説明

遊星歯車装置

【課題】車両の自動変速機や、車両用減速差動装置に用いられるプラネタリー軸受部分の潤滑を、油圧ポンプを使用することなく良好にして、プラネタリー軸受部分の寿命を延長させ、しかもピニオン部分の摩擦損失を小さくすることを課題とする。
【解決手段】キャリヤ32に取り付けられるピニオンシャフト31の周囲に、内輪33a、外輪33b、内輪33aと外輪33bとの間に玉33cを介装した深溝玉軸受33を配置して、深溝玉軸受33によってピニオンギヤ29を回転自在に支持する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両等に搭載されている自動変速機の遊星歯車装置や、モータを動力源とした電気自動車の車両用減速差動装置の遊星歯車装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これらの遊星歯車装置に用いられるプラネタリー軸受には、従来、図14に示すような針状ころ軸受が使用されている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
この種の針状ころ軸受は、ころ1と、保持器2とからなり、キャリヤ3に取付けられるピニオンシャフト4の周囲に配置されて、ピニオンギヤ5を回転自在に支持している。
【0004】
ピニオンシャフト4内には、図14の右端面から軸線に沿って延在する袋孔6と、袋孔6の途中から半径方向に延在し、ピニオンシャフト4の周面においてころに対向するように開口する径孔7とが形成され、ピニオンシャフト4の外部から袋孔6及び径孔7を介して潤滑油がころ1に対して供給されるようになっている。
【0005】
また、キャリヤ3とピニオンギヤ5との間には、ワッシャ8が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−292152公報
【特許文献2】特開2009−216112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、プラネタリー軸受を構成する針状ころ軸受への潤滑油の供給は、上記のように、ピニオンシャフトの中空の袋孔から径孔を介して行っているため、どうしても潤滑不良を招く懸念がある。
【0008】
また、ピニオンギヤがはすば歯車の場合、軸受にはモーメント荷重が作用し、接触面圧の勾配が大きくなると、局所的に面圧が過大になり、短寿命になってしまう場合が生じる。
【0009】
特に、遊星機構1段で減速比を大きくとろうとすると、ピニオンギヤは、幅寸法に対して径寸法が大きくなり、針状ころ軸受にかかるモーメント荷重が大きくなり、ころのエッジ応力が局所的に過大面圧となり易い。
【0010】
特許文献1に開示されたものでは、ころを2列にしているが、局所的な過大面圧の発生は避けられない。
【0011】
また、特許文献2のものでは、ワッシャの摺動面圧を減少させているが、摺動による損失をなくすことはできず、また、軸受部分に潤滑油が供給され難い。
【0012】
このような潤滑不良の問題は、油圧ポンプを用いることによって、各部に潤滑油を良好に供給することができるが、油圧ポンプを設けると、その分だけ装置が大型化して重量が増し、また、油圧ポンプを動かすための消費電力が必要となるので、特に、1充電当たりの走行距離を少しでも延ばしたい電気自動車にとっては好ましくない。
【0013】
そこで、この発明は、車両の自動変速機や、車両用減速差動装置に用いられるプラネタリー軸受部分の潤滑を、油圧ポンプを使用することなく良好にして、プラネタリー軸受部分の寿命を延長させ、しかもピニオン部分の摩擦損失を小さくすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の課題を解決するために、この発明は、キャリヤに取り付けられるピニオンシャフトの周囲に、玉軸受を配置して、玉軸受によってピニオンギヤを回転自在に支持するようにしたものである。
【0015】
上記玉軸受の内輪とキャリヤとの間には、間座を配置することができる。
【0016】
上記間座の外径寸法は、上記玉軸受の内輪の外径寸法よりも小さくすることが好ましい。
【0017】
なお、内輪をピニオンシャフトに圧入することにより固定し、内輪との間に一定のスキマをおいてキャリヤを取り付ければ、間座を設けたり、内輪の幅を広げたりしなくてもピニオンギヤ端面をキャリヤに接触しないようにすることは一応可能である。しかし、組み付け時及び使用時においてスキマ管理が必要となる不便がある。これに対し、間座を設けたり、内輪の幅を広げたりする手段によればそのような不便が解消される。
【0018】
上記ピニオンギヤは、はすば歯車を使用することができ、平歯車であってもよい。
【0019】
この発明の遊星歯車装置は、車両用自動変速機、電気自動車用減速差動装置に好適に使用することができる。
【0020】
この発明の遊星歯車装置の潤滑機構としては、油浴潤滑を使用することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、この発明によれば、遊星機構のプラネタリー軸受として玉軸受を使用することにより、モーメント荷重が負荷されてもニードル軸受のようにエッジ応力が発生することはない。
【0022】
また、潤滑油が玉軸受の幅面から供給できるため、ニードル軸受のようにピニオンシャフトから供給する必要はない。また、ピニオンシャフトからニードル軸受へと繋がる潤滑用の穴を設ける必要がないので安価に製造できる。
【0023】
玉軸受の内輪幅面に間座を配置することにより、ピニオンギヤがモーメント荷重で倒れてもピニオンギヤはキャリヤに接触せず、すべり接触によるトルク損失がない。また、玉軸受の内輪は自転しないため、幅面に配置される間座も自転する必要がなく、キャリヤと接触しているものの、すべり接触によるトルク損失がない。
【0024】
間座の外径寸法を、玉軸受の内輪外径よりも小さくすることにより、潤滑油が玉軸受の幅面から供給されようとする場合に、スムーズに潤滑油が転動体である玉へ供給される。
【0025】
間座を設ける代わりに、玉軸受の内輪の幅をピニオンギヤよりも大きくすることにより、ピニオンギヤがモーメント荷重で倒れてもピニオンギヤはキャリヤに接触せず、すべり接触によるトルク損失がない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、この発明の遊星歯車装置の第1の実施形態の断面図である。
【図2】図2は、この発明の遊星歯車装置の第1の実施形態の断面図である。
【図3】図1は、この発明の遊星歯車装置を使用する電気自動車用減速差動装置の実施形態の断面図である。
【図4】図4(a)は、図3の一部拡大断面図、図4(b)は図4(a)の一部拡大断面図である。
【図5】図5は、図3のX1−X1線の断面図である。
【図6】図6(a)は、減速側サンギヤの正面図、図6(b)は図6(a)のX2−X2線の断面図である。
【図7】図7(a)は、減速側キャリヤの正面図、図7(b)は図7(a)のX3−X3線の断面図である。
【図8】図8は、図3のX4−X4線の断面図である。
【図9】図9(a)は、差動側サンギヤの正面図、図9(b)は図9(a)のX5−X5線の断面図である。
【図10】図10(a)は、差動側キャリヤの正面図、図10(b)は図10(a)のX6−X6線の断面図である。
【図11】図11(a)は、差動側キャリヤ補助部材の正面図、図11(b)は図9(a)のX7−X7線の断面図である。
【図12】図12は、この発明の遊星歯車装置を使用する電気自動車用減速差動装置の実施形態の要部の分解断面図である。
【図13】図13は、ギヤの一部を示す拡大斜視図である。
【図14】従来の遊星歯車装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0028】
図1は、この発明に係る遊星歯車装置の第1の実施形態におけるピニオンシャフト周辺を示す断面図である。
【0029】
図1の遊星歯車装置は、キャリヤ32に取り付けられたピニオンシャフト31の周囲に深溝玉軸受33を介して、はすば歯車等によって構成されるピニオンギヤ29を回転自在に支持している。深溝玉軸受33に限らず、アンギュラ玉軸受や4点接触玉軸受等の玉軸受、すなわち転動体が玉である軸受を用いることができる。
【0030】
深溝玉軸受33は、内輪33aと、外輪33bと、内輪33aと外輪33bの間に介装される玉33cとからなる。
【0031】
内輪33aとキャリヤ32との間には、間座20が配置され、ピニオンギヤ29の幅面とキャリヤ32とが接触しないようにし、ピニオンギヤ29の幅面とキャリヤ32との滑り接触による損失をなくしている。
【0032】
この間座20の外径寸法は、内輪33aの外径寸法よりも小さくなっており、これによって潤滑油が深溝玉軸受33の幅面から供給されるので、従来の針状ころ軸受を使用した遊星歯車装置のように、ピニオンシャフト31に、ニードル軸受へと繋がる潤滑用の穴を設ける必要がなく、潤滑機構として、油浴潤滑を使用することができる。
【0033】
図2は、この発明の第2の実施形態である。
【0034】
この第2の実施形態では、内輪33aの幅をピニオンギヤ29の幅よりも大きくして、ピニオンギヤ29が傾いてもキャリヤ32に接触しないようにしている。また、この実施形態では、第1の実施形態で、内輪33aとキャリヤ32の間に配置した間座20を省略している。
【0035】
この発明の遊星歯車装置は、車両用自動変速機、車両用減速差動装置に好適に使用することができる。
【0036】
以下、この発明の遊星歯車装置を使用した電気自動車用減速差動装置について説明する。
【0037】
電気自動車用減速差動装置は、電動モータ11、その電動モータ11と同軸状態に軸方向に配置された遊星歯車減速機12、その減速機12と同軸状態に軸方向に配置された遊星歯車差動装置13及び前記減速機12と差動装置13に共通の油浴潤滑手段14とによって構成される。
【0038】
これらの装置を収納したケーシング15は、電動モータ11を収納したモータケーシング15aと、減速機12及び差動装置13を収納した減速差動ケーシング15b並びにケーシング蓋15cを組み合わせたものである。モータケーシング15aの一端部が開放され、その開放端が減速差動ケーシング15bによって閉塞されている。減速差動ケーシング15bも一端が開放され、その開放端がケーシング蓋15cによって閉塞されている。
【0039】
電動モータ11は前記モータケーシング15aの内周面に固定されたステータ16と、その内径側においてモータ出力シャフト17にコア18と一体に取り付けられたロータ19によって構成される。
【0040】
前記モータ出力シャフト17は中空であり、その外端部はモータケーシング15aとの間に介在された出力シャフト支持軸受21によって支持され、内端部は減速機12のセンターに挿入される。前記出力シャフト支持軸受21はシール付き深溝玉軸受によって構成される。前記モータ出力シャフト17のうち減速機12に挿入された部分は、減速機入力シャフト22となっている。
【0041】
前記減速機入力シャフト22の部分が減速差動ケーシング15bとの間に介在された入力シャフト支持軸受23によって支持される。この入力シャフト支持軸受23も深溝玉軸受によって構成される。
【0042】
減速機12は、前記減速機入力シャフト22の先端部外周面に一体に設けられた減速側サンギヤ27(図5参照)、その外径側において前記減速差動ケーシング15bの内径面に同軸状態に固定された減速側リングギヤ28、前記サンギヤ27とリングギヤ28の間において周方向の3個所に略等間隔をおいて介在された減速側ピニオンギヤ29及び減速側キャリヤ32(図3参照)により構成される。
【0043】
減速側ピニオンギヤ29はサンギヤ27とリングギヤ28に噛み合う。また、
前記ピニオンギヤ29は減速側ピニオンシャフト31に深溝玉軸受33(図5参照)を介して支持され、そのピニオンシャフト31は一端部が前記減速側キャリヤ32に挿通され支持される。
【0044】
前記深溝玉軸受33は、内輪33aと、外輪33bと、内輪33aと外輪33bの間に介装された玉33cと保持器とからなる。保持器の図示は省略する
【0045】
図1に示したように、減速側キャリヤ32の減速機構入力シャフト22を中心とする外径Rは、望ましくはピニオンギヤ29の公転時における内輪33aの外径の軌跡の最大径R1と同等かそれより小さく設定される。前記の最大径R1より大きい場合でも、玉33cのPCDの軌跡の最大径R2を越えない大きさに設定される。
【0046】
前記のように、減速側キャリヤ32の外径Rを最大径R1と同等又はそれより小さく設定することにより、油浴潤滑による潤滑油(図1の白抜き矢印a参照)が軸受の幅面から供給された場合の障害となることが避けられる。また、最大径R1より大きい場合でも、玉33cのPCDの軌跡の最大径R2を越えない大きさに設定することが望ましい。
【0047】
前記減速側リングギヤ28は、減速差動ケーシング15bの内面に形成された段差部34(図3参照)にその側面を当てることにより位置決めされ固定される。
【0048】
前記減速側ピニオンギヤ29は、図5及び図6に示したように、深溝玉軸受33を介してピニオンシャフト31を挿入するシャフト穴37が設けられる。
【0049】
前記減速側キャリヤ32は、モータケーシング15aを開放端に面した減速差動ケーシング15bの閉塞面と、減速側ピニオンギヤ29との間において、入力シャフト22の回りに径方向のすき間h(図4参照)をおいて嵌合される。減速側キャリヤ32は、図7に示したように、一定の中心穴39を有する環状板によって形成され、その回転半径は、減速差動ケーシング15bの内底面に溜められた潤滑油の油面L(図3参照)にもぐるように設定される。
【0050】
前記減速側キャリヤ32の中心穴39と外周縁との間において、前記ピニオンシャフト31が挿通される3個所のシャフト穴41が同じPCD上に略等間隔で設けられる。各シャフト穴41の径方向の外周縁に径方向と直角の切欠き面42が形成され、その切欠き面42からシャフト穴41に達するネジ穴43が径方向に設けられる。シャフト穴41に挿通されたピニオンシャフト31は、そのネジ穴43に挿入したピン44a(図4参照)と、ねじ込んだ止めネジ44bによって固定される。
【0051】
ピニオンシャフト31の固定手段として、ピニオンシャフト31にピン(図示省略)を径方向に挿入し、そのピンをネジ穴にねじ込んだネジによって固定する方法、ピニオンシャフト31の端面をかしめて固定する方法、ピニオンシャフト31を減速側キャリヤ32に圧入することで固定する方法等がある。
【0052】
前記ネジ穴43の相互間の前記PCD上に、3個所の潤滑穴45が設けられる。各潤滑穴45は周方向に湾曲した長穴によって形成される。さらに、各潤滑穴45の外径側に対向した3個所において、外周縁から軸方向外向き(差動装置13の方向)に凸部46がそれぞれ設けられる。この凸部46は、後述のように、先端部が差動側リングギヤ49に結合され、回転時に潤滑油を掻き上げる作用を行うものであり、前述の油浴潤滑手段14の一部を構成する。
【0053】
また、前記減速差動ケーシング15bの閉塞面(モータケーシング15aの開放端を閉塞する径方向の面)に対向した減速側キャリヤ32の面に、前記中心穴39の周縁に沿った一定幅の段差部40(図4、図7参照)が設けられ、その段差部40に針状ころを用いたスラスト軸受47が取り付けられる。前記スラスト軸受47を前記の減速差動ケーシング15bの閉塞面に当接させることにより、減速側キャリヤ32に作用するスラスト力を受け、その減速側キャリヤ32を円滑に回転させるようにしている。
【0054】
なお、減速側ピニオンギヤ29の軸方向の一方の端面と減速側キャリヤ32との間、及び同じく他方の端面と差動側リングギヤ49の円板部49aとの間において、それぞれピニオンシャフト31の回りにワッシャ20が介在され、これによって前記ピニオンギヤ29の回転を円滑に行うようにしている。
【0055】
前記入力シャフト支持軸受23はスラスト軸受47よりも電動モータ11側に寄った位置に設けられているので、減速側キャリヤ32の中心穴39やスラスト軸受47によって当該軸受23への潤滑油の供給を妨げることが無いよう配慮しなければならない。
【0056】
このため、この実施形態においては、キャリヤ32の内径及びスラスト軸受47の内径を、前記入力シャフト支持軸受23を構成する内輪23bの外径より大に設定する必要がある。この条件を満たすべく、図示の場合(図4参照)は、キャリヤ32の内径及びスラスト軸受47の内径を当該軸受23の外輪23aの内径と同一又はこれより大きく設定することにより、軸受23に対する給油すき間hを確保するようにしている。
【0057】
次に、差動装置13について説明する。差動装置13は、前記の減速差動ケーシング15bの内部において、前記の減速機12と同軸状態に設けられる。その構成部材は、差動側リングギヤ49、その内径側において同軸状態に設けられた差動側サンギヤ51、前記リングギヤ49とサンギヤ51の間に介在され相互に噛み合ったダブルピニオン式の差動側ピニオンギヤ52a、52b、これらのピニオンギヤ52a、52bの差動側ピニオンシャフト53a、53bを支持した差動側キャリヤ54である。
【0058】
図の場合、ピニオンギヤ52a、52bは全部で8個使用しているが、6個でもよい。減速機11のピニオンギヤ29も個数の制限はない。
【0059】
なお、電気自動車用減速差動装置において、ダブルピニオン式を採用することは従来公知である(特開平7−323741号公報参照)。
【0060】
前記差動側サンギヤ51のシャフト穴55(図9参照)に第一出力シャフト35の内端部が貫通され、セレーション結合される。第一出力シャフト35の外端部は、減速機入力シャフト22及びこれと一体のモータ出力シャフト17に貫通され、深溝玉軸受でなる外端部支持軸受57(図3参照)を介してモータケーシング15aによって支持される。第一出力シャフト35の外端部は、モータケーシング15aから外部に突き出している。
【0061】
第二出力シャフト36は、後述のように、差動側キャリヤ54のセンターに前記第一出力シャフト35と同軸状態に一体に設けられ、第一出力シャフト35と反対向きに突き出している。
【0062】
前記の差動側リングギヤ49は、第一出力シャフト35の外周に径方向のすき間をおいて同軸状に設けられた円板部49aと、その円板部49aの外周縁を外向き(軸方向かつ第二出力シャフト36の突き出す向き)に屈曲して周縁部49bが設けられたものである。前記円板部49aに減速側ピニオンシャフト31の他端部が挿入支持され、また減速側キャリヤ32の凸部46もこれに差し込まれることによって、減速側キャリヤ32と差動側リングギヤ49が連結される。これにより減速側ピニオンギヤ29の公転による減速出力が差動側リングギヤ49に伝達される。
【0063】
前記の差動側サンギヤ51のシャフト穴55の周りにおいて、周方向に3個所の潤滑穴56が略等間隔を保ち同一PCD上に設けられる(図9参照)。この潤滑穴56も周方向に湾曲した長穴である。
【0064】
前記のダブルピニオン式のピニオンギヤ52a、52bは、同一歯数の同一サイズのギヤであり、図8に示したように、相互に噛み合うとともに、一方のピニオンギヤ52aは他方のピニオンギヤ52bより大きいPCDを有しリングギヤ49に噛み合い、PCDの小さい方のピニオンギヤ52bがサンギヤ51と噛み合う。
【0065】
差動側キャリヤ54は、図10に示したように、円板部58の外側面のセンターにセンターボス部59が設けられる。そのセンターボス部59の外端面に前記の第二出力シャフト36が同軸状態に外向きに突き出して設けられ、またセンターボス部59内部に内向きに開放された軸受凹部62が設けられる。
【0066】
前記センターボス部59の外径面とケーシング蓋15cとの間に深溝玉軸受でなる第二出力シャフト支持軸受61が介在される(図3、図4参照)。この第二出力シャフト支持軸受61は、差動側キャリヤ54の支持軸受でもある。また、軸受凹部62に前記第一出力シャフト35の内端部が挿入され、その内端部が針状ころ軸受でなる内端部支持軸受63を介して相対回転自在に支持される。
【0067】
前記の第二出力シャフト支持軸受61は、図4(a)に示したように、ケーシング蓋15cの外部に面した端部にシール部材85が装着され、その反対面にはシール部材が装着されていない、いわゆる片側シール付きの深溝玉軸受である。また、その外輪とケーシング蓋15cとの間にOリング86が介在され、その部分のシールを図っている。これにより軸受がシール機能を兼ねることとなり、幅方向長さを小さくすることができる。
【0068】
前記第一出力シャフト35のセレーション結合部30と内端部支持軸受63との間に当該内端部支持軸受63側が小径となる傾斜部87が設けられる。この傾斜部87は、セレーション結合部30と内端部支持軸受63間に落下した潤滑油を内端部支持軸受63側へ誘導する機能を有する。
【0069】
前記内端部支持軸受63は、例えばシェル形針状ころ軸受によって構成される。この軸受は外輪の両側縁に内径側に屈曲された鍔を有するので、その内側に潤滑油を溜め込むことができる。
【0070】
前記円板部58には、前記のピニオンシャフト53a、53bの位置に対応してそれぞれシャフト穴64a、64bが一定のPCD上に設けられる(図10参照)。また、小径のPCDと前記センターボス部59の間に、周方向の4個所に略等間隔をおいて潤滑穴65が設けられる。これらの潤滑穴65も湾曲した長穴によって形成される。
【0071】
また、前記円板部58の外周に沿って前記大径のPCD上のシャフト穴64aの相互間に差動装置13の内部を向く方向に突き出した掻き上げ用の凸部66が設けられる。その凸部66の先端面に嵌合固定突起67が設けられる。
【0072】
前記の差動側キャリヤ54は、その円板部58がケーシング蓋15cと差動側ピニオンギヤ52a、52b等のギヤ群の間に介在される。各ピニオンギヤ52a、52bに複列の針状ころ軸受68a、68b(図8参照)を介してピニオンシャフト53a、53bが挿通される。各ピニオンシャフト53a、53bの外端部が前記キャリヤ54のシャフト穴64a、64bにそれぞれ挿通され支持される。
【0073】
差動側ピニオンギヤ52a、52bは全体で8個となるので、これらを安定よく支持するために、環状板体の差動側キャリヤ補助部材70が、差動側リングギヤ49の円板部49aと差動側ピニオンギヤ52a、52b等のギヤ群の間に介在される。
【0074】
前記キャリヤ補助部材70には、図11に示したように、ピニオンシャフト53a、53bに対応した位置にそれぞれPCDの異なった一対のシャフト穴71a、71bが設けられる。小径のPCD上にあるシャフト穴71bに径方向に対向した外周縁に掻き上げ用の凹部72が全周の4個所に設けられる。
【0075】
前記キャリヤ補助部材70の外周面から各シャフト穴71aに達し、また各凹部72の底部から各シャフト穴71bに達する径方向のネジ穴73a、73bがそれぞれ設けられる。また、大径のPCD上にあるシャフト穴71aの周方向の間に長穴でなる嵌合穴74が4個所に形成される。嵌合穴74に差動側キャリヤ54の嵌合固定突起67を嵌合したのち溶接によって固定し、キャリヤ補助部材70との一体化を図る。
【0076】
前記の各シャフト穴71a、71bにそれぞれピニオンシャフト53a、53bの内端部が挿入され、それぞれネジ穴73a、73bからねじ込んだ止めネジ75bによってピニオンシャフト53a、53bがキャリヤ補助部材70に固定される。この場合もピニオンシャフト53a、53bにピン(図示せず)を径方向に挿通し、そのピンをネジ穴にねじ込んだネジによって固定する方法もある。
【0077】
その他の固定方法として、ピニオンシャフト53a、53bの端面をかしめることで固定する方法、ピニオンシャフト53a、53bを差動側キャリヤ54及びキャリヤ補助部材70に圧入することで固定する方法等がある。
【0078】
なお、前記各差動側ピニオンギヤ52a、52bの外端面と差動側キャリヤ54との間、及び内端面とキャリヤ補助部材70との間にそれぞれピニオンギヤ52a、52bが円滑に回転するようにワッシャ50が介在される。
【0079】
また、前記差動側キャリヤ54の円板部58と差動側サンギヤ51の間に針状ころを用いたスラスト軸受76が介在される(図4参照)。同様に、差動側リングギヤ49の円板部49aと差動側サンギヤ51の間にも針状ころを用いたスラスト軸受77が介在される。これらのスラスト軸受76、77はいずれも当該サンギヤ51の潤滑穴56の内径側に配置される。
【0080】
なお、前記差動側キャリヤ54及びその補助部材70の回転半径の少なくとも一方は、減速差動ケーシング15bの内底面に溜められた油面にもぐるように設定される。
【0081】
電気自動車用減速差動装置は以上のように構成され、次にその作用について説明する。
【0082】
図3に示した電動モータ11が駆動されると、そのモータ出力シャフト17が回転し、同時にモータ出力シャフト17と一体の減速機入力シャフト22及びその入力シャフト22と一体の減速側サンギヤ27が回転する。減速側サンギヤ27に噛み合った減速側ピニオンギヤ29は自転しつつ公転する。その公転によって減速側キャリヤ32が減速回転され、その減速回転が差動装置13側へ出力される。
【0083】
減速側サンギヤ27の歯数をZs、減速側リングギヤ28の歯数をZrとした場合の減速比は、周知のように、Zs/(Zs+Zr)となる。
【0084】
差動装置13においては、第一出力シャフト35が差動側サンギヤ51と一体に結合され、また第二出力シャフト36が差動側キャリヤ54に一体化されているので、これらの各出力シャフト35、36に取り付けられた左右の車輪(図示省略)に作用する負荷が均等である場合は、差動側サンギヤ51、ピニオンギヤ52a、52b、キャリヤ54及びリングギヤ49は一体となって回転し、相対回転することがない。言い換えれば、入力回転が第一及び第二出力シャフト35、36に均等に配分され、左右の車輪を等速回転させる。
【0085】
これに対し、左右の車輪に作用する負荷に差が生じると、ピニオンギヤ52a、52bの自転と公転によって入力回転は、負荷の差に応じて第一及び第二出力シャフト35、36に差動分配される。
【0086】
即ち、第一出力シャフト35に作用する負荷が相対的に大きくなり、これと一体のサンギヤ51の回転数Nsが、リングギヤ49の入力回転数NrよりΔNだけ小さくなった場合、キャリヤ54の回転数Ncは、
Nc=Nr+λ/(1−λ)・ΔN
となり、第二出力シャフト36が増速される。但し、λは歯車比(=Zs/Zr)、Zsはサンギヤ51の歯数、Zrはリングギヤ49の歯数である。
【0087】
逆に、第二出力シャフト36に作用する負荷が相対的に大きくなり、これと一体のキャリヤ54の回転数Ncが、入力回転数NrよりΔNだけ小さくなった場合、サンギヤ51の回転数Nsは、
Ns=Nr+(1−λ)/λ・ΔN
となり、第一出力シャフト35が増速される。
【0088】
次に、減速機12及び差動装置13の潤滑作用について、図12に基づいて説明する。
【0089】
減速差動ケーシング15bの内底面の所定高さの油面Lまで収納された潤滑油は、減速機12及び差動装置13の油浴潤滑に共通に使用される。
【0090】
減速機12においては、減速側キャリヤ32の外周部の3個所に設けられた凸部46及び減速側ピニオンギヤ29が、回転の途中において潤滑油の油面L以下の油中を通過することにより、潤滑油の掻き上げ作用を行う(図12の白抜き矢印参照)。掻き上げられた潤滑油は減速機12の内部に飛散され各部品に掛けられる。
【0091】
その一部は、減速側キャリヤ32の潤滑穴45、その中心穴39、ピニオンギヤ29の潤滑穴38のそれぞれを軸方向に通過するか(図12の矢印参照)、又はこれらを通過することなく直接、スラスト軸受47、入力シャフト支持軸受23、転がり軸受33等に供給される。
【0092】
この場合、前述の給油すき間hがあるので、このすき間hを軸方向に通過してスラスト軸受47及び入力シャフト支持軸受23への給油が行われる。
【0093】
なお、油面にもぐるような回転半径をもった減速側ピニオンギヤ29の一部も掻き上げ作用に寄与する。
【0094】
一方、差動装置13においては、差動側キャリヤ54の外周部の4個所に設けられた凸部66、差動側ピニオンギヤ52a、52b、差動側キャリヤ補助部材70の凹部72が、それぞれ潤滑油の掻き上げ作用を行う(図12の白抜き矢印参照)。
【0095】
掻き上げられた潤滑油は、キャリヤ54の潤滑穴65、サンギヤ51の潤滑穴56を軸方向に通過するか(図12の矢印参照)、又はこれらを通過することなく直接、第二出力シャフト支持軸受61、サンギヤ51の両端面に介在されたスラスト軸受76、77、ダブルピニオンギヤ52a、52bの複列の針状ころ軸受68a、68b等に供給される。
【0096】
前記差動側サンギヤ51の潤滑穴56は、当該サンギヤ51の両端面に介在されたスラスト軸受76、77への給油に有効である。
【0097】
この場合も油面にもぐるような回転半径をもった差動側ピニオンギヤ52a、52bの一部も掻き上げ作用に寄与する。
【0098】
上記実施形態に係る電気自動車用減速差動装置は、油浴潤滑を採用している。
この油浴潤滑におけるギヤの歯面の潤滑性をさらに向上させることによって、ギヤの耐久性がさらに向上する。
【0099】
即ち、対象となるギヤとしては、減速機12においては、減速側サンギヤ27、同ピニオンギヤ29及びリングギヤ28がある。また、差動装置13においては、差動側サンギヤ51、同ピニオンギヤ52a、52b及び同リングギヤ49がある。図13に示したように、これらのギヤの歯面79を形成する歯先部80、歯たけ部81及び歯底部82に無数の微小なくぼみ83がランダムに設けられる。
【0100】
前記歯面79の表面粗さパラメータは、Ryniが2.0〜5.5μm、Rymaxが2.5〜7.0μm、Rqniが0.3〜1.1μm、Rskが1.6以下である。
【0101】
減速機12、差動装置13それぞれについて、少なくとも径が最も小さいギヤに前記の微小なくぼみ83を無数に形成する加工を施すことがギヤの潤滑性を向上させ長寿命化を図るために有効である。場合によっては、減速機12においてはサンギヤ27とピニオンギヤ29の両方、差動装置13においてはサンギヤ51とピニオンギヤ52a、52bの両方に当該加工を施す必要がある場合もある。両方に当該加工を施す必要があるのは、例えば、最も小さいギヤに上記加工を施して長寿化されても、これに噛み合う他方のギヤが短寿命であれば、両方の寿命にアンバランスが生じるからである。
【0102】
前記の微小なくぼみ83をランダムに形成するには、歯面79をジャイロ研磨、バレル研磨等によって平滑化したのち、平滑化した歯面にくぼみ形成手段を施すことにより行う。その場合のくぼみ形成手段としては、ショットピーニング加工、液体ホーニング加工等によって酸化アルミニウム等を主成分とした微小な硬質粒子を衝突させる方法により行う。
【符号の説明】
【0103】
11 電動モータ
12 減速機
13 差動装置
14 油浴潤滑手段
15 ケーシング
15a モータケーシング
15b 減速差動ケーシング
15c ケーシング蓋
16 ステータ
17 モータ出力シャフト
18 コア
19 ロータ
20 間座
21 出力シャフト支持軸受
22 減速機入力シャフト
23 入力シャフト支持軸受
23a 外輪
23b 内輪
27 減速側サンギヤ
28 減速側リングギヤ
29 減速側ピニオンギヤ
30 セレーション結合部
31 減速側ピニオンシャフト
32 減速側キャリヤ
33 転がり軸受
34 段差部
35 第一出力シャフト
36 第二出力シャフト
37 シャフト穴
39 中心穴
40 段差部
41 シャフト穴
42 切欠き面
43 ネジ穴
44a ピン
44b 止めネジ
45 潤滑穴
46 凸部
47 スラスト軸受
49 差動側リングギヤ
49a 円板部
49b 周縁部
50 間座
51 差動側サンギヤ
52a、52b 差動側ピニオンギヤ
53a、53b 差動側ピニオンシャフト
54 差動側キャリヤ
55 シャフト穴
56 潤滑穴
57 外端部支持軸受
58 円板部
59 センターボス部
61 第二出力シャフト支持軸受
62 軸受凹部
63 内端部支持軸受
64a、64b シャフト穴
65 潤滑穴
66 凸部
67 嵌合固定突起
68a、68b 針状ころ軸受
70 差動側キャリヤ補助部材
71a、71b シャフト穴
72 凹部
73a、73b ネジ穴
74 嵌合穴
75a ピン
75b 止めネジ
76 スラスト軸受
77 スラスト軸受
79 歯面
80 歯先部
81 歯たけ部
82 歯底部
83 くぼみ
85 シール部材
86 Oリング
87 傾斜部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリヤに取り付けられるピニオンシャフトの周囲に、玉軸受を配置して、玉軸受によってピニオンギヤを回転自在に支持したことを特徴とする遊星歯車装置。
【請求項2】
上記ピニオンギヤの幅面がキャリヤと接触しないようにしたことを特徴とする請求項1に記載の遊星歯車装置。
【請求項3】
上記玉軸受の内輪とキャリヤとの間に間座を配置したことを特徴とする請求項2に記載の遊星歯車装置。
【請求項4】
上記間座の外径寸法を上記玉軸受の内輪の外径寸法よりも小さくしたことを特徴とする請求項3記載の遊星歯車装置。
【請求項5】
上記玉軸受の内輪の幅を、ピニオンギヤの幅よりも大きくしたことを特徴とする請求項2に記載の遊星歯車装置。
【請求項6】
請求項1〜5の遊星歯車装置を使用する車両用自動変速機。
【請求項7】
潤滑機構が油浴潤滑である請求項6記載の車両用自動変速機。
【請求項8】
請求項1〜5の遊星歯車装置を使用する電気自動車用減速差動装置。
【請求項9】
潤滑機構が油浴潤滑である請求項8記載の電気自動車用減速差動装置。
【請求項10】
前記車両用減速差動装置を構成する減速機のギヤのうち、少なくとも径が最も小さいギヤの歯面に粗面加工が施されたことを特徴とする請求項8又は9のいずれかに記載の電気自動車用減速差動装置。
【請求項11】
前記車両用減速差動装置を構成する差動装置のギヤのうち、少なくとも径が最も小さいギヤの歯面に粗面加工が施されたことを特徴とする請求項8又は9のいずれかに記載の電気自動車用減速差動装置。
【請求項12】
前記粗面加工による歯面の表面粗さパラメータは、Ryniが2.0〜5.5μm、Rymaxが2.5〜7.0μm、Rqniが0.3〜1.1μm、Rskが1.6以下であることを特徴とする請求項10に記載の電気自動車用減速差動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−189202(P2012−189202A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165084(P2011−165084)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】