前記目標車速となるように車速制御を行う車速制御装置と、を備えることを特徴としている。
【0008】
ここで、前記目標車速設定装置は、降坂路で停車保持状態から発進させる場合、前記目標車速を自重による加速度を抑える速さに設定することが望ましい。
【0009】
また、前記目標車速設定装置は、降坂路で停車保持状態から発進させる場合、平坦路での停車保持制御中の発進時と比べて、発進の際の目標加速度が小さく、且つ、時間の経過と共に目標加速度が徐々に大きくなる前記目標車速を設定することが望ましい。
【0010】
また、前記目標車速設定装置は、前記目標車速を前記勾配が大きいほど低くすることが望ましい。
【0011】
更に、上記目的を達成する為、本発明は、自車のいる路面の勾配を検出又は推定する勾配情報取得装置と、前記路面が降坂路の場合、前記勾配と発進からの経過時間とに応じて制動力制御による停車保持状態からの発進時の目標制動力を自重による加速度を抑える制動力へと設定する際に、該目標制動力を発進からの時間の経過と共に弱めるよう設定する目標制動力設定装置と、前記発進時に前記目標制動力となるように制動力制御を行う制動制御装置と、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る車両発進補助制御システムは、停車保持状態から発進させる際に、路面の勾配だけでなく、発進からの経過時間も考慮して時間毎の目標車速を設定するので、運転者が違和感を覚えない加速度及び車速で車両を発進させることができる。例えば、降坂路で停車保持状態から発進させる場合には、自重による加速度を抑えた加速度及び車速で緩やかに発進させることができるので、運転者が違和感を覚えない発進が可能になる。また、この車両発進補助制御システムは、発進からの時間の経過に合わせて目標車速を設定できるので、発進後に同等の勾配の路面が続いていたとしても、その勾配と経過時間に応じた車速へと変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に係る車両発進補助制御システムが適用される車両の一例を示す図である。
【図2】図2は、目標車速の設定マップの一例を示す図である。
【図3】図3は、目標車速の設定マップの他の例を示す図である。
【図4】図4は、降坂路で停車保持状態から発進させる際の車両発進補助制御システムの動作を説明するフローチャートである。
【図5】図5は、図4の車速制御について具体的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る車両発進補助制御システムの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
[実施例]
本発明に係る車両発進補助制御システムの実施例を図1から図5に基づいて説明する。
【0016】
この車両発進補助制御システムは、車両発進時に運転者に車速の過不足という違和感を覚えさせないようにすることが可能なものであり、運転者の意図する範囲内の適切な車速で発進させることによって運転者の発進操作を補助する。つまり、この車両発進補助制御システムは、車両発進時の車速を適切な速度に制御することによって、運転者による無用なブレーキ操作やアクセル操作の抑制を可能にし、運転者の発進操作を助けるというものである。
【0017】
最初に、この車両発進補助制御システムが適用される車両の一例について説明する。ここでは、図1に示すFR(フロントエンジン・リアドライブ)車を例示する。この車両10は、図1に示す電子制御装置(ECU)1によって制御されるものとする。
【0018】
この車両10の駆動装置は、車両10に駆動力を働かせる為のものであり、駆動トルクを発生させる動力源20と、その駆動トルクを駆動輪Wrl,Wrrに伝える変速機31等の動力伝達部と、を備える。その動力源20は、電子制御装置1に制御されて目標駆動トルクを出力する。また、ここで例示する変速機31は、有段又は無段の自動変速機であり、電子制御装置1によって変速段又は変速比が制御される。
【0019】
その動力源20には、熱エネルギを変換した機械エネルギが動力となる機械動力源と電気エネルギを変換した機械エネルギが動力となる電気動力源の内の少なくとも一方を利用する。機械動力源とは、出力軸(クランクシャフト)から機械的な動力(エンジントルク)を出力するエンジンのことであり、内燃機関や外燃機関等が考えられる。また、電気動力源とは、出力軸(ロータ)から機械的な動力(モータトルク)を出力するモータ、力行駆動可能なジェネレータ又は力行及び回生の双方の駆動が可能なモータ/ジェネレータの内の何れかのことを云う。この例示においては、エンジンを動力源20とする。
【0020】
電子制御装置1は、その動力源20の目標駆動トルクの制御と変速機31の変速段(変速比)の制御の内の少なくとも1つを行い、これにより駆動輪Wrl,Wrrの駆動力を制御して車速を調整することができる。例えば、この電子制御装置1は、運転者のアクセルペダル41の踏み込み量(以下、「アクセル操作量」という。)と現在の車速と変速機31の現在又は変速後の変速段(変速比)に基づいて動力源20の目標駆動トルクを設定する。そのアクセル操作量は、例えばアクセル開度のことであり、アクセル開度センサ等のアクセル操作量検出部42によって検出する。車速は、車速検出装置によって検出する。ここでは、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrにおける車輪速度センサ等の車輪速度検出部51fl,51fr,51rl,51rrで検出した車輪速度に基づいて車速を推定する。電子制御装置1は、その目標駆動トルクを実現させるべく、スロットルバルブ43の開度等を制御する。そのスロットルバルブ43のスロットル開度は、スロットル開度センサ等のスロットル開度検出部44で検出できる。
【0021】
次に、この車両10に制動力を働かせる制動装置について説明する。この制動装置は、運転者が操作するブレーキペダル61と、このブレーキペダル61に入力されたペダル踏力を倍化させる制動倍力部(ブレーキブースタ)62と、この制動倍力部62により倍化されたペダル踏力をブレーキ液の液圧(油圧)へと変換するマスタシリンダ63と、その変換された油圧を各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrr毎に調節可能な油圧調節部(以下、「ブレーキアクチュエータ」という。)64と、このブレーキアクチュエータ64を経た油圧が各々供給されて夫々の車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに制動力を発生させるキャリパやロータ等からなる制動部65fl,65fr,65rl,65rrと、を備えている。
【0022】
電子制御装置1は、ブレーキアクチュエータ64を制御することによって、運転者のブレーキペダル61の踏み込み操作の有無に拘わらず、夫々の車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに対して各々大きさの異なる制動力を発生させることができる。これが為、この電子制御装置1は、そのブレーキアクチュエータ64の制御によって、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの制動力を制御して車速を調整することができる。
【0023】
また、この車両10には、制動力制御により車両10の停車状態を保持する停車保持装置が設けられている。この停車保持装置とは、所謂ブレーキホールド機能を為す装置であり、運転者がブレーキペダル61から足を離しても停車状態を保たせることのできるものである。この停車保持装置には、制動装置、特にブレーキアクチュエータ64や制動部65fl,65fr,65rl,65rr等を利用する。停車保持制御装置として働く電子制御装置1は、ブレーキアクチュエータ64を制御することによって停車保持制御を行う。その際、車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrには、停車状態の保持が可能になる大きさの制動力を発生させる。
【0024】
例えば、車室内には、停車保持制御の実行要否を運転者に切り替えさせる切替スイッチ等の如き停車保持制御切替部が設けられている。電子制御装置1は、その停車保持制御切替部から制御オン信号を受信した停車保持制御オン状態ならば、所定の停車保持条件が成立したときに停車保持制御を実行する。その停車保持条件とは、例えば停車保持制御オン状態のときの車両10の停止時である。電子制御装置1は、停車保持制御オン状態のときに運転者のブレーキペダル61の踏み込み操作に伴い車両10が停止すると、ブレーキアクチュエータ64を制御して停車状態を保持させる。これにより、車両10は、運転者がブレーキペダル61から足を離しても停車状態を保つことができる。
【0025】
ところで、その停車保持状態でアクセルペダル41が踏み込まれた場合には、アクセル操作量検出部42からの信号を受信した電子制御装置1がブレーキアクチュエータ64の制御により停車保持制御を解除し、車両10の発進を可能にさせる。
【0026】
その発進の際に自車のいる路面が平坦路であるならば、車両10は、その信号の受信に伴い停車保持制御における制動力を素早く減少させ、運転者のアクセル操作量に応じた目標駆動トルクを動力源20から出力させたとしても、運転者にとって違和感のない、そして、アクセル操作という運転者の発進操作の意思に沿った車速で発進する。しかしながら、その路面が降坂路の場合には、その勾配が大きいほど大きな自車の重量による加速度が加わるので、運転者の想定外の大きな加速度で発進し、車速が運転者の想定していない車速にまで上昇する。
【0027】
ここで、その停車保持状態からの発進の際には、運転者の発進の意思を判定する為に、或る程度までアクセルペダル41が踏み込まれたときに停車保持制御を解除させることが好ましい。これが為、そのようなときには、アクセル操作量が少なくとも発進判定値まで大きくなっており、少なくともその発進判定用のアクセル操作量に応じた目標駆動トルクが動力源20から出力されることになる。従って、かかる発進判定値が設定されている場合には、少なくともその発進判定用のアクセル操作量に応じた目標駆動トルクによる加速度も加わるので、発進時の加速度が運転者の意思に反して更に大きくなってしまい、運転者の意図せぬ車速まで上昇してしまう可能性がある。
【0028】
運転者は、そのような意図せぬ加速度と車速での発進により、その車速を抑える為、発進後直ぐにブレーキペダル61を踏み込むことになる。特に、運転者は、降坂路において緩やかな発進を期待する傾向にあるので、そのような発進に違和感を覚え、ブレーキ操作で車速を抑える。従って、運転者にとっては、停車保持状態から発進させる際の操作が煩雑なものとなる。
【0029】
そこで、この車両10には、運転者が違和感を覚えない範囲内の加速度と車速で停車保持状態から発進させ、その後の車速を時間経過と共に運転者の意図する速さへと制御することが可能な車両発進補助制御システムを設ける。
【0030】
この車両発進補助制御システムは、目標車速設定装置、勾配情報取得装置及び車速制御装置を備える。
【0031】
目標車速設定装置は、電子制御装置1に設けている。この目標車速設定装置は、少なくとも発進から所定時間が経過するまでの目標車速を設定し、その間の実際の車速と加速度が運転者の意思に沿ったものとなるようにする。その目標車速は、発進からの経過時間に応じたものとする。また、降坂路においては、前述したように、自車の重量が加速度の大きさに影響を与え、車速を上昇させる。その影響度合いは、自車のいる路面の勾配に応じて変化する。従って、目標車速設定装置には、発進からの経過時間だけでなく、その路面の勾配も考慮して目標車速を設定させる。故に、この車両発進補助制御システムにおいては、停車保持状態から発進させる際に、路面の勾配だけでなく、発進からの経過時間も考慮して時間毎の目標車速を設定することができるので、運転者が違和感を覚えない加速度及び車速で車両を発進させることが可能になる。また、この車両発進補助制御システムは、発進からの時間の経過に合わせて目標車速を設定できるので、発進後に同等の勾配の路面が続いていたとしても、その勾配と経過時間に応じた車速へと変化させることができる。ここで、この目標車速設定装置は、発進後、特に運転者がアクセルペダル41を踏み込み始めてからの目標車速についての設定も可能である。その目標車速についても、路面の勾配と運転者のアクセル操作(発進操作)からの経過時間とに応じて設定するのであるが、より運転者の意思を反映させるべくアクセル操作量も考慮に入れることが望ましい。これにより、運転者は、アクセル操作後も違和感を覚えない。
【0032】
本実施例においては、予め目標車速の設定マップを用意しておき、その設定マップに基づいて目標車速設定装置に目標車速を設定させる。その設定マップは、図2に示すように、平坦路での停車保持制御中の発進時と比べて、発進の際の目標加速度が小さく設定され、時間の経過と共に目標加速度を徐々に大きくしながら目標車速が徐々に高く設定されるようになっている。ここで示す平坦路における目標車速は、運転者のアクセル操作量に応じたものであり、一定の加速度で車速が上昇していく状態を例に挙げている。これにより、降坂路での停車保持制御中の発進時には、平坦路での停車保持制御中の発進時と比べて、発進の際に緩やかに車両10が動きだし、緩やかな加速度の増加と共に車速が上昇していく。従って、車両10は、自重の加速度による運転者の望まぬ過度の加速度の増加や過度の車速上昇を回避できる。
【0033】
ここで、この降坂路用の設定マップは、図3に示すように、発進からの経過時間が同じ場合、路面の勾配が大きいほど目標車速が低く設定されるようにしてもよい。この設定マップに依れば、車両10は、降坂路が急勾配であるほど緩やかに発進する。これにより、大きさの異なる勾配であるにも拘わらず同じ車速で発進することに違和感を覚える運転者に対して、より違和感の少ない車速及び加速度で車両10を発進させることができる。
【0034】
これらの降坂路用の設定マップは、平坦路よりも緩やかに発進させるときのものである。換言するならば、降坂路用の設定マップは、自重による加速度を抑える目標車速、より好ましくは自重による加速度を相殺させる目標車速となるものであればよい。例えば、この降坂路用の設定マップは、自重による加速度を少しでも相殺できればよいので、上記の図2に一点鎖線で示す平坦路での停車保持制御中の発進時と同等のものにしてもよい。このような設定マップであっても、車両10は、自重の加速度による過度の加速度の増加や過度の車速上昇を回避できる。
【0035】
勾配情報取得装置は、路面の勾配を検出又は推定して、その勾配の情報を目標車速設定装置に伝えるものである。この勾配情報取得装置は、自車のいる路面の勾配を検出又は推定する勾配取得部52を備える。その勾配取得部52には、例えば車両前後加速度の検出を行う前後加速度センサを利用する。勾配情報取得装置においては、その検出された車両前後加速度を勾配推定部としての電子制御装置1に送信し、その勾配推定部で車両前後加速度に基づいて路面の勾配を推定する。
【0036】
車速制御装置は、電子制御装置1に設けている。この車速制御装置は、設定された目標車速となるように車両10を制御する。ここでは、前述した駆動装置や制動装置を車速調整の際に用いる。これが為、車速制御装置には、その駆動装置等を制御させて、目標車速となるように車速制御を実行させる。
【0037】
次に、この車両発進補助制御システムにおける停車保持状態からの発進時の動作について図4のフローチャートに基づき説明する。
【0038】
先ず、電子制御装置1は、停車保持制御中であるのか否かを判定し(ステップST1)、停車保持制御が実行されていなければ、この演算処理動作を一旦終わらせる。
【0039】
停車保持制御が実行中との判定の場合、電子制御装置1は、自車のいる路面の勾配の情報を取得する(ステップST2)。
【0040】
電子制御装置1は、車両10の発進指示が為されているのか否かを判定し(ステップST3)、発進指示を検知するまでステップST2の演算処理とステップST3の判定処理を繰り返す。そのステップST3においては、アクセル操作量検出部42からの信号の受信を契機にして発進指示と判断させる設定にしてもよく、前述したように発進判定用のアクセル操作量が検出されたときに発進指示と判断させる設定にしてもよい。
【0041】
電子制御装置1は、発進指示を検知した後、ステップST2で取得した路面の勾配の情報に基づいて降坂路であるのか否かの判定を行う(ステップST4)。
【0042】
降坂路との判定結果であれば、電子制御装置1は、降坂路における停車保持状態からの発進時の車速制御を実行する(ステップST5)。
【0043】
具体的に、電子制御装置1は、図5のフローチャートに示すように、例えば図2に示す降坂路用の設定マップを記憶装置(図示略)から読み込み、発進から所定時間が経過するまでの時間毎の目標車速を設定する(ステップST5A)。その所定時間については、例えば目標車速が図2に示す制御上限車速となる時間とする。その制御上限車速とは、この車速制御を終了させる車速の上限値である。この制御上限車速は、例えば、それ以降運転者のアクセル操作量に応じた駆動力で走行させてもよいと判断可能な車速であり、自重による加速度が加わっても運転者に違和感を与えないと判断できる車速を設定する。
【0044】
ここでは、PD制御やPID制御等のフィードバック制御によって、目標車速への車速制御を実行させる。従って、電子制御装置1は、その所定時間が経過するまで目標車速と実際の車速との偏差を演算し(ステップST5B)、その偏差に基づいて目標車速となるように制駆動力制御を行う(ステップST5C)。その制駆動力制御は、ブレーキアクチュエータ64の制御による制動力の制御と駆動装置(特に動力源20)の制御による駆動力の制御の内の少なくとも一方を行うことで実行する。例えば、発進の際には、目標車速が維持できるように制動力を少量ずつ徐々に減少させる。これにより、車両10が緩やかに発進し始める。そして、その後、電子制御装置1は、実際の車速が目標車速を上回ったならば、制動力を増加又は駆動力を減少させて目標車速となるように制御する。一方、この電子制御装置1は、実際の車速が目標車速を下回ったならば、制動力を減少又は駆動力を増加させて目標車速となるように制御する。
【0045】
この車速制御と共に、電子制御装置1は、実際の車速が制御上限車速に達したのか否かの判定を行っている(ステップST6)。この判定の結果、未だ制御上限車速に達していなければ、電子制御装置1は、上記の車速制御を繰り返す。
【0046】
一方、この電子制御装置1は、制御上限車速に達したのならば、この車速制御を終了させる(ステップST7)。そして、この電子制御装置1は、ブレーキアクチュエータ64の制御によって制動力を徐々に0まで減少させると共に、駆動装置の制御によって運転者のアクセル操作量に応じた駆動力制御を行う(ステップST8)。
【0047】
このように、この車両発進補助制御システムにおいては、降坂路における停車保持状態からの発進の際、車両10を緩やかに発進させることができ、更に、その発進から所定時間が経過するまでの間、過剰な加速度や車速とならぬように車速制御を行っている。つまり、この車両発進補助制御システムは、運転者が違和感を覚えない範囲内の加速度と車速で車両10を降坂路の停車保持状態から発進させることができる。
【0048】
また、この車両発進補助制御システムは、実際の車速が制御上限車速に達した際に、その車速制御を終わらせて、制動力を徐々に0まで減少させると共に運転者のアクセル操作量に応じた駆動力制御を行うので、その後、運転者のアクセル操作という意思に沿った車速へと制御することができる。これが為、この車両発進補助制御システムにおいては、発進してから所定時間が経過した後にそのまま降坂路が続いていた場合でも、運転者の意思に沿った車速での走行が可能になる。
【0049】
ここで、上記ステップST4で降坂路ではない(登坂路又は平坦路)との判定が為された場合、電子制御装置1は、上記ステップST8に進む。これにより、この場合には、停車保持制御が終了され、且つ、運転者のアクセル操作量に応じた駆動力による車速での走行が可能になる。
【0050】
ところで、停車保持制御は、上述した例示では運転者のアクセル操作によって解除させるが、例えば運転者による車室内のスイッチや釦等の操作部の操作を契機にして解除させることもできる。この場合、その操作部の操作が発進操作となり、その際の路面が降坂路のときには、アクセル操作が為されずとも車両10が自重により又は/及びクリープ現象により発進することも有り得る。これが為、この車両発進補助制御システムにおいては、その操作部の操作に伴う信号が受信されたならばステップST3で発進指示と判定させ、ステップST4で降坂路と判定されたときにステップST5の車速制御を実行させてもよい。その車速制御の際、目標車速設定装置には、路面の勾配と発進からの経過時間又は運転者の操作部の操作(発進操作)からの経過時間とに応じて目標車速を設定させる。運転者の発進操作時と車両の発進時とは概ね一致するが、例えば、下り勾配が緩やかなときには発進操作時よりも少し遅れて車両が発進することがあるので、目標車速については、その勾配に応じて発進からの経過時間又は運転者の発進操作からの経過時間の内の何れかを用いて設定してもよい。このような車両10であっても、車両発進補助制御システムは、先の例示と同様の効果を得ることができる。
【0051】
また、上述した例示では車両10に停車保持装置を搭載しているが、車両発進補助制御システムは、停車保持装置の搭載されていない車両に適用しても先の例示と同様の効果を得ることができる。かかる車両を停車状態又は駐車状態から発進させる場合には、運転者がブレーキペダルから足を離す操作又は駐車ブレーキ(所謂パーキングブレーキ)の解除操作を行う。その発進の際の路面が降坂路のときには、アクセル操作が為されずとも車両が自重により又は/及びクリープ現象により発進することも有り得る。これが為、そのブレーキペダルから足を離す操作や駐車ブレーキの解除操作は、運転者による車両の発進操作と云える。故に、この車両発進補助制御システムにおいては、その発進操作に伴う信号が受信されたならばステップST3で発進指示と判定させ、ステップST4で降坂路と判定されたときにステップST5の車速制御を実行させてもよい。その車速制御の際、目標車速設定装置には、路面の勾配と発進からの経過時間又は運転者の発進操作からの経過時間とに応じて目標車速を設定させる。
【0052】
更に、上述した停車保持状態から発進させる際の車速制御については、降坂路だけでなく、平坦路や登坂路において利用してもよい。例えば、平坦路等であっても、停車保持制御中の自車の前方に他の車両が存在している場合には、運転者のアクセル操作に応じた要求加速度よりも緩やかに発進させる方が好ましい。これが為、降坂路と同様の加速度及び車速の変化を示す目標車速の設定マップを平坦路や登坂路のものとして用意し、その場合の発進時に備えさせてもよい。
【0053】
また、登坂路においては、車両10に自重による勾配に応じた減速度が加わるので、発進時の加速度が運転者の意思に反して小さくなってしまい、運転者の意図する車速まで上昇しない可能性がある。これが為、そのときには、車速を上げる為、運転者が発進後直ぐにアクセルペダル41を踏み増すこともあり、発進時の操作が煩雑なものとなる。このことに対応させるべく、登坂路用の設定マップは、自重の減速度による加速度の減少を補填できるものにしてもよい。この登坂路用の設定マップは、例えば、上記の図2に一点鎖線で示す平坦路での停車保持制御中の発進時と同等のものにしてもよい。これにより、登坂路での停車保持制御中の発進時には、運転者のアクセル操作量に応じたものよりも大きな駆動力が発生するので、自重の減速度による運転者の望まぬ加速度の減少や車速低下を抑制できるようになる。このときにも制御上限車速を設定しておくことで、車両10は、発進してから所定時間が経過すると、運転者の意思に沿った車速で走行できるようになる。
【0054】
更に、停車保持制御における目標制動力を調整して車速制御を行ってもよい。例えば、降坂路の場合、目標制動力設定装置には、停車保持状態からの発進時の目標制動力を勾配と発進からの経過時間とに応じて自重による加速度を抑える制動力に設定させればよい。つまり、この場合には、その目標制動力への制動力制御を制動制御装置に実行させることによって、先の例示と同様の目標車速が実現されるようにすればよい。その際、目標制動力は、発進からの時間の経過と共に弱めるように設定する。また、運転者がブレーキペダル61から完全に足を離していなければ、この運転者のブレーキ操作による制動力も考慮に入れて目標制動力の設定を行う。これにより、車両10は、緩やかに発進し始める一方、時間の経過と共に車速を上げることができ、運転者のブレーキ操作やアクセル操作に応じた車速で走行できる。尚、目標制動力設定装置や制動制御装置は、電子制御装置1の一機能として用意されている。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上のように、本発明に係る車両発進補助制御システムは、運転者が違和感を覚えない範囲内の車速で車両を発進させ、発進後の車速を時間経過と共に運転者の意図する速さへと制御させる技術に有用である。
【符号の説明】
【0056】
1 電子制御装置
10 車両
20 動力源
31 変速機
42 アクセル操作量検出部
51fl,51fr,51rl,51rr 車輪速度検出部
52 勾配取得部
64 ブレーキアクチュエータ
65fl,65fr,65rl,65rr 制動部
Wfl,Wfr,Wrl,Wrr 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車のいる路面の勾配を検出又は推定する勾配情報取得装置と、
前記勾配と発進からの経過時間又は運転者の発進操作からの経過時間とに応じて制動力制御による停車保持状態からの発進時の目標車速を設定する目標車速設定装置と、
前記発進時に前記目標車速となるように車速制御を行う車速制御装置と、
を備えることを特徴とした車両発進補助制御システム。
【請求項2】
自車のいる路面の勾配を検出又は推定する勾配情報取得装置と、
前記勾配と発進からの経過時間又は運転者の発進操作からの経過時間とに応じて制動力制御による停車保持状態からの発進時の目標車速を運転者に違和感を与えない速さに設定する目標車速設定装置と、
前記発進時に前記目標車速となるように車速制御を行う車速制御装置と、
を備えることを特徴とした車両発進補助制御システム。
【請求項3】
前記目標車速設定装置は、降坂路で停車保持状態から発進させる場合、前記目標車速を自重による加速度を抑える速さに設定することを特徴とした請求項1又は2に記載の車両発進補助制御システム。
【請求項4】
前記目標車速設定装置は、降坂路で停車保持状態から発進させる場合、平坦路での停車保持制御中の発進時と比べて、発進の際の目標加速度が小さく、且つ、時間の経過と共に目標加速度が徐々に大きくなる前記目標車速を設定することを特徴とした請求項1又は2に記載の車両発進補助制御システム。
【請求項5】
前記目標車速設定装置は、前記目標車速を前記勾配が大きいほど低くすることを特徴とした請求項3又は4に記載の車両発進補助制御システム。
【請求項6】
自車のいる路面の勾配を検出又は推定する勾配情報取得装置と、
前記路面が降坂路の場合、前記勾配と発進からの経過時間とに応じて制動力制御による停車保持状態からの発進時の目標制動力を自重による加速度を抑える制動力へと設定する際に、該目標制動力を発進からの時間の経過と共に弱めるよう設定する目標制動力設定装置と、
前記発進時に前記目標制動力となるように制動力制御を行う制動制御装置と、
を備えることを特徴とした車両発進補助制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−230551(P2011−230551A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100109(P2010−100109)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】