説明

金属含有ナノ粒子、これを用いて成長したカーボンナノチューブ構造体、及びこのカーボンナノチューブ構造体を用いた電子デバイス及びその製造方法

【課題】粒径が10nm以下、粒径バラツキが15%以下、且つ安価な金属ナノ粒子の化学的製造方法を提供する。さらに、上記の金属ナノ粒子を用いた直径や本数密度の制御されたCNT構造体及びこのCNT構造体を用いた電子デバイスを提供する。
【解決手段】金属塩から金属前駆体溶液を形成する工程(A)と、前記金属前駆体溶液から金属前駆体を抽出する工程(B)と、前記金属前駆体、界面活性体、溶媒を混合させ、前記溶媒の沸点以下の温度において反応させる工程(C)と、前記工程(C)の混合溶液から金属含有ナノ粒子を析出させる工程(D)を含み、前記工程(C)において、前記金属前駆体と界面活性体のモル濃度比が1以下であることを特徴とする金属含有ナノ粒子の製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属含有ナノ粒子及びその製造方法に関し、より詳細には、好ましくは実質的に約1〜10nmの範囲の直径を有する、カーボンナノチューブを成長させるための触媒として機能する元素(例えば、鉄、コバルト、ニッケルなど)、これら金属酸化物、及びこれら元素を主成分として含有する金属間化合物の製造方法及び構造に関するものである。また、本発明は、これら金属含有ナノ粒子を用いて成長したカーボンナノチューブ構造体及びこのカーボンナノチューブ構造体を用いた電子デバイス及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属含有ナノ粒子は、カーボンナノチューブ(CNT)や燃料電池等の触媒、超高密度磁気記録媒体、診断医学、分子イメージングなど多くの用途が期待され、現在盛んに研究開発されている。特に、CNTは、優れた物性を有しており、その物性を利用して電界放出型電子放出素子、走査型プローブ顕微鏡(SPM)のプローブ、触媒、構造強化材料、放熱素子、電池の電極、トランジスタ材料、センサ材料など多様な用途への応用が期待されている。
【0003】
CNTは、一層又は複数層のグラフェンシートが筒状に巻かれた構造を有している。単層CNT(SWNT)は、1枚のグラフェンシートが筒状に巻かれた構造を有する。SWNTの直径は最小で0.4nmであり、長さは現状で最大3mmに達する。SWNTは、直径、カイラル角(螺旋の角度)および螺旋方向(右巻きか左巻きか)の3つのパラメータによって規定される。この3つのパラメータの中でも、直径およびカイラル角によって、物性が金属と半導体との間で変化するため、直径とカイラル角とを制御することが重要である。現在、カイラル角を制御する方法は確立していないが、直径は経験的に成長前の触媒粒子の粒径に近い直径のCNTが成長すると考えられている。
【0004】
CNTを成長させるための触媒を形成する方法としては、主に電子ビーム蒸着やスパッタリング法などの物理的作製法によって堆積した薄膜を微粒子化する方法や金属イオン含有溶液を基板に塗布し熱還元によって粒子形成する方法や金属含有ナノ粒子を用いる方法などの化学的作製法が用いられている。物理的作製法によって作製した触媒粒子は、熱処理による薄膜の凝集現象によって、微粒子化するため、粒径や粒径バラツキの厳密な制御をすることは困難である。従って、CNTの構造(直径)を制御するためには、粒径の揃った金属含有ナノ粒子を用いることが有望であると考えられている。
【0005】
金や白金などの貴金属ナノ粒子は古くから合成方法が検討されており、粒径の制御や粒径の揃ったナノ粒子が大量に合成できるようになり、市販されるようになってきた(非特許文献1)。しかしながら、一般的にCNTを成長させるために使用される遷移金属(Fe、Co、Niなど)などのナノ粒子は、貴金属に比べ不安定な性質を有するため、その合成は難しく、良質なナノ粒子を合成する手法が確立していない。
【0006】
近年、逆ミセル法(非特許文献2)やホットソープ法(特許文献1)により単分散金属含有ナノ粒子の合成が報告されるようになってきた。ミセルとは、界面活性剤の分子には、疎水基と親水基があり、疎水基を内側にして包み込んだ状態のことを指す。逆に、親水基を内側に包み込んだものを逆ミセルと呼ぶ。そして、有機溶媒にわずかな水を分散させ、逆ミセルでこの水を包み込み、化学反応を行って微粒子を作る方法を逆ミセル法と呼ぶ。一方、ホットソープ法とは、有機金属化合物等(金属カルボニルなど)を配位性有機化合物融液中(有機リン、リン酸など)で熱分解して(反応させ)粒子を生成させる ことにより配位性有機化合物で結晶の核生成および成長の過程を制御する方法である。これら逆ミセル法やホットソープ法によって金属含有ナノ粒子を形成すると、容易に粒径の揃った金属含有ナノ粒子を凝集せずに孤立分散した状態で生成することが可能となる。
【0007】
しかしながら、逆ミセル法では、反応系に水が存在するため、酸化反応が容易に進行し酸素共存下ではナノ粒子が不安定になる。また、微量な水の量によって、粒径の制御をするため、粒径の再現性が乏しいと思われる。さらに、この方法によって合成されたナノ粒子は、精製などの手法によって高純度化することが困難であると思われる。また、ホットソープ法は、前駆体を熱分解し、粒子成長するため、この温度を厳密に制御することで、粒径、粒径のバラツキや再現性を制御できると思われる。しかしながら、前駆体として金属カルボニル等の有害な原料を用いることや腐食性雰囲気であるなどの問題点を有していた。
【0008】
上述の問題点を解消するために、2004年にHyeon(ソウル国立大学)らのグループが、「Heating−Up法」という金属含有ナノ粒子の合成方法を開発した(非特許文献3)。図18及び図19を参照して、従来の「Heating−Up」法について説明する。図18は「Heating−Up法」による金属含有ナノ粒子の合成方法のフロー図であり、図19はこの方法によって合成した典型的な酸化鉄ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)像である。図示される金属含有ナノ粒子の合成方法は、まず、溶媒、金属塩及び配位分子を混合し、ある一定時間の間還流させることで金属イオンと配位分子を反応させ、金属前駆体溶液を形成させる(工程A)。次に、溶媒から金属前駆体を抽出させる。この際、金属前駆体は、固形物として抽出される(工程B)。次に、この金属前駆体、界面活性体及び溶媒を混合させる(工程C)。金属前駆体と界面活性体の濃度比([界面活性体]/[金属前駆体])を変化させることで、粒径を微妙に(1〜2nm程度)変化させることができる。次に、この混合溶液を還流させることで、金属含有ナノ粒子の結晶核の形成及び成長を行なう(工程D)。この工程を熟成工程と呼ぶ。金属含有ナノ粒子の粒径は、混合させる溶媒の沸点を変化させること大まかに(約5nm程度)制御することができる。また、この熟成工程を不活性ガス雰囲気(窒素、アルゴンなど)で行うことによって、純金属ナノ粒子を得ることができる。最後に、ある一定時間の熟成工程の後、この混合溶液の温度を室温まで下げ、生成した金属含有ナノ粒子の抽出、精製を行う(工程E)。図19に示すように、上述した方法によって粒径の揃った金属ナノ粒子を得ることができた。この「Heating−Up法」を用いれば、熟成工程に用いる溶媒種と[金属前駆体]/[界面活性体]を調整することで連続的に金属ナノ粒子の粒径を制御できると言われている。また、粒子の成長は熟成工程で成長し、粒径バラツキは熟成工程の温度に強く依存すると考えられている。熟成工程の温度は溶媒の沸点によって決定されるため、原理的に粒径バラツキの小さな粒子を合成させることが可能となる。従って、上述の合成方法は、ホットソープ法の問題点を解消し、同じレベルの品質の金属ナノ粒子を低コストで合成することのできる有望な手法である。
【特許文献1】特開2000−54012号公報
【非特許文献1】田中貴金属株式会社 URL:HTTP://www.tanaka.co.jp/products/html/f_6.htmlなど
【非特許文献2】J.P.Chen et.al., Journal of applied physics vol.75 pp.5876 (1994)
【非特許文献3】J.Park et. al., Nature Materials vol.3 pp.891 (2004)
【非特許文献4】S.G.Kwon et. al.,Journal of American Chemical Society vol.129 pp.12571 (2007)
【非特許文献5】L.M.Bronstein et. al.,Chemistry of Materials vol.19 pp.3624 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
「Heating−Up法」は、2004年に報告されて、以来、いくつかの研究機関によって、詳細な反応メカニズムの研究がなされてきた(非特許文献4、非特許文献5)。
【0010】
しかしながら、従来の研究では、主に、粒径が10nm以上の金属含有ナノ粒子の合成について、詳細な研究がなされているが、10nm以下の金属含有ナノ粒子の合成について、詳細な研究があまりなされていない。ここで、粒径とは、TEM観察によって観測された複数個の金属含有ナノ粒子の平均的な粒径を指す。粒径が10nm以上の金属含有ナノ粒子を合成する場合、熟成工程において用いる溶媒の沸点は300℃以上のものが用いられ、金属前駆体は300℃以上の温度で配位子の分解が起こり、300℃から熟成工程の間に金属含有ナノ粒子の核形成及び成長が起こると考えられている。一方、粒径が10nm以下の金属含有ナノ粒子を合成する場合、溶媒の沸点が300℃以下の溶媒を用いるため、従来報告されているような成長メカニズムや合成の諸条件をそのまま流用することが困難である。従って、本発明の目的は、「Heating−Up法」を用いて、粒径が10nm以下、粒径バラツキ(=粒径の標準偏差/平均粒径×100とする)が15%以下、且つ安価な金属ナノ粒子の化学的製造方法を提供することである。より好ましくは、粒径が4〜7nm、粒径バラツキが10%以下である。
【0011】
また、本発明の別の目的は、上記の金属含有ナノ粒子を用いて、直径や密度の制御されたCNT構造体及びこのCNT構造体を用いた電子デバイス、具体的には、電気二重層キャパシタ(EDLC)や電子放出源を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では上記課題を解決するために、金属含有ナノ粒子の製造方法において、金属塩から金属前駆体溶液を形成する工程(A)と、前記金属前駆体溶液から金属前駆体を抽出する工程(B)と、前記金属前駆体、界面活性体、溶媒を混合させ、前記溶媒の沸点以下の温度において反応させる工程(C)と、前記工程(C)の混合溶液から金属含有ナノ粒子を析出させる工程(D)を含み、前記工程(C)において、前記金属前駆体と界面活性体のモル濃度比([界面活性体]/[金属前駆体]が1.0以下であることを特徴とする金属含有ナノ粒子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属含有ナノ粒子の製造方法では、熟成工程において、金属前駆体と界面活性体の濃度比を1以下にすることによって、粒径が10nm以下且つ粒径バラツキが15%以下の金属含有ナノ粒子を再現良く製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(実施形態1)
以下、本発明の実施の形態に係る金属含有ナノ粒子の製法の例を図面を用いて、詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明による金属含有ナノ粒子の模式的な構造図である。図示されている金属含有ナノ粒子10は、金属コア11の周囲に界面活性体12が覆われた構造を有している。金属コア11は、単結晶、多結晶及びアモルファス構造のいずれかである。より好ましくは、金属コア11は、結晶により構成されている。また金属コア11は、形状が球形又は多角形であり、約1nm〜約10nmの範囲の直径を有する。より好ましくは、形状が球形であり、約4nm〜約7nmの直径を有する。
【0016】
金属コア11は、CNTを成長させるための触媒として作用する元素を主成分として含有している。より好ましくは、Fe、Co、Ni元素を主成分として含有している。ここで、金属コア11は、上記元素の酸化物(厳密には、金属ではないが、本願では、上記元素の酸化物も含む)、合金及びCNTを成長させるための触媒作用のない元素との合金であってもよい。具体的な酸化物としては、FeO、α―Fe、γ―Fe、Fe、α―FeOOHなどの酸化鉄、CoO、Coなどの酸化コバルト、NiOである。また、合金としては、Co/Ni、Ni/Fe、Co/Fe/Niなどの2元素及び3元素合金であってもよい。また、Au、Ag、Cu、Pt、Pd、Ti、Vなどとの合金粒子であってもよい。
【0017】
界面活性体12は、式R−Xで示される長鎖有機化合物である有機安定剤を含み、式中Rは、長鎖又は分岐ハイドロカーボン又はフルオロカーボン鎖である。Rは通常8〜22の炭素原子を含む。Xは金属コア表面に特定の化学結合を提供する部分であり、スルフィネート(−SOOH)、スルホネート(SOOH)、ホスフィネート(−POOH)、ホスホネート(−OPO(OH))、カルボキシレート(−COOH)、及びチオール(−SH)とすることができる。特に好ましい界面活性体として、オレイン酸(C1733COOH)である。
【0018】
オレイン酸は、ナノ粒子の安定化において一般的によく用いられている界面活性体である。オレイン酸の比較的長い炭素鎖は、粒子間に働く強い磁気相互作用を打ち消す重要な立体障害を与えるため、Feナノ粒子などの磁性ナノ粒子の界面活性体としてよく用いられる。エルカ酸(C2141COOH、なたね油に含有)やリノール酸(C1731COOH、多くの植物油に含有)など類似の長鎖カルボン酸(不飽和脂肪酸)もオレイン酸同様に用いられてきた。オレイン酸は、オリーブ油などに含有されており容易に入手できる安価な天然資源であるので、安全性及び低コスト化の観点から好ましい。その他の長鎖不飽和脂肪酸としては、ミリストレイン酸(C1325COOH、バターに含有)、パルミトレイン酸(C1529COOH、イワシ油やニシン油に含有)、エライジン酸(C1733COOH、オレイン酸のtrans異性体)、バクセン酸(C1733COOH、牛脂、バターに含有)、ガドレイン酸(C1937COOH、タラ肝脂に含有)、α−リノレン酸(C1729COOH、乾性油に含有)、エレオステアリン酸(C1729COOH、乾性油に含有)、ステアリドン酸(C1727COOH、イワシ油、ニシン油に含有)などがある。
【0019】
次に、図2を参照しながら、本発明の金属ナノ粒子の製法を説明していく。図2は、金属含有ナノ粒子(分散液)の合成方法のフロー図である。基本的な流れは、上述の従来の製法と類似している。しかしながら、従来の製法では、金属前駆体に配位している分子が、完全に脱離すると考えられている温度において、粒子の核形成及び成長を行なっているが、本願では、金属前駆体の配位分子の脱離が完全に起こらない条件下で金属ナノ粒子を合成する点が異なる。上述したように、従来の製法では、熟成工程において用いる溶媒の沸点が300℃以上のものを用いるため、金属前駆体は300℃以上の温度で配位子の完全な脱離が起こり、そして、300℃から熟成工程の間に金属含有ナノ粒子の核形成及び成長が起こると考えられている。一方、本願では、完全に配位分子が脱離していない状態又は一部の完全に配位分子の脱離した金属状態の前駆体が核形成し、粒子成長していると思われる(200℃以上の温度でも配位分子の一部は脱離すると考えられる。また、300℃以下の温度においても、若干量の金属前駆体は配位分子が完全に脱離しているものもあると思われる)。つまり、前者(従来例)は供給律速的な反応であり、後者(本願)は反応律速的な反応もしくは不完全な脱離状態からの反応であり、反応機構が異なる。従って、本願では、粒径の揃った10nm以下の金属含有ナノ粒子を合成するための熟成工程における諸条件が異なる点が大きな差異である。
【0020】
工程Aは、溶媒、金属塩及び配位分子を混合し、ある一定時間の間還流することで、金属イオンと配位分子を反応させ、金属前駆体溶液を形成させる工程である。溶媒としては、極性溶媒と無極性溶媒の混合液を用いる。金属塩及び配位分子は、室温で極性溶媒に溶解する。化合反応後、これらの反応生成物である金属前駆体は、非極性溶媒に溶解し、副生成物は極性溶媒に溶解する。この一連の反応後、極性溶媒と無極性溶媒を分離することで、無極性溶媒中に金属前駆体が溶解した溶液を回収することができる。さらに、この金属前駆体溶液は、無極性溶媒を加えることで、副生成物や未反応物を精製することもできる。好ましくは、極性溶媒として、水やエタノールを用い、無極性溶媒としては、ヘキサンを用いるとよい。
【0021】
次に、工程Bは、上記の金属前駆体溶液から溶媒を除去し、金属前駆体を回収する工程である。溶媒の除去方法としては、真空乾燥、加熱、エバポレーターなどを用いた溶媒除去方法を用いるとよい。ここで、回収した金属前駆体は、固形物として回収される。
【0022】
次に、工程Cは、上記の金属前駆体、界面活性体、及び溶媒を混合させる工程である。本発明の目的である粒径の揃った10nm以下の金属含有ナノ粒子を合成させるために、金属前駆体と界面活性体の濃度比([界面活性体]/[金属前駆体])を1.0以下になるように調整する。従来例では、[金属前駆体]/[界面活性体]の増減によって、粒径を微調整できることが開示されていた(非特許文献4参照)。しかしながら、本願では[金属前駆体]/[界面活性体]を1.0以下に設定することが重要となる。これは、上述した反応機構の相違により、反応律速又は不完全な状態で粒子成長するため、過剰な界面活性体の存在は、副生成物(約1nm〜約3nm程度の粒子)の粒子成長を促進すると考えられる。この副生成物は、金属ナノ粒子の粒径バラツキを増大させる原因となる。また、溶媒は、沸点が250℃以上300℃以下の無極性溶媒を用いるとよい。より好ましくは、沸点が約270℃〜290℃の範囲にあるとよい。これは、従来技術においても示されているように、10nm以下の粒径の粒子を合成するために、上記沸点範囲の溶媒を用いて、熟成する必要があるからである(非特許文献4参照)。適当な無極性溶媒としては、ヘキサデセン、ジオクチルエーテルが含まれるが、これらに限るものではない。また、合金ナノ粒子を合成するためには、工程Cにおいて、合金を構成する元素を含む金属前駆体を混合させるとよい。金属前駆体としては、例えば、Co(アセチルアセトナート)、Pd(アセチルアセトナート)、Ti(アセチルアセトナート)などを用いるとよい。
【0023】
次に、工程Dは、上記の混合溶液を溶媒の沸点まである一定の昇温速度で昇温し、ある一定時間の間還流させることで金属含有ナノ粒子の核形成・粒子成長を行なう工程(熟成工程)である。すなわち、上記の混合溶液の反応を沸点以下の温度で行なう。
【0024】
昇温速度は、金属前駆体の核形成と相関があると考えられ、3℃/min以上の昇温速度で昇温することが重要となる。これは、昇温速度が低いと核形成の開始された時間と大半の粒子が核形成する時間差が大きくなるため、実質的な成長時間に差が生じ、それ故に、粒径バラツキが大きくなると考えられるためである。また、熟成時間は、1時間以上行う必要がある。より好ましくは、1時間から2時間程度である。従来例では、核形成は、熟成温度下において、約2分以内に完了し、粒子成長が開始され、約10分以上の熟成を経ると粒子成長が完了することが開示されている。しかしながら、本願では、上述の反応機構の差によって、核形成及び粒子成長速度が遅いため、上記のような熟成時間を確保することが必要となる。ここで、熟成工程を不活性ガス雰囲気(窒素、アルゴンなどの酸素のない雰囲気)で行うことによって、純金属ナノ粒子を合成することが可能となる。但し、工程Cの前後において、十分に酸素及び水分を除去しておく必要がある。
【0025】
次に、工程Eは、上記熟成した溶液から金属含有ナノ粒子の精製、抽出、及び再分散を行う工程である。すなわち、上記混合溶液から金属含有ナノ粒子を析出させる工程である。金属含有ナノ粒子は、表面にアルキル基を有しているため、トルエンやヘキサン等の無極性溶媒には可溶であるが、アルコールなどの極性溶媒にはほとんど溶解しない。そこで、上記熟成した溶液に極性溶媒を加えることで、金属ナノ粒子間に疎水性相互作用が働き粒子同士が会合し凝集体が沈降する。この凝集体を回収し、無極性溶媒中に溶解させることで金属含有ナノ粒子分散溶液を作製することができる。ここで、熟成工程に用いた溶媒が可溶な極性溶媒を選択することで、回収する金属含有ナノ粒子中の不要な有機物を低減することができる。更に、純度を高めるために、回収した金属含有ナノ粒子を極性溶媒で複数回洗浄してもよい。好ましくは、極性溶媒として、メタノール、エタノール、アセトン及びこれらの混合溶液を用いるとよい。
【0026】
本発明の製造方法によれば、熟成工程の[界面活性体]/[金属前駆体]、昇温速度、及び熟成時間を制御することによって、粒径の揃った金属含有ナノ粒子を合成することができる。また、本発明の製造方法では、低コスト、安全、且つ任意の金属含有ナノ粒子分散溶液(濃度、溶媒)を簡易に製造することができるため、様々な用途への応用が期待できる。
【0027】
(実施例1)
まず、図3から図8を参照にしながら、本発明による金属含有ナノ粒子の製法の実施例を説明する。本実施例の金属含有ナノ粒子の製造方法は、金属塩として塩化鉄(III)六水和物(FeCl・6HO)、界面活性体としてオレイン酸、熟成工程の溶媒として1−ヘキサデセン(沸点:274℃)を用いて、酸化鉄ナノ粒子を合成した例を示す。
【0028】
酸化鉄ナノ粒子の合成方法は、基本的に上述した図2の製法とほぼ同じ流れで製造した。以下に、図2を参照にしながら、具体的な製法を説明する。
【0029】
工程Aでは、溶媒として水30mlとエタノール40mlの混合液を用い、FeCl・6HOを5.4g及びオレイン酸ナトリウム18.3gを混合し、約4時間還流する。この反応によって、金属前駆体であるFe(Oleate)(Oleate:C1733COO)が形成される。この反応後、このFe(Oleate)は、有機相(ヘキサン)に溶解している。
【0030】
次に、工程Bでは、上記溶液から有機相を分離する。この際、適量の水によって精製することで、未反応物や副生成物である塩化ナトリウム(NaCl)を分離することができる。上記有機相からエバポレーターを用いて、溶媒であるヘキサンを除去することで、ワックス状のFe(Oleate)を抽出することができる。
【0031】
次に、工程Cは、Fe(Oleate)、オレイン酸、及び1−ヘキサデセンを混合させる。Fe(Oleate)9g(10mmol)、オレイン酸1.43g(5mmol)1−ヘキサデセン50gを混合させる。このとき[界面活性体]/[金属前駆体]は0.5となる。
【0032】
次に、工程Dでは、上記の混合溶液を昇温速度約3.1℃/minで274℃まで昇温し約60分の熟成を行った。本実施例では、大気中で熟成工程を行う。
【0033】
次に、工程Eでは、上記溶液にエタノールを加え、酸化鉄ナノ粒子を析出させ、複数回、エタノールで洗浄した後、クロロホルム中に再分散することで酸化鉄ナノ粒子分散溶液を合成する。
【0034】
図3は上記製法によって合成した酸化鉄ナノ粒子のTEM像、図4は図3のTEM像から算出した粒度分布である。TEM用の試料は、カーボンコートされたマイクログリッド上に、上記酸化鉄ナノ粒子分散クロロホルム溶液を一滴滴下し、溶媒を蒸発させることにより、TEM用試料を作成した。TEM観察から、酸化鉄ナノ粒子の粒径約6.7nm、粒径バラツキ約10%の粒子が合成できていることを確認した。また、この酸化鉄ナノ粒子は、制限視野電子線回折結果から、リング状の回折パターンが検出されたことから、結晶性の粒子であることも確認できた。
【0035】
次に、熟成工程(工程D)における上述した[界面活性体]/[金属前駆体]、昇温速度、及び熟成時間に関する粒径及び粒径バラツキの依存性について検討した。図5は、粒径及び粒径バラツキの[界面活性体]/[金属前駆体]依存性である。昇温速度及び熟成時間は、それぞれ3.5℃/min、60分である。粒径は、界面活性体の濃度が増加すると共に若干粒径は増加するが、[界面活性体]/[金属前駆体]>1で急激に減少する。また、粒径バラツキも[界面活性体]/[金属前駆体]>1で急激に劣化することが分かった。[界面活性体]/[金属前駆体]>1での粒径及び粒径バラツキの変化は、TEM観察から約1nm〜約3nm程度の微粒子の形成に関係することが分かった。これは、上述したような供給律速又は不完全な状態で粒子成長するため、過剰な界面活性体の存在は、約1nm〜約3nm程度の粒子成長を促進すると考えられる。従って、酸化鉄ナノ粒子の合成において、[界面活性体]/[金属前駆体]<1に設定することは、粒径の揃った10nm以下の粒子を合成するための必須条件であるといえる。さらに、より粒径バラツキの少ない酸化鉄ナノ粒子を合成するためには、上記モル濃度比が0.5から0.8の範囲であることがより好ましい。
【0036】
次に、図6は粒径及び粒径バラツキの昇温速度依存性である。[界面活性体]/[金属前駆体]及び熟成時間は、それぞれ0.5、60分である。粒径は昇温速度が約3℃/min以上で急激に増加し、昇温速度の増加と共に減少していく傾向があることが分かった。粒径バラツキも、昇温速度が約3℃/minで15%程度となり、約3℃/min以上で急激に減少し、昇温速度の増加と共に徐々に減少していく傾向があることが分かった。昇温速度が約3℃/minでの粒径及び粒径バラツキの急激な変化は、TEM観察から上述した約1nm〜約3nm程度の微粒子が形成されることに起因している。また、昇温速度が約3℃/min以上での粒径及び粒径バラツキの減少は、上述した核形成の開始された時間と大半の粒子が核形成する時間差が小さくなるため、より均一な粒径の酸化鉄ナノ粒子が形成されやすいことを意味している。この結果から、熟成工程の昇温速度は、出来るだけ速く温度を上昇させたほうがよいことを示している。但し、昇温速度を高くすると突沸する危険性があるため、十分な攪拌をしながら、突沸しない程度の昇温速度(<20℃/min)で温度を上昇させることが好ましい。
【0037】
次に、図7は粒径及び粒径バラツキの熟成時間依存性である。[界面活性体]/[金属前駆体]及び昇温速度は、それぞれ0.5、3.5℃/minである。粒径は、熟成時間が約60分以上で急激に増加し、熟成時間と共に若干増加する傾向があることが分かった。また、粒径バラツキは熟成時間が約60分以上で急激に減少し、熟成時間と共に若干減少する傾向があることが分かった。ここで、熟成時間60分未満での粒径及び粒径バラツキの変化も上述した微粒子の影響であることが確認された。従来例では、熟成時間は10分以上であると所望のナノ粒子が形成することが開示されていたが、本実施例では、60分以上の熟成時間が必要であることが分かった。これも上述したように、反応機構の差によって、核形成及び粒子成長速度が遅いため、上記のような熟成時間を確保することが必要となる。なお、実用的には、上記熟成時間は24時間以内であることが好ましい。
【0038】
従って、これら熟成工程の検討から、「Heating−Up法」によって、10nm以下の金属含有ナノ粒子を合成する場合、従来開示されているような反応機構と異なるため、本発明にて開示したような諸条件にて熟成工程を行う必要がある。
【0039】
(実施形態2)
以下、本発明の実施の形態に係る金属含有ナノ粒子を用いて成長したCNT構造体及び製法の例を図面を用いて、詳細に説明する。
【0040】
図8は、本発明による垂直配向CNT構造体の断面図である。図示されている垂直配向CNT構造体80は、基板81とCNT83との間に触媒粒子82が位置する垂直配向CNT構造体である。CNT83は、基板81主面に対して、垂直方向に配向している。触媒粒子82は、上述した金属含有ナノ粒子の構造と異なり、金属コアの周囲に存在する界面活性体の少なくとも一部が除去されている。
【0041】
基板81は、シリコン基板、サファイア基板などの半導体基板、ガラス、金属基板(アルミニウム、銅、ステンレス)などのCNT成長温度よりも融点の高い任意の基板を用いることができる。
【0042】
CNT83は、例えば、SWNT、2層CNT(DWNT)及び多層CNTによって形成されている。図8のCNTでは、CNTの先端(触媒と反対側)にキャップが形成されているが、キャップが除去されていてもよい。CNT83の長さは、例えば、1μm〜5mm程度であり、CNT83の直径は、触媒粒子82の直径と同程度であり、約1nm〜約10nm程度である。
【0043】
なお、上述した例では、基板の片面上にのみ垂直配向したCNTが配置された構造を示したが、基板の両面上に垂直配向したCNTが配置されている構造でもよい。
【0044】
本発明の好ましい例では、粒径の揃った金属含有ナノ粒子を用いることで、CNTの直径バラツキを低減することができる。また、粒径の揃った金属含有ナノ粒子は、経験的に高密度に配置させることが知られており、超高密度な垂直配向CNT構造体を提供することも可能となる。さらに、本発明の金属含有ナノ粒子は、所望の粒径や結晶性をある程度作製することができるため、CNTの物性に最も関係深いCNTの層数やカイラル制御の可能性もある。
【0045】
次に、図9を参照しながら、本発明の垂直配向CNT構造体の製造方法の一例を説明する。図9(a)から(c)は、本発明の垂直配向CNT基板の製造方法を示す工程図である。
【0046】
まず、図9(a)に示すように、CNTを成長させるための基板91を準備する。基板表面の不純物(例えば、有機物など)を除去する工程を加えてもよい。有機物を除去する方法としては、例えば、超音波処理されたアセトン溶液中に浸漬し洗浄する方法やUV照射する方法がある。また、基板91上に、有機分子の表面修飾や基板表面を改質するような処理を施してもしてもよい。
【0047】
次に、図9(b)に示すように、基板91上に金属含有ナノ粒子92を配置する。配置する方法としては、例えば、金属含有ナノ粒子分散溶液をディップコート法によって塗布する方法や金属含有ナノ粒子溶液中に浸漬する方法によって基板91上に配置することができる。ここで、基板91上に配置される金属含有ナノ粒子92の密度や均一性は、金属含有ナノ粒子分散溶液の濃度や上記塗布プロセスにおける乾燥方法によって制御することができる。
【0048】
次に、この金属含有ナノ粒子92を配置した基板91を化学気相成長(CVD)装置などのCNT成長装置に導入する。CNTの成長は公知の方法である気相−液相−固相(VLS)成長機構によって成長することができる。例えば、CVD装置を用いてCNTを成長する場合、CNTを構成する元素を含む原料ガスをチャンバ内に導入し、所定の圧力に保つ。この基板91は、ランプやヒーターなどで加熱し任意の温度に基板を保つ。このような状況において、原料ガスは、金属含有ナノ粒子92の近傍においてのみ選択的に分解する。金属含有ナノ粒子92は、この分解した原料ガスと反応することにより、金属含有ナノ粒子102とCNTを構成する元素との合金を形成する。
【0049】
次に、原料ガスが分解することにより生成したCNTを構成する元素は、金属含有ナノ粒子92とCNTを構成する元素との合金に溶解し、過飽和状態となる。この過飽和状態となった金属含有ナノ粒子92とCNTを構成する元素との合金からCNTを構成する元素が析出し、析出した元素が凝集することにより図9(c)に示すようにCNT93が成長する。ここで、図9(b)の後、金属含有ナノ粒子の金属コアの周囲に形成された界面活性体を除去する工程を追加してもよい。例えば、UVを照射する工程やCVD装置内で熱処理を施す工程などを行うことで、界面活性体を除去することができる。
【0050】
本発明の製造方法によれば、真空プロセスのような製造コストのかかる工程を導入することなく、触媒金属粒子を形成することができる。また、従来の蒸着法やスパッタ法では、堆積膜厚と粒径に強い相関があるため、プロセスマージンが狭いという問題があった。本発明の製造方法では、既に粒径の揃った粒子をコーティングするだけで粒径や密度に対するプロセスマージンを拡大することができる。
【0051】
(実施例2)
以下、上述した実施形態1の酸化鉄ナノ粒子を用いて成長したCNT構造体及び製法の例を図面を用いて、詳細に説明する。CNT構造体の構造及び製法は、上述した図8及び図9と類似である。差異を中心に詳細を説明する。
【0052】
CNT構造体は、基板としてSi基板、金属ナノ粒子として実施形態1で示した酸化鉄ナノ粒子を用いている。CNT構造体の製法は、まず、Si基板上に酸化鉄ナノ粒子をディップコート法により形成する。酸化鉄ナノ粒子分散溶液は、溶媒にクロロホルムを用い、濃度は約0.1〜1wt%程度のものを用いた。次に、上記Si基板をCVD装置に導入する。今回CNTを成長する方法として、(先端放電型)プラズマCVDを用いた。初期真空度<3x10−4Paまで真空引きした後、Hガス45sccmとCHガス5sccmの混合ガスを約20Torr圧下で流入させ、抵抗加熱により620℃アニールを5分間実施し、Feナノ粒子の還元を行う。続けて、2.45GHzマイクロ波を60W〜100W程度印加し、600℃で30分間のCNT成長を行なった。
【0053】
図10は、上記製法によって成長したCNT構造体の断面SEM写真である。CNT構造体は、基板主面に対して垂直に配向した約10μm程度の長さのCNTの成長を確認できる。図11に図10で成長したCNTのTEM像、図12にTEM像からCNTの直径分布を導出した結果を示す。TEM観察用のサンプルは、上記CNT構造体からCNTを削りとり、マイクログリット上に配置させることで作製した。TEM観察結果から、上記CNTは、層数2〜4層、直径4.7nm、直径バラツキ約12%のものが形成されていることが分かった。比較実験として、EB蒸着法によりFeを1nm程度堆積した基板を用いて、同様の実験を行った。その結果、層数2〜8層、直径5.4nm、直径バラツキ約25%のCNTが形成されているとこを確認した。従って、本実施例の酸化鉄ナノ粒子をCNT成長触媒として用いることで、層数バラツキ及び直径バラツキを改善できることが確認できた。
【0054】
(実施形態3)
以下、実施形態2のCNT構造体を用いた電子デバイスへの応用例について図面を用いて、詳細に説明する。
【0055】
上述した高密度に垂直配向したCNT構造体は、フィールド・エミッション・ディスプレイ(FED)用の電子放出源、EDLC用の電極、LSI用のVia配線材としての応用が期待できる。これら電子デバイスへの応用例について順次説明していく。
【0056】
図13は、CNT構造体を電子放出源として用いたFEDの基本構造の模式図である。CNT−FED1300は、カソード電極1301、収束電極1305、アノード電極1308によって構成され、蛍光体1307の直下に電子放出源を備えた構造になっている。カソード電極1301は、上部に絶縁体1302とこの絶縁体1302によってパターニングされた部分にCNT構造体1304が配置と、このCNT構造体1304の周囲を囲むように絶縁体1302の上部にゲート電極1303によって構成されている。CNT構造体1304によって構成される電子放出部は、リブ1309によって、複数個に分割され、リブ1309の上部にもCNT構造体を囲むようにゲート電極1303が設けられている。アノード電極1308は、蛍光体1307と金属薄膜1306によって構成されている。このCNT−FED1300は、光らせたい蛍光体1307の直下の電子放出源のゲート電極1303に電圧を印加することで、CNT構造体1304からなる電子放出源から電子を放出し、所定の映像を出すという機構になっている。CNTは優れた電子放出特性を示すことから、垂直配向したCNT構造体をFEDの電子放出源として応用することは、デバイスを低電力化できることが期待できる。
【0057】
次に、実施形態2のCNT構造体を電極としたEDLC(以下CNTキャパシタと称する)の構造及び製法の例を図面を用いて、詳細に説明する。
【0058】
図14は、本実施形態におけるCNTキャパシタ1400の概観図を示す。図15は、図14中のA部CNT/Al基板の構成図を示す。
【0059】
CNTキャパシタ1400は、円筒形状をした、アルミニウムやS U S 製の金属製容器1401を備えており、その中に電解液(図示せず)が収容され、封口体1402によってその上面が閉じられている。金属製容器1401内に、帯状の正電極1403及び負電極1404が収納されている。正電極1403と負電極1404は、それぞれ上電極1403aと下電極1403b、上電極1404aと下電極1404bにより構成されている。正電極1403と負電極1404は、さらに2枚のセパレータ1405が積層されて捲回され、電解液中に浸されている。正極集電体1406aと負極集電体1406bには、それぞれ正極リード1407aと負極リード1407bが接続され、封口体1402を通過して金属製容器1401外に引き出されている。
【0060】
図15に、図14中に領域Aで示したCNTキャパシタ1400の電極部分の構成図を示す。正電極1500は、上電極1500a/正極集電1501a/下電極1500bの構成となっている。また、負電極1502は、上電極1502a/負極集電体1501b/下電極1502bの構成となっている。正電極1500の金属製容器側の表面と、正電極1500と負電極1502の間にはセパレータ1503が配置されている。ここでは、CNTキャパシタの構造の一例として円筒型構造について説明したが、コイン型構造や積層型構造においても、同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0061】
本実施形において、EDLCとして機能させる場合は、正電極1500と負電極1502はともにCNTを主体とする材料、集電体1501はAlを主体とする材料から構成する。ここで、正電極1500及び負電極は、上述してきたような垂直配向CNT構造体を用いる。また、リチウムイオン二次電池として機能させる場合は、高いエネルギー密度が必要となるため、例えば、正電極1500の活物質にコバルト酸リチウム等のリチウム酸化金属、負電極1502の活物質にCNTを主体とする材料を用いることができる。
【0062】
一般に、正極集電体1501aと負極集電体1502bは、捲回する必要があるため、ある程度の柔軟性を備えることが必要となる。加えて、印加した電極電圧により集電体金属イオンの流出などが起きる可能性があるため、イオン化傾向に応じた最適な材料を選択する必要がある。このため通常は、Alや銅の箔、もしくは導電性ゴムが用いられる。
【0063】
電解液は、デバイスの種類に応じた材料を選ぶことが必要である。まず、溶媒は使用電圧範囲によって電気化学的に分解しないような電位窓を有することが必要であり、一般にプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、又はそれらの混合溶媒を用いることができるが、リフロー対応が必要な場合は、リフロー時に電解液が沸騰しないように、例えばスルフォラン等の高沸点溶媒を用いることが必要である。また、電解質としては、電気二重層キャパシタ用として、例えば、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートを用いることができ、リチウムイオン二次電池用として、例えば、リチウムペンタフルオロフォスフェートを用いることができる。
【0064】
セパレータ1503には、デバイスの種類に依存せず、ポリプロピレン等を用いることができるが、例えば、リフロー対応が必要な場合は、耐熱性のある材料、例えば、セルロース系の材料を用いることが必要である。
【0065】
なお、EDLCのエネルギー密度を向上させるためには、CNT構造体のCNTの表面積を増加させる必要がある。このための最適なCNT構造は、直径4nm〜10nm、層数2〜4層のCNTによってCNT構造体が形成されていることが好ましい。
【0066】
本実施形態のCNTキャパシタは、例えば、次のように製造することができる。本発明の基板としてAl基板を用いて垂直配向CNT構造体を成長した後、常温で30分、次いで真空オーブン中で105℃で1時間乾燥する。続いて、Al基板の一部を剥ぎ取り、ここにリードをカシメにより接続して、リード付き垂直配向CNT構造体を作製する。
【0067】
続いて、このリード付き垂直配向CNT構造体を2本用意し、ビスコースレーヨン製セパレータを介在させて円筒型に捲回し、さらに真空オーブン中、150℃で約24時間乾燥した後、この捲回物をテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(電解質)のプロピレンカーボネート溶液(1.0mol/l)に浸漬し、さらに減圧して捲回物に電解質を含浸させる。
【0068】
得られた捲回物を、2箇所にリード用の穴を開けておいたブチルゴム製の封口体に取り付け、さらに、Al製の円筒型容器内に封入し、さらに通常の方法に従うことにより、本実施形態のCNTキャパシタが得られる。
【0069】
本実施形態のCNTキャパシタは、従来に比べてAl基板とCNTの間の界面抵抗を低減することができるため、高パワー密度化することが可能となる。また、垂直配向CNT構造体は、触媒密度を高濃度化でき、さらに触媒活性度を向上させることができるため、EDLCのエネルギー密度を向上させることが可能となる。
【0070】
なお、本実施形態では、EDLCの電極に用いた一例について示したが、電気化学キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、リチウムイオン二次電池、有機電池等のエネルギー蓄積デバイス全般において適用可能である。
【0071】
また、電気化学キャパシタでは、正負極ともに、CNT構造体を用いることが可能である。
【0072】
また、リチウムイオン二次電池では、通常、正極としてコバルト酸リチウム等のリチウム酸化金属、シリコン化合物、又は、リチウム金属が用いられ、負極としてグラファイト等が用いられている。この場合、負極に用いられているグラファイトの代わりにCNT構造体を使用し、正極では活物質の担持材料としてCNT構造体を用いることが可能である。
【0073】
また、リチウムイオンキャパシタでは、正負極ともに、CNT構造体を用いることが可能である。さらに、他のエネルギーデバイスの形態において、CNT構造体そのものが電極活物質として機能するものであってもよいし、他の電極活物質のための担持材料として機能するものであってもよい。
【0074】
図16にCNT構造体をLSIのVia配線として用いた基本構造を模式的に示す。CNT−Via配線1600は、層間絶縁膜1602によって絶縁された下層金属配線1601aと上層金属配線1601bとを接続するVia配線1603材料としてCNTを用いている。LSI用のVia配線材料としては、低温プロセスによって形成可能且つ低抵抗な材料が求められている。CNTは、プラズマCND法などを用いると400℃以下のプロセス温度にて容易に形成することができ、さらに、CNTは非常に低い抵抗をもつため、配線材料として適した材料と考えられている。従って、垂直配向したCNT構造体をVia配線の配線材料として応用することは、デバイスを高速化できることが期待できる。
【0075】
(実施例3)
以下、上述した実施形態1の酸化鉄ナノ粒子を用いて成長したCNT構造体を用いてEDLCを作製した例について説明する。
【0076】
CNT構造体は、基板としてAl基板、金属含有ナノ粒子として実施形態1で示した酸化鉄ナノ粒子を用いている。CNT構造体の製法は、実施形態3と同様の製法で作製した。図17にAl基板上にCNT構造体を形成後の断面SEM像を示す。Al基板上にも上述した実施例と同様に垂直配向CNT構造体が得られることを確認した。
【0077】
本実施例のCNTキャパシタは、次のように製造した。垂直配向CNT構造体を成長した後、常温で30分、次いで真空オーブン中で85℃で3時間乾燥する。このCNT構造体をテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(電解質)のプロピレンカーボネート溶液(1.0mol/l)に浸漬し、さらに減圧してCNT構造体に電解質を含浸させる。次に、このCNT構造体にリード線を接続し、ビーカーを用いた簡易的なセルを作製し容量測定を行った。CNT電極の容量は、正極で約50F/g、負極で約40F/gの容量を有することが分かった。なお、高容量なCNT構造体を作製するためには、金属含有ナノ粒子の粒径は、4〜7nm以内であることが好ましい。ここで、4〜7nmの粒径を有する金属含有ナノ粒子を製造するためには、例えば、[界面活性体]/[金属前駆体]を小さくしたり、熟成工程の温度を低くするとよい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、高品質な金属ナノ粒子を製造する分野において好適に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の金属含有ナノ粒子の模式的な構造を示す図
【図2】本発明の金属含有ナノ粒子の合成方法のフローを示す図
【図3】実施形態1の製法によって合成した酸化鉄ナノ粒子のTEM像を示す図
【図4】図3のTEM像から算出した酸化鉄ナノ粒子の粒度分布を示す図
【図5】実施形態1の製法によって合成した酸化鉄ナノ粒子の粒径及び粒径バラツキの[界面活性体]/[金属前駆体]依存性を示す図
【図6】実施形態1の製法によって合成した酸化鉄ナノ粒子の粒径及び粒径バラツキの昇温速度依存性を示す図
【図7】実施形態1の製法によって合成した酸化鉄ナノ粒子の粒径及び粒径バラツキの熟成時間依存性を示す図
【図8】実施形態2の垂直配向CNT構造体の断面構造を示す図
【図9】実施形態2の垂直配向CNT構造体の製造方法を示す図
【図10】実施形態2の垂直配向CNT構造体の断面SEM像を示す図
【図11】図11のCNT構造体のCNTのTEM像を示す図
【図12】TEM像から導出したCNTの直分布を示す図
【図13】実施形態3のCNT構造体を電子放出源として用いたFEDの基本構造を模式的示す図
【図14】実施形態3のCNT構造体をEDLCとして用いた概観図を模式的示す図
【図15】図14中の領域Aで示したCNTキャパシタの電極部構造を示す図
【図16】実施形態3のCNT構造体をVia配線として用いた構造を模式的示す図
【図17】実施形態3のAl基板上にCNT構造体を形成した断面SEM像を示す図
【図18】従来の「Heating−Up法」による金属ナノ粒子の合成方法のフローを示す図
【図19】従来の「Heating−Up法」によって合成した酸化鉄ナノ粒子のTEM像を示す図
【符号の説明】
【0080】
10 金属含有ナノ粒子
11 金属コア
12 界面活性体
80 CNT構造体
81 基板
82 触媒粒子
83 CNT
91 基板
92 触媒粒子
93 CNT
1300 CNT−FED
1301 カソード電極
1302 絶縁体
1303 ゲート電極
1304 CNT構造体
1305 収束電極
1306 金属薄膜
1307 蛍光体
1308 アノード電極
1309 リブ
1400 CNTキャパシタ
1401 金属製容器
1402 封口体
1403 正電極
1403a 上電極
1403b 下電極
1404 負電極
1405 セパレータ
1406a 正極集電体
1406b 負極集電体
1407a 正極リード
1407b 負極リード
1500 正電極
1500a 上電極
1500b 下電極
1501a 正極電極
1501b 負極電極
1502a 上電極
1502b 下電極
1503 セパレータ
1600 CNT Via配線
1601 金属配線
1602 層間絶縁膜
1603 CNT

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩から金属前駆体溶液を形成する工程(A)と、前記金属前駆体溶液から金属前駆体を抽出する工程(B)と、前記金属前駆体、界面活性体、溶媒を混合させ、前記溶媒の沸点以下の温度において反応させる工程(C)と、前記工程(C)の混合溶液から金属含有ナノ粒子を析出させる工程(D)を含み、前記工程(C)において、前記金属前駆体と界面活性体のモル濃度比([界面活性体]/[金属前駆体])が1.0以下であることを特徴とする金属含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記工程(C)において、前記溶媒の沸点が250℃以上300℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の金属含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記工程(C)において、前記金属前駆体と界面活性体のモル濃度比が0.5から0.8の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載の金属含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記工程(C)において、前記溶媒の沸点まで昇温させる速度が、3℃/min以上であることを特徴とする請求項2及び請求項3に記載の金属含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記工程(C)において、前記溶媒の沸点まで昇温させる速度が、20℃/min以下であることを特徴とする請求項4に記載の金属含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記工程(C)において、前記溶媒の沸点での反応時間が、60min以上であることを特徴とする請求項1から請求項5に記載の金属含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記金属含有ナノ粒子が、純金属、金属酸化物、合金であることを特徴とする請求項1から請求項6に記載の金属含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記金属含有ナノ粒子が、カーボンナノチューブを成長させるための触媒として機能する元素を主成分として含有している請求項1から請求項7に記載の金属含有ナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の金属含有ナノ粒子を基板上に配置させる工程(E)と、前記基板をカーボンナノチューブ成長装置に導入し、カーボンナノチューブを成長させる工程(F)を含むことを特徴とするカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【請求項10】
前記工程(D)の後に、前記金属含有ナノ粒子を無極性溶媒に再分散させ、金属含有ナノ粒子分散溶液を作製する工程を含むことを特徴とする請求項9に記載のカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【請求項11】
前記工程(E)において、前記金属含有ナノ粒子の前記基板への配置密度を制御するために、前記金属含有ナノ粒子分散溶液の濃度を調整することによって、前記基板への配置密度を制御することを特徴とする請求項9に記載のカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【請求項12】
前記工程(E)の後に、前記界面活性体を除去する工程を含む請求項9に記載のカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【請求項13】
前記金属含有ナノ粒子が、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の金属含有ナノ粒子の製造方法によって得られることを特徴とする金属含有ナノ粒子。
【請求項14】
前記金属含有ナノ粒子の粒径が、1から10nmであることを特徴とする請求項13に記載の金属含有ナノ粒子。
【請求項15】
前記金属含有ナノ粒子の粒径バラツキが、15%以下であることを特徴とする請求項13または請求項14に記載の金属含有ナノ粒子。
【請求項16】
前記金属含有ナノ粒子の粒径が、4から7nmであることを特徴とする請求項15に記載の金属含有ナノ粒子。
【請求項17】
前記金属含有ナノ粒子の粒径バラツキが、10%以下であることを特徴とする請求項16に記載の金属含有ナノ粒子。
【請求項18】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の金属含有ナノ粒子の製造方法によって得られた金属含有ナノ粒子を用いて成長したカーボンナノチューブ構造体。
【請求項19】
請求項18に記載のカーボンナノチューブ構造体を用いた電子デバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図18】
image rotate

【図3】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図17】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2009−215146(P2009−215146A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63660(P2008−63660)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】