説明

転がり軸受

【課題】軌道輪に摺接する部位の発熱を抑制しつつ密封性能を長期に亘って一定に維持することが可能な密封部材を有する転がり軸受を提供する。
【解決手段】相対回転可能に対向配置された軌道輪(内輪2、外輪4)間に構成される軸受内部を軸受外部から密封するための密封部材10,12を備えた転がり軸受であって、密封部材(オイルシール)10は、基端部P1が一方の軌道輪(外輪4)に固定され、且つ、先端部が他方の軌道輪(内輪2)に向けて延出し、その延出端P3(リップ部L1)が所定の緊迫力で他方の軌道輪に押し付けられた状態で位置決めされており、当該密封部材の延出端を他方の軌道輪に押し付ける緊迫力は、0.3〜0.6kgfに設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高速回転で使用される転がり軸受の密封部材の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば電動工具モータ、家電モータ、サーボモータ、汎用モータなどには、高速で回転する各種回転系を支持する転がり軸受が設けられており、当該転がり軸受には、モータ内に封入されているギヤグリースや、当該ギヤグリースに含まれる異物などの浸入を防止するための種々の密封部材が適用されている。密封部材の一例として、特許文献1には、基端部が外輪(一方の軌道輪)に固定され、先端部が内輪(他方の軌道輪)に向けて延出し、その延出端(リップ部)が所定の緊迫力で内輪に押し付けられたオイルシールが開示されている。
【0003】
ところで、高速回転で使用される転がり軸受では、オイルシールのリップ部と内輪とが高速で摺動するため、リップ部は、常に発熱した状態となる。この場合、リップ部の発熱は、当該リップ部を内輪に押し付ける緊迫力の大きさによっても増加し、その際のリップ部の発熱の増加の程度によっては、当該リップ部が早期に劣化し、これにより、長期に亘って一定の密封性能を維持することが困難になってしまう場合がある。
【特許文献1】特開平8−184323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、軌道輪に摺接する部位の発熱を抑制しつつ密封性能を長期に亘って一定に維持することが可能な密封部材を有する転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するために、本発明は、相対回転可能に対向配置された軌道輪間に構成される軸受内部を軸受外部から密封するための密封部材を備えた転がり軸受であって、密封部材は、基端部が一方の軌道輪に固定され、且つ、先端部が他方の軌道輪に向けて延出し、その延出端が所定の緊迫力で他方の軌道輪に押し付けられた状態で位置決めされており、当該密封部材の延出端を他方の軌道輪に押し付ける緊迫力は、0.3〜0.6kgfに設定されている。
この場合、密封部材の基端部は、一方の軌道輪の軸受外部側から軸受内部側に向けて延出した中空円筒状を成しており、当該基端部の軸受外部側には、一方の軌道輪の軸受外部側の端周面よりも軸受外部方向に向けて突出した中空円筒状の突出部が設けられている。また、密封部材の延出端が押し付けられている他方の軌道輪の表面粗さは、0.05〜0.2μmRaに設定されている。更に、一方の軌道輪を外輪として構成し、且つ、他方の軌道輪を外輪の内側に対向配置された内輪として構成した転がり軸受において、外輪の外周には、その一部を周方向に沿って連続して窪ませた環状の凹溝が形成されており、当該凹溝には、環状のシールリングが装着されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、軌道輪に摺接する部位の発熱を抑制しつつ密封性能を長期に亘って一定に維持することが可能な密封部材を有する転がり軸受を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の一実施の形態に係る転がり軸受について、図1を参照して説明する。
図1に示すように、本実施の形態の転がり軸受は、相対回転可能に対向配置された軌道輪(内輪2、外輪4)と、内外輪2,4間に転動自在に組み込まれた複数の転動体6と、各転動体6を回転可能に保持する保持器8と、内外輪2,4間に構成される軸受内部を軸受外部から密封するための密封部材10,12とを備えている。なお、転動体6として、図面では玉を例示しているが、ころが適用される場合もある。また、保持器8として、図面では冠形保持器を例示しているが、例えば波形保持器や合せ保持器などが適用される場合もある。
【0008】
また、本実施の形態の転がり軸受は、その片側が例えばギヤグリースや、当該ギヤグリースに含まれる異物などに直接晒される環境下で使用される場合を想定している。このため、当該片側には、密封部材10としてオイルシールが配置され、これに対して、転動体6を挟んでオイルシール10とは反対側には、一般的な密封部材12が配置されている。ここで、一般的な密封部材12としては、例えば金属板をプレス加工したシールドや、芯金入りのゴム製のシールなどを適用することができる。図面では一例として、接触タイプのシール12が適用されており、当該シール12は、その一端が外輪4に固定され、その他端が内輪2に摺接された状態で位置決めされている。なお、片側及び反対側の双方に同一の密封部材として、オイルシール10を配置しても良い。
【0009】
オイルシール(密封部材)10は、基端部P1が一方の軌道輪(例えば、外輪4)に固定され、且つ、先端部P2が他方の軌道輪(即ち、内輪2)に向けて延出し、その延出端P3が所定の緊迫力で内輪2に押し付けられた状態で位置決めされている。この場合、オイルシール10の基端部P1は、外輪4の軸受外部側から軸受内部側に向けて延出した中空円筒状を成しており、先端部P2は、基端部P1の軸受内部側から連続して折り返された中空円板状を成している。そして、延出端P3は、中空円板状の先端部P2の外周に沿って連続した円環状を成している。
【0010】
このようなオイルシール10は、基端部P1から先端部P2に亘って延出した芯金10aに樹脂部材10bを被覆して構成されており、延出端P3には、樹脂部材で一体成形されたリップ部L1とダストリップL2とが設けられている。リップ部L1は、軸受外部に向けて延在し、内輪2の外周(外径面)2sに摺接した状態で位置決めされており、一方、ダストリップL2は、軸受内部に向けて延在し、内輪2の外周(外径面)2sに摺接した状態で位置決めされている。
【0011】
また、リップ部L1には、その外周に沿って弾性リング14が掛け渡されており、弾性リング14の締め付け量に応じて、当該リップ部L1を内輪2の外周(外径面)2sに対して所定の緊迫力で摺接した状態に位置決めすることができる。ここで、緊迫力とは、内輪2の外周(外径面)2sに対するリップ部L1の摺接力(換言すると、弾性リング14によって内輪2の外周(外径面)2sに締め付けられる際のリップ部L1の締付力)を指す。
【0012】
本実施の形態では、リップ部L1を内輪2に押し付ける緊迫力は、0.3〜0.6kgfに設定されている。また、リップ部L1が押し付けられている内輪2の外周(外径面)2sの表面粗さは、0.05〜0.2μmRaに設定されている。更に、リップ部L1とダストリップL2との間の領域Fには、周方向に亘って潤滑剤(図示しない)が塗布されている。この場合、潤滑剤としては、フッ素グリースを適用することが好ましい。
【0013】
ここで、上述したようなオイルシール10を適用した転がり軸受について、軸受回転時の外輪4の温度変化の測定試験を行った。この測定試験では、内径が12mm、外径が32mmの軸受を用いた。そして、内輪2の外周(外径面)2sに対するリップ部L1の緊迫力を0.1〜1.2kgfに変化させると共に、当該リップ部L1の周速を5〜30m/sに変化させながら、当該オイルシール10に対して圧力0.03Mpaのギヤグリース(図示しない)を負荷した際の外輪4の温度変化を測定した。図1(b)には、その測定結果が示されている。また、この測定試験では、規定時間後に、ギヤグリースが軸受内部に浸入したか否かの確認も同時に行った。図1(c)には、その確認結果が示されている。
【0014】
これによれば、図1(b),(c)の結果から明らかなように、リップ部L1の緊迫力が高くなり、当該リップ部L1の周速が増加するに従って、外輪4の温度が上昇する傾向にある。そうなると、リップ部L1が早期に劣化し、密封性能を一定に維持できなくなり、その結果、ギヤグリースが軸受内部に浸入してしまうことが分かる。また、リップ部L1の緊迫力が低い場合(例えば、0.1kgf)、外輪4の温度は低いが、ギヤグリースが軸受内部に浸入してしまうことが分かる。
【0015】
以上、本実施の形態によれば、内輪2に対するリップ部L1の緊迫力を0.3〜0.6kgfに設定することにより、リップ部L1の周速が低速域から高速域(30m/s)になっても、当該リップ部L1の発熱を抑制しつつ、軸受内部に対する密封性能を一定に維持することができる。これにより、リップ部L1の劣化が確実に防止され、その結果、長期使用によってもギヤグリースが軸受内部に浸入することは無い。
【0016】
また、このような効果は、リップ部L1が押し付けられている内輪2の外周(外径面)2sの表面粗さを0.05〜0.2μmRaに設定することで、更に有効となる。また、リップ部L1とダストリップL2との間の領域Fに潤滑剤を塗布することで、リップ部L1と内輪2の外周(外径面)2sとの潤滑性能を一定に維持することが可能となり、その結果、当該リップ部L1の発熱を効率良く抑制することができる。
【0017】
なお、上述した実施の形態において、オイルシール10の基端部P1の軸受外部側に、外輪4の軸受外部側の端周面4mよりも軸受外部方向に向けて突出した中空円筒状の突出部16を設けても良いし、当該突出部16を設けること無く、基端部P1の軸受外部側を外輪4の端周面4mよりも軸受内部側に位置付ける(へこませる)ようにしても良い。
【0018】
また、上述した実施の形態において、外輪4の外周4sに、その一部を周方向に沿って連続して窪ませた環状の凹溝4gを形成し、当該凹溝4gに環状のシールリング(Oリング)18を装着しても良い。これにより、当該転がり軸受を例えばモータ内に組み込む際に、外輪4をモータのハウジング(図示しない)に嵌合させた状態において、外輪4とハウジングとの間にシールリング18が圧接し相互に密着することで、この部分の密封性能を更に向上させることができる。なお、図面では2本の凹溝4gにそれぞれシールリング18を装着する場合を例示したが、これに限定されることは無く、軸受の使用目的や使用環境に応じて、凹溝4gの本数を3本以上とし、そこにシールリング18を装着したり、或いは、1本のみとすることができる。
【0019】
また、上述した実施の形態において、オイルシール10の樹脂部材10bの材質について特に言及しなかったが、当該樹脂部材10bとして、例えばフッ素ゴム、シリコーンゴム、四フッ化エチレンなどを適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は、本発明の一実施の形態に係る転がり軸受の構成を示す断面図、(b)は、リップ部の緊迫力と周速とに基づく外輪温度の測定結果を示す図、(c)は、リップ部の緊迫力と周速とに基づく軸受内部へのギヤグリースの浸入の有無の確認結果を示す図。
【符号の説明】
【0021】
2 内輪
4 外輪
10,12 密封部材
L1 リップ部
P1 密封部材(オイルシール)の基端部
P2 密封部材(オイルシール)の先端部
P3 密封部材(オイルシール)の延出端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転可能に対向配置された軌道輪間に構成される軸受内部を軸受外部から密封するための密封部材を備えた転がり軸受であって、
密封部材は、基端部が一方の軌道輪に固定され、且つ、先端部が他方の軌道輪に向けて延出し、その延出端が所定の緊迫力で他方の軌道輪に押し付けられた状態で位置決めされており、
当該密封部材の延出端を他方の軌道輪に押し付ける緊迫力は、0.3〜0.6kgfに設定されていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
密封部材の基端部は、一方の軌道輪の軸受外部側から軸受内部側に向けて延出した中空円筒状を成しており、
当該基端部の軸受外部側には、一方の軌道輪の軸受外部側の端周面よりも軸受外部方向に向けて突出した中空円筒状の突出部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
密封部材の延出端が押し付けられている他方の軌道輪の表面粗さは、0.05〜0.2μmRaに設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
一方の軌道輪を外輪として構成し、且つ、他方の軌道輪を外輪の内側に対向配置された内輪として構成した転がり軸受において、
外輪の外周には、その一部を周方向に沿って連続して窪ませた環状の凹溝が形成されており、当該凹溝には、環状のシールリングが装着されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の転がり軸受。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−191864(P2009−191864A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30478(P2008−30478)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】