説明

金とニッケルの選択エッチング液

【課題】
金とニッケルとが共存する材料の1液でのエッチングを可能にし、さらに金およびニッケルのエッチングレートを制御できるエッチング方法およびエッチング液を提供する。
【解決手段】
ヨウ素系エッチング液において、無機酸または常温で固体の有機酸、および/または有機溶剤を加えて、各成分の配合比を調節したエッチング液とし、金および/またはニッケルをエッチングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金とニッケルとが共存する材料において、金および/またはニッケルをエッチングする液および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体関連におけるシリコンウエハ基板やIII/V族基板をベースにしたデバイス、液晶関連でのガラス基板をベースとしたデバイス、ポリイミド材等の有機基板をベースとしたデバイス、さらにはシリカおよびアルミナ等をベースとしたセラミック基板を用いたデバイスなどで、卑金属と貴金属による異種金属からなる積層膜を、エッチングによって配線またはバンプ等を形成する技術が要求されている。
【0003】
貴金属(金、銀、銅、ルテニウム、ロジウム、オスミニウム、イリジウム、および白金等)は電気抵抗が低く、電気が通りやすいが、一般にシリコンやガラス基板とは密着性が悪い。従って、密着性がよい金属からなる下地膜を基板上に成膜し、この下地膜上に貴金属膜を形成することが行われている。この下地膜に用いられる金属としては、シリコンやガラス基板に対して密着性に優れた、モリブデン、ニッケル、クロム、チタンが知られており、このうち、ニッケルやクロムは取り扱いに優れることから、広く採用されている。上記の組み合わせの中でも、特に金とニッケルによる組み合わせは広い分野で使用されており、これらの加工技術には、化学薬品を用いるウェットエッチング方法が主流である。
【0004】
金とニッケルによる積層膜の加工処理には、2液によるエッチング処理が一般的であり、金膜、ニッケル膜の順にエッチング処理を行う。金のエッチング液には王水系やヨウ素系が多く使用されているが、王水系は強酸であるために取り扱いにくく、エッチングレートは撹拌速度に反比例するために制御が困難である。また、王水系は成分揮発が大きいために性能安定性が悪い、などの問題がある。これに対して、ヨウ素とヨウ化物と水から構成するヨウ素系エッチング液は、ヨウ素の揮発が多少あるものの、金のエッチングレートが制御しやすく、エッチング選択性が高い(金を溶かしてニッケルをほとんど溶かさない)などの理由から、ヨウ素系エッチング液が主流となっている(特許文献1)。ニッケルのエッチング液には、過酸化水素水+リン酸(特許文献2)、硫酸+塩酸(特許文献3)、硝酸第二セリウムアンモニウム+過塩素酸(特許文献4)、硫酸+過酸化水素水+硝酸(特許文献5)、塩化第二鉄+塩酸+高分子化合物(特許文献6)など、酸化剤+無機酸や無機酸混合液系にて幅広いエッチング液が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−211142号公報
【特許文献2】特開2006−294797号公報
【特許文献3】特開2004−190054号公報
【特許文献4】特開2004−59973号公報
【特許文献5】特開2004−52001号公報
【特許文献6】特開2000−336491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、エッチング液を2種類用いる処理方法では、金とニッケルの断面形状やサイドエッチング量を揃えることが困難であること、またエッチング液による処理工程が長く、処理時間とともに装置配置に関する点などで、多くの問題があった。金とニッケルの一括エッチング液としては、王水系が考えられるが、王水系は強酸であるために取り扱いにくく、金とニッケルのエッチングレートが撹拌速度に反比例するため、2つのエッチングレートを制御するのが困難である。また、王水系は液が分解しやすいために性能安定性が悪いなどの問題があることから実用化は難しい。ヨウ素とヨウ化物と水から構成するヨウ素系エッチング液でもニッケルを微量エッチングすることは可能だが、ニッケルのエッチングレートがほとんど制御できないうえ、非常に低く、またニッケルのエッチングに時間がかかるため、金のサイドエッチングが大きい。さらにニッケル残渣が発生しやすいなどの問題があり、一括処理は困難であった。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、金とニッケルが共存する材料を1液で処理することを目的し、金とニッケルが共存する材料をエッチングの際に、金および/またはニッケルのエッチングレートを制御する方法およびエッチング液を提供することを目的の一つとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは新規なエッチング液の開発を目的として鋭意検討を行ったところ、金およびニッケルをエッチングするヨウ素系のエッチング液において、酸および/または有機溶媒を配合し、配合比を調節することで上記問題点を一挙に解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、金とニッケルとが共存する材料において金および/またはニッケルを選択的にエッチングする方法であって、ヨウ化物およびヨウ素、並びに酸および/または有機溶剤を含有するエッチング液における各成分の配合比を調整することを含む、前記方法に関する。
また本発明は、ヨウ化物およびヨウ素の重量比、並びに酸および/または有機溶剤の配合量をヨウ素が析出しないように調整することを含む、前記方法に関する。
【0010】
さらに本発明は、金とニッケルとが共存する材料において用いるエッチング液であって、ヨウ化物およびヨウ素、並びに酸および/または有機溶剤を含有する、前記エッチング液に関する。
また本発明は、有機溶剤が、含窒素五員環化合物、有機硫黄化合物、アルコール化合物およびアミド化合物からなる群から選択される1種または2種以上である、前記エッチング液に関する。
さらに本発明は、有機溶剤が、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)である、前記エッチング液に関する。
また本発明は、有機溶剤が、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)である、前記エッチング液に関する。
【0011】
さらに本発明は、有機溶剤の濃度が10容量%以上である、前記エッチング液に関する。
また本発明は、ヨウ素に対するヨウ化物の重量の比率が3以上である、前記エッチング液に関する。
【0012】
さらに本発明は、酸が、無機酸および常温で固体の有機酸からなる群から選択される1種または2種以上である、前記エッチング液に関する。
また本発明は、酸が、塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸、マロン酸、酒石酸、リンゴ酸および2,2’−チオ二酢酸からなる群から選択される1種または2種以上である、前記エッチング液に関する。
さらに本発明は、酸が、塩酸である、前記エッチング液に関する。
また本発明は、酸の濃度が5mM以上である、前記エッチング液に関する。
【0013】
さらに本発明は、ニッケルと金のエッチングレート比が(ニッケルのエッチングレート/金のエッチングレート)Ni/Au=0.10以上である、前記エッチング液に関する。
また本発明は、酸を含有しない、前記エッチング液に関する。
さらに本発明は、金とニッケルとが共存する材料において、エッチング液における各成分の配合比を調整することにより、金および/またはニッケルを選択的にエッチングする方法において用いられる、前記エッチング液に関する。
【0014】
本発明のエッチング方法およびエッチング液は、ヨウ化物およびヨウ素を含む従来のヨウ素系エッチング液に、酸および/または有機溶剤を配合し、各成分の配合比を調整することにより、従来困難であった、ニッケルのエッチング力の向上および/または金のエッチングの抑制をすることができ、微細加工にも対応することができる。
また、本発明のエッチング方法およびエッチング液は、1液で金およびニッケルの2層の積層膜を処理することができ、断面形状やサイドエッチング量を揃えることができる。
別の態様において、本発明のエッチング方法およびエッチング液は、ヨウ素とヨウ化物の水溶液に有機溶剤のみを添加した場合は、ニッケルのエッチングを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】塩酸を用いた場合のニッケルと金のエッチングレートを示す図である。
【図2】NMPを用いた場合のニッケルと金のエッチングレートを示す図である。
【図3】硫酸を用いた場合のニッケルと金のエッチングレートを示す図である。
【図4】硝酸を用いた場合のニッケルと金のエッチングレートを示す図である。
【図5】塩酸とNMPを用いた場合のニッケルと金のエッチングレートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明において用いられる酸は、ヨウ素系エッチング液との相溶性または溶解性の観点から、無機酸または常温で固体の有機酸が好ましい。ここで、常温とは、15〜35℃を意味する。
無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、次亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、ヨウ化水素酸、次亜ヨウ素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、臭化水素酸、次亜臭素酸、臭素酸、過臭素酸、亜硫酸、過硫酸、炭酸、亜リン酸、次亜リン酸などが挙げられる。
常温で固体の有機酸としては、クエン酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、2,2’−チオ二酢酸、グリコール酸、マレイン酸、フタル酸、フマル酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、グルタミン酸、サリチル酸などが挙げられる。
本発明において用いられる酸は、ニッケルの溶解性の観点から、塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸、マロン酸、酒石酸、リンゴ酸、2,2’−チオ二酢酸がさらに好ましい。
これらの酸を2種以上含有する場合には、その全部または一部を無機酸から選択することができる。また、全種を常温で固体の有機酸から選択してもよい。
酸を1種類のみを含有する場合には、ニッケルの溶解性、エッチングレートの安定性、価格の観点から、塩酸が好ましい。
また、有機溶剤と同時に用いる場合には、有機溶剤との相溶性がよい酸、塩酸が好ましい。
【0017】
本発明に使用するヨウ化物は、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化アンモニウムなどである。特に価格の観点から、ヨウ化カリウムが好ましい。
ヨウ素とヨウ化物との重量の比率は特に限定されないが、好ましくは1:3〜1:10、さらに好ましくは1:5〜1:10、さらに特に好ましくは1:8〜1:10である。
酸を用いる場合には、ヨウ素とヨウ化物との重量の比率は1:8〜1:10が好ましい。
【0018】
本発明において用いられる有機溶剤は、ヨウ素系エッチング液との相溶性の観点から、含窒素五員環化合物、有機硫黄化合物、アルコール化合物、ジオール化合物、トリオール化合物、ケトン化合物、アミド化合物が好ましい。これら有機溶剤を2種以上含有する場合には、その全部または一部を上記化合物群の同じ群の中から選択してもよく、異なる化合物群の中から選択してもよい。
【0019】
含窒素五員環化合物としては、ピロリジノン、イミダゾリジノン、オキサゾール、チアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、テトラゾールもしくはトリアゾール誘導体などの化合物が挙げられる。より具体的には、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)、2−ピロリジノン、ポリビニルピロリジノン、1−エチル−2−ピロリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、2−イミダゾリジノン、2−イミノ−1−メチル−4−イミダゾリジノン、1−メチル−2−イミダゾリジノン、2,5−ビス(1−フェニル)−1,1,3,4−オキサゾール、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−チアゾール、2,5−ビス(1−フェニル)−4,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、1,4−ビス[2−(5−フェニルオキサジアゾリル)]ベンゼン、1,4−ビス[2−(5−フェニルオキサジアゾリル)−4−tert−ブチルベンゼン]、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−チアジアゾール、1,4−ビス[2−(5−フェニルチアジアゾリル)]ベンゼン、2,5−ビス(1−ナフチル)−4,3,4−トリアゾール、1,4−ビス[2−(5−フェニルトリアゾリル)]ベンゼンなどである。これらのうち、塩酸などとの相溶性がよい、NMP、2−ピロリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが好ましい。
【0020】
有機硫黄化合物としては、ジメチルスルホキシド、メルカプトコハク酸、2,2’−チオ二酢酸などである。これらのうち、塩酸との相溶性がよい、メルカプトコハク酸、2,2’−チオ二酢酸が好ましい。
【0021】
アルコール化合物としては、炭素数1から10のアルコールが挙げられ、これらは飽和、不飽和、環状いずれの構造であってもよく、水酸基を2以上有するポリオールであってもよい。より具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、ヘキサノールなどの直鎖アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのジオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−プロパントリオール、1,2,3−ヘキサントリオール、1,2,3−ヘプタントリオールなどのトリオール、1−ペンタノール、1−ヘキサノールなどの環状アルコールが挙げられる。これらのうち、塩酸などとの相溶性がよい、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールが望ましい。
【0022】
アミド化合物としては、アミド基を有すれば、ニトロ基、フェニル基、ハロゲンなどの置換基を有していてもよい。より具体的には、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルプロピオンアミド、アクリルアミド、アジポアミド、アセトアミド、2−アセトアミドアクリル酸、4−アセトアミド安息香酸、2−アセトアミド安息香酸メチル、アセトアミド酢酸エチル、4−アセトアミドフェノール、2−アセトアミドフルオレイン、6−アセトアミドヘキサン酸、p−アセトアミドベンズアルデヒド、3−アセトアミドマロン酸ジエチル、4−アセトアミド酪酸、アミド硫酸、アミド硫酸アンモニウム、アミドール、3−アミノベンズアミド、p−アミノベンゼンスルホンアミド、アントラニルアミド、イソニコチンアミド、
【0023】
N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピル−1−ピペラジンアセトアミド、ウレアアミドリアーゼ、2−エトキシベンズアミド、エルシルアミド、オレイン酸アミド、2−クロロアセトアミド、グリシンアミド塩酸塩、コハク酸アミド、コハク酸ジアミド、サリチルアミド、2−シアノアセトアミド、2−シアノチオアセトアミド、ジアセトアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジイソプロピルホルムアミド、N,N−ジイソプロピルイソブチルアミド、N,N−ジエチルアセトアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジエチルドデカン酸アミド、N,N−ジエチルニコチンアミド、ジシアノジアミド、N,N−ジブチルホルムアミド、N,N−ジブロピルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、N,N−ジメチルベンズアミド、
【0024】
ステアリン酸アミド、スルファニルアミド、スルファベンズアミド、スルファミド酸、ダンシルアミド、チオアセトアミド、チオイソニコチンアミド、チオベンズアミド、2−ニトロベンズアミド、3−ニトロベンズアミド、2−ニトロベンズアミド、2−ニトロベンゼンスルホンアミド、3−ニトロベンゼンスルホンアミド、4−ニトロベンゼンスルホンアミド、ピロリンアミド、ピラジンアミド、2−フェニルブチルアミド、N−フェニルベンズアミド、フェノキシアセトアミド、フタルアミド、フタルジアミド、フマルアミド、N−ブチルアセトアミド、n−ブチルアミド、プロパンアミド、プロピオンアミド、ヘキサン酸アミド、ベンズアミド、ベンゼンスルホンアミド、ホルムアミド、マロンアミド、マロンジアミド、メタンスルホンアミド、N−メチルベンズアミド、N−メチルマレインアミド酸、ヨードアセトアミドが挙げられる。これらのうち、塩酸などとの相溶性がよい、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0025】
ケトン化合物としては、炭素数3から10のケトンが挙げられ、具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジオキサン、4−ヒドロキシ−2−メチルペンタノン、γ-ブチロラクトン、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどがある。これらのうち、塩酸などとの相溶性がよい、アセトン、炭酸エチレンが好ましい。
【0026】
これらの有機溶剤のうち、揮発性の低い有機溶剤は金とニッケルのエッチングレートを安定に保つことができるため好ましい。このような有機溶剤は、含窒素五員環化合物、ジオール化合物、トリオール化合物、アミド化合物などである。特に、エッチング時の濡れ性も良好なNMPやDMAcが好ましい。
【0027】
酸として、塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸、マロン酸、酒石酸、リンゴ酸、2,2’−チオ二酢酸からなる群から選択される1種または2種以上を含有し、有機溶剤として、含窒素五員環化合物、有機硫黄化合物、アルコール化合物、ケトン化合物、ジオール化合物、トリオール化合物、アミド化合物からなる群から選択される1種または2種以上含有するエッチング液にあっては、より適切にニッケルのエッチング力の向上および/または金のエッチングの抑制をすることができる。
【0028】
かかる有機溶剤の使用量は、1〜90容量%が好ましく、より好ましくは10〜85容量%、特に好ましくは20〜80容量%である。かかる範囲内であれば、ニッケルのエッチング力を抑制できる。
かかる無機酸または常温で固体の有機酸の使用量は、0.005〜3mol/Lが好ましく、より好ましくは0.005〜0.2mol/L、特に好ましくは0.005mol/L〜0.05mol/Lである。かかる範囲内であれば、ニッケルのエッチング力を向上できる。
有機溶剤および酸を混合して用いる場合には、有機溶剤を20〜60容量%、酸を5〜100mmol/L含有することが好ましい。
【0029】
エッチング液に使用する、無機酸または常温で固体の有機酸の使用量を変更することで、ニッケルと金のエッチングレート比を制御することができる。
ニッケルと金のエッチングレートの比は、ニッケルのエッチングレート/金のエッチングレートを示し(以下、Ni/Au比と略す。)、これがNi/Au=0.10以上であることを要する。Ni/Au=0.10以上であれば、ニッケルのエッチング力向上および/または金のエッチング力抑制の効果が得られ好ましい。より効果的には、0.20以上が好ましい。
Ni/Au比が1.00以上になると、ニッケルのエッチングレートと金のエッチングレートが逆転する。すなわち、金よりもニッケルの方がより多くエッチングされることになる。このようなエッチング液は、ニッケルの膜厚が金の膜厚よりも厚いときに有効であり、極めて好ましい。
【0030】
例えば、図1に示すように、無機酸または常温で固体の有機酸に塩酸を用いた場合、塩酸0mmol/Lではニッケルのエッチングレートよりも金のエッチングレートの方が高いのに対し、塩酸5mmol/Lではニッケルのエッチングレートの方が金のエッチングレートよりも高くなるという逆転現象が起こる。すなわち、塩酸5mmol/Lでは、Ni/Au比が1.00以上になる。したがって、塩酸使用量を変えることで、Ni/Au比を制御することができる。
【0031】
ヨウ素とヨウ化物の水溶液に有機溶剤のみを添加した場合は、ニッケルのエッチングレートを抑制する効果が働き、例えば、図2に示すように、NMP0容量%ではニッケルのエッチングレートは13nm/min.であるが、20容量%以上の添加では、ほぼ0となる。これにより、Niを溶かさず、Auのみを溶解させる、Auの選択エッチング効果が得られる。
【0032】
ヨウ素およびヨウ化物を含有するエッチング液に無機酸または常温で固体の有機酸を使用することで、金およびニッケルを一括エッチングすることが可能となり、また、その配合比を調節することによって、金とニッケルのエッチングレート比を制御することができる。かかるエッチング液の基板への濡れ性を高め、サイドエッチングを防止するために、有機溶剤をさらに添加することが好ましい。
【0033】
本発明のエッチング液は、公知のヨウ素系エッチング液に前記無機酸または常温で固体の有機酸、さらに有機溶剤を添加するか、ヨウ素、ヨウ化物および該化合物を水に混合させて製造することができる。また、本発明のエッチング液をあらかじめ調製することなく、エッチング時にヨウ素系エッチング液と無機酸または常温で固体の有機酸、さらに有機溶剤を使用することにより、金およびニッケルをエッチングすることもできる。
【0034】
本発明のエッチング方法としては、本発明のエッチング液を用いれば公知のいずれの方法を用いることができる。一般的にはディップ方式とスプレー方式があり、いずれかの方式でも対応可能である。エッチング液の組成変化の観点からはディップ方式が好ましい。具体的な方法としては、エッチング液の槽に半導体基板などの材料を静止または揺動させることで金およびニッケルのエッチングを行うことができる。エッチング時間は、1〜60分あれば十分であり、エッチング温度は、20〜50℃で行うことができる。特に、20〜30℃で、1〜5分エッチングすることが好ましい。
【0035】
本発明のエッチング液を用いてエッチングする材料は、金とニッケルが共存する材料、特に金とニッケルによる積層膜を有する材料である。具体的には、半導体基板、シリコンウエハ、透明導電性電極などの半導体材料が挙げられる。中でも、半導体基板が好ましく用いられる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0037】
実施例1
ニッケルと金が共存するガラス上のニッケルのエッチングを想定して試験を行った。
ヨウ化カリウム100g/L、ヨウ素10g/Lのエッチング液(溶媒として水を使用)にN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)を0、20、40、60容量%配合したエッチング液4種を各200mL調製した。次に2×2cmの金試片とニッケル試片を液温30℃、弱撹拌しながら前記エッチング液に1分間浸漬させてエッチングした。重量法から金とニッケルのエッチングレートを算出し、Ni/Au比も算出した。その結果を表1と図2に示す。
NMPを加えることで、ニッケルのエッチングレートは低下し、20容量%でほとんど溶解しなくなる。よって、ヨウ素系エッチング液に溶剤のみ添加すれば、Auを溶かしてNiを溶解しない、選択エッチングが可能である。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例2
ニッケルと金が共存するウエハ上のニッケルのエッチングを想定して試験を行った。
実施例1のヨウ化カリウム100g/L、ヨウ素10g/Lのエッチング液(溶媒として水を使用)に塩酸を0、5、20、50mmol/L配合したエッチング液4種を各200mL調製した。実施例1と同様に2×2cmの金試片とニッケル試片を液温30℃、弱撹拌しながら前記エッチング液に1分間浸漬させてエッチングした。重量法から金とニッケルのエッチングレートを算出し、Ni/Au比も算出した。その結果を表2と図1に示す。
塩酸を加えることで、ニッケルのエッチングレートが上昇し、Ni/Au比が向上することが分かった。また、添加剤の濃度を変更することで、ニッケルと金のエッチングレートが逆転し、Ni/Au比が1.00を超えることが分かった。
【0040】
【表2】

【0041】
実施例3
実施例2における塩酸を表に示す化合物に替えた以外は、実施例2と同様にエッチングを行った。その結果を表3に示す。硫酸、硝酸の場合については図にも結果を示す(図3、4)。各種無機酸または常温で固体の有機酸を使用することで、ニッケルのエッチングレートが上昇し、Ni/Au比が向上することが分かった。また、無機酸または常温で固体の有機酸の濃度を変更することで、ニッケルと金のエッチングレートが逆転し、Ni/Au比が1.00を超えることが分かった。
【0042】
【表3】

【0043】
実施例4
実施例2における塩酸を表に示す化合物に替え、添加量を5mMに固定した以外は、実施例2と同様にエッチングを行った。その結果を表4に示す。各種無機酸または常温で固体の有機酸を使用することで、ニッケルのエッチングレートが上昇し、Ni/Au比が向上させることが分かった。
【0044】
【表4】

上記の実施例により、ヨウ素系エッチング液に無機酸または常温で固体の有機酸を添加することで、Niのエッチングレートの上昇およびNi/Au比が向上することが分かったが、これだけでは微細部への濡れ性が低いため、高解像度の基板をエッチングする際に溶け残りが発生しやすい。それを改善する方法として、ヨウ素系エッチング液に無機酸または常温で固体の有機酸のほか、有機溶剤を添加する方法を見出した。実施例を以下に示す。
【0045】
実施例5
ニッケルと金が共存するウエハ上のニッケルのエッチングを想定して試験を行った。
実施例1のヨウ化カリウム100g/L、ヨウ素10g/Lのエッチング液(溶媒として水を使用)に塩酸を20mmol/L加えてから、NMPを20、40、60容量%配合したエッチング液3種を各200mL調製した。実施例1と同様に2×2cmの金試片とニッケル試片を液温30℃、弱撹拌しながら前記エッチング液に1分間浸漬させてエッチングした。重量法から金とニッケルのエッチングレートを算出し、Ni/Au比も算出した。その結果を表5と図5に示す。
通常、ヨウ素系エッチング液に有機溶剤を加えると、表1のようにNiのエッチングレートが低下し、ほぼNiは溶解しなくなるが、塩酸が添加されているため、Niのエッチングレートは高い値を維持できることが分かった。また、Ni/Au比も高い値が得られた。
【0046】
【表5】

【0047】
実施例6
実施例4におけるNMPを表に示す化合物に替えた以外は、実施例4と同様にエッチングを行った。その結果を表6に示す。各種有機溶剤を使用してもNiのエッチングレートは高い値を維持できることが分かった。また、Ni/Au比も高い値が得られた。
【0048】
【表6】

【0049】
実施例7:ヨウ素の溶解性試験(ヨウ素+ヨウ化物+水)
水40mL、ヨウ素0.8gにヨウ化カリウムを2.4、4.0、6.4、8.0gの4種を配合して溶解性試験を行った。それぞれのヨウ素とヨウ化物の比は1:3、1:5、1:8、1:10となる。各組成での試験結果を表7に示す。
Iに対してKIの比率を5以上にすることでIの溶解性が向上することが分かる。
【0050】
【表7】

【0051】
実施例8:ヨウ素の溶解性試験(ヨウ素+ヨウ化物+水+有機溶剤)
水24mL、NMP16mL、ヨウ素0.8gにヨウ化カリウムを2.4、6.4、8.0gの3種を配合して、溶解性を調査した。それぞれのヨウ素とヨウ化物の比率は1:3、1:8、1:10となる。各組成での試験結果を表8に示す。
実施例7とは異なり、Iに対してKIの比率が3でも有機溶剤を加えることでIの溶解性が向上することが確認できる。
【0052】
【表8】

【0053】
実施例9:ヨウ素の析出挙動調査(ヨウ素+ヨウ化物+水+有機溶剤+無機酸)
水24mL、NMP16mL、ヨウ素0.8gにヨウ化カリウムを2.4、6.4、8.0gの3種(各組成のヨウ素とヨウ化物の比率は1:3、1:8、1:10)を配合したエッチング液を調製した。次に、これらの液に36重量%塩酸(11.7mol/L)を10μlずつ滴下し、ヨウ素が析出する塩酸の滴下量を調査した。ヨウ素析出挙動の調査方法は、エッチング液に水晶基板(10×10×0.4mm)を10秒浸漬させ、続けて静止状態の純水に10秒浸漬した際、基板表面に析出したヨウ素の有無を目視で観察した。ヨウ素の析出挙動調査の結果を表9に示す。
ヨウ素析出時の塩酸濃度は、Iに対してKIの比率が3の場合は9mmol/L、8の場合は29mmol/L、10の場合は44mmol/Lとなった。これにより、Iに対してKIの比率が大きくなるほど、ヨウ素の析出を抑制できることが分かる。上記の試験方法は実ライン工程とほぼ同じであり、純水洗浄時のヨウ素析出は実ライン工程にて大きな問題となる。
【0054】
【表9】

【0055】
実施例7〜9の結果から、ヨウ素に対してヨウ化物の比率が低い場合、無機酸の添加量が低い場合であっても、基板上にヨウ素が析出するといった問題が発生するが、ヨウ素に対してヨウ化物の比率が高い場合は、無機酸を多量に添加することが可能となる。これにより、無機酸または常温で固体の有機酸の添加量を広範囲で使用することが可能となり、これまで困難であった金とニッケルのエッチングレート制御が可能となることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金とニッケルとが共存する材料において金および/またはニッケルを選択的にエッチングする方法であって、ヨウ化物およびヨウ素、並びに酸および/または有機溶剤を含有するエッチング液における各成分の配合比を調整することを含む、前記方法。
【請求項2】
ヨウ化物とヨウ素との重量比、並びに酸および/または有機溶剤の配合量をヨウ素が析出しないように調整することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
金とニッケルとが共存する材料において用いるエッチング液であって、ヨウ化物およびヨウ素、並びに酸および/または有機溶剤を含有する、前記エッチング液。
【請求項4】
有機溶剤が、含窒素五員環化合物、有機硫黄化合物、アルコール化合物、ケトン化合物およびアミド化合物からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項3に記載のエッチング液。
【請求項5】
有機溶剤が、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)である、請求項3または4に記載のエッチング液。
【請求項6】
有機溶剤が、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)である、請求項3〜5に記載のエッチング液。
【請求項7】
有機溶剤の濃度が10容量%以上である、請求項3〜6のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項8】
ヨウ素に対するヨウ化物の重量の比率が3以上である、請求項3〜7のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項9】
酸が、無機酸および常温で固体の有機酸からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項3〜8のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項10】
酸が、塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸、マロン酸、酒石酸、リンゴ酸および2,2’−チオ二酢酸からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項3〜9のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項11】
酸が、塩酸である、請求項3〜10のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項12】
酸の濃度が5mM以上である、請求項3〜11のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項13】
ニッケルと金のエッチングレート比が(ニッケルのエッチングレート/金のエッチングレート)Ni/Au=0.10以上である、請求項3〜12のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項14】
酸を含有しない、請求項3〜8のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項15】
金とニッケルとが共存する材料において、エッチング液における各成分の配合比を調整することにより、金および/またはニッケルを選択的にエッチングする方法において用いられる、請求項3〜14のいずれかに記載のエッチング液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−229429(P2010−229429A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74914(P2009−74914)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(591045677)関東化学株式会社 (99)
【Fターム(参考)】