説明

速乾性液体組成物、それを用いた洗浄方法、および洗浄装置

【課題】被洗浄物に付着した水分等を除去するにあたり、乾燥速度が速いとともに、被洗浄物に対する濡れ性に優れ、かつ安全性が高い速乾性液体組成物、そのような速乾性液体組成物を用いた水分等の洗浄方法、および洗浄装置を提供する。
【解決手段】エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル等と、水と、を含むとともに、全体量に対して、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル等の含有量を5〜60重量%の範囲内の値とし、かつ、水の含有量を40〜95重量%の範囲内の値とする速乾性液体組成物、そのような速乾性液体組成物を用いた水分等の洗浄方法および洗浄装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、速乾性液体組成物、それを用いた洗浄方法、および洗浄装置に関する。特に、被洗浄物に付着した水や汚染物等を迅速に除去するための速乾性液体組成物、それを用いた水や汚染物等の洗浄方法、および洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、精密部品、光学部品、電子部品あるいは機械部品等を洗浄した後の洗浄水やリンス水の除去のため、主として、以下の三つの洗浄方法(1)〜(3)が行われている。
(1)熱風等による水の蒸発乾燥
(2)イソプロピルアルコール等の水溶性有機溶剤や、その水溶液による水の溶解除去
(3)クロロフルオロカーボンや塩素化炭化水素等の不燃性溶剤に、アルコールや界面活性剤等を添加した水きり剤を用いた比重差や表面張力差による水の置換除去
【0003】
ここで、(1)熱風等による水の蒸発乾燥を行った場合、通常、被洗浄物を100℃以上の温度に加熱しなければならず、被洗浄物が熱劣化したり、次工程を実施する前に、被洗浄物を冷却しなければならず、工程時間が過度に長くなったりするなどの問題が見られた。
また、(2)水溶性有機溶剤による水の溶解除去を行った場合、引火の危険性が高く、水溶性有機溶剤の取り扱いが困難であるという問題が見られた。さらに、引火の危険性を低下すべく、水溶性有機溶剤の水溶液を用いた場合には、今度は、被洗浄物に対する濡れ性が乏しくなって、水滴が発現しやすく、また、室温での乾燥速度が過度に遅くなり、その結果、液シミが発生しやすいという問題が見られた。
【0004】
そこで、工業的には、(3)水きり剤を用い、比較的迅速に、水を置換除去する方法が多用されている。
このような水きり剤として、例えば、アルコール類と、ハロゲン化炭化水素類との混合溶液が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
より具体的には、表面に水が付着した被洗浄物を、メタノール等のアルコール類と、3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン等のハロゲン化炭化水素類との混合溶剤であって、その液温が40℃以上である混合溶剤を入れた浸漬水切り槽に浸漬して引き上げたり、混合溶剤の蒸気中に保持したりすることにより、被洗浄物に付着した水を除去する水切り乾燥方法である。
【0005】
また、水きり剤ではないものの、洗浄後の被洗浄物のすすぎ剤として、低級アルコールまたは低級アルキルエーテルを接触せしめることを特徴とした基板の洗浄処理方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
より具体的には、ロジン系ハンダフラックスが付着した基板を、特定のグリコールエーテル化合物を有効成分として含む洗浄剤を接触せしめた後、イソプロピルアルコール等の低級アルコールと、エチレングリコールモノブチルエーテル等の低級アルキルエーテルとからなる混合溶剤であって、その液温が40℃以上に保持された状態のすすぎ剤中に、基板を浸漬せしめることを特徴とした基板の洗浄処理方法である。
また、図7に示すように、液温が40℃以上に保持された状態の所定のすすぎ剤を収容した浸漬水切り槽102を一部に備えた水切り乾燥装置101と、加温槽107と、水分分離槽108と、を含む基板のすすぎ装置100が開示されている。
【0006】
また、被洗浄物の洗浄後のすすぎ剤や水きり剤ではないものの、引火性がなく、すすぎ排水が出ずに、かつ、油分の回収が効率的にできる洗浄剤を用いた被洗浄物の洗浄方法が提案されている(例えば、特許文献3および4参照)。
より具体的には、エチレングリコールモノブチルエーテル10〜60容量%と、水90〜40容量%とからなる洗浄剤を用い、当該洗浄剤が均一相を形成する温度(例えば、49〜60℃)において、油分の付着した被洗浄物を洗浄し、次いで、当該洗浄剤が二層を形成する温度(例えば、60〜80℃)において、洗浄された被洗浄物を、特定のすすぎ剤ですすぐとともに、油分を含んだ有機相を適宜抜き出すことを特徴とした被洗浄物の洗浄方法である。
なお、図8に、エチレングリコールモノブチルエーテルと、水とからなる洗浄剤における相平衡図を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−117503号公報
【特許文献2】特開平5−175641号公報
【特許文献3】特開平7−252680号公報
【特許文献4】特開平8−74081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された水きり剤は、所定量のハロゲン化炭化水素を使用しなければならず、高価であって、経済的に不利であるばかりか、燃焼させた場合に、有毒ガスが発生しやすいという問題が見られた。
また、特許文献2に開示されたすすぎ剤は、引火性が高いばかりか、被洗浄物に対する濡れ性が不十分であって、水切り後に液滴が形成され、それにより、周囲に存在する汚染物を巻き込んで、しみが発生しやすいという問題が見られた。
【0009】
また、特許文献3および4に開示された被洗浄物の洗浄方法では、特定の洗浄剤として、被洗浄物の洗浄のみを考慮しているものの、被洗浄物の表面に付着した汚染物の洗浄性が不十分なばかりか、リンス剤や水切り剤としての使用については、何ら考慮していないという問題が見られた。
【0010】
さらにまた、特許文献1〜4に開示された洗浄方法では、いずれも外部から被洗浄物に付着して持ち込まれる水分等の影響によって、洗浄槽における洗浄剤の配合組成や温度が変化しやすいことから、被洗浄物を、安定的に洗浄することが困難であるという問題も見られた。
【0011】
そこで、本発明の発明者は、従来の問題を鋭意検討した結果、被洗浄物に付着した水等を除去する際に、速乾性液体組成物として、所定のアルキレングリコールアルキルエーテルと、水とを、所定割合で配合することにより、乾燥速度が特異的に向上するとともに、被洗浄物に対する濡れ性が向上することを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明は、乾燥速度が速いとともに、被洗浄物に対する濡れ性に優れ、かつ安全性が高い速乾性液体組成物、そのような速乾性液体組成物を用いた水等の洗浄方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、速乾性液体組成物の配合組成や温度が変化した場合であっても、それを修正して、被洗浄物に付着した水や汚染物を安定的に洗浄除去することができる洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、およびプロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテルからなる群から選択される少なくとも一つのアルキレングリコールアルキルエーテルと、水と、を含むとともに、全体量に対して、アルキレングリコールアルキルエーテルの含有量を5〜60重量%の範囲内の値とし、かつ、水の含有量を40〜95重量%の範囲内の値とすることを特徴とする速乾性液体組成物(但し、アルキレングリコールアルキルエーテルおよび水の含有量の合計量が100重量%に満たない場合には、残余部分は、他の液体化合物や添加物である。)が提供され、上述した問題点を解決することができる。
すなわち、このように構成することにより、乾燥速度が速くなるとともに、被洗浄物に対する濡れ性に優れた速乾性液体組成物を提供することができる。
また、水の含有量が比較的多いため、相対的に、有機溶剤成分が少なくなって、環境特性が向上するとともに、消防法における非危険物に基本的に該当することから、安全性が高い速乾性液体組成物を提供することができる。
さらに、このような所定割合で、所定のアルキレングリコールアルキルエーテルと、水とを併用することにより、得られる速乾性液体組成物の沸点が、それぞれ単独での沸点の値よりも低くなることから、速乾性液体組成物をリサイクルする際の蒸留再生が容易になる。
【0013】
また、本発明の速乾性液体組成物を構成するにあたり、表面張力を25〜35mN/m(=dyn/cm)の範囲内の値とすることが好ましい。
このように表面張力の値を制限することにより、被洗浄物に対する濡れ性をさらに向上させることができる。
【0014】
また、本発明の速乾性液体組成物を構成するにあたり、曇点を有する場合には、その曇点を20〜70℃の範囲内の値とすることが好ましい。
このように曇点の値を制限することにより、取り扱いがさらに容易になるとともに、被洗浄物に付着した汚染物等の除去性をさらに向上させることができる。
また、このような曇点付近の温度において、速乾性液体組成物の表面張力が特に小さくなったり、乾燥速度がより速くなったり、液シミの発生が少なくなったり、さらには、洗浄性についても良好になるためである。
なお、曇点とは、速乾性液体組成物を加熱した場合に、アルキレングリコールアルキルエーテルが、水に溶解できなくなって、急に析出し、速乾性液体組成物が白濁する際の温度を意味する。
【0015】
また、本発明の速乾性液体組成物を構成するにあたり、引火点を有する場合には、その引火点を40℃以上の値とすることが好ましい。
このように引火点の値を制限することにより、取り扱いがさらに容易になるとともに、安全性をさらに向上させることができる。
【0016】
また、本発明の速乾性液体組成物を構成するにあたり、界面活性剤をさらに含むとともに、当該界面活性剤の含有量を、全体量に対して、0.01〜5重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
このように所定量の界面活性剤をさらに含むことにより、被洗浄物に対する濡れ性をさらに向上させることができる。
【0017】
また、本発明の速乾性液体組成物を構成するにあたり、被洗浄物に付着した水、汚染物、洗浄剤およびリンス剤の少なくとも一つを除去するための除去剤としてなることが好ましい。
このように構成することにより、乾燥速度が速く、かつ、被洗浄物に対する濡れ性に優れた速乾性液体組成物の特長を存分に発揮することができる。
また、水の含有量が比較的多いため、相対的に、有機溶剤成分が少なくなるとともに、消防法における非危険物に該当することから、安全性が高い除去剤を提供することができる。
【0018】
また、本発明の別の態様は、アルキレングリコールアルキルエーテルと、水とを含む速乾性液体組成物を用いた洗浄方法であって、
速乾性液体組成物として、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、およびプロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテルからなる群から選択される少なくとも一つのアルキレングリコールアルキルエーテルと、水と、を含むとともに、全体量に対して、アルキレングリコールアルキルエーテルの含有量を5〜60重量%の範囲内の値とし、かつ、水の含有量を40〜95重量%の範囲内の値とした速乾性液体組成物を準備する工程と、
速乾性液体組成物を、被洗浄物と接触させて、表面に付着した水、汚染物、洗浄剤およびリンス剤の少なくとも一つを除去する工程と、
を含むことを特徴とする速乾性液体組成物を用いた洗浄方法である。
すなわち、このように実施することにより、乾燥速度が速いとともに、被洗浄物に対する濡れ性に優れ、かつ安全性が高い速乾性液体組成物を用いた洗浄方法を提供することができる。
【0019】
また、本発明の速乾性液体組成物を用いた洗浄方法を実施するにあたり、被洗浄物に適用する際の速乾性液体組成物の温度を曇点以下であって、かつ、10〜70℃の範囲内の値とすることが好ましい。
このように曇点の値をさらに制限することにより、速乾性液体組成物の処理温度を幅広く変更することができる。
また、このような曇点付近の温度において、速乾性液体組成物の表面張力が特に小さくなったり、乾燥速度がより速くなったり、液シミの発生が少なくなったり、さらには、洗浄性についても良好になるためである。
【0020】
また、本発明の速乾性液体組成物を用いた洗浄方法を実施するにあたり、除去する工程の後に、速乾性液体組成物を蒸留再生するリサイクル工程をさらに含むことが好ましい。
このようにリサイクル工程を含むことにより、環境面で良好であるばかりか、コストが全体として低減され、経済的に有利である。
【0021】
また、本発明のさらに別の態様は、洗浄槽と、それに連通した補助槽と、を備えてなる洗浄装置であって、洗浄槽に、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、およびプロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテルからなる群から選択される少なくとも一つのアルキレングリコールアルキルエーテルと、水と、を含むとともに、全体量に対して、アルキレングリコールアルキルエーテルの含有量を5〜60重量%の範囲内の値とし、かつ、水の含有量を40〜95重量%の範囲内の値とした速乾性液体組成物が収容してあり、補助槽に、速乾性液体組成物を所定温度とするための温度調整装置が設けてあり、洗浄槽から、補助槽に移送された速乾性液体組成物を曇点以上の温度とすることによって、上層と、下層に相分離させるとともに、下層の速乾性液体組成物を、補助槽から取り出し、洗浄槽において循環使用することを特徴とする洗浄装置である。
すなわち、本発明の洗浄装置によれば、外部から被洗浄物に付着して持ち込まれる水分等の影響によって、洗浄槽における速乾性液体組成物の配合組成や温度が変化した場合であっても、それらを補助槽が修正することができる。より具体的には、定常状態となれば、補助槽において、所定配合組成であって、かつ所定温度の速乾性液体組成物が得られることから、洗浄槽において、その速乾性液体組成物を用いて、被洗浄物を、常に一定な状態で洗浄することができる。
したがって、本発明の洗浄装置において、定常状態において、上述した配合組成の速乾性液体組成物が洗浄槽に収容されるとともに、それを用いて洗浄できる状態であれば十分であって、初期的状態や、非定常状態において、必ずしも、上述した配合組成の速乾性液体組成物が洗浄槽に収容されている必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)〜(b)は、速乾性液体組成物に含まれるエチレングリコールモノブチルエーテル(nBGおよびiBG)の含有量の影響を説明するために供する図である。
【図2】(a)〜(b)は、速乾性液体組成物の表面張力および曇点に対する、速乾性液体組成物に含まれるエチレングリコールモノブチルエーテル(nBGおよびiBG)の含有量の影響を説明するために供する図である。
【図3】エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルおよびエチレングリコールモノイソブチルエーテルの混合使用における、乾燥時間への影響を説明するために供する図である。
【図4】アルキレングリコールアルキルエーテルの液温の、乾燥時間への影響を説明するために供する図である。
【図5】速乾性液体組成物を用いた洗浄装置を説明するために供する図である。
【図6】水/iBGからなる速乾性液体組成物の水溶性曲線を示す図である。
【図7】従来の基板のすすぎ装置を説明するために供する図である。
【図8】従来の特定の洗浄剤における相平衡図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、およびプロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテルからなる群から選択される少なくとも一つのアルキレングリコールアルキルエーテルと、水と、を含むとともに、全体量に対して、アルキレングリコールアルキルエーテルの含有量を5〜60重量%の範囲内の値とし、かつ、水の含有量を40〜95重量%の範囲内の値(但し、アルキレングリコールアルキルエーテルおよび水の含有量の合計量が100重量%に満たない場合には、残余部分は、他の液体化合物や添加物である。)とすることを特徴とする速乾性液体組成物である。
【0024】
1.被洗浄物
速乾性液体組成物を適用する被洗浄物としては、典型的には、プラスチック成型品、セラミック成型品、ガラス成型品、金属成型品等の各種成型品が挙げられる。
より具体的には、自動車の外装部品としてのバンパー、自動車の内装部品としてのインフロントパネル、携帯電話、乾電池用筐体、液晶装置用板材等の用途において、乾燥速度が速いとともに、被洗浄物に対する濡れ性に優れ、かつ安全性が高いことから、本願発明の速乾性液体組成物を好適に適用可能である。
さらに、ポリカーボネート製樹脂成形品のように、帯電しやすく、ほこり等を吸着しやすい樹脂成形品の前処理用途においても、乾燥速度が速いとともに、被洗浄物に対する濡れ性に優れ、かつ安全性が高いことから、最終洗浄剤として、本願発明の速乾性液体組成物を好適に適用可能である。
【0025】
2.速乾性液体組成物
(1)アルキレングリコールアルキルエーテル
また、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、およびプロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテルからなる群から選択される少なくとも一つのアルキレングリコールアルキルエーテルを、水と併用することにより、乾燥速度が速いとともに、被洗浄物に対する濡れ性に優れ、かつ、液シミの発生が少ない速乾性液体組成物を提供することができる。
すなわち、このようなアルキレングリコールアルキルエーテルであれば、所定割合で、水と混合使用することにより、乾燥速度が速くなるとともに、被洗浄物に対する濡れ性に優れ、液シミの発生が少なく、かつ安全性が高い速乾性液体組成物を提供することができる。
なお、所定のアルキレングリコールアルキルエーテルと、水とを、所定割合で配合することにより、表面張力が低く、かつその値を持続しやすくなることから、速乾性液体組成物が、被洗浄物の表面上で、均一(薄く)かつ広範に濡れ広がり、液滴を形成しないことが確認されている。それにより、水の含有量が比較的多いにもかかわらず、このような効果が得られるものと推定されている。
また、このようなアルキレングリコールアルキルエーテルであれば、水と混合使用することにより、得られる速乾性液体組成物の沸点が、それぞれ単独での沸点の値よりも低くなることから、速乾性液体組成物をリサイクルする際の蒸留再生が容易になる。
例えば、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルの沸点は171.2℃であるとともに、水の沸点は100℃であるが、これらの混合物(20.8重量%:79.2重量%)は共沸混合物となって、沸点が98.8℃になることが判明している。
よって、得られる速乾性液体組成物の沸点が相対的に低くなるとともに、一つになって、リサイクルする際の蒸留再生についても容易になる。
【0026】
ここで、速乾性液体組成物の全体量(100重量%)に対して、所定のアルキレングリコールアルキルエーテルの含有量を5〜60重量%の範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、アルキレングリコールアルキルエーテルの添加量が5重量%未満の値になると、添加効果が発現しない場合があるためである。すなわち、乾燥速度が速いとともに、被洗浄物に対する濡れ性に優れ、かつ、液シミの発生が少ない速乾性液体組成物を提供することが困難となる場合があるためである。
一方、アルキレングリコールアルキルエーテルの添加量が60重量%を超えると、速乾性液体組成物の物性、例えば、乾燥時間、表面張力、曇点、および引火点の値を、所定範囲内に、容易に調整することが困難となる場合があるためである。
したがって、速乾性液体組成物の全体量(100重量%)に対して、所定のアルキレングリコールアルキルエーテルの含有量を5〜40重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、10〜30重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、所定のアルキレングリコールアルキルエーテルの含有量が、全体量に対して、30重量%以下であれば、図1(a)に示すように、乾燥時間に及ぼす被洗浄物の種類の影響も少なくなる。
【0027】
次いで、図1(a)を参照して、速乾性液体組成物の乾燥時間に及ぼすアルキレングリコールアルキルエーテルとしてのエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル(nBG)の含有量の影響をそれぞれ説明する。
まず、図1(a)は、横軸に、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル(nBG)と、水とからなる速乾性液体組成物の全体量(100重量%)に含まれるnBG濃度(重量%)をそれぞれ採って示してあり、縦軸に、速乾性液体組成物の乾燥時間の値(sec)を採って示してある。
なお、速乾性液体組成物の乾燥時間は、次のように測定した。すなわち、SUS304からなるステンレス板を、水平方向に対して5°の角度となるように保持した。次いで、40℃に調整した速乾性液体組成物50gを、ステンレス板の全面に行き渡るようにかけ流した。その直後、40℃に調整した循環オーブンに移動させ、その循環オーブン内のステンレス板の表面状態を目視観察しながら、速乾性液体組成物が完全に飛散するまでの時間を、乾燥時間として測定した。
また、被着体として、ステンレス板のほかに、ポリプロピレン板についても、同様に、速乾性液体組成物が完全に飛散するまでの時間を、乾燥時間として測定した。
そして、ラインAが、ステンレス板に対応した特性曲線であって、ラインBが、ポリプロピレン板に対応した特性曲線である。
【0028】
かかる特性曲線Aから理解されるように、ステンレス板に対して、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルの含有量が5重量%で、約1500秒の乾燥時間が得られ、7.5重量%で、約1000秒の乾燥時間が得られ、さらに、10〜60重量%の範囲で400秒以下の乾燥時間が得られている。
一方、特性曲線Bから理解されるように、ポリプロピレン板に対して、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルの含有量が7.5重量%で、約1700秒の乾燥時間が得られ、10〜27.5重量%の範囲で400秒以下の乾燥時間が得られ、さらに、27.5重量%を超えると、再び、800秒以上の乾燥時間となっている。
したがって、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルの含有量を、所定範囲内の値とすることにより、ステンレス板のみならず、ポリプロピレン板に対しても、乾燥時間が短い速乾性液体組成物を提供することができる。
【0029】
また、図1(b)は、横軸に、エチレングリコールモノイソブチルエーテル(iBG)と、水とからなる速乾性液体組成物の全体量(100重量%)に含まれるiBG濃度(重量%)をそれぞれ採って示してあり、縦軸に、図1(a)と同様に測定した速乾性液体組成物の乾燥時間の値(sec)を採って示してある。
そして、ラインAが、ステンレス板に対応した特性曲線であって、ラインBが、ポリプロピレン板に対応した特性曲線である。
【0030】
かかる特性曲線Aから理解されるように、ステンレス板に対して、エチレングリコールモノイソブチルエーテルの含有量が10重量%で、約1600秒の乾燥時間が得られ、20重量%で、約1000秒の乾燥時間が得られ、25重量%で、約900秒の乾燥時間が得られ、さらに、35重量%で、約1000秒の乾燥時間が得られている。
一方、特性曲線Bから理解されるように、ポリプロピレン板に対して、エチレングリコールモノイソブチルエーテルの含有量が10重量%で、約1600秒の乾燥時間が得られ、20重量%で、約800秒の乾燥時間が得られ、さらに、35重量%で、約1000秒の乾燥時間が得られている。
したがって、エチレングリコールモノイソブチルエーテルの含有量についても、所定範囲内の値とすることにより、ステンレス板のみならず、ポリプロピレン板に対しても、乾燥時間が短い速乾性液体組成物を提供することができる。
【0031】
次いで、図2(a)を参照して、速乾性液体組成物の表面張力に対する、エチレングリコールモノブチルエーテルの含有量の影響をそれぞれ説明する。
まず、図2(a)は、横軸に、エチレングリコールモノブチルエーテルと、水とからなる速乾性液体組成物の全体量(100重量%)に含まれるエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル(nBG)およびエチレングリコールモノイソブチルエーテル(iBG)の含有量(重量%)をそれぞれ採って示してあり、縦軸に、温度20℃における速乾性液体組成物の表面張力の値(mN/m)を採って示してある。
そして、ラインAが、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル(nBG)に対応した特性曲線であって、ラインBが、エチレングリコールモノイソブチルエーテル(iBG)に対応した特性曲線である。
【0032】
かかる特性曲線から容易に理解されるように、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルおよびエチレングリコールモノイソブチルエーテルの含有量が、それぞれ10〜20重量%となると、表面張力の値が急激に低下することが理解される。
また、図示されるように、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルおよびエチレングリコールモノイソブチルエーテルの含有量が、20重量%を超えて、30重量%程度まで増加しても、表面張力の値はほとんど変化しなくなることが理解される。
そして、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルおよびエチレングリコールモノイソブチルエーテルの含有量を60重量%程度まで増加させても、表面張力の値は、含有量が30重量%の場合と大差ないことが理解される。
例えば、速乾性液体組成物におけるエチレングリコールモノノルマルブチルエーテルの含有量が40重量%の場合、その表面張力は29.9mN/mである。同様に、60重量%の場合、その表面張力は29.2mN/mであり、さらに、80重量%の場合、その表面張力は29.2mN/mである。
したがって、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルおよびエチレングリコールモノイソブチルエーテルの含有量を、全体量に対して、5〜60重量%の範囲内の値とすることにより、速乾性液体組成物の表面張力の値が所望範囲に調整され、被洗浄物に対する濡れ性に優れた速乾性液体組成物を提供することができる。
【0033】
なお、アルキレングリコールアルキルエーテルとして、プロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテルを用いた場合であっても、図2(a)に示す特性曲線A、Bと、同様の傾向が得られている。
一方、速乾性液体組成物における表面張力の値は、液温によっても、変化することが判明している。
例えば、速乾性液体組成物におけるエチレングリコールモノノルマルブチルエーテルの含有量が20重量%の場合であって、液温が15℃の場合、その表面張力は31mN/mである。同様に、液温が25℃の場合、その表面張力は30mN/mであり、また、液温が30℃の場合、その表面張力は30mN/mであり、さらに、45℃の場合、その表面張力は29mN/mである。
よって、速乾性液体組成物における表面張力の値を問題とする場合、その液温にも留意すべきである。
【0034】
次いで、図2(b)を参照して、速乾性液体組成物の曇点に対する、エチレングリコールモノブチルエーテルの含有量の影響をそれぞれ説明する。
図2(b)は、横軸に、速乾性液体組成物の全体量(100重量%)に含まれるエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル(nBG)およびエチレングリコールモノイソブチルエーテル(iBG)の含有量(重量%)をそれぞれ採って示してあり、縦軸に、速乾性液体組成物の曇点の値(℃)を採って示してある。
そして、ラインAが、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル(nBG)に対応した特性曲線であって、ラインBが、エチレングリコールモノイソブチルエーテル(iBG)に対応した特性曲線である。
【0035】
かかる特性曲線から容易に理解されるように、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルおよびエチレングリコールモノイソブチルエーテルの含有量が、それぞれ10〜20重量%となると、特異的に、曇点の値が急激に低下することが理解される。
また、図示されるように、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルおよびエチレングリコールモノイソブチルエーテルの含有量が20重量%を超えて、30重量%程度まで増加した場合、曇点の値の変化度合いが急激に小さくなることが理解される。
そして、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルおよびエチレングリコールモノイソブチルエーテルの含有量を50〜60重量%程度まで増加させた場合、今度は曇点の値は徐々に上がることが理解される。
【0036】
例えば、速乾性液体組成物におけるエチレングリコールモノノルマルブチルエーテルの含有量が40重量%/水60重量%の場合、その曇点は48℃である。同様に、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルの含有量が50重量%/水50重量%の場合、その曇点は56℃であり、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルの含有量が60重量%/水40重量%の場合、その曇点は83℃以上である。
また、速乾性液体組成物におけるエチレングリコールモノイソブチルエーテルの含有量が40重量%/水60重量%の場合、その曇点は25℃であり、エチレングリコールモノイソブチルエーテルの含有量が50重量%/水50重量%の場合、その曇点は30℃であり、さらに、エチレングリコールモノイソブチルエーテルの含有量が60重量%/水40重量%の場合、その曇点は36℃である。
したがって、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルおよびエチレングリコールモノイソブチルエーテルの含有量を、全体量に対して、5〜60重量%の範囲内の値とすることにより、速乾性液体組成物の曇点の値が所望範囲に調整され、乾燥速度が速く、液シミの発生が少ない速乾性液体組成物を提供することができる。
【0037】
なお、アルキレングリコールアルキルエーテルとして、プロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテルを用いた場合であっても、図2(b)に示す特性曲線A、Bと、同様の傾向が得られている。
すなわち、プロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテルの含有量が20重量%/水80重量%の場合、その曇点は38℃であり、同様に、プロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテルの含有量が40重量%/水60重量%の場合、その曇点は31℃であり、さらに、プロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテルの含有量が60重量%/水40重量%の場合、その曇点は34℃である。
【0038】
また、エチレングリコールモノブチルエーテルには、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル(nBG)およびエチレングリコールモノイソブチルエーテル(iBG)があるが、いずれかの単独使用であっても良い。
但し、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテルおよびエチレングリコールモノイソブチルエーテルの混合物として使用することも好ましい。
この理由は、エチレングリコールモノブチルエーテルの混合物を使用することにより、速乾性液体組成物の物性、例えば、乾燥速度、表面張力、曇点、および引火点の値を、所定範囲内に、さらに容易に調整することができるためである。
【0039】
また、より具体的には、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル100重量部に対して、エチレングリコールモノイソブチルエーテルの添加量を5〜950重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、混合する水量との関係もあるが、エチレングリコールモノイソブチルエーテルの添加量が、5重量部未満の値になっても、950重量部を超えた値になっても、それぞれ混合使用の効果が発現せず、速乾性液体組成物の物性、例えば、表面張力、曇点、および引火点の値を、所定範囲内に調整することが困難となる場合があるためである。
したがって、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル100重量部に対して、エチレングリコールモノイソブチルエーテルの添加量を10〜900重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、20〜800重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0040】
なお、図3に、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル(nBG)およびエチレングリコールモノイソブチルエーテル(iBG)を混合使用した場合であって、かつ、その混合割合を変えた場合において、乾燥時間に及ぼす影響を示す。
すなわち、横軸に、合計使用量が17.5重量%となるように混合使用した場合におけるエチレングリコールモノイソブチルエーテル(iBG)濃度(重量%)を採ってあり、縦軸に、図1(a)と同様に測定した乾燥時間を採って示してある。
そして、ラインAが、ステンレス板に対応した乾燥時間の特性曲線であって、ラインBが、ポリプロピレン板に対応した乾燥時間の特性曲線である。
図3に示す特性曲線のそれぞれから、エチレングリコールモノブチルエーテルの混合物を使用するとともに、混合割合を変えることにより、速乾性液体組成物の乾燥速度を精度良く調整できることが理解される。
【0041】
(2)水
また、水と、上述したアルキレングリコールアルキルエーテルと、を併用することにより、乾燥速度が速いとともに、被洗浄物に対する濡れ性に優れ、液シミの発生が少ない速乾性液体組成物を提供することができる。
ここで、速乾性液体組成物の全体量(100重量%)に対して、水の含有量を40〜95重量%の範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、水の含有量が、40重量%未満の値になると、乾燥速度が遅くなったり、消防法上の危険物に該当するようになって、取り扱いが困難となったりする場合があるためである。
一方、水の含有量が、95重量%を超えると、速乾性液体組成物の物性、例えば、表面張力、曇点、および引火点の値を、所定範囲内に、容易に調整することが困難となる場合があるためである。
したがって、速乾性液体組成物の全体量(100重量%)に対して、水の含有量を60〜93重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、70〜90重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0042】
(3)界面活性剤
また、速乾性液体組成物が、界面活性剤をさらに含むとともに、当該界面活性剤の含有量を、全体量に対して、0.01〜5重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、所定量の界面活性剤をさらに含むことにより、被洗浄物に対する濡れ性をさらに向上させることができ、結果として、液シミの発生がさらに少ない速乾性液体組成物を提供することができるためである。
但し、界面活性剤の含有量が過度に多くなると、被洗浄物に残留し、腐食等の原因となる場合がある。
したがって、界面活性剤の含有量を、速乾性液体組成物の全体量に対して、0.03〜3重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、0.05〜1重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、界面活性剤の種類についても特に制限されるものではないが、例えば、アセチレンアルコール、アセチレングリコール、多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル等に代表される非イオン系界面活性剤であることが好ましい。
【0043】
(4)その他の添加剤
また、速乾性液体組成物の表面張力等のさらなる調整や、多機能化あるいは長期保存性付与等のために、速乾性液体組成物中に、表面張力低下剤(エチレングリコールモノヘキシルエーテル等)、スケール防止剤やキレート剤(グルコン酸ソーダ等)、防錆剤(炭酸アンモニウム等)、酸中和剤(テトラアルキルアンモニウムハイドライド、アンモニア等)、アルカリ中和剤(酢酸、ギ酸、塩酸等)、酸化還元剤(過酸化水素等)、酸化防止剤(ブチルヒドロトルエン等)、着色剤、密着向上剤(シランカップリング剤等)の少なくとも一つを添加することも好ましい。
その場合、添加剤の種類にもよるが、通常、かかる添加剤の添加量を、速乾性液体組成物の全体量に対して、0.005〜30重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
【0044】
(5)速乾性液体組成物の表面張力
また、速乾性液体組成物の表面張力を25〜35mN/mの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、速乾性液体組成物の表面張力の値を制限することにより、被洗浄物に対する濡れ性をさらに向上させることができ、結果として、液シミの発生がさらに少ない速乾性液体組成物を提供することができるためである。
より具体的には、速乾性液体組成物の表面張力が25mN/m未満の値になると、構成物が微細分離して、全体が白濁するとともに、水がはじき出されて、被洗浄物の表面で水滴を形成し、液シミが発生しやすくなる場合があるためである。
一方、速乾性液体組成物の表面張力が35mN/mを超えた値になると、被洗浄物に対する濡れ性が低下し、その結果、被洗浄物の表面で液滴を形成し、表面張力が所定値以下の場合と同様に、液シミが発生しやすくなる場合があるためである。
したがって、速乾性液体組成物の表面張力を26〜33mN/mの範囲内の値とすることがより好ましく、28〜32mN/mの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、速乾性液体組成物の表面張力は、上述したように、アルキレングリコールアルキルエーテルの含有量(相対的に水の含有量)や、使用するアルキレングリコールアルキルエーテルの種類の変更等によって、所定範囲内の値に調整することができる。
【0045】
(6)速乾性液体組成物の曇点
また、速乾性液体組成物が曇点を有する場合、その曇点を20〜70℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、速乾性液体組成物の曇点をこのような範囲内の値に制限することにより、被洗浄物に付着した水等について、迅速に除去することができるためである。したがって、被洗浄物に対して、速乾性液体組成物を吹き付けて使用したような場合であっても、被洗浄物に付着した水等につき、迅速に除去することができる。
但し、速乾性液体組成物の曇点が過度に高くなると、自然乾燥性が著しく低下する場合がある。
したがって、速乾性液体組成物の曇点を25〜60℃の範囲内の値とすることがより好ましく、25〜55℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、速乾性液体組成物の曇点は、上述したように、アルキレングリコールアルキルエーテルの含有量(相対的に水の含有量)や、使用するアルキレングリコールアルキルエーテルの種類の変更等によって、所定範囲内の値に調整することができる。
【0046】
(7)速乾性液体組成物の引火点
また、速乾性液体組成物が引火点を有する場合、その引火点を40℃以上の値とすることが好ましい。
この理由は、このように構成することにより、消防法上の危険物に該当しなくなるためである。したがって、被洗浄物に対して、速乾性液体組成物を吹き付けて使用したような場合であっても、被洗浄物を迅速かつ安全に除去することができる。
但し、速乾性液体組成物の引火点が過度に高くなると、自然乾燥性が著しく低下する場合がある。
したがって、速乾性液体組成物の引火点を50〜100℃の範囲内の値とすることがより好ましく、60〜80℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
そして、速乾性液体組成物の引火点を40℃以上の値とすることにより、法定上の防爆設備とする制約がなくなるため、処理装置をさらに小型化できるという利点も得られる。
なお、速乾性液体組成物の引火点は、アルキレングリコールアルキルエーテルの含有量(相対的に水の含有量)や、使用するアルキレングリコールアルキルエーテルの種類等の変更によって、所定範囲内の値に調整することができる。
【0047】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、アルキレングリコールアルキルエーテルと、水とを含む速乾性液体組成物を用いた洗浄方法であって、
速乾性液体組成物として、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、およびプロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテルからなる群から選択される少なくとも一つのアルキレングリコールアルキルエーテルと、水と、を含むとともに、全体量に対して、アルキレングリコールアルキルエーテルの含有量を5〜60重量%の範囲内の値とし、かつ、水の含有量を40〜95重量%の範囲内の値(但し、アルキレングリコールアルキルエーテルおよび水の含有量の合計量が100重量%に満たない場合には、残余部分は、他の液体化合物や添加物である。)とした速乾性液体組成物を準備する工程と、
速乾性液体組成物を、被洗浄物と接触させて、表面に付着した水、汚染物、洗浄剤およびリンス剤の少なくとも一つを除去する工程と、
を含むことを特徴とする速乾性液体組成物を用いた洗浄方法である。
すなわち、このように実施することにより、乾燥速度が速いとともに、被洗浄物に対する濡れ性に優れ、かつ安全性が高い速乾性液体組成物を用いた洗浄方法を提供することができる。
【0048】
1.被洗浄物の処理工程
(1)処理剤の種類
また、速乾性液体組成物を接触させる前段階として、処理剤によって、被洗浄物を処理する工程を設けることが好ましい。
ここで、処理剤の種類は特に制限されるものではないが、グリコールエーテル系化合物、グリコールエステル系化合物、およびピロリドン系化合物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であることが好ましい。
この理由は、このような処理剤であれば、比較的少量で、かつ安価であって、それを用いて、水性の汚染物や油性の汚染物であっても、迅速かつ十分に除去洗浄することができるためである。
また、このような洗浄剤であれば、本願発明の速乾性液体組成物にも溶解しやすいためである。
【0049】
特に、処理剤として、N−メチル−2−ピロリドン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、およびプロピレングリコールモノメチルアセテートからなる群から選択される少なくとも一つ化合物、およびこれらに水を混合してなる洗浄剤が好ましい。
この理由は、このような組み合わせであれば、洗浄性が優れているばかりか、帯電防止を図ることができ、さらには、比較的安価なためである。
【0050】
(2)添加剤
また、使用する処理剤(例えば、洗浄剤)中に、アミン化合物およびアルキルアンモニウムハイドロキサイド化合物等のアルカリ性化合物を、さらに含有することが好ましい。
この理由は、このように構成すると、皮脂等の汚れであっても、より効率的に除去することができるためである。
【0051】
また、アミン化合物を添加する場合、その添加量を、洗浄剤の主成分100重量部に対して、0.1〜20重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるアミン化合物の添加量が、0.1重量部未満の値となると、添加効果が発現しない場合があるためであり、一方、20重量部を超えた値となると、フラックスの除去効率が逆に低下する場合があるためである。
したがって、アミン化合物の添加量を、洗浄剤の主成分100重量部に対して、1〜20重量部の範囲内の値とすることがより好ましく、2〜10重量部の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0052】
2.水洗工程
また、被洗浄物の処理工程中に、水洗工程を設けることが好ましい。特に、被洗浄物としての乾電池筐体の作成や、金属部品のメッキ処理後に、不純物等の清浄のために、水洗工程を設けることが好ましい。
この理由は、このような水洗工程を設けることによって、被洗浄物の表面に付着した不純物やほこり等を、効率的に除去できるためである。
また、このような水洗工程を設けたとしても、本願発明の速乾性液体組成物を後工程として、乾燥工程で用いることによって、被洗浄物に付着した水分を、迅速かつ安全に除去することができるためである。
ここで、水洗工程の内容は特に制限されるものではないが、通常、水洗温度を20〜80℃の範囲内の値とするとともに、水洗時間を0.5〜30分の範囲内の値とすることが好ましい。
また、水洗の仕方も特に制限されるものではないが、通常、被洗浄物に対して、水をスプレーしたり、被洗浄物を水中に浸漬したりすることが好ましい。
【0053】
3.乾燥工程
(1)乾燥工程
被洗浄物に対して、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、およびプロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテルからなる群から選択される少なくとも一つのアルキレングリコールアルキルエーテルと、水と、を含むとともに、全体量に対して、アルキレングリコールアルキルエーテルの含有量を5〜60重量%の範囲内の値とし、かつ、水の含有量を40〜95重量%の範囲内の値とした速乾性液体組成物を適用する乾燥工程である。
【0054】
また、乾燥工程における処理温度、すなわち、速乾性液体組成物の液温については特に制限されるものではないが、通常、15〜80℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる乾燥工程における処理温度が15℃未満になると、速乾性液体組成物の表面張力が低下して、被洗浄物への濡れ性が低下し、乾燥状態が不十分となる場合があるためである。
一方、かかる乾燥工程における処理温度が80℃を超えると、被洗浄物を傷めたり、経済的に不利となったりする場合があるためである。すなわち、速乾性液体組成物の液温を高い状態で維持すると、揮発量が過度に多くなったり、酸化劣化が生じたり、液バランスが崩れたりする場合があるためである。
したがって、乾燥工程における処理温度を、25〜70℃の範囲内の値とすることがより好ましく、30〜55℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0055】
ここで、図4を参照して、乾燥工程における処理温度、すなわち、乾燥時間に及ぼす速乾性液体組成物の液温の影響の一例を説明する。
図4は、17.5重量%のエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル(nBG)と、82.5重量%の水とからなる速乾性液体組成物において、液温を25〜55℃の範囲で変えた場合に、図1(a)と同様に測定した乾燥時間(sec)を示す。
なお、後述する実施例1に準じて、乾燥オーブンを用いて、かかる乾燥時間を測定したが、その際の乾燥温度は、液温と一致させた。
そして、ラインAが、被洗浄物がステンレス板である場合に対応した乾燥時間の特性曲線であって、ラインBが、ポリプロピレン板である場合に対応した乾燥時間の特性曲線である。
それぞれ,速乾性液体組成物の液温を変えることにより、速乾性液体組成物の乾燥速度を精度良く調整できることが理解される。
【0056】
また、乾燥工程における処理時間についても特に制限されるものではないが、通常、10〜1800秒の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる乾燥工程における処理時間が10秒未満になると、速乾性液体組成物の乾燥状態が不十分となる場合があるためである。
一方、かかる乾燥工程における処理時間が1800秒を超えると、被着体を傷めたり、経済的に不利となったりする場合があるためである。
したがって、乾燥工程における処理時間を、50〜1000秒の範囲内の値とすることがより好ましく、100〜500秒の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0057】
なお、乾燥工程における乾燥方法についても、特に制限されるものではないが、通常、被洗浄物に対して、速乾性液体組成物をスプレーしたり、被洗浄物を速乾性液体組成物中に浸漬したり、あるいは、速乾性液体組成物を含ませた布やブラシで適用処理することが好ましい。
【0058】
(2)加熱工程
また、乾燥工程において、強制的な加熱工程を設けることも好ましい。
すなわち、強制的な加熱工程として、速乾性液体組成物を処理した被洗浄物を強制的に加熱処理、送風吹きつけ、あるいは熱風乾燥することによって、被洗浄物に付着した速乾性液体組成物をさらに迅速に乾燥させることが好ましい。
具体的には、ヒータや赤外線ランプ等の加熱部材を用いて、例えば、25〜70℃に周囲温度を加熱することにより、速乾性液体組成物を蒸発乾燥させることが好ましい。
なお、速乾性液体組成物が酸化した状態で被洗浄物に残留しないように、乾燥窒素等の不活性ガスを導入した状態で加熱乾燥することも好ましい。
【0059】
(3)リサイクル工程
また、乾燥工程の後に、速乾性液体組成物を蒸留再生するリサイクル工程を含むことが好ましい。
この理由は、このようにリサイクル工程を含むことにより、環境面で良好であるばかりか、コストが低減され、経済的に有利となるためである。
また、リサイクル工程を含んで、速乾性液体組成物を蒸留再生することにより、速乾性液体組成物中に混入した被洗浄物に付着していた汚染物、洗浄剤、およびリンス剤等を有効に除去し、清浄な速乾性液体組成物とすることができるためである。
したがって、例えば、全体量に対して、水の含有量を70〜95重量%の範囲内の値とし、かつ、エチレングリコールモノブチルエーテルの含有量を5〜30重量%の範囲内の値とした速乾性液体組成物は、引火点は比較的高いものの、得られる速乾性液体組成物の沸点が、それぞれ単独での沸点の値よりも低くなることから、速乾性液体組成物をリサイクルする際の蒸留再生が容易になる。
よって、それ以外の汚れ等を釜残として分離回収することができ、液の廃棄量が低減でき、大気中への溶剤成分の放出量も低減できる。
なお、かかるリサイクル工程は、除去工程とは、内容的に別工程であるが、除去工程を実施しながら、同時に、リサイクル工程を実施することもできる。
【0060】
[第3の実施形態]
第3の実施形態は、図5に示すように、洗浄槽10と、それに連通した補助槽30と、を備えてなる洗浄装置100であって、洗浄槽10に、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、およびプロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテルからなる群から選択される少なくとも一つのアルキレングリコールアルキルエーテルと、水と、を含むとともに、全体量に対して、アルキレングリコールアルキルエーテルの含有量を5〜60重量%の範囲内の値とし、かつ、水の含有量を40〜95重量%の範囲内の値とした速乾性液体組成物12が収容してあり、補助槽30に、速乾性液体組成物を所定温度とするための温度調整装置34が設けてあり、洗浄槽10から、補助槽30に移送された速乾性液体組成物12を曇点以上の温度とすることによって、上層36と、下層38に相分離させるとともに、下層38の速乾性液体組成物を、補助槽30から取り出し、洗浄槽10において循環使用することを特徴とする洗浄装置100である。
すなわち、このような洗浄装置によれば、洗浄槽における速乾性液体組成物の配合組成や温度が変化した場合であっても、補助槽によって修正し、所定配合組成であって、かつ所定温度の速乾性液体組成物が得られることから、それを循環使用して、被洗浄物を、常に一定かつ安定な状態で洗浄することができる。
【0061】
1.洗浄槽
洗浄槽10には、所定の速乾性液体組成物12が収容してあり、当該洗浄槽10は、補助槽30によって、濃度および温度が間接的に調整された下層38である速乾性液体組成物を循環使用して、被洗浄物(図示せず)を洗浄するための部位である。
すなわち、図5に例示するように、洗浄槽10は、所定容量を有する洗浄槽本体10aと、洗浄槽の温度調節置16と、攪拌装置(バブリング装置)14と、補助槽30に、速乾性液体組成物12を移送するための連結部22と、補助槽30の所定箇所から下層38としての速乾性液体組成物を取り出した後、配管20、循環ポンプ20c、および弁20bを介して、投入するための取り入れ口20aと、を備えている。
そして、かかる洗浄槽10によれば、補助槽30において相分離した速乾性液体組成物12のうち、下層38の速乾性液体組成物を、弁20eを介して、循環ポンプ20cを用いて、矢印Aが示す方向に、補助槽30の下部から取り出し、それを洗浄槽10における速乾性液体組成物12として循環使用するものである。
また、洗浄槽10の形態については、特に制限されるものではないが、例えば、矩形、台形、円柱、球形、あるいは異形等が挙げられる。
さらに、洗浄槽10の容量についても、被洗浄物の種類、大きさ、および洗浄速度、あるいは速乾性液体組成物の種類等を考慮して定めることが好ましい。
【0062】
また、洗浄槽10の温度調節装置16は、洗浄槽10における速乾性液体組成物12の温度を所定範囲内の値に上昇させたり、降下させたりして調整するためのものであって、ヒータや冷却管が典型であるが、通常は、洗浄開始時に使用するだけで十分である。
なんとならば、補助槽30における下層38の速乾性液体組成物を循環使用した場合、補助槽30における温度が所定範囲内の値に調整されていることから、洗浄槽10における温度も、それに比例して、一定温度になるためである。
さらに、攪拌装置14に関しても、エアバブリング装置を図示するものの、これに限らず、攪拌振動子や、攪拌羽根、攪拌ローター等であっても良い。
その他、図示しないものの、洗浄槽における被洗浄物を移動させたり、固定した、振動させたりするための冶具、例えば、クレーンやつり下げ部材等を備えることも好ましい。
【0063】
一方、第3の実施形態の洗浄装置100を用いる場合、洗浄槽10に収容する速乾性液体組成物12は、初期的には、第1の実施形態において説明した速乾性液体組成物を収容すれば良い。
但し、後述する補助槽30における濃度や温度調整のしやすさとの関係で、初期的には、実際に洗浄に用いる好ましい濃度条件等の速乾性液体組成物を収容しておくことが好ましい。
例えば、所定のアルキレングリコールアルキルエーテルがiBGの場合、全体量に対して、iBGの含有量を10〜20重量%の範囲内の値とし、かつ、水の含有量を80〜90重量%の範囲内の値(但し、iBGおよび水の含有量の合計量が100重量%に満たない場合には、残余部分は、他の液体化合物や添加物である。)とした速乾性液体組成物を収容することが好ましい。
そして、第3の実施形態の洗浄装置100を用いる場合、補助槽30における濃度や温度調整のしやすさとの関係で、アルキレングリコールアルキルエーテルが、例えばiBGの場合、洗浄槽10の温度を、通常、20〜30℃の範囲内の値とすることが好ましく、アルキレングリコールアルキルエーテルが、例えばnBGの場合、洗浄槽10の温度を、通常、35〜50℃の範囲内の値とすることが好ましい。
【0064】
2.補助槽
また、補助槽30は、洗浄槽10に対して、連結部22を介して、速乾性液体組成物12が移送可能に連通して設けてある構成部品であって、洗浄槽10における速乾性液体組成物12の濃度および温度を間接的に調整するための部位である。
すなわち、図5に例示するように、補助槽30は、所定容量を有する補助槽本体30aと、補助槽の温度調整装置34と、各種センサ(上層用位置センサ、上層用温度センサ、下層用位置センサ、下層用温度センサ)34a、34b、34c、34dと、液滴生成部32と、下層38としての速乾性液体組成物の取出口39と、を備えている。
そして、補助槽30に移送された速乾性液体組成物12を、ヒータ等の温度調整装置34によって、曇点あるいは曇点よりも高い温度に加熱し、水溶液曲線に準じて、上層36と、下層38に相分離させることができる。
この場合、補助槽30に移送された速乾性液体組成物12を曇点まで加熱して、取出口39あるいは、その近傍において透明であれば、それを補助槽30の加熱温度とする。一方、取出口39、あるいはその近傍において、にごり等が観察され、不透明であれば、さらに高い温度に加熱して、透明となる加熱温度を決定し、それを補助槽30の加熱温度とすることができる。
但し、加熱温度を、曇点よりも過度に高い値とすると、水やアルキレングリコールアルキルエーテルが蒸発しやすくなって、厳格管理が必要になったり、洗浄槽における温度管理が煩雑になったりする場合がある。
したがって、補助槽に移送された速乾性液体組成物を、温度調整装置によって、曇点よりも2〜15℃高い温度に加熱することがより好ましく、曇点よりも3〜10℃高い温度に加熱することがさらに好ましい。
【0065】
ここで、補助槽30には、図5に示すように、補助槽30の入り口部分に、接触面積を大きくするための混合部である液滴生成部32を設けることが好ましい。
すなわち、かかる液滴生成部32を設けることによって、補助槽30に移送されてなる速乾性液体組成物12から、安定的に所定の液滴が生成されて、上層との間の接触面積が大きくなるため、加熱効率が向上して、迅速に、二層に分離することができる。
逆に、液滴生成部32を設けない場合、補助槽30に移送された速乾性液体組成物12は、そのまま、上層36を一旦通過してしまい、その後、しばらくして、二層に分離することになる。
したがって、かかる液滴生成部32の形態については、特に制限されるものではないが、例えば、金属メッシュプレート、金属メッシュかご、樹脂メッシュプレート、樹脂メッシュかご、不織布、織布、穴あき板、邪魔板等の形態とすることが好ましい。
【0066】
また、補助槽30には、上層用位置センサ34a、例えば、光屈折率センサが設けてあり、それによって、上層36の位置を確認することができる。同様に、下層用位置センサ34c、例えば、光屈折率センサによって、下層38の位置を確認することができる。
したがって、上層用位置センサ34aによって、例えば、上層36における光屈折率をモニタし、この光屈折率の変化から、所定位置に、上層36が存在していないと判断した場合には、補助槽30の温度や速乾性液体組成物12の流入量および流出量等を調節するように動作することになる。
一方、下層用位置センサ34cによって、例えば、下層38における光屈折率をモニタし、この光屈折率の変化から、所定位置に、下層38が存在していないと判断した場合には、補助槽30の温度や、速乾性液体組成物12の流入量および流出量等を調節するように動作することになる。
すなわち、かかる上層用位置センサ34aおよび下層用位置センサ34cによって、上層36および下層38における所定位置をそれぞれ確認することによって、補助槽30の正常動作を確認することができるとともに、洗浄槽10における速乾性液体組成物12を用いた洗浄を、さらに安定的かつ確実なものとすることができる。
【0067】
また、補助槽30には、上層用温度センサ34bおよび下層用温度センサ34dを設けることが好ましく、これらによって、それぞれ分離した上層36および下層38における温度を確認するとともに、温度調整装置34によって、それらを所定範囲内の値に管理することができる。
すなわち、上層36および下層38における配合組成に影響する補助槽30の温度を確認することによって、補助槽30の正常動作を確保することができるとともに、洗浄槽10における速乾性液体組成物12を用いた洗浄を、さらに安定的かつ確実なものとすることができる。
但し、上層36は、液流が少ないことから、液温むらが生じる場合がある。よって、図示しないものの、上層36においては、上層用温度センサ34bを複数設けて、その温度管理を極め細かく行うことが好ましい。
【0068】
その他、図示しないものの、上層の液面センサや、上層と、下層との界面の液面センサを設けることも好ましい。すなわち、このような液面センサを設けることによって、さらに安定的に二層に分離していることが確認できるためである。なお、このような液面センサとしては、光屈折率を測定して、液面位置を制御するプリズムセンサが典型である。
また、同様に、図示しないものの、補助槽30には、上層36の濃度センサや下層38の濃度センサを設けることによって、上層36および下層38における配合組成を直接的に検知することができる。すなわち、検知された上層36および下層38における配合組成から、補助槽30の正常動作を確認することができるとともに、洗浄槽10における速乾性液体組成物12を用いた洗浄を、さらに安定的かつ確実なものとすることができる。
【0069】
また、補助槽30の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば、洗浄槽10の形態に沿えるように、矩形、台形、円柱、球形、あるいは異形等であっても良い。
そしてさらに、補助槽30の容量については、洗浄槽10の容量を考慮して定めることが好ましい。例えば、洗浄槽の容量/補助槽の容量の比率を1/20〜4/1の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる容量の比率が、洗浄槽10の容量の1/20未満の値となると、洗浄槽10における僅かな濃度変化にも敏感に対応し、補助槽30における上層36および下層38の容積変化が過度に大きくなり、ひいては、上層36および下層38における配合組成の制御が困難となる場合があるためである。さらに言えば、かかる容量の比率が、このように小さいと、洗浄槽10から補助槽30に移送されてなる速乾性液体組成物12の容量が比較的多い場合に、補助槽30から溢れたり、洗浄槽10に対して、逆流したりするおそれがあるためである。
一方、かかる容量の比率が、4/1以上の値となると、洗浄槽を含めた容積が過度に大きくなって、設置面積が大きくなったり、補助槽30に収容する速乾性液体組成物12の容量が過度に大きくなったり、さらには、定常状態となるまでに、過度に時間がかかる場合があるためである。
したがって、洗浄槽の容量/補助槽の容量の比率を1/10〜1/1の範囲内の値とすることがより好ましく、1/5〜1/2の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
より具体的には、洗浄槽10の容量が、例えば、20,000cm3の場合、補助槽30の容量を1,000〜80,000cm3とすることが好ましく、2,000〜20,000cm3とすることがより好ましく、4,000〜10,000cm3とすることがさらに好ましい。
【0070】
3.基本的作用
次いで、洗浄槽10の作用および補助槽30の基本的作用を説明する。
すなわち、図6に例示する水溶液曲線に準じて、少なくとも二成分(水およびアルキレングリコールアルキルエーテル)の速乾性液体組成物は、曇点以上の温度になると、アルキレングリコールアルキルエーテルの含有量が比較的多い油層(上層)と、アルキレングリコールアルキルエーテルの含有量が比較的少ない水層(下層)としての二層に相分離することが判明している。
そして、速乾性液体組成物が、このような二層に相分離すると、比重が異なることから、上層と、下層に分離することになる。また、上層の重量分率と、下層の重量分率と、は、
補助槽30に移送された速乾性液体組成物の配合組成による。
しかしながら、上層および下層のそれぞれの配合組成自体は、図6に例示する水溶液曲線に準じて、補助槽30に移送された速乾性液体組成物12の配合組成によらず、補助槽30の温度のみに影響されることが判明している。
よって、補助槽30は、上層の重量分率と、下層の重量分率については変化するものの、速乾性液体組成物12の配合組成や温度を修正し、常に、安定した配合組成および所定温度を有する上層および下層を形成するという基本作用を有している。
【0071】
そして、補助槽30は、安定した配合組成を有するとともに、所定温度を有する下層の速乾性液体組成物を、補助槽30から取り出し、それを洗浄槽10において循環使用することによって、洗浄槽10における速乾性液体組成物12の配合組成および温度を安定化させるという基本作用を有している。
すなわち、被洗浄物に付着して混入する水等のために、洗浄槽10における速乾性液体組成物12の配合組成や温度が変化した場合であっても、それを補助槽30に移送して、安定した配合組成であって、かつ所定温度の速乾性液体組成物として取り出すことができる。そして、それを洗浄槽10に対して、循環させることによって、洗浄槽10において、所定配合組成および所定温度を有する速乾性液体組成物12を用いて、被洗浄物を安定的に洗浄することができる。
よって、洗浄槽10は、一旦、洗浄槽における速乾性液体組成物の配合組成や温度が変化した場合であっても、それを補助槽30に移送するとともに、補助槽30から、安定した配合組成であって、かつ所定温度の速乾性液体組成物として、洗浄槽10に回収し、それを利用するという基本的作用を有していると言える。
【0072】
ここで、図6を参照して、洗浄槽10および補助槽30における基本作用をさらに詳細に説明する。
例えば、ある時点で、洗浄槽における速乾性液体組成物が、温度25℃であって、水/iBG=60重量%/40重量%の配合であったとする。
次いで、かかる速乾性液体組成物は、洗浄槽から、補助槽に移送されて、温度30℃に加熱されたとする。
すると、図6に示す水溶性曲線から理解されるように、温度30℃であって、水/iBG=50重量%/50重量%の上層と、温度30℃であって、水/iBG=83重量%/17重量%の下層が形成されることになる。水溶性曲線上のA点と、B点が、それぞれ、これらの配合組成を示している。
よって、B点で示される温度30℃の水/iBG=83重量%/17重量%の下層の速乾性液体組成物を、洗浄槽に、連続的または断続的に循環使用することによって、一定期間後には、定常状態となって、温度30℃、水/iBG=83重量%/17重量%の速乾性液体組成物が、洗浄槽の全体に収容されることになる。
なお、当初、洗浄槽における速乾性液体組成物は、温度25℃であって、水/iBG=60重量%/40重量%であることから、定常状態になると、比較的多く含まれていたiBGは、温度30℃、水/iBG=50重量%/50重量%の上層に見かけ上、移動することになる。
【0073】
一方、洗浄槽において、温度30℃の水/iBG=83重量%/17重量%の下層の速乾性液体組成物を、連続的または断続的に循環使用した場合、被着体に付着して、水分等が外部から進入することから、温度25℃であって、水/iBG=70重量%/30重量%の配合になったとする。これを、図6中、可溶域にあるC点と表す。
そして、かかる速乾性液体組成物を、洗浄槽から、補助槽に移送して、温度30℃に加熱する。
すると、その場合であっても、図6の水溶性曲線に示すように、A点と、B点の配合組成、すなわち、温度30℃、水/iBG=50重量%/50重量%の上層と、温度30℃、水/iBG=83重量%/17重量%の下層が形成されることになる。これは、上述したように、上層の重量分率と、下層の重量分率は、補助槽に移送された速乾性液体組成物の配合組成によるものの、上層および下層のそれぞれの配合組成自体は、補助槽に移送された速乾性液体組成物の配合組成によらず、補助槽の温度のみに影響されるためである。
よって、洗浄槽における速乾性液体組成物の配合組成が外部からの水分等の進入によって、C点に変化したとしても、B点で示される温度30℃の水/iBG=83重量%/17重量%の下層の速乾性液体組成物を、洗浄槽に循環使用することによって、一定期間後には、水/iBG=83重量%/17重量%の速乾性液体組成物が、洗浄槽全体に収容されることになる。
すなわち、補助槽によって、洗浄槽における速乾性液体組成物の配合組成や温度が変化した場合であっても、所定時間が経過すれば、上層の重量分率と、下層の重量分率を変えながら、常に、安定した配合組成および所定温度を有する下層を提供し、ひいては、それを洗浄槽で使用することができる。
【0074】
4.補助作用
また、補助槽において、仮に、速乾性液体組成物の配合組成や温度が所定範囲を逸脱した場合に、補助槽は、それを修正するインジケータとしての補助作用を有している。
すなわち、補助槽において、速乾性液体組成物を加温しても、均一相のままであって、上層および下層を形成しない場合には、それを目視あるいは所定センサによって検知し、それから各種条件を調整することができる。
ここで、速乾性液体組成物が均一相を示すのは、図6に示すiBG/水の水溶性曲線において、例えば、温度30℃において、速乾性液体組成物の全体量に対して、iBGの配合量が17重量%未満であったり、逆に、iBGの配合量が50重量%を超えたりする場合である。
一方、補助槽における加熱条件が不十分であって、速乾性液体組成物の温度が曇点以上の温度とならない場合も、図6に示すiBG/水の水溶性曲線から理解されるように、同様に均一相を示すことになる。
よって、速乾性液体組成物を加温しても、目視等において、均一相と見える場合には、iBGの配合量が所定範囲以外であるか、補助槽における加熱条件が不十分である可能性が高いことが推定される。
したがって、その場合、洗浄槽に収容した速乾性液体組成物におけるiBGの配合量を、手動または自動的に所定範囲内の値に調整したり、補助槽における加熱温度を上げて、少なくとも曇点以上としたりすることができる。
なお、補助槽における調整がさらに容易になるように、洗浄槽において、速乾性液体組成物におけるiBGの配合量を、所定範囲内の値に調整したり、液体温度を上げたりして、補助槽において、上層および下層を形成しやすくすることも好ましい。
【実施例】
【0075】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。
【0076】
[実施例1]
1.速乾性液体組成物の作成
表1に示す配合組成であって、所定温度の速乾性液体組成物を作成した。すなわち、攪拌装置および加熱装置を備えた200mlの蓋付き容器内に、15gのエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル(nBG)と、85gの水とを収容した後、加熱しながら、攪拌装置を用いて10分間攪拌し、液温が40℃の速乾性液体組成物を得た。
【0077】
2.速乾性液体組成物の評価
(1)塗布直後における濡れ性評価
所定大きさ(長さ100mm、幅100mm、厚さ0.2mm)のSUS304からなるステンレス板を、水平方向に対して5°の角度となるように、保持した。
次いで、速乾性液体組成物を、40℃に予め加温したステンレス板の全面に行き渡るようにかけ流した。その状態で、3秒間経過した後、ステンレス板の表面状態を目視観察し、以下の基準で、塗布直後における速乾性液体組成物の濡れ性を評価した。
○:速乾性液体組成物が均一に濡れ広がっており、非濡れ性部分(ステンレス板の素地が
見えている部分)の面積割合が、全体面積の0〜5%以下の範囲である。
△:速乾性液体組成物がほぼ均一に濡れ広がっており、非濡れ性部分の面積割合が、全体
面積の5%超〜20%以下である。
×:速乾性液体組成物が不均一に広がっており、非濡れ性部分の面積割合が、全体面積の
20%超である。
【0078】
(2)乾燥状態における濡れ性の評価および乾燥時間の測定
所定大きさ(長さ100mm、幅100mm、厚さ0.2mm)のステンレス板を、水平方向に対して5°の角度となるように、保持した。
次いで、速乾性液体組成物を、40℃に予め加温したステンレス板の全面に行き渡るようにかけ流した。
次いで、そのステンレス板を、所定温度(60℃)の循環式乾燥炉に投入し、30秒間放置した後、そのままの状態で、ステンレス板の表面状態を目視観察し、以下の基準で、乾燥状態における濡れ性を評価するとともに、循環式乾燥炉内で、速乾性液体組成物が乾燥するまでの加熱乾燥時間を測定した。
○:液滴が形成されないか、形成されたとしても、その直径が2mm未満である。
△:液滴が形成され、その直径が2mm〜5mm未満である。
×:液滴が形成され、その直径が5mm以上である。
【0079】
[実施例2〜9]
実施例2〜9では、実施例1に準拠して、表1に示す配合組成の速乾性液体組成物を作成し、濡れ性評価および加熱乾燥時間等の測定を行い、速乾性液体組成物の液温(40、50℃)、および循環式乾燥炉の温度(30、40、50、55℃)の影響をそれぞれ評価した。
【0080】
[実施例10〜11]
実施例10〜11では、実施例1に準拠して、表1に示す配合組成の速乾性液体組成物を作成するとともに、評価基材を、ステンレス板から、ABS樹脂板に変えて、濡れ性評価および加熱乾燥時間等の測定を行い、速乾性液体組成物の液温(50、60℃)、および循環式乾燥炉の温度(50、60℃)の影響をそれぞれ評価した。
【0081】
【表1】

【0082】
[実施例12〜18]
実施例12〜18では、アルキレングリコールアルキルエーテルとして、エチレングリコールモノイソブチルエーテル(iBG)を用い、実施例1に準拠して、表2に示すような配合組成の速乾性液体組成物を作成した。
次いで、濡れ性評価および加熱乾燥時間等の測定を行い、速乾性液体組成物の液温(25℃)、および循環式乾燥炉の温度(30、40、50℃)の影響をそれぞれ評価した。
【0083】
【表2】

【0084】
[実施例19〜20および参考例1]
実施例19〜20および参考例1では、アルキレングリコールアルキルエーテルとして、プロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテル(PnP)を用い、実施例1に準拠して、表3に示すような配合組成の速乾性液体組成物を作成した。
次いで、評価基材を、ステンレス板から、プリント配線基板に使用する銅張りガラスエポキシ板に変え、塗布直後における濡れ性等を評価した。
なお、実施例19の速乾性液体組成物における曇点は、38℃であって、引火点が57℃、表面張力(20℃測定)が、32mN/mであることを別途確認した。
また、同様に、実施例20の速乾性液体組成物における曇点は、31℃であって、引火点が57℃、表面張力(20℃測定)が、31mN/mであることを別途確認した。
さらにまた、同様に、参考例1の速乾性液体組成物は、消防法上の危険物に該当するが、その曇点は、34℃であって、引火点が57℃、表面張力(20℃測定)が、30.5mN/mであることを別途確認した。
【0085】
【表3】

【0086】
[実施例22〜24]
実施例22〜24では、アルキレングリコールアルキルエーテルとして、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル(nBG)と、エチレングリコールモノイソブチルエーテル(iBG))の混合物を用い、実施例1に準拠して、表4に示すような配合組成の速乾性液体組成物を作成した。そして、濡れ性評価および加熱乾燥時間等の測定を行った。
【0087】
【表4】

【0088】
[比較例1〜4]
比較例1〜4では、アルキレングリコールアルキルエーテルとして、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル(nBG)を過剰または極小で用い、実施例1に準拠して、表5に示す配合組成の液体組成物を作成し、次いで、濡れ性評価および加熱乾燥時間等の測定を行った。
【0089】
【表5】

【0090】
[比較例5〜8]
比較例5〜8では、アルキレングリコールアルキルエーテルとして、エチレングリコールモノイソブチルエーテル(iBG)を過剰または極小で用い、実施例1に準拠して、表6に示す配合組成の液体組成物を作成し、次いで、濡れ性評価および加熱乾燥時間等の測定を行った。
【0091】
【表6】

【0092】
[比較例9〜12]
比較例9〜12では、アルキレングリコールアルキルエーテルとして、プロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテル(PnP)を過剰または極小で用い、実施例1に準拠して、表7に示す配合組成の液体組成物を作成するとともに、評価基材を、ステンレス板から、プリント配線基板に使用する銅張りガラスエポキシ板に変えて、濡れ性評価および加熱乾燥時間等の測定を行った。
そして、比較例9の液体組成物における曇点はなく、引火点が45.5℃、表面張力(20℃測定)が28.5mN/mであることを別途確認した。
また、同様に、比較例10の液体組成物における曇点は、83℃まで認められず、引火点が50℃、表面張力が、29mN/mであることを別途確認した。
また、同様に、比較例11の液体組成物における曇点は、83℃まで認められず、引火点が57℃、表面張力が、30mN/mであることを別途確認した。
さらにまた、同様に、比較例12の液体組成物における曇点は、83℃まで認められず、引火点が69℃、表面張力が、45mN/mであることを別途確認した。
なお、比較例9〜11の液体組成物は、いずれも消防法上の危険物に該当し、取り扱いに注意しなければならないという問題がある。
【0093】
【表7】

[比較例13〜17]
比較例13〜17では、イソプロピルアルコール(IPA)を用いるとともに、実施例1に準拠して、表8に示す配合組成の液体組成物を作成し、次いで、濡れ性評価および加熱乾燥時間等の測定を行った。
【0094】
【表8】

【0095】
[比較例18〜22]
比較例18〜22では、エチルアルコール(EA)を用いるとともに、実施例1に準拠して、表9に示す配合組成の液体組成物を作成し、次いで、濡れ性評価および加熱乾燥時間等の測定を行った。
【0096】
【表9】

【0097】
[実施例25〜29]
実施例25〜29では、図5に示すように、補助槽30を備えた洗浄装置100を用いて得られた速乾性液体組成物につき、実施例12〜18と同様に、濡れ性や乾燥状態を評価した。
すなわち、実施例25では、補助槽における温度を約32℃に調整するとともに、洗浄槽の温度を25℃に調整して、所定時間経過後に、実施例12と同様に、濡れ性や乾燥状態を評価した。
また、実施例26〜28では、補助槽における温度を約29℃に調整するとともに、洗浄槽の温度を25℃に調整して、所定時間経過後に、実施例13〜15と同様に、濡れ性や乾燥状態を評価した。
また、実施例29では、補助槽における温度を約28℃に調整するとともに、洗浄槽の温度を25℃に調整して、所定時間経過後に、実施例16と同様に、濡れ性や乾燥状態を評価した。
よって、実施例25〜29において、図5に示す洗浄装置100を用いた場合、評価のばらつきが少なくなって、表10に示すように、実施例12〜18の実験結果が確実に再現されることが判明した。
【0098】
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、被洗浄物に付着した水等を除去する際に、速乾性液体組成物として、特定のアルキレングリコールアルキルエーテルと、水とを所定割合で用いることにより、乾燥速度が速いとともに、被洗浄物に対する濡れ性に優れるばかりか、安全性が高い速乾性液体組成物、およびそのような速乾性液体組成物を用いた洗浄方法を提供することが可能となった。
また、本発明の洗浄装置によれば、速乾性液体組成物の配合組成等が変化した場合であっても、補助槽が、それを修正して、所定配合組成を有する速乾性液体組成物を、安定的に用いることが可能となった。
したがって、イソプロピルアルコールやエチルアルコール等の代替物として、本発明の速乾性液体組成物を、電子部品、精密機械部品、樹脂加工部品や光学部品等の分野におけるプラスチック成型品、セラミック成型品、ガラス成型品、金属成型品等の各種成型品の表面洗浄後の速乾性液体組成物として使用されることが期待される。
【0100】
より具体的には、コンピューター及びその周辺機器/家電機器/通信機器/OA機器/その他電子応用機器等に用いられるプリント配線基板/ICリードフレーム/抵抗器/コンデンサーや乾電池やボタン電池の筐体/シリコンやセラミックスやガラスウェハ等のディスク部品/水晶振動子等の電歪部品/リレー等の接点部品などがあげられ、メッキ/エッチング/ドーピング/水性フラックスを用いたハンダづけなどの工程後の、仕上げに適用できる。
【0101】
また、ビデオレコーダーや、ハードディスク等に用いられる精密ベアリング等の組立前のほこり/指紋/微細な汚れの洗浄乾燥に適用できる。
さらに、携帯電話の筐体/自動車のバンパー/バイク等に用いられる樹脂製部品/カメラ、眼鏡、光学機器等に用いられるガラスレンズやプラスチックレンズ/液晶やプラズマや有機ELのガラスやプラスチック部品/メガネフレームなど、後に溶接/接着/塗装/ハードコート/メッキ/着色などの加工を施す前の、離型剤/ほこり/指紋/微細な汚れの乾燥に適用できる。
その他、本発明の速乾性液体組成物は、濡れ性が良く、乾燥も速く、かつ均一に乾燥することから、ワニスそのもの、あるいは防錆剤の希釈剤としても使用することができる。
【符号の説明】
【0102】
10:洗浄槽
12:速乾性液体組成物
14:攪拌装置(バブリング装置)
16:洗浄槽の温度調節装置
18:温度センサ
20:配管
20a:入口
20b:弁
20c:循環ポンプ
20d:弁
20e:弁
22:連結部
30:補助槽
32:液滴生成部
34:補助槽の温度調節装置
34a:上層用位置センサ
34b:上層用温度センサ
34c:下層用位置センサ
34d:下層用温度センサ
36:上層
38:下層
39:取出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、およびプロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテルからなる群から選択される少なくとも一つのアルキレングリコールアルキルエーテルと、
水と、を含むとともに、
全体量に対して、前記アルキレングリコールアルキルエーテルの含有量を5〜60重量%の範囲内の値とし、かつ、前記水の含有量を40〜95重量%の範囲内の値とすることを特徴とする速乾性液体組成物。
【請求項2】
表面張力を25〜35mN/mの範囲内の値とすることを特徴とする請求項1に記載の速乾性液体組成物。
【請求項3】
曇点を有する場合には、その曇点を20〜70℃の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1または2に記載の速乾性液体組成物。
【請求項4】
引火点を有する場合には、その引火点を40℃以上の値とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の速乾性液体組成物。
【請求項5】
界面活性剤をさらに含むとともに、当該界面活性剤の含有量を、全体量に対して、0.01〜5重量%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の速乾性液体組成物。
【請求項6】
被洗浄物に付着した水、汚染物、洗浄剤およびリンス剤の少なくとも一つを除去するための除去剤としてなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の速乾性液体組成物。
【請求項7】
アルキレングリコールアルキルエーテルと、水とを含む速乾性液体組成物を用いた洗浄方法であって、
前記速乾性液体組成物として、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、およびプロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテルからなる群から選択される少なくとも一つのアルキレングリコールアルキルエーテルと、水と、を含むとともに、全体量に対して、前記アルキレングリコールアルキルエーテルの含有量を5〜60重量%の範囲内の値とし、かつ、前記水の含有量を40〜95重量%の範囲内の値とした速乾性液体組成物を準備する工程と、
前記速乾性液体組成物を、被洗浄物と接触させて、表面に付着した水、汚染物、洗浄剤およびリンス剤の少なくとも一つを除去する除去工程と、
を含むことを特徴とする速乾性液体組成物を用いた洗浄方法。
【請求項8】
前記速乾性液体組成物を前記被洗浄物に接触させる際の液温を、曇点以下であって、かつ、10〜70℃の範囲内の値とすることを特徴とする請求項7に記載の速乾性液体組成物を用いた洗浄方法。
【請求項9】
前記除去工程の後に、前記速乾性液体組成物を蒸留再生するリサイクル工程をさらに含むことを特徴とする請求項7または8に記載の速乾性液体組成物を用いた洗浄方法。
【請求項10】
洗浄槽と、それに連通した補助槽と、を備えてなる洗浄装置であって、
前記洗浄槽に、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、およびプロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテルからなる群から選択される少なくとも一つのアルキレングリコールアルキルエーテルと、水と、を含むとともに、全体量に対して、前記アルキレングリコールアルキルエーテルの含有量を5〜60重量%の範囲内の値とし、かつ、前記水の含有量を40〜95重量%の範囲内の値とした速乾性液体組成物が収容してあり、
前記補助槽に、前記速乾性液体組成物を所定温度とするための温度調整装置が設けてあり、
前記洗浄槽から、前記補助槽に移送された速乾性液体組成物を曇点以上の温度とすることによって、上層と、下層に相分離させるとともに、下層の速乾性液体組成物を、前記補助槽から取り出し、前記洗浄槽において循環使用することを特徴とする洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−43248(P2010−43248A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162283(P2009−162283)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000123491)化研テック株式会社 (15)
【Fターム(参考)】