説明

金属前駆体を含むカーボンナノチューブ組成物、カーボンナノチューブ薄膜およびその製造方法

【課題】金属ナノ粒子を含むカーボンナノチューブ組成物、カーボンナノチューブ薄膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブと、熱処理により金属ナノ粒子に変換できる金属前駆体と、を含むカーボンナノチューブ組成物、基板と、前記基板上に塗布される組成物と、を含むカーボンナノチューブ薄膜であって、前記組成物は、カーボンナノチューブおよび前記カーボンナノチューブ表面に均一に分布する金属粒子を含む、カーボンナノチューブ薄膜およびその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属前駆体を含むカーボンナノチューブ(Carbon Nano−Tube、以下、単に「CNT」とも称する)組成物、カーボンナノチューブ薄膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ素子では、視覚的には透明でかつ導電性を有する透明電極が用いられる。現在、透明電極として最も多用されているものは、インジウムスズ酸化物(Indium Tin Oxide、以下、単に「ITO」とも称する)である。しかし、ITOは、インジウムの消費量の増大に従い高価になってきている。さらに、ITO電極は、折り曲げるときにクラックを生じる傾向があり、それによって抵抗が増大しうる。
【0003】
したがって、フレキシブルな電子素子に適用可能な透明電極物質の開発が必要である。近年、最も脚光を浴びている材料の一つがCNTである。このCNTは、曲げやすい上に導電性および強度に優れている。したがって、CNTは、フレキシブル透明電極の形成に用いることができる。CNTから形成されるフレキシブル透明電極は、既存のLCD、OLED、およびペーパーライク・ディスプレイ(paper like display)のようなディスプレイ素子だけでなく、太陽電池や2次電池などのエネルギー貯蔵素子にも電極物質として幅広く応用可能である。
【0004】
CNT透明電極において肝要な特性は、導電性、透明性、および柔軟性であるといえる。一般に、CNT透明電極は、CNT粉体を分散溶液に分散させてCNTインクを製造した後、それをプラスチック基板に塗布することで製造される。CNT透明電極の導電性を向上させるためには、キャリアがCNT自体の内部で移動できるだけでなく、CNT間を自由に移動できるようにすることが望ましい。
【0005】
最近の研究結果によれば、透明電極において、CNTの量が互いに接触するに足りるほどに多い場合、つまり、CNTの量がパーコレーション閾値(percolation threshold)より多い状態では、電極を形成するカーボンナノチューブネットワーク膜の抵抗は、CNT自体の抵抗ではなくCNT間の接触抵抗により主に影響を受けることになる。
【0006】
したがって、CNTのネットワーク構造の形成、およびCNTのネットワーク内においてのCNT同士の接触抵抗の低減は、CNT透明電極の導電性を向上させる上で非常に重要である。しかしながら、最初に合成されたCNTは、多数のCNTバンドルがファン・デル・ワールス力によって集まっている粉末形態をなしているため、CNTネットワークを形成するためには、CNTバンドルを個々に分散させなければならない。
【0007】
CNTバンドルを分散させ、そのネットワーク構造の形成を容易にするため、各種の分散剤が開発され、用いられてきた(例えば、特許文献1〜3参照)。これら分散剤は、分散剤自体の抵抗によりCNT同士の接触抵抗を却って増大させ、透明電極の抵抗が増大する要因となっている。
【特許文献1】大韓民国特許出願公開第2004−0103706号公報
【特許文献2】大韓民国特許出願公開第2006−0098784号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2006/0024503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、電極のCNT薄膜に金属ナノ粒子を形成させることにより、フレキシブル透明CNT電極の導電性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、カーボンナノチューブと、熱処理により金属ナノ粒子に変換できる金属前駆体を含むカーボンナノチューブ組成物を提供する。前記カーボンナノチューブ組成物は、カーボンナノチューブ分散剤をさらに含むことが好ましい。前記金属前駆体は、前記カーボンナノチューブ表面に結合されていることが好ましい。前記金属前駆体は、銀、金、銅、白金、およびパラジウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属成分を含むことが好ましい。前記熱処理は、20℃以上200℃未満の温度で施すことが好ましい。
【0010】
また、本発明は、基板と、前記基板上に塗布される組成物と、を含むカーボンナノチューブ薄膜であって、前記組成物は、カーボンナノチューブおよび前記カーボンナノチューブ表面に均一に分布する金属粒子を含む、カーボンナノチューブ薄膜を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、カーボンナノチューブをカーボンナノチューブ分散剤と混合してカーボンナノチューブ分散液を用意する段階と、前記カーボンナノチューブ分散液を用いてカーボンナノチューブ薄膜を形成する段階と、前記カーボンナノチューブ薄膜に前記金属前駆体を添加する段階と、前記カーボンナノチューブ薄膜および前記金属前駆体を熱処理することにより、前記金属前駆体を金属粒子に変換させる段階と、を含む、金属粒子を含むカーボンナノチューブ薄膜の製造方法を提供する。
【0012】
前記カーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブを分散剤または分散溶媒と混合することにより製造することができる。カーボンナノチューブ薄膜は、前記カーボンナノチューブ分散液を、例えばアルミナ膜などの多孔性膜によりろ過させることで形成でき、このCNT薄膜が基板上に転写されうる。前記基板は、フレキシブル透明基板を含むことが好ましい。前記金属前駆体は、前記多孔性膜上に形成されるカーボンナノチューブ薄膜を通して金属前駆体の溶液をろ過または通過させることにより、前記カーボンナノチューブ薄膜内に含有されうる。または、前記金属前駆体は、前記カーボンナノチューブ薄膜を金属前駆体の溶液に浸すことにより前記カーボンナノチューブ薄膜内に含有されうる。このような方法で、前記金属前駆体は前記カーボンナノチューブの表面に吸着されうる。
【0013】
さらに、本発明は、カーボンナノチューブ、溶媒、および金属前駆体を混合してカーボンナノチューブ−金属前駆体混合物を用意する段階と、前記カーボンナノチューブ−金属前駆体混合物を用いて薄膜を形成する段階と、前記薄膜に対して熱処理を施すことにより、前記薄膜の表面に金属ナノ粒子を分布させる段階と、を含む、金属粒子を含むカーボンナノチューブ薄膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属ナノ粒子をCNT薄膜の表面上に形成することにより、カーボンナノチューブ電極の導電性を高めることができる。前記金属ナノ粒子を有するCNT薄膜は、フレキシブル透明電極、薄膜トランジスタなどのような、様々な電子素子の製造に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の第1は、カーボンナノチューブと、熱処理により金属ナノ粒子に変換可能な金属前駆体と、を含むカーボンナノチューブ組成物である。
【0017】
前記カーボンナノチューブの種類は特に制限されず、シングルウォールナノチューブ、ダブルウォールカーボンナノチューブ、マルチウォールカーボンナノチューブなどが使用されうる。これらの中でも、導電性の観点から、シングルウォールカーボンナノチューブが好ましい。
【0018】
前記金属前駆体は、熱処理によって金属ナノ粒子に変換しうる物質であり、前記カーボンナノチューブの表面に吸着されていることが好ましい。このような金属前駆体は、銀、金、銅、白金、およびパラジウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属成分を含むことが好ましい。前記金属前駆体の具体的な例としては、例えば、銀−ブチルアミン錯体、硝酸銀(AgNO)、硫酸銀(AgSO)、AgN(SOCF、AgSOCF、塩化金(AuCl)、塩化金酸(HAuCl)、(CPAuCl、塩化白金(PtCl)、四塩化白金酸(HPtCl)、六塩化白金酸(HPtCl)、塩化第二銅(CuCl)、硝酸銅(Cu(NO)、または硫酸銅(CuSO)などが挙げられる。
【0019】
本発明のカーボンナノチューブ組成物中の金属前駆体の含有量は、カーボンナノチューブ1gあたり0.5mmol〜5molであることが好ましく、1mmol〜1molであることがより好ましい。
【0020】
本発明のカーボンナノチューブ組成物は、カーボンナノチューブ分散剤をさらに含むことができる。カーボンナノチューブ粉末は、1nm程度の直径を有する管状の物質が、強いファンデルワールス力により凝集している形態を示す。多くの金属前駆体をカーボンナノチューブの表面上に均一に分布させるためには、カーボンナノチューブが分散され互いに離れていることが好ましい。このような理由から、前記カーボンナノチューブ組成物は、カーボンナノチューブを分散させるカーボンナノチューブ分散剤を含むことが好ましい。前記カーボンナノチューブ分散剤の具体的な例としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(NaDDBS)、Triton(登録商標) X−100(TX−100)、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)などの界面活性剤が挙げられる。
【0021】
前記カーボンナノチューブ分散剤の添加量は、カーボンナノチューブ1gあたり、0.05〜50gであることが好ましく、0.5g〜10gであることがより好ましい。
【0022】
前記金属前駆体は、熱処理することにより金属ナノ粒子に変換される。この熱処理の温度は、カーボンナノチューブを支持するプラスチック基板が変性または変形しない範囲であり、かつカーボンナノチューブの特性が損なわれない範囲である、20℃以上200℃未満であることが好ましい。
【0023】
本発明のカーボンナノチューブ組成物は、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、1,2−ジクロロベンゼン、ニトロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)などの溶媒中で、カーボンナノチューブと金属前駆体とを混合することによって得ることができる。
【0024】
本発明の第2は、基板と、前記基板上に塗布される組成物と、を含むカーボンナノチューブ薄膜であり、前記組成物は、カーボンナノチューブおよび前記カーボンナノチューブ表面に均一に分布する金属粒子を含むカーボンナノチューブ薄膜である。
【0025】
前記基板は、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリエーテルスルホン(PES)フィルム、ポリカーボネート(PC)フィルム、ポリイミド(PI)フィルムなどのフレキシブル透明基板であることが好ましい。また、前記金属粒子は金属ナノ粒子を含むことが好ましい。
【0026】
前記金属粒子は、前記カーボンナノチューブの表面に吸着される金属前駆体を熱処理することによって形成されうる。この際、熱処理の温度は、カーボンナノチューブを支持するプラスチック基板が変性または変形しない範囲であり、かつカーボンナノチューブの特性が損なわれない範囲である、20℃以上200℃未満であることが好ましい。
【0027】
また、前記金属ナノ粒子は、銀、金、銅、白金、およびパラジウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属成分を含むことが好ましい。
【0028】
本発明の第3は、カーボンナノチューブをカーボンナノチューブ分散剤と混合してカーボンナノチューブ分散溶液を用意する段階と、前記カーボンナノチューブ分散溶液を用いてカーボンナノチューブ薄膜を形成する段階と、前記カーボンナノチューブ薄膜に前記金属前駆体を添加する段階と、前記カーボンナノチューブ薄膜および前記金属前駆体を熱処理することにより、前記金属前駆体を金属粒子に変換させる段階と、を含む、金属粒子を含むカーボンナノチューブ薄膜の製造方法である。
【0029】
前記金属前駆体を添加する段階において、前記金属前駆体の溶液を、カーボンナノチューブ薄膜を通過させるようにろ過することにより、前記金属前駆体を前記カーボンナノチューブ薄膜に吸着させることが好ましい。また、前記金属前駆体を添加する段階において、前記カーボンナノチューブ薄膜を前記金属前駆体の溶液に浸漬することにより、前記金属前駆体を前記カーボンナノチューブ薄膜上に吸着させることも好ましい。
【0030】
前記金属前駆体の溶液に用いられる溶媒は特に制限されず、例えば、トルエンなどが挙げられる。前記金属前駆体の具体的な例としては、上記と同様であるので、ここでは説明を省略する。前記金属前駆体の溶液の濃度は、0.05mM〜2.5Mであることが好ましく、0.05mM〜0.5Mであることがより好ましい。
【0031】
本発明のカーボンナノチューブ薄膜の製造方法において、前記カーボンナノチューブ薄膜を基板上に転写する段階をさらに含むことができる。カーボンナノチューブ薄膜を基板上に転写する段階は、例えば、CNT薄膜を製造した後前記CNT薄膜を基板で覆い、加圧された後基板ごと剥離することにより行われうる。
【0032】
前記基板の好ましい具体例は、上記と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0033】
本発明のカーボンナノチューブ薄膜の製造方法において、前記熱処理の温度は、カーボンナノチューブを支持するプラスチック基板が変性または変形しない範囲であり、かつカーボンナノチューブの特性が損なわれない範囲である、20℃以上200℃未満であることが好ましい。
【0034】
前記金属前駆体を金属粒子に変換させる段階において、前記金属粒子は金属ナノ粒子を含むことが好ましい。この際、前記金属ナノ粒子は均一な大きさを有することが好ましい。前記金属ナノ粒子の大きさは、100nm以下であることが好ましい。前記金属ナノ粒子の大きさが100nmを超える場合、カーボンナノチューブにおいて光が散乱し、カーボンナノチューブの光の透過率が低下する虞がある。なお、本発明において、前記金属ナノ粒子の大きさは、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)で測定した値を採用するものとする。
【0035】
本発明の第4は、カーボンナノチューブ、溶媒、および金属前駆体を混合してカーボンナノチューブ−金属前駆体混合物を用意する段階と、前記カーボンナノチューブ−金属前駆体混合物を用いて薄膜を形成する段階と、前記薄膜に対して熱処理を施すことにより、前記薄膜の表面に金属ナノ粒子を分布させる段階と、を含む、金属粒子を含むカーボンナノチューブ薄膜の製造方法である。
【0036】
前記カーボンナノチューブ−金属前駆体混合物中の金属前駆体の含有量は、カーボンナノチューブ1gに対して0.5mmol〜5molであることが好ましく、1mmol〜1molであることがより好ましい。
【0037】
図1は、本発明の一実施形態による、熱処理工程により金属前駆体が金属ナノ粒子に形成される過程を概略的に示す図である。
【0038】
図1は、金属前駆体10がCNT表面に吸着された後、熱処理工程により金属ナノ粒子11が形成される工程を示す概略図である。まず、図1の左図に示すように、金属前駆体10はカーボンナノチューブ1の表面に吸着する。この際、一部の金属前駆体は電荷移動により金属状態を維持し、他の一部の金属前駆体は前駆体状態を保っている。金属前駆体10が吸着したカーボンナノチューブ1に対して熱処理を施すと、金属前駆体10が熱により凝集し(図1の中央の図)、金属ナノ粒子11となる(図1の右図)。金属前駆体10の大きさが小さいほど、多く凝集する。
【0039】
上記のような熱処理工程における熱処理温度は、カーボンナノチューブを支持するプラスチック基板が変性または変形しない範囲であり、かつカーボンナノチューブの特性が損なわれない範囲である、20℃以上200℃未満であることが好ましい。また、金属前駆体10および金属ナノ粒子11は銀、金、銅、白金、およびパラジウムからなる群より選択される少なくとも一つの金属成分を含むことが好ましい。前記金属前駆体の具体例は、上記と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0040】
図2は、本発明の一実施形態による、金属ナノ粒子形成のための金属前駆体10が、電荷移動によってカーボンナノチューブ1の表面に吸着されることを示す概略図である。図2に示すように、電荷移動によって金属前駆体10がカーボンナノチューブ1の表面に吸着された後、熱処理を施すことにより、金属前駆体10は金属ナノ粒子に変換し、カーボンナノチューブ1の表面に金属ナノ粒子が均一な分布で生成される。これにより、カーボンナノチューブ同士の接触抵抗が減少されうる。また、電荷移動、つまりp型ドーピングによって、カーボンナノチューブ薄膜の全体抵抗が減少されうる。
【実施例】
【0041】
以下、具体的な実施例により、本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が下記実施例に制限されるものではない。
【0042】
(実施例1)
図3は、本実施例による、金属ナノ粒子を含むCNT薄膜を製造する過程を概略的に示す図である。
【0043】
本実施形態においては、金属ナノ粒子形成のための金属前駆体として、銀前駆体溶液が採用される。図3に示したように、真空ろ過システムを利用してCNT分散溶液30をろ過してCNT薄膜31を形成する。その後、銀前駆体溶液(図示せず)を、CNT薄膜31を通過させると、銀前駆体がCNT34に吸着される。なお、真空ろ過システムとは、CNT分散溶液および銀前駆体溶液を、多孔性膜32を通しろ過する装置である。銀前駆体は、熱処理により、CNT薄膜31全体にわたって均一に分布する銀ナノ粒子33に変換される。
【0044】
以下、図3に示す工程の各段階について、さらに詳しく説明する。
【0045】
まず、CNT分散溶液30を製造するに際し、シングルウォールカーボンナノチューブ(サウスウエスト・ナノテクノロジー社製)1mgを20mLガラス瓶に入れ、N−メチルピロリドン(NMP)10mLを加え、CNTのNMP溶液を調製する。それを超音波バスに入れ、10時間超音波処理を施す。CNTのNMP溶液を50mLのコニカルチューブに入れ、10000rpmで10分間遠心分離する。遠心分離の後、沈殿物を含まないCNTのNMP溶液の上層を取り、以降の工程においてCNT分散溶液30として用いる。
【0046】
次いで、アルミナ膜(Anodisc(登録商標)、厚さ200nm)を含む真空ろ過システムを用いてCNT分散溶液2mLをろ過することにより、CNT薄膜41を製造する。CNT分散溶液をろ過することにより、CNT34はアルミナ膜32上に残りCNT薄膜31を形成し、CNT分散溶液の溶媒はアルミナ膜32を通過する。次いで、金属前駆体、例えば、銀前駆体溶液を調製する。例えば、硝酸銀を0.85gとブチルアミン0.74mLとをトルエン10mLに混合した後、超音波処理器(sonicator)を利用して十分に溶解させ銀前駆体溶液を調製する。溶液のうち、上層の溶液だけを取り出す。これにより、本実施例に用いられる銀前駆体である銀−ブチルアミン錯体が得られる。前記銀−ブチルアミン錯体が、前記溶液の上層に含まれるので、前記溶液の上層のみを取り出すのである。
【0047】
前記銀前駆体の溶液は真空ろ過システムを用いてろ過され、CNT薄膜31を通過し、これにより、前記銀前駆体がCNT薄膜31の表面上に吸着される。アルミナ膜32上に形成されたCNT薄膜31は、多くの隙間を有する。したがって、アルミナ膜32上に形成されたCNT薄膜31を通じ、前記銀前駆体溶液をろ過する場合、前記銀前駆体溶液はCNT薄膜31の隙間を通ることになり、これにより、前記銀前駆体は、CNTと銀前駆体との間の電子親和力によりCNTの表面に吸着することになる。このとき、前記銀前駆体は、電荷移動によって、CNT薄膜31を形成するCNT34の表面上に吸着される。
【0048】

銀前駆体がCNT表面に吸着された後、CNT薄膜31に対して熱処理を施す。例えば、ホットプレート上に製造したCNT薄膜31を置き、温度を調節しながら熱処理を施し、この熱処理により吸着された銀前駆体がCNT薄膜の表面上でほぼ均一な銀ナノ粒子33に変換される。この際、熱処理の温度は、カーボンナノチューブを支持するプラスチック基板が変性または変形しない範囲であり、かつカーボンナノチューブの特性が損なわれない範囲である、20℃以上200℃未満であることが好ましい。
【0049】
製造された前記CNT薄膜31は、透明基板上に転写され、透明電極の製造に用いられうる。シート抵抗測定器を利用し、透明電極(銀ナノ粒子33を有するCNT薄膜31)のシート抵抗を測定した結果を下記表1に示す。
【0050】
下記表1は、透明電極、すなわち、上記にて製造された銀ナノ粒子33を有するCNT薄膜31から測定された抵抗値を表す。ここで、熱処理条件は120℃、1時間とした。熱処理を施す前と施した後、すなわち銀ナノ粒子33が形成される前と形成された後でCNT薄膜の抵抗を2回測定し、その平均値を算出した。
【0051】
【表1】

【0052】
上記表1から明らかなように、熱処理を施す前のシート抵抗の平均値が54.55Ω/sqで、熱処理により銀ナノ粒子33が形成された後のシート抵抗の平均値が15.32Ω/sqに減少した。すなわち、熱処理工程により銀ナノ粒子33を形成させることにより、CNT薄膜の抵抗が著しく減少したことがわかる。
【0053】
上記の実施例からわかるように、銀ナノ粒子がCNT薄膜の表面上に形成された場合、シート抵抗の平均値が約72%減少した。つまり、熱処理を施すことにより、CNT表面全体にわたって均一に分布する金属ナノ粒子が形成され、透明電極の抵抗が低減されうる。
【0054】
(実施例2)
図4は、本実施例による、銀ナノ粒子を含むCNT薄膜を製造する別の方法を示す概略図である。本実施例では、プラスチック基板であるPETフィルム43上にCNT薄膜41が転写されている。転写されたCNT薄膜41を銀前駆体溶液に浸漬してから、熱処理を施すことにより銀ナノ粒子が形成される。
【0055】
以下、図4に示す工程をより詳しく説明する。
【0056】
先ず、前述した実施例1と同様の方法でCNT分散液40を調製する。すなわち、シングルウォールカーボンナノチューブ(サウスウエスト・ナノテクノロジー社製)1mgを20mLガラス瓶に入れ、NMP10mLを加え、CNTのNMP溶液を調製する。それを超音波バスに入れ、10時間超音波処理を施す。CNTのNMP溶液を50mLのコニカルチューブに入れ、10000rpmで10分間遠心分離する。遠心分離の後、沈殿物を含まないCNT分散液だけを取り出して、後の製造工程で用いるCNT分散溶液とした。
【0057】
次いで、図4に示しているように、アルミナ膜(Anodisc(登録商標)、厚さ200nm)を含む真空ろ過システムを利用して、CNT分散溶液2mLをろ過することにより、CNT薄膜41を製造する。次いで、アルミナ膜42上に形成されたCNT薄膜41は、CNT薄膜41と同じサイズのPETフィルム43でカバーされ、80℃にて5分間加圧された後剥離することにより、CNT薄膜41がPETフィルム43に転写される。
【0058】
別の工程として、銀前駆体溶液を調製する。上記と同様に、硝酸銀0.85gとブチルアミン0.74mLとをトルエン10mLに混合した後、超音波処理器(sonicator)を利用して十分に溶解させ、銀前駆体として銀−ブチルアミン錯体を含む溶液を調製し、溶液のうち上層の溶液だけを取り出す。
【0059】
図4に示されているように、PETフィルム43上に備えられたCNT薄膜41は、銀前駆体溶液中に約1分間浸漬され、これにより、銀前駆体は個々のCNT表面を含むCNT薄膜41のほぼ全体にかけて吸着される。次いで、銀前駆体を吸着したCNT薄膜41は、トルエンで数回、例えば3回洗浄される。ここで、銀前駆体は、電荷移動によりCNT表面に吸着される。
【0060】
吸着された銀前駆体を含むCNT薄膜41が加圧される。例えば、CNT薄膜41は、ホットプレート上に置かれ調整された温度で加熱される。このような熱処理により、銀前駆体がCNT薄膜の表面上に実質的に均一なサイズの銀ナノ粒子に変換される。前記熱処理の温度は、カーボンナノチューブを支持するプラスチック基板が変性または変形しない範囲であり、かつカーボンナノチューブの特性が損なわれない範囲である、20℃以上200℃未満であることが好ましい。
【0061】
製造されたCNT薄膜41は、透明電極の製造に用いられる。シート抵抗測定器を用いて透明電極のシート抵抗を測定した結果を下記表2に示す。
【0062】
下記表2は、製造された銀ナノ粒子を有するCNT薄膜から測定されたシート抵抗を表す。ここで、熱処理条件は120℃で、熱処理時間は20分および追加で40分熱処理を行う条件とした。銀前駆体溶液に浸漬させた後、すなわちp型ドーピングを行った後、各CNT薄膜の抵抗を、熱処理を施す前および熱処理を施した後に5回測定し、その平均値を算出した。
【0063】
【表2】

【0064】
上記表2からわかるように、初期のシート抵抗の平均値が2308.8Ω/sqであり、CNT薄膜41を溶液中に浸漬しトルエンで洗浄した後、即ち、p型ドーピングした後のシート抵抗の平均値が1729.2Ω/sqであることが分かる。すなわち、熱処理を施す前にもp型ドーピング後に、すでに約25%の抵抗減少があったことがわかる。
【0065】
また、表2から、熱処理を施す前のシート抵抗の平均値が1729.2Ω/sqであり、120℃で20分間熱処理を施した後のシート抵抗の平均値が1055.8Ω/sqであり、同一の温度でさらに追加で40分間熱処理を施した後のシート抵抗の平均値が801Ω/sqであることがわかる。
【0066】
CNT薄膜のシート抵抗性は、熱処理により、つまり熱処理を通じCNT薄膜に銀ナノ粒子が形成されることによりさらに減少した。また、より長い時間熱処理を施すほど抵抗性はさらに減少することが分かる。
【0067】
したがって、上記表2の結果から、p型ドーピングおよび熱処理によって、シート抵抗を約65%減少させることができることが分かる。すなわち、p型ドーピングおよびCNT薄膜内での金属ナノ粒子の形成により、CNT薄膜のシート抵抗が減少しうる。CNT薄膜からなる透明電極の抵抗も、上記のように減少させることができる。
【0068】
図5は、金属ナノ粒子を含むCNT薄膜に対して、ラジアルブリージングモード(Radial Breathing Mode、以下、「RBM」とも称する)での633nm励起状態でのラマンスペクトルを表す図である。
【0069】
図5において矢印で表したとおり、100〜200cm−1でのピーク強度は急激に減少する。これは、金属ナノ粒子がCNT表面に強く吸着され、これにより金属ナノ粒子がCNT表面に形成されたことを意味する。
【0070】
図6は、金属ナノ粒子を含むCNT薄膜に対して、Breit−Wigner−Fano(BWF)バンドを含む633nmの励起状態でのGバンドラマンスペクトルを表す図である。図6において、BWFのライン幅は矢印で表示したとおり減少する。ラマンスペクトルでのBWFライン幅の減少は、CNTが電子を失ったこと、すなわち、電荷移動により銀前駆体を用いてp型ドーピングされることにより酸化されたことを意味する。
【0071】
図7は、熱処理前(左側)および熱処理後(右側)のCNT薄膜を示す写真である。図7の右側の写真において白点にて示された部分は、熱処理によりCNT表面に形成された銀ナノ粒子を示す。
【0072】
以上説明したように、CNT薄膜中に銀前駆体を分散させた後、好ましくは20℃以上200℃未満の温度で熱処理を施して、銀ナノ粒子をCNT薄膜中にほぼ均一に形成させる。熱処理を施す前に、CNT薄膜が金属前駆体に強くドーピングされる。p型ドーピングにより約25%の抵抗値の減少を示し、熱処理により銀ナノ粒子が形成された後は約65%の抵抗値の減少を示した。
【0073】
このように、CNT表面上に均一に形成された金属ナノ粒子を含むCNT薄膜は、抵抗が低減されたカーボンナノチューブを含むフレキシブル透明電極を製造するために用いられることが好ましい。金属ナノ粒子を含むCNT薄膜は、センサー、メモリ、電池等を含む様々な分野において適用することができる。また、金属ナノ粒子を含むCNT薄膜を含む電極は、薄膜トランジスタに適用されうる。
【0074】
以上、本発明は、上述した実施例および添付した図面に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の置き換え、変形および変更が可能であることは、当業者には明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態において、熱処理工程により金属前駆体が金属ナノ粒子に変換される過程を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態において、金属前駆体が電荷移動によってCNTの表面に吸着されることを示す概略図である。
【図3】本発明の一実施形態において、CNT薄膜を製造する方法を示す概略図である。
【図4】本発明の他の実施形態において、CNT薄膜を製造する方法を示す概略図である。
【図5】本発明の一実施形態において、金属ナノ粒子を含むCNT薄膜に対して、RBMのラマンスペクトルを示す図である。
【図6】本発明の一実施形態において、金属ナノ粒子を含むCNT薄膜に対して、BWFバンドを含むGバンドラマンスペクトルを示す図である。
【図7】本発明の一実施形態において、熱処理前(左側)および熱処理後(右側)のCNT薄膜を示す写真である。
【符号の説明】
【0076】
1、34 カーボンナノチューブ、
10 金属前駆体、
11 金属ナノ粒子、
20、33 銀ナノ粒子、
30、40 カーボンナノチューブ分散溶液、
31、41 カーボンナノチューブ薄膜、
32、42 アルミナ膜、
33 銀ナノ粒子、
43 PETフィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと、
熱処理により金属ナノ粒子に変換可能な金属前駆体と、
を含むカーボンナノチューブ組成物。
【請求項2】
カーボンナノチューブ分散剤をさらに含む、請求項1に記載のカーボンナノチューブ組成物。
【請求項3】
前記金属前駆体が前記カーボンナノチューブの表面に吸着されている、請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ組成物。
【請求項4】
前記金属前駆体は、銀、金、銅、白金、およびパラジウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属成分を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ組成物。
【請求項5】
前記熱処理は20℃以上200℃未満で行われる、請求項1〜4のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ組成物。
【請求項6】
基板と、
前記基板上に塗布される組成物と、
を含むカーボンナノチューブ薄膜であって、前記組成物は、カーボンナノチューブおよび前記カーボンナノチューブ表面に均一に分布する金属粒子を含む、カーボンナノチューブ薄膜。
【請求項7】
前記金属粒子は金属ナノ粒子を含む、請求項6に記載のカーボンナノチューブ薄膜。
【請求項8】
前記基板はフレキシブル透明基板を含む、請求項6または7に記載のカーボンナノチューブ薄膜。
【請求項9】
前記金属粒子は、前記カーボンナノチューブの表面に吸着される金属前駆体を熱処理することによって形成される、請求項6〜8のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ薄膜。
【請求項10】
前記熱処理は20℃以上200℃未満で行われる、請求項9に記載のカーボンナノチューブ薄膜。
【請求項11】
前記金属ナノ粒子は、銀、金、銅、白金、およびパラジウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属成分を含む、請求項6〜10のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ薄膜。
【請求項12】
カーボンナノチューブをカーボンナノチューブ分散剤と混合してカーボンナノチューブ分散溶液を用意する段階と、
前記カーボンナノチューブ分散溶液を用いてカーボンナノチューブ薄膜を形成する段階と、
前記カーボンナノチューブ薄膜に前記金属前駆体を添加する段階と、
前記カーボンナノチューブ薄膜および前記金属前駆体を熱処理することにより、前記金属前駆体を金属粒子に変換させる段階と、
を含む金属粒子を含むカーボンナノチューブ薄膜の製造方法。
【請求項13】
前記金属前駆体を添加する段階において、前記金属前駆体の溶液を、カーボンナノチューブ薄膜を通過させるようにろ過することにより前記金属前駆体を前記カーボンナノチューブ薄膜に吸着させる、請求項12に記載の金属粒子を含むカーボンナノチューブ薄膜の製造方法。
【請求項14】
前記金属前駆体を添加する段階において、前記カーボンナノチューブ薄膜を前記金属前駆体の溶液に浸漬することにより、前記金属前駆体を前記カーボンナノチューブ薄膜上に吸着させる、請求項12に記載の金属粒子を含むカーボンナノチューブ薄膜の製造方法。
【請求項15】
前記カーボンナノチューブ薄膜を基板上に転写する段階をさらに含む、請求項12〜14のいずれか1項に記載の金属粒子を含むカーボンナノチューブ薄膜の製造方法。
【請求項16】
前記基板はフレキシブル透明基板を含む、請求項15に記載の金属粒子を含むカーボンナノチューブ薄膜の製造方法。
【請求項17】
前記熱処理は20℃以上200℃未満で行われる、請求項12〜16のいずれか1項に記載の金属粒子を含むカーボンナノチューブ薄膜の製造方法。
【請求項18】
前記金属粒子は金属ナノ粒子を含む、請求項12〜17のいずれか1項に記載の金属粒子を含むカーボンナノチューブ薄膜の製造方法。
【請求項19】
前記金属ナノ粒子は均一な大きさを有する、請求項18に記載の金属粒子を含むカーボンナノチューブ薄膜の製造方法。
【請求項20】
前記金属前駆体は、銀、金、銅、白金、パラジウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属成分を含む、請求項12〜19のいずれか1項に記載の金属粒子を含むカーボンナノチューブ薄膜の製造方法。
【請求項21】
カーボンナノチューブ、溶媒、および金属前駆体を混合してカーボンナノチューブ−金属前駆体混合物を用意する段階と、
前記カーボンナノチューブ−金属前駆体混合物を用いて薄膜を形成する段階と、
前記薄膜に対して熱処理を施すことにより、前記薄膜の表面に金属ナノ粒子を分布させる段階と、
を含む、金属粒子を含むカーボンナノチューブ薄膜の製造方法。
【請求項22】
請求項6〜11のいずれか1項に記載の金属粒子を含むカーボンナノチューブ薄膜を含むカーボンナノチューブ電極。
【請求項23】
請求項6〜11に記載の金属粒子を含むカーボンナノチューブ薄膜を含む薄膜トランジスタ。
【請求項24】
請求項22に記載のカーボンナノチューブ電極を有する薄膜トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−1481(P2009−1481A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162475(P2008−162475)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG ELECTRONICS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do 442−742(KR)
【Fターム(参考)】