説明

転がり軸受

【課題】腐食環境下で優れた耐食性を有し、安価に製造できる転がり軸受を提供することである。
【解決手段】4列円錐ころ軸受の内輪1、外輪2および円錐ころ3の表面に、ビッカース硬度がHv750のクロムめっき層1a、2a、3aを形成することにより、クロムめっき層1a、2a、3aのマイクロクラックをなくし、腐食環境下で優れた耐食性を有し、安価に製造できる転がり軸受を提供できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関し、特に腐食環境下での使用に好適な転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
圧延機等の製鉄設備や抄紙機等の製紙設備などに用いられ、冷却水、圧延水、白水等がかかる腐食環境下で使用される転がり軸受には、内外輪や転動体の発錆に起因する軸受寿命の低下を防止するために、これらの軸受部品の表面に化成処理皮膜を形成したもの(特許文献1参照)や、軸受部品の母材をオーステナイト系ステンレス鋼として、その表面に溶射皮膜を形成したもの(特許文献2参照)がある。
【0003】
【特許文献1】特開2003−239992号公報
【特許文献2】特開2002−295486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された転がり軸受は安価に製造できるが、化成処理皮膜の耐食性は油の保持能力に依存するので、その能力は油の防錆効果を越えず、また、アルカリ等の腐食性物質が潤滑油に混入する箇所では使用できない問題がある。一方、特許文献2に記載された転がり軸受は優れた耐食性を有するが、母材のオーステナイト系ステンレス鋼が高価であることに加えて、溶射費用も高く、さらに溶射後に皮膜の封孔処理や寸法出し等の後工程も必要とするので、非常に高価なものとなる問題がある。
【0005】
軸受部品の耐食性を安価な手段で高めるためには、軸受部品では耐摩耗性や耐表面損傷性を高めるために採用される硬質クロムめっきを施すことが考えられるが、ビッカース硬度がHv1000以上となる硬質クロムめっき層の表面には多数のマイクロクラックが存在するので、耐食性を確保するためには、めっき層の厚みを100μm以上程度にかなり厚くする必要がある。しかしながら、このように硬いクロムめっき層の厚みを厚くすると、転動接触圧力によるクラックが生じやすくなり、却って軸受寿命が短くなる。
【0006】
硬質クロムめっき層のマイクロクラックをなくす手段としては、めっき層に封孔処理を施してマイクロクラックを塞いだもの(商品名:ZACROM)や、めっき層の表面に細かい瘤状のノジュールを形成したもの(商品名:NTDC)が知られている。しかしながら、ZACROMは処理温度が高く、母材に焼戻し軟化や変形が生じるので、軸受部品には適用できない。また、NTDCはノジュールの形成のために非常に高価なものとなる。
【0007】
そこで、本発明の課題は、腐食環境下で優れた耐食性を有し、安価に製造できる転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、内輪の軌道面と外輪の軌道面との間に複数の転動体を配列した転がり軸受において、前記内輪、外輪および転動体の少なくともいずれかの軸受部品の表面に、ビッカース硬度がHv800以下のクロムめっき層を形成した構成を採用した。
【0009】
すなわち、内輪、外輪および転動体の少なくともいずれかの軸受部品の表面に、ビッカース硬度がHv800以下のクロムめっき層を形成することにより、クロムめっき層のマイクロクラックをなくし、腐食環境下で優れた耐食性を有し、安価に製造できる転がり軸受を提供できるようにした。なお、クロムめっき層のビッカース硬度をHv800以下にするとマイクロクラックがなくなる理由は明らかではないが、めっき層の硬度を下げることにより、めっき層形成時の引張の内部応力が低くなり、マイクロクラックが発生しなくなるものと思われる。
【0010】
前記クロムめっき層は、1000倍の顕微鏡観察で表面にクラックが発見されないものであることが望ましい。
【0011】
前記クロムめっき層の厚みは15μm以下であることが望ましい。めっき層の厚みが15μmを超えると、マイクロクラックが発生しやすくなるからである。また、このようにクロムめっき層の厚みを薄くすることにより、転動接触圧力によるクラックの発生も防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の転がり軸受は、内輪、外輪および転動体の少なくともいずれかの軸受部品の表面に、ビッカース硬度がHv800以下のクロムめっき層を形成することにより、クロムめっき層のマイクロクラックをなくしたので、腐食環境下で優れた耐食性を有し、安価に製造できるものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1は、第1の実施形態を示す。この転がり軸受は鉄鋼用圧延機のロールを支持する4列円錐ころ軸受であり、図1(a)に示すように、内輪1の軌道面と外輪2の軌道面との間の軸受空間に円錐ころ3が4列で配列され、保持器4で保持されている。
【0014】
前記内輪1、外輪2および円錐ころ3の母材は、いずれも高炭素クロム軸受鋼SUJ2で形成され、図1(b)に示すように、その表面にビッカース硬度がHv750のクロムめっき層1a、2a、3aが形成されている。これらのクロムめっき層1a、2a、3aの厚みは、いずれも10μmとされている。クロムめっき層1a、2a、3aについては、1000倍の顕微鏡観察を行なったが、いずれの表面にもクラックは発見されなかった。
【0015】
図2は、第2の実施形態を示す。この転がり軸受は自動調心ころ軸受であり、内輪11の軌道面と外輪12の軌道面との間に樽形のころ13が2列で配列され、保持器14で保持されている。図示は省略するが、第1の実施形態のものと同様に、内輪11、外輪12およびころ13の母材はいずれも高炭素クロム軸受鋼SUJ2で形成され、その表面にビッカース硬度がHv750で、厚みが10μmのクロムめっき層が形成されている。
【0016】
図3は、第3の実施形態を示す。この転がり軸受は深溝玉軸受であり、内輪21の軌道面と外輪22の軌道面との間にボール23が配列され、保持器24で保持されている。図示は省略するが、第1の実施形態のものと同様に、内輪21、外輪22およびボール23の母材はいずれも高炭素クロム軸受鋼SUJ2で形成され、その表面にビッカース硬度がHv750で、厚みが10μmのクロムめっき層が形成されている。
【0017】
上述した各実施形態では、内輪、外輪およびボールの全ての軸受部品の表面にクロムめっき層を形成したが、いずれか1つまたは2つの軸受部品のみの表面にクロムめっき層を形成してもよい。また、本発明に係る転がり軸受は、各実施形態で示した種類のものに限定されることはなく、任意の種類の転がり軸受に採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】aは第1の実施形態の転がり軸受を示す一部省略縦断面図、bはaの要部拡大断面図
【図2】第2の実施形態の転がり軸受を示す縦断面図
【図3】第3の実施形態の転がり軸受を示す縦断面図
【符号の説明】
【0019】
1 内輪
2 外輪
3 円錐ころ
1a、2a、3a クロムめっき層
4 保持器
11 内輪
12 外輪
13 ころ
14 保持器
21 内輪
22 外輪
23 ボール
24 保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪の軌道面と外輪の軌道面との間に複数の転動体を配列した転がり軸受において、前記内輪、外輪および転動体の少なくともいずれかの軸受部品の表面に、ビッカース硬度がHv800以下のクロムめっき層を形成したことを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記クロムめっき層が1000倍の顕微鏡観察で表面にクラックが発見されないものである請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記クロムめっき層の厚みが15μm以下である請求項1または2に記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−144923(P2006−144923A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−336146(P2004−336146)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】