説明

酸化物半導体素子及び半導体装置

【課題】半導体層に結晶性を有する酸化物半導体を用いた、移動度の高い酸化物半導体素子を提供する。
【解決手段】第1の酸化物半導体膜及び、第1の酸化物半導体膜に接して第1の酸化物半導体膜よりバンドギャップが大きい第2の酸化物半導体膜の積層構造を有する層を酸化物半導体層として用いた。これにより、チャネル領域は、第2の酸化物半導体膜と接する第1の酸化物半導体膜の界面近傍(つまり、バンドギャップが小さい酸化物半導体膜の界面近傍)に形成される。また、第1の酸化物半導体膜と第2の酸化物半導体膜の界面は、お互いの未結合手が結合し合っている。このため、第2の酸化物半導体膜と接する第1の酸化物半導体膜の界面近傍に形成されるチャネル領域では、未結合手による電子トラップなどに起因した移動度の低下を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物半導体素子及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンを半導体層として用いたトランジスタなどの半導体素子(以下、シリコン半導体素子と略記する)は、様々な半導体装置に用いられており、半導体装置を作製する上で必要不可欠な技術となっている。また、大型の半導体装置を作製するためには、基板としてガラスなどの大版化に適した材料を用い、半導体層として大面積への形成が可能な薄膜シリコンを用いる方法が広く採用されている。
【0003】
このような薄膜シリコンを用いた半導体素子では、基板の耐熱温度以下で半導体層を形成する必要があるため、比較的低温で形成することのできるアモルファスシリコンやポリシリコンが広く用いられている。
【0004】
アモルファスシリコンは大面積への成膜が可能であり、比較的安価に且つ簡単な加工で、均一な素子特性を有する半導体素子を形成できるといった長所を有するため、太陽電池などの大面積が必要な半導体装置にて広く用いられている。反面、非晶質構造であるが故に結晶粒界で電子が散乱されるため、電子の移動度が低いという短所を有している。
【0005】
この短所を補うため、アモルファスシリコンにレーザ等を照射して局所的に溶解、再結晶化することで結晶化を行う、触媒元素を用いることで結晶化を行う、といった処理を施して移動度を向上させたものがポリシリコンであり、面積及びキャリア移動度を両立する必要がある液晶ディスプレイなどの半導体装置にて広く用いられている。
【0006】
これに加え近年では、ポリシリコンの長所である高移動度と、アモルファスシリコンの長所である均一素子特性とを兼ね備えた新たな半導体層材料として、半導体特性を示す金属酸化物である酸化物半導体が注目されている。
【0007】
酸化物半導体を半導体層に用いたトランジスタなどの半導体素子(以下、酸化物半導体素子と略記する)としては、例えば特許文献1及び特許文献2のように、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛などを用いた薄膜型のトランジスタが提案されている。
【0008】
このように、様々な長所を有する酸化物半導体素子ではあるが、一方で、光照射により閾値電圧に変化が生じるという現象が起こるため、信頼性に問題があるといえる。この原因として最近では、酸化物半導体層中の酸素欠損や水素が、光照射による閾値電圧変化に影響を及ぼしている事が議論されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−123861号公報
【特許文献2】特開2007−96055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の問題を解決する方法の一つとして、酸化物半導体層を加熱して結晶化させる方法がある。結晶化した酸化物半導体層は非晶質の酸化物半導体層と比較して、金属と酸素の結合が秩序化しており、金属原子における酸素原子の配位数はほぼ一定となる。このため、微視的な酸素の欠損が抑制できる。また、結晶化のために行う加熱処理により酸化物半導体中から水素が脱離し、膜中水素濃度を低減できる。したがって、光照射による閾値電圧変化を減少させる効果がある。
【0011】
しかし、結晶化した酸化物半導体層は、膜表面に多くの未結合手が存在する。この、多くの未結合手が存在する膜表面を含む領域にチャネル領域が形成された場合、未結合手によるキャリアトラップなどに起因した移動度の低下が生じる。
【0012】
しかし、一方で、酸化物半導体素子には、今後更に高い移動度が求められることは明らかである。
【0013】
本発明は、このような技術的背景のもとでなされたものである。したがって、本発明は、半導体層に結晶性を有する酸化物半導体を用いた、光照射により閾値電圧に変化が生じることがなく、且つ移動度の高い酸化物半導体素子を提供することを課題の一とする。
【0014】
また、上述の酸化物半導体素子を少なくとも一部に用いて作製した、動作速度の速い半導体装置を提供することを課題の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するためには、チャネル領域が形成される領域における未結合手を減少させる必要がある。そこで、本発明では、結晶性を有する酸化物半導体膜を積層させることによりお互いの未結合手を結合させ、積層界面での未結合手を減少させた。さらに、未結合手を減少させた界面を含む領域にチャネル領域が形成されるように、積層させる酸化物半導体膜のバンドギャップ値に差を持たせた。具体的には、第1の酸化物半導体膜及び、第1の酸化物半導体膜に接して第1の酸化物半導体膜よりバンドギャップが大きい第2の酸化物半導体膜の積層構造を有する層を酸化物半導体層として用いた。
【0016】
また、上述のように、第1の酸化物半導体膜と第1の酸化物半導体膜よりバンドギャップが大きい第2の酸化物半導体膜を接して形成することにより、チャネル領域は、第2の酸化物半導体膜と接する第1の酸化物半導体膜の界面近傍(つまり、バンドギャップが小さい酸化物半導体膜の界面近傍)に形成される。
【0017】
したがって、第2の酸化物半導体膜と接する第1の酸化物半導体膜の界面近傍に形成されるチャネル領域では、未結合手による電子トラップなどに起因した移動度の低下を低減できる。したがって、光照射により閾値電圧に変化が生じることがなく、且つ移動度の高い酸化物半導体素子を提供できる。
【0018】
また、上記の特徴を有する酸化物半導体素子を少なくとも一部に用いて半導体装置を作製することにより、動作速度の速い半導体装置を提供できる。
【0019】
すなわち、本発明の一態様は、絶縁表面上に形成された酸化物半導体層と、酸化物半導体層上に形成されたゲート絶縁層と、ゲート絶縁層を介して酸化物半導体層と重畳する領域に形成されたゲート電極と、酸化物半導体層と電気的に接続された一対のソース電極及びドレイン電極を有し、酸化物半導体層は第1の酸化物半導体膜及び第2の酸化物半導体膜の積層構造を有し、第1の酸化物半導体膜及び前記第2の酸化物半導体膜は結晶性を有し、第2の酸化物半導体膜はソース電極とドレイン電極の間隙においてゲート絶縁層及び第1の酸化物半導体膜に挟持され、ソース電極とドレイン電極の間隙がゲート電極と重畳し、第1の酸化物半導体膜のバンドギャップ値が第2の酸化物半導体膜のバンドギャップ値より小さいことを特徴とする酸化物半導体素子である。
【0020】
上記本発明の一態様によれば、第2の酸化物半導体膜と接する第1の酸化物半導体膜の界面近傍の未結合手の少ない領域にチャネル領域が形成される。このため、光照射により閾値電圧に変化が生じることがなく、且つ移動度の高い酸化物半導体素子を提供できる。
【0021】
また、本発明の一態様は、絶縁表面上に形成されたゲート電極と、ゲート電極上に形成されたゲート絶縁層と、ゲート絶縁層上に形成された酸化物半導体層と、酸化物半導体層と電気的に接続された一対のソース電極及びドレイン電極を有し、酸化物半導体層は第1の酸化物半導体膜及び第2の酸化物半導体膜の積層構造を有し、第1の酸化物半導体膜及び第2の酸化物半導体膜は結晶性を有し、第2の酸化物半導体膜はソース電極とドレイン電極の間隙においてゲート絶縁層及び第1の酸化物半導体膜に挟持され、ソース電極とドレイン電極の間隙がゲート電極と重畳し、第1の酸化物半導体膜のバンドギャップ値が第2の酸化物半導体膜のバンドギャップ値より小さいことを特徴とする酸化物半導体素子である。
【0022】
上記本発明の一態様によれば、第2の酸化物半導体膜と接する第1の酸化物半導体膜の界面近傍の未結合手の少ない領域にチャネル領域が形成される。このため、光照射により閾値電圧に変化が生じることがなく、且つ移動度の高い酸化物半導体素子を提供できる。
【0023】
また、本発明の一態様は、絶縁表面に一方の面を接して形成された酸化物半導体層と、前記酸化物半導体層の側面に接し、前記絶縁表面に一方の面を接して形成された一対の低抵抗領域と、酸化物半導体層の他方の面及び一対の低抵抗領域の他方の面に接して形成されたゲート絶縁層と、ゲート絶縁層を介して酸化物半導体層と重畳する領域に形成されたゲート電極と、一対の低抵抗領域と電気的に接続された一対のソース電極及びドレイン電極を有し、酸化物半導体層の他方の面と一対の低抵抗領域の他方の面は同一平面であり、酸化物半導体層は第1の酸化物半導体膜及び第2の酸化物半導体膜の積層構造を有し、第1の酸化物半導体膜及び第2の酸化物半導体膜は結晶性を有し、第2の酸化物半導体膜はゲート絶縁層及び第1の酸化物半導体膜に挟持され、第1の酸化物半導体膜のバンドギャップ値は第2の酸化物半導体膜のバンドギャップ値より小さく、低抵抗領域の抵抗率が1×10−4Ω・cm以上3Ω・cm以下であることを特徴とする酸化物半導体素子である。
【0024】
上記本発明の一態様によれば、第2の酸化物半導体膜と接する第1の酸化物半導体膜の界面近傍の未結合手の少ない領域にチャネル領域が形成される。このため、光照射により閾値電圧に変化が生じることがなく、且つ移動度の高い酸化物半導体素子を提供できる。
【0025】
更に、ソース電極及びドレイン電極が低抵抗領域に接しており、ソース電極−チャネル領域間及びドレイン電極−チャネル領域間に電流は、酸化物半導体層と比較して抵抗値の低い低抵抗領域を流れるため、ON電流値の低下を抑制できる。したがって、ON/OFF比の高い酸化物半導体素子を提供できる。
【0026】
また、本発明の一態様は、第2の酸化物半導体膜のバンドギャップ値が第1の酸化物半導体膜のバンドギャップ値より0.2eV以上大きいことを特徴とする酸化物半導体素子である。
【0027】
上記本発明の一態様によれば、チャネル領域以外を流れるリーク電流を抑制できるため、酸化物半導体素子の消費電力を抑制できる。
【0028】
また、本発明の一態様は、前述の酸化物半導体素子を少なくとも一部に用いることを特徴とする半導体装置である。
【0029】
上記本発明の一態様によれば、動作速度の速い半導体装置を提供できる。
【0030】
なお、本明細書等において、「Aの上にBが形成されている」、あるいは、「A上にBが形成されている」、と明示的に記載する場合は、Aの上にBが直接接して形成されていることに限定されない。直接接してはいない場合、つまり、AとBとの間に別の対象物が介在する場合も含むものとする。ここで、A、Bは、対象物(例えば装置、素子、回路、配線、電極、端子、膜、又は層など)であるとする。
【0031】
したがって、例えば、層Aの上又は層A上に層Bが形成されていると明示的に記載されている場合は、層Aの上に直接接して層Bが形成されている場合と、層Aの上に直接接して別の層(例えば層Cや層Dなど)が形成されていて、その上に直接接して層Bが形成されている場合とを含むものとする。なお、別の層(例えば層Cや層Dなど)は、単層でもよいし、複層でもよい。
【0032】
また、本明細書等において「第1」又は「第2」等の数詞の付く用語は、要素を区別するために便宜的に用いているものであり、数的に限定するものではなく、また配置及び段階の順序を限定するものでもない。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、半導体層に結晶性を有する酸化物半導体を用いた、光照射により閾値電圧に変化が生じることがなく、且つ移動度の高い酸化物半導体素子を提供できる。
【0034】
また、本発明によれば、動作速度の速い半導体装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施の形態1に記載の酸化物半導体素子の構成を説明する図。
【図2】実施の形態1に記載の酸化物半導体素子の作製方法を説明する図。
【図3】実施の形態1に記載の酸化物半導体素子の作製方法を説明する図。
【図4】実施の形態2に記載の酸化物半導体層の作製方法を説明する図。
【図5】実施の形態3に記載の酸化物半導体層の作製方法を説明する図。
【図6】実施の形態4に記載の酸化物半導体素子の構成を説明する図。
【図7】実施の形態4に記載の酸化物半導体素子の作製方法を説明する図。
【図8】実施の形態5に記載の酸化物半導体素子の構成を説明する図。
【図9】実施の形態5に記載の酸化物半導体素子の作製方法を説明する図。
【図10】実施の形態5に記載の酸化物半導体素子の作製方法を説明する図。
【図11】実施の形態6に記載の半導体装置の形態例を説明する図。
【図12】バンド図を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に説明する発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。
【0037】
(実施の形態1)
本実施の形態では、開示する発明の一態様に係る酸化物半導体素子の作製方法について、図1乃至図3を用いて説明する。
【0038】
<本実施の形態における酸化物半導体素子の作製方法>
図1は、本実施の形態の方法にて作製された半導体装置の構成の一例である、トップゲート構造のトランジスタ120の図であり、図1(A)及び図1(B)はそれぞれトランジスタ120の上面図及び断面図である。なお、図1(A)では、煩雑になることを避けるため、構成要素の一部(例えば、基板100など)を省略している。本実施の形態では、トランジスタ120はキャリアが電子であるnチャネル型のトランジスタであるものとして作製方法を説明するが、nチャネル型に限定されるものではない。
【0039】
トランジスタ120の作製方法について図2および図3を用いて以下の文章にて説明する。
【0040】
まず、基板100上に、絶縁層102を形成した後に、第1の酸化物半導体膜104を形成する(図2(A)参照)。
【0041】
基板100は、絶縁表面を有する基板であればよく、例えば、アルミノシリケートガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス等の無アルカリガラス基板を用いればよい。これらのガラス基板は大面積化に適しており、G10サイズ(2850mm×3050mm)やG11サイズ(3000mm×3320mm)なども作製されているため、本発明の一態様に係る半導体装置を低コストで大量生産することができる。他にも、基板100として、石英基板、サファイア基板等の絶縁体でなる絶縁性基板、シリコン等の半導体材料でなる半導体基板の表面を絶縁材料で被覆したもの、金属やステンレス等の導電体でなる導電性基板の表面を絶縁材料で被覆したものを用いることができる。
【0042】
絶縁層102は基板100からの不純物拡散を防止するものであり、CVD法やスパッタ法等を用いて、酸化珪素膜、窒化珪素膜、酸化窒化珪素膜、窒化酸化珪素膜、酸化アルミニウム膜、酸化ハフニウム膜、酸化タンタル膜などを形成すればよい。なお、絶縁層102は、単層構造、積層構造のどちらであってもよく、積層構造とする場合は、前述の膜を組み合わせて形成すればよい。
【0043】
なお、絶縁層102は、加熱により酸素の一部が脱離する酸化物絶縁膜を用いて形成することが好ましい。加熱により酸素の一部が脱離する酸化物絶縁膜として、化学量論比を満たす酸素よりも多くの酸素を含む酸化物絶縁膜を用いることが好ましい。該酸化物絶縁膜と酸化物半導体膜とを接して設け、加熱処理を行うことで、該酸化物絶縁膜から酸化物半導体膜へ酸素を拡散させることができる。絶縁層102から脱離した酸素を酸化物半導体膜に拡散させることで、絶縁層102と第1の酸化物半導体膜104との界面準位を低減することができる。この結果、トランジスタの動作などに起因して生じうる電荷などが、上述の絶縁層102と第1の酸化物半導体膜104との界面に捕獲されることを抑制することができる。これにより、トランジスタの電界効果移動度を向上させることができる。また、しきい値電圧のバラツキや変動を抑制することができる。加熱により酸素の一部が脱離する酸化物絶縁膜として、例えば、酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化ガリウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウムなどが挙げられる。
【0044】
ここで、「加熱により酸素の一部が脱離する酸化物絶縁膜」とは、TDS(Thermal Desorption Spectroscopy:昇温脱離ガス分光法)分析にて、酸素原子に換算しての酸素の放出量が1.0×1018atoms/cm以上、好ましくは3.0×1020atoms/cm以上であるものをいう。
【0045】
絶縁層102の厚さは特に限定されないが、例えば、10nm以上500nm以下とすることが好ましい。10nmより薄い膜厚では、成膜装置に起因した基板面内の膜厚分布により、絶縁層102が形成されない領域が発生する可能性がある。また、500nmより厚い膜厚は、成膜時間や生産コストの観点から好ましくない。なお、絶縁層102を設けない構成とすることも可能である。
【0046】
第1の酸化物半導体膜104は、単結晶、多結晶(ポリクリスタルともいう。)などの状態をとる。
【0047】
好ましくは、第1の酸化物半導体膜104は、CAAC−OS(C Axis Aligned Crystalline Oxide Semiconductor)膜とする。
【0048】
CAAC−OS膜は、完全な単結晶ではなく、完全な非晶質でもない。CAAC−OS膜は、非晶質相に結晶部および非晶質部を有する結晶−非晶質混相構造の酸化物半導体膜である。なお、当該結晶部は、一辺が100nm未満の立方体内に収まる大きさであることが多い。また、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)による観察像では、CAAC−OS膜に含まれる非晶質部と結晶部との境界は明確ではない。また、TEMによってCAAC−OS膜には粒界(グレインバウンダリーともいう。)は確認できない。そのため、CAAC−OS膜は、粒界に起因する電子移動度の低下が抑制される。
【0049】
CAAC−OS膜に含まれる結晶部は、c軸がCAAC−OS膜の被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向に揃い、かつab面に垂直な方向から見て三角形状または六角形状の原子配列を有し、c軸に垂直な方向から見て金属原子が層状または金属原子と酸素原子とが層状に配列している。なお、異なる結晶部間で、それぞれa軸およびb軸の向きが異なっていてもよい。本明細書において、単に垂直と記載する場合、85°以上95°以下の範囲も含まれることとする。
【0050】
なお、CAAC−OS膜において、結晶部の分布が一様でなくてもよい。例えば、CAAC−OS膜の形成過程において、酸化物半導体膜の表面側から結晶成長させる場合、被形成面の近傍に対し表面の近傍では結晶部の占める割合が高くなることがある。また、CAAC−OS膜へ不純物を添加することにより、当該不純物添加領域において結晶部が非晶質化することもある。
【0051】
CAAC−OS膜に含まれる結晶部のc軸は、CAAC−OS膜の被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向に揃うため、CAAC−OS膜の形状(被形成面の断面形状または表面の断面形状)によっては互いに異なる方向を向くことがある。なお、成膜されたCAAC−OS膜を加工した場合(例えば島状の半導体層を形成した場合。)などにおいても、結晶部のc軸の方向は、CAAC−OS膜が形成されたときの被形成面の法線ベクトルまたは表面の法線ベクトルに平行な方向となる。結晶部は、成膜することにより、または成膜後に加熱処理などの結晶化処理を行うことにより形成される。
【0052】
CAAC−OS膜を用いたトランジスタは、可視光や紫外光の照射による電気特性の変動を低減することが可能である。よって、当該トランジスタは、信頼性が高い。
【0053】
第1の酸化物半導体膜104に用いる酸化物半導体としては、少なくともインジウム(In)あるいは亜鉛(Zn)を含むことが好ましい。特にInとZnを含むことが好ましい。また、該酸化物半導体を用いたトランジスタの電気特性のばらつきを減らすためのスタビライザーとして、それらに加えてガリウム(Ga)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてスズ(Sn)を有することが好ましい。また、スタビライザーとしてハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)から選ばれた一種又は複数種が含まれていることが好ましい。また、他のスタビライザーとして、ランタノイドである、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)のいずれか一種あるいは複数種を有してもよい。
【0054】
例えば、酸化物半導体として、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、二元系金属の酸化物であるIn−Zn系酸化物、Sn−Zn系酸化物、Al−Zn系酸化物、Zn−Mg系酸化物、Sn−Mg系酸化物、In−Mg系酸化物、In−Ga系酸化物、三元系金属の酸化物であるIn−Ga−Zn系酸化物(IGZOとも表記する)、In−Al−Zn系酸化物、In−Sn−Zn系酸化物、Sn−Ga−Zn系酸化物、Al−Ga−Zn系酸化物、Sn−Al−Zn系酸化物、In−Hf−Zn系酸化物、In−Zr−Zn系酸化物、In−Ti−Zn系酸化物、In−Sc−Zn系酸化物、In−Y−Zn系酸化物、In−La−Zn系酸化物、In−Ce−Zn系酸化物、In−Pr−Zn系酸化物、In−Nd−Zn系酸化物、In−Sm−Zn系酸化物、In−Eu−Zn系酸化物、In−Gd−Zn系酸化物、In−Tb−Zn系酸化物、In−Dy−Zn系酸化物、In−Ho−Zn系酸化物、In−Er−Zn系酸化物、In−Tm−Zn系酸化物、In−Yb−Zn系酸化物、In−Lu−Zn系酸化物、四元系金属の酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn系酸化物、In−Hf−Ga−Zn系酸化物、In−Al−Ga−Zn系酸化物、In−Sn−Al−Zn系酸化物、In−Sn−Hf−Zn系酸化物、In−Hf−Al−Zn系酸化物を用いることができる。
【0055】
ここで、In−Ga−Zn系酸化物とは、InとGaとZnを主成分として有する酸化物という意味であり、InとGaとZnの比率は問わない。また、InとGaとZn以外の金属元素が入っていてもよい。
【0056】
また、酸化物半導体として、InMO(ZnO)(m>0、且つ、mは整数でない)で表記される材料を用いてもよい。なお、Mは、Ga、Fe、Mn及びCoから選ばれた一の金属元素または複数の金属元素、若しくは上記のスタビライザーとしての元素を示す。また、酸化物半導体として、InSnO(ZnO)(n>0、且つ、nは整数)で表記される材料を用いてもよい。
【0057】
一例として、用いるターゲットの組成比は、原子数比で、In:Ga:Zn=1:1:1(=1/3:1/3:1/3)、In:Ga:Zn=2:2:1(=2/5:2/5:1/5)、あるいはIn:Ga:Zn=3:1:2(=1/2:1/6:1/3)の原子数比のIn−Ga−Zn系酸化物やその組成の近傍の酸化物を用いることができる。あるいは、In:Sn:Zn=1:1:1(=1/3:1/3:1/3)、In:Sn:Zn=2:1:3(=1/3:1/6:1/2)あるいはIn:Sn:Zn=2:1:5(=1/4:1/8:5/8)の原子数比のIn−Sn−Zn系酸化物やその組成の近傍の酸化物を用いるとよい。
【0058】
しかし、少なくともインジウム(In)あるいは亜鉛(Zn)を含む酸化物半導体はこれらに限られず、必要とする半導体特性(移動度、しきい値、ばらつき等)に応じて適切な組成のものを用いればよい。また、必要とする半導体特性を得るために、キャリア濃度や不純物濃度、欠陥密度、金属元素と酸素の原子数比、原子間結合距離、密度等を適切なものとすることが好ましい。例えば、In−Sn−Zn系酸化物では比較的容易に高い移動度が得られる。しかしながら、In−Ga−Zn系酸化物でも、バルク内欠陥密度を低くすることにより移動度を上げることができる。
【0059】
ターゲット中の酸化物半導体の相対密度は80%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは99.9%以上とする。相対密度の高い酸化物半導体ターゲットを用いることにより、緻密な膜が形成される。
【0060】
第1の酸化物半導体膜104の成膜に用いるスパッタガスは、窒素、リンのうち少なくとも一種類以上を含むガスを用いればよい。窒素、リン以外にも、希ガス(代表的にはアルゴン)、酸素、または、希ガスと酸素との混合ガスが含まれてもよい。また、水素、水、水酸基、水素化物などの不純物が、濃度ppm程度(望ましくは濃度ppb程度)にまで除去された高純度ガスを用いることが好ましい。本実施の形態では、スパッタガスとして窒素を用い、40sccmの流量でスパッタ装置に供給を行いながら成膜を行う。
【0061】
スパッタガスとして窒素、リンのうち少なくとも一種類以上を含むガスを用いることにより、後の工程にて行う第1の加熱処理により、第1の酸化物半導体膜104は、窒素やリンが含有されないスパッタガスを用いて形成した場合と比較して、バンドギャップ値を小さくすることができる。例えば、表1に示すように、In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比]の金属酸化物ターゲットを用い、酸素流量を40sccmとして成膜した膜のバンドギャップ値は3.2eVであるのに対し、窒素流量を40sccmとして成膜した膜のバンドギャップ値は1.8eVとなることが実験により確認されている。
【0062】
【表1】

【0063】
第1の酸化物半導体膜104を形成する際には、例えば、減圧状態に保持された処理室内に基板を保持し、基板温度を100℃以上600℃以下、好ましくは200℃以上400℃以下にする。そして、処理室内の残留水分を除去しつつ水素、水、水酸基、水素化物などの不純物が除去された高純度ガスを導入し、金属酸化物をターゲットとして第1の酸化物半導体膜104を形成する。基板100を高温に保持した状態で、第1の酸化物半導体膜104を形成することにより、第1の酸化物半導体膜104の水素濃度を低減することができる。また、形成時に基板を上述の温度で加熱することにより、第1の酸化物半導体膜104を、CAAC−OS膜とすることができる。
【0064】
なお、CAAC−OS膜は、以下の三つの方法によって形成することができる。一つ目は、形成温度を200℃以上450℃以下として第1の酸化物半導体膜104の形成を行う方法である。二つ目は、酸化物半導体膜を薄い膜厚(例えば、数nm程度)で形成した後、200℃以上700℃以下の加熱処理を行う方法である。三つ目は、酸化物半導体膜を薄い膜厚(例えば、数nm程度)で形成した後、200℃以上700℃以下の加熱処理を行い、さらに酸化物半導体膜を形成する方法である。本実施の形態に記載する第1の酸化物半導体膜104の形成方法は、上述の二つ目の方法に該当する。
【0065】
ターゲットとして、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、二元系金属の酸化物であるIn−Zn系酸化物、Sn−Zn系酸化物、Al−Zn系酸化物、Zn−Mg系酸化物、Sn−Mg系酸化物、In−Mg系酸化物、In−Ga系酸化物、三元系金属の酸化物であるIn−Ga−Zn系酸化物、In−Al−Zn系酸化物、In−Sn−Zn系酸化物、Sn−Ga−Zn系酸化物、Al−Ga−Zn系酸化物、Sn−Al−Zn系酸化物、In−Hf−Zn系酸化物、In−Zr−Zn系酸化物、In−La−Zn系酸化物、In−Ce−Zn系酸化物、In−Pr−Zn系酸化物、In−Nd−Zn系酸化物、In−Sm−Zn系酸化物、In−Eu−Zn系酸化物、In−Gd−Zn系酸化物、In−Tb−Zn系酸化物、In−Dy−Zn系酸化物、In−Ho−Zn系酸化物、In−Er−Zn系酸化物、In−Tm−Zn系酸化物、In−Yb−Zn系酸化物、In−Lu−Zn系酸化物、四元系金属の酸化物であるIn−Sn−Ga−Zn系酸化物、In−Hf−Ga−Zn系酸化物、In−Al−Ga−Zn系酸化物、In−Sn−Al−Zn系酸化物、In−Sn−Hf−Zn系酸化物、In−Hf−Al−Zn系酸化物などのターゲットを用いることができる。
【0066】
ターゲットの一例として、In、Ga、及びZnを含む金属酸化物ターゲットを、In:Ga:ZnO=1:1:1[mol数比]の組成比とする。また、In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比]の組成比を有するターゲット、またはIn:Ga:ZnO=1:1:4[mol数比]の組成比を有するターゲット、In:Ga:ZnO=2:1:8[mol数比]の組成比を有するターゲットを用いることもできる。また、In:ZnO=25:1[mol数比]〜1:4の組成比を有するターゲットを用いることもできる。
【0067】
第1の酸化物半導体膜104の成膜を行う前に、スパッタ装置に残存している水分などを除去するためにプリヒート処理を行うと良い。プリヒート処理としては処理室内を減圧下で200℃以上600℃以下に加熱する方法や、加熱しながら窒素や不活性ガスの導入と排気を繰り返す方法等がある。プリヒート処理を終えたら、基板またはスパッタ装置を冷却した後、大気に触れさせることなく成膜を行う。この場合のターゲット冷却液は、水ではなく油脂等を用いるとよい。加熱せずに窒素の導入と排気を繰り返しても一定の効果が得られるが、加熱しながら行うとなお良い。
【0068】
更に、第1の酸化物半導体膜104の成膜を行う前、または成膜中、または成膜後に、スパッタ装置に残存している水分などを除去する方法としては、処理室に設置する真空ポンプに吸着型の真空ポンプを用いることが好ましい。例えば、クライオポンプ、イオンポンプ、チタンサブリメーションポンプなどを用いればよい。また、ターボポンプにコールドトラップを加えたものを用いてもよい。前述のポンプを用いて排気した処理室は、水素や水などが除去されているため、第1の酸化物半導体膜104の不純物濃度を低減できる。
【0069】
第1の酸化物半導体膜104の形成条件としては、例えば、スパッタリング装置を使用し、In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比]の組成比を有する金属酸化物ターゲットを用い、ターゲットと基板間との距離が170mm、圧力が0.4Pa、直流(DC)電力が0.5kW、雰囲気が窒素および酸素の混合雰囲気(例えば、窒素流量比率50%)、といった条件を適用することができる。なお、直流(DC)パルス電源を用いると、パーティクルが軽減でき、膜厚分布も均一となるため好ましい。ただし、適用する酸化物半導体材料や用途などにより適切な厚さは異なるため、その厚さは、用いる材料や用途などに応じて適宜選択すればよい。
【0070】
次に、第1の酸化物半導体膜104を成膜後、当該膜に第1の加熱処理を行い、第1の酸化物半導体膜104をCAAC−OS膜とする。また、当該加熱処理により、第1の酸化物半導体膜104中の水(水酸基を含む)や水素などの不純物を除去することができる。
【0071】
第1の加熱処理は、窒素、希ガス、酸素、窒素又は希ガスと酸素の混合ガス、または乾燥空気から選ばれた雰囲気で行えばよい。第1の加熱処理の温度は、400℃以上800℃以下、好ましくは550℃以上750℃以下とする。また、加熱時間は1分以上24時間以下とする。本実施の形態では、第1の加熱処理として、窒素雰囲気下で700℃、1時間の熱処理を行い、脱水化または脱水素化が行われた後、雰囲気を切り替えて酸素雰囲気にすることで酸化物半導体膜内部に酸素を供給し、上述の水や水素などの除去により生じる酸素欠損を補填することができるため、第1の酸化物半導体膜104を、i型化または実質的にi型化することができる。
【0072】
なお、第1の加熱処理で用いる、窒素、酸素、またはヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスには、水素、水、水酸基、水素化物などの不純物が含まれないことが好ましい。または、加熱処理装置に導入する窒素、酸素、またはヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスの純度を、6N(99.9999%)以上、好ましくは7N(99.99999%)以上、(即ち不純物濃度を1ppm以下、好ましくは0.1ppm以下)とすることが好ましい。また、水が20ppm以下の超乾燥空気中で、さらに好ましくは水が1ppm以下の超乾燥空気中で、第1の加熱処理を行ってもよい。このような第1の加熱処理によって第1の酸化物半導体膜中の水(水酸基を含む)や水素などを除去することができる。
【0073】
なお、第1の加熱処理に用いる加熱処理装置は特に限られず、抵抗発熱体などの発熱体からの熱伝導または熱輻射によって、被処理物を加熱する装置などを用いることができる。例えば、電気炉や、GRTA(Gas Rapid Thermal Anneal)装置、LRTA(Lamp Rapid Thermal Anneal)装置等のRTA(Rapid Thermal Anneal)装置を用いることができる。LRTA装置は、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンアークランプ、カーボンアークランプ、高圧ナトリウムランプ、高圧水銀ランプなどのランプから発する光(電磁波)の輻射により、被処理物を加熱する装置である。GRTA装置は、高温のガスを用いて加熱処理を行う装置である。
【0074】
上述の工程を経て形成された第1の酸化物半導体膜104は、酸素欠損が少なく、また、膜中の水素や水が除去されたCAAC−OS膜となる。なお、本実施の形態では第1の酸化物半導体膜104としてCAAC−OS膜の形成例を記載したが、勿論これに限定されることはない。なお、第1の酸化物半導体膜104は、少なくとも表面(つまり、後の工程にて形成される第2の酸化物半導体膜106との界面)から厚さ方向に対して3nm以上の範囲、望ましくは5nm以上の範囲が結晶化していることが好ましい。
【0075】
次に、第1の酸化物半導体膜104上に、第2の酸化物半導体膜106を形成する(図2(B)参照)。
【0076】
第1の酸化物半導体膜104上に成膜される第2の酸化物半導体膜106は、前述した第1の酸化物半導体膜104と同様の材料を用いることができる。
【0077】
ここで成膜する第2の酸化物半導体膜106は、第1の酸化物半導体膜104を構成する元素から、窒素、リン、または窒素とリンを除いた構成の膜を用いることが好ましい。これにより、第2の酸化物半導体膜106は第1の酸化物半導体膜104を種結晶として結晶成長を行いやすくできるため、格子定数を近接したもの(ミスマッチが1%以下、好ましくは0.7%以下)にでき、両者の界面に存在する未結合手を効果的に減少させることができる。ただし、第1の酸化物半導体膜104と第2の酸化物半導体膜106の界面が、同一の軸配向性を持ち、近接した格子定数(ミスマッチが1%以下)を有していれば、第1の酸化物半導体膜104と異なる材料(異なるターゲット)を用いても良い。
【0078】
なお、第2の酸化物半導体膜106は、バンドギャップ値を第1の酸化物半導体膜104のバンドギャップ値より0.2eV以上大きくする必要があり、望ましくは0.4eV以上大きくすることが好ましい。また、第1の酸化物半導体膜104の伝導帯準位を第2の酸化物半導体膜106の伝導帯準位より低い状態とする。このように、第2の酸化物半導体膜106のバンドギャップ値を第1の酸化物半導体膜104のバンドギャップ値と比較して差を持たせることにより、図12に示すバンド図のように、第2の酸化物半導体膜106と接する第1の酸化物半導体膜104の界面近傍(つまり、バンドギャップが小さい酸化物半導体膜の界面近傍)にキャリア(図12の黒丸部分)が流れる。なお、第2の酸化物半導体膜106の膜種は、第1の酸化物半導体膜104のバンドギャップ値を参考に、バンドギャップ値が0.2eV以上大きな膜、好ましくはバンドギャップ値が0.4eV以上大きな膜の中から、適宜選定すればよい。
【0079】
第1の酸化物半導体膜104を構成する元素から、窒素、リン、または窒素とリンを除いた構成の膜を、第2の酸化物半導体膜106として成膜した場合、第1の酸化物半導体膜104を種結晶として結晶成長を行いやすくなる。また、実質的な膜厚を増加させることができるため、パワーデバイスなどの用途には好適である。さらに、密着性などの界面物性や電気的特性も良好となる。
【0080】
本実施の形態では、第2の酸化物半導体膜106をスパッタ法で作製するためのターゲットとして、In:Ga:ZnO=1:1:2[mol数比]の組成比を有する金属酸化物ターゲットを用いる。スパッタ法による成膜は、前述した基板100上への第1の酸化物半導体膜104の成膜と同様に行えばよいが、使用ガスについては、希ガス(代表的にはアルゴン)、酸素、または、希ガス(代表的にはアルゴン)と酸素との混合ガスを用いて成膜する。なお、水素、水、水酸基、水素化物などの不純物が、濃度ppm程度(望ましくは濃度ppb程度)にまで除去された高純度ガスを用いることが好ましい。本実施の形態では、スパッタガスとして酸素を用い、40sccmの流量でスパッタ装置に供給を行いながら成膜を行った。
【0081】
そして、第1の酸化物半導体膜104と同様に、第2の酸化物半導体膜106に対して第2の熱処理を行い、第2の酸化物半導体膜106を、酸素欠損が少なく、また、膜中の水素や水が除去されたCAAC−OS膜とする。
【0082】
第2の加熱処理は、400℃以上800℃以下の温度と、窒素、希ガス、酸素、窒素又は希ガスと酸素の混合ガス、または乾燥空気からそれぞれ選ばれた温度と雰囲気の組み合わせからなる一つ又は複数の加熱処理条件で行う。第2の酸化物半導体膜を結晶化させるための加熱時間は1分以上24時間以下とし、電気炉等の熱処理装置を用いる場合は、好ましくは5時間以上20時間以下とし、代表的には10時間とする。また、RTA装置等の急速熱処理装置を用いる場合は、1分以上30分以下、好ましくは1分以上10分以下とし、代表的には5分とする。
【0083】
なお、本実施の形態では、第2の酸化物半導体膜106の結晶化と脱水化または脱水素化を促進させるための第1のステップと、結晶化した第2の酸化物半導体膜106の酸素欠損を補填するための第2のステップの2段階で第2の加熱処理を行う。この場合、第1のステップの温度は550℃以上800℃以下が好ましく、600℃以上750℃以下がより好ましい。また、第2のステップの温度は400℃以上600℃以下が好ましく、450℃以上550℃以下がより好ましい。
【0084】
第1のステップでは、雰囲気を窒素とし、RTA装置を用いて650℃で6分間の加熱処理を行う。第2のステップでは酸素と窒素の混合ガス雰囲気下で450℃、60分間の加熱処理を行う。ステップ数は、この2回に限らず適宜条件を整えて増やしても良い。例えば、第1のステップ条件と第2のステップ条件を繰り返しても良い。ただし、窒素や希ガス雰囲気での高温の加熱処理は酸素欠損を増加させることがあるため、酸素を含む雰囲気を用いた加熱処理条件で終えると良い。また、酸素を含む雰囲気を用いた加熱処理条件では、雰囲気中の酸素濃度を加熱処理時間の経過とともに増加させても良い。また、第1のステップの雰囲気に酸素を含むガスを用い、酸素欠損を補いながら結晶化及び脱水化または脱水素化の促進を行っても良く、その場合は、第2のステップ以降を省いても良い。
【0085】
この様に酸素を含む雰囲気下で一定温度での熱処理を行うことにより、酸化物半導体中の酸素欠損に酸素を効率良く補填することができる。
【0086】
なお、第2の加熱処理においても、窒素、酸素、またはヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスに、水、水素などが含まれないことが好ましい。または、加熱処理装置に導入する窒素、酸素、またはヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスの純度を、6N以上、好ましくは7N以上、とすることが好ましい。また、水が20ppm以下の超乾燥空気中で、さらに好ましくは、水が1ppm以下の超乾燥空気中で、第2の加熱処理を行っても良い。このような第2の加熱処理によって第2の酸化物半導体膜106中の酸素欠損を補填することができる。よって、i型化または実質的にi型化された第2の酸化物半導体膜106を形成できる。
【0087】
また、第2の加熱処理の昇温時には炉の内部を窒素雰囲気とし、冷却時には炉の内部を酸素又は酸素を含む雰囲気とする方法を用いてもよい。窒素雰囲気で結晶化及び脱水化又は脱水素化が行われた後、雰囲気を切り替えて酸素雰囲気にすることで第2の酸化物半導体膜106内部に酸素を供給することができる。
【0088】
この様に、第2の加熱処理を行うことにより、第1の酸化物半導体膜104を種結晶として、第1の酸化物半導体膜104上に形成された第2の酸化物半導体膜106が結晶化しやすくなる。また、第2の加熱処理によって、第1の酸化物半導体膜104をさらに高い配向性を有する結晶膜とすることができる。なお、第2の酸化物半導体膜106は、必ずしも膜全体が結晶化される必要はなく、少なくとも第1の酸化物半導体膜104との界面から厚さ方向に対して3nm以上の範囲、望ましくは5nm以上の範囲が結晶化していることが好ましい。
【0089】
また、第1の酸化物半導体膜104が絶縁層102との界面に非晶質領域を有するような構造の場合、第2の加熱処理を行うことにより、第1の酸化物半導体膜104の表面に形成されている結晶領域から第1の酸化物半導体膜の下面に向かって結晶成長が行われ、該非晶質領域が結晶化される場合もある。なお、絶縁層102を構成する材料や、熱処理の条件などによっては、該非晶質領域が残存する場合もある。
【0090】
第1の酸化物半導体膜104を構成する元素から、窒素、リン、または窒素とリンを除いた構成の膜を、第2の酸化物半導体膜106として成膜した場合、第1の酸化物半導体膜104上に形成された第2の酸化物半導体膜106は、第1の酸化物半導体膜104を結晶成長の種として、第2の酸化物半導体膜106の表面に向かって上方に結晶成長する傾向がある。
【0091】
なお、第2の加熱処理に用いる加熱処理装置には第1の加熱処理と同様の条件を用いることができる。
【0092】
このように、第1の酸化物半導体膜104上に第2の酸化物半導体膜106を接して形成することにより、第1の酸化物半導体膜104と第2の酸化物半導体膜106の界面において、第1の酸化物半導体膜104及び第2の酸化物半導体膜106が有する未結合手が結合し合う。更に、本実施の形態のように、第1の酸化物半導体膜104を構成する元素から、窒素、リン、または窒素とリンを除いた構成の膜を、第2の酸化物半導体膜106として用いることで、第1の酸化物半導体膜104の結晶領域を種として第2の酸化物半導体膜106が形成されるため結晶成長を行いやすく、界面における未結合手がより効率的に結合される。
【0093】
なお、本実施の形態では、第1の酸化物半導体膜104を種結晶として第2の酸化物半導体膜106を形成する内容を記載したが、第1の酸化物半導体膜104を必ずしも種結晶として用いる必要はない。
【0094】
次に、フォトレジストマスクを用いたエッチングなどの方法によって第1の酸化物半導体膜104及び第2の酸化物半導体膜106を加工して、島状の第1の酸化物半導体膜104a及び島状の第2の酸化物半導体膜106aの積層構造を有する酸化物半導体層108を形成する(図2(C)参照)。
【0095】
上記のエッチングには、ドライエッチング、ウェットエッチングのいずれを用いても良い。もちろん、その両方を組み合わせて用いることもできる。酸化物半導体層を所望の形状にエッチングできるよう、材料に合わせてエッチング条件(エッチングガスやエッチング液、エッチング時間、温度等)は適宜設定する。
【0096】
ドライエッチングに用いることができるエッチングガスには、例えば、塩素を含むガス(塩素系ガス、例えば塩素(Cl)、三塩化硼素(BCl)、四塩化珪素(SiCl)、四塩化炭素(CCl)など)などがある。また、フッ素を含むガス(フッ素系ガス、例えば四弗化炭素(CF)、六弗化硫黄(SF)、三弗化窒素(NF)、トリフルオロメタン(CHF)など)、臭化水素(HBr)、酸素(O)や、これらのガスにヘリウム(He)やアルゴン(Ar)などの希ガスを添加したガス、などを用いても良い。
【0097】
また、ウェットエッチングに用いることができるエッチング液としては、燐酸と酢酸と硝酸を混ぜた溶液、アンモニア過水(31重量%過酸化水素水:28重量%アンモニア水:水=5:2:2)などがある。また、ITO−07N(関東化学社製)などのエッチング液を用いてもよい。
【0098】
次に、第2の酸化物半導体膜106aに接するように導電層110を形成する(図2(D)参照)。
【0099】
導電層110は、スパッタ法などのPVD法や、プラズマCVD法などのCVD法を用いて形成することができる。また、導電層110は、アルミニウム、クロム、銅、タンタル、チタン、モリブデン、タングステンから選ばれた元素や、上述した元素を成分とする合金等を用いて形成することができる。また、導電層110は、マンガン、マグネシウム、ジルコニウム、ベリリウムのいずれか一つまたは複数を含む材料を用いてもよい。また、アルミニウムに、チタン、タンタル、タングステン、モリブデン、クロム、ネオジム、スカンジウムから選ばれた元素を一つ又は複数含有させた材料を用いてもよい。また、導電層110の他の材料として、窒化チタン、窒化タンタルなどのバリア性の高い材料を用いてもよい。窒化チタン膜や窒化タンタル膜などのバリア性の高い材料を、第2の酸化物半導体膜106aと接する部分に用いることで、第2の酸化物半導体膜106aへの不純物の侵入を抑制し、トランジスタ特性への悪影響を抑えることができる。
【0100】
また、導電層110は、導電性の金属酸化物を用いて形成しても良い。導電性の金属酸化物としては酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、インジウム錫酸化物(ITOと略記する場合がある)、インジウム亜鉛酸化物、または、これらの金属酸化物材料にシリコン若しくは酸化シリコンを含有させたものを用いることができる。
【0101】
導電層110は、チタン層上にアルミニウム層と、該アルミニウム層上にチタン層が積層された三層の積層構造とすることが好ましい。また、導電層110はアルミニウム層とタングステン層を積層した二層の積層構造、銅層とタングステン層を積層した二層の積層構造、アルミニウム層とモリブデン層を積層した二層の積層構造とすることもできる。勿論、単層、または4層以上の積層構造としてもよい。本実施の形態では、チタン膜の単層構造を適用する。チタン膜の単層構造を用いると、後のエッチングの際に良好なテーパー形状を形成するエッチングを実現することができる。
【0102】
次に、導電層110を選択的にエッチングして、ソース電極層110a、及びドレイン電極層110bを形成する(図2(E)参照)。なお、本明細書では図2(E)のように、左側に形成された電極をソース電極層110a、右側に形成された電極をドレイン電極層110bとしているが、逆であっても問題ない。
【0103】
エッチングに用いるフォトレジストマスク形成時の露光には、紫外線やKrFレーザ光やArFレーザ光を用いるのが好適である。特に、チャネル長(L)が25nm未満の露光を行う場合には、数nm乃至数10nmと極めて波長が短い超紫外線(Extreme Ultraviolet)を用いてマスク形成の露光を行うのが好適である。超紫外線による露光は、解像度が高く焦点深度も大きい。従って、後に形成されるトランジスタのチャネル長(L)を10nm以上1000nm(1μm)以下とすることも可能である。このような方法でチャネル長を小さくすることにより、動作速度を向上させることもできる。また、上記酸化物半導体を用いたトランジスタはオフ電流が極めて小さいため、微細化による消費電力の増大を抑制できる。
【0104】
導電層110のエッチングの際には、第2の酸化物半導体膜106aが除去されないように、それぞれの材料およびエッチング条件を適宜調節する。なお、材料およびエッチング条件によっては、当該工程において、第2の酸化物半導体膜106aの一部がエッチングされ、溝部(凹部)を有する酸化物半導体層となることもある。
【0105】
また、第1の酸化物半導体膜104aおよび第2の酸化物半導体膜106aの側面において、ソース電極層110a、またはドレイン電極層110bと接する部分が非晶質状態となることもある。
【0106】
次に、第2の酸化物半導体膜106aに接するゲート絶縁層112を形成する(図3(A)参照)。ゲート絶縁層112は、プラズマCVD法やスパッタ法等を用いて形成することができる。また、ゲート絶縁層112は、酸化珪素、酸化窒化珪素、窒化酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタルなどを用いて形成することが好ましい。なお、ゲート絶縁層112は、単層構造としても良いし、積層構造としても良い。積層構造とする場合は、酸化物半導体と接する層を上記材料とし、その上に窒化珪素膜を積層することもできる。ゲート絶縁層112の厚さは特に限定されないが、例えば、10nm以上500nm以下、好ましくは、50nm以上200nm以下とすることができる。
【0107】
本実施の形態では、スパッタ法により、酸素雰囲気下で酸化珪素膜を成膜してゲート絶縁層112を形成する。ゲート絶縁層112の成膜時に第2の酸化物半導体膜106aの一部に対して酸素を供給することができる。
【0108】
また、1×1011/cm以上のプラズマ密度を達成できる高密度プラズマ装置を用い、緻密で絶縁耐圧の高い高品質なゲート絶縁層112を形成してもよい。
【0109】
その後、不活性ガス雰囲気下、または酸素雰囲気下で第3の加熱処理を行ってもよい。第3の加熱処理の温度は、200℃以上450℃以下、望ましくは250℃以上350℃以下とする。例えば、酸素を含む雰囲気下で250℃、1時間の熱処理を行えばよい。第3の加熱処理を行うと、第2の酸化物半導体膜106aに酸素が供給され、第2の酸化物半導体膜106a中の酸素欠損を補填することができる。
【0110】
次に、ゲート絶縁層112を介して第1の酸化物半導体膜104a及び第2の酸化物半導体膜106aと重畳する領域に、ゲート電極114を形成する(図3(B)参照)。ゲート電極114は、ゲート絶縁層112上に導電層を形成した後に、当該導電層を選択的にエッチングすることによって形成することができる。
【0111】
上記導電層は、スパッタ法をはじめとするPVD法や、プラズマCVD法などのCVD法を用いて形成することができる。また、導電層は、アルミニウム、クロム、銅、タンタル、チタン、モリブデン、タングステンから選ばれた元素や、上述した元素を成分とする合金等を用いて形成することができる。また、上述した元素の窒化物である、窒化チタン、窒化タンタルなどを用いて形成しても良い。マンガン、マグネシウム、ジルコニウム、ベリリウムのいずれか一つまたは複数を含む材料を用いてもよい。また、アルミニウムに、チタン、タンタル、タングステン、モリブデン、クロム、ネオジム、スカンジウムから選ばれた元素を一つまたは複数含有させた材料を用いてもよい。
【0112】
次に、ゲート絶縁層112およびゲート電極114上に、第1の層間絶縁層116を形成する(図3(C)参照)。第1の層間絶縁層116は、プラズマCVD法などを用いて形成することができる。本実施の形態では、プラズマCVD法により得られる窒化物絶縁層の一つである窒化珪素膜を用いる。
【0113】
なお、第1の層間絶縁層116形成後に、第4の加熱処理を行ってもよい。第4の加熱処理は、窒素雰囲気下、150℃以上450℃以下、好ましくは250℃以上440℃以下で行う。また、第4の加熱処理は、窒素雰囲気下に限定されず、酸素雰囲気、希ガス雰囲気、乾燥空気雰囲気で行えばよい。
【0114】
以上の工程により、開示する発明の一態様に係る、トップゲート構造のトランジスタ120を形成できる。
【0115】
なお、第1の層間絶縁層116上に更に第2の層間絶縁層118を形成して平坦化処理を行ってもよい(図3(D)参照)。第2の層間絶縁層118は、PVD法やCVD法などを用いて酸化珪素、窒化酸化珪素、窒化珪素、酸化ハフニウム、酸化アルミニウム、酸化タンタル等の無機絶縁材料を含む材料を用いて形成する。また、平坦化処理に用いる層間絶縁層の材料として、ポリイミド、アクリル、ベンゾシクロブテン系樹脂、ポリアミド、エポキシ等の有機樹脂を用いることもできる。なお、本実施の形態では、第1の層間絶縁層116と第2の層間絶縁層118の積層構造としているが、本発明の一態様はこれに限定されない。1層としても良いし、3層以上の積層構造としても良い。
【0116】
第2の層間絶縁層118により平坦化処理を行うことで、トランジスタ120上に電極や配線などを好適に形成することができる。
【0117】
図1(B)に示すトランジスタ120は、基板100上に絶縁層102を介して設けられた、第1の酸化物半導体膜104a及び第2の酸化物半導体膜106aを有する酸化物半導体層108と、酸化物半導体層108上に形成されたゲート絶縁層112と、ゲート絶縁層112を介して酸化物半導体層108と重畳する領域に形成されたゲート電極114と、酸化物半導体層108と電気的に接続された一対のソース電極層110a及びドレイン電極層110bを有する。
【0118】
なお、図示されていないが、ソース電極層110a、ドレイン電極層110bは、ゲート絶縁層112、第1の層間絶縁層116及び第2の層間絶縁層118の一部を開口して形成されたコンタクトホールを用い、導電性を有する配線層を介して第2の層間絶縁層118上に電気的に取り出されてもよい。また、ゲート電極114についても、第1の層間絶縁層116及び第2の層間絶縁層118の一部を開口して形成されたコンタクトホールを用い、導電性を有する配線層を介して第2の層間絶縁層118上に電気的に取り出されてもよい。
【0119】
また、第1の酸化物半導体膜104aおよび第2の酸化物半導体膜106aでは、一般的なシリコンウェハにおけるキャリア濃度(1×1014/cm程度)と比較して、十分に小さいキャリア濃度の値(例えば、1×1012/cm未満、より好ましくは、1.45×1010/cm未満)をとる。また、ドレイン電圧が1Vから10Vの範囲のいずれかの電圧において、オフ電流(ゲートソース間の電圧を0V以下としたときのソースドレイン間に流れる電流)が、チャネル長10μmであり、酸化物半導体層の合計膜厚30nmの場合において、1×10−13A以下、またはオフ電流密度(オフ電流をトランジスタのチャネル幅で除した数値)は10aA(a(アト)は10−18倍を示す)/μm以下、好ましくは1aA/μm以下、更に好ましくは100zA(z(ゼプト)は10−21倍を示す)/μm以下にすることができる。なお、オフ電流とドレイン電圧との値が分かればオームの法則からトランジスタがオフのときの抵抗値(オフ抵抗R)を算出することができ、チャネル形成領域の断面積Aとチャネル長Lが分かればρ=RA/Lの式(Rはオフ抵抗)からオフ抵抗率ρを算出することもできる。オフ抵抗率は1×10Ω・m以上(又は1×1010Ω・m以上)が好ましい。ここで、断面積Aは、チャネル形成領域の膜厚をdとし、チャネル幅をWとするとき、A=dWから算出することができる。
【0120】
また、加熱して第1の層間絶縁層116に含まれる水素を、第1の酸化物半導体膜104aおよび第2の酸化物半導体膜106aに拡散させるため、水素の拡散する量によっては、キャリア濃度の値が1×1014/cm以上1×1018/cm未満をとりうる。
【0121】
アモルファスシリコンのトランジスタのオフ電流が10−12A程度であるのに対し、酸化物半導体を用いたトランジスタのオフ電流は、その10000分の1以下である。このように、高品質化されたバンドギャップの大きい酸化物半導体を用いることで、極めて優れたオフ電流特性のトランジスタ120を得ることができる。
【0122】
また、酸化物半導体層のうち、チャネル領域となる領域は、少なくとも平坦面を有していることが好ましい。また、第1の酸化物半導体膜と第2の酸化物半導体膜は、同じc軸配向をしている非単結晶体である。なお、第2の酸化物半導体膜表面の高低差は、ゲート電極層と重畳する領域(チャネル形成領域)において、1nm以下(好ましくは0.2nm以下)であることが好ましい。
【0123】
なお、上述のトップゲート構造のトランジスタ(酸化物半導体素子)の作製方法では、ソース電極層110a及びドレイン電極層110bは、酸化物半導体層108の第2の酸化物半導体膜106aの上側に接して形成されているが、第1の酸化物半導体膜104aの下側に接して形成されてもよい。
【0124】
本実施の形態は、他の実施の形態に記載した構成と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0125】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1にて記載した酸化物半導体層108の、異なる作製方法について図4を用いて説明する。
【0126】
<本実施の形態における酸化物半導体層108の作製方法>
まず、基板100上に、絶縁層102を形成した後に、絶縁層102上に第1の酸化物半導体膜104を成膜し、第1の加熱処理によって少なくとも第1の酸化物半導体膜104の表面を含む領域を結晶化させる(図4(A)参照)。図4(A)は、実施の形態1の図2(A)に相当する。ここまでの処理については、実施の形態1と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0127】
次に、第1の酸化物半導体膜104に対して不純物添加処理405を行い(図4(B)参照)、第1の酸化物半導体膜104の表面(後の工程にて、ゲート絶縁層112を形成する面)を含む膜中に、第2の酸化物半導体膜106として機能する不純物添加領域を形成する(図4(C)参照)。なお、添加する不純物は、酸素、ボロン、アルミニウムのうち少なくとも一種類以上を用いればよい。
【0128】
当該不純物添加処理は、イオンドーピング装置やイオン注入装置を用いて行うことができる。イオンドーピング装置の代表例としては、プロセスガスをプラズマ励起して生成された全てのイオン種を被処理体に照射する非質量分離型の装置がある。当該装置では、プラズマ中のイオン種を質量分離しないで被処理体に照射することになる。これに対して、イオン注入装置は質量分離型の装置である。イオン注入装置では、プラズマ中のイオン種を質量分離し、ある特定の質量のイオン種を被処理体に照射する。
【0129】
本実施の形態では、不純物添加処理405として、イオンドーピング装置を用いて酸素(O)ガスを第1の酸化物半導体膜104に照射する例について説明する。
【0130】
酸素を原料ガスにする場合、加速電圧を10kV〜100kVの範囲で、ドーズ量を1×1015ions/cm〜1×1017ions/cmの範囲で不純物添加処理を行い、第1の酸化物半導体膜104中に第2の酸化物半導体膜106を形成すればよい。
【0131】
以上の工程により、実施の形態1の図2(B)と同様に、第1の酸化物半導体膜104及び第2の酸化物半導体膜106の積層構造が形成される。その後の工程については、実施の形態1と同様の方法にて進めればよいため、ここでは説明を省略する。
【0132】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態1にて記載した酸化物半導体層108の、異なる作製方法について図5を用いて説明する。
【0133】
<本実施の形態における酸化物半導体層108の作製方法>
まず、基板100上に、絶縁層102を形成した後に、絶縁層102上に第2の酸化物半導体膜106を成膜し、第2の加熱処理によって第2の酸化物半導体膜106を結晶化させる(図5(A)参照)。なお、実施の形態1と同じ符号を用いている構成要素については、成膜条件、使用材料及び加工方法などについては、実施の形態1と同じである。したがって、ここでは説明を省略する。
【0134】
次に、第2の酸化物半導体膜106に対して不純物添加処理505を行い(図5(B)参照)、第2の酸化物半導体膜106の裏面(絶縁層102と接する面)を含む膜中に、第1の酸化物半導体膜104として機能する不純物添加領域を形成する(図5(C)参照)。なお、添加する不純物は、窒素、リンのうち少なくとも一種類以上を用いればよい。
【0135】
当該不純物添加処理は、イオンドーピング装置やイオン注入装置を用いて行うことができる。イオンドーピング装置の代表例としては、プロセスガスをプラズマ励起して生成された全てのイオン種を被処理体に照射する非質量分離型の装置がある。当該装置では、プラズマ中のイオン種を質量分離しないで被処理体に照射することになる。これに対して、イオン注入装置は質量分離型の装置である。イオン注入装置では、プラズマ中のイオン種を質量分離し、ある特定の質量のイオン種を被処理体に照射する。
【0136】
本実施の形態では、不純物添加処理505として、イオンドーピング装置を用いて窒素(N)ガスを第2の酸化物半導体膜106に照射する例について説明する。
【0137】
窒素を原料ガスにする場合、加速電圧を10kV〜100kVの範囲で、ドーズ量を1×1015ions/cm〜1×1017ions/cmの範囲で不純物添加処理を行い、第2の酸化物半導体膜106中に第1の酸化物半導体膜104を形成すればよい。
【0138】
なお、窒素は不活性ガスであるため、イオン照射時の気体雰囲気制御や温度制御が容易であり、作業効率や安全性を向上させることができる。
【0139】
以上の工程により、第1の酸化物半導体膜104及び第2の酸化物半導体膜106の積層構造が形成される。その後の工程については、実施の形態1と同様の方法にて進めればよいため、ここでは説明を省略する。
【0140】
(実施の形態4)
本実施の形態では、実施の形態1とは異なる形態の酸化物半導体素子およびその作製方法について、図6乃至図7を用いて説明する。
【0141】
<本実施の形態における酸化物半導体素子の作製方法>
図6は、本実施の形態の方法にて作製された半導体装置の構成の一例である、ボトムゲート構造のトランジスタ420の図であり、図6(A)及び図6(B)はそれぞれトランジスタ420の上面図及び断面図である。なお、図6(A)では、煩雑になることを避けるため、構成要素の一部(例えば、基板100など)を省略している。本実施の形態では、トランジスタ420はキャリアが電子であるnチャネル型のトランジスタであるものとして作製方法を説明するが、nチャネル型に限定されるものではない。
【0142】
トランジスタ420の作製方法について図7を用いて以下の文章にて説明する。
【0143】
まず、基板100上に絶縁層102を形成し、絶縁層102上にゲート電極114を形成し、ゲート電極114上にゲート絶縁層112を形成し、ゲート絶縁層112上にソース電極層110a及びドレイン電極層110bを形成する(図7(A)参照)。なお、実施の形態1と同じ符号を用いている構成要素については、成膜条件、使用材料及び加工方法などについては、実施の形態1と同じである。したがって、ここでは説明を省略する。
【0144】
次に、ゲート絶縁層112上に、実施の形態1に記載した第2の酸化物半導体膜106を成膜した後に第2の加熱処理を行い、少なくとも第2の酸化物半導体膜106の表面を含む領域を結晶化させる。その後、実施の形態1に記載した第1の酸化物半導体膜104を成膜した後に第1の加熱処理を行う。更に、第1の酸化物半導体膜104および第2の酸化物半導体膜106に対してパターン形成を行い、島状の第1の酸化物半導体膜104a及び島状の第2の酸化物半導体膜106aを有する酸化物半導体層108を形成する(図7(B)参照)。なお、実施の形態1と同じ符号を用いている構成要素については、成膜条件、使用材料及び加工方法などについては、実施の形態1と同じである。したがって、ここでは説明を省略する。
【0145】
次に、酸化物半導体層108上に、第1の層間絶縁層116を形成することで開示する発明の一態様に係る、ボトムゲート構造のトランジスタ420を形成できる。更に、実施の形態1と同様に、第1の層間絶縁層116に接して平坦化を目的とした第2の層間絶縁層118を形成してもよい(図7(C)参照)。なお、実施の形態1と同じ符号を用いている構成要素については、成膜条件、使用材料及び加工方法などについては、実施の形態1と同じである。したがって、ここでは説明を省略する。
【0146】
図6に示すトランジスタ420は、基板100上に絶縁層102を介して設けられたゲート電極114と、ゲート電極114上に形成されたゲート絶縁層112と、ゲート絶縁層112上に形成された、島状の第1の酸化物半導体膜104a及び島状の第2の酸化物半導体膜106aを有する酸化物半導体層108と、酸化物半導体層108と電気的に接続された一対のソース電極層110a及びドレイン電極層110bを有する。
【0147】
なお、図示されていないが、ソース電極層110a、ドレイン電極層110bは、第1の層間絶縁層116及び第2の層間絶縁層118の一部を開口して形成されたコンタクトホールを用い、導電性を有する配線層を介して第2の層間絶縁層118上に電気的に取り出されてもよい。また、ゲート電極114は、ゲート絶縁層112、第1の層間絶縁層116及び第2の層間絶縁層118の一部を開口して形成されたコンタクトホールを用い、導電性を有する配線層を介して第2の層間絶縁層118上に電気的に取り出されてもよい。
【0148】
また、第1の酸化物半導体膜104aおよび第2の酸化物半導体膜106aでは、一般的なシリコンウェハにおけるキャリア濃度(1×1014/cm程度)と比較して、十分に小さいキャリア濃度の値(例えば、1×1012/cm未満、より好ましくは、1.45×1010/cm未満)をとる。また、ドレイン電圧が1Vから10Vの範囲のいずれかの電圧において、オフ電流(ゲートソース間の電圧を0V以下としたときのソースドレイン間に流れる電流)が、チャネル長10μmであり、酸化物半導体層の合計膜厚30nmの場合において、1×10−13A以下、またはオフ電流密度(オフ電流をトランジスタのチャネル幅で除した数値)は10aA(a(アト)は10−18倍を示す)/μm以下、好ましくは1aA/μm以下、更に好ましくは100zA(z(ゼプト)は10−21倍を示す)/μm以下にすることができる。なお、オフ電流とドレイン電圧との値が分かればオームの法則からトランジスタがオフのときの抵抗値(オフ抵抗R)を算出することができ、チャネル形成領域の断面積Aとチャネル長Lが分かればρ=RA/Lの式(Rはオフ抵抗)からオフ抵抗率ρを算出することもできる。オフ抵抗率は1×10Ω・m以上(又は1×1010Ω・m以上)が好ましい。ここで、断面積Aは、チャネル形成領域の膜厚をdとし、チャネル幅をWとするとき、A=dWから算出することができる。
【0149】
また、加熱して第1の層間絶縁層116に含まれる水素を、第1の酸化物半導体膜104a及び第2の酸化物半導体膜106aに拡散させるため、水素の拡散する量によっては、キャリア濃度の値が1×1014/cm以上1×1018/cm未満をとりうる。
【0150】
アモルファスシリコンのトランジスタのオフ電流が10−12A程度であるのに対し、酸化物半導体を用いたトランジスタのオフ電流は、その10000分の1以下である。このように、高品質化されたバンドギャップの大きい酸化物半導体を用いることで、極めて優れたオフ電流特性のトランジスタ420を得ることができる。
【0151】
なお、上述のボトムゲート構造のトランジスタ(酸化物半導体素子)の作製方法では、ソース電極層110a及びドレイン電極層110bは、第2の酸化物半導体膜106aの下側に接して形成されているが、第1の酸化物半導体膜104aの上側に接して形成されてもよい。
【0152】
本実施の形態では、酸化物半導体層108を形成した後にパターン形成工程を行わないため、酸化物半導体層108は、パターン形成時のエッチング処理などによるダメージの影響を受けることがない。
【0153】
本実施の形態は、他の実施の形態に記載した構成と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0154】
(実施の形態5)
本実施の形態では、実施の形態1とは異なる形態の酸化物半導体素子およびその作製方法について、図8乃至図10を用いて説明する。
【0155】
<本実施の形態における酸化物半導体素子の作製方法>
図8は、本実施の形態の方法にて作製された半導体装置の構成の一例である、トランジスタ720の図であり、図8(A)及び図8(B)はそれぞれトランジスタ720の上面図及び断面図である。なお、図8(A)では、煩雑になることを避けるため、構成要素の一部(例えば、基板100など)を省略している。本実施の形態では、トランジスタ720はキャリアが電子であるnチャネル型のトランジスタであるものとして作製方法を説明するが、nチャネル型に限定されるものではない。
【0156】
まず、基板100上に、絶縁層102を形成した後に、絶縁層102上に第1の酸化物半導体膜104を成膜し、第1の加熱処理によって少なくとも第1の酸化物半導体膜104の表面を含む領域を結晶化させ、第1の酸化物半導体膜104上に第2の酸化物半導体膜106を成膜し、第2の加熱処理によって第2の酸化物半導体膜106を結晶化させ、第1の酸化物半導体膜104及び第2の酸化物半導体膜106をフォトレジストマスクを用いたエッチングなどの方法によって加工して、島状の第1の酸化物半導体膜104a及び島状の第2の酸化物半導体膜106aの積層構造を有する酸化物半導体層108を形成する。(図9(A)参照)。図9(A)は、実施の形態1の図2(C)に相当する。ここまでの処理については、実施の形態1と同様であるため、ここでは省略する。
【0157】
次に、ゲート絶縁層112を形成し、ゲート絶縁層112を介して第1の酸化物半導体膜104a及び第2の酸化物半導体膜106aと重畳する領域に、ゲート電極114を形成する(図9(B)参照)。なお、実施の形態1と同じ符号を用いている構成要素については、成膜条件、使用材料及び加工方法などについては、実施の形態1と同じである。したがって、ここでは説明を省略する。
【0158】
次に、酸化物半導体層108を含む領域に対して不純物添加処理705を行う。これにより、酸化物半導体層108のうち、上部にゲート電極が形成されていない領域に対してはゲート絶縁層112を介して不純物が添加され、低抵抗領域707が形成される。また、上部にゲート電極が形成されている領域については、ゲート電極114により不純物は添加が遮られるため、低抵抗領域に側面を接する第1の酸化物半導体膜704a及び低抵抗領域と側面を接する第2の酸化物半導体膜706aを有する酸化物半導体層708が形成される(図9(C)参照)。なお、添加する不純物は、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)などの希ガス、窒素(N)、リン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)などの第15族元素から選択される元素のうち少なくとも一種類以上を用いればよい。
【0159】
当該不純物添加処理は、イオンドーピング装置やイオン注入装置を用いて行うことができる。イオンドーピング装置の代表例としては、プロセスガスをプラズマ励起して生成された全てのイオン種を被処理体に照射する非質量分離型の装置がある。当該装置では、プラズマ中のイオン種を質量分離しないで被処理体に照射することになる。これに対して、イオン注入装置は質量分離型の装置である。イオン注入装置では、プラズマ中のイオン種を質量分離し、ある特定の質量のイオン種を被処理体に照射する。
【0160】
本実施の形態では、不純物添加処理として、イオンドーピング装置を用いてアルゴン(Ar)ガスを酸化物半導体層708の形成部分を含む領域に対して照射する例について説明する。
【0161】
アルゴンを原料ガスにする場合、加速電圧を0.1kV〜100kVの範囲で、ドーズ量を1×1014ions/cm〜1×1017ions/cmの範囲で照射して低抵抗領域707を形成する。低抵抗領域707の抵抗率は、1×10−4Ω・cm以上3Ω・cm以下、望ましくは1×10−3Ω・cm以上3×10−1Ω・cm以下が好ましい。また、ゲート電極114下部には低抵抗領域と側面を接する第1の酸化物半導体膜704a及び低抵抗領域と側面を接する第2の酸化物半導体膜706aを有する酸化物半導体層708が自己整合的に形成される。
【0162】
上述のように、低抵抗領域707及び酸化物半導体層708は、不純物添加処理705を行うことにより、1つの膜(つまり、第1の酸化物半導体膜104a及び第2の酸化物半導体膜106aの積層膜)から自己整合的に形成される。このため、低抵抗領域707とゲート絶縁層112の界面及び酸化物半導体層708とゲート絶縁層112の界面は同一平面である。
【0163】
上述の低抵抗領域707の抵抗率の下限範囲は、イオンドーピング装置などを用いた不純物注入により形成できる現実的な下限範囲であり、装置技術の進歩と共に下限値は更に小さくなってもよい。また、低抵抗領域707の抵抗率を上述の上限範囲内に収めることにより、後の工程にて形成されるソース電極層110a及びドレイン電極層110bとチャネル形成領域の間の抵抗値を低く抑えることができるため、ソース電極層110aとチャネル領域間及びドレイン電極層110bとチャネル領域間におけるON電流値の低下を抑制できる。したがって、ON/OFF比の高い酸化物半導体素子を提供できる。
【0164】
なお、アルゴンは不活性ガスであるため、イオン照射時の気体雰囲気制御や温度制御が容易であり、作業効率や安全性を向上させることができる。
【0165】
次に、フォトレジストマスクを用いたエッチングなどの方法によって、低抵抗領域707上に形成されたゲート絶縁層112の一部に開口部709を形成する(図9(D)参照)。
【0166】
上記のエッチングには、ドライエッチング、ウェットエッチングのいずれを用いても良い。もちろん、その両方を組み合わせて用いることもできる。酸化物半導体層を所望の形状にエッチングできるよう、材料に合わせてエッチング条件(エッチングガスやエッチング液、エッチング時間、温度等)は適宜設定する。
【0167】
ドライエッチングに用いることができるエッチングガスには、例えば、塩素を含むガス(塩素系ガス、例えば塩素(Cl)、三塩化硼素(BCl)、四塩化珪素(SiCl)、四塩化炭素(CCl)など)などがある。また、フッ素を含むガス(フッ素系ガス、例えば四弗化炭素(CF)、六弗化硫黄(SF)、三弗化窒素(NF)、トリフルオロメタン(CHF)など)、臭化水素(HBr)、酸素(O)や、これらのガスにヘリウム(He)やアルゴン(Ar)などの希ガスを添加したガス、などを用いても良い。
【0168】
また、ウェットエッチングに用いることができるエッチング液としては、燐酸と酢酸と硝酸を混ぜた溶液、アンモニア過水(31重量%過酸化水素水:28重量%アンモニア水:水=5:2:2)などがある。また、ITO−07N(関東化学社製)などのエッチング液を用いてもよい。
【0169】
次に、導電層を成膜し、導電層を選択的にエッチングして、ソース電極層110a、及びドレイン電極層110bを形成する(図10(A)参照)。これにより、低抵抗領域707に接してソース電極層110a、及びドレイン電極層110bが形成される。なお、本明細書では図10(A)のように、左側に形成された電極をソース電極層110a、右側に形成された電極をドレイン電極層110bとしているが、逆であっても問題ない。なお、実施の形態1と同じ符号を用いている構成要素については、成膜条件、使用材料及び加工方法などについては、実施の形態1と同じである。したがって、ここでは説明を省略する。
【0170】
次に、ソース電極層110a、ドレイン電極層110b、ゲート絶縁層112及びゲート電極114上に、第1の層間絶縁層116を形成する。以上の工程により、開示する発明の一態様に係る、トランジスタ720を形成できる。また、第1の層間絶縁層116上に更に第2の層間絶縁層118を形成して平坦化処理を行ってもよい(図10(B)参照)。なお、実施の形態1と同じ符号を用いている構成要素については、成膜条件、使用材料及び加工方法などについては、実施の形態1と同じである。したがって、ここでは説明を省略する。
【0171】
図8(B)に示すトランジスタ720は、基板100上に絶縁層102を介して設けられた、第1の酸化物半導体膜704a及び第2の酸化物半導体膜706aを有する酸化物半導体層708と、酸化物半導体層708の側面に接して形成された低抵抗領域707と、酸化物半導体層708及び低抵抗領域707上に形成されたゲート絶縁層112と、ゲート絶縁層112を介して酸化物半導体層708と重畳する領域に形成されたゲート電極114と、低抵抗領域707と電気的に接続された一対のソース電極層110a及びドレイン電極層110bを有する。
【0172】
なお、図示されていないが、ソース電極層110a、ドレイン電極層110b及びゲート電極114は、第1の層間絶縁層116及び第2の層間絶縁層118の一部を開口して形成されたコンタクトホールを用い、導電性を有する配線層を介して第2の層間絶縁層118上に電気的に取り出されてもよい。
【0173】
また、第1の酸化物半導体膜104aおよび第2の酸化物半導体膜106aでは、一般的なシリコンウェハにおけるキャリア濃度(1×1014/cm程度)と比較して、十分に小さいキャリア濃度の値(例えば、1×1012/cm未満、より好ましくは、1.45×1010/cm未満)をとる。また、ドレイン電圧が1Vから10Vの範囲のいずれかの電圧において、オフ電流(ゲートソース間の電圧を0V以下としたときのソースドレイン間に流れる電流)が、チャネル長10μmであり、酸化物半導体層の合計膜厚30nmの場合において、1×10−13A以下、またはオフ電流密度(オフ電流をトランジスタのチャネル幅で除した数値)は10aA(a(アト)は10−18倍を示す)/μm以下、好ましくは1aA/μm以下、更に好ましくは100zA(z(ゼプト)は10−21倍を示す)/μm以下にすることができる。なお、オフ電流とドレイン電圧との値が分かればオームの法則からトランジスタがオフのときの抵抗値(オフ抵抗R)を算出することができ、チャネル形成領域の断面積Aとチャネル長Lが分かればρ=RA/Lの式(Rはオフ抵抗)からオフ抵抗率ρを算出することもできる。オフ抵抗率は1×10Ω・m以上(又は1×1010Ω・m以上)が好ましい。ここで、断面積Aは、チャネル形成領域の膜厚をdとし、チャネル幅をWとするとき、A=dWから算出することができる。
【0174】
また、加熱して第1の層間絶縁層116に含まれる水素を、第1の酸化物半導体膜704aおよび第2の酸化物半導体膜706aに拡散させるため、水素の拡散する量によっては、キャリア濃度の値が1×1014/cm以上1×1018/cm未満をとりうる。
【0175】
アモルファスシリコンのトランジスタのオフ電流が10−12A程度であるのに対し、酸化物半導体を用いたトランジスタのオフ電流は、その10000分の1以下である。このように、高品質化されたバンドギャップの大きい酸化物半導体を用いることで、極めて優れたオフ電流特性のトランジスタ720を得ることができる。
【0176】
なお、本実施の形態では、第1の酸化物半導体膜104と第2の酸化物半導体膜106の材料を同じ材料としたが、第1の酸化物半導体膜104と第2の酸化物半導体膜106の材料を異なるものとしても良い。第1の酸化物半導体膜104と第2の酸化物半導体膜106の材料を異なるものとする場合(いわゆるヘテロエピタキシャル成長の場合)には、例えば、第1の酸化物半導体膜104に二元系金属酸化物であるIn−Zn−Oを用い、第2の酸化物半導体膜106に三元系金属酸化物であるIn−Ga−Zn−Oを用いる構成などを採用することができる。
【0177】
また、酸化物半導体層のうち、チャネル領域となる部分は、少なくとも平坦面を有していることが好ましい。なお、第2の酸化物半導体膜表面の高低差は、ゲート電極層と重畳する領域(チャネル形成領域)において、1nm以下(好ましくは0.2nm以下)であることが好ましい。
【0178】
本実施の形態を用いることにより、第2の酸化物半導体膜706aと接する第1の酸化物半導体膜704aの界面近傍の、未結合手の少ない領域にチャネル領域が形成される。このため、光照射により閾値電圧に変化が生じることがなく、且つ移動度の高い酸化物半導体素子を提供できる。
【0179】
さらに、本実施の形態では、ソース電極層110a及びドレイン電極層110bとチャネル形成領域の間の抵抗値を低く抑えることができるため、ソース電極層110aとチャネル領域間及びドレイン電極層110bとチャネル領域間におけるON電流値の低下を抑制できる。したがって、ON/OFF比の高い酸化物半導体素子を提供できる。
【0180】
本実施の形態は、他の実施の形態に記載した構成と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0181】
(実施の形態6)
本明細書に開示する酸化物半導体素子は、さまざまな電子機器(遊技機も含む)に適用することができる。電子機器としては、例えば、テレビジョン装置、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ等のカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。前述の実施の形態で説明した酸化物半導体素子を具備する電子機器の一例を図11を用いて説明する。
【0182】
図11(A)は、携帯型の情報端末であり、筐体1001、筐体1002、第1の表示部1003a、第2の表示部1003bなどによって構成されている。第1の表示部1003aおよび第2の表示部1003bはタッチ入力機能を有するパネルとなっており、例えば図11(A)の左図のように、第1の表示部1003aに表示される選択ボタン1004により入力方法を選択できる。選択ボタンは様々な大きさで表示できるため、幅広い世代の人が使いやすさを実感できる。ここで、例えば「キーボード入力」を選択した場合、図11(A)の右図のように第1の表示部1003aにはキーボード1005が表示される。これにより、従来の情報端末と同様に、キー入力による素早い文字入力などが可能となる。
【0183】
また、図11(A)に示す携帯型の情報端末は、図11(A)の右図のように、第1の表示部1003aを備える筐体1001と、第2の表示部1003bを備える筐体1002を分離することができる。このため、必要に応じて筐体1001のみ、または筐体1002のみを取り外して、より軽量な携帯型の情報端末として用いることができる。
【0184】
図11(A)に示す携帯型の情報端末は、様々な情報(静止画、動画、テキスト画像など)を表示する機能、カレンダー、日付又は時刻などを表示部に表示する機能、表示部に表示した情報を操作又は編集する機能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理を制御する機能、等を有することができる。また、筐体の裏面や側面に、外部接続用端子(イヤホン端子、USB端子など)、記録媒体挿入部などを備える構成としてもよい。
【0185】
また、図11(A)に示す携帯型の情報端末は、無線で情報を送受信できる構成としてもよい。無線により、電子書籍サーバから、所望の書籍データなどを購入し、ダウンロードする構成とすることも可能である。
【0186】
さらに、図11(A)に示す筐体1002にアンテナやマイク機能や無線機能を持たせ、携帯電話として用いてもよい。
【0187】
図11(B)は、画像表示装置の一形態を示している。図11(B)に示す画像表示装置は、タッチ入力機能を備えた表示部1101を有しており、表示部1101は窓ガラスとして機能している。本明細書に開示する酸化物半導体素子を用いて作製した画像表示装置は、外部の光景が目視可能となるだけの十分な可視光透過率(例えば、50%以上の可視光透過率)を有して形成できる。このため、例えば図11(B)の左図のように、表示部1101は通常状態では窓ガラスとして機能しているが、表示部1101の表面に触れることにより、図11(B)の右図のように、必要な情報を表示部1101に表示することができる。
【0188】
また、表示部1101の一部に無線で情報を送受信できる機構を設けてもよい。例えば、圧電振動子1102を表示部1101の一部に設置し、表示部1101に設けられた無線機構により音信号を圧電振動子1102に送信し、圧電振動子1102に備えられた無線機構により音信号を受信することにより、表示部1101を振動させて安定した大きさの音を周囲にまんべんなく放射することができる。
【0189】
図11(C)は、ゴーグル型ディスプレイ(ヘッドマウントディスプレイ)の一形態を示している。図11(C)に示すゴーグル型ディスプレイは、眼鏡本体部1201に左目用パネル1202a、右目用パネル1202b及び画像表示ボタン1203が設けられている。本明細書に開示する酸化物半導体素子を用いて作製した左目用パネル1202a及び右目用パネル1202bは、外部の光景が目視可能となるだけの十分な可視光透過率(例えば、50%以上の可視光透過率)を有しているため、通常時は図11(C)の左下図のように、使用者は通常の眼鏡と同様に周囲の風景を見ることができる。また、使用者が必要な情報を得たい場合に画像表示ボタン1203を押すことにより、図11(C)の右下図のように、左目用パネル1202a、右目用パネル1202bの一方又は両方に画像が表示される。
【0190】
以上、本実施の形態に示す構成、方法などは、他の実施の形態に示す構成、方法などと適宜組み合わせて用いることができる。
【符号の説明】
【0191】
100 基板
102 絶縁層
104 第1の酸化物半導体膜
104a 第1の酸化物半導体膜
106 第2の酸化物半導体膜
106a 第2の酸化物半導体膜
108 酸化物半導体層
110 導電層
110a ソース電極層
110b ドレイン電極層
112 ゲート絶縁層
114 ゲート電極
116 第1の層間絶縁層
118 第2の層間絶縁層
120 トランジスタ
405 不純物添加処理
505 不純物添加処理
420 トランジスタ
704a 第1の酸化物半導体膜
706a 第2の酸化物半導体膜
705 不純物添加処理
707 低抵抗領域
708 酸化物半導体層
709 開口部
720 トランジスタ
1001 筐体
1002 筐体
1003a 第1の表示部
1003b 第2の表示部
1004 選択ボタン
1005 キーボード
1101 表示部
1102 圧電振動子
1201 眼鏡本体部
1202a 左目用パネル
1202b 右目用パネル
1203 画像表示ボタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁表面上の酸化物半導体層と、
前記酸化物半導体層上のゲート絶縁層と、
前記ゲート絶縁層を介して前記酸化物半導体層と重畳するゲート電極と、
前記酸化物半導体層と電気的に接続された一対のソース電極及びドレイン電極を有し、
前記酸化物半導体層は第1の酸化物半導体膜及び第2の酸化物半導体膜の積層構造を有し、
前記第1の酸化物半導体膜及び前記第2の酸化物半導体膜は結晶性を有し、
前記ソース電極と前記ドレイン電極の間隙が前記ゲート電極と重畳し、
前記第2の酸化物半導体膜は前記ソース電極と前記ドレイン電極の間隙において前記ゲート絶縁層及び前記第1の酸化物半導体膜に挟持され、
前記第1の酸化物半導体膜のバンドギャップ値が前記第2の酸化物半導体膜のバンドギャップ値より小さいことを特徴とする、酸化物半導体素子。
【請求項2】
絶縁表面上のゲート電極と、
前記ゲート電極上のゲート絶縁層と、
前記ゲート絶縁層上の酸化物半導体層と、
前記酸化物半導体層と電気的に接続された一対のソース電極及びドレイン電極を有し、
前記酸化物半導体層は第1の酸化物半導体膜及び第2の酸化物半導体膜の積層構造を有し、
前記第1の酸化物半導体膜及び前記第2の酸化物半導体膜は結晶性を有し、
前記ソース電極と前記ドレイン電極の間隙が前記ゲート電極と重畳し、
前記第2の酸化物半導体膜は前記ソース電極と前記ドレイン電極の間隙において前記ゲート絶縁層及び前記第1の酸化物半導体膜に挟持され、
前記第1の酸化物半導体膜のバンドギャップ値が前記第2の酸化物半導体膜のバンドギャップ値より小さいことを特徴とする、酸化物半導体素子。
【請求項3】
絶縁表面に一方の面を接して形成された酸化物半導体層と、
前記酸化物半導体層の側面に接し、前記絶縁表面に一方の面を接して前記酸化物半導体層を挟む状態に形成された一対の低抵抗領域と、
前記酸化物半導体層の他方の面及び前記一対の低抵抗領域の他方の面に接して形成されたゲート絶縁層と、
前記ゲート絶縁層を介して前記酸化物半導体層と重畳する領域に形成されたゲート電極と、
前記一対の低抵抗領域と電気的に接続された一対のソース電極及びドレイン電極を有し、
前記酸化物半導体層の他方の面と前記一対の低抵抗領域の他方の面は同一平面であり、
前記酸化物半導体層は第1の酸化物半導体膜及び第2の酸化物半導体膜の積層構造を有し、
前記第1の酸化物半導体膜及び前記第2の酸化物半導体膜は結晶性を有し、
前記第2の酸化物半導体膜は前記ゲート絶縁層及び前記第1の酸化物半導体膜に挟持され、
前記第1の酸化物半導体膜のバンドギャップ値は前記第2の酸化物半導体膜のバンドギャップ値より小さく
前記低抵抗領域の抵抗率が1×10−4Ω・cm以上3Ω・cm以下であることを特徴とする、酸化物半導体素子。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において
前記第2の酸化物半導体膜のバンドギャップ値が前記第1の酸化物半導体膜のバンドギャップ値より0.2eV以上大きいことを特徴とする、酸化物半導体素子。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一の酸化物半導体素子を用いる半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−164978(P2012−164978A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−8743(P2012−8743)
【出願日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】