説明

金属プレート及びオスミウム膜の成膜方法

【課題】極小径の貫通孔を有するプレートに1回のプラズマ成膜処理で薄膜を成膜するための成膜処理用治具を提供する。
【解決手段】本発明に係る成膜処理用治具は、貫通孔を有するアパーチャープレート107を挟むことにより前記貫通孔、前記アパーチャープレートの表面及び裏面を露出させた状態で前記アパーチャープレートを保持する保持部材39と、前記保持部材が取り付けられた電極部材と、を具備する成膜処理用治具8であって、前記電極部材は、プラズマCVD装置のプラズマ電力が印加される電極に電気的に接続されるものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極小径の貫通孔を有するプレートに1回のプラズマ成膜処理で薄膜を成膜するための成膜処理用治具、前記成膜処理用治具を用いたプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)装置、金属プレート及びオスミウム膜の成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図8は、従来のプラズマCVD装置を概略的に示す断面図である。図9は、アパーチャープレートを示す正面図である。このアパーチャープレート107は電子顕微鏡において電子ビームを絞るための部品であり、図8に示すプラズマCVD装置は、アパーチャープレート107の表面に金属膜を成膜するための装置である。
【0003】
図8に示すように、従来のプラズマCVD装置はチャンバー101を有しており、このチャンバー101内には平行平板型の上部電極としてのガスシャワー電極102と下部電極103が配置されている。ガスシャワー電極102は原料ガス供給源104に繋げられている。また、ガスシャワー電極102及びチャンバー101は接地電位に接続されている。
【0004】
下部電極103上には基板106が載置されており、この基板106上にはアパーチャープレート107が貼り付けられる。下部電極103にはマッチングボックス108を介して高周波電源(RF電源)109が接続されている。
【0005】
図9に示すアパーチャープレート107は、厚さ10〜500μmの板状のものであり、直径が2mm程度の第1の貫通孔(取付け用の貫通孔)107aを有している。また、アパーチャープレート107には直径が2〜100μm程度の第2の貫通孔(図示せず)が複数設けられており、第2の貫通孔は電子顕微鏡において電子ビームを絞るための孔である。アパーチャープレート107に金属膜を成膜する必要がある部分は、アパーチャープレートの表面及び裏面における第2の貫通孔の近傍に位置する部分と、第2の貫通孔の内側面である。
【0006】
上記従来のプラズマCVD装置を用いてアパーチャープレート107に金属膜を成膜する方法は次のとおりである。
【0007】
ウエハなどの基板106上にアパーチャープレート107を貼り付け、この基板106をチャンバー101内の下部電極103上に載置する。次いで、原料ガス供給源104によってガスシャワー電極102に原料ガスを供給し、この原料ガスをガスシャワー電極102からシャワー状に下部電極103に向けて噴出させる。そして、RF電源109からマッチングボックス108を介して下部電極103に高周波を出力することにより、アパーチャープレート107の表面及び第2の貫通孔の内側面にプラズマCVD法により金属膜を成膜する。
【0008】
この後、前記基板106チャンバー101から取り出し、前記基板106上からアパーチャープレート107を剥がし、このアパーチャープレート107の反対面(裏面)が露出するように基板106上に貼り付け、この基板106をチャンバー101内の下部電極103上に載置する。この後は、上述したアパーチャープレート107の表面に金属膜を成膜したのと同様の方法で、アパーチャープレート107の裏面及び第2の貫通孔の内側面に金属膜を成膜する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来のプラズマCVD装置では、アパーチャープレートのような極小径の第2の貫通孔を有するプレートにおける該第2の貫通孔の内側面と、前記プレートの表面及び裏面における第2の貫通孔の近傍に位置する部分に薄膜を成膜するには、上述したように2回の成膜処理を行わなければならない。このため、プレートへの成膜処理のコストが高くなるという課題があった。また、2回の成膜処理を行うと、1回目の成膜処理で成膜された第1の金属膜と2回目の成膜処理で成膜された第2の金属膜との間に必ず界面が形成されてしまい、その結果、第1の金属膜と第2の金属膜との界面から剥離するという問題が生じることがある。
【0010】
一方、アパーチャープレートの表面、裏面及び第2の貫通孔の内側面に金属膜であるオスミウム膜を成膜することが提案されている。このオスミウム膜は、電子ビームに対する耐性が高いので、他の金属膜に比べて高い性能を発揮することが予想されている。
【0011】
しかしながら、上述した平行平板型の従来のプラズマCVD装置では、プラズマが拡散しやすいため、オスミウム膜の成膜用原料ガスである重いOsOガスが極小径の第2の貫通孔内に入りにくく、その結果、第2の貫通孔の内側面に均一性良くオスミウム膜を成膜することができなかった。言い換えると、上記従来のプラズマCVD装置によって第2の貫通孔の内側面にオスミウム膜を成膜しても、そのオスミウム膜の均一性が低いため、結果的に高い性能を得ることができなかった。
【0012】
本発明は上記のような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、極小径の貫通孔を有するプレートに1回のプラズマ成膜処理で薄膜を成膜するための成膜処理用治具、及び前記成膜処理用治具を用いたプラズマCVD装置を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、極小径の貫通孔の内側面に均一性良くオスミウム膜を成膜した金属プレートを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、金属物の表面上にオスミウム膜を成膜するオスミウム膜の成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明に係る成膜処理用治具は、貫通孔を有するプレートを挟むことにより前記貫通孔、前記プレートの表面及び裏面を露出させた状態で前記プレートを保持する保持部材と、
前記保持部材が取り付けられた電極部材と、
を具備する成膜処理用治具であって、
前記電極部材は、プラズマCVD装置のプラズマ電力が印加される電極に電気的に接続されるものであることを特徴とする。
【0014】
上記成膜処理用治具によれば、貫通孔を有するプレートを挟むことにより前記貫通孔、前記プレートの表面及び裏面を露出させた状態で前記プレートを保持する保持部材を有するため、プレートに1回のプラズマ成膜処理で薄膜を成膜することが可能となる。これとともに、前記保持部材が取り付けられた電極部材は、プラズマCVD装置のプラズマ電力が印加される電極に電気的に接続されるものであるため、前記電極部材を電極の一部として機能させることができる。
【0015】
また、本発明に係る成膜処理用治具において、前記電極部材は搬送アーム上に載せるための鍔を有することが好ましい。
【0016】
本発明に係るプラズマCVD装置は、チャンバーと、
前記チャンバー内に配置された第1電極と、
前記チャンバー内に配置され、前記第1電極に対向するように配置された第2電極と、
前記第1電極及び前記第2電極の少なくとも一方に電気的に接続され、プラズマ電力が印加される電源と、
前記チャンバー内に原料ガスを導入する原料ガス導入機構と、
貫通孔を有するプレートを挟むことにより前記貫通孔、前記プレートの表面及び裏面を露出させた状態で前記プレートを保持する保持部材と、前記保持部材が取り付けられた電極部材と、を備えた成膜処理用治具と、
を具備するプラズマCVD装置であって、
前記保持部材によって保持された前記プレートの表面及び裏面、前記貫通孔の内側面にプラズマCVD法によって薄膜を成膜する際は、前記第2電極上に前記電極部材が電気的に接続されて、前記保持部材によって保持された前記プレートが前記第1電極と前記第2電極との間に位置されることにより、前記電極部材が前記第2電極の一部として機能することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るプラズマCVD装置において、前記電極部材は鍔を有し、
前記鍔を搬送アームに載せることにより、前記成膜処理用治具を前記チャンバー内に搬送する搬送機構を有することも可能である。
【0018】
また、本発明に係るプラズマCVD装置において、前記チャンバー内に配置され、前記第1電極と前記第2電極との間に位置された前記プレートの周囲に配置されたプラズマウォールをさらに具備し、前記プラズマウォールはフロート電位に接続されていることが好ましい。これにより、前記チャンバー内に導入された前記原料ガスの流れを前記プラズマウォールによって前記プレートの周囲に集中させるとともに、前記プラズマウォールによって前記プレートの周囲にプラズマを閉じ込めてプラズマ密度を高めることができる。
【0019】
また、本発明に係るプラズマCVD装置において、前記第1電極と前記第2電極との間に位置された前記プレートの表面と略平行方向に、前記原料ガス導入機構によって前記原料ガスを導入することが好ましい。
【0020】
本発明に係るプラズマCVD装置は、チャンバーと、
前記チャンバー内に配置された上部電極と、
前記チャンバー内に配置され、前記上部電極と対向するように下方に配置された下部電極と、
前記上部電極及び前記下部電極の少なくとも一方に電気的に接続され、プラズマ電力が印加される電源と、
前記チャンバー内に原料ガスを導入する原料ガス導入機構であって、前記上部電極側から前記下部電極側へ向けて前記原料ガスを流す原料ガス導入機構と、
貫通孔を有するプレートを挟むことにより前記貫通孔、前記プレートの表面及び裏面を露出させた状態で前記プレートを保持する保持部材と、前記保持部材が取り付けられた電極部材と、前記電極部材に設けられた鍔とを備えた成膜処理用治具と、
前記鍔を搬送アームに載せることにより、前記成膜処理用治具を前記チャンバー内に搬送する搬送機構と、
を具備するプラズマCVD装置であって、
前記保持部材によって保持された前記プレートの表面及び裏面、前記貫通孔の内側面にプラズマCVD法によって薄膜を成膜する際は、前記下部電極上に前記電極部材が電気的に接続されて、前記保持部材によって保持された前記プレートが前記上部電極と前記下部電極との間に位置し且つ前記プレートがその表面と前記下部電極の上面に対する垂直方向と略平行になるように位置されることにより、前記電極部材が前記第2電極の一部として機能することを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係るプラズマCVD装置において、前記プレートはアパーチャープレートであり、前記貫通孔の径は100μm以下であり、前記薄膜はオスミウム膜であることが好ましい。
また、本発明に係るプラズマCVD装置において、前記プラズマ電力は高周波電力であることが好ましい。
【0022】
本発明に係る金属プレートは、径が100μm以下の貫通孔を有するプレートと、前記貫通孔の内側面及び前記プレートにおける前記貫通孔の近傍に位置する表面と裏面にプラズマCVD装置によって1回の成膜処理で成膜されたオスミウム膜と、を有する金属プレートであって、
前記プラズマCVD装置は、
チャンバーと、
前記チャンバー内に配置された上部電極と、
前記チャンバー内に配置され、前記上部電極と対向するように下方に配置された下部電極と、
前記上部電極及び前記下部電極の少なくとも一方に電気的に接続され、プラズマ電力が印加される電源と、
前記下部電極に電気的に接続され、前記プレートを挟むことにより前記上部電極と前記下部電極との間に前記プレートを位置させ且つ前記貫通孔、前記プレートの表面及び裏面を露出させた状態で前記プレートを保持する保持部材と、
前記チャンバー内に配置され、前記プレートの周囲に位置され、フロート電位に接続されたプラズマウォールと、
前記チャンバー内に原料ガスを導入する原料ガス導入機構であって、前記上部電極側から前記下部電極側へ向けて前記原料ガスを流し且つ前記プレートの表面及び裏面に沿う方向に前記原料ガスを流す原料ガス導入機構と、
を具備することを特徴とする。
【0023】
上記金属プレートによれば、極小径の貫通孔の内側面に従来技術に比べて均一性良くオスミウム膜を成膜することができると共に、1回の成膜処理で成膜されたオスミウム膜であるため、このオスミウム膜に複数回で成膜された膜のような界面が生じることが無い。
【0024】
また、本発明に係る金属プレートにおいて、前記オスミウム膜の厚さが10nm以上50nm以下であることが好ましい。
また、本発明に係る金属プレートにおいて、前記プラズマ電力は高周波電力であることが好ましい。
また、本発明に係る金属プレートにおいて、前記金属プレートはアパーチャープレートであることも可能である。
【0025】
本発明に係るオスミウム膜の成膜方法は、チャンバー内に金属物を配置し、
前記チャンバー内に0.1〜3cc/分の流量(好ましくは0.1〜1cc/分の流量)のOsOガス及び放電維持用の不活性ガスを導入しながら前記チャンバー内の圧力を13〜40Paに維持し、
密度0.25〜2.0W/cmの高周波出力を用いて前記チャンバー内のガスをプラズマ化することにより、前記金属物の表面上にオスミウム膜を成膜することを特徴とする。
尚、前記チャンバー内に5〜15cc/分の流量のHガスを導入しても良いし、また、前記金属物を200〜300℃の温度に加熱して成膜しても良い。また、前記金属物は金属プレートであっても良い。また、前記不活性ガスはHe又はArであっても良い。
【0026】
上記オスミウム膜の成膜方法によれば、高周波出力によるRF放電を用い、高周波出力密度、OsOガス及び圧力それぞれの範囲を規定することにより、金属物上に成膜されたオスミウム膜に原料ガスに含まれる酸素が残留することを抑制できる。このようなオスミウム膜は電子線に強いという特性を有している。
これに対し、DC放電を用いて金属物の表面上にオスミウム膜を成膜した場合、このオスミウム膜に原料ガスの酸素が残留しやすく、酸素の残留を抑制することが困難である。このように酸素が残留したオスミウム膜は電子線に弱くなるという欠点がある。
RF放電とDC放電で上記のような差が生じる理由は、RF放電の場合は安定な放電が得られるため、原料ガスの酸素が残留するのを抑制できるのに対し、DC放電の場合は不安定な放電となるため、原料ガスの酸素が残留するのを抑制できないと考えられる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように本発明によれば、極小径の貫通孔を有するプレートに1回のプラズマ成膜処理で薄膜を成膜するための成膜処理用治具、及び前記成膜処理用治具を用いたプラズマCVD装置を提供することができる。
また、他の本発明によれば、極小径の貫通孔の内側面に均一性良くオスミウム膜を成膜したアパーチャープレートを提供することができる。
また、他の本発明によれば、金属物の表面上にオスミウム膜を成膜するオスミウム膜の成膜方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明に係る実施の形態によるプラズマCVD装置の全体構成を示す平面図である。図2は、図1に示す2a−2a線に沿った断面図である。図3は、図2に示す成膜チャンバー、プラズマ電源及び原料ガス供給機構を模式的に示す断面図である。
【0029】
図1及び図2に示すように、プラズマCVD装置はクリーニングチャンバー1及び成膜チャンバー2を有している。クリーニングチャンバー1は第1ゲート6を介して搬送室5に繋げられており、この搬送室5は第1搬送機構3に繋げられている。第1搬送機構3は、アパーチャープレート107を保持した成膜処理用治具8が搬送室5内に挿入され、この搬送室5内の成膜処理用治具8を、開口した第1ゲート6を通してクリーニングチャンバー1の下方に搬送するものである。また、成膜チャンバー2は第2ゲート7を介して前記搬送室5に繋げられており、この搬送室5は第2搬送機構4に繋げられている。第2搬送機構4は、搬送室5内の前記成膜処理用治具8を、開口した第2ゲート7を通して成膜チャンバー2の下方に搬送するものである。
【0030】
搬送室5及び成膜チャンバー2及びその周辺について図2及び図3を参照しつつ詳細に説明する。
図2に示すように、搬送室5は開閉自在の蓋9を有している。搬送室5内には、成膜処理用治具8を載置する載置台10と、この載置台10に載置された成膜処理用治具8を上下に移動させる上下移動機構11とが配置されている。上下移動機構11は、成膜処理用治具8を載置する載置部11aと、この載置部11aを上下に移動させる移動機構11bとを有している。また、搬送室5には真空ポンプなどの真空排気機構が接続されており、この真空排気機構によって搬送室5内を真空排気できるようになっている。尚、アパーチャープレート107が保持された成膜処理用治具8の搬送室5内への挿入は、第2ゲート7を閉じた状態で蓋9が開けられ、載置台10上に、アパーチャープレート107が保持された成膜処理用治具8を載置し、その後、蓋9を閉じることにより行われる。
【0031】
図2に示すように、成膜チャンバー2は外チャンバー12を有しており、この外チャンバー12は開閉自在の第2ゲート7を介して搬送室5に繋げられている。また、外チャンバー12には真空ポンプなどの真空排気機構が接続されており、この真空排気機構によって外チャンバー12内を真空排気できるようになっている。
【0032】
図2及び図3に示すように、外チャンバー12の内側には内チャンバー13が配置されている。内チャンバー13の上部には上部電極としてのガスシャワー電極14が配置されている。ガスシャワー電極14には、水素ガスを供給する第1ガス供給機構とOsOガスを供給する第2ガス供給機構が接続されている。
【0033】
第1ガス供給機構は水素ガス供給源29を有し、この水素ガス供給源29には配管18の一方端が接続されている。配管18の他方端にはバルブ24の一方端が接続されており、バルブ24の他方端には配管17の一方端が接続されている。配管17の他方端にはマスフローコントローラ(MFC)27の一方端が接続されており、マスフローコントローラ27の他方端には配管16の一方端が接続されている。配管16の他方端にはバルブ23の一方端が接続されており、バルブ23の他方端には配管15の一方端が接続されている。配管15の他方端にはガスシャワー電極14が接続されている。
【0034】
第2ガス供給機構はOsOガス供給源30を有し、このOsOガス供給源30には配管22の一方端が接続されている。配管22の他方端にはバルブ26の一方端が接続されており、バルブ26の他方端には配管21の一方端が接続されている。配管21の他方端にはマスフローコントローラ(MFC)28の一方端が接続されており、マスフローコントローラ28の他方端には配管20の一方端が接続されている。配管20の他方端にはバルブ25の一方端が接続されており、バルブ25の他方端には配管19の一方端が接続されている。配管19の他方端にはガスシャワー電極14が接続されている。また、OsOガス供給源30は、ヒータ31を有しており、ヒータ31によって固体のOsOを加熱して昇華させてOsOガスを生成するようになっている。また、配管19〜21、バルブ25,26及びマスフローコントローラ28それぞれはヒータ(図示せず)によって80℃程度に加熱されるようになっている。これにより、OsOガス供給源30で生成されたOsOガスが固化されることなくガスシャワー電極14に導入することができる。
【0035】
ガスシャワー電極14、内チャンバー13及び外チャンバー12は接地電位に接続されている。
内チャンバー13の下部には下部電極32が配置されており、下部電極32にはマッチングボックス33を介して高周波電源(RF電源)34が接続されている。高周波電源は、100kHz〜27MHzの範囲の周波数を用いることが可能である。
【0036】
また、図2に示すように本装置は、下部電極32を、外チャンバー12の下部と内チャンバー13の下部との間を上下に移動させる上下移動機構35を有している。この上下移動機構35によって下部電極32を外チャンバー12の下方に移動させた状態で、第2搬送機構4の搬送アーム4aによって搬送室5内の成膜処理用治具8を保持し、開口された第2ゲート7を通して成膜処理用治具8を搬送アーム4aによって外チャンバー12の下方に移動させ、成膜処理用治具8を下部電極32上に載置して取り付け又は嵌め込み又は電気的に接続する。そして、搬送アーム4aを搬送室5内に戻し、第2ゲート7を閉じる。このようにして成膜処理用治具8が取り付けられた下部電極32を上下移動機構35によって上昇させることにより、外チャンバー12の下方から内チャンバー13の下部に下部電極32を移動させ、それにより下部電極32と電気的に接続された成膜処理用治具8を内チャンバー13内に配置する。このようにしてアパーチャープレート107は、ガスシャワー電極14と下部電極32との間に配置され、且つガスシャワー電極14からシャワー状に原料ガスが噴出される方向(矢印36にて示す)とほぼ平行に位置される。この位置はアパーチャープレート107を成膜する際の成膜ポジション38である。
【0037】
成膜処理用治具8は、例えばSUSによって形成され、下部電極の一部としても機能する。このため、RF電源34からマッチングボックス33を通して高周波電力が下部電極32に印加されると、この高周波電力は成膜処理用治具8を通してアパーチャープレート107に印加されることになる。尚、成膜処理用治具8の具体的な構造及びこれにアパーチャープレート107を保持する保持方法等については後述する。
【0038】
図3に示すように、内チャンバー13内におけるアパーチャープレート107の周囲にはセラミックス又は石英ガラス又はガラスからなるプラズマウォール37が配置されている。このプラズマウォール37は、ガスシャワー電極14から導入される原料ガスの流れをアパーチャープレート107の周囲に集中させるように整流する役割と、アパーチャープレート107の周囲にプラズマを閉じ込めてプラズマ密度を高める役割を果すものである。これらの役割を果すことができれば、プラズマウォール37は形状や材質は種々変更可能であるが、本実施の形態では、図3に示すような形状を採用している。
【0039】
つまり、プラズマウォール37は、原料ガスの流れを制御する円筒状整流部材37a及びリング状整流部材37bと、円筒状整流部材37aの外側に配置され、内チャンバー壁及び外チャンバー壁との放電を抑制する円筒状整流部材37cとを有している。これら円筒状整流部材37a,37cそれぞれの上部はリング状整流部材37bによって繋げられている。そして、プラズマウォール37はフロート電位60に接続されている。リング状整流部材37b及び円筒状整流部材37aによってガスシャワー電極14からの原料ガスをアパーチャープレート107の周囲に集中させることができ、その結果、原料ガスの使用効率を向上させることができる。また、円筒状整流部材37cによってプラズマの拡散を抑制してプラズマ密度を高めることができ、アパーチャープレート107の周囲において放電を安定させることができる。
【0040】
次に、成膜処理用治具8の具体的な構造及びこれにアパーチャープレート107を保持する保持方法等について図4及び図5を参照しつつ説明する。
【0041】
図4(A)は、アパーチャープレートを保持した成膜処理用治具を示す正面図であり、図4(B)は、図4(A)に示す成膜処理用治具の平面図である。図5(A)は、成膜処理用治具を搬送する際の様子を示すものであって、搬送アームに成膜処理用治具を載せた状態を示す平面図であり、図5(B)は、図5(A)に示す成膜処理用治具及び搬送アームを示す正面図である。
【0042】
図4(A),(B)に示すように、保持部材39は円筒形状を有している。この保持部材39には4枚のアパーチャープレート107の縁が挟まれた状態で保持されている。この保持状態は、第2の貫通孔(図9で説明した極小径の貫通孔)、アパーチャープレート107の表面及び裏面を露出させた状態である。
【0043】
保持部材39は鍔部材49に取り付けられている。これにより、保持部材39によって保持された4枚のアパーチャープレート107それぞれを、鍔部材49の上面に対して垂直方向に立てた状態で保持することができる。鍔部材49は、図4(A)に示すように円柱部材49aと、その円柱部材49aの上部の周囲に設けられた凸状の鍔49bとを有している。この鍔49bは、図5(A),(B)に示すように搬送アーム4aに載せるためのものである。つまり、搬送アーム4aを円柱部材49aの周囲に位置させ、且つ位置決め部52〜55によって鍔49bを位置決めしつつ搬送アーム4aに鍔49bを載せることにより、成膜処理用治具8を搬送アーム4aによって搬送可能な状態とすることができる。尚、成膜処理用治具8を図3に示す下部電極32に接続した場合、鍔部材49は電極部材となり、下部電極の一部として機能する。
【0044】
次に、上記プラズマCVD装置を用いてアパーチャープレートにオスミウム膜を成膜する方法について説明する。
【0045】
まず、図4に示すように成膜処理用治具8の保持部材39に4枚のアパーチャープレート107を保持し、図2及び図5に示すように、移動機構11bを上昇させることにより載置台10上に載置された前記成膜処理用治具8を載置部11a上に載せる。そして、移動機構11bをさらに上昇させ、載置部11a上に載置された成膜処理用治具8の下方に搬送アーム4aを移動させる。次いで、移動機構11bを下降させて載置部11aとともに成膜処理用治具8を下降させることにより、搬送アーム4a上に成膜処理用治具8の鍔49bを載せる。このようにして搬送アーム4a上に成膜処理用治具8が載せられ、この成膜処理用治具8が搬送アーム4aによって搬送可能な状態とされる。この後、第1搬送機構3によって搬送室5からクリーニングチャンバー1へ前記成膜処理用治具8を搬送し、アパーチャープレート107にクリーニング処理を施す。次いで、第1搬送機構3によってクリーニングチャンバー1から搬送室5へ成膜処理用治具8を搬送する。
【0046】
次いで、図2に示すように、前記成膜処理用治具8を搬送アーム4aによって搬送可能な状態とし、第2搬送機構4によって搬送室5から成膜チャンバー2へ成膜処理用治具8を搬送し、成膜処理用治具8を成膜ポジション38に位置させる。
【0047】
次に、図3に示すように、第1ガス供給機構及び第2ガス供給機構によって水素ガス及びOsOガスをガスシャワー電極14に供給し、このガスシャワー電極14からアパーチャープレート107に向けて水素ガス及びOsOガスを供給する。この際、原料ガスを矢印36のように上から下(重力方向)に流す理由は、OsOガスの分子量が大きいためである。逆に言えば、分子量が小さい原料ガスの場合、アパーチャープレートの表面及び裏面に均一性良く供給できるのであれば上から下に流す必要はなく、原料ガスを流す方向は適宜変更することが可能である。
【0048】
次いで、RF電源34によって高周波電力を下部電極32に供給してアパーチャープレート107に高周波電力を印加することにより、アパーチャープレート107の表面及び裏面、第2の貫通孔(図9で説明した極小径の貫通孔)の内側面にプラズマCVD法により厚さ10nm以上のオスミウム膜が1回の成膜処理で均一性良く成膜される。この際の化学反応は下記のとおりであり、下記式(1),(2)のようにプラズマ中でガスが電離し、アパーチャープレート上で下記式(3)の成膜反応が起こる。
+2e → 2H+4e ・・・(1)
OsO+e → OsO+2e ・・・(2)
OsO+8H+9e → Os↓+4HO↑ ・・・(3)
【0049】
アパーチャープレート107にオスミウム膜を成膜する理由は、他の金属膜に比べてオスミウム膜の方が電子ビームに対する耐性が高いので長寿命化を実現できると共に、電子ビームの集光性も高めることができるからである。
【0050】
上記実施の形態によれば、成膜処理用治具8を上述したような構造としているため、図2に示すように搬送アーム4aによって成膜処理用治具8を搬送することができると共に、搬送した成膜処理用治具8を下部電極32に取り付け又は嵌め込むことができる。そして、下部電極32に取り付けられた成膜処理用治具8は下部電極としても機能するため、図3に示すように、下部電極32に高周波電力を供給することにより、成膜処理用治具8を通してアパーチャープレート107に高周波電力を印加することができる。さらに、成膜処理用治具8の保持部材39によってアパーチャープレート107をその表面及び裏面を露出させた状態で保持することができる。このため、プラズマCVD装置によって1回の成膜処理を行うことにより、アパーチャープレート107のような極小径の貫通孔(図9で第2の貫通孔として説明したもの)を有するプレートにおける該貫通孔の内側面と、前記プレートの表面及び裏面における貫通孔の近傍に位置する部分にオスミウム膜を成膜することができる。従って、プレートへの成膜処理の処理時間を低減でき、その結果、成膜処理のコストを低減することができる。
【0051】
また、本実施の形態では、フロート電位60に接続されたプラズマウォール37をアパーチャープレート107の周囲に配置しているため、ガスシャワー電極14からの原料ガスをアパーチャープレート107の周囲に集中させることができると共にプラズマの拡散を抑制し且つプラズマをアパーチャープレート107に集中させてプラズマ密度を高めることができる。これにより、OsOガスのように分子量が大きくて重い成膜用原料ガスを用いても、極小径の貫通孔の内側面に均一性良くオスミウム膜を成膜することができる。
【0052】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。例えば、図6に示すように、成膜処理用治具の保持部材39に6枚のアパーチャープレート107を保持するようにしても良い。
【0053】
また、上記実施の形態では、下部電極32に高周波電源34を接続し、上部電極14に接地電位を接続しているが、上部電極14に高周波電源を接続し、下部電極32に接地電位を接続しても良いし、上部電極14に第1の高周波電源を接続し、下部電極32に第2の高周波電源を接続しても良い。また、高周波電源を他のプラズマ電源に変更することも可能であり、他のプラズマ電源の例としては、マイクロ波用電源、DC放電用電源、及びそれぞれパルス変調された高周波電源、マイクロ波用電源、DC放電用電源などが挙げられる。
【0054】
また、上記実施の形態では、上部電極14と下部電極32のように上下に電極を配置しているが、これに限定されるものではなく、左右に電極を配置することも可能である。
【0055】
次に、上記実施の形態によるプラズマCVD装置を用いて極小径の貫通孔を有するアパーチャープレートにオスミウム膜を成膜した実験条件及びその実験の結果について説明する。
【0056】
(実験条件)
高周波出力密度 : 0.25〜2.0W/cm
高周波周波数 : 13.56MHz
OsOガス流量 : 0.1〜3cc/分
ガス流量 : 5〜15cc/分
Arガス流量 : 5〜15cc/分
圧力 : 13〜40Pa
成膜時間 :10〜50秒
加熱温度 : 200〜300℃
Os膜厚 : 10〜50nm
【0057】
(実験結果)
図7は、実験によりオスミウム膜110が成膜されたアパーチャープレート107を模式的に示し、そのアパーチャープレートの極小径(具体的には2〜100μm)の貫通孔(第2の貫通孔)107b付近を切断した断面図である。図7に示すように、1回の成膜処理で成膜されたオスミウム膜110であるため、従来技術のような2回の成膜処理で成膜された薄膜のように界面が形成されることがないと共に、極小径の貫通孔107bの内側面に均一性良くオスミウム膜110を成膜できることが確認された。その結果、オスミウム膜110が剥離することを抑制できると共に、電子ビームよる集光性が極めて良く且つ電子ビームに対する耐性が高いために長寿命化したオスミウム膜110を極小径の貫通孔107bに成膜することができた。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る実施の形態によるプラズマCVD装置の全体構成を示す平面図である。
【図2】図1に示す2a−2a線に沿った断面図である。
【図3】図2に示す成膜チャンバー、プラズマ電源及び原料ガス供給機構を模式的に示す断面図である。
【図4】(A)は、アパーチャープレートを保持した成膜処理用治具を示す側面図であり、(B)は、(A)に示す成膜処理用治具の上面図である。
【図5】(A)は、成膜処理用治具を搬送する際の様子を示すものであって、搬送アームに成膜処理用治具を載せた状態を示す平面図であり、(B)は、(A)に示す成膜処理用治具及び搬送アームを示す側面図である。
【図6】アパーチャープレートを保持した成膜処理用治具の変形例を示す平面図である。
【図7】実験によりオスミウム膜が成膜されたアパーチャープレートの極小径の貫通孔付近を切断した断面図である。
【図8】従来のプラズマCVD装置を概略的に示す断面図である。
【図9】アパーチャープレートを示す平面図である。
【符号の説明】
【0059】
1…クリーニングチャンバー、2…成膜チャンバー、3…第1搬送機構、4…第2搬送機構、5…搬送室、6…第1ゲート、7…第2ゲート、8…成膜処理用治具、9…蓋、10…載置台、11…上下移動機構、11a…載置部、11b…移動機構、12…外チャンバー、13…内チャンバー、14…ガスシャワー電極、15〜22…配管、23〜26…バルブ、27.28…マスフローコントローラ(MFC)、29…水素ガス供給源、30…OsOガス供給源、31…ヒータ、32…下部電極、33…マッチングボックス、34…高周波電源(RF電源)、35…上下移動機構、36…矢印、37…プラズマウォール、37a…円筒状整流部材、37b…リング状整流部材、37c…円筒状整流部材、38…成膜ポジション、39…保持部材、49…鍔部材、49a…円柱部材、49b…鍔、52〜55…位置決め部、60…フロート電位、101…チャンバー、102…ガスシャワー電極、103…下部電極、104…原料ガス供給源、106…基板、107…アパーチャープレート、107a…第1の貫通孔、107b…極小径の貫通孔(第2の貫通孔)、108…マッチングボックス、109…高周波電源(RF電源)、110…オスミウム膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
径が100μm以下の貫通孔を有するプレートと、前記貫通孔の内側面及び前記プレートにおける前記貫通孔の近傍に位置する表面と裏面にプラズマCVD装置によって1回の成膜処理で成膜されたオスミウム膜と、を有する金属プレートであって、
前記プラズマCVD装置は、
チャンバーと、
前記チャンバー内に配置された上部電極と、
前記チャンバー内に配置され、前記上部電極と対向するように下方に配置された下部電極と、
前記上部電極及び前記下部電極の少なくとも一方に電気的に接続され、プラズマ電力が印加される電源と、
前記下部電極に電気的に接続され、前記プレートを挟むことにより前記上部電極と前記下部電極との間に前記プレートを位置させ且つ前記貫通孔、前記プレートの表面及び裏面を露出させた状態で前記プレートを保持する保持部材と、
前記チャンバー内に配置され、前記プレートの周囲に位置され、フロート電位に接続されたプラズマウォールと、
前記チャンバー内に原料ガスを導入する原料ガス導入機構であって、前記上部電極側から前記下部電極側へ向けて前記原料ガスを流し且つ前記プレートの表面及び裏面に沿う方向に前記原料ガスを流す原料ガス導入機構と、
を具備することを特徴とする金属プレート。
【請求項2】
請求項1において、前記オスミウム膜の厚さが10nm以上であることを特徴とする金属プレート。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記プラズマ電力は高周波電力であることを特徴とする金属プレート。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項において、前記金属プレートはアパーチャープレートであることを特徴とする金属プレート。
【請求項5】
チャンバー内に金属物を配置し、
前記チャンバー内に0.1〜3cc/分の流量のOsOガス及び放電維持用の不活性ガスを導入しながら前記チャンバー内の圧力を13〜40Paに維持し、
密度0.25〜2.0W/cmの高周波出力を用いて前記チャンバー内のガスをプラズマ化することにより、前記金属物の表面上にオスミウム膜を成膜することを特徴とするオスミウム膜の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−83006(P2013−83006A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−274567(P2012−274567)
【出願日】平成24年12月17日(2012.12.17)
【分割の表示】特願2007−329867(P2007−329867)の分割
【原出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(595152438)株式会社ユーテック (59)
【出願人】(599017634)株式会社 大和テクノシステムズ (3)
【Fターム(参考)】