説明

軌道位置ずれ検出装置,組成分析装置,荷電粒子ビームの軌道調整方法

【課題】荷電粒子ビームの軌道の調整作業を容易化して調整精度を向上させることができる軌道位置ずれ検出装置,組成分析装置及び荷電粒子ビームの軌道調整方法を提供すること。また,エネルギー分解能や散乱粒子の取得効率を容易に変更することができる組成分析装置を提供すること。
【解決手段】絞り部31と超音波モータ32と駆動軸33とを備えて構成された開口状態変更装置30により,基準ビーム軸上の所定の位置に配置され荷電粒子ビームを通過させる開口部31aの開口径(開口状態)を変更可能とする。
また,上記開口部31aを通過した或いは該開口部31aから外れた上記荷電粒子ビームの強度を測定し,該荷電粒子ビームの強度に基づいて上記荷電粒子ビームの軌道と上記基準ビーム軸との位置ずれの有無を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,試料等の被照射物に照射される荷電粒子ビームの軌道の位置ずれを検出する軌道位置ずれ検出装置,及び荷電粒子ビームを試料等の被照射物に照射して,上記被照射物から散乱した散乱粒子のエネルギースペクトルを測定することにより上記被照射物の組成分析を行う組成分析装置,並びに上記組成分析装置に適用される荷電粒子ビームの軌道調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオンビーム等の荷電粒子ビームを利用した装置として,組成分析装置,ビーム加工装置,放射線治療装置等の種々の装置が知られている。このような装置においては,荷電粒子ビームの軌道の位置調整は,従来から,予め荷電粒子ビームの照射位置に置かれた蛍光板の発光箇所を目視確認しながら,或いは予め所定位置に配置された遮蔽板により荷電粒子ビームが遮られたかどうかを目視確認しながら行われている。具体的には,上記イオンビーム等の発生源であるビーム発生装置に備えられたビーム軌道調整機構を手動又は電動により操作(操縦)して,荷電粒子ビームの軌道を予め定められた基準ビーム軸に一致させるようイオンビームを水平移動或いは傾斜させることにより調整している。
【0003】
ここで,上記荷電粒子ビームを利用した典型的な装置の一例である試料分析装置Y(組成分析装置の一例)について,図7を用いて以下に説明する。なお,特許文献1には,上記試料分析装置Yと同様に構成されたイオン散乱分析装置が開示されている。
図7に示す試料分析装置Yは,大別すると,加速器Y1とその下方に配置された超電導スペクトロメータ部(以下「スペクトロメータ部」と略す)Y2とを備えて構成される。
上記加速器Y1は,ヘリウム等のイオンを生成するイオン源71と生成したイオンを加速させてイオンビームLとする加速管72とを備え,イオンビームLを上記スペクトロメータ部Y2に出射する。この出射されたイオンビームLは,イオンレンズ80や図示しない対物コリメータなどの光学系機器を介して上記スペクトロメータ部Y2に入射される。なお,上記加速器Y1には,イオンビームLの軌道を調整する周知のビーム軌道調整機構が設けられている。
上記スペクトロメータ部Y2は,測定室73(真空容器に相当)と,該測定室73内を通過するイオンビームLの入射方向の上流に向けてビーム軸に平行且つ均一な磁場(磁界)を上記測定室73の所定範囲内に発生させるソレノイドコイル75及び補正コイル76と,マグネットヨーク90と,磁極91と,測定室73内の磁場領域内のビーム入射方向上流側に配設されたアパーチャ77及び二次元検出器78とを具備して構成されている。
上記アパーチャ77は,上記イオンビームLをその入射方向に通過させると共に試料74(被照射物に相当)で散乱した散乱イオン(散乱粒子に相当)を上記イオンビームLの入射方向に対して反対方向に通過させる開口部77a(図7(b)参照)を中心部に有し,上記開口部77aを上記イオンビームLが本来通るべき予め定められたビーム軸(以下「基準ビーム軸」という)に一致させて配設されている。
また,上記二次元検出器78は,上記イオンビームLをその入射方向に通過させる開口部78a(図7(b)参照)を有し,この開口部78aを上記基準ビーム軸に一致させて配設されている。なお,上記磁場は,測定室73内に配設される試料74で弾性散乱した特定の散乱イオンの検出に必要とされる。
このような構成において,測定室73内に試料74を配設し,測定室73内を図示しないターボ分子ポンプ及びロータリポンプ等の排気手段により所定真空度に真空排気し,そして上記ソレノイドコイル75及び補正コイル76に励磁電流を印加して測定室73内に磁場を印加した状態で,上記加速器Y1から上記測定室73にイオンビームLを入射させる。イオンビームLは,二次元検出器78の開口部78a及びアパーチャ77の開口部77a,を通過して試料74に照射される。イオンビームLが照射された試料74からは散乱イオンHが発生し,この散乱イオンHは磁場によってサイクロトロン運動を行い,特定条件にある散乱イオンHのみがアパーチャ77の開口部77aを抜けて二次元検出器78に到達する。二次元検出器78で検出された散乱イオンHの検出出力は,図示しないアンプによって増幅され,マルチチャンネルアナライザ等によって計数(カウント)される。
【特許文献1】特開平7−190963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,荷電粒子ビームの軌道の上述の調整手法は,荷電粒子ビームの軌道が予め定められた基準ビーム軸上にあるかどうかを,荷電粒子ビームが照射された蛍光板等の照射状態を直接目視することによって確認しながら行うものであったため,その調整には許容範囲を超える誤差が生じ得る場合がある。この誤差は,ビームによる微細加工やイオンビームによる組成分析等の精度を低下させる要因となり,問題である。
また,上述した上記試料分析装置Y(図7)では,二次元検出器78,アパーチャ77,試料台79(載置台に相当)を収容配置する上記測定室73は,ソレノイドコイル75や補正コイル76などによりその周囲が取り囲まれているため,上記測定室73内部を目視観測することができず,荷電粒子ビームの軌道の調整が困難であった。
従って,本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり,その第1の目的とするところは,荷電粒子ビームの軌道の調整作業を容易化して調整精度を向上させることができる軌道位置ずれ検出装置,組成分析装置及び荷電粒子ビームの軌道調整方法を提供することにある。
【0005】
ところで,上記試料分析装置Y(図7)においては,上記アパーチャ77の開口部77aの開口寸法が,上記二次元検出器78による上記散乱イオンHの取得効率に大きく関係していることが周知である。具体的には,上記二次元検出器78による上記散乱イオンHの取得効率は,上記開口部77aの開口径の2乗に比例する。従って,上記開口部77aの開口径が二倍になると,上記二次元検出器78による上記散乱イオンHの取得効率は四倍になり,上記イオンビームLの照射時間を1/4に短縮することができる。但し,上記試料分析装置Yのエネルギー分解能(元素組成分析の深さ分解能)が低下するため,上記二次元検出器78による上記散乱イオンHの取得効率(収率)を,上記試料分析装置Yの使用目的や上記試料74などに応じて適宜変更する必要がある。しかしながら,従来の上記試料分析装置Yでは,上記開口部77aの開口寸法が一定であって可変ではないため,上記二次元検出器78による上記散乱イオンHの取得効率を変更するためには,上記アパーチャ77を交換するなどの煩雑な作業が必要であり,問題であった。
そこで,本発明の第2の目的とするところは,エネルギー分解能や散乱粒子の取得効率を容易に変更することができる組成分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記第1の目的を達成するために本発明は,荷電粒子ビーム発生源から出射され被照射物に照射される荷電粒子ビームの軌道と予め定められた基準ビーム軸との位置ずれを検出する軌道位置ずれ検出装置に適用されるものであって,上記基準ビーム軸上の所定の位置に配置され上記荷電粒子ビームを該荷電粒子ビームの入射方向に通過させる開口部の開口状態を変更する開口状態変更手段と,該開口状態変更手段により変更される上記開口部を通過した或いは該開口部から外れた上記荷電粒子ビームの強度を測定するビーム強度測定手段と,を備えてなり,該ビーム強度測定手段により測定された上記荷電粒子ビームの強度に基づいて上記荷電粒子ビームの軌道と上記基準ビーム軸との位置ずれの有無を検出するよう構成されている。ここに,上記開口部の開口状態とは,該開口部の開口径や開口面積などをいう。
このように構成された上記軌道位置ずれ検出装置を用れば,上記荷電粒子ビームを目視するのではなく,上記荷電粒子ビームの強度という客観的材料により該荷電粒子ビームの軌道と上記基準ビーム軸との位置ずれの有無が検出されるため,該荷電粒子ビームの軌道の調整作業を容易化することが可能となり,且つ,該荷電粒子ビームの軌道調整時の誤差が低減され得る。また,上記荷電粒子ビームの軌道が上記基準ビーム軸からずれた場合に,そのずれを容易に検知することが可能となる。
【0007】
ここで,上記ビーム強度測定手段は,上記基準ビーム軸を通過した荷電粒子ビームの強度を測定するものであることが考えられる。具体例としては,上記基準ビーム軸上に配置され,上記開口状態変更手段により変更される上記開口部を通過した上記荷電粒子ビームの強度を検出するファラデーカップを備える構成が考えられる。これにより,例えば,上記基準ビーム軸に一致しない軌道で荷電粒子ビームが上記ファラデーカップに照射されると,上記荷電粒子ビームの一部が上記開口部で遮られるため,上記ファラデーカップで検出される上記荷電粒子ビームの強度は,上記基準ビーム軸に一致する軌道で荷電粒子ビームが上記ファラデーカップに照射された場合に検出される上記荷電粒子ビームの強度よりも減衰(低下)することになる。もちろん,上記荷電粒子ビームの軌道が上記基準ビーム軸から大きくずれている場合は,該荷電粒子ビームの強度は検出されない。したがってこの場合は,検出される上記荷電粒子ビームの強度の減衰量を基に或いは上記荷電粒子ビームの強度が検出されなかったことを基にして該荷電粒子ビームの軌道と上記基準ビーム軸とに位置ずれが生じていることを検出することができる。
【0008】
また,逆に,上記ビーム強度測定手段が,上記基準ビーム軸から外れた(反れた)荷電粒子ビームの強度を測定するものであってもよい。具体例としては,上記開口部を有するアパーチャ或いは上記開口状態変更手段に,上記荷電粒子ビームが照射されることにより該アパーチャ或いは該開口状態変更手段から散乱する散乱粒子量を測定することによって,上記開口状態変更手段により変更される上記開口部から外れた上記荷電粒子ビームの強度を測定する構成が考えられる。このように構成されることにより,上記基準ビーム軸に一致しない軌道で照射された荷電粒子ビームが上記開口部を通過できずに上記アパーチャに衝突した際,該アパーチャから散乱する散乱粒子量を測定することによって,該散乱粒子量の増加(上昇)を検出することが可能となるため,この増加量を基にして上記荷電粒子ビームの軌道と上記基準ビーム軸とに位置ずれが生じていることを検出することができる。
また,他の具体例としては,上記アパーチャに設けられた導電性を有する電極部材に上記荷電粒子ビームが照射されることにより該電極部材に流れる電流を測定することによって,上記開口状態変更手段により変更される上記開口部から外れた上記荷電粒子ビームの強度を測定する構成も考えられる。このように構成されることにより,上記基準ビーム軸に一致しない軌道で照射された荷電粒子ビームが上記開口部を通過できずに上記電極部材に衝突すると,上記電極部材で検出される電流は増加(上昇)するため,この増加量を基にして上記荷電粒子ビームの軌道と上記基準ビーム軸とに位置ずれが生じていることを検出することができる。
このとき,上記電極部材を上記アパーチャと絶縁層を介して配置することにより,該電極部材に流れる電流だけを検出することが可能となる。
また,上記電極部材が,上記開口部の周囲に絶縁層を介して配置された複数の電極を有してなる構成が望ましい。これにより,上記複数の電極のいずれに上記荷電粒子ビームが衝突したかによって,該荷電粒子ビームの軌道の位置を検出することが可能となる。その結果,上記荷電粒子ビームの軌道と上記基準ビーム軸との位置ずれの有無や位置ずれの方向,軌道調整時の移動方向などを知ることができ,上記荷電粒子ビームの軌道調整が更に容易となる。ここで,上記電極部材の有する電極は二以上の複数であることが望ましいが,上記荷電粒子ビームの位置の検出精度を高めるという観点からすれば,検出される位置を細分化するため,上記電極は多数であることが好ましい。
【0009】
ところで,上記開口状態変更手段は,具体的には,カメラなどに設けられるような上記開口部の開口を絞る絞り機構を備えてなり,該絞り機構を駆動させることにより上記開口部の開口状態を変更するものであることが考えられる。
また,上記開口状態変更手段が,上記絞り機構を駆動させる駆動手段を備えてなり,所定の制御信号の入力に応じて上記駆動手段を制御することにより上記開口部の開口状態を変更するものであってもよい。このとき,上記駆動手段は超音波モータであることが望ましい。これにより,上記軌道位置ずれ検出装置が,組成分析装置などの磁場を必要とする装置に用いられる場合であっても,その磁場に影響を与えず,またその磁場からの影響も受けない。また,上記超音波モータは,潤滑油などを必要としないため,例えば真空状態で測定が行われる試料分析装置に適用される場合であっても,該潤滑油などが飛散して試料分析に支障を来たすことがない点においても好適である。
さらに,上記開口部の開口状態と上記ビーム強度測定手段により測定された上記荷電粒子ビームの強度とに基づいて上記荷電粒子ビームの軌道と上記基準ビーム軸との位置ずれ量を検出することも考えられる。このように,位置ずれ量が検出されれば,上記荷電粒子ビームの軌道の調整作業が更に容易化される。
また,調整作業者が,上記荷電粒子ビームの軌道と上記基準ビーム軸との位置ずれの有無や上記位置ずれ量を参照して,荷電粒子ビームの軌道を調整してもかまわないが,調整作業者の作業負担を軽減するべく,該位置ずれの有無や位置ずれ量に基づいて該荷電粒子ビームの軌道が自動的に調整されるように構成することも考えられる。
【0010】
また,本発明は,上述の軌道位置ずれ検出装置を具備してなる組成分析装置として捉えることも可能である。即ち,加速された荷電粒子ビームを真空容器内に配置された被照射物に照射して,上記被照射物から散乱した散乱イオンのエネルギースペクトルを測定することにより,上記被照射物の組成分析を行う組成分析装置が上記軌道位置ずれ検出装置を具備する構成が考えられる。
これにより,例えば,組成分析装置を構成するソレノイドコイルや補正コイルなどにより上記荷電粒子ビームを物理的に目視することができないような場合であっても,上記ビーム強度測定手段により測定された上記荷電粒子ビームの強度を客観的材料として該荷電粒子ビームの軌道と上記基準ビーム軸との位置ずれの有無を知ることができる。その結果,上記荷電粒子ビームの軌道を容易に調整することが可能となる。
なお,上記軌道位置ずれ検出装置が上記組成分析装置に設けられる場合,上記開口部は,上記荷電粒子ビームを該荷電粒子ビームの入射方向に通過させると共に上記被照射物で散乱した散乱粒子を上記荷電粒子ビームの入射方向に対して反対方向に通過させるものであることが考えられる。
また,本発明は,上記組成分析装置に適用される荷電粒子ビームの軌道調整方法として捉えることもでき,即ち,上記開口状態変更手段によって開口部の開口状態を変更しつつ,上記開口部を通る荷電粒子ビーム或いは上記開口部から外れた荷電粒子ビームの強度を測定し,上記開口部の開口状態及び上記荷電粒子ビームの強度を参照しながら上記荷電粒子ビームの軌道を調整する。
【0011】
また,上記第2の目的を達成するために本発明は,加速された荷電粒子ビームを真空容器内に配置された被照射物に照射して,上記被照射物から散乱した散乱粒子のエネルギースペクトルを測定することにより,上記被照射物の組成分析を行う組成分析装置に適用されるものであって,予め定められた基準ビーム軸上の所定の位置に配置され上記荷電粒子ビームを該荷電粒子ビームの入射方向に通過させると共に上記被照射物から散乱した散乱粒子を上記荷電粒子ビームの入射方向に対して反対方向に通過させる開口部の開口状態を変更する開口状態変更手段を備えてなることを特徴とする組成分析装置として構成される。
これにより,エネルギー分解能や散乱粒子の取得効率を容易に変更することができる。なお,上記軌道位置ずれ検出装置を有する組成分析装置であれば,該軌道位置ずれ検出装置に設けられた開口状態変更手段を利用することにより当該構成が実現され得る。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば,上記荷電粒子ビームを目視するのではなく,上記荷電粒子ビームの強度という客観的材料により該荷電粒子ビームの軌道と上記基準ビーム軸との位置ずれの有無や位置ずれの方向,位置ずれ量などが検出されるため,該荷電粒子ビームの軌道の調整作業を容易化することが可能となり,且つ,該荷電粒子ビームの軌道調整時の誤差が低減され得る。また,上記荷電粒子ビームの軌道と上記基準ビーム軸との位置ずれの有無や上記位置ずれ量を検出することができるため,該位置ずれの有無や位置ずれ量に基づいて該荷電粒子ビームの軌道を自動調整する構成も実現し得る。
また,予め定められた基準ビーム軸上の所定の位置に配置され上記荷電粒子ビームを該荷電粒子ビームの入射方向に通過させると共に上記被照射物から散乱した散乱粒子を上記荷電粒子ビームの入射方向に対して反対方向に通過させる開口部の開口状態を変更可能とすることにより,エネルギー分解能や散乱粒子の取得効率を容易に変更することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下,添付図面を参照しながら,本発明の実施の形態及び実施例について説明し,本発明の理解に供する。なお,以下の実施の形態及び実施例は,本発明を具体化した一例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
まず,図1〜図3を用いて,本発明の実施の形態に係る試料分析装置X(組成分析装置の一例)について説明する。なお,上記試料分析装置Xは,加速されたイオンビーム(荷電粒子ビームの一例)を測定室内に配置された試料に照射して,この試料から散乱した散乱イオンのエネルギースペクトルを測定することにより,上記試料の組成分析を行う装置であって,例えば,平行磁場型ラザフォード後方散乱分析装置等が該当する。この試料分析装置Xの構成は,上記した従来の試料分析装置Yと大きく異なるところはないため,ここでの試料分析装置Xの全体構成の説明は省略し,従来のものと相違する測定室73aの内部構成について詳細に説明する。ここに,図1は測定室73aの断面図,図2は絞り部31周辺の要部平面図,図3はイオンビームの軌道を調整する方法の一例を説明するための図である。
図1に示すように,本発明の実施の形態に係る試料分析装置Xにおける上記測定室73aが,従来の試料分析装置Yの測定室73と異なるところは,上記アパーチャ77(図7参照)に代えて,後述する開口状態変更装置30(開口状態変更手段の一例)を備えたアパーチャ771が設けられている点にある。
【0014】
以下,図1を参照しつつ図2を用いて,上記アパーチャ771に設けられた開口状態変更装置30について説明する。
図2に示すように,上記開口状態変更装置30は,一般にカメラの露出を決定する機構等にも用いられているものであって,中央部に形成された開口部31aの開口径(開口状態の一例)が変更可能な絞り部31と,該絞り部31を駆動させるための駆動源として用いられる超音波モータ32(駆動手段の一例)と,上記絞り部31及び上記超音波モータ32に連結されて該超音波モータ32の駆動力を該絞り部31に伝達する駆動軸33と,を備えて構成されている。なお,上記絞り部31及び上記駆動軸33が絞り機構の一例を構成している。
上記絞り部31は,図示するように,複数のタングステン等のビーム照射によるダメージが少なく且つ導電性を有する金属部材31bが重ね合わさって構成されており,中央部には上記複数の金属部材31bにより上記開口部31aが形成されている。この絞り部31は,上記アパーチャ771に形成された開口部771aの上方を覆うように,且つ,上記開口部31aの中心が上記基準ビーム軸の軸心に一致した状態で配置されている。即ち,上記開口部31aは,上記イオンビームLをその入射方向に通過させると共に試料74で散乱した散乱イオンを上記イオンビームLの入射方向に対して反対方向に通過させる上記開口部77a(図7参照)に相当するものである。
上記絞り部31では,上記複数の金属部材31bの重なり状態が変更されることにより,上記開口部31aの開口径が,上記開口部771aの開口径よりも小さい範囲内で自在に調節可能である。なお,上記複数の金属部材31bの重なり状態,即ち上記開口部31aの開口径は,上記超音波モータ32から上記駆動軸33により伝達される駆動力によって変更される。本実施の形態では,上記イオンビームLのビーム径が1.0mmであって,該イオンビームLを通過させる上記開口部31aの開口径が,0.5〜10.0mmの範囲で可変に設計されている場合について説明する。
上記超音波モータ32は,CPU及びROMやRAMなどの周辺装置を有してなり上記試料分析装置Xを統括的に制御する制御部40により制御されるモータ制御回路50に接続されており,上記制御部40或いは外部のコンピュータから上記モータ制御回路50に入力される所定の制御信号に応じて該モータ制御回路50により駆動が制御される。この超音波モータ32は,一般の電磁モータとは駆動原理が異なり,圧電素子の弾性振動を駆動源として例えば20kHz以上振動する超音波領域の共振現象を利用して駆動するものである。したがって,超音波モータ32は,磁気を利用するものではないため,上記測定室73aにおいて磁場へ与える影響,磁場から受ける影響がないため好適である。また,上記超音波モータ32は,潤滑油などを必要としないため,試料分析時に高真空状態となる上記測定室73内に配設しても,該潤滑油などが飛散して試料分析に支障を来たすことがない点においても好適である。なお,本実施の形態では,上記超音波モータ32を用いることによって上記絞り部31を調整する構成例について説明するが,該絞り部31や上記駆動軸33を調整作業者が手動で調整し得るハンドル部材など(不図示)を備える構成も他の実施例として考えられる。
【0015】
前記した従来の試料分析装置Yでは,上記二次元検出器78による散乱粒子の取得効率に関係する上記開口部77aの開口径を容易に変更することができなかったため,使用目的や分析する上記試料74の種別に応じた利用ができないことが問題であった。
しかし,上記試料分析装置Xでは,上記二次元検出器78による散乱粒子の取得効率に関係する上記開口部31aの開口径を上記開口状態変更装置30により容易に変更することができるため,該試料分析装置Xにおける上記二次元検出器78による散乱粒子の取得効率を変更することが容易であり,使用目的や分析する上記試料74の種別に応じた利用が可能である。例えば,上記開口状態変更装置30により上記開口部31aの開口径が広くなるように開口状態を変更することにより,エネルギー分解能は悪化するが,分析時間を短縮させることができる。また,分析速度が低下するとしても,エネルギー分解能を優先させたい場合には,上記開口状態変更装置30により上記開口部31aの開口が狭くなるように開口状態を変更すればよい。
【0016】
さらに,従来の試料分析装置Yでは,上記測定室73内を直接目視しながら上記イオンビームLの軌道を調整していたため,該調整作業が困難であったが,上記試料分析装置Xでは,上記開口状態変更装置30により上記開口部31aの開口径を容易に変更できることを利用して,上記測定室73内を直接目視することなく,上記イオンビームLの軌道を容易に調整することができる。以下,図1及び図2を参照しつつ,図3を用いて,上記試料分析装置Xにおける上記イオンビームLの軌道の調整方法について説明する。なお,以下の調整は,上記試料74が上記試料台79に載置されていない状態で実施される。
上記加速器Y1(図7参照)から上記スペクトロメータY2(図7参照)に出射されたイオンビームLは,調整初期の段階では,その軌道は上記基準ビーム軸から外れていることが多い。そのため,上記開口部31aの開口径が,上記イオンビームLが通過すれば該イオンビームLの位置ずれがないと評価することができる程度の開口径(例えば1.0mm)に調整されている場合,上記イオンビームLは,上記絞り部31の金属部材31bに衝突することとなる(図3(a)参照)。この場合,上記二次元検出器78では,上記イオンビームLの照射により上記絞り部31の金属部材31bから散乱した散乱粒子が検出される。ここで上記二次元検出器78により検出される散乱粒子の量は,上記制御部40によって不図示の表示部に表示される。
ここに,上記イオンビームLの軌道が上記開口部31aから外れている場合に上記二次元検出器78により測定される散乱粒子量は,上記イオンビームLと上記基準ビーム軸とが一致して該イオンビームLが上記絞り部31の金属部材31bに衝突せずに上記開口部31aを通過している場合に上記二次元検出器78で測定される散乱粒子量に比べて多くなる。なお,上記二次元検出器78により検出される散乱粒子量は,上記開口部31aから外れたイオンビームLの強度に相当する。このように,上記試料分析装置Xでは,上記イオンビームLが上記絞り部31の金属部材31bに照射されることにより該金属部材31bから散乱する散乱粒子の量を測定することにより,上記開口部31aから外れたイオンビームLの強度を測定することができる。ここに,かかる測定を行う上記二次元検出器78がビーム強度測定手段の一例に相当する。なお,上記イオンビームLが上記絞り部31を逸脱して大幅に位置ずれしている場合には,上記開口部31aから外れたイオンビームLが上記アパーチャ771に照射されることにより,該アパーチャ771から散乱する散乱粒子量が上記二次元検出器78で測定される。
そして,上記試料分析装置Xでは,上記制御部40により,上記二次元検出器78で測定された散乱粒子量(開口部31aから外れたイオンビームLの強度)が,上記イオンビームLと上記基準ビーム軸とが一致している場合に上記二次元検出器78で測定される散乱粒子量に比べて多いか否かに基づいて,上記イオンビームLと上記基準ビーム軸との位置ずれの有無が検出される。ここに,かかる検出処理を実行するときの上記制御部40が位置ずれ有無検出手段に相当する。
そして,上記制御部40により検出された上記イオンビームLと上記基準ビーム軸との位置ずれの有無は,該制御部40により上記表示部(不図示)などに表示される。これにより,調整作業者は,上記イオンビームLの軌道が上記基準ビーム軸から外れているか否かを容易に認識することができ,上記イオンビームLの軌道が上記基準ビーム軸から外れている場合には,該イオンビームLの軌道の調整作業を開始する。
【0017】
まず,調整作業者による不図示の操作部に対する調整開始の操作入力により,上記制御部40から上記モータ制御回路50に所定の制御信号が送信され,該モータ制御回路50により上記超音波モータ32が正回転方向に駆動される。これにより,上記超音波モータ32からの駆動力が上記駆動軸33で上記絞り部31に伝達され,該絞り部31の開口部31aの開口径が徐々に広げられる。なお,以下の調整作業における上記開口部31aの開口径の変更は,同様に,調整作業者による不図示の操作部に対する操作入力に応じて,上記制御部40から上記モータ制御回路50に所定の制御信号が入力され,上記超音波モータ32が正逆回転されることで実行される。
そして,上記開口部31aの開口径の拡大は,図3(b)に示すように,上記イオンビームLの軌道が上記開口部31a内に位置するまで継続される。具体的には,上述したように上記二次元検出器78により測定される散乱粒子量に基づいて,上記イオンビームLの軌道が上記開口部31a内に位置するか否かが上記制御部40により判断され,該イオンビームLの軌道が上記開口部31a内に位置すると判定された場合に,上記超音波モータ32の駆動が停止される。
このとき,上記イオンビームLの軌道が上記開口部31a内に位置した時点における該開口部31aの開口径に基づいて,該イオンビームLの上記基準ビーム軸からの位置ずれ量を判断することが可能である。具体的には,上記開口部31aの開口半径が上記イオンビームLと上記基準ビーム軸との位置ずれ量となる。この位置ずれ量の検出は,上記制御部40によって行われるものであってもよい。ここに,かかる検出処理を実行するときの上記制御部40が位置ずれ量検出手段に相当する。なお,上記開口部31aの開口径は,上記超音波モータ32の駆動時間や回転量,該超音波モータ32の駆動力を上記駆動軸33に伝達するギアのギア比などに基づいて算出することができる。
なお,上記開口部31aの開口径を予め10.0mmまで広げておいて徐々に狭めていき,上記二次元検出器78により測定される散乱粒子量に基づいて,上記イオンビームLの軌道が上記開口部31aから外れたと判定された場合に,上記超音波モータ32の駆動を停止させ,この時点における上記開口部31aの開口半径を,上記イオンビームLの軌道の位置ずれ量として検出することも考えられる。
【0018】
次に,図3(c)に示すように,調整作業者は,上記イオンビームLが上記絞り部31の金属部材31bに衝突しないように試行錯誤しながら,該イオンビームLの軌道の位置を変更する。具体的には,上記表示部(不図示)に表示された上記二次元検出器78により測定された散乱粒子量を参照しつつ,従来周知のビーム軌道調整機構を手動又は電動により操作(操縦)して上記加速器Y1(図7参照)と上記スペクトロメータY2(図7参照)との相対位置を変更させることにより上記イオンビームLの軌道の位置を変更する。例えば,調整作業者は,上記イオンビームLの軌道をある方向に移動させたときに上記二次元検出器78により測定された散乱粒子量が増加した場合(即ち,上記イオンビームLが上記絞り部31の金属部材31bに衝突した場合)には,該移動方向が上記基準ビーム軸とは離反する方向であると判断し,該移動方向を反対方向へ変更する。
そして,上記イオンビームLの軌道の位置を変更すると,次に上記開口部31aの開口径を徐々に狭めていく。このとき,図3(d)に示すように,上記開口部31aの開口径が上記イオンビームLのビーム径である1.0mm以上の状態で,上記イオンビームLが上記絞り部31の金属部材31bに衝突した場合,即ち上記二次元検出器78により測定される散乱粒子量が増加した場合には,該イオンビームLの軌道と上記基準ビーム軸とが位置ずれしていることが上記制御部40により検出され,上記表示部(不図示)に表示される。したがって,調整作業者は,再度,上記イオンビームLの軌道の位置を,該イオンビームLが上記絞り部31の金属部材31bに衝突しないように,上記表示部(不図示)に表示された上記二次元検出器78により測定された散乱粒子量を参照しつつ変更する。このような作業を繰り返し行うことにより,図3(e)に示すように,上記開口部31aの開口径が目標値である1.0mmに変更されたときに,上記イオンビームLが該開口部31a内におさまるように,該イオンビームLの軌道を調整することができる。即ち,上記イオンビームLの軌道と上記基準ビーム軸との位置ずれが解消される。
以上のように,上記試料分析装置Xでは,上記開口状態変更装置30により上記開口部31aの開口状態を変更しつつ,上記開口部31aの開口径と該開口部31aを外れたイオンビームLの強度(二次元検出器78により測定された散乱粒子量)とを参照しながら,該イオンビームLの軌道の調整作業を行うことができるため,該調整作業は容易化されている。そして,この調整作業により,上記イオンビームLの軌道と上記基準ビーム軸とが略同軸となるように調整することができ,結果的に上記試料分析装置Xにおける高い分析精度を得ることができる。
【0019】
また,本実施の形態では,上記試料分析装置Xを例にとって上記イオンビームLの軌道の調整手法について説明してきたが,該調整手法は該試料分析装置Xに限られず,例えば,荷電粒子ビームを用いた電子顕微鏡や該荷電粒子ビームを用いたビーム加工装置等,荷電粒子ビームを用いるあらゆる装置に適用することができる。
さらに,上記イオンビームLの軌道位置の調整作業は,調整作業者による上記操作部(不図示)への操作入力により実施されるものとして説明したが,該調整作業者の作業負担をより軽減するべく,上記イオンビームLの軌道の調整が上記制御部40により実行される構成が考えられる。即ち,上記制御部40により,上記イオンビームLの軌道と上記基準ビーム軸とに位置ずれ生じていることが検出されると,続いて,上記イオンビームLの軌道と上記基準ビーム軸とが一致するまで,上記超音波モータ32の駆動が自動的に制御される構成が考えられる。ここに,かかる調整処理を実行するときの上記制御部40が軌道調整手段に相当する。
なお,本発明は,上記試料分析装置Xにおいて,上記イオンビームLの軌道の位置ずれの有無や位置ずれ量の検出,該イオンビームLの軌道調整を行う軌道位置ずれ検出装置として捉えることも可能である。例えば,上記試料分析装置Xにおける上記二次元検出器78(或いは後述の電流計60),上記開口状態変更装置30及び上記制御部40が,上記軌道位置ずれ検出装置を構成する。
【実施例1】
【0020】
上記実施の形態では,上記開口部31aから位置ずれした上記イオンビームLが上記絞り部31の金属部材31bに照射されることにより該金属部材31bから散乱する散乱粒子の量を測定することにより,上記開口部31aから外れたイオンビームLの強度を測定する手法について説明した。
ここでは,上記開口部31aから外れたイオンビームLの強度を他の要素に基づいて測定する手法について説明する。ここに,図4は,本実施例1における絞り部311周辺の要部断面図である。
図4に示すように,上記基準ビーム軸を中心とする開口部311aを有する絞り部311は,導電性を有する部材からなり,該絞り部311に流れる電流を検出する従来周知の電流計60に接続されている。上記絞り部311は,上記アパーチャ771と電気的に絶縁するためのアルミナなどの絶縁部材70(絶縁層の一例)を介して該アパーチャに設けられている。また,上記電流計60で検出された電流値は,上記制御部40に入力される。なお,上記絞り部311は,上記絞り部31と同様に,上記開口部311aの開口状態を変更し得る構成であって,例えば,上記駆動軸33を介して上記超音波モータ32に接続されている。
このように構成された試料分析装置Xでは,上記イオンビームLが,上記開口部311aから外れて上記絞り部311に照射されると,該絞り部311に電流が流れることとなる。このとき上記絞り部311に流れる電流は,上記電流計60により測定されて上記制御部40に入力される。ここに,上記イオンビームLの軌道が上記開口部311aから外れている場合に,上記電流計60により測定される電流値は,該開口部311aから外れたイオンビームLの強度を示すものであり,該電流計60がビーム強度測定手段の一例に相当する。したがって,上記開口部311aから外れたイオンビームLの強度の測定に上記二次元検出器78を利用することがないため,該二次元検出器78における多量の散乱粒子の検出を防止することができ,該二次元検出器78の劣化防止に好適である。
その後,上述の実施の形態と同様にして,上記開口部311aから外れたイオンビームLの強度(電流計60により測定される電流値)に基づいて,該イオンビームLが上記絞り部311に衝突しているか否か,即ち上記イオンビームLの軌道と上記基準ビーム軸との位置ずれの有無が上記制御部40によって検出される。なお,ここで,上記イオンビームLの上記開口部311a通過後の照射部位から散乱される散乱粒子が上記アパーチャ771に衝突することにより該アパーチャ771に流れた電流が,上記絞り部311に流入して上記イオンビームLの軌道の位置ずれの有無の検出精度が低くなることが危惧されるが,上述したように上記アパーチャ771と上記絞り部311とは,上記絶縁部材70で絶縁されているため,上記アパーチャ771に電流が流れたとしても,該電流が上記絞り部311に流入することはない。これにより,上記イオンビームLの軌道の位置ずれの有無を精度高く検出することができる。
なお,本実施例1に係る試料分析装置Xでは,上記イオンビームLの軌道と上記基準ビーム軸との位置ずれの調整作業は,上述の実施の形態で述べたように,上記開口部311aの開口径を変更しつつ,該開口部311aの開口径と上記電流計60で測定される電流値(開口部311aから外れたイオンビームLの強度)とを参照しながら行えばよいのでここでは説明を省略する。
【実施例2】
【0021】
ここに,図5は本実施例2における絞り部312周辺の要部平面図,図6はイオンビームLの軌道位置を検出する方法を説明するための図である。
図5に示すように,絞り部312は,電気的に絶縁する不図示の絶縁部材を介して配置された4つの同形状の電極312b〜312eを有してなり,該絞り部312の中央部には,上記電極312b〜312eで囲まれることにより開口部312aが形成されている。
上記電極312b〜312eは,該電極312b〜312eを上記イオンビームLの出射方向に垂直な方向(図示する矢印方向)へ同量づつ自在に移動させるためのレールを有する不図示のレール機構により支持されており,該電極312b〜312eは,上記超音波モータ32の駆動力が上記駆動軸33によって伝達されることにより上記レールに沿って移動される。なお,上記電極312b〜312eは別々に移動可能な構成であってもよい。このように上記電極312b〜312eの位置が移動されることにより,上記開口部312aの開口状態が変更される。なお,上記電極312b〜312eは,位置が変更された場合にも各々が位置干渉しないように,上記イオンビームLの入射方向にずらされた状態で配置されている。
また,上記電極312b〜312e各々は,該電極312b〜312e各々に流れる電流を測定する上記電流計60に接続されており,該電流計60により検出される該電極312b〜312e各々の電流値は上記制御部40に入力される。なお,上記電極312b〜312e各々は,上記絶縁層を介して各々位置が干渉しないように配置されているため,相互に電流が流入せず,個々に流れる電流値だけが正確に測定される。そして,上記制御部40に入力された上記電極312b〜312e各々の電流値は,不図示の表示部に表示される。
【0022】
以上のように構成された試料分析装置Xでは,上記イオンビームLが,上記電極312b〜312eのいずれに照射されているか,即ち上記イオンビームLの軌道が上記基準ビーム軸からどの方向に位置ずれしているかを判別することが可能であって,上記イオンビームLの軌道を移動させるべき方向を知得することができるため,該イオンビームLの軌道の調整がより容易化される。
例えば,図6(a)に示すように,上記開口部312aから位置ずれした上記イオンビームLが上記電極312cに照射された場合には,該電極312cに流れる電流値が極めて高いことが上記表示部(不図示)に表示されるため,調整作業者は,これをもって,該電極312cに上記イオンビームLが照射されていると判別することができる。即ち,上記イオンビームLが上記基準ビーム軸から上記電極312cの方向に位置ずれしていると判別することができる。なお,上記イオンビームLの軌道の調整中においても上記表示部(不図示)の各電極の電流値を参照することにより,調整方向の誤り等をすぐに認識できるため,調整ミスを犯すこともなく,迅速に調整を行うことができる。
また,上記イオンビームLの軌道が,図6(b)に示す位置にある場合は,上記電流計60では,上記電極312c及び312dに流れる電流値が他の電極に比べて高く表示されるため,該イオンビームLの軌道位置が上記電極312cと312dの境界にあることを認識することができ,その後の調整を容易に行うことができる。
【実施例3】
【0023】
なお,上述では,上記開口部31a(或いは311a,312a)の開口状態を変更しつつ,該開口部31a(或いは311a,312a)から外れたイオンビームLの強度を検出して,該開口部31a(或いは311a,312a)の開口状態と該検出されたイオンビームLの強度とに基づいて該イオンビームLの軌道と上記基準ビーム軸との位置ずれなどを検出する例について説明した。しかし,これに限られず,上記開口部31a(或いは311a,312a)の開口状態を変更しつつ,該開口部31a(或いは311a,312a)を通過したイオンビームLの強度を検出して,該開口部31a(或いは311a,312a)の開口状態と該検出されたイオンビームLの強度とに基づいて該イオンビームLの軌道と上記基準ビーム軸との位置ずれなどを検出する構成も考えられる。上記開口部31a(或いは311a,312a)を通過したイオンビームLの強度を検出する具体的な構成としては,例えば,上記開口部31aを通過した上記イオンビームLの強度を検出する従来周知のファラデーカップを,上記基準ビーム軸上における上記開口部31aよりも上記イオンビームLの入射方向後段に設けることが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る試料分析装置の測定室の断面図。
【図2】本発明の実施形態に係る試料分析装置の絞り部周辺の要部平面図。
【図3】イオンビームの軌道を調整する方法の一例を説明するための図。
【図4】本発明の実施例1に係る試料分析装置の絞り部周辺の要部断面図。
【図5】本発明の実施例2に係る試料分析装置の絞り部周辺の要部平面図。
【図6】イオンビームの軌道位置を検出する方法を説明するための図。
【図7】従来の試料分析装置の概略構成を示す全体図。
【符号の説明】
【0025】
L…イオンビーム
30…開口状態変更装置
31,311,312…絞り部
31a,77a,311a,312a…開口部
32…超音波モータ
33…駆動軸
40…制御部(位置ずれ有無検出手段,位置ずれ量検出手段,軌道調整手段の一例)
50…モータ制御回路
60…電流計(ビーム強度測定手段の一例)
70…絶縁部材
73,73a…測定室
74…試料
77,771…アパーチャ
78…二次元検出器(ビーム強度測定手段の一例)
79…試料台
312b〜312e…電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビーム発生源から出射され被照射物に照射される荷電粒子ビームの軌道と予め定められた基準ビーム軸との位置ずれを検出する軌道位置ずれ検出装置であって,
上記基準ビーム軸上の所定の位置に配置され上記荷電粒子ビームを該荷電粒子ビームの入射方向に通過させる開口部の開口状態を変更する開口状態変更手段と,
上記開口状態変更手段により変更される上記開口部を通過した或いは該開口部から外れた上記荷電粒子ビームの強度を測定するビーム強度測定手段と,
上記ビーム強度測定手段により測定された上記荷電粒子ビームの強度に基づいて上記荷電粒子ビームの軌道と上記基準ビーム軸との位置ずれの有無を検出する位置ずれ有無検出手段と,
を備えてなることを特徴とする軌道位置ずれ検出装置。
【請求項2】
上記ビーム強度測定手段が,上記基準ビーム軸上に配置され,上記開口状態変更手段により変更される上記開口部を通過した上記荷電粒子ビームの強度を検出するファラデーカップを備えてなる請求項1に記載の軌道位置ずれ検出装置。
【請求項3】
上記ビーム強度測定手段が,上記開口部を有するアパーチャ或いは上記開口状態変更手段に上記荷電粒子ビームが照射されることにより該アパーチャ或いは該開口状態変更手段から散乱する散乱粒子量を測定することによって,上記開口状態変更手段により変更される上記開口部から外れた上記荷電粒子ビームの強度を測定するものである請求項1に記載の軌道位置ずれ検出装置。
【請求項4】
上記開口部と導電性を有する電極部材とを有するアパーチャを備えてなり,
上記ビーム強度測定手段が,上記荷電粒子ビームが上記電極部材に照射されることにより該電極部材に流れる電流を測定することによって,上記開口状態変更手段により変更される上記開口部から外れた上記荷電粒子ビームの強度を測定するものである請求項1に記載の軌道位置ずれ検出装置。
【請求項5】
上記電極部材が,上記アパーチャに絶縁層を介して配置されてなる請求項4に記載の軌道位置ずれ検出装置。
【請求項6】
上記電極部材が,上記開口部の周囲に絶縁層を介して配置された複数の電極を有してなる請求項4又は5のいずれかに記載の軌道位置ずれ検出装置。
【請求項7】
上記開口状態変更手段が,上記開口部の開口を絞る絞り機構を備えてなり,該絞り機構を駆動させることにより上記開口部の開口状態を変更するものである請求項1〜6のいずれかに記載の軌道位置ずれ検出装置。
【請求項8】
上記開口状態変更手段が,上記絞り機構を駆動させる駆動手段を備えてなり,所定の制御信号の入力に応じて上記駆動手段を制御することにより上記開口部の開口状態を変更するものである請求項7に記載の軌道位置ずれ検出装置。
【請求項9】
上記駆動手段が超音波モータである請求項8に記載の軌道位置ずれ検出装置。
【請求項10】
上記開口部の開口状態と上記ビーム強度測定手段により測定された上記荷電粒子ビームの強度とに基づいて上記荷電粒子ビームの軌道と上記基準ビーム軸との位置ずれ量を検出する位置ずれ量検出手段を更に備えてなる請求項1〜9のいずれかに記載の軌道位置ずれ検出装置。
【請求項11】
上記開口部の開口状態と上記ビーム強度測定手段により測定された上記荷電粒子ビームの強度とに基づいて上記荷電粒子ビームの軌道を調整する軌道調整手段を更に備えてなる請求項1〜10のいずれかに記載の軌道位置ずれ検出装置。
【請求項12】
加速された荷電粒子ビームを真空容器内に配置された被照射物に照射して,上記被照射物から散乱した散乱粒子のエネルギースペクトルを測定することにより,上記被照射物の組成分析を行う組成分析装置であって,
上記請求項1〜11のいずれかに記載の軌道位置ずれ検出装置を備えてなることを特徴とする組成分析装置。
【請求項13】
上記開口部が,上記荷電粒子ビームを該荷電粒子ビームの入射方向に通過させると共に上記被照射物で散乱した散乱粒子を上記荷電粒子ビームの入射方向に対して反対方向に通過させるものである請求項12に記載の組成分析装置。
【請求項14】
加速された荷電粒子ビームを真空容器内に配置された被照射物に照射して,上記被照射物から散乱した散乱粒子のエネルギースペクトルを測定することにより,上記被照射物の組成分析を行う組成分析装置であって,
予め定められた基準ビーム軸上の所定の位置に配置され上記荷電粒子ビームを該荷電粒子ビームの入射方向に通過させると共に上記被照射物から散乱した散乱粒子を上記荷電粒子ビームの入射方向に対して反対方向に通過させる開口部の開口状態を変更する開口状態変更手段を備えてなることを特徴とする組成分析装置。
【請求項15】
上記開口状態変更手段が,上記開口部の開口を絞る絞り機構を備えてなり,該絞り機構を駆動させることにより上記開口部の開口状態を変更するものである請求項14に記載の組成分析装置。
【請求項16】
上記開口状態変更手段が,上記絞り機構を駆動させる駆動手段を備えてなり,所定の制御信号の入力に応じて上記駆動手段を制御することにより上記開口部の開口状態を変更するものである請求項15に記載の組成分析装置。
【請求項17】
上記駆動手段が超音波モータである請求項16に記載の組成分析装置。
【請求項18】
加速された荷電粒子ビームを真空容器内に配置された被照射物に照射して,上記被照射物から散乱した散乱粒子のエネルギースペクトルを測定することにより,上記被照射物の組成分析を行う組成分析装置に適用される荷電粒子ビームの軌道調整方法であって,
上記組成分析装置が,予め定められた基準ビーム軸上の所定の位置に配置され上記荷電粒子ビームを該荷電粒子ビームの入射方向に通過させる開口部の開口状態を変更する開口状態変更手段を備えてなり,
上記開口状態変更手段によって開口部の開口状態を変更しつつ,上記開口部を通る荷電粒子ビーム或いは上記開口部から外れた荷電粒子ビームの強度を測定し,上記開口部の開口状態及び上記荷電粒子ビームの強度を参照しながら上記荷電粒子ビームの軌道を調整する荷電粒子ビームの軌道調整方法。
【請求項19】
上記開口部が,上記荷電粒子ビームを該荷電粒子ビームの入射方向に通過させると共に上記被照射物で散乱した散乱粒子を上記荷電粒子ビームの入射方向に対して反対方向に通過させるものである請求項18に記載の荷電粒子ビームの軌道調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−141754(P2007−141754A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336671(P2005−336671)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構,「ナノメータ極薄膜の高分解能・高速組成分析技術に関する基盤研究」委託研究,産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】