説明

選択的アンチロック制動システム

車両の車輪(60)から車両の駆動系を選択的に切断するように構成されているアンチロックブレーキ(42)を備えた車両のオートマチック機械式トランスミッションシステム(10)である。該システムは、前記車両の少なくとも一つの運転状態を検知するための第1センサ(33,35,39)、前記車両の車輪ロックアップコンディションを検知するための第2センサ(54)と、ロジック制御ユニット(72,70,56)とを具備する。前記ロジック制御ユニットは、前記第1および第2センサから信号を受信するように構成されている。該ロジック制御ユニットが、該第1センサが前記車両の第1所定運転状態と通信して該第2センサが車輪ロックアップコンディションと通信した時に前記車輪からの前記駆動系の解離を指示する。あるいは、該ロジック制御ユニットが、前記車両の第2所定運転状態と車輪ロックアップコンディションとが通信された時に該駆動系と該車輪との嵌合を指示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2005年9月8日に出願された米国仮出願第60/596,205号の優先権を主張する。かかる出願の全体が参考としてここに取り入れられていることは明白である。
【0002】
本発明は、概して制動システム、より詳しくは、車輪ロックアップコンディションにおいて車輪から車両駆動系を選択的に解離するための方法と装置に関連する。
【背景技術】
【0003】
オートマチックおよびセミオートマチックの機械的トランスミッション(つまり「AMT」)制御システムは周知であり、個別のロジック回路および/またはソフトウェア制御マイクロプロセッサに基づく電子制御システムを少なくとも部分的に用いて制御される。車両速度(またはトランスミッション出力シャフト速度)、トランスミッション入力シャフト速度、エンジン速度、車両速度の変化率、エンジン速度の変化率、スロットル位置、スロットル位置の変化率、スロットルの完全下降、制動機構の作動、現在嵌合ギヤ比など、制御システムに伝えられるある種の測定および/または算出パラメータに基づいて、ギヤ選択およびシフト決定が行われる。このような車両のオートマチックトランスミッション制御システムの例は、特許文献1〜16に開示され、その開示内容はすべて参考としてここに取り入れられている。
【0004】
同様に、オートマチック車両ブレーキアンチスキッド・アンチロック制動システム(ABS)は周知である。概して、車輪のロックアップまたはスキッドが発生すると、現在または直後の車輪ロックアップが検知され、車両ブレーキが再使用される前の車両速度まで車輪の空転が許可される。アンチスキッドまたはアンチロックブレーキシステムの例は、特許文献17〜23に記載され、これら特許の開示内容は参考としてここに取り入れられている。やはり参考として取り入れられている特許文献24は、現在または直後の車輪ロックアップ中に、ABSシステムが車両AMT制御システムと通信して車両エンジンまたは駆動系を車両の車輪から切断する車両AMT・ABSシステムを開示している。車両エンジンを車輪から切断すると、車両速度まで空転する車輪の能力をエンジンおよびクラッチの慣性が妨げる傾向を抑制する。
【0005】
車両のエンジンまたは駆動系を車両の車輪から切断して空転を許可することはたいていの状況において有益であるが、切断が不都合である状況も存在する。例えば、大型トレーラトラックが急斜面を走行しており、現在または直後の車輪ロックアップが発生する(エンジンブレーキまたは軟らかい路面の結果として発生する)場合、車輪から車両エンジンを切断するのは不都合である。より詳しく述べると、トレーラトラックの車輪がエンジンから切断されると、トラックは直ちにエンジンブレーキの効果を失い、結果的にトラックが前方へ揺れる、および/またはオペレータに車両のコントロールを失わせる状況となる。そのうえ、クラッチの解離は、駆動系をエンジンの慣性と連結することにより得られる動きに対する抵抗を取り除く。このエンジン慣性は、駆動系に接続されている時よりもゆっくりと車両を加速させる。同様に、この状況により、オペレータはコントロールを失うか、その発生時に少なくとも不快感を持つ。言及したエンジンは、比較的一般的な車両の原動機の例であり、車両の駆動系または車両の他の動力消費部品へ動力を提供するいかなる動力装置をも包含する語である。原動機のいくつかの例は、ディーゼルエンジン、電動モータ、ハイブリッド動力システムである。
【0006】
そのため本発明は、適切なコンディションにおいてのみ車両エンジンを車輪から選択的に切断することが可能な車両AMT・ABSシステムの必要性を認識したものである。
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,361,060号
【特許文献2】米国特許第4,551,802号
【特許文献3】米国特許第4,527,447号
【特許文献4】米国特許第4,425,620号
【特許文献5】米国特許第4,463,427号
【特許文献6】米国特許第4,081,065号
【特許文献7】米国特許第4,073,203号
【特許文献8】米国特許第4,253,348号
【特許文献9】米国特許第4,038,889号
【特許文献10】米国特許第4,226,295号
【特許文献11】米国特許第3,776,048号
【特許文献12】米国特許第4,208,929号
【特許文献13】米国特許第4,039,061号
【特許文献14】米国特許第3,974,720号
【特許文献15】米国特許第3,478,851号
【特許文献16】米国特許第3,942,393号
【特許文献17】米国特許第3,767,270号
【特許文献18】米国特許第3,768,872号
【特許文献19】米国特許第3,854,556号
【特許文献20】米国特許第3,920,284号
【特許文献21】米国特許第3,929,382号
【特許文献22】米国特許第3,996,267号
【特許文献23】米国特許第3,995,912号
【特許文献24】米国特許第4,899,279号
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示される発明によれば、オートマチック機械式トランスミッションシステム(AMT)とアンチロック制動システム(ABS)のための制御システム、好ましくは電子制御システムと制御方法とを設けることにより、先行技術の欠点が最小となり、かかる方法では、車輪速度、車両の傾斜/下方傾斜の角度、ブレーキの動作、エンジン速度、トランスミッション入力シャフト速度と、トランスミッション出力シャフト速度とを示す入力信号を含むがこれらには限定されない測定および/または算出パラメータに基づいて、車両の車輪からの車両エンジンの連結/切断が実行される。スロットルまたはブレーキの位置、スロットル位置またはブレーキ位置の変化率、マスタクラッチのコンディション、現在嵌合ギヤ比、車両質量、車軸構成(2×4,2×6など)、エンジンブレーキ力などを示す信号など他の入力/パラメータも、AMTおよび/またはABSシステムの制御についての決定を行うのに用いられる。かかる方法は、車輪ロックアップコンディション、車輪ロックアップ時の車両ステータス(車両質量、傾斜/下方傾斜など)などの検知と、これを受けたAMTまたはABSの制御を行う。
【0009】
車両アンチロックブレーキシステムなどからの車輪ロックアップを示す信号を受信するための入力手段と、この入力信号を処理して車両の車輪ロックアップコンディションおよび運転ステータス(車両質量、傾斜/下方傾斜など)の有無を判断するロジックとを備える電子制御ユニットを設けることにより、上記は達成される。例えば急斜面または平坦路面における車輪ロックアップおよび車両ステータスを検知すると、制御方法は、車両クラッチまたは他の選択的解離可能な駆動系連結器を嵌合状態のままにして不要な前方への揺れを防止するか、車輪が車両速度まで空転するように解離させる。凍結した、または軟らかい路面条件の結果として発生する場合など、車輪ロックアップが車両エンジンブレーキの結果であると検知すると、制御方法はABSに車両エンジンブレーキを制御または修正させる。この方法はさらに、車輪ロックアップの終了の検知も含む。
【0010】
少なくとも一つの実施例において、本発明は、オートマチックマニュアルトランスミッションを含む商用トラックなどの大型車両におけるアンチロック制動システムのアンチロック作用を抑制するための方法という形を取る。この方法は、アンチロック制動システムからアンチロック作用を開始するのに充分な車輪スリップ事象を検知することを含む。当該技術に熟練した者は、このような事象の例は滑りやすい舗装での車輪スキッドまたは軟らかい砂地でのスリップを含み、これらはともにABSシステムが通常検出する事象であることを理解するだろう。次に、所定の下方傾斜値を超える下方傾斜を持つ坂道を大型車両が下っているかどうかが判断される。坂道が十分に急であると判断された場合には、アンチロックブレーキ作用の開始が抑制される。つまり、通常のABSプロトコルに反してスリップ車輪に制動作用が加えられ続けるのである。この手順を取ることの重要な動機は、大型車両が下り坂を走行中にドライバに知らせることなく制動力が突然除去された場合に、ドライバにとって異常な感じを与えていらいらさせる作用をもたらす可能性があるということである。
【0011】
それ以上であればABS手順が中止される閾値または所定の下方傾斜値が、比較的急な道路勾配を包含する約5乃至8パーセントの範囲に含まれると好都合である。
【0012】
これらの段階を補うものとして、十分に急な坂道を車両が下っていると判断されない時に、必須条件である車輪スリップが検出されるとABS予防措置の開始および実行が許可されることも考えられる。大型車両が概ね水平または平坦な地面を走行している場合には特に、これが当てはまる。
【0013】
したがって本発明は、車輪ロックアップコンディションにおいて車両AMT・ABSシステムを制御して車両エンジンを車輪から選択的に解離させるための装置と方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、周知のディーゼルエンジンなどの原動機またはエンジン12によりマスタクラッチ14を通して駆動されるオートマチック多変速ギヤトランスミッション11を含む車両オートマチック機械式トランスミッションシステム10を概略的に示す。オートマチックトランスミッション11の出力は、車両駆動車軸20の差動ヘッドアセンブリ18などの適切な車両部品への駆動接続に適した出力シャフト16である。上述した動力系部品は、各々についてさらに詳しく後述するいくつかの装置による作用を受け、これにより監視される。これらの装置は、オペレータ制御によるアクセルペダル24の位置を検知するアクセルペダル位置監視アセンブリ22と、エンジン12へ供給される燃料の量を制御するための燃料制御装置26と、エンジンの回転速度を検知するエンジン速度センサ28と、マスタクラッチ14を嵌合および解離させるとともにクラッチのステータスについての情報も提供するクラッチオペレータ(不図示)と、トランスミッション入力シャフト速度センサ(不図示)と、トランスミッション11を選択されたギヤ比にシフトするように作用するとともに現在嵌合ギヤ比を示す信号を提供するトランスミッションオペレータ(不図示)と、トランスミッション出力シャフト速度センサ36とを含む。あるいは、現在嵌合比は、トランスミッション入力シャフトと出力シャフトとの速度の比較により判断されてもよい。
【0015】
さらに、アクセル位置監視アセンブリはエンジン制御モジュール70と通信し、このモジュールは、中央処理ユニット56に加えて燃料制御装置26およびエンジン速度センサ28と連通する。トランスミッション制御ユニット(TCU)72は、トランスミッション11およびトランスミッションオペレータに加えて、トランスミッション出力速度センサ36などトランスミッションを監視する他のセンサと通信することができる。三つの独立したユニットとして図示されているが、中央処理ユニット56とTCU72とエンジン制御装置70とが単一のユニットに組み合わされてもよい。あるいは、これら個々のユニットがいくつかの制御ユニットを含んでもよい。例えば、TCU72は、ギヤ選択用に一つとギヤシフト用に一つの、二つの制御ユニットを有することが可能である。ギヤシフトは、トランスミッション11の機械要素の実際の嵌合を意味する。例えば、ギヤシフトは、所与の要求または指示を受けて、トランスミッション11の機械部品を実際に正しい順序で動かして、ギヤを嵌合または解離させるか他の方法でトランスミッション11を操作するプロセスである。ギヤ選択は所望のギヤを選択するか、現在ギヤ状態を維持する決定を行うプロセスである。さらに、嵌合すべき正しいギヤを判断するためギヤ選択では様々なパラメータを検討できる。オートマチックトランスミッション11では、どのギヤが嵌合すべきかを判断するのに用いられるギヤ選択戦略を持ち、要求されたシフトをトランスミッション11で実際に行うギヤシフト戦略を実行することによりトランスミッション制御が実行される。
【0016】
車両ブレーキペダル40の作動を検知するために車両ブレーキモニタ38が設けられてもよい。車両質量、車両の傾斜/下方傾斜の角度、エンジン制動力、車両構成(2×2,2×4,2×6など)を含むがこれらに限定されない車両運転状態を検知してこれを通信するための車両運転センサ33,35,37,39が車両に設けられてもよい。ここで車両構成とは、車両の車輪の総数と比較した従動輪の数を指す。2×6構成である状況では、他の車輪対と比較して一対の車輪が浮いている。これらの浮いた車輪は完全に上昇しているのでなく、残りの車輪と比較して少ない量の力で路面と接触状態にあればよい。ゆえに、路面との接触力の小さい対はロックアップする可能性が比較的高い。実施例では、ABSシステム42は、どの車輪がロックされているかを通信し、この情報に基づいてクラッチを解離すべきかどうかの判断が行われる。ロックアップした車輪が車両の駆動輪でない場合には、クラッチは嵌合したままとすることが好ましい。この情報は、クラッチが解離されるべき時についての判断のための、後述する他の情報とは独立して、またはこの情報に加えて用いられる。
【0017】
車両はまた、概ね参照番号42で示された周知の設計の車両アンチロックシステムを備えてもよい。簡潔に述べると、アンチロックシステムは、現在または直後の車輪ロックアップ条件の存在についての判断のためのセンサ46,48などの様々な車輪速度センサからの入力信号を受信し、ブレーキオペレータ50,52へ出力コマンドを発して車両の停止および制御を最適化する中央アンチロックロジックユニット44を含む。車両がアンチロックシステム42を備えている場合には、システムはスキッドまたはロックアップセンサ54によりAMTシステム10へ入力信号を提供する。
【0018】
上述したAMTシステムは、中央処理ユニットまたは制御装置56へ情報を提供するかこれから命令を受け取る。中央処理ユニット56はアナログおよび/またはデジタル電子ロジックハードウェアを含むか、好ましくはマイクロプロセッサをベースとし、ソフトウェアモードでロジックを利用する。中央処理ユニット56はまた、車両オペレータが車両のバック(R)、ニュートラル(N)、オートマチック(A)、マニュアル(M)運転モードを選択することによるシフト制御アセンブリ58からの情報を受け取る。
【0019】
電力源(不図示)および/または加圧流体源(不図示)は、様々な検知、動作、および/または処理ユニットに電気および/または空気力を提供する。別の実施例では、エンジンとトランスミッションのために独立した制御装置が設けられている。これら二つの独立した制御装置は、制御装置が関連情報を相互に共有できるように相互に連結されていることが好ましい。上記の説明は、制御装置に考えられる構成の例として挙げられたもので、ここに開示される発明の範囲内で他の制御構成が考えられる。そのため、上記のタイプの駆動系部品および制御装置は先行技術で周知であり、上述した特許文献1、特許文献6、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献15を参照するとより詳細に理解できるだろう。
【0020】
センサ22,28,33,35,38,39,54は、これにより監視されるパラメータに比例したアナログまたはデジタル信号を発生させるための周知のタイプまたは構造のものでよい。同様に、オペレータ26,37,50,52は、処理ユニット44,56,70,72からのコマンド信号を受けて動作を実行する周知の電気、空気、電空タイプのものでよい。
【0021】
中央処理ユニット56の主な目的は、プログラム(つまり所定のロジック規則)と現在のまたは記憶されたパラメータとにしたがって、車輪ロックアップコンディションにおいてエンジンが車輪と嵌合状態にあるべきか、車輪ロックアップコンディションにおいて解離されるべきかを選択し、必要に応じて、現在の、および/または記憶された情報に基づいてこのような嵌合/解離を命令することである。
【0022】
車輪ロックアップまたはスキッドコンディションの事象においては、トランスミッション出力シャフトの回転速度を示すセンサ36からの入力信号が車両の速度の真の表示でなく、ゆえにシステムがトランスミッション11の不要なシフトダウンを行おうとするようなコンディションを検出する方法を、AMTシステム制御ロジックが備えることが重要である。さらに、センサ33,35,37,39から入手された車両の特定運転状態に応じて、エンジン12およびクラッチ14が制動されている車両駆動輪60に接続されたままであるか、これから切断されることが望ましい。
【0023】
AMT中央処理ユニット56による現在または直後の車輪ロックアップコンディションの検知は比較的単純であって、車両アンチロックシステム42から信号を受信することを包含することが好ましい。スキッドまたは車輪ロックアップコンディションが存在すると検出した後、できる限り安全な方法で検出された条件にシステム10が対応する必要がある。まだ行われていない場合には、スキッドコンディションの検出を受けてAMTシステム10を制御する動作ロジックまたは方法は、車両の運転状態を最初に判断することである。つまり、車両が急勾配を下っているか比較的平坦な道路を通過しているかどうかを判断し、車両が運搬している積荷が重いか軽いかを判断し、有効なエンジンブレーキ力が存在するかどうかを判断し、車両の構成(車両が2×4、2×6などとして運転されているかどうか)を判断することなどである。次に、車両の運転状態に基づき、実際の状況に応じてクラッチ14が嵌合したままとなる(例えば急降下の場合)か、解離される。クラッチを嵌合位置に維持すると、概して車両は車両エンジンブレーキおよび/またはエンジン慣性の利用の効果を受け続け、クラッチが解離を許可された場合に発生する揺れを防止する。あるいは、平坦面を通過している場合には、クラッチの解除により、エンジントルクに抵抗したり、トランスミッションシステム10がスキッド中にシフトダウンするのを心配することなく、車両オペレータはスキッドの発生を克服できる。クラッチ14を解除すると、エンジン12の慣性およびクラッチ14の入力プレートに妨げられていた車両速度までの制動車輪60の空転を許可するので、これは重要である。あるいは、(凍結または濡れた道路で発生するように)車両エンジンブレーキの結果として車輪ロックアップが発生したとCPUが判断した場合、さらなる車輪ロックアップを防止するように、エンジンブレーキ制御装置37がアサートされて、エンジン制動システムを防止および調節する。
【0024】
AMTシステム10は、マイクロプロセッサをベースとする中央処理ユニット56を利用するものと記載し、方法および動作はソフトウェアモードまたはアルゴリズムとして実行されるが、個別のハードウェア部品を包含する電子/流体ロジック回路で動作が実行されてもよい。
【0025】
車輪ロックアップコンディションの場合に車両駆動系を車両の車輪から選択的に切断するための方法が、概ね図2に図示されている。この方法では、車輪ロックアップコンディションが存在するかどうかを判断し(ブロック105)、車輪ロックアップが検出されない場合には現在ステータスを維持する(ブロック115)か、車輪ロックアップが存在する場合には運転状態を判断する(ブロック110)。図から分かるように、車両の車輪ロックアップコンディションが存在する(ブロック105)場合には、中央処理ユニットは、車両の運転状態、つまり、車両が急斜面を下っているかどうか、車両が重い積荷を運搬しているかどうか、車両がエンジン制動力を持っているかどうか、または車両の構成を判断する(ブロック110)。センサにより提供されるデータに基づいて、CPUは、駆動系を車輪から解離させる(ブロック120)か、駆動系と車輪との嵌合を維持する(ブロック125)ように制御装置に指示する。駆動系が解離した場合には、車輪ロックアップコンディションが中断してクラッチが再嵌合する時まで解離位置が維持される(ブロック130)。あるいは、駆動系が嵌合したままであることがコンディションから保証されると中央処理ユニットが判断する場合には、車輪ロックアップコンディションの原因(例えばエンジンブレーキまたは滑りやすい路面)を判断する手順が実施される。車輪ロックアップの原因がエンジンブレーキの結果であると判断された場合には、CPUはエンジン制動の量を修正するように制御装置に指示する。車輪ロックアップコンディションが中断すると、通常運転が再開する(ブロック130)。
【0026】
クラッチを解離させるか嵌合したままにしておくかを判断する際には、様々な運転コンディションの組合せが決定的であるか、単一の主要な運転コンディションが決定要因となる。少なくとも一つの実施例では、決定要因として下方傾斜の角度が用いられる。下方傾斜の角度が第1所定値より小さい場合には、クラッチおよび駆動系は嵌合したままである。それでも車両が第1所定値よりも大きな下り坂にある時には、クラッチは解離しない。しかし、好適な実施例では、いつクラッチが解離するかを判断するのにエンジン速度とともに下方傾斜角度が用いられる。エンジン速度が所定値を上回り、下方傾斜角度が第1所定値より大きいと、クラッチは嵌合したままとなる。エンジンが第1所定速度を下回ると、クラッチが解離する。この時点でクラッチを解離する主な理由は、エンジンの減速を防止することである。下方傾斜の角度が、第1所定値より大きな第2既定値を上回る際には、エンジン速度が第2所定速度を下回るまでクラッチは嵌合したままである。だが、下方傾斜の角度が第3所定値を上回る場合には、クラッチは嵌合したままである。ロジックの例を以下に示す。5パーセント勾配より小さい下方傾斜角度を持つ道路に車両がある場合には、車輪ロックアップコンディションが検出されるとクラッチは解離する。勾配が5パーセントを超えると、さらにエンジン速度に基づいて判断が行われる。エンジン速度が1800rpmなどの値を上回ったままである場合には、クラッチは嵌合したままである。エンジン速度が1600rpmの第2所定値よりも下まで低下すると、クラッチは解離する。下方傾斜の角度が第3所定傾斜、例えば8パーセント勾配を上回る際には、クラッチは嵌合したままである。
【0027】
本説明によれば、本発明は、車輪ロックアップ状況の場合に車両の駆動系と車輪とを選択的に解離させるための装置と方法を提供する。例示的で好適な実施例と思われるものにおいて本発明を図示および説明したが、発明の趣旨および範囲から逸脱することなく変更および修正を発明に加えられることは、当該技術の熟練者であれば納得できるはずである。そのため、本発明はここに開示された特定実施例に限定されるのでなく、特許請求項の範囲および幅により限定されることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のオートマチック機械式トランスミッション制御システムおよびアンチロック制動システムの部品の概略図である。
【図2】本発明によるセンサと論理制御ユニットとの間の通信を示す流れ図である。
【符号の説明】
【0029】
10 オートマチックマニュアルトランスミッション
12 エンジン
33、35、37、39 第1センサ
42 アンチロック制動システム
54 第2センサ
56、70、72 ロジック制御システム
60 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オートマチックマニュアルトランスミッション(10)を含む大型車両においてアンチロック制動システム(42)のアンチロック作用を抑制するための方法であって、
前記アンチロック制動システム(42)からアンチロック作用を開始するのに充分な車輪スリップ事象を検出することを包含し、
所定の下方傾斜値を超える下方傾斜を有する坂道を前記大型車両が下っていると判断することと、
前記アンチロック作用の開始を抑制することとを特徴とする方法。
【請求項2】
オートマチックマニュアルトランスミッション(10)を含む大型車両においてアンチロック制動システム(42)のアンチロック作用を抑制するための方法であって、
前記アンチロック制動システム(42)からアンチロック作用を開始するのに充分な第1車輪スリップ事象を検出することを包含し、
前記第1車輪スリップ事象が検出された時に前記大型車両が概ね平坦な地面を走行していると判断することと、
前記第1車輪スリップ事象の検出により開始される前記アンチロック作用の実行を許可することと、
前記アンチロック制動システム(42)からアンチロック作用を開始するのに充分な第2車輪スリップ事象を検出することと、
前記第2車輪スリップ事象が検出された時に所定の下方傾斜値を超える下方傾斜を有する坂道を前記大型車両が下っていると判断することと、
前記第2車輪スリップ事象の検出により開始される前記アンチロック作用の開始を抑制することとを特徴とする方法。
【請求項3】
オートマチックマニュアルトランスミッション(10)を含む大型車両においてアンチロック制動システム(42)のアンチロック作用を抑制するための方法であって、
前記アンチロック制動システム(42)からアンチロック作用を開始するのに充分な第1車輪スリップ事象を検出することを包含し、
前記第1車輪スリップ事象が検出された時に所定の下方傾斜値を超えない下方傾斜を有する地面を前記大型車両が通過していると判断することと、
前記第1車輪スリップ事象の検出により開始される前記アンチロック作用の実行を許可することと、
前記アンチロック制動システム(42)からアンチロック作用を開始するのに充分な第2車輪スリップ事象を検出することと、
前記第2車輪スリップ事象が検出された時に前記所定の下方傾斜値を超える下方傾斜を有する地面を前記大型車両が通過していると判断することと、
前記第2車輪スリップ事象の検出により開始される前記アンチロック作用の開始を抑制することとを特徴とする方法。
【請求項4】
前記第1車輪スリップ事象が検出された時の、所定の下方傾斜値を超えない下方傾斜を有する地面を前記大型車両が通過しているとの前記判断が、該大型車両が概ね平坦な地面を通過しているとの判断であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記所定の下方傾斜値が5パーセント勾配であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記所定の下方傾斜値が8パーセント勾配であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
オートマチック機械式トランスミッションシステム(10)とアンチロック制動システム(42)とを具備する車両において、
前記車両の少なくとも一つの運転状態を検知する(110)ことと、
前記車両の車輪ロックアップコンディションを検知する(105)ことと、
前記車両の前記運転状態と前記車輪ロックアップコンディションとをロジック制御ユニットへ通信することとを包含する、前記車両の車輪(60)から前記駆動系を選択的に切断するための方法であって、
前記車両の第1所定運転状態と車輪ロックアップコンディションとが前記ロジック制御ユニットにより通信された時に前記駆動系を前記車輪(60)から解離し(120)、該車両の第2所定運転状態と車輪ロックアップコンディションとが該ロジック制御ユニットにより通信された時に該車両の該駆動系と該車輪(60)との嵌合を維持する(125)ことを特徴とする方法。
【請求項8】
前記車両の前記第2所定運転状態が該車両の下方傾斜の角度に対応することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記下方傾斜の角度が所定角度より大きいことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記所定角度が3度であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記所定角度が5度であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記車両の前記第2所定運転状態が該車両の下方傾斜の角度と該車両のエンジン(12)の速度とに対応することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記下方傾斜の角度が所定角度より大きいことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記エンジンの前記速度が所定値を上回ることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記所定速度値が前記エンジン(12)の減速速度であることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記車両の前記第1所定運転状態が概ね平坦な地面における運転に対応することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項17】
前記運転状態が車両質量を用いて判断されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項18】
前記運転状態が前記車両の傾斜角度を用いて判断されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項19】
前記運転状態がエンジン制動力を用いて判断されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項20】
前記運転状態が車両構成を用いて判断されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項21】
前記車両構成が、車輪の総数と比較された駆動輪(60)の数であることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
オートマチック機械式トランスミッションシステムとアンチロック制動システムとを具備する車両において、該車両の車輪(60)から前記駆動系を選択的に切断するための装置であって、
前記車両の少なくとも一つの運転状態を検知するための第1センサ(33,35,37,39)と、
前記車両の車輪ロックアップコンディションを検知するための第2センサ(54)と、
ロジック制御ユニット(56,70,72)とを具備し、
前記ロジック制御ユニット(56,70,72)が、前記第1(33,35,37,39)および第2センサ(54)から信号を受信し、少なくとも該第1センサ(33,35,37,39)が前記車両の第1所定運転状態を検知して該第2センサ(54)が車輪ロックアップコンディションを検知した時に前記車輪(60)からの前記駆動系の解離を指示するような機能的構成を持ち、該ロジック制御ユニット(56,70,72)が、前記車両の第2所定運転状態と車輪ロックアップコンディションとが検知された時に該駆動系と該車輪(60)との嵌合を指示するような機能的構成を持つことを特徴とする装置。
【請求項23】
前記車両の前記第2所定運転状態が該車両の下方傾斜の角度に対応することを特徴とする、請求項22に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−508064(P2009−508064A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529959(P2008−529959)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【国際出願番号】PCT/SE2006/001039
【国際公開番号】WO2007/030073
【国際公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(500277711)ボルボ ラストバグナー アーベー (163)
【Fターム(参考)】