説明

遮熱セラミックスコーティング及びこれを用いた高温部品搭載システム

【課題】断熱性能が高く、かつ、耐熱サイクル性に優れ高信頼性の遮熱セラミックスコーティング及びこれを用いた高温部品搭載システムを提供する。
【解決手段】遮熱セラミックスコーティング3は、中央部に設けられた熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30と、熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30の表面側に形成され、熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30より融点の高い酸化物層を含む積層構造を有する表面側積層構造部31と、熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30より基材1側に形成され、熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30より融点の低い酸化物層を含む積層構造を有する基材側積層構造部32とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電用、航空機用ガスタービンの燃焼器やトランジションピース、動翼、静翼、若しくは燃焼ボイラ等の高温部品を高温から保護するために用いられる遮熱セラミックスコーティング及びこれを用いた高温部品搭載システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のCO2等の温室効果ガスの排出量規制の動きを背景として、化石燃料を用いる火力発電プラントの高効率化へのニーズが高まっている。火力発電プラントの高効率化には、燃焼ガス温度の高温化が最も効果的であるが、その構造材料として用いられている金属材料の耐熱温度には限界がある。
【0003】
このため、発電用ガスタービンの燃焼器やトランジションピース、動翼、静翼等の高温部品には、高温強度に優れた合金基材表面に、M−Cr−Al−Y合金(MはFe,Ni,Coから選ばれる少なくとも1つの元素)によるオーバーレイコーティングやAl拡散コーティングを用いた耐酸化性を付与するための金属コーティング層と、この金属コーティング層の表面にY23安定化ZrO2(YSZ)のような熱伝導率の低いセラミックスによる最外層を設け、金属基材内面は冷却機構によって冷却する構成とした遮熱コーティング(TBC)が適用され、すでに多くの実績を有している。
【0004】
これまでYSZをはじめとして、HfO2やCeO2、La2Zr27のような数多くの低熱伝導率のセラミックス材料のTBC適用に関する開発がなされてきた。その結果、LaMgAl1119のような熱伝導率の高温安定性に優れ、熱伝導率のきわめて低い材料も見出されてきたが、基材との熱膨張係数のミスマッチや、耐熱サイクル性、耐エロージョン性等の総合的な特性では、YSZを凌駕する材料の発見には至っていない。
【0005】
近年、新しい遮熱コーティングの考え方として、赤外線反射を利用して、さらなる遮熱性能を目指したコーティングが研究されつつある(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
一般的な燃焼ガス温度である1700から2000Kでの黒体輻射を考えると、0.5〜12ミクロンの波長に赤外線の全体強度の90%が含まれることから、これらの範囲の赤外線を効果的に反射すれば、基材への輻射伝熱を効果的に抑制することが可能である。特にTBCの材料としてこれまで利用してきたYSZは、短波長の赤外線に対しては透過率が高いことから、コーティングの表面部のみならず、金属コーティング層との界面に赤外反射層を設けても、その断熱効果を発揮することが可能である。Wangらの輻射・熱伝導の理論的な計算では、最大で90℃程度の基材温度の低減が可能であることが示されている。
【特許文献1】特開2004−218639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで、このような赤外反射膜の材料としては、YSZとAl23やTiO2等の多層膜が提案されてきたが、実際の利用を考えると、Al23やTiO2などは高温安定性や耐熱サイクル性などに問題が多く、適用に当たっては多くの問題があった。
【0008】
本発明は上記従来の事情に対処してなされたもので、断熱性能が高く、かつ、耐熱サイクル性に優れ高信頼性の遮熱セラミックスコーティング及びこれを用いたガスタービン、燃焼ボイラを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、基材の表面に形成され、前記基材を高温から保護するための遮熱セラミックスコーティングであって、熱伝導を抑制するための熱伝導抑制用酸化物セラミックス部と、前記熱伝導抑制用酸化物セラミックス部の表面側に形成され、前記熱伝導抑制用酸化物セラミックス部より融点の高い酸化物層を含む積層構造を有する表面側積層構造部と、前記熱伝導抑制用酸化物セラミックス部より前記基材側に形成され、前記熱伝導抑制用酸化物セラミックス部より融点の低い酸化物層を含む積層構造を有する基材側積層構造部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、断熱性能が高く、かつ、耐熱サイクル性に優れ高信頼性の遮熱セラミックスコーティング及びこれを用いた高温部品搭載システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の詳細を、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る遮熱セラミックスコーティングの構造を示すものである。図1に示すように、耐熱基材1の表面には、例えば、溶射、蒸着等によって金属コーティング層2が形成されており、この金属コーティング層2の表面に、遮熱セラミックスコーティング3が形成されている。
【0013】
遮熱セラミックスコーティング3は、中央部に設けられた熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30と、熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30の表面側に形成され、熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30より融点の高い酸化物層を含む積層構造を有する表面側積層構造部31と、熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30より基材1(金属コーティング層2)側に形成され、熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30より融点の低い酸化物層を含む積層構造を有する基材側積層構造部32とから構成されている。
【0014】
遮熱セラミックスコーティング3の場合、その内部の温度は、表面部が一般に最も温度が高く、冷却されている基材1(金属コーティング層2)側ほど温度が低くなっている。したがって、耐熱性や焼結の生じ難さを考えると、表面側は中央部に設けられた熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30で用いられる物質に比べて融点が高く、高温安定性の高い物質を含むことが好ましい。一方、基材1(金属コーティング層2)側は、十分温度が低いことから、融点よりもむしろ屈折率が大きく異なる材料を積層した方が、効果的に赤外線を反射することができ、好ましい。
【0015】
このため、本実施形態の遮熱セラミックスコーティング3では、熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30の表面側に、熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30より融点の高い酸化物層を含む表面側積層構造部31を形成し、熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30より基材1側に、熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30より融点の低い酸化物層を含む基材側積層構造部32を設けた構造となっている。
【0016】
上記の表面側積層構造部31、基材側積層構造部32を構成する層の膜厚は、0.01μm〜5μmの範囲にある。これらの層の膜厚dは、反射させたい赤外線の短波長側の波長λminと、長波長側の波長λmaxを基準として、材料の屈折率をnとすると、
(λmin×0.25÷n)×0.5 ≦ d ≦ (λmax×0.25÷n)×2
から求めることができる。
【0017】
波の干渉の理論から、赤外波長の1/4の膜厚の層から構成される積層構造を形成すると、最も効果的に赤外線を反射することが可能であるが、広範囲に赤外線を反射することを考えると、実際には短波長側でこの膜厚の半分、長波長側で2倍程度の膜厚の範囲に制御することが好ましい。例えば、本実施形態において、屈折率1.6と屈折率2.0の材料から構成される赤外線反射膜を用いて、0.5μmから5μmの範囲の赤外線を反射させたいとすると、上式にこれらの波長を代入すると、屈折率1.6の材料からなる膜の膜厚は0.04μmから1.6μm、屈折率2.0の材料からなる膜の膜厚は0.03μmから1.25μmの範囲となる。
【0018】
しかしながら、基材側積層構造部32の積層構造の膜厚dについては、基材側積層構造部32より表層の熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30等を透過可能な赤外線、つまり短波長側の赤外線を効果的に反射する必要があることから、基材側積層構造部32より表層の部分における透過率が50%となる波長λ1/2を用いて、
d ≦ (λ1/2×0.25÷n)×2
とすることが好ましい。
【0019】
熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30は、上記したとおり熱伝導抑制用のものであり、例えば、低熱伝導率のセラミックス材料として最も一般的なジルコニウム酸化物を主成分とした酸化物セラミックスにより構成することができる。
【0020】
また、表面側積層構造部31は、上記した熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30より融点の高い第1セラミックス層311と、この第1セラミックス層311より融点の低い第2セラミックス層312の積層構造を有している。上記のように熱伝導抑制用セラミックス部30のセラミックス材料として最も一般的なジルコニウム酸化物を選択した場合、第1セラミックス層311としては、例えば、ハフニウム酸化物若しくはセリウム酸化物を主成分とする酸化物セラミックスから構成することができる。また、第2セラミックス層312は、熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30と同様なジルコニウム酸化物を主成分とした酸化物セラミックスから構成することができる。
【0021】
このように、ジルコニウム酸化物と、ハフニウム酸化物若しくはセリウム酸化物を組み合わせた場合、これらはいずれも蛍石型の結晶構造を有し、格子定数も近いことから高温下で使用しても剥離を生じ難くすることができる。また、本発明者等の研究によれば、とりわけジルコニウム酸化物とハフニウム酸化物との組み合わせが、ともに高温安定性が高く好適な組み合わせであるとの知見を得た。したがって、ジルコニウム酸化物とハフニウム酸化物との組み合わせとすることが特に好ましい。
【0022】
基材側積層構造部32は、上記した熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30より融点の低い第3セラミックス層321と、この第3セラミックス層321より融点の高い第4セラミックス層322の積層構造を有している。基材側積層構造部32の第3セラミックス層321と第4セラミックス層322の材料の組み合わせは、一般的な酸化物の中から広く選択することが可能である。例えば、アルミニウム、チタン、タングステン、クロム、ガリウム、ニッケル、マグネシウム、シリコンから選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物、若しくはジスプロシウム、エルビウム、ユウロビウム、ガドリニウム、ランタン、ネオジウム、スカンジウム、サマリウム、テルビウム、イットリウム、イッテルビウムから選ばれる少なくとも1つの希土類元素の酸化物からなるセラミックス等を用いることができる。
【0023】
上記の材料のうち、アルミニウム酸化物は、もともと金属コーティング層2の表面に保護皮膜として形成するものであり、好適に使用することができる。したがって、第3セラミックス層321をアルミニウム酸化物から構成し、第4セラミックス層322をジルコニウム酸化物から構成することが好ましく、これによって、金属コーティング層2との界面での熱応力を効果的に制御することができる。
【0024】
上記のように表面側積層構造部31の第1セラミックス層311をハフニウム酸化物、第2セラミックス層312をジルコニウム酸化物から構成した場合、これらのうちの少なくとも一方に、ランタン、ガドリニウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロビウムから選ばれる少なくとも1つの希土類元素を添加し、使用前、もしくは使用環境下でこれらの元素とジルコニウム、もしくはハフニウムとの複合酸化物の相を母相となるジルコニウム酸化物、あるいはハフニウム酸化物の相内に分散させた構成とすることができる。
【0025】
ジルコニウム酸化物やハフニウム酸化物にランタン、ガドリニウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロビウムなどの希土類元素を添加すると、A227(Aはランタン、ガドリニウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロビウムから選ばれる少なくとも1つの元素、Bはジルコニウム、もしくはハフニウム)のパイロクロア型の複合酸化物を析出する。このパイロクロア型の複合酸化物は高温でも安定であり、微細なパイロクロア相を赤外反射のための積層構造の内部に析出させると、これが効果的に赤外線の散乱を誘起し、透過する赤外線の強度を効果的に低減して、熱遮蔽性を高めることが可能である。
【0026】
また、第4セラミックス層322を、ジルコニウム酸化物から構成した場合についても、同様にランタン、ガドリニウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロビウムから選ばれる少なくとも1つの希土類元素を添加することによって、透過する赤外線の強度を効果的に低減して、熱遮蔽性を高めることが可能である。
【0027】
図2は、ハフニウム酸化物に上記希土類元素を添加した第1セラミックス層311a、ジルコニウム酸化物に上記希土類元素を添加した第2セラミックス層312a、ジルコニウム酸化物に上記希土類元素を添加した第4セラミックス層322aを用いた実施形態の構成を示すものである。なお、図2において、他の部位は図1に示した実施形態と同様に構成されているので、対応する部分には、同一符号を付して重複した説明は省略する。
【0028】
上記のセラミックス遮熱コーティング3の製造方法に関して特に制約は無く、一般に反射膜や熱遮蔽コーティングに用いられる電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、アーク蒸着法などの方法を適用することができる。これらの方法の中でも、高融点の酸化物を高速で成膜可能であるという観点からは、電子ビーム蒸着法を用いることが好ましい。
【0029】
また、表面側積層構造部31、基材側積層構造部32を電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、アーク蒸着法から選ばれる成膜プロセスによって形成し、中央の熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30を溶射法によって形成することもできる。中央部の熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30については、厚膜を形成するという目的や、気孔を内在させて熱伝導率を低減するという目的から、溶射法を好適に用いることができる。
【0030】
次に、実施例について説明する。なお、以下の実施例の性能評価において、赤外線の反射率についてはフーリエ変換赤外分光光度計を用い、耐熱サイクル性と遮熱特性の評価には、セラミックス層表面を赤外線ランプにより加熱し、裏面の金属基材を空気冷却した温度勾配下加熱試験装置を用いて評価を行った。
【0031】
まず、電子ビーム物理蒸着法を用いて、最表面に4mol%イットリア安定化ジルコニアと4mol%イットリア安定化ハフニアの各0.03μm〜2μmの層(合計25層、厚さ約13μm)から構成される表面側積層構造部31を形成し、中央部にイットリア安定化ジルコニアの単層からなる膜厚150μmの熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30を形成し、基体1側にイットリア安定化ジルコニアとアルミナの各0.03μm〜2μmの層(合計25層、厚さ約13μm)から構成される基材側積層構造部32を形成した実施例1を作製した(図1参照)。
【0032】
なお、金属コーティング層2には減圧プラズマ溶射法によるCoNiCrAlY合金を用い、基材1には単結晶Ni基超合金CMSX−4(商品名)を用いた。また、セラミックス層の施工前には、金属コーティング層2の表面に#800までの鏡面研磨を実施した。この場合、鏡面研磨後の金属コーティング層2の表面粗さはRa1μm程度となった。
【0033】
比較のために、電子ビーム物理蒸着法によって4mol%イットリア安定化ジルコニアの単層膜(膜厚175ミクロン)を形成した比較例1と、表面側のジルコニアとハフニアの多層構造(表面側積層構造部31に相当する。)のみを形成し、残りはジルコニアの単層とした比較例2、基体側のジルコニアとアルミナの多層構造(基体側積層構造部32に相当する。)のみを形成し、残りはジルコニアの単層とした比較例3、表面側の多層構造にハフニアではなくアルミナを用いた以外は実施例1と同一の構成の比較例4とを作製した。
【0034】
2ミクロンの波長の赤外線の反射率、室温と表面温度1500℃での熱サイクル試験における皮膜剥離までのサイクル数の比較を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1から明らかなように、特に表面側と基体側の両方に赤外線反射構造を有する比較例4と実施例1が65%以上の高い反射率を示しているが、耐熱サイクル性の観点では、表面側と基材側とで異なる材料の積層構造部とした実施例1が優れた特性を示し、これら総合的な結果から、実施例1が最も実機への適用に際してバランスの良い性能を有することが明らかとなった。
【0037】
遮熱性能を評価するために、赤外線ランプによって表面を1500℃まで加熱したときの定常状態での裏面温度の比較を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表2から明らかなように、遮熱性能においても、赤外反射率の高い比較例4と実施例1が裏面温度の低下が著しく、これらが高温使用環境下においても実際に優れた遮熱性能を発揮することが明らかとなった。
【0040】
次に、図1に示した実施例において、表面側の4mol%イットリア安定化ジルコニアとハフニアに、それぞれ4mol%のLa23をドープした材料を用いて、実施例2を作製した。また同様に、基体側積層構造部32を構成するジルコニアとアルミナにおいて、ジルコニア層に4mol%La23をドープした実施例3を作製した。X線回折を用いてLa23をドープしたジルコニア層の結晶相の成膜後の同定を行った結果、La2Zr27の複合酸化物層の形成が観察された。比較のためLa23ドープしていない実施例1の赤外線反射率を含めて赤外線反射率、熱サイクル試験における皮膜剥離までのサイクル数の測定結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
表3から明らかなように、実施例2のように表面側にLa2Zr27相等の複合酸化物層を析出させたものを利用すると、反射率がさらに向上することが明らかになった。また皮膜剥離までの熱サイクル回数では実施例1と大きな差は認められず、Laのドープが機械的特性に悪い影響を及ぼさないことも明らかとなった。
【0043】
次に、これら試験体の遮熱性能の測定結果を表4に示す。表2と同様、赤外線ランプによって表面を1500℃まで加熱したときの定常状態での裏面温度の比較によって性能比較を実施した。
【0044】
【表4】

【0045】
表4に示されるように、複合酸化物層の析出は、赤外線の透過抑制に効果を発揮し、実施例1に比べて10℃以上裏面温度を下げられることが明らかになった。
【0046】
次に、表面側積層構造部31及び基材側積層構造部32を構成する各層の膜厚を変更した実施例について説明する。
【0047】
膜厚を検討するための反射膜として、熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30にジルコニアを用い、表面側積層構造部31にジルコニア(n=2.05)とハフニア(n=1.95)から構成される多層膜を、基材側積層構造部32にジルコニアとアルミナ(n=1.63)から構成される多層膜を用いた。熱伝導抑制用酸化物セラミックス部30において赤外線の透過率が約50%となるλ1/2は、7μm程度である。反射する赤外線の範囲を0.5μmから12μmとすると、本明細書中に記載した前述の式より、表面側積層構造部31のジルコニア膜の膜厚は0.03〜2.9μm、ハフニア膜の膜厚は0.03〜3.1μm、基材側積層構造部32のジルコニア膜の膜厚は0.03〜1.7μm、アルミナ膜の膜厚は0.04〜2.1μmの範囲にあることが好ましいと考えられる。
【0048】
このような検討結果に基づいて、表面側積層構造部31と基材側積層構造部32がともに上述した範囲に入る実施例4と、表面側積層構造部31が上述したハフニア膜の最適範囲から外れて5μmとした比較例5、基材側積層構造部32のアルミナ膜の膜厚が最適範囲から外れて3μmとした比較例6の3種類を作製して、赤外線ランプによって表面を1500℃まで加熱したときの定常状態での裏面温度の比較によって性能比較を実施した。その結果を表5に示す。
【0049】
【表5】

【0050】
表5から明らかなように、前述の式の範囲に膜厚を管理した実施例4が最も優れた遮熱性能を示しており、表面側積層構造部31の膜厚が範囲より外れた比較例5、基材側積層構造部32の膜厚が範囲より外れた比較例6の順に遮熱性能が劣ることがわかった。
【0051】
以上説明したように、赤外線反射構造と低熱伝導層との組み合わせによって、熱遮蔽に優れ、かつ高温安定性に優れた信頼性の高い遮熱セラミッスコーティングを実現することができる。そして、この遮熱セラミッスコーティングを、高温部品搭載システムの高温部品に施すことによって、寿命の延伸や、信頼性向上、あるいは熱効率の向上を実現することが可能である。より具体的には、高温部品搭載システムである発電用ガスタービンや航空機用ガスタービンの、燃焼器、トランジションピース、動翼、静翼等の高温部品、あるいは、高温部品搭載システムである燃焼ボイラの内面の少なくとも一部に用いることによって、プラント寿命の延伸や、信頼性向上、あるいは熱効率の向上を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態に係る遮熱セラミックスコーティングの構成を模式的に示す図。
【図2】本発明の他の実施形態に係る遮熱セラミックスコーティングの構成を模式的に示す図。
【符号の説明】
【0053】
1…基材、2…金属コーティング層、3…遮熱セラミックスコーティング、30…熱伝導抑制用酸化物セラミックス部、31…表面側積層構造部、311…第1セラミックス層(ハフニウム酸化物)、312…第2セラミックス層(ジルコニウム酸化物)、32…基材側積層構造部、321…第3セラミックス層(アルミニウム酸化物)、322…第4セラミックス層(ジルコニウム酸化物)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に形成され、前記基材を高温から保護するための遮熱セラミックスコーティングであって、
熱伝導を抑制するための熱伝導抑制用酸化物セラミックス部と、
前記熱伝導抑制用酸化物セラミックス部の表面側に形成され、前記熱伝導抑制用酸化物セラミックス部より融点の高い酸化物層を含む積層構造を有する表面側積層構造部と、
前記熱伝導抑制用酸化物セラミックス部より前記基材側に形成され、前記熱伝導抑制用酸化物セラミックス部より融点の低い酸化物層を含む積層構造を有する基材側積層構造部と
を有することを特徴とする遮熱セラミックスコーティング。
【請求項2】
前記表面側積層構造部及び前記基材側積層構造部を形成する層の膜厚が0.01μm乃至5μmであることを特徴とする請求項1記載の遮熱セラミックスコーティング。
【請求項3】
前記熱伝導抑制用酸化物セラミックス部がジルコニウム酸化物を主成分とし、
前記表面側積層構造部が、ジルコニウム酸化物を主成分とする層と、ハフニウム酸化物若しくはセリウム酸化物を主成分とする層との積層体から構成され、
前記基材側積層構造部が、ジルコニウム酸化物を主成分とする層と、アルミニウム、チタン、タングステン、クロム、ガリウム、ニッケル、マグネシウム、シリコンから選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物、若しくは、ジスプロシウム、エルビウム、ユウロビウム、ガドリニウム、ランタン、ネオジウム、スカンジウム、サマリウム、テルビウム、イットリウム、イッテルビウムから選ばれる少なくとも1つの希土類元素の酸化物を主成分とする層との積層体から構成される
ことを特徴とする請求項1又は2記載の遮熱セラミックスコーティング。
【請求項4】
前記表面側積層構造部が、ジルコニウム酸化物を主成分とする層と、ハフニウム酸化物を主成分とする層とを含み、これらの層の少なくとも一方に、ランタン、ガドリニウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロビウムから選ばれる少なくとも1つの希土類元素を添加したことを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載の遮熱セラミックスコーティング。
【請求項5】
前記基材側積層構造部が、ジルコニウム酸化物を主成分とする層を含み、当該ジルコニウム酸化物を主成分とする層に、ランタン、ガドリニウム、ネオジウム、サマリウム、ユーロビウムから選ばれる少なくとも1つの希土類元素を添加したことを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項記載の遮熱セラミックスコーティング。
【請求項6】
電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、アーク蒸着法のいずれかの成膜プロセスによって形成されたことを特徴とする請求項1乃至5いずれか1項記載の遮熱セラミックスコーティング。
【請求項7】
前記表面側積層構造部と、前記基材側積層構造部とが、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、アーク蒸着法のいずれかの成膜プロセスによって形成され、
前記熱伝導抑制用酸化物セラミックス部が溶射法によって形成されたことを特徴とする請求項1乃至5いずれか1項記載の遮熱セラミックスコーティング。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7いずれか1項記載の遮熱セラミックスコーティングを施された高温部品を搭載したことを特徴とする高温部品搭載システム。
【請求項9】
前記高温部品がガスタービン用高温部品であることを特徴とする請求項8記載の高温部品搭載システム。
【請求項10】
前記高温部品が燃焼ボイラ用高温部品であることを特徴とする請求項8記載の高温部品搭載システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−150628(P2010−150628A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332041(P2008−332041)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】