説明

酸化亜鉛系伝導体

【課題】ガリウムがドーピングされた酸化亜鉛系伝導体の固溶限界を増加させ、これを通じて、電子濃度・移動度および電気伝導度を向上させるところにある。
【解決手段】ZnOに、GaとともにMnをコドーピングしてストレスを緩和させることにより、ZnO内でのガリウムの固溶限界を増加させ、これを通じて、GZOの電子濃度、移動度および電気伝導度を向上させ、耐湿性などの安定性(stability)を向上させることができる。好ましくは、前記Gaは0.01〜10at%、前記Mnは0.01〜5at%の濃度でドーピングされる。より好ましくは、前記Gaは2〜8at%、前記Mnは0.1〜2at%の濃度でドーピングされる。さらにより好ましくは、前記Gaは4〜6at%、前記Mnは0.2〜1.5at%の濃度でドーピングされる。前記酸化亜鉛系伝導体は、太陽電池の電極、LCDのようなディスプレイ装置の電極などに使用される透明伝導体とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛系伝導体に係り、より詳しくは、ZnOに、GaとともにMnがコドーピングされ、優れた電気伝導度を有する酸化亜鉛系伝導体に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、エネルギー資源の保存や環境汚染への対策として、高効率太陽電池の開発が大規模に行われている。太陽電池は、現在、電気・電子製品、住宅や建物の電気供給、そして産業発電に至るまで、多岐にわたる分野に適用されている。太陽電池の素子構成技術は、既に理論的には頂点に至り限界に到達しているだけに、太陽電池の電極となる透明伝導体(TCO:Transparent Conductive Oxide)の性能改善を通じた効率改善が次第に注目されている。
【0003】
透明伝導体には、錫を少量の不純物として含有する酸化インジウム(In)が広く利用されている。錫を少量の不純物として含有する酸化インジウムの膜、つまりIn−SnO系の膜は、ITO(Indium Tin Oxide)膜として知られており、低抵抗の膜を容易に得ることができ、現在まで多く用いられている。ITOは、高効率太陽電池において要求される80%以上の高い透過率と、10−4Ωcmの優れた電気伝導度を充足させる。
【0004】
ITOは、現在まで多くの研究を通じて透明伝導体としての多くの長所を有しているが、酸化インジウムが酸化亜鉛の精製過程において不純物として精製される希少金属であり、その需給が不安定で、非常に高価な材料である。また、ポリマーのような基板を使用する場合、表示素子および基板に熱的影響を及ぼさないために低い温度で透明伝導体を形成しなければならないが、低い温度で成膜したITO透明伝導体は、光透過率が著しく低下するという問題点を有している。また、耐熱性が低く、400℃以上において太陽電池の効率が急激に低下するという短所が報告されている。また、水素プラズマ工程において、インジウム(In)の高い還元性とそのことによって伴われる化学的不安定性などの問題点を有している。したがって、ITOに代替し得る高機能透明伝導体の材料開発が急がれており、実際に最近の研究イシューとなっている。
【0005】
こうした代替素材開発の一環として、SnOとZnOがITOを代替し得る最も理想的な物質として注目を受けている。
【0006】
SnOは、ITOの代替透明伝導体として製品化され、活用されているが、長波長領域(900nm以上)において光透過率が低く、また、水素プラズマ工程において劣化現象が発生する。また、低い電気伝導度および70%程度の低い透過率など、材料特性上の限界がある。
【0007】
酸化亜鉛(ZnO)の場合、広いバンドギャップ(〜3.3ev)を有する半導体物質であり、アルミニウムやガリウムなどのドーピングを通じて優れた透過度(80%以上)と低い比抵抗を有することができるということが既に立証され、酸化亜鉛が酸化インジウムに比べて非常に低価な材料であるため、これに対する研究が活発に進められている。酸化亜鉛(ZnO)は、ドーピングが容易であり、狭い伝導帯域を有するため、ドーパントによる電気光学的性能の調節が容易である。酸化亜鉛(ZnO)は、大面積コーティングの可能性により、透明伝導体の応用面において理想的な材料となり得、水素プラズマ工程においても安定的である。また、酸化亜鉛(ZnO)は、テクスチャリングによる表面粗さの制御が容易であり、入射光の散乱を増加させて高い光捕獲量を有する太陽電池を提供することができるという利点がある。
【0008】
ZnOに添加されるドーパントしては、現在、Ga、Alなどが多く使用されている。Alの場合、酸素と結合して電荷としての役割を失いやすいという短所がある。
【0009】
透明伝導体に要求される条件としては、高い透過度および光捕獲度(light trapping)とともに、優れた電気伝導度を挙げることができる。GaがドーピングされたZnOにおいて高い電気伝導を得るためには、多くのドーパントをドーピングしなければならないが、固溶限界により電気伝導度の向上に限界がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような背景から案出されたものであり、本発明の目的は、ガリウムがドーピングされた酸化亜鉛系伝導体の固溶限界を増加させ、これを通じて、電子濃度・移動度および電気伝導度を向上させるところにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、ZnOに、GaとともにMnがコドーピングされていることを特徴とする酸化亜鉛系伝導体を提供する。好ましくは、上記Gaは0.01〜10at%、上記Mnは0.01〜5at%の濃度でドーピングされる。より好ましくは、上記Gaは2〜8at%、上記Mnは0.1〜2at%の濃度でドーピングされる。さらにより好ましくは、上記Gaは4〜6at%、上記Mnは0.2〜1.5at%の濃度でドーピングされる。上記酸化亜鉛系伝導体は、太陽電池の電極、LCDのようなディスプレイ装置の電極などに使用される透明伝導体とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
上記構成によれば、本発明は、GaとともにMnをコドーピングしてストレスを緩和させることにより、ガリウムのZnO内での固溶限界を増加させ、これを通じて、GZOの電子濃度および/または移動度を向上させ、電気伝導度を向上させることができる。
【0013】
また、本発明は、耐湿性などの安定性(stability)を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ウルツァイト構造の単位セルを示す図である。
【図2】配位数4のイオンのイオン半径を示す図である。
【図3】ZnOにGaドーピングした際の、格子定数の収縮を示す図である。
【図4】組成による比抵抗、電子濃度および移動度を示す図である。
【図5】MnOが0.2モル%含まれた酸化亜鉛系伝導体における、温度による比抵抗、電子濃度および移動度の変化を示す図である。
【図6】MnOが0.6モル%含まれた酸化亜鉛系伝導体における、温度による比抵抗、電子濃度および移動度の変化を示す図である。
【図7】本発明の透明伝導体が太陽電池用TCOとして使用される例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
ZnOは、図1に示したように、ウルツァイト(wurtzite)結晶系を有するII−VI族化合物半導体である。
【0017】
亜鉛イオンが、酸素イオンの形成するテトラヘドラルサイト(tetrahedral site)に位置し、周囲に4つの陰イオンが配位される。Ga3+がZn2+サイトに置換されて自由電子が発生する。ガリウムのドーパントレベルに応じて電子濃度は増加し、移動度は減少する傾向を示す。
【0018】
ZnOにGaがドーパントとして入っていくと、GZOドナーとなり、電子濃度を増加させ、電気伝導度が増加することとなる。このとき、酸化物に入っていくドーパントの固溶限界を決定する主な要因の一つが、ホストイオンとドーパントイオンのイオン半径の差である。すなわち、2つのイオン間のイオン半径の差が大きいほど、ドーパントがホストイオンサイトに固溶するときにストレスを誘発し、また、これは熱力学的に不安定なために固溶限界に達し、結局は二次相が生成される。
【0019】
図2は、配位数4のイオンのイオン半径を示す図である。
【0020】
4配位を有する亜鉛イオンのイオン半径は0.06nmと予想され、ガリウムイオンがイオン化されて周囲に4つの陰イオンが配位されるとき、イオン半径は0.047nmと予想される。ガリウムイオンが亜鉛サイトに入っていくとき、ホストイオンよりも約20%小さいガリウムイオンが代替することとなり、このことは格子定数の収縮をもたらす。ガリウムが亜鉛を代替しつつ、2つのイオン間の大きさによるストレスでガリウムは固溶限界に達し、これが電子濃度を決定することとなり、移動度に影響を及ぼすのである。
【0021】
マンガンイオンは、2価と4価のイオンで存在し、2価のとき、4配位におけるイオン半径は0.066nmで亜鉛イオンよりも約10%大きい。このとき、マンガンのイオン半径が亜鉛のイオン半径よりも大きいので、ガリウムドーピングから来る収縮をある程度緩和することができる。すなわち、Gaドーピングによる収縮をマンガンドーピングでストレスを緩和させ、ガリウムのZnO内における固溶限界を増加させ、これを通じてGZOの電子濃度・移動度および電気伝導度を向上させることができる。
【0022】
図3は、ZnOにGaドーピングした際の、格子定数の収縮を示す図である。
【0023】
空気中で2時間、1300℃の温度で焼結して得られたGZOの格子定数を示した。左側の縦軸はa軸に沿う格子定数を、右側の縦軸はc軸に沿う格子定数をそれぞれ示す。図示したところのように、Gaのドーピング濃度が増加するほど、c軸に沿う格子定数が減少することが分かる。これは、前述したように、亜鉛イオンとガリウムイオンのイオン半径の差による結果である。
【0024】
したがって、本発明においては、GZOに第2の添加剤としてMnを添加し、Gaイオンの固溶限界を増加させて電気伝導度を向上させ、耐湿性などの安定性(stability)を向上させる。既存のGZOと対比しての伝導度および耐湿性の向上により、LCDおよび太陽電池に使用される透明伝導体のスパッタリングターゲットとして使用可能である。
【0025】
図4は、組成による比抵抗、電子濃度および移動度を示す図である。
【0026】
酸化亜鉛系ターゲットを基板温度250℃の条件下でスパッタリングして基板に薄膜を蒸着し、成膜された薄膜酸化亜鉛系伝導体の比抵抗、キャリア濃度および移動度を測定した。
【0027】
既存のGZO、つまりZnOにGaのみをドーピングした酸化亜鉛系伝導体と比較すると、本発明の酸化亜鉛系伝導体、つまりZnOに、GaとともにMnをコドーピングした伝導体の比抵抗が大幅に減少し、キャリア濃度および移動度が大幅に増加することが分かる。したがって、太陽電池のTCOのような電極やその他伝導体に適した特性を有することとなる。
【0028】
好ましくは、Gaが0.01〜10at%、Mnが0.01〜5at%の濃度でドーピングされた酸化亜鉛系伝導体が、伝導体として優れた特性を有する。より好ましくは、Gaは2〜8at%、Mnは0.1〜2at%の濃度でドーピングされる。さらにより好ましくは、Gaは4〜6at%、Mnは0.2〜1.5at%の濃度でドーピングされる。
【0029】
図5および図6は、MnOがそれぞれ0.2モル%および0.6モル%含まれた酸化亜鉛系伝導体における、温度による比抵抗、電子濃度および移動度の変化を示す図である。
【0030】
MnOがそれぞれ0.2モル%および0.6モル%添加されたターゲットを、工程圧力1Pa、ターゲットと基板間の距離30mmの条件下で、DC80Wでスパッタリングし、成膜された伝導体の比抵抗、キャリア濃度および移動度を測定した。
【0031】
図示したところのように、基板温度が0℃、150℃および200℃の場合に比べ、基板温度250℃の条件で成膜された伝導体が、伝導体としての優れた特性を有することが分かる。
【0032】
図7は、本発明の透明伝導体が太陽電池用TCOとして使用される例を示す図である。
【0033】
太陽電池は、構成材料によって、シリコン太陽電池、化合物太陽電池、色素増感型太陽電池および有機物太陽電池に大別することができるが、図7では、シリコン太陽電池の一つである非晶質シリコン薄膜太陽電池を例に挙げる。
【0034】
a−Si:H薄膜は、物質自体の特性により、キャリアの拡散距離(diffusion length)が単結晶(または多結晶)シリコン基板に比べて非常に低く、np構造で製造される場合、光によって生成された電子−正孔対(electron−hole pairs)の収集効率が非常に低い。したがって、図示したところのように、不純物の添加されていない無添加(Intrinsic)a−Si:H光吸収層50を、高いドーピング濃度を有するp型a−Si:H層40とn型a−Si:H層60との間に挿入したpin構造を有することとなる。
【0035】
このような構造において、i a−Si:H光吸収層50は、上下の高いドーピング濃度を有するp層40とn層60によって空乏(depletion)となり、内部に電気場が発生するようになる。したがって、i a−Si:H層において、入射光によって生成された電子−正孔対は、拡散(diffusion)ではなく内部電気場によるドリフト(drift)によってn層とp層へ収集されて電流を発生するようになる。
【0036】
太陽光は、有機基板10、TCO20およびp層40を通ってi a−Si:H光吸収層へ入射されるが、これは入射光によって生成された電子と正孔のドリフト移動度(drift mobility)の差によるものである。一般的に、正孔のドリフト移動度が電子のドリフト移動度に比べて低いため、入射光によるキャリアの収集効率を極大化するために、大部分のキャリアがpi界面で生成されるようにして正孔の移動距離を最小化しなければならない。こうした理由により、太陽光をp層を通して光吸収層50へ入射させる。したがって、p a−Si:H層40は、高い電気伝導度の他にも、高い光学的ギャップを備えていなければならない。
【0037】
未説明の図面符号30はグリッド、70は後面電極を示す。
【0038】
上記酸化亜鉛系伝導体は、上記太陽電池の電極のみならず、LCDのようなディスプレイ装置の電極など、その他多様な分野における透明伝導体として使用することができる。
【符号の説明】
【0039】
30 グリッド
40 p型a−Si:H層
50 i a−Si:H光吸収層
60 n型a−Si:H層
70 後面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnOに、GaとともにMnがコドーピングされていることを特徴とする酸化亜鉛系伝導体。
【請求項2】
前記Gaは0.01〜10at%、前記Mnは0.01〜5at%の濃度でドーピングされることを特徴とする請求項1に記載の酸化亜鉛系伝導体。
【請求項3】
前記Gaは2〜8at%、前記Mnは0.1〜2at%の濃度でドーピングされることを特徴とする請求項2に記載の酸化亜鉛系伝導体。
【請求項4】
前記Gaは4〜6at%、前記Mnは0.2〜1.5at%の濃度でドーピングされることを特徴とする請求項3に記載の酸化亜鉛系伝導体。
【請求項5】
太陽電池の電極または液晶表示装置の電極として使用される透明伝導体であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の酸化亜鉛系伝導体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−11973(P2011−11973A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151184(P2010−151184)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(502411241)サムスンコーニング精密素材株式会社 (80)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG CORNING PRECISION MATERIALS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】644−1 Jinpyeong−dong, Gumi−si,Gyeongsangbuk−do 730−360,Korea
【Fターム(参考)】