説明

透明ポリマー被覆導体

本発明は、基板及びポリアニオンとともにカチオン形態で存在する電子伝導性ポリチオフェン・ポリマーを含み透明導電性層を含む部材であって、前記導電性層が50以下のFOMを有する部材(ここで、FOMは、ln(1/T)対[1/SER]のプロットの勾配として定義され、そして、T=可視光透過率、SER=表面電気抵抗(オーム/□)、FOM=性能示数であり、そして該SERの値は1000オーム/□以下である)を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体上に透明ポリマー導電性層を含む部材、及び電気装置、特にディスプレイに適した装置におけるこのような部材の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
電気光学的ディスプレイ装置、例えば液晶ディスプレイ装置(LCD)、エレクトロルミネッセント・ディスプレイ装置、フォトセル、ソリッドステート画像センサー、及びエレクトロクロミック・ウィンドウなどの製造には、金属酸化物、例えば酸化インジウム錫(ITO)、アンチモン・ドープ型酸化錫、及び錫酸カドミウム(酸化カドミウム錫)の透明電子伝導性層(TCL)が広く使用されている。
【0003】
フラット・パネル・ディスプレイのような装置は、典型的には、透明電極として酸化インジウム錫(ITO)層を備えた基板を含有する。ITOの塗布は、真空スパッタリング法によって行われる。真空スパッタリング法は、最大250℃の高い基板温度条件を伴い、従ってガラス基板が一般に使用される。無機ITO層並びにガラス基板の脆弱性に起因する、このような電極の高い製作方法コスト、及び低い可撓性は、潜在的な用途の範囲を制限してしまう。結果として、有機物だけから成る装置を形成することに関心が高まりつつある。このような装置は、可撓性基板としてのプラスチック樹脂と、電極としての有機導電性ポリマー層とを含む。このようなプラスチック電子装置は、新しい特性を有する低コストの装置を可能にする。可撓性のプラスチック基板には、(スパッタリングのようなバッチ法と比較して)連続的なホッパー又はローラ塗布法によって、導電性ポリマー層を設けることができ、そしてその結果得られる有機電極は、可撓性がより高く、コストがより低く、しかもより軽量であるような電子装置の「ロール・ツー・ロール」製作を可能にする。
【0004】
電子伝導性ポリマーは最近、その電子伝導性により、種々の産業分野から注目を集めている。これらのポリマーの多くは、高度に着色され、TCL用途にはあまり適していないものの、これらの電子伝導性ポリマーのいくつか、例えば置換型又は無置換型ピロール含有ポリマー(米国特許第5,665,498号明細書及び同第5,674,654号明細書に記載)、置換型又は無置換型チオフェン含有ポリマー(米国特許第5,300,575号、同第5,312,681号、同第5,354,613号、同第5,370,981号、同第5,372,924号、同第5,391,472号、同第5,403,467号、同第5,443,944号、同第5,575,898号、同第4,987,042号、及び同第4,731,408号の各明細書に記載)、及び置換型又は無置換型アニリン含有ポリマー(米国特許第5,716,550号、同第5,093,439号、及び同第4,070,189号の各明細書に記載)は透明であり、少なくとも中程度の被覆率の薄い層で塗布される場合には、著しく着色されることはない。これらのポリマーはその電子伝導性により、写真画像形成用途のために使用されるプラスチック基板上に塗布されると、優れた、プロセス生存、湿度非依存の静電防止特性を提供することができる(例えば米国特許第6,096,491号;同第6,124,083号;同第6,190,846号の各明細書参照)。
【0005】
欧州特許出願公開第440 957号明細書には、ドーピング剤としてのポリアニオンの存在において酸化重合を行うことによって水性混合物中でポリチオフェンを調製する方法が記載されている。欧州特許出願公開第686 662号明細書には、ポリチオフェンの塗布用溶液中にジ-又はポリヒドロキシ酸及び/又は炭酸、アミド又はラクタム基を含有する化合物を添加することにより、塗布用水溶液から塗布された、ポリチオフェンの高導電性層を形成することができたことが開示されている。塗布された有機導電性ポリマーの層は、種々異なる方法を用いてパターン化することにより電極アレイを形成ことができる。周知の湿式エッチング・マイクロリソグラフィ技術が、国際公開第97/18944号パンフレット及び米国特許第5,976,274号明細書に記載されており、この場合、塗布された有機導電性ポリマー層の上側に、ポジティブ又はネガティブのフォトレジストが適用され、そしてフォトレジストを選択的にUV光に当て、フォトレジストを現像し、導電性ポリマー層をエッチングし、そして最終的に、現像されていないフォトレジストを剥離する工程後に、パターン化された層が得られる。米国特許第5,561,030号明細書でも、同様の方法を用いてパターンを形成するが、ただしこの場合には、パターンは、まだ導電性でない連続的なプレポリマー層内に形成され、そしてマスクを洗い流した後に、残ったプレポリマーが酸化によって導電性にされる。コンベンショナルなリソグラフィ技術を伴うこのような方法は、煩わしい。それというのもこれらの方法は多くの工程を伴い、しかも有害化学物質の使用を必要とするからである。
【0006】
欧州特許出願公開第615 256号明細書に記載された、基板上に導電性ポリマーのパターンを製造する方法は、3,4-エチレンジオキシチオフェン・モノマー、酸化剤、及びベースを含有する組成物を塗布して乾燥させ;乾燥済層をマスクを通るUV線に当て;次いで加熱することを伴う。塗膜のUV露光済領域は、非導電性ポリマーを含み、未露光領域は導電性ポリマーを含む。この方法に従って導電性ポリマーを形成するためには、別個のフォトレジスト層の塗布及びパターン化は必要とならない。
【0007】
米国特許第6,045,977号明細書には、フォトベース発生剤を含有する導電性ポリアニリン層をパターン化する方法が記載されている。このような層のUV露光は、露光済領域内の導電率を低減するベースを生成する。
【0008】
欧州特許出願公開第1 054 414号明細書には、基ClO-、BrO-、MnO4-、Cr2O7-2、S2O8-2、及びH2O2から選択された酸化体を含有する印刷用溶液を使用して、前記導電性ポリマー層上に電極パターンを印刷することにより、導電性ポリマー層をパターン化する方法が記載されている。酸化体溶液に暴露された導電性層領域は、非導電性にされる。
【0009】
Research Disclosure、1998年11月、第1473頁(開示番号41548)には、フォトアブレーションを含む、導電性ポリマーにパターンを形成する種々の手段が記載されている。フォトアブレーションの場合、レーザー照射によって、選択された領域が基板から除去される。このようなフォトアブレーション法は、便利な乾式の1工程法ではあるが、しかし破片の発生が湿式クリーニング工程を必要とすることがあり、また、レーザー・デバイスの光学素子及び機械構造を汚染するおそれがある。電極パターンを形成するために導電性ポリマーを除去することを伴う従来技術の方法はまた、パターン化済表面の導電性領域と非導電性領域との間に光学濃度の差異を招く。このことは回避されるべきである。
【0010】
レーザーを用いて像様に加熱することによって有機導電性ポリマー層をパターン化する方法が、欧州特許出願公開第1 079 397号明細書に開示されている。その方法は、層をほとんどアブレート又は破壊することなしに、抵抗率を約10分の1〜1000分の1に減少させる。
【0011】
ディスプレイ関連装置内に電子伝導性ポリマーを使用することが、従来から考えられている。欧州特許第9910201号明細書には、抵抗型タッチスクリーンに使用するための光透過性導電性ポリマー塗膜を有する光透過性基板が記載されている。米国特許第5,738,934号明細書に記載されたタッチスクリーン・カバーシートは、導電性ポリマー塗膜を有する。
【0012】
米国特許第5,828,432号明細書及び同第5,976,284号明細書に記載された導電性ポリマー層は、液晶ディスプレイ装置内に採用される。この導電性層例は、高導電性であるが、しかし典型的には60%以下の透明度を有する。
【0013】
ポリマー分散型液晶を含むディスプレイ内の透明フィールド拡大層としてポリチオフェンを使用することが、米国特許第6,639,637号明細書及び同第6,707,517号明細書に開示されている。しかし、これらの特許明細書中のポリチオフェン層の性質は非導電性である。
【0014】
薄膜無機発光ダイオードの製造のために、市販のポリチオフェン塗布型シート、例えばAgfaのOrgaconを使用することが、米国特許第6,737,293号明細書に示唆されている。しかし後で論じられるように、このような製品の透明度対表面電気抵抗率は、いくつかの用途には十分でない。
【0015】
液晶ディスプレイ内の面内スイッチングモードにおけるフリンジ・フィールドを防止するために、導電性ポリマーフィルムを使用することが米国特許第5,959,708号明細書に提案されている。しかし、これらのフィルムのための所要導電率はあまり厳しいとは思われない。例えば1つの実施態様(第5欄、第6〜10行)では、ポリマーフィルムは全体的に非導電性であることが可能である。さらに、米国特許第5,959,708号明細書は、これらのフィルムの透過特性に関与するいずれの仕様にも言及していない。
【0016】
ポリチオフェンと酸化ケイ素との複合体を使用して、陰極線管のためのガラス基板上に透明塗膜を用いることが、米国特許第6,404,120号明細書に開示されている。しかし、この方法は、ガラス上でエチレンジオキシチオフェン・モノマーをその場で重合し、これを高温でベーキングし、続いてテトラエチルオルトシリケートで洗浄することを示唆している。このような複雑なプロセスを、幅広の可撓性プラスチック基板のロール・ツー・ロール製造のために実施するのは難しい場合がある。
【0017】
その場で重合されたポリチオフェン及びポリピロールを使用することが、米国特許出願公開第2003/0008135号明細書に、ITOの代わりの導電性フィルムとして提案されている。前に述べたように、このようなプロセスを、導電性塗膜のロール・ツー・ロール製造のために実施するのは難しい。同じ特許出願において、ポリ(3,4エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸の分散体を使用して、比較例が形成された。この比較例は結果として、劣った塗布特性をもたらした。
【0018】
米国特許第5,766,515号明細書において、ポリチオフェン中に内蔵するために、導電率増強剤、例えばジヒドロキシ又はポリヒドロキシ及び/又はカルボキシル基又はアミド基又はラクタム基を有する有機化合物の添加が示唆されている。最近では、米国特許出願公開第2003/0193042号明細書には、多量の有機化合物、例えばフェノールを添加することにより、ポリチオフェンの導電率をさらに改善することが主張されている。しかし、健康上及び安全上の懸念が生じるため、特別の予防策を講じることになる。この予防策は、典型的なウェブ製造・塗布現場にこのような有害化合物を導入する際に採用することが必要になる場合がある。従って場合によっては最終製品のコストが高くなる。
【0019】
B.D. Martin, N. Nikolov, S.K. Pollack, A. Saprigin, R. Shashidhar, F. Zhang 及びP.A. Heiney によってSynthetic Metal、第142巻(2004)、第187〜193頁に発表された「透明ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホネート)薄膜における表面抵抗増強のためのヒドロキシル化された二次ドーパント(Hydroxylated secondary dopants for surface resistance enhancement in transparent poly(3,4-ethylenedioxythiophene)-poly(styrenesulfonate) thin films)」と題される別の最近の刊行物において、少量のヒドロキシル化された二次ドーパントを添加することにより、フィルム透明度を低減することなしに、ポリチオフェン・フィルムの表面抵抗を著しく小さくすることができると述べられた。しかし、後で実証するように、この論文で引用されたフィルムの表面電気抵抗及び透明度は、本発明と等価にはない。
【0020】
本明細書において上述したように、この技術分野では、ディスプレイ内に内蔵することができる多種多様の導電性TCL組成物を開示されている。ディスプレイ関連装置内に導電性ポリマーを使用することは従来考えられてはいるものの、現在のディスプレイ装置によって要求される高い透明度及び低い表面電気抵抗率という厳しい要件を、導電性ポリマーで達成するのは極めて難しい。従って、環境上望ましい成分を使用した典型的な製造条件下で、多種多様な基板上にロール・ツー・ロール塗布することができる電子伝導性ポリマーが、当該技術分野ではなおも是非とも必要である。優れた電極性能に加えて、TCL層はまた、高透明性でなければならず、パターン化可能でなければならず、湿度変化の影響に抵抗しなければならず、そして妥当なコストで製造可能でなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、本発明が関連する従来技術よりも効果的に様々な商業的必要性を満たす、導電性高透明性のウェブ塗布可能な改善されたこのようなTCLフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、基板及びポリアニオンとともにカチオン形態で存在する電子伝導性ポリチオフェン・ポリマーを含み透明導電性層を含む部材であって、前記導電性層が50以下のFOMを有する部材(ここで、FOMは、ln(1/T)対[1/SER]のプロットの勾配として定義され、そして、
T=可視光透過率
SER=表面電気抵抗(オーム/□)
FOM=性能示数
であり、そして
該SERの値は1000オーム/□以下である)を提供する。
【0023】
本発明はさらに、基板と、導電性層と、前記導電性層に電気的に接続された導線とを含むディスプレイ装置であって、前記導電性層が、ポリアニオンとともにカチオン形態で存在する電子伝導性ポリチオフェン・ポリマーを含み、前記導電性層のFOMが50以下である(ここで、FOMは、ln(1/T)対[1/SER]のプロットの勾配として定義され、そして、
T=可視光透過率
SER=表面電気抵抗(オーム/□)
FOM=性能示数
であり、そして
該SERの値は1000オーム/□以下である)
ディスプレイ装置を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の透明導電性層は、ポリアニオンとともにカチオン形態で存在するポリチオフェンの電子伝導性ポリマーを含む。このような電子伝導性ポリマーは有機溶剤又は水又はこれらの混合物中に可溶性又は分散性であってよい。環境上の理由から、水性組成物が好ましい。好ましい電子伝導性ポリマーは、その色が比較的中性であることから、3,4-ジアルコキシ置換型ポリチオフェンスチレンスルホネートを含む。最も好ましい電子伝導性ポリマーは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェンスチレンスルホネート)であり、これは、ポリスチレンスルホン酸とともにカチオン形態のポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含む。上述のポリマーを選択する利点は、これらが主に水を基剤とし、光及び熱に対して安定なポリマー構造であり、安定な分散体であり、そして貯蔵、健康、環境及び取り扱いに関して引き起こされる懸念が最小限で済むという事実から生じる。
【0025】
上記ポリチオフェン系ポリマーの調製については、「ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)及びその誘導体:過去、現在及び未来(Poly(3,4-ethylenedioxythiophene) and its derivatives: past, present and future)」と題される刊行物(L.B. Groenendaal, F. Jonas, D. Freitag, H. Pielartzik及びJ.R. Reynolds、Advanced Material, (2002), 12、第7号、第481〜494頁、及びこの刊行物中の参考文献に、詳細が論じられている。
【0026】
本発明の導電性層は、約1〜約1000 mg/m2乾燥塗布重量の電子伝導性ポリマーを含有するのがよい。好ましくは、導電性層は、約5〜約500 mg/m2乾燥塗布重量の電子伝導性ポリマーを含有するのがよい。適用される導電性ポリマーの実際の乾燥塗布重量は、採用される特定の導電性ポリマーの特性、及び特定の用途の要件によって決定される。これらの要件は、層の導電率、透明度、光学濃度、及びコストを含む。
【0027】
好ましい態様の場合、電子伝導性ポリマーを含有する層は、
a)カチオン形態の式Iに基づくポリチオフェン:
【0028】
【化1】

【0029】
(上記式中、R1及びR2のそれぞれは独立して水素又はC1〜4アルキル基を表すか、又は一緒に結合して、任意には置換型のC1〜4アルキレン基又はシクロアルキレン基、好ましくはエチレン基、任意にはアルキル置換型のメチレン基、任意にはC1〜12アルキル又はフェニル置換型の1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基、又は1,2-シクロへキシレン基を表し;そしてnは3〜1000である)、及び
b)ポリアニオン化合物
を含む混合物を適用することにより調製される。
【0030】
本発明の電子伝導性ポリマーとポリアニオンとの組み合わせは、有機溶剤又は水又はこれらの混合物中に可溶性又は分散性であることが好ましい。環境上の理由から、水性系が好ましい。これらの電子伝導性ポリマーとともに使用されるポリアニオンは、高分子カルボン酸、例えばポリアクリル酸、ポリ(メタクリル酸)及びポリ(マレイン酸)、及び高分子スルホン酸、例えばポリスチレンスルホン酸及びポリビニルスルホン酸のアニオンを含み、高分子スルホン酸が本発明における使用にとって好ましい。なぜならば高分子スルホン酸は広範囲に利用可能であり、また水塗布可能であるからである。これらのポリカルボン酸及びポリスルホン酸は、他の重合性モノマー、例えばアクリル酸及びスチレンのエステルと共重合されたビニルカルボン酸及びビニルスルホン酸から形成されたコポリマーであってもよい。ポリアニオンを提供するポリ酸の分子量は好ましくは1,000〜2,000,000であり、より好ましくは2,000〜500,000である。多酸又はこれらのアルカリ塩は、例えばポリスチレンスルホン酸及びポリアクリル酸として一般に入手可能であり、或いは、周知の方法によって製造することもできる。電子伝導性ポリマー及びポリアニオンの形成に必要な遊離酸の代わりに、多酸及び適量の一酸のアルカリ塩混合物を使用することもできる。ポリチオフェンとポリアニオンとの重量比は、1:99と99:1との間で広範囲に変化することができるが、最適な特性、例えば高い導電率及び分散安定性及び塗布性は、85:15〜15:85、そしてより好ましくは50:50〜15:85で得られる。最も好ましい電子伝導性ポリマーは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェンスチレンスルホネート)であり、これは、カチオン形態のポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸とを含む。
【0031】
ポリチオフェン層の増強された導電率のような所望の結果は、導電率増強剤(CEA)を内蔵することにより達成することができる。好ましいCEAは、ジヒドロキシ、ポリ-ヒドロキシ、カルボキシル、アミド、又はラクタム基を含有する有機化合物、例えば
(1)下記式IIによって表される化合物:
【0032】
(OH)n-R-(COX)m
II
【0033】
(上記式中m及びnは独立して整数1〜20であり、Rは、炭素原子数2〜20のアルキレン基、当該アリーレン鎖内炭素原子数6〜14のアリーレン基、ピラン基、又はフラン基であり、そしてXは-OH又は-NYZであり、Y及びZは独立して水素又はアルキル基である);又は
(2)糖、糖誘導体、ポリアルキレングリコール、又はグリセロール化合物;又は
(3)N-メチルピロリドン、ピロリドン、カプロラクタム、N-メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、又はN-オクチルピロリドンから成る群から選択された化合物;又は
(4)上記のものの組み合わせ
である。
【0034】
特に好ましい導電率増強剤は、糖、及び糖誘導体、例えばスクロース、グルコース、フルクトース、ラクトース;糖アルコール、例えばソルビトール、マンニトール;フラン誘導体、例えば2-フランカルボン酸、3-フランカルボン酸及びアルコールである。エチレングリコール、グリセロール、ジ-又はトリエチレングリコールが最も好ましい。なぜならば、これらは最大の導電率増強を提供するからである。
【0035】
CEAは、任意の好適な方法によって内蔵することができる。好ましくは、CEAは、ポリチオフェンを含む塗布用組成物に添加される。或いは、塗布されたポリチオフェンを含有する層を、任意の好適な方法、例えば塗布後洗浄によってCEAに対して暴露することもできる。
【0036】
塗布用組成物中のCEAの濃度は、使用される特定の有機化合物及び所要導電率に応じて広く変化することができる。しかし、本発明の実施において効果的に採用することができる好都合な濃度は、約0.5〜約25重量%;より好都合には約0.5〜約10重量%;そしてより望ましくは、これが最小有効量であることから、約0.5〜約5重量%である。
【0037】
電子伝導性ポリマーは、皮膜形成ポリマーバインダーの添加なしに適用することができるが、皮膜形成バインダーを採用して層の物理特性を改善することもできる。このような態様の場合、層は、1〜95%の皮膜形成ポリマーバインダーを含んでよい。しかし、皮膜形成バインダーの存在は、層の表面電気抵抗率全体を高めることができる。皮膜形成ポリマーバインダーの最適な重量パーセントは、電子伝導性ポリマーの電気特性、ポリマーバインダーの化学組成、及び特定の回路用途のための要件に応じて変化する。
【0038】
本発明の導電性層内で有用なポリマー皮膜形成バインダーの一例としては、水溶性又は水分散性の親水性ポリマー、例えばゼラチン、ゼラチン誘導体、マレイン酸、無水マレイン酸コポリマー、ポリスチレンスルホネート、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、酢酸酪酸セルロース、ジアセチルセルロース、及びトリアセチルセルロース)、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、及びポリ-N-ビニルピロリドンが挙げられる。他の好適なバインダーは、エチレン系不飽和型モノマー、例えばアクリル酸を含むアクリレート、メタクリル酸を含むメタクリレート、アクリルアミド及びメタクリルアミド、イタコン酸及びその半エステル及びジエステル、置換型スチレンを含むスチレン、アクリロニトリル及びメタクリロニトリル、ビニルアセテート、ビニルエーテル、ハロゲン化ビニル及びビニリデン、及びオレフィン、並びにポリウレタン及びポリエステルイオノマーの水性分散体から調製された付加型ホモポリマー及びコポリマーの水性エマルジョンを含む。
【0039】
電子伝導性ポリマーを含有する層内に含むことができるその他の成分の一例としては、界面活性剤、消泡剤又は塗布助剤、電荷制御剤、増粘剤又は粘度改質剤、粘着防止剤、融合助剤、架橋剤又は硬化剤、可溶性及び/又は固形粒子色素、艶消しビーズ、無機又はポリマー粒子、付着促進剤、バイト(bite)溶剤、又は化学エッチング剤、潤滑剤、可塑剤、酸化防止剤、着色剤又は色味付け剤、及び当該技術分野でよく知られたその他の添加物が挙げられる。好ましい喰付き溶剤は、少なくとも1つのヒドロキシ基又はヒドロキシ置換型置換基で置換された芳香環を含む「導電率増大用」芳香族化合物として米国特許第5,709,984号明細書に開示された揮発性芳香族化合物のいずれかを含むことができる。
【0040】
これらの化合物は、フェノール、4-クロロ-3-メチルフェノール、4-クロロフェノール、2-シアノフェノール、2,6-ジクロロフェノール、2-エチルフェノール、レゾルシノール、ベンジルアルコール、3-フェニル-1-プロパノール、4-メトキシフェノール、1,2-カテコール、2,4-ジヒドロキシトルエン、4-クロロ-2-メチルフェノール、2,4-ジニトロフェノール、4-クロロレゾルシノール、1-ナフトール、及び1,3-ナフタレンジオールなどを含む。これらの喰付き溶剤は、本発明のポリエステル系ポリマーシートに特に適している。この群のうち、最も好ましいのは、レゾルシノール、及び4-クロロ-3-メチルフェノールである。これらの塗膜に適した好ましい界面活性剤は、非イオン性及びアニオン性界面活性剤である。これらの塗膜に適した好ましい架橋剤は、シラン化合物、例えば米国特許第5,370,981号明細書に開示された化合物を含む。
【0041】
本発明の導電性層は、任意の硬質又は可撓性基板上に形成することができる。基板は、透明、半透明又は不透明であってよく、そして着色されているか又は無色であってよい。硬質基板は、ガラス、金属、セラミック及び/又は半導体を含むことができる。可撓性基板、特にプラスチック基板を含むものが、これらの用途の広さ、及び製造、塗布及び仕上げの容易さのために好ましい。
【0042】
可撓性プラスチック基板は、導電性ポリマーフィルムを支持する任意の可撓性の自己支持型プラスチック・フィルムであってよい。「プラスチック」は、通常高分子合成樹脂から形成された高分子化合物であって、他の成分、例えば硬化剤、充填剤、強化剤、着色剤、及び可塑剤と組み合わせることができるものを意味する。プラスチックは熱可塑性材料及び熱硬化性材料を含む。
【0043】
可撓性プラスチック・フィルムは、自己支持型であるのに十分な厚さと機械的完全性を有しなければならないが、しかし、硬質となるほど厚くあるべきではない。可撓性プラスチック基板材料の別の重要な特徴は、そのガラス転移温度(Tg)である。Tgは、プラスチック材料がガラス状態からゴム状態に変化するときのガラス転移温度として定義される。Tgは、材料が実際に流動する前の所定の範囲を含む。可撓性プラスチック基板に適した材料は、比較的低い、例えばガラス転移温度が最大150℃の熱可塑性材料、並びに、ガラス転移温度がより高い、例えば150℃を上回る材料を含む。可撓性プラスチック基板のための材料は、製造プロセス条件(例えば堆積温度及びアニール温度)、並びに製造後条件(例えばディスプレイ製造業者のプロセス・ライン内の条件)のようなファクターに応じて選択される。下記のプラスチック基板のうちの或る特定のものは、最大約200℃以上、いくつかのものは最大300〜500℃のより高い処理温度に、損傷なしで耐えることができる。
【0044】
典型的には、可撓性プラスチック基板は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステルイオノマーを含むポリエステル、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリスルホン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリイミド、ポリエーテルエステル、ポリエーテルアミド、硝酸セルロース、酢酸セルロース、ポリ(ビニルアセテート)、ポリスチレン、ポリオレフィンイオノマーを含むポリオレフィン、ポリアミド、脂肪族ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ(メチル(x-メタクリレート)、脂肪族又は環状ポリオレフィン、ポリアリーレート(PAR)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド(PI)、テフロン(登録商標)、ポリ(ペルフルオロ-カルボキシ)フルオロポリマー(PFA)、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)、ポリ(エーテルケトン)(PEK)、ポリ(エチレンテトラフルオロエチレン)フルオロポリマー(PETFE)、及びポリ(メチルメタクリレート)及び種々のアクリレート/メタクリレートコポリマー(PMMA)天然及び合成紙、樹脂を塗布又はラミネートされた紙、ポリマー発泡体を含むボイド含有ポリマー、ミクロボイド含有ポリマー及びミクロ孔性材料、又は布地、又はこれらの任意の組み合わせである。
【0045】
脂肪族ポリオレフィンは、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、及び、延伸ポリプロピレン(OPP)を含むポリプロピレンを含んでよい。環状ポリオレフィンは、ポリ(ビス(シクロペンタジエン))を含んでよい。好ましい可撓性プラスチック基板は、環状ポリオレフィン又はポリエステルである。種々の環状ポリオレフィンが可撓性プラスチック基板に適している。その例は、日本国東京在、Japan Synthetic Rubber Co.によって製造されたArton(商標);日本国東京在、Zeon Chemicals L.P.によって製造されたZeonor T;及び独国Kronberg在、Celanese A.G.によって製造されたTopas(商標)を含む。Artonは、ポリマーフィルムであるポリ(ビス(シクロペンタジエン))縮合物である。或いは、可撓性プラスチック基板はポリエステルであってもよい。好ましいポリエステルは芳香族ポリエステル、例えばAryliteである。基板は透明、半透明又は不透明であってよいが、ほとんどのディスプレイ用途にとっては、透明基板を含む透明部材が好ましい。プラスチック基板の種々の例を上に示したが、言うまでもなく、可撓性基板は他の材料、例えば可撓性ガラス及びセラミックから形成することもできる。
【0046】
可撓性プラスチック基板は、硬質塗膜で強化することができる。典型的には、硬質塗膜はアクリル塗膜である。このような硬質塗膜は典型的には、厚さ1〜15ミクロン、好ましくは2〜4ミクロンであり、そしてラジカル重合によって提供することができる。ラジカル重合は、適切な重合性材料を熱又は紫外線によって開始される。基板に応じて、種々異なる硬質塗膜を使用することができる。基板がポリエステル又はArtonの場合、特に好ましい硬質塗膜は、「Lintec」として知られる塗膜である。LintecはUV硬化型ポリエステルアクリレート及びコロイドシリカを含有する。Arton上に堆積される場合には、硬質塗膜は水素を除いて、35原子%のC、45原子%のO、及び20原子%のSiから成る表面組成を有する。別の特に好ましい硬質塗膜は、Wisconsin, New Berlin在Tekra Corporationによる「Terrapin」の商品名で販売されているアクリル塗膜である。
【0047】
最も好ましい可撓性プラスチック基板はその優れた機械特性及び熱特性により、そして、適度な価格で大量に入手可能という理由から、ポリエステルである。使用のために選択される特定のポリエステルは、所望に応じて、ホモ-ポリエステル又はコ-ポリエステル、又はこれらの混合物であってよい。ポリエステルは、所望に応じて、結晶性又は非晶質、又はこれらの混合物であってよい。ポリエステルは通常、有機ジカルボン酸と有機ジオールとの縮合によって調製され、従って有用なポリエステルの例を、これらのジオール及びジカルボン酸の前駆体に関して、本明細書において以下に記載する。
【0048】
本発明における使用に適したポリエステルは、芳香族、脂環式、及び脂肪族のジオールと、脂肪族、芳香族及び脂環式ジカルボン酸との縮合から誘導されたポリエステルであり、そして脂環式、脂肪族、又は芳香族ポリエステルであってよい。本発明の実施において利用することができる有用な脂環式、脂肪族、又は芳香族ポリエステルの例は、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンドデケート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンナフタレート)、ポリ(エチレン(2,7-ナフタレート))、ポリ(メタフェニレンイソフタレート)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(エチレンスクシネート)、ポリ(エチレンアジペート)、ポリ(エチレンセバケート)、ポリ(デカメチレンアゼレート)、ポリ(エチレンサバケート)、ポリ(デカメチレンアジペート)、ポリ(デカメチレンセバケート)、ポリ(ジメチルプロピオラクトン)、ポリ(パラ-ヒドロキシベンゾエート)(Ekonol)、ポリ(エチレンオキシベンゾエート)(A-tell)、ポリ(エチレンイソフタレート)、ポリ(テトラメチレンテレフタレート)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタレート)、ポリ(デカメチレンテレフタレート)、ポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)(trans)、ポリ(エチレン1,5-ナフタレート)、ポリ(エチレン2,6-ナフタレート)、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)(Kodel)(cis)、及びポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)(Kodel)(trans)である。ジオールと芳香族ジカルボン酸との縮合から調製されたポリエステル化合物が、本発明における使用に好ましい。このような有用な芳香族カルボン酸の一例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、及びα-フタル酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、4,4'-ジフェニルジカルボン酸、4,4-ジフェニルスルホン-ジカルボン酸、1,1,3-トリメチル-5-カルボキシ-3-(p-カルボキシフェニル)-イダン、ジフェニルエーテル4,4'-ジカルボン酸、及びビス-p(カルボキシ-フェニル)メタンなどが挙げられる。前述の芳香族ジカルボン酸のうち、ベンゼン環に基づくもの(例えばテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸)が、本発明の実施における使用にとって好ましい。これらの好ましい酸前駆体の中で、テレフタル酸が特に好ましい酸前駆体である。
【0049】
本発明の実施における使用のために好ましいポリエステルは、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)及びポリ(エチレンナフタレート)、及びこれらのコポリマー及び/又は混合物を含む。これらのポリエステルの選択肢の中では、ポリ(エチレンテレフタレート)が最も好ましい。
【0050】
ディスプレイ装置における使用に有用な前記基板は、平面形及び/又は湾曲形であってよい。基板の曲率は、曲率半径によって特徴付けることができる。曲率半径はいかなる値を有してもよい。或いは基板は、所定の角度を形成するように曲げられてもよい。これらの角度は0°〜360°(これらの間の全ての角度及びこれらの間の全ての範囲を含む)の任意の角度であってよい。基板が導電性である場合、基板と導電性ポリマーとの間に、絶縁材料、例えば非導電性ポリマーを配置することができる。
【0051】
基板は任意の厚さ、例えば10-8 cm〜1 cm(これらの間の全ての値及びこれらの間の全ての範囲を含む)であってよい。より厚い層及びより薄い層を使用することもできる。基板は均一の厚さを有する必要はない。好ましい形状は正方形又は方形であるが、いかなる形状のものも使用することができる。基板に導電性ポリマーを塗布する前に、例えばラビングによって、画像の適用によって、パターン化された電気的接点領域の適用によって、区別可能な領域内の1つ又は2つ以上の色の存在によって、エンボシング、マイクロエンボシング、マイクロ複製などによって、基板を物理的且つ/又は光学的にパターン化することができる。
【0052】
前記基板は、必要に応じて単層又は多層を含むことができる。多数の層は、任意の数の補助層、例えば静電防止層、つなぎ層、又は付着促進層、耐磨耗層、カール制御層、搬送層、バリヤ層、スプライス提供層、UV吸収層、光学効果提供層、例えば反射防止・防眩層、防水層、接着剤層、及び画像形成層などを含むことができる。
【0053】
ポリマー支持体は、当該技術分野で知られている任意の方法、例えば押出し、同時押出し、急冷、延伸、ヒートセット、ラミネーション、塗布及び溶剤流延を伴う方法によって形成することができる。ポリマー基板が、当該技術分野で知られている任意の好適な方法によって、例えばフラットシート・プロセス又は気泡又は管プロセスによって形成された延伸シートであることが好ましい。フラットシート・プロセスは、スリットダイを通るシート材料を押出すか又は同時押出しし、そして、冷却された流延ドラム上で、押出し済又は同時押出し済ウェブを急冷して、シートのポリマー成分がその凝固温度未満に急冷されるようにすることを伴う。
【0054】
次いで急冷されたシートを、ポリマーのガラス転移温度を上回る温度で、互いに垂直の方向で延伸することにより、二軸延伸する。シートは一方の方向で、次いで第2の方向で延伸することができ、或いは両方向で同時に延伸することもできる。任意の方向における好ましい延伸比は、3:1以上である。シートが延伸された後、両延伸方向における後退が生じないようにシートを或る程度拘束しながら、ポリマーを結晶化させるのに十分な温度まで加熱することにより、シートをヒートセットする。
【0055】
押出し、同時押出し、延伸などの後に、又は流延と完全延伸との間に、ポリマーシートには、任意の数の塗布及び処理を施すことにより、シートの特性、例えば印刷適性、バリヤ特性、ヒートシール性、スプライス性、他の基板及び/又は画像形成層との付着力を改善することができる。このような塗膜の例は、印刷適性のためのアクリル塗膜、ヒートシール特性のためのポリハロゲン化ビニリデンであってよい。このような処理の例は、塗布性及び付着力を改善するための、火炎、プラズマ及びコロナ放電処理、紫外線処理、オゾン処理及び電子ビーム処理であってよい。更なる処理例は、ウェブ表面に対する特定の効果を得るための、カレンダリング、エンボシング、及びパターン化であってよい。ポリマーシートはさらに、ラミネーション、接着、コールド又はヒート・シーリング、押出し塗布、又は当該技術分野で知られた任意の他の方法によって、任意の他の好適な基板内に内蔵することができる。
【0056】
本発明の導電性層は、当該技術分野で知られている任意の方法によって形成することができる。特に好ましい方法は、任意のよく知られた塗布方法、例えばエアナイフ塗布、グラビア塗布、ホッパー塗布、ローラ塗布、噴霧塗布、電気化学塗布、インクジェット印刷、及びフレキソグラフ印刷などによって、好適な塗布用組成物から塗布することを含む。或いは、導電性層は、熱及び/又は圧力を加えることにより、供与体部材から受容体部材へ転写させることもできる。導電性層と受容体部材との間には、接着剤層が好ましくは存在してよい。
【0057】
別の好ましい導電性層形成方法は、一連の米国特許明細書及び特許出願公開明細書、例えば米国特許第6,114,088号;同第6,140,009号;同第6,214,520号;同第6,221,553号;同第6,582,876号;同第6,586,153号(Wolk他);同第6,610,455号;同第6,582,875号;同第6,252,621号;米国特許出願公開第2004/0029039号(Tutt他);米国特許第5,171,650号(Ellis他);米国特許出願公開第2004/0065970号(Blanchet-Fincher)の各明細書に開示されているような熱転写による。従って、供与体基板と、本発明の導電性層を含む多成分転写ユニットとを含む熱転写要素を形成できることが考えられる。このような転写ユニットは、受容体支持体上に熱を加えることにより、完全又は部分的に転写され、こうして、受容体支持体上に本発明の導電性層を内蔵する。
【0058】
本発明の導電性層の他に、上述の熱転写要素は、多数の他の層を含んでよい。これらの付加的な層は、輻射線吸収層を含むことができる。輻射線吸収層は光-熱変換層、中間層、リリース層、付着促進層、作業層(装置の作業の際に使用される)、非作業層(装置の作業の際には使用されないが、しかし例えば転写層の転写、損傷及び/又は外部要素との接触に対する保護を容易にすることができる)であってよい。
【0059】
本発明の層の熱転写は、選択された熱転写要素部分上に指向性の熱を加えることにより、達成することができる。加熱用要素(抵抗性加熱用要素)、熱への変換用輻射線(例えば光ビーム)を使用して、そして/又は、熱転写要素の層に、発熱用の電流を加えることにより、熱を発生させることができる。
【0060】
いくつかの具体的なディスプレイ用途、例えば有機又は高分子発光ダイオードを伴う用途の場合には、導電性層の粗さが重要であり得る。典型的には、塗布された基板の光学特性及びバリヤ特性を最大化するためには、粗さ(Ra)が低い極めて平滑な表面が所望される。本発明の導電性層の好ましいRa値は、1000 nm未満、より好ましくは100 nm未満、そして最も好ましくは20 nm未満である。しかし言うまでもなく、いくつかの用途において、より粗い表面が必要とされる場合には、当該技術分野で知られている任意の手段によって、本発明の範囲内で、より高いRa値を得ることができる。
【0061】
本発明の導電性層の極めて重要な基準は、導電性層の2つの重要な特性、すなわちその透明度及びその表面電気抵抗に関与する。本明細書中で上に示唆したように、現在のディスプレイ装置によって要求される高い透明度及び低いSERという厳しい要件を、導電性ポリマーで達成するのは極めて難しい。典型的には、不所望に透明度を低減する比較的厚い層を塗布することにより、より低い表面電気抵抗値が達成される。加えて、同じ一般クラスの導電性ポリマー、例えばポリチオフェン含有ポリマーでも、分子量、不純物含有量、ドーピング・レベル、及び形態などの差に基づいて、異なるSER及び透明度をもたらすことがある。
【0062】
本発明の過程において、電子伝導性ポリマー層に性能示数(FOM)を割り当てることができることが見いだされる。このようなFOM値は、(1)層の種々の厚さ値において導電性層の可視光透過率(T)及び表面電気抵抗(SER)を測定し、(2)これらのデータをln(1/T)対1/SERスペースにおいてプロットし、そして(3)次いでこれらのデータ点に最良にフィットし、そしてこのようなプロットの原点を通過する直線の勾配を見極めることにより、決定される。いかなる特定の理論にも拘束されることなく、ポリアニオン化合物とともにカチオン形態のポリチオフェンを含む電子伝導性ポリマー層に対応するln(1/T)対1/SERのプロットが、線形の関係、好ましくは原点を通る線形の関係を生じさせることが見いだされる。この場合、このような線形プロットの勾配は、電子伝導性ポリマー層のFOMである。いかなる特定の理論にも拘束されることなく、FOM値が低ければ低いほど、電子伝導性ポリマー層の電気特性及び光学特性がより望ましいものになること、すなわち、FOM値が低ければ低いほど、導電性層のSERは低くなり、そして導電性層の透明度は高くなることが判った。本発明の場合、<100、好ましくは≦50、そしてより好ましくは≦40のFOM値が、ディスプレイ用途にとって最も望ましい結果をもたらすことが判った。
【0063】
塗布されていない基板の関与を補正した後、530 nmにおける総光学濃度から、可視光透過率値Tを見極める。530 nmにおける総光学濃度を測定するModel 361T X-Rite濃度計が、この測定に最適である。
【0064】
可視光透過率Tは、下記表現:
T=1/(10o.d.(corrected))
による、530 nmにおける補正済総光学濃度、o.d.(corrected)に関連する。
【0065】
SER値は典型的には、標準的な四点電気プローブによって測定する。
【0066】
本発明の導電性層のSER値は、必要に応じて変わることができる。ディスプレイ装置において電極として使用するために、SERは本発明によれば、典型的には10000オーム/□未満、好ましくは5000オーム/□、より好ましくは1000オーム/□、そして最も好ましくは500オーム/□である。
【0067】
本発明の導電性層の透明度は、必要に応じて変わることができる。ディスプレイ装置において電極として使用するために、導電性層は、高透明性であることが望まれる。従って本発明の導電性層の可視光透過率値Tは、>65%、好ましくは≧70%、より好ましくは≧80%、そして最も好ましくは>90%である。
【0068】
導電性層は、一体的な全体を形成する必要はなく、均一な厚さを有する必要はなく、そしてベース基板と隣接する必要もない。
【0069】
本発明の特定の態様の場合、電子伝導性ポリマー層を電極又は他のアレイ・パターンとして形成することができる。有用なパターン化技術は、インクジェット印刷、転写印刷、例えばリソプレート印刷、種々の乾式エッチング法(例えばレーザー・エッチング及び熱アブレーション)、湿式エッチング法、例えば国際公開第97/18944号パンフレット及び米国特許第5,976,274号明細書に記載されたマイクロリソグラフィ技術、及びその他の技術を含む。
【0070】
1つの態様の場合、上述の基板及び上述の電子伝導性ポリマー層は、ディスプレイ装置内の透明部材として内蔵される。ディスプレイ装置は典型的には少なくとも1つの画像形成性層を含む。画像形成性層は電気的に画像形成可能な材料を含有することができる。電気的に画像形成可能な材料は発光性又は光変調性であってよい。発光材料は性質上、無機物又は有機物であることが可能である。特に好ましくは、有機発光ダイオード(OLED)又は高分子発光ダイオード(PLED)である。光変調材料は、反射性又は透過性であることが可能である。光変調材料は、電気化学材料、電気泳動材料、例えばGyricon粒子、エレクトロクロミック材料、又は液晶であってよい。液晶材料は、ねじれネマティック(TN)、超ねじれネマティック(STN)、強誘電性、磁性、又はキラル・ネマティック液晶であってよい。特に好ましいのは、キラル・ネマティック液晶である。キラル・ネマティック液晶は、ポリマー分散型液晶(PDLC)であってよい。しかし、場合によっては付加的な利点を提供するために、スタック状画像形成層又は複数の基板層を有する構造が任意に選択される。
【0071】
前述の電子伝導性ポリマー層を含む本発明は、単に、このような従来の装置内に存在する1つ又は2つ以上の任意の導電性電極の代わりに使用されるだけでもよい。本発明は好ましくは、前記導電性ポリマーに電流、電圧などを印加する(すなわち電気的に接続する)ために、基板上の電子伝導性ポリマー層に取り付けられた(接触させられた)少なくとも1つの電気的な導線を有する。導線は、好ましくは基板と電気的に接触した状態にはなく、そしてパターン化された堆積金属、導電性又は半導体材料、例えばITOから形成することができ、伝導性ポリマーと接触している単純なワイヤー、及び/又は例えば導電性ポリマー、炭素、及び/又は金属粒子を含む導電性ペイントであってよい。本発明による装置は好ましくはまた、導線を介して導電性電極に電気的に接続された電流源又は電圧源を含む。電源、バッテリーなどを使用することができる。本発明の1つ態様をディスプレイ成分60として図1に示す。基板62には電子伝導性ポリマー層64が塗布されている。導電性ポリマー層64は電気的な導線68によって電源66に接続されている。
【0072】
好ましい態様の場合、電気的に画像形成可能な材料は、電場によってアドレッシングされ、次いで電場が除去された後、その画像を保持することができる。この特性は典型的には「双安定」と呼ばれる。「双安定」を示す特に好適な電気的に画像形成可能な材料は、電気化学材料、電気泳動材料、例えばGyricon粒子、エレクトロクロミック材料、磁性材料、又はキラル・ネマティック液晶であってよい。特に好ましいのはキラル・ネマティック液晶である。キラル・ネマティック液晶は、ポリマー分散型液晶(PDLC)であってよい。
【0073】
本発明の用途を説明するために、ディスプレイは主として液晶ディスプレイとして説明される。しかし、本発明は多数の他のディスプレイ用途において利用されることも考えられる。
【0074】
ディスプレイ
本明細書中に使用される「液晶ディスプレイ」(LCD)は、種々の電子装置において使用されるフラット・パネル・ディスプレイの一種である。最小限に見ても、LCDは、基板と、少なくとも1つの導電性層と、液晶層とを含む。LCDは2つの偏光子材料シートと、これらの偏光子シート間に位置する液晶溶液とを含んでよい。偏光子材料シートは、ガラス又は透明プラスチックから成る基板を含んでよい。LCDは機能層を含んでもよい。図2に示されたLCD物品50の1つ態様の場合、透明な多層可撓性基板15には、第1の導電性層20が塗布されている。第1の導電性層20はパターン化されていてよい。第1の導電性層20の上には、光変調液晶層30が塗布されている。第2の導電性層40には、誘電層42が適用され上塗りされている。誘電層42には、誘電導電性の行接点44が取り付けられており、誘電層42は、導電性層と誘電導電性の行接点との間の相互接続を可能にするビア(図示せず)を含む。図2は、液晶層30と第2の導電性層40との間に適用された任意のナノ顔料含有機能層35を示している。典型的なマトリックス-アドレス発光ディスプレイ装置において、単一の基板上に多数の発光デバイスが形成され、これらの発光デバイスは、規則的な格子パターンを成して群の形態で配列される。活性化は行及び列ごとに行うことができる。
【0075】
液晶(LC)は光学スイッチとして使用される。基板は通常、透明導電性電極を有するように製造される。電極内では、電気的「駆動」信号がカップリングされる。駆動信号は、LC材料中の相変化又は状態変化を引き起こすことができる電場を誘発し、LCは、その相及び/又は状態に応じて、異なる光反射特性を示す。
【0076】
LC
液晶は、中間相における分子の配列に応じて、ネマティック(N)、キラル・ネマティック(N*)、又はスメクティックであることが可能である。キラル・ネマティック液晶(N*LC)ディスプレイは典型的には反射性である。すなわち、バックライトが必要でなく、偏向フィルム又はカラーフィルターの使用なしに機能することができる。
【0077】
キラル・ネマティック液晶は、よく出会うLCデバイスにおいて使用されているねじれネマティック及び超ねじれネマティックよりもピッチが細かい液晶のタイプを意味する。キラル・ネマティック液晶がこのように名付けられたのは、このような液晶配合物が、キラル剤をホスト・ネマティック液晶に添加することにより一般に得られるからである。双安定又は多安定ディスプレイを製造するために、キラル・ネマティック液晶を使用することができる。これらのデバイスは、不揮発性「メモリー」特性により電力消費量を著しく低減している。このようなディスプレイは、画像を維持するための連続的な駆動回路を必要としないので、消費電力を著しく低減する。キラル・ネマティック・ディスプレイは場の不存在において双安定であり、2つの安定なテキスチャーは、反射性の平面テキスチャー、及び弱散乱性のフォーカル・コニック・テキスチャーである。平面テキスチャーの場合、キラル・ネマティック液晶分子の螺旋軸は、液晶が配置された基板に対して実質的に垂直である。フォーカル・コニック状態の場合、液晶分子の螺旋軸は、概ねランダムに配向される。キラル・ネマティック材料中のキラル・ドーパントの濃度を調節することにより、中間相のピッチ長が変調され、ひいては反射される輻射線の波長が変調される。科学的な研究を目的として、赤外線及び紫外線を反射させるキラル・ネマティック材料が使用されている。商業的なディスプレイは、最も多くの場合、可視光を反射させるキラル・ネマティック材料から製作される。いくつかの周知のLCDデバイスは、米国特許第5,667,853号明細書に記載されているようなガラス基板を覆う、化学エッチングされた透明な導電性層を含む。
【0078】
1つ態様の場合、連続マトリックス中にキラル・ネマティック液晶組成物を分散することができる。このような材料は、「ポリマー分散型液晶」材料又は「PDLC」材料と呼ばれる。このような材料は種々の方法によって形成することができる。例えば、Doane他(Applied Physics Letters,48, 269(1986))は、ポリマーバインダー中にほぼ0.4 μm液滴のネマティック液晶5 CBを含むPDLCを開示している。このPDLCを調製するために相分離法が用いられる。モノマー及び液晶を含有する溶液がディスプレイ・セル内に充填され、次いで材料は重合される。重合されると、液晶は不混和性になり、核生成して液滴を形成する。West他(Applied Physics Letters,63, 1471(1993))は、ポリマーバインダー中にキラル・ネマティック混合物を含むPDLCを開示している。ここでもまた、PDLCを調製するために相分離法が用いられる。液晶材料及びポリマー(ヒドロキシ官能化ポリメチルメタクリレート)を、ポリマーのための架橋剤とともに、共通の有機溶剤トルエン中に溶解し、そして基板上の透明導電性層上に塗布する。高温でトルエンを蒸発させると、ポリマーバインダー中の液晶材料の分散体が形成される。Doane他及びWest他の相分離法は、或る特定の製造環境中で好ましくない場合がある有機溶剤の使用を必要とする。
【0079】
実質的な単層よりも多層のN*LCドメイン層がある場合、ディスプレイのコントラストは劣化する。「実質的な単層」とは、ディスプレイ平面に対して垂直な方向において、ディスプレイ(又は画像形成性層)のほとんどの点、好ましくはディスプレイの点(又は面積)の75パーセント以上で、最も好ましくはディスプレイの点(又は面積)の90パーセント以上で、電極間にサンドイッチされたドメインから成る層が単層を上回らないことを意味するものとして、出願人によって定義される。換言すれば、電極間に単一ドメインだけが存在するディスプレイの点(又は面積)の量と比較して、最大の場合でも、ディスプレイの点(又は面積)のわずかな部分(好ましくは10パーセント未満)だけしか、ディスプレイ平面に対して垂直な方向において、電極間に単一ドメインを上回るドメイン(2つ又は3つ以上のドメイン)を有することはない。
【0080】
単層のために必要となる材料の量は、ドメインの完全に閉じた充填配列を想定して、個々のドメインサイズに応じて計算することにより、正確に見極めることができる。(実際には、ギャップが発生する欠陥、及びオーバーラップする液滴又はドメインに起因する何らかの不均一が存在することがある。)これに基づいて、算出量は、好ましくは、単層ドメイン被覆に必要な量の約150パーセント未満、好ましくは単層ドメイン被覆に必要な量の約125パーセント以下、より好ましくはドメイン単層に必要な量の約110パーセント以下である。さらに、塗布される液滴の幾何学的形状及びブラック反射条件に基づいて、異なる状態でドープされたドメインを適切に選択することにより、改善された視角及び広帯域の特徴を得ることができる。
【0081】
本発明の好ましい態様の場合、ディスプレイ装置又はディスプレイ・シートは単に、ディスプレイ前面に対して垂直な線に沿って、液晶材料の単一画像形成層、好ましくは可撓性基板上に塗布された単層を有するにすぎない。このような構造は、互いに対向する基板間にそれぞれ鉛直方向に積み重ねられた画像形成層と比較して、モノクローム棚ラベルなどのために特に有利である。しかし、積み重ねられた画像形成層を有する構造が、何らかの事例において付加的な利点を提供するために任意に使用される。
【0082】
好ましくは、ドメインは平坦化された球体であり、平均して厚さが長さよりも相当に小さく、好ましくは50%以上小さい。より好ましくは、ドメインは平均して、厚さ(深さ)と長さとの比が1:2〜1:6である。ドメインの平坦化は、塗膜を適正に調製し、そしてこれを十分に迅速に乾燥させることにより達成することができる。ドメインは好ましくは、平均直径2〜30ミクロンである。画像形成層の厚さは好ましくは、最初の塗布時には10〜150ミクロンであり、乾燥時には2〜20ミクロンである。
【0083】
液晶材料の平坦化ドメインは、長軸と短軸とを有するものとして定義することができる。ディスプレイ又はディスプレイ・シートの好ましい態様の場合、長軸のサイズは、ドメインの大部分のセル(又は画像形成性層)厚よりも大きい。このような寸法の関係は米国特許第6,061,107号明細書に示されている。
【0084】
ネマティック・ホスト
現在のキラル・ネマティック液晶材料は通常、キラル・ドーパントと組み合わされた1種以上のネマティック・ホストを含む。一般に、ネマティック液晶相は、有用な複合体特性を提供するように組み合わされた1つ又は2つ以上のメソゲニック成分から成っている。多くのこのような材料は、商業的に入手可能である。キラル・ネマティック液晶混合物のネマティック成分は、適切な液晶特性を有する任意の好適なネマティック液晶混合物又は組成物から成っていてよい。本発明において使用するのに適したネマティック液晶は、好ましくはネマティック又はネマトゲニック物質、例えば既知のクラスのアゾキシベンゼン、ベンジリデンアニリン、ビフェニル、ターフェニル、フェニル又はシクロヘキシルベンゾエート、シクロヘキサンカルボン酸のフェニル又はシクロヘキシルエステル;シクロヘキシル安息香酸のフェニル又はシクロヘキシルエステル;シクロヘキシルシクロヘキサンカルボン酸のフェニル又はシクロヘキシルエステル;安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸、及びシクロヘキシルシクロヘキサンカルボン酸のシクロヘキシルフェニルエステル;フェニルシクロヘキサン;シクロヘキシルビフェニル;フェニルシクロヘキシルシクロヘキサン;シクロヘキシルシクロヘキサン;シクロヘキシルシクロヘキセン;シクロヘキシルシクロヘキシルシクロヘキセン;1,4-ビス-シクロヘキシルベンゼン;4,4-ビス-シクロヘキシルビフェニル;フェニル-又はシクロヘキシルピリミジン;フェニル-又はシクロヘキシルピリジン;フェニル-又はシクロヘキシルピリダジン;フェニル-又はシクロヘキシルジオキサン;フェニル-又はシクロヘキシル-1,3-ジチアン;1,2-ジフェニルエタン;1,2-ジシクロヘキシルエタン;1-フェニル-2-シクロヘキシルエタン;1-シクロヘキシル-2-(4-フェニルシクロヘキシル)エタン;1-シクロヘキシル-2',2-ビフェニルエタン;1-フェニル-2-シクロヘキシルフェニルエタン;任意にはハロゲン化されたスチルベン;ベンジルフェニルエーテル;トラン;置換型桂皮酸及びエステル;及び更なるクラスのネマティック又はメナトゲニック物質から選択された低分子量の化合物から成る。これらの化合物中の1,4-フェニレン基は、側方で一又は二フッ素化することもできる。この好ましい態様の液晶材料は、このタイプのアキラル化合物に基づいている。
【0085】
これらの液晶材料の成分として可能な最も重要な化合物は、次の式R'-X-Y-Z-R''によって特徴付けることができる。この式中、同一であるか又は異なっていてよいX及びYはそれぞれの場合において、互いに独立して、-Phe-、-Cyc-、-Phe-Phe-、-Phe-Cyc-、-Cyc-Cyc-、-Pyr-、-Dio-、-B-Phe-及び-B-Cyc-によって形成された基からの二価ラジカルであり;Pheは無置換型又はフッ素置換型1,4-フェニレンであり、Cycはトランス-1,4-シクロヘキシレン又は1,4-シクロヘキセニレンであり、Pyrはピリミジン-2,5-ジイル又はピリジン-2,5-ジイルであり、Dioは1,3-ジオキサン-2,5-ジイルであり、そしてBは2-(トランス-1,4-シクロヘキシル)エチル、ピリミジン-2,5-ジイル、ピリジン-2,5-ジイル、又は1,3-ジオキサン-2,5-ジイルである。これらの混合物中のYは、次の二価基-CH=CH-、-C≡C-、-N=N(O)-、-CH=CY'-、-CH=N(O)-、-CH2-CH2-、-CO-O-、-CH2-O-、-CO-S-、-CH2-S-、-COO-Phe-COO-又は単結合から選択され、Y'はハロゲン、好ましくは塩素、又は-CNであり;R'及びR''はそれぞれの場合、互いに独立して、炭素原子数1〜18、好ましくは1〜12のアルキル、アルケニル、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルカノイルオキシ、アルコキシカルボニル、又はアルコキシカルボニルオキシであり、或いは、R'及びR''の一方は、-F、-CF3、-OCF3、-Cl、-NCS又は-CNである。これらの化合物のほとんどにおいて、R'及びR''はそれぞれの場合、互いに独立して、異なる鎖長を有するアルキル、アルケニル、又はアルコキシであり、ネマティック媒質中の炭素原子の和が2〜9、好ましくは2〜7である。ネマティック液晶相は典型的には2〜20、好ましくは2〜15種の成分から成っている。上記材料リストは、包括的又は限定的なものであることを意図するものではない。このリストは、使用に適した種々の代表的な材料又は混合物を開示する。これらの混合物は、電気光学的液晶組成物中に活性要素を含む。
【0086】
好適なキラル・ネマティック液晶組成物は好ましくは、正の誘電異方性を有し、そして、フォーカル・コニック・テキスチャーとねじれ平面テキスチャーとを形成するのに効果的な量で、キラル材料を含む。キラル・ネマティック液晶材料は、その優れた反射特性、双安定性及びグレースケール・メモリーのために好ましい。キラル・ネマティック液晶は典型的には、所期ピッチ長さを形成するのに十分な量の、ネマティック液晶とキラル材料との混合物である。好適な商業的ネマティック液晶は、例えば、E. Merck(独国Darmstadt)によって製造された、E7、E44、E48、E31、E80、BL087、BL101、ZLI-3308、ZLI-3273、ZLI-5048-000、ZLI-5049-100、ZLI-5100-100、ZLI-5800-000、MCL-6041-100、TL202、TL203、TL204及びTL205を含む。正の誘電異方性を有するネマティック液晶、特にシアノビフェニルが好ましいが、負の誘電異方性を有するネマティック液晶を含む、当該技術分野で知られた事実上いかなるネマティック液晶も、本発明における使用に適しているはずである。当業者に明らかなように、他のネマティック材料も、本発明における使用に適することがある。
【0087】
キラル・ドーパント
中間相の螺旋ねじれを誘発し、これにより可視光の反射を可能にするためにネマティック混合物に添加されるキラル・ドーパントは、任意の有用な構造クラスから形成することができる。ドーパントは、とりわけ、ネマティック・ホストとの化学的適合性、螺旋ねじれ力、温度感受性、及び耐光性を含むいくつかの特性に応じて選択される。多くのキラル・ドーパント・クラスが当該技術分野で知られている:例えばG. Gottarelli及びG. Spada, Mol. Cryst. Liq. Crys., 123, 377(1985); G. Spada及びG. Proni, Enantiomer, 3, 301(1998)及びこれらに記載された参考文献。よく知られた典型的なドーパント・クラスは、1,1-ビナフトール誘導体;米国特許第6,217,792号明細書に開示されているようなイソソルビド(D-1)及び同様のイソマンニドエステル;米国特許第6,099,751号明細書に開示されているようなTADDOL誘導体(D-2);及び「キラル化合物及びキラル化合物含有組成物(Chiral Compound and Compositions Containing The Same)」と題される米国特許出願第10/651,692号明細書(Welter他、2003年8月29日付け出願)に開示されているような、ペンディング・スピロインダン・エステル(D-3)を含む。
【0088】
【化2】

【0089】
液晶材料のピッチ長さは、下記等式(1) に基づいて調節することができる:
λmax=nav p0
【0090】
上記式中、λmaxはピーク反射波長、すなわち反射率が最大値となる波長であり、navは、液晶材料の平均屈折率であり、そしてp0は、キラル・ネマティック螺旋の自然のピッチ長である。キラル・ネマティック螺旋及びピッチ長の定義、及びその測定方法は、書籍「液晶の電気光学的及び磁気光学的特性(Electro-optical and Magneto-Optical Properties of Liquid Crystals)」(Blinov, L. M., John Wiley & Sons Ltd. 1983)に見いだすことができるように、当該技術分野で知られている。ピッチ長は、液晶材料中のキラル材料の濃度を調節することにより改変される。キラル・ドーパントのほとんどの濃度の場合、ドーパントによって誘発されるピッチ長は、ドーパントの濃度に対して反比例する。比例定数は、下記等式(2) によって与えられる:
【0091】
p0=1/(HTP.c)
【0092】
上記式中cは、キラル・ドーパントの濃度であり、そしてHTP(いくつかの参考文献では□とされる)は、比例定数である。
【0093】
いくつかの用途のためには、強い螺旋ねじれと、これにより短いピッチ長とを示すLC混合物を有することが望ましい。例えば、選択的に反射性のキラル・ネマティック・ディスプレイにおいて使用される液晶混合物中では、ピッチは、キラル・ネマティック螺旋によって反射される波長の最大値が可視光の範囲内にあるように選択されなければならない。他の可能な用途は、光学素子のためのキラル液晶相を有するポリマーフィルム、例えばキラル・ネマティック広帯域偏光子、フィルターアレイ、又はキラル液晶遅延フィルムである。これらの中には、アクティブ及びパッシブ光学素子又はカラーフィルター及び液晶ディスプレイ、例えばSTN、TN、AMD-TN、温度補償、ポリマーフリー型又はポリマー安定化型キラル・ネマティック・テキスチャ(PFCT, PSCT)ディスプレイがある。可能なディスプレイ産業用途は、ノートブック型及びデスクトップ型コンピュータ、計器盤、ビデオゲーム機、テレビ電話、携帯電話、手持ち型PC、PDA、電子書籍、ビデオカメラ、衛星ナビゲーション・システム、商店及びスーパーマーケットの値段付けシステム、道路標識、情報ディスプレイ、スマートカード、玩具、及びその他の電子装置のための超軽量、可撓性及び低廉なディスプレイを含む。
【0094】
例えばフラット・パネル・ディスプレイ内で使用することができる、LCDの代わりとなるディスプレイ技術がある。注目すべき例は、有機又はポリマー発光デバイス(OLED)又は(PLED)である。これらのデバイスは、いくつかの層から成っており、層のうちの1つは、デバイスを横切って電圧を印加することによりエレクトロルミネッセンスを示すように形成することができる有機材料から成っている。OLEDデバイスは典型的には、基板、例えばガラス又はプラスチック・ポリマーにおいて形成されたラミネートである。或いは、複数のこれらのOLEDデバイスを集成して、ソリッドステート照明ディスプレイ装置を形成することもできる。
【0095】
ルミネッセント有機固体の発光層、並びに隣接する半導体層が、アノードとカソードとの間にサンドイッチされる。半導体層は、正孔注入層と電子注入層であってよい。PLEDは、ルミネッセント有機材料がポリマーであるOLED亜種であると考えることができる。発光層は、数多くの発光有機固体のいずれかから、例えば適宜に蛍光性又は化学発光性の有機化合物であるポリマーから選択することができる。このような化合物及びポリマーは、8-ヒドロキシキノレートの金属イオン塩、三価金属キノレート錯体、三価金属架橋キノレート錯体、シッフ塩基二価金属錯体、錫(IV)金属錯体、金属アセチルアセトネート錯体、有機配位子、例えば2-ピコリルケトン、2-キナルジルケトン、又は2-(o-フェノキシ)ピリジンケトン、ビスホスホネートを内蔵する金属二座配位子錯体、二価金属マレオニトリルジチオレート錯体、分子電荷移動錯体、希土類混合型キレート、(5-ヒドロキシ)キノキサリン金属錯体、アルミニウムトリス-キノレート、及びポリマー、例えばポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリ(ジアルコキシフェニレンビニレン)、ポリ(チオフェン)、ポリ(フルオレン)、ポリ(フェニレン)、ポリ(フェニルアセチレン)、ポリ(アニリン)、ポリ(3-アルキルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、及びポリ(N-ビニルカルバゾール)を含む。カソード及びアノードを横切って電位差が加えられると、電子注入層からの電子と、正孔注入層からの正孔とが発光層内に注入され、これらが再結合して、光を放射する。
【0096】
OLED及びPLEDについては、以下の米国特許明細書:米国特許第5,507,745号(Forrest他)、同第5,721,160号(Forrest他)、同第5,757,026号(Forrest他)、同第5,834,893号(Bulovic他)、同第5,861,219号(Thompson他)、同第5,904,916号(Tang他)、同第5,986,401号(Thompson他)、同第5,998,803号(Forrest他)、同第6,013,538号(Burrows他)、同第6,046,543号(Bulovic他)、同第6,048,573号(Tang他)、同第6,048,630号(Burrows他)、同第6,066,357号(Tang他)、同第6,125,226号(Forrest他)、同第6,137,223号(Hung他)、同第6,242,115号(Thompson他)、及び同第6,274,980号(Burrows他)の各明細書に記載されている。
【0097】
典型的なマトリックス-アドレス発光ディスプレイ装置において、単一の基板上に多数の発光デバイスが形成され、これらの発光デバイスは、規則的な格子パターンを成して群の形態で配列される。活性化は行及び列ごとに行うか、又は個々のカソード路及びアノード路を有するアクティブなマトリックスにおいて行うことができる。OLEDは、先ず基板上に透明電極を堆積し、そしてこれをパターン化して電極部分を形成することにより、しばしば製造される。次いで、透明電極上に有機層を堆積する。有機層上には、金属電極を形成することができる。例えば米国特許第5,703,436号明細書(Forrest他)の場合、正孔注入電極として透明酸化インジウム錫(ITO)が使用され、そして電子注入のために、Mg−Ag−ITO電極層が使用される。
【0098】
本発明は、電極として、好ましくはアノードとして、ほとんどのOLEDデバイス形態に採用することができる。これらは、単一のアノード及びカソードを含む極めて単純な構造から、より複雑なデバイス、例えば画素を形成するためのアノード及びカソードの直交アレイから成るパッシブ・マトリックス・ディスプレイ、及び各画素が例えば薄膜トランジスタ(TFT)で個々に制御されるアクティブ-マトリックス・ディスプレイまでを含む。
【0099】
本発明をうまく実施することができる数多くの有機層形態がある。典型的な構造が図3に示されており、これは基板101と、アノード103と、正孔注入層105と、正孔輸送層107と、発光層109と、電子輸送層111と、カソード113とから成っている。これらの層に関して、より詳細に以下に説明する。なお、その代わりにカソードに隣接して基板を配置することもでき、或いは、基板がアノード又はカソードを実際に構成することもできる。アノードとカソードとの間の有機層は、有機エレクトロルミネッセント(EL)要素と好都合に呼ばれる。有機層の総複合厚は、好ましくは500 nm未満である。
【0100】
OLEDのアノード及びカソードは、電気的な導体260を介して電圧/電流源250に接続される。OLEDは、アノードとカソードとの間に電位を加えて、アノードがカソードよりも正の電位であるようにすることにより動作される。正孔がアノードから有機EL要素内に注入され、そして電子がアノードで有機EL要素内に注入される。OLEDがACモードで動作されると、デバイス安定性を高めることができることがある。ACモードでは、サイクル内の所定の時間にわたって、電位バイアスが反転され、電流が流れない。AC駆動型OLEDの一例が米国特許第5,552,678号明細書に記載されている。
【0101】
EL発光がアノード103を通して見られる場合、アノードは当該発光に対して透明又は実質的に透明であるべきである。このように、本発明のFOMは、このようなOLEDディスプレイ装置にとって極めて重要である。本発明に使用される共通の透明アノード材料は、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、及び酸化錫であるが、しかし例えばアルミニウム又はインジウムでドープされた酸化亜鉛、酸化マグネシウム-インジウム、及び酸化ニッケル-タングステンを含む他の金属酸化物も正しく機能することができる。これらの酸化物に加えて、金属窒化物、例えば窒化ガリウム、及び金属セレン化物、例えばセレン化亜鉛、及び金属硫化物、例えば硫化亜鉛をアノードとして使用することもできる。EL発光がカソード電極を通してのみ見られる用途の場合、アノードの透過特性は一般に重要でなく、透明、不透明又は反射性の任意の導電性材料を使用することができる。この用途のための導体の一例としては、金、イリジウム、モリブデン、パラジウム、及び白金が挙げられる。透過性又はその他の典型的なアノード材料は、4.1 eV以上の作業機能を有する。望ましいアノード材料は一般に、任意の好適な手段、例えば蒸発、スパッタリング、化学気相堆積、又は電気化学的手段によって堆積される。よく知られたフォトリソグラフィ法によってアノードをパターン化することができる。任意には、アノードは他の層の適用前に研磨することにより、表面粗さを低減して、短絡を最小化し、又は反射率を高めることができる。
【0102】
電気的に画像形成可能な材料は、粒子又は微視的容器又はマイクロカプセルの配列を有する印刷可能な導電性インクであってもよい。各マイクロカプセルは、流体、例えば誘電流体又はエマルジョン流体の電気泳動組成物と、着色又は荷電粒子又はコロイド材料の懸濁液とを含有する。マイクロカプセルの直径は典型的には約30〜約300ミクロンである。1つ態様によれば、粒子は誘電流体と視覚的にコントラストを成す。別の態様によれば、電気的に変調された材料は、回転可能な球体を含んでよい。球体は、異なる着色表面域を見せるように回転することができ、そして前方観察位置と後方非観察位置との間を移動することができる、例えばジリコンである。具体的には、ジリコンは、液体を充填された球形キャビティ内に含有され、そしてエラストマー媒質中に埋め込まれたねじれ回転要素から成る材料である。回転要素は、外部電場が課せられることによって、光学特性の変化を示すように形成することができる。所与の極性の電場が印加されると、回転要素の1セグメントが、ディスプレイの観察者に向かって回転し、そしてこれは観察者によって見ることができる。対向極性の電場が印加されると、要素は回転させられ、第2の異なるセグメントが観察者に明らかにされる。ジリコン・ディスプレイは、電場がディスプレイ集成体にアクティブに印加されるまで、所与の形態を維持する。ジリコン粒子は典型的には直径約100ミクロンである。ジリコン材料は、米国特許第6,147,791号明細書、同第4,126,854号明細書及び同第6,055,091号明細書に開示されている。
【0103】
1つ態様によれば、マイクロカプセルには、黒色色素又は有色色素中の荷電白色粒子を充填することができる。電気的に変調された材料、及び本発明とともに使用するのに適した、インクの配向を制御するか又はインクの配向を生じさせることができる集成体を製作する方法の例は、国際公開第98/41899号パンフレット、同第98/19208号パンフレット、同第98/03896号パンフレット、及び同第98/41898号パンフレットに示されている。
【0104】
電気的に画像形成可能な材料は、米国特許第6,025,896号明細書に開示された材料を含むこともできる。この材料は、多数のマイクロカプセル内に封入された液体分散媒質中の荷電粒子を含む。荷電粒子は異なるタイプの色及び電荷極性を有することができる。例えば、黒色の負荷電粒子とともに白色の正荷電粒子を採用することができる。上記マイクロカプセルは電極対間に配置されるので、荷電粒子の分散状態を変化させることにより、材料によって所望の画像が形成され、そして表示される。荷電粒子の分散状態は、電気的に変調された材料に印加された、制御された状態の電場を介して変化させられる。好ましい態様によれば、マイクロカプセルの粒子直径は、約5ミクロン〜約200ミクロンであり、荷電粒子の粒子直径は、マイクロカプセルの粒子直径サイズの約1000分の1〜約5分の1である。
【0105】
さらに、電気的に画像形成可能な材料は、サーモクロミック材料を含むことができる。サーモクロミック材料は、熱を加えると透明状態と不透明状態との間でその状態を交互に変化させることができる。こうして、画像を形成するために特定の画素位置に熱を加えることにより、サーモクロミック画像形成材料は画像を発生させる。材料に熱が再び加えられるまで、サーモクロミック画像形成材料は、特定の画像を保持する。再書き込み可能な材料は透明なので、下側のUV蛍光印刷物、デザイン及びパターンを透視することができる。
【0106】
電気的に画像形成可能な材料は、表面安定化型強誘電性液晶(SSFLC)を含むこともできる。表面安定化型強誘電性液晶は、密な間隔を置いて配置されたガラス板間に強誘電性液晶を閉じ込めることにより、結晶の自然の螺旋形態を抑える。セルは、印加される電場の符号を単に交互に代えるだけで、光学的に区別可能な2つの安定状態間で迅速に切換えられる。
【0107】
エマルジョン中に懸濁された磁性粒子は、本発明とともに使用するのに適した付加的な画像形成材料を含む。磁力を加えることにより、磁性粒子を有するように形成された画素を変えて、人間及び/又は機械によって読み取り可能な表示を形成、更新、又は変化させる。当業者に明らかなように、種々の双安定不揮発性画像形成材料が入手可能であり、そして本発明において実施することができる。
【0108】
電気的に画像形成可能な材料は、単色、例えば黒色、白色、又は透明色として構成することもでき、そして、蛍光、真珠光沢、生物発光、白熱光、紫外線、赤外線であってよく、或いは、波長特異的な輻射線吸収材料又は輻射線放射材料を含んでもよい。電気的に画像形成可能な材料から成る複数の層があってよい。電気的に画像形成可能な材料から成るディスプレイ材料の種々の層又は領域は、種々異なる特性又は色を有することができる。さらに、種々の層の特性は互いに異なっていてよい。例えば、1つの層を使用することにより、可視光範囲内の情報を見るか又は表示することができるのに対して、第2の層は、紫外線に応答するか又は紫外線を放射する。或いは不可視層は、前記輻射線吸収特性又は放射特性を有する、電気的に変調されていない材料に基づく材料から構成することもできる。本発明との関連において採用される電気的に画像形成可能な材料は、好ましくは、表示のディスプレイを維持する力を必要としないという特徴を有する。
【0109】
本発明の別の用途は、タッチスクリーンのために考えられる。タッチスクリーンは、コンピュータにおいて、そして具体的にはポータブル・コンピュータとともに、コンベンショナルなCRT及びフラット・パネル・ディスプレイ装置内で幅広く使用される。本発明は、例えば米国特許出願公開第2003/0170456号明細書;同第2003/0170492号明細書;米国特許第5,738,934号明細書;及び国際公開第00/39835号パンフレットに開示されたものを含む、当該技術分野で知られたタッチスクリーンのいずれかにおいて透明導電性部材として使用することができる。
【0110】
図4は、典型的な従来技術の抵抗型タッチスクリーンのための多層物品10を示している。多層物品10は、第1の導電性層14を有する透明基板12を含む。可撓性透明カバーシート16は、第2の導電性層18を含む。第2の導電性層18は、スペーサー要素22によって第1の導電性層14から物理的に分離されている。これらの導電性層を横切って電圧が発生させられる。導電性層14及び18は、電力使用量及び位置検知精度を最適化するように選択された抵抗を有する。外部の物体、例えば指やスタイラスによって可撓性カバーシート16を変形させると、第2の導電性層18は、第1の導電性層14と電気的に接触させられ、これにより導電性層間で電圧が移動される。この電圧の規模を、金属導電性パターン(図示せず)に接続されたコネクタ(図示せず)を介して測定することにより、変形物体の位置を検出する。金属導電性パターンは、導電性層18及び14の縁部に形成されている。
【0111】
抵抗型タッチスクリーンのコンベンショナルな構成は、基板上に材料を順次配置することを伴う。基板12とカバーシート16とが先ずクリーニングされ、次いで、基板12及びカバーシート16に均一な導電性層が適用される。塗布可能な電子伝導性ポリマー、例えばポリチオフェン又はポリアニリンを使用して、可撓性導電性層を提供することが知られている。例えば、光透過性導電性ポリマー塗膜を有する光透過性基板を示す国際公開00/39835号パンフレット、及び導電性ポリマー塗膜を有するカバーシートを示す米国特許第5,738,934号明細書を参照されたい。次いでスペーサー要素22が加えられ、そして最後に可撓性カバーシート16が取り付けられる。
【0112】
試験
ポリアニオン化合物を有する、カチオン形態のポリチオフェンの商業的に入手可能な等級が、H.C. StarkによってBaytron P HCとして供給される。この等級は、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェンスチレンスルホネート)の水性分散体である。付着促進性下塗り層を有する100 μm厚PETフィルム上に、導電率増強剤を有するBaytron P HCの塗膜を種々の被覆率で形成した。
【0113】
これらの塗膜のSERを、四点電気プローブによって測定した。塗布されていない基板の関与を補正した後、Model 361T X-Rite濃度計によって測定された総光学濃度から、これらの塗膜の可視光透過率Tを見極めた。
【0114】
(a)T%対SER
Baytron P HC塗膜のT%を、SERの関数として図5にプロットする。
【0115】
(b) FOM
上述のBaytron P HC塗膜の、ln(1/T)対1/SERのプロットを図6に示す。明らかに、上記等級の電子伝導性ポリマーの場合、データは原点を通る直線上に位置する。上述のように、直線の勾配は、塗膜のFOMである。従ってBaytron P HC塗膜のFOMは、48.5と見極められる。
【実施例】
【0116】
本発明を下記実施例によってさらに説明する。塗布用組成物を:
Baytron P HC分散体;
Olin 10G(Olin Chemicalsによって供給された非イオン性界面活性剤);
N-メチルピロリドン(導電率増強剤);
ジエチレングリコール(別の導電率増強剤);
イソプロパノール;及び任意選択の
Sancure 898(Noveonによって供給される皮膜形成ポリウレタン分散体)
を混合することにより調製した。
【0117】
塗布用組成物A及びBの詳細を下記に示す。
【0118】
塗布用組成物A
Olin 10G(10%水性) 0.5 g
Baytron P HC(1.3%水性) 88.71 g
Sancure 898(1.3%水性) 0 g
ジエチレングリコール 4.g
N-メチルピロリドン 5.16 g
イソプロパノール 6.13 g
【0119】
塗布用組成物B
Olin 10G(10%水性) 0.5 g
Baytron P HC(1.3%水性) 70.97 g
Sancure 898(1.3%水性) 17.74 g
ジエチレングリコール 4.g
N-メチルピロリドン 5.16 g
イソプロパノール 6.13 g
【0120】
本発明に従って、(下塗り側に)付着促進性下塗り層を有する100 μm厚PETフィルム上に、例1〜4の多数の塗膜を、塗布用組成物A及びBから種々の湿潤被覆率で調製した。前記下塗り層は、塩化ビニリデン-アクリロニトリル-アクリル酸ターポリマー・ラテックスを含んだ。塗膜の詳細及びこれらの特性を下記表1に挙げる。
【0121】
【表1】

【0122】
50未満のFOMを有する本発明の例が、1000オーム/□未満のSERと、80を上回るT%とを生じさせたことは十分に明らかである。実際に例3の場合、本発明に基づいて、242オーム/□という低いSERを、80を上回るT%とともに得ることができることが実証された。これらの例は、ディスプレイ装置における使用にとって、本発明の導電性層が望ましいことを示している。
【0123】
比較例
従来の状況を示す多くの比較試料のFOMを下記表2に挙げる。FOM値は、T及びSERの実際の測定から見極めるか、又は最低SERの発表データから見極めた。比較しやすさのために、本発明によるBaytron P HC塗膜からの同様のデータも表2に含める。Synthetic Metals 第142巻(2004)、第187〜193頁におけるMartin他によるごく最近の研究報告を含めても、従来の電子伝導性ポリマー層のFOM値は、本発明の例のものよりも高いことが明らかである。表2にはまた、SERが250オーム/□である場合の、各FOMに対応する算出%T値も含まれる。さらに表2には、Tが95%である場合の、各FOMに対応する算出SER値も含まれる。
【0124】
表2に示された結果はFOM値の重要性を明らかに示し、そして、本発明の範囲外のFOM値を有する従来技術の電子伝導性塗膜が、不十分な透明度を有する高導電性層、又は不十分な導電率を有する透明層を提供できることを示す。FOM<50の本発明の塗膜だけが、優れた透明度及び導電率の両方を有する層を同時に提供することができる。従って本発明の塗膜は、現在及び将来のディスプレイ装置用途において使用するための電極の厳しい要件を独自に満たす。
【0125】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】図1は、本発明による、基板と、電気的な導線によって電源に接続された電子伝導性ポリマー層とを含むディスプレイ成分を示す概略図である。
【図2】図2は、本発明による、一例としてのポリマー分散型LCディスプレイを示す概略図である。
【図3】図3は、本発明によるOLED系ディスプレイを示す概略図である。
【図4】図4は、本発明による、一例としての抵抗型タッチスクリーンを示す概略図である。
【図5】図5は、本発明による、Baytron P HC塗膜に対応する透過率(T)%とSERとのプロットを示す図である。
【図6】図6は、本発明による、Baytron P HC塗膜に対応するln(1/T)対1/SERとのプロットを示す図である。
【符号の説明】
【0127】
10 抵抗型タッチスクリーンのための物品
12 透明基板
14 第1の導電性層
15 可撓性基板
16 透明カバーシート
18 第2の導電性層
20 第1の導電性層
22 スペーサー要素
30 光変調液晶層
35 ナノ顔料含有機能層
40 第2の導電性層
42 誘電層
44 導電性の行接点
50 LCD物品
60 ディスプレイ成分
62 基板
64 電子伝導性ポリマー層
66 電源
68 導線
101 基板
103 アノード
105 正孔注入層
107 正孔輸送層
109 発光層
111 電子輸送層
113 カソード
250 電圧/電流源
260 電気的な導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板及びポリアニオンとともにカチオン形態で存在する電子伝導性ポリチオフェン・ポリマーを含み透明導電性層を含む部材であって、前記導電性層が50以下のFOMを有する部材(ここで、FOMは、ln(1/T)対[1/SER]のプロットの勾配として定義され、そして、
T=可視光透過率
SER=表面電気抵抗(オーム/□)
FOM=性能示数
であり、そして
該SERの値は1000オーム/□以下である)。
【請求項2】
前記導電性層が、界面活性剤をさらに含む請求項1に記載の部材。
【請求項3】
該ポリチオフェンとポリアニオンとが、85:15〜15:85の比である請求項1に記載の部材。
【請求項4】
前記導電性層の可視光透過率が、90%を上回る請求項1に記載の部材。
【請求項5】
前記導電性層の可視光透過率が、80%を上回る請求項1に記載の部材。
【請求項6】
前記導電性層が、導電率増強剤を利用して塗布される請求項1に記載の部材。
【請求項7】
前記部材が可撓性である請求項1に記載の部材。
【請求項8】
前記透明導電性層の表面粗さが、<20 nm Raである請求項1に記載の部材。
【請求項9】
該性能示数が、40以下である請求項1に記載の部材。
【請求項10】
基板と、前記基板の表面上の導電性層と、前記導電性層に電気的に接続された導線とを含むディスプレイ装置であって、前記導電性層は、ポリアニオンとともにカチオン形態で存在する電子伝導性ポリチオフェン・ポリマーを含み、前記導電性層のFOMが50以下である(ここで、FOMは、ln(1/T)対[1/SER]のプロットの勾配として定義され、そして、
T=可視光透過率
SER=表面電気抵抗(オーム/□)
FOM=性能示数
であり、そして
該SERの値は1000オーム/□以下である)。
【請求項11】
前記導電性ポリマーに電気的に接続された電流源をさらに含む請求項10に記載の装置。
【請求項12】
液晶材料が、直接的に又は誘電不活性化層を介して前記導電性ポリマーに接触している請求項10に記載の装置。
【請求項13】
前記導電性ポリマーに電気的に接続された電圧源をさらに含む請求項10に記載の装置。
【請求項14】
前記導電性ポリマーが、該基板の表面上にパターンを形成する請求項10に記載の装置。
【請求項15】
前記基板が、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ガラス、及び酢酸セルロースから成る群から選択される請求項10に記載の装置。
【請求項16】
前記基板が、可撓性である請求項10に記載の装置。
【請求項17】
少なくとも1つの電気的に画像形成可能な層をさらに含む請求項10に記載のディスプレイ装置。
【請求項18】
前記電気的に画像形成可能な材料が、光変調材料を含む請求項17に記載のディスプレイ装置。
【請求項19】
前記光変調材料が、電気化学材料、電気泳動材料、エレクトロクロミック材料、及び液晶から成る群から選択される少なくとも1つの部材を含む請求項18に記載のディスプレイ装置。
【請求項20】
前記電気的に画像形成可能な材料が、発光材料を含む請求項17に記載のディスプレイ装置。
【請求項21】
前記発光材料が、有機発光ダイオード又は高分子発光ダイオードを含む請求項20に記載のディスプレイ装置。
【請求項22】
前記光変調材料が、反射性又は透過性である請求項18に記載のディスプレイ装置。
【請求項23】
受容体基板を用意し、
基板及びポリアニオンとともにカチオン形態で存在する電子伝導性ポリチオフェン・ポリマーを含む透明導電性層を含む供与体部材であって、前記導電性層が50以下のFOMを有する部材(ここで、FOMは、ln(1/T)対[1/SER]のプロットの勾配として定義され、そして、
T=可視光透過率
SER=表面電気抵抗(オーム/□)
FOM=性能示数
であり、そして
該SERの値は1000オーム/□以下である)を用意し、
前記受容体基板を前記供与体部材と接触させ、そして
前記供与体部材から前記透明導電性層を転写させること
を含んで成る導電性層を提供する方法。
【請求項24】
転写中に熱が加えられる請求項23に記載の方法。
【請求項25】
転写中に圧力が加えられる請求項23に記載の方法。
【請求項26】
転写中に熱及び圧力が加えられる請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記受容体基板が、接着剤を含む請求項23に記載の方法。
【請求項28】
転写が、前記導電性層と前記受容体層との間の接着剤を利用する請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記基板が、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ガラス、及び酢酸セルロースから成る群から選択された少なくとも1つの材料を含む請求項1に記載の部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2008−513956(P2008−513956A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532371(P2007−532371)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【国際出願番号】PCT/US2005/031833
【国際公開番号】WO2006/033833
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】