説明

送液システム、送液方法、流路ユニット、及び全反射減衰を利用した測定方法

【課題】 試料の非特異的な結合を防止して、高精度な測定を行う。
【解決手段】 流路30は、金属膜31と対面して形成された溝部30dと、溝部30dの両端のそれぞれから流路部材20の上面に貫通する第1送排液管30e、第2送排液管30fと、溝部30dの略中央から流路部材20の上面に貫通する第3送排液管30gとによって、略山字型に形成されている。流路部材20には、第3送排液管30gを挟むようにして2つの有底穴34が形成されている。各有底穴34には、ピン35が入り込んでいる。各ピン35は、押圧に応じて弾性材料で成形された流路部材20を押しつぶし、溝部30dを区切る。各ピン35で流路30の送液経路を切り替え、金属膜31の上に設けられた各リンカー膜32、33に個別に送液することで、試料の非特異的な結合が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の出入口が形成された流路に試料溶液を注入して、試料の反応を検出するためのセンサ面に試料溶液を送液する送液システム、送液方法、流路ユニット、及び全反射減衰を利用した測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンパク質やDNAなどの生化学物質間における相互作用の測定や、薬品のスクリーニングなどを行う際に、全反射減衰を利用して試料の反応を測定する測定装置が知られている。
【0003】
このような全反射減衰を利用した測定装置の1つに、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance)現象を利用した測定装置(以下、SPR測定装置と称す)がある。なお、表面プラズモンとは、金属中の自由電子が集団的に振動することによって生じ、その金属の表面に沿って進む自由電子の粗密波である。
【0004】
例えば、特許文献1などで知られるKretschmann配置を採用したSPR測定装置では、透明な誘電体(以下、プリズムと称す)上に形成された金属膜の表面をセンサ面として、このセンサ面上で試料を反応させた後、プリズムを介してセンサ面の裏面側から全反射条件を満たすように金属膜を照射し、その反射光を測定している。
【0005】
全反射条件を満たすように金属膜に照射された光のうち、エバネッセント波と呼ばれるわずかな光は、反射せずに金属膜内を透過してセンサ面側に染み出す。この際、エバネッセント波の振動数と表面プラズモンの振動数とが一致するとSPRが発生し、反射光の強度を大きく減衰させる。また、この減衰が発生する光の入射角度(共鳴角)は、金属膜上の屈折率に応じて変化する。すなわち、SPR測定装置は、金属膜からの反射光を捉えて共鳴角を検出することにより、センサ面上の試料の反応状況を測定する。
【0006】
ところで、タンパク質やDNAなどの生体試料は、乾燥による変性や失活を防ぐため、生理的食塩水や純水、または各種のバッファ液などの溶媒に溶かされた試料溶液として扱われることが多い。特許文献1記載のSPR測定装置は、こうした生体試料の相互作用などを調べるものであり、センサ面の上には試料溶液を送液するための流路が設けられている。また、センサ面にはリガンドとなる試料を固定させるためのリンカー膜が設けられており、流路にリガンド溶液を注入してリンカー膜にリガンドを固定(固定工程)させた後、アナライト溶液を注入してリガンドとアナライトとを接触(測定工程)させることにより、その相互作用を測定する。
【0007】
流路とプリズムは、装置本体に設けられた測定ステージに配置されている。前述の測定は、ガラス基板上に金属膜を形成したチップ型のセンサユニットを測定ステージにセットすることで行われる。流路には、配管(ゴムチューブなどを含む)やバルブなどを介してポンプが接続されており、このポンプによって容器に保管された試料溶液を流路内に送り込むようにしているが、この方法では、配管内に付着した試料が後に注入する試料溶液中に混入してしまう、いわゆるコンタミネーションが生じやすいという問題があった。
【0008】
この問題を解決するため、本出願人は、先端に小孔が形成された略円錐筒状のピペットチップと、このピペットチップを着脱自在に保持するヘッド部とからなるピペットを用いて、容器に保管された試料溶液などの液体を流路に送液するSPR測定装置を提案している(例えば、特願2004−288534号明細書参照)。このSPR測定装置では、送液する液体毎にピペットチップを交換することで、流路に液体を送り込む際に生じるコンタミネーションを防止することができる。
【0009】
また、このSPR測定装置では、流路が形成された流路部材と、上面に金属膜が形成されたプリズムと、流路部材の底面とプリズムの上面とを接合させた状態(流路と金属膜とを対面させた状態)で保持する保持部材とからなるセンサユニットを用いている。このセンサユニットの金属膜上にも、前述と同様のリンカー膜が設けられており、リガンド溶液やアナライト溶液などの試料溶液をピペットで流路内に送り込むことによって測定が行われる。
【0010】
リンカー膜には、リガンドと結合する測定領域と、結合しない参照領域とが形成されている。上述のSPR測定装置は、光源から測定領域と参照領域とに光を照射し、それぞれの領域からの反射光を検出器で光電変換して測定信号と参照信号とを取得している。こうして得られた2つの信号の差や比を求めて解析することにより、センサユニットの個体差や液体の温度変化などの外乱に起因するノイズをキャンセルした精度の高い測定結果を得ることができる。
【特許文献1】特許第3294605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
参照領域は、測定領域と同様に製膜した後、リガンドとの固定基を失活させたものであり、本来リガンドは結合しないはずである。しかしながら、単に失活させただけでは、参照領域へのリガンドの結合を完全に抑えることは難しく、リガンドの一部が参照領域に結合してしまうという問題があった。また、アナライト溶液を送液してリンカー膜にアナライトを接触させる際に、アナライトが参照領域に結合してしまうということもあった。こうした試料の非特異的な結合は、測定誤差の要因となってしまうため、これの防止策が望まれていた。
【0012】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、試料の非特異的な結合を防止して、高精度な測定を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成するため、本発明の送液システムは、試料を含む試料溶液の注入と排出とが行われる3つの出入口を通じて注入された前記試料溶液を前記各出入口間で送液する流路が形成され、前記試料の反応を検出するためのセンサ面に底面を当接させて、前記流路に流れる前記試料溶液を前記センサ面に接触させる流路ユニットと、この流路ユニットが着脱自在にセットされるステージと、前記各出入口のそれぞれにアクセスして、前記流路に前記試料溶液を注入する送液ヘッドとを備えた送液装置とからなり、前記流路を、前記底面に形成された溝部と、前記溝部の両端のそれぞれから前記流路ユニットの上面に貫通して前記出入口を形成する第1送排液管、第2送排液管と、前記溝部の略中央から前記上面に貫通して前記出入口を形成する第3送排液管とから構成し、前記溝部を区切ることによって、前記第1送排液管から前記溝部を介して前記第3送排液管へと至る第1経路と、前記第2送排液管から前記溝部を介して前記第3送排液管へと至る第2経路と、前記第1送排液管から前記溝部を介して前記第2送排液管へと至る第3経路とで、前記流路の送液経路を選択的に切り替える弁機構を前記流路ユニットに設けたことを特徴とする。
【0014】
なお、前記送液装置には、前記流路に前記試料溶液を注入する際に、前記弁機構を駆動する弁駆動部が設けられていることが好ましい。
【0015】
また、前記弁機構は、前記第3送排液管の両脇に配置され、前記上面から前記溝部に向かう方向に形成された2つの有底穴と、これらの各有底穴のそれぞれに入り込み、前記各有底穴の底面と前記溝部との間で薄肉になった薄肉部分を押圧して弾性変形させ、前記溝部を押しつぶして区切る押圧位置と、前記押圧を解除して前記薄肉部分を初期状態に復帰させる解除位置との間で移動自在なピンとからなり、前記弁駆動部は、前記各ピンを前記押圧位置と前記解除位置との間で移動させる移動機構であることが好ましい。
【0016】
さらには、前記弁機構を、前記第3送排液管の両脇、かつ前記溝部の上方近傍に配置され、流体の注入に応じて前記溝部との間で薄肉になった薄肉部分を弾性変形させて膨らみ、前記溝部を押しつぶして区切る膨張状態と、前記流路の排出に応じて縮み、前記薄肉部分を初期状態に復帰させる収縮状態との間で遷移自在な2つの袋部と、これらの各袋部のそれぞれから前記上面に貫通して、前記各袋部への前記流体の注入と排出とを行う配管部とから構成し、前記弁駆動部を、前記各配管部を介して前記各袋部に前記流体の注入と排出とを行い、前記各袋部を前記膨張状態と前記収縮状態との間で遷移させるポンプとするようにしてもよい。
【0017】
なお、前記第1経路に対応する前記センサ面上には、前記試料を固定して、前記試料の反応状況を表す測定信号を取得するための測定用高分子膜が設けられ、前記第2経路に対応する前記センサ面上には、前記測定信号のノイズを除去する際に用いる参照信号を取得するための参照用高分子膜が設けられていることが好ましい。
【0018】
また、前記送液ヘッドは、前記各出入口に先端を挿入して、この先端に形成された小孔から前記試料溶液を吸引・吐出する複数のピペットを有していることが好ましい。
【0019】
なお、本発明の送液システムは、試料を含む試料溶液の注入と排出とが行われる複数の出入口を通じて注入された前記試料溶液を前記各出入口間で送液する流路が形成され、前記試料の反応を検出するためのセンサ面に底面を当接させて、前記流路に流れる前記試料溶液を前記センサ面に接触させる流路ユニットと、この流路ユニットが着脱自在にセットされるステージと、前記各出入口のそれぞれにアクセスして、前記流路に前記試料溶液を注入する送液ヘッドとを備えた送液装置とからなり、前記流路を、前記底面に形成された溝部と、前記溝部から前記流路ユニットの上面に貫通して前記各出入口を形成する複数の送排液管とから構成し、前記溝部を区切ることによって、前記各送排液管と前記溝部とによって形成される複数の送液経路を選択的に切り替える弁機構を前記流路ユニットに設けるものでもよい。
【0020】
また、本発明の送液方法は、試料を含む試料溶液の注入と排出とが行われる3つの出入口を通じて注入された前記試料溶液を前記各出入口間で送液する流路が形成され、前記試料の反応を検出するためのセンサ面に底面を当接させて、前記流路に流れる前記試料溶液を前記センサ面に接触させる流路ユニットをステージにセットし、前記各出入口のそれぞれにアクセスする送液ヘッドによって、前記流路に前記試料溶液を注入する際に、前記底面に形成された溝部と、前記溝部の両端のそれぞれから前記流路ユニットの上面に貫通して前記出入口を形成する第1送排液管、第2送排液管と、前記溝部の略中央から前記上面に貫通して前記出入口を形成する第3送排液管とから構成される前記流路の送液経路を、前記溝部を区切る弁機構によって、前記第1送排液管から前記溝部を介して前記第3送排液管へと至る第1経路と、前記第2送排液管から前記溝部を介して前記第3送排液管へと至る第2経路と、前記第1送排液管から前記溝部を介して前記第2送排液管へと至る第3経路とに選択的に切り替えることを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明の流路ユニットは、試料を含む試料溶液の注入と排出とが行われる3つの出入口を通じて注入された前記試料溶液を前記各出入口間で送液する流路が形成され、前記流路を、底面に形成された溝部と、前記溝部の両端のそれぞれから前記流路ユニットの上面に貫通して前記出入口を形成する第1送排液管、第2送排液管と、前記溝部の略中央から前記上面に貫通して前記出入口を形成する第3送排液管とから構成し、前記溝部を区切ることによって、前記第1送排液管から前記溝部を介して前記第3送排液管へと至る第1経路と、前記第2送排液管から前記溝部を介して前記第3送排液管へと至る第2経路と、前記第1送排液管から前記溝部を介して前記第2送排液管へと至る第3経路とで、前記流路の送液経路を選択的に切り替える弁機構を設けたことを特徴とする。
【0022】
なお、本発明の全反射減衰を利用した測定方法は、一面に薄膜層が形成された誘電体ブロックと、試料を含む試料溶液の注入と排出とが行われる3つの出入口を通じて注入された前記試料溶液を前記薄膜層に送液する流路が形成され、前記薄膜層に底面を当接させて、前記流路に流れる前記試料溶液を前記薄膜層に接触させる流路部材とからなるセンサユニットを、前記薄膜層に全反射減衰を満足するように光を照射する光源と、前記薄膜層からの反射光を受光して電気信号に光電変換する検出手段とが設けられたステージにセットし、前記各出入口のそれぞれにアクセスする送液ヘッドによって、前記流路に前記試料溶液を注入することにより、前記薄膜層上での前記試料の反応状況を測定する際に、前記底面に形成された溝部と、前記溝部の両端のそれぞれから前記流路部材の上面に貫通して前記出入口を形成する第1送排液管、第2送排液管と、前記溝部の略中央から前記上面に貫通して前記出入口を形成する第3送排液管とから構成される前記流路の送液経路を、前記溝部を区切る弁機構によって、前記第1送排液管から前記溝部を介して前記第3送排液管へと至る第1経路と、前記第2送排液管から前記溝部を介して前記第3送排液管へと至る第2経路と、前記第1送排液管から前記溝部を介して前記第2送排液管へと至る第3経路とに選択的に切り替えて前記試料溶液を送液することを特徴とする。
【0023】
また、前記第1経路に対応する前記薄膜層上には、前記試料を固定して前記試料の反応状況を表す測定信号を取得するための測定用高分子膜が、前記第2経路に対応する前記薄膜層上には、前記測定信号のノイズを除去する際に用いる参照信号を取得するための参照用高分子膜が、それぞれ設けられており、前記流路に前記試料溶液を送液する際には、前記弁機構で前記第1経路を選択し、前記第1経路に前記試料溶液を送液して、前記測定用高分子膜にのみ前記試料溶液を送液することが好ましい。
【0024】
さらに、前記測定用高分子膜に前記試料を固定させた後には、前記弁機構で前記第3経路を選択し、前記第3経路に前記試料と反応させる被検体を含む被検液を送液して、前記測定用高分子膜と前記参照用高分子膜とに前記被検液を接触させ、前記試料と前記被検体との反応状況を表す前記測定信号と、この測定信号に対応した前記参照信号とを、前記光源と前記検出手段とによって測定することが好ましい。
【0025】
また、前記参照用高分子膜に前記被検液を接触させる前には、前記弁機構で前記第2経路を選択し、前記参照用高分子膜に前記被検体が結合することを防止するブロック剤を含むブロック液を前記第2経路に送液して、前記参照用高分子膜に前記ブロック液を接触させ、前記参照用高分子膜に前記ブロック剤を結合させることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、流路を、流路ユニットの底面に形成された溝部と、この溝部の両端のそれぞれから流路ユニットの上面に貫通して出入口を形成する第1送排液管、第2送排液管と、溝部の略中央から上面に貫通して出入口を形成する第3送排液管とから構成し、溝部を区切ることによって、第1送排液管から溝部を介して第3送排液管へと至る第1経路と、第2送排液管から溝部を介して第3送排液管へと至る第2経路と、第1送排液管から溝部を介して第2送排液管へと至る第3経路とで、流路の送液経路を選択的に切り替える弁機構を設けたので、第1経路、又は第2経路に切り替えて試料溶液を送液する際には、溝部と対面するセンサ面のうち、各経路に対応する部分にのみ試料溶液を接触させることができる。一方、第3経路に切り替えて試料溶液を送液する際には、溝部と対面するセンサ面の全面に試料溶液を接触させることができる。これにより、例えば、第1経路に対応するセンサ面上に測定領域を形成し、第2経路に対応するセンサ面上に参照領域を形成することで、試料を結合させたい領域にのみ試料溶液を送液することが可能となり、各領域への試料の非特異的な結合を防止して、高精度な測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は、SPRを利用した測定に用いられるセンサユニット(流路ユニット)10の分解斜視図である。センサユニット10は、流路30が形成された流路部材20と、上面に金属膜(センサ面、薄膜層)31が形成されたプリズム(誘電体ブロック)21と、流路部材20の底面とプリズム21の上面とを接合させた状態で保持する保持部材22とからなる。
【0028】
流路部材20には、例えば、2つの流路30が形成されている。流路部材20は、長尺状に形成されており、2つの流路30は、その長手方向に沿って配列されている。各流路30は、流路部材20の上面に3つの出入口30a、30b、30cを有しており、流路部材20の底面に形成された溝部30dと、溝部30dの両端のそれぞれから流路部材20の上面に貫通して出入口30a、30bを形成する第1送排液管30e、第2送排液管30fと、溝部30dの略中央から流路部材20の上面に貫通して出入口30cを形成する第3送排液管30gとによって、略山字型に成形されている。なお、流路30の管径は、例えば、1mm程度であり、各出入口30a、30b、30cのそれぞれの間隔は、例えば、10mm程度である。
【0029】
また、流路30の底部は、開放されており、この開放部位は金属膜31によって覆われて密閉される。このため、流路部材20には、金属膜31との密着性を高めるように、例えば、ゴムやPDMS(ポリジメチルシロキサン)などといった弾性材料が用いられている。これにより、流路部材20の底面をプリズム21の上面に圧接すると、流路部材20が弾性変形して金属膜31との接合面の隙間を埋め、各流路30の開放された底部がプリズム21の上面によって水密に覆われる。なお、これ以降では、流路30とプリズム21の上面とによって囲まれた部分をセンサセル23(図2参照)と称す。また、本例では、流路30の数(センサセル23の数)が2つの例で説明したが、これらの数は、2つに限らず、1つであってもよいし、3つ以上でもよい。
【0030】
プリズム21は、その上面に金属膜31が形成された透明な誘電体であり、底面側から全反射条件を満たすように照射された光を上面(金属膜31)に集光する。金属膜31は、流路部材20に形成された2つの流路30と対向するように、例えば、蒸着法によって短冊状に成形される。この金属膜31としては、例えば、金や銀などが使用され、その膜厚は、例えば、50nmである。なお、この膜厚は、金属膜31の素材、プリズム21に照射される光の波長などに応じて適宜選択される。
【0031】
また、金属膜31の上面には、各流路30のそれぞれに対応して、測定用リンカー膜(測定用高分子膜)32と参照用リンカー膜(参照用高分子膜)33とが設けられている。測定用リンカー膜32は、出入口30aと出入口30cとの間の溝部30dと対面する位置に形成されている。一方、参照用リンカー膜33は、出入口30bと出入口30cとの間の溝部30dと対面する位置に形成されている。測定用リンカー膜32は、リガンド(試料)が固定される固定基であって、固定されたリガンドとアナライト(被検体)との反応を測定する領域となる。参照用リンカー膜33は、測定用リンカー膜32と同様に製膜した後、固定基を失活させたものである。これにより、参照用リンカー膜33には、リガンドが固定されなくなる。
【0032】
後に詳述するが、測定用リンカー膜32に対応して発生したSPR信号を測定信号とし、参照用リンカー膜33に対応して発生したSPR信号を参照信号としてそれぞれ測定し、例えば、これら2つのSPR信号の差分を取る。こうすることで、センサユニット10の個体差や液体の温度変化など、外乱に起因するノイズをキャンセルすることが可能となり、S/N比の良好な信号を得られるようになる。また、各リンカー膜32、33は、センサユニット10の製造段階において予め形成される。各リンカー膜32、33としては、例えば、カルボキシメチルデキストランなどが用いられる。これらの種類は、測定用リンカー膜32に固定するリガンドの種類などに応じて適宜選択される。
【0033】
また、プリズム21の長手方向の両側面には、保持部材22の係合部22aと係合する係合爪21aが設けられている。これらの係合により、流路部材20が保持部材22とプリズム21とによって挟み込まれ、その底面とプリズム21の上面とが圧接した状態で保持される。こうして、流路部材20、プリズム21、保持部材22の各部が一体化し、センサユニット10が構成される。
【0034】
なお、プリズム21には、例えば、ホウケイクラウン(BK7)やバリウムクラウン(Bak4)などに代表される光学ガラスや、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネイト(PC)、非晶性ポリオレフィン(APO)などに代表される光学プラスチックなどを用いることができる。
【0035】
保持部材22の上面には、各流路30の出入口30a、30b、30cのそれぞれに対応する位置に、ピペット(図2参照)の先端が進入する受け入れ口22bが形成されている。各受け入れ口22bは、ピペットから吐出された液体を流路30内に導くように、漏斗形状をしている。保持部材22が流路部材20を挟み込んでプリズム21と係合すると、各受け入れ口22bの下面と、各出入口30a、30b、30cとが接合し、受け入れ口22bと流路30とが連結される。
【0036】
また、流路部材20には、各流路30の第3送排液管30gと測定用リンカー膜32との間、及び第3送排液管30gと参照用リンカー膜33との間に対応する位置に、略円柱状の有底穴34が形成されている。各有底穴34は、流路部材20の上面から溝部30dに向かうように形成され、対面する各有底穴34の底面と溝部30dとの間の厚みが、薄肉になるようにしている。また、各有底穴34の直径は、流路30の管径よりも若干大きくされている。
【0037】
保持部材22の各有底穴34に対応する位置には、ピン35が設けられている。各ピン35は、保持部材22の上面に上下動自在に保持されており、その長さは、各有底穴34の深さよりも長くされている。各ピン35は、保持部材22がプリズム21に組み付いた際に、各有底穴34に入り込んで、その先端と有底穴34の底面とを当接させる。また、各ピン35の保持部材22の外側に突出する端部には、各ピン35を押圧する際に、その押圧力を受けるための受け板35aが設けられている。各ピン35は、受け板35aの上面側から押圧された際に、センサユニット10の内部に押し込まれ、各有底穴34の底面と溝部30dの上面との間で薄肉になった薄肉部分30h(図3参照)を弾性変形させて、溝部30dを押しつぶす(図3(a)参照)。各ピン35は、このように押圧に応じて溝部30dを押しつぶして区切り、流路30内の流体の流れを止める。なお、押圧が解除された各ピン35は、流路部材20の弾性によって初期状態(図3(b)参照)に戻り、再び流路30を流通させる。この際、流路部材20の弾性だけでは初期状態への復帰が難しいようであれば、保持部材22の上面と受け板35aとの間にコイルバネなどを設けて、解除側に付勢するようにしてもよい。
【0038】
なお、センサユニット10のプリズム21や保持部材22などに、例えば、非接触式のICメモリであるRFID(Radio Frequency IDentification)タグなどを取り付けるようにしてもよい。例えば、読み込み専用のRFIDタグにセンサユニット10毎の固有のID番号を書き込んでおき、各工程を行う前にこのID番号を読み込むことで、センサユニット10の識別を行うことができる。これにより、複数のセンサユニット10に対して同時に固定や測定を行う場合にも、間違ったアナライトの注入や、測定結果の取り違えなどといった問題の発生を防止することができる。さらには、読み書き可能なRFIDタグを用いて、例えば、固定したリガンドの種類やリガンドを固定させた日時、及び反応させたアナライトの種類などを、各工程毎に書き込んでいくようにしてもよい。
【0039】
図2は、SPR測定装置12の構成を概略的に説明する説明図である。SPR測定装置12は、センサユニット10に全反射条件を満足するように光を照射する照明器(光源)40と、センサユニット10によって全反射した光を受光して電気信号に光電変換する検出器(検出手段)41と、照明器40と検出器41とを固定する測定ステージ42とからなる測定部14と、センサユニット10の流路30に種々の液体を送液する送液ヘッド43と、この送液ヘッド43を移動させるヘッド移動機構44とからなる送液部(送液装置)16とによって構成されている。また、これらの各部は、図示を省略したコントローラによって統括的に制御される。
【0040】
測定部14の測定ステージ42は、例えば、台形状に成形された台座であって、照明器40と検出器41とを全反射条件を満足する所定の角度で固定するとともに、照明器40の光路上にセンサユニット10を位置決めする。照明器40は、全反射条件を満足する様々な入射角の光をプリズム21に対して照射する。照明器40は、例えば、集光レンズ、拡散板、偏光板などからなる光学系と、光源とから構成され、配置位置および設置角度は、照射する光の入射角が、全反射条件を満足するように調整される。
【0041】
照明器40の光源としては、例えば、LED(Light Emitting Diode)、LD(Laser Diode)、SLD(Super Luminescent Diode)などの発光素子が使用される。照明器40は、こうした発光素子を1個使用し、この単一光源から1つセンサセル23に向けて光を照射する。なお、センサユニット10に設けられた複数のセンサセル23(本例では2つ)を同時に測定するような場合には、単一光源からの光を分光して複数の各センサセル23に照射してもよいし、各センサセル23に対して発光素子が1つずつ割り当てられるように複数の発光素子を並べて使用してもよい。拡散板は、光源からの光を拡散させ、発光面内の光量ムラを抑える。偏光板は、照射光のうち、SPRを生じさせるp偏光のみを通過させる。なお、LDを使用する場合など、光源が発する光線自体の偏光の向きが揃っている場合には、偏光板は不要である。また、偏光が揃っている光源を使用した場合でも、拡散板を通過することにより、偏光の向きが不揃いになってしまう場合には、偏光板を使用して偏光の向きを揃える。こうして拡散および偏光された光は、集光レンズによって集光されてプリズム21に照射される。これにより、光強度にバラツキがなく様々な入射角を持つ光をセンサセル23に入射させることができる。
【0042】
検出器41には、例えば、CCDエリアセンサやフォトダイオードアレイなどが使用される。プリズム21の長辺側の一方の側面から入射した光は、プリズム21内を透過して内側からプリズム21の上面(金属膜31の裏面)に集光され、上面で全反射して他方の側面に抜ける。プリズム21には、様々な角度の光が入射するので、プリズム21の上面では、それらの入射光が、それぞれの入射角に応じた反射角で反射する。検出器41は、これらの様々な角度の反射光を受光し、それらを光電変換して光強度に応じたレベルのSPR信号として出力する。
【0043】
また、検出器41は、測定用リンカー膜32に対応するSPR信号を測定信号として出力し、参照用リンカー膜33に対応するSPR信号を参照信号として出力する。照明器40及び検出器41は、これら測定信号と参照信号との2チャンネルの計測を行うことができるように構成されている。例えば、照明器40を1個の発光素子から構成した際には、反射ミラーなどを用いて測定用リンカー膜32と参照用リンカー膜33とのそれぞれに向けて入射する複数の光線に照射光を分光する。そして、各チャンネル用の複数のフォトダイオードアレイで構成した検出器41により、各光線をそれぞれ受光する。
【0044】
一方、検出器41として、CCDエリアセンサを用いた場合には、各チャンネルの反射光を同時に受光することによって得られた信号を画像処理することにより、測定信号と参照信号とを認識することができる。しかし、こうした画像処理による方法が難しい場合には、測定用リンカー膜32と参照用リンカー膜33とに対して光を入射させるタイミングを微小時間ずらして、各チャンネルの信号を受光するようにしてもよい。入射タイミングをずらす方法としては、例えば、配置角度が180度ずれた位置に2つの孔が形成された円板を照明器40の光路上に配置し、この円板を回転させる。各孔は、中心からの距離が各リンカー膜32、33の間隔だけ異なる位置に配置されており、一方の孔が光路内に進入したときには、測定用リンカー膜32に光線を入射させ、他方の孔が光路内に進入したときには、参照用リンカー膜33に光線を入射させる。これにより、各チャンネルへの入射タイミングがずらされる。
【0045】
送液ヘッド43には、先端に小孔が形成された略円錐筒状の3つのピペット50a、50b、50cが設けられている。各ピペット50a、50b、50cのそれぞれには、送液ヘッド43と、図示を省略した配管とを介してポンプ45が接続されている。各ポンプ45としては、例えば、シリンダとピストンとからなる、いわゆるシリンジポンプなどを用いることができる。各ポンプ45は、送液ヘッド43へと至る配管経路内を減圧することによって各ピペット50a、50b、50cに液体を吸引させるとともに、配管経路内を加圧することによって各ピペット50a、50b、50cに吸引した液体を吐出させる。また、各ポンプ45は、例えば、SPR測定装置12のコントローラに電気的に接続されており、このコントローラからの駆動信号に応じて、それぞれ独立に駆動される。コントローラは、ドライバなどを介して各ポンプ45に駆動信号を送信し、吸い込みや吐き出しのタイミング、及び吸い込み量や吐き出し量などを制御する。
【0046】
各ピペット50a、50b、50cの間隔は、流路30に形成された3つの出入口30a、30b、30cの間隔に対応している。送液ヘッド43は、各ピペット50a、50b、50cを各出入口30a、30b、30cにアクセスさせ、流路30内に種々の液体を注入、及び排出する。これにより、各リンカー膜32、33にリガンドやアナライトなどが送り込まれる。また、各ピペット50a、50b、50cの先端部は、交換可能なチップ状にされている。この先端部は、送液する液体と直接接触するので、これらの各ピペット50a、50b、50cを介して異種の液体の混液が生じないように、送液毎に交換される。
【0047】
また、送液ヘッド43には、各ピペット50a、50b、50cを流路30にアクセスさせた際に、各受け板35aのそれぞれに当接する略丸棒状の押圧部材51が設けられている。各押圧部材51は、上下方向にスライド自在となるように送液ヘッド43に保持されるとともに、送液ヘッド43を介して各押圧部材51毎に設けられたスライド移動機構46に接続される。また、各スライド移動機構46は、例えば、図示を省略したコントローラに電気的に接続されている。各スライド移動機構46は、コントローラからの制御信号に基づいて、各押圧部材51を送液ヘッド43から伸縮させることにより、図3(a)に示すように、薄肉部分30hを弾性変形させ、溝部30dを押しつぶして区切る押圧位置と、図3(b)に示すように、押圧を解除して薄肉部分30hを初期状態に復帰させる解除位置との間で各ピン35を移動させる。また、コントローラは、各スライド移動機構46に個別に制御信号を送信することによって、各押圧部材51の位置をそれぞれ独立に制御する。なお、各スライド移動機構46には、例えば、モータ、ギア、カムなどによって構成される周知の機構、及びソレノイドや各種のアクチュエータなどを用いればよい。また、図2では、各スライド移動機構46、及び各ポンプ45が、送液ヘッド43の外部に設けられるように記載しているが、これらは、送液ヘッド43の内部に設けられるもでもよい。
【0048】
測定用リンカー膜32よりのピン35を解除位置にし、参照用リンカー膜33よりのピン35を押圧位置にして、ピペット50aとピペット50cとで液体の注入・排出を行うことにより、測定用リンカー膜32にのみ液体を送液することが可能となる(請求項記載の第1経路に相当)。反対に、測定用リンカー膜32よりのピン35を押圧位置にし、参照用リンカー膜33よりのピン35を解除位置にして、ピペット50bとピペット50cとで液体の注入・排出を行うことにより、参照用リンカー膜33にのみ液体を送液することが可能となる(請求項記載の第2経路に相当)。さらには、各ピン35の双方を解除位置にして、ピペット50aとピペット50bとで液体の注入・排出を行うことにより、各リンカー膜32、33の双方に液体を送液することが可能となる(請求項記載の第3経路に相当)。このように、送液部16は、各ピン35の位置制御と、各ピペット50a、50b、50cの組み合わせとによって、各リンカー膜32、33への個別の送液と、同時送液とを選択的に切り替えることができる。
【0049】
ヘッド移動機構44は、例えば、搬送ベルト、プーリ、キャリッジ、モータなどから構成される周知の移動機構であり、図示を省略したコントローラの制御の下、送液ヘッド43を前後左右上下の3方向に移動させる。SPR測定装置12には、流路30へ注入する種々の液体(リガンド溶液、アナライト溶液、洗浄液、バッファ液など)を保管する複数の液保管部や、各ピペット50a、50b、50cの交換用のピペットチップを保管するピペットチップ保管部など(いずれも図示は省略)が設置されている。ヘッド移動機構44は、これらの各部や測定ステージ42にセットされたセンサユニット10などに送液ヘッド43をアクセスさせる。
【0050】
SPRを利用した測定は、大きく分けて、固定工程と、測定工程(データ読み取り工程)と、データ解析工程との3つの工程からなる。固定工程は、リガンドが溶解したリガンド溶液(試料溶液)を流路30内に注入し、測定用リンカー膜32にリガンドを固定する工程である。リガンド溶液を注入するリガンド固定化処理を行う前には、まず、測定用リンカー膜32に固定用バッファ液が送液され、測定用リンカー膜32を湿らせてリガンドを結合しやすくする測定用リンカー膜32の活性化処理が施される。例えば、アミンカップリング法では、各リンカー膜32、33としてカルボキシメチルデキストランが使用され、リガンド内のアミノ基をこのデキストランに直接共有結合させる。この場合の活性化液としては、N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)とN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)との混合液が使用される。この活性化処理の後、固定用バッファ液によって流路30が洗浄される。
【0051】
固定用バッファ液や、リガンド溶液の溶媒(希釈液)としては、例えば、各種のバッファ液(緩衝液)の他、生理的食塩水に代表される生理的塩類溶液や、純水が使用される。これらの各液の種類、pH値、混合物の種類及びその濃度などは、リガンドの種類に応じて適宜決められる。例えば、リガンドとして生体物質を使用する場合には、pHを中性付近に調整した生理的食塩水が使用される場合が多い。しかし、上記アミンカップリング法では、測定用リンカー膜32は、カルボキシメチルデキストランにより負(マイナス)に帯電するので、この測定用リンカー膜32と結合しやすいようにタンパク質を正(プラス)に帯電させるため、生理的とはいえない高濃度のリン酸塩を含む緩衝作用の強いリン酸緩衝溶液(PBS:phosphatic−buffered,saline)などが使用される場合もある。
【0052】
こうした活性化処理及び洗浄が行われた後、流路30へリガンド溶液が注入されてリガンド固定化処理が行われる。リガンド溶液が流路30へ注入されると、溶液中で拡散しているリガンドが徐々に測定用リンカー膜32へ近づいて結合する。こうして測定用リンカー膜32にリガンドが固定される。固定化には、通常、約1時間程度かかり、この間、センサユニット10は、温度を含む環境条件が所定の条件に設定された状態で保管される。なお、固定化が進行している間、流路30内のリガンド溶液を静置しておいてもよいが、流路30内のリガンド溶液を攪拌して流動させることが好ましい。こうすることで、リガンドと測定用リンカー膜32との結合が促進され、リガンドの固定量を増加させることができる。
【0053】
測定用リンカー膜32へのリガンドの固定化が完了すると、流路30からリガンド溶液が排出される。リガンド溶液は、ピペット50a、50b、50cによって吸い出されて排出される。リガンド溶液が吸い出されると、流路30へ洗浄液が注入されて洗浄処理が行われる。この後、流路30には、乾燥防止液が注入される。こうして、センサユニット10は、各リンカー膜32、33が乾燥防止液に浸された状態で、測定までの間保管される。
【0054】
測定工程では、まず、流路30へ測定用バッファ液が注入される。この後、アナライトを溶媒に溶かしたアナライト溶液(被検液)を注入し、その後、再び測定用バッファ液が注入される。なお、最初に測定用バッファ液を注入する前に、いったん流路30の洗浄を行ってもよい。照明器40と検出器41とによるデータの読み取りは、基準となる信号レベルを検出するために、最初に測定用バッファを注入した直後から開始され、アナライト溶液の注入後、再び測定用バッファが注入されるまでの間行われる。これにより、基準レベル(ベースライン)の検出、アナライトとリガンドの反応状況(結合状況)、測定用バッファ液の注入による結合したアナライトとリガンドとの脱離までのSPR信号を測定することができる。
【0055】
測定用バッファ液や、アナライト溶液の溶媒(希釈液)としては、例えば、各種のバッファ液(緩衝液)の他、生理的食塩水に代表される生理的塩類溶液や、純水が使用される。これらの各液の種類、pH値、混合物の種類及びその濃度等は、リガンドの種類に応じて適宜決められる。例えば、アナライトを溶けやすくするために、生理的食塩水にDMSO(ジメチル−スルホ−オキシド)を含ませてもよい。このDMSOは、信号レベルに大きく影響する。上述したとおり測定用バッファ液は基準レベルの検出に用いられるので、アナライトの溶媒中にDMSOが含まれる場合には、そのDMSO濃度と同程度のDMSO濃度を持つ測定用バッファ液を使用することが好ましい。
【0056】
なお、アナライト溶液は、長期間(例えば、1年)保管されることも多く、そうした場合には、経時変化によって、初期のDMSO濃度と測定時のDMSO濃度との間に濃度差が生じてしまう場合がある。厳密な測定を行う必要がある場合には、こうした濃度差をアナライト溶液を注入したときの参照信号のレベルから推定し、測定データに対して補正(DMSO濃度補正)が行われる。
【0057】
DMSO濃度補正のための補正データは、アナライト溶液を注入する前に、DMSO濃度が異なる複数種類の測定用バッファ液を流路30に注入して、このときのDMSO濃度変化に応じた、測定信号のレベルと参照信号のレベルのそれぞれの変化量を調べることにより求められる。
【0058】
測定用リンカー膜32上の媒質に変化が生じると屈折率が変化して、反射光の光強度が減衰する光の入射角(SPRが発生する共鳴角)も変化する。測定用リンカー膜32上にアナライトを送液すると、アナライトとリガンドの反応状況に応じて測定用リンカー膜32上の屈折率が変化するため、それに応じて共鳴角も変化する。リガンドとアナライトの反応状況は、この受光面内における反射光の減衰位置の推移として表れる。例えば、アナライトがリガンドと接触する前後では、測定用リンカー膜32上の屈折率が異なり、SPRが発生する共鳴角が異なる。そして、アナライトがリガンドと接触して反応を開始すると、それに応じて共鳴角が変化を開始し、前記受光面内における反射光の減衰位置が移動し始める。
【0059】
データ解析工程では、こうして得られた反応状況を表すSPR信号を解析して、アナライトの特性を分析する。前述のように、検出器41は、測定用リンカー膜32に対応するSPR信号を測定信号として出力し、参照用リンカー膜33に対応するSPR信号を参照信号として出力する。これら測定信号と参照信号は、基準レベルの検出から結合反応を経て脱離に至るまで、ほぼ同時に計測される。この測定信号と参照信号の差や比を求めることで、データ解析が行われる。例えば、測定信号と参照信号との差分データを求め、この差分データを測定データとし、これに基づいて解析を行う。こうすることで、センサユニット10や各センサセル23の個体差、及び装置の機械的な変動や、液体の温度変化など、外乱に起因するノイズがキャンセルされ、精度の高い測定が可能になる。
【0060】
次に、図4、及び図5に示すフローチャートを参照しながら、上記構成によるSPR測定装置12の作用について説明する。リガンドとアナライトとの反応状況を測定する際には、まず、センサユニット10を測定ステージ42にセットし、照明器40の光路上に位置する測定位置に一方のセンサセル23を合わせる。前述のように、SPR測定装置12は、センサユニット10にリガンドを固定する固定工程と、固定したリガンドにアナライトを接触させて、その際のSPR信号を取得する測定工程と、取得したSPR信号を解析するデータ解析工程とを行って、リガンドとアナライトとの反応状況を測定する。
【0061】
SPR測定装置12は、センサユニット10がセットされた後、オペレータからの固定開始指示が入力されたことに応じて固定工程を開始する。SPR測定装置12のコントローラ(図示は省略)は、固定開始指示が入力されたことに応答してヘッド移動機構44を駆動し、送液ヘッド43を測定用リンカー膜32の活性化液を保管する液保管部に移動させる。送液ヘッド43を液保管部にアクセスさせたコントローラは、ピペット50aに対応するポンプ45を駆動し、ピペット50aに所定量の活性化液を吸引させる。ピペット50aに活性化液を吸引させたコントローラは、送液ヘッド43をセンサユニット10に移動させ、測定対象となるセンサセル23の流路30に形成された各出入口30a、30b、30cに、各ピペット50a、50b、50cを挿入する。
【0062】
各ピペット50a、50b、50cを流路30に接続させたコントローラは、図6(a)に示すように、測定用リンカー膜32よりのピン35が解除位置に、参照用リンカー膜33よりのピン35が押圧位置に移動するように、各スライド移動機構46に制御信号を送信する。各ピン35を移動させたコントローラは、ピペット50aが吐出し、ピペット50cが吸引するように、それぞれ対応したポンプ45を駆動させる。ピペット50aは、内部に保持した活性化液を吐出して流路30内に注入し、ピペット50cは、流路30内の空気、もしくは予め注入されていた洗浄液などを吸引して流路30から排出させる。
【0063】
この際、押圧位置に移動したピン35によって溝部30dが押しつぶされ、参照用リンカー膜33への流体の流れが止められているので、測定用リンカー膜32にのみ活性化液が送液される。これにより、測定用リンカー膜32に対応した部分の流路30内の流体が、空気又は洗浄液などから活性化液に入れ換えられ、測定用リンカー膜32が活性化される。なお、吸引、吐出する各ピペットの関係は、上記と反対でもよく、ピペット50cに活性化液を吐出させ、ピペット50aに吸引させるようにしてもよい。
【0064】
測定用リンカー膜32の活性化が終了すると、コントローラは、ピペット50cに吸引させて流路30から活性化液を排出させる。活性化液を排出させたコントローラは、図示を省略した廃液タンクに送液ヘッド43を移動させ、ピペット50cに保持された活性化液を廃却した後、活性化液に浸された各ピペット50a、50b、50cのピペットチップを交換する。このようにピペットチップの交換を行うことで、次に送液するリガンド溶液と活性化液との各ピペット50a、50b、50cを介した混液が防止される。
【0065】
ピペットチップの交換を行ったコントローラは、リガンド溶液を保管する液保管部に送液ヘッド43を移動させて、ピペット50aにリガンド溶液を吸引させる。リガンド溶液を吸引させたコントローラは、送液ヘッド43をセンサユニット10に移動させ、活性化液と同様の手順で測定用リンカー膜32のみにリガンド溶液を送液し、測定用リンカー膜32にリガンドを固定させる固定化処理を施す。なお、ピペット50a、50cに吸引と吐出とを交互に繰り返させて、流路30内に注入したリガンド溶液を攪拌するようにしてもよい。こうすることで、リガンドと測定用リンカー膜32との結合が促進され、リガンドの固定量を増加させることができる。
【0066】
測定用リンカー膜32にリガンドを固定させたコントローラは、参照用リンカー膜33にアナライトが吸着することを防止するブロック処理を実施する。流路30からのリガンド溶液の排出、及びピペットチップの交換などを行ったコントローラは、ブロック液を保管する液保管部に送液ヘッド43を移動させる。なお、ブロック液には、参照用リンカー膜33に応じたブロック剤が溶解している。このブロック剤としては、例えば、HSA(Human Serum albumine)やBSA(Bovine Serum albumine)に代表される血清アルブミン、及びカゼインなどを用いることができる。ブロック剤は、アナライトの種類や各リンカー膜32、33の製膜材料などに応じて、適宜選択される。
【0067】
液保管部に送液ヘッド43を移動させたコントローラは、ピペット50cに対応するポンプ45を駆動して、ピペット50cにブロック液を吸引させる。ピペット50cにブロック液を吸引させたコントローラは、送液ヘッド43をセンサユニット10に移動させ、各ピペット50a、50b、50cを流路30の各出入口30a、30b、30cに挿入する。
【0068】
各ピペット50a、50b、50cを流路30に接続させたコントローラは、リガンド固定時とは反対に、図6(b)に示すように、測定用リンカー膜32よりのピン35が押圧位置に、参照用リンカー膜33よりのピン35が解除位置に移動するように、各スライド移動機構46に制御信号を送信する。各ピン35を移動させたコントローラは、ピペット50cが吐出、ピペット50bが吸引を行うように対応する各ポンプ45を駆動し、参照用リンカー膜33に対応した部分の流路30内にブロック液を注入する。ブロック液中に溶解したブロック剤は、参照用リンカー膜33に接触して結合する。このように、予め参照用リンカー膜33にブロック剤を結合させておくことで、測定に際して送液されるアナライトの参照用リンカー膜33への非特異的な結合が防止される。
【0069】
以上のように、測定用リンカー膜32にリガンドを、参照用リンカー膜33にブロック剤を、それぞれ結合させることによって固定工程が終了する。本例では、各ピン35によって溝部30dを区切り、それぞれの溶液が一方の各リンカー膜32、33にのみ送り込まれるようにしたので、参照用リンカー膜33にリガンドが付着したり、測定用リンカー膜32にブロック剤が付着するなどといった非特異的な結合を確実に防止することができる。また、本例では、リガンド固定化処理を行った後にブロック処理を行うようにしているが、もちろん、ブロック処理を先に行ってもよい。さらに、参照用リンカー膜33に結合する可能性の低いアナライトを送液する際には、ブロック処理を行わなくてもよい。
【0070】
固定工程が終了したSPR測定装置12は、温度などの環境条件を一定に保った状態でセンサユニット10を保持し、オペレータからの測定開始指示が入力されたことに応じて測定工程を開始する。コントローラは、測定開始指示が入力されたことに応答して、照明器40と検出器41とによるデータ読み取りを開始させる。また、これと同時に、ヘッド移動機構44を駆動して送液ヘッド43を測定用バッファ液を保管する液保管部に移動させる。液保管部に送液ヘッド43を移動させたコントローラは、ピペット50aに対応するポンプ45に駆動信号を送信し、ピペット50aに測定用バッファ液を吸引させる。
【0071】
ピペット50aに測定用バッファ液を吸引させたコントローラは、送液ヘッド43をセンサユニット10に移動させ、測定対象となるセンサセル23の流路30に、各ピペット50a、50b、50cを接続する。各ピペット50a、50b、50cを流路30に接続したコントローラは、図3(b)に示すように、各ピン35が解除位置になるように、各スライド移動機構46に制御信号を送信する。各ピン35を移動させたコントローラは、ピペット50aが吐出、ピペット50bが吸引を行うように対応する各ポンプ45を駆動し、流路30内に測定用バッファ液を注入する。これにより、各リンカー膜32、33の双方に一度に測定用バッファ液が送液される。
【0072】
測定用バッファ液を流路30に注入したコントローラは、ピペットチップの交換などを行った後、送液ヘッド43をアナライト溶液を保管した液保管部に移動させ、以下同様にして、アナライト溶液と脱離反応用の測定用バッファ液とを順次流路30に送液する。この際、参照用リンカー膜33にブロック処理を施したので、参照用リンカー膜33へのアナライトの結合が防止される。脱離反応用の測定用バッファ液を流路30に注入させたコントローラは、照明器40と検出器41とによるデータ読み取りを停止させる。これにより、検出器41は、基準レベル(ベースライン)の検出、アナライトとリガンドの反応状況(結合状況)、結合したアナライトとリガンドとの脱離までのSPR信号が取得される。
【0073】
SPR信号を取得したSPR測定装置12は、測定用リンカー膜32に対応した測定信号から参照用リンカー膜33に対応した参照信号を差し引いて測定データを算出し、この測定データを基にしてリガンドとアナライトとの反応状況を解析する。以上により、1つのセンサセル23に対する測定が終了する。本例のように、1つのセンサユニット10に複数のセンサセル23が含まれる際には、上記と同様の手順でそれぞれのセンサセル23の測定を行う。
【0074】
なお、上記実施形態では、金属膜31を含むセンサユニット10を、請求項記載の流路ユニットとしているが、例えば、流路部材20と保持部材22とによって流路ユニットを構成させるようにしてもよい。この際、流路部材20と保持部材22、及びプリズム21を個別にSPR測定装置12にセットするようにしてもよいし、流路部材20と保持部材22とをSPR測定装置12の構成部品として組み込むようにしてもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、送液ヘッド43にピペット50a、50b、50cを設け、これらの先端を各出入口30a、30b、30cに挿入して送液するようにしているが、これに限ることなく、例えば、配管やチューブなどを各出入口30a、30b、30cに挿入したり、押し当てたりして送液するようにしてもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、各工程を一つのSPR測定装置12で行うようにしているが、各工程毎に装置を分けるようにしてもよい。こうすることで、複数のセンサユニット10を同時に処理することが可能となり、処理効率を向上させることができる。
【0077】
また、上記実施形態では、各有底穴34の間で送液経路が重複してしまうため、測定用リンカー膜32と参照用リンカー膜33とを分けて形成しているが、測定用リンカー膜32と参照用リンカー膜33とは、一続きに形成するようにしてもよい。
【0078】
さらに、上記実施形態では、押圧されていない各ピン35を、流路部材20の弾性などによって解除位置で保持されるようにしているが、例えば、係止爪を設けるなどして、各ピン35を一度押圧位置に移動させた後、所定の操作がなされるまで押圧位置で保持されるようにしてもよい。例えば、測定用リンカー膜32にリガンドを固定させる際、上記実施形態では、固定を行う間中、参照用リンカー膜33よりのピン35を押圧位置で保持しなければならないため、送液ヘッド43が占有されてしまう。一方、押圧位置で保持できるように弁機構を構成すれば、固定の間にも送液ヘッド43をセンサユニット10から離すことが可能になるので、複数のセンサユニット10に同時に固定を施すなど、処理効率の向上を図ることができる。
【0079】
なお、上記実施形態では、有底穴34とピン35とによって弁機構を構成しているが、これに限らず、例えば、図7に示すように弁機構を構成してもよい。なお、上記実施形態と機能・構成が同じものについては、同符号を付し詳細な説明を省略する。センサユニット80の流路部材81には、各流路30の出入口30cと測定用リンカー膜32との間、及び出入口30cと参照用リンカー膜33との間に対応する位置に、略球状に形成された袋部82aと、この袋部82aと流路部材81の上面とを接続する配管部82bとからなる弁機構82が設けられている。また、保持部材83には、各弁機構82のそれぞれに対応した貫通孔84が形成されている。
【0080】
一方、送液ヘッド90には、各弁機構82のそれぞれに対応した配管91が設けられている。各配管91は、各ピペット50a、50b、50cが流路30に接続された際に、保持部材83に形成された各貫通孔84に連結する。これにより、各弁機構82、各貫通孔84、及び各配管91が一続きになる。なお、各貫通孔84と各配管91との連結は、各配管91を各貫通孔84に嵌入させるものでもよいし、各配管91の先端を各貫通孔84の端部に圧接させるものでもよい。
【0081】
各配管91のそれぞれには、送液ヘッド90を介してポンプ92が接続されている。配管91を貫通孔84に連結させた状態でポンプ92から液体や気体を弁機構82に送り込むと、その圧力に応じて薄肉部分30hを弾性変形させて袋部82aが膨らみ、図7(b)に示すように、溝部30dを区切る。このように、弁機構82に袋部82aを設け、配管91とポンプ92とによって袋部82aに液体や気体を送り込むことによっても、有底穴34とピン35とによる弁機構と同様の効果を得ることができる。また、弁機構としては、これらの他に、開閉自在な電磁弁などを流路30内に設けるようにしてもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、溝部30dと、3つの送排液管30e、30f、30gとからなる略山字型の流路30を示しているが、送排液管の数は3つに限ることなく、さらに多くの送排液管を設けるようにしてもよい。図8に示すセンサユニット100の流路部材101には、溝部102aと、等間隔に形成された5本の送排液管102bとからなる流路102が形成されている。プリズム103の上面に形成された金属膜104には、各送排液管102bの間に位置するように、4つのリンカー膜105が設けられている。また、センサユニット100には、各リンカー膜105を挟むようにして上記第1の実施形態と同様の弁機構106が設けられている。
【0083】
送液ヘッド110には、各送排液管102bのそれぞれに対応したピペット111と、各弁機構106のそれぞれに対応した押圧部材112とが設けられている。各押圧部材112には、上記第1の実施形態と同様にスライド移動機構が接続されている。各押圧部材112は、スライド移動機構の駆動に応じて、各弁機構106を、図8(a)に示す解除位置から、図8(b)に示す押圧位置に移動させて、溝部102aを区切る。これにより、送液ヘッド110は、各弁機構106の位置制御と、液体を注入、排出する各ピペット111との組み合わせによって、各リンカー膜105に個別に送液したり、全ての各リンカー膜105に同時に送液したり、さらには、隣り合う2つ、又は3つのリンカー膜105に送液するなど、流路102の送液経路を選択的に切り替えて汎用性の高い送液を行うことができる。
【0084】
なお、各リンカー膜105は、測定用と参照用とを交互に並べるものでもよいし、各リンカー膜105に測定領域と参照領域とを形成するものでもよい。さらに、高い精度が要求されない場合など、測定信号のノイズを除去する必要がなければ、測定用のリンカー膜のみを並べるものでもよい。
【0085】
また、上記各実施形態では、誘電体ブロックとしてプリズム21、103を示しているが、誘電体ブロックには、この他に、光学ガラスや光学プラスチックなどを板状にしたものや、これらの板状のものとプリズムとを光学面平滑剤(例えば、光学マッチングオイル)で一体化させたものなどを含めるものとする。
【0086】
さらに、上記各実施形態では、全反射減衰を利用した測定装置の一例として、SPR測定装置を示したが、全反射減衰を利用した測定装置としては、この他に、例えば、漏洩モードセンサが知られている。漏洩モードセンサは、誘電体と、この上に順に層設されたクラッド層と光導波層とによって構成された薄膜とからなり、この薄膜の一方の面がセンサ面となり、他方の面が光入射面となる。光入射面に全反射条件を満たすように光を入射させると、その一部が前記クラッド層を透過して前記光導波層に取り込まれる。そして、この光導波層において、導波モードが励起されると、前記光入射面における反射光が大きく減衰する。導波モードが励起される入射角は、SPRの共鳴角と同様に、センサ面上の媒質の屈折率に応じて変化する。この反射角の減衰を検出することにより、前記センサ面上の化学反応が測定される。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】センサユニットの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】SPR測定装置の構成を概略的に説明する説明図である。
【図3】各ピンが押圧位置にある状態と解除位置にある状態とを示す説明図である。
【図4】SPR測定装置による測定の手順を示すフローチャート(1/2)である。
【図5】SPR測定装置による測定の手順を示すフローチャート(2/2)である。
【図6】各リンカー膜に個別に送液する状態を示す説明図である。
【図7】弁機構の他の例を示す説明図である。
【図8】送排液管などの数を増やした例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0088】
10、80、100 センサユニット(流路ユニット)
12 SPR測定装置(全反射減衰を利用した測定装置)
14 測定部
16 送液部(送液装置)
20、81、101 流路部材
21、103 プリズム(誘電体ブロック)
22 保持部材
30、102 流路
30a、b、c 出入口
30d 溝部
30e 第1送排液管
30f 第2送排液管
30g 第3送排液管
30h 薄肉部分
31、104 金属膜(センサ面、薄膜層)
32 測定用リンカー膜(測定用高分子膜)
33 参照用リンカー膜(参照用高分子膜)
34 有底穴
35 ピン
40 照明器(光源)
41 検出器(検出手段)
42 測定ステージ(ステージ)
43、90、110 送液ヘッド
46 スライド移動機構
50a、b、c ピペット
51、112 押圧部材
82 弁機構
82a 袋部
82b 配管部
91 配管
92 ポンプ
111 ピペット
102a 溝部
102b 送排液管
106 弁機構


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を含む試料溶液の注入と排出とが行われる3つの出入口を通じて注入された前記試料溶液を前記各出入口間で送液する流路が形成され、前記試料の反応を検出するためのセンサ面に底面を当接させて、前記流路に流れる前記試料溶液を前記センサ面に接触させる流路ユニットと、
この流路ユニットが着脱自在にセットされるステージと、前記各出入口のぞれぞれにアクセスして、前記流路に前記試料溶液を注入する送液ヘッドとを備えた送液装置とからなる送液システムにおいて、
前記流路を、前記底面に形成された溝部と、前記溝部の両端のそれぞれから前記流路ユニットの上面に貫通して前記出入口を形成する第1送排液管、第2送排液管と、前記溝部の略中央から前記上面に貫通して前記出入口を形成する第3送排液管とから構成し、
前記溝部を区切ることによって、前記第1送排液管から前記溝部を介して前記第3送排液管へと至る第1経路と、前記第2送排液管から前記溝部を介して前記第3送排液管へと至る第2経路と、前記第1送排液管から前記溝部を介して前記第2送排液管へと至る第3経路とで、前記流路の送液経路を選択的に切り替える弁機構を前記流路ユニットに設けたことを特徴とする送液システム。
【請求項2】
前記送液装置には、前記流路に前記試料溶液を注入する際に、前記弁機構を駆動する弁駆動部が設けられていることを特徴とする請求項1記載の送液システム。
【請求項3】
前記弁機構は、前記第3送排液管の両脇に配置され、前記上面から前記溝部に向かう方向に形成された2つの有底穴と、これらの各有底穴のそれぞれに入り込み、前記各有底穴の底面と前記溝部との間で薄肉になった薄肉部分を押圧して弾性変形させ、前記溝部を押しつぶして区切る押圧位置と、前記押圧を解除して前記薄肉部分を初期状態に復帰させる解除位置との間で移動自在なピンとからなり、
前記弁駆動部は、前記各ピンを前記押圧位置と前記解除位置との間で移動させる移動機構であることを特徴とする請求項2記載の送液システム。
【請求項4】
前記弁機構は、前記第3送排液管の両脇、かつ前記溝部の上方近傍に配置され、流体の注入に応じて前記溝部との間で薄肉になった薄肉部分を弾性変形させて膨らみ、前記溝部を押しつぶして区切る膨張状態と、前記流体の排出に応じて縮み、前記薄肉部分を初期状態に復帰させる収縮状態との間で遷移自在な2つの袋部と、これらの各袋部のそれぞれから前記上面に貫通して、前記各袋部への前記流体の注入と排出とを行う配管部とからなり、
前記弁駆動部は、前記各配管部を介して前記各袋部に前記流体の注入と排出とを行い、前記各袋部を前記膨張状態と前記収縮状態との間で遷移させるポンプであることを特徴とする請求項2記載の送液システム。
【請求項5】
前記第1経路に対応する前記センサ面上には、前記試料を固定して、前記試料の反応状況を表す測定信号を取得するための測定用高分子膜が設けられ、
前記第2経路に対応する前記センサ面上には、前記測定信号のノイズを除去する際に用いる参照信号を取得するための参照用高分子膜が設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の送液システム。
【請求項6】
前記送液ヘッドは、前記各出入口に先端を挿入して、この先端に形成された小孔から前記試料溶液を吸引、吐出する複数のピペットを有していることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の送液システム。
【請求項7】
試料を含む試料溶液の注入と排出とが行われる複数の出入口を通じて注入された前記試料溶液を前記各出入口間で送液する流路が形成され、前記試料の反応を検出するためのセンサ面に底面を当接させて、前記流路に流れる前記試料溶液を前記センサ面に接触させる流路ユニットと、
この流路ユニットが着脱自在にセットされるステージと、前記各出入口のぞれぞれにアクセスして、前記流路に前記試料溶液を注入する送液ヘッドとを備えた送液装置とからなる送液システムにおいて、
前記流路を、前記底面に形成された溝部と、前記溝部から前記流路ユニットの上面に貫通して前記各出入口を形成する複数の送排液管とから構成し、
前記溝部を区切ることによって、前記各送排液管と前記溝部とによって形成される複数の送液経路を選択的に切り替える弁機構を前記流路ユニットに設けたことを特徴とする送液システム。
【請求項8】
試料を含む試料溶液の注入と排出とが行われる3つの出入口を通じて注入された前記試料溶液を前記各出入口間で送液する流路が形成され、前記試料の反応を検出するためのセンサ面に底面を当接させて、前記流路に流れる前記試料溶液を前記センサ面に接触させる流路ユニットをステージにセットし、
前記各出入口のそれぞれにアクセスする送液ヘッドによって、前記流路に前記試料溶液を注入する送液方法において、
前記底面に形成された溝部と、前記溝部の両端のそれぞれから前記流路ユニットの上面に貫通して前記出入口を形成する第1送排液管、第2送排液管と、前記溝部の略中央から前記上面に貫通して前記出入口を形成する第3送排液管とから構成される前記流路の送液経路を、前記溝部を区切る弁機構によって、前記第1送排液管から前記溝部を介して前記第3送排液管へと至る第1経路と、前記第2送排液管から前記溝部を介して前記第3送排液管へと至る第2経路と、前記第1送排液管から前記溝部を介して前記第2送排液管へと至る第3経路とに選択的に切り替えて前記試料溶液を送液することを特徴とする送液方法。
【請求項9】
試料を含む試料溶液の注入と排出とが行われる3つの出入口を通じて注入された前記試料溶液を前記各出入口間で送液する流路が形成され、前記試料の反応を検出するためのセンサ面に底面を当接させて、前記流路に流れる前記試料溶液を前記センサ面に接触させる流路ユニットにおいて、
前記流路を、前記底面に形成された溝部と、前記溝部の両端のそれぞれから前記流路ユニットの上面に貫通して前記出入口を形成する第1送排液管、第2送排液管と、前記溝部の略中央から前記上面に貫通して前記出入口を形成する第3送排液管とから構成し、
前記溝部を区切ることによって、前記第1送排液管から前記溝部を介して前記第3送排液管へと至る第1経路と、前記第2送排液管から前記溝部を介して前記第3送排液管へと至る第2経路と、前記第1送排液管から前記溝部を介して前記第2送排液管へと至る第3経路とで、前記流路の送液経路を選択的に切り替える弁機構を設けたことを特徴とする流路ユニット。
【請求項10】
一面に薄膜層が形成された誘電体ブロックと、試料を含む試料溶液の注入と排出とが行われる3つの出入口を通じて注入された前記試料溶液を前記薄膜層に送液する流路が形成され、前記薄膜層に底面を当接させて、前記流路に流れる前記試料溶液を前記薄膜層に接触させる流路部材とからなるセンサユニットを、前記薄膜層に全反射条件を満足するように光を照射する光源と、前記薄膜層からの反射光を受光して電気信号に光電変換する検出手段とが設けられたステージにセットし、
前記各出入口のそれぞれにアクセスする送液ヘッドによって、前記流路に前記試料溶液を注入することにより、前記薄膜層上での前記試料の反応状況を測定する全反射減衰を利用した測定方法において、
前記底面に形成された溝部と、前記溝部の両端のそれぞれから前記流路部材の上面に貫通して前記出入口を形成する第1送排液管、第2送排液管と、前記溝部の略中央から前記上面に貫通して前記出入口を形成する第3送排液管とから構成される前記流路の送液経路を、前記溝部を区切る弁機構によって、前記第1送排液管から前記溝部を介して前記第3送排液管へと至る第1経路と、前記第2送排液管から前記溝部を介して前記第3送排液管へと至る第2経路と、前記第1送排液管から前記溝部を介して前記第2送排液管へと至る第3経路とに選択的に切り替えて前記試料溶液を送液することを特徴とする全反射減衰を利用した測定方法。
【請求項11】
前記第1経路に対応する前記薄膜層上には、前記試料を固定して前記試料の反応状況を表す測定信号を取得するための測定用高分子膜が、前記第2経路に対応する前記薄膜層上には、前記測定信号のノイズを除去する際に用いる参照信号を取得するための参照用高分子膜が、それぞれ設けられており、
前記流路に前記試料溶液を送液する際には、前記弁機構で前記第1経路を選択し、
前記第1経路に前記試料溶液を送液して、前記測定用高分子膜にのみ前記試料溶液を接触させることを特徴とする請求項10記載の全反射減衰を利用した測定方法。
【請求項12】
前記測定用高分子膜に前記試料を固定させた後、前記弁機構で前記第3経路を選択し、
前記第3経路に前記試料と反応させる被検体を含む被検液を送液して、前記測定用高分子膜と前記参照用高分子膜とに前記被検液を接触させ、
前記試料と前記被検体との反応状況を表す前記測定信号と、この測定信号に対応した前記参照信号とを、前記光源と前記検出手段とによって測定することを特徴とする請求項11記載の全反射減衰を利用した測定方法。
【請求項13】
前記参照用高分子膜に前記被検液を接触させる前に、前記弁機構で前記第2経路を選択し、
前記参照用高分子膜に前記被検体が結合することを防止するブロック剤を含むブロック液を前記第2経路に送液して、前記参照用高分子膜に前記ブロック液を接触させ、
前記参照用高分子膜に前記ブロック剤を結合させることを特徴とする請求項12記載の全反射減衰を利用した測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−10537(P2007−10537A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193422(P2005−193422)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】