説明

配向性圧電セラミックス、圧電素子、液体吐出ヘッド、超音波モータおよび塵埃除去装置

【課題】圧電性能が良好な(1−x)NaNbO−xBaTiOの配向性圧電セラミックスを提供する。また本発明は、前記(1−x)NaNbO−xBaTiOの配向性圧電セラミックスを用いた圧電素子、ならびに前記圧電素子を用いた液体吐出ヘッド、超音波モータおよび塵埃除去装置を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表わされる金属酸化物を主成分として含み、鉛とカリウムの含有量は各々1000ppm以下であることを特徴とする配向性圧電セラミックス一般式(1) (1−x)NaNbO−xBaTiO(式中、 0 < x < 0.3)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電材料に関し、特に鉛を含有しない圧電材料の配向セラミックスに関する。また、本発明は前記圧電材料を用いた圧電素子、液体吐出ヘッド、超音波モータおよび塵埃除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1では、イオン交換により作成した板状ニオブ酸ナトリウム粒子を用いて、ニオブ酸カリウムナトリウムを主成分とする圧電セラミックスの結晶配向を制御している。そして、結晶配向が制御された圧電セラミックスの圧電性能は、無配向セラミックスと比較して大きく向上したことを報告している。
【0003】
非特許文献2では、ニオブ酸ナトリウムとチタン酸バリウムの固溶体{(1−x)NaNbO−xBaTiO、0<x<0.2}が、有望な高キュリー温度非鉛圧電材料であることを報告している。以後、本明細書中では、前記固溶体をNN−BTと表記する。
【0004】
非特許文献3では、強磁場中で鋳込み成型を行うことにより、圧電セラミックスの配向を制御できることを報告している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】”Y.Saitoら、Nature”2004年、432巻、84ページから87ページ
【非特許文献2】”J.T.Zengら、Journal of American Ceramic Society”2006年、89巻、2828ページから2832ページ
【非特許文献3】”S.Tanakaら、Journal of American Ceramic Society”2007年、90巻、3503ページから3506ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
NN−BT圧電セラミックスの圧電性は、結晶配向を制御することで向上すると考えられるが、これまでNN−BTの配向セラミックスの報告例はなかった。
【0007】
イオン交換によって板状粒子を作成する手法では、イオン交換反応および不純物の洗浄を完全に行うことは困難である。よって同手法をNN−BTに適用すると、セラミックス中に不純物が混入して特性が劣化する恐れがある。よって本手法をNN−BTの配向制御に利用することは困難である。
【0008】
また、NN−BTは磁場に対する応答性が小さく、現状利用できる強度の磁場を用いても、NN−BTの結晶配向制御は困難である。
【0009】
本発明は、この様な課題を解決するためになされたものであり、圧電性能が良好なNN−BTの配向性圧電セラミックスを提供する。また本発明は、前記NN−BTの配向性圧電セラミックスを用いた圧電素子ならびに前記圧電素子を用いた液体吐出ヘッド、超音波モータおよび塵埃除去装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明の第一の課題解決手段は、下記一般式(1)で表わされる金属酸化物を主成分として含み、鉛とカリウムの含有量は各々1000ppm以下であることを特徴とする配向性圧電セラミックスである
一般式(1) (1−x)NaNbO−xBaTiO
(式中、 0 < x < 0.3)。
【0011】
本発明の第二の課題解決手段は、第一の電極、圧電材料および第二の電極を有する圧電素子であって、前記圧電材料が本発明の配向性圧電セラミックスであることを特徴とする圧電素子である。
【0012】
本発明の第三の課題解決手段は、前記圧電素子を用いた液体吐出ヘッドである。
【0013】
本発明の第四の課題解決手段は、前記圧電素子を用いた超音波モータである。
【0014】
本発明の第五の課題解決手段は、前記圧電素子を用いた塵埃除去装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、鉛やカリウムを含まず、キュリー温度がチタン酸バリウムよりも高く、圧電性の良好な配向性圧電セラミックスを提供することができる。本発明の圧電材料は、鉛を使用していないために環境に対する負荷が極めて小さい。また、カリウムを使用していないために、焼結性や耐湿性の面でも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の液体吐出ヘッドの構成の一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明の超音波モータの構成の一実施形態を示す概略図である。
【図3】本発明の塵埃除去装置の構成の一実施形態を示す概略図である。
【図4】本発明の塵埃除去装置の電極の一実施形態を示す概略図である。
【図5】本発明の塵埃除去装置の振動原理を示す概略図である。
【図6】本発明の(a)比較例1の無配向圧電セラミックスと(b)配向性圧電セラミックスのエックス線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0018】
本発明は、NN−BTを主成分とし、圧電性と絶縁性の良好な非鉛配向性圧電セラミックスを提供するものである。なお、本発明の圧電材料は、誘電体としての特性を利用してコンデンサ、メモリ、およびセンサ等のさまざまな用途に利用することができる。
【0019】
本発明の配向性圧電セラミックスとは、微細な多結晶粒子もしくは単結晶粒子の集合体である多結晶体であり、巨視的に三次元的結晶配向を有している所謂単結晶ではない。
【0020】
本発明の配向性圧電セラミックスは、下記一般式(1)で表わされる金属酸化物を主成分として含み、鉛とカリウムの含有量は各々1000ppm以下であることを特徴とする
一般式(1) (1−x)NaNbO−xBaTiO
(式中、 0 < x < 0.3)。
【0021】
配向性圧電セラミックスとは、ロットゲーリングファクターで評価される配向度が10%以上であることをいう。
【0022】
ロットゲーリングファクターの算出法は、対象とする結晶面から回折されるエックス線のピーク強度を用いて、式2により計算する。
F=(ρ−ρ)/(1−ρ) (式2)
ここで、ρは無配向サンプルのエックス線の回折強度(I)を用いて計算され、(001)配向した正方晶結晶の場合、全回折強度の和に対する、(001)面の回折強度の合計の割合として、式3により求める。
ρ=ΣI(001)/ΣI(hkl) (式3)
(h、k、lは整数である。)
【0023】
ρは配向サンプルのエックス線の回折強度(I)を用いて計算され、(001)配向した正方晶結晶の場合、全回折強度の和に対する、(001)面の回折強度の合計の割合として、上式3と同様に式4により求める。
ρ=ΣI(001)/ΣI(hkl) (式4)
【0024】
主成分として含むとは、NN−BT成分が、配向性圧電セラミックスの90%以上の成分を占めることをいう。
【0025】
NaNbOは反強誘電体であるため、圧電体として用いるためには、BaTiOを固溶させる必要がある。よって0<xでなければならない。
【0026】
BaTiOの固溶量がx=0.3を超えると、固溶体のキュリー温度が57℃以下となり、産業的応用が困難になる。よって、0<x<0.3である。
【0027】
本明細書において、キュリー温度とは、キュリーワイス則から見積もられるキュリー温度に加えて、強誘電相と常誘電相(立方晶)の相転移温度近傍で誘電率が極大となる温度もキュリー温度として取り扱う。
【0028】
ニオブ酸ナトリウムもしくはニオブ酸ナトリウムを成分として含む結晶を焼結する際、ナトリウムが蒸発もしくは拡散して、焼結後の試料組成はニオブに対してナトリウム不足となることがある。つまりAサイトに欠陥が発生する可能性があるが、一般式(1)はこのようなプロセスや秤量、使用する原料の純度、原料の吸湿などに起因するわずかな化学量論比からのずれを許容する。例えば化学量論比から±5%以下の組成ずれを許容する。
【0029】
本発明の配向性圧電セラミックスは、鉛とカリウムを1000ppmより多く含有しない。鉛の含有量が1000ppm以下であれば、例え本発明の配向性圧電セラミックスを用いた製品が廃棄され、過酷な環境にさらされたとしても、製品中の鉛が環境に悪影響を及ぼす可能性が低い。また、カリウムの含有量が1000ppm以下であれば、配向性圧電セラミックスの性能が吸湿によって低下する可能性が低い。
【0030】
本発明の配向性圧電セラミックスの製造を容易にしたり、物性を調整したりする目的で、バリウムの一部を2価の金属元素、例えばストロンチウムやカルシウムで置換してもよい。同様に、ニオブの一部を5価の金属元素、例えばタンタルやバナジウムで置換してもよい。
【0031】
前記配向性圧電セラミックスは、擬立方晶表記で(100)配向していることが好ましい。
【0032】
NN−BTは、組成によって、単斜晶、斜方晶、正方晶、立方晶のいずれか一つ、もしくは、これらの中の複数の晶系を同時にとる。しかし、簡便に表記するため、本明細書中では、特に断りのない限りは擬立方晶として扱う。
【0033】
NN−BTが斜方晶の強誘電体である場合、その自発分極軸は[110]方向に平行である。よって自発分極軸は、結晶の(100)面の法線から約±45°傾いた方向に配向する。[100]方向に電界を印加すると、前記結晶中にエンジニアードドメイン構造が形成され圧電性能が向上する。NN−BTが正方晶の強誘電体である場合、自発分極軸は[100]方向に平行である。よって自発分極軸は、結晶の(100)面に対する法線と平行に配向する。[100]方向に電界を印加すると、電界と平行である自発分極は容易に反転するため圧電性能が向上する。よって、前記配向性圧電セラミックスは(100)配向していることが好ましい。
【0034】
前記配向性圧電セラミックスが、ロットゲーリングファクターで表わされる配向度が50%以上100%以下であることが好ましい。より好ましくは65%以上100%以下である。ロットゲーリングファクターが50%以上100%以上であると結晶の配向度が高く、より圧電性能を高めることができるからである。前記配向性圧電セラミックスが(100)配向し、さらにロットゲーリングファクターが50%以上であると、圧電性能がさらに向上するので好ましい。
【0035】
前記配向性圧電セラミックスは、ペロブスカイト型金属酸化物1モルに対して、銅を金属換算で0.05モル%以上2モル%以下含むことが好ましい。前記配向性圧電セラミックスが銅を含むと、配向性圧電セラミックスの絶縁性が向上する。さらに、結晶中の欠陥量が低減されて分極反転が容易になる。分極反転が容易になるとは、強誘電体の抗電界が減少するか、ある大きさの三角波形状の電圧を印加した際に起こる分極反転量が増加することをいう。また焼結温度を下げる効果もある。
【0036】
銅の添加量が0.05モル%よりも少ない場合は十分な効果を得られない。添加量が2モル%を超えると圧電性が低下してしまう。よって、銅の添加量は0.05モル%以上2モル%以下であることが好ましい。
以下に本発明の圧電材料を用いた圧電素子について説明する。
本発明に係る圧電素子は、第一の電極、圧電材料および第二の電極を少なくとも有する圧電素子であって、前記圧電材料が上記の圧電材料であることを特徴とする。
【0037】
第一の電極および第二の電極は、厚み5nmから2000nm程度の導電層よりなる。その材料は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属およびこれらの酸化物を挙げることができる。第一の電極および第二の電極は、これらのうちの1種からなるものであっても、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。第一の電極と第二の電極が、それぞれ異なる材料であっても良い。
【0038】
第一の電極と第二の電極の製造方法は限定されず、金属ペーストの焼き付けにより形成しても良いし、スパッタ、蒸着法などにより形成してもよい。また第一の電極と第二の電極とも所望の形状にパターニングして用いても良い。
【0039】
図1は、本発明の液体吐出ヘッドの構成の一実施形態を示す概略図である。図1(a)(b)に示すように、本発明の液体吐出ヘッドは、本発明の圧電素子101を有する液体吐出ヘッドである。圧電素子101は、第一の電極1011、圧電材料1012、第二の電極1013を少なくとも有する圧電素子である。圧電材料1012は、図1(b)の如く、必要に応じてパターニングされている。
【0040】
図1(b)は液体吐出ヘッドの模式図である。液体吐出ヘッドは、吐出口105、個別液室102、個別液室102と吐出口105をつなぐ連通孔106、液室隔壁104、共通液室107、振動板103、圧電素子101を有する。図において圧電素子101は矩形状だが、その形状は、楕円形、円形、平行四辺形等の矩形以外でも良い。一般に、圧電材料1012は個別液室102の形状に沿った形状となる。
【0041】
本発明の液体吐出ヘッドに含まれる圧電素子101の近傍を図1(a)で詳細に説明する。図1(a)は、図1(b)に示された液体吐出ヘッドの幅方向での圧電素子の断面図である。圧電素子101の断面形状は矩形で表示されているが、台形や逆台形でもよい。
【0042】
図中では、第一の電極1011が下部電極、第二の電極1013が上部電極として使用されている。しかし、第一の電極1011と、第二の電極1013の配置はこの限りではない。例えば、第一の電極1011を下部電極として使用しても良いし、上部電極として使用しても良い。同じく、第二の電極1013を上部電極として使用しても良いし、下部電極として使用しても良い。また、振動板103と下部電極の間にバッファ層108が存在しても良い。
【0043】
なお、これらの名称の違いはデバイスの製造方法によるものであり、いずれの場合でも本発明の効果は得られる。
【0044】
前記液体吐出ヘッドにおいては、振動板103が圧電材料1012の伸縮によって上下に変動し、個別液室102の液体に圧力を加える。その結果、吐出口105より液体が吐出される。本発明の液体吐出ヘッドは、プリンタ用途や電子デバイスの製造に用いる事が出来る。
【0045】
振動板103の厚みは、1.0μm以上15μm以下であり、好ましくは1.5μm以上8μm以下である。振動板の材料は限定されないが、好ましくはSiである。振動板のSiにホウ素やリンがドープされていても良い。また、振動板上のバッファ層、電極層が振動板の一部となっても良い。
【0046】
バッファ層108の厚みは、5nm以上300nm以下であり、好ましくは10nm以上200nm以下である。バッファ層の材料は限定されないが、好ましくはSiOである。
吐出口105の大きさは、円相当径で5μm以上40μm以下である。吐出口105の形状は、円形であっても良いし、星型や角型状、三角形状でも良い。
【0047】
次に、本発明の圧電素子を用いた超音波モータについて説明する。
【0048】
図2は、本発明の超音波モータの構成の一実施形態を示す概略図である。
【0049】
本発明の圧電素子が単板からなる超音波モータを、図2(a)に示す。超音波モータは、振動子201、振動子201の摺動面に不図示の加圧バネによる加圧力で接触しているロータ202、ロータ202と一体的に設けられた出力軸203を有する。前記振動子201は、金属の弾性体リング2011、本発明の圧電素子2012、圧電素子2012を弾性体リング2011に接着する有機系接着剤2013(エポキシ系、シアノアクリレート系など)で構成される。本発明の圧電素子2012は、不図示の第一の電極と第二の電極によって挟まれた圧電材料で構成される。
【0050】
本発明の圧電素子に位相がπ/2異なる二相の交流電圧を印加すると、振動子201に屈曲進行波が発生し、振動子201の摺動面上の各点は楕円運動をする。この振動子201の摺動面にロータ202が圧接されていると、ロータ202は振動子201から摩擦力を受け、屈曲進行波とは逆の方向へ回転する。不図示の被駆動体は、出力軸203と接合されており、ロータ202の回転力で駆動される。
【0051】
圧電材料に電圧を印加すると、圧電横効果によって圧電材料は伸縮する。金属などの弾性体が圧電素子に接合している場合、弾性体は圧電材料の伸縮によって曲げられる。ここで説明された種類の超音波モータは、この原理を利用したものである。
【0052】
次に、積層構造を有した圧電素子を含む超音波モータを図2(b)を用いて説明する。振動子204は、筒状の金属弾性体2041に挟まれた積層圧電素子2042よりなる。積層圧電素子2042は、不図示の複数の積層された圧電材料により構成される素子であり、積層外面に第一の電極と第二の電極、積層内面に内部電極を有する。金属弾性体2041はボルトによって締結され、圧電素子2042を挟持固定し、振動子204となる。
【0053】
圧電素子2042に位相の異なる交流電圧を印加することにより、振動子204は互いに直交する2つの振動を励起する。この二つの振動は合成され、振動子204の先端部を駆動するための円振動を形成する。なお、振動子204の上部にはくびれた周溝が形成され、駆動のための振動の変位を大きくしている。
【0054】
ロータ205は、加圧用のバネ206により振動子204と加圧接触し、駆動のための摩擦力を得る。ロータ205はベアリングによって回転可能に支持されている。
【0055】
次に、本発明の圧電素子を用いた塵埃除去装置について説明する。
【0056】
図3(a)および図3(b)は本発明の塵埃除去装置の一実施形態を示す概略図である。塵埃除去装置310は板状の圧電素子330と振動板320より構成される。振動板320の材質は限定されないが、塵埃除去装置310を光学デバイスに用いる場合には透光性材料や光反射性材料を振動板320として用いることができる。
【0057】
図4は図3における圧電素子330の構成を示す概略図である。図4(a)と図4(c)は圧電素子330の表裏面の構成、図4(b)は側面の構成を示している。圧電素子330は図4に示すように圧電材料331と第1の電極332と第2の電極333より構成され、第1の電極332と第2の電極333は圧電材料331の板面に対向して配置されている。図4(c)において圧電素子330の手前に出ている第1の電極332が設置された面を第1の電極面336、図4(a)において圧電素子330の手前に出ている第2の電極333が設置された面を第2の電極面337とする。
【0058】
ここで、本発明における電極面とは電極が設置されている圧電素子の面を指しており、例えば図4に示すように第1の電極332が第2の電極面337に回りこんでいても良い。
【0059】
圧電素子330と振動板320は、図3(a)(b)に示すように圧電素子330の第1の電極面336で振動板320の板面に固着される。そして圧電素子330の駆動により圧電素子330と振動板320との間に応力が発生し、振動板に面外振動を発生させる。本発明の塵埃除去装置310は、この振動板320の面外振動により振動板320の表面に付着した塵埃等の異物を除去する装置である。面外振動とは、振動板を光軸方向つまり振動板の厚さ方向に変位させる弾性振動を意味する。
【0060】
図5は本発明の塵埃除去装置310の振動原理を示す模式図である。図5(a)は左右一対の圧電素子330に同位相の交番電界を印加して、振動板320に面外振動を発生させた状態を表している。左右一対の圧電素子330を構成する圧電材料の分極方向は圧電素子330の厚さ方向と同一であり、塵埃除去装置310は7次の振動モードで駆動している。図5(b)は左右一対の圧電素子330に位相が180°反対である逆位相の交番電圧を印加して、振動板320に面外振動を発生させた状態を表している。塵埃除去装置310は6次の振動モードで駆動している。本発明の塵埃除去装置310は少なくとも2つの振動モードを使い分けることで振動板の表面に付着した塵埃を効果的に除去できる装置である。
【0061】
前述したように本発明の圧電素子は、液体吐出ヘッド、超音波モータや塵埃除去装置に好適に用いられる。
【0062】
本発明の一般式(1)で表わされる配向性圧電セラミックスを用いることで、鉛を含む圧電材料を用いた場合と同等以上のノズル密度、および吐出力を有する液体吐出ヘッドを提供出来る。
【0063】
本発明の一般式(1)で表わされる配向性圧電セラミックスを用いることで、鉛を含む圧電材料を用いた場合と同等以上の駆動力、および耐久性を有する超音波モータを提供出来る。
【0064】
本発明の一般式(1)で表わされる配向性圧電セラミックスを用いることで、鉛を含む圧電材料を用いた場合と同等以上の塵埃除去効率を有する塵埃除去装置を提供出来る。
【0065】
本発明の配向性圧電セラミックスは、液体吐出ヘッド、モータに加え、超音波振動子、圧電アクチュエータ、圧電センサ、強誘電メモリ等のデバイスに用いることができる。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を挙げて本発明の圧電材料をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0067】
(比較例1)
固相法で作成したNaNbO粉末とBaTiO粉末(堺化学工業製)を、0.88NaNbO−0.12BaTiOとなるように混合した。混合粉に3重量%のPVBを加えて造粒した。前記造粒粉をプレス成形用金型へ充填した。充填時にはプレス成形用金型を手でタッピングした。その後、混合粉に対し200MPaの一軸加圧を行い、直径10ミリ、厚みが1〜2ミリの円盤状の成形体を作成した。成形体を空気中600℃で3時間保持して脱バインダーを行い、続けて1260℃まで加熱、6時間保持して焼結体を得た。
【0068】
焼結後、試料のエックス線回折で評価したところ、ペロブスカイト構造単相であり、結晶の優先配向はないことがわかった。
【0069】
乳鉢を用いてペレットを粉砕し、エックス線回折測定を行うと、無配向の場合のエックス線回折チャートが得られる。このチャートと比較することによって、得られたセラミックスに優先配向が存在するか否かが判断できる。更なる判断方法としては、エックス線回折においてNN−BTの特定の回折面に2Θ角を固定して測定される、χ(試料傾き角)スキャンもしくは極点図形によっても評価することができる。いずれの場合も、試料が優先配向を持たないのであれば、回折強度が極大となるχ角度が観察されない。
【0070】
得られた無配向セラミックスを、厚みが500μmになるまで研磨した。試料を450℃で1時間空気中アニールすることで表面の有機分を除去した。その後上下の面に、DCスパッタリング法によって接着相のチタンを3nmの厚みに作成し、その上に電極層の金を300nmの厚みに作成した。電極のついた圧電体を、2.5mm×10mmのサイズに切断した。以上の工程によって、短冊状の圧電セラミックス試料片が得られた。
短冊状試料をシリコンオイル中に入れ、150℃で30kV/cmの直流電圧を30分印加して分極処理を施した。共振反共振法によって圧電セラミックスの圧電定数d31を評価したところ40〜50pC/Nであった。
【0071】
図6(a)は比較例1で得られた無配向圧電セラミックスのエックス線回折パターンを示す。
【0072】
(実施例1)
10gのNb(関東化学製)と52gのKCO(関東化学製)を混合して混合粉末を作成する。白金ルツボを用いて、混合粉末を950℃空気中で1時間保持して溶融させる。1時間経過したら急冷する。得られた白色の塊を500mlの水に溶かす。その後、目の粗さが5Aの濾紙を通して不溶物を除去する。不溶物を除去した試料に、200mlのHNO(関東化学製)と300mlの水を少しずつ加える。白い粉が沈殿する。沈殿物を濾紙で回収し、水で洗浄する。回収物を50℃で乾燥させる。
この方法で得られた試料は、材料は下記一般式(5)で表わされる非晶質の酸化ニオブ水和物であった。
一般式(5) Nb・nHO (1<n<3)
ある酸化ニオブ水和物を加熱して、重量変化から一般式(5)中のnを求めたところ、nは1.5であった。
【0073】
次に、得られた酸化ニオブ水和物を原料に用いて、NN粉末の水熱合成を行った。
1gの酸化ニオブ水和物と、4Mの濃度の水酸化ナトリウム水溶液50mlを、内側にテフロン(登録商標)製のジャケットを入れた容量70mlのオートクレーブに入れた。オートクレーブを密封し、180℃で24時間保持したのちに室温まで除冷した。高温で保持されている間、オートクレーブ内の圧力は1atm以上になっている。オートクレーブから取り出した内容物を濾過して生成物を取り出した。得られた試料を蒸留水で洗浄してから50℃で乾燥させた。得られた試料の構成相をエックス線回折で、形状と粒子径を走査型電子顕微鏡で、組成をICPで測定した。
【0074】
エックス線回折からは、得られた粒子は斜方晶系のNaNbO単相であることがわかった。顕微鏡観察からは、粒子は直方体状をしており、粒径は概ね5〜10μmであった。直方体状粒子の最短辺長をLmin、最長辺長をLmaxとすると、直方体状粒子のアスペクト比(Lmax/Lmin)は3以下であった。
ICP分析からは、種々の条件で作成されたNN粉末のNa/Nbモル比は0.9から1.1の間にあることがわかった。平均するとNa/Nb比は1.03であった。
【0075】
次に、上記の直方体状NN粒子を作成し、板状NN粒子を作成した。4.5重量パーセント濃度のPVB(積水化学社製BL−1)を含むエタノールに直方体状NN粒子を分散させた。溶液をガラス板上に垂らし、ガラス板を傾斜させることによってガラス基板上に直方体状NN粒子を広げた。直方体状NN粒子を広げた後、ガラス板を水平に戻して放置した。アルコールが蒸発すると、直方体状NN粒子含有膜が得られた。エックス線回折で結晶配向を評価するとNN粒子は擬立方晶表記で(100)配向していることがわかった。直方体状NN粒子含有膜をガラス板からはがし、粉砕し、75μmの篩を通すことで板状NN粒子が得られた。板状NN粒子の厚みと、厚みと直行する幅の最長辺とのアスペクト比(幅/厚み)が3以上である板状NN粒子を作成できた。
【0076】
上記板状NN粒子をチタン酸バリウム粒子(堺化学製BT01)と混合した。板状NN粒子とチタン酸バリウム粒子のモル分率を88:12とした。前記混合粉をプレス成形用金型へ充填した。充填時にはプレス成形用金型を手でタッピングした。その後、混合粉に対し200MPaの一軸加圧を行い、直径10ミリ、厚みが1〜2ミリの円盤状の成形体を作成した。成形体を空気中600℃で3時間保持して脱バインダーを行い、続けて1260℃まで加熱、6時間保持して焼結体を得た。
【0077】
焼結体を研磨し、エックス線回折によって焼結体の構成相と結晶配向を評価した。得られた試料はニオブ酸ナトリウムとチタン酸バリウムの固溶体単相であり、擬立方晶表記で(100)配向していることがわかった。(100)配向度を示すロットゲーリングファクターは30〜50%であった。
【0078】
比較例1と同様な手順で試料を500μm厚とし、電極を作成した。分極処理後に圧電性を評価したところ、圧電定数d31は50pC/N以上であった。周波数が1kHz〜100kHzで振幅が500mVの交流電界を印加しながら誘電率の温度依存性を測定することでキュリー温度を評価した。キュリー温度は210〜230℃であり、チタン酸バリウムのキュリー温度(約130℃)よりも高かった。
【0079】
図6(b)には前記板状NN粒子を用いて作成された配向セラミックスのエックス線回折パターンを示す。比較例1の固相法で作成された無配向セラミックスのエックス線回折パターンと比較して、本実施例で作成された配向性圧電セラミックスの回折パターンでは、100および200の回折強度が強く、(100)配向していることを示している。
【0080】
(実施例2〜7)
実施例1と同様の手順で粒子径5〜10μmの直方体状NN粒子を作成した。容器に直方体状NN粒子、チタン酸バリウム粒子(堺化学製BT01)、酸化銅(一般式CuO)、そしてトルエンとエタノールの混合溶媒を加えてスラリーを作成した。NN粒子とチタン酸バリウム粒子のモル分率は、90:10、88:12、85:15のいずれかであり、NNに対するCuOのモル比(CuO/NaNbO)は0から0.02の間である。トルエンとエタノールの重量比は53:47で、溶媒の量は粉末の1.6〜1.7倍とした。スラリーに直径5mmのジルコニアボールを加えて24時間ボールミルして混合した。その後、バインダーと可塑剤を加えた。バインダーにPVB(積水化学社製BH−3)を用いた。PVBの重量はスラリー中の粒子の0.07倍とした。可塑剤として、バインダーと等量のジブチルフタレートを加えた。そして再度ボールミルを一晩行った。スラリーの粘度が、概ね300〜500mPa・sとなるように溶媒やバインダーの量を調整した。スラリーからジルコニアボールを取り除いた後に真空脱泡した。
【0081】
得られたスラリーと、ギャップ幅を25〜250μm範囲で変化させられるドクターブレード装置を用いて、直方体状NN粒子を含むグリーンシートを形成した。シート成形後、グリーンシートを乾燥させた。乾燥後、シートの厚みはギャップ幅の概ね1/5となっていた。試料の厚みが500〜1000μmとなるように、グリーンシートの圧着を行った。圧着は、複数枚のグリーンシートを重ねて、積層方向に30MPaの一軸圧力を80℃で10分間加えて行った。得られた積層体は1260℃で6h空気中で焼成したところ、得られた焼結体は擬立方晶表記で(100)に優先配向したNN−BTの固溶体であった。比較例1と同様な手順で試料を500μm厚とし、電極を作成し、圧電素子を作成した。組成と試料の特性を表1に示す。
【0082】
比較例1の試料の圧電定数と比較して、本発明の配向性圧電セラミックスはより大きな圧電定数を示した。さらに、NNとチタン酸バリウムのモル比が同じ試料間で比較すると、実施例3〜5記載の銅を添加した試料は、実施例1〜2記載の銅を添加していない試料よりも大きな圧電定数を示した。また、銅を添加していない試料の抵抗率は1〜20GΩ・cmであったが、銅を添加した試料の抵抗率は20GΩ・cm以上であった。本実施例記載の試料中の鉛とカリウムの濃度は、それぞれ1000ppm以下であった。
【0083】
周波数が1kHz〜100kHzで振幅が500mVの交流電界を印加しながら誘電率の温度依存性を測定することでキュリー温度を評価した。キュリー温度は、チタン酸バリウムの比率が増加するにつれて低下した。しかしキュリー温度は少なくとも150℃以上であり、チタン酸バリウムのキュリー温度(約130℃)よりも高かった。
【0084】
【表1】

【0085】
(実施例8)
実施例2および3の圧電材料を用いて、図1に示される液体吐出ヘッドを作製した。入力した電気信号に追随したインクの吐出が確認された。
【0086】
(実施例9)
実施例2および3の圧電材料を用いて、図2に示される超音波モータを作製した。交流電圧の印加に応じて、モータの良好な回転が確認された。
【0087】
(実施例10)
実施例2および3の圧電材料を用いて、図3に示される塵埃除去装置を作製した。プラスチック製ビーズを散布し、交流電圧を印加したところ、良好な塵埃除去が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の圧電材料は、高い環境温度においても良好な圧電性を発現する。鉛を含まないために、環境に対する負荷が少ない。よって、本発明の非鉛圧電材料は、液体吐出ヘッド、超音波モータ、塵埃除去装置などの圧電材料を多く用いる機器にも問題なく利用することができる。
【符号の説明】
【0089】
101 圧電素子
102 個別液室
103 振動板
104 液室隔壁
105 吐出口
106 連通孔
107 共通液室
108 バッファ層
1011 第一の電極
1012 圧電材料
1013 第二の電極
201 振動子
202 ロータ
203 出力軸
204 振動子
205 ロータ
206 バネ
2011 弾性体リング
2012 圧電素子
2013 有機系接着剤
2041 金属弾性体
2042 積層圧電素子
310 塵埃除去装置
320 振動板
330 圧電素子
331 圧電材料
332 第1の電極
333 第2の電極
336 第1の電極面
337 第2の電極面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表わされる金属酸化物を主成分として含み、鉛とカリウムの含有量は各々1000ppm以下であることを特徴とする配向性圧電セラミックス
一般式(1) (1−x)NaNbO−xBaTiO
(式中、 0 < x < 0.3)。
【請求項2】
前記配向性圧電セラミックスが擬立方晶表記で(100)配向していることを特徴とする請求項1記載の配向性圧電セラミックス。
【請求項3】
前記配向性圧電セラミックスがロットゲーリングファクターで表わされる配向度が50%以上かつ100%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の配向性圧電セラミックス。
【請求項4】
ペロブスカイト型金属酸化物1モルに対して、銅を金属換算で0.05モル%以上かつ2モル%以下含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の配向性圧電セラミックス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の配向性圧電セラミックスと、該セラミックスに接して設けられた一対の電極を少なくとも有する圧電素子。
【請求項6】
請求項5に記載の圧電素子を用いた液体吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項5に記載の圧電素子を用いた超音波モータ。
【請求項8】
請求項5に記載の圧電素子を用いた塵埃除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−246202(P2012−246202A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121483(P2011−121483)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度文部科学省元素戦略プロジェクトの委託研究の成果で、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】