説明

遮熱コーティング部材及びその製造方法ならびに遮熱コート材料、ガスタービン及び焼結体

【課題】高温下での使用の際の剥離を抑制でき、しかも高い熱遮蔽効果を有する遮熱コート材料、遮熱コーティング部材とその製造方法、遮熱コーティング材により被覆されたタービン部材、及びガスタービンを提供する。
【解決手段】耐熱基材21と、該耐熱基材上に形成されたボンドコート層22と、該ボンドコート層上に形成されたセラミックス層24とを含んでなる遮熱コーティング部材であって、該セラミックス層24が、一般式A’Zrで表される酸化物を含む。但し、A’及びBはそれぞれLa、Nd、Sm、Gd、Dy、Ce又はYbのいずれかの互いに異なる元素を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性に優れた遮熱コート材料、遮熱コーティング部材、ガスタービン及び焼結体ならびに遮熱コーティング部材の製造に関するものであり、特に、遮熱コーティング部材のトップコートとして用いられるセラミックス層の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー対策の一つとして、火力発電の熱効率を高めることが検討されている。発電用ガスタービンの発電効率を向上させるためには、ガス入口温度を上昇させることが有効であり、その温度は1500℃程度とされる場合もある。そして、このように発電装置の高温化を実現するためには、ガスタービンを構成する静翼や動翼、あるいは燃焼器の壁材などを耐熱部材で構成する必要がある。しかし、タービン翼の材料は耐熱金属であるが、それでもこのような高温には耐えられないために、この耐熱金属の基材上に金属結合層を介して溶射等の成膜方法によって酸化物セラミックスからなるセラミックス層を積層した遮熱コーティング材(サーマルバリアコーティング、TBC)を形成して高温から保護することが行われており、そのセラミックス層としてはZrO2系の材料、特にY23で部分安定化又は完全安定化したZrO2であるYSZ(イットリア安定化ジルコニア)が、セラミックス材料の中では比較的低い熱伝導率と比較的高い熱膨張率を有しているためによく用いられている。
【0003】
しかしながら、上記YSZからなるセラミックス層を備えた遮熱コーティング材によりガスタービンの動翼や静翼などを被覆した場合、ガスタービンの種類によってはタービンの入口温度が1500℃を越える温度に上昇することが考えられるが、このような高温で運転された場合、過酷な運転条件の下ではガスタービンの運転中に上記セラミックス層の一部が剥離し、耐熱性が損なわれるおそれがあった。また、近年、更に効率向上のため、タービン入口温度が1700℃にも達すると考えられており、タービン翼の表面温度は1300℃もの高温になることが予想される。従って、タービン翼の遮熱コーティング材には、更に高い耐熱性が要求される状況にある。
【0004】
上記YSZからなるセラミックス層の剥離の問題は、高温環境下におけるYSZの結晶安定性が十分でなく、大きな熱応力に対して十分な耐久性を有していないことによるものである。すなわち、耐熱基材やボンドコート層に比して熱膨張係数の小さいセラミックス層は、タービンの発停等に伴う熱サイクルが印加された際に、耐熱基材やボンドコート層との熱膨張係数の差による応力等の理由により、剥離することがあった(以下、このような熱サイクルによる作用に対する耐久性を「熱サイクル耐久性」という)。特許文献1は、この問題を解決するため、Yb23で安定化したジルコニア層、Yb23とEr23で安定化したジルコニア層ZrO2を用いた遮熱コーティング部材を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−160852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高温下での使用の際の剥離を抑制でき、しかも高い熱遮蔽効果を有する遮熱コート材料、遮熱コーティング部材及びガスタービンならびに前記特性を有する遮熱コーティング部材の製造方法を提供する。また本発明は、高い耐久性と熱遮蔽効果を有する焼結体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の参考例は、一般式AZr(但し、AはLa、Nd、Sm、Gd又はDyのいずれかを表す)で表される酸化物に、5モル%以上30モル%以下のCaO及び5モル%以上30モル%以下のMgOの少なくとも一方を添加してなる酸化物を含んでなり、10体積%以上のパイロクロア型結晶構造を有する遮熱コート材料を提供する。
【0008】
また、本発明は、一般式A’Zr(但し、A’及びBはそれぞれNd、Sm、Gd、Dy又はYbのいずれかを表し、かつA’とBとは互いに異なる元素である)で表される酸化物を含んでなる遮熱コート材料を提供する。前記酸化物は、熱伝導率を下げるためにパイロクロア型結晶構造を有することが好ましい。
また、本発明の参考例は、一般式A”Ce(但し、A”はLa、Sm又はYbのいずれかを表す)で表される酸化物を含んでなる遮熱コート材料を提供する。前記酸化物は、熱伝導率を下げるためにパイロクロア型結晶構造を有することが好ましい。
【0009】
上記いずれかの遮熱コート材料は耐熱基材上に溶射又は蒸着される材料であり、かつ前記耐熱基材はガスタービン用部品に用いられる基材であってもよい。
【0010】
また、本発明の参考例は、耐熱基材と、該耐熱基材上に形成されたボンドコート層と、該ボンドコート層上に形成されたセラミックス層とを含んでなる遮熱コーティング部材であって、該セラミックス層が一般式AZr(但し、AはLa、Nd、Sm、Gd又はDyのいずれかを表す)で表される酸化物に、5モル%以上30モル%以下のCaO及び5モル%以上30モル%以下のMgOの少なくとも一方を添加してなる酸化物を含み、かつ該セラミックス層が10体積%以上のパイロクロア型結晶構造を有する遮熱コーティング部材を提供する。
【0011】
また、本発明は、耐熱基材と、該耐熱基材上に形成されたボンドコート層と、該ボンドコート層上に形成されたセラミックス層とを含んでなる遮熱コーティング部材であって、該セラミックス層が一般式A’Zr(但し、A’及びBはそれぞれNd、Sm、Gd、Dy、Ce又はYbのいずれかを表し、かつA’とBとは互いに異なる元素である)で表される酸化物を含み、前記ボンドコート層と前記セラミックス層との間にジルコニア含有層を更に含み、該ジルコニア含有層は前記ボンドコート層と接触して設けられる遮熱コーティング部材を提供する。前記酸化物は、熱伝導率を下げるためにパイロクロア型結晶構造を有することが好ましい。
また、本発明の参考例は、耐熱基材と、該耐熱基材上に形成されたボンドコート層と、該ボンドコート層上に形成されたセラミックス層とを含んでなる遮熱コーティング部材であって、該セラミックス層が一般式A”Ce(但し、A”はLa、Sm又はYbのいずれかを表す)で表される酸化物を含む遮熱コーティング部材を提供する。前記酸化物は、熱伝導率を下げるためにパイロクロア型結晶構造を有することが好ましい。
【0012】
上記いずれかの遮熱コーティング部材において、前記セラミックス層が気孔率1%以上30%以下の気孔を有することが望ましい。
あるいは、上記いずれかの遮熱コーティング部材において、前記セラミックス層が、その厚さ方向に、前記耐熱基材上のボンドコート層以外の全層の厚さの5%以上100%以下の間隔で縦割れを有することが望ましい。
あるいは、上記いずれかの遮熱コーティング部材において、前記セラミックス層が柱状晶であったほうが望ましい。
【0013】
また、上記の遮熱コーティング部材において、上記ボンドコート層と上記セラミックス層との間にジルコニア含有層が更に設けられ、該ジルコニア含有層が気孔率1%以上30%以下の気孔を有したほうが望ましい。
あるいは、上記の遮熱コーティング部材において、上記ボンドコート層と上記セラミックス層との間にジルコニア含有層が更に設けられ、該ジルコニア含有層が、その厚さ方向に、上記耐熱基材上のボンドコート層以外の全層の厚さの5%以上100%以下の間隔で縦割れを有したほうが望ましい。
【0014】
また、本発明は、上記いずれかの遮熱コーティング部材を備えたガスタービンを提供する。
【0015】
また、本発明の参考例は、一般式AZr(但し、AはLa、Nd、Sm、Gd又はDyのいずれかを表す)で表される酸化物に、5モル%以上30モル%以下のCaO及び5モル%以上30モル%以下のMgOの少なくとも一方を添加してなる酸化物を含んでなり、10体積%以上のパイロクロア型結晶構造を有する焼結体を提供する。
【0016】
また、本発明は、一般式A’Zr(但し、A’及びBはそれぞれNd、Sm、Gd、Dy又はYbのいずれかを表し、かつA’とBとは互いに異なる元素である)で表される酸化物を含んでなる焼結体を提供する。前記酸化物は、熱伝導率を下げるためにパイロクロア型結晶構造を有することが好ましい。
また、本発明の参考例は、一般式A”Ce(但し、A”はLa、Sm又はYbのいずれかを表す)で表される酸化物を含んでなる焼結体を提供する。前記酸化物は、熱伝導率を下げるためにパイロクロア型結晶構造を有することが好ましい。
【0017】
また、本発明の参考例は、耐熱基材上にボンドコート層を形成するステップと、該ボンドコート層上に一般式AZr(但し、AはLa、Nd、Sm、Gd又はDyのいずれかを表す)で表される酸化物に、5モル%以上30モル%以下のCaO及び5モル%以上30モル%以下のMgOの少なくとも一方を添加してなる酸化物を含み、かつ10体積%以上のパイロクロア型結晶構造を有するセラミックス層を形成するステップを含む遮熱コーティング部材の製造方法を提供する。
【0018】
また、本発明は、耐熱基材上にボンドコート層を形成するステップと、前記ボンドコート層上に、前記ボンドコート層と接触するように、ジルコニア含有層を形成するステップと、該ジルコニア含有層上に一般式A’Zr(但し、A’及びBはそれぞれNd、Sm、Gd、Dy、Ce又はYbのいずれかを表し、かつA’とBとは互いに異なる元素である)で表される酸化物を含むセラミックス層を形成するステップとを含む遮熱コーティング部材の製造方法を提供する。前記酸化物は、熱伝導率を下げるためにパイロクロア型結晶構造を有することが好ましい。
また、本発明は、耐熱基材上にボンドコート層を形成するステップと、該ボンドコート層上に一般式A”Ce(但し、A”はLa、Sm又はYbのいずれかを表す)で表される酸化物を含むセラミックス層を形成するステップとを含む遮熱コーティング部材の製造方法を提供する。前記酸化物は、熱伝導率を下げるためにパイロクロア型結晶構造を有することが好ましい。
【0019】
上記の遮熱コーティング部材の製造方法において、上記ボンドコート層形成ステップと、上記セラミックス層形成ステップの間に、ジルコニア含有層を形成するステップを設けてもよい。
【0020】
上記ジルコニア含有層形成ステップは、前記ジルコニア含有層に気孔を導入する段階を含んでいてもよい。
あるいは、上記ジルコニア含有層形成ステップは、前記ジルコニア含有層に厚さ方向の縦割れを導入する段階を含んでいてもよい。
【0021】
また、上記いずれかの遮熱コーティング部材の製造方法において、上記セラミックス層形成ステップが、前記セラミックス層に気孔を導入する段階を含んでいてもよい。
あるいは、上記いずれかの遮熱コーティング部材の製造方法において、上記セラミックス層形成ステップが、前記セラミックス層に厚さ方向の縦割れを導入する段階を含んでいてもよい。
【0022】
また、本発明の参考例は、耐熱基材上にボンドコート層を形成するステップと、該ボンドコート層の上に電子ビーム物理蒸着法を用いて、一般式AZr(但し、AはLa、Nd、Sm、Gd又はDyのいずれかを表す)で表される酸化物に、5モル%以上30モル%以下のCaO及び5モル%以上30モル%以下のMgOの少なくとも一方を添加してなる酸化物を含み、かつ10体積%以上のパイロクロア型結晶構造を有する柱状晶を有するセラミックス層を形成するステップとを含む遮熱コーティング部材の製造方法を提供する。
【0023】
また、本発明は、耐熱基材上にボンドコート層を形成するステップと、前記ボンドコート層上に、前記ボンドコート層と接触するように、ジルコニア含有層を形成するステップと、該ジルコニア含有層の上に電子ビーム物理蒸着法を用いて、一般式A’Zr(但し、A’及びBはそれぞれNd、Sm、Gd、Dy、のいずれかを表し、BはCe又はYbのいずれかを表し、かつA’とBとは互いに異なる元素である)で表される酸化物を含む柱状晶を有するセラミックス層を形成するステップとを含む遮熱コーティング部材の製造方法を提供する。前記酸化物は、熱伝導率を下げるためにパイロクロア型結晶構造を有することが好ましい。
また、本発明の参考例は、耐熱基材上にボンドコート層を形成するステップと、該ボンドコート層の上に電子ビーム物理蒸着法を用いて、一般式A”Ce(但し、A”はLa、Sm又はYbのいずれかを表す)で表される酸化物を含む柱状晶を有するセラミックス層を形成するステップとを含む遮熱コーティング部材の製造方法を提供する。前記酸化物は、熱伝導率を下げるためにパイロクロア型結晶構造を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、優れた熱遮蔽性と、熱サイクル耐久性を備えた遮熱コート材料、遮熱コーティング部材を提供できる。これらをガスタービンに用いれば、信頼性の高いガスタービンを構成することができる。また、本発明によれば、前記特性を備えた遮熱コーティング部材の製造方法を提供できる。さらに本発明は、高い耐久性と熱遮蔽効果を有し、汎用性に優れた焼結体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第2の実施形態である遮熱コーティング部材の模式断面図である。
【図2】本発明の第3の実施形態である遮熱コーティング部材の模式断面図である。
【図3】本発明の第4の実施形態である遮熱コーティング部材の模式断面図である。
【図4】本発明の第5の実施形態である遮熱コーティング部材の模式断面図である。
【図5】本発明の第6の実施形態である遮熱コーティング部材の模式断面図である。
【図6】本発明の第7の実施形態である遮熱コーティング部材の模式断面図である。
【図7】本発明に係るタービン部材の一例である動翼を示す斜視図である。
【図8】本発明に係るタービン部材の一例である静翼を示す斜視図である。
【図9】図7と図8に示すガスタービン部材を備えたガスタービンの一例を示す部分断面図である。
【図10】実施例1、参考実施例1〜参考実施例6、比較例1、及び比較例2の焼結体の熱伝導率測定結果を示すグラフである。
【図11】SEM付きサーボ試験による、実施例2、参考実施例8〜参考実施例12、参考実施例14、比較例3、及び比較例4のトップコート層の縦割れ貫通時の表面ひずみの測定結果を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例において用いたレーザ式熱サイクル試験装置の模式断面図である。
【図13】図13(a)は、図12に示すレーザ熱サイクル試験装置による熱サイクル試験時の試料の温度履歴を示すグラフであり、図13(b)は、図13(a)の各曲線に対応する試料上の測定点を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に用いる耐熱基材としては、耐熱合金が挙げられる。耐熱合金としては、例えば、ガスタービン動翼に用いられるCM247L(キャノンマスケゴン社製)であり、ガスタービン静翼に用いられるIN939(インコ社製)が挙げられる。耐熱基材を用いる部品としては、好ましくはガスタービン用部品であり、タービン動翼、タービン静翼、分割環、燃焼器等に用いる部品が挙げられる。求められる耐熱性としては、その用途により異なるが、少なくとも700℃以上に耐えるものが好ましい。
【0027】
本発明によれば、耐熱基材上には、ボンドコート層が形成される。
ボンドコート層は、高い耐酸化性を有するとともに、耐熱基材とセラミックス層、又は耐熱基材とジルコニア含有層との熱膨張係数差を小さくして熱応力を緩和することができる。従って、高い耐酸化性による長時間耐久性と優れた熱サイクル耐久性を得ることができ、セラミックス層やジルコニア含有層のボンドコート層からの剥離を防止できる。また、ボンドコート層は、耐熱基材とセラミックス層、又は耐熱基材とジルコニア含有層をより強固に接合させ、遮熱コーティング材の強度の向上にも寄与できる。
【0028】
ボンドコート層は、その上に気孔を有する層や縦割れを有する層を設ける場合には、耐熱基材の高温酸化、高温腐食を防止するために、耐酸化性、耐食性に優れた材料を用いることが好ましい。また、発生する応力を効率よく緩和するために延性に優れた材料を用いることが好ましい。
ボンドコート層としては、耐食性及び耐酸化性に優れたMCrAlY合金(「M」は金属元素を表す。)が好ましい。「M」は、好ましくは、NiやCo、Fe等の単独の金属元素又はこれらのうち2種以上の組み合わせである。
ボンドコート層の形成方法は、特に限定されず、低圧プラズマ溶射法や、電子ビーム物理蒸着法等を用いることができる。
【0029】
ボンドコート層の厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.01mm以上1mm以下である。0.01mm未満では耐酸化性が不充分となる場合があり、1mmを超えると皮膜の延性や靱性が不充分となる場合がある。
【0030】
本発明の参考例によれば、トップコートとして、一般式AZr(但し、AはLa、Nd、Sm、Gd又はDyのいずれかを表す)で表される酸化物に、5モル%以上30モル%以下のCaO及び5モル%以上30モル%以下のMgOの少なくとも一方を添加してなる酸化物を含み、かつ10体積%以上のパイロクロア型結晶構造を有するセラミックス層を形成する。あるいは、本発明によれば、トップコートとして、一般式A’Zr(但し、A’及びBはそれぞれNd、Sm、Gd、Dy、Ce又はYbのいずれかを表し、A’とBとは互いに異なる元素である)で表される酸化物を含むセラミックス層を形成する。あるいは、本発明の参考例によれば、トップコートとして、一般式A”Ce(但し、A”はLa、Sm又はYbのいずれかを表す)で表される酸化物を含むセラミックス層を形成する。
前記一般式AZrで表される酸化物に、5モル%以上30モル%以下のCaO及び5モル%以上30モル%以下のMgOの少なくとも一方を添加してなる酸化物は、前記セラミックス層に10体積%以上含まれていることが好ましい。このセラミックス層は、10体積%以上のパイロクロア型結晶構造を有することにより、低熱伝導率を実現している。
前記一般式A’Zrで表される酸化物は、前記セラミックス層に10体積%以上含まれていることが好ましい。この一般式A’Zrで表される酸化物は、セラミックス層の熱伝導率を下げるために、パイクロア構造をとることが好ましい。
前記一般式A”Ceで表される酸化物は、前記セラミックス層に10体積%以上含まれていることが好ましい。この一般式A”Ceで表される酸化物は、セラミックス層の熱伝導率を下げるために、パイクロア型結晶構造をとることが好ましい。
【0031】
前記一般式AZrで表される酸化物にCaO及びMgOの少なくとも一方を所定量添加してなる酸化物としては、SmZrにCaO及びMgOをそれぞれ10モル%添加してなる酸化物が他のAZrにCaO及びMgOを少なくとも一方を入れた材料や一般式AZrで表される酸化物のみからなる材料よりも熱伝導率が低いので特に好ましい。
また、前記一般式A’Zrで表される酸化物としては、LaCeZr又はSmYbZrが、低熱伝導率であり、かつYSZと同等の線膨張係数を有するので特に好ましい。
また、前記一般式A”Ceで表される酸化物としては、LaCeが、低熱伝導率であり、かつYSZと同等の線膨張係数を有するので特に好ましい。
【0032】
前記一般式AZr、一般式A’Zr、または一般式A”Ceで表される酸化物は、施工法に応じて、粉末又はインゴットとして利用される。
前記一般式AZr、一般式A’Zrまたは一般式A”Ceで表される酸化物を粉として合成する方法としては、粉末混合法、共沈法、アルコキシド法等が知られている。粉末混合法は、A粉及びZrO粉、またはA’粉、B粉及びZrO粉、またはA”粉及びCeO粉をスラリー状態でボールミル等を使用して混合し、スラリーを乾燥した後、粉を熱処理して固相反応法により一般式AZr、一般式A’Zr、または一般式A”Ceで表される酸化物を合成し、粉砕してAZr粉、A’Zr粉、または一般式A”Ce粉を得る方法である。共沈法は、A及びZrの塩溶液、またはA’、B及びZrの塩溶液、またはA”及びCeの塩溶液にアンモニア等の中和剤を添加して水和物沈殿を得た後、熱処理して反応させ、一般式AZr、一般式A’Zr、または一般式A”Ceで表される酸化物とした後、粉砕してAZr粉、A’Zr粉、または一般式A”Ce粉を得る方法である。アルコキシド法は、A及びZr、またはA’、B及びZr、またはA”及びCeのアルコキシド有機溶媒に水を添加して水和物沈殿を得た後、熱処理して反応させ一般式AZr、一般式A’Zr、または一般式A”Ceで表される酸化物とした後、粉砕してAZr粉、A’Zr粉、または一般式A”Ce粉を得る方法である。
【0033】
前記一般式AZrで表される酸化物には、5モル%以上30モル%以下のCaO及び5モル%以上30モル%以下のMgOの少なくとも一方が添加される。
Zr粉にCaO及びMgOの少なくとも一方を添加する方法としては、例えば、前記粉末混合法で示した原料(A粉及びZrO粉)に、CaO及びMgOの少なくとも一方を主体とする粉末を加えて原料とし、前記粉末混合法に従って酸化物を合成してもよい。
前記一般式AZrに5モル%以上30モル%以下のCaO及び5モル%以上30モル%以下のMgOの少なくとも一方が添加されてなる酸化物、一般式A’Zrで表される酸化物、または一般式A”Ceで表される酸化物をインゴットとして合成する場合は、所定の組成を有する原料を焼結又は電融固化してインゴットを得る方法が採用される。
なお、以下において、前記一般式AZrで表される酸化物に、5モル%以上30モル%以下のCaO及び5モル%以上30モル%以下のMgOの少なくとも一方が添加されてなる酸化物を「CaO/MgOドープAZr」ともいう。また、CaO/MgOドープAZrは化学式ではACaMgZr(x=0かつ0.05≦y≦0.30、又は0.05≦x≦0.30かつy=0、又は0.05≦x≦0.30かつ0.05≦y≦0.30)となる。前記一般式A’Zrで表される酸化物を単に「A’Zr」ともいう。
【0034】
CaO/MgOドープAZr又はA’Zrを含んでなる遮熱コート材料は、例えば、CaO/MgOドープAZr又はA’Zrの粉、水、分散剤及びバインダーを含むスラリーをスプレードライヤーを用いて球状に造粒し、造粒物を熱処理して得られる。また、CaO/MgOドープAZr又はA’Zrの原料混合の段階で得られたスラリーをスプレードライして球状に成形し、熱処理して粉を得ることによりCaO/MgOドープAZr又はA’Zrを含んでなる遮熱コート材料とすることもできる。
CaO/MgOドープAZr又はA’Zrを含んでなる遮熱コート材料は、施工法として溶射法を用いる場合には、好ましくは10μm以上200μm以下の粒径に分級し、溶射に適した粒度に調整して用いる。また、電子ビーム物理蒸着法を用いる場合には、焼結インゴットをターゲット材料に用いることができる。
【0035】
CaO/MgOドープAZr層又はA’Zr層をボンドコート層の上に形成する方法としては、大気圧プラズマ溶射法、及び電子ビーム物理蒸着法等が挙げられる。
大気圧プラズマ溶射法を用いてCaO/MgOドープAZr層又はA’Zr層を形成する方法として、例えば、スルザーメテコ社製溶射ガン(例えばF4ガン)を用いて、上述の溶射法に用いる粉末を溶射電流600(A)、溶射距離150(mm)、粉末供給量60(g/min)、Ar/H量;35/7.4(l/min)の代表的条件により成膜することが可能である。
電子ビーム物理蒸着法を用いてCaO/MgOドープAZr層又はA’Zr層を形成する方法として、例えば、アルデンヌ社製電子ビーム蒸着装置(例えば、TUBA150)を用いて、上述のインゴットをターゲット材料に用い、電子ビーム出力50kW、雰囲気10−4torrの減圧環境、耐熱基材1,000℃の代表的条件で成膜することが可能である。
柱状晶は、ボンドコート表面上で核生成した結晶が優先結晶成長方向に、単結晶状態で成長したもので、耐熱基材に歪が作用した場合にも、結晶が互いに分離することから、高い耐久性を示す。
【0036】
ジルコニア含有層を用いないときのセラミックス層の厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.1mm以上1mm以下である。0.1mm未満では遮熱が不充分となる場合があり、1mmを超えると熱サイクルの耐久性が不充分となる場合がある。セラミックス層が気孔や縦割れ亀裂を有する場合は、セラミックス層の厚さは、好ましくは0.1mm以上1mm以下である。
セラミックス層としてSmZrにCaO及びMgOをそれぞれ10モル%ずつ添加したCaO/MgOドープAZr層を用いる場合は、XRDパターンが主にSm1.8Ca0.1Mg0.1Zrであるパイロクロア型となっており、熱伝導率が低下することから膜厚を下げることができる。S.Bose,Journal of Thermal Spray Technology,vol.6(1), Mar.1997 pp.99-104には、膜厚が下がると熱サイクル耐久性が向上すると報告されており、同じ遮熱効果を保持しながら薄膜化できる該CaO/MgOドープAZr層の高い熱サイクル耐久性を裏付けるものである。このように、該CaO/MgOドープAZr層は低い熱伝導性だけでなく、高い熱サイクル耐久性の点からも好ましい。
【0037】
セラミックス層は、好ましくは、1%以上30%以下の気孔率(セラミックス層内に形成された気孔のセラミックス層に対する体積占有率)を有する。気孔の存在により、セラミックス含有層の遮熱特性を向上させることができるとともに、ヤング率が低下することから熱サイクルに伴いセラミックス層に高い熱応力が作用した場合にもその応力を緩和することができる。従って、熱サイクル耐久性に優れた遮熱コーティング部材とすることができる。
気孔率が1%未満では、緻密であるためヤング率が高くなり、熱応力が高くなった場合に剥離が生じやすくなる。また、気孔率が30%を超えると、ボンドコート又はジルコニア含有層との密着性が不足し、耐久性が低下する場合がある。
【0038】
セラミックス層の気孔率は、溶射条件を調節することで容易に制御することができ、適切な気孔率を備えたセラミックス層を形成することができる。調節できる溶射条件としては、溶射電流、プラズマガス流量、溶射距離等が挙げられる。
溶射電流は、例えば、通常の600(A)から400(A)に低下することにより気孔率を5%程度から8%程度にまで増加できる。また、電流を増加することにより気孔率を低下することもできる。
プラズマガス流は、例えば、通常のAr/H量である35/7.4(l/min)から37.3/5.1(l/min)に水素流量割合を増加することにより、気孔率を5%程度から8%程度にまで増加できる。また、水素量を増加すると、気孔率を低下することができる。
溶射距離は、例えば、通常の150mmから210mmに増加させることにより、気孔率を5%程度から8%にまで増加できる。また、溶射距離を短くすることにより、気孔率を低下させることも可能である。更に、これらの組み合わせにより、気孔率を1%程度から最大30%程度の気孔率まで可変することができる。
【0039】
本発明によれば、セラミックス層は、その膜厚方向に延在する複数の縦割れ亀裂を有することが好ましい。この縦割れは、ジルコニア含有層の耐剥離性を向上させるためにジルコニア含有層の成膜時に意図的に導入される。
耐熱基材やボンドコート層に比して熱膨張係数の小さいセラミックス層は、タービンの発停等に伴う熱サイクルが印加された際に、耐熱基材やボンドコート層との熱膨張係数の差による応力が作用するが、セラミックス層に作用する応力を、縦割れがその幅を拡大又は縮小することにより緩和するようになっている。
従って、熱サイクルに伴う膨張収縮による応力はセラミックス層自体にはほとんど作用せず、セラミックス層の剥離が極めて起こり難くなり、熱サイクル耐久性に優れる。
【0040】
本発明によれば、溶射粉末を用いて溶射を行う際に、セラミックス層に縦割れを導入することができる。溶射法による成膜は、粉末を溶融又半溶融状態として耐熱基材上に噴射し、耐熱基材表面で急速に冷却凝固させることにより行われる。この耐熱基材表面で凝固される際の温度変化を大きくし、成膜されるセラミックス層に意図的に凝固割れを生じさせることで、セラミックス層に縦割れを導入できる。
セラミックス層に生じた亀裂は、従来の構成の遮熱コーティング材においては、セラミックス層に剥離を生じさせる原因となっていたが、本発明よるセラミックス層に導入された縦割れは、剥離の原因とはならない。これは、縦割れと、熱サイクルにより生じたセラミックス層の亀裂とでは、その周辺の結晶構造が異なることによる。すなわち、熱サイクルにより生じる亀裂は、高温中でZrO2の結晶相がt’相(準安定正方晶相)からt相(正方晶相)及びC相(立方晶)へ変化し、遮熱コーティング材の温度が低下した場合に高温相で安定であるt相が温度の低下によりm相(単斜晶相)及びC相(立方晶)となり、m相が生成される際に体積変化が生じる。この体積変化により形成された亀裂の周辺部には、m相が観測される。従って、熱サイクルによりm相とt相との相転移が繰り返されるため、亀裂は徐々に進展し、最終的にはセラミックス層を剥離させる。
これに対して、本発明によりセラミックス層に導入される縦割れにおいては、その周辺部にm相がほとんど存在しないため、熱サイクル中にセラミックス層内で相転移に伴う体積変化がほとんどなく、熱サイクルに伴う温度変化により縦割れが進展することはほとんどない。従って、この縦割れの導入によりセラミックス層の寿命が短くなることはないものと考えられる。
【0041】
縦割れの延在方向は、膜面の法線方向に対して±40°以内とされることが好ましい。セラミックス層の面方向の亀裂は、セラミックス層の剥離を引き起こしやすくするため、縦割れの延在する方向は、可能な限りセラミックス層の膜面の法線方向と平行とするのが好ましい。しかし、法線方向に対して±40°以内の傾きであれば、セラミックス層の剥離を防止する効果を十分に得ることができる。
縦割れの延在方向のより好ましい範囲は、セラミックス層の膜面の法線方向に対して±20°以下の範囲である。
【0042】
セラミックス層における縦割れ同士の間隔(ピッチ)は、耐熱基材上に形成された合計の膜の厚さ(但し、ボンドコート層を除く。)の5%以上100%以下とすることが好ましい。例えば、セラミックス層の膜厚を0.5mmとするならば、縦割れ同士の間隔は、0.025mm以上0.5mm以下の範囲とすることが好ましい。このような間隔でセラミックス層に縦割れを導入することで、耐剥離性に優れたセラミックス層を備えた遮熱コーティング部材を得ることができる。
ピッチが5%未満であると、下地のボンドコート層又はジルコニア含有層と接着面積が小さくなり、密着力が不足して剥離しやすくなる場合がある。間隔が100%を超えると、亀裂先端での剥離方向への特異応力が増大して剥離を誘発する場合がある。
【0043】
縦割れを備えたセラミックス層は、例えば、溶射法又は電子ビーム物理蒸着法によるセラミックス層の成膜時に形成することができる。
溶射法により縦割れを備えたセラミックス層を形成する場合、溶射距離(溶射ガンと耐熱基材との距離)を従来ジルコニア層の成膜に用いられていた溶射距離の1/4程度から2/3程度にまで近づけるか、あるいは、溶射距離は従来と同程度とし、溶射ガンに入力する電力を従来用いられていた電力の2倍程度から25倍程度にまで高めることによりセラミックス層に縦割れを導入することができる。すなわち、溶射によりボンドコート層又はジルコニア含有層を有する耐熱基材に飛来する溶融又は半溶融状態の粒子の温度を高くすることで、耐熱基材上で急冷凝固される際の温度勾配を大きくし、凝固時の収縮により縦割れを導入することができる。この方法によれば、溶射距離及び/又は溶射ガンへの入力電力を調整することで、容易に縦割れの間隔や頻度(縦割れの面積密度)を制御することができ、所望の特性を備えたセラミックス層を形成することができる。これにより、優れた耐剥離性、熱サイクル耐久性を備えた遮熱コーティング部材を容易に形成することができる。
電子ビーム物理蒸着法により縦割れを備えたセラミックス層を形成する場合、例えば、アルデンヌ社製電子ビーム蒸着装置(例えば、TUBA150)を用いて、上述のインゴットをターゲット材料に用い、電子ビーム出力50kW、雰囲気10−4torrの減圧環境、耐熱基材温度1,000℃の代表的条件で、縦割れを備えたセラミック層を容易に形成することができる。
【0044】
本発明によれば、トップコートをジルコニア含有層とセラミックス層の二層としてもよい。この場合、耐熱基材の表面から外に向けて、ボンドコート層、ジルコニア含有層、セラミックス層を順次形成することとなる。ジルコニア含有層は、好ましくはジルコニアを部分安定化した層である。ジルコニアを部分安定化することにより、ジルコニアの結晶安定性が向上し、タービン等の高温部品に用いた場合にも熱サイクル中でジルコニアの結晶相が変化し難く、相変態による亀裂及びその進展を防止することができる。高強度且つ線膨張係数が高く、比較的安価なジルコニア含有層を適用することにより、トップコートのコストダウンを図ることが可能となる。従って、優れた耐剥離性を備え、熱サイクル耐久性に優れ、高温部品に好適である。
部分安定化ジルコニアとしては、好ましくは、Yb23とY23とDy23とEr23からなる選ばれる一以上で安定化されたジルコニアである。
Yb23で安定化されたジルコニアの場合、安定化剤であるYb23の含有量は、熱サイクル耐久性の点から、好ましくは8質量%以上27質量%以下である。
Yb23とEr23とで安定化されたジルコニアの場合、好ましくは、安定化剤であるYb23含有量は0.1質量%以上25質量%以下、安定化剤であるEr23含有量は0.1質量%以上25質量%以下であり、Yb23とEr23の含有量の合計が10質量%以上30質量%以下である。
【0045】
トップコートをジルコニア含有層とセラミックス層の二層とした場合でも、トップコート全体の膜厚を0.1mm以上1mm以下とすることが好ましい。この場合、ジルコニア含有層とセラミックス層の各層は、耐熱基材上に設けた合計膜厚(但し、ボンドコート層を除く。)の10%以上90%とすることが好ましい。ジルコニア含有層とセラミックス層のいずれか又は両方が、気孔又は縦割れを有する場合であっても同様である。
【0046】
ジルコニア含有層は、公知の方法で形成することができる。例えば、Yb23で安定化されたジルコニア含有層は、Yb23粉末とZrO2粉末を粉末混合法で混合して混合粉、水、分散剤及びバインダーを含むスラリーをスプレードライヤーを用いて造粒した後、熱処理をすることで溶射粉末を作製し、溶射法により形成することができる。また、Yb23とEr23で安定化されたジルコニア含有層は、Yb23粉末とEr23粉末とZrO2粉末とを粉末混合法で混合して混合粉、水、分散剤及びバインダーを含むスラリーをスプレードライヤーを用いて造粒した後、熱処理をすることで溶射粉末を作製し、溶射法により形成できる。これにより、結晶安定性に優れ、耐剥離性に優れた部分安定化ジルコニア層を容易に歩留まり良く製造することができる。溶射法としては、大気圧プラズマ溶射法を挙げられる。溶射法に限らず、電子ビーム物理蒸着法により積層することもできる。
【0047】
大気圧プラズマ溶射を用いる場合は、例えば、ZrO2粉と所定の添加割合のYb23粉を用意し、これらの粉を適当なバインダーや分散剤とともにボールミル中で混合してスラリー状にする。次に、これをスプレードライヤーにより粒状にして乾燥させ、次いで1200℃以上1600℃以下に加熱する拡散熱処理により固溶化させて、Yb23が均一に拡散されたZrO2−Yb23の複合粉を得る。そして、この複合粉をボンドコート層上に溶射することによりYbSZ層を得ることができる。
また、ジルコニア含有層の成膜法として電子ビーム物理蒸着法を用いる場合には、所定の組成を有する原料を焼結又は電融固化して得られるインゴットを使用する。
また、Yb23及びEr23により安定化されたジルコニアを用いる場合には、ZrO2粉末と、所定の添加割合のYb23粉、及びEr23粉を用意し、上記と同様の方法でZrO2−(Yb23+Er23)複合粉を作製し、この複合粉を用いて溶射又は電子ビーム物理蒸着を行うことで、ボンドコート層上にYb23及びEr23により安定化されたジルコニア層を形成することができる。
【0048】
ジルコニア含有層は、好ましくは、1%以上30%以下の気孔率(ジルコニア含有層に対するジルコニア含有層内に形成された気孔の体積占有率)を有する。気孔の存在により、部分安定化ジルコニア含有層の遮熱特性を向上させることができるとともに、熱サイクルに伴いジルコニア含有層に高い熱応力が作用した場合にもその応力を緩和することができる。従って、熱サイクル耐久性に優れた遮熱コーティング部材とすることができる。
気孔率が1%未満では、緻密であるためヤング率が高くなり、熱応力が高くなった場合に剥離が生じやすくなる。また、気孔率が30%を超えると、ボンドコートとの密着性が不足し、耐久性が低下する場合がある。
【0049】
また、ジルコニア含有層の気孔率は、溶射電流や溶射距離を調節することで容易に制御することができ、適切な気孔率を備えたジルコニア含有層を形成することができる。これにより、耐剥離性に優れた遮熱コーティング部材を得ることができる。
溶射電流は、例えば、通常の600(A)から400(A)に低下することにより気孔率を5%程度から8%程度にまで増加できる。また、電流を増加することにより気孔率を低下することもできる。
プラズマガス流は、例えば、通常のAr/H量である35/7.4(l/min)から37.3/5.1(l/min)に水素流量割合を増加することにより、気孔率を5%程度から8%程度にまで増加できる。また、水素量を増加すると、気孔率を低下することができる。
溶射距離は、例えば、通常の150mmから210mmに増加させることにより、気孔率を5%程度から8%程度にまで増加できる。また、溶射距離を短くすることにより、気孔率を低下させることも可能である。更に、これらの組み合わせにより、気孔率を1%程度から最大30%程度の気孔率まで可変することができる。
【0050】
本発明によれば、ジルコニア含有層は、その膜厚方向に延在する複数の縦割れを有することが好ましい。この縦割れは、ジルコニア含有層の耐剥離性を向上させるためにジルコニア含有層の成膜時に意図的に導入される。
耐熱基材やボンドコート層に比して熱膨張係数の小さいジルコニア含有層は、タービンの発停等に伴う熱サイクルが印加された際に、耐熱基材やボンドコート層との熱膨張係数の差による応力が作用するが、縦割れがその幅を拡大又は縮小することによりジルコニア含有層に作用する応力を緩和するようになっている。
従って、熱サイクルに伴う膨張収縮による応力はジルコニア含有層自体にはほとんど作用せず、部分安定化ジルコニア含有層の剥離が極めて起こり難くなり、熱サイクル耐久性に優れる。
【0051】
本発明によれば、溶射粉末を用いて溶射を行う際に、ジルコニア含有層に縦割れを導入することができる。溶射法による成膜は、粉末を溶融又半溶融状態として耐熱基材上に噴射し、耐熱基材表面で急速に冷却凝固させることにより行われる。この耐熱基材表面で凝固される際の温度変化を大きくし、成膜されるジルコニア含有層に意図的に凝固割れを生じさせることで、ジルコニア含有層に縦割れを導入できる。
ジルコニア含有層に生じた亀裂は、従来の構成の遮熱コーティング材においては、ジルコニア含有層に剥離を生じさせる原因となっていたが、本発明によるジルコニア含有層に導入された縦割れは、剥離の原因とはならない。これは、縦割れと、熱サイクルにより生じたジルコニア含有層の亀裂とでは、その周辺の結晶組織が異なることによる。すなわち、熱サイクルにより生じる亀裂は、高温中でZrO2の結晶相がt’相(準安定正方晶相)からt相(正方晶相)及びC相(立方晶)へ変化し、遮熱コーティング材の温度が低下した場合に高温相において安定であるt相が温度の低下によりm相(単斜晶相)及びC相(立方晶)となり、m相が生成される際に体積変化が生じる。この体積変化により形成された亀裂の周辺部には、m相が観測される。従って、熱サイクルによりm相とt相との相転移が繰り返されるため、亀裂は徐々に進展し、最終的にはジルコニア含有層を剥離させる。
これに対して、本発明によりジルコニア含有層に導入される縦割れにおいては、その周辺部にm相がほとんど存在しないため、熱サイクル中にジルコニア含有層内で相転移に伴う体積変化がほとんどなく、熱サイクルに伴う温度変化により縦割れが進展することはほとんどない。従って、この縦割れの導入によりジルコニア含有層の寿命が短くなることはないものと考えられる。
【0052】
縦割れの延在方向は、膜面の法線方向に対して±40°以内とされることが好ましい。ジルコニア含有層の面方向の亀裂は、ジルコニア含有層の剥離を引き起こしやすくするため、縦割れの延在する方向は、可能な限りジルコニア含有層の膜面の法線方向と平行とするのが好ましい。しかし、法線方向に対して±40°以内の傾きであれば、ジルコニア含有層の剥離を防止する効果を十分に得ることができる。
縦割れの延在方向のより好ましい範囲は、ジルコニア含有層の膜面の法線方向に対して±20°以内の範囲である。
【0053】
ジルコニア含有層における縦割れどうしの間隔(ピッチ)は、耐熱基材上に形成された合計膜厚(但し、ボンドコート層を除く。)の5%以上100%以下とすることが好ましい。このような間隔でジルコニア含有層に縦割れを導入することで、耐剥離性に優れたジルコニア含有層を備えた遮熱コーティング材を得ることができる。ピッチが5%未満であると、下地のボンドコート層と接着面積が小さくなり、密着力が不足して剥離しやすくなる場合がある。間隔が100%を超えると、亀裂先端での剥離方向への特異応力が増大して剥離を誘発する場合がある。
【0054】
縦割れを備えたジルコニア含有層は、例えば、溶射法又は電子ビーム物理蒸着法によるジルコニア含有層の成膜時に形成することができる。
溶射法により縦割れを備えたジルコニア含有層を形成する場合、溶射距離(溶射ガンと耐熱基材との距離)を従来ジルコニア含有層の成膜に用いられていた溶射距離の1/4程度から2/3程度にまで近づけるか、あるいは、溶射距離は従来と同程度とし、溶射ガンに入力する電力を従来用いられていた電力の2倍程度から25倍程度にまで高めることによりジルコニア含有層に縦割れを導入することができる。すなわち、溶射によりボンドコート層を有する耐熱基材に飛来する溶融又は半溶融状態の粒子の温度を高くすることで、耐熱基材上で急冷凝固される際の温度勾配を大きくし、凝固時の収縮により縦割れを導入することができる。この方法によれば、溶射距離及び/又は溶射ガンへの入力電力を調整することで、容易に縦割れの間隔や頻度(縦割れの面積密度)を制御することができ、所望の特性を備えたジルコニア含有層を形成することができる。これにより、優れた耐剥離性、熱サイクル耐久性を備えた遮熱コーティング部材を容易に形成することができる。
電子ビーム物理蒸着法により縦割れを備えたジルコニア含有層を形成する場合は、例えば、アルデンヌ社製電子ビーム蒸着装置(例えば、TUBA150)を用いて、上述のインゴットをターゲット材料に用い、電子ビーム出力50kW、雰囲気10−4torrの減圧環境、耐熱基材温度1,000℃の代表的条件で、縦割れを備えたジルコニア含有層を容易に形成することができる。
【0055】
以下、本発明のいくつかの好ましい実施形態について図面を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
第1の参考実施形態は、耐熱基材上にボンドコート層とCaO/MgOドープAZrを含むセラミックス層とを順次含む遮熱コーティング部材である。ボンドコート層の厚さは0.01mm以上1mm以下であり、セラミックス層の厚さは0.1mm以上1mm以下である。ボンドコート層は、MCrAlY合金(「M」は金属元素を表し、好ましくは、NiやCo、Fe等の単独の金属元素又はこれらのうち2種以上の組み合わせである)を原料として、低圧プラズマ溶射法や、電子ビーム物理蒸着法等によって形成される。CaO/MgOドープAZrを含むセラミックス層は、CaO/MgOドープAZr粉を溶射粉末材料として用いる溶射法や、CaO/MgOドープAZrの焼結インゴットをターゲット材料に用いる蒸着法によって形成される。一般式AZrで表される酸化物としては、SmZrが好ましい。後述の実験例に示す様に熱伝導率が低いためである。遮熱コーティング部材は、好ましくはガスタービン部品に用いられる。
CaO/MgOドープAZrを用いることにより、YSZと略同等な線膨張率でありながら、YSZに比べて低熱伝導率となる。例えば、YSZ溶射被膜の熱伝導率は0.74W/mK以上2.02W/mK以下である(実験値より)。
【0056】
第1の実施形態は、耐熱基材上にボンドコート層とA’Zrを含むセラミックス層とを順次含む遮熱コーティング部材である。ボンドコート層の厚さは0.01mm以上1mm以下であり、セラミックス層の厚さは0.1mm以上1mm以下である。ボンドコート層は、MCrAlY合金(「M」は金属元素を表し、好ましくは、NiやCo、Fe等の単独の金属元素又はこれらのうち2種以上の組み合わせである)を原料として、低圧プラズマ溶射法や、電子ビーム物理蒸着法等によって形成される。A’Zrを含むセラミックス層は、A’Zr粉を溶射粉末材料として用いる溶射法や、A’Zrの焼結インゴットをターゲット材料に用いる蒸着法によって形成される。一般式A’Zrで表される酸化物としては、SmYbZrが好ましい。低熱伝導率であり、かつYSZと同等の線膨張係数を有するからである。遮熱コーティング部材は、好ましくはガスタービン部品に用いられる。
A’Zrを用いることにより、YSZと略同等な線膨張率でありながら、YSZに比べて低熱伝導率となる。例えば、YSZ溶射被膜の熱伝導率は0.74W/mK以上2.02W/mK以下であるが、A’Zrでは、通常0.3W/mK以上1.5W/mK以下である。
【0057】
第2の実施形態は、図1に示すようにセラミックス層が気孔を有するものであり、低熱伝導率重視の遮熱コーティング部材が得られる。図1は、耐熱基材21上にボンドコート層22とCaO/MgOドープAZr又はA’Zrを含むセラミックス層24とを順次含み、セラミックス層24が気孔24Pを有する遮熱コーティング部材を示す。ボンドコート層22の厚さは0.01mm以上1mm以下であり、セラミックス層24の厚さは0.1mm以上1mm以下である。セラミックス層24の気孔率は1%以上30%以下である。
第2の実施形態によれば、低熱伝導の遮熱コーティング膜を備えた遮熱コーティング部材が得られる。従って、耐熱基材21の信頼性を向上することができる。また、セラミックス層24に関して、耐熱基材21の延性又は曲げに対する追従性はYSZと同等となる。
【0058】
第3の実施形態は、図2に示すように、セラミックス層とジルコニア含有層が気孔を有するものであり、低熱伝導で耐久性の良好な遮熱コーティング部材が得られる。図2は、耐熱基材31上にボンドコート層32とジルコニア含有層33とCaO/MgOドープAZr又はA’Zrを含むセラミックス層34を順次含み、ジルコニア含有層33が気孔33Pを有し、セラミックス層34が気孔34Pを有する遮熱コーティング部材を示す。ボンドコート層32の厚さは0.01mm以上1mm以下である。ジルコニア含有層33とセラミックス層34との合計の厚さは0.1mm以上1mm以下であり、ジルコニア含有層33の厚さはジルコニア含有層33とセラミックス層34の合計厚さの10%以上90%以下であり、セラミックス層34の厚さは耐熱基材31上に形成されたジルコニア含有層33とセラミックス層34の合計厚さの10%以上90%以下である。ジルコニア含有層33とセラミックス層34の気孔率はそれぞれ1%以上30%以下である。
第3の実施形態によれば、気孔を有するジルコニア含有層とセラミックス層により、低熱伝導でかつ耐久性の良い遮熱コーティング膜を備えた遮熱コーティング部材が得られる。従って、耐熱基材21の信頼性を向上することができる。また、低コストで遮熱コーティング部材を製造できる。
【0059】
第4の実施形態は、図3に示すようにセラミックス層が気孔を有し、ジルコニア含有層が縦割を有するものであり、低熱伝導であり、かつ高耐久性の遮熱コーティング部材が得られる。図3は、耐熱基材41上にボンドコート層42とジルコニア含有層43とCaO/MgOドープAZr又はA’Zrを含むセラミックス層44を順次含み、ジルコニア含有層43が縦割れ43Cを有し、セラミックス層44が気孔44Pを有する遮熱コーティング部材を示す。ボンドコート層42の厚さは0.01mm以上1mm以下である。ジルコニア含有層43とセラミックス層44との合計の厚さは0.1mm以上1mm以下であり、ジルコニア含有層43の厚さはジルコニア含有層43とセラミックス層44との合計の厚さの10%以上90%以下であり、セラミックス層44の厚さは耐熱基材41上に形成されたジルコニア含有層43とセラミックス層44との合計の厚さの10%以上90%以下である。ジルコニア含有層43における縦割れ同士の間隔(縦割れピッチ)はジルコニア含有層43とセラミックス層44との合計の厚さの5%以上100%以下であり、縦割れの延在方向は膜面の法線方向(図示上下方向)に対して±40°以内である。セラミックス層44の気孔率は1%以上30%以下である。
第4の実施形態によれば、気孔を有するセラミックス層により遮熱の効果が得られ、ジルコニア含有層の縦割れ組織により熱サイクル耐久性が得られる。従って、耐熱基材21の信頼性を向上することができる。また、低コストで遮熱コーティング部材を製造できる。
【0060】
第5の実施形態は、図4に示すようにセラミックス層に縦割れを設けたものであり、耐久性を重視した遮熱コーティング部材が得られる。図4は、耐熱基材51上にボンドコート層52とCaO/MgOドープAZr又はA’Zrを含むセラミックス層54を順次含み、セラミックス層54が縦割れ54Cを有する遮熱コーティング部材を示す。ボンドコート層52の厚さは0.01mm以上1mm以下である。セラミックス層54の厚さは0.1mm以上1mm以下であり、縦割れピッチはセラミックス層54の厚さの5%以上100%以下であり、縦割れの延在方向は膜面の法線方向(図示上下方向)に対して±40°以内である。
第5の実施形態によれば、セラミックス層の縦割れ組織により熱サイクル耐久性が向上される。
【0061】
第6の実施形態は、図5に示すようにセラミックス層とジルコニア含有層に縦割を設けたものであり、通常の熱伝導で超高耐久を期待できる遮熱コーティング部材を得ることができる。図5は、耐熱基材61上にボンドコート層62とジルコニア含有層63とCaO/MgOドープAZr又はA’Zrを含むセラミックス層64を順次含み、ジルコニア含有層63が縦割れ63Cを有し、セラミックス層64が縦割れ64Cを有する遮熱コーティング部材を示す。ボンドコート層62の厚さは0.01mm以上1mm以下である。ジルコニア含有層63とセラミックス層64との合計の厚さは0.1mm以上1mm以下であり、ジルコニア含有層63の厚さはジルコニア含有層63とセラミックス層64との合計の厚さの10%以上90%以下であり、セラミックス層64の厚さはジルコニア含有層63とセラミックス層64との合計の厚さの10%以上90%以下である。ジルコニア含有層63とセラミックス層64の縦割れピッチは、それぞれジルコニア含有層63とセラミックス層64との合計の厚さの5%以上100%以下であり、縦割れの延在方向は膜面の法線方向(図示上下方向)に対して±40°以内である。
第6の実施形態によれば、ジルコニア含有層とセラミックス層の縦割れ組織により熱サイクル耐久性が向上される。
【0062】
第7の実施形態は、図6に示すようにEB−PVD(電子ビーム物理蒸着)を用いてセラミックス層を柱状組織としたものであり、非常に高耐久で、かつ低熱伝導率の遮熱コーティング部材を得ることができる。図6は、耐熱基材71上にボンドコート層72とCaO/MgOドープAZr又はA’Zrを含むセラミックス層74を順次含み、セラミックス層74が柱状組織74Lを有する遮熱コーティング部材を示す。ボンドコート層72の厚さは0.01mm以上1mm以下である。セラミックス層74の厚さは0.1mm以上1mm以下である。
第7の実施形態によれば、セラミックス層の柱状組織の存在により熱サイクル耐久性を向上できる。この場合、熱伝導率は溶射コーティングに比べ劣るが、EB−PVDによって得られるYSZに比べると、20%以上熱伝導率を低減できる。
【0063】
本発明に係る遮熱コーティング部材は、産業用ガスタービンの動翼や静翼、あるいは燃焼器の内筒や尾筒などの高温部品に適用して有用である。また、産業用ガスタービンに限らず、自動車やジェット機などのエンジンの高温部品の遮熱コーティング膜にも適用することができる。これらの部材に本発明の遮熱コーティング膜を被覆することで、熱サイクル耐久性に優れるガスタービン部材や高温部品を構成することができる。
【0064】
図7と図8は、本発明の遮熱コーティング膜を適用可能なタービン翼(タービン部材)の構成例を示す斜視図である。図7に示すガスタービン動翼140は、ディスク側に固定されるタブテイル141、プラットフォーム142、翼部143等を備えて構成されている。また、図8に示すガスタービン静翼150は、内シュラウド151、外シュラウド152、翼部153等を備えて構成されており、翼部153にはシールフィン冷却孔154、スリット155等が形成されている。
【0065】
図7と図8に示すタービン翼140、150を適用可能なガスタービンについて図9を参照して説明する。図9は、本発明に係るガスタービンの部分断面構造を模式的に示す図である。このガスタービン160は、互いに直結された圧縮機161とタービン162とを備える。圧縮機161は、例えば軸流圧縮機として構成されており、大気又は所定のガスを吸込口から作動流体として吸い込んで昇圧させる。この圧縮機161の吐出口には、燃焼器163が接続されており、圧縮機161から吐出された作動流体は、燃焼器163によって所定のタービン入口温度まで加熱される。そして所定温度まで昇温された作動流体がタービン162に供給されるようになっている。図9に示すように、タービン162のケーシング内部には、上述したガスタービン静翼150が、数段(図9では4段)設けられている。また、上述したガスタービン動翼140が、各静翼150と一組の段を形成するように主軸164に取り付けられている。主軸164の一端は、圧縮機161の回転軸165に接続されており、その他端には、図示しない発電機の回転軸が接続されている。
【0066】
このような構成により、燃焼器163からタービン162のケーシング内に高温高圧の作動流体を供給すれば、ケーシング内で作動流体が膨張することにより、主軸164が回転し、このガスタービン160と接続された図示しない発電機が駆動される。すなわち、ケーシングに固定された各静翼150によって圧力降下させられ、これにより発生した運動エネルギーは、主軸164に取り付けられた各動翼140を介して回転トルクに変換される。そして、発生した回転トルクは、回転軸165に伝達され、発電機が駆動される。
【0067】
本発明の遮熱コーティング部材を、これらのタービン翼に用いれば、遮熱効果と、耐剥離性に優れたタービン翼となるので、より高い温度環境で使用することができ、また耐久性に優れ、長寿命のタービン翼を実現することができる。また、より高い温度環境において適用可能であることは、作動流体の温度を高められることを意味し、これによりガスタービン効率を向上させることも可能となる。また、本発明の遮熱コーティング部材は、遮熱性に優れるため、冷却用空気流量を低減でき、性能向上に寄与できる。
本発明の遮熱コーティング部材は、ガスタービンに限らず、ディーゼルエンジンのピストンクラウンや、ジェットエンジン部品等にも適用可能である。
【0068】
第2の参考実施形態は、一般式AZrで表される酸化物に、5モル%以上30モル%以下のCaO及び5モル%以上30モル%以下のMgOの少なくとも一方がドープされてなる酸化物(CaO/MgOドープAZr)を用いて、焼結体を製作するものである。一般式AZrで表される酸化物としては、SmZrにCaO及びMgOをそれぞれ10モル%ずつ添加したCaO/MgOドープAZrが好ましい。XRDパターンが主にSm1.8Ca0.1Mg0.1Zrとなっており、後述の実験例に示す様に熱伝導率が低い為である。焼結体は、宇宙船用セラミックスタイルなどに用いることができる。
この焼結体は、CaO/MgOドープAZrを用いることにより、YSZに比べて低熱伝導率となる。
【0069】
第8の実施形態は、一般式A’Zrで表される酸化物を用いて焼結体を作成するものである。一般式A’Zrで表される酸化物としては、SmYbZrが好ましい。低熱伝導率であり、かつYSZと同等の線膨張係数を有するからである。焼結体は、宇宙船用セラミックスタイルなどに用いることができる。
この焼結体は、A’Zrを用いることにより、YSZに比べて低熱伝導率となる。
第3の参考実施形態は、一般式A”Ceで表される酸化物を用いて焼結体を作成するものである。一般式A”Ceで表される酸化物としては、LaCeが好ましい。低熱伝導率であり、かつYSZと同等の線膨張係数を有するからである。焼結体は、宇宙船用セラミックスタイルなどに用いることができる。
この焼結体は、A”Ceを用いることにより、YSZに比べて低熱伝導率となる。
【0070】
(実施例)
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(組成例1)
SmZrにMgOを10mol%添加した組成を組成例1とする。この組成を得るために、ZrO2粉(日本イットリウム製、微粉TZ−0であるZrO)とともにSm3粉(日本イットリウム製、微粉99.9%純度Sm粉)、MgO粉(タテホ化学製、炭酸マグネシウムを、MgOに換算)を原料として用いた。
【0071】
(組成例2)
SmZrにMgOを20mol%添加した組成を組成例2とする。この組成を得るために、MgOの添加量を変えた以外は組成例1と同じ原料を用いた。
【0072】
(組成例3)
SmZrにCaOを10mol%添加した組成を組成例3とする。この組成を得るために、MgOをCaOに変えた以外は組成例1と同じ原料を用いた。但し、CaOの原料としては、和光純薬製、試薬炭酸カルシウムを、CaOに換算して使用した。
【0073】
(組成例4)
SmZrにCaOを20mol%添加した組成を組成例4とする。この組成を得るために、CaOの添加量を変えた以外は組成例3と同じ原料を用いた。
【0074】
(組成例5)
SmZrにCaOを10mol%およびMgOを10mol%添加した組成を組成例5とする。この組成を得るために、ZrO2粉(日本イットリウム製、微粉TZ−0であるZrO)とともにSm3粉(日本イットリウム製、微粉99.9%純度Sm粉)、MgO粉(タテホ化学製、高純度マグネシア)及び炭酸カルシウム(和光純薬製、試薬炭酸カルシウム、CaOに換算)を原料として用いた。
【0075】
(組成例6)
SmYbZrの組成を組成例6とする。この組成を得るために、ZrO2粉(日本イットリウム製微粉TZ−0であるZrO)とともにSm3粉(日本イットリウム製、微粉99.9%純度Sm粉)、Yb粉(日本イットリウム製、99.9%純度Yb粉)を原料として用いた。
【0076】
(組成例7)
LaCeZrの組成を組成例7とする。この組成を得るために、ZrO2粉(日本イットリウム製微粉TZ−0であるZrO)とともにLa3粉(日本イットリウム製、水酸化ランタンをLaに換算)、Ce粉(日本イットリウム製、99.9%純度Ce粉)を原料として用いた。
【0077】
(組成例8)
LaCeの組成を組成例8とする。この組成を得るために、La3粉(日本イットリウム製、水酸化ランタンをLaに換算)及びCe粉(日本イットリウム製、99.9%純度Ce粉)を原料として用いた。
【0078】
(比較組成例1)
を8質量%含有するYSZを比較組成例1とする。この組成を得るために、スルザーメテコ社製204NS−G(8質量%イットリアと92質量%ジルコニアの配合比)を原料として用いた。
【0079】
(比較組成例2)
SmZrを比較組成例2とする。この組成を得るために、ZrO2粉(日本イットリウム製、微粉TZ−0であるZrO)とともにSm3粉(日本イットリウム製、微粉99.9%純度Sm粉)を原料として用いた。
【0080】
(実施例1、参考実施例1〜参考実施例7、比較例1及び比較例2)
前記組成例1〜組成例5、組成例6、組成例7〜8、比較組成例1及び比較組成例2の組成をそれぞれ有する参考実施例1〜参考実施例5、実施例1、参考実施例6〜参考実施例7、比較例1及び比較例2の焼結体を、前記組成例1〜組成例8、比較組成例1及び比較組成例2に記載の原料をそれぞれ用いて、常圧焼結法により、焼結温度1700℃、焼結時間を4時間として製作した。実施例1、参考実施例1〜参考実施例6、比較例1及び比較例2の各焼結体の熱伝導率を図10に示す。
また、参考実施例5、実施例1、参考実施例7及び比較例1については、800℃における熱伝導率を表1に示す。
なお、熱伝導率は、JIS R 1611に規定されるレーザーフラッシュ法により測定した。
【0081】
【表1】

【0082】
(実施例2、参考実施例8〜参考実施例14、比較例3及び比較例4)
前記組成例1〜組成例5、組成例6、組成例7〜組成例8、比較組成例1及び比較組成例2の組成をそれぞれ有するセラミックス層(トップコート層)を以下の方法で形成し、参考実施例8〜参考実施例12、実施例2、参考実施例13〜参考実施例14、比較例3及び比較例4の試料を作製した。
耐熱基材としてNi基耐熱合金を用いたが、その合金組成は、16質量%のCr、8.5質量%のCo、1.75質量%のMo、2.6質量%のW、1.75質量%のTa、0.9質量%のNb、3.4質量%のAl、3.4質量%のTi、及び残部Niであった。耐熱基材の寸法は、厚さ2mm、幅3mm、長さ26mmの直方体とした。
耐熱基材の表面をAl23粒でグリットブラストした後、その上に32質量%のNi、21質量%のCr、8質量%のAl、0.5質量%のY、及び残部Coからなる組成のCoNiCrAlY合金からなるボンドコート層を低圧プラズマ溶射法により0.1mmの厚さで形成した。
【0083】
このCoNiCrAlYのボンドコート層上に、前記組成例1〜組成例8、比較組成例1及び比較組成例2の各組成のセラミックス層(トップコート層)を気孔率が10%の多孔組織となるように、大気プラズマ溶射法により0.5mmの厚さで成膜した。なお、大気圧プラズマ溶射法は、スルザーメテコ社製溶射ガン(F4ガン)を使用し、前記組成例1〜組成例8、比較組成例1及び比較組成例2のそれぞれに示す原料から粉末混合法により合成した溶射粉末を用いて溶射電流600(A)、溶射距離150(mm)、粉末供給量60(g/min)、Ar/H量;35/7.4(l/min)の条件により、気孔が含まれた成膜を行った。
【0084】
得られた実施例2、参考実施例8〜参考実施例12、参考実施例14、比較例3及び比較例4の試験片について、縦割れ貫通時の表面ひずみを、走査電子顕微鏡(SEM)部と高温で圧縮変位をストローク制御できる手段を有するSEM付きサーボ試験機を用いて、特開2004−12390号公報に記載のSEM付きサーボ試験により測定した。その結果を図11に示す。
【0085】
図11によれば、本発明による遮熱コーティング材は、YSZに比べて縦割れ貫通時の表面ひずみが小さく、基材の延性又は曲げに対する追従性は、YSZと同等以上であることがわかる。
【0086】
また、参考実施例12、実施例2、参考実施例14及び比較例3については、800℃における熱伝導率の測定及び熱サイクル耐久性の評価を以下の方法により行った。
【0087】
熱伝導率の測定
以上により得られた各試料について熱伝導率の測定を行った。熱伝導率は、JIS R
1611に規定されるレーザーフラッシュ法により測定した。
【0088】
熱サイクル耐久性の評価
図12は、熱サイクル耐久性の評価に用いたレーザ式熱サイクル試験装置の模式断面図である。この図に示すレーザ式熱サイクル試験装置は、本体部133上に配設された試料ホルダ132に、耐熱基材131A上に遮熱コーティング膜131Bが形成された試料131を、遮熱コーティング膜131Bが外側となるように配置し、この試料131に対して炭酸ガスレーザ装置130からレーザ光Lを照射することで試料131を、遮熱コーティング膜131B側から加熱するようになっている。また、レーザ装置130による加熱と同時に本体部133を貫通して本体部133の内部の試料131裏面側と対向する位置に配設された冷却ガスノズル134の先端から吐出されるガス流Fにより試料131をその裏面側から冷却するようになっている。
【0089】
このレーザ式熱サイクル試験装置によれば、容易に試料131内部に温度勾配を形成することができ、ガスタービン部材などの高温部品に適用された場合の使用環境に即した評価を行うことができる。図13(a)は、図12に示す装置により熱サイクル試験に供された試料の温度変化を模式的に示すグラフである。この図に示す曲線A〜Cは、それぞれ図13(b)に示す試料131における温度測定点A〜Cに対応している。図13に示すように、図12に示す装置によれば試料131の遮熱コーティング膜131B表面(A)、遮熱コーティング膜131Bと耐熱基材131Aとの界面(B)、耐熱基材131Aの裏面側(C)の順に温度が低くなるように加熱することができる。
従って、例えば、遮熱コーティング膜131Bの表面を1200℃以上の高温とし、遮熱コーティング膜131Bと耐熱基材131Aとの界面の温度を800〜1000℃とすることで、実機ガスタービンと同様の温度条件とすることができる。なお、本試験装置による加熱温度と温度勾配は、レーザ装置130の出力とガス流Fとを調整することで、容易に所望の温度条件とすることができる。
【0090】
本例では、図12に示すレーザ式熱サイクル試験装置を用い、最高表面温度(遮熱コーティング膜表面の最高温度)を1500℃とし、最高界面温度(遮熱コーティング膜と耐熱基材との界面の最高温度)を1000℃とする繰り返しの加熱を行った。その際、加熱時間3分、冷却時間3分の繰り返しとした(冷却時の表面温度は100℃以下になるように設定)。この熱サイクル試験において遮熱コーティング膜に剥離が生じた時点でのサイクル数を熱サイクル耐久性の評価値とした。
【0091】
表2に参考実施例12、実施例2、参考実施例14及び比較例3の試験片の熱伝導率及び熱サイクル耐久性を示す。
【0092】
【表2】

【0093】
(実施例3、参考実施例15〜参考実施例16)
前記組成例5、組成例6、及び組成例8の組成をそれぞれ有するセラミックス層(トップコート層)を以下の方法で形成し、参考実施例15、実施例3、参考実施例16の試料を作製した。
実施例2、参考実施例8〜参考実施例14、比較例3及び比較例4と同様の原材料を用いて同様の方法により、耐熱基材上にボンドコート層を形成した。
このボンドコート層上にジルコニア含有層(YSZ)を気孔率が10%の多孔組織となるように、大気プラズマ溶射法により0.25mmの厚さで成膜した。なお、大気圧プラズマ溶射法は、スルザーメテコ社製溶射ガン(F4ガン)を使用し、スルザーメテコ社製204NS−Gの溶射粉末を用いて溶射電流600(A)、溶射距離150(mm)、粉末供給量60(g/min)、Ar/H量;35/7.4(l/min)の条件により、気孔が含まれた成膜を行った。
このジルコニア含有層上に、前記組成例5、組成例6及び組成例8の各組成のセラミックス層(トップコート層)を、実施例2、参考実施例8〜参考実施例14、比較例3及び比較例4と同様の方法により形成した。但し、セラミックス層(トップコート層)の厚さは0.25mmとした。
【0094】
実施例3、参考実施例15〜参考実施例16の各試験片について、800℃における熱伝導率の測定及び熱サイクル耐久性の評価を、上記参考実施例12、実施例2、参考実施例14及び比較例3と同様の方法により行った。表3に各試験片の熱伝導率及び熱サイクル耐久性を示す。
【0095】
【表3】

【0096】
(実施例4、参考実施例17〜参考実施例18)
前記組成例5、組成例6及び組成例8の組成をそれぞれ有するセラミックス層(トップコート層)を以下の方法で形成し、参考実施例17、実施例4、参考実施例18の試料を作製した。
実施例2、参考実施例8〜参考実施例14、比較例3及び比較例4と同様の原材料を用いて同様の方法により、耐熱基材上にボンドコート層を形成した。
【0097】
このボンドコート層上にジルコニア含有層を縦割れ組織(縦割れ間隔:約150μm)となるように、大気プラズマ溶射法により0.25mmの厚さで成膜した。なお、大気圧プラズマ溶射法は、スルザーメテコ社製溶射ガン(F4ガン)を使用し、スルザーメテコ社製204NS−Gの溶射粉末(ジルコニア含有層が、その一例であるYSZの場合)を用いて粉末供給量60(g/min)、Ar/H量;35/7.4(l/min)の条件により、縦割れが形成されるように行った。縦割れの導入は、溶射距離(溶射ガンと耐熱基材との距離)を従来ジルコニア含有層の成膜に用いられていた溶射距離の150mmから100mmに近づけるか、あるいは、溶射距離は従来と同程度とし、溶射ガン電流を600Aから650Aに高めることにより行った。
このジルコニア含有層上に、前記組成例5、組成例6及び組成例8の各組成のセラミックス層(トップコート層)を、実施例2、参考実施例8〜参考実施例14、比較例3及び比較例4と同様の方法により形成した。但し、セラミックス層(トップコート層)の厚さは0.25mmとした。
【0098】
実施例4、参考実施例17〜参考実施例18の各試験片について、800℃における熱伝導率の測定及び熱サイクル耐久性の評価を、上記参考実施例12、実施例2、参考実施例14及び比較例3と同様の方法により行った。表4に各試験片の熱伝導率及び熱サイクル耐久性を示す。
【0099】
【表4】

【0100】
(実施例5、参考実施例19〜参考実施例20及び比較例5)
前記組成例5、組成例6、組成例8及び比較組成例1の組成をそれぞれ有するセラミックス層(トップコート層)を以下の方法で形成し、参考実施例19、実施例5、参考実施例20及び比較例5の試料を作製した。
実施例2、参考実施例8〜参考実施例14、比較例3及び比較例4と同様の原材料を用いて同様の方法により、耐熱基材上にボンドコート層を形成した。
このボンドコート層上に、前記組成例5、組成例6、組成例8及び比較組成例1の各組成のセラミックス層(トップコート層)を縦割れ組織(縦割れ間隔:約150μm)となるように、大気プラズマ溶射法により0.5mmの厚さで成膜した。なお、大気圧プラズマ溶射法は、スルザーメテコ社製溶射ガン(F4ガン)を使用し、前記組成例5、組成例6、組成例8及び比較組成例1のそれぞれに示す原料から粉末混合法により合成した溶射粉末を用いて粉末供給量60(g/min)、Ar/H量;35/7.4(l/min)の条件により、縦割れが形成されるように行った。縦割れの導入は、溶射距離(溶射ガンと耐熱基材との距離)を従来ジルコニア含有層の成膜に用いられていた溶射距離の150mmから100mmに近づけるか、あるいは、溶射距離は従来と同程度とし、溶射ガン電流を600Aから650Aに高めることにより行った。
【0101】
実施例5、参考実施例19〜参考実施例20及び比較例5の各試験片について、800℃における熱伝導率の測定及び熱サイクル耐久性の評価を、上記参考実施例12、実施例2、参考実施例14及び比較例3と同様の方法により行った。表5に各試験片の熱伝導率及び熱サイクル耐久性を示す。
【0102】
【表5】

【0103】
(実施例6、参考実施例21〜参考実施例22)
前記組成例5、組成例6及び組成例8の組成をそれぞれ有するセラミックス層(トップコート層)を以下の方法で形成し、参考実施例21、実施例6、参考実施例22の試料を作製した。
実施例2、参考実施例8〜参考実施例14、比較例3及び比較例4と同様の原材料を用いて同様の方法により、耐熱基材上にボンドコート層を形成した。
このボンドコート層上に、前記実施例4、参考実施例17〜参考実施例18と同様の材料及び方法により縦割れ組織を有するジルコニア含有層を形成した。
このジルコニア含有層上に、前記実施例5、参考実施例19〜参考実施例20と同様の材料及び方法により、縦割れ組織を有するセラミックス層(トップコート層)を形成した。
【0104】
実施例6、参考実施例21〜参考実施例22の各試験片について、800℃における熱伝導率の測定及び熱サイクル耐久性の評価を、上記参考実施例12、実施例2、参考実施例14及び比較例3と同様の方法により行った。表6に各試験片の熱伝導率及び熱サイクル耐久性を示す。
【0105】
【表6】

【0106】
(実施例7、参考実施例23〜参考実施例24及び比較例6)
前記組成例5、組成例6、組成例8及び比較組成例1の組成をそれぞれ有するセラミックス層(トップコート層)を以下の方法で形成し、参考実施例23、実施例7、参考実施例24及び比較例6の試料を作製した。
実施例2、参考実施例8〜参考実施例14、比較例3及び比較例4と同様の原材料を用いて同様の方法により、耐熱基材上にボンドコート層を形成した。
このボンドコート層上に、それぞれ前記組成例5、組成例6、組成例8及び比較組成例1に記載の原料からなる焼結インゴットをターゲット材料に用いて、電子ビーム物理蒸着法(EB−PVD)により0.5mmの厚さのセラミックス層(トップコート層)を形成した。電子ビーム物理蒸着法は、アルデンヌ社製電子ビーム蒸着装置(例えば、TUBA150)を用いて、前記焼結インゴットをターゲット材料に用い、電子ビーム出力50kW、雰囲気10−4torrの減圧環境、耐熱基材温度1,000℃の条件で行った。
【0107】
実施例7、参考実施例23〜参考実施例24及び比較例6の各試験片について、800℃における熱伝導率の測定及び熱サイクル耐久性の評価を、上記参考実施例12、実施例2、参考実施例14及び比較例3と同様の方法により行った。表7に各試験片の熱伝導率及び熱サイクル耐久性を示す。
【0108】
【表7】

【0109】
上記各実施例において、本発明の参考例の「CaO/MgOドープAZr」に対応する組成として組成例1〜組成例5を用い、本発明及び本発明の参考例の「A’Zr」に対応する組成として組成例6及び組成例7を用い、本発明の参考例の「A”Ce」に対応する組成として組成例8を用いたが、本発明で採用される組成はこれら組成例に限定されるものではない。上記各実施例において、元素A、A’、A”又はBに相当する元素を本願の各請求項に記載の範囲内において他の元素に置換したものについても、上記各実施例とほぼ同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0110】
21 耐熱基材
22 ボンドコート層
24 セラミックス層
24P 気孔
31 耐熱基材
32 ボンドコート層
33 ジルコニア含有層
33P 気孔
34 セラミックス層
34P 気孔
41 耐熱基材
42 ボンドコート層
43 ジルコニア含有層
43C 縦割れ
44 セラミックス層
44P 気孔
51 耐熱基材
52 ボンドコート層
54 セラミックス層
54C 縦割れ
61 耐熱基材
62 ボンドコート層
63 ジルコニア含有層
63C 縦割れ
64 セラミックス層
64C 縦割れ
71 耐熱基材
72 ボンドコート層
74 セラミックス層
74L 柱状晶
140 動翼(タービン部材)
141 タブテイル
142 プラットフォーム
143 翼部
150 静翼(タービン部材)
151 内シュラウド
152 外シュラウド
153 翼部
154 冷却孔
155 スリット
160 ガスタービン
161 圧縮機
162 タービン
163 燃焼器
164 主軸
165 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式A’Zr(但し、A’及びBはそれぞれNd、Sm、Gd、Dy又はYbのいずれかを表し、かつA’とBとは互いに異なる元素である)で表される酸化物を含んでなる遮熱コート材料。
【請求項2】
耐熱基材上に溶射又は蒸着され、前記耐熱基材がガスタービン用部品に用いられる基材である、請求項1に記載の遮熱コート材料。
【請求項3】
耐熱基材と、
該耐熱基材上に形成されたボンドコート層と、
該ボンドコート層上に形成されたセラミックス層と
を含んでなる遮熱コーティング部材であって、
該セラミックス層が一般式A’Zr(但し、A’及びBはそれぞれNd、Sm、Gd、Dy、Ce又はYbのいずれかを表し、かつA’とBとは互いに異なる元素である)で表される酸化物を含み、
前記ボンドコート層と前記セラミックス層との間にジルコニア含有層を更に含み、該ジルコニア含有層は前記ボンドコート層と接触して設けられる遮熱コーティング部材。
【請求項4】
前記セラミックス層が気孔率1%以上30%以下の気孔を有する、請求項3に記載の遮熱コーティング部材。
【請求項5】
前記セラミックス層が、その厚さ方向に、前記耐熱基材上のボンドコート層以外の全層の厚さの5%以上100%以下の間隔で縦割れを有する、請求項3または請求項4に記載の遮熱コーティング部材。
【請求項6】
前記セラミックス層が柱状晶である、請求項3に記載の遮熱コーティング部材。
【請求項7】
前記ジルコニア含有層が気孔率1%以上30%以下の気孔を有する請求項3に記載の遮熱コーティング部材。
【請求項8】
前記ジルコニア含有層が、その厚さ方向に、上記耐熱基材上のボンドコート層以外の全層の厚さの5%以上100%以下の間隔で縦割れを有する請求項3または請求項7に記載の遮熱コーティング部材。
【請求項9】
請求項3から請求項8のいずれかに記載の遮熱コーティング部材を備えたガスタービン。
【請求項10】
一般式A’Zr(但し、A’及びBはそれぞれNd、Sm、Gd、Dy又はYbのいずれかを表し、かつA’とBとは互いに異なる元素である)で表される酸化物を含んでなる焼結体。
【請求項11】
耐熱基材上にボンドコート層を形成するステップと、
前記ボンドコート層上に、前記ボンドコート層と接触するように、ジルコニア含有層を形成するステップと、
該ジルコニア含有層上に一般式A’Zr(但し、A’及びBはそれぞれNd、Sm、Gd、Dy、Ce又はYbのいずれかを表し、かつA’とBとは互いに異なる元素である)で表される酸化物を含むセラミックス層を形成するステップと
を含む遮熱コーティング部材の製造方法。
【請求項12】
上記ジルコニア含有層形成ステップが、前記ジルコニア含有層に気孔を導入する段階を含む請求項11に記載の遮熱コーティング部材の製造方法。
【請求項13】
上記ジルコニア含有層形成ステップが、前記ジルコニア含有層に厚さ方向の縦割れを導入する段階を含む請求項11または請求項12に記載の遮熱コーティング部材の製造方法。
【請求項14】
上記セラミックス層形成ステップが、前記セラミックス層に気孔を導入する段階を含む請求項11から請求項13のいずれかに記載の遮熱コーティング部材の製造方法。
【請求項15】
上記セラミックス層形成ステップが、前記セラミックス層に厚さ方向の縦割れを導入する段階を含む請求項11から請求項14のいずれかに記載の遮熱コーティング部材の製造方法。
【請求項16】
耐熱基材上にボンドコート層を形成するステップと、
前記ボンドコート層上に、前記ボンドコート層と接触するように、ジルコニア含有層を形成するステップと、
該ジルコニア含有層の上に電子ビーム物理蒸着法を用いて、一般式A’Zr(但し、A’及びBはそれぞれNd、Sm、Gd、Dy、Ce又はYbのいずれかを表し、かつA’とBとは互いに異なる元素である)で表される酸化物を含む柱状晶を有するセラミックス層を形成するステップと
を含む遮熱コーティング部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−255119(P2010−255119A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160678(P2010−160678)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【分割の表示】特願2006−96946(P2006−96946)の分割
【原出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】